ソーシャルワーカーのコーディネーション機能 ~多職種連携~ 小又永子 飯島里穂 小坂えり 澤ひとみ 田中麻結 1.動機 私たちは、実習を振り返り、利用者が自分らしく主体的に暮らしていくためには、多方面からの 専門的アプローチが必要であると考えた。 実際に実習を行う中で私たちは、一人の利用者に対し多くの専門職が関わり、サービスを提供 しているところを目にした。この場面を見て、ソーシャルワーカーは、利用者の状況に応じて専門 職の連携を調整するコーディネーターとしての役割を担っていることを改めて理解した。 そこで私たちは、ソーシャルワーカーのコーディネーション機能という役割に着目し、それがチ ームアプローチにどのように活かされているのかを理解するために、研究を進めていこうと上記の テーマを設定した。 2.方法 (1)実習での体験について話し合う (2)共通する体験を明確化し、テーマを設定する (3)資料・文献を集める (4)収集した情報を基に個々の体験と比較し、考察を行う (5)実習の振り返りについて専門性に基づいて具体的な評価をする (6)総合的な考察を行い、課題を明らかにする 3.定義及び先行研究 (1)コーディネーション機能 「利用者への最善の支援に向けての各機関・団体の合意に基づく連携を指し、一機関・団体で は実現できない支援の質を多機関・団体の連携のもとで実現しようとする行為である。狭義の領 域としては保健、医療、福祉の専門職間連携であり、広義には利用者はもとより家族、近隣、ボラ ンティアなどのインフォーマル・サポートおよび生活関連資源の連携までを含める。また、その連 携は、既存の主体や社会資源間だけでなく、利用者の利益に必要な支援を開発・創造することを 含んだ連携のあり方である。」 注:クライエントは利用者、援助は支援と読み替えている。 引用文献:社会福祉士養成講座編集委員編 『相談援助の理論と方法Ⅱ』中央法規 2011年 P.75 -1- (2)多職種連携によるチームアプローチ 多職種チームとは、利用者やその家族が自立し、その生活の質を向上するために、共通目標 を設定し、目標達成と結果について共通の責任を持つ対人援助サービスを行うために活動する 保健医療福祉分野のさまざまな専門職や関係者及び利用者本人や家族を含めた集団である。 この多職種チームによる包括的な支援活動の総称をチームアプローチといい、具体的な支援 は多職種による協働(コラボレーション)によって実現される。 なお、チームアプローチ、協働を可能にするためには包括的な支援システムとネットワークが必 要である(図1参照)。 多職種チーム A 目 B 責 解決すべき生活課題 任 標 C 自 立 ・生 活 の 質 の 向 上 D 利用者・家族 図1 ※ ABCD は専門職 参考文献:横山正博『ソーシャルワーカーのためのチームアプローチ論』 ふくろう出版 2010年 (3)連携の援助過程 ① 生活課題の明確化 ② メンバーの構成・情報の共有化 ③ ニーズ・支援目標の共有化 ④ 支援の実施 ⑤ 評価 参考文献:横山正博 『ソーシャルワーカーのためのチームアプローチ論』 ふくろう出版 2010年 -2- 4.仮事例 利用者 A ・男性、50代 ・脳血管障害による嚥下障害 ・現在、胃ろうより経管栄養での摂取 ・障害者支援施設に入所 (入所前は、妻と2人で暮らしていた。) <場面1.生活課題の明確化> 利用者A(以下、Aとする。)が妻に「口から物が食べたい。」と意思表示した。 妻が生活支援員に、Aが“口から物を食べたい”と言ったことを伝え、相談する。その相談を受け た生活支援員は、ソーシャルワーカーにAの“口から物を食べたい”という意向を伝えた。そして後 日、ソーシャルワーカーはAと面談を行い、直接本人から、“口から物を食べたい”という意思を確 認した(図2参照)。 意思表示 口から物を食べたい 妻 A 夫が口から物を食べたいと 言っていました。 確認 主訴の明確化 そうなのですか。 伝達 SW 生活支援員 図2 【考察】 ソーシャルワーカーは、利用者のおかれている状況を把握し、どのような課題があるかを明らか にする必要がある。そのため、ソーシャルワーカーはAの“口から物を食べたい”という意思を本人 -3- に確認し、主訴を明確にした。そして、その主訴が実現可能であるか判断するため、アセスメント を行う。 ≪SWの役割≫ 利用者と家族の意見の相違を調整するメディエータ―(媒介者)としての役割がある。 <場面2.メンバーの構成・情報の共有化> ソーシャルワーカーは、Aの意向を踏まえ、多職種で多面的にアプローチするために、支援を 行う上で必要な多職種として考えられる、医師、看護師、言語聴覚士、管理栄養士、調理師、生 活支援員に連絡をした(図3参照)。 SW は、各専門職に連絡する。 医師 看護師 情報の共有化 SW 言語聴覚士 生活支援員 管理栄養士 調理師 図3 【考察】 ソーシャルワーカーは必要な専門職員に働きかけ、アセスメントで得た情報を共有する。また、 場合に応じて各々の専門職の立場からAの情報を再度収集することで、再アセスメントを行う。そ して、ソーシャルワーカーはそれらの情報をもとに、Aの主訴が実現可能だと判断し、ニーズとす る。 ≪SWの役割≫ 利用者に代わって各専門職に代弁するアドボケイター(代弁者)、利用者の生活課題に応じて、 専門職を結びつけ、まとめるブローカー(仲介者)、オーガナイザー(組織者)としての役割がある。 -4- <場面3.ニーズ・支援目標の共有化> その後、ソーシャルワーカーを中心に、A、医師、看護師、言語聴覚士、管理栄養士、調理師、 生活支援員、妻が支援目標を共有するため、カンファレンスを開いた。そこで、Aの支援内容をA 本人と妻に説明し、同意を得た(図4参照)。 多職種チーム 医師 妻 目 標 の 共 有 A 看護師 ニーズ 言語聴覚士 生活支援員 SW 管理栄養士 調理師 責 任 の 共 有 図4 【考察】 ソーシャルワーカーはカンファレンスにおいて、それぞれの専門職や家族、利用者本人と支援 目標と責任の共有をすることが必要だと考える。 チームアプローチにおいて、課題解決の主体はA本人であり、また、専門職を含む職員との信 頼関係の下、チームで協働しニーズに働きかけてゆくことが重要だと私たちは考えたため、チー ムの中にAと妻を含めた多職種チームを構成した。 ≪SWの役割≫ 利用者に必要な情報を伝えるエデュケーター(教育者)、課題解決のための最良の支援をする ために、多職種チームで話し合いを行うネゴシエーター(交渉者)としての役割がある。 -5- <場面4.支援の実施> その後、ソーシャルワーカーを中心に、医療的側面、栄養的側面、生活的側面から、1つの目 標に向かって協働し、支援を行う(図8参照)。 医師 医療的側面 ・健康管理(バイタル) 看護師 言語聴覚士 ・服薬、投薬の管理 ・嚥下機能の評価 ・衛生管理 A SW 図5 医療的側面では、ソーシャルワーカーと看護師が主に連携をとり、利用者の健康管理を行う。 利用者の健康状態を把握することで、その支援が適切であるか検討する(図5参照)。 栄養的側面 管理栄養士 ・食形態の検討 ・体重管理 言語聴覚士 調理師 ・栄養管理 ・献立の作成 A SW 図6 栄養的側面では、利用者の誤嚥を防ぐための食形態の工夫や、嚥下機能の回復を図る。また、 栄養管理を行うことで、適切な体重を維持する。言語聴覚士は、適切な食形態を管理栄養士と共 に検討し、栄養面からも支援を行う(図6参照)。 -6- 妻 生活的側面 生活支援員 ・日常的な介護 ・住環境の整理 ・衣服の管理 A ・口腔ケア SW 図7 生活的側面では、利用者の QOL 向上を図り、より良い生活ができるよう環境を整える。また、妻 と連絡を取り合うことで家族間の調整を行う(図7参照)。 医療 栄養 医師 言語聴覚士 管理栄養士 調理師 看護師 A 生活支援員 SW 妻 生活 コーディネーション 図8 【考察】 チームの中で専門職がもつ固有の価値・倫理、チームアプローチへの理解という共通の基盤を 持ち、各専門職間で対等な関係に基づいた信頼関係を形成し、1つの目標に向かって支援を行 うことが重要であると考える。 ≪SWの役割≫ 支援を円滑に行うためにメンバー間の調整や関係を維持・補助するコーディネーター(調節 者)、ファシリテーター(促進者)としての役割がある。 -7- <場面5.評価> ○か月後現在、Aは週2回の昼食時のみ経口から、ペースト状の食事を摂取している。ソーシャ ルワーカーは、現在のAに対する支援の状況や変化を把握するために、各専門職にAの評価を 依頼した。そして、その各専門職が行った評価をもとにAの支援内容について検討した結果、支 援内容の修正を行った方が良いと判断した(図9参照)。 週2回 昼食時 ペースト状摂取 評価を依頼 SW 専門職 評価 図9 そのため、後日、各専門職の行った評価を踏まえ、再度カンファレンスを行うことで、現在の支 援内容を見直し、今後どのような支援が適切なのかを多方面から評価・検討した(図10参照)。 多職種チーム 医師 看護師 生活支援員 言語聴覚士 SW A 調理師 妻 管理栄養士 図10 -8- 連携 【考察】 ソーシャルワーカーは、モニタリングを行うことで、支援やサービス提供が適切であるか確認、ま た、利用者の状況の変化を把握することで、新たな問題やニーズが生じていないか確認する。そ のために、各専門職が評価を依頼することで多面的にAの状態を把握し、それらの情報を踏まえ た上で、ソーシャルワーカーは適切な支援を展開してゆく。また、新たな問題やニーズが生じてい た場合、再アセスメントを行い、今後の支援計画を検討していくことが必要だと考える。 ≪SWの役割≫ モニタリングにおいて、実践の効果を評価するエヴァリュエーター(評価者)としての役割がある。 5.総合的な考察 本研究を進め、自己の実習を振り返る中で、コーディネーション機能について深く学ぶことがで きた。ソーシャルワーカーは、利用者への最善の支援に向けて、各機関・団体の合意に基づく連 携をめざし、一機関・団体では実現できない支援を他機関・団体のもとで実現することが求められ る。連携とは、専門職間連携から生活関連資源の連携までを含め、既存の社会資源だけではなく、 利用者の利益に必要な支援を開発・創造することも必要である(図11参照)。 連携 SW 専門職 開発・創造 機関・団体 社会資源 図11 また、支援を行う際には、専門職がもつ固有の価値・倫理、チームアプローチへの理解という共 通の基盤を持ち、専門職間で対等な関係に基づいた信頼関係が構築されていることが大切であ ると考える。そして、利用者の生活課題に応じて、各専門職と利用者・家族で利用者本人の支援 を行うためのチームは構成され、支援が展開されていくことが必要である(図12参照)。 -9- 生活の質の向上 対等な関係 専門職 SW 固有の価値観・倫理観 図12 私たちは、今後現場で働くことになる。多様化されるニーズに応えるために、ソーシャルワーカ ーは、他の専門職と連携しチームを構成しながら、支援しなければならない。そこで、重要なのが コーディネーション機能であり、私たちは、多面的なアプローチを意識し現場で働けるように学び を深めていきたい(図13参照)。 専門職 多様化した ニーズ コーディネーシ ョン機能 専門職 SW 図13 - 10 - 専門職 6.おわりに 私たちの発表を最後まで聞いてくださり、ありがとうございました。 私たちは研究を進めるにあたり、自分たちの知識不足からなかなか思うように進まない こともありました。しかし、先生方からの助言やグループ内での話し合いにより、少しず つソーシャルワークについて、理解を深めていくことができました。研究を進めていく中 で、思うようにいかず、時には投げ出したくなることもありました。しかし、お互いに励 ましあい、支えあいながら乗り越えてきました。このグループメンバーがいてくれたから こそ、最後まで、全員でやり遂げることができたのだと感じています。 実習前の準備期間も含め約一年間、私たちはたくさんのことを学べたと思います。今後 は、この学びを活かして社会に貢献できる社会人となっていけるよう、努力し続けていき ます。 最後に、実習を受け入れてくださった施設職員の皆様、利用児・者の皆様、私たちを最 後までご指導してくださった先生方、一緒に頑張ってきた仲間、影で支えてくれた家族に 感謝いたします。本当にありがとうございました。 7.参考文献 ・横山正博『ソーシャルワーカーのためのチームアプローチ論』ふくろう出版 2010年 ・社会福祉士養成講座編集委員会/編『相談援助の理論と方法Ⅰ』中央法規 2011年 ・社会福祉士養成講座編集委員会/編『相談援助の理論と方法Ⅱ』中央法規 2011年 - 11 -
© Copyright 2024 Paperzz