第30回2014年ACAP消費者問題に関する「わたしの提言」 入選 学生と連携した消費者教育~大学生が小中高生に実施する金融教育の提案~ 目白大学社会学部(東京都在住) 千葉 大祐 Ⅰ.はじめに 日本での消費者教育はごく最近注目されるようになってきた。まず、2004 年に「消費者基本法」が成立した。こ の法により消費者と事業者の間に生じる情報の格差や優位性といった壁を低くするとともに、消費者の権利や尊 重、自立支援のための理念が明記された。さらに平成 24 年に「消費者教育の推進に関する法律」が施行され、 現在では各省庁や学校、消費者団体が協力し消費者教育に取り組んでいる。 このように現在、消費者教育は重要視され必要性も増している。しかし、実行・継続にはいくつか問題点があ る。小中高校における消費者教育に限って考えてみても①カリキュラム上の問題、②豊富な知識と経験を持つ 教師の不足、③良い教材がないため選択基準が難しい等が挙げられる。 では次に具体的にどのような内容の消費者教育が必要なのだろうか。下図は 2013 年度の種類別相談件数と 平均支払額である。 (消費者庁『平成 26 年版消費者白書』より引用) これを見て分かるとおり金融・保険サービスでのトラブルが非常に多い。金融システムは学ばなければ複雑な ところが多々あり、あまり理解していない人が多いというのが現状であろう。実際未成年のうちは金融サービスに 触れることさえあまりなく、成人した途端に目の前に現れ来るもので、まず何をすべきなのかも分からない。学ぶ きっかけづくりとそれを深める時間が必要なのではないだろうか。 それでは金融システムをどのように子どもたちに教えていくのが効果的なのだろうか。消費者教育において有効だとさ れている手法としては「ロール・プレイニング(役割実演)」「シミュレーションゲーム(疑似体験方式)」「ケース・メソッド(事 例研究)」が挙げられる。これらの方法を利用した教育方法の提案と大学生の目線で金融・教育について考えてみる。 Ⅱ.本論 1.金融と教育 大学生になると金融サービスに触れる機会がとても多くなる。特にクレジットカードと奨学金はとても身近に存在 するものである。しかし、仕組みを理解している人はどのくらいいるのだろうか。大雑把に理解しているだけでは、 いつかトラブルに巻き込まれる可能性が高い。だとしたら小学生や中学生のうちから金融システムを少しずつ理解 し、利点を活かせるようにすべきではないのか。難しい内容かもしれないが、興味を持つきっかけを与えることがま ず必要なのではないのかと考える。きっかけづくりと、それを深める機会を与えてあげる。そして実際に金融に触 れた時に失敗しない大人を育てる、というのが最終目的だと考える。一言できっかけといっても、子どもたちに興味 を抱かせ楽しく学ばせる必要がある。また、理解しやすくしなければならない。だとしたら子供たち自身が行動し、 利便性や不利益性を体感する学習方法がよいのではないだろうか。また、どの分野であっても大人の協力は必要 である。子どもが大人と学ぶ、大人が子どもと学ぶ。この体系づくりが必要なのではないだろうかと考える。 2.小中高等学校で実施してほしい手法 ~ロール・プレイニングとシミュレーションゲーム~ 私は学校における消費者教育においては、ロール・プレイニングとシミュレーションゲームが最も効果的なの ではないかと考える。例えば小学生、中学生にとってクレジットカードの仕組みを文字だけのプリントや黒板の文 面で理解できるとは思えない。理解できたとしても表面だけですぐに忘れてしまうであろう。そこで印象付けてメリ ット・デメリットをはっきりさせるうえでも、疑似体験が良いのではないかと考えた。私の経験では、消費者教育に ついては薄い冊子の説明のみであった。そうではなく、子ども一人一人が金融機関や消費者、お店といった役 割を演じる。それによりそれぞれの役割を理解することにも役立つし、様々な目線からお金の動きを観察すること もできる。クレジットカードの種類を知り、怖さを理解したうえで利用をする。借金であることを常に頭に入れなが ら行動する、というようなポイントをしっかり押さえることが必要である。友達とコミュニケーションをとりながら、討論 をしながら、そして楽しみながら学べるのではないだろうか。 (株式会社ゼウスホームページより引用) 更にこれは学校のクラスという括りでやる意味がある。それは少人数であるということである。100 人 200 人とい う人数では一人一人が役割を持つことができない。30 人前後という人数であるからこそ役割が回ってくる、且つ 役割を持たない子供にとってもそのやり取りやお金の動きを把握しやすくシステム全体が見渡すことができるの ではないだろうか。 3.大学生が実施する消費者教育活動 大学生がどのようにして消費者教育にかかわれるのか提言する。 ①ケース・メソッドと情報の共有 大学の中には多くの学部がある。金融の専門的知識を有す経営・経済学部や、子どもたちを教える立場にな るであろう教育学部、消費生活について考える社会学部。消費行動にかかわる学問はもっと多くあると思うが、こ れらの学部に所属している学生が交流し話し合いを持つ機会を作るべきだと考える。具体的な手法としては事 例研究が最もふさわしいのではないかと考える。その理由は以下のとおりである。例えば今日に至るまで法律は 幾度も改正されてきた。それは問題が見つかりその解決策として改正に至るのである。このような改めて考え直 そうという動きのきっかけは事例研究であり具体的な事例を挙げることで現在の問題や改善すべきポイントが把 握できるのである。もちろん話し合った内容はキャンパス内、都道府県内、日本全国へと発信していかなくてなら ない。消費生活に関わる学部それぞれに課題があり得意なものがある。それを共有するということは消費者基本 法の目的である消費生活の向上や安定に寄与するのではないだろうか。 ②講習会 更に大学生が企画し同じ大学生や中高生を対象とした講習会を実施することを提案する。どこが分かりにくい のか、どこを学生は必要と感じ重要視しているのかというのは近い年代だからこそよく分かるのではないのか。ま た、消費者教育における課題を解決できるのではないかと考える。 この講習会は自主参加であるため、土曜日などに開催し親と参加することも可能である。なお、この講習会で は①の場で情報を共有した教職志望の学生に講師をお願いする。それにより、消費生活についての知識を深 めてもらい将来的ではあるが、子どもたちに消費者教育を的確に行える教員を育成することにも役立つ。そうい った動きが全国で広がれば学校が学生を招待し、全校児童・生徒に向けた講習ができるのではないだろうか。 教材についても学生が教授を交えて必要である情報をピックアップし、ポイントを整理して検討すればよいもの ができると考える。 しかし、上記の講習会に生徒が参加しなくては元も子もない。それを解決する策として学校や家庭で消費活 動について興味をもつきっかけを少しでも作ってあげることが大切である。消費者教育は子どもが面白いなと感 じたり、将来の必要性を感じることによって身に付くものである。奨学金であれば大学入学までに理解しておか なければならないし、今後借りたお金を返す時の注意点を親と確認しておかなければならない。そう考えると、小 さいうちから金融を含めた消費という活動について学ぶというのは決して無駄ではない。むしろ早いうちに学ぶ べきものなのだ。 私自身、教育とは勉強の仕方を教えることだと考えている。親や教員が子どもを導くのである。そういう意味で のきっかけ作りであり、親や教員は子どもにとって一番身近な存在であり頼れる存在なのだから支えてあげる必 要がある。そして子どもが自立するのを見守るのである。金融についても家庭における実際の金融活動を見せ、 親子で一緒に考えることが必要であると考える。 要するに学ぶ場所は学校だけではない。学校とは社会の一部でしかなく広い視野を身に付けるためには子 どもにとっては狭すぎるのだ。だから家庭や上記の講習会のような学校外での活動にも力を入れていかなけれ ばならない。 Ⅲ.終わりに 大学生ができることというのは社会的に見れば小さいかもしれないが全国の大学生が少しずつ活動の幅を広 げればきっと教育という分野を変えられるのではないかと信じている。金融というのはメリットを最大限まで活かせ れば人生を豊かにできる道具となるが、現状では金融の罠にはまっている人が多すぎる。投資にしても借金にし ても目先の判断で行動してはならない。10 年先まで見通す必要があるのだ。そういった慎重な姿勢、物事をゆ っくり吟味できる、かつ積極的に利用し経済を回せるような人間を育てなくてはならない。 以上、金融教育を例とした新しい消費者教育モデルを提案した。今までと教育の仕方を変えなければトラブ ルは減ることはない。今の私たち大学生ができる活動、学生が核となる取り組みを行い、若者の主体性の伸ば すこと。自分の考えに責任を持ち行動できる人間を育てることがこれからの消費者教育において必要であると考 える。 引用文献 ・消費者庁 『消費者白書』 http://www.caa.go.jp/information/hakusyo/2014/summary_1_4_1.html ・株式会社ゼウスホームページ 「クレジットカードの仕組み」 http://www.cardservice.co.jp/support/beginner/begin_03.html [審査委員長からのコメント] 消費者問題に興味を持ち、大学生相互の交流や中高生を対象とした発想の独創性がおもしろい。まず自 分たちが学び合い、教材や講習会を開催するきっかけ作りなど、今後連携を実践するための具体的な手法を 期待するところである。 提言の論理構成として、どのような機会を手段として、大学生が何を教育していくのか、もう少し具体的なア プローチがあると、実現可能性や具体的なイメージがわきやすい内容である。
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