DNKリサーチ発 「RTRエレクトロニクスとは?」

#1327、2013年10月20日
今週の話題
RTRエレクトロニクスとは?
以前に話題にしたことがありますので、ご記憶の方もおられると思いますが、
フレキシブル・エレクトロニクスやプリンタブル・エレクトロニクスの製造技術
として、RTR(ロール・トゥ・ロール)プロセスについて言及される機会が多
くなっています。RTR製造プロセスとは、ロール状に巻かれたフレキシブルな
材料を、ラインの一方から投入すると、しかるべき処理が施された材料がライン
の反対側から出てきて巻き取られるというシステムです。一旦スタートすれば安
定した条件での自動運転となり、大きなコストダウンが可能です。フレキシブル
基板の製造においては既に30年以上の実績があるのですが、フレキシブルな電
子デバイスに広く適用できるのではないかということで、改めて脚光をあびてい
ます。悪のりする業界メディアはRTRエレクトロニクスなる用語まで産み出し
ています。まるでRTR技術で新しい電子デバイスが創り出されるかのようです。
大学の先生や研究機関のリサーチャーも後押ししています。曰く、「今回開発さ
れた新しいフレキシブルデバイスは、RTRプロセスが適用できるので、従来の
製品に比べて画期的に安価に製造される。」というような具合です。
私はフレキシブル・エレクトロニクスのエキスパートということになってい
るので、RTR技術のセミナーやシンポジウムなどによく引っ張り出されますが、
集まった聴講者の反応を見ていると、実際のRTR技術との間に大きなギャップ
があることを思い知らされます。聴講者の多くは、材料メーカー、デバイスメー
カー、装置メーカーなどの市場調査や事業企画を担当する人々で、RTRエレク
トロニクス関連分野で何がしかのビジネスチャンスがあるのではないかと期待し
ているようです。皆さんの認識としては、RTRプロセスは確立された技術で、
太陽電池のような新しい電子デバイスに適用することで製造コストが劇的に下が
り、新たなマーケットが創造される可能性があるというものです。そのイメージ
は、RTRラインの一方からロール状の材料が投入されると、ラインの反対側か
らどんどん製品が排出されてくる、というようなものです。しかしながら、この
ような期待は大きな矛盾を含んでいるといわざるを得ません。もしRTR技術が
確立されたものであるならば、新規の装置メーカーが入り込む余地はありません。
実際のRTR製造装置は極めて複雑な自動システムで、ほとんどがカスタム設計
になり、多くのノウハウが必要で、経験や実績のない新規メーカーの机上検討ぐ
らいで手に負えるものではありません。
一方で、RTR製造システムは多くの問題点を持っています。ひとつのフレ
キシブルデバイスを製造するに当たって、RTRを適用できるのは、工程の始め
の方の数ステップだけで、残りの工程はロールを定尺に裁断して処理しなければ
1
なりません。言い換えれば、RTRによってコストダウンが可能なのは、全工程
の始めの方だけで、全体の製造コストに占める割合はわずかな部分だけなのです。
RTR特有の問題点も少なくありません。多品種少量生産に対応できない、
条件出しに時間がかかる、工程中での検査が難しい、一旦不良が発生するとダメ
ージが大きくなる、仕掛かり在庫を作りやすい、等々。RTRの長所短所を上げ
れば、短所の方が多いくらいです。ただ、RTRプロセスは、長所と短所の数を
比べて採用の可否を決めるものではありません。RTRの採用にあたっては、ま
ずその経済性を十分評価した上で、短所を全てつぶしておかなければなりません。
それでも実際にRTRラインを作ってみると、予想外のトラブルが多発して、最
悪の場合には収集がつかなくなってしまいます。米国でフレキシブル太陽電池を
開発したあるベンチャー企業の場合、3億ドル以上の設備費をかけて、12ステ
ップの全自動真空RTRライン(全長90m以上)を構築しましたが、結局まと
もな歩留まりを得られず、計画していた製造コストの目標を満たす事ができなか
ったために、倒産してしまいました。
RTRは暴れ馬です。経験を積んだ上級騎手が乗るのであれば、良い成績を
出せるでしょうが、経験の無い未熟な騎手にとってはとても乗りこなせる代物で
はありません。生兵法は怪我のもとといえるでしょう。
DKNリサーチ
沼倉研史(マネージング・ディレクター)
([email protected]) Haverhill, Massachusetts, U.S.A.
今週のヘッドライン
2013年10月20日
1.EV Group(ドイツの装置メーカー)10/8
フレキシブル・エレクトロニクスの製造用に、ロール・トゥ・ロールのナノ
インプリントリソグラフィシステムを実用化。
2.Chile 10/8
旺盛な需要に支えられて、2013年のチリの銅の生産量は、過去最高の5
70万トンに達する見込み。前年比5%増。
3.Dow Corning(米国の化学メーカー大手)10/8
自動車用エレクトロニクス機器用に、新しい高熱伝導性接着剤 TC-2035 を商
品化。
4.Seagate(米国のHDDメーカー大手)10/8
韓国の Samsung Electronics 社から3270万株(15億ドル)の株式を買
い戻す計画。Samsung は1250万株を保持することに。
2
5.MIT(米国の工科大学)10/8
印刷加工が可能なマルチタッチセンサーデバイスを開発。個人に合わせて形
状や大きさを変える事が可能。
6.TSMC(台湾の半導体メーカー最大手)10/9
今後5000億台湾ドルを投資して、台湾南部に新しい工場を建設へ。20
ナノメーター加工の量産への対応。
7.IDTechEx(英国の市場調査会社)10/9
今後導電性フィルムと導電性ガラスの市場が急成長。2024年には63億
ドルに達すると予測。
8.Bangkok(タイ)10/9
首都東部が洪水のため冠水。エレクトロニクス関連で2工場が操業停止。全
体としての被害は軽微。
9.IDC(米国の市場調査会社)10/9
第3四半期における世界のパーソナルコンピュータの出荷は、前年同期比で
7.6%減少の8160万台に。
10.Career Technology(台湾の基板メーカー)10/10
フレキシブル基板の製造のために、Orbotech 社のレーザー直接描画装置を導
入。
11.Eagle Circuits(米国基板メーカー)10/10
北米の主要プリント基板メーカーネットワークの FabStream に加入。
12.Gartner(米国の市場調査会社)10/11
2013年における世界の10万ドル未満の3Dプリンターの出荷は、前年
比49%増の56507台に達する見込み。
13.IHS Inc.(米国の市場調査会社)10/11
2013年における世界のパッケージされたLEDの市場は36億ドル。2
016年には71億ドルに達すると予測。
14.Research and Markets(米国の市場調査会社)10/11
2013年における世界のミリ波関連市場は1億16百万ドル。2018年
には11億ドルに達すると予測。
15.IHS Inc.(米国の市場調査会社)10/14
3
2013年における世界の民生用医療デバイスの市場は、前年比4%増の8
2億ドルとなる見込み。2017年には106億ドルに達すると予測。
16.NRC (カナダの研究開発機関)10/14
カナダ政府が、印刷エレクトロニクス、オルガニック・エレクトロニクス技
術の開発のために、56百万ドルのファンドを創設。
17.American Standard Circuits(米国基板メーカー)10/14
生産性向上のために、スイス製のフォトプロッターRP212+XT を導入。分解能
12.5ミクロン。寸法精度±10ミクロン。
18.Flextronics(シンガポールのEMS大手)10/15
米国テキサス州オースチン市に新しい組立ラインを構築して、デスクトップ
PCを生産する計画。新たに879名の従業員を雇用。
19.OmniVision(米国のデバイスメーカー)10/15
新たに民生用ウェアラブルエレクトロニクスのデザインコンセプトをリリー
ス。より小型軽量高精細の眼鏡装着タイプディスプレイ。
20.Flextronics(シンガポールのEMS大手)10/16
10月10日に始まったブラジル Sorocaba 工場のストライキは、10月1
5日に終結。
21.IHS Inc.(米国の市場調査会社)10/18
第2四半期におけるノートブックPC用タッチスクリーンパネルの出荷は4
40万ユニットで、前期比で4.9%の減少。
22.ZVEI(ドイツの基板業界団体)10/18
8月のドイツ基板産業の出荷額は、前年同月比で1.5%の減少。受注額は
12.4%の減少。B/Bレシオは0.89まで下落。
(注)このヘッドライン・ニュース・レターは速報性を重視するために、若干の
誤訳や数字の変換に誤りがある場合もございます。ご了承下さい。
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