監修 岡田 正 - 患者・一般の皆様

2001年 第2巻第1号(通巻4号) ISSN 1345-7497
監修
大阪大学大学院医学系研究科
小児発達医学講座(小児外科学)教授
岡田
正
巻頭言
Nutrition Support におけるチーム医療
−第16回日本静脈経腸栄養学会から−...................................................... p.2
大阪大学大学院医学系研究科
小児発達医学講座(小児外科学)教授 岡田
正
NST/ASSESSMENT NETWORK
疾患別に方法を論じるのではなく,
Critical Care が
必要な患者と捉えて栄養サポートを展開する.................... p.3 ─8
帝京大学医学部救命救急センター 助教授 長谷部
正晴
NS NURSE
当院でNSTを普及させるための取り組み ...................... p.9
東京女子医科大学病院在宅医療支援・推進部
エキスパートナース 小笠原 保子
NS ADMINISTRATION
NSTと医事課(2)......................................................................... p.10
鈴鹿中央総合病院 医事係長 福岡
秀樹
NS PHARMACIST
医薬品と栄養素の相互関係...................................................... p.11─13
名古屋市立大学病院薬剤部 部長 長谷川
信策
REVIEW DISEASE-SPECIFIC
癌化学療法施行中における経腸栄養の重要性
−高カロリー経腸栄養剤−......................................................................... p.14─15
東北大学大学院医学系研究科先進外科学 宮崎
修吉
FOCUS THE OUTCOME
第1回 社会復帰の重要性(1)
..................................................... p.16
東京慈恵会医科大学外科 講師 鈴木
裕
DEVICE NOW
ナイスフロ経腸栄養ポンプ実施
−難治性下痢に対して−............................................................................ p.17
国家公務員等共済連合会高松病院内科 粟井
一哉
NUTRITION CASE STUDY
摂食・嚥下障害................................................................................. p.18─19
聖隷三方原病院 栄養科長 金谷
節子
EVIDENCE BASED NUTRITION
胃瘻栄養による誤嚥性肺炎発症予防のメカニズム......... p.20─21
塩竃市立病院呼吸器科 部長 板橋
繁
巻
頭
言
Nutrition Supportにおけるチーム医療
−第16回日本静脈経腸栄養学会から−
大阪大学大学院医学系研究科
小児発達医学講座(小児外科学)教授
岡田
正
本年2月8〜9日,パシフィコ横浜において第16回日本静脈経腸栄養学会が開催さ
れた。参加者はコ・メディカルを含めると優に総数1,000名を超え,4つの会場のすべ
てが活気にあふれ,活発な討論が行われた。これはひとえに学会長の北里大学島田慈
彦薬剤部長及び同大薬剤部の方たちの早くからの周到な準備,綿密な会場運営の賜物
であった。医師以外の人が初めて本会の会長を務めるとあって大変なプレッシャーが
あったに違いないが,見事にその責を立派に果たされた事に敬意を表する次第である。
経腸・経静脈栄養のわが国における歴史は既に30年を数えるが,各医療施設におけ
る様々の職種の人々が自由に参加でき,医療現場での実際的な問題についての討議を
行う場が出来たという事は大変喜ばしい事であろう。今回の学会においては栄養治療
の実際的な問題,即ち「栄養アセスメントの方法」,「経腸栄養剤の用い方」,「内視鏡
下胃瘻造設術」,「静脈カテーテル管理」などに議論・質問が集中した。また,学会の
メインテーマとして島田会長が今回大きく取り上げたのはNST(Nutrition Support
Team)
であり,2日間にわたりこの問題が絶えず見え隠れしながら全ての会場で討議
の対象となっていた。本学会の目的が栄養代謝に関する学問的な内容の追求よりも,
チーム医療によって如何によりよい患者管理を行う事が出来るかという方向に向かい
つつある事が改めて認識された。学会の最終番組では合同シンポジウム「チーム医療
実践に向けての教育」が組まれ,不肖私が司会を仰せつかった。演者を担当したのは
医師(2名),看護婦,薬剤師,栄養士各1名の5名でいずれもわが国のこの領域の先
駆者と目される施設からの発表であった。聴衆にとって学ぶところは多々あったと思
われるが,司会者としては正直のところこれをまとめきるには至らなかった。わが国
の医療事情,チーム医療の意識,更には実践教育の方法にしても今後の課題は尚多い。
一般に,ある施設において臨床栄養に関する知識及び,経腸・静脈栄養の技術に秀
でた医師が常在し,彼らが熱意を持ってチーム作りに努力するならば,やがてはそれ
が病院当局を動かし,コ・メディカルの公的な協力が得られて中央部門としての輸
液・栄養部門の設立に繋がるものと考えられる。
この場合そのインセンティブとなるのは,そのような専門医師を養成するシステム
作りにに加えて医療収入の点での有利性,更に最近問題となっているリスクマネージ
メントでの安全性の確立であり,これらをデータとして示す事が出来ればその将来は
明るい筈である。今後は真の意味での各専門職の教育・養成が必須であり,今後その
ような教育・養成の場としての学会,及び医育機関の任務は大きい。同時に各医療施
設における栄養療法の実態(栄養障害の占める割合,経腸栄養静脈栄養の施行状況,
合併症発生率等々)などが「病院評価」の項目に加えられ,これらを少しずつでも明
らかにして行く事が必要であろう。
2
Nutrition Support Journal
4
NST/ASSESSMENT
NETWORK
疾患別に方法を論じるのではなく,
Critical Careが必要な患者と捉えて
栄養サポートを展開する
帝京大学医学部救命救急センター 助教授 長谷部
正晴
Profile
はせべ まさはる
1947年生まれ。73年千葉大学医学部
卒業。同年帝京大学第一外科勤務。
消化器・一般外科学,外科代謝・栄
養学を専攻。85年帝京大学救命救急
センター講師。94年より現職。
栄養療法の目的は,体蛋白の合成促進,異化の抑制だけでなく,広く生体防御能の促進ということも重視され
るようになった。また,栄養サポート方法においては,薬理学的あるいは特異的な新しい栄養素の開発,各種ホ
ルモンやメディエータの調節物質の投与など,直接的に細胞内代謝を同化方向に導こうとするさまざまな展開が
ある。このように救急分野における重症患者の栄養サポートは,一見複雑化するようにみえる。
しかし,帝京大学医学部救命救急センター助教授の長谷部正晴先生は,
「基本的にはASPENのガイドライン
に沿って行うべきだ」と強調する。
救命救急センターには,熱傷,多発外傷,腹部救
ートを行うことが重要だと考えています。私たちは
急疾患,脳血管障害など,多種多様な疾患により生
救命救急の処置を開始して48時間を過ぎた,呼吸や
命危機に瀕した患者さんが搬送されてきます。特に,
循環動態がある程度落ち着いた頃から栄養サポート
当院は第三次救命救急に指定されているので,搬送
を開始するようにしています。
直後は生命を維持するために分単位,時間単位の集
中治療が要求される緊急度も重症度も高い患者さん
がほとんどです。まず生命危機からの離脱を目標に
救命救急処置をして呼吸,循環動態を安定させ,そ
の後,患者さんの社会復帰を目指してそれぞれの専
門スタッフによる治療を行っています
(写真1〜3)
。
ASPENのガイドラインが
信頼できる栄養管理のスタンダード
栄養サポートに関しては,1993年にASPEN
(American Society for Parenteral and Enteral
Nutrition)により「成人および小児における静脈・
救急度と重症度は違う。
栄養サポートが必要なのは重症患者
経腸栄養施行のためのガイドライン」が作成されま
した。その後,1998年に安全な標準的組成が追加さ
このような救急分野で栄養サポートを必要とする
患者さんは疾患にかかわらず,重症の患者さんすべ
てです。すなわちcritical careを必要とする患者さ
んです。
つまり,緊急度が高い時期には,私たちは生命維
持に全力を尽くすべきであり,また患者さんは栄養
素をうまく利用することができないので,栄養サポ
ートは行えません。実際,約3日間ぐらいなら内因
性の基質で生命を維持することは可能です。しかし,
急性期を脱した後も,大きな侵襲を受けており,集
中治療が必要な重症度の高い患者さんには栄養サポ
写真1
帝京大学医学部附属病院
3
写真2 救命救急処置の開始
生命危機に瀕した患者さんが搬送され,一刻
を争う治療が開始される。
写真3
治療風景
れましたが,基本的に今日まで改訂はおろか,一部
すべて米国 Department of Health and Human
の修正も加えられていません。
Services( DHHS,日本の旧厚生省に相当する)の
このASPENのガイドラインは,EBMの観点から,
臨床疫学の手法を駆使して作られた,きわめて完成
度の高いものです。ここでは,文献の信頼度,およ
び実施要項を支持する推奨(recommendation)は,
4
Agency for Health Care Policy Research
(AHCPR,
医療政策研究機関)の基準でコード化されています
(表1)
。
救急分野の日常臨床において,私たちは栄養サポ
表1
各ガイドラインを支持するエビデンスの基準
A 推奨事項を裏付ける,十分な研究結果があるもの
B 推奨事項を裏付ける,ある程度十分な研究結果があるもの
C その推奨事項が専門家の判断およびパネルコンセンサスに基づくものである
表2 重症患者に対する栄養管理
1.経腸栄養
(enteral nutrition;EN),経管栄養
(tube feeding;TF)
1)流動食
2)経腸栄養食品
①食物繊維配合経腸栄養食品
②半消化態栄養食品
(low residue diet;LRD)
蛋白源はカゼインなど
3)経腸栄養剤
①半消化態栄養剤
(LRD)
②消化態栄用剤
蛋白源は主として低分子ペプチド,脂肪を含む
③成分栄用剤
(elemental diet;ED)
蛋白源はアミノ酸,超低脂肪
2.静脈栄養
(parenteral nutrition;PN)
①末梢静脈栄養
(PPN)
②中心静脈栄養
(CPN)
,高カロリー輸液
(TPN,IVH)
ートが必要な重症患者さんに対して,このガイドラ
うにあたっては,患者さん個々のcritically illに合わ
インのcritical careの項目に記載された内容に準じ
せて「栄養投与経路の選択」,「栄養評価と投与量の
て治療を行っています。熱傷,重症外傷,敗血症な
決定」および「薬理学的あるいは特異的栄養素の効
ど疾患別,病態別の栄養サポートを考えるのではな
果」について検討することが必要だといえます。
く,すべての疾患・病態の共通項,基礎的病態であ
ここでは,ASPENのガイドラインのなかの
る「critically ill」に対して栄養サポートを行うこと
critical care項に記された内容を中心に,現時点に
が最も効果が高いからです。
おけるevidenceに基づき,重症患者に対する栄養サ
ASPENのガイドラインのなかのcritical careの項
ポート法について述べたいと思います。
で推奨されている栄養サポートの具体的な実践方法
を要約すると,①発病前の状態を考慮したうえで,
入院後速やかに栄養評価を行うこと[A],②代謝
量測定に基づく投与量(栄養必要量)を算定すること
[B],③経腸栄養を可及的早期に開始すること,④
基本的には経腸栄養。
有効性に異論を唱える研究者はいない
まず,栄養投与経路の選択についてですが,
経腸栄養が不可能な場合は静脈栄養を行うこと[C]
,
critical careを必要とする患者さん,つまりcritically
⑤発症後4〜5日以内に経腸栄養が可能な場合や比
ill patient
(以下,患者さん)
に対しては,経済性,合
較的侵襲が軽度な場合は静脈栄養は有益でないこと
併症の発生,腸管粘膜機能保持,代謝・免疫機能な
[C],⑥特異的栄養素に治療効果の可能性もあるこ
どの面から,静脈栄養(total parenteral nutrition;
と[B]になります
(
[ ]内はrecommendationの基
TPN)に比べて経腸栄養(enteral nutrition ; EN)の
準)
(表1)
。
ほうが好ましいことはすでに立証されています。小
つまり,栄養サポートにはさまざまなものがあり
児の場合でも,早期から十分量のEN投与が重要で
ますが(表2),救急分野の患者さんに栄養投与を行
あり,また可能であるといわれています。ENはい
5
かなる病態に対しても有効であるという意見が多
関しては,胃内送気によりtube先端が幽門輪を通過
く,たとえば多臓器不全であっても,その予防と治
しやすくなるという単純な方法をはじめ,さまざま
療に不可欠な方法の1つなのです。その有効性に異
な手段が検討されています。
論を唱える研究者はいません。
たとえば,経鼻的に胃内に挿入したfeeding tube
以上のような理由から,今日では,ENかTPNか
を体表から磁石を用いて幽門輪を通過させ,その先
という議論には終止符が打たれています。①小腸内
端を小腸に留置する方法や,12Frのfeeding tubeの
投与,腸内アクセスが得られない場合,②ENでは
内側に小さい径のファイバースコープを挿入し,直
栄養所要量を満たすことができない場合,③消化管
視下に幽門輪を越えてtubeを留置するという方法な
内への栄養投与が禁忌である場合はTPNを早期に行
どが報告されています。また小児では,先端にpH
う必要がありますが,①〜③以外はENが原則であ
センサーを装着したtubeをまず胃内に挿入し,pH
るとされています。
をモニターしながらtranspyloric tubeの留置を行う
このようにENの有用性を強調してきましたが,
方法も報告されています。
決してTPNの重要性や価値が失われたわけではあり
ENの投与ルートに関しては,今後さらに,経胃
ません。実際,Heyland氏らによるメタアナリシス
的でよいか,小腸投与を行うべきか,あるいは小腸
では,TPN施行例の死亡率が高いわけではなく,栄
投与を行うのであればどのようなデバイスを使用
養障害のある患者さんではTPNにより明らかに合併
し,どのような留置方法をとるのかなど検討する必
症発生率が減少することがわかっています。また,
要があるようです。
Fischerらは,確かにTPNの適応は減少しているも
のの,TPNは基本的な治療手段であると位置づけて
います。
経腸栄養の投与ルートは
今後の検討課題
critical careを必要とする大部分の患者さんは,
栄養失調の補正と予防,代謝状態の
最適化に重要な栄養アセスメント
次に,栄養評価と投与量の決定についてですが,
特にcritical careを必要とする患者さんでは栄養評
価の重要性は強く認識されています。なぜなら,こ
のような患者さんでは代謝失調や体液変動を個々に
消化管,特に胃の運動低下によりENに対するコン
考慮しなければならず,すべての患者さんに画一的
プライアンスが不良です。このようなコンプライア
な投与量を決めることができないからです。
ンスの悪い患者さんに,いかにして必要十分量の経
腸栄養を投与するかが大きな課題になっています。
そこで,現在,投与ルートの工夫がなされ,EN
一般的に,侵襲の大小に応じてエネルギー代謝は
剤の小腸内投与の努力が払われています。つまり,
亢進しますが,侵襲が激烈な場合にはエネルギー代
重症患者さんは胃の運動低下はみられるものの,小
謝は減少することがあり,エネルギー消費量(EE)
腸の蠕動が保たれているからです。ASPENのガイ
の実測値と重症度は必ずしも正の相関を示しませ
ドラインのなかでは,可能なときには,手術時に直
ん。したがって,生体が外因性のエネルギー源をよ
接 的 に( enteral feeding), あ る い は 経 鼻 的 に
く利用し,侵襲からの回復に必要なエネルギーを産
(nasoenteric feeding)腸内アクセスするべきである
生できる場合は栄養管理上大きな問題にはなりませ
と記載されています。特に敗血症に伴う胃アトニー
ん。しかし,例えば熱傷面積の大きなきわめて強い
では,経胃的な投与ルートの適用が制限されていま
侵襲を受け,エネルギー源に対する利用能が低下し
す。
てしまった患者さんの場合は,つい栄養投与量が過
最近では,小腸内投与法においては,胃内吸引と
ENの空腸内投与を同時に行うことができるデバイ
6
1.エネルギー代謝のアセスメント
剰になり,代謝負荷からさまざまな合併症を招くこ
とになります。
ス,transpyloric feeding tubeの有用性が認められ
そこでこのような過剰投与,あるいは逆の過少投
ています。また,このtranspyloric tubeの留置法に
与を防ぐためには,EEの測定は間接熱量測定法に
より行い,これをもとにエネルギー投与量を決める
3.体液分布の測定
ことが理想的だとされています。方法は,呼気ガス
重症の患者さんでは,先ほど述べたように,栄養
分析装置を用いて酸素消費量(VO2:ë/日)と炭酸ガ
投与に際して体液管理が非常に重要になります。体
ス産生量(VCO 2 :ë/日)を測定し,Weirの式[EE
液管理上,血管内外,細胞内外の水分の評価は必須
(kcal/日)=3.94×VO2+1.11×VCO2−2.17×N(尿中
総窒素排泄量g/日;通常省略)]にあてはめて算出
します。
です。
これまで,生体に特定周波数の交流電流を通電し
てインピーダンスを測定し,除脂肪量(FFM)を求
通常は総エネルギー投与量を1.1〜1.2×EE程度に
めるBIA(bioelectrical impedance analysis)法が行
とどめておけば,患者さんにとって危険な過剰投与
われていました。最近では,多周波数の電流を通電
を回避することができます。特に重症の患者さんの
し,それらのインピーダンスのスペクトルを解析す
なかでも,エネルギー需要量が増大していながら,
ることにより,細胞内液(ICF)と細胞外液(ECF)の
その利用能が低下している場合には有用です。
変化を捉えることができるBISA(bioelectrical
impedance spectrum analysis)
法が行われています。
2.蛋白代謝のアセスメント
私自身は,このBISA法は侵襲に伴う水分の体内
体蛋白の分解は,IL-1,TNF-αを主役とした複雑
貯留と分布異常(侵襲時の体液変動)を非侵襲的に評
なサイトカインネットワークの作用についてひき起
価できることから,栄養アセスメントを的確に行う
こされます。その結果として血中に放出された遊離
うえでは有用な手段だと考えています。
アミノ酸は,一部は蛋白合成に再利用されるが糖新
生にも利用され,尿中に排泄される窒素が増大しま
す。したがって,体蛋白異化の増大した患者さん,
つまり広範囲の熱傷や重症外傷の患者さんでは十分
量の蛋白源の投与が要求されます。
薬理学的・特異的栄養素の効果を
検討し,新しいストラテジーを構築
最後に,薬理学的あるいは特異的栄養素の効果に
ただし,蛋白所要量は,除脂肪体重に対して考慮
ついてお話しします。ASPENのガイドラインのな
されるべきです。また,急性期の重症外傷や敗血症
かでは,「グルタミン,アルギニン,EPA,DHAや
の患者さんでは水分の過剰投与があるため,通常推
中鎖脂肪を強化した特殊なEN剤のなかには,免疫
奨されている1.2〜2.0g/kgBW/日の蛋白を投与する
調整作用を有するものがある。上部消化管の悪性腫
と過剰になります。このような患者さんでは,後で
瘍患者と熱傷患者を対象にした2つのプロスペクテ
お話しする体液量の測定が大きな意味をもちます。
ィブな試験では,これら特殊なEN剤を使用した栄
通常,私たちは,術前体重が聴取できる場合は
養療法により入院期間が短縮し,感染性合併症が減
1.2g/kgBW(術前)/日の蛋白を,術前体重が不明な
少した。また骨髄移植を受けた患者では,グルタミ
場合は1.0g/kgBW(その時点での)/日の蛋白を投与
ンを強化したTPNにより感染症の発生率が減少し,
しています。
また入院期間が短縮した」と記載されています。
そのほか,蛋白代謝のアセスメントとして,静的
実際,薬理学的あるいは特異的栄養素(special-
アセスメントの指標であるrapid turnover protein
ized formulas,specialty nutrients)の投与により,
(RTP)の有用性を主張する研究もみられます。これ
血漿アミノ酸パターン,体重,Nバランスなどの栄
によると,CRPが高値を示す炎症の持続している
養学的成績が変わるという研究が数多くあります。
ICUの患者さんでも,プレアルブミン(PRA)とレチ
ノール結合蛋白(RBP)は,Nバランスと正の相関を
1.グルタミン,アルギニン,EPA,DHAなど
示すので,RTPのモニタリングはこのような患者さ
たとえば,グルタミンについては,Jansenらは重
んの栄養治療の臨床評価に有用であると結論づけら
症患者を対象に,グルタミン量の多いENと,標準
れています。
組成のENを投与した無作為化試験(randmized
controled trial;RCT)
を行ったところ,血漿BCAA
レベルはむしろ対照群で高いものの,感染時に上昇
7
するPhe/Tyr比は試験群で低下することを報告して
います。しかし,この結果を,グルタミンが
bacterial translocationを阻止する間接的な現象と解
釈してよいかどうかは疑問が残りますが……。
また,Weingartmannらは,ペプチド型グルタミ
NST
ASSESSMENT
NETWORK
イドがあります。なかでも,成長ホルモンに関する
動物実験での研究は跡を絶ちません。最近では,成
ン輸液の安全性を追求し,多発性外傷患者にペプチ
長ホルモンがラット横隔膜のミオシンを増量させ,
ド型グルタミンとしてグリシン・グルタミンを血漿
機能を向上させたという報告がみられています。こ
グルタミンレベルが十分回復する量を投与しても安
の結果を受けて,呼吸障害の患者さんへの応用に期
全であることを報告しています。私たちも,経腸投
待がかかっています。また成長ホルモンは外傷,手
与されたグルタミン酸が腸粘膜細胞のエネルギー源
術,敗血症を伴う異化を改善するといわれています。
としてグルタミンと同等の効果をもつこと,またグ
しかし,成長ホルモンに関する臨床試験の結果は
ルタミンよりむしろ腸粘膜細胞の蛋白合成を促進さ
決してよいものではありません。Takalaらは長期間
せることを熱傷ラットで証明しています。
にわたりICUに入院中の重症患者を対象にRCTを行
一方,アルギニン,RNA,EPA配合EN剤につい
い,成長ホルモン大量投与がICU滞在期間,入院期
ては,traumaおよびcritical careの患者さんでは有
間,人工呼吸装置期間,予後に及ぼす効果を検討し
効であるという結果が出されていますが,消化器癌
たところ,成長ホルモン大量投与群において死亡率
患者の術後早期投与では無効であったという相反す
および合併症発生率ともに高かったことが明らかに
る報告もあります。中鎖脂肪配合静注用脂肪乳剤に
されています。やはり,成長因子,蛋白同化ステロ
ついては,ヨーロッパを中心にすでに古くから臨床
イドについても,さらなる検討を行い,有用性を明
応用されていますが,RCTで中鎖脂肪の血小板細胞
らかにしていく必要があります。
膜の脂肪酸構成に与える変化は血小板機能に都合の
よいものではなかったとの結論が得られています。
これに対して,conventionalな長鎖脂肪を用いた脂
肪乳剤では,30%脂肪乳剤の安全性が確認されてお
り,これにより水分節約効果が期待されています。
ARDS患者を対象に,EPA,γ-リノレン酸
(GLA)
小腸全摘出術後患者の
在宅栄養療法を実施
ところで,救命救急センターの医師は,患者さん
の長期にわたるフォローアップを行わないところが
配合EN剤のRCTが行われた結果,これらを含まな
多いようです。ただし,私の場合,消化器外科出身
いEN剤を投与した対照群に比べて,試験群では
で,小腸機能障害認定医でもあることより,実は腹
BALF中の好中球が減少,動脈血ガス分析値の改善,
部救急疾患などで小腸を大量に切除した患者さん,
ICU滞在期間の短縮がみられ,また新たな臓器障害
あるいは全部摘出した患者さんの在宅栄養療法管理
の発生が少なかったと報告さています。
を行っていて,外来を設けています。
しかし,残念なことに,いずれの試験結果からも
救急疾患で腸を切除する場合は急激にしかも非常
今のところ栄養が臨床上重要なエンドポイントに影
に広範囲で行われ,治療法としては小腸の移植手術
響を与えているかどうかへの論拠が足りません。
しかありません。しかし,このような患者さんでも
ASPENのガイドラインでも,今後,グルタミン,
栄養サポートが的確に行われていれば自宅で日常生
アルギニン,EPAや中鎖脂肪などの栄養補助治療食
活を送ることができ,入院する必要はありません。
の有効性を立証するには,さらに十分にデザインさ
本来,病診連携により,近医の医師が栄養サポート
れたプロスペクティブなRCTを行う必要があると書
を行えばよいのですが,やはり患者さんの心理が作
かれています。
用して私がフォローアップしているのが現状です。
今後はこのような小腸機能障害で特殊な栄養サポー
2.成長因子,蛋白同化ステロイド
このほか,薬理学的あるいは特異的栄養素として
注目されているものに,成長因子,蛋白同化ステロ
8
トを余儀なくされている患者さんたちのためにも,
一般臨床医に対して広く栄養管理方法について啓発
していきたいと考えています。
Nutrition Support Journal
4
NS NURSE
当院でNSTを普及させるための取り組み
東京女子医科大学病院在宅医療支援・推進部 エキスパートナース
はじめに
小笠原
保子
NSTを普及するための取り組み
「NSTって何だと思う……?」現場で働く看護婦
以上のような現状のなかで,われわれは栄養に関
に聞いてみたが,多くの看護婦はよくわからないと
する知識を得ることが重要と考え,現在,栄養専門
答えた。入院から退院まで,多職種の医療者が1人
外来の医師と薬剤師が中心になって,月1回「臨床
の患者に関わってのチーム医療を行っているはずな
栄養勉強会」を行っている。参加者は医師,看護婦,
のに,そうした意識のもとに専門職を上手に使える
栄養士,薬剤師がほとんどで,その目的は,①臨床
看護婦は少ない。ではNSTをどのように普及させる
における栄養の基礎的知識を得る,②NSTがなぜ必
のか,そのなかで看護婦の役割とはいったい何かを
要かを理解する,③院内にNSTをいかに普及させる
考えてみたい。
かを考える,である。
また週1回,在宅医療部が関わっている患者につ
当院でのNSTの現状
当院では残念ながら明確なNSTは存在しない。し
いて,「症例検討会」を行っている(図1)。参加者
は,院内からは在宅医療部スタッフ(栄養専門外来
医師,緩和ケア医師,看護婦,薬剤師,事務員)と
かし,在宅医療支援・推進部(以下,在宅医療部)へ
MSW,事例を担当する医師やプライマリーナース,
の依頼患者については在宅医療部が窓口になって,
院外からは地域医療機関の往診医,訪問看護婦,ケ
NSTとなりうる各専門職を巻き込んでのチーム医療
アマネージャー,事務員などである。これらの勉強
体制をとっている。
会や検討会を通して臨床栄養を理解し,栄養管理の
平成12年1〜12月の1年間の新規依頼患者は231
調整も含めた在宅医療の適応の検討をそれぞれの専
件であった。うち167件(72.3%)は悪性疾患で,そ
門職の立場から意見交換することで,より良い医療
のほとんどは消化器系疾患であった。また,6ヵ月
の提供と,地域医療機関と連携の取れたチーム医療
以内のターミナル期の患者が多かったことから,在
の充実を図っている。
宅医療への移行においては何らかの栄養管理が必要
そのなかで看護婦は患者と最も近い存在であり,
であった。そのためHPNあるいはHENを導入した
患者の置かれた立場をあらゆる角度から評価し総合
患者は42名で,経口摂取が可能な場合は食事指導も
的に判断・調整できる能力を身につけることが重要
重要な教育の1つであった。栄養管理方法や食事指
であり,その役割は患者側に立った各専門職とのコ
導については,ほとんどの看護婦は専門的な知識に
ーディネーター的存在であることが望ましいと考え
乏しいため,一般的な管理の仕方や指導になりがち
る。
で,個別性に欠けるのが臨床の場の現状である。各
専門職がそれぞれの分野の専門性を発揮して対応す
れば,より効果的な栄養管理が望めるはずである。
そのため,在宅医療部では栄養専門外来の医師や薬
剤師と連携を取り合って,栄養管理の調整を積極的
に進めている。
図1
症例検討会
9
Nutrition Support Journal
4
NS ADMINISTRATION
NSTと医事課
(2)
鈴鹿中央総合病院 医事係長
今回はNSTの経済効果の検証について述べる。
福岡
秀樹
るかをチェアマンと検討した。その結果,在院統計
から,①NST稼動前後の平均在院日数変化(図1,
病院統計からの資料収集と
報告書作成
2),②急性期入院(2週間以内)の患者比率(図3),
③医学管理料(当時)単価(図4)のグラフを作成し,
データとして提供することとした。ご覧のように,
NSTを立ち上げて維持していくには,医学面とと
NST稼動を境として値が大きく変化していることが
もに経済面でも有意性をアピールする必要があると
窺える。決してNSTだけの成果ではないが,稼動直
考える。昨今の厳しい医療情勢のなかでは,いかに
後でもあったので,これを利用して経済効果の検証
医学的に有効でもコストに見合わないものは選択さ
と栄養管理の重要性の啓蒙に大いに役立ててもらう
れにくいことが多いからである。NSTについて経済
ことができた。おかげで当院では,稼動以来常時平
的・経営的な側面から検証を行うには,病院の統計
均在院日数が20日を切っている。これと前後して患
データから考察することになる。直接的に数字が現
者紹介率も向上させることができた。急性期病院加
れるものは少ないが,そのなかで一番影響が大きい
算の算定要件(平均在院日数20日以内,患者紹介率
のは平均在院日数であろう。患者の早期離床・早期
30%)をクリアしたことにより,年間約1億円の増
退院が入院期間の短縮とベッド稼働率の向上を促
収を得ることができたのは,非常に大きな経済効果
す。これにより,診療単価のアップを見込むことが
といえよう。
できる。当院では,統計業務を医事課で行っており,
NSTの経済効果の検証にどのようなデータを提供す
(日)
24.0
次回は,NSTの医療情報システムの中への組み入
れについてお話しする。
(%)
50.0
23.0
NST稼働
48.0
NST稼働
22.0
46.0
21.0
20.0
44.0
19.0
42.0
18.0
40.0
17.0
16.0
38.0
15.0
1997年
1998年
1999年
2000年
1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3(月)
36.0
1997年
1998年
1999年
2000年
1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3
(月)
図1
平均在院日数(月別)
図3
急性期入院(2週間以内)比率
(円)
4,600
(日)
23.0
NST稼働
22.0
4,500
NST稼働
4,400
21.0
4,300
20.0
4,200
19.0
4,100
18.0
4,000
9月
9
1月 〜11
〜9 月
8年
98 1月
年1
〜3
月
3〜
5月
5〜
7月
7〜
9月
98
年1 9〜
1月 11
〜9 月
9年
99 1月
年1
〜3
月
3〜
5月
5〜
7月
7〜
9月
99
9
年1
1月 〜11
〜0 月
0年
00 1月
年1
〜3
月
3,700
1997年
1998年
1999年
1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7
97
年1
7〜
5〜
〜3
3〜
年1
97
7月
3,800
月
3,900
16.0
5月
17.0
図2
10
平均在院日数(3ヵ月平均)
図4
医学管理料単価(1人1日当たり)
2000年
9 11 1 3(月)
Nutrition Support Journal
4
NS PHARMACIST
医薬品と栄養素の相互関係
名古屋市立大学病院薬剤部 部長
長谷川
信策
が薬剤師の評価の向上となる。そこで薬剤師として
はじめに:薬剤師の役割として
医薬品の患者の栄養への関与について以下に述べ
21世紀の幕が開かれたが,医薬分業の進展により,
る。
薬剤師はますます,病院,開局それぞれの場での役
割分担と医療チームの一翼の責任を果たさなければ
ならない。
医薬品の栄養状態への影響(表1)
本院でも,NSTの必要性については個々の医療人
医薬品の副作用のなかには食欲に影響するものも
のなかでは認識されているが,組織としては講座制
多い。ミネラルの代謝への影響では利尿剤,副腎皮
の縦割りの壁が高く,病院としての取り組みは困難
質ホルモンのカリウム欠乏はジギタリスの不整脈発
である。しかし,薬剤師の病棟での薬剤管理指導業
現の危険性を増大させる。また多くの漢方製剤は低
務が,医師,看護婦に認知・評価されてきている。
カリウムへの配慮が必要である。カルシウム,マグ
したがって,薬剤師は医薬品の専門家としての自負
ネシウムなどの欠乏によっても薬物の代謝に影響す
をもち,EBMに基づく情報を提供し,医師と正面
るといわれている。低ビタミンC状態は副作用の発
からディスカッションできる資質を養い,看護婦,
現頻度を高めるといわれている。
栄養士との積極的な連携をとることが重要で,それ
表1
医薬品の栄養状態に対する影響への例1)
影
響
食欲増進
オキソレヂン末
スタノロゾール
医
薬
品
名
表2
食欲減退
高血糖
低血糖
高カリウム
低カリウム
塩酸クロミプラミン
塩酸ジフェンヒドラミン・
臭化カルシウム
塩酸メチルフェニデート
酢酸テトラコサクチド
酢酸ナファレリン
臭化カリウム
臭化カルシウム
臭化ナトリウム
セミコハク酸ブトクタミド
プロピオン酸ジョサマイシン
ミリモスチム
メシル酸デラビルジン
ユビデカレノン
アトルバスタチンカ
リウム水和物
インドメタシン
テオフィリン
チアジド系降圧利尿剤
ループ利尿剤
シクロホスファミド
フェニトイン
塩酸ソタロール
塩酸セリプロロール
アテノロール
塩酸ベタキソロール
タクロリムス水和物
シクロスポリン
アトルバスタチンカ
リウム水和物
ニューキノロン系抗菌剤
塩酸メトホルミン
塩酸ブホルミン
エタクリン酸
塩酸カルテオロール
メカセルミン
ベザフィブラート
ジソピラミド
塩酸ピルメノール
コハク酸ジベンゾリン
ファモチジン
酢酸リュープロレリン
インドメタシン
メシル酸ナファモスタット
メシル酸ガベキサート
スルピリン
ケトフェニルブタゾン
イブプロフェン
ジクロフェナクナトリウム
フェノプロフェンカルシウム
スピロノラクトン
トリアムテレン
スルファメトキサゾール・
トリメトプリム合剤
パミドロン酸二Na
タクロリムス水和物
シクロスポリン
降圧利尿剤
ループ利尿剤
タクロリムス水和物
漢方製剤(一部)
副腎皮質ホルモン(一部)
医薬品と食品との相互作用の例1)
食品名
医薬品への作用
医薬品名
セント・ジョーンズ・
ワート
代謝促進
アミノフィリン,経口避妊薬,塩酸アミオダロン,塩酸プロパフェノン,カルバ
マゼピン,ジギトキシン,ジゴキシン,ジソピラミド,タクロリムス水和物,フ
ェニトイン,フェノバルビタール,メチルジゴキシン,硫酸キニジン,テオフィ
リン,ワルファリンカリウム
タンニン含有食品
キレート形成
クエン酸第一鉄ナトリウム,溶性ピロリン酸第二鉄,硫酸鉄,スレオニン鉄
納豆,クロレラ食品
作用減弱
ワルファリンカリウム
11
表3
栄養素と薬剤の相互作用
栄養素
薬剤
作用
ビタミン
水酸化アルミニウム
薬物性の沈降胆汁酸(precipitated bile acids)によりビタミン吸収が減少
する場合がある。
コレスチラミン
併用によりビタミン吸収が損なわれる場合がある。
鉱油
併用によりビタミン吸収が妨げられる場合がある。
ワルファリン
大量投与により抗凝固作用が生じる場合がある。
ジゴキシン
ビタミンDによって引き起こされる高カルシウム血症により,患者が薬
剤の毒性作用に対して敏感になる場合がある。
鉱油,
水酸化アルミニウム,
コレスチラミン
併用によりビタミン吸収が減少する場合がある。
ワルファリン
大量投与により抗凝固作用が増強される場合がある。
鉱油,水酸化アルミニウム,
コレスチラミン
併用によりビタミン吸収が減少する場合がある。
ワルファリン
併用により薬剤の低プロトロンビン血症作用(hypoprothrombic
effect)が阻害される。
鉱油,水酸化アルミニウム,
コレスチラミン
併用によりビタミン吸収が減少する場合がある。
エストロゲン
大量投与により薬剤の血清中濃度が上昇する場合がある。
ハロペリドール
併用により薬剤の抗精神病作用が増強される場合がある。
ワルファリン
大量投与によりプロトロンビン時間が短縮する場合がある。
ビタミンB12(コバラミン)
シメチジン,ネオマイシン
併用によりビタミンの吸収が減少する場合がある。
フォラシン
フェニトイン
葉酸欠乏患者にビタミン補充することにより,薬剤代謝が上昇する場合
がある。
チアミン
水酸化アルミニウム
薬剤により不活性化される。
レボドパ
併用により抗パーキンソン作用(anti-Parkinsonian effect)が生じない。
フェニトイン
大量投与により抗けいれん作用が減少する場合がある。
ヒドララジン,イソニアジ
ド,ペニシラミン
併用により薬剤誘発性の末梢神経障害が解消される場合がある。
ジギタリス
ビタミンDとの併用により,高カルシウム血症が生じ,薬剤の毒性作
用が増強される場合がある。
ヒドロクロロチアジド
ビタミンDとの併用により,高カルシウム血症が生じる場合がある。
緩下剤
(乱用)
吸収が減少する。
フェニトイン
併用により,薬剤とカルシウムのバイオアベイラビリティがともに低
下する場合がある。
ベラパミル
ビタミンDとの併用により,薬剤の抗不整脈作用が無効になる場合があ
る。
ペニシラミン
ミネラルの枯渇が生じる場合がある。
ペニシラミン
併用により薬剤の効果が減少する場合がある。
非麻酔性鎮痛薬(アスピリ
ン,インドメタシン)
鉄欠乏性貧血が生じたり,悪化する場合がある〔405ç/日の長期使用に
より308mëの血便による失血(fecal blood loss)が生じる〕
。
炭酸カルシウム
併用により鉄吸収が損なわれる場合がある。
マグネシウム
エタノール
吸収が減少する。
リン
制酸薬
(一部)
吸収が減少する。
カリウム
フロセミド,ヒドロクロロチ 異常値の指標(monitor for abnormal levels)
。
アジド,スピロノラクトン
ビタミンA
ビタミンD
ビタミンE
ビタミンK
アスコルビン酸
ピリドキシン
ミネラル
カルシウム
銅
鉄
亜鉛
エタノール
吸収が減少する。
ペニシラミン
吸収が減少する。
エタノール
吸収が減少する。
レボドパ,メチルドパ
併用により薬剤吸収/作用が阻害される可能性がある。
テオフィリン
併用により薬剤の血漿中半減期が減少する可能性がある。
フルオキセチン
併用により激越,落ち着きのなさ,消化管の問題が悪化する場合がある。
モノアミンオキシダーゼ阻
害薬(MAOI)
併用により,錯乱,精神状態の低下,頭痛,激越,その他の有害作用
が生じる場合がある。
三環系抗うつ薬
抗うつ作用を増強するために使用した場合に,さまざまな結果が認められる。
その他の栄養補助食品
蛋白質
またはアミノ酸
トリプトファン
(文献2)
より引用,3)
-5)
を参考に改変)
12
表4
医薬品による味覚障害,味覚異常
抗生物質製剤
アジスロマイシン水和物,イミペネム・シラスタチン,セフォジジム,硫酸セフピロム,塩酸ミノサイク
リン,クラリスロマイシン,ロキシスロマイシン,セフタジジム
ニューキノロン系抗菌剤
オフロキサシン,レボフロキサシン,トシル酸トスフロキサシン,エノキサシン,塩酸シプロフロキサシン
ACE阻害剤
リシノプリル,アラセプリル,塩酸ベナゼプリル,塩酸デラプリル,マレイン酸エナラプリル,カプトプ
リル,シラザプリル,塩酸イミダプリル
Ca拮抗剤,β遮断剤
ベシル酸アムロジピン,シルニジピン,塩酸マニジピン,ニプラジロール,塩酸セリプロロール
高脂血症治療剤
プラバスタチンナトリウム,シラバスタチン,フェノフィブラート,ベサフィブラート
その他
抗悪性腫瘍剤,抗HIV薬,副腎皮質ホルモン,抗真菌剤
塩酸サルポグレラート,酢酸ナファレリン,酢酸リュープロレリン,オーラノフィン,塩酸クロミプラミ
ン,塩酸エピナスチン,フマル酸ケトチフェン,テルフェナジン,イプリフラボン,メスナ,スリンダク,
インドメタシンファルネシル,マレイン酸プログルメタシン,ダナゾール,アロプリノール,ゾテピン,
チアプロフェン酸,メシル酸ペルゴリド,塩酸セレギリン,レボドパ,ブシラミン,塩酸チクロピジン,
プロピルチオウラシル,チアマゾール,バクロフェン,アモキサピン,塩酸アミトリプチリン,塩酸ノル
トリプチリン,塩酸マプロチリン,塩酸ロペラミド,酢酸ブセレリン,塩酸セチリジン,トラピジル,塩
酸ミルナシプラン,ナテグリニド,チオプロニン,アセタゾラミド,塩酸クロフェダノール,サラゾスル
ファピリジン,ifn-α,塩酸プロピベリン,塩酸ファドロゾール水和物,フルタミド,塩酸メキシレチン,
塩酸アミオダロン,塩酸プロパフェノン,酢酸フレカイニド,クエン酸シルデナフィル,ダントロレンNa,
ロベンザリット2Na,タクロリムス水和物,メトトレキサート
医薬品と食品との相互作用(表2, 3)
添付文書上に掲載されている医薬品と食品との相
剤性24%,特発性14%,その他と分類されている7)。
患者の訴えがないと気づきにくく,また原因も多彩
なため的確な診断が患者のQOL向上に肝要である。
互作用は現在37件である。そのほとんどがセント・
ジョーンズ・ワートであり,本食品は抗うつ・抗ス
トレス作用をうたった健康食品でCYP3A4,
おわりに
CYP1A2の誘導により併用薬の血中濃度を低下減弱
患者の栄養不良は手術摘要,手術予後に大きく影
する。ビタミンとの相互作用も64件あり ,多種類
響するため,薬剤師として病態,副作用,相互作用
のビタミン剤が栄養補助食品として市販されてお
とともに患者との面談のなかで十分な注意を払わな
り,医薬品との併用には注意が必要と考える。
ければならない。さらには個々の違いを意識し,医
2)
たとえばビタミンKは,ワルファリンカリウムの
抗凝固作用を減弱させることが知られている。ワル
薬品の適正使用に貢献することがチーム医療の一員
として薬剤師が生きる道であると考える。
ファリンカリウム投与中の患者にビタミンK含有量
の多い経腸栄養剤を投与したところ抗凝固作用の減
弱がみられ,ビタミンK含有量の少ない別の経腸栄
養剤に変更すると凝固能が正常化したという報告も
ある6)。
医薬品の味覚への影響(表4)
味覚障害は亜鉛欠乏症や,医薬品の副作用による
ことが多い。以前には長期のTPN施行の副作用に
亜鉛欠乏がみられたが,輸液への硫酸亜鉛の添加,
微量元素製剤により改善された。しかし日本では年
間14万人の味覚障害が発症し,亜鉛欠乏性15%,薬
文
献
1)日本医薬品集DB, 1999年10月版
2)Morley JE, Glick Z, Rubenstein L, eds. : Geriatric Nutrition ;
A Comprehensive Revieu. 2nd ed., New York, Raven Press,
1995
3)日本医薬情報センター 編 : 医療薬日本医薬品集 2001年版. 東
京, じほう, 2000
4)高久史麿, 矢崎義雄 監 : 治療薬マニュアル2001. 東京, 医学書
院, 2001
5)福島雅典 監 : メルクマニュアル 第17版 日本語版. 東京, 日本
BP社, 2000
6)斉藤節子, 野水みさ子, 山川良一, 他 : ワルファリンカリウム効
果がツインラインÑで減弱された2例. 栄養−評価と治療 17 :
107-111, 2000
7)冨田 寛 : 味覚障害. 今日の診療CD-ROM vol.10, 東京, 医学書
院, 2000
13
Nutrition Support Journal
4
REVIEW
DISEASE-SPECIFIC
癌化学療法施行中における経腸栄養
の重要性―高カロリー経腸栄養剤―
東北大学大学院医学系研究科先進外科学
Key Words
宮崎
癌化学療法
修吉
Profile
みやざき しゅうきち
1956年大分県生まれ。85年東北大学医学部
卒業。87年,東北大学医学部第二外科に入
局。食道疾患の外科治療を専門とする。
92年から2年間,米国NIHに留学。96年東
北大学医学部助手になり,現在に至る。
栄養管理
経腸栄養
Summary
癌化学療法時における栄養管理の意義は,十分な栄養投与により宿主の栄養状態
を改善し,治療に伴う副作用の軽減と完遂率の向上を図り,治療効果を最大限に上
げることにある。癌化学療法中のエネルギー消費量の間接熱量計を用いた測定から
も,癌化学療法施行後は特に十分なエネルギー投与が必要であり,癌治療における
栄養補助の重要性が示されている。栄養投与法の利点,欠点の見地からは,特に経
腸栄養による栄養補助が重要である。
はじめに
癌化学療法時における栄養管理の意義
癌患者の治療成績向上のために,手術療法に加え放射
癌化学療法時における栄養管理の意義は十分な栄養投
線療法,化学療法,免疫療法などを組み合わせて種々の
与により宿主の栄養状態を改善し,治療に伴う副作用の
集学的治療が試みられている。しかし,進行癌患者や経
軽減と完遂率の向上を図り,治療効果を最大限に上げる
口摂取が困難となる消化器癌患者は,入院時よりすでに
ことにある。その際,担癌患者がどのような代謝異常の
栄養障害に陥っていることが多い。そのため,大きな手
状態にあるかを的確に把握しておくことが重要である。
術侵襲や放射線化学療法などの補助療法に伴う副作用に
担癌患者はエネルギー消費量が上昇し,糖質代謝や脂
耐えられず,予定した治療を完遂できない場合も少なく
質代謝は亢進し,異化状態にある。全身の蛋白代謝回転
ない。これらの担癌患者に対し,中心静脈栄養(TPN)
も亢進し,骨格筋の蛋白分解が進み,血中に放出された
や経腸栄養(EN)による栄養補助を積極的に行うことに
アミノ酸は,肝臓でCoriサイクルやglucose-alanineサイ
より,栄養状態を改善し,集学的治療の遂行が可能とな
る。ここでは,癌化学療法施行時の栄養管理の意義と重
要性について述べる。
2,500
抗癌剤の毒性と栄養状態
2,000
0.5
メトトレキセート
5-FU
死亡率
(%)
1,600
低蛋白ラット
対照ラット
14
20mç/kç
安静時エネルギー消費量(REE)
100
20mç/kç
呼吸商(RQ)
表1
REE(Kcal)
1.0
呼吸商(RQ)
CDDP 休薬
VDS
CDDP投与3日後
2mç/日 (50〜75mç/m2)
×2日間
0
低蛋白ラット
140mç/kç
100
対照ラット
140mç/kç
0
図1
DXR
DXR
5FU
DXR 投与3日後 投与7日後
500mç/日 (50〜75mç/m2)
×3日間
食道癌術後強力癌化学療法(FCAV 療法)施
行症例におけるREEおよびRQの変化
(kcal/kç/日)
40
中心静脈栄養
TPN
投
与 30
カ
ロ
リ
ー 20
量
経腸栄養
EN
10
経口摂取
0
1
CV カテーテル挿入
術前
表2
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15(日)
手術
術後
術後合併療法
中心静脈栄養の欠点
図2
食道癌患者に対する
栄養管理スケジュール
養補助の重要性を示している。また,必要に応じて代謝
カテーテル敗血症……壁在血栓の存在・感染巣の有無
消化管機能の低下……bacterial translocation,絨毛上皮の萎縮
過剰栄養……肥満・脂肪肝・薬物代謝酵素の低下
筋力の低下……運動制限
処方の自由度の固定……ダブルバッグ,シングルバッグ製剤など
モニタを用いて癌治療中のエネルギー消費量や基質の選
択を行うことも重要である。
経腸栄養のすすめ
図2に,われわれが実際に行っている食道癌術前後の
アシドーシス
(乳酸・有機酸)
……輸液の滴定酸・Maillard reaction
栄養管理のシェーマを示す。術後化学療法が必要と判断
ビタミンB1欠乏による意識障害
(Wernicke脳症)
された場合には,できる限り経腸栄養を主体とした栄養
誤投与の危険性……誤投与の防止
(closed systemの導入)
管理のもとで施行することが望ましいと考えている。そ
の理由は,経腸栄養が腸管バリアの機能維持や腸肝循環
クルによる糖新生からブドウ糖となり再び腫瘍に利用さ
の保持の点から有利であり,また表2に示すように,
れるという,腫瘍と担癌生体の代謝連関を形成している。
TPNにおいては種々の欠点が挙げられるからである。
このような担癌患者に栄養補給を行うと,腫瘍を増大
通常,術中に胃瘻または腸瘻を造設しているが,手術
させるという報告もあるが1),一方では,栄養補給によ
患者以外では,近年簡便な内視鏡的胃瘻
(PEG)
キットが
る癌の急激な増殖はないとする報告も多い 。さらに,
市販されており,非常に有用である。
2)
積極的な栄養補給により宿主の栄養状態を保持すること
また,経腸栄養剤も非常に簡便に投与できる製剤が
が,抗癌剤や放射線療法の奏効率を向上させるという考
種々市販されており,それぞれの特徴を把握し,症例に
えが支持されている。
応じて選択が可能である。
また,低栄養下では免疫能が抑制されるため,栄養管
最近では,1.5kcal/mëの高カロリー経腸栄養剤もあり,
理で免疫能を改善することにより,抗癌剤に対する感受
REEが亢進している癌化学療法施行患者に対して,従
性を高めると考えられ,免疫学的にも重要である。
来のものより効率的な栄養補給が可能になっている。
副作用については表1に示したように,動物実験にお
いて低栄養ラットではメトトレキセートや5-FUなどのS
おわりに
期に作用する抗癌剤に対する耐性が著明に低下してお
癌化学療法中のエネルギー消費量を間接熱量計を用い
り,栄養管理によって,副作用も軽減される可能性が示
て測定すると療法施行後は特にエネルギー消費が上昇し
されている。
ていた。この時期に十分なエネルギーを投与することが
癌化学療法中は
十分なエネルギー投与が必要
実際に,癌化学療法中のエネルギー消費量を間接熱量
治療効果を最大限に上げるために重要である。その際特
に経腸栄養が有利であり,1.5kcal/mëの濃縮タイプの経
腸栄養剤の出現により,効率的な栄養補給が可能になっ
ている。
計を用いて経時的にみると,塩酸ドキソルビシンやシス
プラチン投与中は安静時エネルギー消費量(REE)は低
いが,投与後3日目には著明に上昇していた(図1)3)。
さらにサイトカイン療法としてTNFを加えた放射線免
疫化学療法では,十分な糖質を投与しているにもかかわ
らず,呼吸商が低下し,脂肪の燃焼比率が高くなること
がわかった。これらのことは,癌化学療法施行後は特に
十分なエネルギー投与が必要であり,癌治療における栄
文
献
1)Torosian MF, Donomay RB : Total parenteral nutrition and
tumor metastasis. Surgery 109 : 597-601, 1991
2)Dionigi P, Jemes U, Cebrelli T, et al : Preoperative
nutritional support and tumor cell kinetics in malnourished
patients with gastric cancer. Clin Nutr 10(Suppl.): 77-84,
1991
3)西平哲朗,平山 克,標葉隆三郎,他:高カロリー栄養投与
法による胸部食道癌術後Aggressive chemotherapy. 日癌治
26 : 829-, 1991
15
Nutrition Support Journal
4
FOCUS THE OUTCOME
第1回
社会復帰の重要性
(1)
東京慈恵会医科大学外科 講師
はじめに
鏡視下手術は,1990年の報告以来,瞬く間に世界中に
鈴木
裕
effectiveness),③患者を主体としたoutcomeの変数
(patient-based outcome variables)から成る関数で示さ
れる。
広がり,外科のみならず,産婦人科,泌尿器科,耳鼻咽
臨床上の効果は,治療の効果と安全性であり,治療
喉科などの多くの領域で行われるようになった。おそら
(根治)
の成功または失敗,合併症,後遺症などが評価項
く,医療の歴史のなかでも,これほどまでに急速に,し
目となる。費用効果は,合併症や後遺症に要した費用も
かも世界的に普及した治療手段はほかに存在しない。そ
含めた直接的な費用効果と,仕事を休業した時間なども
の最大の理由は,患者に苦痛が少なく,医療経済的にも
考慮した間接的な費用効果の2つに分かれる。患者を主
優れていたことにほかならない。そして,欧米ではこの
体としたoutcomeの変数は,社会復帰率などに代表され
鏡視下手術の普及と時期を合わせて,治療の結果を評価
る社会的な因子と術後の痛みや患者の治療に対する意見
するoutcome researchの概念が注目を集めていった。
などの患者主体の評価とで表記される。このような観点
今回は,outcome researchをキーワードに社会復帰の
重要性に関して述べてみたい。
outcome researchの必要性
からの治療評価は,治療の標準化や不適切な治療の洗い
出しに効果を発揮する。
outcomeからみた社会復帰
米国では医療費の高騰を抑制する目的で,managed
今回のテーマである社会復帰は,前述のoutcome
careが急速に浸透しつつある。治療法を選択するにあた
measurementsと密接に関係している。治療の成功があ
っては,臨床試験による科学的評価に加えて,治療法の
って
(少なくとも失敗がなくて)
はじめて社会復帰は可能
outcomeと費用を客観的に評価する試みが始まっている。
となり,患者が社会復帰すれば正の費用効果をもたらす。
managed careの原則は,雇用者と保険会社,または政
また,社会生活への復帰は患者に基づくoutcomeの変数
府との契約により定額の医療を行うdiagnosis related
にも貢献する。このようなことから,社会復帰は,治療
group/prospective payment system(DRG/PPS:疾患
における良好なoutcomeを示す指標と捉えられる。
群別包括支払い方式)
が基本となる。
一方わが国では,GDP
(gross domestic product)
に占
める医療費の割合は,米国に比べて約半分の7.2%(1997
対費用効果からみたoutcome
年)と明らかに低く抑えられているが,急速な高齢化や
社会復帰の有無はoutcome researchにおいてきわめて
経済成長の鈍化から,医療費の抑制政策は避けられない
重要な因子である。身近な例で例えると,同じ年齢,疾
状況を迎えている。本邦では,医師の裁量権で手術の適
患進行度の患者AとBが,同じ手術を行い,AがBより30
応を決定し,費用にかかわることなく最良の治療を行う
日早く社会復帰したとすると,経済効果はAはBよりZ
ことができる,いわゆる出来高払い制度が採用されてい
円社会に貢献したことになる。簡単な数式と架空値を導
るが,医療費に限りがある環境においては,そのパイを
入すると,Z=[(Aが生産した量X円)+(Bが社会から受
効率よく配分する方法論を模索する必要がでてきてい
けた量Y円)]×30で示され,仮にXが5万円,Yが3万
る。本邦は,今まさにoutcome researchの導入が必要と
円とすると,Zは8×30=240万円となる。もちろん,こ
なっている。
のように単純な医療費の計算式で治療の良し悪しを評価
することは僭越であるが,医療経済的な貢献の差は明ら
outcome measurementsとは
臨床におけるoutcome measurementsは,①臨床上の
効 果( c l i n i c a l - e f f e c t i v e n e s s ), ② 費 用 効 果( c o s t 16
かである。また,社会復帰を果たした患者や家族の状態
も加味すると,社会復帰は正の作用をもたらすことが多
く,outcomeに大きく関与する。
Nutrition Support Journal
4
DEVICE NOW
ナイスフロ経腸栄養ポンプ実施
―難治性下痢に対して―
国家公務員等共済連合会高松病院内科
粟井
一哉
はじめに
近年,PEG
(経皮内視鏡的胃瘻造設術)
の急速な普及な
どにより,日本でも臨床医が経腸栄養に接する機会は確
実に増えてきていると思われる。このような折,経腸栄
養の合併症として下痢に遭遇する機会は非常に多い。そ
の合併率は31%と報告されており1),特に高齢者は合併
しやすいといわれている。乳酸菌製剤にて治まる軽度の
ものから強力な止痢剤を用いてもいっこうに効果がない
難治性のものまで,その程度はさまざまである。原因と
しては経腸栄養剤の濃度,投与速度および経腸栄養用ソ
フトバッグ内の細菌汚染が主たるものと考えられている。
細菌汚染に対してはバッグ内の細菌数が著増する6〜
8時間以内に栄養剤を使い切ることや,バッグの消毒法
がその対応策であるが,投与速度に対しては経腸栄養ポ
ンプを用いて投与速度を遅くすることが非常に有効であ
図1
る。
症
例
ナイスフロ経腸栄養ポンプを用いて難治性下痢が改善
した1例を紹介する。
ナイスフロ経腸栄養ポンプの実施風景
おわりに
現在,経腸栄養ポンプは,機器が20万円前後とまだ高
額であること,自然落下法と比しチューブの充填・洗浄
症例は87歳の女性で,寝たきり状態から肺炎を繰り返
などの手間がかかること,騒音の問題などにより,その
し平成12年8月28日に入院となった。肺炎治癒後,誤嚥
普及は十分ではないと思われる。しかし難治性下痢以外
予防と栄養状態の改善のため9月27日にPEGを施行し
にも誤嚥の予防や夜間睡眠中の使用など,持続注入ポン
た。数日後より半消化態栄養剤の注入を開始したが,注
プが必要とされる症例は確実に存在しており,各医療機
入量が1日900kcalに達するころより1日4〜5回の下
関がその有効性を認識し,今後さらに普及していくこと
痢便が続くようになった。当初は乳酸菌製剤やロペラミ
が望まれる。
ドの投与にてコントロールを図ったが全く効果なく,水
分を増やして浸透圧の低下を図ったがこれも効果はなか
った。
そこで11月15日からナイスフロ経腸栄養ポンプにより
0.63kcal/më,55më/時間の速度で1日750kcal・1,350më
文
献
1)馬庭芳朗, 谷村 弘, 梅本善哉 : 経腸栄養法に関する全国アン
ケート調査. 外科と代謝・栄養 27 : 331-340, 1993
の半消化態栄養剤を24時間持続注入した
(図1)
。当日よ
りぴたりと下痢は止まり,数日間かけて浸透圧を1
kcal/më,投与速度を125më/時間まで戻したが,以後,
下痢の再発は認めなかった。
17
Nutrition Support Journal
4
NUTRITION
CASE STUDY
【出題】摂食・嚥下障害
聖隷三方原病院 栄養科長
Q1
摂食・嚥下障害者に対する訓練は,段階的に行
うと聞きますが,どのようにするのか教えてく
ださい。
Q2
摂食・嚥下障害者に対する初期訓練ではゼラチ
ンゼリー食が有効だといわれますが,どうして
ゼラチンゼリーが良いのでしょう。
第1期 1999.7.6〜8.23
8
1999.7
6
26
27
開始食
3
16
第3期 1999.11.16 〜 2000.2.9
17
点滴, NG
体幹角度
30
食事介助
全介助
ST
脳外科 Nrs.
図1
19
20
21
22
25
12
6
嚥下¿ 嚥下À 嚥下Á
OE
OE
14
2000.1
4
11
嚥下移行食 消化移行食
中止
中断 30
中断
30
全介助
ST
嚥下 Nrs.
病棟 Nrs.
歯科衛生士
★
1回目
★
転院先
★
2回目
お茶ゼリー
水分
18
18
バルーン
補助栄養
VF
第2期
8.23〜
11
23
11.26 16
中断 開始食
基礎訓練
他スタッフ
節子
61歳,男性,商店経営。妻,長男夫婦,小学生の孫3人と同居。
発症1999年3月6日。多発性脳梗塞。左視出血,全失語。
〈基礎栄養情報〉
身長160cm,体重50kg,IBW 56.3kg,BMI 19.5,障害係数1,1,800kcal/日,
TP 6.7,Alb 3.6。摂食訓練の内容は図1のとおり。
症例
摂食訓練
金谷
嚥下障害者に対する摂食訓練の進め方の例
45
60
半介助
ヘルパー
OT
90
自力摂取
セッティングのみ
★
3回目
アイソトニックゼリー
とろみつきのお茶
2
9
A1
A2
図2
本症例は第1期の急性期では,当院脳外科でバルーン療法とNGチューブによる栄養後,
OE法(間欠的口腔食道法 intermittent oroesophageal tubefeeding),ベッドアップ
30度,全介助,食事は嚥下開始食とし,嚥下造影検査(VF)で摂食可能を確認しました。
その後転院し,転院先ではOE法による栄養とバルーン法による間接訓練のみを行いまし
た。11月16日摂食訓練を目的に再入院し,VFで1口量,体位30度,検査食「バリウム
ゼラチンゼリー」で嚥下食¿摂取可能を確認,不足栄養量はOE法にて補い1,800kcalと
しました。水分補給としてお茶ゼリー(1.6%ゼラチン濃度)を使用。3食70%以上摂食
したので嚥下食À,嚥下食Áに1日ごとにアップしました。食事は半介助とし,その後自
力,介助ともに水分補給としてアイソトニックゼリーを使用しています。12月14日より
嚥下移行食(介護食)へと順調に進みました。
摂食訓練では,①嚥下造影テスト ②嚥下内視鏡テスト で評価し,物性(変形と流動)
レベルから厳密に品質管理された5段階による嚥下食で進めていきます。嚥下食開始〜À
まではゼラチンを中心に,嚥下食Á,移行食はデンプンも加わります。脱水予防と栄養補
助剤併用が必須条件です。
正常な嚥下では口腔相で咀嚼することによりゲル状の食塊形成(Bolus)が行われます。
次に,食塊は咽頭相で嚥下反射部位に当たり約0.5秒で瞬時に嚥下され,第3相である食
道相に送られていきます。食塊が気道に入ることを誤嚥といいます。嚥下障害では,この
誤嚥と咽頭残留が誤嚥性肺炎や窒息の原因となっています。正常な嚥下を行うため食塊の
変形と流動を容易に行うため,初期訓練では次のような物性が嚥下食に必要です。
嚥下食の物性は,形態を重視し,誤嚥と咽頭残留を防止するため,以下のようにします。
①均一であること
②表面がなめらかで滑りやすいこと
③小さな応力で大きな変形をすること
④ゲル―ゾル転移が咽頭相通過温度(50℃以下)に近いこと
⑤G の値(動的粘弾性)はほぼ10〜10^2Pa,tanδ=G /G は0.1〜1の範囲であること
これらの5つの条件を満たすものにゼラチンがあります。寒天などの物性とは甚しく異
なり,嚥下初期訓練に有効です。
咽頭残留除去では,交互嚥下が有効です。一般的には,球麻痺患者に対して液状栄養剤
が有効といわれていますが,図2(内視鏡)でみるように,嚥下食としては不適です。液
状栄養剤(濃厚流動)は,ゼラチン1.3%(栄養剤100gにゼラチン1.3g)を加え加熱(65
度で30分)した後冷却(2〜5度で24時間)してできます。これにブルーベリージャムに
湯を10%加えミキシングして提供時に添えると,大変美味です。
図3は仮性球麻痺患者に対し咽頭残留物をゼラチンゼリーで除去したものです。液体や
粥などは誤嚥や咽頭残留しやすい食品ですが,ゼラチン濃度1.6%で作るお茶ゼリーやグ
レープゼラチンゼリーは咽頭残留物を見事に除去します。このように異なる物性をもつ食
品を交互に食べることを交互嚥下といい,摂食・嚥下訓練ではゼリー食は決定的条件なの
です。
球麻痺患者の液状栄養剤・嚥下所見
55歳男性,球麻痺
1,2 液状栄養剤が嚥下後も咽頭に残留している
3 グレープゼラチンゼリーが嚥下される直前
4 ゼラチンゼリー嚥下後,咽頭はきれいになった
図3
仮性球麻痺患者の誤嚥
62歳女性,仮性球麻痺
1 ピューレが咽頭に入ってきて
2 なかなか嚥下できず咽頭に広がっている
3,4 残留が増えて誤嚥される直前
19
Nutrition Support Journal
4
EVIDENCE
BASED NUTRITION
胃瘻栄養による誤嚥性肺炎発症予防のメカニズム
塩竈市立病院呼吸器科 部長
はじめに
結
板橋
繁
果
肺炎は高齢者において,ときに致死的な転帰をとる重
15例の基礎疾患は全例が脳血管障害であった。胃瘻栄
篤な疾患である。本邦の肺炎による死亡者の90%以上は
養により誤嚥性肺炎を起こさなくなった例(¿群)は10例
65歳以上の高齢者である。なかでも誤嚥性肺炎は再発を
で平均年齢76.6±6.7歳,胃瘻を造設しても誤嚥性肺炎を
繰り返すこと,治療に抵抗性であること,基礎疾患を有
繰り返す例
(À群)
は5例で平均年齢81.6±3.4歳であった。
する例が多いことなどにより死亡率が高い。
両群の年齢に有意差はなかった。
誤嚥性肺炎は不顕性誤嚥によることが多く ,その根
胃瘻栄養前後の総蛋白値の増加量をみると両群間に差
底には中枢神経系の疾患(多くは脳血管障害)による嚥下
は認められなかった(¿群0.49±0.70g/dë,À群0.50±
反射・咳反射の障害がある
1)
。誤嚥を繰り返す症例で
0.66g/dë)
(図1)。アルブミン値の変化では,¿群がÀ群
は経口摂取を諦めざるをえない。そうした例で経消化管
より多い傾向を示したが有意差には至らなかった(¿群
的な栄養摂取を続ける方法として,経鼻経管栄養と胃瘻
0.45±0.65g/dë,À群0.11±0.32g/dë)
(図1)。
2)3)
造設による栄養法とがある。最近では内視鏡下に胃瘻が
胃瘻栄養により総蛋白値が増加した例は¿群・À群と
造設できるようになり,誤嚥の起こりにくさやその後の
もに8割認めたが,アルブミン値の増加が認められたの
管理などの点から,胃瘻栄養が選択されることが多くな
ってきた。
しかし胃瘻栄養は誤嚥性肺炎の予防法として完璧な方
法とはいえない。経口摂取を止め,胃瘻栄養としても誤
総蛋白
アルブミン
(ç/ê)
嚥性肺炎を再発する例がある。一方,胃瘻造設を行って
経口摂取を止めると誤嚥性肺炎が生じなくなる患者もい
ることも事実である。したがって,胃瘻造設による誤嚥
1.0
性肺炎予防効果は単に経口摂取をしなくなったことによ
総
蛋
白
・
ア
ル
ブ
ミ
ン
増 0.5
加
量
るのではないと考えられる。胃瘻栄養が成功する(誤嚥性
肺炎を起こさなくなる)例と失敗する例の違いはどこに
あるのだろうか。今回は栄養の観点からこの2群の違い
を検討してみた。
対象と方法
当院で胃瘻を造設し,胃瘻造設前後各2年(計4年)間
の経過を追うことができた15例を対象とした。栄養の指
標としては血清総蛋白値とアルブミン値を採用し,胃瘻
0
造設前2ヵ月以内の値を前値,胃瘻栄養を開始してから
¿
À
6ヵ月以内の値を後値とした。カルテ記載より胃瘻造設
後2年間の肺炎の発症を検索した。
20
図1
胃瘻栄養前後の総蛋白・アルブミン増加量
¿群は胃瘻造設により誤嚥性肺炎を起こさなくなった群,
À群は胃瘻栄養を行っても誤嚥性肺炎を起こす群。
表1
胃瘻栄養前後の総蛋白・アルブミン値の変化
ると,胃瘻群は死亡率がより低く
(12%:57%,p<0.05),
アルブミン値の上昇がより大きかった(胃瘻栄養群で
¿群
À群
(10例) (5例)
総蛋白増加例
0.30g/dëの上昇,逆に経鼻経管栄養群では0.91g/dëの減
少)。なお,この検討では体重・ヘモグロビン値は2群
8
4
3
3
6
2
0.3g/dë以上の増加例
5
1
の当院でのデータの15人中8人とほぼ同じ結果となっ
0.5g/dë以上の増加例
4
0
ている。
正常下限以下から
正常範囲内に増加した例
5
0
正常下限以下から
正常範囲内に増加した例
アルブミン増加例
で差がなく,上腕周囲長は胃瘻栄養群で増加した患者
が多かった。さらに彼らのデータでは胃瘻栄養群でア
ルブミン値の改善をみたのは15人中9人であり,今回
アルブミン値の低いことが高齢者にとって肺炎のリ
スク・ファクターとなっていることは以前より指摘さ
れている。Hansonら5)は,市中肺炎患者118人(半数が
は¿群で9例中6例,À群で4例中2例であった(各群
66歳以上,半数は25〜50歳)を調査し,アルブミン値が
とも1例ずつはアルブミン値の測定がなされていなか
低いこと,BMI( 体重/身長 2)が小さいこと,神経筋疾
った)
(表1)。さらに¿群ではアルブミン値の0.3g/dë以
患が合併していることを高齢者肺炎のリスク・ファク
上の増加を認めた例が5例,0.5g/dë以上の増加を認め
ターとして挙げている。さらに入院後のリスク・ファ
た例が4例あったのに対し,À群では0.3g/dë以上の増
クターとしてもアルブミン値が3g/dë以下であること
加例は1例のみ,0.5g/dë以上のアルブミン値増加例は
を挙げている。
いなかった
(表1)。
アルブミン値と肺炎の関係は人工呼吸器関連の肺炎
また,アルブミン値が正常範囲以下から正常範囲内
(ventilator-acquired pneumonia;VAP)でも検討され
の数値にまで上昇した例は,À群ではなかったのに対
ており,それによるとアルブミン値の低値
(2.2g/dë以下)
し,¿群では5例に認められた。
はVAPの独立したリスク・ファクターとなっている6)。
今回,当院の検討でアルブミン値が上昇していた例で
考
肺炎の発症が少なかったことは,これらの報告と一致
察
するものである。
今回の検討では,胃瘻栄養により誤嚥性肺炎を起こ
さなくなった群ではアルブミン値の増加が認められた。
胃瘻造設によっても誤嚥性肺炎を起こす群との差は統
計学的には有意な差に至らなかったが,症例を増やし
て検討する意義はあろう。
結
語
胃瘻栄養による誤嚥性肺炎予防のメカニズムの1つ
としてアルブミン値の上昇で代表される栄養状態の改
胃瘻栄養は経鼻経管栄養に比べてアルブミン値を上
善が考えられる。
昇させることが示されている 。
4)
アルブミン値は体内の蛋白の指標であり,ひいては
全身の栄養状態の指標として用いられる。栄養状態の
指標としてはほかの検査値や体型・筋・皮下脂肪の計
測などもあり,またアルブミン値だけでは今回の検討
課題と関連している可能性のある免疫状態(肺炎を起こ
しにくくするといった意味での)を適確に把握しうるか
どうかについて議論の余地はある。しかし今回の検査
はレトロスペクティヴなものであり,かつ一般病院で
日常的な検査の範囲内で掌握できる数値という観点か
ら総蛋白量とアルブミン値に着目した。
Nortonら4)は30人の患者(16人の胃瘻造設患者,14人
の軽鼻経管栄養患者)により胃瘻栄養と経鼻経管栄養の
間の死亡率・栄養状態などを比較している。それによ
文
献
1)Kikuchi R, Watabe N, Konno T, et al : High incidence of silent
aspiration in elderly patients with community-acquired pneumonia.
Am J Respir Crit Care Med 150 : 251-253, 1994
2)Sekizawa K, Ujiie Y, Itabashi S, et al : Lack of cough reflex in
aspiration pneumonia. Lancet 335 : 1228-1229, 1990
3)Nakagawa T, Sekizawa K, Arai H, et al : High incidence of
pneumonia in elderly patients with basal ganglia infarction. Arch
Intern Med 157 : 321-324, 1997
4)Norton B, Homer-Ward M, Donnelly MT, et al : A randomised
prospective comparison of percutaneous endoscopic gastrostomy
and nasogastric tube feeding after acute dysphagic stroke. Br Med
J 312 : 13-16, 1996
5)Hanson LC, Weber DJ, Rutala WA : Risk factors for nosocomial
pneumonia in the elderly. Am J Med 92 : 161-166, 1992
6)George DL, Falk PS, Wunderink RG, et al : Epidemiology of
ventilator-acquired pneumonia based on protected bronchoscopic
sampling. Am J Respir Crit Care Med 158 : 1839-1847, 1998
21
■禁忌(次の患者には投与しないこと)
(1)牛乳たん白アレルギーを有する患者〔本剤は
牛乳由来のカゼインが含まれているため、アナ
フィラキシーショックを引き起こすことがある.〕
(2)妊娠3カ月以内または妊娠を希望する婦人へ
のビタミンA5,000 IU/日以上の投与〔
「妊婦
への投与」の項参照〕
第二
二○
巻○
第一
一年
号
経腸栄養剤(経口・経管両用)
発
行
RTH
500mLバッグ
(500kcal/バッグ)
●
「効能・効果」
、
「用法・用量」
、
「使用上の注意」等については
添付文書をご参照ください .
発売元〈資料請求先〉
販売元〈資料請求先〉
製造元
株
式
会
社
メ
デ
ィ
カ
ル
レ
ビ
ュ
ー
社
-
〒
541
0046
大
阪
市
中
央
区
平
野
町
1
7
3
吉
田
ビ
ル
06
6
2
2
3
1
4
6
8
1999年10月作成
- -
●
0120-06-8262
本
書
の
内
容
を
無
断
で
複
製
ま
た
は
転
載
す
る
と
︑
出
版
権
・
著
作
権
の
侵
害
に
な
る
こ
と
が
あ
り
ま
す
︒