研修教材パッケージ 公務員倫理 事例研究用事例集 国家公務員倫理審査会 目 次 事例1 「季節のフルーツ」………………………………………………1 事例2 「同期からの香典」………………………………………………5 事例3 「コンサートのペアチケット」…………………………………10 事例4 「サービスの一環」………………………………………………14 事例5 「それでは今回だけ」……………………………………………19 事例6 「講習会の紹介」 事例7 「家族ぐるみの付合い」 ………………………………………29 事例8 「悩んだ末に・・・」 …………………………………………34 ………………………………………………25 ロールプレイ①「利害関係者との飲食」 ………………………………41 ロールプレイ②「会費制の懇親会」 ……………………………………47 ロールプレイ③「タクシーでの送迎」 …………………………………52 ロールプレイ④「ビール券の差入れ」 …………………………………58 事例1 【季節のフルーツ】 今村係長は、課の忘年会の幹事となった。一次会の店はいつもの居酒屋だが、 二次会のカラオケの店については、課の皆が、さすが幹事と言ってくれるような 場所にしたい。しかし、今村係長も、若手幹事もなかなか良い店が思いつかない。 そこで、昼休みに部下の西山君に相談した。 今村係長「二次会のカラオケなんだが、年輩の人も喜ぶし、若い人にもさすがと 言われるようなところがいいんだ。西山君はどこか良い店を知らない か。」 西山係員「そういえば、この前、中央社の高橋さんが、良い店を見つけたって言 ってましたよ。ちょっと聞いてみますよ。いるといいんですが。」 そう言って、西山君は高橋さんに電話し、店の様子と連絡先を聞いた。中央社 は、今村係長の係の所管業界の大手企業で、高橋さんは、同社の渉外担当であり、 今村係長の係にも、よく出入りしている。 西山係員「さすが業界の『取りまとめ役』と言われる高橋さんだ。良さそうなお 店ですね。」 今村係長「そうだな。値段は少し高めだけれども、大仕事が終わった直後の忘年 会だから、今年はここにしてみようかな。」 今村係長は、早速その店に電話し、コースの内容を聞いて予約をした。 当日、その店に行くと、話に聞いたとおり舞台装置にも趣向がこらされた店で、 大いに盛り上がった。途中、予約したコースには含まれていない豪華な季節のフ ルーツの盛り合わせが出てきたが、今村係長はだれかが追加で頼んだのであろう と大して気にもとめなかった。 楽しい二次会が終わり、今村係長は料金を支払ったが、その料金は予約の時に 聞いた額と同じだったので、途中で出てきた季節のフルーツのことを店員に申し 出た。しかし、店員は「結構でございます。」と言って予約したコースの料金だ けを受け取った。今村係長は不思議に思いながらも、同僚からのねぎらいの言葉 を受けていた。 - 1 - 事例1 【季節のフルーツ】 (事例研究の指導の手引き) 1 討議のねらい 日常の業務の中での利害関係者との関係における不用意な行動により、利害 関係者との間で国民の疑惑や不信を招くような関係が成立してしまうことを、 上司と部下の関係も踏まえながら、事例を通じて多角的に検討することにより、 以下の点についての理解を深める。 2 ○ 日常の利害関係者との付合い方などの職員としての心構え。 ○ 物品の贈与に関する倫理規程の内容。 ○ 倫理意識の高い職場風土の醸成の必要性。 討議の進め方 (1) 「季節のフルーツ」を全員に配付し、読ませる。 (2) 各自で、以下の項目について検討させる。 ① 今村係長と西山係員のどのような行動が、倫理規程のどの部分に違反す るのか。 ② 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をと れば良かったのか。 ③ このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 (検討のポイント) ・ 西山係員が出入業者に忘年会で利用する店を尋ねた。 ・ 今村係長が西山係員が出入業者に電話をかけることを止めなかった。 ・ 出入業者に教えてもらった店で忘年会を行った。 ・ フルーツの盛り合わせが来たときにだれが頼んだのか確認しなかっ た。 ・ 店員が「結構です」とコースの料金だけしか受け取らなかった。 (3) 各項目ごとに受講者に意見を発表させる。 (4) 「解説のポイント」を参考にして講師がまとめる。 (注)1 受講者が多人数で時間がある程度確保できる場合には、グループ討議 及びグループごとの発表を組み入れた上で、まとめを行う方が望ましい。 2 事例においては、あえて判断に必要な条件(今村係長の係と中央社の 高橋さんとの関係や高橋さんの行為の有無等)を明らかにせず、「○○ - 2 - 事例1 な場合であればこうなる」といったように、場合分けを行いつつ検討す るよう講師がリードすることも考えられる。 3 解説のポイント (1) 今村係長と西山係員のどのような行動が、倫理規程のどの部分に違反する のか。 (この事例の上では明示していないが、季節のフルーツについては、高橋さ んが気を利かせて差入れをしたとみるのが適当であろう。なお、単なる店か らのサービスであれば、倫理規程上の問題は生じない。) ○ 高橋さんは、今村係長たちの利害関係者に当たることから、代金を支払 わずに季節のフルーツを食べてしまった行為は倫理規程第3条第1項第1 号に規定する「物品の贈与」に当たり、禁止行為に該当することとなる。 ○ また、課内の他の職員の中に高橋さんが利害関係者に当たる者がいた場 合には、これらの職員も倫理規程違反を問われるおそれもある。 (2) 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をとれ ば良かったのか。 ① 西山係員が、高橋さんに忘年会の会場を聞いた点。 西山係員は、職務上の関係のある者(利害関係者)との間では、公私の 区別を明確にし、私事を相談すべきではなかった。(なお、倫理規程上の 問題ではないが、忘年会の企画のために業務用の電話を使用したことも適 当とは言い難い。) ② 西山係員が高橋さんに電話をかけるのを今村係長が止めなかった点。 部下が利害関係者と公私の区別をわきまえずに対応しようとしているこ とに対して、すぐに注意をすべきであった。 ③ 高橋さんに紹介された店に出かけた点。 利害関係者に紹介された店に予約を入れており、利害関係者がその内容 を知りうる可能性は高く、事例のような贈与を受けることもありうる。し たがって、このような店を利用することは、そもそも、避けるべきである。 ④ 会計の際、不適切であった点。 今村係長は、利害関係者から紹介を受けた店で「結構です」と言われた ものであり、差入れがあったかどうかを確認し、差入れの事実が判明した 場合は、その費用を支払うべきであった。 また、差入れがあったらしいと後日分かった様な場合には、早急に、倫 理監督官(倫理担当部局)に報告し、その指示に従う必要がある。 (3) このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 - 3 - 事例1 ① 利害関係者との癒着関係は、最初は些細なものから、徐々に重大なもの に拡大していく。したがって、最初に毅然とした態度が必要である。この 事案のように、たいしたことではないと思ってうやむやにしてしまうと、 以降、利害関係者から同様の申し出があった場合に、断ることが難しくな ったり、次第に不適切な付合いが深まったりする。 ② 業務の円滑な遂行のためには、職務に関連する事項についての情報収集 等は必要であるが、公私の別を明確にし、国民の疑惑や不信を招くおそれ のない範囲内で付き合うことが求められている。 利害関係者との接触に対しては、常に慎重に対応することが求められる ものであり、そのためにもあらかじめ倫理規程等を十分に理解しておくと ともに、明示的に禁止されていない事項は何をやっても良いというわけで はなく、国民全体の奉仕者として、その行動に高い倫理意識を保つことが 求められていることを認識すべきである。また、禁止行為に当たるか疑念 がある場合、倫理監督官(倫理担当部局)に適切な対応を相談することが 大切である。 ③ 以上のことを、まず、管理監督者が率先して行い、また、職場での部下 との関係において、問題となる場面で、適時、適切に指導することが必要 である。(この事例においては、西山君が利害関係者である高橋さんに店 を聞こうとしたときがポイントであった。) ④ この事例においては、問題が生じる誘因が業者との間の付合いについて 野放図な職場風土の中に存在しているとも考えられ、この場合、組織全体 の倫理の保持に関する意識の改善を図る必要がある。 - 4 - 事例 2 【同期からの香典】 とある省で補助金の交付事務を所掌する渡辺課長の父親が亡くなり、渡辺課長 が喪主を務めて葬儀が行われることとなった。その省では、以前から職員の親族 が亡くなった際に、関係機関や関係の深い企業・団体などに訃報を出しており、 今回も総務課がその手続を行った。 葬儀の数日後、渡辺課長と採用同期で数年前にその省を退職した田中さんが渡 辺課長の職場を訪ねてきた。田中さんは、渡辺課長が所掌する補助金の交付先で ある団体の役員を務めている。 渡辺課長「田中じゃないか。久し振りだな、どうしたんだ。」 田中さん「お父さんが亡くなったそうじゃないか。役所からの訃報で知ったよ。 葬儀には行けなかったが、香典を持ってきたよ。」 渡辺課長「そうだったのか、わざわざ悪かったな。あれ、そういえば、お前のと ころの団体にはうちから補助金が出ていなかったか?利害関係者から 金品を受け取ることは禁止されているしなぁ。」 田中さん「ああ、確かにうちは補助金をもらっているけど、この香典は、あくま でも同期の関係として持ってきているんだから、団体のことなんて関 係ないよ。30年以上同じ釜の飯を食った仲じゃないか。」 渡辺課長「そうは言っても・・・。」 田中さん「そんな杓子定規なことを言うなよ。同期からの香典も受け取れないっ て言うのか。大した額じゃないし、儀礼的なことなんだからいいじゃ ないか。」 渡辺課長「そうだなぁ。」 田中さん「それに、俺の親父が死んだとき、お前から香典をもらったじゃないか。 お前の親が亡くなったときに俺が香典を出さないってわけにはいかな いだろう。」 渡辺課長は、少し悩んだものの、団体役員としてではなく同期として渡された ものだし、金額も5,000円と社交儀礼として一般的な額だったので、田中さんか らの香典を受け取ることにした。 - 5 - 事例 2 【同期からの香典】 (事例研究の指導の手引き) 1 討議のねらい 冠婚葬祭の際には、祝儀や香典の贈与など倫理法・倫理規程に違反する局面 が生じやすく、古くからの慣習があることもあって、つい「この程度のことな ら社交儀礼として問題ないだろう」と考えがちである。この事例では、香典の 取扱いについて検討することにより、以下の点についての理解を深める。 2 ○ 組織における過去からの慣習が違反の誘因となっていることがあること。 ○ 私的な関係等に関する倫理規程の内容。 ○ 利害関係者である職場のOBと付き合う際の心構え。 討議の進め方 (1) 「同期からの香典」を全員に配付し、読ませる。 (2) 各自で、以下の項目について検討させる。 ① 渡辺課長のどのような行為が、倫理規程のどの部分に違反するのか。 ② 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をと れば良かったのか。 ③ このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 (検討のポイント) ・ 当該省では、慣習として、職員の不幸に際し、関係機関や関係の深い 企業・団体等に訃報を出している。 ・ 同期の不幸に際し、香典を渡すことは一般的に行われる儀礼的な行為 である。 ・ 田中さんは、団体役員としての立場ではなく「同期」として香典を出 すと言っている。 ・ 渡辺課長は、田中さんが利害関係者に該当すると知りながら、香典を 受け取った。 (3) 各項目ごとに受講者に意見を発表させる。 (4) 「解説のポイント」を参考にして講師がまとめる。 (注)1 受講者が多人数で時間がある程度確保できる場合には、グループ討議 及びグループごとの発表を組み入れた上で、まとめを行う方が望ましい。 2 事例においては、田中さんが、他の4~5人の同期と同じ金額を出し - 6 - 事例 2 合って「同期一同」として香典を持参した場合など、判断に必要な条件 を変えて検討することも考えられる。(解説については【参考】を参照 のこと。) 3 解説のポイント (1) 渡辺課長のどのような行動が、倫理規程のどの部分に違反するのか。 ○ 香典については、社会一般に儀礼的に行われていることではあるが、利 害関係者から香典を受け取ることは、金額の如何によらず倫理規程第3条 第1項第1号に規定する「金銭の贈与」に当たり、禁止行為に該当するこ ととなる。 これは、過去において、公務員の親族の葬儀に際して全国の業者から香 典が寄せられ、1件1件は社交儀礼の範囲内であったが、合計すると極め て多額の現金が集まった事例等を踏まえて厳格な取扱いとされているもの である。 ○ 倫理規程第4条第1項において、職員は、私的な関係がある利害関係者 との間においては、職務上の利害関係の状況、私的な関係の経緯及び現在 の状況並びに行おうとする行為の態様等にかんがみ、公正な職務の執行に 対する国民の疑惑や不信を招くおそれがないと認められる場合に限って、 禁止行為に該当する行為を行うことができると規定されている。 ○ 「私的な関係」とは、「職員としての身分にかかわらない関係をいう。」 と定義されており、職員として知り合い、職員として付き合っている場合 は私的な関係には該当しない。例えば、職場での上司や同僚との関係、職 場のOBとの関係、職務上のカウンターパートとの関係などは「私的な関 係」には該当しない。 ○ この事例について見ると、田中さんが役員を務める団体は、渡辺課長が 交付事務に携わっている補助金を受けており、田中さんは、その団体の役 員という高い地位に就いていることから、渡辺課長にとって利害関係者に 該当することとなる。また、渡辺課長と田中さんとの関係は、職場の採用 同期という関係であり、「職員としての身分にかかわらない関係」には該 当しないことから、「私的な関係」とは認められない。 したがって、同期からの香典の受領という社交儀礼的な行為であったと しても、渡辺課長が田中さんから香典を受領する行為は、「利害関係者か ら金銭の贈与を受けること」に当たり、禁止行為に該当することとなる。 (2) 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をとれ ば良かったのか。 - 7 - 事例 2 ① 当該省は、職員の不幸に際し利害関係者を含む関係機関等に訃報を出し ている点。 利害関係者に対して訃報を出すことは、訃報を受けた利害関係者が香典 を出すことが容易に想像され、結果的に職員の倫理規程違反を誘発するお それがあること、組織として特別な関係を疑われるおそれのある行為であ ることから、見直すべき行為であるといえる。何らかの事情で訃報を出す 必要があるとしても、香典は受領できないことを併せて連絡するなどの配 慮が必要となる。 この事例においては、他にも受け取ることが禁止されている利害関係者 からの香典が届けられている可能性があることにも留意する必要がある。 ② 渡辺課長は、倫理規程上問題があるかどうか迷いながらも香典を受領し た点。 渡辺課長は、田中さんに押し切られる形で香典を受領してしまったが、 このような場合、香典を受領することが倫理規程の禁止行為に該当し、懲 戒処分の対象になることをしっかり説明して、毅然と断るべきであった。 また、倫理規程上問題があるかどうか判断に迷う場合には、いったん香 典の受領を保留し、倫理監督官(倫理担当部局)に受領の是非について確 認するべきであった。 ※ なお、葬儀の際に、受付の担当者が利害関係者であることを認識せずに 香典を受け付けてしまった場合など、職員が気付かずに利害関係者からの 香典を受け取ってしまった場合等には、その事実を倫理監督官(倫理担当 部局)に報告した上で、速やかに香典を送り主に返却しなければならない。 (3) このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 ① 元同僚などのOBは、利害関係者に該当することがあるが、職務を通じ て知り合った関係なので、倫理規程第4条第1項の「私的な関係」とは認 められない。 相手がOBの場合、在職中の関係などからつい気が緩んでしまったり、 先輩・後輩という関係から飲食の提供などを断りづらい状況も考えられる が、国民からみると、むしろそのような関係があるからこそ何か便宜を図 っているのではないかと疑惑を持たれるおそれがより大きいことを常に念 頭に置き、より毅然とした態度で対応する必要がある。 ② 利害関係者との接触に対しては、職員個人のみならず、組織としても慎 重な対応が必要となる。利害関係者に訃報を出すことにより、その訃報を 受けた利害関係者が香典を出すであろうことは容易に想像できることであ る。以前から慣習として行っていることであったとしても、それに疑問を - 8 - 事例 2 持つことなく踏襲し続けることは、職員に倫理法違反を誘発する結果とな ることもあり、そのような慣習は見直すべきであろう。 ③ 自らが行おうとする行為が禁止行為に当たるか疑念がある場合には、安 易に自分で判断することなく、まずは倫理監督官(倫理担当部局)に相談 することが大切である。 ④ この事例においては、この他にも倫理規程上問題が生じる誘因が当該組 織の風土の中に存在しているとも考えられ、この場合、安易に過去からの 慣習に流されることなく、国民の疑惑や不信を招くおそれがないかという 観点から、常に業務のやり方を見直していく必要がある。 【参考】 上記2の(注)2の条件(田中さんが、他の4~5人の同期と同じ金額を出 し合って「同期一同」として香典を持参した場合)について検討した場合 ○ 利害関係者から香典を受け取ることは、倫理規程第3条第1項第1号に規 定する「金銭の贈与」に当たり、禁止行為に該当する。 ただし、利害関係者である事業者に属する者全員が利害関係者となるわけ ではない。倫理法第2条第6項においては、「事業者等の利益のためにする 行為を行う場合における役員、従業員、代理人その他の者は、事業者等とみ なす」と規定されており、田中さんが香典を出す行為が、その団体の利益の ためにする行為と評価されるか否かによっては、田中さんが利害関係者であ る当該団体とはみなされず、渡辺課長が田中さんから香典を受け取ることが 認められる余地もある。 ○ 例えば、香典が「同期一同」として出されており、現在所属する団体にお ける役職名等も付しておらず、田中さんが他の同期と同じ金額を出し合って いる場合には、その属する団体の役員の立場ではなく、同期という立場で香 典を出していることが外形的にも明らかであり、国民の疑惑や不信を招くお それはないといえる。よって、そのような場合には、田中さんは当該団体と はみなされず、利害関係者には該当しないことから、渡辺課長が田中さんを 含む同期一同からの香典を受け取ることは、例外的に禁止行為には該当しな いこととなる。 ○ 一方、田中さんが現在所属する団体の役職名を付していたり、田中さんだ けが高額の香典を出していた場合には、「同期一同」としての立場ではなく 団体の役員の立場で行動していると疑われるおそれも否定できないことか ら、倫理法第2条第6項の「事業者等の利益のためにする行為」と評価され、 利害関係者とみなされることとなる。 - 9 - 事例 3 【コンサートのペアチケット】 とある省で許認可の事務を行っている田村課長補佐が帰宅すると、山田商事で 総務部長を務めている夫からコンサートのペアチケットを渡された。 田村補佐「どうしたのこれ。私が好きな楽団のコンサートじゃない。」 夫 「うちの会長からもらったんだ。うちの取引先がこのコンサートを主催 していて、そこから会長あてに送られてきたんだけど、会長はちょう どその日に大事な会議があって行けないらしいんだ。」 田村補佐「あら、そうなの。でも、どうしてあなたがもらえたの。」 夫 「会長が俺たち二人がクラシック好きだということを覚えていてくれて ね。お前を連れて行ってやれって言われたよ。」 田村補佐「喜んで行かせてもらうわ。(チケットを見て)招待者限定のコンサー トなのね。あら、主催は鈴木物産なの?」 夫 「鈴木物産だと、何かまずいのか。」 田村補佐「私、鈴木物産とは職務上の利害関係があるのよ。」 夫 「何だよ、それじゃ行けないのか?ペアチケットなのに俺一人じゃ行け ないぞ。それに、チケットをくれた会長の好意を無にしたくないしな。」 田村補佐「そうねぇ。でも、利害関係者からもらったチケットでコンサートに行 くのはまずいんじゃないかしら。」 夫 「このチケットは、おれがうちの会長からもらったものなんだから、お 前と鈴木物産の関係なんて気にすることないだろ。」 田村補佐「そうかもしれないわね。私が鈴木物産からもらったわけじゃないんだ から、関係ないわよね。」 田村課長補佐は、しばらく迷ったが、結局夫と一緒にそのコンサートに行くこ とにした。 - 10 - 事例 3 【コンサートのペアチケット】 (事例研究の指導の手引き) 1 討議のねらい 倫理法・倫理規程は職員が最低限守らなければならないルールに過ぎず、公 務員にはより高い倫理意識が求められていることを、事例を通じて検討するこ とにより、以下の点について理解を深める。 ○ 利害関係者の範囲、物品の贈与等に関する倫理規程の内容。 ○ 倫理法・倫理規程の正確な理解は重要であるが、それらに違反さえしなけ れば何をやってもいいというわけではなく、自らの行動が国民から見てどの ように見えるかを常に意識しなければならないこと。 ○ 勤務時間外の私生活においても、自らの行動が公務の信用に影響を与える ことを常に意識しなければならないこと。 2 討議の進め方 (1) 「コンサートのペアチケット」を全員に配付し、読ませる。 (2) 各自で、以下の項目について検討させる。 ① 田村課長補佐のどのような行動が、倫理規程のどの部分に違反するのか。 ② 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をと れば良かったのか。 ③ このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 (検討のポイント) ・ ペアチケットは、「鈴木物産から山田商事の会長」、「山田商事の会長 から田村課長補佐の夫」と贈与されたものであり、鈴木物産から田村課 長補佐に贈与されたものではない。 ・ 田村課長補佐の夫がペアチケットをもらったのは、偶然、山田商事の 会長の都合が合わずに行けなかったことによる。 ・ 一般入場者のいない、招待者限定のコンサートである。 ・ 結果的には、鈴木物産が提供したチケットで、田村課長補佐が利益を 得ることとなる。 (3) 各項目ごとに受講者に意見を発表させる。 (4) 「解説のポイント」を参考にして講師がまとめる。 (注)1 受講者が多人数で時間がある程度確保できる場合には、グループ討議 - 11 - 事例 3 及びグループごとの発表を組み入れた上で、まとめを行う方が望ましい。 2 事例においては、鈴木物産から直接夫あてに送られてきた場合や、招 待者限定のコンサートではなく一般の者もチケットを購入可能である場 合など、判断に必要な条件を変えて、「○○な場合であればこうなる」 といったように、場合分けを行いつつ検討するよう講師がリードするこ とも考えられる。 3 解説のポイント (1) 田村課長補佐のどのような行動が、倫理規程のどの部分に違反するのか。 ○ ペアチケットは、鈴木物産から山田商事の会長に贈与され、さらに、山 田商事の会長から田村課長補佐の夫あてに贈与されている。つまり、この 事例における贈与の主体は鈴木物産ではなく山田商事の会長であり、しか も贈与を受けたのは夫であって田村課長補佐ではないことから、田村課長 補佐が、そのペアチケットを使ってコンサートに行くことは、倫理規程の 禁止行為には該当しない。 ○ しかしながら、結果的には、利害関係者である鈴木物産が提供したペア チケットによって、田村課長補佐が私的利益を享受することになり、国民 の疑惑や不信を招くおそれも否定できない。この事例では、招待者限定の コンサートであるため、全員が鈴木物産から招待されているように見える ことから、そのおそれはより大きい。 ○ このような事情に鑑みると、たとえ倫理規程上の禁止行為に該当しない としても、このペアチケットを使用してコンサートに行くことは自重する ことが望ましいのではないか。 【参考】 倫理行動規準(倫理規程第1条)において、職員がその職務に係る倫理 の保持を図るため遵守すべき規準として、以下の事項が定められている。 ・ 職員は、法律により与えられた権限の行使に当たっては、当該権限の 行使の対象となる者からの贈与等を受けること等の国民の疑惑や不信を 招くような行為をしてはならないこと。(同条第3号) ・ 職員は、勤務時間外においても、自らの行動が公務の信用に影響を与 えることを常に認識して行動しなければならないこと。(同条第5号) (2) 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をとれ ば良かったのか。 ① 田村課長補佐が、自分あてに贈られたチケットではないので倫理規程の 禁止行為に該当しないということのみをもって、問題ないと考えた点。 - 12 - 事例 3 田村課長補佐は、倫理規程の禁止行為に該当するかどうかという観点だ けで、問題があるかどうかを判断しているが、自分がそのコンサートに行 った場合に、外形的には自分が利害関係者から私的利益を得ているように 見えるかもしれないという意識をもって判断すべきであった。 ② 田村課長補佐は、倫理規程上問題があるかどうか迷いながらも自分で問 題がないと判断した点。 田村課長補佐は、倫理規程上問題があるかもしれないと思いながらも、 自分だけで問題ないと判断してコンサートに行くことにしたが、倫理規程 上問題があるかどうか判断に迷ったならば、事前に倫理監督官(倫理担当 部局)に相談するべきであった。 (3) このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 ① 公務員倫理とは、倫理法・倫理規程を守ってさえいればいいというもの ではなく、国民の信頼を確保するためには、その場面に応じて公務員とし てどのような行動が望まれているのか、また、自らの行動が国民の視点か らどのように見えるのかということも意識した上で判断するという、より 高い倫理意識を保つことが求められていることを認識すべきである。 国家公務員は、「公正さ」のみならず、「公正らしさ」まで求められて いることを忘れてはならない。 ② 職員は、勤務時間外においても、自らの行動が公務の信用に影響を与え ることを常に認識して行動しなければならない。したがって、利害関係者 から贈与を受けないことはもとより、利害関係の有無にかかわらず、理由 のない贈り物や知らない者からの贈り物などについても、常日頃から十分 に注意しておく必要がある。 ③ 自らが行おうとする行為が禁止行為に当たるか疑念がある場合には、安 易に自分で判断することなく、まず、倫理監督官(倫理担当部局)に相談 することが大切である。 - 13 - 事例 4 【サービスの一環】 北村課長は、今年の春に現在の課に異動してきた。その課では、毎年あるイベ ントを開催しており、イベントで使用する看板等の物品の製作は、毎年平松企画 が受注している。今年のイベント用物品についても、既に1週間程前に平松企画 からの納入が済んでいた。 イベント当日の朝、課員全員でイベントの準備をしていると平松企画の社員2 名がトラックで来て、数年前からイベントの実務を担当している島田係長の指示 でイベントで使用する物品をトラックに積み込み始めた。 北村課長「平松企画の人たちが来ているが、平松企画に搬送を委託したのか。」 島田係長「委託したわけではありません。毎年このイベントで使用する物品を平 松企画から買っているので、サービスの一環で会場まで運んでくれて いるんですよ。私の前任者の時から毎年らしいですよ。」 北村課長「サービスってことは、契約には含まれていないのか。」 島田係長「ええ。特に契約にあるわけではないですが、話をしているうちに例年 どおり平松企画が運んでくれることになったんです。」 北村課長「サービスにしては、ちょっと過剰じゃないか。平松企画から買った物 以外も積み込んでいるようだし。」 島田係長「どうせ荷台が空いているから、ついでですよ。」 北村課長「本当に大丈夫か。」 島田係長「今さらだめだと言われても、他の業者を手配する時間なんてありませ んよ。イベントに間に合わなかったらどうするんですか。それに、サ ービスで運んでもらえば、経費削減にもなるんだからいいじゃないで すか。」 北村課長は、イベントの円滑な実施のためにはやむを得ないと考え、そのまま 島田係長に任せることにした。 結局、平松企画がイベントで使用する物品を会場まで搬送した。 - 14 - 事例 4 【サービスの一環】 (事例研究の指導の手引き) 1 討議のねらい 過去からの慣習をそのまま踏襲していると、それが国民の疑惑や不信を招く 行為の誘因となることがあることを、事例を通じて検討することにより、以下 の点についての理解を深める。 2 ○ 従来の慣習を疑問を持つことなく継続していることの問題。 ○ 無償の役務提供や倫理の保持を阻害する行為に関する倫理規程の内容。 ○ 管理監督者としての日常の業務管理の重要性。 ○ 倫理意識の高い職場風土の醸成の必要性。 討議の進め方 (1) 「サービスの一環」を全員に配付し、読ませる。 (2) 各自で、以下の項目について検討させる。 ① 北村課長と島田係長のどのような行動が、倫理規程のどの部分に違反す るのか。 ② 問題のある行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をと れば良かったのか。 ③ このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 (検討のポイント) ・ 島田係長は、従来から行われていることなので問題ないと考えている。 ・ 平松企画は、サービスの一環として搬送していると言っている。 ・ 平松企画にサービスで搬送してもらえば経費削減になる。 ・ 今から他の業者に搬送を依頼するとイベントに間に合わない。 ・ 北村課長は、問題があると思いながらも止めるように指示しなかった。 (3) 各項目ごとに受講者に意見を発表させる。 (4) 「解説のポイント」を参考にして講師がまとめる。 (注)1 受講者が多人数で時間がある程度確保できる場合には、グループ討議 及びグループごとの発表を組み入れた上で、まとめを行う方が望ましい。 2 事例においては、平松企画との契約に会場までの搬送が含まれていた 場合や、平松企画が他の顧客に対しても広くこのようなサービスを行っ ていた場合など、判断に必要な条件を変えて、「○○な場合であればこ うなる」といったように、場合分けを行いつつ検討するよう講師がリー - 15 - 事例 4 ドすることも考えられる。 3 解説のポイント (1) 北村課長と島田係長のどのような行動が、倫理規程のどの部分に違反する のか。 (この事例では明示していないが、平松企画はこのようなサービスを一般の 得意先に対して提供していないことを前提とする。) ○ 島田係長にとって取引業者である平松企画は利害関係者に該当し、平松 企画からこの事例のようなサービスを受けることは、倫理規程第3条第1 項第4号に規定する「無償で役務の提供を受けること」に当たり、禁止行 為に該当する可能性がある。 ○ イベント用の物品の制作を毎年受注している平松企画が、イベント会場 までの物品の搬送というサービスを毎年無償で行っていることは、職務の 公正な執行について、国民からみて疑惑や不信を招くおそれがある。 ○ 北村課長が、何らの措置も講じなかったことは、少なくとも倫理規程第 7条第3項に規定する「その管理し、又は監督する職員が法又は法に基づ く命令に違反する行為を行ったと疑いがあると思料するに足りる事実があ るときは、これを黙認してはならない。」に違反する。 また、北村課長の行為の態様によっては、島田係長と同様に、自らが「無 償の役務の提供を受けること」に当たり、倫理規程第3条第1項第4号違 反となることもあり得る。 (2) 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をとれ ば良かったのか。 ① 島田係長が正式な手続によらずに平松企画が搬送すると決めていた点。 島田係長は、従来からの慣習だとして、平松企画がイベントで使用する 物品を会場まで搬送することを、両者の話合いだけで決めていた。しかし ながら、このような慣習についてあらためて考えてみると、本来は物品の 搬送については別途正式な手続が必要であることは明らかであり、イベン ト会場まで物品を搬送する必要があることは、あらかじめ分かっているこ となので、事前に正式な手続をもって搬送を手配するべきであった。 ② 北村課長が平松企画がサービスの一環として物品の搬送を行うことを事 前に把握していなかった点。 業務管理は管理監督者の重要な職務であり、常に部下の仕事の状況を確 認し、問題があれば適宜、適切な指導を行うことが必要である。この事例 においては、北村課長がイベントで使用する物品の搬送方法について事前 - 16 - 事例 4 に把握していれば、別の業者に搬送を依頼するなどの措置をとることが可 能であった。 ③ 北村課長が平松企画が搬送することを止めなかった点。 平松企画による会場までの搬送は、正式な手続によらない行為であり、 サービスとしても過剰なものであるから問題だと考えたならば、上司であ る北村課長は、自ら又は島田係長に命じて直ちに止めさせるべきであった。 イベントを円滑に実施するために、やむを得ずそのまま平松企画に搬送 させることとしたという事情があったとしても、それが禁止行為に該当す る以上、問責の対象となることは避けられない。このような状況に陥らな いためにも、北村課長は管理者として日頃から業務管理を適切に行ってお く必要があった。 (3) このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 ① この事例については、従来からの慣習として、漫然と利害関係者からサ ービスと称して無償の役務提供を受けていたものであって、数年間、倫理 規程に違反する行為が繰り返されていたことになる。たとえ従来から行っ ていることであっても、倫理規程の禁止行為に該当するかどうかはもとよ り、自らが行おうとする行為が、国民の疑惑や不信を招くおそれがないか どうかの観点から、常に業務を見直す必要がある。 ② 業務遂行上必要な事項については、安易に利害関係者からのサービスを 受けることなく、正式な手続をとることにより、国民の疑惑や不信を招く ことのないように注意する必要がある。国民の信頼を確保するためには、 公務員としてどのような行動が望まれているのか、また、自らの行動が国 民の視点からどのように見えるのかということを常に意識した上で判断す るという、より高い倫理意識を保つことが求められていることを認識すべ きである。 ③ 効率的な業務遂行の観点から、経費削減は重要な要素であるが、不適正 な行為によって経費が削減できたとしても、そのことが発覚した場合には 公務に対する国民の信頼を損ねてしまうこととなる。いったん失われた国 民の信頼を回復することは非常に困難なことであり、いかなる理由があろ うとも、国民の信頼を損ねるような不適正な行為は許されないことを念頭 に置いて業務を遂行する必要がある。 ④ 以上のことを、まず、管理監督者が率先して行うことが必要である。ま た、管理職の職員については、部下に倫理法等に違反していると疑われる 事実がある場合にはそれを黙認することが禁じられている。管理職の職員 は、違反を許さない組織風土を構築するための中心となり、積極的に問題 - 17 - 事例 4 の解決に取り組む責任がある。 ⑤ この事例においては、問題が生じる誘因が当該組織の風土の中に存在し ているとも考えられ、この場合、他の業務でも同様の問題が生じているお それが高いことから、各業務について同様のことがないか再点検するとと もに、組織全体の倫理の保持に関する意識の改善を図る必要がある。 - 18 - 事例 5 【それでは今回だけ】 とある省の近藤係長と川崎係員は、ある工場に監査に行くことになった。同僚 からは、その工場が交通の極めて不便な場所にあり、周囲には何もないことを聞 いていたが、往路のバスの時間を確認したほかは、何の準備もしないまま監査に 赴いた。 〔昼食の提供〕 午前の監査が終わると、監査の立会いのために本社からその工場に来ていた本 社の社員である中村さんが声を掛けてきた。 中村さん「私も昼食をご一緒させてください。社員食堂にご案内しますよ。」 近藤係長「いえお気遣いなく。我々は外で食べますから。」 中村さん「外と言っても周りには飲食店はありませんよ。それに、午後の監査に ついて打ち合わせたいこともあるので、一緒に食べましょう。」 近藤係長らは、それならば仕方がないと思い、中村さんと一緒に社員食堂に向 かった。 近藤係長「では、そろそろ午後の監査を始めましょうか。昼食代はいくらになり ますか。」 中村さん「昼食代は結構です。こんな不便な場所にある工場ですから、社員の福 利厚生の一環としてこの食堂の食事は全部無料なんです。」 近藤係長「でも、ただというわけにはいきませんので、実費だけでも払わせてく ださい。」 中村さん「そう言われても、もともと無料なので金額も決めてないし、どうせ大 した額じゃありませんよ。それに、会計処理の問題で、もらってしま うと後が面倒なんですよ。」 近藤係長「そうですか。迷惑をかけてもいけないし、それでは今回だけ・・・。」 無理に払うとかえって中村さんに迷惑を掛けてしまうと思い、近藤係長と川崎 係員は昼食代を払うことをあきらめた。 〔タクシーの同乗〕 午後の監査が終了したので、近藤係長と川崎係員がバス停に向かおうとしてい ると、中村さんが声を掛けてきた。 中村さん「お疲れ様でした。私もこれから本社に帰るところです。私の呼んだタ クシーがもう来ていますから、駅まで一緒に乗っていきませんか。次 のバスまでまだ2時間もありますよ。」 近藤係長「え、次のバスまで2時間もあるんですか。それなら、ご一緒させてい - 19 - 事例 5 ただきます。」 近藤係長は、タクシー料金を割り勘にするつもりだったが、そのことを中村さ んに言いそびれていた。駅に着くと、中村さんが会社のタクシーチケ ットを出して精算しようとしたので、近藤係長が慌てて割り勘で払わ せてほしいと申し出た。 中村さん「どうせ会社の経費ですから気にしないでくださいよ。」 近藤係長「そうはいきませんよ。割り勘で・・・。」 中村さん「こっちこそお願いします。タクシーチケットでないと会社の経費に認 めてもらえずに自腹を切ることになるんです。全額このタクシーチケ ットで払わせてください。」 川崎係員「係長、中村さんもこう言っていますし。我々が乗ったからってタクシ ー料金が高くなるわけではないんだから、問題ないでしょう。無理を 言って、中村さんに自腹を切らせることになったら、それこそ問題じ ゃないですか。」 中村さん「そうですよ。私一人だって、どうせ同じ料金を払うんですから。お二 人はそれに便乗しただけですから。」 近藤係長「そうですね・・・。迷惑をかけてもいけないし、それでは今回だけ・・ ・。」 近藤係長は、まだ釈然としなかったが、川崎係員の言うことも一理あると思い、 中村さんに全額払ってもらうことにした。 - 20 - 事例 5 【それでは今回だけ】 (事例研究の指導の手引き) 1 討議のねらい 些細なことだから問題ないと軽い気持ちで安易な判断をすると、利害関係者 との間で国民の疑惑を生むような行為が成立してしまうことを、業務に当たっ て十分な事前準備を行うことの重要性を踏まえながら、事例を通じて多角的に 検討することにより、以下の点について理解を深める。 ○ 供応接待、無償の役務提供等に関する倫理規程の内容。 ○ 業務遂行に当たって利害関係者と接触する際の職員としての心構え。 ○ 自らの行為が国民から見てどのように見えるかということを常に意識する ことの必要性。 2 討議の進め方 (1) 「それでは今回だけ」を全員に配付し、読ませる。 (2) 各自で、以下の項目について検討させる。 ① 近藤係長と川崎係員のどのような行動が、倫理規程のどの部分に違反す るのか。 ② 問題のある行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をと れば良かったのか。 ③ このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 (検討のポイント) ・ 不便な場所にある工場であることを知りながら、往路のバスの時間を 確認したほかは、何の準備もせずに監査に赴いた。 ・ 監査の相手方の企業から昼食の提供を受けた。 ・ 提供されたのは、社員食堂の昼食であり、それほど高額ではない。 ・ 会計処理上の理由で昼食代の受け取りを拒否された。 ・ 監査対象である工場の本社職員と同じタクシーに乗った。 ・ 次のバスまでは2時間近く待たなければならず、タクシーを呼んでも すぐには来ない。 ・ タクシー料金を割り勘にすると、中村さんが自腹で払うこととなる。 ・ 近藤係長らが同乗してもタクシー料金は変わらない。 (3) 各項目ごとに受講者に意見を発表させる。 (4) 「解説のポイント」を参考にして講師がまとめる。 - 21 - 事例 5 (注)受講者が多人数で時間がある程度確保できる場合には、グループ討議及び グループごとの発表を組み入れた上で、まとめを行う方が望ましい。 3 解説のポイント (1) 近藤係長と川崎係員のどのような行動が、倫理規程のどの部分に違反する のか。 〔昼食の提供〕 ○ 近藤係長と川崎係員が利害関係者である監査対象の企業から昼食の提供 を受けた行為は、倫理規程第3条第1項第6号に規定する「供応接待を受 けること」に当たり、禁止行為に該当することとなる。 ○ 職務として出席した会議において、利害関係者から弁当などの簡素な飲 食物の提供を受けることは例外的に認められるが(同条第2項第7号)、 監査はここでいう「会議」には当たらない。よって、この事例については、 安価な社員食堂での昼食程度の供与ではあるが、禁止行為に該当すること となる。 ○ もともと無料の社員食堂であったとしても、それはその企業の福利厚生 の一環として無料とされているものであり、その企業の社員ではない職員 が無料で昼食の提供を受けた行為は、その企業から供応接待を受けたこと になる。 なお、昼食の金額が決まっていないことや、会計処理上の問題から受け 取ってもらえないという事情があったとしても、飲食物の提供を受けるこ とが認められる理由にはならない。 〔タクシーの同乗〕 ○ 近藤係長と川崎係員が帰りのタクシー料金を利害関係者である企業の従 業員である中村さんに払ってもらった行為は、倫理規程第3条第1項第4 号に規定する「利害関係者の負担により無償の役務提供を受けること」に 当たり、禁止行為に該当することとなる。 ○ 職務として利害関係者を訪問した際に、他に公共交通機関がなく利害関 係者の自動車を利用するしかないような場合や限られた時間で用務を遂行 するために自動車での移動が合理的である場合などには、利害関係者から 提供される社用車を利用することは例外として認められる(同条第2項第 4号)。例えば、最寄り駅から相当離れており、他の公共交通機関もない 地に所在する利害関係者の事業所を職務として訪問した際に、利害関係者 の社用車で駅まで送迎してもらうことは認められる。 - 22 - 事例 5 しかし、提供される自動車は、利害関係者が業務等に日常的に利用して いるものに限られ、タクシーやハイヤーはこれには該当しない。 ○ また、利害関係者がたまたま自分と同じ目的地に行く場合などで、利害 関係者の追加的負担もないときには、利害関係者の負担でタクシーに便乗 することは倫理規程上問題ないものとして取り扱われている。しかし、こ れは利害関係者が、偶然、職員と同方向に他の用務があるために移動する 場合を想定しており、この事例のように、国側の用務である監査に起因し て利害関係者に移動の必要性が生じているような場合に、職員が利害関係 者と同じタクシーに同乗することは、「たまたま自分と同じ目的地に行く 場合」とは言い難く、また、国の用務に起因するにもかかわらずその料金 を利害関係者が負担することは、国民の疑惑や不信を招くおそれも否定で きないことから、利害関係者の費用負担でタクシーに同乗することは、倫 理規程の禁止行為に該当する。 なお、タクシー料金を割り勘で支払う場合や職員側が全額を負担する場 合には、利害関係者と同じタクシーに同乗しても問題ない。 (2) 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をとれ ば良かったのか。 ① 交通手段や昼食の手配をせずに監査に赴いた点。 監査先の工場が不便な場所にあることを事前に知っていたのであるか ら、バスの運行時間に合わせた業務計画を策定することや昼食を持参する ことなど、円滑な業務遂行のために十分な準備をしてから監査に赴くべき であった。 ② 社員食堂において昼食の提供を受けた点。 近辺に飲食店がないことが分かり、急きょ社員食堂で昼食をとることに なったとはいえ、その時点で昼食代の支払について相手方に確認すべきで あった。その結果、相手がどうしても昼食代を受け取ることができないの であれば、昼食の提供を断らなければならない。 ③ タクシー料金の負担を受けた点。 利害関係者も同じ駅までタクシーを利用するとしても、監査という国側 の業務に起因して利害関係者に移動の必要性が生じている場合は、利害関 係者にその料金を負担してもらうことは国民の疑惑や不信を招くおそれが ある。 この事例においては、近藤係長は割り勘にするつもりで同乗したものの、 そのことについてしっかりと中村さんに伝えなかった点にも問題がある。 あらかじめ割り勘にすることを明確に伝え、料金の負担について明らかに - 23 - 事例 5 しておくべきであった。また、精算の段階で割り勘にすることができない ことが明らかになった場合には、職員側がタクシー料金を全額支払うべき であった(国の用務であることからすると、どちらかが全額支払うとすれ ば、職員側が支払うことが合理的であると考えられる。)。 (3) このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 ① 利害関係者を訪問して業務を行う際には、業務を円滑に遂行し、国民の 疑惑や不信を生じさせないために、十分な事前の準備をしておくことが肝 要である。この事例では、用務先が不便な地にあることは分かっていたの であるから、バスの利用が困難であり、昼食をとる場所もないことを事前 に調べることができたはずであり、あらかじめそれらの手配をしておいた り、倫理規程に違反するような相手方の申し出をどのように断るかを想定 しておけば、昼食の提供を断れなかったり、タクシー料金を負担してもら うことを断れなかったりという状況には至らなかったはずである。 ② 利害関係者との癒着関係は、最初は些細なものから、徐々に重大なもの に拡大していくものであるから、最初に毅然とした態度が必要である。自 分の分の昼食代やタクシー料金については自分で払うことをあらかじめ明 確に伝えておけば、この事例のような事態にはならなかったと考えられる。 一度うやむやにしてしまうと、その後も利害関係者からの申し出を断るこ とが難しくなり、次第に不適切な関係がエスカレートする場合があること を認識する必要がある。 ③ 利害関係者との接触に対しては、常に慎重に対応することが求められる ものであり、そのためにもあらかじめ倫理規程等を十分に理解しておくと ともに、明示的に禁止されていない事項は何をやっても良いというわけで はなく、国民全体の奉仕者として、その行動に高い倫理意識を保つことが 求められていることを認識すべきである。また、禁止行為に当たるか疑念 がある場合、倫理監督官(倫理担当部局)に適切な対応を相談することが 大切である。 - 24 - 事例 6 【講習会の紹介】 とある省である免許資格の認定事務に携わる大内係員は、多くの社員にその資 格を取得させたいという事業主から、どうしたら合格率が上がるかという相談を 頻繁に受けていた。大内係員としては、何とか協力してあげたいと思うものの、 どうしたらよいか分からずに悩んでいた。ある日、帰宅後に妻にそのことを話し た。 大内係員「せっかく相談されたんだから何とか協力してあげたいとは思うんだけ ど、結局一般的な話で終わっちゃうんだよな。」 妻 「あら?その資格のことだったら前に兄から聞いたことがあるわ。何で も兄の勤め先で講習会をやっていて、結構合格率が高いらしいわよ。」 大内係員「そんな講習会をやっているのか。お兄さんに詳しく聞いておいてくれ よ。」 大内係員は、その講習会は有料ではあるものの、資格を取得できずに困ってい る事業主やその社員のためになると思ったので、同じような相談をしてきた事業 主らに対して、そのような講習会が開催されていることを紹介した。 数週間後、妻の兄から大内係員に電話があった。 妻の兄 「最近、講習会の参加人数が急に増えてね。不思議に思って聞いたら、 なんでも君が役所で紹介してくれているそうじゃないか。担当者であ る君からの紹介なので、参加しないわけにはいかないって言ってた人 もいたよ。」 大内係員「え?そうなんですか。私は強制したつもりはないんですが。」 妻の兄 「いずれにしても、うちとしては参加者が増えて大変助かっているんだ。 これからもよろしく頼むよ。」 大内係員は、予想もしていないことになっていたので、不安になって妻に話し た。 大内係員「事業主のためになると思って呼び掛けていたけど、結果的には、お兄 さんのところの利益につながっているようなんだ。」 妻 「そうなの。でも、受験する人にとっても役に立っているんだからいい じゃない。みんなが得をしているんだから気にすることないわよ。」 - 25 - 事例 6 【講習会の紹介】 (事例研究の指導の手引き) 1 討議のねらい 善かれと思ってした行為でも、利害関係者との間で国民の疑惑や不審を招く ような関係が成立してしまうということを、事例を通じて多角的に検討するこ とにより、倫理法・倫理規程の理解を深め、また、国民全体の奉仕者としての 公正な職務の執行とはどういうことかについて考えさせる。 2 討議の進め方 (1) 「講習会の呼掛け」を全員に配付し、読ませる。 (2) 各自で、以下の項目について検討させる。 ① 大内係員のどのような行動が、倫理規程のどの部分に違反するのか。 ② 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をと れば良かったのか。 ③ このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 (検討のポイント) ・ 事業主に紹介した講習会は、親族(妻の兄)が勤める団体が開催して いる。 ・ 大内係員は、事業主やその社員のためになると考えて講習会について 教えていた。 ・ 大内係員から講習会を紹介されて講習会に参加した者の中には、担当 者の紹介なので参加しないわけにはいかないと考えていたものもいた。 ・ 事業主らの講習会への参加によって、結果的に、親族(妻の兄)が勤 める団体の利益につながった。 ・ 大内係員自身は何らの利益も享受していない。 (3) 各項目ごとに受講者に意見を発表させる。 (4) 「解説のポイント」を参考にして講師がまとめる。 (注)1 受講者が多人数で時間がある程度確保できる場合には、グループ討議 及びグループごとの発表を組み入れた上で、まとめを行う方が望ましい。 2 事例においては、大内係員が半ば強制するような態度で講習会の参加 を呼び掛けていた場合や、単に講習会のチラシを目の付くところに置い ておいた場合など、判断に必要な条件を変えて、「○○な場合であれば - 26 - 事例 6 こうなる」といったように、場合分けを行いつつ検討するよう講師がリ ードすることも考えられる。 3 解説のポイント (1) 大内係員のどのような行動が倫理規程のどの部分に違反するのか。 ○ 倫理規程では、職員が利害関係者に働き掛けて贈与等の禁止行為を第三 者に対してさせることは禁止されている。 (倫理規程第3条第1項第9号) ○ 例えば、職員が、職務上の権限をほのめかして利害関係者に講習会への 参加を強制するなどその意思を歪めるような働きかけをした場合には、本 来その利害関係者には講習会に参加する必要性がないにもかかわらず、あ えて参加したものと考えられ、講習会を開催する団体が正当な理由によら ずに参加者を得るという便益(同項第4号の「無償の役務の提供」)を受 けることとなり、同項第9号の禁止行為に該当することとなる。 ○ この事例においては、大内係員が参加を強制したつもりがないとしても、 担当者の紹介なので参加しないわけにはいかないと受け取っている者もい ることから、大内係員の言動次第では、倫理規程の禁止行為に該当する可 能性もある。 (2) 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をとれ ば良かったのか。 ① 大内係員が、講習会の紹介を行っていた点。 大内係員は、自分の妻の兄が勤める団体が開催する講習会への参加を利 害関係者に紹介していた。 大内係員は、事業主のためになると思って講習会を紹介していたが、業 務を通じて身内の勤める団体が主催する講習会の参加者を集めていると見 られかねない行為であることから、たとえ倫理規程の禁止行為に該当しな いとしても、国民の疑惑や不信を招くおそれが高く、このような行為は自 重すべきであった。 なお、行おうとする行為が国民の疑惑や不信を招くおそれがあるかどう か自ら判断できない場合には、あらかじめ上司に相談するなどして慎重に 対応する必要があった。 ② 講習会を紹介された者の中に「参加しないわけにはいかない」と感じて いる者がいる点。 通常、職員が相談を受けた際に講習会などを紹介する程度の行為ならば、 倫理規程上問題になるものではない。しかしながら、この事例では、大内 係員には強制したつもりがなかったとしても、相手方の中には、「参加し - 27 - 事例 6 ないわけにはいかない」と感じている者がおり、このように、権限を有す る担当職員から言われたことは、ややもすれば強制と捉えられることがあ るので、大内係員は、参加が強制と受け取られないように紹介の仕方を十 分注意すべきであった。 【参考】 倫理行動規準(倫理規程第1条)において、職員がその職務に係る倫理 の保持を図るため遵守すべき規準として、以下の事項が定められている。 ・ 職員は、常に公私の別を明らかにし、いやしくもその職務や地位を自 らや自らの属する組織のための私的利益のために用いてはならないこ と。(同条第2号) ・ 職員は、法律により与えられた権限の行使に当たっては、当該権限の 行使の対象となる者からの贈与等を受けること等の国民の疑惑や不信を 招くような行為をしてはならないこと。(同条第3号) (3) このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 ① 公務員は、全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務しなければな らない。そのため、常に公私の別を明確にし、いやしくも職務や地位を私 的利益や一部の利益のために用いていると国民から思われないように注意 しなければならないことを認識して行動することが必要である。 ② 利害関係者との関係は、例えば、「許可する側と、許可してもらう側」 といった権力関係になっている。職員側にその意図がなかったとしても、 相手にとっては半ば強制的なものとして受け取られ、結果として利害関係 者との間で国民の疑惑や不信を招くような関係が成立してしまうこともあ るので、自らの言動が相手方に大きな影響を与えることを常に認識して行 動しなければならない。 ③ 利害関係者との接触に対しては、常に慎重に対応することが求められる ものであり、あらかじめ倫理規程等を十分に理解しておくとともに、明示 的に禁止されていない事項は何をやっても良いというわけではなく、国民 全体の奉仕者として、中立・公正な立場を保つことが求められていること を認識すべきである。また、禁止行為に当たるか疑念がある場合には、倫 理監督官(倫理担当部局)に適切な対応を相談することが大切である。 - 28 - 事例 7 【家族ぐるみの付合い】 とある省の出先機関で庁舎修繕を担当している石橋係長は、近所に住んでいる 山崎さんと、お互いの子供が同じサッカークラブに入っている関係で家族ぐるみ の付合いをしている。山崎さんは、石橋係長の省の庁舎修繕を委託されている福 田建設の営業担当であり、石橋係長の係にもよく出入りしている。 ある週末に、子供のサッカーの試合の後、石橋係長の家族は山崎さんの自宅に 招かれて夕食を御馳走になることになった。夕食を食べながら山崎さんの田舎か ら送られてきた地元の日本酒を飲んでいると、石橋係長が自宅の車庫の壁に自動 車をぶつけてしまったという話になった。 石橋係長「ハンドル操作を誤って、派手にぶつけてしまいましたよ。ま、前から ガレージの床に雨が溜まって困っていたので、これを機に大々的に直 そうかと思っているんです。」 山崎さん「それなら、うちにやらせてくださいよ。家族ぐるみの付合いですし、 できる限り勉強させてもらいますよ。」 石橋係長「そうですか。ただ、あなたの会社とは職務上の関係があるでしょう。 あらぬ疑いをかけられても嫌なので、特別に安くするのは勘弁してく ださいよ。」 修理の初日、山崎さんが作業員5人を連れてやってきた。山崎さんは、人手が そろわず新入りが2人になってしまったと申し訳なさそうに説明した。 作業の途中、山崎さんから、塀の一部が傷んでいるので新入り2人に補修させ てもいいかと尋ねられたので、石橋係長はついでだと思って、特に作業内容や費 用について確認することなく補修を任せた。 数日後、修理が終わって請求書を確認すると、途中で頼んだ塀の補修費用が含 まれていなかった。石橋係長は、山崎さんにその件について電話で尋ねた。 山崎さん「ああ、あの塀の補修ですか。あれは新入り2人がやったので、その分 は請求していないんですよ。」 石橋係長「え。どうしてですか。」 山崎さん「2人とも初めてで、とてもお金をもらえるような仕事はしてませんか ら。逆に、いい経験をさせてもらってお礼を言うのはこっちですよ。 その代わり、車庫の方はきっちり請求させてもらってますから。」 石橋係長「そうですか。」 翌朝、補修された塀を確認すると、かなり大がかりな補修がされていた。石橋 係長は、釈然としなかったものの、請求された金額だけを支払った。 - 29 - 事例 7 【家族ぐるみの付合い】 (事例研究の指導の手引き) 1 討議のねらい 利害関係者との間で私的な関係があったとしても、その行為の態様等によっ ては、国民の疑惑や不信を招くような関係が成立してしまうことを、事例を通 じて多角的に検討することにより、以下の点についての理解を深める。 ○ 私的な関係等に関する倫理規程の内容。 ○ 私的な関係があるからといって、どのような行為でも認められるわけでは なく、自らの行動が国民から見てどのように見えるかを常に意識して行動し なければならないこと。 ○ 勤務時間外の私生活においても、自らの行動が公務の信用に影響を与える ことを常に意識しなければならないこと。 2 討議の進め方 (1) 「家族ぐるみの付合い」を全員に配付し、読ませる。 (2) 各自で、以下の項目について検討させる。 ① 石橋係長のどのような行動が倫理規程のどの部分に違反するのか。 ② 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をと れば良かったのか。 ③ このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 (検討のポイント) ・ 石橋係長は、利害関係者である山崎さんの自宅で夕食を御馳走になった。 ・ 石橋係長は、山崎さんを通じて福田建設に自宅の車庫の修理を依頼した。 ・ 予定のなかった塀の補修を依頼したが、依頼の際にその費用について 確認しなかった。 ・ 塀の補修は新入りの仕事でとてもお金をもらえるような仕事ではない と説明され、塀の補修費用を支払わなかった。 (3) 各項目ごとに受講者に意見を発表させる。 (4) 「解説のポイント」を参考にして講師がまとめる。 (注)1 受講者が多人数で時間がある程度確保できる場合には、グループ討議 及びグループごとの発表を組み入れた上で、まとめを行う方が望ましい。 2 事例においては、塀の補修が非常に簡素なものだった場合など、判断 - 30 - 事例 7 に必要な条件を変えて、「○○な場合であればこうなる」といったよう に、場合分けを行いつつ検討するよう講師がリードすることも考えられ る。 3 解説のポイント (1) 石橋係長のどのような行動が倫理規程のどの部分に違反するのか。 ○ 庁舎修繕を担当する石橋係長にとって、山崎さんは庁舎修繕を委託され ている福田建設の営業担当であり、利害関係者に該当する。 ○ 倫理規程第4条第1項において、職員は、私的な関係(職員の身分にか かわらない関係)がある利害関係者との間においては、職務上の利害関係 の状況、私的な関係の経緯及び現在の状況並びに行おうとする行為の態様 等にかんがみ、公正な職務の執行に対する国民の疑惑や不信を招くおそれ がないと認められる場合に限って、禁止行為に該当する行為を行うことが できると規定されている。 ○ 石橋係長と山崎さんは、近所に住んでおり、お互いの子供が同じサッカ ークラブに所属している関係で、普段から家族ぐるみで付き合っているこ とから、「私的な関係」があると認められる。 ○ 石橋係長が山崎さんから夕食を御馳走になった行為は、倫理規程第3条 第1項第6号に規定する「供応接待を受けること」に当たる。しかし、子 供のサッカーの試合の後、お互いの家族が集まった夕食会において、飲食 の提供を受けているものであることから、石橋係長と山崎さんが日頃から 家族ぐるみの付合いをしていることに鑑みると、国民の疑惑や不信を招く おそれはなく、倫理規程第4条第1項の規定により、例外的に認められる 行為と評価することができる。 ○ 石橋係長が、無償で塀を補修してもらった行為は、倫理規程第3条第1 項第4号に規定する「無償で役務の提供を受けること」に当たり、禁止行 為に該当する。塀の補修に要する費用は相当に高額であることが考えられ るところ、利害関係者からこのような役務の提供を受けることは、日頃か ら家族ぐるみの付合いがあることを考慮しても、国民の疑惑や不信を招く おそれがないといえないのであれば、倫理規程第4条第1項は適用されず、 禁止行為に該当することとなる。 (2) 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をとれ ば良かったのか。 ① 石橋係長が山崎さんを通じて福田建設に自宅の車庫の修理を依頼した 点。 - 31 - 事例 7 本事例においては、結果として利害関係者である福田建設から過剰な便 宜供与を受けたものであるが、このような思いもよらない便宜供与を受け ることを未然に防ぐためにも、あえて福田建設には依頼しないという選択 肢もあったのではないか。 ② 石橋係長が塀の修理費用について事前に確認しなかった点。 石橋係長は、山崎さんに言われるがままに破損した塀の修理を依頼し、 その費用等について確認しなかったが、依頼業者が利害関係者に該当する 福田建設であることを考慮すれば、その詳細について確認すべきであった。 ③ 石橋係長が塀の修理費用を支払わなかった点。 新入りが補修したことを理由として費用を請求されなかったとはいえ、 大がかりな補修がされていたことを認識したのであれば、その費用を確認 した上で、職務上の利害関係の状況や私的な関係の状況等の事情も含めて 総合的に勘案し、そのような役務の提供を受けることが、公正な職務の執 行に対する国民の疑惑や不信を招くおそれがないかについて判断する必要 があった。 そして、国民の疑惑や不信を招くおそれが否定できないと判断した場合 には、あらためてその費用の支払いを申し入れるべきであった。 また、自分ではその判断がつかない場合には、倫理監督官(倫理担当部 局)に相談する必要があった。 (3) このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 ① 親族関係や地域活動を通じて知り合った者など、職員としての身分にか かわらない関係(私的な関係)がある場合、倫理規程上の禁止行為を行う ことが認められる場合があるが、私的な関係があれば何をしても良いとい うわけではなく、その行為の態様によって国民の疑惑や不信を招くことが ないよう留意しなければならない。そのため、職員は、その職務や地位を 私的利益のために用いているのではないかと疑われることのないように、 自らの行為が国民の視点からどのように見えるのかということも意識した 上でその判断する必要がある。 ② 職員は、勤務時間外においても、自らの行動が公務の信用に影響を与え ることを常に意識して行動しなければならない。私的な関係のある者に対 する自宅の修理という私的な依頼であったとしても、社会通念に照らして 過剰と思われるサービスを受けた場合などには、職務上何か特別な関係が あるのではないかと疑われるおそれがある。そのため、利害関係者との付 合いに当たっては、倫理規程違反を誘発するおそれのある行為を未然に避 けることも含め、勤務時間の内外を問わず十分に注意する必要がある。 - 32 - 事例 7 ③ 自らが行おうとする行為が禁止行為に当たるか疑念がある場合には、安 易に自分で判断することなく、まずは倫理監督官(倫理担当部局)に相談 ることが大切である。 - 33 - 事例 8 【悩んだ末に・・・】 とある地方機関に勤める北沢さんは、上司の中野係長とその機関のOBで現在 利害関係者に該当する団体の理事である加藤さんと3人で居酒屋で飲んでいる。 加藤理事「ところで、近々打ち上げがあるって聞いたけど。いつやるの。」 中野係長「今週の金曜日ですが、それが何か。」 加藤理事「いや、何でもないよ。」 中野係長「さて、そろそろお開きとしますか。(店員に)お勘定してください。」 加藤理事「係長、今日は私が持つから。」 中野係長「え、それはダメですよ。割り勘の約束だったじゃないですか。」 加藤理事「まあまあ、私が無理に誘ったのだから、ここは先輩の顔を立てて。」 中野係長「加藤さんにそう言われては・・・、では今回限りということで。」 北沢さんは、まずいと思いながらも、意見を言えるような雰囲気ではなかった ので、中野係長の判断に従った。 その週の金曜日、班員全員で会議室で打ち上げをしていると、中野係長が豪華 な魚のお造りを持って入ってきた。 北沢さん「今日はどうしたんですか。ずいぶん豪華じゃないですか。」 中野係長「さっき、加藤さんがわざわざ届けてくれたんだ。」 北沢さん「そういえば、この前、打ち上げがいつか聞いていましたね。でも、ま ずいんじゃないですか。」 中野係長「しょうがないだろ。せっかく先輩が持ってきてくれた魚を返せるか? 生ものなんだから、返された方も困るだろう。」 北沢さん「そうですが・・・。」 中野係長「それに、加藤さんはこうと言ったら聞かない性格の人だからな、無理 に断って気分を損ねられたら、今後の仕事が大変だぞ。」 北沢さんは、なお釈然としなかったが、近くで聞いている他の職員も何も言わ ないし、上司である係長にそう言われると、それ以上何も言えなくなってしまっ た。結局、そのまま打ち上げは続けられた。 数日後、北沢さんは、目をつぶっていた方が楽だし、職場に波風を立てたくな いと思ったものの、このままではどんどんエスカレートしていくのではないかと 思い、悩んだ末、上司の本橋課長に相談することにした。 本橋課長「そうか。そんなことがあったのか。」 - 34 - 事例 8 北沢さん「中野係長も、先輩・後輩という関係で断れないようです。そう言えば、 課長も加藤さんと一緒に働いていたんですよね。」 本橋課長「ああ。加藤さんは、なかなか強引な人でね。これまでの付き合いもあ るから、係長がいきなり断ると角が立つだろうな。ま、折を見て私か ら加藤さんにそういうことは止めてほしいとお願いしておくよ。」 北沢さん「よろしくお願いします。」 その後、北沢さんは、中野係長が加藤さんと頻繁に飲みに行っていると聞き、 課長に何度か確認したものの、いつも「今度言っておくよ。」と言うばかりで、 一向に対処する様子がなかった。 1か月後、北沢さんは、このままではより深刻な事態になりかねないと考え、 今度は国家公務員倫理審査会に通報することにした。 - 35 - 事例 8 【悩んだ末に・・・】 (事例研究の指導の手引き) 1 討議のねらい 倫理意識の低い組織においては、個々の職員の倫理意識も低下し、「この程 度のことなら問題ない」、「他の職員もやっていることだから」などとなりが ちであり違反行為も発生しやすくなることを、事例を通じて多角的に検討する ことにより、以下の点についての理解を深める。 2 ○ 倫理意識の高い組織風土の構築の必要性。 ○ 倫理の保持を阻害する行為等に関する倫理規程の内容。 ○ 内部通報の機能とその重要性。 ○ 利害関係者である職場のOBと付き合う際の心構え。 討議の進め方 (1) 「悩んだ末に・・・」を全員に配付し、読ませる。 (2) 各自で、以下の項目について検討させる。 ① 中野係長、北沢さん及び本橋課長のどのような行動が、倫理規程のどの 部分に違反するのか。 ② 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をと れば良かったのか。 ③ 北沢さんが内部通報をしたことについてどう思うか。 ④ このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 (検討のポイント) ・ 中野係長と北沢さんは、先輩である加藤さんの顔を立てなければなら ないと考えて、居酒屋での飲食代を加藤さんに支払ってもらった。 ・ 中野係長は、生ものなので返されても加藤さんが困ると考えて魚のお 造りを受け取った。 ・ 北沢さんを含め、加藤さんからの差入れであることを知っていた職員 も、差入れの魚のお造りを食べた。 ・ 本橋課長は、北沢さんから相談を受けたが結局何らの対応もしなかっ た。 ・ 北沢さんは、悩んだ末、このままではより深刻な事態になりかねない と考え、国家公務員倫理審査会に通報した。 (3) 各項目ごとに受講者に意見を発表させる。 - 36 - 事例 8 (4) 「解説のポイント」を参考にして講師がまとめる。 (注) 受講者が多人数で時間がある程度確保できる場合には、グループ討議及 びグループごとの発表を組み入れた上で、まとめを行う方が望ましい。 3 解説のポイント (1) 中野係長、北沢さん及び本橋課長のどのような行動が、倫理規程のどの部 分に違反するのか。 ○ 中野係長と北沢さんが、利害関係者である加藤理事から居酒屋の飲食代を 支払ってもらった行為は、倫理規程第3条第1項第6号に規定する「供応接 待を受けること」に当たり、禁止行為に該当する。 ○ 中野係長が、加藤さんから打ち上げの際に魚のお造りを受け取った行為は、 倫理規程第3条第1項第1号に規定する「物品の贈与を受けること」に当た り、禁止行為に該当する。 ○ また、北沢さんを含め、魚のお造りが利害関係者である加藤理事からの差 入れであることを知っていた職員が、そのまま打ち上げに参加し続けた行為 は、倫理規程第7条第1項に規定する「倫理規程に違反する行為によって他 の職員が得た財産上の利益であることを知りながら、当該利益の全部若しく は一部を受け取り、享受してはならない。」に違反し、禁止行為に該当する。 ○ 管理職である本橋課長が北沢さんから相談を受けたにもかかわらず、何ら の対応もしなかったことは、倫理規程第7条第2項に規定する「その管理し、 又は監督する職員が法若しくは法に基づく命令に違反する行為を行った疑い があると思料するに足りる事実があるときに、これを黙認してはならない。」 に違反し、禁止行為に該当する。 (2) 問題となる行動はどこにあるのか。また、実際にはどのような行動をとれ ば良かったのか。 ① 中野係長と北沢さんが居酒屋での飲食代を支払わなかった点。 中野係長は、先輩としての圧力に押し切られて、結果的に加藤さんから のもてなしを受けることになってしまったが、このような場合、倫理規程 の禁止行為に該当し、懲戒処分の対象になることをしっかり説明して、あ くまでも割り勘にすることを申し入れるべきであった。 ② 中野係長が加藤さんが持ってきた魚のお造りを受け取った点。 たとえOBからであっても利害関係者から物品の贈与を受けることは、 倫理規程の禁止行為に該当することを丁寧に説明して毅然と断るべきであ った。また、たとえ生ものであったとしても、そのことをもって受領する - 37 - 事例 8 ことが認められることにはならない。 なお、利害関係者から生ものが郵送で送られてきた場合で、返送する過 程で腐敗することが明らかな場合は、速やかに倫理監督官(倫理担当部局) に報告し、適宜処分して差し支えない。 ③ 北沢さん等が加藤さんからの差入れと知りながらそのまま打ち上げに参 加し続けた点。 北沢さんを含め、利害関係者である加藤さんからの差入れであることを 知っていた職員については、自分が直接受領したわけではないからと安易 に判断することなく、中野係長にそれを受け取ることはできないことを納 得させ、お造りを返却又は倫理監督官(倫理担当部局)に報告の上処分す るべきであった。 ④ 本橋課長が北沢さんから相談された件について迅速に対応しなかった 点。 管理者である職員は、倫理規程に違反する疑いがあると思料するに足り る事実を把握した場合には、それがより深刻な事態になる前に迅速に問題 解決に取り組む必要がある。対応を先送りにしていると、別のきっかけで 事案が発覚した場合には、それを知っていた管理職自らも違反を問われる おそれがあることに留意すべきである。 本件において、北沢さんから相談を受けた本橋課長は、速やかに倫理監 督官に報告した上で(倫理規程に違反する疑いのある行為について、調査 ・懲戒手続が進められることとなる。)、中野係長から事情を聞き、適宜 指導すべきであった。また、中野係長は、先輩・後輩という関係から加藤 さんの申出を断れなかった事情があることから、本橋課長が直接加藤さん に連絡し、そのような行為を止めるよう依頼するという対応も考えられる。 (3) 北沢さんが内部通報したことについてどう思うか。 北沢さんは、通報することによって一時的に職場に波風が立つかもしれな いが、このままではより深刻な事態になりかねないと考えて、通報したもの である。 内部通報については、「密告」といったマイナスのイメージを受けがちで あるが、より深刻な事態になる前に問題に早期に対応することにより組織の 信用失墜の程度を最低限に抑えることができる。この事案においても、通報 の結果、自らを含め、同じ職場の職員が倫理規程違反に問われることとなる が、このまま放置した場合、中野係長と加藤さんの不適切な関係がさらにエ スカレートし、場合によっては贈収賄事件にまで発展するおそれもあった。 仮にそのような事態に至った場合には、中野係長や加藤さんが刑事罰の対象 - 38 - 事例 8 となるばかりでなく、組織への影響は計り知れず、さらに公務組織全体に対 する国民の信頼を損なうことにもなりかねない。これらのことを考慮すると、 北沢さんが悩みながらも通報した行為は適切なものであったといえる。 (4) このような問題が生じないようにするために必要なことは何か。 ① 元同僚などのOBは、再就職先によっては利害関係者に該当することが あるが、職務を通じて知り合った関係なので、倫理規程第4条第1項の「私 的な関係」とは認められない。 相手がOBの場合、在職中の関係などからつい気が緩んでしまったり、 先輩・後輩という関係から飲食の提供などを断りづらい状況も考えられる が、国民から見ると、むしろそのような関係があるからこそ何か便宜を図 っているのではないかと疑惑を持たれるおそれがより大きいことを常に念 頭に置き、より毅然とした態度で対応する必要がある。 ② 管理職の職員については、部下に倫理法等に違反していると疑われる事 実がある場合にはそれを黙認することが禁じられている。管理職の職員は、 違反を許さない組織風土を構築するための中心となり、積極的かつ迅速に 問題の解決に取り組む責任がある。 ③ この事例においては、北沢さんのほかにも魚のお造りが利害関係者であ る加藤さんからの差入れであることを知っていた職員がいたにもかかわら ず、その職員らが、中野係長がその差入れを受け取ることに問題を感じて おらず、組織全体の倫理意識が低いと言わざるを得ない。このような組織 においては、たとえ倫理意識の高い職員が正しい行為を行おうとしても、 それを阻害するような雰囲気がその組織に存在することから、やがて感覚 が麻痺し、高い倫理意識を保つことができなくなってしまう。 このような状況を改善していくためには、組織のトップや幹部が率先し てそれに取り組む姿勢を示し、些細な問題や悪しき慣行にも組織全体で正 面から取り組み、不正や違反は許さないという健全な組織風土を構築して ていく必要がある。 ④ 内部通報については、「密告」といったマイナスのイメージを受けがち であるが、より深刻な事態になる前に問題に早期に対応することにより組 織の信用失墜の程度を最低限に抑えることができるとともに、違反行為に 対する抑止効果も期待できる。そのため、違反行為を見かけたら通報する のが組織のためであるというように職員の意識改革を図るとともに、通報 窓口の周知を図るなどして組織として内部通報制度を積極的に活用してい く必要がある。 通報窓口は各府省において設置されており、その処理に当たっては、通 - 39 - 事例 8 報者の匿名性の確保と情報管理を徹底するとともに、通報したことを理由 として通報者が不利益な取扱いを受けないよう配慮するなど、職員が安心 して通報できる仕組みとすることが必要である。 なお、状況によっては、職員が、自らが属する組織の通報窓口には通報 しづらいケースも考えられる。国家公務員倫理審査会では倫理規程に違反 すると思われる行為の情報を受け付けており、そのような場合のヘルプラ インとしての機能を担っている。倫理審査会が通報を受け付けた場合には、 必要に応じて倫理審査会が各府省に調査を指示することになる。その際、 通報者の意に反して個人を特定できる情報を当該府省に提供することはな い。 - 40 - ロール プレイ ① 「利害関係者との飲食」(職員役用シート) 【登場人物】 ・内田課長(職員役)・・・・補助金の交付に携わる国家公務員 ・小川理事(利害関係者役)・・補助金の交付を受けている財団法人の理事 ※ 内田課長にとって小川理事の勤める法人は補助金等の関係で利害関係者に 該当する。また、小川理事はその省のOBであり、在職中は、内田課長の上 司であった。 【状況設定】 ある日、会議のために来庁していた小川理事が、会議終了後に内田課長の課を 訪れ、内田課長を久し振りに飲みに行こうと誘った。内田課長は、仕事が残って いたので一度は断ったが、小川理事に半ば強引に連れ出される形で、2人は小川 理事の行き付けのクラブに行くことになった。 2人はクラブで3時間ほど飲食し、会計は2万円だった。割り勘との約束だっ たので、内田課長が半額の1万円を払おうとすると、小川理事が全額払うと言い だした。 【演技開始】 小川理事 「ここは私が払っておくよ。今日は付き合わせて悪かったな。」 内田課長 半額の1万円を払う旨主張する。 (以降、適宜対応) 終了 - 41 - ロール プレイ ① 「利害関係者との飲食」(利害関係者役用シート) 【登場人物】 ・内田課長(職員役)・・・・補助金の交付に携わる国家公務員 ・小川理事(利害関係者役)・・補助金の交付を受けている財団法人の理事 ※ 内田課長にとって小川理事の勤める法人は補助金等の関係で利害関係者に 該当する。また、小川理事はその省のOBであり、在職中は、内田課長の上 司であった。 【状況設定】 ある日、会議のために来庁していた小川理事が、会議終了後に内田課長の課を 訪れ、内田課長を久し振りに飲みに行こうと誘った。内田課長は、仕事が残って いたので一度は断ったが、小川理事に半ば強引に連れ出される形で、2人は小川 理事の行き付けのクラブに行くことになった。 2人はクラブで3時間ほど飲食し、会計は2万円だった。割り勘との約束だっ たので、内田課長が半額の1万円を払おうとすると、小川理事が全額払うと言い だした。 【演技開始】 小川理事 「ここは私が払っておくよ。今日は付き合わせて悪かったな。」 内田課長 半額の1万円を払う旨主張する。 小川理事 以下の発言例を参考に適宜対応する。 ※途中で、内田課長に5千円のみを支払うように提案すること。 [発言例] ① 自分が全額払うと主張する。 「私が無理に誘ったんだから、私に払わせてくれよ。」 「大した金額じゃないから気にしなくていいよ。」 「後輩の君に払わせるわけにはいかないよ。ここは先輩である私が 払うよ。」 - 42 - ロール プレイ ① ② 利害関係者としてではなくOBとしての行為であると主張する。 「今日は同じ省の先輩として飲んでいるんだから、法人のことは関 係ないだろう。」 「OBが後輩におごるのは一般的なことで、これを『接待』とは言 わないだろう。」 ③ 内田課長に対し、5千円のみ支払うように提案する。 「俺の方が多く飲み食いしているから、君は5千円だけでいいよ。 おごっているわけじゃないから、それでいいだろう。」 「5千円だけ払ってくれ。先輩の方が多く払うのは当たり前だし、 現役の時もそうだったじゃないか。」 ④ その他 「このくらいの金額で便宜を図っているとは疑われないだろう。」 「誰も見てないから、ばれやしないよ。」 「堅いことばかり言わないで、先輩の顔を立ててくれ。」 (以降、適宜対応) 終了 - 43 - ロール プレイ ① 「利害関係者との飲食」(指導の手引き) 1 ねらい 利害関係者から供応接待を受けることは、倫理規程第3条第1号第6号に該 当し倫理規程違反となる。利害関係者から供応接待を受けそうになった場合に、 どのように対処すればよいかをあらかじめシミュレーションすることにより、 実際に同様の場面に遭遇した際に適切な行動がとれるようにする。 2 進め方 (1) 上記1を参加者全員に説明する。 (2) 職員役及び利害関係者役を指名し、それぞれのシートを読ませる。その間、 他の参加者に状況設定を簡単に説明し、演技を観察するように指示する。利 害関係者役は講師が務めることも考えられる。 (3) ロールプレイを実施させる。(3分程度。途中、誤解等によってねらいと は異なる方向に進み始めた場合には、状況説明を加えるなどして正しい方向 に誘導すること。) (4) ロールプレイを終了させ、職員役に感想(特に判断に迷った点等)を聞く。 (5) その他の参加者から意見を聞く。 ※ 時間が確保できる場合は、参加者に討議・発表させることが望ましい。 (6) 以下のポイントを参考に解説する。 3 解説のポイント (1) 倫理法・倫理規程について ・ 利害関係者から飲食の提供を受けることは、倫理規程第3条第1項第6 号の「利害関係者から供応接待を受けること」に当たり禁止行為に該当す る。 ・ 倫理規程第4条第1項の「私的な関係」とは、職員の身分にかかわらな い関係と定義されていることから、OBはこれには該当しない。 (2) 職員役の対応について 職員役については、以下のような対応が考えられる。 ・ たとえOBからであっても、利害関係者からおごってもらうことは、国 民の疑惑や不信を招く行為であり、倫理規程違反となることを説明する。 ・ OBは、職務を通じて知り合った関係なので、倫理規程の「私的な関係」 とは認められないことを説明する。 - 44 - ロール プレイ ① ・ 心づかいはありがたいが、倫理規程違反は懲戒処分の対象となり、かえ って迷惑であることを説明する。 ・ きちんと割り勘になっていない場合には、差額分の供応接待に当たるこ とを説明する。 ・ 先輩であるということに屈せず、自己の費用を負担することを毅然とし た態度で主張する。 (3) 留意事項 元同僚などのOBが利害関係者に該当する場合があるが、職務を通じて知 り合った関係なので、倫理規程第4条第1項の「私的な関係」とは認められ ない。 相手がOBの場合、在職中の関係などからつい気が緩んでしまったり、先 輩・後輩という関係から飲食の提供などを断りづらい状況も考えられるが、 国民から見ると、むしろそのような関係があるからこそ何か便宜を図ってい るのではないかと疑惑を持たれるおそれがより大きいことを常に念頭に置 き、より毅然とした態度で対応する必要がある。 割り勘であれば利害関係者と自由に飲食することができるが、その費用負 担が足りない場合には、差額分の供応接待を受けたとして処分の対象となる ので、確かに割り勘になっているかどうかを領収書等により確認する必要が ある。 4 参考事例 ① 団体の役職員から飲食の供応接待を受けた事案(H20) 内閣府の地方支分部局の職員1人が(行為時は、国土交通省の地方支分部局 に勤務) 、契約の相手方として利害関係者である団体の役職員から、飲食の供 応接待(10,672円)を受けたもの。 →戒告 ② 関連団体から飲食の供応接待を受けた事案(H19) 経済産業省の職員3名が、許認可等の相手方として利害関係者である関連団 体から飲食の供応接待(回数は4回~6回、一人当たり合計約4万円~約5万 5千円)を受けたもの。 →減給1(1/10)1人、戒告2人 - 45 - ロール プレイ ① ③ 懇親会(立食形式)終了後の二次会において飲食の供応接待を受けた事案(H14) 某府省の地方機関の長である職員が、立入検査の相手方である団体の総会の 懇親会(立食形式)終了後、二次会に参加し、同団体から約3千円相当の飲食 の提供を受けたもの。また、上記二次会後に宿泊したホテルの代金(約7千円) を同団体に負担させたもの。さらに、後日、同職員が入院した際に、同団体か ら見舞金1万円を受領したもの。 →減給1月(1/10) ④ 自己費用負担額が不十分だった事案(H20) 農林水産省の職員1人が、行政指導の相手方として利害関係者である団体か ら飲食の接待(会費として支払った分の不足額1万円相当)を受けたもの。 →戒告 - 46 - ロール プレイ ② 「会費制の懇親会」(職員役用シート) 【登場人物】 ・岡本係長(職員役)・・・・工事請負契約に携わる国家公務員 ・福田さん(利害関係者役)・・工事請負契約の相手方である企業の社員 ※ 岡本係長にとって福田さんの勤める企業は、契約の関係で利害関係者に該 当する。 【状況設定】 岡本係長は、福田さんの勤める企業が主催する会費制の懇親会(5千円)に誘 われた。岡本係長は、普段はできない忌憚のない意見交換ができると考えて、自 分で会費を負担してその懇親会に参加することにした。 当日懇親会に赴くと、会場は思いのほか豪華な日本料理店で、出された食事も 高級な食材が使われていた。岡本係長は、とても5千円の会費では賄えないと思 ったものの、懇親会の途中でお金のことを尋ねるのも気が引けたので、帰り際に 確認することにした。 懇親会が終わったので、岡本係長は会計を済ませた福田さんに会費のことにつ いて尋ねた。 【演技開始】 岡本係長 「ずいぶん高そうな料理でしたが、会費5千円では足りないんじゃな いですか。」 福田さん 適宜対応 (以降、適宜対応) 終了 - 47 - ロール プレイ ② 「会費制の懇親会」(利害関係者役用シート) 【登場人物】 ・岡本係長(職員役)・・・・工事請負契約に携わる国家公務員 ・福田さん(利害関係者役)・・工事請負契約の相手方である企業の社員 ※ 岡本係長にとって福田さんの勤める企業は、契約の関係で利害関係者に該 当する。 【状況設定】 岡本係長は、福田さんの勤める企業が主催する会費制の懇親会(5千円)に誘 われた。岡本係長は、普段はできない忌憚のない意見交換ができると考えて、自 分で会費を負担してその懇親会に参加することにした。 当日懇親会に赴くと、会場は思いのほか豪華な日本料理店で、出された食事も 高級な食材が使われていた。岡本係長は、とても5千円の会費では賄えないと思 ったものの、懇親会の途中でお金のことを尋ねるのも気が引けたので、帰り際に 確認することにした。 懇親会が終わったので、岡本係長は会計を済ませた福田さんに会費のことにつ いて尋ねた。 【演技開始】 岡本係長 「ずいぶん高そうな料理でしたが、一人5千円では足りないんじゃな いですか。」 福田さん ※ 以下の発言例を参考に適宜対応する。 職員役が費用を確認するために領収書等を見せるように申し入れ てきたときには、渋々領収書を見せながら、当初の予定より高くな ってしまい、一人当たりの費用が8千円になったことを告げ、発言 例②を参考に対応する。 [発言例] ① 5千円で問題ないと主張する。 「ここは、意外と安いんですよ。安心してください。」 「店には一人5千円になるようにお願いしていますから、間違いな いですよ。」 「毎回この懇親会は5千円でやっていますから、気にしないでくだ - 48 - ロール プレイ ② さい。」 ② 一人当たり8千円だが、5千円しか受け取れないと主張する。 「予定が変わってこの金額になってしまいましたが、係長には5千 円と御連絡していたのですから、それ以上もらうわけにはいきま せんよ。」 「我々の手違いで高くなったのですから、係長に負担させるわけに はいきません。」 「他の人からも5千円しかいただいていないのです。」 「我々は会社の経費が使えますが、係長は自腹じゃないですか。こ こは我々に負担させてください。」 ③ その他 「5千円の会費制としているのですからだれにもばれませんよ。」 「大した額じゃないからいいじゃないですか。」 (以降、適宜対応) 終了 - 49 - ロール プレイ ② 「会費制の懇親会」(指導の手引き) 1 ねらい 自己の飲食に要する費用を負担する場合には、利害関係者と共に飲食をする ことができるが、自己費用負担額が十分ではない場合には、差額分の供応接待 を受けたこととなり、倫理規程第3条第1号第6号に該当し倫理規程違反とな る。利害関係者と共に飲食する場合に、どのような点に注意すればよいかをあ らかじめシミュレーションすることにより、実際に同様の場面に遭遇した際に 適切な行動がとれるようにする。 2 進め方 (1) 上記1を参加者全員に説明する。 (2) 職員役及び利害関係者役を指名し、それぞれのシートを読ませる。その間、 他の参加者に状況設定を簡単に説明し、演技を観察するように指示する。利 害関係者役は講師が務めることも考えられる。 (3) ロールプレイを実施させる。(3分程度。途中、誤解等によってねらいと は異なる方向に進み始めた場合には、状況説明を加えるなどして正しい方向 に誘導すること。) (4) ロールプレイを終了させ、職員役に感想(特に判断に迷った点等)を聞く。 (5) その他の参加者から意見を聞く。 ※ 時間が確保できる場合は、参加者に討議・発表させることが望ましい。 (6) 以下のポイントを参考に解説する。 3 解説のポイント (1) 倫理法・倫理規程について 自己の飲食に要する費用を負担する場合には、利害関係者と共に飲食をす ることができるが、自己費用負担額が十分ではなく、実際の費用との差額分 を利害関係者が負担した場合には、利害関係者から差額分の供応接待を受け たこととなり、倫理規程第3条第1項第6号の禁止行為に該当する。 (2) 職員役の対応について 職員役については、以下のような対応が考えられる。 ・ 実際の費用の確認のため、領収書等を見せるように申し入れる。 ・ 会費制であっても、実際の費用と差がある場合には、差額分の供応接待 を受けたことになり、倫理規程違反となることを説明する。 ・ 他にも5千円しか払っていない者がいたとしても、差額分の利益供与を 受ける理由にはならず、公務員が利害関係者から供応接待を受けることは、 - 50 - ロール プレイ ② 国民の疑惑や不信を招くおそれのある行為であって許されないことを説明 する。 ・ 心づかいはありがたいが、倫理規程違反は懲戒処分の対象となり、かえ って迷惑であることを説明する。 (3) 留意事項 利害関係者と共に割り勘で飲食をする場合であっても、自己費用負担額が 十分でない場合には、差額分の供応接待を受けたこととなることから、領収 書等によりきちんと割り勘になっているかどうか総額を確認する必要があ る。 利害関係者に領収書等を見せてもらうように申し入れることは、失礼に当 たるのではないかとためらわれる場合もあるが、正しく割り勘になっていな いと懲戒処分の対象となることを説明すれば、相手方の理解も得られるはず である。 なお、利害関係者と割り勘により飲食する場合、自己の飲食の費用が1万 円を超えるときには、倫理監督官への事前の届出が必要となる。 4 参考事例 ① 自己費用負担額が不十分だった事案(H20) 農林水産省の職員1人が、行政指導の相手方として利害関係者である団体か ら飲食の接待(会費として支払った分の不足額1万円相当)を受けたもの。 →戒告 ② 自己費用負担額が不十分だった事案(H19) 農林水産省の地方支分部局の職員3人が、契約の相手方として利害関係者で ある業者との懇親会に会費を負担し飲食したが、実際に掛かった飲食代との差 額及び二次会において計3回ないし4回にわたり飲食の供応接待(会費として 支払った分の不足額1万2千円相当~1万5千円相当)を受けたもの。 →戒告 ③ 自己費用負担額が不十分だった事案(H19) 会計検査院の職員が、立入検査・監査又は監察の相手方として利害関係者で ある団体から、個人名で自宅に送付された物品を受領したもの。また、同団体 と2回にわたり共に飲食をするとともに、自己費用負担額が十分でなかったた め、実際の精算金額と自己費用負担額との差額分(2回合計6,200円)の供応 接待を受けたもの。 →戒告 - 51 - ロール プレイ ③ 「タクシーでの送迎」(職員役用シート) 【登場人物】 ・関口さん(職員役)・・・とある省に勤務する国家公務員 ・川辺さん(利害関係者役)・・・工事請負契約の相手方であるA社の本社社員 ※ 関口さんにとってA社は、契約の関係で利害関係者に該当する。 【状況設定】 関口さんは、川辺さんから工事の施工計画に関する打合せに同席してほしいと 依頼され、現場近くの事務所を訪れることになった。その事務所までは、官署か ら自動車を使えば15分程度で行ける距離だが、地下鉄を利用すると2回乗り換え なければならず、官署から事務所まで1時間近くかかる。 打合せ当日、関口さんがその事務所に向かおうとすると、官署の玄関に川辺さ んが待っており、本社からタクシーで迎えに来たとのことであった。 【演技開始】 川辺 「お迎えに上がりました。本社から乗ってきたタクシーを待たせています ので、一緒に事務所まで行きましょう。」 関口 タクシーには同乗できない旨主張する。 (以降、適宜対応。) 終了 - 52 - ロール プレイ ③ 「タクシーでの送迎」(利害関係者役用シート) 【登場人物】 ・関口さん(職員役)・・・とある省に勤務する国家公務員 ・川辺さん(利害関係者役)・・・工事請負契約の相手方であるA社の本社社員 ※ 関口さんにとってA社は、契約の関係で利害関係者に該当する。 【状況設定】 関口さんは、川辺さんから工事の施工計画に関する打合せに同席してほしいと 依頼され、現場近くの事務所を訪れることになった。その事務所までは、官署か ら自動車を使えば15分程度で行ける距離だが、地下鉄を利用すると2回乗り換え なければならず、官署から事務所まで1時間近くかかる。 打合せ当日、関口さんがその事務所に向かおうとすると、官署の玄関に川辺さ んが待っており、本社からタクシーで迎えに来たとのことであった。 【演技開始】 川辺 「お迎えに上がりました。本社から乗ってきたタクシーを待たせています ので、お送りさせてください。」 関口 タクシーには同乗できない旨主張する。 (以降、適宜対応。) [発言例] ① 送迎するのは一般的な行為であると主張する。 「こちらから同席してほしいとお願いしたのですから、お迎えに上 がるのは当然ですよ。」 「どの会社だって、この程度の距離ならお車で送迎しますよ。うち だけ特別ってわけじゃありませんから。」 「当社では、このような場合には、いつもお客さんをタクシーで送 迎しているんです。」 ② タクシーを使うことに合理的な理由があることを主張する。 - 53 - ロール プレイ ③ 「関口さんが乗らなくても、私はこのタクシーで事務所まで向かい ますから、それに便乗するってことならいいじゃないですか。」 ③ その他 「それ程の距離じゃないし、大した金額にはなりませんから、問題 ないじゃないですか。」 「地下鉄を使うと非効率ですよ。お忙しいでしょうから,時間を有 効に使う意味でも、一緒にタクシーに乗っていきましょう。 (以降、適宜対応。) 終了 - 54 - ロール プレイ ③ 「タクシーでの送迎」(指導の手引き) 1 ロールプレイのねらい 利害関係者からタクシーでの送迎を受けることは、倫理規程第3条第1項第 4号の「利害関係者から無償の役務提供を受けること」に該当し、倫理規程違 反となる。利害関係者からタクシーでの送迎を受けそうになった場合に、どの ように対処すればよいかをあらかじめシミュレーションすることにより、実際 に同様の場面に遭遇した際に適切な行動をとれるようにする。 2 ロールプレイの進め方 (1) 上記1を参加者全員に説明する。 (2) 職員役及び利害関係者役を指名し、それぞれのシートを読ませる。その間、 他の参加者に状況設定を簡単に説明し、演技を観察するように指示する。利 害関係者役は講師が務めることも考えられる。 (3) ロールプレイを実施させる。(3分程度。途中、誤解等によってねらいと は異なる方向に進み始めた場合には、状況説明を加えるなどして正しい方向 に誘導すること。) (4) ロールプレイを終了させ、職員役に感想(特に判断に迷った点等)を聞く。 (5) その他の参加者から意見を聞く。 ※ 時間が確保できる場合は、参加者に討議・発表させることが望ましい。 (6) 以下のポイントを参考に解説する。 3 解説のポイント (1) 倫理法・倫理規程について 利害関係者からタクシーでの送迎を受けることは、倫理規程第3条第1項 第4号の「利害関係者の負担により無償で役務の提供を受けること」に当た り禁止行為に該当する。 (2) 職員役の対応について 職員役については、以下のような対応が考えられる。 ・ 利害関係者からタクシーでの送迎を受けることは、金額の多寡にかかわ らず倫理規程違反であることを説明する。 ・ 公務員が利害関係者からタクシーでの送迎を受けることは、他の来客も 同様に送迎を受けていたとしても、国民の疑惑や不信を招くおそれがある ことを説明する。 - 55 - ロール プレイ ③ ・ 心づかいはありがたいが、倫理規程違反は懲戒処分の対象となり、かえ って迷惑であることを説明する。 ・ 官署までわざわざ迎えに来ているのであれば、そのタクシーに乗ること は「便乗」とはいえず、無償の役務提供に当たることを説明する。 ・ タクシーに同乗することは承諾するが、タクシー料金については自分が 負担することを申し入れる。 (3) 留意事項 職務として利害関係者を訪問した際に、他に公共交通機関がなく利害関係 者の自動車を利用するしかないような場合などには、利害関係者から提供さ れる自動車を利用することは例外として認められている。ただし、ここでい う自動車は、日常的に使用している社用車であり、職員のために用立てたタ クシーやハイヤーはこれには該当しない。 また、利害関係者がたまたま自分と同じ目的地に行く場合などで、利害関 係者の追加的負担もないときには、利害関係者の負担でタクシーに便乗する ことは倫理規程上問題ないものとして取り扱われているが、これは利害関係 者が、偶然、職員と同方向に他の用務があるために移動する場合を想定して おり、この事例のように、わざわざ職員を迎えに来ている場合は追加的負担 がないとはいえず、国民の疑惑や不信を招くおそれが否定できないことから、 利害関係者の負担でタクシーに同乗することは、倫理規程の禁止行為に該当 する。 なお、タクシー料金を割り勘又は自分で支払う場合には、利害関係者と同 じタクシーに同乗しても問題ない。 4 参考事例 ① 契約の相手方である業者からタクシーの提供等を受けた事案(H19) 国土交通省の地方支分部局の職員が、契約の相手方として利害関係者である 業者から、デジタルカメラ、パソコン及びプリンター(総額247,660円)の贈 与を受けた。 また、自宅の植木を運搬、保管させ、さらに、工事により発生した廃線ケー ブルを運搬、売却させ、売り払った代金を受け取り、加えてタクシーの提供を 受けた。 (総額52,700円相当) さらに、飲食の提供を受け、プロ野球観戦チケットの提供を受け、北海道旅 行の旅行費用を負担させ(総額67,500円相当) 、利害関係者と共に北海道旅行 したもの。 なお、他の国公法違反行為もあったことから、これらを併せて懲戒処分が行 - 56 - ロール プレイ ③ われた。 →免職 ② 行政指導の相手方である団体からタクシーの提供等を受けた事案(H17) 社会保険庁の地方機関の職員が、行政指導の相手方である4団体の役職員か ら、現金5万円及び焼酎、缶ビール等(計2回、合計6,050円相当)の贈与を 受け、無償でタクシー等の提供(計3回、合計2万1,675円)を受け、並びに 供応(計5回、合計2万3,000円相当)を受けたもの。 →減給1月(1/10) - 57 - ロール プレイ ④ 「ビール券の差入れ」(職員役用シート) 【登場人物】 ・鈴木課長(職員役)・・・とある省に勤務する国家公務員 ・田中さん(利害関係者役)・・・許認可等の相手方である大手企業の社員 ※ 鈴木課長にとって田中さんは、許認可等の関係で利害関係者に該当する。 【状況設定】 鈴木課長は、今年の4月に現在のポストに転任してきた。初めての年末を迎え たある日、許認可の相手方である企業の社員である田中さんが、年末のあいさつ のために鈴木課長を訪ねてきた。しばらく2人で談笑していると、田中さんが小 さな包みを鈴木さんに渡そうとしてきた。何かと尋ねると、課員に対する差入れ としてビール券を持ってきたとのであった。 【演技開始】 田中 「これから忙しくなるでしょう。少ないですが、課の忘年会で使って英気 を養ってください。」 関口 受け取れない旨主張する。 (以降、適宜対応。) 終了 - 58 - ロール プレイ ④ 「ビール券の差入れ」(利害関係者役用シート) 【登場人物】 ・鈴木課長(職員役)・・・とある省に勤務する国家公務員 ・田中さん(利害関係者役)・・・許認可等の相手方である大手企業の社員 ※ 鈴木課長にとって田中さんは、許認可等の関係で利害関係者に該当する。 【状況設定】 鈴木課長は、今年の4月に現在のポストに転任してきた。初めての年末を迎え たある日、許認可の相手方である企業の社員である田中さんが、年末のあいさつ のために鈴木課長を訪ねてきた。しばらく2人で談笑していると、田中さんが小 さな包みを鈴木さんに渡そうとしてきた。何かと尋ねると、課員に対する差入れ としてビール券を持ってきたとのであった。 【演技開始】 田中 「これから忙しくなるでしょう。少ないですが、課の忘年会で使って英気 を養ってください。」 関口 受け取れない旨主張する。 田中 以下の発言例を参考に適宜対応する。 [発言例] ① 慣行であることを主張する。 「年末のお歳暮や差入れは日本の慣行じゃないですか。」 「これまで毎年お渡ししているんですから、問題ないんじゃないで すか。」 ② 疑惑を抱かれるような金額ではないことを主張する。 「ビール券くらいいいじゃないですか。」 「大した金額ではありませんから気にしないでください。」 「これくらいの金額で便宜を図ってもらえるなんて、だれも思いま せんよ。」 - 59 - ロール プレイ ④ ③ 倫理規程の禁止行為に該当しないのではないかと主張する。 「課長個人ではなく、課の皆さんで使うなら問題ないじゃないです か。」 「私が個人的にポケットマネーで買ったものですから、会社のこと は関係ありませんよ。」 「他の多くの取引相手にも、年末のあいさつとして渡しているもの ですから、ここだけ特別ってわけじゃありませんよ。」 (以降、適宜対応。) 終了 - 60 - ロール プレイ ④ 「ビール券の差入れ」(指導の手引き) 1 ねらい 利害関係者からビール券を受け取ることは、それが儀礼的なものであったと しても、価額の如何によらず、倫理規程第3条第1項1号の「利害関係者から 物品の贈与を受けること」に該当し、倫理規程違反となる。利害関係者から儀 礼的なものとしてお歳暮などの贈り物を渡されそうになった場合に、どのよう に対処すればよいかをあらかじめシミュレーションすることにより、実際に同 様の場面に遭遇した際に適切な行動をとれるようにする。 2 進め方 (1) 上記1を参加者全員に説明する。 (2) 職員役及び利害関係者役を指名し、それぞれのシートを読ませる。その間、 他の参加者に状況設定を簡単に説明し、演技を観察するように指示する。利 害関係者役は講師が務めることも考えられる。 (3) ロールプレイを実施させる。(3分程度。途中、誤解等によってねらいと は異なる方向に進み始めた場合には、状況説明を加えるなどして正しい方向 に誘導すること。) (4) ロールプレイを終了させ、職員役に感想(特に判断に迷った点等)を聞く。 (5) その他の参加者から意見を聞く。 ※ 時間が確保できる場合は、参加者に討議・発表させることが望ましい。 (6) 以下のポイントを参考に解説する。 3 解説のポイント (1) 倫理法・倫理規程について 利害関係者からビール券を受け取ることは、倫理規程第3条第1項第1号 の「利害関係者から金銭等の贈与を受けること」に当たり禁止行為に該当す る。 (2) 職員役の対応について 職員役については、以下のような対応が考えられる。 ・ 公務員が利害関係者からビール券を受け取ることは、国民の疑惑や不信 を招くおそれのある行為であり、金額の多寡にかかわらず倫理規程違反と なることを説明する。 ・ 心づかいはありがたいが、倫理規程違反は懲戒処分の対象となり、かえ - 61 - ロール プレイ ④ って迷惑であることを説明する。 ・ たとえ儀礼的なものであっても、また、課の皆で使うものであっても、 利害関係者から物品の贈与を受けることは禁止行為に該当することを説明 する。 ・ ポケットマネーで購入したとしても田中さんの行為は、基本的には企業 の一員としての行為であり、利害関係者である企業の行為とみなされるこ とを説明する。 (3) 留意事項 利害関係者から金銭、物品の贈与を受けることは、せん別、祝儀、香典等 の名目を問わず、かつ、金額の如何を問わず禁止されている。従来から慣習 的に差入れ等を受領している場合もあると考えられるが、利害関係者から贈 られたものであれば倫理規程違反になる。 ただし、利害関係者から、宣伝用物品又は記念品であって広く一般に配布 するもの、例えば、社名入りのカレンダーや創立記念などで配布する記念誌 などを受けることは、例外的に認められている。 4 参考事例 ① 契約の相手である団体の役職員からビール券を受領した事案(H20) 国土交通省の地方支分部局の職員2人が、契約の相手方として利害関係者で ある団体の役職員等からビール券の贈与(1人は計30枚(20,160円相当) 、1 人は計56枚~68枚(37,632円~45,696円相当) )を受けたもの。 →戒告 ② 契約の相手方である業者からビール券を受領等した事案(H19) 国土交通省の地方支分部局の職員が、契約の相手方として利害関係者である 業者から8回にわたり、贈答品(計約22,050円及びビール券18枚)を受領し、 2回にわたり利害関係者と共に飲食し、飲食の供応接待(計6,000円相当)を 受けたもの。 →減給1月(1/10) ③ 立入検査の相手方である複数の事業者からビール券を受領した事案(H16) 厚生労働省の地方機関の長である職員が、立入検査の相手方である複数の事 業者から、10数回にわたりビール券90枚(約6万6千円相当)を受領したもの。 →減給1月(1/10) - 62 -
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