環境システム研究室 [研究概要]

東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻 都市環境工学講座 環境システム研究室 研究概要 [2007 年度版] <無断転載不可>
環境システム研究室
[研究概要]
● 温室効果ガスの削減
地球温暖化と都市の環境負荷
(1)地球温暖化問題と都市の考え方
地球温暖化と都市の関係については、著書を参考してください
*花木啓祐 (2004): 『都市環境論』, 岩波書店, 209 pp
*花木啓祐 (2003): 「都市の環境問題と地球環境問題」, in『都市を保全する』, 西
村幸夫、大西隆、大垣眞一郎、岸井隆幸、小出和郎編, 鹿島出版会, 158-185.
一般的に言えば、都市の活動は温暖化の原因として大きく、またその対策が困難な
のです。昔の公害のように、工場で対策をとって解決する問題ではありません。われ
われの生活、社会自身がエネルギーや、製品に依存しているので、普通に生活してい
るだけで二酸化炭素を大量に出すことになるのです。
下の図からもわかるとおり、1990 年から 2000 年までの二酸化炭素排出量の増加率
を見ると、製造業(工場)は減っているのに対し、運輸、業務、家庭部門は大きく伸び
ています。すなわち、クルマや建物から発生する二酸化炭素はどんどん増えていると
いうことで、これは都市の活動によるものにほかなりません。
しかし、下のグラフに見られるように、都市の単位で見ると、
これらの部門の比率はさまざまです。ですから、二酸化炭
素を減らす戦略も都市によって有効となる戦略が異なって
くるのです。
日本における部門別 CO2 排出量の動向
(1990年→2000年)
(2)関連する研究活動
本研究室で行っている研究の多くは地球温暖化に関係しています。
このホームページ上でほかのテーマとして紹介しているものの中に関連するものも多くあります。ここでは、直接的に地球温暖化対策を研究テーマ
にしたもの、さらには、地域冷暖房の利用、未利用エネルギーの利用による二酸化炭素削減に関する研究について紹介します。
バイオマスや循環資源の活用、ゼロエミッションなど、温暖化対策に寄与する個々の技術やシステムについてはそれぞれの項を参照ください
○
都市から排出される二酸化炭素の統合的解析
[ Tokyo Half Project ]
この研究は、東京大学の工学系研究科を中心としたチームによってなされているプロジェクトです。そこで得られている成果は当研究室のもののみ
ではありませんが、チームのとりまとめを花木が行っています。このプロジェクトは、もともと東京を対象にして二酸化炭素の排出量を半分に減らせる
ことを示すために行われたものです。そのため、Tokyo Half Projectという名前が付けられています。
[ 脱温暖化2050プロジェクト ]
本プロジェクトは、 日本における中長期脱温暖化対策シナリオを構築するために、技術・社会イノベーション統合研究を
行い、 2050 年までを見越した日本の温室効果ガス削減のシナリオとそれに至る環境政策の方向性を提示するもので
す。 技術・制度・社会システムなどを横断した整合性のある実現性の高い中長期脱温暖化政策策定に貢献します。
○
東大キャンパスから排出される二酸化炭素の削減(サステイナブルキャンパス)
大学は未来の社会の縮図です。キャンパスから発生する環境負荷の削減や地産地消、社会的な側面の改善など、キャンパスのサステイナビリテ
ィを高めるための活動が、イェール大学などアメリカを中心として多くの大学で展開されています。東京大学においても、持続可能なキャンパスを
実現するために、教員、学生、職員が参加する「サステイナブルキャンパス」事業を推進しています。
我々の研究室では、キャンパスから排出される二酸化炭素削減に向けた施策の提案に関する研究を行っています。
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○
清掃工場廃熱利用の地域冷暖房導入による二酸化炭素削減
地域冷暖房は、一定の地域内で冷房、暖房、給湯およびその他の熱需要を満たすため、一箇所または数箇所の熱供給プラントで製造された冷
水、温水、蒸気などの熱媒を地域導管を用いて複数の熱需要家へ供給するシステムであり、個別供給では難しい、未利用エネルギーの活用に
適しています。本研究では、日本全国に1400ある清掃工場からの廃熱を地域冷暖房に利用した場合の、二酸化炭素削減量の算定を行なって
います。
○ 都市に対するクリーン開発メカニズム(CDM)の導入
CDM は京都メカニズムの一つで、発展途上国で温室効果ガスを削減するプロジェクトを行っ
て、そこで得る温室効果削減枠を売ることによってプロジェクトを成立させようとするものです。
いま、日本のさまざまな会社が CDM に取り組んでいます。利益を得ながら温室効果ガスを減
らせる、というのが特徴です。都市を対象にした CDM はさまざまなものが可能です。ごみの埋
め立て、交通、排水処理、など・・・CDM はまだ実行段階に入ったばかりで大きな可能性を持
っているといえるでしょう。
●
バイオマスの有効利用
(1)地球温暖化問題とバイオマス
バイオマスはカーボンニュートラルな資源であり、地球温暖化対策の一環として、世界的にその利用が進められています。
日本においても、関係府省が協力して、バイオマスの利活用推進に関する具体的取組や行動計画を「バイオマス・ニッポン総合戦略」として平成
14 年 12 月に閣議決定しており、平成 18 年 3 月には、これまでのバイオマスの利活用状況や平成 17 年 2 月の京都議定書発効等の戦略策定
後の情勢の変化を踏まえて見直しが行われ、国産バイオ燃料の本格的導入や林地残材などの未利用バイオマスの活用等によるバイオマスタウン
構築の加速化等を図るための施策が推進されています。
バイオマスの利用方法にはいくつかの選択肢があり、地域レベルで見た、より有効な施策導入が必要となります。また、食糧生産との競合や、社会
的影響など、幅広い視野にたった評価が求められています。
(2)関連する研究活動
○
木質系バイオマスの有効利用戦略
日本は国土面積の約 7 割が森林であることから、セルロース系バイオマスの活用ポテンシャルは大きい
と考えられます。今後、国内の森林において、エネルギー利用を目的とした樹木(早生樹)をどの程度
生産できるのか、それらの有効活用により温室効果ガスの排出をどれ程削減できるのかを評価すること
は、長期的な温暖化対策を立案する上で重要といえます。
当研究室では、エネルギー生産用の早生樹木や早生作物である栽培系バイオマスの生産ポテンシャ
ルを、気候条件や傾斜条件を考慮することにより現状に即して推計し、将来的なバイオエタノール供給
可能量及び、それに伴う二酸化炭素削減量を推定しています。また、製紙や住宅建設セクターにおけ
る木質バイオマス利用をも考慮した総合的利用戦略を考えています。
○
バイオエタノール・バイオディーゼル製造に伴う温室効果ガス削減効果
バイオ燃料であるバイオエタノール、バイオディーゼルは、低炭素化社会を担う燃料として、生産・導入が進められています。当
研究室では、バイオ燃料生産に伴う環境負荷をライフサイクル的に考えていこうとしており、現行の研究には、木質バイオマスか
らのバイオエタノール生産、パプアニューギニアにおけるキャッサバによるバイオエタノール生産、中国におけるバイオディーゼル
生産などがあります。
○
都市の有機性廃棄物の有効利用戦略
バイオマスの利用を推進するに当たっては、食糧との競合を避けるため、これまで未活用であったバイオマスの利用が有効と考えられます。我々の
都市活動においては、食品系廃棄物や、下水汚泥などの有機性廃棄物が出てきます。これらの用途としては、飼料化や堆肥化、メタン発酵などが
考えられますが、どのような基準で用途選定を行なっていけばよいでしょうか?当研究室では、地域レベルで見た需給バランス、施策導入に伴う温
室効果ガス削減や、コストなど様々な側面から、総合的に有効利用戦略を探っています。
○
農業系廃棄物の有効利用戦略
農業からは、稲わら、籾殻、バガス、家畜糞尿など様々な有機系廃棄物が生じてきます。これらを適正に管理す
ると同時に、バイオマスとして発電や堆肥製造などに有効利用することで、環境負荷を減らすことができます。当
研究室では、地域レベルで見た、有効な農業系バイオマス利用戦略も研究対象としています。
現在進めている研究のひとつに、ベトナムのメコンデルタ地域における、籾殻の有効利用があります。同地域で
は、脱穀した籾殻(rice husk)を河川投棄する問題が生じています。本研究では、rice husk を河川投棄するので
はなく、発電やバイオエタノール製造、燃焼灰の利用といった、様々な有効利用戦略シナリオを設計し、LCCO2、
LCcost、地域資源の有効利用性などの観点から評価しています。
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●
廃棄物マネージメント
(1)都市を中心とした物質循環解析と環境影響の最小化
都市がもたらす環境負荷には直接的な負荷と誘発的な負荷があります。二酸化炭素の排出の場合を例にとると、直接的な負荷とは、自動車が
都市を走るときに排気ガスとして出る分です。一方、誘発負荷としては都市で消費されるさまざまな製品を製造するときに生じる負荷が挙げられ
ます。都市は大量の物質を消費し、廃棄しており、これがさまざまな環境問題を引き起こしています。持続可能な社会に向けて、消費の効率化・
抑制や再利用により、都市が取り込む新規資源と廃棄量を減らすこと(ゼロエミッション化)が望まれています。
そのために、さまざまな物質に対して効率的な
利用や再利用の可能性が、技術的な側面、経
済性などさまざまな面から検討されています。し
かし、個別に検討した結果を単につなぎ合わせ
ると相互に矛盾するとか、必ずしも最適になって
いないことがあります。全体として把握したほう
が、環境負荷を下げられる可能性が大きくなる
ということは想像できるでしょう。本研究室では、
都市を含む地域さらには世界全体としての環境
負荷を小さくするための研究を進めています。
(2)関連する研究活動
○
未利用有機性廃棄物の利用戦略
生ゴミ、下水汚泥、畜産廃棄物、食品産業廃棄物などの有機性廃棄物は、廃棄物としての側面を持つと同時に、二酸化炭素の排出を伴わな
い資源としてのバイオマスの側面も持っています。しかし、現実にはこれらのバイオマスは発生量が多いわりに有効利用が進んでいません。コンポ
スト化やメタン発酵によるエネルギー利用、飼料化などの資源化技術はあるものの、需要と供給のバランスが取れていないことが多いのがうまくい
かない理由の一つです。たとえば、農地を多く持つ地域ではコンポストの需要が高いのに対し、都市部ではコンポストを製造しても引き取り手がな
い、という事態が生じます。
これらの有機性廃棄物の循環を考えるうえで特徴的なことは、循環がプラスチックなどと比べて狭い範囲で行われることです。これには、重い割
には価値の低い有機性廃棄物を広域移動すると輸送コストがかかること、他自治体の廃棄物は受け入れがたい、というような問題が根底にあり
ます。このように、コンポストや飼料化などでは再資源化物質の需要に制約があり、環境影響の最小化の観点から適切な有機性廃棄物の循環
形態は地域ごとに考える必要があります。また、これらのバイオマスを活用する方法の一環として製造業の活用があります。このように、「農業と
都市の連携」や「都市と産業の連携」は今後さらに重要になるでしょう。
○
ライフサイクルアセスメント手法を用いた廃棄物管理評価
廃棄物の処理、処分にはいろいろな方法があります。リサイクル、エネルギー利用、などなど。
特にリサイクルを行ったときの環境負荷に与える効果の解析は複雑です。たとえば、A という物質を廃棄せずに B という製品にリサイクルした場
合、これによって得られるメリットは、a)物質 A の廃棄物処分をしなくてもよいこと、と b) 物質 B を新規資源 C から作らずにすむこと、の二つで
す。一方、リサイクルすることは通常エネルギーを消費したり、汚染物質を多少排出します。これらを定量的に評価することによってリサイクルの
評価が可能になります。
<廃棄物管理の様々な方法に対する環境負荷の LCA 的評価>
都市の一般廃棄物を焼却(及び廃熱による発電)、メタン発酵、コンポスト化したときのライフサイクル的な環境負荷を比較する研究です。これら
のさまざまなプロセスによる環境影響を LCA 的に評価した点と、東京とサンパウロを比較した点に特徴があります。地球温暖化ポテンシャル
(GWP)、酸性化ポテンシャル、栄養塩、などのライフサイクル的な負荷を比べると、それぞれの国によって差が出てきます。これは廃棄物の組成
の差、発電で置き換わる電力の炭素強度の差などによるものです。
図:さまざまな廃棄物の処理処分のオプションをサンパウロと東京に適用した場合の地球温暖化ポテンシャルの比較
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<ミッドポイント・エンドポイントアプローチによるソウル市の廃棄物管理施策の評価>
LCA により廃棄物処理シナリオの評価を行なう際、どのように地域住民の意識
を盛り込 んでいくかは重要な課題です。現在の LCIA においては、エンドポイント
において、人間健康などへの被害影響を算定し、コンジョイント分析や AHP を用
いた統合化 を行なうのが一般的となっています。本研究では、ミッドポイントで
算定された地域レベルでの個別影響を住民に問い、エンドポイント評価との比較
を行なうことに より、上述したような政策決定に住民意識を取り込む手法論の
検討を行っています。
<廃棄物削減行動に与える心理学的因子の抽出および教育プログラムの効果>
→社会経済学的アプローチへ
●
社会経済学的アプローチ
(1)住民意識を考慮した環境施策の提案
様々な環境施策を評価するにあたっては、その施策によりもたらされる環境負荷の算定に
加えて、施策の対象となる住民の意識を明らかにすることが、効果的に施策を遂行する上
で重要といえます。
当研究室では、廃棄物や水辺といった身近な環境問 題において、住民の意識構造がどう
行動に結びついているのかを明らかにすることで、有効な環境改善施策の抽出に繋げよう
としています。
(2)関連する研究活動
○
環境インパクトの統合的評価
かつて公害問題に対してさまざまな技術を適用することに集中していた時代、環境技術は疑いもなく、環境をもっぱら良くする技術として考えられ
ていました。また、あまりにも激しい環境汚染に対して技術を適用した場合、その効果は明らかであったのです。しかし、今日環境問題が多様化
し、また環境の状態もさほど劣悪ではなくなってきています。そのような状態で環境改善技術を導入した場合、手放しでそれを善と判断すること
ができなくなってきたのです。リサイクル、排水処理など、環境を改善するための技術が数多く提案されていますが、われわれのこれまでの研究
でも、これらの技術は一方では環境負荷を削減しますが、他方では環境負荷の増加につながる場合が多々見られています。すなわち、リサイク
ルをすることによって新たな資源は節減され、また最終埋め立てをしなくてすむというかたちでの環境負荷の低減がある一方で、リサイクルのため
に追加的なエネルギーを消費してしまうのはその一例です。また高度排水処理による地域の水環境の改善と、それに伴うエネルギー由来の
CO2 排出量の増加ももう一つの例です。
このような、異なる種類の環境負荷を統合的に評価することが、現実の環境問題の解決にあたって必要になってきています。
さらに、伝染病を防ぎ人間の健康のリスクを減らす一方でその建設と運転で環境負荷を生じる上水道はどのように評価すればよいのでしょうか。
これらは、こちらを立てればあちらが立たず、というトレードオフの問題です。実際、われわれの身の回りにはトレードオフがたくさんあります。広い住
宅に住めば、生活の質は高まりますが、環境負荷は増えます。バリアフリーの工事をすれば、生活の質は高まりますが、新たな工事をするために
資材の消費などの環境負荷を生じます。これらのトレードオフの問題をどう考えるか、というのは難しい問題ですが、実はわれわれは生活の中でト
レードオフの判断をほとんど毎日しています。ほしいものや食べたいものと出費とのトレードオフがそうです。すいているけど時間がかかる電車と、混
んでいるが早い電車のトレードオフもそうでしょう。
環境面でのトレードオフはどう考えるのでしょうか。LCA(ライフサイクルアセスメント)においてはインパクト分析の段階でこれらの異なる環境インパ
クトを統合することになっています。しかし、単純に製品の LCA で用いられる手法を適用すると、地域性が強い環境対策の評価としては十分では
ありません。それぞれの場所における環境影響を求めた上でそれらを比較することが有効であり、必要なのです。環境の価値を金銭に換算する
方法は、われわれが毎日買い物で行っているお金に関するトレードオフに近い感覚を与えてくれます。
以下で扱うインフラストラクチュアに対する LCCO2 はかつて(2000 年くらいまで)は先進的な研究とされていました(LCA の研究成果参照)。しか
し、単に LCA の数字を出しただけでは意味がないという認識が今日広がってきています。機能が異なるものを比較したり、異なる環境負荷を比
較することが現実の問題として重要になっているのです。
<湖水改善事業における異種環境負荷の統合的評価>
富栄養化によってアオコガ発生している諏訪湖の水環境を改善する方法として、下水道の整
備率を上げること、底泥をしゅんせつすること、農地から出る肥料を削減することが対策として
考えられています。しかし、たとえば、下水道の場合、整備することによってコンクリートの管きょ
が長くなり、また処理場で処理する下水が増えるためにエネルギー消費が増え、これらは環境
負荷につながります。
これらを比較するため、諏訪湖の改善効果を金銭的に評価しました。仮想価値法(CVM)を使って、4 つの段階の水環境改善に対する住民の支
払い意思額を調査しました。また、二酸化炭素排出によるさまざまな損害は地球全体に及びますが、それを計算した文献の値を使うと、水環境
改善効果と二酸化炭素をはじめとしたそれ以外の環境影響をお金の価値で比べることができます。
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<ミッドポイント・エンドポイントアプローチによるソウル市の廃棄物管理施策の評価>
→廃棄物マネージメントへ
<廃棄物削減行動に与える心理学的因子の抽出および教育プログラムの効果>
循環型社会の形成に向けて、3R として Reduce(発生抑制), Reuse(再利用), Recycle(再資源化)が
進められています。 この中で、廃棄物の発生量自体を減らしていく、ということが最も重要である一方、
人のライフスタイルに密接に関わることから、実現していくことが困難でもあります。
人が廃棄物削減行動をするには、どのような心理的な因子が影響を与えているのでしょう。そのような
因子を解明することによって、市民に対し、廃棄物削減施策を進めるにあたって、より有効な施策を提
案できるようになるといえます。当研究室では、ブラジルのサンパウロを対象とし、市民の廃棄物削減行
動に与える心理的因子の大規模アンケートによる抽出を行い、心理学的行動モデルに基づく、モデル
解析を行なうと同時に、抽出因子を考慮した、教育プログラムを作成し、その実施効果の評価を行なっ
ています。
<水辺の価値算定および価値形成に与える影響因子の評価>
都市河川には雨水排除インフラとしての役割と、親水空間としての役割の側
面があります。そのような中、どのような水辺環境整備施策を実施するのが望
ましいといえるでしょう。例えば、下水道を整備すれば河川水質は良くなるもの
の、水量は減少する、整備へのエネルギーも、費用もかかります。一方、浄化
槽のような分散型処理を導入すれば、整備費用は小さく抑えられるが、あまり
水質は綺麗にならない、といった状況が考えられます。
このような場合を対象に、我々はコンジョイント分析の環境分野への適用に取り組んでいます。例えば、代替案(A 案:下水道、B 案:浄化槽整備
といったように)を構成する要素として、「水質」、「水量」、「整備にかかるエネルギー」、「整備に伴う支払増加額」といった数種の属性を考えると
します。コンジョイント分析では、これら各属性レベルを数段階設定したプロファイルを作成し、住民を対象に行なったアンケートの結果に基づき、
限界支払意思額を算定することが可能です。水質を1単位改善するのに、住民が見出している価値はいくらであるかを貨幣算定できることになり
ます。また、さらに進んで、水辺の価値形成に、水辺を構成する要素や住民の経験、属性などがどのように影響を及ぼしているのか、その構造を
解明し、施策提案につなげていく研究を進めています。
●
都市の衛生・水管理
(1)都市・流域スケールでの水循環マネージメント
国連環境計画「Global Environmental Outlook 2000 (地球環境概況 2000)」のなかで、淡水資源の確保や水質汚濁などの水管理の問題は今
後の課題として重要視されています。水管理については、これまでもダム建設や上下水道の普及などが行われてきましたが、最近はこのような
大規模な公共事業だけでなく、浄化槽や、雨水浸透、水の再利用などさまざまなスケールの管理施策が計画・実行されるようになっています。
そして、これらさまざまな施策が都市全体、流域全体の水循環に与える影響をより正確に評価することが現在求められていると言えます。また、
途上国の人口増や地球温暖化などが将来の水循環に与える影響が懸念されており、各地域において気候条件、地理的条件、社会環境などの
地域特性に応じて適切に水管理をしていくことが重要です。
<SRES に基づいた生活用水使用量の将来予測>
地球温暖化は、人口や経済発展など、様々な社会要因によって、大きく影響を受けることから、これらを考慮したシナリオ
に沿った将来予測が重要となってきます。地球温暖化予測の多くは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)により作成
された、温室効果ガス排出シナリオに基づいて行なわれています。IPCC によって 2000 年に承認された SRES(Special
Report on Emission Scenarios)では、A、B が経済志向か環境志向かを、1、2が地球主義志向か地域主義志向かを示
し、これらの組み合わせによって、A1、A2、B1、B2 の4つのシナリオが設定されています。 本研究では、この4つのストー
リーラインに沿って、将来の世界各国の生活用水量予測を行い、将来における有効な水管理方策を探っていきます。
<流域水収支モデルに基づく流域管理施策の提案>
ターゲットとする水域を対象に、左図のような水・汚濁物質収支モデルを構築することによ
り、排出源ごとの環境へのインパクトの大小を捉えることが可能となります。これに基づき、ダ
ム建設や節水、下水再利用、下水道普及、合併浄化槽普及などさまざまな流域管理施
策の導入の効果を、定量的に議論し、対象地域にとって、より有効な流域管理施策の提案
を行なうことが可能となります。
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(2)途上国における衛生管理技術の評価
途上国においては不十分な衛生管理により、住民への健康リスクが高くなっているといえます。下水道は有用な衛生システムではありますが、集
約型の排水処理であり、また整備費用が大きいことから、地域によっては、浄化槽やバイオトイレといった分散型の処理設備の方が向いている場
合も多いと考えられます。また、導入すべき衛生システムは、単に温室効果ガス排出量が小さいという観点のみでは評価できず、人の健康リスク
の低減効果や地域性などを総合的に評価することが重要となってきます。
<Red
River デルタにおける排水処理システムの評価>
当研究では、ベトナムの Red River デルタを研究対象地域とし、当該地域の生活排水及び糞尿処理に対するシステムとして、様々なシナリオを
地域性を加味して抽出し、各シナリオごとの環境インパクトの評価を LCA 及びリスク評価を併用することにより行なっていきます。LCA 解析の結
果は、DALY などの指標を用いて統合化していきます。
<バイオトイレにおける発熱効率の改善>
バイオトイレは、オガクズなどを担体として用い、高温好気条件で糞尿を処理するシステムです。水を使わないトイレ
として、富士山頂への設置例が有名ですが、国内では旭山動物園などその他の多くの設置例が見られています。ま
た、海外においても、北欧などにおいて導入事例が多く見られます。今後、水資源の乏しい発展途上国などにおい
て、有望となり得る分散型排水処理システムと考えられています。
バイオトイレの槽内を高温に保つことは、処理効率及び病原微生物回避の観点から極めて重要なことです。堆肥化
における微生物の発熱反応と同様の反応が、バイオトイレ中でも起こっており、槽の高温保持に寄与するというのが、
本来のバイオトイレシステムの特徴と言えます。然しながら、実際の運用においては、槽内の温度が十分に保たれ
ず、ヒーターを併用するケースが散見されています。ヒーターに伴う電力消費は大きく、途上国への導入を考えた場
合に、大きな制約因子となってしまいます。
そこで、当研究室では、バイオトイレ中で発熱に寄与する細菌群を特定し、これらを積極的に利用することにより、ヒ
ーターの使用量を低減できないか、という観点に立ち、バイオトイレ槽内の好熱性細菌の単離及び、単離細菌の発
熱効率の評価に取り組んでいます。
●
生物学的処理技術
(1)微生物を利用した汚染物質浄化技術
<硫黄脱窒による硝酸性窒素除去>
農業においては肥料や畜産糞尿という形で環境中に窒素分が投入されます。過剰投入された窒素分
は、土壌中で酸化反応(硝化)を受け、硝酸性窒素という形態となって地下水汚染を引き起こします。1
8年度の環境省の地下水調査結果では、硝酸性窒素の環境基準超過率は 41.3%と、測定項目の中で
最も高い値となっています。
硝酸性窒素の処理技術には、生物学的、物理化学的様々な処理技術が提案されていますが、その中
で、現場での管理が容易かつコストがかからない技術が求められており、微生物を用いた硝酸性窒素除
去が有望と考えられます。微生物による硝酸性窒素除去は脱窒反応と呼ばれ、無酸素条件下におい
て、電子供与体を添加することにより、硝酸性窒素を還元除去します。この電子供与体となる物質とし
て、有機物を用いるのが一般的な従属栄養性の脱窒ですが、畑地排水などでは、電子供与体となる有
機物含量が少ないのが実情です。
当研究室では、無機物である硫黄を電子供与体とした硝酸性窒素除去を進められないか検討しています。また、硫黄脱窒反応によって生成す
る硫酸塩を用いて、中国の半乾燥地域に広がるアルカリ土壌の中和を行なえないかも同時に検討しています。
<バイオトイレにおける熱環境改善>
バイオトイレは、オガクズなどを担体として用い、高温好気条件で糞尿を処理するシステムです。水を使わな
いトイレとして、富士山頂への設置例が有名ですが、国内では旭山動物園などその他の多くの設置例が見ら
れています。また、海外においても、北欧などにおいて導入事例が多く見られます。今後、水資源の乏しい発
展途上国などにおいて、有望となり得る分散型排水処理システムと考えられています。
バイオトイレの槽内を高温に保つことは、処理効率及び病原微生物回避の観点から極めて重要なことです。
堆肥化における微生物の発熱反応と同様の反応が、バイオトイレ中でも起こっ
ており、槽の高温保持に寄与するというのが、本来のバイオトイレシステムの特
徴と言えます。然しながら、実際の運用においては、槽内の温度が十分に保
たれず、ヒーターを併用するケースが散見されています。ヒーターに伴う電力
消費は大きく、途上国への導入を考えた場合に、大きな制約因子となってし
まいます。そこで、当研究室では、バイオトイレ中で発熱に寄与する細菌群を
特定し、これらを積極的に利用することにより、ヒーターの使用量を低減できないか、という観点に立ち、バイオトイ
レ槽内の好熱性細菌の単離及び、単離細菌の発熱効率の評価に取り組んでいます。
好熱性の細菌は、分子生物学的手法を用いた分析においても、優先種として確認され、さらに高温での単離もで
きています。しかし、これらが実際に槽内の発熱に寄与しているかどうかは、わかっていません。中温域から発熱に
寄与しうる細菌は、本プロセスだけでなく、コンポスト化の促進など様々な場での利用が可能と考えられます。
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(2)植物による大気汚染物質浄化
植物中には生体異物が入ってくるとそれを解毒し、体内の液胞や細胞壁に隔離するシステムが備わっています。具体的には、Phase I ~III のス
テップにより解毒が行われます。Phase I のステップでは主に酸化等により、脂溶性生体異物がより親水性の物質に変えられます。この段階では
特に monooxygenase であるチトクローム P450(CYP)等の酵素が働くことが知られています。Phase II においてはグルタチオンSトランスフェラーゼ
(GSTs)等の酵素により抱合化が行われ、物質はさらに水に溶けやすい形態に変換されます。この変換された物質は Phase III において液胞中
や、apoplast 等に隔離されることで解毒が完了するのです。
<沿道植物葉による PAH 代謝物の測定>
多環芳香族炭化水素類(PAHs)は、発癌性を有する物質もあることから、その定量化、処理方式の提
案が求められています。これまで植物中に蓄積された PAHs濃度を測定する研究事例はいくつかみら
れていますが、植物中に取り込まれた PAHs はどのように変換されるのでしょう。また、植物への取り込
みは葉表面からと気孔からではどのように異なるのでしょう。その速度は?といった様々な疑問点が生
じてきます。
当研究室では、PAHs のひとつ pyrene をモデル物質として選択し、その代謝物である 1-OH pyrene
のツツジ葉中での検出に成功しています。そこで、上述したような因子や、様々な環境因子の影響な
どを詳しく評価していこうとしています。
●
持続可能な社会に向けた企業・事業活動の評価
持続可能な社会を実現していくうえで、農林水産業や製造業、商業、サービス業などさまざまな企業活動や事業活動について、その活動を維
持・発展させながら、その活動が引き起こす環境影響をできるだけ小さくしていく必要があります。具体的には、ある1単位の資源投入あるいは環
境影響あたりで生産される価値やサービスをできるだけ大きくしていく必要があるわけです。一方で、そのような事業活動に対して消費する側も持
続可能な消費を進めていく必要があります。
<企業活動評価への Eco-efficiency の適用可能性>
Eco- efficiency とは、WBCSD(World Business Council for Sustainable Development)が作り出した用語で、資源消費や環境負荷の継続的な
低減を図りながら、競争力のある製品やサービスの生産を目指す際に指針となる概念です。そこでは「製品またはサービスの価値」と「環境影響」
を用いて定義されるものです。しかし Eco-efficiency の定量については未だ統一的な方法が確立されておらず、客観的でかつ入手可能な透明
性のある数値に基づいた定量方法の確立が求められています。
しかし、このような Eco -efficiency は評価する主体によって定義が違うのではないかと思われます。「製品またはサービスの価値」は、企業から
見れば利益のことでしょうし、その企業の製品を買う消費者から見ると製品の価値であり、またその企業の立地する地域からみれば雇用創出のこ
とでしょう。また、問題とする環境影響も主体によって違うでしょう。その企業の工場の近隣の住民は温暖化の原因になる二酸化炭素よりは有害
廃棄物、水質汚濁、大気汚染を重要視するでしょう。このような判断基準や価値観の違いを Eco-efficiency に反映させるとどのような使い方が
あるのでしょうか。これまでの研究では、エアコンの選択と工場の操業方針に関しての適用を試みています。
<持続可能な社会に向けた商業形態に関する考察>
本研究では、商店街を対象として、環境パフォーマンス評価、構成員の意識に
ついてのアンケート調査、さまざまな活性化策による効果と環境影響の評価など
を通じて、持続可能な社会に向けた商店街のあり方について考察を行いました。
特に全国で行われている「エコステーション活動」などに注目して調査を行いまし
た。これらの活動を行っている商店街の場合は直接的な環境負荷の低減より
も、むしろ人的なネットワークの形成の方に大きなメリットがあると思われます。
<産業エコロジーに関する研究~中国広州市のクリーナープロダクション>
中国の南部、香港に隣接する広州市(Guangzhou) は、中国の中でも最も経済成長率の高い地域の一つです。この広州の南部に巨大規模の工
業団地を立地する計画があります。その計画に対して、クリーナープロダクションを導入し、環境負荷の低い工場を立地させるとどの程度環境負荷
が低減できるかを、現地調査を中心にして調べました。
<この研究は AGS の研究の一環として行いました>
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東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻 都市環境工学講座 環境システム研究室 研究概要 [2007 年度版] <無断転載不可>
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都市の熱環境解析
近年ヒートアイランドの問題が大きく取り上げられています。都市再
生プロジェクトとして取り上げられたりしています。このヒートアイランド
に代表されるように、都市の気候は周辺の気象とは異なった状態を
示しています。とりわけ、夏季には不快な環境が作り出され、日中の
温度上昇と夜間の熱帯夜化が観測されます。このような現象は、
環境共生都市において目指される「生活の質の維持」という意味で
問題であるのみならず、冷房の負荷増大によ
る都市のエネルギー消費増大=二酸化炭素
排出量の増大を招くことにもなります。
確かにヒートアイランドは問題ですが、その対策
については十分に効果が把握できていません。ヒートアイランドが生じる原因としては、エネルギー消費と空調などによる人工排
熱の放出がまずあげられます。次に、建築物や舗装道路などで地表面が水分を持たないコンクリートに変わったため、蒸発に
よる熱が奪われなくなったことも大きな理由です。さらに、建物が建て込むことによって風通しが悪くなり、大気へ熱が逃げにくくなることも原因です。
基本的な立場としては、都市のエネルギー消費や都市の物理的な構造(都市の配置の問題から、個別建物や緑地の問題まで)を改善することに
よって人工的な都市気象の形成を抑制し、快適な熱環境をつくることを最終的な目標としています。
<RAMS を用いた重慶市熱環境解析>
中国内陸部にある重慶市は直轄市として中国の西部大開発の拠点となっています。ここは四川料理で
有名ですが、夏の暑さもまた激しいものがあり、40 度を超えることも珍しくありません。このような都市でヒ
ートアイランドが生じると影響が大きいことは容易に想像できるでしょう。重慶市はまた山岳都市としても有
名です。この重慶市を対象にして重慶大学と共同で熱環境の問題に取り組んでいます。この研究には国
内側でも国立環境研究所の一ノ瀬俊明さん、東京都立大学の泉岳樹が活発に加わっています。
実測による熱環境の把握、シミュレーションによる解析を行っていますが、当研究室ではシミュレーション
を主として扱っています。
シミュレーションには RAMS(Regional Atmospheric Modeling System)を用いていますが、このモデルは必
ずしも都市の熱環境の解析用ではないので、地表面近くの建物の状況を反映しておらず、その部分を改
造するなどの改良を加えています。
<台北市の街区規模の熱環境の改善>
台北の市内で住宅をはじめとしていろいろな建物が集積している地域の熱環境を改善するために街区規模のシミュレ
ーションで対策の効果を評価しました。具体的には、エアコンの設置位置や緑化の効果、壁面散水の効果などについ
てシミュレーションを行ないました。
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