看護ケアⅡ(口腔ケア・リンパ浮腫ケア)

2011/1/13
第8講 看護ケア
看護ケアⅡ
Ⅱ
(口腔ケア・リンパ浮腫ケア)
( 腔
浮腫
)
旭川赤十字病院
血液腫瘍内科病棟 緩和ケア認定看護師
蟹谷 和子
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
口腔ケアとは
歯垢や食物の残りカスを取り除いたり、歯磨き、うがい
などで口腔を清潔に保つ
歯石の除去、義歯の手入れや摂食嚥下訓練やリハビリ
歯石の除去
義歯の手入れや摂食嚥下訓練やリハビリ
テーションとしての言語訓練
口腔ケア
口腔ケアとは、口腔の疾病予防、健康の保持
増進、リハビリテーションによりQOLの向上を
めざした科学であり、技術である
(日本口腔ケア学会)
あさひかわ緩和ケア講座 2010
唾液の働き
1日の唾液の総分泌量:
1~1.5L/日
あさひかわ緩和ケア講座 2010
口腔ケアの適応
・咀嚼および嚥下の補助作用
・洗浄作用
(口腔内細菌の停滞・増殖を防ぐ)
・歯および粘膜の保護作用
・味覚に関与する溶媒作用
(おいしく食べるのに重要)
・pHの緩衝作用
(酸・アルカリ物質を中和する能力)
・発音・発声における円滑作用
(円滑力が低下すると構音・発声が
困難になる)
・抗菌作用など
(柿木保明・山田静子編著:看護で役立つ口腔乾燥と
口腔ケア、10貢、医歯薬出版、東京、2007より引用)
あさひかわ緩和ケア講座 2010
‹自分で歯磨きができない
‹経口摂取量が低下し、口腔内の自浄作用が低下
‹口呼吸による口腔内の乾燥が著しい
‹不顕性誤嚥による肺炎のリスクが高い
‹カンジダや口内炎などトラブルがある
‹爽快感を得たい
※口腔のセルフケアが可能な場合は、負担の
ない範囲でなるべく患者本人に実施してもらう
あさひかわ緩和ケア講座 2010
1
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口腔ケアの手順
姿
勢
リ
ラ
ク
セ
|
シ
ョ
ン
口腔ケアの方法
1.姿勢を整える
口
腔
内
観
察
含
嗽
・
口
腔
清
拭
視
野
の
確
保
誤嚥を予防するために、座位やセミファーラ位
ブ
ラ
ッ
シ
ン
グ
舌
粘
膜
の
清
掃
洗
浄
・
嗽
評
価
と
確
認
2.含嗽・口腔清拭
.含嗽
腔清拭
水や先口液などで湿潤(含嗽ができない場合は、スポ
ンジブラシなどを使用)
湿潤剤配合洗口液には、ヒアルロン酸
ナトリウムが配合されていて、保湿効果
がある。
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
口腔ケアの方法
口腔ケアの方法
4.舌・粘膜清掃
3.歯のブラッシング
歯ブラシの毛先の部分を歯面に当て、
図 ブラッシング法
毛先が広がらない程度の軽い力(約150~200g)
で小刻みにこする
で小刻みにこする。
歯ブラシや舌ブラシ、スポンジブラシを使用する。舌苔
は軽い力(約50g)でこする。強い刺激は、舌の糸状
乳頭まで除去し、感染や疼痛の原因となる。
疼
一度で全てを除去せず,
回数を重ねて行う
歯ブラシ
デンタルフロス
平滑舌
舌ブラシ
磨き残しの多い部分に
気をつける
歯間ブラシ
糸状乳頭が消失し、
滑らかになってしまう
スポンジブラシ
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口腔内を湿潤するケア
①はじめに口唇全体にオーラルバランス®やワセリン、リップク
リームなどを塗布(ケア時に口唇を進展しやすくし、痛みも軽
減できる)
②スポンジブラシを用いて水または微温湯で口腔粘膜全体に
湿潤させる。乾燥が強い場合は保湿剤(オーラルバランス®
やオリーブ油、白ゴマ油など)を3~4時間ごとに塗布する
やオリ
ブ油、白ゴマ油など)を3 4時間ごとに塗布する
スポンジブラシ
を水で湿らせ、
軽く絞る
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唾液分泌を促すケア
唾液腺マッサージ
耳下腺
示指から小指の4本
を頬に当てて,上の
奥歯あたりを後ろか
ら前へぐるぐる回す
ように押す.
オーラルバランス
を2cm程度スポン
ジブラシに取る
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顎下腺
親指をあごの骨の内
側のやわらかい部分
に当て,耳の下から
あごの下まで5カ所く
らいを順番に押す.
舌下腺
両手の親指をそろ
え,あごの真下から,
舌をつきあげるよう
にグッと押す
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2
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終末期がん患者に生じやすい
口腔トラブル
口腔トラブル
主な原因
口内乾燥
・脱水や絶食による唾液分泌減少 ・放射線治療による有害事象
・口呼吸や酸素投与
・抗精神薬・オピオイドなど
口臭
・唾液分泌減少やケア不足による細菌の貯留や歯周病の悪化
・吐物、痰、食物残渣などの口内残留や壊死組織
味覚障害
・低栄養によるビタミンや亜鉛などの微量元素の欠乏
・化学療法や放射線治療の有害事象
・カンジダ症
粘膜の脆弱
性(口内炎な
ど)
・唾液分泌減少による抗菌作用の低下、日和見感染
・ビタミンや微量元素欠乏による粘膜の脆弱化
・化学療法や放射線治療の有害事象
舌苔・痂皮様 ・口腔乾燥やケア不十分による洗浄不足
痰付着
義歯不適合
終末期がん患者への口腔ケア
・体重減少
・ケア不足による歯肉の腫脹や潰瘍
神津三佳:口腔内と口唇のケア,がん看護14(7),773貢,2009 より引用 一部改変
目的 :
口腔トラブルによる苦痛の予防、
または苦痛の緩和
・嘔気や呼吸困難などによりケア時間や体位に制限がある
・口腔トラブルの原因が除去しきれない
腔ト ブ
原因が除去しきれな
・患者や家族、医療者の口腔ケアへの認識が多様である
・口腔トラブル以外の苦痛な症状に注意やケアが集まりやすい
ので、口腔トラブルへの対応が後手に回りやすい
患者・家族を含めた医療チームで口腔ケアの目標を設定し、
最小の苦痛で、最大の効果が得られるようなケアを早期から
検討
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口腔乾燥のケア
口腔乾燥の症状
唾液 ・白く濁り糸を引く、細かい泡状になって粘膜に付着
・義歯粘膜面に唾液がついていない
舌
・舌乳頭が委縮して、舌背は平滑化
・溝状舌がみられ食物残渣が付着
・舌側縁部に歯列の型がつく
・舌苔が多く付着
口蓋 ・乾燥した喀痰や粘膜上皮が付着
頬粘膜 ・粘膜が委縮し伸展しにくい、出血しやすい
歯肉 ・歯垢や食物残渣が多く付着し炎症を起こしている
・出血しやすく、乾燥している
口唇 ・伸展しにくい、口角にびらんや潰瘍がみられる
歯
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・急にう歯が増える
西川史江:口腔乾燥,がん看護13(2),99貢,2008増刊 より引用 一部改変
‹ 洗口液を用いて含嗽(刺激性の少ないノンアルコールの液を使用)
頻回の含嗽は粘性成分のムチンを失わせるので乾燥を助長させる
‹ ブラッシング
事前に水で湿らせておく
歯肉にブラシの毛先が当たらないように、毛先の角度を調整する
‹ 口蓋粘膜・頬粘膜・歯肉清掃
口腔の奥から手前に転がすように行う
とくに汚染しやすい口腔底や口腔前庭を丁寧に行う
‹ 口唇口腔粘膜保護
2~4時間毎の定期的保湿が効果的
保湿剤は液体よりジェルタイプの方が口腔内にとどまりやすい
舌背以外にも舌下や頬粘膜に薄く塗りのばす
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口臭
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味覚障害
‹口臭の原因 (6割が舌苔で生産)
口腔内 未治癒のう歯、不良充填物内での腐敗、歯周病、舌苔、
口腔乾燥、口腔内のがん、義歯に付着している歯垢
全身性 耳鼻咽喉・肺・上部消化管の疾患、耳鼻咽喉のがん、重
症の糖尿病・肝硬変・尿毒症
症の糖尿病
肝硬変 尿毒症
西川史江:口臭,がん看護13(2),102貢,2008より引用
‹ケア
・舌苔・口腔内のケア~保湿剤や洗口液などの使用
10~20倍に希釈したオキシドール液の使用
・口腔内嫌気性菌を抑制する口臭予防剤を3~4回/日使用
例:ハイザック®(揮発性硫化物をキレート化して消臭)
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‹原因
・薬剤~抗がん剤や抗ヒスタミン薬、抗うつ剤など
・放射線治療~味蕾細胞の破壊、口腔粘膜の炎症、
唾液腺分泌機能の低下
・口腔清潔習慣~カンジダや舌苔が発生し、味孔
(味蕾の入り口)が塞がる
・亜鉛欠乏~食事摂取量の低下
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口腔粘膜炎
味覚障害
‹原因
‹食事の工夫
食事内容の工夫
味覚鈍麻
悪味症・
異味症
味覚過敏
・濃い味付け
・はっきりした味の料理
・だしをきかせたり、薬味・香辛料・酸味などを利用
・亜鉛を含む食品を摂取
亜鉛を含む食品を摂取
・感じにくくなっている味覚を通常より濃い味付けにする
・苦味や金属味など違う味がしたり、嫌悪感を覚える食
品は避ける
・塩味を控えてだしをきかせたり、ゴマ・ゆずなどの香り
や酢を利用
・薄味または素材そのもので食べる食品・料理を選択
川地香奈子:味覚異常,がん看護13(2),108貢,2008増刊 より引用 一部改変
・義歯などの物理的刺激
・熱症や薬剤
・口腔乾燥
‹ケア
・口腔内の清潔保持(歯ブラシで粘膜を傷つけない)
アルコールを含まない洗口液や水などで含嗽
を含まな 洗 液や水など 含嗽
疼痛が強い場合は生理食塩水を使用
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出血傾向のある場合のケア
血ぺいが自然に落ちるのを待つ。それまでの間は
血ぺいの上から保湿剤をのせて、湿潤させておく。
口が開かないときのケア
理由
開口障害
・顎関節炎
・関節の腫瘍
・顎骨骨折
・顎関節拘縮
・筋委縮、筋力低下
開口拒否
・過去の不快な体験
・口腔ケア時に感じ
る痛み
・羞恥心
・信頼関係の欠如
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第1段階
・口周囲のマッサージ
・口唇をつまんで動かす
・口腔前庭・頬粘膜、さら
に歯列に沿って歯およ
び歯肉を撫でる
・『撫でる』というところ
を刺激の少なそうなも
のから始める
・快適さを感じてもらう
・苦痛の少ないことから
根気よく
意思疎通が不
可能な場合
・意識障害
・認知症
など
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口腔トラブルに応じた薬剤
2段階によるアプローチ
第2段階
うがいは
『ガラガラ』で
はなく『グチュ
グチュ』で!
• 口腔内保湿
グリセリン入り含嗽や保湿剤・白ゴマ油などの使用
• 疼痛コントロール
キシロカインを使った含嗽+NSAIDS
モルヒネの使用
あさひかわ緩和ケア講座 2010
• 柔らかい歯ブラシかスポンジブラシを使用
(歯ブラシは状況に応じて)
• ケア実施前に保湿剤を粘膜に塗布し、全体を湿
潤させる
• 出血している時は、頻回に強く含嗽しない
出血している時は 頻回に強く含嗽しない
• 歯肉を傷つけないように、歯ブラシ、スポンジブラ
シは湿らせておく
• 血ぺいは絶対にはがさない
・感染症
・抗癌剤や放射線照射
・栄養不良
口腔乾燥
口腔用保湿
剤
ウエットケアプラス、オーラルバランス、ビ
バジェルエット、リフレケアH、マウスウォッ
シュ、グリセリン、絹水、オーラルウエット
口内炎
ステロイド
外用薬
ケナログ、デキサルチン、アフタッチ、
サルコート
口腔内カンジダ
抗真菌薬
フロリードゲル、イトリゾール、ファンギゾン
口腔内の痛み
ハチアズレ・キシロカイン含嗽液、アズノール・キシロカイ
ン軟膏
口臭
ハイザック
舌苔
オキシドール
OPTIM ステップ緩和ケアhttp://gankanwa.jp/tools/step/skill/oral_care.html
より引用 一部改変
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あさひかわ緩和ケア講座 2010
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症例
口渇に対する口腔ケア
・40歳代 男性 膵臓がん PS:3
・使用薬剤:オピオイド・ステロイド
・自覚症状:味が変、食べ物がおいしく感じない、口渇
・ケア:1回/日のブラッシング、水やアズレン含励行に加え、フロリードゲル服
用開始
カンジダ
生命予後が1~2か月以内と考えられるがん
患者の口渇は、口腔ケアなどの看護ケアが有
効である
3日後
最期までスイー
ツや差し入れを
楽しめた
(終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン
第1版より)
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
リンパの働き
<リンパ液の成分>
細胞で不要になった老廃物や白血球などに分解された
蛋白成分、リンパ球などの細胞成分、侵入してきた細菌、
脂肪など
z過剰な組織液を血液中に戻す
リンパ浮腫ケア
z血液中のタンパク成分量を維持
z細菌・ウイルスや異物が血液循環に進入するのを防ぐ
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
リンパ系の特徴(1)
リンパ系の特徴(2)
1.リンパ管の自動運搬能:
一定のリズムで自律的な収縮運動(10回/分)
2.弁構造:集合リンパ管には弁があり逆流を防ぐ
3.筋肉ポンプ:筋肉運動や関節運動、マッサー
ジなどで流れが促進(10~20倍)
4.その他:腹式呼吸、動静脈血流や胃腸運動も
リンパ運搬を補助
どの一つが欠けてもリンパ運搬に支障がでる!!
文献8より引用
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
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リンパ系の特徴(3)
• 表在リンパ管
四肢や体表面を走行
表在リンパ管のしくみ(1)
• 深部リンパ管
腹腔と胸腔内を走行
表
在
リ
ン
パ
管
文献8より引用
一部改変
深
部
リ
ン
パ
管
• 毛細リンパ管
・弁構造がない ⇒ あらゆる方向に流れる可能性
・全身に張り巡らされている ⇒ 側副リンパ路として
機能
文献8より引用
文献9より引用
あさひかわ緩和ケア講座 2010
表在リンパ系のしくみ(2)
• 集合リンパ管:弁構造がある
あさひかわ緩和ケア講座 2010
表在リンパ系のしくみ(3)
• リンパ分水嶺:
リンパの流れを区分する境界線
•それぞれの領域の主要
リンパ節に流れるしくみ
•境界線を境に弁は反対
向き
文献8より引用
あさひかわ緩和ケア講座 2010
表在リンパ系のしくみ(4)
文献9より引用
あさひかわ緩和ケア講座 2010
深部リンパ系のしくみ
• 主要リンパ連絡路:主要なリンパ節間では、毛細リン
パ管が多く、密になっている
文献8より引用
あさひかわ緩和ケア講座 2010
文献8より引用 一部改変
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浮腫の原因となる疾患
浮腫の成因
全身性浮腫
局所性浮腫
毛細血管内圧の上 心不全、腎不全・腎炎など 静脈性浮腫(静脈瘤や
昇
深部静脈血栓症など)
廃用性浮腫
血漿膠質浸透圧の 肝硬変、ネフローゼ、蛋白
低下
漏出性胃腸症など
血管透過性の亢進
その他
リンパの輸送障害に組織間質内の細胞性蛋白
処理能力不全が加わって高蛋白性の組織間液
が貯留した結果起きる臓器や組織の腫脹
(国際リンパ学会)
アレルギー性浮腫、炎
症性、血管性浮腫など
内分泌疾患による浮腫、
薬剤性浮腫、特発性浮腫
など
リンパ管の損傷・
発育障害
リンパ浮腫~定義
リンパ浮腫(原発性・続
発性)など
• 原発性(一次性)リンパ浮腫
発症の原因疾患が確定しない~リンパ管の発育不全・
形成不全など
• 続発性(二次性)リンパ浮腫
悪性腫瘍に伴う手術・放射線治療、リンパ管炎、
悪性腫瘍の増悪など
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
リンパ浮腫の臨床分類
リンパ浮腫の特徴
• 一般的に腕または足のむくみが多い
• 片側性が多い(下肢は両側にも起こる)
両側の場合は、左右差があることが多い
• 痛み・しびれは少ない
• 蜂窩織炎・角化・象皮症・リンパ漏などの合
併症がある
• 利尿剤による浮腫の改善は少ない
期
皮膚の状態と特徴
リンパ管シンチなどでリンパ管の閉塞はあ
るが、臨床的には浮腫がない状態
Ⅰ期
期
浮腫が軽度で水分が多く、指で押すと圧迫
(可逆期)
痕が残る 安静臥床で浮腫が軽減する
Ⅱ期
浮腫が強く硬くなり、繊維化や脂肪増生で
(不可逆期) 圧迫しても痕が残らず、安静では改善しな
い
Ⅲ期
皮膚が硬さを増して角化がみられ、放置す
(象皮期)
ると潰瘍を形成したり象皮症になる
0期
(潜伏期)
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リンパ浮腫の合併症
z 蜂窩織炎
z リンパ漏・・・蜂窩織炎を来しやすい
z 象皮症・皮膚硬化・・・感染を起しやすい
z 急性皮膚炎
z 白癬・皮膚感染症・・・蜂窩織炎を起しやすい
z 色素沈着
z 関節機能障害
z 褥創・・・感染を起しやすい
リンパ浮腫は炎症をきっかけに悪化しやすい
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
蜂窩織炎
蚊に刺されたような赤い斑点が所々に出現する場合が多
い。突然患肢全体が赤くなり高熱が発生する場合もある。
<症状>
疼痛を伴う広範囲の発赤
38℃以上の発熱
炎症反応の上昇
適切な治療をしなければ敗血症
治療を中断してしまうと、組織間隙内のどこかに潜んでい
た細菌が何かの機会に再び増えて再発する。
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リンパ浮腫による影響
視覚的
な影響
自立性
の低下
セクシャ
リティへ
の影響
自尊心
の低下
リンパ
浮腫
楽しみ・
趣味の
制限
経済的
負担
患者教育・セルフケア支援
•
•
•
•
•
•
•
皮膚や循環系・リンパ系の働き
リンパ浮腫の徴候
スキンケア
セルフマッサージ
圧迫療法・運動療法
日常生活行動の注意事項
トラブル発生時の対処
など
職場で
の困難
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治療の4本柱
•
•
•
•
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複合的理学療法
スキンケア
医療徒手リンパドレナージ(MLD)
圧迫療法
運動療法
※4つの方法を併用することで大きな効果が生まれる
※医師の診察を受けてから指示のもとに治療を開始
※知識と技術を習得したセラピストが浮腫の状況に応じ
て適切に実施する
※特に症状に合わない弾性圧迫衣の着用や無理な圧
迫療法は、症状悪化や炎症を招く原因になる
スキンケア
MLD
免疫力の低下、皮膚乾燥、
傷などにより感染を起こし
やすいため清潔や保湿を
保つ
患肢に溜まっているリンパ
液を側副路を介して、健
康なリンパ節から深部リン
パ管に誘導する
圧迫療法
運動療法
患肢を外部から適度に
圧迫することで、リンパ
液の再貯留を防ぐ
弾性包帯や弾性圧迫
衣を用いた状態で筋肉
ポンプ作用を促す
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MLDの禁忌
MLD
の禁忌
MLDのポイント
MLD
のポイント
原則的
禁忌
感染症による急性炎症、心性浮腫・心不全、
深部静脈血栓症、急性静脈炎など
相対的
禁忌
局所的
禁忌
悪性疾患(症状緩和として状況に応じて可能)
※
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(頸部)甲状腺機能亢進症、頸動脈洞症候群
(頸部)甲状腺機能亢進症
頸動脈洞症候群
重症な不整脈、頸部の急性疾患など
(腹部)急性・慢性疾患、開腹手術の既往、
腸閉塞、放射線治療後、大動脈瘤など
圧迫療法:原則的禁忌~心性浮腫、心不全など
相対的禁忌~高血圧、狭心症、不整脈など
あさひかわ緩和ケア講座 2010
方向 ・リンパ液の流れに逆らわず、一定方向に行う
・流したい方向のリンパ節にむかって行う
圧力 ・優しく撫でるくらいの軽い圧で行う
・手の圧を均等にかけ、柔らかく皮膚上を移動
速度 ・1秒間に1回程度の速度
順序 ・健康なリンパの領域をマッサージしてから、
浮腫の部分のマッサージに入る
・リンパ液を隣の領域に移動させていく
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MLD手技
MLD
手技
MLD手技
MLD
手技
静止クライス
シェップ手技
四肢後面を手掌全体で交互にすくう
ような手技(主に前腕・下腿に用いる)
指もしくは手掌全体で皮膚に接触し、
皮膚と皮下部分に円運動を加える手
技(身体のいたる部分に用いることが
出来る)
ドレ一手技
手掌全体を体表に接触させ、適度に
圧をかけながら前方へ柔らかく皮膚
を動かす手技(主に体幹部など広い
面のところに用いる)
ポンプ手技
母指と示指の間の部分を排液方向に
向けて置き、手掌全体で圧を加える手
技(主に四肢や乳房に用いられる)
あさひかわ緩和ケア講座 2010
MLD注意点
MLD
注意点
•
•
•
•
•
•
•
あさひかわ緩和ケア講座 2010
MLDでの
MLD
でのリンパ浮腫治療組み立て
リンパ浮腫治療組み立て
1.基本的知識の理解
リンパ分水嶺、リンパ連絡路
もまない
さすらない
たたかない
強すぎない
痛くない
早くなりすぎない
手をまわすことにこだわらない
2.考えの構築
禁忌の有無、リンパ浮腫の部位、
有効に使える主要リンパ節部位
3.患者への応用
手順(前処置→患肢の処置→後処置)
適切な体位(仰臥位、腹臥位、横臥位、座位)
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
前処置と後処置の重要性
前処置(体幹)
• 健康な体幹皮膚に対して前処置を行い、患肢
から誘導してくるリンパ液が吸収されやすい状
態をあらかじめ作る
特にリンパ分水嶺上ではマッサ ジを集中的
特にリンパ分水嶺上ではマッサージを集中的
に行い、リンパ液が健康な領域に流れやすく
する。
1.両肩後ろ回し、または両上肢の上下運動(10回)
2.腹部マッサージ、または腹式呼吸(5回)
(乳び槽に流入するリンパの流れを促す)
3 健康な主要リンパ節のマ サ ジ
3.健康な主要リンパ節のマッサージ
例)左上肢リンパ浮腫:右腋窩リンパ節と
左ソケイリンパ節
左下肢リンパ浮腫:左腋窩リンパ節
4.患肢と健康な主要リンパ節を結ぶ体幹のマッサー
ジ(主要リンパ連絡路の活用)
• 後処置として再度健康な体幹をマッサージし、
リンパ液の誘導をよりいっそう促す
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
9
2011/1/13
患肢の処置
・患肢の中枢端から始め、次第に末梢をマッサー
ジしていく
・患肢の関節から関節までを何等分かに分けて、
中枢側の方から末梢側へ、また常に流したい主
要リンパ節に向けてマッサージしていく
MLDの手順
MLD
の手順
患肢:右上肢
後処置(体幹)
• 後幹)
前処置をもう一度マッサージし、深部へと効果的
にリンパ液を誘導する
文献8より引用
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
圧迫療法
MLDの手順
MLD
の手順
患肢:左下肢
• 弾性圧迫包帯
• 弾性圧迫衣
文献8より引用
あさひかわ緩和ケア講座 2010
空気式マッサージ器
• 使用の前後に、患肢の中枢部や、体幹部分
をマッサージを行う必要がある
• マッサージ器のみを行うことは、推奨されない
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
リンパ浮腫指導管理料(2008
リンパ浮腫指導管理料(
2008年)
年)
診療報酬 100
100点
点
1.病院に入院中の患者で、子宮悪性腫瘍、子宮
付属器悪性腫瘍、前立腺悪性腫瘍または腋窩
部郭清を伴う乳腺悪性腫瘍に対する手術を
行ったものに対し、手術を行った月、またはそ
の前月もしくは翌月のいずれかに、リンパ浮腫
に対する適切な指導を実施した場合に、1回限
り算定できる
・リンパ浮腫重篤化予防の弾性着衣の購入費用は、
療養費払いの対象
あさひかわ緩和ケア講座 2010
10
2011/1/13
リンパ浮腫指導管理料(2010
リンパ浮腫指導管理料(
2010年)
年)
緩和ケア領域でのリンパ浮腫
診療報酬改定 100点
100点
2.当該保険医療機関入院中にリンパ浮腫指導管
理料を算定した患者であって、当該保険医療機
関を退院したものに対して、当該保険医療機関
において 退院した日の属する月またはその翌
において、退院した日の属する月またはその翌
月にリンパ浮腫の重症化等を抑制するための
指導を再度実施した場合に、1回に限り算定す
る。
(入院中の算定に加え、外来での算定ができるよ
うになった)
• 目標
QOLの維持・向上と合併症の予防
1.浮腫による圧迫感・不快感や疼痛の軽減
2.皮膚の損傷、感染の予防や改善
3.関節の可動性の保持や改善
あさひかわ緩和ケア講座 2010
あさひかわ緩和ケア講座 2010
リンパ浮腫診療ガイドライン
症例
リンパ浮腫診療ガイドライン作成委員会(2008)
• 30歳代 女性
胃がん(リンパ節切除後) がん性腹膜炎
行ったケア
・スキンケア(保湿・外傷予防)
(保湿
傷 防)
・安楽な体位の確保
・MLDのリスクを説明し、ケアプラン
を作成
・刺激の少ない柔らかいマッサージ
・スキンケアと外果部周囲のほぐし
手技を中心
・死亡後に最期のマッサージ
⇒ おだやかな柔らかい表情へ変化
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リンパ浮腫診療ガイドライン
リンパ浮腫診療ガイドライン作成委員会(2008)
クリニカルクエスチョン
推奨グ
レード
7.リンパ節切除後の蜂窩織炎は、リンパ浮腫の発症増悪の危険
因子となるか
B
8.リンパ浮腫患者に対する心理社会的介入を行った場合、行わな
かった場合と比べて患者のQOLを改善するか
D
9.リンパ浮腫患者に薬物療法を行った場合、行わなかった場合と
比べてリンパ浮腫の軽減に有効か
E
10.リンパ浮腫患者に外科治療を行った場合、行わなかった場合と
比べてリンパ浮腫の改善に有効か
D
11.リンパ浮腫患者に複合的治療(弾性着衣、弾性包帯、MLD、運
動、スキンケア)以外の治療を行った場合、行わなかった場合と
比べてリンパ浮腫の改善に有効か
D
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クリニカルクエスチョン
推奨グ
レード
1.リンパ浮腫に弾性着衣による圧迫療法を行った場合、行わなかっ
た場合と比べてリンパ浮腫を軽減させるか
C
2.リンパ浮腫に多層包帯法を行った場合、行わなかった場合と比べ
てリンパ浮腫を軽減させるか
C
3.リンパ浮腫に対するリンパドレナージを行った場合、行わなかった
場合と比べてリンパ浮腫を軽減させるか
C
4.リンパ浮腫患者に間欠的空気圧ポンプを行った場合、行わなかっ
た場合と比べてリンパ浮腫が減少するか
D
5.リンパ浮腫患者に対して運動療法を行った場合、行わなかった場
合と比べて治療効果が良好か
D
6.リンパ浮腫患者に対する肥満の評価は有用か
C
あさひかわ緩和ケア講座 2010
Take Home Message!
z口腔トラブルは、口腔乾燥から始まると言っ
てよく、乾燥を予防するケアが大事
z口腔ケアは一つの単なるケアではなく、生き
ることの尊厳を支援するケアである
zリンパ浮腫ケアを行うには、リンパ浮腫につ
いての正しい知識、患者教育・セルフケア支
援が大切である
あさひかわ緩和ケア講座 2010
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Take Home Message!
z緩和領域でのリンパ浮腫は、循環不全や低蛋
白血症などによる浮腫と混在しやすく、両方の
浮腫に対応することが必要となる
z緩和ケア領域でのリンパ浮腫ケアは 心地良
z緩和ケア領域でのリンパ浮腫ケアは、心地良
さとケアされているという安心感、人とのつな
がりを実感できるケアであり、また最期まで提
供可能なケアである
あさひかわ緩和ケア講座 2010
参考文献
1.神津三佳:口腔内と口唇のケア,がん看護14(7),772‐776,南江堂,東京,2009
2.篠原明子・有賀悦子:終末期における口腔ケアの重要性,臨床養,113(5),2008
3.OPTIM ステップ緩和ケア
http://gankanwa.jp/tools/step/skill/oral_care.html2010.11.16
4.柿木保明・山田静子編著:看護で役立つ口腔乾燥と口腔ケア,医歯薬出版,東
京,2007
5.岸本裕充:ナースのための口腔ケア実践テクニック,照林社,東京,2008
6 門田和気・戸谷美紀他編:がん患者の消化器症状マネジメント がん看護13(2)
6.門田和気・戸谷美紀他編:がん患者の消化器症状マネジメント,がん看護13(2)
増刊号,98‐114,南江堂,東京,2008
7.太田洋二郎他:根拠がわかる口腔ケア,がん看護15(5),南江堂,東京,2010
8.佐藤佳代子:リンパ浮腫治療のセルフケア,文光堂,東京,2008
9.小川佳宏・佐藤佳代子:リンパ浮腫の治療とケア,医学書院,東京,2007
10.増島麻里子他:リンパ浮腫ケア,がん看護13(7),南江堂,東京,2008
11.リンパ浮腫診療ガイドライン作成委員会編:リンパ腫診療ガイドライン2008年
度版,金原出版株式会社,東京,2009
12.日本緩和医療学会編:終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン第1
版,23貢,2007
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