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2.ダニ(マダニと疥癬)

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日皮会誌:116(14)
,2255―2258,2006(平18)
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2.ダニ(マダニと疥癬)
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和田 康夫(赤穂市民病院)
要
約
ヒトに寄生するダニの代表は,マダニと疥癬である.
虫の 3 つのステージが人に寄生しうる.
マダニは発育期により,獲物を待つスタイルが少し
異なる.卵から孵化した幼虫は,草場の先端で多数群
両者は同じダニ類とはいえ,生態は異なり寄生様式も
れを成して,動物へ取り付く機会を待つ習性がある
(図
違う.同一のマダニであっても,発育期が異なれば臨
1)
.一方,若虫や成虫になると,単独行動することが
床像も異なる.ここでは,マダニ,疥癬のライフスタ
多い.そのため,ヒトがマダニの被害を受けるとき,
イルを述べながら,これらのダニ疾患がどのような臨
幼虫の場合には多数寄生,若虫や成虫の場合には単独
床像を呈するのか,診断や治療をどのようにすすめて
寄生のことが多い.
いけばよいのか述べる.
はじめに
2)マダニの種類
我が国には,マダニ属 Ixodes,チマダニ属 Haemaphy-
ダニには,英語では tick と mite という 2 つの呼び
salis,キララマダニ属 Amblyomma,ウシマダニ属 Boo-
名がある.肉眼で見える大型のものを tick という.一
philus,カクマダニ属 Dermacentor,コイタマ ダ ニ 属
方,眼で見えにくい小型のものを mite という.ここで
Rhipicephalus が生息する.ヒト特異的に寄生するマダ
は,長期間ヒトに寄生するダニのうち,tick の代表とし
ニはいない.マダニはもともと,ネズミ,ウマ,ウシ
てマダニを, mite の代表として疥癬虫をとりあげる.
など種々の動物に寄生するダニである.カメやトカゲ
1.マダニ
が好きなマダニもいるが,マダニは宿主をそれほどは
選り好みしない.そのため野外で遭遇するとヒトにも
1)マダニの生態
寄生する.マダニから見ると,ヒトも吸血対象となる
マダニは,動物に張り付いてじっくりと血を吸う大
動物の 1 種である.以下に,ヒトへの刺症例の多いマ
型のダニである.大きさは 2∼20mm.主に山野に生息
ダニ属,チマダニ属,キララマダニ属の 3 つについて
する.マダニは,葉の裏や,枯れ草の先端で前脚を広
述べる.
げて,獲物が通りかかるのをじっと待つ.獲物がそば
a)マダニ属
を横切ると,脚をさかんに動かして,毛にしがみつき
北海道,本州中部,関東地方ではシュルツェマダニ
乗り移り,その後ゆっくり吸血する.口器は体前方中
が,東北,関東,中部地方ではヤマトマダニが,中国
央にあり,長く突出しており,長期間にわたり吸血し
地方ではタネガタマダニが多く報告されている.口器
やすい仕組みとなっている.蚊は数分以内に速やかに
が長いため,
容易には取れない.無理に引き抜くと,口
吸血を終え飛び去ってしまうが,マダニは長期間にわ
器がちぎれて皮膚に残る.シュルツェマダニは,
ライム
たりゆっくりと吸血する.雌成虫は寄生すると 1 週間
病の原因となるボレリアを保有していることがある.
以上,ときには 1 カ月以上皮膚に固着し吸血する.満
腹すると皮膚から脱落する.
ヒトに寄生するマダニのステージは,幼虫,若虫,
成虫の 3 つである.マダニは,卵から孵化した後,幼
虫,若虫,成虫へと発育する.幼虫は,ノネズミのよ
b)チマダニ属
チマダニ属は,日本に広く分布する.フタトゲチマ
ダニおよびキチマダニによる症例が多い.口器が短い
ため,ピンセットでひっぱると取れることがある.
c)キララマダニ属
うな小型囓歯類を 3∼4 日間吸血し,飽血すると地上に
マダニ属が東日本に多いのに対し,キララマダニ属
落ちる.脱皮し若虫となり,ノネズミ,ウサギなどの
は西日本に多い.西日本でのマダニ刺症の統計をとる
中型哺乳類などを 4∼5 日間吸血し,満腹すると地上に
と,マダニ属,チマダニ属,キララマダニ属が,それ
落ちる.脱皮し,成虫となる.卵を除いた幼・若・成
ぞれ 1!
3 の割合を占める1).キララマダニ属は,
日本で
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皮膚科セミナリウム
第 21 回
図 1 葉の裏のマダニ成虫(左)と幼虫(右)
成虫は単独で行動するが,幼虫は葉先で群れを成す.
人・動物・虫・原虫
図 3 タカサゴキララマダニ幼虫刺症
幼虫刺症の特徴は多数寄生である.丘疹の中央に 6本
脚の虫体を認めた.
などがある.
マダニは,その種類や発育期により,寄生部位が異
なることがある.例えば,ヤマトマダニは頭頸部を好
み,タカサゴキララマダニは,外陰部を好む2)(図 2)
.
若虫や成虫は単独で行動するため,これらの刺傷例は
1 個体によることが多い.それに対し幼虫は群れをな
して生活をしているため(図 1)
,幼虫寄生の場合は多
数寄生のことが多い(図 3)
.
マダニに刺されてから全身症状が出るなら,マダニ
図 2 タカサゴキララマダニ雌成虫刺症
大きさ約 2
c
m.キララマダニは外陰部を好む.
類のもっている細菌,ウイルスなどによる疾患を疑う
必要がある.tick-borne diseases という名称があるよ
うに,マダニは疾患を媒介することがあるからである.
日本で多いのは,ライム病,日本紅斑熱である.マダ
はタカサゴキララマダニ 1 種のみである.我が国でキ
ニでは,ライム病のボレリアは経卵感染しにくいが,
ララマダニ属のマダニを見た場合,海外からの輸入症
リケッチアは経卵感染を起こす.そのため,マダニの
例を除けば,通常はタカサゴキララマダニと考えてよ
幼虫にもリケッチアがいることがある.幼虫寄生の場
い.キララマダニ属の成虫は外陰部を好む.キララマ
合であっても,日本紅斑熱を含めたリケッチア感染症
ダニ属は,マダニ属と同じく口器が長いためはがれに
に注意が必要である.
くく,食いつきがしつこいマダニとして知られる.
4)診 断
3)臨床症状
診断は,8 本脚のダニを見いだせば容易である.ただ
自覚症状はあまりない.痛みやかゆみは,あっても
し,幼虫は大きさが 1mm 程度と非常に小さいため,見
軽度である.マダニは長期間皮膚に固着しているため,
逃す恐れがある.幼虫かどうかは脚の数を数えるとよ
患者自身が皮膚の異変に気づいていることが多い.皮
い.脚が 6 本であれば幼虫である.
膚科受診の経緯として,①虫がいるのに気づき自分で
引きはがした後に来院するケース,②虫がくっついて
5)治 療
いるが自分では取れないため来院するケース,③虫と
マダニ刺症の治療は,虫体の除去である.マダニは
は気づかずに急にイボができたと思って来院する場合
習性上,飽血すると離脱するため,放置してもいずれ
2.ダニ(マダニと疥癬)
図 4 指間の疥癬トンネル
疥癬を診断するには,まず疥癬トンネルを探す.
2257
図 6 ダーモスコピー
陰嚢の皮膚結節.ダーモスコピーで,疥癬トンネルを
明瞭に観察できる.
局所麻酔下に,まわりの皮膚を含めて口器を切除する.
マダニ幼虫刺症の場合は多数寄生のことがあり,全て
の虫体を局所麻酔下に摘除しなければならないとする
と,患者にとっても術者にとっても負担が大きい.し
かし幸いにも,成虫なら固着性が強いマダニ属やキラ
ラマダニ属であっても,幼虫の場合はピンセットで容
易に除去できたという報告が多い3).
マダニは病原体を保有することがあるため,虫体摘
除後も発熱や紅斑が出現しないかどうかに注意する.
図 5 疥癬トンネル
疥癬トンネルの盲端(右)に,疥癬雌成虫がいる.虫
体は微細な黒点として見える.
2.疥
癬
1)疥癬虫の生態
疥癬虫は,ヒトの皮膚の上で生涯を送る小型のダニ
はヒトからはがれ落ちる.しかしマダニが自然に脱落
である.疥癬雌成虫は表皮内に潜り込んだ後,疥癬ト
するのを待つのは望ましくないであろう.マダニが吸
ンネルを掘り進みながら産卵する.トンネル内で孵化
血を終えるまでには不快な長期日を要し,かつマダニ
した卵は,幼虫,若虫,成虫へと発育する.発育した
が病原菌を有している場合ヒトへの感染のリスクが高
雌成虫は新たに疥癬トンネルを掘り産卵する,という
くなるからである.そのためマダニを見つけた時点で
ライフサイクルを送っている.疥癬虫は,1.6m2 あると
摘除するのがよいと考える.まず先の細いピンセット
言われるヒトの皮表どこにでも寄生するわけではな
で虫体の摘除を試みる.ピンセットでマダニ口器の皮
い.好んで住む場所がある.疥癬雌成虫は,手や指,
膚刺入部位をはさみ,左右にゆすって引き抜いてみる.
男性の場合は陰部を好む.
吸着後まだあまり時間が経過していない場合や柔らか
い部位へ寄生した場合,口器の小さいチマダニ属の寄
2)疥癬虫の種類
生時などでは,この手技で摘除できることがある.こ
ヒゼンダニ Sarcoptes scabiei の 1 種のみである.疥癬
のとき注意すべきは,マダニの胴体部分をはさんでつ
虫は,マダニと違って宿主を選ぶ.ヒトヒゼンダニは,
ぶさないようにすることである.もし,
マダニがリケッ
ヒトにしか寄生しない.
チアやボレリアを保有している場合,胴体部分を押さ
えると,こられの病原菌が皮内へ注入される危険性が
3)臨床症状
高まるからである.ピンセットで摘除しにくければ,
症状は夜間のかゆみである.皮疹の分布も特徴的で
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皮膚科セミナリウム
第 21 回
人・動物・虫・原虫
ある.腋窩,胸部,腕,腰部,大腿内側に紅色丘疹が
は,疥癬虫が寄生してからの日時に依存し,寄生間も
多発する.注意すべきは,これらの皮疹部位と疥癬雌
なければ 2mm にみたず,時間が経過していれば 10
成虫寄生部位とが必ずしも一致しないことである.体
mm を超える.形状は直線状のことが多いが,
小刻みに
幹の丘疹を調べても,疥癬虫は見つかりにくい.
蛇行していたり孤を描いていたりすることもある.
c)疥癬トンネル内での虫体の所在(図 5)
4)
疥癬トンネルが見つかれば,次に疥癬虫を探す.疥
4)診 断
a)診断が難しい疥癬
癬雌成虫は,疥癬トンネルの中で卵を産みつけながら,
疥癬は,疥癬虫が見つかれば,その時点で診断が確
先端部位で穴を掘り進んでいる.そのため疥癬トンネ
定する.ところが疥癬の診断は,マダニほど容易では
ルの先端に注目すると,疥癬雌成虫が見つかる可能性
ない.同じダニでも,マダニは大きいため肉眼で簡単
が高い.線状皮疹を見た場合,その端を注意深く観察
に見分けがつくが,疥癬虫は小さいため肉眼では見え
し虫体がいるかどうか探索する.疥癬虫は,口器およ
づらいからである.疥癬虫は,大きさが約 0.5mm で乳
び前脚が黒褐色である.そのため,表皮内に寄生した
白色である. 大きさの目安は, 10 円玉を見るとよい.
ときに微細な黒点として認められる.線状皮疹の先端
10 円硬貨の表に平等院鳳凰堂が彫刻されているが,屋
に黒点があれば,それが疥癬雌成虫である.この部位
根の両端にのっている鳳凰の胴体部分と疥癬虫がほぼ
をねらって落屑を採取し,顕微鏡検査を行い疥癬虫か
同じ大きさである.あるいは手の大きさと比較するな
どうか確認する.もし疥癬虫が見つからなくても,虫
ら,手指の指紋の幅 1 つ分がおおよそ疥癬虫と同じ大
卵や抜け殻が見つかれば診断が確定する.ダーモスコ
きさである.このように小さなダニが表皮内に潜り込
ピーは,疥癬トンネルや疥癬虫を直視下に捉えること
むと,肉眼で見つけるのは極めて困難になる.
ができるため(図 6)
,疥癬の診断には極めて有用な
疥癬虫を見つけるのには手がかりがある.それは,
ツールと考えられる.
疥癬虫の住み家である.
5)治 療
b)疥癬虫の住み家(疥癬トンネル)
(図 4)
疥癬の診断が確定すれば,疥癬の治療を行う.外用
疥癬虫を見つけるには,まず疥癬虫の住み家である
疥癬トンネルを探すことから始める.疥癬トンネルは,
剤としては,クロタミトン軟膏や安息香酸ベンジル
長さが数ミリメートルあるため肉眼でも見つけること
ローションなどが有効である.外用は首から下の全身
ができ,さらに疥癬トンネルの先端部には疥癬雌成虫
へくまなく行う.疥癬の内服治療薬として,イベルメ
がいるからである.体幹部の丘疹からの疥癬虫検出率
クチン(ストロメクトール)が 2005 年 3 月に特定療養
は低く,軒並み調べても徒労に終わることが多い.疥
費制度のもと使用可能になり,2006 年 8 月には保険適
癬を効率よく検出するためには,住み家を同定する必
用になった.治療法については「疥癬診療ガイドライ
要がある.
ン」が日本皮膚科学会から発表されているため参照さ
疥癬トンネルの好発部位は,手,指間,手首,肘,
れたい5).疥癬は,
虫がいなくなっても丘疹やかゆみが
外陰部,臀部,腋窩などである.疥癬を疑ったときに
続くことがある.これを疥癬が治っていないものと誤
は,手や指の間に皮疹がないかどうか注意深く観察す
認し,疥癬の治療を漫然と続けてしまうことがある.
る.皮疹が見つかったとき,それが疥癬トンネルかど
疥癬の治療中も,虫体が残っているのかいないのか的
うか検討する.疥癬トンネルは,幅が約 0.5mm で長さ
確に判断することが重要と思われる.
は 5mm 前後の線状皮疹である.疥癬トンネルの長さ
文
1)山口 昇:マダニによる人体刺咬症例の概要.ダ
ニと疾患のインターフェース,p16―23, YUKI 書房
(福井)
,1994.
金芳堂(京
2)高田伸弘:病原ダニ類図譜,p140―141,
都)
,1990.
3)和田康夫,高橋健造,宮地良樹,塩田恒三,高田伸
献
弘:マダニ幼虫の多数寄生について,大原綜合病
院年報,43 : 23―26, 2000.
4)和田康夫:疥癬虫の生態に基づく疥癬検出法,臨
皮,59 : 66―70, 2005.
5)疥癬診療ガイドライン作成委員会:日皮会誌,
115 : 1125, 2005.
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