ただいま、ページを読み込み中です。5秒以上、このメッセージが表示されている場 合、Adobe® Reader®(もしくはAcrobat®)のAcrobat® JavaScriptを有効にしてください。 日皮会誌:116(14) ,2255―2258,2006(平18) Adobe® Reader®のメニュー:「編集」→「環境設定」→「JavaScript」で設定できます。 「Acrobat JavaScriptを使用」にチェックを入れてください。 2.ダニ(マダニと疥癬) なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表示さ れます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。 和田 康夫(赤穂市民病院) 要 約 ヒトに寄生するダニの代表は,マダニと疥癬である. 虫の 3 つのステージが人に寄生しうる. マダニは発育期により,獲物を待つスタイルが少し 異なる.卵から孵化した幼虫は,草場の先端で多数群 両者は同じダニ類とはいえ,生態は異なり寄生様式も れを成して,動物へ取り付く機会を待つ習性がある (図 違う.同一のマダニであっても,発育期が異なれば臨 1) .一方,若虫や成虫になると,単独行動することが 床像も異なる.ここでは,マダニ,疥癬のライフスタ 多い.そのため,ヒトがマダニの被害を受けるとき, イルを述べながら,これらのダニ疾患がどのような臨 幼虫の場合には多数寄生,若虫や成虫の場合には単独 床像を呈するのか,診断や治療をどのようにすすめて 寄生のことが多い. いけばよいのか述べる. はじめに 2)マダニの種類 我が国には,マダニ属 Ixodes,チマダニ属 Haemaphy- ダニには,英語では tick と mite という 2 つの呼び salis,キララマダニ属 Amblyomma,ウシマダニ属 Boo- 名がある.肉眼で見える大型のものを tick という.一 philus,カクマダニ属 Dermacentor,コイタマ ダ ニ 属 方,眼で見えにくい小型のものを mite という.ここで Rhipicephalus が生息する.ヒト特異的に寄生するマダ は,長期間ヒトに寄生するダニのうち,tick の代表とし ニはいない.マダニはもともと,ネズミ,ウマ,ウシ てマダニを, mite の代表として疥癬虫をとりあげる. など種々の動物に寄生するダニである.カメやトカゲ 1.マダニ が好きなマダニもいるが,マダニは宿主をそれほどは 選り好みしない.そのため野外で遭遇するとヒトにも 1)マダニの生態 寄生する.マダニから見ると,ヒトも吸血対象となる マダニは,動物に張り付いてじっくりと血を吸う大 動物の 1 種である.以下に,ヒトへの刺症例の多いマ 型のダニである.大きさは 2∼20mm.主に山野に生息 ダニ属,チマダニ属,キララマダニ属の 3 つについて する.マダニは,葉の裏や,枯れ草の先端で前脚を広 述べる. げて,獲物が通りかかるのをじっと待つ.獲物がそば a)マダニ属 を横切ると,脚をさかんに動かして,毛にしがみつき 北海道,本州中部,関東地方ではシュルツェマダニ 乗り移り,その後ゆっくり吸血する.口器は体前方中 が,東北,関東,中部地方ではヤマトマダニが,中国 央にあり,長く突出しており,長期間にわたり吸血し 地方ではタネガタマダニが多く報告されている.口器 やすい仕組みとなっている.蚊は数分以内に速やかに が長いため, 容易には取れない.無理に引き抜くと,口 吸血を終え飛び去ってしまうが,マダニは長期間にわ 器がちぎれて皮膚に残る.シュルツェマダニは, ライム たりゆっくりと吸血する.雌成虫は寄生すると 1 週間 病の原因となるボレリアを保有していることがある. 以上,ときには 1 カ月以上皮膚に固着し吸血する.満 腹すると皮膚から脱落する. ヒトに寄生するマダニのステージは,幼虫,若虫, 成虫の 3 つである.マダニは,卵から孵化した後,幼 虫,若虫,成虫へと発育する.幼虫は,ノネズミのよ b)チマダニ属 チマダニ属は,日本に広く分布する.フタトゲチマ ダニおよびキチマダニによる症例が多い.口器が短い ため,ピンセットでひっぱると取れることがある. c)キララマダニ属 うな小型囓歯類を 3∼4 日間吸血し,飽血すると地上に マダニ属が東日本に多いのに対し,キララマダニ属 落ちる.脱皮し若虫となり,ノネズミ,ウサギなどの は西日本に多い.西日本でのマダニ刺症の統計をとる 中型哺乳類などを 4∼5 日間吸血し,満腹すると地上に と,マダニ属,チマダニ属,キララマダニ属が,それ 落ちる.脱皮し,成虫となる.卵を除いた幼・若・成 ぞれ 1! 3 の割合を占める1).キララマダニ属は, 日本で 2256 皮膚科セミナリウム 第 21 回 図 1 葉の裏のマダニ成虫(左)と幼虫(右) 成虫は単独で行動するが,幼虫は葉先で群れを成す. 人・動物・虫・原虫 図 3 タカサゴキララマダニ幼虫刺症 幼虫刺症の特徴は多数寄生である.丘疹の中央に 6本 脚の虫体を認めた. などがある. マダニは,その種類や発育期により,寄生部位が異 なることがある.例えば,ヤマトマダニは頭頸部を好 み,タカサゴキララマダニは,外陰部を好む2)(図 2) . 若虫や成虫は単独で行動するため,これらの刺傷例は 1 個体によることが多い.それに対し幼虫は群れをな して生活をしているため(図 1) ,幼虫寄生の場合は多 数寄生のことが多い(図 3) . マダニに刺されてから全身症状が出るなら,マダニ 図 2 タカサゴキララマダニ雌成虫刺症 大きさ約 2 c m.キララマダニは外陰部を好む. 類のもっている細菌,ウイルスなどによる疾患を疑う 必要がある.tick-borne diseases という名称があるよ うに,マダニは疾患を媒介することがあるからである. 日本で多いのは,ライム病,日本紅斑熱である.マダ はタカサゴキララマダニ 1 種のみである.我が国でキ ニでは,ライム病のボレリアは経卵感染しにくいが, ララマダニ属のマダニを見た場合,海外からの輸入症 リケッチアは経卵感染を起こす.そのため,マダニの 例を除けば,通常はタカサゴキララマダニと考えてよ 幼虫にもリケッチアがいることがある.幼虫寄生の場 い.キララマダニ属の成虫は外陰部を好む.キララマ 合であっても,日本紅斑熱を含めたリケッチア感染症 ダニ属は,マダニ属と同じく口器が長いためはがれに に注意が必要である. くく,食いつきがしつこいマダニとして知られる. 4)診 断 3)臨床症状 診断は,8 本脚のダニを見いだせば容易である.ただ 自覚症状はあまりない.痛みやかゆみは,あっても し,幼虫は大きさが 1mm 程度と非常に小さいため,見 軽度である.マダニは長期間皮膚に固着しているため, 逃す恐れがある.幼虫かどうかは脚の数を数えるとよ 患者自身が皮膚の異変に気づいていることが多い.皮 い.脚が 6 本であれば幼虫である. 膚科受診の経緯として,①虫がいるのに気づき自分で 引きはがした後に来院するケース,②虫がくっついて 5)治 療 いるが自分では取れないため来院するケース,③虫と マダニ刺症の治療は,虫体の除去である.マダニは は気づかずに急にイボができたと思って来院する場合 習性上,飽血すると離脱するため,放置してもいずれ 2.ダニ(マダニと疥癬) 図 4 指間の疥癬トンネル 疥癬を診断するには,まず疥癬トンネルを探す. 2257 図 6 ダーモスコピー 陰嚢の皮膚結節.ダーモスコピーで,疥癬トンネルを 明瞭に観察できる. 局所麻酔下に,まわりの皮膚を含めて口器を切除する. マダニ幼虫刺症の場合は多数寄生のことがあり,全て の虫体を局所麻酔下に摘除しなければならないとする と,患者にとっても術者にとっても負担が大きい.し かし幸いにも,成虫なら固着性が強いマダニ属やキラ ラマダニ属であっても,幼虫の場合はピンセットで容 易に除去できたという報告が多い3). マダニは病原体を保有することがあるため,虫体摘 除後も発熱や紅斑が出現しないかどうかに注意する. 図 5 疥癬トンネル 疥癬トンネルの盲端(右)に,疥癬雌成虫がいる.虫 体は微細な黒点として見える. 2.疥 癬 1)疥癬虫の生態 疥癬虫は,ヒトの皮膚の上で生涯を送る小型のダニ はヒトからはがれ落ちる.しかしマダニが自然に脱落 である.疥癬雌成虫は表皮内に潜り込んだ後,疥癬ト するのを待つのは望ましくないであろう.マダニが吸 ンネルを掘り進みながら産卵する.トンネル内で孵化 血を終えるまでには不快な長期日を要し,かつマダニ した卵は,幼虫,若虫,成虫へと発育する.発育した が病原菌を有している場合ヒトへの感染のリスクが高 雌成虫は新たに疥癬トンネルを掘り産卵する,という くなるからである.そのためマダニを見つけた時点で ライフサイクルを送っている.疥癬虫は,1.6m2 あると 摘除するのがよいと考える.まず先の細いピンセット 言われるヒトの皮表どこにでも寄生するわけではな で虫体の摘除を試みる.ピンセットでマダニ口器の皮 い.好んで住む場所がある.疥癬雌成虫は,手や指, 膚刺入部位をはさみ,左右にゆすって引き抜いてみる. 男性の場合は陰部を好む. 吸着後まだあまり時間が経過していない場合や柔らか い部位へ寄生した場合,口器の小さいチマダニ属の寄 2)疥癬虫の種類 生時などでは,この手技で摘除できることがある.こ ヒゼンダニ Sarcoptes scabiei の 1 種のみである.疥癬 のとき注意すべきは,マダニの胴体部分をはさんでつ 虫は,マダニと違って宿主を選ぶ.ヒトヒゼンダニは, ぶさないようにすることである.もし, マダニがリケッ ヒトにしか寄生しない. チアやボレリアを保有している場合,胴体部分を押さ えると,こられの病原菌が皮内へ注入される危険性が 3)臨床症状 高まるからである.ピンセットで摘除しにくければ, 症状は夜間のかゆみである.皮疹の分布も特徴的で 2258 皮膚科セミナリウム 第 21 回 人・動物・虫・原虫 ある.腋窩,胸部,腕,腰部,大腿内側に紅色丘疹が は,疥癬虫が寄生してからの日時に依存し,寄生間も 多発する.注意すべきは,これらの皮疹部位と疥癬雌 なければ 2mm にみたず,時間が経過していれば 10 成虫寄生部位とが必ずしも一致しないことである.体 mm を超える.形状は直線状のことが多いが, 小刻みに 幹の丘疹を調べても,疥癬虫は見つかりにくい. 蛇行していたり孤を描いていたりすることもある. c)疥癬トンネル内での虫体の所在(図 5) 4) 疥癬トンネルが見つかれば,次に疥癬虫を探す.疥 4)診 断 a)診断が難しい疥癬 癬雌成虫は,疥癬トンネルの中で卵を産みつけながら, 疥癬は,疥癬虫が見つかれば,その時点で診断が確 先端部位で穴を掘り進んでいる.そのため疥癬トンネ 定する.ところが疥癬の診断は,マダニほど容易では ルの先端に注目すると,疥癬雌成虫が見つかる可能性 ない.同じダニでも,マダニは大きいため肉眼で簡単 が高い.線状皮疹を見た場合,その端を注意深く観察 に見分けがつくが,疥癬虫は小さいため肉眼では見え し虫体がいるかどうか探索する.疥癬虫は,口器およ づらいからである.疥癬虫は,大きさが約 0.5mm で乳 び前脚が黒褐色である.そのため,表皮内に寄生した 白色である. 大きさの目安は, 10 円玉を見るとよい. ときに微細な黒点として認められる.線状皮疹の先端 10 円硬貨の表に平等院鳳凰堂が彫刻されているが,屋 に黒点があれば,それが疥癬雌成虫である.この部位 根の両端にのっている鳳凰の胴体部分と疥癬虫がほぼ をねらって落屑を採取し,顕微鏡検査を行い疥癬虫か 同じ大きさである.あるいは手の大きさと比較するな どうか確認する.もし疥癬虫が見つからなくても,虫 ら,手指の指紋の幅 1 つ分がおおよそ疥癬虫と同じ大 卵や抜け殻が見つかれば診断が確定する.ダーモスコ きさである.このように小さなダニが表皮内に潜り込 ピーは,疥癬トンネルや疥癬虫を直視下に捉えること むと,肉眼で見つけるのは極めて困難になる. ができるため(図 6) ,疥癬の診断には極めて有用な 疥癬虫を見つけるのには手がかりがある.それは, ツールと考えられる. 疥癬虫の住み家である. 5)治 療 b)疥癬虫の住み家(疥癬トンネル) (図 4) 疥癬の診断が確定すれば,疥癬の治療を行う.外用 疥癬虫を見つけるには,まず疥癬虫の住み家である 疥癬トンネルを探すことから始める.疥癬トンネルは, 剤としては,クロタミトン軟膏や安息香酸ベンジル 長さが数ミリメートルあるため肉眼でも見つけること ローションなどが有効である.外用は首から下の全身 ができ,さらに疥癬トンネルの先端部には疥癬雌成虫 へくまなく行う.疥癬の内服治療薬として,イベルメ がいるからである.体幹部の丘疹からの疥癬虫検出率 クチン(ストロメクトール)が 2005 年 3 月に特定療養 は低く,軒並み調べても徒労に終わることが多い.疥 費制度のもと使用可能になり,2006 年 8 月には保険適 癬を効率よく検出するためには,住み家を同定する必 用になった.治療法については「疥癬診療ガイドライ 要がある. ン」が日本皮膚科学会から発表されているため参照さ 疥癬トンネルの好発部位は,手,指間,手首,肘, れたい5).疥癬は, 虫がいなくなっても丘疹やかゆみが 外陰部,臀部,腋窩などである.疥癬を疑ったときに 続くことがある.これを疥癬が治っていないものと誤 は,手や指の間に皮疹がないかどうか注意深く観察す 認し,疥癬の治療を漫然と続けてしまうことがある. る.皮疹が見つかったとき,それが疥癬トンネルかど 疥癬の治療中も,虫体が残っているのかいないのか的 うか検討する.疥癬トンネルは,幅が約 0.5mm で長さ 確に判断することが重要と思われる. は 5mm 前後の線状皮疹である.疥癬トンネルの長さ 文 1)山口 昇:マダニによる人体刺咬症例の概要.ダ ニと疾患のインターフェース,p16―23, YUKI 書房 (福井) ,1994. 金芳堂(京 2)高田伸弘:病原ダニ類図譜,p140―141, 都) ,1990. 3)和田康夫,高橋健造,宮地良樹,塩田恒三,高田伸 献 弘:マダニ幼虫の多数寄生について,大原綜合病 院年報,43 : 23―26, 2000. 4)和田康夫:疥癬虫の生態に基づく疥癬検出法,臨 皮,59 : 66―70, 2005. 5)疥癬診療ガイドライン作成委員会:日皮会誌, 115 : 1125, 2005.
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