平成23年度 新潟大学プロジェクト推進経費研究経過報告書(中間まとめ)

平成23年度
新潟大学長
新潟大学プロジェクト推進経費研究経過報告書(中間まとめ)
殿
申
請 者
所 属
代表者氏名
神経内科
河内 泉
本年度、交付を受けたプロジェクト推進経費について、現時点までの研究の進行状況等を報告し
ます。
プロジェクトの種目:奨励研究
プロジェクトの課題:Neuromyelitis optica における神経変成機構の解析
プロジェクトの代表者:所属 神経内科
職名 助教
氏名 河内 泉 分担者 0 名
プロジェクトの成果:
Neuromyelitis optica (NMO) は, 視神経と脊髄を病変の首座とする中枢神経系の炎症性脱髄疾患であ
る. 長い間, 多発性硬化症 (MS) との異同が論じられてきたが, 2004 年に NMO 患者血清中にアクアポリ
ン 4 水チャネル (AQP4) を標的とする新規自己抗体 (NMO-IgG / AQP4 autoantibodies) の存在が明ら
かとなり (Lancet 2004;364:2106, JEM 2005;202(4):473), NMO の脊髄炎と視神経炎における炎症性脱
髄病態は, MS とは異なった臨床病理をもつ可能性が示唆されている. 一方, 欧州において, 約半数の MS
症例には神経変成病態が高次脳機能障害を引き起こし, 就労をはじめとした社会生活と日常生活へ影響
していることが明らかとなっている. これまで我々は NMO における高次脳機能障害の存在を明らかにし
てきた. そこで本研究では, NMO の高次脳機能障害の原因となる神経変性病態の存在を明らかにし, そ
の機序を解明することを目的とする.
【方法と結果】
1. NMO における光干渉断層計を用いた網膜網膜視神経線維層 (retinal nerve fiber layer: RNFL)
厚と高次脳機能評価スケールの解析
NMO と MS の高次脳機能障害の原因となる神経変成病態のバイオマーカー候補 (スペクトラル
ドメイン光干渉断層計 [optical coherence tomography: OCT]) を解析検討し, 高次脳機能評価スケ
ールスコアとの間の関連を検討した.
具体的には, 寛解期 NMO spectrum disorder (NMOsd) 14 例 (definite NMO 5 例, limited NMO 9
例), 2005 年改訂 McDonald 診断基準を満たす再発緩解型 MS 17 例, 神経疾患の既往のない健常成人
37 例に対して, Repeatable Battery of Neuropsychological Tests (BRBN) 日本語版を用いて認知
機能を評価した. 次に, 高次脳機能評価を評価した患者のうち NMOsd 9 例, MS11 例に対して, スペ
クトラルドメイン OCT (RTVue-100)を用いて RNFL 厚を測定した. 特に認知機能との関連について,
「視神経炎の既往のない眼」との相関を解析した. 「視神経炎の既往のない眼」は臨床的既往がな
く, visual evoked potential での延長のない眼を対象とした.
1) 認知機能評価
集中力と情報処理速度を評価する符号数字モダリティー試験 (SDMT) と連続聞き取り加算試験
(PASAT) およびで言語性記憶を評価する選択想起試験 (SRT) では, NMOsd, MS ともに健常者と
(注)報告書は2枚程度とする。別紙による場合も同じ。
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比較して有意な低下を認めた (P < 0.05). 単語再生を評価する単語リスト生成試験 (WLG) では,
MS のみ健常人より有意な低下を認めた(P < 0.05). また, 視空間性記憶を評価する視空間認知試験
(SPART) では NMOsd, MS, 健常者の間で有意な差を認めなかった. 各スコアから総合評価した
BRBN index では, NMOsd, MS ともに健常者と比較して有意な上昇, すなわち認知機能障害を認め
た (P < 0.05). 各項目で健常者の平均スコア-1SD 未満の項目が 3 つ以上存在するものを認知機能障
害ありと判断した場合, MS で 47%, NMOsd で 57%に認知機能障害が存在した.
2) OCT による網膜の評価
視神経炎の既往のない眼について, 年齢とマッチさせた健常者データと比較検討した. NMOsd の
27%、MS の 36%の眼に RNFL 厚の菲薄化を認めた. また NMOsd において「視神経炎の既往のな
い眼」の RNFL 厚は PASAT, SDMT のスコアと正の相関を認める (P < 0.05) ことを, 年齢をコン
トロールした一般化推定方程式 (GEE) を用いて明らかにした.
2. NMO における大脳病理の解析
現在, 解析中である.
【本プロジェクトの今後の展望】
NMO と MS において, 高次脳機能評価スコアは網膜 RNFL 厚と相関しており, 網膜 RNFL 厚が
示唆する神経変成量と高次脳機能障害重症度には関係があることが推測された. 現在, NMO と MS
の大脳病理学的検討をし, 神経変成機構の詳細なメカニズムを解析している途上である.
近 年 , magnetization transfer お よ び diffusion tensor MRI 法 に よ り , NMOsd の
“normal-appearing gray matter” における異常が明らかとなっている. 本研究で得られた結果
は,「NMOsd では MS と同様に高次脳機能障害が存在し, 高次脳機能障害は再発・寛解という炎症・
免疫機転による発作とは別個の機序で出現する」という我々の仮説を支持するものである. 今後,
NMO における神経変性機構の詳細を解明する必要がある.
プロジェクト成果の発表(論文名,発表者,発表紙等,巻・号,発表年等)
(1) Saji E, Yanagawa K, Toyoshima Y, Arakawa M, Yokoseki A, Nishizawa M, Kawachi I.
Characteristic features of cognitive dysfunction in neuromyelitis optica. Multle sclerosis. 2011;
17 (Suppl. 10):S65.
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