1729 の秘密 — ラマヌジャンの 1 秒間 —

 1729 の秘密 — ラマヌジャンの 1 秒間 —
2016 年 10 月 28 日 浜田忠久
1
はじめに
ある夏の日、千曲川沿い、上田城近くの鮎料理の専門店の駐車場
で、
「1729」のナンバープレートを見かけた。同じ駐車場に「1111」
というナンバープレートもあった。
「1111」はおもしろい数の並びだ
が、私にとっては「1729」の方がおもしろい数である。それは、ラ
マヌジャン (1887∼1920) とハーディ (1877∼1947) が交わしたあま
りにも有名なエピソードによる。
それは、ある日ハーディが病床のラマヌジャンを見舞った際のこ
とである。
私は 1729 番のタクシーに乗ったのだが、その番号は
私には少々つまらないものに思えるといって、それが何
か良からぬ予兆でなければよいがといった。
「いいえ」と
彼は答えて曰く、
「それは非常に面白い数です:それは二
つの立方数の和として異なる二通りに表し得る最も小さ
い数です」(ハーディ, 2016:17)
言われてみれば、12 の 3 乗は 1728 だし、9 の 3 乗は 729 なので、
1729 = 123 + 13 = 103 + 93
(1)
と表せることはすぐにわかる。しかし、そのような性質をもつ最小
の数であることは、どうやって確かめたのだろうか。
ハーディの発言に返答するまでの時間を仮に 1 秒間として、その
間にラマヌジャンの頭ににひらめいたことは、今となっては知る由
もないが、しらみつぶしでない方法で考えたとしたら、という仮定
のもとに、再現を試みる。
1
1729 の特徴
2
まず、1729 は関連しておもしろい性質をもっている。
19 · 13 · 7 = 1729 = 123 + 13 = 103 + 93
13 · 7 =
91 = 63 − 53 = 43 + 33
7=
7 = 23 − 13
19 =
19 = 33 − 23
また、1729 は初項が 1 で公差が 6 の等差数列の最初の 4 項の積
と見ることもできる。
1729 = 1 · 7 · 13 · 19
さらに、隣り合う立方数の差は、必ず「6 · 三角数 + 1」の形にで
きるし、逆も成り立つ。なぜなら
(n + 1)3 − n3 = 3n2 + 3n + 1 = 6 ·
n(n + 1)
+1
2
と変形できるからである。上の一連の式が成り立つ秘密は、このこ
とから説明できる。
2 つの立方数の和として二通りに表すことができる
ための条件の考察
3
ある数が 2 つの立方数の和として二通りに表すことのできる条件、
すなわち、
r = a3 + b3 = c3 + d3 ({a, b} ̸= {c, d})
(2)
を満たす自然数 a、b、c、d が存在するための条件を考える 1 。
1
2つの立方数の和として二通りに表すことのできる数を ラマヌジャン数 ということ
があるらしい。
2
3.1
a + b と c + d の比
まず、最初の準備として、a + b と c + d の比を考える。
a3 + b3 = c3 + d3 = r = 一定 (a, b, c, d > 0) という条件のもとに、
a、b、c、d のうち最大の数を a とすると最小の数は b となる。関
数 f (x) = x3 は x > 0 において単調増加な凸関数であるから、この
とき a + b < c + d が成り立つ 2 。
全く同様に、同じ条件のもとで a+b の値は a と b の差が大きいほ
ど (すなわち b が小さいほど) 小さく、c + d の値は c と d の差が小
さいほど大きい。したがって、b = 0、c = d とおくと、a+b と c+d の
比の理論的な限界値が得られる。
√
√
c+d
r
1
3
1<
<2 3
·√
=
4 ≒ 1.5874
(3)
3
a+b
2
r
√
この 3 4 を連分数展開すると、
[1; 1, 1, 2, 2, 1, 3, 2, 3, 1, 3, 1, 30, 1, 4, 1, 2, 9, . . . ]
となり、これにより近似分数を求めると
√
3
8
3
< 4<
=
2
5
19
27
19 √
3
=
< 4<
=
2
2 ·3
12
17
22 · 52
100 √
227
3
=
< 4<
=
2
3 ·7
63
143
23
5
33
17
227
11 · 13
などとなる。a、b、c、d の可能な組み合わせを考える際に、これらの
限界値により候補を絞り込むことができる (本論考の範囲では、い
ちばん上の不等式のみで十分である)。
3.2
Z[ω] の導入
√
−1 + 3 i
整数 a、b と 1 の原始 3 乗根 ω =
に対して、a + b ω の
2
形の複素数をアイゼンシュタイン整数と呼び、アイゼンシュタイン
整数全体の集合を Z[ω] と表して アイゼンシュタイン整数環 と
このことは、y = x3 (x ≥ 0) の関数のグラフで、x を y の関数と読み替えると直感的
に理解しやすい。
2
3
呼ぶ。以後、
「整数」はアイゼンシュタイン整数を意味する。Z[ω] の
単数 (すべての整数の約数となる整数。すなわち 1 の約数であり、逆
数をもつ整数と言ってもよい) は、
±1, ± ω, ± ω 2 (= ∓(1 + ω))
の 6 個である。複素数平面上でこれらの 6 個の数に対応する点を結
ぶと、単位円に内接する正六角形となる。ある整数に 6 個の単数の
いずれかをかけたものも整数になり、これらの整数を互いに同伴と
√
−1
−
3i
いう。なお、 ω 2 =
は、上の式のカッコ内に示したよう
2
に、元のアイゼンシュタイン整数としての表記は − 1 − ω である
が、同時に ω の共役複素数でもあるので、共役複素数の組を表す際
にはそのまま ω 2 と表記した方がわかりやすい。たとえば a + b ω の
共役複素数は (a − b) − b ω と書くよりも a + b ω 2 と書いたほうが
わかりやすい。ただし、同じ数を複数の異なる表記で表すことにな
るため、注意が必要である。たとえば、3 + ω は同時に 2 − ω 2 と
も − 2 ω − 3 ω 2 とも表せる (表記の変換には 1 + ω + ω 2 = 0 を用
いて特定の項を消去するとよい)。本稿でも、適宜 ω 2 を用いた表記
をする。
有理素数 (通常の素数) は Z[ω] においても素数とは限らず、さら
に因数の積に分解できる場合がある。有理素数 p の Z[ω] における
素因数分解は、
1. 3 = −ω 2 · λ2 , ただしλ = 1 − ω, λ′ = 1 − ω = −ω 2 λ, よって
= (1 − ω) (1 − ω 2 ) = (−1 + ω) (−1 + ω 2 ) とも表せる。
2. p ≡ 1 (mod 3) のとき、p = π · π ′ = x2 − x y + y 2 , ただし
π = x + y ω, π ′ = x + y ω 2 ̸= ϵ π(ϵは単数), π 、π ′ にそれぞれ
共役な単数 ϵ、ϵ をかけることにより 6 通りの分解がある。
3. p ≡ 2 (mod 3) のとき、p は Z[ω] においても素数
と表される。
たとえば、7 は (3 + ω)(3 + ω 2 ) と素因数分解されるが、第 1 因数
(アイゼンシュタイン素数) の (3 + ω) は 6 種類の単数をかけること
によりそれと同伴な 6 つのアイゼンシュタイン素数があり、それぞ
4
れのアイゼンシュタイン素数に対して 1、ω 、ω 2 のうちどの 2 つを
軸にとるかで 3 通りの表現が存在する。
下の表において、横に並んだ 3 つの表現は同一の整数の異なる表
現である。規則性を見えやすくするために、かける単数も軸も反時
計回りに配置して示す。
かける単数
1, ω 軸
ω, ω 2 軸
ω2, 1 軸
1
−ω 2
ω
−1
ω2
−ω
3+ ω
2+3 ω
−1 + 2 ω
−3 − ω
−2 − 3 ω
1−2 ω
−2 ω − 3 ω 2
ω − 2 ω2
3 ω + ω2
2 ω + 3 ω2
−ω + 2 ω 2
−3 ω − ω 2
−ω 2 + 2
−3 ω 2 − 1
−2 ω 2 − 3
ω2 − 2
3 ω2 + 1
2 ω2 + 3
以後、6 を法として + 1 に合同な素数の集合を P+1 、6 を法とし
て − 1 に合同な素数の集合を P−1 と書くことにする。P−1 に属する
素数はアイゼンシュタイン素数でもあるが、P+1 に属する素数はア
イゼンシュタイン整数環においては素数ではなく、上に述べたよう
に 2 つの共役なアイゼンシュタイン素数の積に分解できる。
任意のアイゼンシュタイン整数 a + b ω は、この 3 種類のアイゼン
シュタイン素数と単数の積に一意に分解できる。また、a+b ω が 2 ま
たは P−1 に属する素数で割り切れるのは a も b もその素数で割り切
れるときに限る。
これを用いて、たとえば
1729 = 7·13·19 = (3+ω) (3+ω 2 ) (3+4 ω) (3+4 ω 2 ) (5+2ω) (5+2ω 2 )
と分解することができる (分解の表現は一通りではない)。さらに、
1729 = 13 · 7 · 19 = 13 (3 + ω) (3 + ω 2 ) (5 + 2 ω) (5 + 2 ω 2 )
= 13 (3 + ω) (5 + 2 ω 2 ) (3 + ω 2 ) (5 + 2 ω)
= (12 + 1) (12 + ω 2 ) (12 + ω)
= 123 + 13
= 19 · 7 · 13 = 19(3 + ω) (3 + ω 2 ) (3 + 4 ω) (3 + 4 ω 2 )
= 19(3 + ω) (3 + 4 ω 2 ) (3 + ω 2 ) (3 + 4 ω)
= (10 + 9) (10 + 9 ω 2 ) (10 + 9 ω)
= 103 + 93
5
とすることができる。
以上の準備のもとに、r を構成する素数の特徴を考察する。
3.3
a + b と c + d が互いに素の場合
(2) は
r = a3 + b3 = (a + b) (a2 − a b + b2 ) = c3 + d3 = (c + d) (c2 − c d + d2 )
(4)
と因数分解できる。a + b と c + d が互いに素と仮定し、
a + b = e, c + d = f
とおくと、
r =e·f ·g
と、r を e、f 、g の 3 つの自然数の積に表すことができ、さらに、
a2 − a b + b2 = f · g,
c2 − c d + d2 = e · g
と分解することができる。
さて、任意の整数 n について、n3 ≡ n (mod 6) が成り立つから、
r ≡ a3 + b3 ≡ a + b ≡ c3 + d3 ≡ c + d
∴r ≡e·f ·g ≡e≡f ≡g
(mod 6)
(mod 6)
となる (下の合同式の最初の 3 つの合同は自明。最後の合同は、そ
の前の合同式から必然的に導かれる)。なお、r、e、f は 6 を法として
合同であるから、r が 2 または 3 の倍数であれば同時に e と f も 2 ま
たは 3 の倍数になる。e と f が互いに素という仮定から、r は 2 また
は 3 を素因数として含まないことに注意しておく。したがって、
e、f 、g はいずれも 6 を法として 1 に合同であるか、いずれも 6 を法
として − 1 に合同であるかのどちらかである。
このとき、e、f 、g はすべて P+1 に属する素数の積になる。なぜな
ら、もし e、f 、g のいずれかが P−1 に属する素数で割り切れるとす
ると、
a3 + b3 = (a + b) (a2 − a b + b2 ) = (a + b) (a + b ω) (a + b ω 2 )
6
と因数分解したとき、(a + b ω) および (a + b ω 2 ) が P−1 に属する素
数 p で割り切れるのは a も b もその素数で割り切れるときに限るか
ら、(a + b) も p で割り切れることになる。同様に
c3 + d3 = (c + d) (c2 − c d + d2 ) = (c + d) (c + d ω) (c + d ω 2 )
と因数分解したとき、p は第 1 の因数のみに含まれるか、すべての因
数に含まれるかのいずれかである。いずれにしても、a + b と c + d が
互いに素であるという仮定に矛盾する。
この場合の、r の最小の値を計算する。e、f 、g は P+1 = {7, 13, 19, 31,
37, . . . } に属する素数で、e = a + b、f = c + d は (3) の条件を満た
13 √
19 √
3
3
さなければならない。 > 4 であり、1 <
< 4 だから、最
7
13
初の e、f 、g の組み合わせの候補は、e = 13、f = 19、g = 7 である
が、13 · 19 · 7 = 1729 は (1) を満たす。
3.4
a + b と c + d が互いに素でない場合
a + b と c + d の最大公約数を h とする。(4) において、
a + b = e = h · e′ , c + d = f = h · f ′
とおくと、
r = h · e′ · f ′ · g
と、r を h、e′ 、f ′ 、g の 4 つの自然数の積に表すことができ、さらに、
a2 − a b + b2 = f ′ · g,
c2 − c d + d2 = e′ · g
と分解することができる。前節の議論から、
a3 + b3 = (a + b) (a2 − a b + b2 ) = (a + b) (a + b ω) (a + b ω 2 )
c3 + d3 = (c + d) (c2 − c d + d2 ) = (c + d) (c + d ω) (c + d ω 2 )
と因数分解したとき、たとえば (a + b ω) (a + b ω 2 ) が 2 または P−1
に属する素数を因数にもつ場合は (a + b ω)、(a + b ω 2 ) それぞれに
同じ指数の因数を、(a + b) に同じ指数かそれ以上の因数をもたなけ
ればならない。また、
7
f ′ · g = (a + b ω) (a + b ω 2 )
e′ · g = (c + d ω) (c + d ω 2 )
となり、e′ と f ′ は互いに素だから、e′ 、f ′ 、g が 2 または P−1 に属す
る素数を因数にもつ場合はその指数は偶数であり、さらに h はその
指数の和を 2 で割ったのと同じだけかそれ以上の指数で同じ因数を
もたなければならない。
たとえば、e′ 、f ′ 、g のいずれかが 26 を因数にもてば、h は少なくと
も 23 を因数にもつことになり、e′ 、f ′ 、g のいずれかが 52 を因数にも
てば、h は少なくとも 51 を因数にもつことになる。
また、前節で述べたように、r が 3 の倍数であれば a + b と c + d は
共に 3 の倍数となる。さらに、
a2 − a b + b2 = (a + b)2 − 3 a b
だから、a2 − a b + b2 も c2 − c d + d2 も同時に 3 の倍数となる。上
の等式より、逆も成り立つ。つまり a2 − a b + b2 が 3 の倍数であれ
ば、a + b も 3 の倍数となる。したがって、r が 3 を素因数にもつ場
合、その指数は 2 以上である。
以上より、r を構成する h、e′ 、f ′ 、g について次のことが言える。
• e′ 、f ′ 、g の因数の単位は p (p ∈ P+1 )、3、22 、q 2 (q ∈ P−1 ) であ
る。したがって e′ 、f ′ 、g の候補は、大きさの順に並べて
{3, 4, 7, 9, 12, 13, 16, 19, 21, 25, 27, 28, . . . } となる。
• e′ 、f ′ 、g が因数として 3 をもつ場合、h も同じだけかそれ以上
の指数で 3 を因数としてもつ。
• e′ 、f ′ 、g が 2 または P−1 に属する素数を因数にもつ場合はその
指数は偶数であり、さらに h はその指数の和を 2 で割ったのと
同じだけかそれ以上の指数で同じ因数をもつ。
なお、3.1 節において、a + b と c + d の比の理論的な限界値として
√
3
4 を求めたが、1729 = 123 + 13 = 103 + 93 は、この規模以下の
c+d
19
3
数における
の最大値を与え、その値は
≒ 1.4615 <
a+b
13
2
である。もし 1729 よりも小さい r が存在するとすれば、そのとき
8
c+d
3
の値は
よりも小さくなる (言い換えれば e と f の比が
a+b
2
たとえば 2 : 3 などになることはない) ことに注意しておく。
これらの条件のもとに、(2) を満たす r で 1729 よりも小さいもの
があるかを考察する。まず、e′ と f ′ の組み合わせの候補として、上
の
f′
3
<
となるように選ぶと、
′
e
2
(e′ , f ′ ) = (3, 4)、(7, 9)、(9, 12) などが挙がる。それぞれの候補に対
して、上記の第 2 条件、第 3 条件にしたがって、h の最小の値を求
める。次に、a + b = h · e′ 、c + d = h · f ′ として a + b と c + d を求
める。
記の第 1 条件の候補集合から、1 <
e′
f′
3
7
9
9
12
12
13
4 6
18
9 9
63
12 54 486
13 9
81
13 6
72
16 24 288
16 4
52
·········
h
a+b
c+d
24
81
648
108
78
384
64
ここで、c3 +d3 が一定という条件のもとで c+d が最も大きくなる
のは c と d の差が最も小さくなるときであるから、103 +93 = 1729 に
おける 10 と 9 の和 19 は、r ≤ 1729 における c + d の最大値を与え
ている。したがって、条件を満たす 1729 よりも小さい r となるた
めには、上の表における a + b および c + d はいずれも 19 以下でな
ければならない。
しかしながら、この表に示されている通り、条件を満たす組み合
わせは存在しない。よって、(1) は2つの立方数の和として二通りに
表すことのできる最小の数を示す。
以上により、ラマヌジャンの発言の正しさが確かめられた。
9
4
おわりに
ラマヌジャンは 32 歳でこの世を去った。32 年はほぼ 10 億秒であ
る。本論考は、ラマヌジャンの生涯の 10 億分の 1 のひとかけらの
解明の試みということになる。もちろん、これは彼の数々の逸話の
中でも最も初等的なものである。
「2つの立方数の和として二通りに表すことのできる最小の数」に
理論的な裏づけをしてみようと思って始めた散歩は、意外に長い道
のりになってしまった。これだけのことをやるのであれば、12 以下
の自然数の立方をリストアップし、その組み合わせを考えた方が早
いかもしれない。しかし、推論を進めていくと、興味深い数学的構
造が見えてきた。無意味な遠足ではなかったと感じている。
なお、1729 は小さい方から 3 つ目のカーマイケル数でもある。カ
ーマイケル数とは、自身と互いに素である任意の自然数 a に対し、
an−1 ≡ 1 (mod n)
を満たす合成数 n であり、確率的素数判定法の一つであるフェルマ
ーテストにおいて、自身と互いに素である任意の底でテストをパス
することから、絶対擬素数とも呼ばれる。カーマイケルが当該の論
文を発表したのは 1910 年であるから、その時ラマヌジャンは 23 歳
であり、ハーディに手紙を書く 3 年前である。今回カーマイケル数
についてさらに調べたところ、(6k + 1)(12k + 1)(18k + 1) の形の
数で、この 3 つの因数がすべて素数であれば、この数はカーマイ
ケル数となることが 1939 年に証明されている。k に 1 を代入する
と 7 · 13 · 19 = 1729 となり、まさにラマヌジャンが指摘した数であ
る。なお、この証明はラマヌジャンの死後 19 年のことである 3 。
ラマヌジャンという天才が歩いた跡には、たくさんの新しい数学
の種がまかれている。真の天才にとっては、それは当たり前の事実
であり、あえて書き残す必要を感じなかったことかもしれない。し
かし、その種が育って開いた花は凡人にとっては時には美しい花で
あり、数学的真理の理解に役立つ練習問題になることもある。
これからも、そのような落ち穂拾いをしながら、気がついて面白
いと思ったことを書き留めていきたいと思う。
3
しかしながら、カーマイケル数とラマヌジャン数は、見かけほどにはつながりはなさ
そうである。小さい方から 10 個のカーマイケル数と (6k+1) (12k+1) (18k+1) の 3 因数
が素数となる k = 6, 35,45 について調べたところ、1729 以外はいずれもラマヌジャン数
ではなかった。
10
補遺: コンピュータによる落ち穂拾い
(2) を満たす a, b, c, d の組み合わせを、r ≤ 1000000000 = 109 ま
で求めた。r ≤ 104 から r ≤ 109 まで、組み合わせの個数を下にま
とめる。
r ≤ 104
r ≤ 105
r ≤ 106
r ≤ 107
r ≤ 108
r ≤ 109
2
10
5
43
4.3
150
3.4884
487
3.2467
1570
3.2238
個数
個数の比
「個数」は、基準値以下の総数であり、
「個数の比」は、
「個数」の
行において、一つ左の個数との比である。調べる範囲が 10 倍にな
ると、r の個数が何倍になるかを示す値で、r ≤ 105 と r ≤ 104 との
比は 5 であるが、その値は徐々に小さくなり、r ≤ 109 と r ≤ 108 の
比は 3 倍強となっていることがわかる。r の小さい方から 15 通りを
下に列挙しておく。
123 + 13 = 103 + 93
3
3
3
16 + 2 = 15 + 9
3
= 1729 = 7 · 13 · 19
= 4104 = 23 · 33 · 19
243 + 23 = 203 + 183 = 13832 = 23 · 7 · 13 · 19
273 + 103 = 243 + 193 = 20683 = 13 · 37 · 43
323 + 43 = 303 + 183 = 32832 = 26 · 33 · 19
343 + 23 = 333 + 153 = 39312 = 24 · 33 · 7 · 13
343 + 93 = 333 + 163 = 40033 = 72 · 19 · 43
363 + 33 = 303 + 273 = 46683 = 33 · 7 · 13 · 19
393 + 173 = 363 + 263 = 64232 = 23 · 7 · 31 · 37
403 + 123 = 333 + 313 = 65728 = 26 · 13 · 79
483 + 43 = 403 + 363 = 110656 = 26 · 7 · 13 · 19
483 + 63 = 453 + 273 = 110808 = 23 · 36 · 19
513 + 123 = 433 + 383 = 134379 = 35 · 7 · 79
533 + 83 = 503 + 293 = 149389 = 31 · 61 · 79
543 + 203 = 483 + 383 = 165464 = 23 · 13 · 37 · 43
11
r ≤ 1000000 = 106 の中で、a + b と c + d が互いに素なものを抜
き出すと、
= 1729 = 7 · 13 · 19
123 + 13 = 103 + 93
3
3
3
3
= 20683 = 13 · 37 · 43
3
3
3
= 40033 = 72 · 19 · 43
27 + 10 = 24 + 19
3
34 + 9 = 33 + 16
533 + 83 = 503 + 293 = 149389 = 31 · 61 · 79
583 + 93 = 573 + 223 = 195841 = 37 · 67 · 79
673 + 303 = 583 + 513 = 327763 = 31 · 97 · 109
823 + 513 = 753 + 643 = 684019 = 7 · 19 · 37 · 139
893 + 23 = 863 + 413 = 704977 = 7 · 13 · 61 · 127
983 + 353 = 923 + 593 = 984067 = 73 · 19 · 151
の 9 通りとなる。最右辺の各因数はいずれも 6 を法として 1 に合同
である。
謝辞
本研究をまとめるにあたり、多くの方々にご助力いただきました
ことを、心より感謝申し上げます。まず、貴重な発表の機会を与え
てくださった飯高茂先生には大変お世話になりました。
また、草稿を読み、予行の発表を聞いた上で貴重なコメントを
くださった、安藤弘章氏、井上昌一氏、竹村尚子氏、半田伊久太
氏、宮本憲一氏、矢崎一成氏をはじめとする本講座の受講者有志
(mathquest) のみなさま、ありがとうございました。その中でも、
水谷一氏から、Z[ω] (アイゼンシュタイン整数環) で考えることが
この研究の鍵になりそうだという助言をいただきました。これは最
も本質的な指摘で、これなくしては前に進むことはできませんでし
た。改めて感謝を申し上げます。
参考文献
G.H. ハーディ, 2016,. 『ラマヌジャン ―― その生涯と業績に想
起された主題による十二の講義 数学クラシックス 第 30 巻』
丸善.
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