ポリオミノの宇宙 日本ユニシス株式会社 川辺治之 2014 年 11 月 19 日 ポリオミノとは ポリオミノは,何個かの同じ大きさの正方形をほかの正 方形の一つの辺同士をつなぐ ようにして作られた図形で ある. モノミノ ド ミノ 直線形 トロミノ 鉤形 トロミノ 直線形 方形 T形 斜形 L形 テトロミノ テトロミノ テトロミノ テトロミノ テトロミノ 2 / 45 ポリオミノとは ソロモン・W・ゴロム( 1932– )は,離散数学や符号理論 分野の研究者で,ゴロム符号などにその名を冠している. 「ポリオミノ」は,1953 年にゴロムが大学院生のとき に「発明」した語である.2 個の正方形をつないだ形であ る「ド ミノ」 ( Domino )の “D” を 2 を意味する接頭辞,す なわち “D”(2)+“omino” と「解釈」して,3 個の正方形を つないだものを「トロミノ」 ( “Tr”(3)+“omino” ),4 個の 正方形をつないだものを「テトロミノ」 (“Tetr”(4)+“omino”) というように名づけた. また,これらの総称として「多」を意味する “Poly” を接 頭辞として「ポリオミノ」 ( “Poly”(n)+“omino” )と呼ぶ. 3 / 45 ポリオミノとは 画面上方からテトロミノが次々と降ってくるコンピュー タ・ゲーム「テトリス」は, 「 テトロミノ」と「テニス」を 組み合わた造語であると,テトリスの考案者の一人である ワジム・ゲラシモフが語っている. 天洋( 現( 株)テンヨー)から「プラパズル」として商 品化.プラパズル No.600 は,ヘキソミノ 35 種類を 11 × 19 + 1 に収めるというもの. 現在では,ハナヤマから発売されているチョコレート・ パズルという呼称のほうがよく知られている. ゴロムは 1975 年に “PENTOMINOES” を商標として登 録( 登録番号 1008964 )したが,1982 年に取り下げた. 4 / 45 プラパズル No.600 5 / 45 プラパズル No.600 6 / 45 12 種類のペント ミノ T U V F I W L X P Y Z N 7 / 45 ペント ミノ 12 種の敷き詰め 8 / 45 ポリイアモンド T.H. オーバーンは,二つの正三角形をつなぎ合わせた 菱形をダ イアモンド と呼ぶことから,それを一般化して, トリアモンド( triamond ),テトリアモンド ( tetriamond ),ペンティアモンド( pentiamond ),ヘキシ アモンド( hexiamond )と名づけた. 9 / 45 12 種類のヘキシアモンド ( 羊飼いの)杖 道標 鉤 王冠 棒 山形 蛇 蝶 ロブスター 六角 ヨット スフィンクス 10 / 45 ド ミノによる敷き詰め 下記の盤を 31 個のド ミノで覆うことはできるか. 11 / 45 ゴモリーの定理 8 × 8 のチェス盤から対角の位置にある二つの隅のマス を取り除くと残りの部分はド ミノで敷き詰められない.同 様にして,8 × 8 のチェス盤から同色の二つのマスを取り 除くと残りの部分はド ミノで敷き詰められない. この逆が,アルフレッド・P. スローン財団代表でかつて は IBM の研究担当副社長であったラルフ・ゴモリーに よって証明された.すなわち,8 × 8 のチェス盤から取り 除く二つのマスの色が相異なるならば,残りの部分はド ミ ノで敷き詰めることができる. 12 / 45 ゴモリーの「壁」 下図の壁によって,ド ミノをどのように盤に敷き詰めよ うとしても,必ずド ミノは「一列」に並んだマスに沿って 置かれることになる. 13 / 45 ゴモリーの壁に沿った敷き詰め 8 × 8 の盤から取り除かれた二つのマスの色が相異なる ならば,この 64 個のマスの並びは二分され,そのど ちら の部分も偶数個のマスになる. ( または,取り除かれる二 つのマスがこの並びの中で隣接しているならば,偶数個の マスからなる部分が一つだけあることになる. )そしてこ の並びの中の偶数個のマスからなる部分は,ド ミノを敷き 詰めることができる. 14 / 45 長方形の断層線のない敷き詰め 長方形のどの「格子線」 ( 長方形の辺に平行で,相対す る二辺を結ぶ,マスの幅の間隔で引かれた直線)も少なく とも 1 個のド ミノを横切るように,ド ミノを敷き詰めるこ とができるか. たとえば,下図の 3 × 4 の長方形の敷き詰めでは,長方 形の中心を通る縦の格子線はどのド ミノも横切らない.ド ミノを煉瓦だとすると,このような格子線は構造的に脆弱 な「断層線」と考えることができる. 15 / 45 5 × 6 の断層線のない敷き詰め 15 個のド ミノを 5 × 6 の長方形に敷き詰めるのが最小 解.本質的には下図の 2 種類ある. 16 / 45 6 × 6 の正方形の場合 6 × 6 の正方形全体をド ミノで覆うことができたとする と 18 個のド ミノが使われることになるが,格子線は 10 本 ( 縦向き 5 本と横向き 5 本)ある. それぞれの格子線が横切るド ミノは偶数個であること が証明できる.したがって,断層線のない配置では,すべ ての格子線は少なくとも 2 個のド ミノを横切らなければな らない.すると,10 本の格子線では,それらが横切るド ミノは少なくとも 20 個必要となるが,6 × 6 の盤には 18 個のド ミノしかない.つまり,6 × 6 の正方形全体をド ミ ノで覆うことはできない. 17 / 45 長方形の断層線のない敷き詰め 偶数個のマスからなる長方形の縦および横がど ちらも 4 より大きいならば,6 × 6 の場合を除いて,常に断層線の ないド ミノの敷き詰めが存在する. 下図は 6 × 8 の長方形の断層線のない敷き詰め 18 / 45 長方形の断層線のない敷き詰め 5 × 6 および 6 × 8 の長方形から,その幅または高さを 2 マスずつ広げていくことで,これらより大きいすべての長 方形を断層線がないように敷き詰めることができる. 横幅を 2 マス広げるには,長方形の右辺に接するすべて のド ミノを右に 2 マス移動させ,空いた隙間に横向きのド ミノを置く. 19 / 45 直線形ト ロミノによる敷き詰め 8 × 8 の盤を 21 個の直線形トロミノと 1 個のモノミノで 覆うことはできるか. 赤:22 個,白:21 個,青:21 個 20 / 45 例外的な四つのマス 3 色の塗り分けをどのように回転・裏返ししても,青マ ス,白マスにならないマスは下図左の 4ヶ所だけである. 21 / 45 鉤形ト ロミノによる敷き詰め 1 個のモノミノを 8 × 8 の盤のどこに置いても,残りの 領域を 21 個の鉤形トロミノで敷き詰められるか. 22 / 45 鉤形ト ロミノによる敷き詰め 下記の 3 種類の図で,1 個のモノミノを 7 × 7 の盤のどこ に置いても,残りの領域を鉤形トロミノで敷き詰められる ことが分かる [3]. 23 / 45 鉤形ト ロミノによる敷き詰め n が 7 以上の奇数で,3 で割り切れないならば,1 個のモ ノミノを n × n の盤のどこに置いても,残りの領域を鉤形 トロミノで敷き詰められる [3]. 6 × (n − 7) 4×6 (n − 6) × (n − 6) 7×7 6×4 def. 5 × 5 (n − 7) × 6 def. 7 × 7 24 / 45 鉤形ト ロミノによる敷き詰め n が 2 以上偶数で,3 で割り切れないならば,1 個のモノ ミノを n × n の盤のどこに置いても,残りの領域を鉤形ト ロミノで敷き詰められる [3]. (n − 3) × (n − 3) (n − 4) × 3 3× (n − 4) def. 4 × 4 25 / 45 鉤形ト ロミノによる敷き詰め n = 9 の場合 n = 6m + 3 の場合 6 × (n − 7) (n − 6) × (n − 6) (n − 7) × 6 def. 7 × 7 26 / 45 ペント ミノと方形テト ロミノ 8 × 8 の盤を 12 種類のペントミノと方形テトロミノで敷 き詰めると,方形テトロミノの中心は下図左のいずれかに なるが,対称性を考慮すると下図右の 10 通りになる. • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 27 / 45 方形テト ロミノの中心の位置 V ペントミノと方形テトロミノからなる 3× 3 のブロックを回転させると,このブロック 内部の任意の格子点に方形テトロミノの中心 を置くことができる. • • • • • • • • • • • 28 / 45 ヘキソミノによる敷き詰め 35 種類のヘキソミノで 3 × 70,5 × 42,6 × 35,7 × 30, 10 × 21,14 × 15 などの長方形を敷き詰めできない. それぞれの長方形を市松模様に塗り分けると,白マス 105 個と黒マス 105 個になるが,これはど ちらも奇数であ る.35 種のヘキソミノのうちの 24 種は,それぞれ黒マス 3 個と白マス 3 個(ど ちらも奇数)を覆い,残りの 11 種の ヘキソミノは,どれも一方の色のマス 2 個ともう一方の色 のマス 4 個(ど ちらも偶数)を覆う. それぞれの色のマスを奇数個覆うヘキソミノは偶数個 あり,それぞれの色のマスを偶数個覆うヘキソミノは奇数 個あるので,ヘキソミノ 35 種類では,偶数個の黒マスと 偶数個の白マスを覆うことになる. 29 / 45 「奇数的」ヘキソミノ 24 種 30 / 45 「偶数的」ヘキソミノ 11 種 31 / 45 デブロインの定理 a × b の長方形は,a か b の少なくとも一方が n で割り切 れなければ,1 × n のタイルを敷き詰めることはできない. たとえば,8 × 9 の長方形は 1 × 6 のタイルで敷き詰める ことはできない. デブロインは 3 次元においても同様の結果を証明した. ( 3 辺の長さが a,b,c の直方体は,3 辺の少なくとも一つ が n で割り切れなければ,1 × 1 × n のブロックで敷き詰め ることはできない. ) 32 / 45 デブロインの定理( 証明) a × b の盤を,副対角線方向に同じ色が並ぶように n 色 で塗り分ける.すると,n 色のマスが同数ずつなければ, 1 × n のタイルでこの盤全体を敷き詰めることはできない. b=9 z }| { 1 2 3 4 5 6 1 2 3 2 3 4 5 6 1 2 3 4 3 4 5 6 1 2 3 4 5 4 5 6 1 2 3 4 5 6 a = 8 5 6 1 2 3 4 5 6 1 6 1 2 3 4 5 6 1 2 n=6 z }| { 3 5 6 3 1 2 4 1 2 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 33 / 45 デブロインの定理( 証明) ここで,a と b がど ちらも n で割り切れないならば, a′ = a mod n, b′ = b mod n とする.また,a′ ≤ b′ として よい. 前ページの図のように n 色で塗り分けると,元の a × b の盤の右下隅にある a′ × b′ の長方形部分以外は n 色のマス が同数あることがわかる.したがって,この盤全体が 1 × n のタイルで敷き詰められるならば,この a′ × b′ の長 方形部分にも n 色のマスが同数なければならない. その長方形部分には,ある色のマスが副対角線方向に a′ 個並ぶ.すると,この長方形部分には少なくとも na′ 個の マスがなければならないが,b′ < n なので,長方形部分の 面積 a′ b′ よりも大きくなってしまう. 34 / 45 ト ーラスでの反例 長方形の盤の上辺と下辺,右辺と左辺がそれぞれつな がっているとみなすと,トーラス(輪環面)状の盤になる. 10 と 15 はど ちらも 6 の倍数ではないが,1 × 6 のタイル を 10 × 15 のトーラス状の盤に敷き詰めることができる. 35 / 45 ト ーラスでの 1 × 6 の敷き詰め 次の条件の少なくとも一つが成り立つとき,そしてその ときに限り,a × b のトーラス状の盤は 1 × 6 のタイルで敷 き詰められる [2]. ■ a = 6p または b = 6q ■ a = 2p ≥ 10,b = 3q ≥ 15,(a, b) , (14, 15) ■ b = 2q ≥ 10,a = 3p ≥ 15,(b, a) , (14, 15) 36 / 45 gcd(a, m) = gcd(b, n) = gcd(m, n) = 1 とするとき,次の式 で得られる α と β が α ≤ a,β ≤ b となるならば,m × 1 と 1 × n のタイル( 向きは変えられない)で a × b のトーラス 状の盤を敷き詰められる [2]. d = an−1 mod m b′ = b mod n c = −b′ da−1 mod m = −b′ n−1 mod m α = ((c + 1)n + b′ )d β = (c + 1)n + b′ (a − α = −(cn + b′ )d = −(−b′ n−1n + b′ )d = 0 (mod m), b − β = (c + 1)n = 0 (mod n) が成り立つ. ) 37 / 45 α × β の長方形の敷き詰め (cn + b′ )d 6 cn + b′ d ? 6 n nd ? 得られたトーラス状の盤の敷き詰めを横に n 倍,縦に m 倍に拡大すると,タイルはそれぞれ mn × m と n × mn にな るので,前者を m 枚の mn × 1 のタイルに,後者を n 枚の 1 × mn のタイルに分割すると,合同なタイルになる. 38 / 45 ト ーラスへの拡張 10 × 10 のトーラス状の盤に 1 × 4 のタイルをど う置いた としても,そのタイルは 4 色のマスをそれぞれ偶数個( 0 個か 2 個)覆う.しかし,10 × 10 の盤にはそれぞれの色 のマスは 25 個ずつしかない. 1 2 1 2 3 4 3 4 1 2 1 2 3 4 3 4 1 2 1 2 3 4 3 4 1 2 1 2 3 4 3 4 1 2 1 2 3 4 3 4 1 3 1 3 1 3 1 3 1 3 2 1 2 1 4 3 4 3 2 1 2 1 4 3 4 3 2 1 2 1 4 3 4 3 2 1 2 1 4 3 4 3 2 1 2 1 4 3 4 3 2 4 2 4 2 4 2 4 2 4 39 / 45 ト ーラスへの拡張 これを一般化すると,a と b はど ちらも k の倍数だが, ab が k3 の倍数でないならば,1 × k2 のタイルは a × b の トーラス状の盤を敷き詰められないことが示せる.この場 合には,前ページで示した k = 2 の場合と同じように, a × b のトーラス状の盤に k2 色を使って塗り分けた k × k の ブロックを敷き詰める. すべての 1 × k2 のタイルは,k 色のマスをそれぞれ k 個 覆うが,盤にはそれぞれの色のマスは ab/k2 個しかない. 40 / 45 デブロインの定理の拡張 X × Y の長方形の盤( X および Y は実数)がさまざ まな 大きさの長方形のタイルで敷き詰められていて,それぞれ のタイルの少なくとも一辺の長さは整数だとする.このと き,X か Y の少なくとも一方は整数になる. Y 1 1 X X × Y の長方形の盤を,左下隅に黒いマスが位置するよ うに 1/2 単位の市松模様に塗り分ける. 41 / 45 デブロインの定理の拡張 長方形の盤の辺の長さ X, Y がど ちらも整数ではない, すなわち,X ′ = X − [X] > 0, Y ′ = Y − [Y] > 0 と仮定する. (ただし,[x] は x を越えない最大の整数を表す. )X × Y の 長方形の右上隅の X ′ × Y ′ の「余りの長方形」部分を除い て,盤の残りの部分にある白と黒の領域の面積は等しい. このとき,余りの長方形に含まれる白と黒の領域の面積が 等しくなりえないことを示す. X ′ ≤ 1/2 Y ′ ≤ 1/2 X ′ ≤ 1/2 Y ′ > 1/2 X ′ > 1/2 Y ′ ≤ 1/2 X ′ > 1/2 Y ′ > 1/2 42 / 45 デブロインの定理の拡張 X ′ > 1/2, Y ′ > 1/2 の場合は, 「 余りの長方形」を折り畳 むことで黒の領域は白の領域よりも大きいことを示せる. Y ′ ( |{z} X′ 1 − Y′ { 最初の折り線 ⇓ ′ X z}|{ 6 次の折り線 ⇓ { 1 − Y′ { 1 − X′ 黒と白の差分= (1 − X ′ )(1 − Y ′ ) > 0 43 / 45 エネオミノによる敷き詰め 44 / 45 参考文献 [1] Golomb, Solomon W. “Polyominoes: Puzzles, Patterns, Problems, and Packings,” Princeton Univ. Press, 1996. ( 邦訳:川辺訳『箱詰めパズル ポリオミノの宇宙』日 本評論社, 2014 ) [2] Remila, Eric. “On the tiling of a torus with two bars,” Theoretical Computer Science, 134 (1994) 415-426. [3] Chu, I-Ping, and Richard Johnsonbaugh. “Tiling Deficient Boards with Trominoes.” Mathematics Magazine 59, no. 1 (1986): 34-40. 45 / 45
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