10 怒りのマネジメント [怒りが怒りを生むという現実] 喜怒哀楽の言葉通り、「怒り」は人間にとって基本的な感情です。 今日は腹の立つことがまるでなかった。 そんな日がまれなくらい、怒りとは日常です。 しかし、他の感情と違って、怒りは極めて大きなエネルギーを持っています。 怒りを抑えられず、将来をだめにしてしまった。 そんな例は枚挙にいとまがありません。 「金持ちケンカせず」という諺がありますが、 実際に成功者は自分自身の怒りを上手にコントロールしていると感じます。 つまり、怒りをマネジメントしているのです。 これは生きる上で欠かせない技術だと思うのですが、残念ながら学校でも会社でも教えてはくれません。 では、どうしたら怒りをマネジメントできるのか――。 それを考える前に、そもそもなぜ怒りが生まれるのか。どんな性質があるのか。 まずそれを考えたいと思います。 僕自身、怒りを振り返ると、誰かに自分と違う意見を指摘される。 それが正しいか間違っているかに関わらず、その嫌悪感がまず発火点になっているように感じます。 通常はそこで反論するか、無視するか、という選択になるのでしょう。 しかし、それでは解決になりません。なぜなら、その行為によって 今後は逆に相手を怒らせることになるからです。 つまり、怒りがつぎの怒りを生む。 さらに物事がこじれ、解決が困難になってしまうのです。 これは世の中に戦争がなくならないのと同じ道理です。 また、怒りは当人同士だけでなく、周りを巻き込むのも特徴です。 僕の会社でも、ある社員同士がケンカを繰り返していました。 それは当人たちだけの問題にとどまらず、部のスタッフが その様子に心を痛め、全体の雰囲気が沈みました。 つまり、当人同士だけが真剣を振りかざしているつもりでも、 気づけばその周りの人間までも傷つけている。 それほどの罪深さを背負っているのが、怒りなのです。 [相手の真意を想い、苦言を聞く] 僕はかつて、人一倍怒りっぽい人間でした。 他人に何かを指摘されるとすぐにカッとなる。 その気の短さは、母親が「息子は怒りっぽいが、次の日はけろりとしている。 悪気はないから、なんとか堪えてほしい」と、付き合い始めの妻を諭したほどでした。 その性分は経営者になっても変わりませんでした。 いえ、ますます強くなっていたかもしれません。 なぜなら、自分は大きな責任を負い、誰よりも深く考え、誰よりも結果を残してきている。 その自負があるために、他人の意見が受け入れられなかったのです。 しかし3年前、ある会議の場で、僕は罵倒と表現してもいいような批判を、ある若手社員から受けました。 それは経営上のある戦略についてですが、 自分が考え抜いた末に出した答えを、入社2∼3年の若者がいとも簡単に覆す。 そのことに、僕は完全に頭に血がのぼりました。 とはいえ会議の席上、社長が社員につかみかかるわけにもいかず、 なんとかその場はやりすごし、その日は早々と帰宅しました。 家に帰り、少し冷静になった頭で、昼間の出来事をあらためて考えました。 そして、ふとこう思ったのです。 自分が彼の立場だったらどうだろう。 おそらく会社で最も嫌われたくない人間に嫌われる。 それを覚悟で意見をしたはずだ。 そこには、この社長ならきっとわかってもらえる。 そんな期待があったんじゃないだろうか――。 この瞬間から、彼の意見は若者の戯言から、傾聴すべき意見に変わりました。 つまり、耳は痛いがタメになる。苦言となったのです。 僕は自分が世の中を知っていると、少々自惚れていたのだと思います。 しかし、言ってみればそれは広い会議室テーブルのマグカップ程度。 僕より経験の浅い社員はおちょこ程度かもしれません。 でも世間はこのテーブルのように広い。 人の数だけ価値観があるのなら、誰のどんな意見にも少なからずの正解はあるし、 耳を傾けるべき価値もある――。 人の苦言を聞こう。 この考え方は、僕の人生に大きな変革をもたらしました。 その意見とは、自分が嫌われることがわかっても、なおしている。 いや、してくれているもの。 そう考えることで、怒りの大半が消え、 感謝の心さえ生まれるようになりました。 そして実際に有益な視点を数多くもらうことができました。 会社が、自分の人生が、加速度的に良い方向に進んでいると感じています。 もちろん、いきなり怒りをなくすなど、できるはずもありません。 しかし、たとえば怒りを覚えた発言。 その出所をあらためて思い起こしてください。 それは、自分への単なる敵意から生まれたものだったでしょうか。 おそらく、自分を良い方向へ促すための苦言。 アドバイスだったのではないでしょうか。 ほとんどの怒りとは、実は相手への誤解から生まれている。 僕はそう思っています。 だから、言葉の上っ面に反応するのではなく、その奥にある真意を見ようとする。 そうすることで誤解はなくなり、怒りも簡単には生まれなくなります。 少しずつでもいいから、苦言に耳を傾ける。 そう心がけることで、人生は大きく開けていくと確信しています。 最後に、今回は怒りをいかに抑えるかについてお話をさせていただきました。 しかし、膨大な怒りのエネルギーは、考え方によっては人生の推進力にも転換します。 事実、多くの成功例は怒りを源泉にして、ピンチをチャンスに変えています。 そうした怒りの活用については僕自身、現在も模索中です。 また別の機会に、みなさんにご報告させていただきたいと思っています。 メールマガジンの登録ページ https://g.ab0.jp/mediasystem/1500_p.php/2ANt82
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