0 「亜熱帯島嶼科学超域研究推進機構」 平成 18 年度 研究実績報告書 タスク研究実績: サンゴ礁域を軸とした亜熱帯島嶼沿岸環境における海洋生産基盤研究 1 持続可能な島嶼社会形成のためのマングローブ/サンゴ礁生態系保全と修復に関する研究 16 亜熱帯生物資源を活かした健康長寿と持続可能な健康バイオ資源開発に関する研究 24 亜熱帯島嶼環境における共生型農林畜産業の開発モデル構築に関する研究 36 琉球国・琉球文化・琉球諸島人の成立過程と展開およびその現在 47 ゼロエミッション・アイランド形成のための自然系及び社会系物質・エネルギー循環とそれ 50 らの評価に関する研究 琉球大学における環境教育カリキュラム(Nature and Culture Program)の構築と環境系副専 58 攻の設置 関連する研究領域から: Challenges and Rehabilitation in the Post-Tsunami and Capacity Building for Mangrove 71 Ecosystem in the Pacific and Asia Regions 沖縄の礁池(イノー)を中心とした水域の生態系保全と活用に関する研究 2006 琉球大学亜熱帯島嶼科学超域研究推進機構 73 1 サンゴ礁域を軸とした亜熱帯島嶼沿岸環境における 海洋生産基盤研究 (タスクリーダー:須田 彰一郎) 【はじめに】 平成17年度にスタートした本タスク研究チームは、沖縄島および琉球列島沿岸域を主 なフィールドとして、亜熱帯・熱帯島嶼域における海洋生産基盤研究を行うことを目的とし ている。この“海洋生産”という語には、当然ながら1)水産(食品)としての利用が含まれ ているが、それだけではなく、2)医薬品などの有用物質探索源としての利用、3)観賞・ 観光資源としての利用などの幅広い有効利用を含んでいる。加えて、今までの利用形態が自 然の一方的な収奪・破壊であったのに対し、本研究では持続的有効利用と環境保全・修復も 想定している。 本研究は沖縄の地域特性として、継続して取り組むべき課題であることは言うまでもな く、また、本学の中期目標においても「沖縄の地域特性を踏まえつつ、最先端の特色ある研 究を推進し、熱帯・亜熱帯科学、島嶼・海洋科学で世界をリードする研究拠点の形成を目指 す。」とあり、中期計画で、この項目に対して、大学として重点的に取り組む領域の筆頭に、 「亜熱帯、島嶼・海洋環境に根ざした統合的地域研究」とあげられている項目にまさに合致 する研究内容である。 サンゴ礁域を軸とした亜熱帯島嶼沿岸環境における海洋生産基盤研究 1 .サンゴ礁域における新規有用物質および遺伝子資源探索研究 理学部・生物系 須田彰一郎(藻類・微生物),化学系 上江田捷博, 田中淳一(生理活性物質),医学部・医学科 當眞弘(有毒生物) 2 .サンゴ礁魚類の繁殖と環境同調性研究 熱帯生物圏研究センター瀬底実験所 竹村明洋(魚類生理) 3 .有用生物種の生活史・集団遺伝学,環境特性に関する研究 理学部・生物系 吉野哲夫(魚類分類),立原一憲(魚類生活史), 今井秀行(水圏生物集団遺伝 ) 平成 18 年度も前年度に引き続き、以下の 3 項目を研究テーマに据えている。 1.サンゴ礁域における新規有用物質および遺伝子資源探索研究 2.サンゴ礁魚類の繁殖と環境同調性研究 3.有用生物種の生活史・集団遺伝学,環境特性に関する研究 これらの研究テーマは個々に成り立ちながら、テーマの枠を超えた連携も行いつつ、個別 に推進してきた基盤研究をもとにして、本タスク研究とそれぞれの研究者の個別申請研究と が関連して、まさに研究成果が上がっているメンバーと、本タスク研究を個別申請前の研究 2 模索に用い、外部資金獲得と研究の展開を目指しているメンバーの両者が共存し、なおかつ タスクチームとして連携研究成果を上げつつ、共同研究申請も積極的に行っている。 はじめに研究テーマごとの 2006 年度の研究結果と成果について述べ,次いで 2006 年度の 研究業績、2007 年度の研究計画を述べる。 【研究結果・成果】 1.サンゴ礁域における新規有用物質および遺伝子資源探索研究 上江田は次の研究を行った。海洋性真菌(未同定)と2種の海綿(未同定)の成分研究を 実施し、単離・同定した5種の化合物の活性(ヒト大腸がん細胞 HCT116、ウニ受精卵)を 評価した。 まず、小浜島の海岸で採集したカビの培養を行い、有機溶媒抽出後各種クロマトグラフ ィーで分離し二つの化合物を得た。核磁気共鳴をはじめとする機器分析および文献値との比 較により既知化合物ブテノライド(butenolide) と テライン(terrein) と同定した。これらは真 菌類 Aspergillus terreus から、それぞれ 1961 年と 1935 年に分離された古い化合物であるが、 リン酸化酵素阻害活性を示すブテノライド関連化合物が最近ホヤから得られ、また酸や塩基 に対して不安定なテラインはその人工合成において注目された。両化合物のヒト大腸がん細 胞に対する阻止活性は弱く、IC50 は 20 ppm 以上であった。次に、波照間島の東海域-15 m で採集した黒色海綿と小浜島の潮間帯で採集した緑色ひだ状海綿の成分研究を行い、黒色海 綿より黄色素ゼストキノン(xestoquinone)、後者より2個のブロモフェノール(bromophenols) を単離・構造決定した。これらの化合物はウニ受精卵に対して強い毒性を示し、1 ppm で卵 割を完全に阻害した(第二卵割で卵割停止)。今回分離した化合物は全て既知化合物であっ たが、生物活性について新たな知見が得られた。 田中は、個別に研究対象としている海産無脊椎動物から分離されたアクチン標的生理活性 物質に関する研究を進展させる一方で、沖縄島沿岸域の砂を分離源として、海産放線菌の分 離培養を開始し新たな生理活性物質探索源の模索を始めている。また、須田の分離培養した 微細藻類 9 株を用いた細胞毒性スクリーニングを行い、4 株で活性を得、活性成分の解析を 行うための大量培養なども行ったが、活性成分の特定までには至っていない。 當眞は、イソギンチャク類(ウ ンバチイソギンチャク、フサウン バチイソギンチャク、ハナブサイ ソギンチャク)の毒素を研究対象 に取り上げ、その生理活性の解析、 毒成分の分離・精製、さらに遺伝 子解析による毒成分の活性機能と 分子特性を明らかにすることを目 的とした研究を行った。その結果、 新規と思われる 4 種のタンパク質 性毒素を分離することに成功し、 現在毒性分の活性機能と分子特性 を解析中である。 1 .サンゴ礁域における新規有用物質および遺伝子資源探索研究 理学部・生物系 須田彰一郎(藻類・微生物),化学系 上江田捷博, 田中淳一(生理活性物質),医学部・医学科 當眞弘(有毒生物) 上江 田 : 海 洋 性 真菌 , 海 綿 の 成 分 の 単 離 ・ 同定 , 5 種 の 既 知 化 合 物 の 単離 ・ 同 定、 生 物活 性 に 新知 見 あり 。 田中 : アクチン標的生理活性物質研究 の 進展 、 海産 放線菌の 分離培養 、 微細藻 類株を用 いた細胞毒性スクリーニング、 活性 確認後、 成分特定 中 。 當眞 : イソギンチャク類の毒素を研究対象に取り上げ、新規タンパク質性毒素 4種 の分離に 成功 、 活性機能と分子特性を解析中。 須 田 : 微 細 藻 類 約 150株 を 保 存 、 ス ク リ ー ニ ン グ 材 料 提 供 、 糸 状 ラ ン 藻 類 培 養 の試 行 。観 賞 用 テッ ポ ウエ ビ とそ の 餌 兼巣 の ラン 藻 培 養を 試 行。 3 須田は、引き続き沖縄島沿岸域を中心に微細藻類の分離培養を行って、現在約 150 株を保 存している。これらのうち、異なる分類群で比較的増殖も良い 9 株を選んで、田中へのスク リーニング材料提供も行った。また、オーストラリア沿岸域などで大量増殖し、有毒性など で問題化している糸状ラン藻類について培養を試みた。自然では大量に生育が確認できるが、 実験室内での増殖は大変遅く、有用生理活性物質探索の材料に用いる目処は立っていない。 さらに、観賞用にできる可能性があるテッポウエビとその餌兼巣として用いられるラン藻の 培養を行おうとしているが、これも増殖が遅い状況である。 2.サンゴ礁魚類の繁殖と環境同調性研究 本研究の目的は、アイゴ類(月周性産卵魚)、スズメダイ類及びイシモチ類(半月周性産 卵魚)、そしてベラ類(潮汐性産卵魚)をモデル魚として用い、それぞれの産卵周期成立に 関わる内的因子とサンゴ礁環境との関連を明らかにすることである。本年度は、脊椎動物 の主たる時計遺伝子(Period1 及び 2 .サンゴ礁魚類の繁殖と環境同調性研究 Period2)をゴマアイゴとミツボシ 熱帯生物圏研究センター瀬底実験所 竹村明洋(魚類生理) キュウセンの脳抽出物からクロー 目的: アイゴ類(月周性産卵魚)、スズメダイ類及びイシモチ類(半月周性産卵 ニングし、中枢組織における各時 魚)、そしてベラ類(潮汐性産卵魚)をモデル魚として用い、それぞれの産卵周 期成立に関わる内的因子とサンゴ礁環境との関連を明らかにすることである。 計遺伝子発現パターンを明らかに した。その結果、Period1 の転写は 成果: 本年度は、脊椎動物の主たる時計遺伝子( Period1 及び Period2 )をゴマ アイゴとミツボシキュウセンの脳抽出物からクローニングし、中枢組織における 光に影響をあまり受けないのに対 各時計遺伝子発現パターンを明らかにした。その結果、 Period1 の転写は光に影 響をあまり受けないのに対し、 Period2 遺伝子の転写は光によって誘導されるこ し、Period2 遺伝子の転写は光によ Period2 遺 とが明らかになった。サンゴ礁における環境変化(日光や月光)が、 って誘導されることが明らかにな 伝子の発現パターンに影響を与える可能性が示唆された。 った。サンゴ礁における環境変化 (日光や月光)が、Period2 遺伝子 の発現パターンに影響を与える可 能性が示唆された。 3.有用生物種の生活史・集団遺伝学,環境特性に関する研究 立原は、以下の 3 項目に関する研 3.有用生物種の生活史・集団遺伝学,環境特性に関する研究 究を行った。沖縄島中城湾の水産重 理学部・生物系 立原一憲(魚類生活史) 要種であるドロクイ類 2 種の生活史 ① 沖縄島中城湾の水産重要種であるドロクイ類2種の生活史の研究を行い、両 種が一生を通じて砂泥底の波打ち際に強く依存していることを明らかにし、 の研究を行い、両種が一生を通じて 埋め立てがこれらの種の資源に大きな影響を与える可能性を示唆した。 砂泥底の波打ち際に強く依存してい ② 与那国島周辺海域におけるカジキ類の研究では、クロカジキが同海域を産卵 場と摂餌場として利用しているのに対し、シロカジキはこの海域では成熟せ ることを明らかにし、埋め立てがこ ず、産卵後の摂餌場としてのみ利用していることを明らかにした。さらに両 種の漁獲位置から前者は浮き魚礁周り、後者は天然礁周りに多いことが分か れらの種の資源に大きな影響を与え り、漁業者にこの情報が有効に活用され始めた。 る可能性を示唆した。与那国島周辺 ③ 中城湾沖合に4箇所の定点を設け、毎月1回シラスパッチ網による仔稚魚の採 海域におけるカジキ類の研究では、 集を行い、仔稚魚の出現様式を解析中である。 クロカジキが同海域を産卵場と摂餌 場として利用しているのに対し、シ ロカジキはこの海域では成熟せず、 産卵後の摂餌場としてのみ 4 利用していることを明らかにした。さらに両種の漁獲位置から前者は浮き魚礁周り、後者は 天然礁周りに多いことが分かり、漁業者にこの情報が有効に活用され始めた。中城湾沖合に 4 箇所の定点を設け、毎月 1 回シラスパッチ網による仔稚魚の採集を行い、仔稚魚の出現様 式を解析中である。 今井は、次の2項目に関する研究をおこなった。沖縄県の水産重要種であるゴマアイゴと アミアイゴについて資源管理の側面から系統群識別のためにミトコンドリア DNA 調節領域 の塩基配列決定分析をおこなった。その結果、ゴマアイゴでは沖縄島と宮古島・石垣島の2 つの集団の存在を明らかし、一方アミアイゴでは沖縄島から石垣島まで遺伝的異質性がない ことが判明した。 沖縄県に生息する両側回遊 性の甲殻類であるテナガエビ 3.有用生物種の生活史・集団遺伝学,環境特性に関する研究 理学部・生物系 今井 秀行(水圏生物集団遺伝) 類の資源維持と持続的利用の ために台湾から本州九州まで ① 沖縄県の水産重要種であるゴマアイゴとアミアイゴについて資源管理の側面 から系統群識別のためにミトコンドリアDNA調節領域の塩基配列決定分析を のミナミテナガエビについて おこなった。その結果、ゴマアイゴでは沖縄島と宮古島・石垣島の2つの集 団の存在を明らかし、一方アミアイゴでは沖縄島から石垣島まで遺伝的異質 遺伝的集団構造の解析をおこ 性がないことが判明した。 なった。その結果、台湾、琉球 ② 沖縄県に生息する両側回遊性の甲殻類であるテナガエビ類の資源維持と持続 列島、本州・九州の3つのグル 的利用のために台湾から本州九州までのミナミテナガエビについて遺伝的集 団構造の解析をおこなった。その結果、台湾、琉球列島、本州・九州の3つ ープに分離され、グループ間に のグループに分離され、グループ間に黒潮があることから幼生分散の障壁の 黒潮があることから幼生分散 一つと考えられた。さらに浮遊幼生期が長いコンジンテナガエビについても 解析中である。 の障壁の一つと考えられた。さ らに浮遊幼生期が長いコンジ ンテナガエビについても解析 中である。 吉野は以下の項目に関する研究を行った。沖縄産アイゴ類の分類、特に DNA 解析を行い、 20 種以上についてミトコンドリア DNA の部分塩基配列が明らかになった。 耳石の日輪解析からアイゴ類 4 種について孵化後リクルート までに要する時間と成長がほぼ 明らかとなった。この結果を論 文として現在執筆中。 水産上有用でありながら分類 学的な検討が遅れている魚種に ついて継続して研究を行ってお り、今年度は 5 種以上の未記載 種(新種)を発表するとともに 関連した分類群の検討を行った。 3.有用生物種の生活史・集団遺伝学,環境特性に関する研究 理学部・生物系 吉野 哲夫(魚類学) ① 沖縄産アイゴ類の分類、特にDNA解析を行い、20種以上についてミトコンド リアDNAの部分塩基配列が明らかになった。 ② 耳石の日輪解析からアイゴ類4種について孵化後リクルートまでに要する時 間と成長がほぼ明らかとなった。 ③ 水産上有用でありながら分類学的な検討が遅れている魚種について継続して 研究を行っており、今年度は5種以上の未記載種(新種)を発表するととも に関連した分類群の検討を行った。 5 【2006 年度研究実績】 2006 年に印刷された国際誌への論文数は 29 編、その他の和文誌・著書などが 12 編発表さ れている。また、国際学会での発表が 12 回、国内学会の発表が 35 回、その他(COE 報告会) が 11 回行われている。2007 年に入って、既に公表されたもの、受理済み、投稿中、準備中 を含めた国際誌への掲載および掲載予定論文数は 23 編となっている。これらの研究実績数 は、昨年報告した国際誌掲載数 25 編とほぼ同等であり、また、2007 年も同程度の業績を上 げられることが期待できる。 【2007 年度研究計画】 1.サンゴ礁域における新規有用物質および遺伝子資源探索研究 ・基盤研究 B、「南西諸島沿岸海洋域の有用生理活性物質生産微生物資源の開拓」(平成 19 〜21 年度)に研究グループとして申請中である。この中で、1)生理活性物質生産生物 に優先的に付着または共生する微生物、2)ラン藻類、特に Lyngbya majuscula および関 連するラン藻類、3)沿岸海洋域の放線菌の3つを研究対象に絞って、微生物の分離・培 養、スクリーニング、化学構造決定、分類などを行おうというものである。なお、本申請 が採択されない場合にも、本タスク研究費を利用して、個別に同様の研究を継続し外部資 金獲得を目指す。 ・新規生理活性物質探索(上江田) 1) 未調査地域(波照間島、多良間島等)のホヤ、海綿、ソフトコーラル等の海産無脊椎 動物からの生理活性成分に関する研究 2) ホヤ、海綿およびソフトコーラル等の海洋生物に付着微生物あるいは共生微生物の分 離・培養研究。海水、海底堆積物、海岸土壌、マングローブ域等様々な場所からの微 生物の採集、分離・培養研究 3) 分離・保存している化合物の各種活性試験の実施。 4) 微生物由来と考えられる生理活性物質(ハテルマライド、ハテルマイミド、プーペヒ ノン、C11シクロペンテノン類等)の真の生産者の特定。 ・新規生理活性物質探索源としての海産放線菌研究(田中) ・海産放線菌類をターゲットとして分離・培養方法、スケールアップ、スクリーニング、構 造決定などを検討し、新たな探索源としての確度を上げる。 ・イソギンチャク類の毒素研究(當眞) 1) 引き続きイソギンチャク類の毒素研究を継続する。特に毒性分の活性機能と分子特性 を明らかにする予定である。 ・沖縄島沿岸域からの海産微細藻類の分離・培養(須田) 1) 糸状体ラン藻類(ユレモ目藻類)の分離・培養と方法の検討を行うとともに、沖縄島 沿岸域のピコラン藻類の分離・培養を新たに開始する。 2) 沖縄島沿岸域の渦鞭毛藻類の分離培養を開始する。 2.サンゴ礁魚類の生活史・集団遺伝学,環境特性に関する研究 ・重要魚種の集団遺伝学および分類学的研究(今井・吉野) 1) 沖縄県のゴマアイゴとアミアイゴ集団が黒潮の上流に位置するフィリピンや台湾など 6 海外の集団構造とどのような関係にあるのかを明らかにする。 2) 形態比較および DNA 分析の両面からアイゴ類稚仔魚の分類・同定法を確立する。 3) 沖縄県の水産重要種であるアオリイカ類について DNA 分析による同定法の確立と分 類、遺伝的集団構造の解析を実施する。 ・重要魚種の生活史および資源解析のための基礎的研究(立原) 1) 中城湾で採集した仔稚魚標本のソーティングと同定を進め、アイゴ類の湾内への出現 と接岸の動態を明らかにする。 2) 沿岸性の水産重要種のひとつであるヒトスジタマガシラとコバンヒメジの年齢と成長 および成熟を明らかにする。 3) クロカジキの年齢査定法を確立させ、年齢と成長の関係式から与那国周辺海域におけ る年齢組成を明らかにする。 ・サンゴ礁魚類の環境特性に関する研究(竹村)。 1) 生殖開始に関わる環境因子に関して、スズメダイ類を実験材料として特定する。 2) サンゴ礁環境と魚類の周期性発動との関連について、昨年度までにクローニングした 時計遺伝子の発現パターンから明らかにする。 3) 潮汐が魚によりどの様に感受されているか、脳内のモノアミン類の挙動を手がかりに しながら明らかにしていく。月環境(月光や潮汐)に関わる新規遺伝子の検索をはじ める。 海洋生産 未知遺伝子資源 共生微生物資源 従来型 自然収奪 自然破壊 環境教育 未利用資源の有効利用 Flowcytometer ESI TOF-mas 新規培養・増殖方法開発 バイオベンチャー創出 サンゴ礁生物資源の 持続的有効利用研究 市民参加 保全・保護・再生 環境NPO 利用 New 海洋生産 バイオレメディ エーション ファイコレメ ディエーション 観賞生物の開発 自然環境ガイド養成 環境負荷の評価 モニタリング 環境修復 観光・観賞 エコツーリズム サンゴ礁生物資源の持続的有効利用研究概念 7 【研究業績】 2006年 国際誌 1. Ueda, K., T. Kadekaru, R. O. S. Eric, M. Kita & D. Uemura (2006) Haterumadysins A-D, Sesquiterpenes from an Okinawan Marine Sponge Dysidea chlorea. J. Nat. Prod. 69, No.11, 1077-1079. 2. Uddin, M. J., K. Ueda, R. O. S. Eric, M. Kita & D. Uemura (2006) Cytotoxic Diterpene Alkaloids from the Ascidian Lissclinum Sp.: Isolation, Structure Elucidation, and Structure-activity Relationship. Bioorganic & Medicinal Chemistry, 14, 6954-6961. 3. Chard, L. S., M.-E. Bordeleau, J. Pelletier, J. Tanaka, & G. J. Belsham (2006). Hepatitis C virus-related internal ribosome entry sites are found in multiple genera of the family Picornaviridae. Journal of General Virology 87: 927-936. 4. Tanaka, C., J. Tanaka, R. F. Bolland, G. Marriott, & T. Higa (2006). Seragamides A-F, new actin-targeting depsipeptides from the sponge Suberites japonicus Thiele. Tetrahedron 62: 3536-3542. 5. Bordeleau, M.-E., A. Mori, M. Oberer, L. Lindqvist, L. S. Chard, T. Higa, G. J. Belsham, G. Wagner, J. Tanaka, & J. Pelletier (2006). Functional characterization of IRESes by an inhibitor of the RNA helicase eIF4A. Nature Chemical Biology 2: 213-220. 6. Chaudhry, Y., A. Nayak, M.-E. Bordeleau, J. Tanaka, J. Pelletier, G. J. Belsham, L. O. Roberts, & I. G. Goodfellow (2006). Caliciviruses differ in their functional requirements for eIF4F components. Journal of Biological Chemistry 281: 25315-25325. 7. Mazroui, R., M.-E. Bordeleau, R. Sukarieh, R. J. Kaufman, P. Northcote, J. Tanaka, I. Gallouzi, & J. Pelletier (2006). Inhibition of ribosome recruitment induces stress granule formation independent of eIF2a phosphorylation. Molecular Biology of the Cell 17: 4212-4219. 8. Petchprayoon, C., Y. Asato, T. Higa, L. J. Garcia-Fernandez, S. Pedpradab, G. Marriott, K. Suwanborirux, & J. Tanaka (2006). Four new kabiramides from the Thai sponge Pachastrissa nux. Heterocycles 69: 447-456. 9. Pisingan, R.S., L. Harnadi & Takemura, A. (2006). Semilunar spawning periodicity in the brackish damsel, Pomacentrus taeniometopon Breeker. Fisheries Science 72: 1256-1260. 10. Ayson, F.G. and A. Takemura (2006). Daily expression patterns for mRNAs of GH, PRL, SL, IGF-I and IGF-II in juvenile rabbitfish, Siganus guttatus, during 24-hour light and dark cycles. General and Comparative Endocrinology 149: 261-268. 11. Morita, M., A. Nishikawa, A. Nakajima, A. Iguchi, K. Sakai, A. Takemura & M. Okuno (2006). Eggs regulate sperm flagellar motility initiation, chemotaxis and inhibition in the coral Acropora digitifera, A. gemmifera and A. tenuis. Journal of Experimental Biology 209: 4574-4579. 12. Park, Y.J., J.G. Park, S.J. Kim, Y.D. Lee and A. Takemura (2006). Melatonin receptor of a reef fish with lunar-related rhythmicity: cloning and daily variations. Journal of Pineal Research 41: 166-174. 13. Morita, M., A. Takemura, A. Nakajima & M. Okuno (2006). Microtubule sliding movement in sperm flagella axoneme is regulated by Ca2+/Calmodulin-dependent protein phosphorylation. Cell Motility and the Cytoskeleton 63: 459-470. 14. Arvedlund, M., A. Hattori, K. Iwao & A. Takemura (2006). When cleanerfish become 8 anemonefish. Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom 86: 1265-1266. 15. Rahman, M.A., Y. Isa, A. Takemura & T. Uehara (2006). Analysis of proteinaceous components of the organic matrix of endoskeletal sclerites from the alcyonarian Lobophytum crassum. Calcified Tissue International 78: 178-185. 16. Park, Y.J., A. Takemura & Y.D. Lee (2006). Histological evidence of lunarsynchronized reproductive activity in the pencil-streaked rabbitfish, Siganus doliatus, the Chuuk Lagoon, Micronesia. Ichthyological Research 53: 179-181. 17. Takemura, A., S. Ueda, N. Hiyakawa & Y. Nikaido (2006). A direct influence of moonlight intensity on changes in melatonin production by cultured pineal glands of the golden rabbitfish, Siganus guttatus. Journal of Pineal Research 40: 236-241. 18. Morita, M., M. Okuno Endang Sri Susilo, Bambang Pramono Setyo, Diptarina Martarini, Lilik Harnadi & A. Takemura (2006). Changes in sperm motility in response to Ca2+ in three Indonesian fresh water teleosts, the goby (Oxyeleotris marmorata), the Java carp (Puntius javanicus), and the catfish (Clarias batrachus). Comparative Biochemistry and Physiology 143A: 361-367. 19. Park, Y.J., A. Takemura & Y.D. Lee (2006). Annual and lunar-synchronized ovarian activity in two rabbitfish species in the Chuuk Lagoon, Micronesia. Fisheries Science 72: 166-172. 20. Arvedlund, M., K. Iwao, T.M. Brolund & A. Takemura (2006). Juvenile Thalassoma amblycephalum Bleeker (Labridae, Teleostei) dwelling among the tentacles of sea anemones: a cleanerfish with an unusual client? 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General and Comparative Endocrinology 150: 196-204. 10. Aoki, M., H. Imai, T. Naruse & Y. Ikeda (submitted). Low genetic diversity of oval squid Sepioteuthis cf. lessoniana (Cephalopoda: Loliginidae) around Japanese waters inferred from mitochondrial DNA non-coding region. Pacific Science. 11. Aoki, M., T. Naruse, J-H. Cheng, S. Suzuki & H. Imai (submitted). Low genetic variability in an endangered Okinawa Island population of fiddler crab, Uca arcuata, based on mitochondrial DNA analysis. Marine Biotechnology. 12. Dunlap, P. V., J. C. Ast, S. Kimura, A. Fukui, T. Yoshino & H. Endo (accepted). Phylogenetic 10 analysis of host-symbiont cospeciation in bioluminescent symbiosis. Cladistics, 13. Imai, H. & R. C. Barao (submitted). Preliminary survey of post-laval Penaeus nursery areas in the shallow waters of the SofalaBank, Mozambique. Marine Ecology Progress Series. 14. Imai, H., F. Kashiwagi, J-H. Cheng, T-I. Chen, K. Tachihara & T. Yoshino (in preparation). Genetics and morphology of two gizzard shads, Nematalosa japonica and N. come, in a hybrid zone of Okinawa Island (Clupeiformes: Clupeidae). Zoological Studies. 15. Imamura, H. & T. Yoshino (2007). Ryukyupercis, a new genus of pinguipedid fish for the species Parapercis gushikeni (Teleostei: Perciformes) based on the phylogenetic relationships of the family. Raffles Bulletin of Zoology, Supplement (14): 93-100. 16. Imamura, H. & T. Yoshino. (in press). Taxonomic revision of the Parapercis hexophthalma species complex, with description of three new species from the western Pacific (Perciformes: Pinguipedidae). National Science Museum (Tokyo) Monographs, 17. Imamura, H. & T. Yoshino (accepted). Taxonomic status of Percis caudimaculatum Haly, 1875 and validity of Parapercis ommatura Jordan and Snyder, 1902 (Actinopterygii: Perciformes: Pinguipedidae). Species Diversity, 18. Iwatsuki, Y., S. Kimura & T. Yoshino (in press). A review of the “Gerres subfasciatus complex” from the Indo-Pacific, with three new species (Perciformes: Gerreidae). Ichthyological Research, 54(2) 19. Kimura, S., D. Golani, Y. Iwatsuki, M. Tabuchi & T. Yoshino (in press). Redescriptions of the Indo-Pacific atherinid fishes, Atherinomorus forsskalii, Atherinomorus lacunosus, and Atherinomorus pinguis. Ichthyological Research, 54(2) 20. Kon, T., T. Yoshino, T. Mukai & M. Nishida (accepted). DNA sequences identify numerous cryptic species of the vertebrate; A lesson from the gobioid fish Schindleria (Pisces: Schindleriidae). Molecular Phylogenetics and Evolution, 21. Kuriiwa, K., N. Hanzawa, T. Yoshino, S. Kimura & M. Nishida (submitted). Phylogenetic relationships and natural hybridization in rabbitfishes (Teleostei: Siganidae) inferred from mitochondrial and nuclear DNA analyses. Molecular Phylogenetics and Evolution, 22. Yamasaki, N. & K. Tachihara (2007). Eggs and larvae of Awaos melanocephalus (Teleostei: Gobiidae). Ichthyological Research, 54: 89-91. 23. Yashiki-Yamakawa, A., M. Yamaguchi & H. Imai (submitted). Genetic relationships among species of the genus Meretrix (Mollusca: Veneridae) in the western Pacific Ocean. Pacific Science. 2006 年 著書(和文) 1.今井秀行 (2006). 琉球列島の内湾・干潟の動物の多様性-カニの話を中心に-.琉球大 学 21 世紀 COE プログラム編集委員会編,「美ら海の自然史 サンゴ礁島嶼系の生物多 様性」,東海大学出版会,秦野.pp. 35-47. 2.立原一憲 (2006). 琉球列島のマングローブ水域で暮らす魚たちとその生活. 琉球大学 21 世紀 COE プログラム編集委員会辺,「美ら海の自然史 サンゴ礁島嶼系の生物多様性」, 東海大学出版会,秦野. pp. 48-60. 11 3.竹村明洋・池田 譲(2006).時間とともに活動するサンゴ礁生物.琉球大学 21 世紀 COE プログラム編集委員会編, 「美ら海の自然史 サンゴ礁島嶼系の生物多様性」,東海大学 出版会,秦野.pp. 61-70. 4.竹村明洋(2006).月と暮らす魚たち.琉球大学 21 世紀 COE プログラム編集委員会編, 「美ら海の自然史 サンゴ礁島嶼系の生物多様性」,東海大学出版会,秦野.pp. 225-235. 5.須田彰一郎(2006).緑色鞭毛藻類の生殖−単細胞生物における有性生殖の意義−.琉球大 学 21 世紀 COE プログラム編集委員会編,「美ら海の自然史 サンゴ礁島嶼系の生物多 様性」,東海大学出版会,秦野.pp. 101-118. 6.田中淳一(2006).サンゴ礁での宝探し−多様な海の生理活性物質−.琉球大学 21 世紀 COE プログラム編集委員会編,「美ら海の自然史 サンゴ礁島嶼系の生物多様性」,東海大学 出版会,秦野.pp. 236-245. 2007 年 著書(和文) 1.田中淳一(2007)、海洋生物由来のアクチンを標的とする多様な分子、化学と生物, 45, 177-185. 2006 年 和文(査読付き) 1.木村良子・木村清志・吉郷英範・吉野哲夫 (2006).日本初記録のヒイラギ科魚類 2 種. 魚類学雑誌,53(1): 83-87. 2.前田健・立原一憲 (2006). 沖縄島汀間川の魚類相.沖縄生物学会誌,44:7-25. 3.瀬能 宏・吉野哲夫・鈴木寿之 (2006). 沖縄県のレッドデータブックに掲載された保全 上重要な淡水性ボラ科魚類の同定と新標準和名の提唱.魚類学雑誌,53(2): 196-198. 4.高田未来美・立原一憲 (2006). 沖縄島比地川水系におけるギンブナの性比と倍数性. 沖 縄生物学会誌,44:27-34. 5.吉郷英範・太田 格・吉野哲夫 (2006). 日本初記録のネズッポ科魚類クシヒゲヌメリ(新 称)Eleutherochir mccaddeni.魚類学雑誌,53(2): 189-193. 2006年 和文(査読なし) 1.川口 亮・大城直雅・盛根信也・吉野哲夫 (2006). 遺伝子による有毒魚の鑑別(VII)— フエダイ属イッテンフエダイと近似種の鑑別—.平成 17 年度食品自然毒対策事業報告 書,沖縄県環境衛生研究所,pp. 23-26. 2006 年(国際学会) 1.Aluru, N., X. Chen, R. Weil, A. Takemura & M.M. Vijayan (2006). Tissue-specific expression of hypoxia-inducible factor 1a gene in a coral reef fish, the three spotted wrasse (Halichoeres trimaculatus). Annual Meeting of the Canadian Society of Zoologist, Edmonton, Canada, 2-6 May 2006. 2.Morita, M., M. Fujinoki, A. Takemura & M. Okuno (2006). K+-independent motility initiation in chum salmon sperm treated with glycerol. VIIth International Congress on the Biology of Fish. St John’s, Canada, 18-22 July 2006. 12 3.Nikaido, Y., N. Aluru, A. McGuire, M.M. Vijayan & A. Takemura (2006). Direct effect of cortisol on melatonin production in the pineal organ of tilapia, Oreochromis mossambicus. VIIth International Congress on the Biology of Fish. St John’s, Canada, 18-22 July 2006. 4.Aoki, M., H. Imai, T. Naruse & Y. Ikeda (2006). Low genetic diversity of oval squid Sepioteuthis cf lessoniana in Japan inferred from non-coding region of mitochondrial DNA. International Workshop of Tropical Island Ecosystems and Sustainable Development, Moorea. 5.Maeda K, M. Kondo, N. Yamasaki, & K. Tachihara . (2006). Two types of life history which reflect different migration strategies of amphidromous gobioid fish inhabiting insular streams. International Workshop of Tropical Island Ecosystem and Sustainable Development, Moorea, French Polynesia. 6.Yashiki, A., H. Imai & M. Yamaguchi (2006). Inter- and intraspecific genetic variability in the venerid bivalve, Meretrix spp. in the western Pacific and Indian Ocean. Bivalvia 2006 International congress on Bivalvia, Spain. 7.Yashiki, A., H. Imai & M. Yamaguchi (2006). Inter- and intraspecific genetic variability in the venerid bivalve, Meretrix spp. in the western Pacific and Indian Ocean. International Workshop of Tropical Island Ecosystems and Sustainable Development, Moorea, French Polynesia. 8.Yoshino, T. (2006). Taxonomic review of the eel-tail catfish genus Plotosus with notes on one undescribed species from the western North Pacific. JSPS Workshop on Taxonomy of Fishes found in Southeast Asia, University of the Philippines in the Visayas, Iloilo, Philippines. 9. Tanaka, C., J. Tanaka, Y. Kawanishi, & Y. Nakajima (2006). How some nudibranchs can tolerate toxicity of actin-targeting molecules? ICOB-5 & ISCNP-25 IUPAC International Conference on Biodiversity and Natural Products, Kyoto. 10. Hanif, N.; J. Tanaka, A. Setiawan, A. Trianto, & T. Higa (2006). New bioactive polybrominated diphenyl ethers from the Indonesian marine sponge Dysidea sp. ICOB-5 & ISCNP-25 IUPAC International Conference on Biodiversity and Natural Products, Kyoto. 11. Tanaka, J., A. Mori, M.-E. Bordeleau, & J. Pelletier (2006). Hippuristanol, a selective inhibitor of RNA helicase eIF4A. ICOB-5 & ISCNP-25 IUPAC International Conference on Biodiversity and Natural Products, Kyoto. 12. Tanaka, J. (2006). Translation-inhibiting steroids and actin-targeting macrocycles from coral reef invertebrates. Fukuoka Post IUPAC symposium, Fukuoka. 2006 年(国内学会) 1.Margiastuti Palupi,荻貴之,上江田捷博(2006),波照間島産ホヤ Diplosoma sp. および久 米島産未同定海綿の成分研究−ウニ胚の発生を阻害する物質−,日本化学会西日本大会, 琉球大学,11 月. 2.須田彰一郎(2006).沖縄島産プラシノ藻 Nephroselmis 属の 1 未記載種の分類学的研究. 日本藻類学会第30回大会,鹿児島. 3.洲鎌 望・竹村明洋(2006).魚類の肝臓における時計遺伝子発現の周期性と摂餌との関 連性.日本時間生物学会 13 回学術大会,東京国際フォーラム,東京. 4.朴 龍柱・朴 智権・竹村明洋(2006).ゴマアイゴにおけるメラトニン受容体遺伝子の 13 クローニングと日周発現変化.日本時間生物学会 13 回学術大会,東京国際フォーラム, 東京. 5.二階堂良亮・竹村明洋(2006).コルチゾルが魚類の松果体におけるメラトニン産生に与 える影響.日本時間生物学会 13 回学術大会,東京国際フォーラム,東京. 6.大久保磨美・大石 正・竹村明洋・三輪哲也・林 純子・山本 啓之・保 智己(2006). 深海性魚類であるソコビクニンと浅海性魚類の網膜視細胞の比較.第 77 回日本動物学 会大会,島根大学,松江. 7.竹村明洋(2006).魚類の産卵リズムとサンゴ礁環境.生物時計の多様性と生態機能に関 する研究のトピックス琉球大学熱帯生物圏研究センター共同利用研究会,琉球大学,本 部. 8.伴 真俊・竹村明洋(2006).ベニザケのスモルト化にともなう血中メラトニン量の変化. 平成 18 年度日本水産学会春季大会,高知大学,高知. 9.二階堂良亮・Aluru, N.・McGuire, A.・Vijayan, M.M.・竹村明洋(2006).コルチゾルが魚 類松果体におけるメラトニン産生に与える影響.平成 18 年度日本水産学会春季大会, 高知大学,高知. 10.保 智己・大久保磨美、大石 正・竹村明洋・三輪哲也・林 純子・山本啓之(2006). 鳩間海丘に生息するソコビクニンの光受容器官に関する免疫組織化学的解析.第 22 回 しんかいシンポジウム,パシフィコ横浜,横浜. 11.青木美鈴・今井秀行 (2006). 沖縄島におけるシオマネキの新生息地と遺伝的変異性. 日本甲殻類学会大会,函館. 12.青木美鈴・今井秀行・成瀬 貫・上田幸男・池田 譲 (2006). アオリイカ類の種判別 と集団構造の遺伝学的再検証の試み.日本水産学会大会,高知. 13.千葉 悟・岩槻幸雄・吉野哲夫・半澤直人 (2006).黒潮に隔てられた沿岸魚類の生物地 理—クロダイ・ミナミクロダイの集団構造解析−.日本魚類学会 2006 年度年会,東海 大学,清水. 14.池田広志・今井秀行 (2006). 日本産テナガエビ類全種の種判別と遺伝的類縁関係.日本 水産学会大会,高知. 15.池田広志・今井秀行 (2006). 琉球列島におけるミナミテナガエビの集団遺伝学~黒潮と 幼生分散の関係~.日本甲殻類学会大会,函館. 16.今井秀行・R. C. Barão (2006). モザンビーク共和国沿岸域におけるクルマエビ属ポスト ラーバの種判別と分布調査の試み.日本水産学会大会,高知. 17.石川哲郎・立原一憲 (2006). 沖縄島におけるジルテラピアの年齢、成長および成熟.日 本本魚類学会,静岡. 18.石森博雄・吉野哲夫・星野浩一・張 成年・佐藤圭介 (2006).琉球列島から得られたカ タクチイワシ科タイワンアイノコイワシ Encrasicholina punctifer の仔稚魚.日本魚類学 会 2006 年度年会,東海大学,清水. 19.伊藤 優・立原一憲・今井秀行(2006). 琉球型メダカ集団の現状と低い遺伝的変異性. 日本魚類学会年会,静岡. 20.岩本健輔・吉野哲夫・今井秀行(2006). ミトコンドリア調節領域の塩基配列分析によ るゴマアイゴ集団の遺伝的変異性と構造解析. 日本魚類学会年会,静岡. 14 21.昆 健志・西田 睦・吉野哲夫 (2006).幼形進化的シラスウオ属魚類の隠蔽種をいかに 命名・記載すべきか? 日本魚類学会 2006 年度年会,東海大学,清水. 22.近藤正・前田健・山崎望・立原一憲 (2006). 沖縄島におけるタネハゼの初期生活史. ゴ リ研究会,横須賀. 23.近藤正・前田健・山崎望・立原一憲 (2006). 沖縄島におけるミミズハゼ属の 1 種の生活 史. 日本本魚類学会,静岡. 24.栗岩 薫・半澤直人・吉野哲夫・木村清志・西田 睦 (2006).アイゴ科魚類における自 然交雑.日本魚類学会 2006 年度年会,東海大学,清水. 25.前田健・山崎望・立原一憲 (2006). 琉球列島で採集されたヨロイボウズハゼ属の 1 種. ゴ リ研究会,横須賀. 26.前田健・山崎望・向井貴彦・立原一憲 (2006). 沖縄島におけるゴマハゼ類 2 種の河川加 入時の形態と日齢、着底後の生息環境.日本本魚類学会,静岡. 27.小畑泰弘・今井秀行・北門利英・浜崎活幸・北田修一 (2006). 遺伝標識に基づくトゲノ コギリガザミの放流効果の推定.日本水産学会大会,高知. 28.下瀬環・齋藤宏和・余川浩太郎・立原一憲 (2006). 北太平洋 4 海域におけるクロカジキ の食性. 日本本魚類学会,静岡. 29.山崎望・前田健・立原一憲 (2006). 両側回遊性ハゼ科魚類 7 種の加入時の形態と浮遊仔 稚魚期の長さ. 日本本魚類学会,静岡. 30.矢敷彩子・今井秀行・山口正士(2006).外来種シナハマグリは日本に定着しているの か.日本プランクトン学会・日本ベントス学会合同大会,広島 31.吉郷英範・吉野哲夫 (2006).琉球列島の洞穴に生息するカワアナゴ属の一未記載種.日 本魚類学会 2006 年度年会,東海大学,清水. 32.吉野哲夫・川口 亮・石森博雄・J. Apurado (2006).ニシン目と推定される特異な形態の 幼形成熟魚.日本魚類学会 2006 年度年会,東海大学,清水. 33. 田中淳一 (2006). サンゴ礁生物由来の細胞分裂阻害物質の探索と展開、生体機能分子の 創製 第2回公開シンポジウム、仙台。 34. 田中淳一 (2006). サンゴ礁生物由来の生体機能分子の探索、生体機能分子の創製 第3 回公開シンポジウム、東京。 35. 田中千晶、田中淳一、川西祐一、中島裕美子 (2006). 海洋生物由来のアクチン標的物質 に関する研究、日本化学会西日本大会,沖縄. その他,講演等 1.Tanaka, J. & J. Pelletier. (2006). Translation inhibiting steroids from the Gorgonian Isis hippuris. 琉球大学 21 世紀 COE プログラム「サンゴ礁島嶼系の生物多様性の総合解析」平成 17 年度成果発表会、琉球大学、沖縄. 2. Tanaka, C, J. Tanaka, M. Morita, Y. Kawanishi & Y. Nakajima. Application of halichondramide for affinity media and defense mechanism of some nudibranchs.琉球大学 21 世紀 COE プログラム 「サンゴ礁島嶼系の生物多様性の総合解析」平成 17 年度成果発表会、琉球大学、沖縄. 3.須田彰一郎(2006).沖縄島産プラシノ藻 Nephroselmis 属の 1 未記載種の分類学的研究. 琉球大学 21 世紀 COE プログラム「サンゴ礁島嶼系の生物多様性の総合解析」平成 17 15 年度成果発表会、琉球大学、沖縄. 4.洲鎌 望・朴 智権・朴 龍柱・竹村明洋(2006).末梢組織(肝臓)における時計遺伝 子発現とその周期性.平成 17 年度琉球大学 21 世紀 COE 成果報告会,琉球大学,西原. 5.朴 龍柱・朴 智権・竹村明洋(2006).ゴマアイゴにおけるメラトニン受容体遺伝子の クローニングと日周発現変化.平成 17 年度琉球大学 21 世紀 COE 成果報告会,琉球大 学,西原. 6.二階堂良亮・Aluru, N.・McGuire, A.・Vijayan, M.・竹村明洋(2006).副腎皮質ホルモン が魚類松果体でのメラトニン産生に与える影響.平成 17 年度琉球大学 21 世紀 COE 成 果報告会,琉球大学,西原. 7.Imai, H., F. Kashiwagi, J.-H. Cheng, T.-I. Chen, K. Tachihara & T. Yoshino (2006). Genetics and morphology of two gizzard shads, Nematalosa japonica and N. come, in a hybrid zone of Okinawa Island (Clupeiformes: Clupeidae). 琉球大学 21 世紀 COE プログラム「サンゴ礁島 嶼系の生物多様性の総合解析」平成 17 年度成果発表会、琉球大学、沖縄. 8.石森博雄・吉野哲夫 (2006). 琉球列島産カタクチイワシ科魚類仔稚魚の分類.琉球大学 21 世紀 COE プログラム「サンゴ礁島嶼系の生物多様性の総合解析」平成 17 年度成果発 表会,琉球大学,沖縄県西原町. 9.川口 亮・吉野哲夫 (2006). 琉球列島におけるキバラヨシノボリの系統と進化. 琉球大学 21 世紀 COE プログラム「サンゴ礁島嶼系の生物多様性の総合解析」平成 17 年度成果発 表会,琉球大学,沖縄県西原町. 10.矢敷彩子・今井秀行・山口正士(2006).アジア太平洋域に分布するハマグリ類の分子 遺伝学的手法を用いた系統解析.琉球大学 21 世紀 COE プログラム「サンゴ礁島嶼系の 生物多様性の総合解析」平成 17 年度成果発表会,琉球大学,沖縄. 11.Maeda, K. N. Yamasaki & K. Tachihara. (2006). Pelagic larval durations and larval dispersal of amphidromous sleeper, Eleothris.琉球大学 21 世紀 COE プログラム「サンゴ礁島嶼系の生物 多様性の総合解析」平成 17 年度成果発表会、琉球大学、沖縄. 16 持続可能な島嶼社会形成のためのマングローブ/サンゴ礁 生態系の保全と利用に関する研究 (タスクリーダー:馬場 繁幸) 【はじめに】 沖縄の沿岸生態系の中で独特の景観を作り上げているマングローブ/サンゴ礁生態系は、 生物の多様性に富むと同時に、島嶼沿岸域の海岸侵食や津波などの自然災害から住民生活を 守る上でも重要な役割を果たしているが、脆弱性も併せ持った生態系である。 島嶼の住民生活と島嶼の生物多様性の維持に重要なマングローブ/サンゴ礁生態系の保 全・再生方法,持続可能な利用方法を確立することよって、島嶼社会の安心・安全な発展と 生物多様性の保全を目指し、次の四つのサブテーマに分けプロジェクトを推進した。 1) 持続可能な島嶼社会形成に向けてのマングローブ生態系の生物多様性の保全と再生 2) マングローブの耐塩性機能の解明と島嶼沿岸域保全への応用研究 3) サンゴ礁域の保全・回復に向けたサンゴ移植方法の検討とその評価 4) 住民生活とマングローブ/サンゴ礁生態系との結びつき 以上のようなサブテーマでプロジェクトが推進されたが、以下に成果と 2007 年度に向け た研究の方向性を概説する。 1.藻食性魚類と栄養塩が小サンゴ群体の生存と成長に及ぼす影響 サンゴ礁生態系の基礎となる立体構造を作るサンゴのほとんどの種は、海底に固着して 3 次元的に成長し、光を資源として利用する。このように、海藻もサンゴと同様な資源を利 用するため、この両種は潜在的に競争関係にあるが、海藻はサンゴに比較して成長速度が速 いことから、海藻がサンゴとの競争に勝つことが多いと考えられている。このような環境下 で、サンゴが優占可能な条件とは、海水が貧栄養であり、海藻の成長が抑制されること、あ るいは食性動物が豊富で海藻が摂食されることによるものとされている。したがって、サン ゴが生存していても、富栄養化し、藻食性魚類が乱獲されると海藻の成長が促進され、海藻 への相変移が起こることになる。 本研究は、栄養塩流入と藻食性動物がサンゴの生存や成長に及ぼす影響を検証するため、 西表島の中で栄養塩流入の異なる 2 地点を選定し、移植したサンゴを網で覆い(ケージを設 置し)、藻食動物を排除する実験を行った。 西表島の中で栄養塩流入が少ない場所として網取地区、多い場所として上原地区を選定し た。両調査地の礁原内に、塊状ハマサンゴの骨格から切り出した板(以下では基盤と省略) を設置し、その半数には藻食動物を排除するケージを設置した。基盤の幾つかを毎月回収し、 付着した海藻の現存量を測定した。それとは別の基盤にはウスエダミドリイシの群体片を移 植し、毎月生存率と成長量を測定した。 ケージなし基盤への摂餌圧については、毎月ビデオ撮影し、そのビデオによって魚の摂餌 回数を数えることで摂餌圧とした。調査は、海が穏やかでスキューバダイビングが安全に行 える 2006 年 6 月から 10 月までの期間行った。 17 Growth rate in mea diameter (%) Growth rate in hight (%) Wet weight of algae (g/90cm2) 摂餌圧は、主に藻食性魚類 20 (a) 18 によるもので、サンゴ食魚が 16 14 摂餌することは観察されなか 12 10 った。また、調査地周辺にウ 8 ニ類がほとんど生息していな 6 4 かったので、摂餌圧は藻食性 2 0 魚類のみと考えられた。上原 20 地区では 2006 年 8 月に、ケー (c) 0 ジを設置した試験区では、種 -20 構成が芝状の藻類からウミウ -40 チワの仲間へと変化が見られ た。したがって、種構成の変 -60 化前の 6~8 月期と 8~10 月の -80 2 期に分けて解析することと -100 した。なお、上原地区では種 40 (b) 構成の変化は見られなかった 20 が、2006 年 8 月には、ケージ 0 なし区の海藻の現存量が、そ -20 れ以前の約 3 倍に増加した。 -40 -60 上原地区は、網取地区に比較 -80 して、陸域の開発が進んでい -100 るため、生活排水等により栄 Jun Jul Aug Sep Oct Month 養塩の海域への流入量が多く、 海藻の現存量が多くなるもの 図1.海藻現存量 (a):移植サンゴ片の高さ、 (b):移植サンゴ片の平均直径、 (c) :月変 と予想したが、6~8 月期およ 化。海藻現存量は板あたりの平均湿重量で、サンゴ片の高さと平均直 び 8~10 月期ともに、網取地 径は、実験期間中の増量を初期値で割り%で表した。値は平均値 ± 標 準誤差(海藻現存量は N=8、移植サンゴ片の高さと平均直 径は N= 区の海藻の現存量が上原地区 24-25) のそれよりも有意に多かった。 また、網取地区の藻食性魚類 による摂餌圧は、上原地区よ りも有意に低かった。 このことから、西表島のように人口密度が低く、陸域の開発が局所的で、しかも栄養塩の 流入が著しくない場所では、海藻の生育に対する藻食性魚類の摂餌圧の効果が、栄養塩流入 の影響を上回ることが示唆された。 6-8 月期に海藻の現存量が大きかった網取地区のケージ処理区では、魚類の摂食がないこ とから、海藻が繁茂し、サンゴの生存や成長が有意に低かった。したがって、藻類の繁茂が サンゴの生存と成長を抑制しているとのこれまでの仮説を支持することとなった。8 月を境 に上原地区のケージ処理区では、基盤を密に優占していた芝状藻類から、現存量に比較して 接地面積の割合が小さいウミウチワの仲間へと優占種の変化が見られた。このことにより基 盤内に空き地(空間)ができ、それまで周囲を海藻に囲まれていたことから成長できずにい 18 たサンゴが急速に成長した。 これらのことから、海藻の種組成が変化せずに、単に海藻の現存量が増えると、サンゴの 生存率が低下し、成長も抑制されるが、優占する海藻の種組成が変化する場合は、海藻の現 存量だけではなく、海藻の空間占有形態が、サンゴの生存率や成長量に強く影響を及ぼすこ とが明らにできたものと考えている。 2.西表島周辺におけるサンゴ幼生加入の時間的および空間的変異 サンゴ群集の主要な構成者であるイシサンゴ目の造礁サンゴの幼生加入は、空間的、時間 的に変化する。すなわち、サンゴの浮遊性幼生は遊泳能力に乏しく、幼生の分散方向や距離 が、沿岸地形や風によって変化する表層流の影響を強く受けて、空間的および時間的に変化 することによるものと考えられている。このような幼生分散の時空間変異は、種によって異 なる繁殖様式(放卵放精型および幼生保育型)を持つことに起因すると考えられてきた。 本研究では、その変異形成要因として繁殖様式に加えて、卵の浮力の差異に注目し、 (1) 放卵放精型で浮力の大きい卵を放出する種では、幼生が親から遠くに分散するので、幼生の 分散は表層流の影響を受ける(self-seeding しない)、 (2)放卵放精型で浮力の小さい卵を放 出、または幼生保育で放出直後に定着可能な幼生を放出するサンゴの幼生は、親の近くに加 入する(self-seeding する)との 2 つの仮説を立て、西表島周辺サンゴ礁域における野外調査 でこの 2 つの仮説を検証した。 2005 年と 2006 年に、西表島周辺海域の 11 地点において、放卵放精型で浮力の大きい卵を 放出するミドリイシ科およびハマサンゴ科と、放卵放精型で浮力の小さい卵または体内保育 した幼生を放出するハナヤサイサンゴ科について、幼生加入量と親サンゴ被度の関係を解析 した。 また、浮力の大きい卵から発生した幼生は浮力が大きく、海水面を浮遊する間は表層流と 同じ方向に流れると仮定し、放卵放精種の幼生が海面を浮遊する平均最短日数である放卵放 精後 4 日間の平均風向と、各地点でのサンゴ幼生加入量の関係を解析した。 その結果、ミドリイシ科の幼生加入量は親サンゴ被度とは相関が見られず、しかも調査地 点間の幼生加入量の差異は、親サンゴ被度に比べ小さかった。また、ミドリイシ科幼生加入 量の空間パターンの年変動は、風向から予測される表層流の動きと連動していた。一方、ハ ナヤサイサンゴ科とハマサンゴ科の幼生加入量は、それぞれの親サンゴ被度と正の相関を示 し、空間パターンの年変動は小さかった。 以上の結果から、調査地点間の空間的スケール(< 5 km)では、ミドリイシ科は self-seeding しておらず、ハナヤサイサンゴ科とハマサンゴ科は self-seeding していること、ミドリイシ 科幼生の分散は表層流の影響を受けることが示唆され、仮説を部分的に支持された。また、 ミドリイシ科およびハナヤサイサンゴ科の幼生加入量の結果は、幼生分散および加入の時空 間変異形成への表層流の影響には、繁殖様式だけでなく、卵の浮力も大きく影響している可 能性を示唆しているものと考えられた。 なお、ハマサンゴ科の幼生加入量の結果が、仮説と一致しなかったのは、同じ放卵放精型 でかつ浮力の大きい卵を放出するミドリイシより 2 倍程度速い発生速度が関係していること が考えられた。 19 3.マングローブの耐塩生メカニズムの研究としてのテルペノイドの生理機能について マングローブは、塩ストレス負荷の環境下でも生育可能であるが、これまでの研究の成果 として、マングローブの幼植物に塩ストレスを負荷すると根と葉の両方でトリテルペンの濃 度が上昇することが分かってきている。このことは、トリテルペンが、塩ストレス対応因子 として機能する可能性を示唆しており、トリテルペンがどのような生理的役割を果してマン グローブの耐塩性メカニズムに関与しているのかを明らかにしたいと考えている。 トリテルペンは、疎水性が高いので、細胞内に蓄積しても直接的に浸透圧調整物質として 機能する可能性は低いため、トリテルペンが浸透圧調節物質として蓄積されるのではなく、 他のメカニズムで、浸透圧調節機構に関与していると推測される。そこで、トリテルペンの 化学構造が、生体膜の構成性分である植物ステロールと類似していることから、トリテルペ ンが植物ステロールのように細胞の生体膜に維持されるか、または生体膜に直接作用するこ とで、生体膜の物理的特性を特殊化させている可能性を検証する目的で研究が遂行された。 マングローブ植物に塩分を負荷すると植物ステロールと同様のスクアレン炭素骨格を持 つトリテルペンの濃度が上昇することが観察されることから、トリテルペンが植物ステロー ルに代わり細胞膜に取り込まれ、細胞膜の物理的特性ひいては塩の透過性等に影響を及ぼす ことにより耐塩性に寄与していると仮説を立てた。 しかしながら、マングローブ植物におけるトリテルペン合成酵素遺伝子に関する研究はほ とんど見受けられない。そこで、本実験では沖縄県に生育する 3 種、すなわち Kandelia candel (メヒルギ)、Bruguiera gymnorrhiza (オヒルギ)、Rhizophora stylosa (ヤエヤマヒルギ) を用いて、 これらマングローブ植物におけるトリテルペンの生合成系の知見を得るために、トリテルペ ン合成酵素遺伝子のクローニングを試みることとした。 その結果、オヒルギより 2 つの単一機能型トリテルペン合成酵素遺伝子と、ヤエヤマヒル ギより 2 つの多機能型トリテルペン合成酵素遺伝子の単離に成功した。しかもエヤマヒルギ より単離した 2 つの多機能型トリテルペン合成酵素遺伝子は、新しい多機能トリテルペン合 成酵素遺伝子であると示唆され、これまで報告されたことのない重要な知見が新たなに得ら れた。 4.スマトラ沖地震津波被害復興のための適切なマングローブ林再生方法について 2004 年 12 月 26 日に発生したスマトラ沖地震津波後、本格的な復興事業が開始されたが、 復興事業の中には、津波によって失われたマングローブ林を含めて、海岸林の再生と新た な造成も検討され、すでに多くの国際機関、NGO・NPO(非政府組織、非営利組織)が多額 の資金を拠出し、それらの事業が進められている。しかしながら、再生や造成にあたって は、事前にマングローブ林の津波による被害状況や、津波に果たした防災機能について詳 細な調査が実施されなければならないが、インドネシアのバンダアチェ周辺では、未だ十 分な調査が行われていないのが実情である。それらのことを踏まえ、本事業は、インドネ シアの中でも壊滅的な被害を受けたバンダアチェ市周辺のマングローブ林の被害を調査し、 ①適切なマングローブ林造成方法の検討、②防災機能が発揮可能なマングローブ林の再生 の両方を目的とするプロジェクト形成の可能性を見出すことを目的として実施された。な お、本研究の一部は、外部資金によった。 20 調査地はスマトラ沖地震によ って発生した津波によって、 大きな被害を受けたインドネ シア共和国スマトラ島のバン ダアチェ周辺地域とした。調 査は津波によって被害を受け たマングローブ林の野外調査 として、GPS 並びに測量機器 を用いての測量、被害を受け たマングローブの樹種・被害 を受けた高さ・被害状況等を 調査するとともに、聞き取り 調査を合わせて実施した。ま た、本プロジェクト形成事業 に先立って、これまでに調査 を行っていたタイ南部での被 災状況と比較検討も試みた。 調査の結果、マングローブの 被害は、被害の受け方すなわち インドネシア共和国のバンダアチェ周辺での調査の様子 (写真提供:宮城豊彦氏) 破壊の形(破壊型)から、抜根 流亡型、侵食流亡型、曲げ・折 れ破壊型、せん断破壊方、傾 動・倒壊型に区別することができた。また、それらの破壊型は、樹種によって異なり、樹種 のもつ材の特性、生育立地環境に大きく依存する傾向があった。災害復旧を兼ねてマングロ ーブ植林活動が行われているが、津波によって運ばれた土砂の堆積と津波による土壌の侵 食・流亡で、被災前の地形から大きく変わっており、そのことを考慮せずに、従来マングロ ーブ林があった場所に、植栽を実施するする行為は明らかに誤ったものと言えた。土壌・地 形・潮汐との関係等の環境条件を十分に把握し、その環境条件に適した樹種の植栽を行うべ きものと考えられた。また、被災地域でのマングローブ植林について、環境条件を踏まえ、 どのような基準でどの樹種を植栽すべきなのかのガイドライン作りが、被災地でのマングロ ーブ植林を行う上で、最も重要で早急の課題であると結論づけることができた。 5.今後の展開 本プロジェクトの研究は 2007 年度も継続して遂行予定であり、サンゴの回復・保全に関 しては科学研究費補助金の萌芽研究を獲得し、沖縄に導入された外来哺乳類(マングース) が島嶼生態系に及ぼす影響に関しては環境省推進費を獲得しているが、より積極的に外部資 金を得るために、独立行政法人 科学技術振興機構のアジア科学技術協力の戦略的推進に係 る課外分類「自然災害への対応に資する防災科学技術分野の研究開発」提案課題名「防災機 能を発揮するマングローブ林の造成法」(施予定期間平成 19 年 7 月~平成 22 年 3 月)への 申請、平成 16 年の台風 13 号後の西表島における台風被害と森林の更新動態については基盤 21 研究(B)を、 太平洋島嶼のマングローブの群落機構についても基盤研究(B) 「島嶼マン グローブ林前縁部における種構成・立地・維持機構と海面上昇適応への評価」を分担で申請 している。また、海外のマングローブ林の再生・保全の現地活動、現状調査等については農 学部内に事務所のある国際マングローブ生態系協会を通じた外部資金獲得と現在ブラジル で実施されている国際協力機構の草の根技術協力事業等を通じた研究の遂行も考えている。 6.研究成果の公表 (1)原著論文 1. Morita, M., Nishikawa, A.., Nakajima, A., Iguchi, A., Sakai, K., Takemura, A., Okuno, M. Eggs regulate sperm flagellar motility initiation, chemotaxis, and inhibition in the coral, Acropora digitifera, A. gemmifera, and A. tenuis. The Journal of experimental Biology, 209:4574-4579 (2006) 2. Rosenfeld, M., Shemesh, A., Yam, R., Sakai, K., Loya, Y. Impact of the 1998 bleaching event on δ18O records of Okinawa corals. Marine Ecology Progress Series, 314:127-133 (2006) 3. T. Nakamura, Yamazaki S., Sakai, K... Yamasaki, H., Furushima, Y. and Yamamoto, H. Acroporid corals inhabiting over a unique methane-bubbling hydrothermal vent field in a coral reef of Southern Ryukyu Archipelago. Coral Reefs, 25:382 (2006) 4. Mohammad Basyuni, Hirosuke Oku, Etsuko Tsujimoto, Shigeyuki Baba: Cloning and Functional Expression of Cycloartenol Synthases from Mangrove Species Rhizophora stylosa Griff. and Kandelia candel (L.) Druce. Biosci. Biotechnol. Biochem. (2007) (In press) 5. Mohammad Basyuni, Hirosuke Oku, Shigeyuki Baba, Kensaku Takara, Hironori Iwasaki: Isoprenoids of Okinawan Mangroves as Lipid Input into Estuarine Ecosystem. J. Oceanogr. (2007) (In press) 6. Mohammad Basyuni, Hirosuke Oku, Masashi Inafuku, Shigeyuki Baba, Hironori Iwasaki, Keichiro Oshiro, Takafumi Okabe, Masaaki Shibuya, Yutaka Ebizuka: Molecular Cloning and Functional Expression of a Multifunctional Triterpene Synthase cDNA from a Mangrove Species 7. 8. 9. 10. Kandelia candel (L.) Druce. Phytochemistry, 67, 2517-2524 (2006). P. Tambunan, S. Baba, A. Kuniyosh, H. Iwasak, T. Nakamura, H.Yamasaki and H. Oku. Isoprene emission from tropical trees in Okinawa Island, Japan. Chemosphere 65, 2138-2144 (2006) Parlindungan Tambunan, Shigeyuki Baba, Hirosuke Oku. Effect of humidity on isoprene emission from a leaf of tropical tree Ficus virgata. Japanese Journal of Tropical Agriculture 51 (1) 30-34 (2007) Wu, L., T. Shinzato and M. Aramoto. Stand structure and species diversity of 18-year-old post clearcut-burn regeneration broad-leaved forest on Iriomote Island, Okinawa. J. Jpn. Soc. Reveget. Tech., 32: 337-345 (2006) Wu, L. et al. Contribution of regeneration sources in early succession stage of a subtropical evergreen broad-leaved forest after selective logging in Okinawa. Kyushu J. For. Res. 59:75-81 (2006) 11. 石垣長健・新里孝和・新本光孝. 西表島におけるイノシシ猟の伝統技術と実状. 琉球大学 農学部学術報告 53::11-18 (2006). 22 12. 石垣長健・新里孝和・安里練雄・新本光孝・呉 立潮. 西表島における森林植物とイノ シシ猟について. 九州森林研究 60:51-54 (2007) 13. KARASAWA S. and N. HIJII (2006) Does the existence of bird’s nest ferns enhance the diversity of oribatid (Acari: Oribatida) communities in a subtropical forest? Biodiversity and Conservation, 15 (in press) 14. KARASAWA S. and N. HIJII (2007) Determinants of litter accumulation and the abundance of litter-associated microarthropods in bird’s nest fern (Asplenium nidus complex) in the forest of Yambaru in Okinawa Island, southern Japan. Journal of Forest Research (in press) (2)著書・総説 1. 酒井 一彦 多様なサンゴ礁生物の成り立ちとその守り方. 「美ら島の自然史(琉球大学 21 世紀 COE プログラム編集委員会編)」p. 289-300 (2006) 2. 唐沢重考 懸垂土壌におけるササラダニ群集の多様性 Edapholonigia 79:27-40 (2006). (3)その他の著書 1. 酒井一彦. 瀬底島周辺における造礁サンゴ被度の変遷-25 年を振り返る- みどりい し (17):15-19 (2006) 2. 馬場繁幸. マングローブ再生のロードマップ. 沖縄ロハス. 山と渓谷社 p.98-117 (2006) (4) 学会発表等 1. 甲斐清香・酒井一彦. 第 9 回 日本サンゴ礁学会大会. 群体サイズと群体年齢が群体性 サンゴの成長や繁殖に及ぼす影響 (2006) 2. 玉井玲子・酒井一彦. 第 9 回 日本サンゴ礁学会大会. 藻食性魚類と栄養塩が小サンゴ 群体の生存と成長に及ぼす影響 (2006) 3. 酒井一彦・岩田幸一・向草世香. 第 54 回 日本生態学会大会. 沖縄本島と慶良間列島に おけるサンゴメタ個体群の危機 (2007) 4. 森本直子・酒井一彦・長尾正之・鈴木淳. 第 54 回 日本生態学会大会. 琉球列島のサン ゴ礁における陸水流入と栄養塩動態 (2007) 5. 中村雅子・酒井一彦. 第 54 回 日本生態学会. サンゴ幼生加入の空間的、時間的変異 (2007) 6. 7. 8. 9. 玉井玲子・酒井一彦. 第 54 回 日本生態学会大会. 藻食性魚類と栄養塩が小サンゴ群体 の生存と成長に及ぼす影響 (2007) Mohammad Basyuni, Masashi Inafuku, Etusko Tsujimoto, Takafumi Okabe, Hironori Iwasaki, Hirosuke Oku: Cloning and characterization of oxidosqualene cyclases from a mangrove species Rhizophora stylosa Griff. Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry convention in 2007, Tokyo University of Agriculture (2007) モハマド・バシュニ・屋 宏典・馬場繁幸・岡部貴史・岩崎公典: マングローブのテルペ ノイド合成遺伝子のクローニング. Symposium on Japanese Nourishment and Food Society, Kyushu and Okinawa Branch 2006, Saga University (2006) Go Ogura, Takashi Nagamine, Yasuo Iijima, Yoshinori Arakaki, Makiko Hamada, Michio Kinjo, 23 Makoto Iwasaki, Yukihide Kishimoto, Osamu Ishibashi and Fumio Yamada. Mongoose- and cat-proof fence for the Okinawa Rail preserve on Okinawa Island in the Ryukyu archipelago, Japan. 2006 Hawaii Conservation Conference, Honolulu, USA (2006) 10. 保尊脩・花井正光・小倉剛,島袋綾野,仲盛敦,当山昌直,石垣金星. 琉球列島におけ るジュゴンのかつての分布とその復元に向けて-ジュゴン奉納頭骨とトレス海峡ジュ ゴン猟調査からの考察- 野生生物保護学会第 12 回(沖縄)大会(2006) 11. 保尊脩・小倉剛・砂川勝徳. ジュゴン(Dugong dugon)頭骨の形態学的計量計測 野 生生物保護学会第 12 回(沖縄)大会 (2006) 12. Baba, S. Brief introduction of Univ. of the Ryukyus, ISME and myself, and my suggestion to your mangrove plantation activities. JBIC India Workshop on JBIC India project (2006) 13. Baba, S. et al. Conservation and Management of mangroves in Japan. International Conference and Exhibitions on Mangroves of Indian and Western Pacific Oceans (ICEMAN). Kuala Lumpur, Malaysia (2006) 14. 山本来紀・川名祥史・馬場繁幸・持田幸良・鈴木邦雄・笹本浜子. ベニマヤプシキ (Sonnearatia caseolaris)葉及び子葉の組織・組織培養系開発 第 12 回日本マングローブ 学会 (2006) 15. 持田幸良・Charlene Mersai・Arius Merep・Geory Mereb・行平英基・馬場繁幸. パラ オ諸島マングローブ植生の種組成・構造とその配列第 12 回日本マングローブ学会 (2006) 24 亜熱帯生物資源を活かした健康長寿と持続可能な 健康バイオ資源開発に関する研究 (タスクリーダー:安仁屋 洋子) プロジェクトの実施概要 本プロジェクトは「沖縄の多様なバイオ資源の科学的研究を総合的に行い、健康保持・ 疾病予防に資する健康バイオ資源の開発を図る」ことを目的とし、今年度は①琉大発健康 資源としてベニバナボロギクの開発②健康バイオ資源の栄養疫学的研究に重点配分して研 究を行った。①ではベニバナボロギクの種子からの栽培方法の検討、有効成分の分離、ま た機能性として抗ウイルス作用、抗がん作用、肝保護作用等が検討された。②ではベニバ ナボロギクの機能性野菜の開発と関連し、沖縄特産野菜の摂取と生活習慣病の予防につい ての介入試験が行われた。 プロジェクトの成果概要 ベニバナボロギクは沖縄の冬の野草であることから採取された種子からの栽培について 今冬から現在まで検討中である。ベニバナボロギク熱水抽出物の機能性については、単純ヘ ルペスウイルスのプラーク数及びサイズの減少を引き起こし、抗ウィルス作用が確認された 。抗がん作用は、昨年度の短期動物実験によるベニバナボロギク抽出物の大腸癌前癌病変抑 制の成果を基に、今年度はマウス炎症性大腸発癌モデルによる腫瘍形成抑制の検討を行い、 現在データの解析中である。劇症肝炎モデルラットの研究では肝保護作用のメカニズムが解 明され、また、薬物代謝酵素の抑制作用が明らかにされた。プロテオミクス解析で、ベニバ ナボロギク抽出物により発現が影響される蛋白質スポットも複数同定されている。沖縄特産 野菜の摂取と生活習慣病の予防についての介入試験については熟年者へ沖縄産野菜の摂取 試験が終了し、結果の解析中である。 これらの研究を通してベニバナボロギクを用いた 2 件の特許申請がなされた。 研究成果 1.ベニバナボロギクの栽培方法の検討 ベニバナボロギクは沖縄では冬に生育する野草であるため、これらより種子を採取し、琉 球大学亜熱帯フィールドセンターの農場にて播種試験を行い、発芽率、生育状況を検討した。 種子より十分栽培可能であり、引き続き肥料、土壌との関連など検討中である。 2.ベニバナボロギクに含まれるイソクロロゲン酸の分離 琉球大学亜熱帯フィールドセンターから提供されたベニバナボロギク乾燥物を粉砕後、熱 水で抽出し、凍結乾燥したものを分離用の試料とした。分離は以下の手順で行った。試料を 蒸留水に再溶解し、遠心分離後の上清をまず HP-20 カラムに通した。カラム吸着物はメタノ ール濃度を上げながら溶出し、そのなかの 70%メタノール溶出部をイソクロロゲン酸含有粗 画分とした。 25 c 500 mAU b 1000 24.016 保持時間 OD 320 nm 20.867 スペクトルのMAXプロット 1000 a 500 20.301 mAU 次に本画分を C18 カートリッ ジ で 処 理 し 、 TOYOPEARL HW-40C カラムに通した後、 50%メタノールで溶出した画 分をイソクロロゲン酸画分と した。得られた画分の HPLC クロマトグラムを図 1 に示し た。本画分の 325nm によるイ ソクロロゲン酸(a, b および c)の純度は 94%であり、熱 水抽出物からの収率は約 2% であった。なお、熱水抽出物 ならびにイソクロロゲン酸画 分を機能性研究の材料として 分担研究者に供した。 0 5 0 図1 10 15 20 25 min Retention time (min) 0 30 35 イソクロロゲン酸画分の HPLC クロマトグラム 3. ベニバナボロギク抽出物の抗ウイルス作用と抗がん作用 【目 的】 ベニバナボロギク(Crassocephalum crepidioides: CC)の機能性植物としての開発のための新 規機能の探索を行い、機能成分の同定を目指す。本年度は以下の 3 テーマで研究を行った。 【方法及び結果と考察】 (1) ベニバナボロギク(CC)抽出物の抗単純ヘルペスウイルス(HSV)作用 ウイルス感染細胞として Vero 細胞を用い、HSV-1(HF 株、7401H 株)と HSV-2(Savage 株、 333 株)に及ぼす影響を感染中和試験とプラ−ク形成試験で調べた。CC 熱水抽出物は HSV-1 に対する中和活性はほとんど認めなかったが、HSV-2 に対する中和活性を有していた。また、 ウイルス感染 72 時間後のプラーク形成による検討では、CC 抽出物はウイルスの吸着および 侵 入 段 階 を 抑 制 し 、 HSV-1 よ り も 表 1 CC 抽出物の HSV に対する作用 HSV-2 に対する抑制効果のほうが強 かった。また、HF 株や 333 株ではウ イルスの侵入後に CC 抽出物を作用さ せると、プラークサイズが減少した (表 1)。今後はマウスの皮膚に HSV-1 を接種し、皮膚病変や脳炎発症に対す る CC 抽出物の効果を調べる予定であ る。 (2)CC 抽出物の一酸化窒素(NO)誘導効果 NO には腫瘍細胞にアポトーシスを誘導する抗腫瘍活性がある。マウスマクロファージ細 胞株 RAW 264.7 の NO 産生を CC 抽出物が濃度依存性に増強することを見出した(図 1)。一 26 方、LPS 誘導性の NO 産生には CC 抽出物は影響を及ぼさなかった。CC 抽出物は iNOS mRNA 発現を誘導し、マウス iNOS 遺伝子転写調節領域を含むルシフェラーゼ発現ベクターを用い た解析から、プロモーター活性を増強することがわかった。NF-κB 阻害剤により CC 抽出物 誘導性の NO 産生や iNOS mRNA の発現が抑制されたことから、転写開始点より上流 −971/−962bp にある NF-κB2 領域と−85/−76bp にある NF-κB1 領域を欠失したルシフェラーゼ 発現ベクターを作製した。これらの 2 領域を共に欠失すると、CC 抽出物による iNOS プロ モーター活性の増強は全く見られなくなり、1 領域の欠失では NF-κB2 の欠失による減弱の ほうが強かった。更に、NF-κB2 領域と NF-κB1 領域をプローブにしたゲルシフトアッセイ では、NF-κB2 及び NF-κB1 に CC 抽出物による NF-κB タンパク質の DNA 結合の誘導が観察 されたが、NF-κB2 に結合する NF-κB タンパク質のほうが多かった。スーパーシフトアッセ イの結果、両領域に結合する NF-κB は p50 と p65 のヘテロ二量体であった。また、NIK や IKK の優性抑制変異体の導入により CC 抽出物による iNOS プロモーター活性の増強が阻害 されたことから、NIK→IKK 経路を介した NF-κB の活性化が iNOS 遺伝子転写活性化に重要 であると考えられた。以上の結果より、CC 抽出物は NIK→IKK の活性化を介して NF-κB を 活性化し、iNOS プロモーターの転写を亢進させる。その結果、NO の産生が誘導されると結 論される(図 1)。今後は、マウス肉腫細胞株を用いて、マウスマクロファージから産生され る NO の抗腫瘍効果を in vitro 及び in vivo で検証する予定である。 図1.CC 抽出物の NO 産生誘導機構 (3)CC 抽出物の抗成人 T 細胞白血病(ATL)効果 ATL はレトロウイルス HTLV-1 感染を原因とする T 細胞性白血病である。CC 抽出物のリ ンパ球の生存率に及ぼす影響を検討したところ、静止期リンパ球に比べて PHA や IL-2 で活 性化したリンパ球の生存率を低下させることがわかった。そこで、活性化リンパ球の形質を 有する ATL 細胞や HTLV-1 感染細胞株の生存率に及ぼす影響を調べた。CC 抽出物はこれら 細胞の生存率を静止期リンパ球に比べて有意に低下させた。一方、非感染細胞株の生存率に 及ぼす影響は軽微であった。細胞生存率の低下はアポトーシスの誘導であり、ATL 細胞や HTLV-1 感染細胞株の生存に必須の働きをしている NF-κB 活性や AP-1 活性を CC 抽出物は 阻害した。NF-κB 制御下のアポトーシス阻害タンパク質 c-IAP2 の発現を CC 抽出物が抑制 27 することも判明した。SCID マウスの皮下に HTLV-1 感染細胞株を移植し、CC 抽出物を連日 経口投与し、腫瘍径を測定することで、抗 ATL 効果を判定した。対照群と比較し、CC 抽出 物は有意に腫瘍の成長を抑制した(図 2)。以上の結果、CC 抽出物は NF-κB 活性や AP-1 活性 を阻害することで、c-IAP2 の発現を抑制し ATL 細胞や HTLV-1 感染細胞株にアポトーシス を誘導すると考えられた。 図2 CC 抽出物の抗 ATL 効果 なお、全ての効果についてイソクロロゲン酸や熱水抽出物の画分を用いて検討し、有効 成分を同定する予定である。 4.ベニバナボロギクのマウス炎症性大腸癌モデルにおける腫瘍抑制効果の検討 ベニバナボロギク Crassocephalum crepidioides (CC)熱水抽出物投与による大腸腫瘍抑制効 果を、マウス炎症性大腸発癌モデルを用いて検討した。5 週齢雄 CD-1 マウスを第 1 群: azoxymethane (AOM)+基礎食、第 2 群:AOM+0.1%CC 含有食(initiation phase)、第 3 群: AOM+0.5%CC 含有食(initiation phase) 、第 4 群:AOM+0.1%CC 含有食(post-initiation phase)、 第 5 群:AOM+0.5%CC 含有食(post-initiation phase)、第 6 群:0.5%CC 含有食、第 7 群:基礎 食の 7 群に分け実験を行った。第 2-3 群は実験開始より 5 週間、0.1%及び 0.%CC 含有食を それぞれ投与し 5 週目から実験修了までは基礎食を、第 4-5 群は実験開始より 5 週間は基礎 食を 5 週目から実験終了までは 0.1%及び 0.%CC 含有食をそれぞれ投与した。第 1-5 群は基 礎食及び CC 含有食経口投与 1 週目に AOM の皮下注投与 (10mg/kg)と 2 週目より 2% dextran sulfate sodium (DSS)を 1 週間飲水投与した。実験開始 5 週目に第 1-3 群の各 10 匹を屠殺し大 腸を摘出、ホルマリン固定後、alcian blue (pH2.5)染色による大腸前癌病変であるムチン涸渇 巣 mucin depleted foci (MDF)数と methylene blue 染色により別の大腸前癌病変である大腸陰窩 28 変異巣 aberrant crypt foci (ACF)数を測定し CC の initiation phase における前癌病変に対する修 飾効果を検討した。残りは、実験開始 14 週目に屠殺し大腸腫瘍の発生頻度に加え MDF と ACF の測定を行い CC の initiation 及び post-initiation phase における腫瘍抑制効果と ACF 及 び MDF に対する修飾効果を検討した。実験開始 5 週目おける MDF 数は、0.1%及び 0.5%CC 投与により減少傾向を示したものの有意な抑制効果は認められなかった。ACF に関しは、 CC 投与により増加傾向が見られた。実験開始 14 週目にける ACF 及び MDF 数は、CC 投与 による抑制効果は見られなかった。腫瘍の発生率は、0.1%CC の post-initiation phase におい て減少傾向を認めたものの 0.5%の高濃度では逆に発生率を上昇させる傾向を示した。 以上より、ベニバナボロギク熱水抽出物によるマウス炎症性大腸発癌モデルにおける 2 つ の前癌病変と大腸腫瘍の発生を抑制する傾向は認められなかった。現在、腫瘍の大きさに対 する抑制効果と組織学的浸潤度に関する検討を行っている最中であるが、昨年度の検討し得 られたラット大腸発癌モデルでの抑制効果との差違は、使用したモデルの炎症性修飾効果が より強力であった可能性が考えられるが、詳細はまだ検討中である。 5.ベニバナボロギクの肝薬物代謝酵素抑制作用と肝保護作用 (1)ベニバナボロギクの薬物代謝酵素抑制作用 医薬品や化学物質の薬効・毒性は薬物代謝酵素活性レベルで左右され、薬草と医薬品の併 用で薬物代謝酵素の阻害があると医薬品等の薬効・毒性が影響を受ける。薬物代謝の第 1 相 の酸化反応を触媒する酵素であるシトクロム P450 には様々な分子種が確認されているが、本研 究ではベニバナボロギク(CC)およびその抗酸化成分であるイソクロロゲン酸の P450 分子 種に及ぼす影響について in vivo 検討した。 【実験方法】 CC は琉大農場で採取された CC 熱水抽出(乾燥粉末)エキス(農学部和田先生提供)を 使用した。Sprague-Dawley(SD)雄性ラットをコントロール群(MC;3-methylcholanthrene、 25mg/kg を 24 時間間隔で 3 回投与)と CC 群(MC 最終投与24時間後に CC,100mg/kg を1 2時間間隔で2回腹腔内投与)に分けた。CC 最終投与 12 または 24 時間後に、一夜絶食後断 頭し、常法により肝ミクロソームを分離し、P-450(CYP)各分子種の酵素活性、蛋白発現、 mRNA 量を測定した。 MROD (CYP1A2) 100 80 60 40 20 0 Activity(pmol/mg/3min) Activity(nmol/mg/15min) AN (CYP2E1) (A) CYP 1A2 1000 800 600 *** 400 200 0 MC BB ip (n=3) (n=3) 図1.BB による P450 への影響 MC BB ip (n=3) (n=3) MC CCip CCpo (B) CYP 2E1 図2.Cytochrome P450 の Western blot 29 【結果および考察】 CC100mg/kg の腹腔内投与により AN 活性(CYP2E1)は 84.8%に、MROD 活性(CYP1A2) は 78.5%と有意な低下がみられたが(図1)、他の CYP 活性の低下はみられなかった。両活 性とも Vmax が約2分のⅠに低下し、また図2に見られるように蛋白発現量の低下も観察さ れた。CC の抗酸化成分であるイソクロロゲン酸(40mg/kg)投与による CYP1A2, 2E1 活性 の低下は見られなかった。 これらの結果から、CC は腹腔内投与により CYP1A2、2E1 を選択的に抑制し、この抑制 作用には抗酸化成分であるイソクロロゲン酸は関与していないことが示唆された。 600 500 control GalN/LPS GL+C.c. *** 400 300 *** ### 200 100 TNF-α(% of GalN/LPS) NO2-/NO3- (% of control) (2)ベニバナボロギクの肝保護作用 ガラクトサミン(GalN)/リポポリサッカライド(LPS)による肝障害に対するベニバナボ ロギク(CC)およびイソクロロゲン酸(ISO)の影響を検討した。GalN は DNA 合成阻害、 膜蛋白合成阻害、酸化ストレスにより肝障害を起こし、LPS はマクロフアージを活性化して サイトカイン(TNF-alpha など)を遊離し、一酸化窒素(NO)合成酵素(iNOS)やプロスタグ ランジ合成酵素のシクロオキシゲナーゼ(COX-2)を誘導することが知られており、GalN/LPS 併用は大量の NO 発生を伴う敗血症モデルとして用いられる。 ラットに GalN/LPS 投与の 1、15 時間前に CC(20mg/kg)、 ISO(10mg/kg)を腹腔内投与し、 12または 24 時間後の血清、肝の諸パラメーターを測定した。GalN/LPS 投与により引き起 こされる血清 AST、ALT、GST 活性の著明な増加は CC 前投与により有意に抑制された。ま た、GalN/LPS による肝過酸化脂質や NO 量の増加、 DNA 断片化(アポトーシス)も CC の 前投与により抑制された(図1)。GalN/LPS 投与により肝の iNOS や COX-2 の mRNA 発現、 ミトコンドリアの iNOS 蛋白の発現が見られたが、CC 投与によりこれらの発現は抑制され、 また、GalN/LPS による血清中の TNF-alpha の増加や caspase 3 活性も抑制された(図2)。イ ソクロロゲン酸の前投与も軽度ながら、CC と同様に GalN/LPS 肝障害抑制作用を示した。 160 140 GalN/LPS GL+C.c. ** 120 100 80 60 40 20 ## 0 0 (***:P<0.001 vs. control group) (###: P<0.001 vs. GalN/LPS group) 図1.血清一酸化窒素(NO) (**:P<0.01 vs. control group) (##: P<0.01 vs. GalN/LPS group) 図2.血清 TNF-alpha これらの結果から、CC は TNF-alpha 遊離の抑制を介して iNOS、COX-2 誘導を抑制し、肝 に保護的に働いたことが示唆された。 30 6.ベニバナボロギク プロテオーム解析 【目 的】 製薬企業の化合物ライブラリーにも、沖縄産植物成分と同様の作用を示す化合物は多数あ る。事業化は、安全性の担保を経て認可に至る負担との兼ね合いである。沖縄産植物成分は、 その伝統から有利な立場にあるが、生体に及ぼす影響を可能な限り詳しく調べる過程を経ず に実用化は出来ない。本研究では、プロテオーム解析(二次元電気泳動法と質量分析法)を 用いてベニバナボロギク成分の細胞への影響を解析した。 【方 法】 1)処理: 2.0×106 cell / 10cm dish で細胞(Macrophage J774 株)を用意し、37℃で 24 時間 培養した後、ベニバナボロギク成分入りの培地(final: 200μg/ml)と交換し、さらに 37℃ で 24 時間培養した。 2)二次元電気泳動:Cell scraper で細胞をかき取り、cell lysis buffer に細胞を溶解した。サ ンプル中のタンパク質を 2D-clean up Kit (Amersham)を用いて選択的に沈殿・脱塩処理を 行った後、蛍光色素(CyDye)を用いてラベルし、等電点電気泳動ゲル(DryStrip)にア プライした。泳動後のゲルを 2 次元目のゲル(SDS-PAGE)にアプライし、泳動後、Tyhoon 9000(GE)を用いて画像の検出と解析を行った。図の実験では control サンプルを赤色、 ベニバナボロギクサンプルを緑色で表現しており、両者が重なると黄色に見える。両者 で差のあるスポットは赤あるいは緑のいずれかの色彩が勝るが、明白に赤や緑を呈する 多くのスポットはある種のアーチファクトであることを確認済みである。すなわち、色 素によるラベル効率が異なる蛋白質が存在し、その幾つかは同定ずみである。 3)質量分析: タンパク質をウェット式のブロッティング法によって PVDF 膜(ProblottTM Membr、 AppliedBio systems)へ転写した。金コロイド試薬(Bio-Rad)を用いてタンパク質の染色 を行い、ベニバナボロギク成分により影響されないランドマークスポット 10 個と、影響 されるスポット 7 個をカッターで切り出した。1.5 ml tube 内でタンパク質の還元 Sアルキル化とプロ No identyfication (2) テアーゼ消化を行 い、断片化されたペ 66kDa プチドを質量分析 ATP synthase 計 (Applied Biosysbeta-subunit Erp29 precursor 47kDa tems 4700 proteomics beta-actin Rho, GDI beta analyzer)を用いて解 析を行い、データー ベースと照合して タンパク質の同定 を行った。 Actin related protein 2/3 complex, subunit 31kDa No identyfication (1) Fatty acid binding protein 5, epidermal pH 7.0 【結 果】 1)Macrophage 細胞の蛋白質発現プロファイル(影響されるスポット 7 個) 10kDa pH 4.0 31 2)ランドマークスポットの一つ(L)およびベニバナボロギクにより影響されたスポットの 同定 No . Protein name Peptide (Hits) Coverage (%) MW (kDa) pI L ATP synthase beta9subunit 6 15 56.3 5.1 1 beta-actin 5 36 17.7 5.0 2 Rho, GDI beta 7 48 22.8 4.9 3 Arp 2/3 complex, subunit 5 5 39 16.2 5.4 4 Fatty acid binding protein 5 6 70 15.1 6.1 5 Erp29 precursor 8 39 28.8 5.9 6 No identification (1) - - - - 7 No identification (2) - - - - 3)ランドマークスポットの一つ(L)およびベニバナボロギクにより影響されたスポットの 三次元解析 L) ATP synthase beta-subunit 1.00 4) Fatty acid binding protein 5, epidermal 0.53 1) beta-actin 1.31 5) Erp29 precursor 1.42 2) Rho, GDI beta 0.56 6) No identification (1) 0.43 3) Actin related protein 2/3 complex, subunit 5 0.83 7) No identification (2) 0.59 【まとめ】 ベニバナボロギクにより影響を受ける 7 つのタンパク質スポットを発見した(I)。うち、 5 つの同定には成功しましたが、2 つに関しては極微量であったため困難であった(II)。タン パク質の発現量の違いを示した 3D イメージでは、赤字の値は control サンプルのベニバナボ ロギ クサ ンプルに対する 比率を表わす(III)。Landmark スポット である 、ATP synthase beta-subunit では発現量は同程度であるため、数値は 1.00 である。 32 beta-actin の減少をはじめ、主にアクチン関連の蛋白質の変動がみられ、ベニバナボロギ クが細胞形態、細胞接着、細胞遊走などに影響を与えることが示唆される。Rho GDI はアク チンストレスファイバーの形成に係わる低分子量 G 蛋白質 Rho の阻害因子であり、アクト ミオシン繊維の張力減少につながる。また、Actin related protein はアクチン束のメッシュ状 構造形成により細胞形態に平面的部分を生じさせる。具体的には細胞遊走の際に進行方向に 出される偽足ラメリポディアの形成などにかかわっている。結論として、ベニバナボロギク はアクチン細胞骨格の再編成による各種細胞機能に影響を与えると考えられた。 7.沖縄特産野菜の健康影響に関するヒト短期介入試験(チャンプルースタディ2) 【目 的】 チャンプルースタディ1の研究成果を踏まえて、沖縄野菜の効果を見るために、45~65 歳の生活習慣病リスクの高い集団を対象として介入試験(ランダム化割付比較試験)による 検証を行った。昨年実施したチャンプルースタディ1と異なる点は、以下の通りである。 1)集団サイズを 229 名と拡大した。2)対象者を夫婦単位として、男性を加えた。3)介入期間 を 1 ヶ月と長期にした。4)介入群に沖縄野菜ジュース(主としてゴーヤー)群を加えた。5) 家庭用デジタル血圧計を配布し、毎日(延べ 2 週間)の血圧変動を測定し、介入前後に脈波 伝播速度値(PWV)を測定した。 【方 法】 対象者は、沖縄在住の健康な 45-65 歳の夫婦 229 名(野菜介入群 91 名、対照群 92 名、 ジュース介入群 46 名)である。試験期間は 4 週間とした。介入群にのみ、沖縄特産野菜 2.1kg を週に2回、自宅に宅配便にて配送し、摂取を勧めた。沖縄野菜は、1 週間あたりゴーヤー 800g、未熟パパイア 500g、ナーベーラー(未熟へちま)350g、ハンダマ(水前寺菜)150g を コア野菜(合計 1.8kg)として配布し、その他、チキナ(からしな)、ンジャナ(ニガナ)、 フーチバー(よもぎ)、つるむらさき、リュウキュウ人参(黄人参)、シークワーサー、ウン チェー、島らっきょう、シマネギなどを適宜組み合わせ、合計量としておよそ 300g 配布し た。 図1.沖縄特産野菜の健康影響に関する短期介入試験(チャンプルースタディ2) 33 ジュースは、1日 2 杯分(1 杯あたり 230ml)を配達員が毎日配布した。1週間あたり、 ゴーヤー(種、綿含む)840g、グレープフルーツ 308g、りんご 560g、レモン 2.8g、はちみつ 112g、リンゴ酢 2.8g の摂取に相当する。 調理方法を記した資料と摂取量を調べるための電子秤を提供し、摂取の推進と、その記録 を促した。摂取記録は介入前と介入期間中のそれぞれ 1 ヶ月のうち、曜日の異なる延べ 7 日間、合計 14 日間摂取した野菜と果物の種類と量を記録させた。対照群は沖縄特産野菜の 配布は行わず、さらに、非沖縄野菜で、沖縄特産野菜の摂取を控えるように指導した(その 他の野菜については何の指示も与えなかった)。介入群と同様に、秤を提供し、野菜・果物 の種類と摂取量を記録させた。試験の前後および終了後 2 ヶ月後に、それぞれ過去 1 ヶ月 における食習慣について自記式食事歴法質問票を用いて調査した。介入前後に、空腹時の血 清と 24 時間尿を採取した。デジタル自動血圧計を各世帯単位に配布し、朝食前、起床 1 時 間以内に介入前と介入後、それぞれ連続 1 週間、血圧測定させた。 本試験は、実施施設である琉球大学医学部の倫理審査委員会の承認を得て実施した。 【結 果】 すべての検査が完了したものは、野菜介入群 91 人、ジュース介入群 46 人、対照群 92 人 であった。表1に対象群の身体計測値および血液の介入前の検査値を示す。年令、体重、 身長、BMI、血圧、血清総コレステロール、LDL コレステロール、HDL コレステロール、 中性脂肪、GTP、GOT、GPT、葉酸ともに群間の有意差は示されなかった。 試験期間中の野菜摂取量を表2に示す。介入後の総野菜摂取量の平均値は、それぞれ沖縄野 菜群 416g/日、ジュース群 373g/日、対照群 298g/日摂取しており、そのうちの沖縄特産野菜 の平均摂取量は、それぞれ 204g/日、152g/日、43g/日であった。総野菜摂取量、沖縄特産野 菜ともに群間の有意差が示された。一方、介入前の総野菜、沖縄特産野菜、その他の野菜摂 取量は、沖縄野菜群、ジュース群、対照群における群間の有意差は示されなかった。 表1.沖縄特産食材の健康影響に関する短期介入試験(チャンプルースタディ2) :介入前の基本検査項目 34 表2 沖縄特産野菜の健康影響に関する短期介入試験(チャンプルースタディ2) :試験前と期間中の野菜摂取 (g/日) 【考察と結論】 チャンプルースタディ2における野菜摂取量は、チャンプルースタディ1と比較して多か ったが、沖縄野菜摂取量の摂取比(介入群/対照群)では、チャンプルースタディ2の方が 低かった。 尿中の生体成分値と介入前後の解析は、検討中であるが、少なくとも介入前の データを見る限り、対象群は均等に割り付けられたと考えられる。介入研究では、健康な一 般住民を用いて行なう手法として、食材を自宅に配送する方法を用い、一般住民を対象とす る無作為割付比較試験がこの方法によって実施可能であることを示した。対照群に比べて介 入群で 24 時間尿中カリウム排泄量が有意に増加し、介入が有効であることを示した。同時 に測定された抗酸化機能の指標など、生体指標の変化は沖縄野菜を積極的な摂取が生活習慣 病の一次予防に好ましい効果を有する可能性を示す結果が得られた。しかし、更なる詳細な 解析を必要とするものと考えられる。 8.研究成果の公表 (本プロジェクトに関するもののみ記載) 【発表論文】 1) 沖縄における薬草・食材による癌化学予防.医学と薬学, 55, 355-363, (2006) (吉見直己、 森岡孝満、藤野哲也、与那覇恵) 2)Potassium Excretion in Healthy Japanese Women was Increased by a Dietary Intervention Utilizing Home-Parcel Delivery of Okinawan Vegetables. Hypertens Res., 29, 389-396 (2006) (Tuekpe MKN, Todoriki H, Sasaki S, Zheng KC, Ariizumi M). 【学会発表】 1)沖縄原産の薬草であるベニバナボロギクのラット AOM 誘導大腸発癌モデルにおける 修飾効果の検討.第 23 回日本毒性病理学会、東京、2007 年 1 月 2)ベニバナボロギク抽出物の抗単純ヘルペスウイルス作用. 第 54 回日本ウイルス学会学 術集会, 名古屋, 2006 年 11 月 19 日~ 21 日. 3)薬用食材ベニバナボロギクの肝薬物代謝酵素への作用.第 59 回日本薬理学会西南部 会、那覇市、2006 年 11 月 4)ベニバナボロギクの肝保護作用機序.第 80 回日本薬理学会年会、名古屋市、2007 年 3月 5)沖縄特産野菜が抗酸化ビタミンおよび酸化ストレスマーカーに与える影響:若年女性 35 を対象とした無作為化割付介入試験(チャンプルースタディ1) 第 71 回日本民族衛生学会、那覇市、2006 年 11 月 6)Can We Improve the Health of the Public through Community-based Nutrition Intervention Programs Utilizing Traditional Okinawan Vegetables?–Exploring the Potential of the Chample Study- The 1st World Congress on Ningen Dock, 15/11/2006, Okinawa 7)沖縄野菜で本当に健康になれるか? 住民参加型無作為割付比較試験(チャンプルー スタディ)、第2回公開講演会 農林水産省食品総合プロジェクト研究、つくば市、 2006 年 2 月 【特 許】 1)医薬およびこれに使用する抽出物;特願 2006-287692、 2)腫瘍壊死因子-α 抑制剤およびプロスタグランジン合成酵素―2抑制剤;特願 2007-49885)。 36 亜熱帯島嶼環境における共生型農林畜産業の 開発モデル構築に関する研究 (タスクリーダー:渡嘉敷 義浩) 亜熱帯島嶼環境における農林畜産業では、各産業に適する品種の選抜、育成、栽培お よび病害虫防除等に関する総合的な技術体系の確立が必要である。そして、島嶼のよう に限定された地域における各産業では、耕種畜種の連携等による共生型の持続的発展が 不可欠であると思われる。そのために、現況の島嶼環境の有する環境と資源の最適な利 用形態と共に、開発における許容量についても検討する必要がある。 本研究では、亜熱帯島嶼環境の地域をモデルとして選定し、物質収支を把握しやすい 炭素収支による評価手法を用いて、亜熱帯島嶼環境に適する持続的な共生型の農林畜産 業のブランド化の構築、並びに土壌保全技術の確立も含めた開発モデルの構築を目指し、 以下の研究成果が得られた。 2006 年度研究実績の概要: 1.亜熱帯島嶼環境下における作物栽培法の確立 農業の面から見た沖縄の島嶼環境条件は、日格 差が小さく、高品質が要求される品目には不利で ある。さらに、一度導入された病害虫は大発生の 危険性を孕んでいる。また、毎年発生する台風の 被害も大きい。しかし、反面では海水に含まれる 多くのミネラル分の生態系への寄与や、紫外線に よる抗酸化力の高い作物になるなどが明らかに されつつある。今後の沖縄農業では、地理的条件 第 1 図 葯培養によるパパイヤの花粉由来植物体の に適する作目の選抜と栽培法を確立する必要が 育成方法 ある。 パパイヤ(Carica papaya L.)は、品種育成まで には長期(10~15 年)を要し、育種年限の短縮が 望まれている。 「パパイヤの品種育成システムの構 築」を意図して研究を行い、①葯培養(雄株の葯 を使用)によって、小胞子由来の植物を育成した (第1図)。②育成した小胞子由来植物のほとんど は 3 倍体となった。そして、ハウス栽培で有用な 矮性形質および単為結果性に関する変異の存在が Dwarf 確認された(第2図)。③花梗部へのジベレリン・ Tall ペースト処理により、果実肥大が著しく促進し、 第2図 花粉由来植物の間に出現した矮性株 株あたりの収量が顕著に増加した(第3図)。 ウコン原料の生産量が減少する要因として、高収量・高品質の栽培品種がなく、長い在圃 期間の割に収益が少なく、根茎付着土の除去作業が困難で、過重労働による栽培意欲の減退 37 などが考えられる。本研究で育成中の本部ウコンは、やや球形を呈して根茎の付着土量が少 ない形質の特徴を有する。本部ウコンの付着土量は在来秋ウコンおよび大ウコンに比べ低い 値を示し、本部ウコンの洗浄時間は他の 2 系統に比べ有意に低い値を示し、本部 ウコンの付着土量の低さが、洗浄時間の短縮 に反映したと考えられる(表 1)。島尻マージ およびジャーガルの異なる土壌で栽培した 3 系統の付着土量における差異は、根茎の形状、 サイズによるのではなく、両土壌の性質の違 いによると考えられ、洗浄時間において島尻 マージはジャーガルより低い値を示した(表 2)。マルチ条件と非マルチ条件で栽培した 3 系統の形質では、根茎付着土量、地下部生重、 根茎乾物重、洗浄時間、根茎 生重、および根数は、マルチ 条件が低い値を示し、洗浄時 間は、付着土量の多いマルチ 条件が高い値を示した(表 3)。 ピタヤ(Hylocereus undatus (Haw.) Britt. & Rose)果実に、 中心部が黒色紛状となる病害 が発生し、病斑部から Biporalis 属菌が分離された. 本菌はオリーブ色~黒色の菌叢 を呈し、分生子柄は淡褐色で、 先端および基部がやや膨らみ、 分離菌の形態的特徴および生育 最適温度から、本菌を Biporalis cactivora (Petrak) Alcorn と同定 し、本病をピタヤ黒斑病(改め 果実腐敗病)と命名した(第 4 図)。 また、同果実に褐色の小班点を生 じ、白色から淡黄色の綿毛状菌糸 を生じる別の病害も発生し、罹病 果実から高率に Fusarium 属菌が分 第4図 果実の症状と病原菌 離された。菌叢ははじめ白色、後 に淡黄色を呈し、培地中に淡褐色~褐色の色素を産し、本菌の最適温度は 25~30℃であった. これらの形態および性状は既報の Fusarium 属菌と一致しないため、現段階では Fusarium sp. に止め、本病害をピタヤ褐斑病と命名した(第 5 図)。メボウキ(Ocimum basilicam L.)栽培 圃場において茎や葉の一部が黒褐色を呈し、枯死に至る病害が発生し、高率に Alternaria 38 菌が分離された。菌叢ははじめ白 色、後にオリーブ色となり、分生 子柄は淡褐色、先端はまっすぐま たは屈曲し、しばしば円筒形の口 吻を形成し、生育最適温度および 形態的特徴から、本菌を Alternaria alternata (Fries) Keissler と同定し、 第5図 果実の症状と病原菌 本病をメボウキ黒斑病と命名し た(第 6 図)。 マンゴー炭疽病菌の拮抗菌である Penicillium waksmanii (T-141 株)の 産生する物質を水道水で懸濁(胞 子数:105~106 個/ml)し、動力噴 霧器でマンゴーに散布した結果、 第6図 果実の症状と病原菌 炭疽病はもとより他病害の発生も 抑制された。本技術は、沖縄県の 農作物の付加価値を高め、ブラン ド化する際に大きな優位性を有すると考えられる。また、ドラゴンフルーツやニガウリなど の主要病害においても葉面菌や内生菌の分離・培養ならびに有効菌の選抜を行った結果、そ れぞれ高い拮抗性を有する菌が得られた。 以上より、葯培養によって、パパイヤの育種年限を大幅に短縮でき、ハウス栽培で重要な 矮性系統の育成が可能で、GA 処理による果実収量の増加が可能である。 丸型の根茎形質 を持った本部ウコンは、マルチをしないで島尻マージ土壌で栽培することが最も適し、付着 土量および付着土の除去作業を軽減できる。ドラゴンフルーツ、バジルに発生する 3 病害(果 実腐敗病、褐斑病、黒斑病菌)を新たに分離し同定できた。そして、マンゴー炭疽病の拮抗 菌である Penicillium wakasmanii(T-141 株)の微生物資材は、炭疽病を含む数種病害に対して 防除効果が示唆された。 2.琉球在来豚アグーの効率的増殖 沖縄には,14 世紀の琉球王朝時代に中国から持ち込まれた「唐豚」が起源の「琉球在来豚ア グー」が存在するが,今ではアグー個体数は僅か 80 頭程であり,近親交配の影響と考えられ る繁殖能力の低下が顕著に認められる。現在の雄アグーを一般豚で慣例的に行われている交 配法で通年使用することは,非常に難しい状況に陥っている。また,繁殖能力の低下は雌ア グーにも観察され,未だに的確な交配適期の判定が成 されていないが,近年,肉質や風味に一般豚とは異なる特長を持つアグー精肉が嗜好される様 になっている.頭数が少なく繁殖能力に劣るアグーに対して繁殖技術を積極的に活用し, 雌 雄両面から増殖効率を促進すると共に,その貴重な遺伝形質を後世に渡って維持・保存して いく必要がある。 アグー精子凍結時における凍結用希釈液への AA-2G 添加の検討を行った。200 mM AA-2G 添加区で有意に高い運動精子率と活性型前進運動精子率が得られ(P<0.05) (Fig. 1), 同時に, 39 最も高い細胞膜正常性(CFDA/PI 蛍光染色法)も認められた(P<0.05)。4 頭全てのアグー精子に A B % (mean ± SEM) Motile 60 50 40 30 20 10 0 Fig. 1. a a 0 b a c b a 100 400 c ab 200 800 Progressive motile a a 0 1 2 Incubation time after thawing (h) Plasmalemma-intact sperm (%; mean ± SEM) Concentration of AA-2G (µM) b ab b a ab b b a a a ab b a a 0 1 2 Incubation time after thawing (h) 60 50 ab ab a ab b 40 30 20 10 0 0 100 200 400 800 Concentration of AA-2G (µM) Effect of AA-2G added to BF-5 solution on the motility (A) and the plasmalemma integrity (B) of frozen-thawed Agu sperm. Values with different superscripts are significantly different (P<0.05). Concentration of AA-2G (µM) 0 200 Penetration rate (%; mean ± SEM) 100 * 200 mM AA-2G 処理をした結果、全ての精子で融解後の運動 80 精子率と活性型前進運動精子率が共に有意に増加し(P<0.05)。 * * * 60 膜の脂質過酸化(MDA 生成量)が抑制され,細胞膜障害と DNA 40 20 障害(コメットアッセイ法)が有意に低下し(P<0.05), ATP 量の 0 有意な増加が検出され(P<0.05),精子生存性の向上が確認さ A-1 A-2 A-3 A-4 Boar れた。体外受精試験により全てのアグー精子で無処理区に比 Fig. 2. Prevention of fertility in frozen-thawed Agu sperm by treatment with AA-2G during 較して有意に高い精子侵入率が観察された(P<0.05) (Fig. 2)。 cryopreservation. Significantly different from the non-treated sperm within same boar 雌アグーVER 値を指標とした交配適期判定法の確立を目 (P<0.05). 指し,正常な性周期のアグー5 頭を用いて,発情前後 A 550 60 500 40 50 6 日間における平均 VER 値,血漿中の E2 と P4 濃度 450 40 30 400 の変動を比較した(Fig. 3)。その結果,VER 値につい 350 30 20 300 20 250 ては,発情開始の 50.0 ± 3.8 およびラッカセイのカ時間 10 200 10 前に最低値(278.0 ± 12.4 units)を示した後,卵胞成熟 0 0 0 -72 -48 -24 0 24 48 72 期には上昇した。アグー血漿中 E2 濃度の変化では, Estrus period (h) 発情開始の 64 時間前から E2 濃度の上昇が観察され, B 8 550 発情開始の 11.2 ± 2.0 時間前に最高値(53.0 ± 10.5 500 6 pg/ml)に達した。また,血漿中 P4 濃度は,VER 値の 450 400 4 増加から 3 日遅れた Day 1 以降から急激に増加した。 350 300 2 一方,アグーにおける血漿中の LH 濃度は,個体間 250 0 0 に多少の違いはあるものの,発情開始 48 から 40 時 -72 -48 -24 0 24 48 72 Estrus period (h) 間前(平均 44.0 ± 2.3 時間前)に一過性の上昇を示した Fig. 3. Changes in VER, plasma steroid hormones (E and P ; A) and plasma LH (B) during periestrus period in Agu. Values are expressed as the mean ± (LH サージ)。また,その時の最高値は 3.1 から 13.9 SEM. All VER and hormones data were standardized to the onset of estrus. mIU/ml であった。その後,血漿中の LH 濃度は発情 開始 24 時間前までには低下し,この低レベルが維持された。また,本試験に供したアグー5 頭の VER 最低値が認められたのは発情開始の 56 から 40 時間前(平均 50.0 ± 3.8 時間前)であ り,その後,発情開始 36.0 ± 5.2 時間前に上昇に転じた。これは LH サージが起こってから 平均 8.0 ± 5.7 時間後であった。 以上より,精子の凍結処理過程における AA-2G 処理は,良好なアグー射出凍結精子を作 成する上で非常に有効な方法であった。外的所見による発情判定が困難なアグーにおける LH (mIU/ml) VER (unit) 2 4 P4 (ng/ml) E2 (pg/ml) VER (unit) * 40 VER 値の測定は,簡便かつ客観的に性周期が把握でき,この VER 値変動パターンからアグ ーの交配適期が推定できた。なお、3頭の雌アグーに本技術の凍結精子による人工授精を実 施した。結果、1頭のアグーが妊娠し、2007 年 2 月 28 日に「初のアグー凍結精子による産 子」を4頭得ることに成功した。 土壌呼吸速度 (tC/ha/year) 8月29日 10月5日 11月7日 12月1日 根長密度 図4 室内実験における地温と土壌呼吸速度の関係 根長密度(cm/cm3) 土壌呼吸速度 (tC/ha/year) 土壌呼吸速度 (tC/ha/year) 8月29日 10月5日 11月7日 12月1日 有機物含有量 有機物含有量 (%) 土壌呼吸速度 (tC/ha/year) 3.沖縄県の畑地における土壌呼吸特性 パイン 日本の温室効果ガス削減目標は 1990 年比 100.00 パイン① パイン② の 6%であるが、温室効果ガスの吸収・排出 分の収支を数値目標にカウントできる吸収 10.00 源活動として、「農林地管理」の利用も追加 された。土壌には 1500GtC の炭素が貯留し 1.00 18 20 22 24 26 28 30 32 ているとされ、その量は大気の 2 倍、植生の 3 倍に相当し、農林地の土壌炭素の動態は、 0.10 地温 (℃) 直接大気中の CO2 濃度の増減に繋がり、農 図1 現場観測における地温と土壌呼吸速度の関係 地を吸収源として評価するために 30 10 は定量的に予測する手法が必要で 9 25 8 ある。 7 20 沖縄県における農地管理におい 6 15 5 て、条件の異なる畑地での土壌呼 4 吸量、有機物量、根量を測定およ 10 3 2 び計算して、その特性の把握を目 5 1 指した。土地利用の違う 5 種類の 0 0 堆肥① 堆肥② 裸地① 裸地② パイン① パイン② キビ4月① キビ4月② キビ2月① キビ2月② 畑地の裸地 A(堆肥あり)、裸地 B(堆 図2 有機物含有量と土壌呼吸速度 肥なし)、パイナップル、サトウキ 30 1.2 ビ 2 月植え、サトウキビ 4 月植え、 25 1 観測および測定を行った。パイナ 20 0.8 ップル畑の観測ではほとんどのポ 15 0.6 イントで地温の上昇に伴い土壌呼 10 0.4 吸速度は増加し、この傾向は他の 5 0.2 圃場でも同様であった(図1)。有 0 0 堆肥① 堆肥② 裸地① 裸地② パイン① パイン② キビ4月① キビ4月② キビ2月① キビ2月② 機物含有量と土壌呼吸速度の関係 図3 根長密度と土壌呼吸速度 では、有機物含有量は、堆肥施肥区が 100 最も多かった、どの圃場も数%と少な かったが、また、この範囲では土壌呼吸 10 速度と有機物含有量の明確な関係はな かった(図2)。根長密度と土壌呼吸速 1 度の関係では、植栽区における根長はパ No.1 No.2 イナップル畑が多かった(図3)。しか 観測値 0.1 し、画像処理による根長計測は明らかに 0 10 20 30 40 50 地温 (℃) 存在する細根を目視で計測できていな 41 かったために少なく見積もられたと思われる。そのため、土壌呼吸量との明確な相関は見受 けられなかった。今後は根重との比較などが必要である。室内実験による地温と土壌呼吸量 の関係では、地温を変化させ土壌呼吸速度の観測を行った結果、有機物の分 解が活発だといわれる 35℃程度まで増加し、それ以降は減少した(図4)。またこのとき、 温度が 10℃上昇したときの土壌呼吸の増加率である Q10 は 3.0 が得られた。既往の研究で示 された範囲にあった。 以上より、農耕地の土壌炭素の動態が定量的にほぼ把握できたが、根重との関係に若干の 課題も残った。 4.カバークロップおよび土壌改良材 の開発による土壌保全 沖縄県の農耕地では、有機物等の供 給により土壌の理化学性を改善する土 壌保全策が必要である。栽培管理が容 易で、酸性土壌や台風に強い食用作物 のシカクマメバークロップとしての利 用性に加え、島嶼産性廃の資源循環も 意図した石炭灰やその他の資材による 図1 シカクマメの被覆率 人工造粒体の開発・利用による土壌保 全策を目指した。 カバークロップの供試植物には、シカクマメ(Vigna radiate(L.) Wilczek 品種:ウリズン) とラッカセイ(Arachis hypogaea 5 品種:千葉半立、千葉 43 号、ジャワ 13 号、サウスイ ーストランナー、オキナワサン)を用いた。圃場内に準備したプロット(30m2:10m×3m)は 無施肥し、株間 50cmで、1 株あたり約 5 粒を播種した。シカクマメはラッカセイに比べて 初期成育が遅く、播種後 12 週間までの被覆率は低かったが、8 月から 12 月までの長期間 0.9 ㎡ m-2 以上の被覆率を示し、7 月から 10 月の台風時期の土壌流出防止効果がラッカセイより 高い可能性を示した(図1)。ラッカセイの中ではサウスイーストが 10 月まで高い被覆率で推 移した。シカクマメの若莢は 11 月 2 日から 12 月 15 日までの約1ヵ月半の収穫期間があり、 週当たりの収量は最大で約 530g F.W. m-2 を示した(図2)。また、全収穫期間中の収量は 1464gF.W.m-2 で、カバークロップとして栽培しても、収穫できた。収穫終了時における地上 部の生育量は、葉部 232.4g D.W. m-2、 (葉柄+茎)部 466.2gD.W. m-2 で、緑肥としてのポテン シャルも高かった。 また、石炭灰と古紙繊維を混合して 絡ませ、デンプン糊で結合した人工の 石炭灰造粒体と酸性土壌の国頭マージ の混合土壌におけるイタリアンライグ ラスの生育では、国頭マージと 2 種類 の石炭灰造粒体(窒素入り、窒素無し) との各混合土での、いずれの造粒体も 図2 シカクマメの若莢の収量(gF.W. m-2) 10〜20%の混合割合で、イタリアンラ 42 イグラスの生育が良好であった(Fig.1, 2)。そし て、その生育量は窒素無しに比べ窒素入りの石 炭灰造粒体の混合土で優った。 Fig.2. Aggregate with Nitrogen Fig.1. Aggregate 以上より、シカクマメは被覆率が高く降雨による土壌流出防止効果が高く、緑肥としての効 果も期待ができ、有望であった。ラッカセイも播種時期を検討することで台風シーズンの被 覆率が高く維持できる可能性を示した。また、石炭灰の人工造粒体を国頭マージに 10-20% 混合施用することで、イタリアンライグラスの牧草の生育が高まり、土壌保全等への効果が 示唆された。 なお、次年度以降は、これまでの2年間で得られた研究成果をベースにして、亜熱帯島嶼 環境の伊江島、伊是名島を選定し、島ごとに炭酸ガス収支による評価法を利用して、上述の 農畜林産業ブランドの導入に伴う共生型開発モデルの構築およびその提案の具現化をした い。 研究成果 [学術論文] 1).田場 聡、諸見里善一、高江洲和子、大城 篤、那須奏美、線虫捕捉菌 Monacrosporium ellipsosporum と 殺 線 虫 剤 の 混 合 剤 ビ ー ズ に よ る サ ツ マ イ モ ネ コ ブ セ ン チ ュ ウ Meloidogyne incognita の防除、日本応用 動物昆虫学会誌、50 (2)、115-122、2006 2). 大城 篤、高江洲和子、田場 聡、上原美歌、高江洲賢文、伊良波幸和、アメリカフウ ロの土壌混和と 敷きわら被覆処理によるジャガイモ青枯病の防除、雑草研究、50 (1)、 28-30、2006 3). Rimberia、 K. F.、 S. Adaniya、 T. Etoh and Y. Ishimine、 Sex and ploidy of anther culture derived papaya (Carica papaya L.) plants、 Euphytica 149、53-59. 2006. 4). Rimberia、 K. F.、 S. Adaniya、 M. Kawajiri、 N. Urasaki、 S. Kawano、 T. Etoh and Y. Ishimine、 Parthenocarpic ability of papaya and promotion of fruit swelling by gibberellin treatment、 Journal of Applied Horticulture、 8 (1)、 58-61. 2006. 43 5). Fredah K. Rimberia、 S. Adaniya、 Y. Ishimine and T. Etoh. Morphology of papaya plants derived via anther culture , Scientia Horticulturae 111 (3)、 213-219. 2006. 6). 田場 聡、沖縄県のピタヤ(ドラゴンフルーツ)に発生した数種病害について、今月の 農業、50、 17-20、2006 7). S. Taba、 K. Nasu、 K. Takaesu、 A. Ooshiro and Z. Moromizato. Detection of Citrus Huanglongbing using an Iodo-starch Reaction、 The science bulletin of the faculty of agriculture Uneversity of the Ryukyus、 50、 19-24、 2006. 8). Win MM, Tatemoto H, Ashizawa K, Nakada T. Effects of diethylstilbestrol administration on sperm penetration into the inner perivitelline layer of Japanese quail, coturnix japonica. The Journal of Poultry Science, 43, 67-74, 2006. 9). Katayama S, Ashizawa K, Fukuhara T, Hiroyasu M, Tsuzuki Y, Tatemoto H, Nakada T, Nagai K. Differential expression patterns of Wnt and b-Catenin/TCF target genes in the uterus of immature female rats exposed to 17a-ethynyl estradiol. Toxicological Science, 91, 419–430, 2006. 10). Win MM, Tatemoto H, Ashizawa K, Kawamoto Y, Nakada T. Determination of acrosomal proteolytic activity in spermatozoa collected from quail treated with diethylstilbestrol, using gelatin-substrate slide technique. The Journal of Poultry Science, 43, 307-311, 2006. 11). Katayama S, Ashizawa K, Gohma H, Fukuhara T, Narumi K, Tsuzuki Y, Tatemoto H, Nakada T, Nagai K. The expression of Hedgehog genes (Ihh, Dhh) and Hedgehog target genes (Ptc1, Gli1, Coup-TfII) is affected by estrogenic stimuli in the uterus of immature female rats. Toxicology and Applied Pharmacology, 217, 375-383, 2006. 12). Tatemoto H, Tokeshi I, Nakamura S, Muto N, Nakada T. Inhibition of boar sperm hyaluronidase activity by tannic acid reduces polyspermy during in vitro fertilization of porcine oocytes. Zygote, 14, 275-285, 2006. 13). 酒井一人・大澤和敏・吉永安俊・仲村渠将:スペクトル解析による浮遊土砂流出特性の 把握 農業土木学会論文集 2006 (投稿中) 14). 仲村渠将・吉永安俊・酒井一人・秋吉康弘・大澤和敏:沈砂池における浮遊土砂流出 に関する現地観測、農業土木学会論文集 2006 (投稿中) 15). 仲村渠将・吉永安俊・酒井一人・秋吉康弘・大澤和敏:沖縄県の畑地帯における浮遊 土砂と栄養塩の流出、日本雨水資源化学会誌 2006 (投稿中) 16). Guttila Yugantha Jayasinghe, Yoshihiro Tokashiki and Makoto Kitou, Characteristics of synthetic soil aggregates produced by mixing acidc “Kunigami Mahji” soils with coal fly ash and their utilization as a crop growth medium. Japanese Soil Science and Plant Nutrition, 2006 (投稿中) 17). 澤岻哲也、豊里哲也、河野伸二、田場 聡、田場奏美、大城 篤、沼澤雅哉、渡慶次美 歌、スクラッチ法によるカンキツグリーニング病の迅速簡易診断、日本植物病理学会報、 73、3-8、2007 18). S. Taba、 N. Miyahira、 K. Nasu、 T. Takushi and Z. Moromizato、 Fruit rot of Strawberry pear (pitaya) caused by Bipolaris cactivora、 Japanese General Plant Pathology (印刷中)、 73 (5)、 2007. 44 19). 田場 聡、諸見里善一、沖縄に分布する 3 種土壌におけるサツマイモネコブセンチュウ および土壌微生物相に及ぼす米ぬか混和の影響、沖縄農業(印刷中)、2007 20). 吉元哲兵, 仲村敏, 渡慶次功, 仲田正, 建本秀樹. 琉球在来豚アグー精子における冷却 処理前の室温放置が凍結融解後の精子性状に及ぼす影響. 西日本畜産学会報, 50, 印刷 中, 2007. 21). Tokeshi I, Yoshimoto T, Muto N, Nakamura S, Ashizawa K, Nakada T, Tatemoto H. Antihyaluronidase Action of Ellagic Acid Effectively Prevents Polyspermy As a Result of Suppression of the Acrosome Reaction Induced by Sperm-Zona Interaction During In Vitro Fertilization of Porcine Oocytes. Journal of Reproduction and Development, 53, in press, 2007. 22). 金城和俊、藤井宏紀、渡嘉敷義浩、鬼頭 誠、志茂守孝、沖縄島における植生別の ミミズ糞塊中の腐植物質の特徴、日本土壌肥料学雑誌、78、1-6、2007. [学会発表] 1). 田場 聡、鈴木裕子、諸見里善一、ピタヤに発生した褐斑病(新称)、平成 18 年度 日 本植物病理学会大会講演要旨予稿集、2006 2). 田場 聡、高良綾乃、諸見里善一、Alternaria alternata (Fries) Keissler によるメボウキ黒 斑病(新称)、平成 18 年度 日本植物病理学会大会講演要旨予稿集、2006 3). 田場 聡、宮平奈央、諸見里善一、Bipolaris cactivora (Petrak) Alcorn によるピタヤ黒斑病 (新称)の発生、平成 18 年度 日本植物病理学会大会講演要旨予稿集、2006 4). 諸見里善一、瀬底奈々恵、田場 聡、ミョウガ根茎腐敗病の耕種および生物的防除に関 する研究、平成 18 年度 日本植物病理学会大会講演要旨予稿集、2006 5). 照屋清仁、諸見里善一、田場 聡、ツルレイシ(ゴーヤー)葉圏微生物による黒かび病 の生物防除に関する研究、平成 18 年度 日本植物病理学会大会講演要旨予稿集、2006 6). 渡慶次功,建本秀樹,上原美奈,吉元哲兵,仲村敏,仲田正. レクチンによるブタ卵の 受精時における精子-透明帯間の糖鎖結合の検討. The Journal of Reproduction and Development 52 (Supple), j71, 2006 年 9 月 7 日~9 日(名古屋大学). 7). 吉元哲兵,仲村敏,山内昌吾,渡慶次功,上原美奈,仲田正,芦沢幸二,武藤徳男,建 本秀樹. 琉球在来豚アグー精子の凍結時における凍結用希釈液へのアスコルビン酸 -2-O-α-グルコシド添加が凍結融解後の精子性状に及ぼす影響. 西日本畜産学会報 2006 年度(第 57 回)大会号, 14, 2006 年 10 月 14 日~15 日(九州東海大学). 8). 酒井一人・吉永安俊:沖縄県の農業の LCA 分析(2006)、農業土木学会大会講演会要旨集 pp.366-367 9). 仲村渠将・吉永安俊・酒井一人・大澤和敏:畑地流域からの懸濁物質流出量(2006)、農 業土木学会大会講演会要旨集、pp.738-739 10). 古波蔵保文・吉永安俊・酒井一人:施肥方法が土砂流出および肥料成分流出に及ぼす 影響について(2006)、農業土木学会大会講演会要旨集、pp.740-741 11). 木村江里・酒井一人・吉永安俊:億首川マングローブ林内における林内地形と土粒子 および有機物の表層堆積との関連性(2006)、農業土木学会大会講演会要旨集、 pp.776-777 45 12). Fajri Anugroho, Makoto Kitou, Fujio Nagumo and Yoshihiro Tokashiki, Growth and nutrient uptake of Hairy vetch(Vicia villosa Roth) as affected by different sowing times and growth stages in Subtropical Region(Okinawa), Japanese Society of Crop Science, 75(Extra issue), 216-217, 2006. 14). 金城和俊、渡嘉敷義浩、マングローブ林内の表層土壌に堆積した腐植粘土複合体の特徴、 日本土壌肥料学会、(秋田大会)、2006 年 9 月 5 日~7 日(秋田大学). 15). Guttila Yugantha Jayasinghe and Yoshihiro Tokashiki , Evaluation and utilization of synthetic soil aggregates developed by using different waste materials, Japanese Society of the Soil Science and Plant Nutrition, 2006/09/05-07(Akita). 16). 金城和俊、渡嘉敷義浩、宮城隆:塩類集積土壌におけるギニアグラスの除塩効果、日本草 地学会(沖縄大会)2006 年 11 月 講演要旨第52巻 p144-145 17). 金城和俊、藤井宏紀、渡嘉敷義浩:沖縄島のミミズの糞塊が周辺土壌に及ぼす影響 –異な る植生地における糞塊と土壌、落葉の化学性との比較と糞塊中の腐植物質の特徴、2006 年 5月 日本土壌肥料学会 九州支部春季例会 18). 田場 聡、那須奏美、諸見里善一、澤岻哲也、Colletotrichum gloeosporioides によるヤエ ヤマアオキ炭疽病(新称)、平成 19 年度 日本植物病理学会大会講演要旨予稿集、2007 19). 宮平奈央、田場 聡、諸見里善一、ピタヤ茎腐れ症から分離された 3 種病原糸状菌、平 成 19 年度 日本植物病理学会大会講演要旨予稿集、2007 20). 澤岻哲也、比嘉 淳、河野伸二、大城 篤、田場 聡、諸見里善一、収穫後の果梗部熱 処理によるマンゴー軸腐病の防除、平成 19 年度 日本植物病理学会大会講演要旨予稿 集、2007 21). Tokeshi I, Tatemoto H, Muto N, Yoshimoto T, Nakamura S, Nakada T. Anti-hyaluronidase action of ellagic acid effectively prevents polyspermy through suppression of acrosome reaction induced by the sperm-zona interaction during porcine IVF. The Annual Conference of the International Embryo Transfer Society, 2007/01/06-10 (Kyoto). 22). 渡慶次功,上原美奈,仲村敏,仲田正,建本秀樹. ブタ卵の活性化に伴う透明帯構成 糖タンパク質の硬化ならびに糖鎖末端の変化. 日本畜産学会第 107 回大会講演要旨, 2007 年 3 月 27 日~29 日(麻布大学). 23). 吉元哲兵,仲村敏,山内昌吾,仲田正,武藤徳男,建本秀樹. 琉球在来豚アグー精子 の凍結保存:凍結用希釈液への新規アスコルビン酸誘導体添加が融解後の精子性状に及 ぼす影響. 日本畜産学会第 107 回大会講演要旨, 2007 年 3 月 27 日~29 日(麻布大学). 24). 片山誠一,芦沢幸二,成見香瑞範,續木靖浩,建本秀樹,仲田正,山下保志. 幼若ラ ット子宮のヘッジホッグ関連遺伝子の発現に及ぼすエストロゲンレセプター選択的ア ゴニストの影響. 日本畜産学会第 107 回大会講演要旨, 2007 年 3 月 27 日~29 日(麻布大 学). 25). Guttila Yugantha Jayasinghe and Yoshihiro Tokashiki, Sustainable waster utilization to develop synthetic aggregates and their potential as a constituent of potting media, 21st Pacific Science Congress; 2007/06/13-17(Okinawa) 46 [外部資金] 1).2005-2007 年度 (平成 17-19 年度) 基盤研究(C) (採用) 代表者;建本秀樹 研究課題:ブタ体外成熟卵子の体外受精時における多精子受精抑制に関わる因子の解明 2).2005-2009 年度 (平成 17-21 年度) 先端技術を活用した農林水産研究高度化事業 (採用)、代 表者;大城まどか 研究課題:琉球在来豚アグーの近交退化の緩和および増殖手法の確立 3).平成 16-18 年度 若手研究 B)(採用) 課題研究、代表者 酒井一人:沖縄県における赤土 流出防止対策に関する効果の定量的把握および WEPP 係数の算定 4).科学研究費 基盤(S) 課題名:流域圏の土砂・栄養塩動態の解明および統合管理技術の 開発- 亜熱帯流域を対象として -(研究代表者 東京工業大学大学院 池田駿 介, H.17-21) 分担額 (年間 300 千円) 5).科学研究費 基盤(A) 課題名:熱帯泥炭地域の炭素吸収ポテンシャルと荒廃地修復 (研 究代表者 宇都宮大学農学部 長野敏英, H.17-20) 分担額 (年間 500 千円) 6).環境省推進費戦略研究開発領域 課題名:熱帯泥炭湿地の GHG ソース制御・シンク強化 技術開発(研究代表者 東京大学大学院 小島克己, H.16-19) 分担額 (年間 500 千円) 7).2006 年度、共同研究(沖縄電力)、代表者 渡嘉敷義浩 研究課題:硫安等を用いた石炭灰肥料の開発に関する研究 8).2006 年度、共同研究(電源開発)、代表者 渡嘉敷義浩、吉永安俊 研究課題:石炭灰造粒体の農業利用(土壌改良・赤土流出防止)に関する研究開発 [プレス関係への発表] 1). 沖縄県広報用 DVD, 高度情報化推進事業「琉球在来豚アグー物語『おきなわブランド豚 作出への道』」, 2006 年 12 月~2007 年 2 月作成 (2007 年 4 月以降に一般公開) 47 琉球国・琉球文化・琉球諸島人の成立過程と展開 およびその現在 (タスクリーダー:津波 高志) はじめに 本研究は、広く琉球列島の人類史を解明するため、個別科学だけでは到達しえない学融合 研究を導き、展開することを目的としている。それも、学内・国内の研究者だけでなく、琉 球・沖縄と周辺国家・地域との関係を重視し、そこの研究者との交流・協力によって、これ までとは異なる新たな研究の展開を目指している。 本年度は、海外研究者とのネットワークづくりの第一歩として、東アジアから1ヶ所、東 南アジアから1ヶ所を選定し、研究者間の交流を行った。東アジアは韓国のソウル大学から 研究者2名を招聘し、琉球大学の琉球・沖縄研究に期待するものという題で講演をお願いし、 討論を行った。東南アジアはタイのコンケン大学、ウドンタニ体育大学、およびチュラルン コン大学を琉大側から訪問し、研究協力の可能性を話し合った。 1.韓国の研究者を招いて 2007年2月9日、ソウル大学人文社会学部人類学科全京秀教授と李文雄教授を琉球大 学法文学部アジア研究施設に招請し、琉球大学との研究協力に関して会議・討論を行た。全 教授は沖縄や奄美の人類学的なフィールド・ワークも行っている知日派である。全教授は日 本と韓国や中国などとの歴史的な関係や現在の国際関係から琉球列島の人類史のみならず、 その他の諸分野・諸研究においても琉球大学は東アジアにおいて国際的な研究者間のネット ワーク形成に最適のポジショナリティーをもっており、それを活かすべきだと指摘した。 李文雄教授は研究成果の公開の仕方という点に重点をおいて講演した。李教授は研究資料 を可能な限り映像化し、それを用いて視覚的に分かりやすい成果の発表をすべきだと力説し た。また、それは教育の現場でも当然活用されるべきだし、そのためには秘匿すべきもので もないとして、これまで自ら作成した人類学的な映像資料の複写をアジア研究施設に寄贈し てくれた。 琉球大学が姉妹校協定を結んでいる韓国の大学は、済州大学と啓明大学の2校である。当 然のこととして、それら2校の研究者との交流も重視しながら、研究課題によっては他の大 学の研究者との交流も重要であることを痛感した次第である。 2.タイの大学を訪問して 2007年2月27日から3月1日まで、伊藤亜人・鈴木規之・津波高志の3人でタイの 3つの大学を訪問した。コンケン大学、ウドンタニ体育大学、チュラルンコン大学である。 コンケン大学では人文社会科学部を訪ね、鈴木規之教授を代表者とする科学研究費による タイ社会研究の一員で、社会学と文化人類学を専門とする Omsak Srisontisuk 準教授にま ずお会いした。そして、同準教授を介して、学部長の Yaowalak Apichatvullop 教授とも歓 談することができた。コンケン大学は琉球大学の姉妹校ということもあり、我々の訪問の意 図を説明したら、二つ返事でさらなる交流を深めましょうとのことであった。 48 翌日、28 日、ウドンタニ体育大学を訪ねた。そこでは副学長の Prachon Kingminghae 教授にお会いできた。ウドンタニは東北タイのラオスとの国境に近い町であり、大学として も地域の経済開発になかなか意欲的に取り組んでいるようである。副学長の専門分野も社会 学的な開発論であり、その方面での研究協力を特に希望していることが窺えた。 3月1日、琉球大学の姉妹校であるチュラルンコン大学を訪ねた。そこでは、時間の都合 上、政治学部の Kanokrat Lertchoosakul 講師のみにお会いした。ただし、同講師自身が琉 球大学に留学した経験があるので、過去に琉球大学に留学した学生、これから留学予定の学 生、琉球大学からチュラルンコン大学に留学している学生などを集めてくれたため、ちょっ とした留学生との交流会になった。われわれとの研究交流についても姉妹校関係を活かして 十分にやっていけることが分かった。 写真1 ウドンタニ体育大学副学長(左から2人目)と 写真2 チュラルンコン大学の留学生達 おわりに 本研究は、琉球・沖縄と周辺地域および周辺国家との関係を重視し、そこの研究者との交 流・協力によって、これまでとは異なる新たな研究の展開を目指している。そのため、研究 者のネットワークの構築を特に重視し、限られた予算を主にそこに用いた。 とはいえ、本学内の研究者はそれぞれ横の連携を維持しながら研究を継続的に行ってお り、本年度の成果も既に公にしている。最後に、それらを掲げておきたい。なを、来年度は 中国や台湾はもちろんのこと、フィリピンやインドネシアの研究者との交流・協力体制も調 えたい。 公刊した成果 池田榮史「古代末~中世の奄美諸島-最近の考古学的成果を踏まえた展望-」『陶磁器の 社会史』119~128 頁,2006 年 5 月,桂書房 池田榮史「琉球における中世貿易陶磁の様相」『九州史学』第 144 号,69~79 頁,2006 年5月 池田榮史「カムィヤキ(類須恵器) 『鎌倉時代の考古学』189~200 頁,2006 年 6 月,高 志 書院 Fukumine T, Hanihara T, Nishime A, Ishida H. Nonmetric cranial variation of the 49 early Modern human skeletal remains from the Kumejima, Okinawa and peopling of the Ryukyu Islands. Anthropological Science, 114:141-151, 2006. 諸見里恵一,譜久嶺忠彦, 土肥直美, 埴原恒彦, 西銘 章, 米田 穣, 石田 肇. 沖縄県久 米島ヤッチのガマ・カンジン原古墓群から出土した近世人骨の変形性脊椎関節症, Anthropological Science(Japanese series), 115, 2007 (in press) Haneji K, Hanihara T, Sunakawa H, Toma T, Ishida H. Nonmetric dental variation of Sakishima Islanders, Okinawa, Japan: a comparative study among Sakishima and neighboring populations. Anthropological Science, 115: 35-45, 2007 Toma T, Hanihara T, Sunakawa H, Haneji K, Ishida H. Metric dental diversity of Ryukyu Islanders: a comparative study among Ryukyu and other Asian populations. Anthropological Science, 115. 2007 (in press) 伊藤亜人「周縁性の克服―韓国における祝祭と地域活性化の戦略―」伊藤亜人・韓敬九編 『中心と周縁からみた日韓社会の諸相』慶應義塾大学出版会、2007 鈴木規之「グローバル化の中での都市と農村―開発と市民社会化、文化変容との交差―」 北川隆吉監修、田巻松雄他編『地域研究の課題と方法―アジア・アフリカ社会研究入門、 理論編―』文化書房博文社、2006 津波高志「加計呂麻島於斉の調査ノートから」『沖縄民俗研究』第 24 号 沖縄民俗学会、 2006 津波高志「済州島の祭祀継承における中心性と周縁性」伊藤亜人・韓敬九編 『中心と周 縁からみた日韓社会の諸相』慶應義塾大学出版会、2007 学会発表 石田 肇 頭蓋からみたヒトの進化、変異、生活誌. ョン特別企画2 2006 年 6 月 30 日、宜野湾 第 24 回日本脳腫瘍病理学会ランチ (Brain Tumor Pathology 23(suppl) : 50-51, 2006) 石田 肇 琉球諸島のヒト -過去から現代まで- 第56回日本法医学会九州地方会特 別講演 那覇 2006 年 11 月 17 日 石田 肇 琉球人、アイヌ民族、そして日本人 第 17 回日本病態生理学会特別講演 那 覇 2007 年 1 月 28 日 Haneji K, Hanihara T, Sunakawa H, Toma T, Ishida H. Nonmetric dental variation of Sakishima Islanders, Okinawa, Japan: a comparative study among Sakishima and neighboring populations. 76th Annual Meeting of the American Association of Physical Anthropologists, Philadelphia, PA, March 28-31, 2007. (American Journal of Physical Anthropology Suppl 44: 124, 2007) 50 ゼロエミッション・アイランド形成のための自然系及び 社会系物質・エネルギー循環とそれらの評価に関する研究 (タスクリーダー:堤 純一郎) 1. 概 要 本タスクチームの構想は、沖縄県の環境を島嶼としての特性を考慮して保全するために、 島嶼環境の利点を活かして県内における物質及びエネルギー収支について明らかにし、それ に基づいて循環型社会に向けた評価及び提言を行うものである。 上記の目的から、本タスクチームは法文学部、教育学部、理学部、工学部、農学部に亘る 多様な分野の研究者 20 名で構成される。研究対象が種々の物質やエネルギー等、広い範囲 に及ぶので、対象物を 8 個に分割して、それらを対象とするサブタスクチームを設定した。 平成 18 年度は各研究者が、個々の領域でそれぞれの研究を進展させてきたので、まだチ ームとしてまとまった結論を見るに至っていない。予算に関しては、大気や海洋系の二酸化 炭素循環の測定等に集中的に配分している。これは単なる自然系の物質純化と言うよりは、 人間の活動が地球温暖化につながる自然環境への影響を顕著に表すものと捉えているため である。 2. タスクチームの構成 本タスク研究は以下の 8 個のサブタスクテーマグループから構成される。 1) 水収支グループ 2) 土壌収支グループ 3) エネルギー収支グループ 4) 建設材料収支グループ 5) 畜産関係収支グループ 6) 家電製品収支グループ 7) 自動車収支グループ 8) 化学物質循環グループ サブタスクチームの内容は、自然系の物質の代表である土と水、リサイクル関連法が施行 されている工業製品、さらにエネルギーとこれらに伴う二酸化炭素を中心とするを化学物質 を対象に設定している。それぞれのサブタスクチームには独自の判断で研究を進めてもらっ た。 3. 研究成果 多数の研究者が合同で立ち上げたタスクチームなので、まとまりのある研究成果は出てい ないが、各研究者が独自の立場で行った関連研究成果はかなりの量に上っている。その中で 代表的なものについて、簡単に説明する。 51 3.1 水収支グループ 主として沖縄県における水需要、水利用実態及び渇水対策についての調査を行い、土木学 会等を中心に発表している。その内容は近年の観光産業活性化に伴う渇水リスクのマネージ メントを視野に入れて、本島だけでなく離島における水供給体制と住民の意識を調査したも のである。 離島などの観光地では簡易水道の地域が多く、国庫補助の計画では観光施設の収容人員1 人1日あたり平均200lとなっているが、実際の宿泊施設における水使用量はこの数倍に上る。 つまり、小規模な町村ではリゾートホテルの誘致や建設は水資源量を考慮して行わなければ ならないことは明らかである。また、国庫補助の対象は1人1日あたり500lまでであり、例 えば小浜島では営業用水だけでこの水量を超えている。上回った水量の対応は地元で行わな ければならず、当然水道料金への上乗せとなる。つまり、水資源の確保をせずにリゾートホ テル等の誘致や建設を行うことは、地域住民の渇水リスクを増加させることになる。自然環 境を観光資源としながら、観光活性化のためにその資源を破壊し汚染しているのである。 また、近年増加してきている海水淡水化は現行の水道料金を2~3倍にしなければならな くなる。例えば、那覇市の水道料金は10m3あたり1496円であるが、海水淡水化を行っている 南大東村は3354円である。この料金を観光産業に係わっていない住民も支払わなければなら ないのである。離島市町村の水道担当者へのヒアリング調査では次のようなことが聞かれた。 海水淡水化の問題点として次の2点が示された。1つ目は高齢者のみの世帯に高額な水道料 金の請求は困難である。2つ目は、緩速濾過ならば台風等でなんらかの支障が出ても自分た ちで何とかできるが、急速濾過や淡水化では台風が過ぎ去って本島や内地から人を呼ばなけ れば対応できない。さらに、実際に淡水化を行っている村では、人々の節水意識が薄れると ともに、水使用量がどんどん増加してきていることを指摘された。 沖縄県の本土復帰から現在までの水需給の変遷をまとめ、現在顕在化しつつある問題点を 指摘した。これは島嶼観光地における渇水リスクマネジメントのための第一歩であり、今後 は水道料金負担配分や節水型の地域社会構築のための研究を行うこととする。このためには、 観光用水量を明確にする必要があるとともに、日常生活活動の不便をきたさない生活用水量 に関する調査分析が必要である。なお、水収支グループの研究の一部は(社)沖縄建設弘済 会の助成を受けたものである。 今後の研究予定としては、水需要構造の変化に関する分析と観光用水量の明確化を行い、 水資源から見た観光客数の容量の明確化を行う。これらの結果に基づいて生活者参加型の水 資源マネジメントにつなげるためのアンケート調査を行い、さらに生態系に対するインパク トの検討も視野に入れる。なお、これらに内容の一部は平成19年度科研費若手研究(B)に採 択されている。さらに、トヨタ財団及び住友財団へも競争的外部研究資金を申請する予定で ある。 3.2 土壌収支グループ 明確な意味でのゼロエミッションのための研究ではないが、本学COEの一部として行って きたサンゴ礁における浸食等の問題を研究している。 52 3.3 エネルギー収支グループ 電力供給を中心に多様な研究を進めている。風力発電と太陽光発電を中心とする自然エネ ルギーの利用に関する実務レベルでの問題点や、制御技術等の問題を工学的に明らかにして、 実効的な運用に必要な技術レベルについて検討している。 さらに、久米島を対象として、小規模離島におけるエネルギーの総合的なビジョンをまと める作業を行った。ディーゼルエンジンによる発電が主体である十分な資源を持たない小規 模離島において、多様なエネルギー源を模索している。風力や太陽光のような一般的な自然 エネルギーは、実用的なレベルの製品も多様に揃っており、実用性は非常に高いものの、小 規模離島全体を見たとき、自然エネルギー起源の発電量が大きくなると、電力供給の不安定 化を招き易いことも事実である。この点から脱却するための方策として、バイオマス系のエ ネルギー源を用いることが考えられる。しかし、サトウキビのモノカルチャー的な農業構造 を持つ久米島においては、収穫期間が限定的なサトウキビだけを起源とするバイオマスエネ ルギーに頼ることは危険である。また、安定的にエネルギーを保存できれば、小規模離島に おけるエネルギーの安定に非常に大きな意味を持つ。このような問題の検討から、バイオマ スエネルギーとなるべき有機物を炭化処理する方法が考えられる。炭化処理のためのエネル ギー源として、廃棄物処理施設の検討も行った。小規模な廃棄物処理施設では、一般的な蒸 気タービンによるゴミ発電は不可能または非常に低効率になる。そこで、ある程度の熱でも 運転可能なスターリングエンジンの活用が考えられる。また、自然エネルギーのような不安 定な供給源による電力は、小規模である利点を活かして、蓄電してしまう可能性もある。余 剰電力は水素生産にまわして、燃料電池による安定的な電力供給を図る方法もある。 以上のような多様な検討を行い、単純なエネルギー資源の置き換えではなく、主要な産業 である農業や、生活廃棄物の十分な活用、島内のエネルギー生産基盤となる発電所や廃棄物 処理システムの連携等を総合的に計画する必要があることを提案して、それをマイクログリ ッドで接続することにより、さらなる有効活用が可能であることを示唆した。 このエネルギービジョンに関する研究は、一部、久米島町の委託による新エネルギービジ ョン策定のための作業である。現在、沖縄県内ではバイオマスエネルギーを中心とする新エ ネルギーの検討が伊江島や宮古島等で進められており、かなり実用的な成果を上げている。 これらの成果を補完し、さらに発展させるものとして、今後、総合的なエネルギー計画とそ の裏付けとなる物質及びエネルギー収支に関して、新たな外部資金獲得も検討して行く予定 である。 3.4 建設材料収支グループ 建物の歴史的な変遷を追いかけ、その材料の変遷や建て替えのサイクル等に関する資料を 収集した。これに基づいて建設材料の歴史的な経緯と、それらの産地が県内か県外かを特定 するための検討を行った。さらに、建設リサイクル法に基づいて最近の県内における建設用 リサイクル資材に関する検討も行った。 沖縄県における住宅の変遷を見ると、太平洋戦争前は沖縄の原風景とも言われる茅葺きま たは赤瓦の吹き放し柱を持つ木造軸組住宅が中心であった。終戦直後の米軍占領時代は米軍 の供給による2x4住宅もモデル的に建設されているが、民間ではセメント瓦も用いて戦前住 宅を模倣していた。この時代の木造住宅はまだかなり現存する。一方、米軍基地内に建設さ 53 れていたコンクリートブロック造住宅は、台風に対する強度において魅力的であり、これを 模した住宅が造られ始め、それを基にした鉄筋コンクリート製のいわゆる外人住宅に発展し た。これが沖縄の鉄筋コンクリート住宅の基本になり、一般住宅へ普及した。 これらの住宅建築に用いいられた材料は、昔の赤瓦木造住宅の場合にはほとんど県内で生 産されたものであったが、コンクリートが使われるようになると、主要原料であるセメント そのものが移入されるようになり、板ガラスやタイル類、衛生陶器などの移入、輸入量が増 加している。鉄筋の多くは県内でくず鉄から再生産されているが、近年はくず鉄そのものが 不足し、移入に頼っている。建物がインターナショナルスタイルに変化するに伴い、建築材 料もインターナショナル化しているわけである。琉球石灰岩や勝連トラバーチンなど、沖縄 県産の材料が県外で用いられる例も出てきているが、それらの物質収支は明らかに県内への 流入超過である。今後の研究予定としてこれらの材料に関する詳細な収支を求めていく。 一方、建設リサイクル法に従って、現在の建築物は解体されるとその多くの材料はリサイ クルされなければならない。鉄筋コンクリートの建物が多い沖縄では、建築廃材はコンクリ ートがらと鉄筋に分離されることになる。実際にその作業は行われているが、非常に多くの エネルギーを要することもあり、このような問題を単純にリサイクルだけの視点で見てよい か、あるいはライフサイクルでの評価が必要であるか、検討を要するところである。ライフ サイクルコストやライフサイクル二酸化炭素などの視点を今後の研究に追加していきたい。 リサイクル材料の利用に関しては、現在、沖縄県の認定するリサイクル材の認定制度があ り、これを活用したリサイクル材が多数実用化されていることを調査した。建設材料として のリサイクル材は、主として路盤材などとして用いられる汚泥等をリサイクルした土砂系の 材料であり、強度や粒度に工夫が見られる。多くの材料はそれ自体の特性として優れたもの ではなく、今まで使われていた材料の代替品であることが多い。しかし、最近の傾向として 街路樹の表土のカバーなど、まったく新しい視点から開発された材料も少しづつ増加してい ることも事実である。これらの開発には産業廃棄物税を財源とする研究開発のための補助金 制度もあり、今後、ますます発展する可能性がある。なお、本タスクチームとしてもこの補 助金の申請を検討している。 3.5 畜産関係収支グループ この分野は畜産だけではなく、農産全体を調査することが最終的な目標となるが、対象分 野が非常に広範に及び、現在はまだその調査の初期段階である。狭い県土の中で持続可能な 農業生産を可能にするための方策をマクロ的に検討している。小規模な経営主体となってい る農業では大型のリサイクル機器の導入が困難であり、また、畜産廃棄物は周辺住民にとっ ては大きな問題であるばかりでなく、河川や海洋の汚染につながる危険性もある。このよう な点を今後の課題としている。 3.6 家電製品収支グループ,自動車収支グループ この分野は学内に専門家がいないため、研究体制自体が整っていないので、まだ目に見え る形の研究成果は得られていない。特に、沖縄県では家電リサイクル法施行後の評価がなさ れておらず、回収率等のデータ収集から始めなければならないのが実情である。平成18年度 に実施した活動は、これらの製品がリサイクルされている県内の工場を見学し、リサイクル 54 の現場を実感したことである。 家電や自動車は、メーカーの企業規模が非常に大きいため、技術的に見れば製品の段階か らリサイクル処理を意識しているものが多く、実際に工場現場では、自動車に関しては95% 程度リサイクルされている。しかし、これは廃製品が工場に搬入された後の話である。問題 は本学内にも多数見られるが、工場へ搬入されずに不法投棄されている廃自動車等の廃製品 である。沖縄県では小規模離島が多数あるため、現地での完全なリサイクルはほぼ不可能な 状態である。それを本島内の処理工場に搬入するための費用は、リサイクルされた製品価格 では保証できない。したがって、離島内ので不法投棄や野積み状態が増加することになる。 上記のような点を考慮して、今後の研究については離島に主眼をおくという方針も考えられ る。 3.7 化学物質循環グループ 平成18年度の研究対象として、重点的に予算を配分した分野である。まず、ローカルな物 質循環として、環境中における有害化学物質の調査を行った。また、グローバルな物質循環 として、大気および海水中の二酸化炭素濃度変動及び大気降下物中の有機塩素化合物および 過塩素酸濃度の調査を行っている。さらに、これらを統合してオンライン化するための二酸 化炭素を対象にした実験的な測定も行った。 まず、ローカルな物質循環として、沖縄本島の河川流域・沿岸海域(那覇市内、北部河川、 石垣島サンゴ礁)における有機塩素系化合物、有機スズ化合物、農薬(ジウロン)分布と季 節変動の調査をおこなった。これらはいわゆる環境ホルモンと呼ばれる物質を含む。有機ス ズ化合物は、主として船舶に関係した供給源をもつトリブチルスズは漁港のある河口域で高 く、農業に関係した供給源をもつトリフェニールスズは北部河川で高かった。ジウロン(農 薬:除草剤)は、今回新たに調査を始めた。ジウロンは、除草剤として利用されているが、 また有機スズ化合物の代替品として防汚剤として使用されている。沖縄県内における使用量 は、東京都、千葉県に次いで、全国第3位であり突出している。サンゴ礁生態系に影響する 可能性があるので、石垣島サンゴ礁で調査を始めた。今後、ケラマ諸島、沖縄本島でも同様 の調査を行う予定。冬期の調査では、海水中では未検出であったが、堆積物中には検出され た。5月から夏にかけて使用量が増えるので、系統的な調査を計画中である。サンゴ代謝へ のリスク評価のために飼育実験もおこなっている。 次に、グローバルな物質循環として、大気および海水中の二酸化炭素濃度変動を調査して いる。大気中の二酸化炭素濃度は現在 380ppm で、1.8ppm/年の割合で増加し、21 世紀の後 半には 560ppm(産業革命以前の2倍値)に達すると予測されている。地球温暖化は、目に見 える形で進行しつつある。京都議定書の発効によって、二酸化炭素の削減目標が設定されて いるが、沖縄県における二酸化炭素の収支について具体的な調査が必要である。 サンゴ礁の大気と海水中の二酸化炭素収支を求めるために、瀬底島(熱帯生物圏研究所前) のサンゴ礁において7年間に亘り、炭酸系成分の 15 分毎の計測を行ってきたが、平成 17 年 度に高精度の全自動自動計測装置を導入した。地下からサンゴ礁にしみ出してくる地下水の 影響が無視できないことがわかり、平成 18 年度の本タスクチーム予算により塩分計を装置 の回路に組み込むことができた。これにより実験室レベルの高精度で野外観測の継続が可能 になった。サンゴ礁海水の二酸化炭素濃度の日変動、月変動、季節変動の取得が可能になり、 55 冬に吸収、夏に放出の傾向が明らかになった。また、海水中の二酸化炭素変動の周期解析を 行った結果、太陽活動以外にも月の運行周期にも規定されて変動することを明らかにした。 さらに、大気降下物中に輸送される有害化学物質の輸送雨量を評価するために、現在、有 機塩素化合物と過塩素酸濃度の測定を行っているところである。 上記のようなグローバルな物質循環の測定においては、多数の測定点を結ぶネットワーク 化が重要な要素となる。ここでは地球温暖化要因である二酸化炭素濃度の観測ネットワーク に参加し、実際に測定を行った結果について報告する。これは琉球大学および沖縄工業高等 専門学校に気象観測センサを設置し、観測データをインターネット上に公開するものである。 また、センサネットワークの拡大を図るために、センサユニットに小型独立型電源を用いた 日射センサを増設し、太陽エネルギーの賦存量を測定する。琉球大学の学生の多くはマイカ ーかバイクによる通学である。授業のある朝から昼にかけては三千台以上駐車可能な駐車場 が満車状態になることから、琉大周辺の交通量はかなり多いと思われる。したがって、琉球 大学内の二酸化炭素濃度が構内を通る自動車の交通量からどのような影響を受けているか を解析した。 琉球大学に入構する自動車数と二酸化炭素濃度には正の相関があることが確認できた。こ れは入構した自動車が空き駐車場を探すために構内を走り回ることが原因と考えられる。ま た、出構する自動車数と濃度には負の相関が表れるが、これは構内の自動車数の減少により、 駐車場が確保し易くなったためと考えられる。しかし、解析した日数が日間のみのため、今 後は交通量調査のデータを増やして平日と休日の比較をする必要がある。今後は観測拠点を 増やして全国規模で濃度解析を行うとともに、琉球大学と沖縄工業高等専門学校のセンサを 用いて沖縄の濃度解析も行う。 4. 外部資金への応募状況 堤を代表として平成 19 年度の科学研究費補助金(基盤研究A)に申請したが、採択され なかった。その他の競争的外部資金として、平成 19 年度沖縄県産業廃棄物排出抑制・リサ イクル等推進事業費補助金への応募を検討している。 5. 今後の方針 平成19年度に行う研究目標は、次の3つである。 1) 紙、プラスチック、食品、建設、家電、自動車のフロー作成 2) 水、土、二酸化炭素を中心とする自然系物質フローの作成 3) 現在のエネルギーのフロー作成と省エネ、新エネに関する調査 具体的な研究方法は、主として関係資料の収集とその定量的データ化、さらにその解析に なる。解析対象地域は沖縄県であり、解析対象の期間は季節変動を考慮して、基本的には一 年間である。 1)の工業製品や食品に関しては、沖縄本島への輸出入、移出入に関する商品別のデータを 収集する。自治体等がまとめた統計資料が多数存在するので、このような既存の統計資料を 収集し、詳細に検討することが最初の作業になる。 2)の対象となる自然系の物質等は、水、土及び二酸化炭素である。統計資料として考え られるものは、気象データ、河川の流量水質、農業用肥料の量等である。これらの資料で 56 は不十分な場合、必要に応じて実測調査を行う。特に、二酸化炭素の循環に関しては、平 成18年度の研究成果として、観測機器を充実させているので、これによる長期の自動測定 を通して、未知のデータを整える。 3)の対象となる物質は主として石油、石炭、LNG、LPGである。これらのエネルギー資源 の原材料と製品の違い、電力への変換量と効率、送電等におけるロスについて詳細に調査 する。さらに、自然系のエネルギーとバイオマス系のエネルギーに関する現状と、賦存量 を明らかにして、これらへの転換の可能性を探る。 6. 発表文献 1) 神谷大介:沖縄県における水需給の変化と渇水問題に関する研究,第34回環境システム 研究論文発表会講演集,Vol.34,pp331-338,2006 2) 神谷大介:沖縄県における水利用実態と渇水問題に関する基礎的考察,土木学会第61回 年次学術講演会講演概要集,pp.217-218,2006 3) 青木 久・前門 晃:離水サンゴ礁上に形成される溶食プールの発達速度,琉球大学21 世紀COEプログラム,平成18年度成果発表会,PE-18,2007 4) T.Senjyu, et al.: Optimum Configuration for Renewable Generating Systems in Residence using Genetic Algorithm,IEEE Transactions on Energy Conversion, Vol.21, No.2, pp.459-466, 2006 5) T.Senjyu, et al.: Output Power Leveling of Wind Turbine Generator for All Operating Regions by Pitch Angle Control, IEEE Trans. on Energy Conversion, Vol.21, No.2, pp.467-475, 2006 6) T.Senjyu, et al.: Wind Velocity and Rotor Position Sensorless Maximum Power Point Tracking Control for Wind Generation System, Renewable Energy, Elsevier, vol.31, pp.1764-1775, 2006 7) T.Senjyu, et al.: Output Power Leveling of Wind Farm Using Pitch Angle Control with Fuzzy Neural Network, Proc. the IEEE Power Engineering Society General Meeting, pp.1-8, CD-ROM, Montreal, 2006 8) 勝田昌貴,堤純一郎:亜熱帯建築の屋上遮熱材料に関する研究,日本建築学会大会学術 講演梗概集 D2,pp.171-172, 2006 9) 小林文男,堤純一郎:沖縄の住宅は夏涼しい?,日本建築学会第 36 回熱シンポジウム, pp.21-22, 2006 10) 仲地宗俊:持続可能な地域農業の形成に向けて,沖縄法政学会報,第19号,2007 11) T.Oomori, et al.: Spatial and seasonal behavior of organotin compounds in protected subtropical estuarine ecosystems in Okinawa, Japan, Int. J. Environ. Anal. Chem., 2007 12) T.Oomori: Contamination by organochlorine pesticides from the selected rivers in Okinawa Island, Japan, 16th Annual V.M.Goldschmidt Conf.,Melbourne,2006 13) T.Oomori: 6 year community metabolism in coral reef ecosystem at Sesoko island Okinawa, Japan, ICRS 2006, Bremen, 2006 14) T.Oomori, et al.: Contamination by organochlorine pesticides from rivers, Int. 57 J. Environmental Science & Technology, 4(1), 1-9, 2007 15) 大森保,藤村弘行:炭酸システムの動態と多様性−炭酸システムの変動から見えるサン ゴ礁生態系の現在・過去・未来−,琉球列島の生物多様性−生命が満ちあふれる沖縄の島々 (琉球大学 21 世紀 COE プログラム編集委員会編)pp.319-331, 2006 16) A.Tanahara, et al.: Chemical composition and photochemical formation of hydroxyl radicals in aqueous extracts of aerosol particles collected in Okinawa, Japan, Atmospheric Environment, 40, 4764-4774, 2006 17) A.Itoh, et al.: Partitionings of major-to-ultratrace elements in bittern as determined by ICP-AES and ICP-MS with aid of chelating resin preconcentration, Bull. Chem. Soc. Japan, 79(4), 588-594, 2006 18) A.Itoh, et al.: Determination of rare earth elements in seawater by ICP-MS after preconcentration with a chelating resin-packed minicolumn, J. Alloys and Compounds, 408-412, 985-988, 2006 58 琉球大学における環境教育カリキュラム(Nature and Culture Program)の構築と環境系副専攻の設置 (タスクリーダー:山里 勝己) はじめに 本研究は、米国の大学教育ですでに実践されている「自然と文化プログラム(Nature and Culture Program)」 (以下NCP)を先行例として、本邦初で本学独自の特色ある環境教育カ リキュラムの構築を目的とした研究である。 本年度では、研究会を重ね、琉球大学の共通教育から専門教育までのカリキュラムの中で、 文理融合型・分野横断的な環境教育の領域が具体的にどのような方法で創造できるかという 可能性を探った。また、すでに類似の実践を行っている国内外の他大学その他の機関の実践 状況を調査し、「本邦初で本学独自の特色ある環境教育カリキュラム」を具体的にどのよう に実現していけばよいのかということについても分析していった。 プロジェクト等の成果 本プロジェクトのメンバーの多くがすでに琉球大学において独自の環境教育を展開して いたがこのプロジェクトの機会を通し、分野横断的なこれらの構成メンバーが対話すること によって各々の断片的な実践や各研究分野における「環境」への理解を共有し、再確認する ことができた。まずは共通教育における環境科目の履修システムをどのように整備し、それ をどのように専門教育へつなげるか、その教育の成果である人材が社会でどのような役割を 担う可能性があるのかなどについて、分野の異なるメンバーの異なるビジョンから統一見解 へ至ることは容易ではない。しかし、研究会の場を通してそのような差異のあるビジョンを 互いに提示していくことによって、現行の教育カリキュラムに関わる問題や今後の展望など について議論できたことは貴重な収穫だった。研究会では、すでに琉球大学エコロジカルキ ャンパス委員会で調査・報告済みであった本学の環境関連科目について再検討・整理し、最 終的に、共通教育課程の環境教育カリキュラムについては平成 19 年度に学生へ提示するこ とができる見通しとなった 成果の公表 現行の共通教育科目の環境に関する科目を分析し、履修可能な科目をリストアップした。 以下がそれである。またNCP副専攻の案についても公表予定である。 浜崎盛康「環境系科目(共通教育)一覧について」大学教育センターニュース p.1. No.20 (2007): 59 視察報告 「信州大学エコキャンパス視察」出張報告書 伊波 美智子(法文学部) 1.目的 信州大学エコキャンパス取り組みの視察 2.期日 平成 18 年 10 月 23 日(月)午前 9 時 30 分~午後 3 時 3.訪問先 ①信州大学教育学部キャンパス(渡辺隆一教授) ②環境マインドプロジェクト推進本部会議(傍聴) ③信州大学工学部キャンパス(三島彰司教授) ④工学部環境 ISO 学生委員会(学生へのヒアリング) 4.視察者 法文学部観光科学科 伊波美智子 法文学部観光科学科 大島順子 5.報告内容 ①日本におけるエコキャンパスの先進大学 信州大学は、2001 年 5 月国公立大学の学部・大学院としては初めて、工学部が環境 ISO14001 認 証を取得したのを皮切りに各学部が着実にエコキャンパス化を図り、全国のエコキャンパスにおけ る先進的な取り組みをしている。「信州大学環境方針」を定め、各キャンパスにおける ISO14001 認証取得を通じてエコキャンパスを構築する環境配慮活動の実践を基盤とし、全ての分野における 環境教育・環境研究の推進と地域社会との環境活動の推進をとおして、環境マインドをもつ人材の 養成に取り組んでいる。なお、平成 16 年度から文部科学省特色ある大学教育支援プログラムとし て「環境マインドをもつ人材の養成」 (2004 年- 2007 年)が採択されている。それは、学生を中 心として、環境マインドをもつ文化人・研究者・ 技術者・教師・経済人・医師を養成することで 環境にやさしい社会の実現を目指しているもの である。具体的には、エコキャンパスを教材と した実践的環境教育,環境関連基礎・専門科目 の充実,内部監査を利用した実務教育,地域と 連携した環境マネジメントインターンシップの 運用,化学物質汚染予防教育(先進的な薬品管 理システムの導入)を推進し,実践的環境教育 モデルを充実させている。(右図参照) 視察した教育学部および工学部のキャンパスでは、特にゴミの徹底した分別収集に目をひきつけ られた。また、学生食堂における残飯処理および皿に残る油のふき取り作業の励行は、学生自らが 中心になって行なっている取り組みとして評価される。 ②各キャンパスに配置された分別収集ステーションの徹底 教育学部の分別収集ステーションは、素材別に徹底した分別がなされており(特に、美術教育から 出される彫塑の材料なども細分化されている) 、あらためてゴミがいかに多様な素材であるかという 事実を目の前で知らせる良い機会=学びの機会となっていることがわかる。 60 ③5 キャンパスの環境 ISO 学生委員会の活発な活動 信州大学では、工学部・教育学部・農学部・繊維学部・松本旭キャンパス、計5つのキャンパス において環境 ISO 学生委員会が設置されている。各キャンパスの環境 ISO 学生委員会および教職員、 地域連携プロジェクトの関係者が集まり、活動発表などを行なう全学大会毎年、全国のエコキャン パスの持ち回りで開催される「環境 ISO 学生委員会全国大会」が 2006 年 6 月 1 日~2 日に同大学で 開催され、エコキャンパス構築・発展の実際についての深い議論が交わされ,熱い感動と大きな成 果のうちに全国大会(15 大学からの参加者は延べ 355 名にわたり、学生と大学教職員のほか市民(環 境関連団体等)も参加した)が終了したという。 学生委員会は、それ自体がサークル活動として定着している様子が見られ、次学年にきちんと引き 継いでいくしくみが整っている。 石膏廃棄物の分別 食器の油ふきとり(生協食堂) 備え付けの紙で拭いて洗い場へ (鋳型、石膏、バーラップ付と3種に分別されている) 5.所感 ・化学物質を扱う工学部からエコキャンパスの取り組みが始まることは、非常にわかりやすく説得 力のあるものだということが実感できた。それを扱う研究者=教員の問題意識の共有と社会に対 する責任の高揚が活動の原点ではないだろうか。 ・学生委員会で学生自らがキャンパスのエコ化を目指して様々な活動に取り組む姿は、非常に好感 が持てた。琉球大学においてもトップダウンとボトムアップの両方を上手く使い分けながら様々 な活動の積み重ねによって築き上げていくべきだと感じた。 ・学生 10%以上、教職員 50%以上を目標に学生、教職員を内部監査人養成研修に参加させている。 環境教育は認証取得の必須事項であり、学生及び教職員全員がなんらかの環境教育・研修を受け なければならない。全員が喜んで参加できるような環境教育のシステムづくりは大きな課題であ る。 参考:信州大学 web サイト:http://www.shinshu-u.ac.jp/ 61 弘前大学での調査報告 ---文理融合型カリキュウラム及び大学と市民の連携--渡久山 章(理学部) 2007 年 3 月 7(水)〜9 日(金)雪降る中、弘前大学を訪ね、理工学部地球環境学科鶴見実教授、 同研究室の学生諸君と話しあった。大学と市民、行政との連携組織である「弘前環境パ-トナ-シップ 21」の委員会にも参加した。以下 3 つに分けて報告したい。 1.文理融合型カリキュウラム 1)学部では未だ立ち上げてない。ただ NCP に参考になると思われるのは以下のことである。 a)教養科目—環境に関する授業科目は 21 世紀教育としての「テ-マ科目」の中に見られる。テ-マ科 目は 7 領域に分化されており、環境領域には 21 世紀の環境問題、環境と生活、環境と社会、環境 と資源、環境と共生などの科目が組まれている。(感想:枠組みが綿密に検討された結果、作られ ているという印象が強い。) b)学部(理工学部) :理学系 4 学科、工学系 2 学科がある。シラバスは冊子体にもなっていて、各学 科の履修モデルが載っている。これは琉大の課題でもある。(感想:地球環境学科のシラバスに注 目した。学科が作られているだけあって、地球環境に係る理工学分野のかなりの部分がカバ-され ている。) (人文学部) : (感想:ユニ-クなのは文化財論コ-スで、文化財論、日本考古学、西洋考古 学など NCP と関係の深い科目が提供されている。) 2)大学院:文理融合型の講義が始まっている。2007 年前学期「生命科学と倫理」担当は医学部医学 科と人文学部の教員。2007 年後学期「エネルギ-と環境」担当は教育、医学、理工、農学、地域社 会の教員(感想:専門分野に限らず、広く履修させたいという意気込みが見られる。) Ⅱ.大学、行政、市民の連携:-弘前環境パ-トナ-シップ 211999 年〜2000 年、弘前市は環境基本計画を策定した。それを実践するため「弘前環境パ-トナ-シ ップ 21(HEP21)」が作られている。このことは NCP で学ぶ学生諸君や推進する教員団が市民、事 業者、行政側とどのように係って行くかいう点について、参考になると思われる。 報告Ⅲ:21 世紀市民革命について(これは弘前での呼び方です) 大気水圏環境学講座、下山智裕さんの修士論文要旨。下山さんは人文学部を卒えてカナダ留学後、 理工学研究科の大学院に進学した人で、修士論文のタイトルは「市民主体の環境活動にみるパ-ト ナ-シップ形成の問題点と解決策—--省エネラベルや環境マネジメントシステムにおける市民そし て NPO、企業、大学、地方自治体、政府間のパ-トナ-シップ---」である。 (感想:NCP の場合も環 境問題を取込んだ社会システムを構築するための研究や講義が望まれる。 ) 全体としてのまとめ:NCP のカリキュウラムについて---どんな科目を受講させるか--自然系:地質学、地理学、生物学、気象学、台風、環境化学、琉球の自然保護、琉球の自然、 エネルギー、医学と環境など + 専門科目(理学、医学、工学、農学) 文系(教育):環境文学、環境倫理学、環境英語、環境教育など + 専門科目 実践系:ISO, 環境マネジメントシステム、情報処理(工学)など 62 長崎大学環境科学部ヒアリング調査報告 藤田 陽子(法文学部) 本調査は平成 19 年 3 月 15 日,長崎大学環境科学部(以下,同学部)を訪問し,本学部創設時から の構成員である谷村賢治教授にインタビューを行ったものである. 同学部は平成 9 年 4 月,国立大学初の文理融合型学部として発足した.組織としては1学部1学科 (環境科学科)であるが, 「環境政策コース」と「環境保全設計コース」という2つの履修コースに分 かれており,さらに,前者が「環境政策講座」と「文化環境講座」に,後者が「環境設計講座」と「自 然環境保全講座」に分かれているため,教育体系としては4種の専門分野で構成されていることにな る.すなわち, 「環境問題」という極めて複合的な問題に対して,人文学・社会科学・自然科学・工学 等の様々な関連分野から学ぶ「文理融合型」教育でありながら,各々の履修コースを選択することに より専門的知識に基づいた「問題発見-解決能力」を養うことのできる体制を備えた学部となってい る. この教育目標はカリキュラムに反映されている.まず 1 年次には「環境科学概論(A・B) 」という, 所属教員が輪講で行う総合的な科目が必修として提供されており,担当教員がその専門分野の視点か らの環境問題のとらえ方を講義する.その他に,基礎数学・基礎物理学・基礎化学・基礎生物学・環 境法・環境経済学・環境社会学・環境倫理学・環境情報処理・言語コミュニケーション,を必修とし て履修し,全員が文系・理系双方の基礎的知識を習得する.その後,各自の履修コースを選択して専 門的観点から環境問題を学ぶこととなる.この履修体系からもわかるように,同学部の教育目的はあ る 1 つの環境問題を様々な側面から理解することのできるゼネラリスト的能力と,問題解決に必要な 専門知識を身につけたスペシャリスト的能力の双方を持ち合わせた人材の育成にある. また,学部の文理共同プロジェクトとして,学部構成員の共著による出版物も数冊刊行されている. 出版物:長崎大学文化環境研究会編「環境と文化<文化環境>の諸相」(2001) 長崎大学文化環境/環境政策研究会編 「環境科学へのアプローチ-人間社会系-」(2001) 生野・早瀬・姫野編「地球環境問題と環境政策」(2003) 長崎大学環境科学部編「環境と人間」(2004) さらに,平成 18 年には「環境教育の推進に関する基礎的基盤的研究(平成 16~17 年度長崎大学環 境科学部文理融合プロジェクト研究成果報告書)」をまとめている. その他, 「長崎大学環境科学部環境方針」を設けたり(平成 14 年), 「ISO14001 認証」を取得するな ど(平成 15 年),学部として環境に取り組む姿勢を学内外に示している. 一方,開部 10 年を経た現在,文理融合型であるが故の課題やその困難さが顕在化している. 文理融合型教育・研究組織の発展形として平成 14 年に修士課程,平成 16 年に博士後期課程が設けら れたが,一般的に文系と理系では研究成果の評価基準に大きな差異がある.大学院生の論文評価に当 たり,論文発表の頻度や形式(共著・単著の評価,平均的頁数,等),査読基準,紀要の扱いなどの点 で分野間において異なる基準を持つため,その擦り合わせには困難を伴うという現状がある. また,学部教育においては,学際的教育体系の下で広い知識を習得できる反面,専門分野に関する 基礎知識が不足するという事態が起こっている.換言すれば,オールラウンドの教育体系を実現する ために各々に割くことのできる人員や時間が少なくなり,上級生でゼミ等を履修する段階で,専門的 研究に備えるに足る能力を習得することができないという問題が発生しているということである.同 63 大学には,同学部に組み込まれている各分野プロパーの学部・学科がすでに存在している.専門教育 に関する限り,これらの学部・学科における教育水準に比較して同学部の専門教育水準はどうしても 劣ることとなる.そして,この問題は学生の 「出口」,いわゆる就職傾向にも現れている.開部当時, 同学部における学際的教育効果をアピールすべく教員による企業訪問も盛んに行われたようである が,現時点で「環境」を学んだということが就職に有利に働いているという印象はないとのことであ る.昨今では民間企業にも環境部門を設置する会社が見られるようになったが,こうした企業に「環 境の専門家」として雇用されるというケースはない.反対に,より多くの専門的知識や技術を身につ けた従来型の学部・学科を卒業した学生が好まれるという傾向が強い.同学部は,こうした事実を踏 まえ,「文理融合」「学際性」を保ちつつ「専門性」を深める方策を模索している段階にある. 立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科視察報告 喜納 育江(法文学部) 立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科のプログラムは、「持続可能な未来への異文化コ ミュニケーション学の構築をめざして」というテーマで、平成 17 年度文部科学省によって「魅力あ る大学院教育」イニシアティブ(以下「大学院 GP」とする)に採択された。今回の視察ではその先行 的な取り組みから学ぶべく、平成 19 年 2 月 19 日に同研究科に出向き、研究科長の野田研一氏とプロ グラム・コーディネーターの萩原豪氏にお話を伺った。 まず、立教大学異文化コミュニケーション研究科の最大の特徴は、「言語」、「通訳翻訳」「異文化」 「環境」を4つのコミュニケーション領域とし、それらを分野横断的に履修できるカリキュラムを提 供しているという点である。これらを分野横断的に、有機的に結び付けることによって、従来の「異 文化コミュニケーション学」をさらに進化させた、新しい異文化コミュニケーション学を構築してい る。「持続可能な未来を指標に、異質な文化とのコミュニケーションという切り口から言語、多文化 社会、環境の諸相を解明するという目標」を掲げ、 「臨床の知」 、すなわち理論と実践を架橋する同研 究科のカリキュラムでは、専門が蛸壺にはまってしまい、分野横断的な教育が実現しないのが一般的 な大学院教育の姿であるという諦めにも似た常識こそが非常識であると唱えているような印象を得 た。 「臨床の知」を具現化するカリキュラムで中核的な役割を担っているのが、「リサーチワークショ ップ(RW)」という科目である。実践 RW と理論 RW、そしてドクターRW からなり、それぞれたいへん ユニークな教育内容になっている。特に実践 RW は、 「フィールドワーク RW」と「領域横断 RW」から 構成されているが、 「領域横断 RW」に「インターンシップ」や「海外研修」などと並んで、学会運営、 紀要編集、出版企画などを通じてプロジェクト運営能力を高める「プロジェクト・マネジメント」が 含まれている点が興味深い。大学院教育を受けた者に要求されるより高度な専門知識もまた、それな りのレベルの現場で実践できる実践力を備えてこそ「臨床の知」であるということだろう。同大の大 学院 GP では、連続講演会も行われているが、それも実践 RW の一環であると思われる。また、 「4 領域 別フィールドワーク RW」の中の「環境コミュニケーション」では、屋久島や知床半島などの世界遺産 となっている自然を実際に訪れ、自然環境保全の現状についての調査も行った実績がある。 64 大学教育における「環境教育カリキュラム」としての Nature Culture Program がどのような形で実 現するのかを研究する流れで、今回同研究科のカリキュラムを視察して感じたことは、学生の高度な 専門性を養成する役割を担った大学院のカリキュラムでは、そのレベルなりの実践力の養成を意識し た教育が必要とされていることである。つまり、大学院では大学院レベルの環境意識と知識を実践に 結びつけることのできる学生を育てなければならないということである。そして、立教大学の大学院 GP では、「持続可能な未来」の構築をめざす「環境」の視点が鎹(かすがい)となって、異なる分野 が空中分解せずに、分野横断的な教育カリキュラムとして学生に提供されている点が優れていると感 じた。 野田研究科長によると、このようなカリキュラムを可能にし、GP の採択の可否を左右する要因は、 「人」なのだそうだ。つまり、 「環境」という視点からの研究に実績があり、GP の運営に積極的に動 く「人」がどれだけリストされているのかも多いに採択決定に影響するというお話だった。私たちの Nature Culture Program を GP で採択されるほどのプログラムに成長させていくにあたっても、私た ち自身が自分の専門分野に環境の視点を入れた研究に積極的に取り組んでいくことが必要とされて いるということだろう。 ハワイ大学マノア校環境センター視察報告 山城 新 (法文学部) 平成 19 年度 3 月 4 日から 9 日の日程でハワイ大学マノア校を視察し、環境センターを視察し、同セン ターの設立主旨や活動状況についてお話を伺った。琉球大学での環境関連プログラムの検討に参考に なれば幸いである。 参加者(琉球大学):山里勝己(法文学部教授) 、山城 新(法文学部准教授) 参加者(ハワイ大学) :John Cusick, Jacquelin N. Miller, Frank Stewart, Peter Quigley, Jim Moncur 【設立背景及び組織概要】 ハワイ大学環境センター(UH Environmental Center)は 1970 年に設立された。当初は、亜熱帯農業、 海洋学、天文学、進化生物学、火山学などを専門領域とする教員らが主な構成メンバーであり、ハワ イ州の様々な環境汚染問題に対処すべく、科学的な調査やモニタリングを主な活動目的とする団体で あった。70 年代当時は世界的な規模で環境問題が社会問題化した時期であり、その世相に対処すべく、 自然科学と社会科学を統合させ、特に、政策立案や産業モニタリングなど環境問題の問題解決に科学 的立場から発言することが主な活動趣旨であった。 沖縄と同じくハワイでは水資源が限られているため、以前から 1970 年代に水環境をめぐって公害が 社会問題していくが、その背景から、水資源センター(Water Resource Center)との連携が進められ た。1975 年より環境学を専攻とする学位プログラム(Environmental Studies Program)が発足し、 大学システム上、学際研究プログラム(Interdisciplinary Studies Program)をとおして、学士号(BA) と環境学修業証書(Certificate in Environmental Studies)を提供している。 65 現在専属教員は 3 人、 (J.T. Harrison, Ph.D., environmental studies, environmental management, ecosystem dynamics; J.H. Cusick, Ph.D., environmental education, political ecology, protected areas; K.M. Silvius, Ph.D., community ecology, conservation science, resource management by local communities and indigenous peoples)であり、その他に 16 人の併任教員(affiliate faculty) がスタッフとしてセンターを構成している。 【主な活動】 同センターの活動は相互に関連しあう 3 つの領域に分けられる。すなわち、 「教育」 「調査」 「サービ ス」である。 「教育」に関しては、環境学プログラムをとおして、大学の環境教育に貢献している。当然ながら、 ハワイ大学には多くの自然科学系の学部や専攻が存在しているが、統合的に環境やそのマネジメント について学ぶことができるのは本プログラムをとおしてのみである。 「調査」は、同センターの設立趣旨の中心であったこともあり、大学のみならず州レベルの環境評 価対象事業の調査を担当し、政策立案や環境アセスメントに関して中心的な役割を担っている。セン ター職員では対応できない事案については、同センターの人材ネットワークを駆使し、大学内だけで なくアメリカ国内の研究者に調査依頼するという、委託業務のようなこともやっている。同センター の財源の中心は外部資金から研究・調査費として入ってくるものである。環境という領域の複合的特 質上、様々な機関や組織との連携を重視している。 「サービス」とは、おそらく同センターの最も特徴的な部分を表している。具体的な例を挙げると、 環境センターには評価委員(review network)と呼ばれる、研究者及び技術者の人材ネットワークがあ る。大学や州からの環境評価調査依頼を受けたときには、まずこの評価委員のネットワークの中から 適任者を選出し、その委員らの専門的見地からの意見をきく。その意見を基に、厳正なる評価手続を 踏まえた上でその依頼内容についてその妥当性や環境影響などについて、同センターの評価結果を依 頼者へ提供する。このような科学的、専門的、客観的な環境調査の提供がすなわち、 「サービス」の根 本部分である。同センターでは土地利用や環境アセスメントや土地開発の際に、頻繁に意見を求めら れており、同センターの主要な業務の一つとなっている。 以上のように、自然科学と社会科学の専門家を中心にして、ハワイの様々な環境問題に関して専門 的な見地から積極的に関わると同時に、これまで蓄積した人材ネットワークをとおして、教育や地域 に貢献しているといえる。同センターの専門的知識と人材の充実が、同時に「環境学プログラム」を とおして提供される教育にも大きく貢献している。すなわち、専門教育を充実させるのはもちろんだ が、インターンシップや就職先斡旋の際に、ネットワークの存在が大きく働いているということであ った。近年、海外大学や研究組織との連携も積極的に進めているということであり、琉球大学との環 境教育の発展にも積極的に協力したいという申し出も頂いた。 因みに 2001 年から 2007 年度までの卒業生の数は以下のとおりである。主な就職先は教育(環境教 育)、大学院(環境工学、環境影響学)州や地方の役場等である。 2001 年—16 人 2005 年—27 人 2002 年—24 人 2006 年—37 人 2003 年—23 人 2007 年—39 人 2004 年—16 人 66 毎年増加傾向にあり、おそらくこれからもこの傾向は変わらないだろうというのが同センターの予測 である。近々同センターは改組を予定しており、社会科学・自然科学だけではなく、人文科学の研究 者や大学管理職の人材も組織に組み込みながらカリキュラムの大幅な見直しも視野にいれているとい うことである。 【コメント】 小さな事務所と少ない専任スタッフの割には、1970 年代から活動を続けていることもあって、これ までの歴史と実績の蓄積が同センターの実績を支えているという印象があった。学生数はそれほど多 くないようであるが、この規模を考慮すると、他の業務と並立させて運営するためには現実的なので あろう。カリキュラムを見ると、自然科学と社会科学科目中心であり、人文系科目が極端に少なかっ たことが印象的であった(例えば哲学、文学、美術、音楽、等は履修科目の中に含まれてない)。「環 境」を学ぶ際に、やはり科学は重要であり、基礎的な学問的知識の効果的習得には、ある程度科目を 限定した方よいという説明である。しかし、このような特定科目重視は人文系科目を軽視していると いうことではない。実際に会議には環境文学研究で著名な英文学部の教員(Frank Stewart)が参加し ていたし、臨席いただいたハワイ大学副理事の一人である`Peter Quigley も環境文学研究では名の知 れた研究者であり、同センターの試みに好意的な意見を述べていたことを考慮に入れると、これから 同センター内だけではなく大学内で人文科学と自然科学の間の学問的連携も進められることが想像で きる。 琉球大学の副専攻制度を考える上でこのような海外の大学との連携を視野に入れることも可能性と して考えられる。既に交換留学制度が存在しているし、両大学間の教育及び研究の交流は非常に活発 であるので、向こうでのインターンシップや講義を互換単位として認めることが可能であろうと思う。 他の交換留学提携校に対しても同様である。 教育システムとして、同センターの役割をもう一度確認すると、科目等の提供は同センターが責任 を持つが、単位認定については、学際研究プログラムという別組織が存在していることにより、 「専攻」 や「学科」よりも比較的小さな組織で学位提供が可能になっている。琉球大学に当てはめるとすれば、 大教センターが単位認定の公式な組織であり、学内のサブグループ(エコキャンパス関連グループや、 環境プログラム検討グループ)が実際の運営を担うことになろうか。大教センターに全ての任せてし まうと、学生としてはその副専攻がどこにあるのかというのが見えにくい。かといって、専攻とか学 科のような具体的組織を創るのは副専攻の趣旨にそぐわない。例えヴァーチャルな組織であ っても、学生としてはどこかに「所属するという」帰属意識の安住する「場」があるほうが安心感を 持てるのではないか。実際に会議の中ではハワイ大の同センターがそのような役割を果たしていると いう指摘もあった。 【参考資料】 ・ 「Environmental Center パンフレット」(English) ・Environmental Center Website: [http://www.hawaii.edu/envctr/] ・Schedule of Classes Spring 2007 ・University of Hawai`i at Manoa 2006-07 Catalog 67 環境系科目(共通教育)一覧について 浜崎 盛康(法文学部、大学教育センター企画部門長) 琉球大学は、環境問題が現代社会における世界的に重要な問題であるということに鑑み、平成13 年4月に「琉球大学環境宣言」を制定しました。この宣言は、 「琉球大学環境憲章」、 「環境行動計画(琉 球大学アジェンダ 21)」、 「実施組織」の三つの柱から成ります。このうち、 「琉球大学環境憲章」は「人 間は、 「地球」という生態系の一部として存在している」という書き出しで始まり、 「1 自然と共に生きる地球市民としての自覚と誇りを持って行動する」、 「2 他者との対話を知の源泉とする多文化共存の環境をつくる」、「3 生命と文化の多様性を讃え、 地球社会の未来を担う自主性と想 像力、創造力にあふれる人材が育つ教育・学習環境をつくる」、「4 真のアカデミズムにあふれる研究環境をつくる」、 「5 自然を愛し、 地球市民としての知を追求する 循環と共生を基調とした持続可能な社会を実 現する地域のコミュニティ・モデルとなる」ということが、宣言されています。 この度、この「琉球大学環境宣言」を具体化する方法の一つとして、 「環境系科目一覧」を作成しま した。それによって、学生の皆さんが環境系の科目を履修する上で参考にしてもらい、積極的に環境 問題に関心を持ち、あるいは環境問題に関する理解を深めてもらいたいと思います(なお、 「地球の科 学」等、複数のクラスがある場合、クラスによって内容が異なる事があります。いずれにしても、下 記の科目はもう一度自分でシラバスを確認してください)。 <環境系科目(共通教育)一覧> 1.人文系科目 3.総合科目 ・環境の哲学(人 09) ・環境の保全(総 12) ・環境と文学(人 31) ・環境問題(総 14) ・地球環境と人間(総 16) 2.自然系科目 ・森の文化史(総 26) ・大気の科学(自 01) ・環境保全型農業(総 29 ) ・地球の科学(自 02) ・キャンパス・エコライフ:理論と実践(総 37) ・海洋の科学(自 03) ・ゼロ・エミッション(高総 07) ・人間と物理学(自 22) ・環境影響評価概論(高総 09 ) ・生活の化学(自 31) ・生物の生活(自 41) 4.琉大特色科目 ・生物の観察(自 43) ・琉球の自然保護(琉 23) ・生活空間の計画(自 55) ・沖縄のサンゴ礁(琉 24) ・都市環境と計画(自 56) ・西表の自然 (琉 49) ・ランドスケープ論(自 57) ・環境デザイン論(自 58)) ・中期計画:全学的に環境関連の授業科目一覧などを作成して点検評価し、「琉球大学 を実体化する。 ・17 年度計画:環境関連授業科目一覧を作成し、点検評価を行う。 ・18 年度計画:環境関連科目の系列化について検討する。 環境宣言」 68 環境系科目一覧(案) 浜崎 盛康(法文学部、大学教育センター企画部門長) 本環境系科目一覧(案)はエコロジカルキャンパス委員会報告書と山里勝己教授を中心とする「Nature and Culture Program 研究グループ」の検討に基づき、浜崎が作成した。 1.人間系科目 ・環境の哲学(人 09) ・環境と文学(人 31) 2.自然系科目 ・地球の科学(自 02) ・海洋の科学(自 03) (・生活空間の計画~環境デザイン論?(自 55~58) ) *直接環境関連科目ではないが、あることが望ましい(?)と思われる科目。 ・大気の科学(エコロジカルキャンパス推進委員会報告書にあり) ・宇宙の科学(エコロジカルキャンパス推進委員会報告書にあり) ・進化論入門(エコロジカルキャンパス推進委員会報告書にあり) ・人間と物理学(エコロジカルキャンパス推進委員会報告書にあり) ・生活と化学(エコロジカルキャンパス推進委員会報告書にあり) ・生物と生活(エコロジカルキャンパス推進委員会報告書にあり) ・生物の観察(エコロジカルキャンパス推進委員会報告書にあり) ・ヒトの健康科学(エコロジカルキャンパス推進委員会報告書にあり) →自 82「西表の自然」は 2006 年現在、琉大特色科目 3.総合科目 ・環境の科学(総 11) ・環境の保全(総 12) ・環境問題(総 14) (旧「(総 14)公害問題」) ・地球環境と人間(総 16) ・森の文化史(総 26) ・環境保全型農業(総 29) ・キャンパス・エコライフ:理論と実践(総 37) ・ゼロ・エミッション(高総 07) ・環境影響評価概論(高総 09) 4.琉大特色科目 ・琉球の自然保護(琉 23) ・沖縄のサンゴ礁(琉 24) ・地球環境と人間(総 16) ・森の文化史(総 26) ・環境保全型農業(総 29) ・キャンパス・エコライフ:理論と実践(総 37) ・ゼロ・エミッション(高総 07) ・環境影響評価概論(高総 09) 69 終わりに 以上、研究会、視察などを含めたわれわれのプロジェクトは、目標とする「ネイチャー・カルチャー・ プログラム」という文理融合型副専攻の生成に向けて、ほぼ6割の仕事を完了したと言えるだろう。しか し、課題として、科目の精選、カリキュラムの組み立て、担当教員の陣容及びノルマの問題、そして大学 全体における調整と全学的な合意形成がいまだ未解決である。そのためには、もう1年の作業ときめこま かい研究を重ねる必要がある。完成の暁には、本事業は、本邦初の大学教育プログラムとして、琉球大学 の特色となり、全国的にも先駆的な取り組むとなるであろう。なお、いっそうの学長をはじめとする役員 会、各学部及び事務局のご支援を賜りたい。 70 関連する研究領域より 沖縄の礁池(イノー)を中心とした水域の生態系保全と活用に関する研究 -内閣府委託事業「亜熱帯研究プロジェクトの可能性調査」の取りまとめ作業を通してー 須田 彰一郎 Challenges and Rehabilitation in the Post-Tsunami and Capacity Building for Mangrove Ecosystem in the Pacific and Asia Regions -The Regional Meeting on Restoration of Mangroves and other Coastal Forests in Asia-Pacific to Safeguard against Damage by Tsunami and other Natural Hazards - 馬場 繁幸 71 沖縄の礁池(イノー)を中心とした水域の生態系保全と活用 に関する研究 -内閣府委託事業「亜熱帯研究プロジェクトの可能性調査」の取りまとめ作業を通してー 副機構長・海洋科学研究部門長 須田彰一郎(理学部教授) 平成12年度から亜熱帯研究領域の「亜熱帯研究プロジェクトの可能性調査」が内閣府の 委託事業として行われ、一昨年までは亜熱帯総合研究所が、昨年度は野村総合研究所が事業 を受託した。調査の方法は、まず、県内外の有識者による企画委員会(平成18年度座長 嘉 数 啓副学長)によりいくつかの研究テーマに絞り込まれた後に、絞り込んだ研究テーマの コーディネーターが人選され、コーディネーターと専門家による分科会を経て、研究計画を 作成、提出するという形が取られていた。 実質的に「琉球大学亜熱帯島嶼科学超域推進研究機構」が平成17年度にスタートした際 に、はからずも海洋科学研究部門の部門長、平成18年度には副機構長も兼任するという形 になってしまった。そのため琉球大学の“海洋科学研究の専門家”と見られたのか、上述の 可能性調査の企画委員に選任されたうえ、絞り込まれたテーマが海洋科学研究に関わること から、コーディネーターまで仰せつかることになった。研究テーマとして「イノーを中心と した水域の生態系保全と活用」が与えられ、数回の分科会を経て研究計画を提出することが できた。内容的には超域研究機構のタスク研究と重なる部分もあるが、所属の異なる研究者 も加わっており、“超域”よりもさらに広がりのある内容となった。平成18年度機構実績 報告書の「関連する研究の領域から」に文章を書く機会をいただいたので、取りまとめられ た内容の概要を以下に紹介する。 イノーとは沖縄の方言で礁池のことである。イノーは発達したサンゴ礁の岸側にあるお堀 のようなくぼみで、かつては漁業の場であり、干潮時に現れる岸側の干潟には遊びをかねて 海の恵みを求める人々が訪れていた。サンゴの疲弊した今日の沖縄の沿岸域でも、波静かな イノーは比較的安全なスノーケリングの場所として、あるいは身近な沿岸生物観察の場とし て観光資源となっている。タイトルに「イノーを中心とした水域」とあるが、これは、「サ ンゴ礁・マングローブ域」あるいは「沖縄の沿岸水域」という言葉に置き換えることができ、 単にイノー(礁池)を研究対象とするのではなく、陸域から沿岸サンゴ礁域までも研究対象 としてカバーしている。ここに“イノー”という言葉を使ったのは、沖縄という地域を強く 意識しているからに他ならない。 また、研究分野も、イノーとその周辺域に生育する生物を対象とする生物学の各分野、生 物生産と持続的利用の水産学分野、流れ込む汚染物質や有用生理活性物質などの化学分野、 波浪や水流などの物理学・工学分野、陸域土壌影響などに関連する農業・土木分野、公衆衛 生学の分野、沿岸工学の分野、自然教室などの教育学の分野、観光や歴史などの社会科学分 野など多岐にわたる既存の研究分野が含まれる。さらに、これらが相互に関連した境界領域 や新たな研究領域をも醸成されるだろう。すなわち、 “総合的・統合的な進化する研究領域” といえるだろう。 72 本可能性調査においては、想定できる既存の全ての研究領域をカバーするまでに研究内容 と研究メンバーを広げることはできていない。しかしながら現時点では、かなりの分野をカ バーする専門家の方々に研究計画を立てていただくことができている。その内容と順序は次 のようである。生物学的な内容の、陸域の森林生態学、河川・マングローブ域の魚類、イノ ー生物のモニタリング、有効利用としての生理活性物質探索、人為影響との関連が深い重金 属の動態、農薬汚染、微生物モニタリング・環境修復と保全、サンゴモニタリングと続き、 最後に歴史・社会科学と環境教育といった様々なアプローチから研究が個別に提案されてい る。一方で、それらが有機的かつ総合的に関連し合う形で、沖縄の沿岸域の生態系保全と持 続的活用という方向性を持ったまとまりも示そうとしている。これは、別の言い方をすれば、 陸域から河川・マングローブ域を経てイノーから沖合までも含んだ地域を研究対象にした包 括的な研究領域といえる。また、実際に対象とする地域を絞り、共同して調査に当たる計画 も話し合われており、大きな成果が期待できる。 「イノーを中心とした水域は」はとりもなおさず「沖縄の沿岸域」であり、「サンゴ礁・マ ングローブ域」と重なるものである。これらの地域は沖縄の人々にとってはかつての海のイ メージであり自然とふれあった場所であった。沖縄本島都市部の沿岸域の埋立はそのふれあ いの場を奪い、人々の心は離れ、汚染や荒廃にも鈍感になるどころか自ら汚染をもたらして はばからない状況である。一方、沖縄を訪れる観光客の目的の第一位は、美しい海であり、 サンゴ礁であることが様々なアンケートでも報告されている。当然のことながら観光資源と してのイノーとその水域の利用がなされているが、持続的利用のための科学的な調査もない ままに放置されている状況にある。本領域研究は、これらの問題に対する答えを準備するこ とに加え、さらなる持続的有効利用と環境修復・改善までも提出することを目標としており、 イノーの現状把握から将来を予想することも含めて想定しており、地域的・社会的意義は大 変大きい。加えて、熱帯・亜熱帯沿岸国や島嶼国においては、多かれ少なかれ沖縄における イノー問題と同様の問題を抱えており、本研究が提示する、様々な方策と提言は、国際的に も意義深いものとなるだろう。 以上、平成18年度内閣府委託事業「亜熱帯研究プロジェクトの可能性調査」[イノーを 中心とした水域の生態系保全と活用]の概要を紹介した。 73 Challenges and Rehabilitation in the Post-Tsunami and Capacity Building for Mangrove Ecosystem in the Pacific and Asia Regions -The Regional Meeting on Restoration of Mangroves and other Coastal Forests in Asia-Pacific to Safeguard against Damage by Tsunami and other Natural Hazards 熱帯生物圏研究センター 馬場 繁幸 第 21 回太平洋学術会議の期間中の 6 月 14 日、16 日の 2 日間にわたって、表記のセッショ ンが、農学部内に事務局のある国際マングローブ生態系協会(ISME)が事務局となり、琉球大 学熱帯生物圏研究センターの共同利用研究会並びに国際熱帯木材機関(ITTO)のプロジェ クトである”Guidelines for the restoration of mangroves and other coastal forests damaged by tsunamis and other natural hazards in the Asia-Pacific region”のワークショップとして開催され た。会場の都合等もあり第 1 日目は、琉球大学 50 周年記念会館で、第 2 日目は沖縄コンベ ンションセンターでの開催であったが、初日のセッションには 12 カ国から 40 人を超える参 加者があった(写真-1)。 ここでは、セッション開催の背景と、2 日間にわたった議論とその結論並びに今後の方向 性について概説する。 写真-1 琉球大学 50 周年記念会館会議の様子(琉球大学からの参加者も多かった) 1. セッション開催の背景 2004 年 12 月 26 日の地震によって引き起こされた津波は、インドネシア、タイはじめイン ド洋に面した多くの国々に未曾有の被害をもたらし、30 万人以上が被災した。 国連機関をはじめ世界中の NGO(非政府組織)が、津波の直後から被災地の復興がはじ まったが、それらの活動の一部として、沿岸防災林としてのマングローブ林の再生の取り組 みもある。 マングローブ林の再生の失敗については、だれしもが公にしたくはないので、非公式のデ ーターであるが、最もスマトラ沖地震津波の被害が大きかったインドネシアのバンダアチェ 周辺では、これまでの 30 万本以上のマングローブの苗木が植栽されているが、そのかなり のものが枯れてしまったと言われている。 未曾有の災害であり、速やかに復興作業に取り組まなければいけなので、復興作業そのも 74 のに口を挟むつもりはないが、復興作業は効果的・効率的に行われなければいけないのも事 実であろう。 そのように考えると、植栽したマングローブの苗木を多くを無駄にすることなく、また植 栽したマングローブの苗木が、速やかに育ち、20 年後、30 年後に期待したような防災機能 を果たすようなマングローブ林になってくれなければ、マングローブ植林の意味はないので ある。 筆者が、津波後のマングローブ植栽について、上に述べたように考えていたところ、国内 外の多くのマングローブ研究者・行政担当者の中にも、筆者と同じように考えておられたマ ングローブ関係者が多く、それが今回の太平洋学術会議でのマングローブセッションの開催 となった。 2. セッションの構成 セッションの構成は、大きく①マングローブ被害に関する国別の概況と、被害後のマング ローブ林再生の取り組み、②津波被害発生のモデルとシミュレーション、③バンダアチェに おけるマングローブの被害状況と被害の類型とシミュレーション、④防災機能を発揮させる ためのマングローブ植栽にあたってのガイドライン作成とそのための今後の取り組み方法 とに分けられた。 インドネシア国立科学研究所アプリラニ・ソエギアルト博士、マレーシア海洋研究所タ ム・キム・ホイ博士、マレーシア国林森林研究所ラジャ・スライマン博士、タイ国立環境研 究所長サニット・アクソンキェ博士、IUCN パキスタンのタヒール・クレーシ海洋部長など から、国際機関や多くの国々の支援を受けて、マングローブ林の再生活動が開始されている ことが報告された(図-1)。また、独立行政法人港湾技術研究所の平石哲也室長からは、樹 木の波浪に対する挙動と減水効果のモデルの紹介がなされた。東北学院大学の宮城豊彦教授 からバンダアチェでの被害を受けたマングローブの類型と、スマトラ沖地震津波のマングロ ーブ被害について、これまでどの研究者からも報告がなされたことのなかった現場での実測 値に基づいたマングローブ林の津波の減衰シミュレーションモデルの紹介がなされた。 以上のような報告を踏まえ、スマトラ沖地震津波後の復旧だけではなくて、沿岸地域に住 む人々の命と生活を自然災害から守るための海岸防災林の再生と保全と再生に、これからど のように行動すべきであろうかの議論がなされた。 図-1 マレーシア国立森林研究所のラジャ・スライマン博士によって紹介された植栽困難場所 への創意工夫によるマングローブの植栽の紹介 75 防災機能が十分に発揮可能なマングローブ林や海岸防災林の再生や保全にあたっては、こ れまでのように闇雲に植林するのではなく、現地の状況を踏まえた適切な指針と再生・植林 のあたっての技術マニュアルが、今まさに必要とされているとの結論となった。 3. 今後の取り組み 参加者は限られた 2 日間の日程の終わりには、表-1 に掲げた内容のマニュアルと分担執筆 者あるいは執筆候補者を絞り込み、しかも 1 年以内に編集・印刷することが決められた。 表-1 アジア・太平洋地域におけるマングローブ林並びに海岸林の津波並びに自 然災害後の森林再生に関するマニュアルの構成 第1章 序論 マングローブ林-その機能と役割 マングローブ以外の海岸林の役割 自然災害の驚異 第2章 マングローブ林やマングローブ以外の海岸林の復旧にあたっての指 針 一般的な指針 地域別の指針 東南アジア 南アジア 東アジア オーストラリア・ニュージーランド 太平洋島嶼諸国 第3章 マングローブ林並びに海岸林の防災機能の学術的な評価 第4章 海岸林の自然災害緩和機能 津波 沿岸侵食 高波 第6章 結論と今後の方向性 2 日間と言う短い時間に、マングローブ林と海岸防災林の再生・保全に関するガイドライ ンの作成とマニュアルの内容やその執筆担当者を決めたことの一番の理由は、今、ガイドラ インを作成しなければ、スマトラ沖地震津波後のマングローブ林や海岸林の復旧に間に合わ ないであろうこと、すでに多額の事業資金が投入されているが、それら貴重資金を浪費した くないとの思いがあったに違いないだろうと思っている。 また、太平洋学術会議という大きな国際会議で、専門の異なる色々の研究分野の研究者・ 行政担当者と意見交換をする中で、早急な復旧活動と、海岸防災林の再生・保全活動の必要 性をより痛切に感じたのかもしれない。 いずれにしてもセッションに参加した多くの研究者・行政担当者が熱心に、しかも夜遅く まで議論をして、マニュアルを 1 年以内に編集し、印刷することを決めたのである。 セッションの事務局担当者として、編集や印刷にかかる予算を確保することが、これから 大きな課題である。しかし、単なる報告や議論に終始することなく、セッションの終わりに、 現実的な選択をしたことこそが、セッション開催の大きな意義であったと感じている。 また、今回のセッションの開催の事務局を引き受けたことにより、琉球大学熱帯生物圏研 究センターと琉球大学農学部内に事務局のある国際マングローブ生態系協会が、マニュアル 76 作成と印刷・出版の責任を果たすことになったが、そのことによって、これまで以上に、世 界のマングローブ研究や学術情報収集・発信の中心的な役割を担うことが可能となることこ そが、琉球大学にとっても沖縄県にとっても、今回の第 21 回太平洋学術会議を沖縄で開催 したことの大きな意味合いであろうと考えている。
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