歴史都市の地震火災対策と延焼シミュレーション 〇田中哮義・樋本圭佑 1.はじめに 歴史的建造物の保存は現在世界的に重要視さ れている。ドイツのドレスデンは第二次大戦中に に示すように、時間毎に各建物火災性状を予測し、 次いで建物間の輻射および対流熱伝達、および飛 び火による影響を予測する手順を踏んでいる。 空襲で完膚無き迄に破壊されたが、最近戦前の建 計算開始 物を復元する動きが始まり、実に 200 年かけて完 初期条件の設定 成させる予定とのことである。我国でも第二次大 計算結果の出力 戦中に夥しい数の歴史的建造物が失われ、戦後は 各種パラメータの更新 該当する全ての建物について その焼け跡に陳腐な建物が乱立した。 開口経由の失熱速度 の計算 Q& D 扉経由の失熱速度 の計算 Q&G しかし、京都市だけでも被害が僅少であったこ 壁経由の失熱速度 の計算 Q&W とは不幸中の幸いであった。京都市は言わば都市 が丸ごと日本の歴史博物館のようなものであり、 区画内部の発熱速度 の計算 Q& B 温度・密度・化学種濃度( )の計算 T , ρ,YX 各所に重文建築物をはじめとして、多くの文化遺 産建築物を有し、しかも、単に過去の歴史の痕跡 該当する全ての建物について &′R q′ 噴出火炎による伝達熱流束 の計算 としてだけではなく、現在もその文化的役割を継 火災気流による温度上昇 の計算 ∆T 続しているものも多い。 め、大地震火災時には延焼で焼損する恐れがある。 従って、文化財建築物の地震火災対策は、近隣市 街地の地震火災対策と協同しなければならない。 しかも、その市街地は文化財建築と一体となって 良好な景観を形成することが重要であり、ただ闇 雲に不燃化を進めれば良いものではない。 2.物理的延焼モデルの開発 歴史的・文化的景観と調和する地震火災対策を 継続 ? yes 術的発展レベルは他国の追随を許さないものが ある。また、多くは木造市街地と近接しているた 建物間の火災拡大性状 飛び火による延焼発生の判定 それらの殆どは木造建築であり、その美的・技 あるが、惜しむらくは火災に対して極めて脆弱で 建物内部の火災性状 m& 換気速度 の計算 &F m 可燃性ガスの供給速度 の計算 no 計算終了 図1 物理的市街地火災延焼モデルの計算 3.東山地区における延焼予測試行 GIS データから、京都市東山地区の建物のポリ ゴンデータ、高さデータおよび建物種別(堅牢、 その他)データを抽出して上記の延焼予測モデル への入力データとし、延焼予測を試行した。図2 は東山地区の市街地状況、図3は延焼予測の例 (東風 5m/s、出火から 10 時間後)である。 探求するためには、きめ細かな対策を講じたとき 建仁寺 の地震火災被害のリスクを適切に評価できる延 祇園町南地区 八坂神社 知恩院 法観寺(八坂の塔) 高台寺 産寧坂地区 焼予測モデルが必要である。このための予測モデ 清水寺 ルには次の条件が必要となる。 (1) きめ細かな対策が地震火災被害低減に及ぼす 効果を評価できること。これは必然的に火災 物理の知見に基づく延焼モデルとなる。 図2 東山地区の市街地と歴史的建造物 図3 延焼予測の例(東風、風速 5m/s) (2) 市街地には膨大な数の建築物を対象とするた め、計算速度が高速であること。 (3) 膨大な数の建築物に関する入・出力データを 効率的に処理するため、GIS などの電子デー タを利用できるシステムを有すること。 このような構想で開発を進めてきた延焼予測 モデルは、市街地火災を、市街地を構成する個々 の建物の火災の集合として捉える。計算は下図1 (参考)樋本圭佑学位論文(2005.3)etc.
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