試験・研究 縁切れの影響を考慮した面材-軸材間の 釘のせん断試験法に関する実験検討 Experimental Study on Shear Test Methods of Nails and Screws on Sheets to Timber Frames Considered Influence of Running out of Edges 村上 雅英*1、杉本 敏和*2、平井 義行*3 1.はじめに ん断特性値を算定する場合、釘の滑りの方向は釘配列に 1) 「軸組工法木造住宅の許容応力度設計」 では、面材と 依存するため、縁切れの割合が多くなるような釘配列で 軸材間に打たれた釘(以下、「面材釘」と呼ぶ)1本のせ は、算定された面材壁のせん断特性値は過大評価となる ん断性状と釘配列による諸定数を用いて、梁の曲げ理論 可能性がある。そこで、本研究では、様々な釘配列によ と類似の計算式から、様々な釘配列による面材大壁のせ る面材釘のせん断試験を実施し、釘配列による面材釘の ん断特性値や壁倍率を計算する方法が示されている。そ せん断特性値の違いを実験的に明らかにする。そして、 こで用いる面材釘1本のせん断特性値は、4周釘打ちされ 縁切れが生じる場合の面材釘のせん断特性値を短冊試験 た単位面材による面材大壁のせん断試験結果から逆算す 法により明らかにし、面材壁せん断試験から得られた面 る方式が採用されている。 材釘のせん断特性値が妥当であることを検証することを 面材大壁では、面材に打たれた釘の座標によりせん断 目的とする。 試験による滑りの方向が異なる。そのため、面材の縁あ き距離が少ない場合、縁がちぎれることによって面材釘 の耐力が早期に低下する。縁切れにより早期にせん断耐 2.各種釘配列による単位面材壁せん断試験 2.1 試験体 力が低下する現象が起きる面材釘は、面材に打たれた釘 本研究で検討対象とする釘配列を図-1に、試験体概要 の一部であるが、その影響が面材壁のせん断特性値に及 を表-1に示す。面材寸法は3×6版と3×8版の2種類であ ぼす程度は不明である。 り、使用面材は構造用合板(JAS1級,厚さ12mm)とせっ 「軸組工法木造住宅の許容応力度設計」における面材釘 こうボード(JISA6901,GB-R,厚さ12.5mm)の2種類で のせん断特性値を求める試験法では、4周釘打ちされた単 ある。使用した接合具は、構造用合板では鉄丸くぎN50 位面材のせん断特性値から逆算することにより、それら (JISA5508)、石こうボードではアマテイ(株)製の石こう の影響を考慮した平均的な面材釘のせん断特性値を実験 ボード用ねじAPN3932(呼び:φ3.8×32mm,ねじ形 的に得る面材釘のせん断試験方法(以下、 「面材壁せん断 表-1 試験体の概要(面材壁せん断試験) 試験」と呼ぶ)が採用されている。一方、 「枠組壁工法建 築物構造計算指針2)」や「木質構造設計規準3)」では短冊 状の面材を用いた一面せん断あるいは二面せん断試験 (以下、 「短冊せん断試験」と呼ぶ)が示されている。 縁切れを想定していない短冊試験結果から面材壁のせ * 1 2 * 3 * MURAKAMI Masahide:近畿大学理工学部建築学科 教授・工博 SUGIMOTO Toshikazu: (財)日本建築総合試験所 試験研究センター 構造要素試験室 HIRAI Yoshiyuki: (財)日本建築総合試験所 試験研究センター 構造要素試験室 23 GBRC Vol.32 No.4 2007.10 図-2 せっこうボード用ねじの詳細 ここで、Ix,Iy:X,Y各方向釘の配 列2次モーメント xi,yi:各釘座標に対するX, 図-1 Y各方向の中立軸位 試験体の形状・寸法 置からの距離 状:ハイ&ロー(図-2参照))である。また、軸組には断 面寸法105mm角の構造用集成材(JAS強度等級E95-F315, 構造用合板およびせっこうボード全試験体で集計した 面材釘の破壊モードと面材釘の滑り角度の関係を頻度分 樹種:スプルース)を用いた。仕口はホールダウン金物 (S-HD20)で補強した。全釘配列で接合具の間隔は 100mmとし、縁あき距離は12mmとした。試験体数は面 材の種類ごとに3体ずつである。面材と軸材間の摩擦除 去の処置は行っていない。 2.2 試験方法 試験は、文献1)に示される方法に準じて行った。載荷 方法は柱脚固定式とし、載荷履歴は見掛けのせん断変形 角が1/600,1/450,1/300,1/200,1/150,1/100,1/75, 1/50,1/30radで3サイクルずつの正負交番載荷を行った 後、単調漸増載荷により破壊に至るまで加力した。 2.3 実験結果 各釘配列による単位面材壁試験体のせん断力−真のせ ん断変形角の包絡線を図-3に示す。今回の試験において は、面材釘の破壊状況は、釘の引き抜け(W)、面材の縁 端部分のちぎれ(縁切れ) (C)、パンチング(P)と破壊モ ードが分類できた。なお、「パンチング」とは釘軸部が 軸材に留まり、釘頭部が面材から抜け出す破壊形態を示 す。実験終了時に各釘配列において各面材釘の破壊モー ドを判定して記録した。釘配列毎の破壊モードの判定結 果の一例を図-4に、破壊状況を写真-1に示す。 合板では、殆どの面材釘が釘の引き抜けとなったが、 せっこうボードでは面材釘の滑りが面材の辺に平行な場 合を除いて縁切れによる破壊となった。文献4)に示され た弾性時の釘配列2次モーメントから式(1)のように各面 材釘の滑りの方向δyi/δxiを求め、各面材釘の面材の辺 に対する滑り角度を算出した。 θx I = y θy Ix / / δ /δ =x θ/y θ i・ y yi xi 24 i・ x (1) 図-3 せん断力 (P) −真のせん断変形角 (γo) 曲線の包絡線 GBRC Vol.32 No.4 2007.10 表-2 試験体の概要(短冊せん断試験) 注)「C」は縁切れ,「P」はパンチング破壊を示す。 図-4 せっこうボード各試験体の破壊モード判定結果の一例 「C」縁切れ 「P」パンチング 写真-1 「W」釘の抜け 破壊状況 図-6 短冊試験試験体 は縁切れによる破壊であり、設計に用いる面材釘の釘の せん断性状に縁切れの影響を考慮する必要がある。 3.縁切れを考慮した面材釘の短冊せん断試験 3.1 試験体 試験体概要を表-2に示す。短冊せん断試験体は、図-6 に示すように軸材の両側面に短冊状の面材を留め付けた ものであり、軸材、面材及び接合具は面材壁せん断試験 体と同一のものを使用した。滑り角度は、前章の結果よ り、構造用合板では滑り角度による破壊モードの変化が ないため、0度,90度の2種類、せっこうボードでは0度, 20度,40度,90度の4種類とした。また、縁あき距離は いずれも面材壁せん断試験体と同じ12mmとした。面材 と軸材間の摩擦除去の処置は行っていない。試験体数は 図-5 破壊モードと滑り角度との関係 布で図-5に示す。構造用合板では、滑り角度に関わらず 各種類6体ずつである。 3.2 試験方法 釘の引き抜けが大半をしめた。せっこうボードでは、滑 試験は、座屈防止のためのリニアウェイを有する加力 り角度が小さい範囲ではパンチングの割合が多いが、滑 治具を介して、軸材の両端部を万能試験機に固定した状 り角度の増加に伴い、縁切れの頻度が高くなる傾向が認 態で面材接合具にせん断力を加える1面せん断による方 められる。縁切れとパンチングの生じた平均角度を求め 法で行った。載荷履歴は試験部分の軸材と面材の相対変 ると、縁切れでは35度、パンチングでは21度となった。 位が1.0,1.4,2.0,2.8,4.0,5.7,8.0,11.3,16.0,22.6mm 従って、せっこうボードの全試験体の全釘本数の85% で3サイクルずつの正負交番載荷を行った。 25 GBRC Vol.32 No.4 2007.10 3.3 試験結果 に及ぼす縁切れの影響が少なかったため、最大耐力以降 短冊せん断試験における面材接合具1本あたりのせん に耐力の低下が殆ど生じなかったものと考えられる。 断力と面材−軸材間の相対変位曲線の包絡線を図-7に、 同包絡線を完全弾塑性モデルに置き換えたものを図-8に、 4.完全弾塑性モデルによる剛性Kと降伏荷重 面材接合具1本あたりの降伏荷重,初期剛性,降伏変位,終局 ΔPv及び終局変位δuの両試験法での比較 変位を表-3にそれぞれ示す。なお、図-7および図-8の包 剛性Kは、表-3に示すように、構造用合板では、短冊 絡線および文献1)による完全弾塑性モデルへの置換によ せん断試験結果の方が面材壁せん断試験結果(図表中で る評価結果は同一の試験体6体を平均したものである。 は「面材大壁」と表記)よりも高くなった。せっこうボ また、図-8および表-3には、3×6版の全周釘打ちした ードでは、短冊せん断試験の負加力側の剛性は、滑り角 面材壁せん断試験結果から文献1)による方法で面材釘1 度が大きいほど低下の度合いが大きいことから判断して、 本あたりの平均的なせん断特性値を算出した結果(3体 正加力側の縁切れの影響を受けていたものと思われる。 の平均値)を併記した。 面材壁せん断試験結果から算出された降伏荷重ΔPv 構造用合板では、破壊モードはいずれも釘軸部の抜け は、図-8に示すように、構造用合板の場合、短冊試験結 出しとなったため、図-7に示すように、正負の加力方向 果に比べて正負の加力方向および滑り角度に関わらず10 および滑り角度に拘わらず概ね同様の荷重−変位関係を 示した。せっこうボードでは、正加力の場合、滑り角度 表-3 接合具1本あたりのせん断特性値 に関わらず初期剛性はほぼ等しくなったが、滑り角度が 大きくなるに従い、荷重の低い段階から剛性が低下し始 め、また、最大耐力以降急激な耐力低下を示した。一方、 負加力の場合、滑り角度90度では荷重の低い段階から剛 性は低下し始めたが、それ以外の滑り角度ではほぼ同じ 荷重−変位関係を示した。破壊モードは、滑り角度0度 では支圧破壊後のねじ頭部のパンチングおよび加力直交 方向への面材の縁切れとなり、それ以外では面材の縁切 れとなった。なお、正加力の滑り角度0度および負加力 全ての滑り角度の荷重−変位関係においては、支圧強度 図-7 接合具1本あたりのせん断力と変位量曲線の包絡線 図-8 26 接合具の完全弾塑性モデル GBRC Vol.32 No.4 2007.10 ∼20%程度大きくなった。せっこうボードの場合、短冊 材壁せん断試験結果から算出された終局変位δuは、縁 せん断試験の負加力の滑り角度90度以外は、面材壁せん 切れの影響を平均的に評価されているものと判断でき 断試験結果とほぼ等しくなった。また、正加力の場合、 る。 短冊せん断試験結果は滑り角度0度では面材壁せん断試 験結果とほぼ等しくなり、20度では10%程度、40度およ び90度では20%程度それぞれ小さくなった。 終局変位δuは、構造用合板では短冊試験の全試験体 の破壊モードが釘の抜けであった。そのため、正負の0 〔謝辞〕 実験に際して、平成18年度近畿大学理工学部建築学科 4回生、角野氏、藤田氏、皆木氏の協力を得ました。こ こに記して感謝します。 度と90度で得られたδuは、ほぼ近い値が得られた。ま た、面材壁せん断試験結果から算出されたδuも短冊試 験結果に近い値となった。せっこうボードの短冊試験で は、縁切れの生じない負加力と正加力の0度ではほぼ同 じ値となるが、正加力で滑り角度が大きくなるに従い、 縁切れが早期に生じるため、δuは小さくなる傾向が確 認された。面材壁せん断試験結果から算出されたδuは、 縁切れの影響を含むため、0度と20度の間に位置する結 果となった。 【参考文献】 1)木造軸組工法住宅の許容応力度設計,財団法人 日本住宅・ 木材技術センター,平成18年11月,第3版. 2)2002年枠組壁工法建築物構造計算指針,社団法人 日本ツー バイフォー建築協会. 3)木質構造設計規準・同解説−許容応力度・許容耐力設計法−, 日本建築学会,2006年12月. 4)村上雅英,稲山正弘:任意の釘配列で打たれた面材壁の弾塑 性挙動の予測式,日本建築学会構造系論文集第519号,平成 11年5月. 5.まとめ 本試験の結果、以下の知見が得られた。 (1)縁あき距離を12mmとした場合、12mm厚の構造用 合板の正負加力と12.5mm厚のせっこうボードの負加力 のせん断力−変位曲線は、滑り角度の影響をあまり受け ない。 (2)せっこうボードの正加力では、滑り角度が大きくな るに従い早期に面材の縁切れが生じて剛性が低下し、最 大耐力以降の耐力低下の程度が大きくなる。 (3)正加力側の剛性に関しては、短冊せん断試験の方が 面材壁せん断試験よりも高くなる傾向がある。 (4)せっこうボードでは、最大耐力以降の荷重低下の程 度が小さい場合、両せん断試験結果によるΔPvに差は認 められなかった。一方、構造用合板の破壊モードは両せ ん断試験とも釘軸部の抜け出しで決まっているが、面材 壁せん断試験でのΔPvは、短冊せん断試験結果の何れの 場合よりも高くなった。その原因に関しては、サンプル 数の不足による試験結果のばらつきか、力学的な理由に よるものかについては今後の検討を要する。 (5)縁切れの生じない構造用合板では面材壁せん断試験 結果から算出された終局変位δuは、短冊試験結果に近 い値となった。縁切れの生じるせっこうボードでは、面 材壁せん断試験結果から算出された終局変位δuは、短 冊試験の正加力0度と20度の間に位置した。従って、面 27
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