2006年10月23日 医師不足問題に対する私達の緊急要求 日本医療労働組合連合会 現在、医師不足は地方・都市部を問わず深刻な問題となっており、医師不足で閉鎖に追い 込まれる病院や診療科のみならず、地域医療が崩壊する危機的状況も生じている。特に小児 科、産婦人科を置く病院が減少しており、地域で分娩ができない、転居せざるをえない事態 も生じている。また、救急医療でも、医師不足と財政難を理由に輪番制から離脱した病院が 昨年だけで 63 に上っており、医師不足は、全国・全診療科に及んでおり、国や自治体、関係 団体等による「緊急対策」と「抜本的な施策」が求められている。 このような状況の下で、政府も重い腰を挙げざるを得ず、昨年「医師の需給に関する検討 会」を発足させ、今年 7 月報告書を提出したが、その基本は、これまで政府がとってきた「将 来は医師過剰、『医師不足』は地域・科による『偏在』」「医療費抑制のためには、病院数・ 病床数・医師数を減らす必要がある」との論を変えず、当面の「暫定的な医師の養成増」に とどまっており、またその「報告書」に基づいた「新医師確保総合対策」も極めて不十分な ものとなっている。 日本医労連は、国民と患者さんの命と健康、地域医療を守るため、そして医師の勤務条件 を改善して安全・安心の医療を確立するために、国と関係機関・団体に下記の「医師不足に 対する緊急対策」の実現を強く求めると共に、診療報酬の改善と政府がこれまでとってきた 「医療費・病院・病床数・医師の削減」の方針を抜本的に改めることを求めるものである。 記 1)医師の養成数を抜本的に増やすと共に、地域への定着のための施策を進めること 国は、 「医師の需給に関する検討会報告書」と「新医師確保総合対策」を抜本的に見直し、 医師の不足を補い、絶対数を増やすため、当面自治医大をはじめ各大学医学部の定員を大幅 に増やすこと。同時に各大学の「地域枠」の拡大や義務年限の延長など、医師の地域への定 着のための施策を進めること。 2)現在の医師の不足数、医師の労働実態を緊急に調査すること 国と自治体、地域医療対策協議会などの関係機関は連携して、緊急に各医療機関の医師不 足の実態を医療機関や医療労働組合からの意見聴取を含め具体的に調査すると同時に、医師 の勤務実態と医師の要求を調査し、現在の医師の不足数、労働実態を明らかにすること。 1 3)医師の緊急配置、医師派遣のシステムを構築すること 国と自治体、地域医療対策協議会、地域医療支援中央会議は連携して、医師の緊急配置や 医師不足の医療機関への医師派遣のシステムを構築すること。同時に、「新医師臨床研修制 度」による大学の「派遣医師の引き上げ」をやめ、各医療機関と大学、自治体、地域医療対 策協議会などが、協議・連携して不足診療科と医師不足の改善のための対策を進めること。 国と自治体は、これらの実行のための予算化を図ること。 4)産科や小児科などの集約化・重点化をやめ、地域で安心して子供を生み、育てられる 体制をつくること 地域における特定の科(産科や小児科など)や医療機関の集約化・重点化をやめ、安心し て子供を生み、育てられるよう、病院と開業医の連携を密にし、地域の夜間・救急体制を完 備させるための施策を進めること。そのために、夜間・救急医療に対する国と自治体の助成 や産科や小児科の診療報酬の引き上げなどを行うこと 5)各地域医療圏の医師の養成・配置計画(仮称「医師等需給計画」)を策定すること 医師不足の解消に向けて、国と自治体、大学などが連携をとって各地域医療圏ごとの医師 の養成・配置計画(仮称「医師等需給計画」)を策定し、不足診療科と医師不足の改善のた めの「年次計画」を立てると共に、公的責任による養成、生涯研修制度の確立をはかること。 6)「医師の需給数」の算定は、労働基準法を遵守したものとすること 「医師の需給数」算定には、労働基準法を遵守して「週の勤務時間40時間」 「当直回数 月4回まで」 「当直明けの休みの保障」 「救急病院の救急・夜間勤務は3交代制」 「休日と年 休取得の保障」 「女性医師の産休・育休の保障」 「病院勤務医の実働換算は65歳」等を加味 して算出すること。 7)医師の勤務条件の改善のための緊急対策をとること 国は、当面医師の勤務が、最低「在院時間を全て勤務時間として、超過勤務に対しては時 間外手当を支給する」 「当直明けの休みを保障する」 「週1日以上の休みを保障する」など、 各医療機関が医師の勤務条件を緊急に改善するよう指導を強化すること。 8)女性医師が働き続けられるよう、産休・育児期などの対策を進めること 女性医師が働き続けられるよう、院内保育所の完備と国による助成制度、均等待遇による 短時間勤務制度の導入や産休・育休・育児期の代替対策、育児休業明けの研修制度などの対 策を進めること。 ( 以 2 上 ) 政府の医師不足対策の問題点と医師不足対策の緊急性 日本医療労働組合連合会 1、 「医師の需給に関する検討会報告書」の主な問題点 ①「医師不足」の実態調査なしで、机上の計算で「医師不足数」を推計?! 「検討会報告書」の第一の問題点は、現在の深刻な「医師不足」の実態を、まったく調査 も行わず、「基本的には国民が必要としている医療は提供されている」ことを前提に、医師 の労働時間が長い(病院勤務医の週平均勤務時間=63.3 時間)ので、それを「週平均 48 時 間」にするために「必要な医師数」を計算し、その数を「現在の医師不足数」として、その 数が「9,000 人」としている点である。 これでは、各地で起こっている医師不足による産婦人科や小児科などの科閉鎖、病院閉鎖 などの実態が反映されないのは当然であり、そこを基点にシュミレーションしている将来の 需給見通しが「医師不足」を改善するための正確な数値予測とはならないのは当然である。 またその「勤務時間」も医師の勤務には、外来・入院などの診療時間ばかりでなく宿日直 やオンコールなどの医療機関での待機や治療・手術のための自己研修、研究は是非必要なも のとなっているにもかかわらず、かってに「勤務時間とはみなさない」としている。とりわ け長時間労働の大きな要因となっている「当直勤務」を勤務時間に算定していないのは、 「32 (8+16+8)時間もの連続勤務」となっている医師の労働実態を反映したものとはなってい ないと言っても過言ではない。 ② 深刻な「医師不足」の原因は、政府の「医師数の目標は達成、養成は削減」にある 第二の問題点は、このような深刻な「医師不足」になった原因の解明が全くなされていな いことにある。この間の厚労省の「需給見通し」と「施策」の問題点が現在の深刻な医師不 足の一因となったことは明らかである。 厚労省(旧厚生省)は、昭和56 年(1981年)医学部の入学定員が8,360 人となり、その 結果「人口10 万対150 人」の医師の目標が昭和58年(1983年)に達成されたとして、「当 面、昭和70(平成7)年(1995年)を目途に医師の新規参入を最低限10%程度削減する必要 がある」として、平成5年(1993年)には医学部入学定員は7,725 人(-635人) (削減率7.7%) とした。さらに将来医師が過剰になるとの推計結果を得たとして、「できるだけ速やかに実 行することが望ましい」と提言、医師の養成削減を積極的に推進してきたのである。この「医 師の養成数を削減」していなければ、少なくとも現在1万人を超える医師が養成され、現役 で働いていたはずで、厚労省(旧厚生省)の「医師不足」の責任は甚大なものと言わざるを 得ない。そもそも厚労省が目標を達成したとする「人口10 万対150 人」の医師の数という のも、OECD(経済協力開発機構)加盟30カ国の平均医師数「人口10 万対290 人」(03 3 年調査)の6割程度という実態であり、OECDの中の28番目、最低クラスなのである。O ECDの平均で換算すると日本は38万人となり、現時点で12万人の不足となるのである。 また、最近の医師不足の直接的な原因が、2004 年から始まった「新医師臨床研修制度」 がきっかけとなり、 「研修医が都市部などの大病院に集中」 「大学病院における医師不足」 、 それに伴う「大学医局からの派遣医師の引き上げ」 「医師不足による医師の勤務条件のさら なる劣悪化」 「とりわけ病院勤務医が勤務条件の良い大病院や開業医に移る」 「特に勤務条件 の厳しさや医療訴訟が多発した病院の小児科や産科、麻酔科などの医師が激減した」などが 挙げられているが、その分析と対策も極めて不十分なものとなっている。 ③「医師の勤務年齢の上限なし」に変更して「将来の需要は満たされる」とは?! 第三の問題点は、将来の需給の推計もこれまでのシュミレーションよりは実態を反映する よう考慮されているが、「2022 年には需要と供給が均衡し、マクロ的には必要な医師数は 供給される」として、厚労省がこれまで執ってきた「マクロ的には必要な医師数は供給され る」を追認する内容となっている。 「医師の供給見通し」でまず問題なのは、前回まで「医師の労働力提供は70 歳まで」と していたのを「今回は上限を設定していない」としていることがある。確かに高齢者の就労 人口が多くなっている中では、医師の70歳以上の就労者も以前より多くなっていることは、 諸調査からも推計されるが、実際は70歳以上の医師は病院では名誉院長や経営者となってお り、実際の診療時間も限られている。ましてや「70歳」の年齢の見直しならまだしも「上限 を設定しない」などは「医師数を増やして見せるための便法」と言っても過言ではない。 2、極めて不十分な「新医師確保総合対策」と「確認書」 「地域における医師不足対策」を協議していた「地域医療に関する関係省庁連絡会議」 (厚 生労働・文部科学・総務・財務の4省)は、「医師の需給に関する検討会報告書」を受けて、 8月31日「新医師確保総合対策」をまとめ、4大臣による「確認書」が交わされた。 「新医師確保総合対策」と関係4閣僚の「確認書」の内容は、現在の深刻な医師不足を反 映して、当然の施策も打ち出されているが、「短期的対応」「長期的対応」のいずれも、極 めて不十分な内容となっており、とりわけ依然として「将来的には医師は過剰」「現在の問 題は、地域・科による偏在」「今後とも医師の削減方針は進める」など、根本的な問題点を 含んでいる。 「新医師確保総合対策」と「確認書」において、「医師の養成を増やす」方向に 10 数年 ぶりに「転換」したと宣伝されているが、「医師の不足が特に深刻と認められる県」10 県 のみ各 10 名と自治医大 10 名の合計 110 名を 10 年間のみ増やすという「暫定調整」でしか ない。これで深刻な医師不足、過酷な勤務医の労働条件が改善されるのか、極めて疑問とい 4 わざるを得ない。 また「短期的対応」においても「地域医療対策協議会の活性化」や「地域医療支援中央会 議の設置」「小児科・産科をはじめ急性期の医療をチームで担う拠点病院づくり(集約化・ 重点化の一層の推進)」「地域医療提供体制の再編・ネットワーク化」などが出されている が、有効な施策は積極的推進を求めるが、権限や予算措置、実効ある施策が短期間に打ち出 せるのかなど注視する必要である。 なお「地域で医療機能の集約化・重点化」が「少人数で過酷な勤務をこなす医師を減らす ために」の名目で進められているが、これが安易に行われれば、「地域で出産できる産科が 無い」「遠くまで行かなければ小児科にかかれない」などの事態になりかねない。 「新医師確保総合対策」と「確認書」に基づき「来年度の予算要求」が出されているが、 「医師確保関係予算」として前年度の2.5倍の約103億円が予算要求されているが、医 師不足の深刻さや過労死するほど働いている医師の勤務実態からすると極めて微々たる予 算と言わざるを得ない。 3、深刻化する医師不足と対策の緊急性 医師不足は深刻な問題となっており、医師不足で閉鎖に追い込まれる病院や診療科のみな らず、地域医療が崩壊する危機的状況も生じている。特に小児科、産婦人科を置く病院が減 少しており、04 年医療施設調査・病院報告では「小児科」は前年比 1.6%減の 3231 ヶ所、 産婦人科 3.6%減の 1469 ヶ所だったが、その後も閉鎖が相次いで報道されている。日本産 婦人科学会の全国調査では、出産を取り扱う病院・診療所は 3063 ヶ所、出産に携わる常勤 医は 7985 人にとどまっており、こうした事態で、地域で分娩ができない、転居せざるをえ ない事態も生じている。また、小児科、産婦人科、麻酔科などの医師確保と体制の強化や有 効な対策が緊急に行わなければ、地域医療や夜間・休日医療にも重大な支障をきたしかねな い。医師不足は、全国・全診療科に及んでおり、東北では都市部以外の自治体病院の大半が 100%を満たしておらず、70%を下回るところも増加している。 過労死・過労自殺をも引き起こしている病院勤務医の勤務体制を改善するためには、医師 数の絶対数を増やすことが決定的に重要であり、新しい医師研修制度の発足による「医師の 引き上げ」などから、地域の病院の医師不足は深刻で、その解決のためにも医師確保は緊急 の課題となっている。今こそ政府は、 「将来医師は過剰になる」 「医療費削減のため、病床数 と医師数の削減」の方向を改め、医療事故をなくし国民が求める安全・安心の医療の確立の ため、勤務医が安心して働ける病院にするためにも、緊急対策を講じる必要があり、そのた めの予算化も是非必要となっている。 ( 以 5 上 ) 【 参 考 資 料 】 「医師の需給に関する検討会報告書」の問題点と 極めて不十分な「新医師確保総合対策」 日本医療労働組合連合会 1、「医師の需給に関する検討会報告書」の主な内容 「医師の需給に関する検討会報告書」が7月28日発表された。その主な内容は、 ①「医師の需給に関する現状」としては、「毎年、約7,700 人程度の新たな医師が誕生し、退職などを 差し引いて、年間3,500~4,000 人程度が増加している。 ②「必要医師数の算定に当たっては、医師の勤務時間を週48 時間と置いて、これによれば、平成16 年 (2004 年)において、医療施設に従事する医師数が25.7 万人(病院勤務16.4 万人 診療所勤務9.3 万人) であるのに対し、必要医師数は26.6 万人と推計される」「今後、徐々に必要医師数が増加し、平成52 年 (2040 年)には医療施設に従事する必要医師数は31.1 万人となると推計される」「医師の需給の見通し としては、平成34 年(2022 年)に需要と供給が均衡し、マクロ的には必要な医師数は供給される」等とし、 ③「今後の対応の基本的考え方」として「地域医療対策協議会などによる、地域に必要な医師の確保の 調整」「地域で医療機能の集約化・重点化を行い、医師への負担を軽減する」「女性医師の多様な勤務形 態の確保や、院内保育所の優先的な利用など出産や育児など多様なライフステージに応じて切れ目なく働 くことが可能となる環境の整備」「大学医学部の入試における地域枠の設定や奨学金の設定、地域枠と奨 学金の連動などの一層の推進・拡大」「医学部定員の暫定的な調整」などを挙げている。 2、 「現在の不足医師数は 9,000 人、2022 年には需要と供給が均衡」? 「検討会報告書」は「現在の不足医師数は 9,000 人、2022 年には需要と供給が均衡し、マクロ的には必 要な医師数は供給される」としたのに対しては、各委員からもかなりの批判意見が出され、最終報告書に は「しかし、地域別・診療科別の医師の偏在は必ずしも是正の方向にあるとは言えない。また、病院・診 療所間の医師数の不均衡が予想される等の問題がある」「病院における医師数が増加しているにもかかわ らず、病院における勤務医への負担が経年的に強まっていることが医療現場から強く指摘されている」な どの文言が追加された。しかし、報告書の「おわりに」で「長期的にみれば、供給の伸びは需要の伸びを 上回り、マクロ的には必要な医師数は供給されるという結果になった」と結論付けている。 今回の報告書は、現在の「医師不足」や「病院勤務医の労働条件の厳しさ」などを反映し、前回の報告 書に比べると、「医師の勤務状況に関する調査」を行うなどの改善も見られるが、全体としては特定の委 員の「需給推計」を無批判に採用し、これまで厚労省が執ってきた「医師は将来的には過剰になる」「医 療費を減らすためには、病院数、病床数、医師を減らすこと」を基本とした「報告書」となっている。 3、「検討会報告書」の問題点 「報告書」の問題点を整理すると、 ① 第一には、現在の「医師不足」の実態を、まったく「実態調査」も行わず、「国民皆保険とフリーア クセスが確保されている中、現状で総量としては、基本的には国民が必要としている医療を提供している ものと仮定」して、「医師の勤務時間の現状と、勤務時間のあるべき姿とのギャップを現状の医師数に上 乗せした人員を現在の医師必要数」としている点にある。つまり、「基本的には国民が必要としている医 療は提供されている」ことを前提に、医師の労働時間が長い(病院勤務医の週平均勤務時間=63.3 時間) ので、それを「週平均 48 時間」にするために「必要な医師数」を計算し、その数を「現在の医師不足数」 として、その数が「9,000 人」としているのである。 6 これでは、各地で起こっている医師不足による産婦人科や小児科などの科閉鎖、病院閉鎖などの深刻な 実態が反映されないのは当然であり、そこを基点にシュミレーションしている将来の需給見通しが「医師 不足」を改善するための正確な数値予測とはならないのは当然である。 また「医師の勤務時間」の問題も「診療、教育、他のスタッフ等への教育、その他会議等の時間を勤務 時間」と限定し、「休憩時間や自己研修、研究といった時間も含む医療施設に滞在する時間」は、かって に「勤務時間とはみなさない」としている。医師の勤務には、外来・入院などの診療時間ばかりでなく宿 日直やオンコールなどの医療機関での待機や治療・手術のための自己研修、研究は患者さんや救急体制の ために是非必要なものとなっている。それをかってに「勤務時間とみなさない」ことは、明らかに実態を 無視したものであり、とりわけ長時間労働の大きな要因となっている「当直勤務」を勤務時間に算定して いないのは、「32(8+16+8)時間もの連続勤務」となっている医師の労働実態を反映したものとはなっ ていないと言っても過言ではない。報告書でも「医療施設に滞在する時間」で計算すると「6.1 万人(病 院勤務 5.5 万人、診療所勤務 0.6 万人)の不足」と弁解的に記述しているが、最終的にはその数字を何 の根拠も示さず採用していないのである。さらに加えると、報告書がシュミレーションしている平成 52 年(2040 年)、30 年以上の将来も医師は「週 48 時間労働(週休 1 日)」と「想定」するなど、労働行政 も担う厚労省の報告書としては耳を疑うような内容となっている。 多くの病院勤務医は、宿直前後の日勤で 32~38 時間もの連続勤務をしており、所定労働日の時間外労働 が多いのに加え、さらに宿日直、 「オンコール」等での実労働と、労働時間数は「過労死の認定基準」とさ れる「月 100 時間以上の時間外労働」となり、過労死・過労自殺した医師も出ている。 大阪府医師会の「勤務医アンケート」でも「週 20 時間を超える時間外労働」を行っている医師が「29 歳以下では 34%」に達し、 「30 歳以上 59 歳以下の各年代でも 12~15%」に達する。 「29 歳以下では週 40 時間以上も 13.1%いる」 「特に小児科や産婦人科で超過勤務時間が多い」 「74%の勤務医が当直をしており、 当直明けも 94.7%が通常勤務に就いている」 「半数以上の医師が、医療安全、自分の健康、家族との関係 に不安を抱いている」と報告されている。これらを見ても、若手の医師や小児科・産婦人科を中心に過労 死の危険がある勤務をしている勤務医がかなりいることが推計される。 我々の調査でも、89.1%と約9割の医師が「疲れ」を訴え、 「職場の不安」では「自分の健康」 (26.8%) 、 「医療事故」 (25.6%) 、 「病院経営の悪化・統廃合」 (24.4%)に集中し、 「労働条件改善要求」 (複数回答) では、 「休日・休暇の拡大」 (43.9%) 、 「増員」 (42.7%) 、 「完全週休2日制の実施」 (39%)が多くなって いる。 現在日本の医療は、この様な医師の長時間・過密労働により支えられていると言っても過言ではなく、 逆にはこの様な労働実態に耐えきれなくなり、病院勤務を辞める医師が増えていること、過酷な労働実態 の病院・科には新人を含め医師が就職したがらないことにこそ、現在の「医師不足」の最大の要因がある と言える。病院勤務医をはじめとした医師の労働条件の改善、とりわけ労働時間の短縮と休憩・休日の確 保のために、病院勤務医の絶対数を大幅に増やすことは、緊急の課題となっている。 ② 第二の問題点は、このような深刻な「医師不足」になった原因の解明が全くなされていないことにあ る。報告書は「はじめに」の部分で、厚労省がこれまでとってきた「医師の需給についての検討内容」と 「施策」について経過を記述している。この間の厚労省の「需給見通し」と「施策」の問題点が現在の深 刻な医師不足の一因となったことは明らかである。 厚労省(旧厚生省)は、昭和48 年(1973年)から「無医大県解消構想」いわゆる「一県一医科大学」設 置を推進し、昭和56 年(1981年)には医学部の入学定員は8,360 人となった。その結果「人口10 万対150 人」の医師の目標は昭和58年(1983年)に達成されたとして、昭和59年5月「将来の医師需給に関する検討 委員会」を設置、昭和61年(1986年)6月に最終意見が取りまとめられた。その内容は、昭和100(平成37) 年には全医師の1 割程度が過剰となるとの将来推計を踏まえ、「当面、昭和70(平成7)年(1995年)を目 途に医師の新規参入を最低限10%程度削減する必要がある」としたのである。その結果、平成5年(1993 年)には医学部入学定員は7,725 人(-635人)(削減率7.7%)となり、さらに平成5年8月には「医師需給 の見直し等に関する検討委員会」を開催し、将来医師が過剰になるとの推計結果を得たとして、「できる だけ速やかに実行することが望ましい」と提言、医師の養成削減を積極的に推進してきたのである。 そもそも厚労省が目標を達成したとする「人口 10 万対 150 人」の医師の数というのがどういう数字な 7 のか、OECD(経済協力開発機構)加盟 30 カ国の平均の医師数は、「人口 10 万対 290 人」(03 年調 査)で、日本はドイツやフランスの 6 割という実態であり、OECDの中の 28 番目、最低クラスなのであ る。ちなみに今回の報告書が「2035 年に医療施設に働く医師数は 32 万 4 千人、人口 10 万人当たりでは 285 人で、必要な医師数は供給される」と、約 30 年後の医師数を「推計」しているが、その数字でもOECD の平均には到達しない、極めて低い目標なのである。日本で一番医師が多い東京でも 270 人とOECDの 平均を下回っており、OECDの平均で換算すると日本は 38 万人となり、現時点で 12 万人の不足となる のである。他の先進国が今後の高齢化社会を予想して、医師数をさらに増やしており、人口 10 万人当り 340人のオーストリアが年平均医師増加率3.2%、 同じく340人のドイツが1.7%、 230人のアメリカが1.8%、 220 人のイギリスが 2.4%なのに対し、200 人の日本が 1.5%にすぎないのである。 「医師の勤務時間は制限なし」に設定したひどいシュミレーションで「将来は医師過剰」とした 1986 年の「検討会(佐々木委員長)報告書」によって、「医師の養成数を削減」していなければ、少なくとも 現在 1 万人を超える医師が養成され、現役で働いていたはずで、厚労省(旧厚生省)の「医師不足」の責 任は甚大なものと言わざるを得ない。同時に、今回さらに同じ轍を踏むことのないよう、これまでの厚労 省の「検討結果」と「施策」の問題点の整理と「医師不足」の原因解明を強く求めるものである。 ③ 第三の問題点は、 将来の需給の推計もこれまでのシュミレーションよりは実態を反映するよう考慮さ れているが、特定の委員の研究報告のみが重視され、その委員の「独断的な判断」が十分な根拠も示され ないまま採用され、結果的には、厚労省がこれまで執ってきた「マクロ的には必要な医師数は供給される」 を追認する内容となっている。 「医師の供給見通し」では、「わが国では、海外からの医師の流入はほとんど無いため、わが国におけ る医学部の卒業生数がほぼそのまま新たな医師数になる。したがって、大学医学部の定員数により、事実 上将来の医師数を見通すことが可能となる」として、現状の医学部入学定員(約7,700人)で推移すれば、 医療施設に従事する医師は、平成27 年(2015 年)には28.6 万人(人口10 万対 227 人)、平成37 年(2025 年)には31.1 万人(人口10 万対 257 人)、平成47 年(2035年)には32.4 万人(人口10 万対 285 人) となると推計している。 この「供給見通し」でまず問題なのは、前回まで「医師の労働力提供は70 歳まで」としていたのを「今 回は上限を設定していない」としていることがある。確かに高齢者の就労人口が多くなっている中では、 医師の70歳以上の就労者も以前より多くなっていることは、諸調査からも推計されるが、実際は70歳以上 の医師は病院では「名誉院長」や「経営者」となっており、実際の診療時間も限られている。ましてや「70 歳」の年齢の見直しならまだしも「上限を設定しない」などは「医師数を増やすための便法」と言っても 過言ではない。 また「わが国における医学部の卒業生数がほぼそのまま新たな医師数になる」としながら、「医学部定 員の増加は、短期的には効果がみられず、中長期的には医師過剰をきたす」としているのは、これまでの 厚労省の「医師養成数削減」の責任を転嫁し、あくまでも「医師の養成数」を増やそうとしない口実とな っている。 ④ 第四の問題点は、 「今後の対応」が「医師不足」が深刻かつ緊急な課題にもかかわらず、 「緊急対策」 「抜本的な対策」とも極めて不十分なことである。 まず、指摘しなければならないのは、 「医師不足の原因解明」 「厚労省の医師養成削減」とも関連するが、 「病院、診療所とも、医師数は一貫して増加しており、また、地域でみても全ての地域で増加している」 「問題は、地域間・診療科の偏在」として、「医師養成数の見直し、大幅増」としていない点である。ま た、「大学医学部の入試における地域枠の設定や、地方公共団体が取り組んでいる9年間程度の勤務地を 指定した奨学金の設定、さらには地域枠と奨学金の連動は、地域における医師の確保に一定の効果が期待 されるので今後一層推進・拡大すべきである」など不十分ながら当然の施策も列挙しているが、やや地域 に責任を転嫁している向きもある。 「緊急対策」としては、「大学を含む地域内の医療機関や関係者が参加して、地域の医療ニーズをきち んと把握した上で、医師の配置について認識の共有と、地域に必要な医師の確保の調整を行うシステムの 構築が急務である」これは、医療法の改正に盛り込まれた「地域医療対策協議会」がその役割を果たすこ 8 ととされており、「都道府県が運営の中核を担うことが求められる」としているが、やや「地域医療対策 協議会」に丸投げの感が強く、協議会の権限や国の責任を明確にすると共に、大幅な予算化などを早急に 具体化する必要がある。 「持続的な勤務が可能となる環境の構築」についても、「地域の課題として効果的・効率的な医療サー ビスの提供体制を構築する必要があり、必要とされる医師の確保・養成と並行して地域で医療機能の集約 化・重点化を行い、医師への負担を軽減することや、各病院においてもスタッフ間の連携と協働による実 効性のあるチーム医療体制の整備」などが提起されているが、「地域での医療機能の集約化・重点化」に 重点がおかれ、医師の勤務条件の改善は、「各病院におけるスタッフ間の連携と協働」にゆだねられてい る感が強い。 4、「新医師確保総合対策」と関係4閣僚の「確認書」の主な内容 「地域における医師不足対策」を協議していた「地域医療に関する関係省庁連絡会議」(厚生労働・文 部科学・総務・財務の4省)は、「医師の需給に関する検討会報告書」を受けて、8月31日「新医師確 保総合対策」をまとめ、4大臣による「確認書」が交わされた。 「新医師確保総合対策」の主な内容は、「緊急に取り組む対策」として「小児科・産科をはじめ急性期 の医療をチームで担う拠点病院づくり(集約化・重点化の一層の推進)」「地域医療対策協議会の活性化」 「地域医療提供体制の再編・ネットワーク化」「地域医療支援中央会議(仮称)の設置」「地域医療を担 う医師の養成の推進」「医学部における地域枠の拡充」「医師不足県における医師養成数の暫定的な調整 の容認」「自治医科大学における暫定的な定員の調整の容認」「出産、育児等に対応した女性医師の多様 な就業の支援」「へき地・離島医療の支援充実」等とし、「制度創設等についての中期的検討」内容とし ては、「医療事故に係る死因究明制度」や「無過失保障制度」等を挙げ、来年度の予算要求をしている。 また「確認書」では、第 1 に「医師の不足が特に深刻と認められる県(青森・岩手・秋田・山形・福島・ 新潟・山梨・長野・岐阜・三重の 10 県)において、当該県への医師の定着を目的として、平成 20 年度か らの最大 10 年間に限り、将来の医師の養成を前倒しするとの趣旨の下、10 名を限度として、現行の当該 県内における医師の養成数に上乗せする暫定的な調整の計画を容認する」としている。それを容認する条 件として「奨学金の拡充」と「養成増に見合って医師の定着数の増加が図られたと認められる」ことが挙 げられている。第 2 には「自治医科大学において、・・・更なる地域医療貢献策の実施を条件として、平 成 20 年度からの最大 10 年間に限り、10 名を限度として、定員に上乗せする暫定的な調整に係る申請を容 認する」とし、第 3 には「引き続き医学部定員の削減等に取り組む」としている。 5、極めて不十分な「新医師確保総合対策」と「確認書」「来年度予算要求」 「新医師確保総合対策」と関係4閣僚の「確認書」の内容は、現在の深刻な医師不足を反映して、当然 の施策も打ち出されているが、「短期的対応」「長期的対応」のいずれも、極めて不十分な内容となって おり、とりわけ依然として「将来的には医師は過剰」「現在の問題は、地域・科による偏在」「今後とも 医師の削減方針は進める」など、根本的な問題点を含んでいる。 「新医師確保総合対策」と「確認書」において、「医師の養成を増やす」方向に 10 数年ぶりに「転換」 したと宣伝されているが、「さらに実効性のある地域定着策の実施を前提として、医師の不足が特に深刻 と認められる県」10 県のみ各 10 名と自治医大 10 名の合計 110 名を 10 年間のみ増やすという「暫定調整」 でしかない。これで深刻な医師不足、過酷な勤務医の労働条件が改善されるのか、極めて疑問といわざる を得ない。 医師の養成には 10 年近くかかり、 養成増がすぐ現在の問題解決には繋がらないことは事実だが、 10 数年間の厚労省の「将来医師過剰=養成数削減」による現在の医師不足の轍を踏まないためにも、全て の大学の医学部定員を 1986 年の削減前に戻し、早期にせめてOECDの平均値「人口 10 万対 290 人」 (現 在より 12 万人増)に到達させる必要がある。 医師の絶対数を増やすと同時に、労働基準法や宿日直の勤務に関する規制の遵守、女性医師が働き続け るための院内保育所の完備や短時間勤務、育児休業明けの研修制度なども緊急に進める必要がある。 また「短期的対応」においても「地域医療対策協議会の活性化」や「地域医療支援中央会議の設置」「小 9 児科・産科をはじめ急性期の医療をチームで担う拠点病院づくり(集約化・重点化の一層の推進)」「地 域医療提供体制の再編・ネットワーク化」などが出されているが、有効な施策は積極的推進を求めるが、 権限や予算措置、実効ある施策が短期間に打ち出せるのかなど注視する必要である。 「地域医療対策協議会」はすでに各県に設置され、それぞれ数回の会議がもたれているが、その権限や 実効性などでまだ多くの課題がある。全ての都道府県での「医師不足の実態調査」や「医師不足の医療機 関や医療労働組合からの意見聴取」「地域医療支援中央会議との連携」などにより、「地域の診療科と医 師の配置調整」や「緊急な医師派遣」などの対策を至急進める必要がある。 なお「地域で医療機能の集 約化・重点化」が「少人数で過酷な勤務をこなす医師を減らすために」の名目で進められているが、これ が安易に行われれば、「地域で出産できる産科が無い」「遠くまで行かなければ小児科にかかれない」な どの事態になりかねない。「小児救急の輪番制」などの病院と診療所との連携や「地域医療対策協議会」 などによる各地域における各診療科の医師の配置と救急体制の検討等を早急に行う必要がある。 「新医師確保総合対策」と「確認書」に基づき「来年度の予算要求」が出されているが、「医師確保関 係予算」として前年度の2.5倍の約103億円が予算要求されているが、医師不足の深刻さや過労死する ほど働いている医師の勤務実態からすると極めて微々たる予算と言わざるを得ない。それは、「米軍横田 基地に航空自衛隊司令部を移設する費用として151億円」「ミサイル防衛費2,190億円」等と比較す るとその額の少なさが端的に現れている。 ( 以 10 上 )
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