「ドラマから映画化された作品の興収決定要因 とその利用と満足」 筑波大学第三学群社会工学類 社会経済専攻 200001031 長岡 裕司 指導教官 石井 健一 目次 第1章 1-1 1-2 第2章 序論 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 1-1-2 「ドラマから映画化された」作品の要因について 1-1-3 「ドラマから映画化された」作品の 仮説の設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 分析の方法 2-1 「ドラマから映画化された作品」を定義・・・・・・・・・・6 2-2 標本の抽出について 2-3 変数の定義 2-4 質問紙による量的分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 第3章 3-1 3-2 第4章 ・・・・・・・・・・・・・・・・・6 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 2-4-1 コンテンツ検索アンケート 2-4-2 利用と満足に関するアンケート 分析結果と考察 「ドラマから映画化された作品」の興行収入を決定する要因分析・・・11 3-1-1 ジャンルに分けての分析 3-1-2 興収決定要因の重回帰分析 3-1-3 「踊る大捜査線 3-1-4 実質興収 10 億円超作品の要因 3-1-5 重回帰分析の結果と考察 THE MOVIE」にダミー変数を投入後の分析 「ドラマから映画化された作品」の利用と満足・・・・・・・・・・・19 3-2-1 ドラマと映画の利用と満足評価の平均値による比較 3-2-2 因子分析の結果 3-2-3 利用と満足研究結果と考察 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 参考文献 付録 1 第 1 章. 1-1 序論 はじめに 本研究では、 「テレビドラマから映画化された邦画作品」について、その興行収入を決定 する要因を検証し、「利用と満足」研究を用いて、人々が「テレビドラマから映画化された 邦画作品」を視聴しどのような満足と得ているのかを調査し、「テレビドラマ」や「邦画」 と比較することでその作品性を検証したい。 1-1-1 「ドラマから映画化された」作品の興行収入決定要因について 昨年の日本映画界は「踊る大走査線 THE MOVIE2 –レインボーブリッジを封鎖せよ-」 の大ヒットに沸いた。その興収は 150 億円を超え、実写日本映画で歴代1位となった。こ の他にも「木更津キャッツアイ 日本シリーズ」も 2004年1月現在で興行収入12億円を 超えるなど、ここ数年「テレビドラマから映画化された邦画作品」のヒットが続いている。 表 1-1 過去5年間のドラマから映画化された主な作品 題名 総合順位(実写順位) 興行収入 1998年 踊る大走査線 THE MOVIE 1位 (1位) 50億 金田一少年の事件簿 上海魚人伝説 4位(2位) 14億 1999年 なし 2000年 GTO 10位(4位) 13.2億 ケイゾク/映画 12位(5位) 12.5億 2001年 仮面ライダーアギト/ 11位(6位) 12.5億 百獣戦隊ガオレンジャー 2002年 ナースのお仕事 ザ・ムービー 10位(3位) 14.4億 仮面ライダー龍騎/ 11位(4位) 14.3億 忍風戦隊ハリケンジャー トリック 劇場版 14位(7位) 12.9億 ※1998 年のみ配給収入*2 日本映画の高興収作品の多くはアニメ作品である現状において、表からも分かるように 「ドラマから映画化された作品」が上位を占めているのがよくわかる。それでは、テレビ ドラマを映画化すれば必ず高興収を得られるのであろうか。 その答えはいいえである。2002 年には「明日があるさ THE MOVIE」が公開されたが、 興収は 5 億にも満たず振るわなかった。元々は吉本興業所属タレント総出演の缶コーヒー 「ジョージア」の CM が大評判となり、テーマ曲ともなっている「明日があるさ」のヒッ トもあり、テレビドラマ版が制作された。このドラマの平均視聴率はおよそ 20%と、一般 的に 15%を超えればヒットといわれるテレビドラマの中では、まずまずの成績を残してい 2 るといえよう。つまり、CM やテーマ曲のヒットに加えて、視聴率もよく、集客を見込まれ た上での映画化だった。しかし、結果は上記のとおりだったのである。それでは、ここで 視聴率 20%という数字は、映画化に適した数値なのか検討したい。 表 1-1 の作品のうち平均視聴率が 20%を超えたものは 2 作あり、それぞれ「金田一少年 の事件簿」が 23.2%(最高視聴率 29.9%)、GTO が 28.5%(最高視聴率 35.7%)と非常に 高い数値を上げ、劇場版のヒットの要因といえよう。では、その他の作品はというと 20% を下回っているのだ。ドラマ「踊る大走査線」は 1997 年 1 月 19 日〜3 月 16 日に CX 系列 で全国放送されたが、後半伸びたものの、当時の平均視聴率は 18.2%。2002 年 1 月 18 日 〜3 月 15 日に TBS 系列で全国放送されたドラマ「木更津キャッツアイ」でに至っては、わ ずか 10.1%であり、ドラマとしては失敗と言わざるを得ない数字である。しかし、両者と も公式 HP は番組終了後も大盛況、オリジナルグッズも売れ、「木更津キャッツアイ」の DVD は 13 万枚以上のセールスを記録し、その人気はドラマ終了後に盛り上がっていった のだ。こうした熱狂的ファンの存在が視聴率に代わるヒットの要因として挙げられる。こ の他にもパート2、3 などの続編が制作された「ナースのお仕事」「トリック」も安定した 固定ファンがいることが、同様にヒットの要因といえる。 また「仮面ライダー」と「戦隊」シリーズは、ここ数年主役にいわゆるイケメンと呼ば れる、顔立ちの良い俳優を据えることで、これまでの子供の人気に加えて、その母親を中 心とした女性ファンを新たに獲得した。親子で番組を視聴するので、視聴率自体は大きな 変化がなくとも、視聴者数を増加させたことでヒットを生んだといえる。 このように「ドラマから映画化された作品」のヒットは、必ずしも視聴率に依存するも のではなく、それ以外にも様々な要因が考えらる。そこで、本研究ではそれら諸要因を数 値化し、回帰式に投入することでヒットの予測を試みたい。 1-1-2 「ドラマから映画化された作品」の利用と満足 次に映画のヒットには欠かせない要因だが、数値化しにくいものがある。それが視聴者 の評価である。ドラマであれ、映画であれ、制作されたメディアは必ず視聴者によって評 価をされる。その結果が視聴率であったり、興収だったりするわけだが、そこに至る前の 評価によってそれらの値は大きく変化するのだ。例えば、昨年公開の「黄泉がえり」など がそれにあたるであろう。前評判がそれほど高くなかったが、視聴者の高い評価が口コミ やメディアによって広がり、予想以上の人気を博したことから、当初3週間に限定してい た上映期間の延長を決め、30 億円を超える興収を得た。 インターネットの普及により、在来メディアであるテレビ、新聞、書籍などよりも気軽 にかつ、早く自分の求めている情報が手に入るようになった。つまり、ある映画に関する 評価を、その映画の公開日にすぐ知ることも可能なのだ。このように、これまで以上にそ の映画作品の内容が問われる状況の中で、テレビドラマを映画化する場合に製作者側は、 3 通常の映画製作にはない、2つの大きな選択が迫らる。 【1】:テレビドラマを見ていなくても、楽しめる“開かれた”内容にする。 【2】:テレビドラマを見ていなければ、楽しめない“閉じた”内容にする。 もちろん、 【1】と【2】を過不足なく満たすことが、劇場用映画には求められるが、そ のバランスは非常に難しい。【1】を優先させると、思わぬヒットになる可能性がある分、 オリジナルのファンにとっては、“物足りない、映画化した意味はない”と非難されるのは必 至である。逆に【2】を優先させると、ファンを満足させる一方、予備知識のない観客に とっては、“ワケが分からない”と不満が漏れて、やはり“映画化した意味はない”と判断され てしまう。 「黄泉がえり」の例でも挙げたが、視聴者による評価とは、やはり蓋をあけて見なけれ ば分からないのである。そこで着目したいのが、マス・メディアの「利用と満足」研究(uses and gratificationsstudy)だ。これは文字通り、受け手がマス・メディアを通じて、どのよ うな満足を得ているかを研究する分野である。つまり、受け手を中心にマス・コミュニケ ーションを分析しようとするわけだ。マクウェールらの研究によると、人々はテレビ番組 を視聴することによってつぎのような充足を得ているという。①気晴らし(日常生活での もろもろの制約や苦悩からの逃避、情緒的な開放)、②人間関係(登場人物への親近感を持 つことで、他人とどのように接するか知ったりする)、③自己確認(登場人物との比較で、 自分自身の性格を改めて確認する)④環境監視(番組の中から生活や仕事に使える情報を 得る)の4つである。つまり、メディアの受けとられ方は人それぞれであり、受け手しだ いなのだ。送り手の意図とは無関係ではありえないにせよ原則的には分離しているといえ る。 本研究では、このマクウェールらの「利用と満足」研究を用いて、「ドラマから映画化さ れた作品」の視聴者の評価、つまり利用と満足を検証すると同時に、 「テレビドラマ」と「映 画(邦画)」についても同様に検証することによって、これら3種類のメディアの利用と満 足の構造がどのように異なるのか、あるいは共通しているのかを検証する。つまり、メデ ィアの受けて側から「ドラマから映画化された作品」を検証することで、観客が「ドラマ」 と「映画」のどちらに近い満足度を得るために「ドラマから映画化された作品」を利用し ているか検証したい。 4 1-2 仮説の設定 仮説1.「ドラマから映画化された作品」の興行収入の決定要因として、視聴率、セルビデ オ(DVD)セールスが強い要因を示す。 テレビドラマを映画化する上で製作者側が最も判断しやすい指標であり、視聴 率やセルビデオ(DVD)セールスの少なさは、その作品の認知度どひくさとな ってしまうため、興行収入面で有利とはいえない。その反面、視聴率、セルビデ オ(DVD)セールスの高さは、人気の高さであり、興収に直結すると考えられ る。特にセルビデオ(DVD)セールスは、消費行動であり、無料で見れるテレ ビとはその重要度も異なる。よって、視聴率と比較した場合、セルビデオ(DVD) セールスが強い要因を示すと予測される。 仮説2.「ドラマから映画化された作品」の利用と満足は「邦画」よりも「テレビドラマ」 に近い。 通常テレビドラマから映画化される場合、そのストーリーはテレビドラマの延 長、あるいは特別編として制作される。つまり、視聴者からその作品を見た場合 の印象は、当然同様にドラマの延長、特別編という視点で見るはずである。よっ て、そこから得られる満足度も邦画よりもテレビドラマに近いと推測される。 5 第 2 章 2-1 分析方法 「ドラマから映画化された作品」を定義 まず、サンプルとして用いる「ドラマから映画化された作品」を定義する。なおここで いう「ドラマ」とは、2回以上テレビ放映されている「連続ドラマ」であり、スペシャル など1話限りの単発ドラマは除く。そのドラマ作品から、その続編あるいは特別編として 制作された映画を「ドラマから映画化された作品」とする。つまり、ある小説などの原作 がありそれぞれ個別にドラマと映画が制作されたものは、この定義には入らない。 2-2 標本の抽出について 調査対象は『映画大全集』(メタモル出版, 1998.11)において 1997 年までの全 7500 本 の邦画作品の解説文から「映画化」 、 「劇場版」と記述されている作品。また 1998 年以降は 『映画ガイドブック』(筑摩書房、1998-2002)の作品解説文から同様の記述がされている 作品を標本として抽出した。その結果、134 本の邦画を抽出した。しかし、視聴率データの 観測は 1970 年からであり、それ以降のデータのみしか入手できなかったこと、さらに配給 収入額が得らなかった作品もいくつかあり、最終的な標本数は 96 本となった。 0 0 図 2.1 2002 1 2000 1998 100 1996 1994 2 1992 1990 200 1988 1986 3 1984 1982 1980 300 1978 1976 4 1974 1972 400 1970 1968 5 1966 1964 500 1962 1960 6 1958 600 邦画公開本数 映画化された 作品の5年毎 の移動平均 邦画の公開本数とドラマから映画化された作品公開本数の5年毎の移動平均 抽出された 134 本の映画を時系列でプロットしたところ年によって差が大きく有意な 結果が得られなかったので、5 年毎の移動平均で示した。邦画の公開本数は 1970 年代のテ レビの普及以降下降しているが、90 年代からまた少しずつ上昇し始めている。一方の「ド ラマから映画化」された作品は 1975 年、1989 年、2002 年に平均 4 作を超える高い値を示 し、1980 年代前半と 1994 年に低い値を示している。この時点では考察をするための資料 が少ないので、次章 3-1 ジャンル分けからの分析で、この上下動について考察する。 6 2-3 変数の定義 仮説1.の検証に重回帰分析を用いる。視聴率、年差(ドラマ放送終了後から劇場版公開 までの期間) 、実質興収の相関を求めた後、視聴率、割合、年差を被説明変数、実質興収を 説明変数として、最小2乗法で重回帰分析をおこなう。なお分析ソフトは SPSS を使用す る。 1. 「配給収入データ」: 『映画年鑑』(時事映画通信社、1970-2003)と『キネマ旬報』(キネマ旬報社、 1970-2003,2 月特別号)を参照し、それをもとに興行収入データを算出した。 2. 「興行収入」データ: 1999 年までは配給収入で発表されていたが、2000 年以降は欧米に合わせ興行収入で 発表されている。興行収入は(有料入場者数)×(入場料)で米国の BOX OFFICE はこれ にあたる。配給収入は興行収入に作品毎に決められる配給会社の歩合を掛けたもので、 興行収入のおよそ 50〜60%程度。本稿では便宜的に指数を(1.7)と設定し、(配給収 入)×1.7=興行収入推計値とした。また CPI(消費者物価指数)を利用して名目値であ った興行収入推計値の実質化を行った。 式: 実質興行収入 = (配給収入 × 1.7) × CPI / 100 以上の式から求められた実質興行収入の推移と、ドラマから映画化された作品の平均 興行収入を図として添付する。なお考察は 3-1 にて行う。 億 4 3.5 3 邦画平均興収 2.5 2 1.5 ドラマから映画 化された作品の 平均興収 1 0.5 2001 1999 1997 1995 1993 1991 1989 1987 1985 1983 1981 1979 図 2.2 1977 1975 1973 1971 0 邦画平均興収とドラマから映画化された作品の興収 7 3. 「視聴率データ」: 『視聴率四季報』(ビデオリサーチ社、1970-2003)からそのテレビドラマの平均視 聴率を求めた。また1年以上放送されたドラマについては、映画が上映開始された最 近1年間の平均視聴率とした。なお、単発のスペシャルの視聴率は計算に含まない。 4. 「割合」: 『視聴率四季報』(ビデオリサーチ社、1970-2003)からそのテレビドラマをその時 間のテレビ視聴者のなかで、その番組の視聴者の割合の平均値を求めたもの。 5. 「年差」: ドラマ放送終了後から劇場版公開までの期間で単位は年。 6. 「VIDEO」: 『オリコン年鑑』(オリコン、1980-2003)から、その映画が公開されるまでのセルビ デオ(DVD)のセールスを抽出した。しかし、データは 1980 年以降しかなく、抽出 されたサンプル数も 3 と少ない。 7. 「ダミー変数Ⅰ」 変数「VIDEO」のサンプル数が少なかったので、ダミー変数を投入した。サンプルの ある、「NIGHT HEAD」「英二」「金田一少年の事件簿」には1を、それ以外の変数に は 0 を投入する。 8 2-4 調査票による量的分析 2-4-1 コンテンツ検索アンケート 調査は、2003 年 11 月現在、筑波大学に在籍し、社会工学類開設の「情報処理実習Ⅱ」 を履修している大学生 26 人を対象に行った。調査実施日は、2003 年 11 月 18 日である。 26 名の標本のうち、有効回答は 24 名(92%)であった。 調査票による調査項目は以下のような構成となっている。 第一に、対象者の属性について、性別・年齢の項目を設けた。さらに、日常生活におい てテレビ、テレビドラマ、邦画の視聴頻度を尋ねる項目を設けた。 第二に、過去 5 年間に公開された「ドラマから映画化された作品」19 作から見たことの ある作品を全てを選択するよう尋ねた。 第三に、過去 5 年間に放送された「テレビドラマ」の中から視聴率 20%を超えた 25 作 を抽出し、その中から見たことのある作品を全てを選択するよう尋ねた。 第四に、過去 5 年間に公開された「邦画」の中から興行収入 10 億円を超えた作品、ある いは日本アカデミー賞ノミネート作品、18 作をの中から見たことのある作品を全てを選択 するよう尋ねた。 なお、調査対象を 10 代後半から20代のドラマ視聴者層を対象としているので、その年 代の視聴の少ないと考えられる「時代劇」と「特撮」の2ジャンルは作品群の対象から除 いた。 2-4-2 利用と満足に関するアンケート 調査は、2003 年 12 月現在、筑波大学に在籍する大学生(150 人)と、つくば市均衡に 住む中学生〜20代の社会人(計 50 人)を対象に行った。調査実施期間は、2003 年 12 月 19 日から 2004 年 1 月 8 日である。200 名の標本のうち、有効回答は 181 名(90.5%)で あった。 質問紙の調査項目は以下のような構成となっている。 第一に、対象者の属性について、性別・年齢の項目を設けた。さらに、日常生活におい てテレビ、テレビドラマ、邦画の視聴頻度を尋ねる項目を設けた。 第ニに、「テレビドラマから映画化された作品」について、そのテレビドラマ版と劇場版 をどの媒体を通じて視聴したかを聞いたあと、その「利用と満足」の度合いを 12 項目 4 段 階尺度で測定した。さらにその作品の視聴理由について尋ねた。 第三に、「テレビドラマ」について、その作品をどの媒体を通じて視聴したかを聞いたあ と、その「利用と満足」の度合いを 12 項目 4 段階尺度で測定した。 第四に、「邦画」について、その作品をどの媒体を通じて視聴したかを聞いたあと、その 9 「利用と満足」の度合いを 12 項目 4 段階尺度で測定した。 これらテレビ、映画から得られるであろう「利用と満足」の項目と尺度作成は、三上俊 治「インターネットの利用と満足」 『インターネット利用動向に関する実態調査報告書 2002』 を参考に「そう思った」から「そう思わなかった」までの4段階尺度で測定した。 以上の項目を、実査終了後に集計し、統計的処理を行った。結果は以下の章で述べるとお りである。 10 3.分析と考察 3-1 「ドラマから映画化された作品」の興行収入を決定する要因分析 仮説1.の検証に重回帰分析を用いる。実質興収、視聴率、割合、年差、VIDEO、ダミー 変数Ⅰの相関を求めた後、視聴率、割合、年差、VIDEO、ダミー変数Ⅰを被説明変数、実 質興収を説明変数として、重回帰分析をおこなう。どの変数が興行収入の決定に大きな要 因を示すか、標準回帰係数を比較して検証する。なお分析ソフトは SPSS を使用する。 3-1-1 ジャンルに分けての分析 ビデオリサーチ社の分類に従い、以下の 5 つのジャンルを定義する(表 3.1 参照)。抽出 された作品をジャンルごとに分類し、ジャンル分けに考察を行う。 表 3.1 ジャンルの定義 含まれる主なジャンル 代表的な作品 ドラマ、恋愛、ドキュメンタリー サラリーマン金太郎、高校教師 ホラー、サスペンス、SF、アクション 踊る大走査線、あぶない刑事 コメディ、ラブ・コメディ 木更津キャッツアイ、ナースのお仕事 時代劇、歴史 鬼平犯科帳、水戸黄門 ヒーローや戦隊もの ウルトラマン、仮面ライダー 定義するジャンル 一般劇 スリラー・アクション コメディ 時代劇 特撮 抽出された作品の標本数とその年代を表にして以下に示す。なお( )内の数字は、実 際に興収や視聴率データが抽出されたものである。 表 3.2 -1959 一般劇 サスペンス コメディ 時代劇 特撮 合計 19502 0 0 0 3 5 各ジャンルの標本数 19602 0 0 0 3 5 4 6 1 4 4 19 19707 (3) 0 (0) 3 (1) 2 (2) 24 (23) 36 (29) 19800 (0) 6 (6) 0 (0) 3 (2) 22 (19) 31 (27) 19906 (5) 7 (6) 2 (2) 2 (2) 14 (13) 31 (28) 2000合計 0 (0) 19 (8) 2 (2) 21 (12) 2 (2) 8 (4) 0 (0) 11 (5) 8 (8) 75 (49) 12 (12) 134 (78) 「特撮」は 75 本と他ジャンルと比べて、非常に多い。これは「ウルトラマン」「仮面ラ イダー」「戦隊シリーズ」などの「特撮ヒーロー」がテレビ放映された年は、春または夏の 小中学生が休みのときにに合わせて映画が上映されるというパターンが確立されているか らである。1970 年、80 年には「特撮ヒーロー」の人気絶頂期であり、年に 2 本制作される ことも少なくなかった。しかし、90 年代に入るとその人気にも陰りが出て、制作されない ものや、シリーズによってはテレビ放映すらされないものもあったが、2000 年以降のイケ 11 メン俳優の起用によって、再び人気を博している。 その他のジャンルについては、その要因についてこの後考察するのだが、人気の出た作 品が映画化されているために、ジャンルごとの特別な傾向は見られなかった。 次にジャンルごとに興収面で差があるか検証する。 表 3.3 実質興収の分散分析 実質興収 平方和 914.469 8427.590 9342.059 グループ間 グループ内 合計 自由度 平均平方 228.617 92.611 4 91 95 F値 2.469 有意確率 .050 分散分析をした結果、F 値が 2.469、有意確率有意確率が 0.050 と 5%水準で帰無仮説「各 ジャンルの実質興収の平均値は等しい」を棄却できる。よって、ジャンルごと平均興収額 は異なると言える。では、どのような違いがあるか、分散分析後水準間の差を検定するダ ンカンの多重範囲検定をおこなった。 表 3.4 実質興収のダンカンの多重範囲検定の結果 実質興収 Duncan a,b α= .05 のサブグループ ジャンル 度数 1 2 4 6 4.206108 1 8 6.564869 6.564869 5 63 6.896511 6.896511 3 5 7.624188 7.624188 2 14 15.242719 有意確率 .509 .090 等質なサブグループのグループ平均値が表示されています。 a. 調和平均サンプルサイズ = 8.636 を使用 b. グループ サイズが等しくありません。グループ サイズの調和平 均が使用されます。タイプ I 誤差水準は保証されません。 「サスペンス・アクション」の平均興収額が 15.24 億と他と比べて大きいことが分かる が、これは「踊る大走査線 THE MOVIE」が実質興収がおよそ 91 億円と飛びぬけて大き な興収をあげているために、平均値があがったのだ。しかし、仮に「踊る大走査線 THE MOVIE」を抜いて計算しても 9.34 億と以前高い数値を示した。この要因として、 「あぶな い刑事」「トリック」「金田一少年の事件簿」などテレビドラマでも人気シリーズとして放 映されている作品が多く含まれていることが挙げられる。また、こうした人気ドラマの共 通点として、一話完結の作品が多い。刑事ドラマやサスペンスドラマは、主人公を中心と した主要メンバーがある事件に巻き込まれ、それを解決するというストーリーがパターン 化されているので、別のストーリーが制作しやすく、その意味でドラマをシリーズ化した 12 り、映画化しやすいといえるだろう。 実際、映画化された作品の多くは一話完結のものが多い。「時代劇」や「特撮」に関して は言わずもがなだが、「一般劇」や「コメディ」においてもその傾向は強い。映画化された 作品全体の 3-1-2 興収決定要因の重回帰分析 まず、各独立変数と従属変数との相関を求める。 表 3.5 実質興収 Pearson の相関係数 有意確率 (両側) N 興収決定要因と実質興収との相関 年差調整 視聴率 割合 VIDEO -0.11 -0.02 -0.07 -0.06 0.30 0.83 0.50 0.55 96 96 96 96 実質興収 -0.15 1 0.15** . 96 96 ダミー変数A ダミー変数B ダミー変数C ダミー変数D ダミー変数E 実質興収 Pearson の相関係数 有意確率 (両側) N ** * -0.04 0.68 96 0.31 0.00** 96 -0.01 0.94 96 -0.10 0.34 96 相関係数は 1% 水準で有意 (両側) 相関係数は 5% 水準で有意 (両側) 続いてこれらの変数を用いた重回帰分析を行った。結果以下のとおりとなった。 表 3.6 重回帰分析結果 モデル集計 調整済み 推定値の モデル R R2 乗 R2 乗 標準誤差 1 .360a .130 .037 9.7674819 a. 予測値: (定数)、ダミー変数D, VIDEO, ダミー変数C, 年差, ダミー変数A, ダミー変数B, 割合, ダミー(video), 視聴率。 分散分析 b モデル 1 平方和 自由度 平均平方 F値 有意確率 回帰 1206.725 9 134.081 1.405 .199a 残差 8109.315 85 95.404 全体 9316.040 94 a. 予測値: (定数)、ダミー変数D, VIDEO, ダミー変数C, 年差, ダミー変数A, ダ ミー変数B, 割合, ダミー(video), 視聴率。 b. 従属変数: 実質興収 13 係数 a モデル 1 (定数) 年差 視聴率 割合 VIDEO ダミー(video) ダミー変数A ダミー変数B ダミー変数C ダミー変数D a. 従属変数: 実質興収 非標準化係数 B 標準誤差 8.049 2.754 -5.26E-02 .203 .263 .361 -.205 .268 -4.45E-04 .000 2.350 8.885 .370 4.083 9.075 3.139 -7.45E-02 4.801 -2.316 4.354 標準化係 数 ベータ -.030 .180 -.188 -.193 .048 .010 .325 -.002 -.057 t 2.923 -.259 .729 -.763 -1.101 .264 .091 2.892 -.016 -.532 有意確率 .004 .796 .468 .448 .274 .792 .928 .005 .988 .596 見てのとおり、決定係数が 0.130 とあまりに低く、良い結果は得られなっかった。この 原因を探るために、実質値と予測値を図に結果をプロットした。 興収額 (単位:億円) 100 80 60 予測興収 実質興収 40 20 0 0 20 40 60 80 100 -20 図 3.1 予測興収と実質興収の散布図 図から実質興収からも、予測興収から大きく外れているデータが一つ見つかった。これ が 1998 年公開の「踊る大走査線 THE MOVIE」である。これによって決定係数を大きく 下げていることが予想されるので、ダミー変数を入れて再度重回帰分析を行う。 14 3-1-3 「踊る大走査線 THE MOVIE」にダミー変数を投入後の分析 先ほどの表に投入した「ダミー変数Ⅰ」と「実質興収」の相関係数を求める。 表 3.7 ダミー変数Ⅰと実質興収の相関 ダミー変数Ⅰ 実質興収 Pearson の相関係数 有意確率 (両側) N -0.14 0.17 96 続けて、先ほどのダミー変数を投入して再度重回帰分析を行った。結果以下のとおり となった。 表 3.8 ダミー変数Ⅰを投入後の重回帰分析結果 モデル集計 調整済み 推定値の R2 乗 標準誤差 モデル R R2 乗 1 .892 a .795 .771 4.7426549 a. 予測値: (定数)、ダミー変数Ⅰ, 割合, VIDEO, ダミー 変数C, ダミー変数D, 年差, ダミー変数A, ダミー変数 B, ダミー(video), 視聴率。 分散分析 b モデル 1 平方和 自由度 平均平方 F値 有意確率 回帰 7430.173 10 743.017 33.034 .000a 残差 1911.886 85 22.493 全体 9342.059 95 a. 予測値: (定数)、ダミー変数Ⅰ, 割合, VIDEO, ダミー変数C, ダミー変数D, 年 差, ダミー変数A, ダミー変数B, ダミー(video), 視聴率。 b. 従属変数: 実質興収 15 係数 a モデル 1 (定数) 年差 視聴率 割合 VIDEO ダミー(video) ダミー変数A ダミー変数B ダミー変数C ダミー変数D ダミー変数Ⅰ a. 従属変数: 実質興収 非標準化係数 B 標準誤差 8.345 1.337 -.121 .099 -.128 .175 3.416E-02 .131 -4.36E-04 .000 7.891 4.327 1.042 1.973 2.254 1.577 1.408 2.324 -1.799 2.110 83.173 5.001 標準化係 数 ベータ t 6.243 -1.224 -.728 .261 -2.220 1.824 .528 1.430 .606 -.853 16.631 -.070 -.088 .031 -.189 .160 .029 .081 .032 -.044 .856 有意確率 .000 .224 .469 .795 .029 .072 .599 .156 .546 .396 .000 今回の分析では、0.795 と決定係数が高く、F 値を検定した結果、決定係数の高さは 0. 1%水準で有意といえる。しかし、説明変数のうち「VIDEO」以外の回帰係数のt値の絶 対値が低く、有意といえない。また「割合」 「ダミー変数 A」 「ダミー変数C」において、相 関係数と回帰係数のあいだに符号が異なり、多重共線性の疑いがある。よってこの 3 変数 を取り除き、代わりに「ダミー変数 E」を投入し、t値が有意な値をを示すまで変数減少法 を用いて、重回帰式を計算した。その結果以下の式を得た。 表 3-9 モデル (定数) VIDEO ダミー(video) ダミー変数Ⅰ 変数減少法にて計算後重回帰式 非標準化係数 標準化係数 B 標準誤差 ベータ 7.250 0.507 -0.0005 0.000 -0.210 9.951 4.131 0.202 84.852 4.777 0.873 t 14.290 -2.511 2.409 17.763 有意確率 0.000 0.014 0.018 0.000 決定係数=0.778 F 値=107.300 有意確率=0.000 t値のから有意な結果が得られたが、非標準化係数が-0.0005 と極めて小さい値であり、 式として有効な結果とは言えない。残念ながら「テレビドラマから映画化された作品」興 収の決定要因は推定できなかった。 そこで、96 本の標本のうち実質興収が 10 億円を超えている作品を 24 本抽出し、分析し てみた。ドラマから映画化した作品の興収予測はできなかったが、ヒット作の生むための 必要条件を求めてみることとした。 3-1-4 実質興収 10 億円超作品の要因 16 これまでの結果同様全ての独立変数を投入して、変数減少法でt値の値が良くなるまで 分析を繰り返した。なお今回の分析では、標準化係数の値を上げるために、「踊る大捜査線 THE MOVIE」をダミー変数を投入してその影響をなくすのではなく、削除という形をと った。結果は以下のとおりである。 表 3-10 興行収入 10 億円以上の作品の重回帰式 モデル集計 調整済み 推定値の モデル R R2 乗 R2 乗 標準誤差 1 .838a .702 .636 2.0896999 a. 予測値: (定数)、ダミー変数B, 視聴率, VIDEO, 年差調整。 分散分析 b モデル 1 平方和 自由度 平均平方 F値 回帰 185.204 4 46.301 10.603 残差 78.603 18 4.367 全体 263.807 22 a. 予測値: (定数)、ダミー変数B, 視聴率, VIDEO, 年差調整。 b. 従属変数: 実質興収 有意確率 .000a 係数 a モデル 1 (定数) 年差調整 視聴率 VIDEO ダミー変数B a. 従属変数: 実質興収 非標準化係数 B 標準誤差 7.580 1.290 -4.032 1.135 .294 .087 4.486E-03 .001 4.270 1.360 標準化係 数 ベータ -.739 .488 .675 .554 t 5.878 -3.554 3.389 4.206 3.138 有意確率 .000 .002 .003 .001 .006 以上より推計された式は Y = 7.58 − 4.032X1 + 0.294X 2 + 0.004X 3 + 4.27DB となる。重回帰式の決定係数は 0.702 とまずまず高く、F 値より、決定係数の高さは 0. 1%水準で有意といえる。また独立変数も 1%水準で全て有意といえる。これによってまず、 テレビ放映が終了してから劇場版公開までの期間が興収に負の影響を与えること。また視 聴率が高いこと、セルビデオあるいは DVD セールスが大きいことは、興収に正の影響を与 17 えることが示された。次に映画の興収を決定する各独立変数の影響の大きさを明らかにす るために標準化係数の値を比較する。その結果、まず「年差」が他の変数と比べて高い値 を示しており、ドラマの放映終了後から劇場版の公開までに期間が空くことは、興収の減 収に強い影響を及ぼすことが分かる。つづいて、 「セルビデオあるいは DVD セールス」、ジ ャンル「サスペンス・アクション」の作品、「視聴率」の順にヒット作の興収決定要因とし て強いことが分かった。つまり、この 4 要素は、 「ドラマから映画化した作品」をヒットさ せる十分条件であるといえる。すなわち、ここから「セルビデオあるいは DVD セールス」 の高い作品で、ジャンルは「サスペンス・アクション」。そして「視聴率」の高いの作品を、 「ドラマ放送終了後からの劇場公開までの期間」を空けずに公開すれば、10 億円を超える 興収が得られる可能性がある。 3-1-5 結果と考察 今回の「ドラマから映画化された作品」の興収を決定すると予測された諸要因を回帰式 に投入することで興行収入の推定を試みたが、その結果は失敗であった。また、3-3 におけ る 3-1-2 の分析から、仮説1.の「「ドラマから映画化された作品」の興行収入の決定要因 として、視聴率、セルビデオ(DVD)セールスが強い要因を示す。」が全く支持されなかっ たことが判明。このことから、興収を決定する諸要因が他にも多く存在するといえる。 また、一般的にヒットと呼ばれる興行収入 10 億円を超えるための十分条件を検出できた。 ところが、検出された式にそれぞれの値を代入して、97 本の作品の推定興行収入を求めた ところ、実に 86 本の作品において 10 億円を超える興行収入が推定された。すなわち、検 出された結果はヒットの十分条件であり、必要条件ではないことが改めて裏付けられたと 同時に、実質興収が推定値よりも低いことから、興収の推定には今回の調査では分からな かった負の要因が他にも存在していることが言える。 負の要因について予測されるのは、1 章でも考察したがそのストーリー性や受け手の評価 があるのではなかろうか。次項では、その受けて側からの分析を試みる。 18 3-2 「ドラマから映画化された作品」の利用と満足 前項では、数値化された指標を基にテレビドラマを映画化する要因を分析したが、今項 では利用と満足研究を用いて、数値化されにくい視聴者による作品の内容に対する評価(満 足度)を測定する。つまり、私たちは「ドラマから映画化された作品」を見ること(利用 すること)でどのような満足を得ているのかを探ると共に、通常の「邦画」や「テレビド ラマ」を利用した際の満足の得方とどのように異なるか、あるいはどのような共通項があ るのか検証したい。 そのために、「テレビドラマ」、「邦画」、「テレビドラマからの映画化」の3つについて、 それぞれ12項目の充足ないし効用を設定し、4段階で答えてもらった。なお、得点が低 いほど対応する項目の傾向が強くなるよう、それらの作品を見たときに「そう思った」な ら「1」を「そう思わなかった」なら「4」を選択しもらった。設定項目は、マクウェー ルらの4種類の充足タイプや三上の研究を基に、「情緒的解放」「気晴らし」「習慣的視聴」 「対人関係への効用」「擬似的相互作用(バーチャルリアリティ)」「日常生活からの逃避」 「環境監視(社会情報、趣味情報の入手)」など12項目とした。 3-2-1 ドラマと映画の利用と満足評価の平均値による比較 具体的な設問と集計結果を図 に示す。 l. 趣味やレジャーに役立つ情報が手に入った j. いま世の中で起こっている出来事がわかった i. 日常のわずらわしいことから一時的に逃れることができた k. 仕事や勉強に役立つ情報が手に入った d. つい習慣で見てしまった h. 日常生活の悩みや問題を解決する助けになった f. その作品で知ったことを友だちと話題にできた g. 作品の中の人物を親しい友達や相談相手のように感じた 19 e. くつろいだり、リラックスしたりできた b. 思わず興奮することがあった c. 退屈なとき暇つぶしになった a. 楽しいと感じた 1.0 2.0 映ドラ 図 3-2 3.0 ドラ マ 4.0 邦画 ドラマと映画の利用と満足評価の平均値の分布 この図から次の点を知ることが出来る。まず「ドラマ」と「ドラマから映画化された作 品」(以下図表では簡略化のため「映ドラ」)に関して、「d. つい習慣で見てしまった」以 外は評価に差はない。一方「邦画」と「ドラマから映画化された作品」とは先ほどの「d. つ い習慣で見てしまった」を含めて「a. 楽しいと感じた」 「c. 思わず興奮することがあった」 「e. くつろいだり、リラックスしたりできた」の4項目で評価に大きな違いがあった。こ れらの 3 項目は「気晴らし」や「情緒的解放」に関する項目である。では、その違い、つ まり平均値の差を一元配置分散分析を用いて検証する。 表3-11 利用と満足評価の一元配置分散分析結果 20 a. 楽しいと感じた グループ間 グループ内 合計 b. 思わず興奮することがあった グループ間 グループ内 合計 c. 退屈なとき暇つぶしになった グループ間 グループ内 合計 d. つい習慣で見てしまった グループ間 グループ内 合計 e. くつろいだり、リラックスしたりできた グループ間 グループ内 合計 f. その作品で知ったことを友だちと話題にできた グループ間 グループ内 合計 g. 作品の中の人物を親しい友達や相談相手のように感じた グループ間 グループ内 合計 h. 日常生活の悩みや問題を解決する助けになった グループ間 グループ内 合計 i. 日常のわずらわしいことから一時的に逃れることができた グループ間 グループ内 合計 j. いま世の中で起こっている出来事がわかった グループ間 グループ内 合計 k. 仕事や勉強に役立つ情報が手に入った グループ間 グループ内 合計 l. 趣味やレジャーに役立つ情報が手に入った グループ間 グループ内 合計 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率 10.547 2 5.273 10.653 0.000 178.203 360 0.495 188.749 362 6.522 2 3.261 3.595 0.028 326.585 360 0.907 333.107 362 1.835 2 0.918 0.842 0.432 392.303 360 1.090 394.138 362 85.689 2 42.845 37.049 0.000 416.311 360 1.156 502.000 362 15.211 2 7.605 8.690 0.000 315.059 360 0.875 330.270 362 0.240 2 0.120 0.102 0.903 424.388 360 1.179 424.628 362 0.332 2 0.166 0.181 0.834 330.334 360 0.918 330.667 362 0.188 2 0.094 0.111 0.895 304.710 360 0.846 304.898 362 1.197 2 0.598 0.483 0.617 445.597 360 1.238 446.793 362 0.022 2 0.011 0.012 0.988 329.301 360 0.915 329.322 362 1.963 2 0.981 1.216 0.298 290.572 360 0.807 292.534 362 1.043 2 0.522 0.572 0.565 328.037 360 0.911 329.080 362 分散分析をした結果、 「a. 楽しいと感じた」 「c. 思わず興奮することがあった」 「d. つい 習慣で見てしまった」 「e. くつろいだり、リラックスしたりできた」の4項目の F 値がそれ ぞれ 10.653、3.595、37.049、8.690 となったので、有意確率 5%水準で帰無仮説「3種の 作品群の各設問に対する評価の平均値は等しい」を棄却できる。よって、この4つの設問 において3種の作品群の評価の平均値は異なると言え、図 3- の結果が支持された。では、 実際その3群にどのような違いがあるか、分散分析後、水準間の差を検定するダンカンの 多重範囲検定をおこなった。 表 3-12 より、 「ドラマ」 「映ドラ」 「邦画」の 表3.12 「d. つい習慣で見てしまった」 のダンカン多重範囲検定結果 α= .05 のサブグループ 1 2 2.12 111 2.52 123 1.000 1.000 順で平均値が上昇していることから、 「ドラマ」 作品の種類 度数 129 を「つい習慣で見てしまう」ことが最も多く、 ドラマ 映ドラ 邦画 有意確率 21 3 3.28 1.000 「邦画」はそう思わないと考えられている。映画と比べてテレビ放映されている「テレビ ドラマ」を「つい習慣で見てしまった」ということを想像することは容易ある。しかし、 「ド ラマから映画化された作品」も「邦画」も映画である以上日常的に触れる機会は少ないの にここで検出された差は、たとえ同じ接触率であっても「ドラマから映画化された作品」 のほうが「テレビドラマ」として放映されていた分親密であることから、習慣的に見てい たという感覚に陥り、より「習慣で見てしまった」と回答したのではなかろうか。 表 3-13 以降は「邦画」のみ評価が異なっていた。それを一つずつ検証していきたい。 「a. 楽しいと感じた」における差は「邦画」の作 表3.13 「a. 楽しいと感じた」 のダンカン多重範囲検定結果 品性によるものだと思われる。今回コンテンツ検索ア ンケートやアカデミー賞受賞作などから選出された 作品の多くは、他の2種類の作品群と比べ、同じヒュ ーマンドラマというジャンルであっても「ドラマ」 「ド ラマから映画化された作品」はエンターテイメント性 作品の種類 映ドラ ドラマ 邦画 有意確率 度数 111 129 123 α= .05 のサブグループ 1 2 1.31 1.46 1.72 0.096 1.000 の高いもの、多少笑いがあって感動もあるという作品が多かったのに対し、 「邦画」では 鉄 道員 、 冷静と情熱のあいだ や GO などといった感動作が多かったことがこの差を引 き起こした要因と考えられる。 表 3-14 より、「b. 思わず興奮することもあ 表3.14 「b. 思わず興奮することもあった」 のダンカン多重範囲検定結果 った」についての差は「a. 楽しいと感じた」 で述べた理由のとおり、 「邦画」作品で感動作 が多かったために感動した、あるいは映画そ のものの迫力などから興奮したと答えた人が 多かったと考えられる。 表 3-15 より「d. くつろいだり、リラ ックスしたりできた」についての差は、 作品の種類 邦画 映ドラ ドラマ 有意確率 度数 123 111 129 α= .05 のサブグループ 1 2 1.76 2.03 2.06 1.000 0.776 表3.15 「d. くつろいだり、リラックスしたりできた」 のダンカン多重範囲検定結果 以前にその作品を見たか否かによる差だと考 える。調査票の集計結果より、「ドラマから映 画化された作品」を視聴する場合 95%以上の 人が「先にドラマを見た」と答えた。はじめて 作品の種類 ドラマ 映ドラ 邦画 有意確率 度数 129 111 123 α= .05 のサブグループ 1 2 2.19 2.25 2.65 0.628 1.000 みる作品は、その登場人物やストーリーを把握 するために、どこか真剣に見る必要がある。しかし、「ドラマから映画化された作品」につ いては、登場人物や大方のストーリーを把握していることが多いのため、その映画版を視 聴したときには、ある種の安心感やどこか懐かしい感覚を受けることがある。その点で、 「連 22 続ドラマ」と「ドラマから映画化された作品」は「邦画」と比較してくつろいだり、リラ ックスできるのであろう。 3-2-2 因子分析の結果 ドラマ、邦画、ドラマから映画化された作品に共通する満足度のタイプを抽出するため に、それぞれについて、回答データを因子分析にかけた。ただし、 「j. いま世の中で起こっ ている出来事が分かる」「k. 仕事や勉強に役立つ情報が手に入る」「l. 趣味やレジャーに役 立つ情報が手に入る」の 3 項目は「環境監視」に関する項目であるが、回答の平均値がそ れぞれ 3.33、3.37、3.26 と高い値を示していた。すなわち、今回のテレビドラマと邦画の 利用と満足の調査からは、「環境監視」の満足は得られなかったとして因子分析からは除く こととした。表 3-16〜表 3-18 はその因子分析の結果を示したものである。なお、いずれも 主成分分析でバリマックス回転後の因子付加量を示す。 テレビドラマを見た場合の利用と満足は以下のような構造となった。累積寄与率は 53.59%であった。 表 3-16 テレビドラマの利用と満足に関する因子分析の結果 23 g. 作品の中の人物を親しい友達や相談相手のように感じた h. 日常生活の悩みや問題を解決する助けになった i. 日常のわずらわしいことから一時的に逃れることができた c. 退屈なとき暇つぶしになった b. 思わず興奮することがあった a. 楽しいと感じた e. くつろいだり、リラックスしたりできた d. つい習慣で見てしまった f. その作品で知ったことを友だちと話題にできた 固有値 寄与率 累積寄与率 z 第1因子 第2因子 0.8362 0.0621 0.7826 0.0992 0.6274 0.3158 -0.5992 0.4592 0.5330 0.4245 0.1298 0.7158 0.0430 0.6860 0.0140 0.6678 0.2762 0.6677 3.01 1.82 27.15 26.44 53.59 第一の因子は、日常の悩みや問題の解決をする助けになったり、作品中の人物に親 しみを感じたりすることと、現実から一時的に逃れたり、暇つぶしになったりなど 「社交・気晴らし」についての因子である。 z 第二の因子は、楽しい、友達と話題できたこと、またつい習慣で見てしまったなど 「興奮共有・習慣」についての因子である。 マクウェールや三上らが行った、テレビ番組についての利用と満足研究から得られた充 足パターンとは異なる結果がでた。それは、マクウェールや三上は、テレビドラマの他に ニュースやクイズ番組など 6 つの番組について調査したのに対し、今回はテレビドラマに 限って行った違いによるものだろう。 特筆すべきことは、「社交・気晴らし」に含まれる「日常の悩みや問題の解決をする助け になる」、「作品中の人物に親しみを感じたりする」という項目(機能)は、1940 年代にヘ ルツウォークがのラジオドラマの利用と満足研究によって発見されたものであり、現在の その項目の負荷因子量の高さから、ドラマの視聴者の利用の仕方の不変性を表している。 つまり、テレビドラマにそういう機能が抽出されている以上、製作者は常に時代に合った、 視聴者のニーズに応える作品の制作が求められる。 邦画を見た場合の利用と満足は以下のような構造となった。累積寄与率は 58.26%であっ た。 表 3-17 邦画の利用と満足に関する因子分析の結果 24 h. 日常生活の悩みや問題を解決する助けになった g. 作品の中の人物を親しい友達や相談相手のように感じた i. 日常のわずらわしいことから一時的に逃れることができた e. くつろいだり、リラックスしたりできた c. 退屈なとき暇つぶしになった a. 楽しいと感じた f. その作品で知ったことを友だちと話題にできた b. 思わず興奮することがあった d. つい習慣で見てしまった 固有値 寄与率 累積寄与率 z 第1因子 第2因子 第3因子 0.8443 -0.0679 0.1287 0.8186 0.0360 0.1674 0.5554 0.3542 0.0339 0.5477 0.5157 -0.0710 -0.0945 0.7586 0.0222 0.2242 0.7529 0.1023 0.2683 -0.0277 0.8037 0.1168 0.4269 0.6993 0.2787 0.0987 -0.3166 2.84 1.31 1.10 24.60 19.25 14.41 58.26 第一の因子は、楽しい、日常の悩みや問題の解決をする助けになったり、作品中の 人物に親しみを感じたりすることと、現実から一時的に逃れ、リラックスできるこ とるなどから「社交・気晴らし」についての因子である。 z 第二の因子は、楽しく、暇つぶしになったので「暇つぶし」についての因子である。 z 第三の因子は、思わず興奮した、友達と話題にしたと「興奮共有・習慣」について の因子である。 「テレビドラマ」と「邦画の因子」を比較すると、第一因子と第三因子の「社交・気晴 らし」「興奮共有」についての因子は、ドラマと全く同じ因子が析出された。またドラマの から抽出された二因子からそれぞれ一つずつ項目が分かれる形で、新たに「暇つぶし」と いう因子が析出された。 調査表の集計結果より、 『「邦画」をどのように視聴しましたか』という問に対して、「レ ンタルビデオで」と答えた人が 52%と半数を超え、次いで「映画館で」が 29%、「テレビ 放映で」が 19%と大半が映画館ではなく、自宅で視聴している事が分かった。つまり、映 画館よりも自宅で見られることのほうが多い「邦画」作品は、手軽なものとして捉えられ、 自宅での「暇つぶし」として視聴されていることが、第二因子析出の理由と考える。 ドラマから映画化された作品を見た場合の利用と満足は以下のような構造となった。累 積寄与率は 60.55%であっ 表 3-18 ドラマから映画化された作品の利用と満足に関する因子分析の結果 25 h. 日常生活の悩みや問題を解決する助けになった g. 作品の中の人物を親しい友達や相談相手のように感じた i. 日常のわずらわしいことから一時的に逃れることができた b. 思わず興奮することがあった a. 楽しいと感じた f. その作品で知ったことを友だちと話題にできた e. くつろいだり、リラックスしたりできた c. 退屈なとき暇つぶしになった d. つい習慣で見てしまった 固有値 寄与率 累積寄与率 z 第1因子 第2因子 第3因子 0.8569 0.0268 0.1960 0.8537 0.1614 -0.0999 0.5574 0.2473 0.3106 0.1830 0.8308 0.0124 -0.0455 0.8081 0.0960 0.3404 0.6357 -0.1645 0.0341 0.1741 0.8048 0.2494 -0.1502 0.7027 -0.0028 -0.0281 0.4989 2.65 1.62 1.18 22.10 20.99 17.46 60.55 第一の因子は、テレビドラマ、邦画同様「社交・気晴らし」についての因子に現実 からの一時的な逃避が加わった。 z 第二の因子は、楽しみ、思わず興奮し、友達と話題にしたと「興奮共有」について の因子である。 z 第三の因子は、暇つぶしになる、つい習慣で見てしまったことから「暇つぶし・習 慣」についての因子である。 析出された三つの因子は、邦画を分析して導かれた三因子と同じだが、「興奮共有」の因 子が第二因子になった。先ほど邦画の場合と同じように、調査表の集計結果から、『「ドラ マから映画化された作品」』をどのように視聴しましたか』の問に対して「映画館で」と答 えた人が 42%、ついで「レンタルビデオで」と答えた人が 30%、 「テレビ放映で」が 28% と、邦画作品と比べて映画館で視聴する割合が高い。映画館へはよほど好きな人でない限 り一人で見に行くことは少なく、友人たちと共に見ることで、その興奮や感動を共有する ことが多くなるためにこのような因子が析出したのではなかろうか。また、たとえ「劇場 版」を視聴していなくとも、「ドラマ」を過去に視聴していれば、友人と価値を共有ことが できることもその一因といえよう。 3-2-3 利用と満足研究の結果と考察 12 の充足項目を 4 段階評定で回答してもらった結果は、上記のとおり「つい習慣で見て しまった」という習慣的な要素以外は、その平均値に差はないとされた。つまり、ドラマ 26 を映画化する場合、そのストーリーや内容に大きな変更を与えるのではなく、ドラマ放映 時に視聴者が求めていたものをそのまま映画化するのが良いだろう。その視点から、前述 の「明日があるさ」について考察するとテレビドラマ版は、リストラ寸前のサラリーマン たちが一致団結して仕事に取り組み、失敗続きだったが最後は成功をするというストーリ ーが、不況のあおりで中高年のリストラが深刻化していた時代背景ともかみ合って人気を 博した。しかし、劇場版のほうは一転、キャストも舞台もほぼ同じ設定だが、サラリーマ ンの主人公一人に焦点をあて、その主人公が夢を追い求めてロケットを飛ばすという、全 く違ったストーリーを展開してしまったところに興収面での失敗があるのではなかろうか。 因子分析の結果からは「ドラマ」 「映画」に共通して「社交・気晴らし」因子が第一因子 として抽出された。つまり、我々視聴者は「ドラマ」「映画」を「気晴らし」「現実からの 逃避」として、すなわち、その世界に没頭できるエンターテイメントとしてそれらを利用 しているといえる。また、「邦画」作品の第二因子に「暇つぶし」因子が着ているのに対し て、 「ドラマから映画化された作品」の第二因子には「興奮共有」因子がきていることから、 「ドラマから映画化された作品」は一般的な「邦画」とは異なる利用のされ方をしている といえる。つまりは、「ドラマから映画化された作品」は、ジャンルの上では同じ邦画とさ れるが、受けてである我々視聴者からは、別のものとして捉えられている。 よって上記の平均値の検定結果と因子分析の結果を合わせて、仮説2.「ドラマから映画 化された作品」の利用と満足は「邦画」よりも「テレビドラマ」に近い。」という仮説は指 示される。 4章 4-1 考察とまとめ 27 結論 これまでの考察から以下の命題については、 【1】:テレビドラマを見ていなくても、楽しめる“開かれた”内容にする。 【2】:テレビドラマを見ていなければ、楽しめない“閉じた”内容にする。 【1】を優先させることで元来のファンを失う可能性があり、興収面での失敗が危ぶまれ る。それよりも【2】に比重を置くことで、確実にファンを獲得することが望ましいと考 える。その中で、その作品にエンターティメント性をもたらすことで予備知識のない新た な顧客も楽しめる作品が出来上がるのではないか。 その成功例として昨年の「踊る大捜査線 THE MOVIE2 –レインボーブリッジを封鎖せ よ−」がある。前作から5年という期間があったのにもかかわらず、前作を大きくヒット させた要因として、まず劇中にファンにしか分からないような人物やストーリーを随所に 入れることで元来のファンを取り戻した。またその部分を多くすることによってコアなフ ァン層によるリピーターによって興収を伸ばした。かつての「タイタニック」や「千と千 尋の神隠し」というヒット映画には必ず2度3度と足を運ぶリピーターが存在したように、 大ヒットを記録するためにリピーターの存在は欠かせない。【2】を優先させることはこの 点で非常に重要となってくる。 次にストーリーの不変性が挙げられる。「事件を解決する」という刑事ドラマの定番のス トーリーに、 「現場の刑事対官僚」という日本の実社会の構図を分かりやすい形で投入した ことによって、だれにでも分かるストーリーを作り上げた。 そして最後にエンターティメント性があることである。どの世代も共感できるように作 られた作品といわるように、全ての観客が泣いたり、笑ったりできるという情緒的解放が あった。つまり、ストーリー性とエンターテイメント性を高めることで、【1】の新しい顧 客の獲得も可能としたのである。 すなわち「踊る大捜査線 THE MOVIE2 –レインボーブリッジを封鎖せよ−」は、もち ろん、ファン層自体が幅広いのもヒットの要因だが、【1】と【2】を過不足なく満たし、 ヒットしたケースといえるだろう。 本研究では、残念ながら「ドラマから映画化された作品」の回帰式は求められず、指標 を作ることができなかったが、利用と満足研究を用いることで作品の内容における部分で 考察はできた。つまり、裏を返せば内容に関する部分を変数化できなかったことが、有意 回帰式を求めることができなかった一因といえる。また、映画の興収を決定するいくつも の要因、監督やキャスト、広告など多くの要因を考慮しなかったことも一因であろう。し かし、繰り返しになるが、視聴者の視点から「邦画」と「ドラマ」、そして「ドラマから映 画化された作品」について検証し、 「映画化」する際のにおける「開かれた」作品にするか、 「閉じられた」作品にすべきかという点において考察できたことで、この研究は有意なも のだった思う。 28
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