ビッグデータ、ロボット…… 新技術による「認知症」解決を

ビ ッ グデータ、ロボット……
新 技 術による「認知症」解決を
高齢者が働くことは、本人が健康であれば良いことです。しかし、認知症になると認知や
行動が変わってしまい、そのことが自分でも分からないため、大きな社会問題です。認知症
の有病率は日本も欧米も似たような状況で、今後も認知症の人は増えると予想されています。
また、認知症の半分はアルツハイマー病です。
認知症の「コスト」ですが、日本においては、ここ数年ではGDPの4%、約16兆円です。医療、
介護などの公的部門によるコストが約60%、残りの40%ほどが、顕在化しないコストにな
ります。この水準は他の多くの先進国とほぼ同じ水準です。家族、特に女性がそのコストを
負担しているのです。途上国になるとその水準はもっと高く、約80%以上になるでしょう。
介護はどうしてもローコストで家族が担うケースが多いため、介護者の労働力、生活の質、
将来の見通しなども今後の問題になってきます。
黒川 清 氏
政策研究大学院大学客員教授
日本医療政策機構 代表理事
Adjunct Senior Research
Scientist of the Earth
Institute of Colombia
University(2011-)
Distinguished Research
Affiliate, The MIT Media Lab
(2011-)
一般社団法人グローバルヘルス
技術振興基金(GHIT Fund)
代表理事・会長
東京大学名誉教授
日本では「認知症サポーター」というプログラムを始めています。サポーター養成講座を受
講すると、支援者の目印となるブレスレットを渡されます。サポーターは会社や学校、コミュ
ニティで認知症の支援者となり、認知症の疑いがある人に注意を促し、介護者とも連携して
いきます。これが結構好評で、既に700万人ほどがサポーターとなっており、英国をはじめ
としていくつもの国でも注目されています。
2013年には「G8認知症サミット」が開催されました。英国には国営医療制度があるのです
が、高齢者の増加でファイナンスできるのか懸念が持たれています。こうした制度を公的部
門で維持できるのか、ということです。また、新薬の臨床試験を高齢者に定量的に実施する
のは簡単ではありません。高齢者が増えることを考えれば、新薬承認の基準を緩和してもい
いのではないか、特許期間も10年くらいに延ばせないのか、といったことが議論されました。
サミットでは英国が「世界認知症諮問委員会(World Dementia Council、以下WDC)」
の設立を表明しました。私も参加を打診され、2年間従事しました。今後はより独立した法
人になって、広く非政府団体、企業なども参加するようになるでしょう。また、「欧州アルツ
ハイマー型認知症予防コンソーシアム(EPAD)」という産官学のプラットフォームを創設し
て各国が課題を共有しながら取り組みを進めています。
バイオロジーやバイオテクノロジーなどと比べると、デジタルテクノロジーの進歩はめざ
ましいものがあります。そこでこれらを使った課題解決を考えてみましょう。
1点目はビッグデータの活用です。どうすれば認知症のリスクを低減できるのかを文献レ
ビューしています。しかし、こうしたことがビッグデータだとより明確に分かります。
2点目はソーシャルロボットです。こちらの進化も速く、介護者の生活の質を上げたり、コ
ストを下げたりといった様々なことが期待されています。
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3点目は脳・神経とデジタルテクノロジーの融合です。MITやハーバード大学などではバ
イオテクノロジーとデジタルテクノノロジーが結びついて、“Well-Being”に関するセミ
ナーが頻繁に開催されています。
認知症の要因にはいろいろな仮説(年齢、家族、アポリポタンパク質、教育、運動、喫煙、睡
眠、トレーニングなど)があります。ただ、こうした仮説を全てテストしなくても、ビッグデー
タを分析し、相関関係を見出すことにより、何ができるかもっと注目すべきです。「ネイ
チャー」誌によると、インフルエンザについてグーグルの検索ワード(インフルエンザ、熱、
アスピリンなど)を分析することで、アメリカ疾病予防管理センターの発表よりも早く、リア
ルタイムで病気の移動が分かるのです。
ソーシャルロボットや人工知能の研究者は、自分でプログラムを作って会話をしていく中
で、プログラムを入れ替えて改善しようとします。そうするとだんだん、人工知能が自分の
子供みたいになってくるそうです。ちなみに、ソフトバンクのPepperも自社で開発したの
はプラットフォームで、ソフトウェアアプリは公募してコンペティションで審査しています。
Pepperのソフトウェアアプリの第1回の募集で、トップに選ばれたのは認知症用のアプリ
でした。プラットフォームなので、アプリのバージョンが上がるにつれて、コミュニケーショ
ンの能力も、介護の能力も上がり、より人間に近いロボットになる、というわけです。
1週間連続して学生の脳の活動をモニターしたMITの論文によると、寝ている時や、研究、
宿題などの時間は脳の活動がさかんである半面、授業中やテレビを見ている時は、脳の活動
はほとんど見られない。おそらく受動的な刺激は脳の活性化にはならない。高齢者にずっと
テレビを見せているだけなのは最悪です。授業にしても、生徒に考えさせるなどが大事なの
ではないか、などいくつも仮説がでてきます。こうしたデータから、どういったソフトウェ
アを作るのが認知症対策にもよいのか、などのヒントがでてきます。
昨日、認知症の方と話す機会があったのですが、自分で絵を描くようになってから頭がすっ
きりする頻度が上がったそうです。あるいは、クリエイティブな仕事をしている人は認知症
になりにくい、ということが何となく分かっています。そういった、ヒントになる話を広く
共有する、脳科学、バイオとデジタル、材料とエンジニアリングなどを組み合せることから、
新しい認知症対策も出てくると期待したいものです。
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「ビッグデータ、ソーシャ
ルロボット、デジタル・テ
クノロジー、そういったも
のをいかに活用するかが、
認知症に関する課題解決
の鍵となるだろう」
黒川 清 氏
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