社長・社外取締役対談: ソニーフィナンシャルホールディングスの コーポレートガバナンスについて 多角的な視点に基づく議論を 醸成する風土が、 お客さまの今と未来を さまざまな角度からサポートする 金融グループの実現に向けた礎となる 社外取締役 山本 功 ソニーフィナンシャルホールディングスのコーポレートガバナンスについて、当社代表取締役社長の石井茂と、当 社社外取締役である山本功氏および国谷史朗氏が意見を交わしました。 ( 2016 年 5 月対談実施) 山本: 一方で、 親子上場会社の子会社であるSFHでは、 4割の少数 企業価値の最大化、そのための攻めと守り のガバナンス 株主の利益を棄損しないという観点は重要です。少数株主の立場に 石井: 取締役会では、意思決定はもちろんですが、社外取締役の ソニーが60%の株式を保有していますが、経営に 石井: SFHは、 立ったらどう見えるか、 そこは意識しながら議論に参加しています。 お二方を含め率直に意見を言い合い、議論するプロセスが非常に 関しては独立性が確保されています。ソニーとの距離感はバラン 重要だと考えています。お二人は、SFH の取締役会についてどの スが極めて重要だと思っています。 ような印象をお持ちですか。 いずれにせよ、私はステークホルダー間の利害の相違を解消す る最大のポイントは、企業価値の最大化にあると認識しています。 山本: 2011年に初めて取締役会に参加したときは、 とてもオープ これを実現するためには攻めと守りのガバナンスが不可欠であり、 ンにディスカッションが展開されているな、 と感じました。ガバナン お二方にはそのような観点からのアドバイスを期待しています。 スにおいてまず大切なことは情報の流通性ですが、SFHにはすで にそれがあり、取締役会、経営会議ともに、聞きたいことが聞ける、 山本: 攻めと守りでいえば、投資銀行出身者の私はどちらかとい 言いたいことが言える雰囲気でした。 うと攻めのタイプです。会議では、 こう攻めるべきではないか、新し いことができるのではないかという観点で質問を投じています。重 国谷: 私も取締役会の席に座った瞬間から自由に話ができると 要なのは良いリスクテイクかどうかということですが、SFHには、常 グループ会社出 感じましたね。役員は、社内、社外の区別もなく、 にそれを見極める視点があると思います。 リスクのとり方は会社の 身の方も遠慮なく話しておられ、他社と比べても非常に話しやす 業態や置かれている状況によって異なりますが、SFHには生命保 い会社という印象をもちました。親会社であるソニー株式会社 険事業、損害保険事業だけではなく銀行事業もあるので、 どちら (以下、 ソニー) との関係についても、日頃はその存在を意識する かといえば保守的な会社だと思います。 しかし、そのような中でも ことなく役員の職務を遂行できています。 54 Sony Financial Holdings Inc. アニュアルレポート(ディスクロージャー誌)2016 良いリスクであればとっていくことが重要であると考えています。 社外取締役 石井 茂 国谷 史朗 国谷: 私は企業法務を専門とする弁護士ですので、山本さんが になります。当委員会は、私たちに緊張関係を与えてくれるものだ 攻めだとすれば、私は守りの役割が期待されていると認識してい と認識しています。 持 続 可 能な社 会の実 現に向けて 代表取締役社長 ます。ガバナンス、 コンプライアンスに関して大きなリスクが発生 し、社会から批判されることがないよう、また、仮に批判を受けて 国谷: マネジメント候補者の選定は重要な課題であり、今回の社 も十分に説明できるよう、意識して職務を果たしています。 長を含めた役員構成については私も意見しました。例えば、グ 一方で私も事業提携や投資などにも携わっていますので、守る ループの中でどういう専門性を持った方が候補として上がってく だけではなく、攻めるべきところは攻め、最適なリスクテイキングを るのか、 グループ外部の方も候補者とする視点はあるのか、関心 しながら法令を遵守する、その線引きを意識して発言しています。 がありました。最終的に今回の選任は、 ご経験、 ご専門などさまざ まな観点から見て妥当だと思いました。 指名諮問委員会について ※FinTech (フィンテック) とは、FinanceとTechnologyを組み合わせた造語で、 ITを 活用して金融、決済、財務サービスなどにもたらされるイノベーションを指す。 山本: 昨年12月に指名諮問委員会が発足しましたが、 どのような マネジメント層を作っていくかは非常に重要な議題です。FinTech※ の登場など、事業環境に大きな変化が生じている中で、当委員会 ど は、SFHをどのような会社にしていくのかという戦略に基づき、 日本銀行によるマイナス金利政策導入に 直面して のような人材が必要なのかを議論し、 また、それに対する継続的な 国谷: 2013年に取締役になって以来、会社は安定し、業績も順調 レビューを行う機能を担っています。 に伸びてきました。 しかし、今回の日本銀行によるマイナス金利政 石井: 指名諮問委員会の仕事の第一弾が私の指名であったと思 れたケースだと思います。 策導入後の環境は、私が見る限りでは初めて厳しい環境下におか います。当委員会は指名をして終わるのではなく、ほかにもうひと つの重要な役割があり、それが年に1 回、私のパフォーマンスを説 石井: 2016年1月末に日本銀行によるマイナス金利政策の導入の 明し、 レビューをいただくことであると理解しています。取締役の 決定があったので、2週間後に開催された取締役会で議論をお願い 任期は1 年で株主総会で判断していただくことになりますが、それ しました。まず、 やるべきことは、 インパクトがどのくらいあるのかの 以前にレビューの結果が良くなければそこでふるいにかかること 事実認識、そして、 どんなスピードで対応策を打つかの検討でした。 Sony Financial Holdings Inc. アニュアルレポート(ディスクロージャー誌)2016 55 山本: 運用商品の仕入れに関しても、保守的なものから対象を 広げるか、 また、運用のグローバル化をどうするかなどもかなり喫 緊の課題だと思います。取締役会で質問をしたら、すでに皆さん がそれらの課題をとらえていることが確認できました。これからも フォローアップしていきたいと思います。 石井: 取締役会では、 どの角度からどういう質問をするのか、そ の関心や着眼点自体が答えを生み出すので、社外取締役の方に 質問していただくことは大変重要であると感じています。 ※MCEV=市場整合的エンベディッド・バリュー。生命保険会社の企業価値を表 す指標のひとつで、評価時点における今までの事業活動の成果(修正純資産) と、生命保険会社の保有する保険契約から見込まれる将来利益(保有契約価 値) との合計。 山本: 2016 年 3 月期の業績にも、早速、MCEV ※の低下という非 常に象徴的な影響が現れたように、マイナス金利政策の導入は重 大な事態です。対応策としては、商品構成を変える、保険料を変え 嵐 を越えて次なるステージへ るなどの短期的なものと、より構造的なものの両方があり、その 中には中期経営計画の見直しなども含まれます。常に検討を継続 石井: 今はまさに嵐のようなものです。この嵐を乗り越える装備 する姿勢で臨むことを取締役会で確認しました。 をできたものだけが、その次の地図を描ける、そういう意味では 一方、マイナス金利政策導入後の環境はあくまで異常事態で チャンスでもあると私は思います。 あって、 ここで構造的な変革をするのは早計という見方もありま 特に、前進する力を蓄える筋肉のような FinTechも進化しつつ す。特に生命保険事業の場合は、何十年先の価値を見ており、そ ありますので、変わる というより 変える ときなのです。ソニー の間ずっとマイナスが続くことはあり得ない、MCEVは長期的には 銀行の開業時がFinTech 1.0といわれますが、そのときに比べて 問題がないというスタンスもとれます。そのような検討を含めて、 今は ITを導入できる部分が広がっています。その中でソニーフィ これを機に経営基盤をもう一度見直すべきときだともいえます。 ナンシャルグ ル ープは 3 業 態を持 つメリットを活 か せるの か 、 取締役会では、執行側のメンバーが今回の非常に厳しい事態に も真摯に取組んでおられ、さらなる飛躍のチャンスに転換できる のではと期待しています。 FinTechによる挑戦にどう対処するのか、いずれも非常にクリティ カルな問題です。 現在の事業環境はかなり険しいものですが、私がソニー銀行を 作ったときも、ネット銀行なんて不可能だと周囲から大変な逆風 ど 石井: 改めて言うまでもありませんが、金融機関の経営とは、 のようなリスクをとって収益を上げていくかに尽きます。リスクに は信用リスク、市場リスクなどいろいろありますが、 どこにリスクを とるかは最大の課題であり、そこにこそ利益の源泉があります。 SFHはこれまで金利リスクはほとんどとらない方針だった訳で すが、 これだけ金利が下がってしまうと、それでは収益が上げられ ません。お客さまの資産を守ることが私たちの第一の使命です が、マイナス金利はそれを減らすことを意味します。そこをどうク リアするのかが最大の課題です。あの日の取締役会では、商品構 成や保険料の見直しのタイミング、今後予定されている標準利率 改定の見通しなどを含め、一時的な対応ではなく将来を見据えた 議論を行いました。 56 Sony Financial Holdings Inc. アニュアルレポート(ディスクロージャー誌)2016 を受けながら非常に細い道を通り抜け、今に至っています。また をつけるのではなくコストを合理化し、安くしていく部分のメリハ 今回も、細い道を通り抜けることができるのではないかと思って リが重要です。 います。 山本: デジタル化が進めば進むほど、一方のヒューマンタッチが 非常に大事になってきます。ソニー生命の強みであるライフプラ ンナーの対面サービスを、次の時代にもより強くすることができ ると私 は 思 い ます 。損 害 保 険 も 銀 行 も デジタ ル 化 の 一 方 で ヒューマンタッチを進めていく。そのバランスの判断が重要です が、ソニーフィナンシャルグループにはそういう体制を実現する 人材が揃っています。グループ各社間の人材交流も含め、具体的 に議論をどう進めていくかは今後の課題であり、グループシナ ジーを探り、ビジネスチャンスを掴みにいくフェーズにあると思 います。 持 続 可 能な社 会の実 現に向けて 石井: 嵐のときこそ、私たちの提供価値がどこにあるのかという 原点に立ち返ることが重要です。折しも2016 年 5 月から改正保険 国谷: リーマンショックのときにも、金融機関のみならず各業界 業法が施行され、商品に関する十分な情報提供やお客さまの意向 の売り上げが何割も落ち、大変な嵐が吹き荒れましたが、今の状 把握などが義務づけられましたが、それこそがソニー生命が長年 況も似ています。嵐を耐え忍ぶだけでなく、嵐が去った後に伸びる やってきたことであり、私たちの正しさが証明されたと感じます。 会社かどうかを判定する最大のストレステストといえます。それは 絵は具体的な絵があって初めて美しいかどうかが分かります。 つまり、構造変革などのさまざまな手を打つチャンスでもありま ですから、私たち執行側は、事業を具体的な形で提案する、すなわ す。順風のときには改革しようとしても、その必要はないという意 ち絵を描いて皆さんの判断を仰ぎます。社外取締役のお二人に 見が必ず出るものです。今だからできる改革があるのです。 は、絵を仕上げていくプロセスで必要な議論を持ちながら、きち んとチェックしていただく、ガバナンスとはそういうことなのだと 山 本: F i n T e c h により従 来 型 の 伝 統 的な金 融 サ ービスのバ 思います。 リューチェーンが分解され、ユーザー・ニーズに応じて再結合さ れ、新たなビジネス・モデルや商品・サービスが多々出てくるでしょ 国谷: ひとつの絵を美しいと感じるかどうかは人によって違いま う。例えば、 ウェアラブルデバイスを使って健康状態を見ながら保 すから、石井社長が美しいと言っても、私たちから見ると全然美し 険料を決めるといった仕組みが今後、実現するかもしれません。 くないという場合もあると思います。時には耳が痛いことを言う 保険商品のプライシングの基準が大きく変わり、 しかもリアルタイ かもしれませんが、そういう発言が自然に出て、議論が深まり、結 ムで変動する、 このようなイノベーションの可能性についても、私 果としてその議論が良かったと思えるような、そういう関係であり はSFHに大きく期待しています。 続けたいですね。 石井: FinTechとは「早く、安く、便利に」という手段だととらえて 石井: ソニーの設立趣意書の最初に「自由豁達にして愉快なる います。保険のバリューチェーンには業務がたくさんありますが、 理想工場の建設」という言葉があり、 この自由豁達の理念が当社 手間と時間が大きくかかる部分に集中してFinTechの導入が始ま グループ各社の企業理念にも入っています。SFHにはこの理念が ると思います。まさに、金融サービスのコスト構造の劇的な変化で あり、それが最初にお二方がおっしゃったオープンな議論につな す。 しかし、サービスの最終的な価値は人が作っていくことは変わ がっています。 らないでしょう。付加価値を高めて収益を上げていく部分と、価値 今後も引き続き、 よろしくお願いします。 Sony Financial Holdings Inc. 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