ナノインプリントに新風 大面積化で用途も拡大

解説1
解 説
1
ナノインプリントに新風
大面積化で用途も拡大
半導体製造用途も技術向上で復活か
微細パターンを彫り込んだ判型を基板などにスタンプのように押すことで
そのパターンを転写する技術「ナノインプリント」の実用化例が増えている。
大面積の判型を低コストで作製する技術の開発が進んだことが背景にある。
さまざまな新用途での実用化が始まり、半導体の微細加工への適用も視野に入りつつある。
(b)800mm×600mmの大面積モールド(イノックス)
(a)1500mm×1300mmのフィルムモールド(綜研化学)
(c)微
細加工された1100mm×1300mmのガラス板
(SCIVAX)
最近開発された大面積モールド(a、b)と、大面積モールドで作製
された加工ガラス板(c)
。
(写真:
(c)はSCIVAX)
NIKKEI ELECTRONICS 2014.3.17
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49
Feature
あたかも印鑑やスタンプを押すよ
使われる可能性が出てきた。
うに、微細パターンを彫り込んだ判
造受託サービスの受注が増え、2013
年は特に伸びが大きかった。2014年
型(モールド)を基板などに押し付け
好調のカギは大面積
はさらに加速しそう」
(SCIVAX 代
ることでそのパターンを大量に転写
ナノインプリント技術の新規用途
表取締役社長の田中覚氏)とする。
す る 技 術「ナ ノ イ ン プ リ ント†」
。
開拓やモールドなどの大面積化を進
新規用途とは例えば、液晶パネル
2014年は、この技術にとって二つの
めるメーカーと、ナノインプリント技
の反射防止層形成、偏光フィルム、有
方向で大きな節目となりそうだ。
術の当初の用途である半導体製造向
機ELパネルの光取り出し効率の向
一つは、さまざまな新規用途の開
けに開発を進めてきたメーカーでは、
上、自動車の窓ガラスなどのはっ水
拓と大面積の判型の開発が進んだこ
前者の勢いが顕著だ。
加工、微細なマイクロレンズアレーか
とで、用途が急速に拡大し、量産が
大面積モールドを作製する事業を
ら大型レンズまでの光学部品、など
広がること(前ページの写真、図1)
。
手掛ける綜研化学 新規事業部 NIP
である。立体的な細胞の培養といっ
もう一つは、最先端の半導体製造
製品プロジェクト 営業担当 主査の
た、ナノインプリント技術によって初
技術として実用化が始まる可能性が
吉原功氏は、
「2012年後半から急激
めて開拓された用途も多い。
出てきたことである。キヤノンが
に用途が広がってきた。量産の案件
2014年2月に米国のナノインプリント
も増えている。2014年はもっと広が
半導体向けは長い冬が終わるか
装 置メーカーMolecular Imprints
りそうだ」という。同様に、新規用途
ナノインプリント技術の本来の用
(MII)社の買収を発表。2015年にも
向けにナノインプリント装置を開発
途である半導体向けやHDD向けでも
NANDフラッシュメモリーの製造に
するSCIVAXも、
「3年ほど前から製
長い冬が終わる可能性がある。こう
した用途を狙うメーカーの多くは、こ
れまで想定通りに業績を伸ばせず、
大きい
1m角
ナノインプリント事業を見限ったり、
比較的最近に開発を開始。
多くが量産、
または量産目前に
休眠させたりするメーカーもあった。
理由は、光リソグラフィなどの既存
の半導体製造技術に対して大きな優
モールドの
大きさ
位性を示せなかったからである。電
細い
子ビーム(EB)リソグラフィ†で製造
パターンのハーフピッチ
10nm
HGST 社が
開発中
20cm角 100nm
1000nm
太い
するマスターモールド†の製造コスト
が高く、インプリントの技術的課題も
10年ほど前から
開発が進む
多かったことが大きく響いた。
キヤノン/MII社、
Samsung Electronics社などが開発中
この状況が変わりつつある。後述
1cm角
小さい
図1 ナノインプリントは大面積用途が急速に拡大
MII:Molecular Imprints Inc.
ナノインプリントの主な用途を示した。当初は半導体製造プロセスの一つとして開発されたが、
最近は新しい、特に大面積であることが強みとなる用途が急速に増えて、一部は実用化が始ま
っている。
するように、技術がこの3年ほどの間
で急速に改善したからだ。キヤノン
は2014年4月にMII社を100%子会
社にする。HDD大手の米HGST社
も、次世代HDDの開発にナノインプ
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解説1
(a)モ
スアイフィルムを実装した70 型液晶テ
レビ(シャープ)
リント技術を使う可能性を2013年2
(b)モ
スアイ用モールド(キヤノン
マーケティングジャパン)
月に示した。
大小の液晶パネルへ採用へ
ナノインプリント技術の数多くの
大面積用途のうち、量産で先頭を走
っているのが、液晶ディスプレーの反
(c)小型液晶パネルでもモスアイ採用の動き
射防止用パネルである(図2)
。
これまでの反射防止技術
パネル表面には「モスアイ
(蛾の目)
構 造」と呼ば れる、ハーフピッチ
(HP)†が100nm前後の突起が並ぶ構
造が形成されている。この構造で屈
表面には、
モスアイ
フィルムは使いにくい
フロントカバー
フロントカバー
光学粘着層
空気層
偏光板
偏光板
液晶モジュール
液晶モジュール
製造時に気泡が入ると、
やり直しがきかない
折率をゆるやかに変化させることに
今後
モスアイ構造
パネル内部に使うことで、
破損などの心配がない
図 2 液晶テレビではモスアイが普及段階に
よって、光の反射率が大幅に低減す
反射防止効果を狙ったモスアイ構造のフィルムやガラスが、液晶パネルへ採用され始めた。大
型テレビだけでなく、小型のスマートフォンやタブレット端末でも、パネル内部での採用が検討
されている。
(写真:
(b)はキヤノンマーケティングジャパン)
る。反射防止層がない場合は数%あ
った反射率が、この技術で0.1%にな
る。生体模倣と呼ばれる技術の一つ
で、ナノインプリント技術と親和性が
造が壊れてしまう。指で触ると指紋
外面でなく、内側に利用する。液晶
高い(p.53の「トンボやチョウの羽、
が付きやすい課題もある。競合とな
パネルから出る光が、ディスプレー内
ハスの葉が蛾の目に続く」参照)
。
る反射防止フィルムが幾つか登場し
部で反射したり拡散したりするのを
モスアイ構造を実現するナノイン
ているのも理由の一つである。
減らす目的である。
「最近まで、粘着
プリント技術の実用化ではシャープ
この状況も今後は変わりそうだ。
材料で空気層を埋めることでパネル
が先陣を切った。2012年10月に発売
スマートフォンの小型ディスプレー
内部での反射を減らしていたが、製
した大型液晶テレビにこの技術を利
にモスアイ構造のフィルムやパネル
造時に気泡が混じることが課題だっ
用。さらに2013年5月に発売した4K
の採用を検討する動きが出てきたか
た。代わりにモスアイ構造のフィル
テレビなどにも標準的に同技術を適
らだ(図2(c)
)
。指などによる摩耗や
ムが検討されている」
(イノックス 機
用している。
汚れを防ぐために、ディスプレーの
能性フィルム開発担当 井上智晴氏)
。
ナノインプリント=モールドと呼ばれる、微
細な凹凸などのパターンを彫り込んだ判型を、
樹脂を薄く塗布した基板に圧着させ、パター
ンを樹脂に転写する手法。転写時に熱を加え
て熱可塑性樹脂を変形させる場合は「熱ナノ
インプリント」
、紫外線(UV)
硬化樹脂にUV
を照射して硬化させる場合は「光ナノインプリ
ント」と呼ぶ。熱ナノインプリントはホットエ
ンボスとも呼ばれる。米Prinston University、
ProfessorのStephen Y. Chou 氏 が1995年
に、熱ナノインプリントで10n 〜 50nmという
高解像度が得られることを示し、画期的な微
細加工技術として脚光を浴び始めた。
†
同技術を開発するメーカーはシャ
ープ以外にも複数ある。ところが、現
時点では同技術を利用しているディ
スプレーメーカーは他にはない。モ
スアイ構造をフィルム上に転写した
場合に大きな課題があるからだ。微
細な凹凸の構造であるため、摩耗に
弱く、爪でひっかいたりするとその構
†
電子ビーム(EB)
リソグラフィ=エネルギー
の高い電子ビームを走査して微細パターンを
基板に彫り込む技術。装置は非常に高価で、
しかも加工に時間が掛かることが課題である。
マスターモールド=ナノインプリント向けに、
最初に作製する判型。これを用いて複製され
た判型はレプリカモールドと呼ばれる。
†
ハーフピッチ(HP)
=周期的な構造を備えた
パターンの周期間隔(ピッチ)
の1/2の長さ。
パターンの凹凸の凹構造または凸構造の寸法
の目安になる。
†
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51
Feature
(a)
陽極酸化法でモールドを作製
(三菱レイヨン、
大日本印刷、
シャープなど)
図 3 大型モールドを作る
技術が続々登場
Al2O3 空孔
C
シャープが
大型液晶テレビの
モスアイフィルムに採用
Al
酸性の電解液
Al
(b)
モールドの複製をつなぎ合わせて1枚の大面積モールドを作製
(綜研化学)
3 ∼ 5m/分
でインプリント可能
(最長2000mの実績)
マスター
モールド
レプリカモールドを
作製
レプリカモールドを
つなぎ合わせる
大面積モールド
(最大1.6m×1.3m)
(c)
レーザー光の干渉縞で大面積の基板をパターニング
(イノックス)
干渉縞
同一光源の光
レーザー光源
ガラス基板と
成形用樹脂
光源から基板を離すほど、
モールドの寸法を大きくできる。
(最大で50 型)
レンズ
(d)
多値レーザーでレジストを照射
(ダイキン工業)
多値レーザー
ガラス基板
数 cm 角以上の大型のモール
ド(型)を作る技術 5 種類を示
した。シャープのモスアイフィ
ルムは、大日本印刷が陽極酸
化法で作製している(a)
。綜研
化学は小さなモールドをつな
ぎ合わせて最大では1600mm
×1300mmのフィルムモール
ドを作製(b)
。イノックスは光
の干渉縞を利用して大型化を
実現(c)
。ダイキン工業は多値
レーザーを利用(d)
。東京理科
大学の谷口研究室は、モスアイ
構造のモールドを、炭素シート
に酸素イオンビームを照射す
ることで作製する(e)
。
(写真:
(d)はダイキン工業、
(e)は東
京理科大学)
ロール型Niモールド
パターニングしたレジストを
円筒形にしてNi電鋳
30cm幅
1m2/分でインプリント可能
レジスト
(e)
ガラス状の炭素材料シート
(GC)
に酸素イオンビームを照射
(東京理科大学 谷口研究室)
ECRイオン源
作製したモスアイ用モールド
三井電気精機製の装置
酸素イオン
ビーム
約3m/分でインプリント可能
(モスアイ以外では18m/分の例も)
グラッシーカーボン
(GC)
「圧倒的に安くなる」
ECR:electron cyclotron resonance
積で一括製造できるため単価が安く
(4)の点では、半導体向けのモール
大面積に適用するナノインプリン
なる、
(4)モールドの製造コストが大
ドは非常に高い。EBリソグラフィを
ト技術の実用化が、先発の半導体製
幅に低い、といった点である。
使って作製する2〜3cm角のマスタ
造向けを差し置いて進んでいるのは
SCIVAXの田中氏は、
(3)〜(4)と
ーモールドは1枚1000万円前後で、
理由がある。
(1)必要とされるHPが
いったコスト面のメリットが特に大き
作製時間も1枚1日以上かかる。実際
100nm程度かそれ以上の用途が多く、
いとする。
「大面積の加工済み基板か
にはこのマスターモールドからその
10〜20nmの半導体製造向けより技
ら多数の小型パネルを得られるため、
複製となるレプリカモールドを作製
術的に容易、
(2)半導体製造向けで必
パネル1枚の製造コストは、射出成形
し、それをインプリントに用いる。と
要とされる精密な位置合わせが不要
並みかそれ以下と非常に安い」
(同社
ころが、1枚のモールドは欠陥が次第
な用途が多い、
(3)小型パネルも大面
田中氏)という。
に増えることなどから100〜1000回
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解説1
トンボやチョウの羽、ハスの葉が蛾の目に続く
微
細パターンの形成を容易にするナノインプリント技術は、
生体模倣(biomimetics)
と呼ばれる技術の実現技術の
一つになっている
(図A-1)
。蛾の目の表面構造を基に反射防止
フィルムが生まれたのはその代表例だ。
最近ではイルカの肌、セミやトンボの羽の表面構造が、非常
に強い抗菌または殺菌効果を示すことが分かってきた。この表
面構造を低コストでフィルムなどに再現し、病院の壁や白衣な
どに実装できれば、院内感染症などを大きく減らせる可能性が
ある。
チョウの羽にある鱗粉には、やはり微細な構造があり、それ
がチョウの美しい色を生み出している。これは「構造色」
とも呼
ばれ、MEMS技術で既に新型ディスプレーに応用されている。
次に有望なのは、はっ水性が非常に高いハスの葉の表面構
造の応用である。実際、
「自動車のフロントガラスなど向けにナ
ノインプリント技 術で、はっ水 加 工する案 件 が 進 行 中」
(SCIVAX)
という。
(a)モスアイ構造(三菱レイヨン)(b)チ
ョウの 羽 の 構 造 色(c)赤
トンボとその羽の
(Qualcomm 社)
表面構造
(d)はっ水加工したSi 基板(ダイキン工業)
図 A-1 反射防止、構造色、そして抗菌作用に期待集まる
既に実用化、または注目されている生体模倣技術を示した。モスアイ構造は主に反射防止技術として使われている(a)
。一方、チョウの羽にある鱗粉な
どが備える構造色をヒントにしたMEMSディスプレーも2013 年末に実用化された(b)
。最近になって、イルカの肌やセミ、トンボの羽の表面の構造が、
強い抗菌や殺菌の作用を備えることに注目が集まっている。
(写真:
(a)は三菱レイヨン、
(c)はSwinburne University of Technology)
ほどしか利用できない例が多く、コス
部 CB販売課 課長の二五元修氏)
。
面積化できる」
(同社の井上氏)技術
トの低減には限界があった。
このため、モールドの価格は1枚60万
で最大50型のモールドを作製する。
円からと半導体製造向けと比較する
ドイツFraunhofer Instituteからスピ
大面積モールド技術が続々
と破格に安い(図2(b)
)
。
ンアウトしたメーカーであるドイツ
一方、大面積モールドの作製方法
綜研化学は、1枚の小さなマスター
holotools社が開発した「干渉リソグ
はさまざまで、製造コストはEBリソ
モールドからレプリカモールドを多
ラフィ」と呼ぶ技術を利用する。1本
グラフィに比べて桁違いに低い(図2、
数作製し、それらを精密につなぎ合
のレーザー光を二つに分け、それを
図3)
。例えば、シャープはモスアイ構
わせて最大1.6m×1.3mのモールドフ
再度重ねてできた干渉縞をパターニ
造のマスターモールドを陽極酸化法
ィルムを作製する。しかも同社が作
ングに用いる。面積を拡大するには、
という、めっきに近い手法で作製し
製するモールドフィルムは「インプリ
基板を光源から離すだけで済む注1)。
ているとみられる。
ントの繰り返しに非常に強い」
(東京
いわゆる拡大投影である。一般的な
キヤノンは、半導体製造向けとは
理科大学 基礎工学部 電子応用工学
光リソグラフィが縮小投影、半導体
別に作製しているモスアイ構造を備
科 准教授の谷口淳氏)と評価が高い。
製造向けナノインプリントでは等倍
えたモールドを、
「KrFなどの(数世
代前の)露光技術で作製している」
投影でパターンを転写することと対
簡素な手法で量産性を向上
(キヤノンマーケティングジャパン 産
イノックスは、
「あたかもプロジェ
業機器販売事業部 プロセス機器営業
クターで投影面を拡大するように大
注1)ただし、面積を拡大すると光のエネルギ
ー面密度が低下するため、照射時間が長くな
る課題がある。
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53
Feature
(a)S
CIVAXのインプリント装置が扱う基板寸法とスループッ
トの推移
(b)新用途も続々と開発
直径数 cmのレンズ両面に反射防止加工 マイクロミラーシートで空中映像
100
モスアイ
なし
スループット
(m2/ 時)
UniSurf1000
(1100×1300mm)
UniSurf-F700
(410×500mm)
G5ガラス基板の
直接加工例
10
UniSurf300
(A3)
1
FLAN700
(300×300mm)
FLAN300
(A4)
2003年ごろ。
卓上の機器
だった
0.1
10
X500
(8'')
X300
(6'')
FLAN200
(6'')
ウイルス検知用
フォトニック結晶シート
X100-U
(4'')
100
1000
1万
3次元培養した人間の子宮がん細胞とナ
ノインプリントで作製した基板(NCP)
10万
(cm )
成型面積
2
図 4 大面積化と同時に次々に新用途を開発
SCIVAXのナノインプリント装置の量産性の向上(a)と、同社が開発に
携わった新用途群(b)を示した。ガラス基板への直接ナノインプリント
技術や、大阪大学と共同でインフルエンザウイルスの検知技術を開発
したほか、レンズの曲面にナノインプリントを施す技術、立体タッチパ
ネルを実現可能にする技術、3次元の細胞を培養し、薬の評価などがで
きる技術などを開発している。
(図と写真:空中映像以外は同社)
NCP:Nano Culture Plate
照的だ。
のナノインプリントを18m2/時の速度
る案件での量産が決まった」
(同氏)
。
さらに簡素な手法もある。ダイキ
で 実 現 す る 装 置 を 開 発 し た(図4
同社は、インフルエンザウイルスを
ン工業は、焦点が複数個ある多値レ
(a)
)
。
ーザー光をレジストに照射するだけ
検知する技術や、立体的な細胞を培
養する技術も開発注2)。こうした用途
で、太陽光発電向けのマイクロレン
新用途を矢継ぎ早に開拓
専門の会社「SCIVAXライフサイエ
ズアレー用モールドを作製する方法
モールドの加工技術の進歩はナノ
ンス」を2013年6月に設立している。
を開発した。
インプリントの用途をいっそう広げ
旭化成イーマテリアルズはナノイ
東京理科大学の谷口氏の研究室
ている。従来のナノインプリント技
ンプリント技術でフィルム上に形成
は、酸素イオンビームをアモルファス
術は平坦な基板しか加工できなかっ
した凹凸パターンの凸部分にAlを積
炭素のシートにシャワーのように照
たが、SCIVAXは曲面でも加工でき
層する技術を開発。反射型ディスプ
射するだけでモスアイ構造のモール
るようにすることで、カメラ向け光学
レーであるLCOS†などに向けた反
ドを作製できる。同研究室は、モー
レンズの両面を反射防止加工するこ
射型偏光フィルム「Wire Grid Po-
ルドのパターンによっては18m/分と
とに成功。
「レンズ内面での反射がな
larizing Film(WGF)
」に適用した
いうスピードでインプリントできるロ
くなり、ゴーストなどが消える」
(同社
ール・ツー・ロール(R2R)方式の装
の田中氏)
。マイクロミラーの反射を
置も開発した。
利用した空中映像も実現した。画面
ナノインプリント装置の量産性を
から離れた位置の指を検出できる3次
いち早く高めてきたというSCIVAX
元タッチパネル技術と組み合わせれ
は最近、1100mm×1300mmの第5世
ば、空中映像を触ったかのように操
代(G5)ガラス基板への微細パターン
作できる。
「分野は明かせないが、あ
注 2)インフルエンザウイルスの検知は、シー
ト表面にナノインプリント技術でフォトニック
結晶構造を形成すると、ウイルスの有無でシ
ートの光反射率が大きく変化することを利用
する。
LCOS(liquid crystal on silicon)
=Siチッ
プ上に作製された超小型液晶ディスプレー。
プロジェクターやカメラのビューファインダー
などに用いられている。米Google社のHMD
「Google Glass」も、LCOSを用いているもよ
うである。
†
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解説1
反射型偏光フィルム(旭化成イーマテリアルズ)
特長
耐熱性、耐湿性が高い
(図5)
。可視光から赤外線まで幅広い
用途
波長の偏光分離が可能なことと、耐
・液晶プロジェクター
・カメラのビューファインダー
(LCOS利用)
・HMD(LCOS 利用)
・HUD
熱性が高いことが特徴だという。
最近になって同社は、R2R方式で
WGFを量産できる体制を整えた。既
にミラーレス一眼カメラのビューファ
100µm 厚のPETフィルム上に
ナノインプリント技術などで
Al線を形成
インダーなど向けに出荷している。
今後は「ヘッドマウントディスプレー
(HMD)のLCOS向けとしての開発
を進めている。現状でも数十万個の
オーダーに対応できる」
(旭化成イー
図 5 HMD 市場の急拡大に備える
旭化成イーマテリアルズが開発した、ナノインプリント技術で作製した反射型偏光フィルムを
示した。ロール・ツー・ロールでの製造が可能で、今後予想されるLCOSを用いたHMD 市場の
急拡大にも対応できるという。
(写真:同社)
マテリアルズ 電子・機能製品事業部
WGF開発マーケティンググループ
主査の生田目卓治氏)という。
ト技術を活用することで、変換効率
インプリントで制御して、太陽電池に
や発電量を高める試みが世界中で進
入射した光の利用効率を高めようと
発電量を5%以上増やす
んでいる。
するもの。もう一つは、パネル表面
大面積用途の中でも有望な用途の
開発の方向性は大きく二つある。
に反射防止層や光閉じ込め層を形成
一つが太陽電池だ。ナノインプリン
一つは、pn接合の界面の形状をナノ
して、より多くの光を入射させること
作製したフッ素系マイクロレンズアレーフィルム
図 6 拡散光を集光して太 (a)
陽電池の発電量を向上
60
ピッチは
0.28µ ∼ 36µm
40
20
0
透過率は、
ピッチにはほとんど
依存せず、
深さに大きく左右される
深さ
(µm)
深さ
断面
(c)
擬似太陽光に対する太陽電池の発電量の比較
2.5
0.2
短絡電流値: フィルムあり
フィルムなし
2.0
1.5
0.1
1.0
0.5
0
90
フィルムによる短絡電流の増加率
短絡電流値
(A)
80
ピッチ
短絡電流値の増加率
(%)
入射角5°
の透過率
(%)
ダイキン工業が開発中の太陽
電池向けフッ素系マイクロレ
ンズアレーフィルムとその効
果を示した(a 〜 c)
。5 〜10 度
といった低い角度からの入射
光を発電につなげることで、太
陽電池の年間発電量がソーラ
ーシミュレーターによる評価
では4.6%、実測では5%以上
マイクロレンズの寸法と光透過率の関係
増加したという。
(図、写真:同 (b)
100
社)
上から見た様子
発電量は、
年間4.6%増の見込みに
80
70
60
50
40
30
20
太陽光
(直射光)
の入射角
(度)
10
0
0
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55
Feature
(a)東
芝機械のLED 用サファイア基板向け
ナノインプリント装置「ST50S-LED」
(b)サファイア基板(PSS)の例
止フィルムの価格は1000〜1500円/
m2にしてくれと言われる。この価格
の実現は、現状方式では厳しい」
(ダ
イキン工業 化学研究開発センター
基盤技術Gの佐藤数行氏)という。
PSS:patterned sapphire substrate
(c)
モールドの一般的な使い方
レプリカモールド
マスターモールド
インプリント
(1枚のレプリカモールドを
100 ∼1000回使う)
(d)
東芝機械のモールドの使い方
欠陥が多い
マスターモールド レプリカモールド
フィルム
ナノインプリント技術による微細
パターン形成技術は、LEDや有機
インプリント時に
モールドは
使い捨てに
ロール・ツー・ロールで
モールドを大量に生産
LED 用モールドをR2R で量産
欠陥少ない
図 7 LEDの発光効率向上を低コストで実現
東芝機械が開発した、LEDの発光効率向上技術とその装置を示した(a 〜 d)
。ナノインプリン
ト技術でGaN結晶を成長させるサファイア基板をパターニングすることで、反射率の向上や結
晶欠陥の低下などを実現。LEDの発光効率は20 〜 30%増加したという。加えて、モールドを
ロール・ツー・ロールで量産することで低コスト化と高品質化を実現したという。
(写真:同社)
ELなどの発光効率向上にも有効だ。
東芝機械は、LEDの発光効率を20
〜30%高める技術を、専用のインプ
リント装置も含めて開発した(図7)
。
サファイア基板の表面に凹凸パター
ンを形成した「PSS(patterned sapphire substrate)
」を用いることで、
反射率などが高まり、発光出力が向
上するという。
反射防止に利用したのは、突起が
課題は、モールドの欠陥数をいか
並ぶモスアイ構造ではなく、レンズ形
に減らすか、既存のステッパーによる
状のパターンである。モスアイ構造
パターン形成と比べていかにコスト
は、約30°
以下の低い角度からの光に
メリットを出すかだった。
「LEDは、
は有効でないからだ。一方、レンズ
基板に欠陥があると光らない。一方、
形状のパターンでは、5°
という非常
モールドはコストを下げようとして
に低い入射角の光も100%近く透過
繰り返し使うと欠陥がどんどん増え
する。この結果、日の出日の入り間際
る」
(東芝機械 ナノ加工システム事業
や曇天の日の発電量が8%前後向上。
部 副事業部長の後藤博史氏)
。
年間では5%以上の発電量増加を確
同社はこの二つの課題に、R2R方
認した 。
式で大量に複製した樹脂モールドを、
課題は製造コストだ。ダイキン工
使い捨てにすることで対処した。
「4
を狙う方向である。
業は、このパターンの大面積かつロ
インチウエハーで5米ドル以下という
ダイキン工業は、後者の方向性で
ール状のモールドを低コストで作製
コスト目標にメドが付いた」
(後藤
反射防止フィルムを開発し、太陽電
する技術を開発(図3(d)
)
。R2R方式
氏)
。樹脂モールドは、必ずしも平ら
池の年間発電量を実測値で5%以上
で1m /分の生産性を確認した。しか
ではないサファイア基板に適してい
増やすことに成功した(図6)
。
し、
「太陽電池メーカーから、反射防
るというメリットもあるという。
GaN
転位面密度
3×107 /cm2
ナノイン
プリントで
形成
格子チャネル
(87nm幅)
SiO2 層
GaN
転位面密度
5×109 /cm2
図 8 高品質 GaN結晶の作製にも活躍
早稲田大学 水野潤氏の研究室と古河機械金属な
どがナノインプリント技術を基に作製した、高品
質GaN結晶を示した。GaNの結晶成長をスリッ
トを持つSiO2 層で遮ることで、転位が大幅に低
減するという。
(写真:早稲田大学)
注3)
2
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解説1
(a)MII 社の J-FIL 技術におけるモールドとインプリント技術の最近の諸データ
技術
課題
時期
2011年 2月
マスターモールドの均一性 1.2nm
(CDU)の3σ
モールド
インプリント技術
2012 年 9月
2013 年 2月
実現目標
1.2nm
1.2nm
約1nm
3nm 以下
位置ズレ
4nm
2.5nm
2.5nm
マスターモールドの欠陥
10 個/cm2
0〜1個/cm2
0 個/cm2*3
0.1個以下 /cm2
レプリカモールドの欠陥
未公表
5 個/cm
3 個/cm
1個以下 /cm2
ライン幅変動(LER)の3σ
2nm
2nm
2nm
2nm 以下
上下層の位置合わせ精度
10nm
10nm
10nm
8nm 以下
未公表
0.5nm
0.5nm
1nm 以下
20ウエハー/時
ウエハー上での均一性
(CDU)
2
生産性
5〜7ウエハー/時
10ウエハー/時
10ウエハー/時
少量生産時の欠陥*1
10 個/cm2
約2 個/cm2
約2 個/cm2
0.1個以下 /cm2
量産時の欠陥*2
未公表
50 個以下 /cm2
10 個以下 /cm2
1個以下 /cm2
*1 数枚を生産時 *2 数百枚を生産時
*3 修復技術の利用時
CDU:critical dimension uniformity
LER:line edge roughness
(b)ハーフピッチ26nmの延べ線長と歩留まり向上の推移
100
2011年
80
歩留まり
(%)
2
60
2009年
2012年
2010年
40
図 9 半導体向けの技術課題は急速に解消
20
0
10
100
1000
1万
延べ線長
(mm)
MII 社の最近の技術向上の様子を示した。2011
年 2月からの 2 年間に、量産時の欠陥密度が大き
く低減した(a)
。ハーフピッチ 26nmの線パター
ンの歩留まりは、10mの長さでも90%以上に向
上した(b)
。
(表、図:MII 社)
高品質のGaN 結晶も実現
減るという。
「LEDを試作して高出力
壁を超えられなかった。ところが、解
ごく最近、ナノインプリント技術で
と長寿命が得られることも確認した。
像度が20nm以下の領域ではEUVリ
LEDをさらに高効率化できる可能性
パワー半導体にも応用できそう」とい
ソグラフィなどの非常に高価な技術
も見えてきた。古河機械金属と金沢
う
(早稲田大学の水野氏)
。
が必要になるため、ナノインプリント
工業大学、東芝機械、そして早稲田
加えて、LEDの駆動電圧を下げら
にも逆転の目が出てきた。しかも、ナ
大学 准教授の水野潤氏の研究室は、
れる可能性も出てきた。
「転位が少な
ノインプリント技術自体がこの3年ほ
GaN結晶の転位†を従来の約1/100
いことで、従来140µm厚も必要だっ
どで大幅に改善した(図9)
。
にする手法をナノインプリント技術
たGaN結晶を21µm厚以下と大幅に
NANDフラッシュメモリーの製造
で開発した(図8)
。
薄くできる」
(水野氏)からだ。
などを想定したMII社のナノインプ
リント装置では、2012年9月時点で5
従来のGaN結晶の上にSiO2の薄
膜を形成し、そこにナノインプリント
技術的課題は大幅に改善
技術で数十nm幅の窓を開ける。そし
ナノインプリント技術にとって、冬
て再度GaN結晶を成長させるのであ
が長かった半導体製造分野でも、い
る。すると、SiO2膜より下のGaN結
よいよ実用化が進む可能性が出てき
晶の転位が上のGaN結晶に伝わらな
た。これまでは、コストや量産性の点
くなるため、上のGaN結晶の転位が
で既存技術である光リソグラフィの
注3)年間5%の発電量向上は、買い取り価格
を36円/kWhとすると、定格1kWの太陽光
パネル当たり年間約1800円の収入増を意味
する。
転位=結晶中に含まれる線状の欠陥。これ
まで、GaN結晶ではこの転位密度が1×109/
cm2 以上と高く、LEDに大電流を流した場合
に発光効率が低下する要因になっているとみ
られている。
†
NIKKEI ELECTRONICS 2014.3.17
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Feature
(a)従来の光インプリント方式
(b)凝縮性ガス利用光インプリント方式
学、兵庫県立大学は、容易に凝縮す
る代替フロン系ガス雰囲気中でイン
気泡による欠陥
プリントすることで、気泡による欠陥
が発生しない技術などを開発(図10)
。
この結果、樹脂の塗布スピードが大
(c)スループットは、MII 社の技術の 5 倍以上に
技術
MII社のJ-FiL
図10 生 産 性 が 大 幅
向上の可能性も
凝縮ガス利用
光ナノインプリント法 産業技術総合研究所、東
北大学などが共同で開発
樹脂の塗布方法
インクジェット スピンコート
した凝縮ガス利用光ナノ
気泡除去手法
Heの溶解
PFPガスの凝縮
インプリント法の概要を示
スループット
10〜20
100
した。ナノインプリント時
(300mmウエハー/ 時)
に凝縮性ガスを使うこと
で、気泡が液化するため、
1ショットに掛かる時間
(秒)1.4
0.28
欠陥が発生しない(a、b)
。
内訳
ステージ移動と 0.15
0.07
MII社の技術の大きな課題
光硬化樹脂供給
だったスループットは、5
光樹脂の充填
1
0.1
倍以上に高速化する見通
光照射
0.15
0.01
しだという
(c)
。
(写真、表:
離型
0.1
0.1
産業技術総合研究所)
。
幅に向上し、
「1時間で100枚のウエハ
ーをインプリント可能に、しかも1枚
のモールドを2万回使えるようになっ
た」
(産業技術総合研究所 集積マイク
ロシステム研究センター 副研究セン
ター長の廣島洋氏)という。これは最
近のMII社の技術と比べても5〜10
倍のスループットに相当する。
HDD 応用は2015 年が勝負に
HDDへの応用でも復活の兆しがあ
る(図11)
。
(a)ディスクリートトラックでは“試合終了” (b)ビ
ットパターンドメディアでは可能性
あり
以前期待されていたディスクリー
トトラック†への応用は、同方式自体
が日の目を見なかった。一方、ビット
パターンドメディア†への応用はまだ
可能性が残っている。HGST社が、
ナノインプリント技術と自己組織化
2010年が勝負だったが、
この方式
自体が採用されなかった
高分子の自己組織化現象とナノインプリントを組
み合わせて直径約10nmのドットパターンを実現。
従来の記録密度を2 倍に高められる可能性
図11 HDDは2015 年が勝負か
ナノインプリントのHDDへの応用は、ディスクリートトラックでは可能性がほとんどなくなっ
ている(a)
。2015 年にも登場する可能性があるビットパターンドメディアでは、HGST 社が高
分子の自己組織化技術とナノインプリントを組み合わせた技術で直径10nmのドットパターン
の形成に成功している。
(写真:HGST 社)
技術と組み合わせて実用化を目指す
と2013年に発表した。
「2015年が実
用化されるかどうかの分かれ目にな
りそう」
(ナノインプリントのある研究
者)という。
(野澤 哲生)
ディスクリートトラック=同心円状に並ぶ
HDDの記録領域(トラック)
間の干渉を防ぐた
めに、トラック間に溝を設ける技術。1Tビッ
ト/インチ 2 の記録密度実現を目指して開発さ
れていた。2000年後半に量産寸前になった
が、リーマンショックで立ち消えになった。
†
個/cm2あったレプリカモールドの欠
細パターンの歩留まりもこの3年ほど
陥は半年足らずで3個/cm に減った。
で大幅に向上した。
MII社にモールドを提供している大
残る課題だった処理能力(スルー
日本印刷は「2014年2月時点では1.2
プット)の低さにも解決策がみえつつ
個/cm2に減った」
(同社)と語る。微
ある。産業技術総合研究所や東北大
2
ビットパターンドメディア(BPM)
=HDDの
ビット記録領域ごとに磁性粒子を配置する技
術。最大5Tビット/インチ 2 の記録密度を実
現できるとみられている。
†
58 NIKKEI ELECTRONICS 2014.3.17
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