工学材料回折装置「匠」における集合組織測定システムの開発 日本原子力研究開発機構 ステファヌス ハルヨ,徐 平光、相澤一也 総合科学研究機構 伊藤崇芳 実用材料では、その製造過程および使用中に塑性 変形を受けることによって集合組織が発達するこ とがあります。集合組織の存在は材料の機械的特性 や、 場合によっては機能に影響します。 中性子では、 その透過能が大きいことを活かしてバルク全体の 集合組織を測定できるという利点があります。 J-PARC/MLF の工学材料回折装置 BL19「匠」で は、これまで鉄鋼材料のひずみ測定や昇温過程のそ の場観察などが行われてきました。パルス中性子源 および飛行時間法回折装置を利用すると、 複数の回 折ピークを同時に測定することが可能で測定効率 が高いです。著者らは、 「匠」による集合組織測定 システムを構築するためにハードウェアとソフト ウェアを開発し、その実証実験を多相複層鋼板を用 いて行ないました。 試料はオーステナイトとマルテンサイトの多相 複層鋼板で、大きさは 10x10x10mm3 です。測定に おいては、 「匠」に常設されている試料テーブル上 にオイラークレードルを設置し、 図 1 に示すような 配置で、 試料を中性子ビームに完浴させて行いまし た。1/4 極点図作成のために、χ 軸回転を 20 度おき に 5 点、φ 軸回転を 15 度おきに 7 点の合計 35 回測 定しました。 実験時の MLF の出力は 200kW であり、 1 点当たりの測定時間は 60 秒です。測定データは、 新たに開発したソフトウェアによって極点図用の データに変換処理しました。このソフトウェアでは、 MLF の 標 準 的 な 粉 末 回 折 解 析 ソ フ ト で あ る Z-Rietveld を利用して各回折ピークの積分強度など を求めます。得られた複数の hkl の 1/4 非規則グリ ード極点図を規則化した後、LaboTex を用いて方位 分布関数(ODF)計算を行いました。 図 2 に 4 台の中性子回折実験装置で測定された多 相複層鋼板内の 2=45 セクションでのマルテン サイトの ODF 結果を示します。(b)が今回測定した 「匠」での結果であり、(a)は JRR-3 の RESA-2 に より同じ試料を測定した結果です。 「匠」での測定 結果は、定性的には RESA-2 とほぼ同じ結果であり、 測定方法およびデータ処理システムの妥当性を確 認できました。また、図 2(c),(d)に示したように、 LANSCE の HIPPO および ISIS の GEM で測定され た結果ともよく一致しています。 この一連の測定では 0.10<d<0.25nm の範囲の回折 線を同時に測定しました。 今回の実験では試料回転 を手動で行ったために、全体では 1.5 時間かかりま し た が 、 予 定 さ れ て い る J-PARC の 出 力 増 強 (1MW:約 5 倍)や、測定の自動化ならびに測定点数 の最適化により、 測定時間をさらに大幅に短縮でき ます。今回は 2 相材料を用いて Z-Rietveld による解 析を行いましたが、今後市販のX回折装置のような 単相材料を対象とした簡易的でスピーディな測定 法も開発する必要があると考えています。 入射ビーム 散乱ビーム χ オイラークレードル φ 試料 図 1 オイラークレードル周辺の構成および配置 (a) (c) (b) (d) 図 2 4 台の中性子回折実験装置で測定された多相 複層鋼板内の 2=45 セクションでのマルテンサ イトの ODF 分布((a)RESA-2:角度分散法、(b)「匠」 : 飛行時間法、(c)HIPPO:飛行時間法、(d)GEM:飛行 時間法)
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