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第10章
津波の被害に関する問題
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第10章
津波の被害に関する問題
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津波による土地の消滅と登記・公的補償
津波により一筆の土地の全部または一部が水没した場
合(海面下に没し、あるいは河川流水下の底地になった
場合)、土地の所有権は消滅しますか。
土地の一部または全部が滅失したときの登記はどうな
るのでしょうか。
また、津波により土地が消滅した場合、公的な補償は
ないでしょうか。
津波により一時的に水没しただけならば、土地の所有権は
消滅しません。しかし、水没状態が一定期間継続し、
「一時的」
とはいえない状態になったときは、土地の所有権が消滅する
ことにもなりますので注意する必要があります。
土地の一部が滅失したときは地積変更登記を、全部が滅失
したときは、滅失登記をすることになります。
現行法上、津波による公的な補償はありませんが、固定資
産税については、一定の基準で減免されますので、役所の税
務課等に問い合わせてください。
解
ઃ
説
津波と土地の消滅
土地が海面下に沈んでしまった場合に、その経緯が天災によるもの
であって、かつその状態が一時的なものであるときは、私人の所有権
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は消滅しません(昭36・11・民事甲2801号法務省民事局長回答)。
最高裁も「私有の陸地が自然現象により海没した場合についても、
当該海没地の所有権が当然に消滅する旨の立法は現行法上存しないか
ら、当該海没地は、人による支配利用が可能でありかつ他の海面と区
別しての認識が可能である限り、所有権の客体たる土地としての性格
を失わないものと解するのが相当である。」と判示しています(最判昭
61・12・16判時1221・)
。
つまり、当該土地が、津波により一時的に海面下に没し、あるいは
河川底となるなど、当該土地が公有水面下に没したとしても、これを
もって直ちにその所有権が消滅するわけではありません。
しかし、海面下に没し、あるいは河川底となった状態、つまり、土
地が公有水面下に没した状態が一定期間継続し、もはや「一時的」と
はいえなくなった場合には、所有権が消滅することにもなりますので、
同状態を長く放置することは避けるべきでしょう。
「一時的」か否かの判断は、津波の程度、被災状況、災害後の救済・
復興の事情も加味して総合的に判断されるべきです。特に、東日本大
震災のような大規模災害の場合はこの点を柔軟に判断しないと、極め
て酷な結果になることが予想されます。
当該土地が公有水面下にあるか否かの判例、登記実務は以下のとお
りです。
最高裁は「海は、社会通念上、海水の表面が最高高潮面に達した時
の水際線をもって陸地から区別されている。」と判示しています(前掲
最判昭61・12・16)
。
また、登記実務上の先例によれば、陸地と公有水面との境界は「潮
の干満の差のある水面にあっては春分、秋分における満潮位を、その
他の水流水面にあっては高水位を標準として定める。」とされていま
す(昭31・11・10民事甲2612号法務省民事局長事務代理回答、昭33・・11民事
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三発203号民事局第三課長回答)。
なお、土地が、津波により、瓦礫・建築物の残骸・土砂等が流入し、
元の状態とは様変わりしてしまい、そのままでは到底利用することが
できなくなってしまったというような場合は、土地としては存在して
いますので、滅失にはあたりません。
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土地の消滅と登記
土地の所有者は、土地の一部が滅したときは地積変更登記を、また、
全部が滅失したときは、滅失登記を法務局に申請しなければなりませ
ん。滅失登記は滅失の日からか月以内とされています(不登42)。
土地の滅失登記は、共有者あるいは相続人の人からでも申請する
ことができます。
また、同滅失登記は、滅失した事実に対して申請をするものですの
で、同土地に抵当権が設定されている場合でも、同滅失登記について、
抵当権者の消滅承諾書は必要ありません。
なお、一筆の土地の全部または一部が、河川区域内の土地である場
合は、河川管理者(国土交通大臣または都道府県知事もしくは政令指
定都市の市長で、河川法条項、10条項・項に基づき管理権限
を有する者)が、遅滞なく、当該土地の滅失または地積変更の登記を
嘱託しなければなりません(不登43⑤)。
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土地の滅失と公的補償
現行法上、津波により土地が滅失したこと自体に対する公的補償は
ありません。
なお、土地の固定資産税については、災害を受けた日以降に納期の
到来する当該年度の税額が、申請に基づき一定の基準で減免されます
ので、役所の税務課等で相談してみてください。