静電ジャイロ 浮上・回転型MEMS慣性センサの開発と応用

第4回電波航法研究会
静電ジャイロ
−浮上・回転型MEMS慣性センサの開発と応用ー
〒144144-8551
東京都大田区南蒲田2
東京都大田区南蒲田2-1616-46
電話03
-3732)
電話033732-2111(代表
2111(代表)
FAX03FAX03-37363736-0261
本社・技術センタービル
創立:明治29
年(1896年
創立:明治29年
(1896年)5月
)5月1日
設立:昭和23
年(1948年
設立:昭和23年
(1948年)12月
)12月21日
21日
資本金:7,217,597,300
円
資本金:7,217,597,300円
代表者:取締役社長 勝木 英明
従業員:約 1,300名
1,300名
2008.02.29 海事センタービル
目
慣性センサの応用分野
次
車 載
大
1.ジャイロの開発動向
2.静電浮上・回転型マルチ出力マイクロ慣性センサ
(1)開発の背景
(2)構造及び制御方式
ナビ、車両制御etc
市
場
規
模
パーソナルナビ
携帯型センサー
3.マルチ出力慣性センサの応用例
船舶搭載
アンテナスタビ
4.デモンストレーション
鉄道車両制御
小
宇宙用・軍用
時 間
ジャイロ開発のトピックス
1851
1861
Foucault
Trouve
振り子による地球自転の検証
電気的回転によるジャイロスコープの製作
1890
1908
1913
Bryan
Anschutz
Sagnac
ワイングラスの振動による回転検出
ジャイロコンパスの発明(回転式ジャイロ)
サニャック効果の発明
1918
東京計器製造所(現トキメック)
1925
Michelson
リング干渉計による地球自転の計測
1953
1960
1961
1976
1991
1996
Sperry社
Maiman
Heer
Vali
Draper.Lab.
トキメック
音叉型振動ジャイロ:GYROTORON発表
レーザの発明
リングレーザジャイロの提案
光ファイバジャイロの提案
Siマイクロジャイロの発表
浮上・回転型Siマイクロジャイロ提案
1999
トキメック
ローター浮上・回転に成功。(ディスクロータ)
2000
2004
トキメック
トキメック
ローター高速回転(10,000rpm)マルチ出力確認
小径リング型回転体プロタイプ完成。
2007 トキメック
ジャイロ技術の変遷
機械式(回転式)
回転式ジャイロコンパス製造開始
浮上・回転型Si−MEMSジャイロ
光ジャイロ(RLG、FOG)
MEMSジャイロ
サンプル出荷開始。
ジャイロの分類
角速度検出
角速度検出
機械式
機械式
回転型
回転型
1軸検出
1軸検出
2軸検出
2軸検出
振動型
振動型
ジャイロ性能と応用分野
レートジャイロ
レート積分G
低精度
DTG
NMRG
中精度
車載センサ
高精度
超高精度
民間航空機
民間制御機器
ESG
ジャイロ
コンパス
慣性航法装置
機械式ジャイロ振動型
振動ジャイロ
圧電、水晶、Si レートジャイロ
光ジャイロ
光ジャイロ
DTG
アクティブ型
アクティブ型
RLG
パッシブ型
パッシブ型
共振型
共振型
機械式ジャイロ回転型
TDG
1軸レート積分ジャイロ
:ドライチューンドドライジャイロ
NMRG :核磁気共鳴ジャイロ
ESG
:静電支持ジャイロ
RLG
:リングレーザジャイロ
R−FOG:共振型ファイバジャイロ
I−FOG:干渉型ファイバジャイロ
光学式ジャイロ
光ファイバジャイロ
ESG
リングレーザジャイロ
(deg/h)
R−FOG
1000
干渉型
干渉型
I−FOG
10
1
0.1
(deg/sec)
100
10
1
0.1
0.01
0.001
0.0001
分解能
地球自転角速度
慣性センサの動向
ジャイロ
ジャイロ
特殊なセンサ
特殊なセンサ
軍
軍用
用
⇒
⇒
⇒
⇒
一般的センサ
一般的センサ
民生用
民生用
加速度計
加速度計
1軸加速度検出としてはほぼ完成
1軸加速度検出としてはほぼ完成
(サイズ、価格)
(サイズ、価格)
MEMS
技術の特徴
MEMS技術の特徴
Micro
Micro Electro
Electro Mechanical
Mechanical System
System
MEMSの定義
・従来のものよりも小さい
・従来のものよりも小さい
μ
mオーダのサイズにとらわれない。
μmオーダのサイズにとらわれない。
・小型・高精度化、多軸出力の要求
・小型・高精度化、多軸出力の要求
・「姿勢」出力の要求(モーションセンサの要求)
・「姿勢」出力の要求(モーションセンサの要求)
MEMS技術の進展
による小型化
従来加工技術とMEMS技術の比較
・エッチング(ウェット、ドライ)
2.接合
・陽極接合、拡散接合
3.冶工具
・金型
従来加工:削り取る
・機械的要素を電気的手段で動かす
・機械的要素を電気的手段で動かす
短 所
・小型化、大量生産が容易
・低コストが容易
・3次元構造体の製作が困難
・初期設備投資が必要
エッチング結果例
ハイアスペクトレシオエッチング
1.切削、穴あけ
・溶接、接着
ウェハーはSiに限定しない。
特 長
加速度計⇒サーボ型の採用による高精度化
加速度計⇒サーボ型の採用による高精度化
ジャイロ
ジャイロ ⇒振動型以外の採用
⇒振動型以外の採用
・旋盤、ボール盤
・ウェハー上に一括して製作する
・フォトマスク
MEMS技術:付加する
ドライエッチング装置
目
次
1.ジャイロの開発動向
2.静電浮上・回転型マルチ出力マイクロ慣性センサ
(1)開発の背景
(2)構造及び制御方式
3.マルチ出力慣性センサの応用例
4.デモンストレーション
ジャイロ性能と応用分野
開発の背景
開発の背景
車載センサ
1960年代に米で開発
・現在最も高精度
・現在最も高精度
・大型、高電圧
・耐衝撃性小
・球型ロータ
MEMS技術
中精度
低精度
球型静電浮上ジャイロ
マイクロ静電浮上・回転型
マイクロ静電浮上・回転型
マルチ出力慣性センサ
マルチ出力慣性センサ
・マルチ出力;3軸加速度+2軸角速度
・マルチ出力;3軸加速度+2軸角速度
・小型、軽量、低電圧
・小型、軽量、低電圧
・高精度(機械的摩擦なし)
・高精度(機械的摩擦なし)
・安価
・安価
高精度
超高精度
民間航空機
民間制御機器
MEMS振動型ジャイロ
ジャイロ
コンパス
慣性航法装置
機械式ジャイロ振動型
圧電、水晶、Si レートジャイロ
機械式ジャイロ回転型
TDG
1軸レート積分ジャイロ
MEMS回転型ジャイロ
のターゲット
光学式ジャイロ
・量産、安価
・小型、平面的
1000
10
1
0.1
(deg/sec)
光ファイバジャイロ
100
10
0.01
ESG
リングレーザジャイロ
1
0.1
(deg/h)
分解能
0.01
0.001
トキメックにおけるマイクロジャイロ開発
1993
動作原理
MEMS慣性センサの基礎研究に着手
1995
東北大学との共同研究に着手。(研究員派遣)
1996
浮上・回転型Siマイクロジャイロの原理を外部発表
1997∼98 東北大学での共同研究、社内での制御技術の研究。
1999.05
浮上・回転型Si
マイクロジャイロの浮上回転、
浮上・回転型Siマイクロジャイロの浮上回転、
及び3軸加速度検出に成功を国際会議で発表
2000.06 ミレニアムプロジェクトに採択。(文科省)
2000.11
高速回転(10,000
rpm)、マルチパラメータ(3軸加速
高速回転(10,000rpm)、マルチパラメータ(3軸加速
度,2軸角速度)同時検出に成功。
2001.09
NEDO 実用化補助事業に採択。(経済産業省)
2001.11
リングロータ型により、マルチパラメータ検出に成功。
2002.06 プロトタイプ完成(4mm直径ロータ)。
2004.10 MESAG−1 プロトタイプ(1.5mmロータ)完成。
2005.09
応用物理学会論文賞受賞
2007.03
MESAG−100サンプル出荷開始
ケース座標系
空間座標系
z
z'
角運動量
H = Iω
ローター
回転速度
ω
O
x x'
動作原理
y
動作原理
ケース座標系
空間座標系
z
z'
z' z
入力角速度 θ&
プレセッションθ&
プレセッショントルク T
T = Iωθ&
m
= r 2ωθ&
2
O
x
x'
y
O
x x'
y
初期モデル概略構造
静電浮上型マイクロ慣性センサ初期モデル
z(スピン軸)
(ディスクロータ)
共通電極
10mm
10mm
回転電極
制御電極
ロータ
特長
特長
フレーム(Si)
フレーム(Si)
浮上・回転型の採用
浮上・回転型の採用
高精度化、集積化の実現
高精度化、集積化の実現
x
φ
θ
y
2.2mm
mm
2.2
上部電極
パイレックスガラス
駆動電極
フィードスルー
共通電極
ロータ(Si)
ロータ(Si)
制御電極
下部電極
センサ構造概略
ディスクロータからリングロータへ
回転電極
(ステ−ター)
制御電極
(ラジアル方向)
z(スピン軸)
共通電極
ローター
z(スピン軸)
上部電極
リングロータ
回転電極
制御電極
x
y
回転電極
(ロータ)
平板ロータ
x
φ
θ
下部電極
y
ロータ
電極パッド
高電圧
低電圧
制御電極
(スラスト方向)
共通電極
(変位信号取り出し)
デバイス
より小さく、より低価格に
チップ寸法
„
4.3 mm ×4.3 mm ×1.0 mm
ロータ寸法;
Diameter1.5 mm
Width
150 µm
„ Thickness 50 µm
„
„
容量ギャップ;
„
„
Radial gap 2.2 µm
Axial gap 3 µm
センサチップ
センサ構造概略
ロータ
Si パターン
ガラスパターン
センサデバイス
ラジアルギャップ
2.2 µm
制御電極
制御電極
ロータ
Si パターン
センサチップ
ガラスパターン
„
Packaging size
14mm×14mm×3mm
MESAG−100制御方式概略
浮上制御原理
浮上制御原理
変位の検出
変位の検出
+vx
+V1
0
−V1
C1
V1=V0+Vx
DX
変位検出用
ASIC
∼
FPGA
同期検波
AD変換
14bit
直流電圧印加による
直流電圧印加による
静電力発生
静電力発生
I−V回路
演算周期:1MHz
4MHz
静電力フィードバック
静電力フィードバック
真空パッケージ
制御用PID演算
カップリングキャパシタ
カップリングキャパシタ
フィルタリング処理
C2
0
−vx
0
0
加速度入力による
加速度入力による
Si
Si 回転体変位
回転体変位
MESAGチップ
SiSi ロータを零位置に
ロータを零位置に
保持
保持
CPU
V2=V0ーVx
+V2
出力処理
−V2
ドライブ用
ASIC
アナログ部
電極−ロータ間
電極−ロータ間
静電容量変化を検出
静電容量変化を検出
DA変換
RS232C出力
14bit
更新レート:2.2ms
デジタル部
±15V
MESAG−100入出力特性例
MESAG−100入出力特性例((加速度)
加速度)
ステ−ター
回転制御原理
回転制御原理
1.5
A
B
C
Output(G)
1
ローター
ステ−ター
X Acc
Y Acc
Z Acc
0.5
0
-0.5
-1
-1.5
ローター
-180
-135
-90
-45
0
Tilt Angle(deg)
45
90
135
180
MESAG−100入出力特性例
MESAG−100入出力特性例((加速度)
加速度)
MESAG−100
MESAG−100 加速度計傾斜試験
加速度計傾斜試験
1.5
Output Filter 1Hz
4
0.5
Output (mG)
Output (G)
1
0
-0.5
-1
-1.5
-1.5
2
0
-2
-4
-1
-0.5
0
0.5
1
1.5
0
10
Input acceleration (G)
直線性
20
30
T i m e (s e c)
<0.1 % (±
(±1G)
1G)
入力;1mG
入力;1mG Step
(傾斜角 0.06deg)
MESAG−100入出力特性例
MESAG−100入出力特性例((レート)
レート)
MESAG
MESAG--100
100 レート検出例
レート検出例
200
Output Filter 20Hz
100
50
0
-50
-100
-150
-200
-200
-150
-100
-50
0
50
100
-150
Input Angular rate (deg/s)
直線性 <0.05% (± 150deg/s)
-200
Output (deg/s)
Output (deg/s)
150
0.20
0.10
0.00
-0.10
-0.20
0
20
40
60
Time (se c)
入力;0.1deg/s
入力;0.1deg/s step
目
ウェアラブル使用例
次
屋内歩行&階段昇降
屋内歩行&階段昇降
ヨーレート
120
1.ジャイロの開発動向
100
2.静電浮上・回転型マルチ出力マイクロ慣性センサ
直線歩行
停止
昇り階段段
直線歩行
下り階段
80
60
(1)開発の背景
40
deg/s
(2)構造及び制御方式
3.マルチ出力慣性センサの応用例
20
0
-20
-40
4.デモンストレーション
-60
-80
-100
6
7
8
9
10
11
12
13
14
時間(分)
ウェアラブル使用例
ウェアラブル使用例
屋内歩行&階段昇降
屋内歩行&階段昇降
屋内歩行&階段昇降
屋内歩行&階段昇降
ヨー角(積分値:歩行開始時基準)
ヨーレート
直線歩行
1200
50
40
1000
30
800
20
10
deg/s
角度
600
400
200
0
-10
-20
0
直線歩行
停止
昇り階段
直線歩行
下り階段
-30
-200
-40
-50
-400
6
7
8
9
10
時間(分)
11
12
13
14
7.5
7.55
7.6
7.65
7.7
7.75
時間(分)
7.8
7.85
7.9
7.95
8
ウェアラブル使用例
ウェアラブル使用例
屋内歩行&階段昇降
屋内歩行&階段昇降
屋内歩行&階段昇降
屋内歩行&階段昇降
上下加速度(直線歩行時)
ヨー角(積分値)直線歩行
2
0
1.8
-1
1.6
-2
1.4
出力(G)
-3
角度
-4
-5
-6
1.2
1
0.8
0.6
-7
0.4
-8
0.2
-9
0
7.5
-10
7.5
7.55
7.6
7.65
7.7
7.75
7.8
7.85
7.9
7.95
7.55
7.6
7.65
7.7
7.75
7.8
7.85
7.9
7.95
8
時間(分)
8
時間(分)
鉄道車両動揺計測例
鉄道車両動揺計測例
ヨーレート(目黒A)
ヨー角(積分)(目黒A)
5
110
100
右旋回
3
90
deg (右旋回+、左旋回−)
deg/s (右旋回+、左旋回−)
4
2
1
0
-1
-2
-3
右旋回
70
60
50
68deg
40
30
20
10
左旋回
-4
80
0
-5
0
20
40
60
80
100
時間(sec)
120
140
160
180
-10
0
20
40
60
80
100
時間(sec)
120
140
160
180
鉄道車両動揺計測例
鉄道車両動揺計測例
ロールレート(目黒A)
上下加速度(目黒A)
2.0
下加速
-0.96
右下がり
-0.97
1.0
G (上加速−、下加速+)
deg/s (右下がり旋回+、右上がり旋回−)
-0.95
1.5
-0.98
0.5
-0.99
0.0
-0.5
-1
-1.01
-1.02
-1.0
右上がり
-1.03
-1.5
上加速
-1.04
-2.0
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
-1.05
0
時間(sec)
20
40
60
80
100
120
140
160
180
時間(sec)
鉄道車両動揺計測例
鉄道車両動揺計測例
左右加速度(目黒A)
前後加速度(目黒A)
0.15
0.06
加速
0.1
左加速
G (加速+、減速−)
G (左加速+、右加速−)
0.04
0.02
0
0.05
0
-0.05
カント1.15deg
減速
-0.02
-0.1
右加速
-0.15
-0.04
0
20
40
60
80
100
時間(sec)
120
140
160
180
0
20
40
60
80
100
時間(sec)
120
140
160
180
鉄道車両動揺計測例
まとめ
東京メトロ東西線営業車両
白金台→目黒 姿勢
8
4
20
ピッチ角
ロール角
2
-20
0
-40
-2
-60
-4
-80
-6
-100
走行中
-8
0
20
40
60
80
100
時間(s)
120
140
低コスト化・精度向上が進んでおり、今後も新たな用途に向けて、
0
160
-120
180
ヨー角(deg)
6
ロール、ピッチ角(deg)
・マイクロ慣性センサは自動車用をドライビングフォースとして、
40
ヨー角
高機能化、高精度化、信頼性の向上等が図られる。
・ジャイロに関しては、振動型が主流であるが、高精度化の要求によ
・ジャイロに関しては、振動型が主流であるが、高精度化の要求によ
り異なった形式のジャイロが開発されつつある。
・今後はジャイロ、加速度計を集積したデバイスが登場すると考えら
れ、真の意味でマイクロ慣性センサシステムの応用が加速されると
予想される。
第4回電波航法研究会資料
静電ジャイロ
-浮上・回転型MEMS慣性センサの開発と応用-
(株)トキメック研究開発センタ
MESAG事業推進部 中村 茂
1.はじめに
[2] [3]
ジャイロセンサは150年以上の歴史を持ち、機
械式をはじめ光式まで各種原理に基づく方式・構造
のものが提案・実用化されている。それら多数の方
式のジャイロはその性能により各分野で使い分け
られている。(表1)
2.回転型慣性センサの動作原理
浮上回転型慣性センサの原理、特に角速度(レー
ト)検出の原理は船舶用ジャイロコンパス等で広く
使われてきた「機械式回転型ジャイロ」と同一であ
る。(図1)
図-1
表-1
各種ジャイロと応用分野
各種ジャイロセンサの内、機械式では静電支持ジ
ャイロ(ESG)が最も高精度である。精度が低く
ても良い用途には主として「振動ジャイロ」が使わ
れている。MEMS技術を用いた「マイクロジャイ
ロ」はほぼ全てがこの「振動ジャイロ」に分類され
る形式である。[1]
トキメックで開発したセンサは角速度検出の原
理として、ジャイロセンサとしては最も高精度な
「静電支持ジャイロ:ESG」と同一の方式を採用
している。
Si製のリング型回転体(直径1.5mm)を静電
力で浮上させ、非接触で高速回転(74,000rpm以
上)させることにより2つの軸回りの角速度を検出
し、同時にロータを支持する力から3方向の加速度
をも検出可能な「マルチ出力慣性センサ」である。
回転型ジャイロセンサの原理
高速回転している回転体の回転軸と直交する軸
回りに角速度が入力されると、回転体とケースの間
に傾斜変位が生じる。フィードバック制御により、
回転体を常にケースのゼロ位置に保持するようト
ルク(プレセッショントルク)がフィードバックさ
れる。このトルクは以下のように、入力角速度に比
例することからフィードバックトルクを計測する
ことにより角速度検出が可能になる。
回転体の慣性能率をI, 回転速度をω,入力角速
 とすると、プレセッショントルクT、は次
度を 
式であらわされる。

T  I 
(1)
本形式のセンサは(1)式からわかるように、回
転体の慣性能率を大きく、回転速度を大きくするこ
とで性能向上が可能であり、マイクロジャイロセン
サの場合は「回転速度を大きく」することで対処し
ている。図1のように回転軸(z軸)に直交する軸
は2軸(x、y軸)あることから、本センサは2軸
角速度センサと動作することが可能になる。又、回
転体を常にケースのゼロ位置に保持するよう制御
していることから、3軸加速度計としても動作し、
1台で2軸(x、y軸)回りの角速度と3方向(x,
y,z方向)の加速度、合計5つのパラメータを同
時に計測することが可能になる。
3.センサの構造
図2にセンサの構造を示す。
写真2
センサパッケージ
4.センサの製作方法
本センサは以下のようにMEMS技術の標準的な
プロセスで製作される。
図-2
静電浮上回転型慣性センサの構造
本センサはガラス/シリコン/ガラスの3層構
造で構成されている。リング型回転体の周りに制御
用電極が配置され、回転体との間で変位検出及び静
電駆動のためのコンデンサを形成している。
ラジアル方向制御の電極は回転体と同一のシリ
コンウェハーで構成されており、スラスト方向制御
及び回転駆動用電極は上下のガラス基板上にパタ
ーニングされている。
リング型回転体は外径1.5mm、厚さ50μmであ
る。上下のガラス基板上の電極と回転体とのギャッ
プは約3μm、ラジアル方向制御用電極と回転体と
の間は約2.5μmのギャップになっている。
写真1が実際のセンサチップ、写真2がパッケー
ジに入れた例である。
直径1.5mmのリング型回転体を内蔵するセンサチ
ップは4.3mm□、厚さ1mmである。
(1)パイレックスガラス上にスラスト方向のギャ
プを構成する部分をウェットエッチングで形
成し、メタル電極をパターニングする。
(2)SOIウェハーと(1)のガラスウェハーを
陽極接合する。(一回目)
(3)SOIウェハーの支持層を除去する。
(4)DeepRIEにより、ロータ、ラジアル方
向制御用電極、回転駆動用電極等の部分を形
成する。
写真1
センサチップ
図 - 5 は 低 加 速 度 入 力 ( 1mG ス テ ッ プ @
0.06deg)時の出力であり、0.5 mG 以下の分解能を
持っていることがわかる。
O u tp ut (m G )
(5)ガラス/シリコンの2層構造に(1)で製作
したガラスと同様のガラスを陽極接合し、3層
構造のウェハーを形成する。
4
2
0
-2
-4
(6)デバイスを切断・分離する。
0
10
20
30
T i m e (se c)
図-5
以上のように、単純なプロセスで製作可能であり、
低コストセンサの製作を実現できる
5.性能
5.1 加速度計性能
本センサクラスの加速度計はセンサを傾斜させ
重力加速度の入力を変化させて行うのが一般的で
ある。
図-3にY軸周りにセンサを回転させた(X、Z軸
に±1G を入力)結果を示す。多軸出力加速度計と
して動作していることがわかる。図-4はX軸方向
の加速度入力と出力の関係を示したものであり、±
1Gの範囲で良好な直線性を示していることがわ
かる。
低加速度入力時
5-2 ジャイロ性能
ジャイロセンサとしての性能評価はターンテー
ブルを使用して行う。図-6は±150deg/sでの
入出力特性、図-7は±0.1deg/s入力での出力特性
である。良好な分解能と直線性を示している。
200
150
100
50
0
-50
-100
-150
-200
-200
-150
-100
-50
0
50
100
150
200
INPUT RATE (deg/s)
1 .5
z - a x is
O u tp u t ( G )
1
図-6
角速度入出力特性
0 .5
0
y - a x is
-0 . 5
-1
0.20
x - a x is
-1 . 5
0.10
-1 8 0
-1 3 5
-9 0
-4 5
0
45
T il t a n g l e ( d e g )
図-3
90
135
180
0.00
-0.10
傾斜試験結果
-0.20
1
0
10
20
Output for x-axis (G)
0.8
0.6
30
Time (sec)
40
50
0.4
0.2
0
-0.2
図-7
-0.4
-0.6
-0.8
-1
-1
-0.5
0
0.5
Input acceleration (G)
図-4
入出力特性
1
低角速度入力時
60
6.まとめ
表2に概略性能の一覧を示す。2軸角速度・3軸
加速度のマルチ出力を可能にするのみならず、各パ
ラメータに関してもMEMS技術を用いて製作さ
れた慣性センサとして最高レベルの性能である。
表2センサ性能概略
項
目
回転体寸法
ギャップ
回転数
計測範囲
感度
直線性
雑音
角速度
加速度
角速度
加速度
角速度
加速度
角速度
加速度
1 . 5 m m 5 0 µ m ( H ) 1 5 0 µ m ( w )
2.5µm (ラ ジ ア ル )
3.0µm (ス ラ ス ト )
74,000 (rpm)
±150 deg/s
±49m /s 2
0.01deg/s LSB
1.96×10- 3 m /s 2 LSB
0.05%( ±150 deg/s )
0.1%( ±1G )
0.002 deg/s /√ Hz
30µG/√ Hz
参考文献
1)N.Yazdi, F.Ayadi and K.Najafi,"Micromachined
Inertial Sensors" Proc.IEEE,Vol 86, No 8. 1998
2)K.Fukatu,T.Murakoshi,and M.Esashi
"Electrostatically Levitated Micro Motor for
Inertial Measurement System" Tech.Dig.10th
Int.Conf.Solid-State Sensor and
Actuators(Transducers99) Sendai 1999 pp1558
3)T.Murakoshi,K.Fukatu,S.Nakamura, and
M.Esashi "Electrostatically Levitated
Rotational Ring-Shaped Gyro/Accelerometer for
Inertial Measurement System"
Sympojium Gyro
Technology 2002 Stuttgart, Germany