【 本 文 】トライボロジーを活用した設備診断技術に関する共同研究

2009年度 下水道新技術研究所年報
=川日日日日=HHHH日日日日日間日日日日日日日日日日日日川=川=日日lH日間HHH川=川日日日日日日日日日日日日I
トライポ闇ジーを活用した
設備診断技術に関する共同研魔
日日日日日日日日日間日日日日日日l日日日日日日日日日日HHHH日日日日日間日日日日日日日日日日日日日間日日日日l=I
ト水道施設における主要設備の保全管理業務は,予
め定められた運転時間等を基準として分解整備を行う
時間計画保全が標準的に実施されている。しかしク こ
の保全方式は,機能に余裕がある健全な状態で分解整
備が行われることが多く,結果的に高い保全管理費用
を愛することが多い。これに対し,機器の状態に応じ
て保全を行う状態監視保全は,機器を健全な状態に保
ちつつ,維持管理コストの低減を図る有効な手段であ
ることから,従来から温度や振動などを測定する手法
が用いられてきた。このように計画的な修繕を行うた
めには,異常に至る兆候を早期に発見する必要がある
とともに,それを可能とする診断ツールが求められて
いる。
本研究は∴ド水道施設において状態監視保全を取り
入れる際に留意すべき事項を整理するとともに,状態
監視保全の一技術であるトライボロジーを活用した設
備診断技術(以F,「潤滑診断」という。)に着目しタ
それの適用性や導入時の留意事項プ 分析項目等につい
て基本的な考え方を示すものである。
本研究のフローを図一 ̄‖こ示す。
図−1 研究フE巨…
3.1潤滑診断の基本事項の整理
3.日 本技術の対象と特徴
トライボロジーは,「摩擦する表面と潤滑に関する科
学技術」とされ,機械の信頼性や耐久性に影響を及ぼ
す潤滑や摩耗を扱う技術分野である。
潤滑診断は,回転機器など潤滑油中の摩耗粒子等が,
軸受や歯車(以下,「軸受等」という。)の表面損傷と
表裏の関係にあることに着目してク 潤滑油を詳細に分
析することにより機械設備の健全性を評価する技術で
ある(園−2参照)。
本技術は,機械に異常を発生させる原因の ふっであ
る軸受等の潤滑状態を直接分析することから,人の血
液検査に例えられることがあり,他の診断手法
本研究は,トライボテックス(株)言財)巨一水道新
技術推進機構の2者で行った。
−
59
−
2009年度 下水道新技術研究所年報
」堅堕し」
[壷垂]転]
図−4 潤滑診断の要素
図−2 潤滑診断の対象
軸受の摩耗量
初期摩耗
定常摩耗
I日計磨耗
時間
県営摩耗
図一3 潤滑診断の特徴
図45 分析項眉
に比べて異常を早期発見できるという特徴を有する
(図上3参照)。
3.1。2 潤滑診断の分析項目
回転機器の不具合の多くは,軸受等の潤滑状態に関
係している。軸受等の潤滑状態は言閏滑油の劣化や異
物混入のほか,軸の回転速度や荷重に影響を受けて変
化する。つまり,機器が正常な運転状態であっても発
停や負荷変動を生じることによって潤滑状態が変化し,
それにより微量な摩耗粒子を生じさせる。潤滑診断は,
そのような正常な運転状態における摩耗粒子の畳や形
状を基準として,その変化を捉えることにより異常の
検知を行うものであり,摩耗の原因となる潤滑油の劣
化状態,汚染状態とあわせて分析し,総合的な診断を
行うものである。図上射ここれらの分析要素を言数滴
にそれに対応する分析項目を示す。
以下にク 各分析要素の概要を示す。
①滑油の劣化
潤滑油は使用中に絶えず熱的影響を受け,さらに酸
素,金属,水等の接触によって次第に性状が変化し初
期に有していた潤滑油の機能を失う。これが潤滑油の
劣化である。例えば,劣化の一つの指標である動粘度
の性状が変化すると,摺動部の油膜保持力が低下し,
この状態で運転を継続すれば焼付き等の深
−
刻なトラブルを招くこととなる。
潤滑油の劣化は,大別して動粘度,水分,劣化度に分
類することができ,いずれも月Sによって分析手法が
定められている。
②潤滑油の汚染
潤滑油の汚染には,摩耗粒子等によって生じる内部
からの汚染と砂等の混入による外部からの汚染がある。
汚染が進行すると適正な油膜保持が国難になるほか,
潤滑油の劣化を加速させることとなる。汚染の測定は,
粒子数を調べる計数汚染度と汚染物の質量を調べる質
量汚染度の二種類があるが,いずれもJISによって分
析手法が定められている。
③軸受等の摩耗
軸受等の摩耗は,油膜厚さの不足や汚染物の混入に
よって引き起こされク 劣化や汚染と深い因果関係があ
る。摩耗の測定にはフ 摩耗の進行の程度と発生箇所を
特定する油中金属分析とヲ 摩耗粒子の大きさ。形状の
濃度等を分析の観察する摩耗粒子分析(フェログラフ
イ一法)がある。
このうち,油中金属分析については,発光分光分析
等の方法がJISによって定められている。一方のフェ
ログラフイ一法はJISには分析方法は定められていな
いものの言酎酎由分析で広く行われている分析方法で
60−
2009年度 下水道新技術研究所年報
あり,強力な磁力によって潤滑油中の摩耗粒子を分離
配列させ,磁力線上に捕捉した摩耗粒子を識別するも
のである。図−6にフェログラフイ一法の概念図を,図
−7に同法によって観察できる代表的な摩耗粒子の顕
微鏡写真を示す。
図−6 フェロゲラフィー法の概念図
畑
親
雄
最
後
鮮
貴
賎 深
、
問
、
1葦撚坊 夏
を
ぎ
姜
麦
繋;
薫
碁衰
;
尋
ヨ
く
∃
1
尋
隼
効
′
ぎく
汁j
正 常摩 耗 粒 子
猪瀬謙掠貯貼ジ灘瑠璃戦塵骨溌溶
凝着 摩耗 粒 子
微細 ,薄 片 状
大 型 , す べ り線
誉
t60 0
14 0 0
1 20 0
チ烹
蓉
疾接
基ぺ
鰐
機器はポンプや撹絆機といった回転機器を中心に調査
を行った。
アンケートの回答は246自治体,502処理場,機器
数は5320機となった。以下に,アンケート調査の概要
を示す。
① 状の保全方式・周期
時間計画保全が主として行われているが,主ポンプ
や送風機といった根幹を成す機器であっても,「予備
機がある」,「事後でも費用が変わらない」といった理
由により事後保全が行われている例があった(図−8参
照)。また,時間計画保全を実施している機器の分解整
備周期は,自治体間でかなりの開きがあったが,なか
でも,5年や10年で分解整備が行われている例が多か
った。これは,本質的な劣化度合いと関係なく,いわ
ゆる きりのいい数字 で分解整備が行われているこ
とを示唆するもので,こういった機器に対して状態監
視技術を導入し,保全周期を延伸することで保全費用
の低減が図れる可能性があることが分かる(図−9参
照)。
若妻
を
岩礁錠注某藻
を
1
ジ
そ
′
こ
莞
章
骨塞※予
400
20 0
0
蛍
溝※効藍琵沿
凝着 摩耗 粒 子 (
非 鉄金 属 )
撒祥雷絞首㌫濁れ毅
切 削摩 耗 粒 子
カ ー ル , 三 日形 の 線 状
黄 金色
(
銅 合 金)
ン字。寧 9 ∴
::1 6 1 ::
272
‡
主 ポ ン プ 設 備
299
罠
ロ
匝
隠
事
決
状
時
後
め
態
間
保 全
て な い
監 視
計 画
送 風 機 設 備
図−8 現状の保全方式
摺
薮′.
.
、
溌
′ 、.
′
′、 、
.
′絵
i
i
一: : : !
】
る
ミ
ラ
蜜や
素
、
封
誉効
溶融摩 耗粒 子
疲 労摩耗 粒 子
ボール 状
平 板 ,形 状不 規則
図一7 代表的な摩耗粒子
図−9 分解整備の周期
3.2 現状の設備保全手法の把握
設備の保全方法は,大別して事後保全と予防保全に
分類され,予防保全は時間計画保全と状態監視保全に
分類される。本技術は,状態監視保全を実施するため
の一技術であることから予防保全を行うべき機器に対
して適用することが重要である。しかし,前提となる
設備保全方式の選定に関して体系的に解説されている
技術資料がない状況にある。本研究では,供用後15年
を経過した処理場を有する全国の自治体にアンケート
調査を実施し,現状の設備保全手法を調査した。対象
設備は主ポンプ設備から汚泥処理設備までとし,対象
②整備の目的・費用
分解整備時の主要交換部品については,多くの場合
において「軸受」とされており,本技術の潜在的な適
用性の高さが伺えた(図−10参照)。整備費用に着目す
ると,高額なものに関しては数千万円に及ぶものもあ
り,軸受の交換周期の延伸がライフサイクルコストの
低減に寄与することが分かる(図−11参照)。
以上の調査を元に,機械設備の保全方式の選定に関
して以下のとおり取りまとめた。また,図−12にその
選定フローを示す。
−
61−
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90 0
80 0
70 0
間が長い場合,本来その予備機に与えられたリスク低
減という効果を失う可能性がある。したがって,故障
時の影響が小さい機器であっても,むやみに事後保全
を選択せず,復元に要する期間や費用を勘案して,多
大な費用や期間を要するものについては,予防保全を
行うことが肝要である。
②機器の劣化特性について
状態監視保全は,機器が劣化する際に発する信号(振
動,温度,摩耗粒子等)を捉えて,故障に至る前に保
全を実施するものである。したがって,機器の劣化が
急激に進行し,想定し得る状態監視測定頻度では故障
が避けられないものは,時間計画保全とする必要があ
る。また,これまでの経験からuHHHHA定の期間で寿命に達
することが分かっている機器も,余分な分析費用を要
しない時間計画保全が有意になる。
③分解整備と設備診断の費用について
機械設備の分解整備は一回の費用が数千万円に達す
るものから数百万円程度のものまで様々である。一方
で設備診断費用も分析機器が必要で,専門的な技術を
要するものもあり,一定の診断費用が発生する。した
がって,状態監視保全を導入する際には,継続的な診
断費用を考慮し,費用対効果を時間計画保全と比較し
て選定することが重要である。
Hl
蛮 ;;;
臼不明
固その他部イ
立
因軸受部
20 0
10 0
0
主 ポンプ設 備
送風機設備
図−10 分解整備時の主要交換部品
80 0
::
ガ 兎葦 ′
70 0
章
:
・
て
:億 :
α 祝
:
・:
・
9 9 :・
:
・:
60 0
崇
1 6 6
30 0
[
■ナ
11
20 0
[
監遵2 0 0 0 万 円
以 上
⊂3 2 0 0 0 万 円 未 満
⊂コ.
10 0 0 万 円 未 三高
国 50 0 万
露 20 0 万
円 未
円 未
:
:1 4 待
.
.
.
1 5 6
満
三
高
10 0
0
主 ポ ン プ 設
備
送 風 毒幾 妻没 備
図−11分解整備の費用
3.4 実機実証試験の実施
潤滑診断の妥当性および適用性を検証するために,
分解整備が予定されている実際の機器に対して潤滑診
断を実施した。妥当性の検証に関しては,潤滑診断実
施後に当該機器を分解して軸受の損傷を直接確認する
ことにより検証し,適用性の検証に関しては,機械全
体の劣化状況を確認することで,潤滑診断を実施した
場合に当該機器の分解整備が延伸できたかといった視
点により検証を行った。表−1に検証した機器の一覧と
検証結果の一覧を,表−2,表−3,図−13,図−14に事
例1の分析結果および診断結果を示す。
①潤滑診断の妥当性
全ての機器において診断結果と軸受の表面損傷の状
態が一致することが確認され,潤滑診断の妥当性に問
題がないことが確認された。
②潤滑診断の適用性
事例1の送風機については,機械全体の劣化程度が
軽微なダストや錆程度であったことから,潤滑診断を
行い軸受の健全性を確認すれば,分解整備は延伸でき
たと判断でき,潤滑診断の適用性は高いと判断される。
しかし,事例2の遠心濃縮機については,潤滑剤の採
取が困難である内胴軸受の損傷やタイルチップの摩耗
が確認されたことから,
図−12 保全方式選定フロー
3.3 機械設備の保全方式について
下水道施設は,供用開始すると一時も休止すること
が出来ない施設であり,代替手段も無いことから,機
械設備の保全方式は,予防保全で行われることが望ま
しい。しかし,現状の設備保全手法について調査した
アンケート結果によると,主ポンプ設備や送風機設備
といった処理の根幹を担う重要な機器であっても,事
後保全としている事例が多く見られた。つまり,各機
器を機能上の重要性で一括りに考えるのではなく,予
備機の有無や故障時の影響等について,個別に重要性
を判断する必要がある。
①故障時の復元費用・期間
今後,老朽化が進む施設ストックに対して,維持管
理費用の低減を図ろうとすれば,故障時の影響が少な
いことを前提として,極力,分解整備を先延べするこ
とも一つの手法である。しかし,仮に予備機があり故
障時の影響が少ない機械であっても,復元に要する期
−
62
−
2009年度 下水道新技術研究所年報
表−1 実機実証試験の対象機器と検証結果
対象機器
診断 対象部位
事例 1
送風機
主軸受
(
吸込側 ,吐 出側)
転がり
○
事例 2
遠 心濃縮機
外胴 軸受
(
固定側 ,滑り側)
転がり
○
事例 3
汚水 ポンプ
転がり
○
事例4
送風機
事例 5
送風機
事例 6
流動ブロワー
事例 7
診 断 の 妥 当性
診 断 の適 用 性
機 器 全 体 の損 傷
潤 滑診 断 分 解 した軸 受
継続運転
有害な
軽 微 なダ ストや 鋳 程 度 で継 続 運 転 が
○
損 傷 は 無い
が可 能
可能
診 断 した軸 受 以 外 の損 傷 が 激 しく,
継続運転
有害な
診 断 を実 施 しても分 解 整 備 は回 避 で
×
が可 能
損傷は無い
きない
軸受種類 備 考
軸上端 部軸受
主軸受
す べり
(
電動機側 ,反 電動機側 )
歯車用軸 受
(
送 風機側 ,電動機 側)
○
※1
す べり
※1
○
主軸受
転がり
(
電動機側 ,反 電動機側 )
※1
(
⊃
主軸受
誘 引ブロワー
転がり
(
電動機側 ,反 電動機側 )
※1
○
※2
○
事例 8
微粉炭機
ミル ロー
ール軸 受
転がり
継続運転
が可 能
有害な
損 傷 は 無い
継続運転
が可 能
継続運転
が可 能
有害な
損傷は無い
継続運転
が可 能
継続運転
が可 能
軸 受 交換
を要 す る
有害な
損 傷 は 無い
有害な
損傷は無い
広範囲な
損 傷 を確 認
運 転 による損 傷 より,時 間 経 過 に よる
△ 劣 化 が支 配 的 で早 晩 に分解 整 備 が
必要
−
有害な
損傷は無い
−
−
※1共同研究者であるトライポテックス㈱が過去に自治体と実施した事例
※2共同研究者であるトライボテックス㈱が過去に民間企業と実施した事例
以Lは,潤滑診断の妥当性のみを検証
表−2 分析結果①(事例1)
F B K
ター ビ ン3 2
油名
劣 化
汚 染
粘 度貰 4 0 ℃
水 分
全 酸 価
5′
、 15 〃
〜 25 〃
計 数
〜 50 〝
汚 染 度
〜 10 0 〃
10 0 〃 く
N A S等 級
重 量
汚 染 度
N A S等 級
大摩 耗 粒 子 の 量
定 量
小摩耗 粒子
全摩耗最
フェ ログ ラ
フ ィー
摩耗程度
摩耗過 酷度
摩耗
油 中
金 属 分析
鉄
鉛
銅
クロ ーーム
アンチ モ ン
ニッケル
錫
リン
亜鉛
カ ル シ ウム
バ リウ ム
ア ル ミニ ウム
ケイ素
ナ トリウ ム
マ グ ネ シ ウム
ホウ素
m m 2/S
PPm
m gK O H /だ
個 /10 0 m l
個 /10 0 m l
個 /10 0 m l
個 /10 0 m l
佃 /10 0 m l
級
m g /1 0 0m l
級
% /m l
% /m l
% /rnl
% /m l
−
重 量 懸 Tn
豆
PPm
重 −.
一P P m
重 畳 ppm
二転
g PPm
pPm
PPm
量 P p lTl
量 ppm
二V.
一P P ln
豆
重
重
重
重
重
PPm
重 量 懸m
豆
PPm
重 V.
;P P m
重 .P P m
重 量 DDm
新 油
値
3 2 .9 7 3 2 ,2 3
12
2 6 .6
0 .0 7
0 .0 9
3 3 6 ,3 9 0
−
2 8 ,9 0 3
−
10 ,5 3 7
1 ,2 2 0
−
60
−
11
0 ,3 5
−
104
−
3 .1 5
−
0 .1 5
3 .3
−
3
…
9 .9
−
イオ ン 固形 分 合 計
0
0 .1
0 .1
0
0 .0
0 .0
2
0 〕1
2 .1
0
0 .0
0 .0
0 .0
0 .0
−
0
0 .0
−
0
0 .0
0 .0
1
0 .0
1 .0
3
0 .0
3 .0
0
0 .1
0 .1
0
0 .0
0 .0
0
0 .1
0 .1
2
2 .0
−
0
0 .2
0 .2
0
0 .0
0 .0
0
0 .0
−
波数(cm ̄り
(上:摩耗粒子,下:赤外線吸収スペクトル)
図−13 分析結果②(事例1)
診断を実施した外胴軸受の健全性の把握だけでは,分
解整備を延伸する理由にはならないことが分かった。
また,事例3の汚水ポンプについては,ケーシング等
の摩耗や腐食が確認され,潤滑診断により軸受の健全
性を把握しても,近い将来に分解整備が必要となる状
況であった。なお,この汚水ポンプは,設置後23年が
経過しているが,その間の運転時間は約6,400時間と
極端に短く,機器の劣化が運転による軸受の損耗より
−
図−14 分解した軸受(事例1)
も,時間経過による腐食劣化の方が支配的であったと
いう,やや特異な事例であった。
3.5 潤滑診断の適用性
実施実証試験の結果を基に,潤滑診断を導入する際
63
−
2009年度 下水道新技術研究所年報
表−3 診断結果(事例1)
分 析 要 素 ・分 析 項 目
①摩
分 析 結 果 ・診 断 結 果
耗
本 軸 受 は ,異 物 の 噛 み 込 み な ど で 発 生 す る 切 削 粒 子 が や や 多 く観 察 され た こ とか ら ,今 後 摩 耗 の 進 行 が 懸 念 さ
れ たた め ,
1 年 後 の 分 析 デ ー タ の 変 化 に 注 意 し傾 向 を 確 認 す る ことを 推 奨 す る。
油 中金 属 分 析
金 属 イ オ ン 濃 度 を 測 定 した 結 果 ,転 が り軸 受 の 主 成 分 で あ る鉄 な ど の 金 属 元 素 は 検 出 され て い な い ことか ら 「良
好 」と判 断 した 。・
V・
V・
V一方 ,銅 が 2 p p m 検 出 さ れ て お り,銅 を 使 用 した 部 材 の 溶 出 が 発 生 して い る と考 え られ る。銅 は
亜 鉛 系 添 加 剤 の 影 響 に より溶 出 す る こ とが 知 られ て い る。銅 濃 度 の 増 加 は 酸 化 速 度 を 速 め る作 用 が あ るた め ,
酸 化 劣 化 の 進 行 状 況 を 油 分 析 に より監 視 され る ことを 推 奨 す る。な お ,検 出 され た リン ,亜 鉛 は ,潤 滑 油 添 加 斉l
として 含 まれ て い る場 合 が あ る。現 在 ,使 用 され て い る F B K ター ビ ン 3 2 に は ,そ の よ うな 添 加 剤 が 含 まれ て い な い
が ,以 前 に 異 な る 油 種 が 使 用 さ れ ,そ の 添 加 剤 とし て リン と亜 鉛 が 存 在 し ,今 回 の 分 で 検 出 さ れ た 可 能 性 が あ
る。粒 子 ,異 物 な ど の 固 形 分 を 測 定 した 結 果 で は ,転 が り軸 受 の 主 成 分 で あ る 鉄 が 0 .1 p p m 検 出 され た も の の ,
微 量 で あ る ことか ら 「良 好 」と判 断 し た 。
摩耗粒 子分析
摩 耗 粒 子 診 断 の 結 果 ,異 常 摩 耗 の 早 期 発 見 パ ラメー タ で あ る Is値 が 1 0 0レ ベ ル と「良 好 」の 範 囲 に あ るも の の ,摩
耗 粒 子 の 形 態 観 察 で 異 物 の 噛 み 込 み な ど で 発 生 す る切 削 粒 子 が や や 多 く観 察 され た 。今 後 ,摩 耗 の 進 行 が 懸
念 され る た め ,1 年 後 の 分 析 デ ー タ の 変 化 に 注 意 し傾 向 を確 認 す る ことを 推 奨 す る。
② 潤 滑 油 の汚 染
計 数 汚 染 度 が N A S l l.
級 とや や 汚 染 が 進 ん で い る も の の ,重 量 汚 染 度 は N A S l.
0 4 級 と良 好 で あ っ た ことか ら ,1
年 後 の 分 析 デ ー タ の 変 化 に 注 意 す る こ とが 必 要 と判 断 した 。
計数汚 染度
計 数 汚 染 度 は N A S l l 級 で あ り言 、ラ イ ボ テ ック ス社 推 奨 の 管 理 限 界 値 (N A S 1 2 級 )以 内 に あ る 。しか し ,や や 高
い 値 で あ るこ とか ら 「注 意 」と判 断 した 。
質量汚 染度
質 量 汚 染 度 は N A S l O 4 級 で あ り,トライ ボ テ ックス 社 推 奨 の 管 理 限 界 値 (N A S lO 7 級 )以 内 に あ る た め 「良 好 」と判
析 した ハ
③ 潤 滑 油 の劣 化
本 潤 滑 油 は 劣 化 の 進 行 に 問 題 が な く,継 続 使 用 が 可 能 で あ る と判 断 し た 。
動粘度
動 粘 度 は 32.
9 7 m m 2 /S で ,新 油 値 3 2 .
2 3 m m 2 /S と比 較 して ,変 化 率 は 十2 .3 % で あ り,トライ ボ テ ックス 社 推 奨 の 管
理 限 界 値 (± 10 % )以 内 に あ るた め 「良 好 」と判 断 した 。
水
水 分 は 12 .
O p p m で あ り,トライ ポ テ ックス 社 推 奨 の 管 理 限 界 値 (5 0 0 p p m )以 下 に あ る た め 「良 好 」と判 断 した 。
分
全酸価
赤 外 線 吸 収 ス ペ クト
ル
④ 総合評価
適用性:高
全 酸 価 は0 .
0 7 m gK O H /g で あ り,新 油 催 0 ,0 9 m g K O H /g 以 内 に あ り「良 好 」と判 断 し た 。
新 油 と比 較 して ほ とん ど 変 化 が な く,酸 化 に 伴 っ て 発 生 す る カ ル ポ ン 酸 の 生 成 が な い た め 「良 好 」と判 断 した 。
汚 染 ,摩 耗 が や や 進 ん で お り言 頃 向 監 視 を 継 続 す る 必 要 は あ るが ,早 急 な 対 策 が 必 要 な レベ ル で は な い 。軸 受
表 面 の 状 態 は 言 弓染 に 伴 う多 少 の 切 削 痕 が あ るも の の 使 用 可 能 な 状 態 に あ ると推 定 した 。
①保全分類に対する適用性
本技術に限らず,状態監視技術は,予防保全を行う
ためのツールである。したがって,個々の機器の置か
れている状況を勘案して,予防保全を行うべき機器に
対して状態監視技術を導入する必要がある。
②劣化部位に対する適用性
本技術は,軸受等の潤滑部を診断する技術である。
したがって,潤滑部を持たない,あるいは,潤滑部よ
り先に他の部位が劣化して,それにより分解整備を行
う機器に対しては潤滑診断の適用性が低くなる。
③採油条件に対する適用性
潤滑診断は,機器を分解せずに潤滑油を採取して,
それを分析することにより機器の劣化を診断する技術
である。− したがって,採油のために分解が必要となる
機器やクレーンによる引き上げといった大掛かりな作
業を伴うものに関しては,潤滑診断のメリットが小さ
くなる。
④費用対効果に対する適用性
潤滑診断の分析項目の多くは,JISに定められてい
るものが多いが,それらの分析には種々の分析機器が
適用性:低 対象外
図−15 潤滑診断の適用性
の検討事項を以下に示す。また,その検討フローを図
−15に示す。潤滑診断を導入するに当たっては,これ
らの事項を予め検討のうえ,適用性の高いものに対し
て導入することが肝要である。
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2009年度 下水道新技術研究所年報
必要で一定の費用を要する。潤滑診断を導入する際に
は,そういった分析費用と分解整備を延伸することに
よる年当り保全費用の低減額を勘案の上,費用対効果
が1を越えるものに対して導入することが肝要である。
⑤潤滑剤に対する適用性
潤滑診断は,軸受等に供する潤滑剤の一部を採取し
て分析を行うものである。したがって,分析される潤
滑剤は当該機器を代表する試料でなければならないが,
潤滑剤がグリースである場合,潤滑油のように流動性
が高くないことから,摩耗粒子や汚染物が均一になり
にくく,代表性のある試料の採取が難しい。したがっ
て,潤滑剤がグリースであるものに関しては,診断結
果がやや定性的になることに留意する必要がある。
第3節 潤滑油の汚染
第4節 軸受等の摩耗
第5節 設備診断
第5章 採 油
第1節 採油計画
第2節 採油作業
【資料編】
1.アンケート調査結果
2.分解実証試験の結果
3.費用対効果の算出例
4.仕様書(案)
5.管理基準値(例)の根拠
6.Q&A
7.問い合わせ先
3.6 潤滑診断の導入の効果
潤滑診断は,先に示したような「異常の早期発見」
という優位性がある。それは逆に言うと,「健全性の確
認」という利点でもあり,その特徴を利用すれば,当
該機器が分解整備を実施すべき状態であるかといった
評価も可能である。つまり,多くの機器で行われてい
る時間計画保全に代わり,本技術を導入することで,
故障リスクの増大を回避しながら,本来不必要である
分解整備を延伸し,保全費用を低減を図ることが可能
となる。表−4にアンケート結果で多く見られた5年周
期で時間計画保全を実施している機器に対して,本技
術を導入した際の保全費用の低減例を示す。
本研究では,潤滑診断の適用性や留意事項及び効果
を検証し,これらをまとめて技術マニュアルとした。
また,単に潤滑診断に関する技術事項を示すだけでな
く,アンケート調査の結果を元に,処理場の機械設備
に対する保全方式の選定フローも示している。
近年,施設ストックの増大や下水道長寿命化支援制度
の創設といった背景を受けて,処理場等の機械設備に
対する状態監視保全が注目されつつあるが,今後,各
自治体において維持管理計画や長寿命化計画を策定す
る際に本書を参考としていただければ幸いである。
『トライボロジーを活用した設備診断に関する技術マ
ニュアル』
【本 編】
第1章 総 則
第1節 目 的
第2節 適用範囲
第3節 用語の定義
第2章 設備保
第1節 設備保全
第2節 設備診断技術
第3牽
トライポロ
第1節 潤滑と摩耗
第2節 軸 受
第3節 潤滑剤
第4章 トライボロジーを活用した設備診
第1節 潤滑診断
第2節 潤滑油の劣化
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2009年度 下水道新技術研究所年報
表−4 潤滑診断の導入の効果(例)
現状(時間計画保全)
潤滑診断導入(状態監視保全)
保全の考え方
5年毎に定期的に軸受等の交換を実施
潤滑診断を1回/年実施し,診断の結果に問題が無ければ,軸
受等の交換を延伸する。異常が検知されれば,翌年に軸受等
の交換を実施する。
30年鋸こ全体の更新を実施
30年l封こ全体の更新を実施
圏軸受軸受等の交換
日全体の更新費用
※状態監視保全は,機器の異常検知に伴って保全アクション
を実施することから,軸受等の交換は診断結果に拠ることと
なる。本ケーススタディでは,機器の使用期間を状態監視保
全をすることで多くの機械設備処分制限期間である7年程度
となることを前提に,30年間で3回の異常検知があり,それに
対して3回の軸受等の交換を実施した事例を示す。なお、機器
の状態によっては,5年以下でも異常検知し軸受等の交換をす
る可能性はある。
30年間の保全費用(試算条件)
滞京ポジア‖頂是耐用年薮靖年目日日日日日日日日日日日日日日日日‖日日
保全費用 :軸受等の交換5,000,000円/回,全体の更新費用20,000,000円
潤滑診断費用:100,000円/回
※日常点検等の維持管理費用は同 一として比較対象外とする。
軸受等交換=5,000千円×5回=25,000千
軸受等交換=5,000千円×3回=15,000千円
潤滑診断=100千円×26回=2,600千円
全体更新=20,000千円×1回=20,000千円
合計 37,600千円
全体更新=20,000千円×1回=20,000千円
合計 45,000千円
牢当り保全費用=(当該牛までの保全費用累計)/(経過年数)
LCC改善額 =(現状の年当り保全費用)−(導入後の年当り保全費用)
●この研究を行ったのは
研究第二部長
研究第二部副部長
研究第二部主任研究員
研究第二部研究員
松
島
修
田之倉
誠
林
信澤
●この研究に関するお問い合わせは
研究第二部長
松 島
修
研究第二部副部長
田之倉
誠
研究第二部研究員
信澤 雄一郎
栄 樹
雄一郎
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