close

Enter

Log in using OpenID

対談! - プロトラブズ | Proto Labs

embedDownload
日本の
ものづくり
対談!
2
Vol.
日本のものづくりとIT活用の現在と未来
対談!
目次
01
開発オンリーワンを目指す
─「曲がるアクリル」クラリティ 4
クラレ クラリティ事業推進部 マーケティングチームリーダー
松本章氏
02
開発オンリーワンを目指す
─プロトタイプはラブレター
8
クラレ クラリティ事業推進部 マーケティングチームリーダー
松本章氏
03「楽しむ」ものづくり
─世界初の全天球カメラ「THETA」11
リコー VR事業室 室長
生方秀直氏
04「楽しむ」ものづくり ─ユーザーが生み出す多様な応用力 14
リコー VR事業室 室長
生方秀直氏
05 ウェアラブルカメラの挑戦
─4K30p超高解像度「HX-A500」17
パナソニック 4Kウェアラブルカメラ開発責任者
森勉氏
06 ウェアラブルカメラの挑戦
─「ハンズフリー」をキーワードに 20
パナソニック 4Kウェアラブルカメラ開発責任者
森勉氏
プロトラブズ合同会社
Proto Labs G.K.
米国Proto Labs, Inc.100%出資の日本法人として
2006年に設立され、2009年に事業を開始。
独自開発のソフトウェアとITを駆使した短納期システムにより
解析から製造まで大幅な自動化をはかり、
射出成形および切削加工による樹脂や金属パーツの試作と
小ロット生産を日本全国の開発者からネットで見積り・受託し、
安定した短納期で出荷している。
日本向けの生産はすべて、
神奈川県の自社工場で実施。
ものづくりの
醍醐味を知る
プロトラブズ社代表のトーマス・パン氏は、2013年から、
日本のものづくり有識者との対談を重ねている。
多種多様な製品開発の物語を知る中で、見えてきたものはなんだろうか。
対談をわかちあうことへの思いを尋ねた。
――対談を重ねることで「
“ものづくり”
の近未来を考
商品にならない、あるいは商機を失ってしまう危険性
えていく」という本企画に至ったきっかけは、何だっ
がある。この判断が非常に重要だと改めて感じました。
たのでしょうか?
さらに「タイミング」ということで申せば、すべての
私たちプロトラブズは、ITを駆使した短納期プロ
取材にご尽力いただいたライターの瀬戸様とのご縁も、
セスで、日本のものづくりをさまざまな面から支援・
私たちにとって非常に大きな出会いとなりました。改
協力して行きたいと考えています。そこで、革新的な
めて感謝を申し上げます。
製品を開発するために開発者や経営者の方たちが挑戦
また、
「ものづくり」とは、
「ものに携わるすべてのこ
した事や、成功するまでの経緯などを、ものづくりに
と」だと教わりました。ここまで包括的な定義がなさ
興味のある人たちへ発信するお手伝いをしようと思い
れているとは驚きでしたし、すごい言葉だと思います。
立ったのです。
つまり、経営判断も「ものづくり」に含まれるわけで
また、
「ものづくり」という言葉そのものに興味があ
す。この多様性こそが、日本の将来のキーになるので
りました。この言葉は「製造」や「匠の技」など、い
はないかと感じました。
ろいろな取り上げられ方をされていますが、定義や範
――これらの対談を通じて、どんなことを伝えていき
囲が明確ではありません。この「ものづくり」という
たいとお考えでしょうか?
言葉の本質をつかみたい。そんな思いがありました。
日常に
“もの”
はあふれていますが、完成品を見ただ
――実際にそうした「ものづくり」に携わっている有
けでは、開発の経緯や歴史を知ることは困難です。
識者や開発者の話を聞くことで、どのような発見があ
今、日本をはじめ先進国では、商品の選び方が変わ
りましたか?
ってきていると感じます。例えば「環境に配慮してい
すべての成功のなかには、各社ともに技術的な基盤
る製品であれば高くても買う」など、自分の信じてい
と組織や体制、そして戦略的な「タイミング」が存在
るもの、完成までの経緯を尊重でき、自分のライフス
したのだ、という事に気づきました。
タイルと信念に合致したものを選ぶことができる世界
ものづくりには、開発者、製造現場から営業や経営
になってきているのです。対談を通じて、完成品がど
者まで多くの人が関わっています。その大勢の思い、
のように生まれたのか、そこに込められた情熱と、も
そしてお客様のニーズや外部環境を敏感に察知して、
のづくりの面白さと醍醐味を味わってもらえたらと思
全部がつながるタイミングをマネージしないと、良い
います。
トーマス・パン氏
「プロトラブズ合同会社」社長&米Proto Labs,
Inc.役員
89年にUniv. Southern Californiaにて高分子
化学の博士号を取得し、同年米3D Systems
Corporation入社。同社の3Dプリンタ向けの光
硬化性樹脂材料と造形プロセスの研究開発職か
ら1995年米Ciba-Geigy社の3D造形テクニカル
センターの技術長職を経て1999年3D Systems
Corporationの日本事業担当部長として来日し、
日本の3D造形マーケットを開拓。2002年に株
式会社スリーディー・システムズ・ジャパンを
設立し、代表取締役社長に就任。2009年より
アジア太平洋事業ゼネラルマネージャーを兼任。
2010年11月から現職。高校卒業まで日本で過
ごし、日米での生活は
「人生のほぼ半分ずつ」
。
1960年東京生まれ。
3
対談 !
開発オンリーワンを目指す
─「曲がるアクリル」
クラリティ
(前編)
日 本 の
も の
づ く り
01
松本章氏
大手化学メーカーのクラレと、
ITを使った試作と小ロット生産を行うプロトラブズ。
一見結びつかないように見える両社だが、実は、その関係が
今後の樹脂業界の開発鍵を握るという。
松本章氏(以下 松本氏)◦はい。
「ク
げたりすることができます。
ラリティ」は、
一言で表現すると「曲
パン◦アクリルは確か「プラスチッ
がるアクリル」です。アクリルは、
クの女王」でしたか。
トーマス・パン(以下 パン) 松本
たとえば水族館の水槽に使われてい
松本氏◦ええ、素材としての美しさ
さんとは既に何度かお会いしている
る素材です。堅くて透明で、キラッ
から、そう呼ばれています。
「クラリ
んですが、改めてこの新素材「クラ
とした光沢感を持っています。
「クラ
ティ」はその“女王様”の堅いイメー
リティ」の特徴についてご説明いた
リティ」も一見、堅そうな姿をして
ジを覆す素材なんです。サンプルに
だけますか?
いますが、ねじったり、ぐいっと曲
初めて触れるほとんどの人が驚くの
新素材「クラリティ」が
魅せる新たなカタチ
4
クラレ クラリティ事業推進部 マーケティングチームリーダー
日 本 の も の づ く り
ですが、実はねじ曲げても大丈夫。
主流なのですが、乾燥等の製造プロ
そのギャップと、見た目の美しさが、
セスに時間がかかっています。粘着
提供したいバリューです。
剤の性能を落とさず、より生産効率
パン◦私も、初めて見た時、とても
の高いホットメルト型の粘着剤がで
画期的な素材だと感じました。綺麗
きないか、という挑戦が出発点です。
に輝いているのに、曲げることがで
この挑戦の中で誕生したのが「クラ
きる。極めて特徴のある材料ですよ
リティ」でして、モノのかたちを作
ね。
る成形加工とは無縁の所からのス
松本氏◦逆に、物性面での凄さはあ
タートでした。
りません。
“見た目”勝負とも言えま
しかし、開発の途中で「この技術を
す。透明度が非常に高いので、
「クラ
使えば曲がるようなアクリル樹脂が
リティ」を使ったスマートフォン
作れるんじゃないか。そういうアク
ケースを量販店様に納入したところ、
リル樹脂があれば面白いんじゃない
そのお店から「中身が入ってない
か」という発想が生まれました。
じゃないか」とクレームが入ったこ
そもそもクラレは、
「世のため人のた
ともあったそうです(笑)
め、他人(ひと)のやれないことを
パン◦透明パッケージの中身が、透
やる」という企業文化を持っている
明すぎたわけですね(笑)
会社です。コモディティではなくス
新素材を生む
DNA
01
ペシャリティ。他社がやろうとしな
い所をやるのが、弊社なんです。何
松本氏◦なるほど、上手い表現です
か新しいもの、もっと面白いものを
ね(笑)
パン◦「クラリティ」は、どういう
作りたい。そういうDNAから、
「ク
パン◦「クラリティ」は、すでに御
開発の経緯だったのでしょうか。
ラリティ」は生まれました。
社の工場で量産されてますが、工業
松本氏◦もともとのきっかけは、粘
パン◦そのDNA、カッコイイとし
化の上では、どんな苦労があったの
着剤つまり「糊」の原料の開発なん
かいえませんね。糊という2次元、
ですか?
です。各種テープやラベルのうち、
つまり平面の世界から、カタチとし
松本氏
貼って剥がせるようなタイプの糊は
ての3次元へ進化している。いわば
リーと現実とが一致しないことです。
水系アクリル粘着剤を用いた「糊引
「化学の3次元化」を達成したわけ
もちろん科学的なアプローチでやっ
き」というプロセスで製造するのが
ですね。
ているので、
「1+1=2」になるはず
工業化のつらさは、セオ
5
なんですが、工業化のためにスケー
日本国内にありますが、コスト重視
越えてまで、ニッチな新材料の可能
ルアップをすると、想定外に変数が
で海外で作ることは検討されなかっ
性を信じて、設備投資をして量産化
いろいろ入って全然違うモノになっ
たのでしょうか。
するという判断を下せる経営文化が、
てしまうんです。それをどう排除し
松本氏◦まず日本です。化学産業は、
クラレさんにはあるのですね。
て「現実を理論に近づける」か、そ
素材を作る機械があれば、どこでも
松本氏◦そうですね。
「それは無理だ
こが一番難しいところです。言って
できるんじゃないかと思われるかも
よね」ということに、逆にロマンを
しまえば、トライ&エラーなんです
しれませんが、やっぱり人の手を掛
感じるカルチャーがあります。です
が。
ける必要があります。そうしないと、
から、投資はしたけど回収に時間が
大学の研究室に行けば、もっと凄い
同じ装置でも均一で安定した品質の
かかる、という悩みを持っている部
素材がたくさんあるのですが、それ
素材は製造できません。
署が多いのですが、最終的にうまく
を工業化するとなると、まったく別
規模の拡大とそれによるコスト面で
いったケースも、また多いんです。
の技術が求められるのです。
のスケールメリットを求め、日本で
我々の今の稼ぎ頭になっている材料
パン◦「クラリティ」の生産工場は
事業化したプラント設備をただ海外
の中には、発足当初は「こんなの使
に持っていってもうまくはいきませ
えないよ」と言われていたものもあ
ん。世界のどこでも生産することを
ります。例えば、ガスバリア性樹脂
可能にするには、十分な生産数量に
「エバール」もその一つです。1970
裏付けされた深い経験と、それに基
年代、食品の包装がビンか缶しかな
づいた生産システムを構築する必要
かった時代には、
「エバール」は、た
があるんです。
「クラリティ」の場合
だの堅いだけの樹脂と思われていま
は、革新的な重合技術に基づく新規
した。
素材であり量産の難易度を考慮して、
やがて食品の流通が発達し、軽い
まず日本で経験を重ねることを重視
パッケージが求められるようになり
しました。
ます。ふつうの樹脂は酸素を透過す
「使えない」素材が
世界トップシェアへ
パン◦私も化学メーカーにいたこと
6
るので、すぐに食品がダメになって
しまうんですが、
「エバール」には、
酸素を通しにくいという性質があり
ました。これが大いに注目されて、
があるのでわかるのですが、新たに
今では世界シェアの65%を占めるま
新規化学素材を各地域で登録するに
でに至っています。
は、環境規制の対応から許認可の取
パン 凄いですね。世界で65%です
得に至るまで、さまざまな時間とコ
か。
ストのハードルがあります。それを
松本氏
10年単位で頑張っていれ
日 本 の も の づ く り
ば、
時代がついてくる。
その時になっ
だけ儲かります」というのは、既に
て他社が新規参入しても、ノウハウ
価値が1で決まっているものに0.1の
を蓄積しているので勝てる。そうい
バリューを加えることです。我々の
う考えです。
考え方では、これはイノベーション
パン そういう思い切った戦略には
ではありません。
クラレは、
バリュー
大いにロマンを感じます(笑)
01
をXにします。この変数であるXを
最大限に大きくするための挑戦をお
マーケティングを
越えてイノベーションへ
客様とともに行っていきたい、とい
松本氏 「クラリティ」は他ではで
す。
うのが我々の思うイノベーションで
きないオンリーワン樹脂なので、未
ですから、我々の強みであるオン
来をポジティブに描こうと思えば、
リーワンに惚れ込んでいただくお客
いくらでも描けます。一方で、オン
様を、どれだけ見つけるかが鍵だと
リーワン素材ゆえに顕在化したニー
思っています。
ズがなく、マーケティングには苦労
今までは、
「好きになってほしい」と
します。
いう受け身だったのですが、この樹
パン 既存の市場ニーズを分析して、
脂に関してはもっと積極的に、
「好き
「このような特徴のある材料ができ
になってもらう」という肉食でいこ
れば、年間何トンというマーケット
うと思っています(笑)
がある」という発想とは違いますよ
具体的には、我々のリーチを消費者
ね。
に近づけていくために、
「プロトタイ
松本氏 「ここにマーケットがあり
プ」を駆使していこうと考えていま
ます。こういうものができたらこれ
す。
松本章(まつもと・あきら)
2000年株式会社クラレ入社。2007
年にはKuraray Europe GmbH(ドイ
ツ)に駐在、一貫してエラストマー製
品の販売・マーケティングに従事。
2013年に帰国、クラリティ事業推進
部マーケティングチームリーダーに着
任。
※この記事はマイナビニュースに2014年3月
に掲載された記事を元に作成しております。
7
対談 !
開発オンリーワンを目指す
─プロトタイプはラブレター
(後編)
日 本 の
も の
づ く り
02
クラレ クラリティ事業推進部 マーケティングチームリーダー
松本章氏
新素材「クラリティ」
を軸に行われた、化学メーカークラレの松本章氏と、
プロトラブズ社長トーマス・パンとの対談。
後編となる今回は、
プロトタイピングから生み出される可能性にまで
話が及んだ。
探し求めたプロトタイプ
製造サービス
8
生まれるんです。感動がない限り前
トーマス・パン(以下 パン) 私も、
に進まない話は、いっぱいあります。
以前は材料開発をしていたのでよく
ですから、アイデアをかたちにして
分かります。物性の良さをお客様に
松本章氏(以下 松本氏)◦「我々が
見せる「プロトタイプ」は絶対必要
見せる時、複雑で、面白い形状にす
開発した「クラリティ」は、とにか
なんです。
ればするほど、
「これはあれができる
く綺麗で、なおかつ曲がる材料です。
ところが、樹脂メーカーにおける試
ねえ」と想像してもらえたり、逆に
使ってみませんか」といくら言葉を
作品といえば、
平板といって、
平べっ
問題点を指摘してもらえました。そ
尽くしても、たいていの場合、
「そう
たい「板」の形状をしたものが一般
のように特性を明確に示せないなか
ですか」で終わってしまいます。し
的です。曲がる・ねじれる・光沢・
で素材をプロモーションするという
かし、スマホケースのように、実際
透明性といったことはこの平板を評
のは、すごく大変だろうと思います。
にかたちあるものを渡して、堅いと
価することで専門家は理解できます
松本氏◦こちらが思うようなプロト
思ったものが、実は曲げることがで
が、普通の人が見ても、ピンと来な
タイプを作って欲しい、でも我々は
きると分かった時、そこには感動が
いでしょう。
その成形物で商売をしたいわけじゃ
日 本 の も の づ く り
02
ないから、
5個10個でいい。こう思っ
本」には、両社のロゴを載せて、展
大きな会社が、素材メーカーとして、
ていても、既存の射出成形屋さんは、
示会などで配布していく予定です。
他ではなかなか手を出せないところ
小ロット製造お断りじゃないですか。
パン◦プロトラブズの通常業務であ
まで挑戦している「起業家精神」に
それで悩んでいたんです。
る小ロット生産サービスにも、原料
は、すごく感動しています。
パン◦なるほど、そんな時、たまた
としての「クラリティ」をWebメ
松本氏◦クラレはもともと合成繊維
ま私どもから、
「クラリティ」の樹脂
ニューに付加して製造対応すること
の会社ですから、そのおかげかな、
情報についての問い合わせが舞い込
を決めました。この画期的な素材を
と最近思っています。
んできたというわけですね。
世に広めていくために、お互いのプ
パン 合繊をしてたところと、そう
松本氏◦ええ、始めは技術的な問い
ロモーションを一緒に進めていきま
でない化学メーカーとは違うんです
合わせだと流していたんですが、な
しょう。
か?
ぜか「
“プロトラブズ”の英文スペ
ルはどう書くんだろう」と変なとこ
ろが気に掛かって(笑)
。サイトに
松本氏 だいぶ違う気がしますね。
すべては
一本の糸から
我々は最終的には「糸屋」だと思う
ときがあります。たとえば、どんな
アクセスしたら、
「 探し求めていた
松本氏 今後は樹脂業界でも、サプ
新しい素材ができても、
「とりあえず
サービスが見つかった!」と驚き、
ライチェーンを見渡して、消費者に
糸にしてみよう」と考えます(笑)
。
すぐにお会いしに行きました。
繋がる一本の道を切り開いていくこ
糸を糸だけで買う人は、ほぼいませ
パン◦これだけ情熱を持ってお越し
とが求められると思います。新しい
んよね。染めて、生地にして、デザ
いただいたのは、素材メーカーさん
材料を世に問うときは、消費者に受
インして、縫って、服ができる。も
ではクラレさんが初めてでした。松
け入れられていないのか、それとも、
のすごく長いサプライチェーンだけ
本さんとは互いの感性が似ているか
サプライチェーン上で隣に位置する
ど、一本の糸を作る時に、最後の服
らでしょうか、話が弾みましたね。
成形メーカーさんが使いづらいから
をイメージしていないと上手くいか
採用されないのか、それを掴まなけ
ない。その思考を備えているのが、
樹脂業界の
インキュベーターとして
ればなりません。でないと、新しい
合繊上がりの会社のDNAだと思い
モノを世に認めていただくことは難
ます。
パン◦最初にお会いした時、松本さ
しいでしょう。
パン 繊維素材メーカーからエンド
んがおっしゃった「樹脂業界のイン
パン◦素材メーカーと最終消費者と
ユーザーまでの遠距離間を、
「素材」
キュベーターになれますよ」という
の距離はものすごく遠いので、その
という共通点で繋ぐような開発プロ
言葉が非常に印象的でした。
間を繋げるお手伝いを、我々プロト
セスが必然的に生まれてきた、とい
松本氏◦今後は樹脂業界でも、エン
ラブズができればと思っています。
うわけですね。ビジネスは違えど、
ドユーザーまで見渡したマーケティ
それにしても、クラレさんのような
サプライチェーン上に一貫した共通
ングが必要になってきます。そのた
めにはプロトタイプづくりが欠かせ
ないわけですが、プロトラブズさん
は、まさにそれを可能にするサービ
スを提供しているんです。
パン◦そんな松本さんの思いに心動
かされまして、
「クラリティ」のプロ
トタイプ製造に当たっては、弊社に
て3Dデータの準備をさせて頂きま
した。これは、プロトラブズとして
も初めての試みです。
プロトタイプには、
「クラリティ」の
透明性とキラキラ感が特に表現でき
るレンズ状の形状を付与したり、厚
さの違った立壁や適切なエンボス構
造を配置したり、3種類の表面仕上
げなどを施しています。射出成形と
してかたちにした場合、具体的にど
うなるかを、可能な限り理解しても
らえるような3次元形状にしました。
松本氏◦作っていただいた「応用見
9
日 本 の も の づ く り
02
を提供するという発想には大いに学
ばせて頂く点が多いです。クラレさ
んの「原料から製品まで」とは、距
離感は違いますが、プロトラブズの
作った試作品を元に、新製品が開発
され、消費者に届くという流れは似
通っていると思いますから。
ブレイクスルーには
「ラブレター」が必要
松本氏 既に顕在化したニーズを追
い掛けても、ブレイクスルーにはな
りません。潜在的なニーズをいかに
掘り当てるか、そこにビジネスチャ
ンスがかかっています。誰も気付い
てないものをかたちにして、インス
パイアできるモノを提供できるとこ
ろが勝つでしょう。そのためにも、
プロトタイピングは欠かせないわけ
です。
パン 我々プロトラブズの役目は、
試作や小ロット生産により、主に開
点を見いだす、というその視点は非
ら、現在の「ニッチのエリアでオン
発を支援することです。これをもっ
常に重要かと思います。
リーワンで勝つ」という方向へ、な
とネットで身近にして、迅速に行う
松本氏 おっしゃるように、共通点
かなか舵を切り替えられないメー
ことで、お客様メーカーさんより世
があるけどちょっと違う、というの
カーさんも多かったと思います。ク
界一の新製品が生まれてくると思っ
はとても刺激になります。私自身、
ラレさんは、歴史的にオンリーワン
ています。
繊維をやっている人と仕事をしてい
を目指すという社風があったんです
松本氏 マスがトレンドを作る時代
く中で分かったんですが、そこには、
か?
は終わって、これからは、キラっと
人類の歴史とともにあるような深み
松本氏 結果論としてそうなったの
光るマイノリティがトレンドを作る
があるんですよ。
だと思います。我々の会社は、先ほ
時代です。どこにいるか分からない
事業の「敗戦」から
生まれた社風
ど申し上げた通り、もともと合成繊
その人たちに向かって、メッセージ
維の会社として、戦前から、今の自
を投げ続けていくことが非常に大事
動車業界のように外貨を稼ぐ役割を
で、
素材メーカーとしては、
そのメッ
70年代ごろの、
「 いかにコス
担っていました。ところが、日本の
セージがプロトタイプなんです。
トを下げるかが勝負」という時代か
産業の中でいち早く、価格競争力を
パン 言ってみれば、プロトタイプ
つけた海外勢との競争にさらされて、
とはラブレターであるわけですよね。
一度
「敗戦」
したんです。それがちょ
ただし、
無味乾燥な
「のっぺらぼう」
うど70年代でした。
な2次元ではなく、3次元形状という
その「敗戦」の中で、日本の産業の
面白いメッセージとして。だからロ
中では、コモディティの恐ろしさを
マンが必要なわけです(笑)
早く知ることができました。いつか
松本氏 非常に共感します。そのロ
パン
喰われるというのは、今も社員の中
マンを感じとっていただいた方と、
で共有されています。だからこそ、
末永く付き合っていきたいですね
積み重ねた技術に向き合って、開発
(笑)
オンリーワンを目指す社風が生まれ
たのでしょう。それが生き残るため
に必要ですから。
パン 我々は日本ではまだまだ小さ
い会社ですが、エンドユーザーを大
事にして、オンリーワンの付加価値
10
※この記事はマイナビニュースに2014年3月
に掲載された記事を元に作成しております。
対談 !
「楽しむ」
ものづくり
─世界初の全天球カメラ「THETA」
(前編)
日 本 の
も の
づ く り
03
「場を共有する」
という
楽しみ方のために
リコー VR事業室 室長
生方秀直氏
株式会社リコーが2013年11月に発売した「RICOH THETA(リコー・シータ)」は、
ワンショットで360度を収められる、世界初の全天球カメラである。
撮影した画像は、
スマートフォンやPC上で構図を変えて楽しむことができる。
この新しい映像体験をもたらすデバイスは、
どのようにして生まれたのだろうか。
生方秀直氏(以下 生方氏)
はじ
ジェクトなんですね。つまり「既存
まりは2009年12月のことです。現
の強化」
という方向と
「新規の創造」
会長で、
当時社長の近藤から
「リコー
という方向の、異なる思想にあわせ
トーマス・パン
(以下 パン)「RICOH
のコンシューマー事業を伸ばした
てチームを編成した、というわけで
THETA(以下、THETA)は、す
い」というトップオーダーがありま
すね。
ごく特徴的な製品ですので、まずは
した。そこで、
「既存のカメラ事業を
生方氏 そうですね。前者のチーム
その誕生のヒストリーというか、ど
伸ばす」
「リコーの光学技術を使った
はカメラ事業部が中心でしたが、後
のような経緯でこのアイディアが
新しいものを生み出す」という2つ
者の「事業創造チーム」は、社内の
生まれたのか、教えていただけます
の検討チームが立ち上がりました。
いろいろなところから人を募集しま
か。
パン トップダウンで始まったプロ
した。検討会を重ねていき、2010年
11
にカメラで一部を切り取るのではな
できるかどうかも分かりませんでし
く、その場全部を、私もあなたも空
た。レンズも一眼から十二眼まで検
間も、すべてをキャプチャして共有
討していました。最終的に今の形に
できたら、もっと楽しいだろうと考
まとまったのは、偶発的ですね。
えました。この「場の共有」という
THETAは屈曲光学系を中に入れて
のが最初のコンセプトです。
います。ストレートだと光の焦点が
「メイド・イン・ジャパン」が
可能にした生産技術
によりぐっと小さくするという技術
を最終的に編み出して、ここに至っ
パン THETAは、非常に愛着の持
ています。
てる魅力的なサイズとデザインに
パン 屈曲させるという事は、その
なっていると思いますが、当初から
分、散光率が高くなり、解像度や鮮
このような製品サイズで、全天球撮
明度が厳しくなるなど、さまざまな
影という機能を確立できるという技
光学的な問題が発生するのではあり
術は存在したのでしょうか。もしも
ませんか?
存在しなかったのであれば、その開
生方氏 ええ、一番難しかったのは、
の4月にトップ答申をしたのですが、
発のプロセスについて、非常に興味
メカニカルなズレですね。真ん中に
その時に提案した内容は「その場の
があります。
プリズムが入っているのですが、そ
雰囲気をすべて撮影できる」
「スマホ
の位置を「二眼」に対して決めなけ
と連動する」
「非常にコンパクト」
「そ
ればなりません。ところが、こっち
の場でパッと撮れる」
「撮影した写真
の目玉に合わせるとこっちがズレる、
をソーシャルメディアでシェアして
ということが起きてしまう。両方に
楽しむ」というものです。こうした
ビシッと合わせる技術が必要でした。
発想がいまのTHETAに繋がってい
パン なるほど、そうすると正確な
ます。
位置決め技術を開発するだけではな
パン では、最初からハードウェア
く、いかに安定して量産するかが重
だけではなく、スマホ連動というコ
要になってきますね。
ンセプトがあったと。
生方氏 おっしゃる通り、設計図を
生方氏
書くだけでなく、その量産技術を開
はい。当時はTwitterによ
る写真のシェアが流行りだした頃で、
発することが、今回の肝でした。
僕らも身内でそれを楽しんでいまし
THETAは外に出さずにリコーの子
会社の工場で生産しており、その方
た。その中で、写真としてのクオリ
12
長くなってしまうのを、曲げること
ティは低くても、
「 そのシチュエー
生方氏 社長答申をした時には、技
式はすべてパテントの出願を終えて
ション」をソーシャルメディアで共
術的な裏付けはなく、ただ紙の上に
います。この種のガジェットとして
有すると輝く、という事を発見した
構想があるだけでした。ですから、
は珍しいと思いますが、
「メイド・イ
んです。例えば、居酒屋のビールの
開発チームを立ち上げるのにも苦労
ン・ジャパンの技術」で作っていま
写真なんて、被写体としての価値は
しました。社内公募やキャリア採用
す。
あまりありません。でも、その写真
によってエンジニアを集め、2010年
パン 素晴らしいですね。
を仲間と共有すると「お、飲みはじ
秋からようやく、どういう技術方式
めたんだ。いいね」
「どこで飲んでる
にしようかという検討を始めたんで
最小の外見と
最新の中身
の? 俺も行くよ」と盛りあがりま
す。
すよね。
パン 通常の開発は、派生している
パン 屈曲光学系の技術は、以前か
パン たしかに、リアルタイムで画
製品があったり、研究のブレークス
らやっていらしたのでしょうか。そ
像とシチュエーションを共有できる
ルーがあった上で、商品化という流
れとも今回、必要に応じて開発され
スマホというプラットフォームが登
れだと思いますが、この場合はまっ
たのですか?
場したからこそ、生まれた楽しみ方
たく違うわけですよね。ゼロベース
生方氏 われわれも光学メーカーと
だと思います。スマホ以前では、静
から新しい技術を製品化しなければ
しては長いので、いろんなシーンで
的でその場かぎりの画像だったもの
ならない苦労があったかと思います。
屈曲光学系を使う機会はありました。
が、まったく新しい、今までとは別
生方氏 コンセプト先行型なので、
ただ、カメラに対してこういう使い
の命を得たような感じですね。
「持ち歩きたい」とは言ったものの、
方をするのは、初めてのことです。
生方氏 まさにその通りです。単純
そもそも、そんなに小さなサイズに
考えて考えて考えて……、こうやっ
日 本 の も の づ く り
03
たらなんとか小さくなるだろう!
と、ひねり出した結果ですね。
パン たしかに小さいですね。幅20
ミリくらいですか?
生方氏
レンズ部分は22.8ミリです
が、それ以外の幅は17.4ミリです。
パン 手にとって横から見ると、非
常に可愛いですね。両端に突起して
いるレンズがまるで金魚の目のよう
に、生きている感じがします(笑)
生方氏 レンズの中にふわっと球が
浮いているような、独特の見え方が
しますよね。全天球イメージを撮影
するためだけに作った、世界初のレ
ンズですが、たまたまそういう可愛
らしさが生まれました。
パン 画像データは、どのような処
プリで処理するのではなく、カメラ
理をして全天球イメージに加工して
の内部プロセッサーが自動的に行う
いるのでしょうか?
のですね。
生方氏
撮影段階では、2つの画像
生方氏 ええ、ユーザーにとっては
がちぎれているので、数秒間で繋ぎ
非常にシンプルな製品です。極限ま
合わせるスティッチング処理をして
でユーザーインターフェースをそぎ
います。これも、うまく繋げるのに
落としていますし、調整する部分は
は苦労しました。パソコンを使えば
基本的にはありません。その代わり、
もちろんできますが、全部を小さな
小さな内部には非常に複雑な機能を
カメラの中に封じ込めて、しかも時
封じ込めています。中には、これま
間をかけずに、できるだけ視差の無
での世の中には無かった最新のテク
いなめらかな繋ぎ方をする、という
ノロジーが詰まっていますが、外は、
のは独自技術です。
なんのことない棒のよう。そんなふ
パン ということは、スマホ側のア
うに仕上げてあります。
生方秀直(うぶかた・ひでなお)
株式会社リコー 新規事業開発センタ
ー VR事業室 室長。RICOH THETA
の企画提案から事業化までを手がけた。
※この記事はマイナビニュースに2014年6月
に掲載された記事を元に作成しております。
13
対談 !
「楽しむ」
ものづくり
─ユーザーが生み出す多様な応用力
(後編)
日 本 の
も の
づ く り
04
リコー VR事業室 室長
生方秀直氏
世界初の全天球カメラ
「RICOH THETA」の開発責任者である
生方秀直氏と、
プロトラブズ社長トーマス・パンとの対談。
後編となる今回は、THETAのコア技術がもたらす
応用について話が進んだ。
見られなかったところを
見せるためのカメラ
14
チームの場合には、ボールを中心と
るツールは、今までなかったそうで
した選手の動きやポジショニング分
す。
析にも使えるでしょう。
パン◦医療分野でもアイディア次第
トーマス・パン
(以下 パン)
◦
「RICOH
生方秀直氏(以下 生方氏)◦何かに
で活用できるという例ですね。
THETA(以下、THETA)を持っ
仕込むのは面白いですね。見られな
生方氏◦そうですね。図らずも多種
ていると、実際に何を撮ろうか、い
かったところを見せるためのテクノ
多様な企業のお客さまから、全天球
ろいろな想像が膨らみますね。例え
ロジーということで、非常に応用が
イメージをこう使いたいというお問
ば、サッカーボールの中に入れて、
利くと思っています。例えば医療分
い合わせを頂いています。不動産の
蹴った瞬間に360度画像が撮れたら、
野では、口の中の写真をTHETAで
物件紹介や観光地の宣伝のために、
とても面白い写真になると思います。
撮影した歯科医の方がいらっしゃい
既に利用されている方もいらっしゃ
ボールの観点というのはありえない
ます。咥内環境はどうなっているの
いますね。
アングルですし、本格的なスポーツ
か、相対的な歯の位置関係を見渡せ
パン◦私も写真好きですが、従来の
日 本 の も の づ く り
04
確信できました。THETAだけでな
く、別の機能を持つハードウェアと
THETAで撮影された新たな映像に
命を吹き込めるような多面体ソフト
ウェアをさらに組み合わせることで、
これまで予想だにしなかったものも
生まれてくるでしょう。21世紀最先
端のものづくりがここにあると思い
ます。
生方氏 映像体験が進化していく伸
びシロは、まだまだあると考えてい
ます。われわれは全天球撮影という
新たな映像体験を提供したわけです
が、そこはまだフロンティアなんで
す。
ベンチャー的な
「つくる」プロセス
写真撮影では、平面を選択して撮影
なる。そんなプロジェクトを、積極
パン◦今回、THETAで成功したこ
するため、当然空間の一部の情報し
的にやっていこうと思っています。
とで、社内の今までのものづくりプ
か切り取れず、全体の画像情報を撮
パン◦お話を聴くまでは、
単に「360
ロセスが見直されるようなことはあ
りたい場合には、あまり効率が良い
度撮れるカメラ」という認識でした
るのでしょうか?
と は 言 え ま せ ん で し た。 で も
が、今回、お話をうかがって、これ
生方氏 成功と呼ぶには、まだこれ
THETAならば、その空間を丸ごと
まで考えられなかったところに活用
からかとは思いますが、われわれの
簡単に撮って、選択部分をズームし
される可能性が秘められた技術だと
チームそのものが、いい意味でベン
ながら人に見せることができる。そ
れはとても効率的ですし、気が付か
なかった被写体や、意図せずに素敵
な表情などが写っていたりすると、
感激するでしょうね。
ところで、撮影時はTHETAの傾き
などに気を付けなければ、良い画像
は撮れないのでしょうか?
生方氏◦いえ、自動で天頂補正をし
ますので、斜めにしても撮れます。
持った時にパッと撮れるわけです。
パン◦まるで魔法の杖みたいですね
(笑)
。そういった何千という応用
が出てくる中で、リコーさんには将
来に向けた応用の開発の方向性を示
すことが期待されるようになると思
うのですが、その点はいかがでしょ
う?
生方氏 当然、企業ですので、最終
的に事業化するための採算性が必要
です。とはいえ、いまは初期段階で
すので、ビジネスのラインとは別に、
このコア技術を広げることも進めて
います。判断基準は、世の中への貢
献の程度ですね。今までできなかっ
たことが、こんなにもできるように
15
日 本 の も の づ く り
チャー的なものづくりをすることが
いうテーマをいかに設定するかが鍵
りの在り方を示す1つの良い見本に
できました。商品化を決定したのは
だと思います。
なりますね。
2012年9月で、そこからわずか1年
例えば、THETAのユーザーの中に
生方氏 最近話題のメイカーズムー
で、本体をつくり、アプリをつくり、
は、ハンググライダーの先に取りつ
ブメントの中で、デジタルガジェッ
Webページをつくるという、劇的
けたり、クアッドコプターに搭載し
トを自分流に料理できる方が、どん
な開発を実現しました。そして、安
たりして、航空写真を撮影している
どん増えています。今後、リコーが
定した品質で市場に供給できていま
方がいます。また、ヘッドマウント
未開拓の分野に進出する上で、既存
す。
ディスプレイ用のビューワーソフト
の企画設計プロセスだけでは通用し
リコーには着実に商品化プロセスを
を開発された方もいます。それを使
なくなるでしょう。企業の目標に応
進める企業文化がありますが、今回
うと、THETAで撮った写真の中に
じて、やり方を進化させていく必要
の取り組みを通じて、
「ちょっと違う
入って、上下左右いろいろ眺めるこ
があります。私としては、こういっ
やり方を認めてくれるポテンシャル
とができるという、ホットな映像体
た「楽しむ」ものづくりを、個人だ
がある」ということを社内の人間に
験ができるんです。
けでなく、企業単位でもっとできれ
示せたのは大きいと思います。
パン それは凄いですね。メーカー
ば良いなと思っています。
パン◦1980年代のことですが、私は
が柔軟性の高い製品を作り、ユー
アメリカでリコーさんにお邪魔する
ザーがそれを創造力豊かな使い方で
機会がありました。モノクロコピー
展開する。これは、将来のものづく
機全盛の中で、カラーコピーの技術
開発を積極的に推し進められていて、
その頃から、非常に先進的な技術企
業というイメージがありますね。
生方氏 ありがとうございます。わ
れわれ自身がそれを証明していきた
いと思うのですが、私は日本の「も
のづくり力」が落ちているとは考え
ていません。個別に話していると、
アイディアを持っている人はたくさ
んいます。下手になったのは、世の
中への打ち出し方じゃないでしょう
か。昔は、
「とりあえずやってみれば
いいじゃない」というムードでした。
今はそれが、
「何台売れるんだ」と言
われ、決まったことしかできなく
なっています。企業の裁量の中で、
一定量チャレンジしていく。当たる
かもしれないし、当たらないかもし
れない。こうしたほうが、会社が活
性化しますし、ひいては社会も楽し
くなると思います。
楽しむことが生み出す
ものづくり力
パン そもそも、THETAの誕生自
体も「場を共有することは楽しい」
というコンセプトからでしたね。お
話をうかがっていると、
一貫して
「楽
しむ」ことがテーマである気がしま
す。
生方氏 まさにそうですね。本質的
に、やりたいことを追っかけた方が
人間は誰でも力が出ますので、そう
16
04
※この記事はマイナビニュースに2014年6月
に掲載された記事を元に作成しております。
対談 !
ウェアラブルカメラの挑戦
─4K30p超高解像度「HX-A500」
(前編)
日 本 の
も の
づ く り
05
パナソニック 4Kウェアラブルカメラ開発責任者
森勉氏
パナソニックが2014年6月に発売した「HX-A500」は、
アクションカメラ市場では世界初となる4K30pという超高画質を実現した。
カメラ部と本体部の二体型スタイルとなっており、
軽量なカメラを頭に装着することで、臨場感ある
「目線映像」
を記録することができる。
躍動感を生み出す
超解像度
上下を合わせれば、ほぼすべての視
になりますよ。
界が入ります。
パン
なるほど、4Kなので、動画
パン これで撮影された屋久島の映
の静止画がそのまま写真に使えると
トーマス・パン(以下 パン) 先ほ
像を4Kテレビで見せてもらいまし
いうことですね。これだけの画像が
ど実際にHX-A500を着用してみま
たが、あれはすごい。圧倒されまし
撮れるとは思いませんでした。あの
したが、重さはそれほど感じません
た。プロが大きな本格的なカメラを
躍動感と奥行きはまさに解像度の賜
でした。カメラの位置も目線に入ら
担いで撮影した映像としか思えませ
物なのでしょう。
ない程度でいいですね。
んね。
森氏 2次元ですが、3次元のように
森勉氏(以下 森氏) カメラ部は31
森氏 感動の共有ができることが、
感じますよね。高解像度が立体感を
グラムしかありません。ずっと装着
高画質の魅力の一つですよね。これ
生み出しているのです。
するものなので、負担にならないよ
がリアルな追体験だと思います。さ
パン しかし、この小さなカメラで
うに小型軽量に開発しました。カメ
らに、動画のいいところから静止画
あの映像を撮ったなんて、誰も信じ
ラの画角は最大で約160度ですので、
を抜き出せば、約800万画素の写真
てくれないでしょう。それほど美し
17
い映像でした。
い。しかし、ハンズフリーと目線映
すけど、実際にはあまりユーザーに
森氏 そう言っていただけると、苦
像にはこだわりたい……そこで、頭
使ってもらえてないのです。
労して開発した甲斐があります
(笑)
のそばに着けることができるように
パン 撮影行為そのものに興味があ
しようという方向になりました。
るかどうかは人にもよると思います
パン 確かにエクストリームスポー
が、確かにビデオカメラって「撮ろ
撮ることを
意識しないカメラ
ツというと、従来のパナソニックさ
う!」というワンアクションを起こ
パン 「HX-A500」は、パナソニッ
んのイメージからはやや離れた、特
さないと、なかなか撮らないものか
クさんのウェアラブルカメラでは2
殊なマーケットのように感じますね。
もしれませんね。
機種目にあたる製品ですが、そもそ
ただ、映像や録画装置については以
森氏 そうなんです。日本では、運
もウェアラブルカメラを開発するこ
前から製造されていましたので、製
動会などの行事やイベントで使われ
とになったのは、どのような経緯
品ラインアップのストライクゾーン
るケースが多いのですが、それ以外
だったのでしょうか?
内であることは間違いないように感
は活用機会がさほどありません。普
森氏
じますが、いかがだったのでしょう
段からビデオカメラを使ってもらう
企画がスタートしたのは
2011年の後半です。当時は、サー
か?
にはどうしたらいいかを考えた末、
フィンなどのエクストリームスポー
森氏 もちろん、ハンディのビデオ
「身に着けるだけで、撮ることを意
ツでアクションカメラが使われはじ
カメラをずっと作っていますので、
識しないカメラを目指そう」となり、
めていました。新たに興隆したアク
業界が縮小傾向にある中、どのよう
プロジェクトがスタートしました。
ションカメラ市場に対し、どうすべ
に事業を発展させていくべきかとい
きか様々な形を検討しました。パナ
うことは常に考えていました。結局、
ソニックという会社の文化を踏まえ
お客さまに使っていただけないと、
ると、エクストリームスポーツだけ
商品そのものの意味がなくなってし
パン アクションカメラのマーケッ
でなく普段から使ってほしいという
まうわけです。使うシーンを、どう
トでは、競合他社のカメラは一体型
考えになります。すると、ヘルメッ
すれば増やせるのか。実はハンディ
が多いのでしょうか? それとも二
トにカメラを付けるなんてありえな
のビデオカメラって、売れてはいま
体型が多いのでしょうか?
課題を乗り越えるために
培われてきた技術
森氏
二体型というのは、パナソ
ニックが初めてですね。他は全部一
体型です。われわれはヘルメット以
外の方法で頭に着けることにこだ
わったので、路線が離れていったの
だと思います。ただ、ヘルメットで
はなく、頭や帽子などに着けている
と、当然重さで下がってきてしまい
ます。機能性と実用性のバランスを
取るためのベストな大きさを探った
結果、現状の31グラムという軽さに
落ち着きました。
パン 軽量化というのは技術的には
厳しいですよね。とくに、この新機
種では超広角・防水・高画質や液晶
モニターなど、高機能を両立させて
いるわけですから。
森氏 さらにマイクもありますし、
そのうえ水深3メートル/30分の完
全防水です。プールに飛び込むと3
メートルくらい潜ってしまいますか
ら、それでも大丈夫な防水を目指し
ました。
パン そうですか。どんな環境でも
利用できそうな、かなりタフかつ高
グレードな仕様になっているんです
ね。では、この機種を作るにあたっ
18
日 本 の も の づ く り
て、一番難しかったところはどこで
森氏 ええ、特にサイクリング時の
すか?
撮影については、実際に自分たちで
森氏 電力ですね。この大きさと防
自転車に乗って何度もやってみまし
水を両立しようとすると、最終的に、
た。アスファルトは平らのようでガ
電力をどれだけ抑えられるかが問題
タガタしていますし、段差でガンッ
になるんです。電気回路でのブロッ
という急な衝撃が入ります。そうい
クごとに、ここはコンマ1ワット下
う振動対策のために、手ぶれ補正の
げようということを、基板上でひと
チューニングを入れました。
つずつやって、トータルで下げたと
パン ハードとソフト両者のハイテ
いう経緯があります。
クが本当に駆使されているようです
前 の モ デ ル で あ る、
「HX-
ね。私は以前、御社のビデオカメラ
A100」と比べてもさらに省電力化
の樹脂筐体部分の開発のお話を聞か
されているということでしょうか?
せていただいたのですが、樹脂部分
森氏
パン
A100と同じことを行ってい
の超薄肉の構造や寸法精度への徹底
たのであれば、消費電力は下がって
的なこだわりあったことが、非常に
います。ところが4Kという解像度
印象に残っています。そのようにし
を実現するにはもっと電力が必要な
て突き詰めてきたことが、
「小型化」
ので、結果的には「どないせい言う
や「軽量化」の技術につながってい
ねん!」と……思わず大阪弁がとび
るのではないでしょうか。
だしてしまうほどの無理難題を解決
森氏 ありがとうございます。おっ
しなければならない、大掛かりな電
しゃる通り、これだけ小さくて軽い
力省力化プロジェクトになってしま
と、素人目には様々な革新技術が生
いました(笑)
かされているとは思われにくいかも
パン たいへん苦労されたというこ
知れませんが、実は我々が今まで
とがよく伝わってきました(笑)
。
培ってきたものが、たくさん詰め込
色々な場面での利用を検討した機種
まれているんです。
だけに、実機による現場フィールド
テストなども数多く実践されたので
しょうか。
05
森勉(もり・つとむ)
イメージングネットワーク事業部 商
品技術グループ グループマネー
ジャー。1989年松下電器産業株式会
社(現 パナソニック株式会社)入社。
入社以来、ビデオカメラ用映像信号処
理含む機能開発に従事し、2012年よ
り現職。ビデオカメラの新たな価値創
造に取り組む。
※この記事はマイナビニュースに2014年7月
に掲載された記事を元に作成しております。
19
対談 !
ウェアラブルカメラの挑戦
─「ハンズフリー」
をキーワードに
(後編)
日 本 の
も の
づ く り
06
身近なウェアラブルから
プロユースまで広く“4K30p”で
放送できる機器
20
パナソニック 4Kウェアラブルカメラ開発責任者
森勉氏
前編に引き続き、世界初の4K30pウェアラブルカメラ
「HX-A500」開発の
グループマネージャーの森勉氏と、
プロトラブズ社長トーマス・パン氏との対談を
お届けする。後編では、実際に利用したユーザーの声をもとに、
今後の発展性について話し合われた。
していますので、Ustreamでリアル
度と臨場感を考えると、放送局など
タイム放送が可能です。例えば、マ
プロ用途の利用もできそうですが、
ラソンしている映像をそのまま本人
そういった例などはありますか?
トーマス・パン(以下 パン) この
の視線で流すような実況配信もでき
森氏◦既に当社のウェアラブルカメ
ウェアラブルカメラの映像は、機器
ます。ただ、ネットの利用としては、
ラを、鬼ごっこをテーマとした人気
のSDカードに記録して、ユーザー
YouTubeにショートムービーを投
番組などで使っていただいています。
がコンピュータで見たり編集したり
稿するお客さまが多いようですね。
パン◦その番組、知っています。確
することを意図しているかと思いま
パン◦生イベントを生放送するとな
かに、追いかける側の人が頭の横に、
すが、ユーザー自身で映像をネット
ると、準備が必要ですからね。やは
今考えると見覚えのある丸いカメラ
でつなげることもできるのですか?
り「編集後に放送」というスタイル
を着けて、有名な芸能人を追いかけ
森勉氏(以下 森氏) Wi-Fiを内蔵
が主流なんですね。この製品の解像
ていましたね。
日 本 の も の づ く り
旅行や家族との時間も、
手が空くことで広がる映像
フリーで、
「映像を撮るんだ」という
した。しかしこの時代の切実な問題
ことを意識しないため、いろいろな
として、小さい液晶が無いんです。
使い方ができることが魅力です。
液晶メーカーさんがもう作っていな
前 モ デ ル「HX-A100」 の
パン 革新的な映像ツールだという
いんですよ。
フィードバックを受けて、今回の新
実感を、さまざまなシチュエーショ
パン◦そうなんですか。デジタルカ
機種の開発があったかと思うのです
ンで感じることができそうですね。
メラが出始めた90年代後半では、み
が、ユーザーからは、どのような感
では逆に、厳しい意見などはありま
んな小さい液晶でしたよね。時代の
想や要望があったのでしょうか。
したか?
流れというのは本当に早いものです
森氏 「旅行で使っています」とい
森氏 「HX-A100」では、モニター
ね。製造サイドも、利益とビジネス
うお客さまが非常に多かったですね。
がなかったので、
「スマホが無いと使
を求めて、大型液晶の需要と供給に
シーズンを問わず、特別な行事でな
えないのは不便」という声ですね。
対して敏感に適応しているわけです
くとも気軽に使っていただけている
スマホの併用を前提に考えていたの
ね。
という結果が出ています。
で、画角を確認するためのモニター
森氏 そういうことです。今はもう
パン◦よく分かりますね。従来の一
が欲しいという多数の要望を頂きま
大型で高解像度の液晶を必要として
パン
06
体型カメラを持ち歩いて、撮影する
たびにポケットやカバンから取り出
して、被写体に向けて手で構えると
いうのはとても大変ですから。
森氏 やはり、両手が空くというの
が一番のポイントだと思っています。
意識せずにすべてが撮れていて、あ
とから見返して映像を選ぶことがで
きるわけです。
パン◦とくに小さな子供の映像を撮
りたくても、同時に面倒をみなけれ
ばならないときなどには、両手が空
くのは本当に便利ですね。
森氏 このウェアラブルカメラなら、
撮影しながらお子さんと一緒にブラ
ンコに乗ったりできますし、自然な
表情を撮ることができます。ハンズ
21
日 本 の も の づ く り
いるスマホやタブレットが主流に
とはいえ、今はもう、どこも「ウェ
なかなか出てきませんから、まず発
なっていて、液晶メーカーさんは皆
アラブル」一色になりつつあります
売することを優先しました。我々と
そっちをやっているわけです。世の
からね。我々は「ウェラブル&ハン
しては、
これからも、
コンシューマー
中の流れと逆行する小さい液晶を
ズフリー」というキーワードを中心
というお客さまを念頭に置いて、発
作ってくれと頼むと、怪訝な顔をさ
に、自由に行動できて、その時の映
展させていこうと思っています。
れます。新モデルのための液晶探し
像を残せるという方向で進めていく
パン まだまだ将来性がある商品で
には、非常に苦労しました。
つもりです。
すね。私は、先進国のコンシュー
パン◦この映像技術は、医療系など、
マー向けの製品は「楽しさ」が90%
特殊用途のビジネスにも使えそうで
で、
「生活の基本ニーズ」が残り10%
ウェアラブルの
世界への挑戦
22
06
すね。民生で認知度が高まると、い
ではないかと感じています。この
パン◦身体に装着する各種「ウェア
ろいろな提案が来るのではありませ
ウェアラブルカメラは、先進国で求
ラブル」デバイスへの期待は大きい
んか。
められていく気がします。なにより、
ですね。その中でも、先陣を切った
森氏 そうですね。実は、言っちゃ
こうした商品が世に出るのは、昔の
高画質動画カメラは、今まではエク
いけないことがいっぱいあります
サイエンス・フィクションの世界が
ストリームスポーツ向けやプロ仕様
(笑)
現実になってきているようで楽しい
がメインというお話でしたが、それ
パン◦私も、こうして実物を持って
です。ちょうどいいタイミングでお
をコンシューマー用にするというこ
いると、こんな場面で使えないだろ
話を聞け、実装体験もさせてもらえ
とは、一般の人が今までアクセスで
うかという発想が生まれてきます。
ました。次の休暇のために、是非と
きなかった世界に手が届くようにす
自動化の製造工場を持っている企業
も購入を検討させていただきます!
るということなので、ものづくりの
としては、ファクトリーオートメー
(笑)
醍醐味があるエリアだと感じます。
ションの管理に使えるのでは? な
森氏 ありがとうございます。最寄
高画質ウェアラブルカメラの分野に
どと思いました。4Kという画質で、
りの量販店さんで販売しております
はさらに、いろいろな可能性があり
今まで確認できなかったところが確
(笑)
そうですね。
認できるわけですから。
森氏 まだ発売したばかりなので、
森氏 実際に商品を出すことで、そ
頂いた反響をもとに、次はどういっ
ういうアイディアを頂けることがあ
たものを目指すのか考えています。
りがたいです。何も無い中で発想は
※この記事はマイナビニュースに2014年7月
に掲載された記事を元に作成しております。
この国で もの と
付き合っていくために
瀬戸義章
作家/ジャーナリスト/tranSMS代表
「対談!日本のものづくり」は、2013年からマイナビニュースで連載がはじまった、
20回を超える人気企画です。私はライターとしてほぼすべてに携わっていますが、
最先端の開発に触れるダイナミズムをいつも感じています。今回、3つの対談が冊
子として装い新たにまとまる事になりました。
限りなく透明な光り輝く樹脂素材
「ク
ラリティ」や、感動の場を共有できる360°
全天球カメラ「THETA」
、超高解像度
で目線映像を追体験できるウェアラブルカメラ「HX-A500」など、いずれの対談も、
企業の挑戦的な「ものづくり」の様子を深く探る内容になっています。
これら3つの素材・製品に共通しているのは、
「つくり手の予想を超えた展開」が
あったことです。クラリティは、粘着材を開発する中で偶然そのアイデアが生まれ
ました。THETAやHX-A500は新たな映像体験を提供するツールとして、医療・
観光・不動産・スポーツ・ファクトリーオートメーションなど、さまざまな異業種・
異分野との融合が試みられています。
イノベーティブな試みは、今まで存在しなかったことを伝えなければならない困
難さを含みます。実際に触ってみなければ、明らかに硬質な見た目なのに柔らかく
曲がったり、ワンタッチでその場にいる全員の表情を写すことができたり、まるで
窓の向こうにある現実のような映像が録れたりするといったことの、本当の驚きを
感じることはできません。この事実は、手に取れる「もの」を世に送り出す重要性
を改めて教えてくれています。今回取り上げた3つの素材・製品は、プロトタイピ
ングやSNSなどを通じて、メーカーとユーザーが交流しながら、ともに使い方を発
明している最中とも言えるでしょう。
私は仕事柄、東南アジアの発展途上国を訪れる機会がたびたびあるのですが、そ
の中には、まったく工業力のない国があります。文房具でもコンピューターでも自
動車でも、何かしらの工業製品を欲しいと思ったら、他国から輸入しなければなら
ない国です。ここから振り返ると、まさに日本は「ものづくり」の国であると言え
るでしょう。
そして、このところ日本では「つくりかた」だけでなく、
「使いかた」も変わって
きています。住宅のリフォームやルームシェア、カーシェアリング、製品のリース
といったように、従来の「購入」というかたちから、
「機能利用」という流れが増え
てきているのです。このように、
“つくる”から、
“つかう”まで、この冊子が「もの
づきあい」を改めて考える一つのきっかけになれば幸いです。
せと・よしあき
1983年、神奈川県川崎市出身。長崎大学環境
科学部卒業。都内の物流会社でリユースビジネ
スの広報に携わった後、独立。東南アジアのリ
サイクル事情や、東日本大震災の復興の様子を
取材して歩く。2012年、発展途上国向けのプ
ロダクトデザイン&ビジネスコンテストである
「See-D Contest2012」にて最優秀賞をチーム
「tranSMS」の仲間と共に受賞し、2013年から
東ティモールへの導入・実施を始めている。著
作に『
「ゴミ」を知れば経済がわかる』
(PHP研
究所)がある。
23
Author
Document
Category
Uncategorized
Views
4
File Size
1 827 KB
Tags
1/--pages
Report inappropriate content