B A Series Series 第772回 定期演奏会Bシリーズ Subscription Concert No.772 B Series 第773回 定期演奏会Aシリーズ Subscription Concert No.773 A Series 寺西 基之 TERANISHI Motoyuki Concert Programs オネゲル:交響的楽章第1番《パシフィック 231》 6 6 6 6 1 24 25 29 アルチュール・オネゲル(1892 ~ 1955)はフランス生まれだが、ド イツ系スイス人で国籍もスイスであった。パリ音楽院で学び、第1次 (1899 ~ 1963) やダリウス・ミヨー 大戦後にはフランシス・プーランク (1892 ~ 1974) ら当時の若手作曲家たちと “六人組” を結成してフラ ンス音楽に新しい流れを作り出したこともあって、フランスの作曲家 と見なされることも多いが、プロテスタントであり、またワーグナーに 傾倒するなど、その出自は彼の行動や作風に様々な形で現れている。 オネゲルの管弦楽作品の中でもとりわけユニークな名作に挙げら れるのが、1923年に書かれた《パシフィック231》である。パシフィッ TOPICS ク231とは蒸気機関車の名称で、オネゲル自身この曲について完成 後次のように述べている。 「私は機関車を愛した。私にとってそれは生き物である。……この 曲で表そうしたのは、単に機械の騒音の模写でなく、機関車の視覚 的印象と肉体的快感である。客観的瞑想から出発し、停止中の機関 車の静かな呼吸、発車のための努力、徐々に速度を増し、やがて到 達する詩的な状態、真夜中に時速120マイルで疾走する300トンの from TMSO 汽車の悲壮感に至る」(編集部注:120マイルは約193キロメートル) 実際、作品はこの言のとおり、いかにも機関車の発進を思わせる 重々しい加速が音価の段階的な変化で巧みに描かれた後、力感に 満ちた走行がダイナミックに表現されていく。 もっともオネゲルは晩年になって、かつての自身のコメントを翻すか のように、「バッハのコラール変奏曲の形式を念頭に置き、純粋に 音楽的に、抽象的なリズム運動を追求した曲」と述べてこの曲の描 写性を否定し、元々は“交響的楽章” とだけ名づけたが、それでは個 性がないので完成後に蒸気機関車の名称である「パシフィック231」 を題として加えたと説明している。 16 第 772 回 定期演奏会 B シリーズ/第 773 回 定期演奏会 A シリーズ 作曲年代: 1923年 初 演: 1924年5月8日 パリ セルゲイ・クーセヴィツキー指揮 楽器編成: ピッコロ、フルート2、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネッ ト2、 バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、 ホルン4、 トランペット3、トロンボーン3、 テューバ、 中太鼓、シンバル、 大 太鼓、タムタム、 弦楽5部 バルトーク:ピアノ協奏曲第3番 Sz.119 若い頃に従事した母国ハンガリーおよび周辺地域の民俗音楽の研 究をベースに、自らの尖鋭な音楽語法を開拓して斬新な作品を世に (ハンガリー式にはバルトーク・ベーラ/ 送り出してきたベーラ・バルトーク な古典的傾向を強め、その方向は晩年のアメリカ時代にさらに顕著 になっていく。 彼がアメリカに移ったのは1940年だった。1930年代のファシズム 台頭の中、マジャール人ながら反ナチの立場を打ち出していたバル トークは、親ナチ路線をとる母国に留まることが危うくなってアメリカ に亡命したのだった。 しかし新大陸での彼は、極度の貧窮状態に加え、 白血病を発症し、悲惨な生活を余儀なくされる。しかしそうした苦し 6 6 6 6 1 24 25 29 Concert Programs だったが、後期になるに従って彼の作風は次第に明快 1881 ~ 1945) い状況にあって、晩年の彼は幾つかの傑作を生み出した。 ピアノ協奏曲第3番もまさに彼の最晩年の作品で、死の年である 1945年にヴィオラ協奏曲と並行して作曲されている。作曲当時すで 最後の17小節は未完のままとなってしまった。 未完部分は残された (1901 ~ 78)が補 スケッチに基づいて、弟子のティボール・シェルリ 筆している (シェルリはやはり未完に終わったヴィオラ協奏曲も補筆完 TOPICS に病状は悪化しており、病床で筆が進められたが、結局第3楽章の 成した)。 作品は、後期の作らしい古典的様式のうちに澄み切った清冽な作 風を示しており、そこに晩年の彼が達した諦観した境地が感じられる。 望みのない母国への思いをそこに読み取る見方もなされている。しか しそうした平明さの中にも、バルトークが生涯通して追求し続けた斬 新な音楽語法が随所に生かされ、まさに彼の個性が刻印された名品 となっている。 第1楽章 from TMSO (1903 ~ 82)への思いや、もはや帰る ピアニストであった愛妻ディッタ アレグレット ピアノの両手ユニゾンによる第1主題に始 まるソナタ形式楽章で、かつてのバルトークの先鋭な作風とは異なる 透徹した明澄さが支配している。 第2楽章 アダージョ・レリジオーソ せいひつ 静謐な楽句と独奏ピアノとの 対話による深い祈りの緩徐楽章で、死を間近に感じた心境が滲み出 第 772 回 定期演奏会 B シリーズ/第 773 回 定期演奏会 A シリーズ 17 ているかのようだ。対照的に中間部(ポーコ・ピウ・モッソ) は即興的 な気分に富む。休みなく次の楽章へ続く。 第3楽章 (アレグロ・ヴィヴァーチェ) (第3楽章のテンポ指定は作 曲者によるものではない) 民俗舞曲風の主題に基づくロンド。病床 で書かれたにもかかわらず、ここに躍動するエネルギーは最後の生命 の燃焼なのだろうか。民俗音楽を土台に自らの語法を開拓し続けた おういつ 彼の“白鳥の歌” に相応しく、民族精神の横溢するフィナーレである。 作曲年代: 1945年 Concert Programs 初 6 6 6 6 1 演: 1946年2月8日 フィラデルフィア ジェルジ・シャーンドル独奏 ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 楽器編成: フルート2 (第2はピッコロ持替)、オーボエ2 (第2はイングリッシュホ ルン持替)、クラリネット2 (第2はバスクラリネット持替)、ファゴット2、 ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、 テューバ、 ティンパニ、 シロフォン、小太鼓、大太鼓、トライアングル、シンバル、タムタム、 弦楽5部 24 25 29 ストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》 セルゲイ・ディアギレフ (1872 ~ 1929)が率いるロシア・バレエ団 のパリ公演のためにイーゴリ・ストラヴィンスキー(1882 ~ 1971)が 作曲した3大バレエ《火の鳥》《ペトルーシュカ》《春の祭典》は、初 期の彼のいわゆる原始主義時代の代表作で、ロシア的題材をもとに、 TOPICS 原色的な音色と強烈なリズムの根源的なエネルギーを前面に打ち出 した傑作である。 特に3作中最も遅く書かれた《春の祭典》(ロシア語の原題は「聖 なる春」)は、大胆な和声、複雑精緻な前衛的リズム、新奇な楽器 法など、あらゆる面で伝統的な音楽のあり方を根本から覆してしまう ような、音楽史上でもとりわけ重要な革命的作品で、そのあまりの斬 新さゆえに、1913年5月29日にパリのシャンゼリゼ劇場で行われたロ from TMSO シア・バレエ団による初演(ニジンスキー振付、ピエール・モントゥー 指揮) では、会場が騒然となって一大事件となった。ヨーロッパを根 底から揺るがすこととなる第1次世界大戦の前年、ヨーロッパ音楽の 伝統を土台から崩すこの作品は、こうしてスキャンダラスに登場した のだった。 ストラヴィンスキーがこの作品を着想したのは《火の鳥》作曲中の 1910年だった。自伝によると、車座になった長老たちが見守る中で 春の神をなだめるべく生贄として差し出されたひとりの処女が死ぬま で踊る、といった太古ロシアの異教の儀式の光景が脳裏に幻影とし て現れたという。彼は異教の研究家でもあった画家ニコライ・レーリ 18 第 772 回 定期演奏会 B シリーズ/第 773 回 定期演奏会 A シリーズ ヒ (1874 ~ 1947) とともに1911年夏に台本を作り上げ、引き続き作 曲に着手、1913年春に全曲を完成させた。 全体は2部構成。 第1部 大地礼賛 (時は昼) 「序奏」 は高音域のファゴットで始まる自然の目覚め。「春の兆しと乙 女たちの踊り」 では不規則なアクセントと大胆な不協和音によって春を 待つ乙女が踊る。そのエネルギーは、若い男たちが乙女を掠奪する 「誘拐の遊戯」 で頂点に達する。 次の 「春のロンド」 は重々しい土俗的 は2つの町の部族の争いを表す戦闘的な 舞曲。「敵対する町の遊戯」 音楽。その最中に儀式を司る賢者が一同を引き連れて登場(「 賢者 の行列」 )、跪いて大地に口づけする (「大地への接吻」)。そして熱狂 第2部 生贄 (時は夜) 6 「序奏」 は重苦しい夜の情景。 続く 「乙女たちの神秘的な集い」 では 「選ばれた乙女の 神秘的な踊りのうちに生贄となる乙女を選び、次の 6 賛美」 でその生贄の娘を激しく賛美する。「祖先の呼び出し」 で金管の 6 「祖先の儀式」 によっ 強烈な響きが先祖の霊を呼び出した後、呪術的な 6 て不気味な雰囲気が高まり、複雑なリズム上に生贄の乙女が死ぬま 1 24 25 29 Concert Programs 「大地の踊り」 で激しく第1部を閉じる。 的な 「生贄の踊り」 で頂点が築かれる。 で踊り狂う 作曲年代: 1911 ~ 13年 初 演: 1913年5月29日 パリ ピエール・モントゥー指揮 《春の祭典》に寄せて from TMSO マエストロ ひとこと メッセージ TOPICS 楽器編成: ピッコロ、フルート3 (第3は第2ピッコロ持替)、アルトフルート、オー ボエ4 (第4は第2イングリッシュホルン持替)、イングリッシュホルン、 小クラリネット、クラリネット3 (第3は第2バスクラリネット持替)、 バ スクラリネット、ファゴット4 (第4は第2コントラファゴット持替)、コン トラファゴット、ホルン8 (第7・8はテノールテューバ持替)、トランペッ ト4、 バストランペット、 小トランペット、トロンボーン3、テューバ2、 ティンパニ(奏者2)、大太鼓、タムタム、トライアングル、タンブリン、 ギロ、シンバル、アンティークシンバル、 弦楽5部 都響には正確さと情熱、知性と魂があります。《春の祭典》は まさにそのような要素を必要としています。都響は精密なリズム感 があるだけでなく、音楽的でもあります。都響にとって正確に演奏 することは自然なことですし、リズム、強弱、すべての微妙なディ テイルを表現することが可能です。従って、この名曲を彼らと演 奏することは私にとって素晴らしく光栄な機会なのです。 (ヤクブ・フルシャ) ©Petra Klačková 第 772 回 定期演奏会 B シリーズ/第 773 回 定期演奏会 A シリーズ 19
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