B Series 第823回 定期演奏会Bシリーズ Subscription Concert No.823 B Series 1月10日(火) 19:00開演 サントリーホール 2017年 Tue. 10 January 2017, 19:00 at Suntory Hall 指揮 ● コンサートマスター ● 小泉和裕 四方恭子 KOIZUMI Kazuhiro, Conductor SHIKATA Kyoko, Concertmaster ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調 (80分) WAB105(ノヴァーク版) Concert Programs Bruckner: Symphony No.5 in B-flat major, WAB105 (Nowak edition) Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 1 10 1 23 Adagio - Allegro Adagio. Sehr langsam Scherzo, Molto vivace (Schnell) Finale. Adagio - Allegro moderato from TMSO T o p i cs 曲目解説 (本文P.7~9をご覧ください。) 演奏時間は予定の時間です。 本公演に休憩はございません。 主催:公益財団法人東京都交響楽団 後援:東京都、東京都教育委員会 シリーズ支援: 助成:文化庁文化芸術振興費補助金 (舞台芸術創造活動活性化事業) お願い−演奏中は携帯電話、アラーム付き時計、 補聴器などの音が鳴らないように ご注意ください。 写真撮影、 録音、 録画はお断りいたします。 音楽の余韻を楽しむ拍手をお願いいたします。 4 プログラム B Series 第823回 定期演奏会Bシリーズ Subscription Concert No.823 B Series 寺西 基之 TERANISHI Motoyuki ■ ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調 WAB105 (ノヴァーク版) リンツ近郊の村に生まれ、生涯オーストリアを本拠に活動したアン トン・ブルックナー(1824 ~ 96)は、何よりも交響曲作家として知ら れている。しかし、もともと村の教員から出発し、教会オルガニスト いってよい。作曲の勉強も晩学で、初めて本格的な交響曲(ヘ短調/ 番号は付されていない)の作曲に乗り出したのは1863年、実に40歳 になる少し前であった。 そうした晩成型の努力家としての性格、教会音楽家としての経歴、 1 10 1 23 そして素朴で敬虔なカトリック信仰に基づく生来の村人気質は、 ブルッ クナーの交響曲の独特なスタイルのうちに反映されている。 重層的 Concert Programs も務めた彼は、作曲家としては主に宗教音楽の分野から出発したと に構築された気宇壮大なスケールの中で、神と大自然を畏敬の心を もって観照するといった特質を持つ彼の交響曲は、19世紀ロマン派 の交響曲の中でも全く独自の位置を占めている。 ブルックナーのそうした交響曲様式は初期の作品を通してその原 T o p i cs 型が形作られる。そしてそうした初期の探求と実験を経て、中期の 始まりを告げる第4番(初稿1874年) で一層の拡がりと壮大さを持つ スタイルが追求された後、中期の代表作といえる本日の第5番ではさ らに新たな表現世界が示されることとなる。 この第5番はブルックナーの全交響曲のうちでも後期の第8番と並 んで特に規模の大きなものである。とりわけ対位法の技法が活用さ れている点がこの第5番の大きな特徴で、音の横の流れを多層的に from TMSO 積み重ねて壮大な音の大伽藍を築き上げるその作風は、しばしばゴ たと シック建築にも譬えられてきた。 こうしたバロック的ともいえる対位法書法や象徴的に用いられるコ ラール主題などは、この作品の根本にある宗教的な意味合い、神 への畏敬の念を示したものと解釈できる。さらに循環手法(ある楽章 の主題や動機を他の楽章でも用いる手法) によって全曲の論理的な 流れをフィナーレのクライマックスに収斂させるという作品全体の設 計も、全ての事象を絶対的で超越的な神に帰す固い信仰を表現した ものと見なすことができよう。 第823回 定期演奏会Bシリーズ 7 ブルックナーがこの交響曲に着手したのは1875年2月、ちょうど 経済上の困窮から精神的に落ち込んでいた時期だった。しかしそれ だけに逆に創作意欲は高まっていたようで、早いペースで6月までに 3つの楽章を完成させ、引き続いて終楽章の作曲に取り掛かってい る。全曲の一応の形が仕上がったのは翌1876年5月のことだったが、 丸1年たった1877年5月にブルックナーは再びこの第5番の推敲を始 めて多くの改訂を施し、その際、彼の交響曲では初めてテューバも 加えて、 最 終 的には1878年1月4日に完 成をみている ( 第4番の テューバは1878 ~ 80年の改訂で追加された)。 Concert Programs しかしながらこの交響曲第5番は演奏される機会がなかなか与えら 1 10 1 23 れず、初演は完成から16年もたった1894年4月9日グラーツにおい て、弟子のフランツ・シャルク (1863 ~ 1931)の指揮によってようや く行われた。しかしすでに老年期に入り病弱の状態にあったブルック ナーは臨席することができなかった。 初版は1896年に出されたが、 それはフランツ・シャルクがきわめて大幅なカットと思い切ったオーケ ストレーションの変更を施した改作版だった。そのため、確証はない ものの、シャルクの指揮による初演もそれに近い形でなされたと考え られている。いずれにせよこの交響曲はその後しばらくこのシャルク の改作版楽譜によって伝えられることとなった。 T o p i cs この交響曲の本来の形による、いわゆる原典版楽譜は、ブルック ナーの 死 後 約40年 近く経た1935年、ロベルト・ハース(1886 ~ 1960)の校訂によって出された。このハース版の初演は同年10月23 日ミュンヘンにおいてジークムント・フォン・ハウゼッガー(1872 ~ 1948)の指揮で行われている。なお原典版としてはレオポルト・ノ (1904 ~ 91)による版も1951年に出されているが、これは ヴァーク ハース版と基本的に同一で、現在一般に用いられているのはこのノ ヴァーク版である。 かい ざん from TMSO なお“改 竄 版”ともいわれるほどに悪評高い上述のシャルク版だが、 最近は、改訂すること自体はブルックナー自身が承知していたことや、 一部にブルックナーのアイデアや彼が承認していた変更もあるところ から、それなりの評価を与える向きもある。 特にブルックナーも認め ていたといわれる終楽章での金管バンダ(別動隊)の補強は、原典 版の演奏でも時に採用されてきた。 第1楽章 アダージョ~アレグロ 変ロ長調 まず序奏が置かれ ているが、ブルックナーの冒頭楽章で本格的な序奏を持つのはこの 第5番だけである。 低弦のピッツィカートによる神秘的な開始、突然 8 第823回 定期演奏会Bシリーズ 現れる総奏の上行音型、金管のファンファーレなど、全曲の性格を 象徴するような峻厳な趣の序奏である。 続くソナタ形式の主部は、 ヴィオラとチェロによる流麗な第1主題、ピッツィカートに始まる第2主 題、木管による第3主題を中心に劇的に発展し、展開部で大きな盛 り上がりを築く。 第2楽章 アダージョ/非常にゆっくりと ニ短調 弦のピッツィ カートの伴奏上でオーボエが奏する孤独感に満ちた第1主題と祈りの 感情に満ちた力強い弦の第2主題を持った緩徐楽章。この2つの主 第3楽章 スケルツォ/モルト・ヴィヴァーチェ(速く) ニ短調 ダイナミックなスケルツォ楽章。 主部は、前の楽章の冒頭の伴奏形 を用いた第1主題とテンポを落としたレントラー風の第2主題とによる ソナタ形式をとる。 対照的に、ホルンと木管の呼びかけで始まるトリ 1 10 1 23 オは牧歌的なもの。 第4楽章 フィナーレ/アダージョ~アレグロ・モデラート Concert Programs 題が交互に現れるうちに感動的な高揚を示す。寂しさと敬虔な感情 が入り交じったいかにもブルックナーらしい緩徐楽章だ。 変ロ 長調 この大作の締め括りに相応しい壮大なフィナーレ。まず第1楽 章の序奏と同じように始まり、クラリネットがフィナーレ主題を予示す る。そして第1楽章第1主題、第2楽章第1主題が断片的に回想され T o p i cs るのだが、そのたびにフィナーレ主題がそれを遮る (これは明らかに ベートーヴェンの交響曲第9番の終楽章の序奏にヒントを得たものだ ろう)。 このフィナーレ主題(第1主題)が重厚なフーガで扱われるところか らが主部である。ソナタ形式をとるが構成は凝っていて、特に呈示 部の終わりに示される金管のコラールが重要な要素となっていく。こ のコラール主題のフーガで始まる展開部が、やがて第1主題も加わっ た二重フーガとして大きく発展するところは聴きものだ。再現部の終 from TMSO わりには第1楽章第1主題も現れ、さらに諸主題を組み合わせた堂々 たるコーダが圧倒的な高揚を示すうちに、全曲が閉じられる。 作曲年代: 1875 ~ 78年 初 演: シャルク版(?)/ 1894年4月9日 グラーツ フランツ・シャルク指揮 原典版/ 1935年10月23日 ミュンヘン ジークムント・フォン・ハウゼッガー指揮 楽器編成: フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホル ン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、 弦楽5部 第823回 定期演奏会Bシリーズ 9 A Series 第824回 定期演奏会Aシリーズ Subscription Concert No.824 A Series 1月23日(月) 19:00開演 東京文化会館 2017年 Mon. 23 January 2017, 19:00 at Tokyo Bunka Kaikan 小泉和裕 KOIZUMI Kazuhiro, Conductor ヨシフ・イワノフ Yossif IVANOV, Violin コンサートマスター ● 矢部達哉 YABE Tatsuya, Concertmaster 指揮 ● ヴァイオリン ● ウェーバー:歌劇『オイリアンテ』序曲 op.81(9分) チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35(35分) Tchaikovsky: Violin Concerto in D major, op.35 Ⅰ Allegro moderato - Moderato assai Ⅱ Canzonetta. Andante Ⅲ Finale. Allegro vivacissimo 1 10 1 23 Concert Programs Weber: Overture to "Euryanthe", op.81 休憩 / Intermission (20分) T o p i cs グラズノフ:交響曲第5番 変ロ長調 op.55(34分) Glazunov: Symphony No.5 in B-flat major, op.55 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Moderato maestoso - Allegro Scherzo. Moderato Andante Allegro maestoso from TMSO 曲目解説 (本文P.10~13をご覧ください。) 演奏時間と休憩時間は予定の時間です。 主催:公益財団法人東京都交響楽団 後援:東京都、東京都教育委員会 助成:文化庁文化芸術振興費補助金 (舞台芸術創造活動活性化事業) お願い−演奏中は携帯電話、アラーム付き時計、 補聴器などの音が鳴らないように ご注意ください。 写真撮影、 録音、 録画はお断りいたします。 音楽の余韻を楽しむ拍手をお願いいたします。 プログラム 5 A Series 第824回 定期演奏会Aシリーズ Subscription Concert No.824 A Series 増田 良介 MASUDA Ryosuke ■ ウェーバー:歌劇『オイリアンテ』序曲 op.81 カール・マリア・フォン・ウェーバー(1786 ~ 1826)が、大成功 を収めた 『 魔弾の射手 』の次に手がけた歌劇が『オイリアンテ』であ る。ウェーバーは意欲的だった。当時のドイツ・オペラは、モーツァ ルトの『 魔笛 』やベートーヴェンの『フィデリオ』のように、ジングシュ Concert Programs ピール (音楽を地のセリフでつなぐ民衆オペラ)の形式が支配的だっ たが、ウェーバーはこれを変え、最初から最後まで音楽でストーリー 1 10 1 23 を進めるオペラを書こうとしたのだ。 ウェーバーは、有名な文筆家であったヘルミーナ・フォン・シェジー (1783 ~ 1856) に台本を依頼した。彼女は、舞台作品を執筆した経 験がないことやオペラを知らないことなどから固辞するが、度重なる 説得に、ついにこれを承諾した。 物語は次のようなものである。アドラール伯爵は、戦争のため妻 オイリアンテと離れている。 彼が妻の貞操を誇るのを聞いたリジアル ト伯爵はそれを疑い、口論になる。アドラールは妻の貞操に全財産 T o p i cs を賭けることになる。しかし彼は、リジアルトの陰謀による誤解から 彼女を疑うようになり、一度は妻を殺そうとするが、最終的には誤解 が解ける。 しかしやはり、シェジーの台本の出来は良くなかった。ウェーバー の音楽は非常に優れたものだったが、初演後まもなく、この歌劇は 忘れられてしまい、現在ではほぼ序曲のみが演奏されている。なお、 シェジーはこのあと、戯曲『キプロスの王女ロザムンデ』 を書き、これ にはシューベルトが劇付随音楽を書くが、こちらも演劇としては失敗 from TMSO に終わった。 この序曲は、歌劇の完成後、最後に作曲されたものである。ソナ タ形式で、2つの主題はいずれもアドラールの歌う部分から取られて いる。 短いが力強い導入に続いて登場する、管楽器の第1主題は、 第1幕の「私は神とわがオイリアンテを信じる」という宣言。第1ヴァイ オリンが歌う優美な第2主題は、第2幕でオイリアンテと再会するアド ラールがその喜びを歌うアリア「たぐいまれにしか得られない至福よ」 の旋律である。 また、展開部の冒頭には、ヴィオラのトレモロをバックに、弱音器 付きのヴァイオリン8本が歌う印象的な部分がある。ここは、アドラー ルの妹エマの幽霊が出現する場面の音楽である。 10 第824回 定期演奏会Aシリーズ 作曲年代: 全曲/ 1821年12月15日~ 1823年8月29日 序曲/ 1823年9月1日~ 10月19日 初 演: 1823年10月25日 作曲者指揮 ウィーン ケルントナートーア劇場 ■ チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35 1878年3月、ピョートル・イリイッチ・チャイコフスキー(1840 ~ は、スイスのレマン湖畔にあるクラランという小さな町に滞在して 93) いた。ある日、かつての弟子である若いヴァイオリニスト、ヨシフ・コー テク (1855 ~ 85)が彼を訪ねてやってくる。ベルリンでヨーゼフ・ヨア 1 10 1 23 ヒム(1831 ~ 1907)に師事していたコーテクは、手土産として、新し Concert Programs 楽器編成: フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、 トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦楽5部 い音楽の楽譜をたくさん持ってきていた。 チャイコフスキーは、その中にあった、エドゥアール・ラロ (1823 ~ 92)の《スペイン交響曲》を非常に気に入り、コーテクと2人で一日中 この曲を演奏した。パトロンのナジェージダ・フォン・メック夫人(1831 T o p i cs ~ 94)宛ての手紙にはこうある。「私はこの曲から多くの喜びを得ま した。この曲は、新鮮さと明るさ、小気味よいリズム、美しく、また 見事に和声付けがされた旋律を持っています」 この手紙の2日後の3月17日 (新暦/以下同)、チャイコフスキー は、作曲中だったピアノ・ソナタを中断して、ヴァイオリン協奏曲の 作曲を始める。 霊感の爆発は凄まじいもので、5日後には第1楽章、 11日後には全楽章のスケッチを仕上げた。 彼は第2楽章をまるごと from TMSO 作曲し直しているが、それもすぐに終わり、1878年4月11日、この 協奏曲は着手からわずか25日で全曲が完成した。 作曲とは対照的に、初演は難航をきわめた。当初チャイコフスキー がこの曲を献呈しようと考えていた大ヴァイオリニスト、レオポルド・ アウアー(1845 ~ 1930)が、この曲を演奏困難としたからだ。二転 三転の末、アドルフ・ブロツキー(1851 ~ 1929)による初演が実現 したのは、完成から3年以上過ぎたあとのことだった。 初演は賛否両論だったが、各地でこの曲を弾いたブロツキーや、 後に考え直してこの曲を弾いたアウアーらのおかげで人気は高まり、 第824回 定期演奏会Aシリーズ 11 現在では、ベートーヴェンやブラームスの作品と並び、最もよく演奏 される協奏曲の一つとなっている。 第1楽章 拍子 アレグロ・モデラート~モデラート・アッサイ 4分の4 ニ長調 ソナタ形式。 穏やかな序奏のあと、2つの主題を、 いずれも独奏ヴァイオリンが提示する。オーケストラが第1主題を堂々 と演奏する箇所からが華やかな展開部で、カデンツァがそのあとに置 かれている。 第2楽章 カンツォネッタ/アンダンテ 4分の3拍子 ト短調 複合三部形式。チャイコフスキーならではの憂愁に満ちた美しい旋 律が歌われる。切れ目なしに終楽章へ進む。 第3楽章 子 フィナーレ/アレグロ・ヴィヴァーチッシモ 4分の2拍 ニ長調 自由なロンド・ソナタ形式。ロシアの民族舞曲トレパー Concert Programs クの旋律による熱狂的なフィナーレ。 1 10 1 23 作曲年代: 1878年3月19日~4月11日 初 演: 1881年12月4日 ウィーン アドルフ・ブロツキー独奏 ハンス・リヒター指揮 ウィーン・フィル 楽器編成: フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、 トランペット2、ティンパニ、弦楽5部、独奏ヴァイオリン ■ グラズノフ:交響曲第5番 変ロ長調 op.55 アレクサンドル・コンスタンチーノヴィッチ・グラズノフ (1865 ~ T o p i cs 1935)は、ロシア音 楽 史において、19世 紀にチャイコフスキーや 「ロシア五人組(力強い仲間)」の築いた伝統を受け継ぎ、20世紀の ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906 ~ 75)らに受け渡した重 要な 作曲家だ。 彼は、15歳で交響曲第1番を作曲した天才少年で、ニコライ・リ ムスキー=コルサコフ (1844 ~ 1908) に師事、自他ともに認める彼の 後継者に成長した。アレクサンドル・ボロディン (1833 ~ 87)の、未 from TMSO 完に終わった歌劇『イーゴリ公』 を、リムスキー=コルサコフとともに 補筆した (序曲に至っては、ボロディンがピアノで弾いていたのをグラ ズノフが記憶から再現したとされる)のは、彼らの代表的な共同作業 である。また、長年にわたってサンクトペテルブルク音楽院の院長を 務めたグラズノフは、ショスタコーヴィチを育てるなど、教育者として も大きな業績を残した。 作曲家としては、サンクトペテルブルクを中心とする「五人組」の 民族主義と、モスクワを中心とする、チャイコフスキーらの国際主義 を融合したとされる。ただ、興味深いことに、リムスキー=コルサコ フやチャイコフスキーとは違い、彼はオペラをまったく手がけなかった。 12 第824回 定期演奏会Aシリーズ バレエや劇付随音楽、あるいは標題的な管弦楽曲はあるものの、彼 が最も力を注いだのは、交響曲や弦楽四重奏曲といった器楽曲の分 野だった。 グラズノフの完成した交響曲は8曲(第9番は未完) ある。そのうち、 第4番から第6番は最も充実した作品とされ、比較的演奏される機会 も多い。交響曲第5番は1895年4月から10月にかけて作曲され、セ ルゲイ・タネーエフ (1856 ~ 1915) に献呈された。 第1楽章 分の3拍子 モデラート・マエストーソ~アレグロ 4分の4拍子~4 変ロ長調 ソナタ形式。おおらかで力強い序奏に続き、 主部が始まる。チェロとファゴットの第1主題は序奏の主題のリズムを 変えたものであり、フルートとクラリネットをハープの分散和音が支え る第2主題も第1主題と似たリズムを持っている。 スケルツォ/モデラート 4分の2拍子 ト短調 2拍子 に短い。2本のフルートが可憐な主題を吹く主部には、 メンデルスゾー ン的な軽快さと透明感がある。ポチッシモ・メノ・モッソ (わずかに遅 くして) という指示のある中間部は民族舞曲風のひなびた旋律であ 1 10 1 23 る。トライアングルやグロッケンシュピール、ハープといった楽器が効 Concert Programs 第2楽章 のスケルツォ。「A-B-A-B-A」という形式だが、最後のAは非常 果的に使用されている。 第3楽章 アンダンテ 8分の6拍子 変ホ長調 3部形式。ホル ンや木管に続いて第1ヴァイオリンが甘美な旋律を歌うが、主要主題 は、その後の上行音型で始まるクラリネットの旋律である。メノ・モッ ソ (遅くして)の指示がある中間部は、金管の重苦しい旋律が、弦に T o p i cs よる哀歌をはさむ形となっている。 復帰した主部は、最初よりも翳り を帯び、劇的な起伏も大きい。 第4楽章 アレグロ・マエストーソ 2分の2拍子 変ロ長調 自 由なロンド・ソナタ形式。 明るくエネルギッシュなフィナーレ。ファン ファーレ風の序奏に続いて現れる冒頭の主題には、「タタタン」という リズムが何度も現れる。 一方、中間部で変ホ短調のアニマート (活 気をもって速く) となって登場する主題はシンコペーションが印象的で from TMSO ある。この楽章は、ともに特徴的なリズムをもつこれらの主題に基づ いて進み、最後には両主題に序奏も融合して、華やかに全曲を結ぶ。 作曲年代: 1895年4~ 10月 初 演: 1896年11月17日 作曲者指揮 サンクトペテルブルク 楽器編成: フルート3 (第3はピッコロ持替) 、オーボエ2、クラリネット3 (第 3はバスクラリネット持替) 、ファゴット2、ホルン4、トランペッ ト3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、シ ンバル、グロッケンシュピール、大太鼓、ハープ、弦楽5部 第824回 定期演奏会Aシリーズ 13
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