7564 日本建築学会大会学術講演梗概集 (北海道) 2013 年 8 月 パリにおける近隣住区評議会による都市保全に関する研究 —3区、4区、11区、12区における動向— 正会員 近隣住区評議会 合意形成 パリ 地域都市計画プラン ○江口久美* 都市保全 0.はじめに フランスでは、2002 年の近隣民主主義に関する法律 1.土地占用プランから地域都市計画プランへの置換手続き SRU 法の L.123-6 C 条、L.300-2 条等により、コミュー (Loi relative à la démocratie de proximité)により、人口 8 万 ヌは住民参加のための事前協議を開催することを義務づ けられた。 まず、パリ市議会は 2001 年 10 月に POS の PLU への置 人以上のコミューヌは義務的に、人口 2 万人以上 8 万人 未 満 の コ ミ ュ ー ヌ は 、 近 隣 住 区 評 議 会 (Conseil de 2 quartier :CQ)を希望があれば設置することが可能となった。 換を決定した (表1)。まず、パリ市は 2002 年 1 月に置 換のための 8 つのテーマ別ワーキンググループを組織し 現在、220 万人の人口を数えるパリ市には、20 区に 121 た。本稿では、2002 年 2 月から 3 月の分析のための住民 の CQ が設置されている(図1)。 本研究は、CQ が都市計画手続きにおいてどのような役 割を果たしているかを明らかにし、日本に対する示唆を との事前協議と 2003 年 3 月から 4 月の住民との事前協議 を概観する。 得ることを目的としている。本研究は、資料としてパリ 表 1 地域都市計画プランへの置換手続き 市により出版された事前協議(Concertation)の議事録を用い る 1。 また、事例として、2000 年の都市連帯・再生法(Loi relative à la solidarité et au renouvellement urbain :SRU 法)に よ り 行 わ れ た 土 地 占 用 プ ラ ン (Plan d’occupation des sols:POS)から地域都市計画プラン(Plan local d’urbanisme)へ の置換手続きにおける 3 区、4 区、11 区、12 区における 動向を取り上げる。 日付 主体 内容 2001 年 10 月 パリ市議会 POS の置換の決定 2002 年 1 月 パリ市 8 つのテーマ別ワーキ ンググループの組織 2002 年 2 月— 3月 区 分析のための住民との 事前協議 2002 年 5 月 ワーキング 置換の目的についての グループ フォーラム 区 住民との事前協議 2003 年 6 月 パリ市 一般的状況についての シンポジウム 2004 年 3 月— 5月 区 住民との事前協議 2003 年 3 月— 4月 2. 分析のための住民との事前協議 分析のための事前協議は、議長としての区長、パリ市 代表としてのパリ市長助役、区議会議員、パリ市の課の 代表、APUR 代表、CQ やアソシアシオンを含む一般の 人々で構成された。 会議では、表 2 の通り所見が指摘された。特に、4 区で は PSMV について、11 区ではモントルイユ通りの手工業 の歴史的遺産の保存が挙げられた。 図 1 パリにおける CQ の分布図(出典:高村学人:フラ ンス都市法における『近隣』と『アソシアシオン』の役 割,「現代都市法の新展開」,東京大学社会科学研究 所,p.188-189,2004) 3.区の事前協議における近隣住区評議会の働き 区の事前協議は、分析のための事前協議と同じメンバ ーにより構成された。CQ のコメント(表 3)では、第一 Study on the Urban Conservation in Paris by the Area Councils -About the Third, the Fourth, the Eleventh and the Twelfth Ward- ― 1203 ― Kumi EGUCHI 表 2 会議で指摘された所見 日付 2002 年 2 区 などにより地方分権が進んでいることが明らかになって きた。パリ市は 2002 年から 2004 年に渡る POS から PLU への置換手続きにおいて、事前協議に CQ を含め、CQ の 所見 3 その他 4 商店のファサード、整備の管理、商業 活 動 、 パ リ 市 中 心 の 将 来 、 PSMV 、 月 19 日 2002 年 2 月 12 日 PLU 改訂手続きの始まり、都市計画規 制の尊重、改訂手続きの要項、都市計 画文書へのアクセス性と合法性 2002 年 2 月 14 日 2002 年 2 11 12 計画を行ってきたが、近年の近隣民主主義に関する法律 提案は決定された PLU において実際に採用された。 表 3 事前協議における CQ のコメント(2003 年) 日付 区 3 月 公園:フォリー・レナリュ・スクエ ア、商店組織、フロ/シャロンヌ交差 点の整備、ドロネ小路整備の管理、モ 31 日 ン=ルイ小路整備の管理、37 bis, rue de Montreuil の歴史的遺産の保存 17 日 3 月 3 CQ テンプル を拡大し 19・20 世紀の建 造物も含める 4 アルスナ RATP が移転した際の多目 ル 的サロンと住宅の設置 イル PSMV 内の建造物への子供 図書館の設置 サン=ジ ェルヴェ シャルル 5 世会館の獲得と 学生寮へのリノベーション 公共空間、公共施設、店舗 月8日 に、3 区テンプル及び 4 区イル地区においての PSMV に 関するコメントが指摘できる。テンプル地区は、3 区の 3 分の 2 に PSMV が適用されており、特に 15 から 18 世紀 に建造物に適用されているが、住民が参加の機会を得て、 死んだ美術館地区にならないよう修正すべきだと述べて いる。パリ市都市計画課カトリーヌ・バルベは、PSMV コメント PSMV の受け入れ:エリア サン=ポール地区における いくつかの行政の建造物と 1 階の獲得と地域の商業と しての開発 3 月 20 日 11 バスティ ーユーポ 生活の枠組みと建築の質の 改善 の修正は政府の事務のため難しいが、PLU で PSMV 以外 のエリアの保全ができる可能性があると述べた。 第二に、家具手工業の保全が指摘できる。11 区ナシオ パンクー ル ベルヴィ CQ は建築的遺産、特に産 ンーアレクサンドル=デュマ地区は、モントルイユ通り の建造物を、創造のための生きた場の「美術館化」の拒 否の象徴だが、新しい所有者による不動産プロジェクト ルーサン =モール 業遺産の保存を望んだ ナシオン 手工業、特に 37 bis, rue de により危機に瀕していると述べた。12 区フォブールーサ ン=タントワーヌ地区は、中庭や小路といった建築的遺 産のみではなく、恒久的な経済活動も維持し発展させる ーアレク サンドル =デュマ Montreuil などの象徴的場所 の保存 フォブー ルーサン 工業・手工業、特に 19 世 紀以降の建造物の尊重 べきだと指摘した。パリ市長助役、ジャン=ピエール・ カフェは、手工業は区の伝統で、都市計画により保全可 能だと述べた。 4 月 2日 12 =タント ワーヌ 4.おわりに 最後に、PLU にいかに CQ の意見が反映されたかを検 主要参考文献 討する。PSMV に含まれていなかったテンプル地区では、 1 シテ・デュプティ・トゥアールにおいて CQ により指摘さ Mairie de Paris Direction d’urbanisme, Les cahiers du PLU de れた建造物が、「遺産・文化・都市景観的な価値が指摘さ Paris. No.1, 2, 5, Paris, Mairie de Paris Direction d’urbanisme, れた小区画地」として黄色い星印により PLU 図面上に示 2002 2 された。また、バスティーユーポパンクール地区では、 河原田千鶴子,福川裕一:「SRU 法下における市街地建築規 手工業活動の付随した中庭型の伝統的建造物が、PLU に 制に関する研究—パリにおける特別 POS から PLU への展開 おいて「手工業・産業の保護ゾーンに指定された敷地」 に指定された。 以上から、フランスは歴史的にトップダウン型の都市 —」,『日本建築学会計画系論文集』, 第 600 号, 2006, pp.145- *京都大学大学院人間・環境学研究科共生文明学専攻日本学術振興会 *JSPS Research Fellow, Graduate School of Human and Environmental 特別研究員 Studies, Kyoto University 152 ― 1204 ―
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