交互提案ゲーム

ゲーム理論(2016 年度)
教授 清水大昌
第 12 回 2016 年 06 月 30 日
[email protected]
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/˜20060015/lecture/game2016.html
今回は交渉ゲームの 2 回目。交渉力を上げるために必要な要素を更に紹介します。
前回:Outside option (威嚇点) と最初に提案できる権利を持つことが交渉力を上げる。
2 期間の交互提案交渉ゲーム
• それでは 2 期間の交互提案交渉ゲームを考えてみよう。
• 最初に B さんが (A さんの) 取り分 x を提案する。A さんが受諾すればその取り分で合意。拒
否すれば次の期になり、上記の最後通牒ゲームの状況になる。
• 注意するのは、拒否して次の期になった時点で、各プレーヤーの利得が一回割り引かれる、つ
まり割引因子 δ が掛けられる。時間が経つとアイスクリームが溶けてしまうイメージ。
• 図 12 − 1 を参照。2 期目のサブゲームは(1 回割引されていること以外) 上記の最後通牒ゲー
ムと同じ。それを踏まえて 1 期目に B さんは提案を行う。
• サブゲーム完全均衡の結果、第 1 期での提案で合意、取り分は (δ, 1 − δ) となる。2 期目の A
さんの利得 δ が威嚇点になっていることが分かる。
• 割引因子が低いほど A さんは我慢できず第 1 期で交渉を終えたいため、自分の取り分が減っ
てしまうのである。
交互提案交渉ゲーム (続き)
• 前回の交互提案ゲームの期間数が 2 より多くなったらどうなるか考えてみよう。
• 図 12 − 2 に 3 期間での状況を描写した。1 期目の提案が拒否されたら、前回の 2 期間モデル
がサブゲームとして続く。
• 前回紹介したように、2 期間モデルでの初期提案者 B さんは、利得 1 − δ を確保している。今
回の 1 期目に拒否した場合の利得 (Outside option) は、割引を一回するので δ(1 − δ) になる。
• それを見越して 3 期間モデルの初期提案者 A さんは、その値だけ B さんに提案して残りを全
取り出来るのである。よって A さんの利得は 1 − δ(1 − δ) になる。
• このように進めていけば、何期間モデルであってもバックワードで解くことが出来ることが
分かる。
• 結果を 5 期まで書いてみると次のようになる。
1
ゲームの長さ
1
2
3
4
5
最初の提案者
A
B
A
B
A
A の利得
1
δ
1 − δ(1 − δ)
δ{1 − δ(1 − δ)}
1 − δ[1 − δ{1 − δ(1 − δ)}]
B の利得
0
1−δ
δ(1 − δ)
1 − δ{1 − δ(1 − δ)}
δ[1 − δ{1 − δ(1 − δ)}]
無限期間交互提案交渉ゲームの拡張: 割引因子が違う場合
• 2 者の割引因子が違う場合にはどうなるのであろうか。
• 例えば δA (A さんの割引因子) > δB (B さんの割引因子) としよう。
• これは我慢強さが違う場合をイメージするとよい。兄(A さん) の方が弟(B さん) より我慢
強いとしたらどうなるか。
• 無限期間ゲームで考えると次のように分析できる。大きさ 1 のケーキを 2 人で分ける状況を
考えるとしよう。
• 兄が提案する値を x と、弟が提案する (兄の取り分の) 額を y とおく。サブゲーム完全均衡
で、これらの提案が受諾されるようになるためには具体的にどのような値にするのが良いだ
ろうか。
• 均衡で受諾されるとすると、兄は x を、弟は 1 − y を得ることになる。
• まず、兄の提案 x に対して弟は受諾すると 1 − x を、拒否すると来期に利得 1 − y を得られる
ことになる。つまり 1 − x = δB (1 − y) となる。
• 弟の提案 y に対して兄は受諾すると y を、拒否すると来期に利得 x を得られることになる。つ
まり y = δA x となる。
( 1−δ
δA (1 − δB ) )
B
(x,
y)
=
,
となる。
• この 2 本の式を連立させると
1 − δA δB 1 − δA δB
• つまり、兄が提案する場合には、兄が x =
提案する場合には、兄が y =
δA (1−δB )
1−δA δB
1−δB
1−δA δB
を、弟が 1 − x = δB
を得て、弟が 1 − y =
1−δA
1−δA δB
(
1−δA
1−δA δB
)
を得る。弟が
を得る。
• 割引因子がともに 0.8 の場合、提案者が 5/9=0.555... を得て、提案される側が 4/9=0.444... を
得る。
• 一方、例えば兄の割引因子 δA が 0.9 で弟の δB が 0.8 の場合、兄が提案するときの利得は
(5/7, 2/7) ≈ (0.71, 0.29)、弟が提案するときの利得は (9/14, 5/14) ≈ (0.64, 0.36) となる。
2
• つまり、提案することで得られる優位を、割引因子の違いの効果が上回ってしまうのである。
まとめと次回
• 交互提案交渉ゲームにおいて、交渉を有利にするための条件は
– 高い Outside option を持つこと。(威嚇点)
– 最後に提案する権利を持つこと。(交渉の回数が少ない場合)
– 最初に提案する権利を持つこと。(交渉の回数が多い場合)
– 我慢強いこと。(割引因子が高い)
• 次回は前期最後のトピック、ナッシュ交渉解を紹介します。
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