Finding Your Strategy in the New Landscape

IESEビジネス・スクール 教授
パンカジュ
・ゲマワッ
ト
Pankaj Ghemawat
編集部/訳
Finding Your Strategy
in the New Landscape
戦略策定に新たな視点を
新興国市場に
適応する条件
2008年の金融危機の余波を受けて国内需要の低迷が続くなか、大規模
途上国は最も魅力的な市場である。しかし、先進国企業は現地国に適
応するよう、さらなる努力が必要だ。これまで対象としてこなかった層もター
ゲットとし、よりカスタマイズされた製品をより低価格で提供することである。
また、もっと投資の目利きになると共に、市場の競争相手に注意を払わな
くてはならない。プロセス・イノベーションと製品イノベーションの両面で、
新興国の役割はさらに大きくなるだろう。現地国の組織上の権限が高まり、
企業は重要な機能をさらに国外へ移すようになる。こうした組織の新しい
現実を反映して、より多様な人材のプールを構築することが求められる。
そのためには、
ITを活用したコミュニケーションの強化、
強力なコーポレート・
アイデンティティの確立が不可欠である。また、自社のみならず、ビジネス
界全体のレピュテーションを立て直すことにも目を向けなければならない。
May 2011 Diamond Harvard Business Review
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HBR Articles
二〇〇八年の金融危機が
もたらした影響
二〇〇八年の金融危機は、国境を超
えたビジネスに大きな打撃を与えた。
二〇〇九年の国際貿易額は九%もの下
落が予測されたのである。また、海外
直接投資はさらに低調で、二〇〇八年
に一五%、二〇〇九年には四〇%以上
減少した。
不況は底を打った感もあるが、中期
的な展望は明るくはない。今後一〇年
間は概して、世界的な低成長、過剰生
産能力による圧力、失業率の高止まり、
金融市場の不安定さ、資本コストの上
昇、政府の役割の拡大、規制や課税負
担の増大、さらには保護主義の高まり
が見込まれる。一部の専門家が懸念す
るように第二の危機が来れば、これら
はいずれも悪化するだろう。
言うまでもなく、グローバル企業は
今後一〇年間の戦略にこうした動きを
織り込まなければならない。コストを
切り詰め、自国市場を重視する企業も
あるだろう。この現象はすでに始まっ
Diamond Harvard Business Review May 2011
147
ているようだ。
世界の大企業一〇〇社のアニュア
ル・リポートを見ると、株主へのレタ
ARTWORK : Felice Varini, Twenty Points for Ten Straight Crossing , 2008, Nagoya University, Japan
二〇〇六年の五一%から二〇〇八年に
ビジネスを強調した先進国の企業は、
ーで国際的なビジネスやグローバル・
購買力平価で調整していない名目値︶
。
二五%に下がるとされている︵数字は
在のシェアとほぼ同じだが、こちらは
すべき施策を概観する︵囲み﹁新しい
ながら、それぞれについて企業が検討
﹁ハブ・アンド・スポーク﹂を案内し
戦略の方向性﹂を参照︶
。
は三一%に減少した︵逆に、少数なが
戦略と競争
ほとんどの企業は、世界
が少しずつ︵場合によっては
いだろう。二〇〇九年の速報データに
しかし、先進国を拠点とする企業に
とって、内向きになるのは良策ではな
いくつかの面で変更しなければならな
越えるためには、戦略的アプローチを
ない。目の前の困難な道をうまく乗り
追求するリスクを無視することはでき
とはいうものの、経営者は、これか
らの不透明な時代にグローバル戦略を
だが、この二年間に起こったことを
見ると、国家による違いは顕著︵もっ
ないことである。
なるのは、そうした統合に後れを取ら
略を策定してきた。この場合、カギに
いう考え方に基づいて、グローバル戦
である。
ある。他の多くの新興国市場も、同様
〇五〇年以降もさらなる成長の余地が
られているため、これらの市場では二
また、中国とインドの一人当たり所
得は先進国の三分の一ないし半分と見
ら、新興国の企業では、その割合が増加
している︶
。
﹁グローバル﹂ないし﹁グロ
また、
ーバリゼーション﹂という言葉の使用
頻度は大きく増加したものの、その大
よれば、中国は全世界のGDP成長
い。本稿の目的は、経営者がこの新た
と顕著になる可能性さえある︶であり、
急速に︶統合に向かっていると
︵マイナス成長国を除く︶の六六%、イ
な険しい道のりを進むうえで、どのよ
そうした違いにどう対処するかが最大
半は景気の減速および企業業績に対す
ンドも一一%を占めている。インドネ
うな方向を目指せばよいかを提言する
の課題だと考えるほうが納得がいく。
る影響に言及したものだった。
シアが四%でこれに続く。
ことである。
ころか数十年にわたって増加すると思
模新興国市場の経済力は今後、数年ど
││中国、インドをはじめとする大規
マネジメントの選択、そして企業のレ
組織やサプライチェーンの構造、人材
次に、それが製品や市場フォーカス、
まずは、金融危機が企業の基本的な
戦略環境にどう影響するかを確認し、
することを戦略としている企業も、同
、つまり差異を利用
ない。
﹁さや取り﹂
戦略をシフトする必要があるかもしれ
業は、国ごとの状況に適応するよう、
国家間の違いを平均化して規模の経
済を実現することを戦略としている企
二〇〇九年が異常な年だったとはい
え││先進国もすぐに立ち直るだろう
われる。
ピュテーションやアイデンティティの
様のシフトが必要かもしれない。いま
場合ではないからだ。
管理︵これは特に重要性が増している︶
世界銀行の最近の予測によると、二
〇五〇年には、中国とインドを合わせ
言い換えれば、戦略という車輪の
や﹁搾取的な外国企業﹂視されている
をどのように変えるのかを探る。
たGDPが全世界のGDPの五〇%近
くになるという。これはG7諸国の現
IESEビジネス・スクール(バルセロナ)の
グローバル 戦 略の 教 授。著 書として
Redefining Global Strategy:Crossing
Borders in a World Where Differences
Still Matter ,Harvard Business Press,
2007.
(邦訳『コークの味は国ごとに違う
べきか』文藝春秋、2009年)がある。
Pankaj Ghemawat
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HBR Articles
新しい戦略の方向性
経済状況の変化に対応して、企業は戦略を見直す必要がある。この
車輪の図は、戦略の構成要素ごとに検討すべき適合策を表している。
市場と製品
オペレーションとイノベーション
戦略と競争
アイデンティティとレピュテーション
組織と人材
戦略と競争
国・地域の違いに適応
する。
より慎重に投資する。
新興市場の競争相手
に注意する。
市場と製品
これまで対象としてこな
かった層に焦点を合わ
せる。
組織と人材
アイデンティティと
レピュテーション
オフショアリングの範囲
を見直す。
カントリー・マネジャー
機能を再構築する。
強力なコーポレート・ア
イデンティティを築く。
サプライチェーンを簡素
化する。
重要な機能を移転する。
価格圧力を認識する。
コーポレート・シチズン
シップを重視する。
必要な多様性を高める。
新興国からプロセス・イ
ノベーションを輸入する。
グローバルな人材プー
ルを築く。
産業界全般の評判を
立て直す。
研究者がいて市場が成
長している場所に研究
開発機能を移す。
通信技術を利用する。
Finding Your Strategy in the New Landscape
新興国市場に適応する条件
149
オペレーションと
イノベーション
Diamond Harvard Business Review May 2011
は、多くの企業が、グローバル戦略と
資源配分プロセスも変わらなければ
ならない。資産価格が上昇している間
︵永続価値︶をめぐる前提を厳しくす
を引き上げ、ターミナル・バリュー
︵投資案件に最低限求められる利回り︶
るという方法がある。
これにはたとえば、ハードル・レート
は比較的リスクが少なく長期間の資産
形成ゲームだと考えていた。つまり外
そのほか、明確な戦略的優先順位に
従って資源を配分する、などの方法を
国で投資し、うまくいかなければ転売
してキャピタル・ゲインを得るという
試している企業もある。多くの大企業
プラットフォームへの投資を拡大する
わけだ。それゆえ、HBR誌の読者ア
者の八八%が﹁グローバル戦略とは注
一方、それ以外の国々では財務の引き
が、中国、次いでインドといった成長
意深く評価すべき一連の選択肢という
締めを行っている。
ンケートでも、金融危機以前には経営
よりも、一種の必然あるいは信条に近
い﹂と考えていたのだろう。
急増中の感がある戦略的提携によって、
業務を海
また、オフショアリング︵
外に委託すること︶
、アウトソーシング、
バブルがはじけたいま、多くの企業
は、グローバル・オペレーションのか
先進国の多くの企業は、注視する競
争相手の範囲を広げる必要もある。筆
資源の制約に対応している企業もある。
されている。これは金融危機の結果と
者は二〇〇九年、二週間にわたって、
なりの部分が経済的価値を増やすどこ
いうわけではない。景気低迷以前から
ある製品分野の市場リーダー二社とグ
をもっと容赦なく切る必要が出てくる。
後の世界では、企業は長年の赤字事業
の利用可能性までが問題となるバブル
だがそれでも、コストだけでなく資本
もちろん、長い目で見ればリターン
が出るグローバル投資もあるだろう。
クするのと同じくらい、地元中国の競
なら、少なくとも互いの動向をチェッ
﹁中国が主たる成長の舞台だと考える
した。
るのは明らかだった。私は、こう指摘
両社がそれぞれ相手企業を注視してい
ろか減らすことをあらためて思い知ら
その事実はあった。
そして、もっと慎重に新しいビジネス
合企業にも目を向けるべきである﹂
150
May 2011 Diamond Harvard Business Review
©CYCLONEPROJECT - Fotolia.com
ローバリゼーションについて話をした。
チャンスを追求しなければならない。
In a postbubble world, firms must be more ruthless
about terminating loss makers.
バブル後の世界では、
企業は赤字事業をもっと容赦なく切る必要がある。
HBR Articles
中国など途上国の経済が急成長すれば、
ではなかったから、なおさらである。
両社の業界は研究開発や宣伝集約的
︵この二つは多国籍企業が明らかに有利︶
都市部市場に攻め込み始めている。ア
ルマート・ストアーズは、アメリカの
探さなければならない。たとえばウォ
なかった層をターゲットにする方法を
たのである。
部分を占めるギフト購入者に支持され
﹁初心者﹂と、中国の高級品購入の大
えた大型店舗で成功した。高級品の
は、数百ドル程度の品物を数多くそろ
第三に、多国籍企業は、ふだん売り
慣れているのとはまったく違う商品・
メリカでは一五の大都市圏が市場全体
市圏でのウォルマートの市場シェアは
サービスや、地域によって異なる多様
かつてない規模と範囲の手ごわいライ
。同
四%にすぎない︵全国では一〇%︶
な商品・サービスを開発しなければな
の三分の一強を占めるが、これら大都
次に、このような戦略シフトが、多
国籍企業の戦略を構成する各機能にお
社の新しい都市戦略には、より小規模
らないだろう。
バルが生まれるだろう。
いてどう展開するのかを見ていこう。
な店舗を運営し、現地での政治的支援
の促進をさらに重視することが盛り込
っと幅広い地域、チャネル、収入層に
れまでの重点顧客だった。今後は、も
大規模な新興国市場では、高級小売
店で買い物ができる都市エリートがこ
第一に、先進国の多国籍企業はター
ゲット顧客を見直す必要がある。
が起こりそうである。
顧客と製品選択に関
しては、主に三つの変化
ョニングを見直さなければならない。
おける高級品部門であっても、ポジシ
中国のように活況を呈している市場に
に強まるだろう。したがって、たとえ
層市場に参入すれば、この傾向はさら
圧力がかかっている。国内外の低所得
代風潮のせいで、価格にはすでに下方
景気の低迷、企業の能力向上、そし
ておそらくは贅沢から質素へという時
第二に、ほとんどの市場が価格圧力
に直面するだろう。
たちで市場に適応させている。なかに
研究開発部門が、製品をさまざまなか
は、社員数一〇〇〇人を超すノキアの
だが、抜け目のない企業はすでにこ
のアプローチを試みている。インドで
難しいのだ。
いかもしれないと気づくのは、もっと
たものがナーグプルではうまくいかな
くのが難しければ、ムンバイで通用し
である。ニューヨークで成功したもの
市場と製品
進出しなければならない。
﹃フォーブス﹄誌によると、
︿ティフ
は、停電時に懐中電灯を兼ねる携帯電
嗜好、価格感度、サービス・配送用
インフラなどの地域差がますます重要
中国では、成功した多くの多国籍企
業がすでに州レベルで戦略を策定して
ァニー﹀は店舗が小さく、限られた高
話、複数の人間で共有するための電話
まれている。
おり、現在は都市群レベルで活動しな
額商品しか置いていないため、中国で
など、農村をはじめとする低所得者層
市場向けの製品もある。
がムンバイではうまくいかないと気づ
になっているからだ。これはやっかい
がら、沿岸部から内陸へ展開中である。
の業績が低迷しているという。対照的
に、
︿ルイ・ヴィトン﹀と︿グッチ﹀
Diamond Harvard Business Review May 2011
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インドでも同様の傾向が見られる。
自国内でも、これまで対象としてこ
Finding Your Strategy in the New Landscape
新興国市場に適応する条件
くつか起こっている。保護主
ンはもっと短くシンプルで強固なもの
で続くだろう。だが、サプライチェー
保護主義が急速に台頭しない限り、
オフショアリングはおそらく高い水準
がかつてないほど重要なのである。
時、それに関してコメントをすること
すなわち、オフショアリングが妥当な
査︶によると、ヨーロッパの多くの多
ーになった部品に関するグローバル調
フレッド・P・スローン財団がスポンサ
する最近のリポート︵たとえば、アル
があり、こうした工場は技術の進歩に
いない技術を途上国の工場に移す傾向
これまで、企業は旧式で自動化されて
オペレーションと
イノベーション
義の高まり、環境をめぐる懸念、さら
になる必要がある。つまり、大々的な
国籍企業が、自動化されていない工程
急ぎ正す必要もあり、アメリカが中国
く複雑になった。一二カ国、四〇もの
業務分担は、かつてないほどきめ細か
ているという。
の一部を高賃金地域の工場に戻し始め
貢献しなかった。しかし、製造業に関
には記録的かつ明らかに持続不能な水
再構成が求められる。近年、国ごとの
から大量の物品を輸入するという従来
加工段階を経て製造される衣料品もあ
供給側においては、
相互に関連する変化がい
準に達している世界的な貿易不均衡を
の﹁チャイメリカ﹂モデルは崩れつつ
るほどだ。
低賃金国での経験から、労働集約的
な工場は、自動化の進んだ工場よりも
ある。
ど財務的に健全で自信に満ちていたア
大型のオペレーション投資ができるほ
れをもう一度見直してみるべきである。
たあるアンケートによると、北アメリ
二〇〇九年に物流業者を対象に行われ
した傾向を逆転させている感がある。
ー価格に対する意識の高まりが、そう
だがここへきて、保護主義は言うに
及ばず、環境をめぐる懸念やエネルギ
になり始めた。メキシコのような国に
オペレーションにおける知識やイノ
ベーションの流れは、これまでとは逆
もわかった。
が賃金の上昇分を補って余りあること
。また、柔軟性
︵ただし信頼性は同じ︶
柔軟性があることがわかったのである
メリカの大手多国籍企業が、最近、そ
カとヨーロッパの顧客のほぼ四分の一
ある工場が、アメリカの工場の手本に
企業は金融危機以前にオフショアリ
ングを習慣化させたが、少なくともそ
うした投資を自国内で行ったと強調し
が、前年にサプライチェーンの短縮に
空会社は、アジアや中米のコストが低
製品イノベーションについても逆流
が生じている。各種の労働予測を見る
ているのは注目に値する。
たとえば、インテルは国内の新しい
半導体工場を、ゼネラル・エレクトリ
い途上国に、定期メインテナンスのた
と、技術系の人材は新興国市場で急増
なっているのである。
ックも風力タービン施設を盛んに宣伝
めに乗客のいない航空機を飛ばし続け
取り組んでいたという。また、国際航
している。もちろん、この二つは特に
しており、多国籍企業が研究開発の中
いことは明らかである。
心を新興国市場へ移さなければならな
るかどうか、検討している。
スキルおよびプロセス・イノベーシ
ョンに対する見方も変わりつつある。
顕著な事例というだけで、両社は海外
でも多額の投資を静かに続けている。
だが、そこには学ぶべきことがある。
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May 2011 Diamond Harvard Business Review
HBR Articles
企業が国による区別をなくしたり利
用したりしなくなり、むしろ国ごとの
条件に適応しようとするなか、カント
インドや中国の大学・専門学校卒業
生がすでに多数を占めている分野では、
エンジニアをはじめとする技術系人材
リー・マネジャーが再び組織権限を手
しかし、そのほかの新しい優先事項
││低価格製品のもっと早い市場投入、
の世界的な供給不足が予測されている。
研究開発拠点とすることを真剣に考え
現地ライバル企業への積極的な対応、
にすることになるかもしれない。
始めている。実際、インテルはあるチ
設計・製造コストの削減、新しいセグ
したがって、新興国市場に関心を持つ
ップをほぼインドだけで設計した。二
メントやテリトリーへのもっと迅速な
大手ハイテク企業は、そうした国々を
〇〇八年に発表したプロセッサーの
参入││を考慮すると、さらなる変化
が求められる。
︿ジーオン7400﹀がそれである。
組織と人材
各国・地域に関するローカルな知識
が不可欠となり、学習サイクルや行動
サイクルの短縮がますます緊急性を増
けて地元に根差したコネクションを築
しているため、企業は現地事業所を設
準やパターンが、新たな機
くだけでは不十分である。
学習やイノベーショ
ンを実行するうえでの基
会や制約を反映するのと同様、組織構
造や人材をめぐる基準もそれらを反映
が、
﹁企業の構成要素をかつてないほ
金融危機以前は、多くの企業がグロ
ーバルな組織統合を目指していた。だ
ルにシスコ・イーストを設立した。
第二の本社としてインドのバンガロー
国の深圳にある。シスコシステムズは、
多くの企業が一部の重要機能を本社
外に移し始めている。たとえばIBM
ど強力に統合できる。また、統合しな
するようになる。
ければならない時代である﹂という考
おそらく最も劇的な事例は、ゼネラ
ルモーターズ︵GM︶の組織再編だろ
のグローバル調達オフィスはいま、中
え方は、危機の伝播、不安定な経済、
う。同社のメキシコとカナダの事業は
引き続きアメリカ責任者の監督下にあ
©Y2 - Fotolia.com
Diamond Harvard Business Review May 2011
153
政局の変動などによって疑問視される
ようになった。
In a recent survey by Pew Research, only 21% of
respondents thought business executives contributed
a lot to society.
ピュー・リサーチの最新の調査によれば、
「ビジネス・エグゼクティブは社会にとても貢献している」
と答えたのは、21%にすぎなかった。
Finding Your Strategy in the New Landscape
新興国市場に適応する条件
の国々は中国責任者の監督下に入る
るが、ヨーロッパを除く他のほとんど
このままでいいわけはない。
との間に大きなミスマッチがあった。
いまや多くの人が、同社の中国事業に
ける権力構造の根本的な再編である。
これまでアメリカ中心だったGMにお
カを抜いてGM最大の市場になった︶
。
電話会議をし、稀にe メールでコミュ
者たちはいまだにあちこちに出張し、
業はグローバル化したのに、その経営
とうまく管理しなければならない。企
くわえて、広範囲に及ぶ多様な従業
員同士のコミュニケーションを、もっ
︵中国は二〇〇九年、販売台数でアメリ
最大の関心を寄せている。今後、ヨー
ニケーションを取っているにすぎない
のだ。チャット・ルームやオンライン
ロッパとアジア︵おそらくは中国︶の
ダブル本社制を取る多国籍企業が増え
掲示板などの新しいウェブ・ツールを
ボストンコンサルティンググループ
が金融危機前に、成長著しい一六の途
入れている企業などほとんどない。
半がアメリカ人であり、多様性を受け
求められるものにはなっていない。大
のパターンを踏襲しており、将来的に
業で、経営陣の顔触れはいまだに過去
るのは難しい。また、アクセントがお
人々に聞かせて納得のうえで投資させ
国人経営者は英語でわかりやすいプレ
する人には問題になりにくいのだ。中
受け取る人に比べて、その情報を提供
がある。たとえば言葉の壁は、情報を
国境を超えたコミュニケーションの
課題は、なかなか気づかれない可能性
ない。
使って一体感を高めることはめったに
そうである。
こうしたパワー・シフトは、経営層
の多様さという抜本的な変化を求める
上国で大手多国籍企業とその事業目標
かしいと耳を貸さなくなる、という調
ことになる。大部分のアメリカ大手企
について調査したところ、それらの
査結果もある。
ゼンテーションができても、それを
国々で目標とされている成長率︵当時
アイデンティティと
レピュテーション
企業は現代の通信技術をもっと活用
することで、地理的な距離だけでなく、
ュニケーションを管理する際のカギと
これからの時代は、
﹁一
つの企業﹂としてのアイデン
と、経営トップがその出身者かそこに
文化的な距離や属性上の距離を埋める
なるだろう。明確でわかりやすい価値
で約三三%、現在はおそらくそれ以上︶
住んでいる人である割合︵当時で一
ことができるはずだ。
ティティの確立が、長距離コミ
〇%以下、現在もおそらく変わらない︶
154
May 2011 Diamond Harvard Business Review
©Y2 - Fotolia.com
HBR Articles
観やコミュニケーション基準を持ち、
なおかつ多様性を尊重する企業は、戦
ばならないだろう。
んになるのは経済機関への信頼が低い
時である。したがって、産業界への信
頼を取り戻せば、保護主義の抑制につ
職業について﹁どの程度社会に貢献し
なメッセージを一つ取り出すとすれば、
しかし、政府との単なるやりとりに
とどまらず、企業は、産業界のレピュ
グローバルなリーダーシップ開発プ
ログラムを充実させることも有効であ
ているか﹂をアメリカ人に尋ねた最新
﹁典型的な多国籍企業にとって金融危
略を策定、伝達、そして実行するうえ
ながる可能性がある。
る︵ただし現下の環境では、ゴルフ・ト
の調査がある。それによれば、最下位
機後の世界で求められるのは、戦略や
テーションがいまや最低水準にあると
ーナメントのスポンサーシップと同様、
はビジネス・エグゼクティブ。彼らが
組織に対する、ほんの数年前に流行っ
で、文化や国の違いにうまく対処でき
これもコスト削減の対象になりそうだ
﹁社会にとても貢献している﹂と答え
たよりも緩やかなアプローチである﹂
いう事実に向き合わなければならない。
が︶
。要するに、部分の総和以上の力
たのは二一%にすぎなかった。次いで
ということだ。
る可能性が高い。
を維持したければ、企業は組織を一つ
低いのが弁護士で二三%だった︵スコ
ピュー・リサーチ・センターが一〇の
にまとめる﹁接着剤﹂に投資する必要
アが高かったのは軍人と教員で、それぞ
*
*
*
以上で、戦略という車輪をめぐる考
察は終わりである。そこから最も重要
がある。
けではない。政府が投資家、顧客、規
義や民間企業の地位が根本的に揺らい
新興国市場ではもう少しプラスの評
価を得られそうだが、それでも資本主
人材管理を強化しなければならない﹂
を一体化させる企業文化を築くと共に、
次に重要なメッセージは、こうだ。
﹁多国籍企業は従業員の多様性を高め
制当局、徴税者として幅広い役割を担
でいるのは確かである。こうした環境
もちろんそこには緊張が生まれるこ
とだろう。だがそれでも、先進国の企
©2010 Harvard Business School Publishing Corporation.
れ八四%と七七%︶
。
うなか、金融危機後の世界では、企業
のなかで成功しようとする企業は、自
業はもっとコスモポリタン的な世界観
Finding Your Strategy in the New Landscape
新興国市場に適応する条件
なければならないが、その一方で彼ら
の外交手腕も戦略の一部としての重要
社の、そして産業界全般のレピュテー
を持ち、投資選択の目利きにならなけ
先進国企業にはまだ、多くの産業部
門でいまなお大きな強みになるものを
適応させ、利用する時間︵たくさんで
はないが︶があるのだ。
︵HBR 二〇一〇年三月号より︶
Pankaj Ghemawat and Thomas Hout,
Tomorrow s Global Giants? Not the
Usual Suspects, HBR, November 2008
(邦訳「グローバル市場 明日の覇者」
DHBR 2009年5月号)
を参照。
新しい環境でもたらされるアイデン
ティティ上の課題は、内部的なものだ
性を増している。
ションを高める取り組みを見直さなけ
ればならない。
かないのだから。
ればならない。いままでのようにはい
こうした環境下では、市場がすべて
の結果を決定づけなければならないと
いう主張は、人々の支持を得たり、
産業界のレピュテーションを立て直
すことは、保護主義というもっと幅広
人々に影響を与えたりすることはなさ
そうである。CEOをはじめとするエ
い問題への対処にも役立つかもしれな
い。各種調査によると、保護主義が盛
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グゼクティブは、政府との関係のマネ
ジメントにもっと時間を費やさなけれ
【注】