2006 年 10 月 7 日 修士論文中間発表会 コード:6325-Ⅱ-1 論文タイトル:資源ベースにみるブランディングの一考察 ~トヨタによるレクサス・ブランド展開~ 報告者:長谷川 哲也 主査:丹沢 安治 教授 副査:林 曻一 教授 副査:松野 良一 教授 【研究目的と問題意識】 本研究の目的としては,多様な消費性向をみせる国内市場に対し, 「如何に一民間企業が,自社の経営資源をベ ースとした企業戦略を実行できるか」 ,に焦点を当て,考察を深めている。本稿においては,各種メーカーの国内 市場における経営戦略を仮定としているが,そのなかでも企業経営の施策が目まぐるしい自動車業界,トヨタの ブランド戦略を事例に,レクサス・ブランドを採り上げ,企業戦略の行方を検証していく。検証方法としては, Jay B. Barney の考える RBV を機軸に,トヨタが保有する経営資源に着目,それら各要素の性格(及び価値)と, 新たなブランド・チャネルの構築に至った過程を紐解いている。 本研究の意義としては,トヨタの事例研究・分析をもとに,そこから得られた知見を,これに準ずる資源保有 企業に適用することにある。経営資源を活かした企業戦略としてのブランディングの有効性,及び戦略実行上の 課題についても議論していきたい。 【論文要旨及び主眼点】 現在,過渡期にある自動車業界において,トヨタを筆頭に国内主要自動車メーカーは相次いで,その高級車ブ ランドの日本導入を宣言(もしくは示唆)し,各自の流通チャネル(ディーラー網)の再編に着手している。既存の製 品・販売戦略だけでは,他社との差別化を明確に図れなくなってきた今,販売経路の改革を支柱に商品・サービ スの建て直し(包括的な販売差別化)が期待されるだろう。 しかしながら,各社を取り巻く環境は三者三様で一概ではない。日産やホンダに先発してトヨタが動いた背景 としては,外的要因の影響からだけではなく,自社の経営資源を的確に把握し,有効に活用することによって, 新たな競争優位性(ここでは持続的競争優位の意)を導き出そうとしたからである。コア・コンピタンスやケイパビ リティに称されるように,他者には真似できないような模倣困難性を構築しつつ,尚且つそれを軸にしたブラン ディングにより,より企業の潜在的競争力を高めている。 〔ファースト・ムーバーとしての地位を獲得することに より,リソース・ベースト・バリアーを形成することが可能。〕具体的には,次のような事柄である。 ①ブランド・ネーム プレステージ,レピュテーション 米調査会社 J.D.Power や自動車専門誌 Automobile Magagine などでのベスト・(プ レミアム)・ラグジュアリー・カーの受賞等 Interbrand 社の公開するブランド・ランキング〔92 位(2006)〕 ②組織内ナレッジ 米国や他地域でのブランド構築経験 マーケティング[新車保証,ケア・メンテナンスプログラムや中古車認定制度] ③(高度な技能を保有) 熟練工(及び精錬された販売員) 従業員 米調査会社 J.D.Power による IQS での品質格付け(工場部門) ④トレード・コンタクト 全国を隙間なく網羅するディーラー網(販売力) 24 時間サポート体制(G-Link を含む)のシステム,(外部性を持つ)テレマティクス ⑤効率的な手順 カイゼンによる品質・機能向上効果 ⇒米調査会社 J.D.Power による品質格付け(消費者部門) [IQS や VDS(12 年連続首位)] ⑥資本(資金) 潤沢で柔軟な資金 〔利益剰余金 10 兆 4598 億,現金及び現金同等物 1 兆 5193 億(2006 年 3 月時点)〕 以上の要素などから,トヨタはレクサス・ブランドの導入に前向きであったと考えられる。しかしながら,本 論文では,付随的な修正案(政策的提言)を示すことで,より企業競争力を高めるモデルの構築を模索していきたい。 【研究課題】 今後の残された研究内容として,政策的提言をまとめる一つの方向性に,C.K. Prahalad/G. Hamel(1990)の言 う,コア製品を一早く確立したり,最終製品のラインナップの早期充実や従来にはない新製品投入を考えている が,他の視点からの次善策も模索中である。RBV 及びトヨタの保有している経営資源への理解を深め,さらに熟 考することにより,広範に使用できる戦略策定ツールを考えていきたい。 1 目次 序論 第 1 章 本研究の趣旨及び先行研究 第 1 節 本稿の目的 第 2 節 既存のレクサス研究 第3節 新たな視点と仮説(本研究の主題)の提起 第 2 章 国内自動車市場の概況 第 1 節 日本乗用車市場の動向 第 2 節 新たな高級車市場(プレミアム・カー・マーケット)の形成 第 3 節 高級車市場への日系メーカーの対応 第 3 章 事例研究-トヨタ・レクサス- 第 1 節 トヨタのブランド・チャネル戦略 第 2 節 米国におけるレクサスの変遷及び現状 第 3 節 日本におけるレクサス・ブランド導入 第 4 章 競争優位への展開-RBV (VRIO framework)による考察- 第1節 経営資源の定義と RBV 第2節 トヨタにみる経営資源と経営戦略 第3節 持続的競争優位の構築―販売店再編、差別化戦略- 結論 添付資料 図表-1 国内クラス別新車販売台数 2000 2001 2002 2003 2004 2005 高級・上級・大型車 895,495 839,384 707,153 689,053 788,494 663,948 中型車 729,547 660,225 508,919 465,043 387,968 382,511 小型車 748,505 843,029 849,185 867,940 817,497 877,180 大衆車 503,674 585,283 515,593 454,344 464,229 495,264 リッターカー/軽ベース車 795,837 729,125 1,026,495 1,061,358 1,051,291 1,050,539 1,867,799 1,847,457 1,825,940 1,800,832 1,890,773 1,923,589 310,232 290,926 256,281 346,920 320,511 324,745 軽自動車 商用車専用車 その他 合計 17,884 18,144 12,794 10,952 9,769 10,085 5,868,973 5,813,573 5,702,360 5,696,442 5,730,532 5,727,861 注)数値は輸入車販売台数も含む。 出所)FOURIN 日本自動車統計月報 2006 年 3 月号 図表-2 トヨタ系ディーラーの変遷 トヨタ 1950 トヨタ トヨペット 1956 トヨタパブリカ 1962 トヨペット トヨタカローラ 1968 トヨタオート 1968 トヨタカローラ ネッツトヨタ 1998 ネッツ 2004 トヨタビスタ 1980 レクサス 2005 37 注)佐賀県と長崎県を中心とした地域では、トヨタ店とトヨペット店を統合した西九州トヨタが存在している。 出所)トヨタ広報資料をもとに作成 2 図表-3 トヨタ系ディーラーの概略 トヨタ店 上級・高価格車 トヨペット店 法人・拠点数 50社、約1000拠点 法人・拠点数 52社、約1020拠点 看板色 えんじ色 看板色 緑色 看板モデル クラウン 看板モデル マークX 位置づけ トヨタブランドにおける高級 位置づけ 車チャネル ミディアム市場のリーダー チャネル ターゲット 個人から法人 団塊及びポスト団塊世代 (40~60歳代) ターゲット VIPまでの幅広い顧客層、 新しい顧客の獲得 中級車 市場の変化に柔軟に対応し た幅広い顧客層の獲得 トヨタのイメージを超えた新し い価値観を創出 カローラ店 量販車、ファミリー向け ネッツ店 法人・拠点数 74社、約1300拠点 法人・拠点数 119社、約1600拠点 看板色 オレンジ色 看板色 青色 看板モデル カローラ 看板モデル ヴィッツ 位置づけ コンパクトを中心としたトヨ タ最量販チャネル 位置づけ 個性的で存在感のある車種 を中心としたチャネル ターゲット ファミリー層 ターゲット 女性、若者を始めとしたあら ゆる世代の先進、こだわり層 オールトヨタのカバー領域を 広げるチャネル 軽接点市場 注)法人・拠点数は 2004 年 5 月時点 出所)トヨタ広報資料をもとに作成 図表-4 レクサス・ブランド概略 営業開始日 商品 販売計画 店舗 販 売 体 制 ◇2005年 8月30日 ◇立ち上がり4車種 GS、IS、SC、LS(フラッグシップ・モデル、2006年9月投入) ◇年間5~6万台 ◇全国180店舗程度を計画。 開業時、143店舗。151店舗(2005年末) ・ トヨタ車両 販売店 販売会社 ・ トヨタ車両 販売店以外 ブランド及び商品 コンセプト 107社 トヨタ店46社、トヨペット店29社、 カローラ店14社、ネッツ店18社 アブドール・ラティーフ・ジャミール社 2社 (サウジアラビア) 複数企業による合弁会社 21世紀の新しいグローバル・プレミアム・ブランドの創出 「最高の販売・サービス」へのこだわりを店舗・人・おもてなし トヨタ・ブランドと明確に差別化されたレクサス商品の開発 出所)トヨタ ニュース・リリース(2004 年 5 月 26 日)を一部加筆修正 3 図表-5 レクサス・ブランド新型車概要 モデル GS(Grand Sedan) 投入時期 SC(Sports Coupe) 2005 年 8 月 IS(Intelligent Sports Sedan) 2005 年 8 月 LS(Luxury Sedan) 2005 年 9 月 2006 年 9 月 タイプ 高級セダン スポーツクーペ スポーツセダン 高級セダン 価格 GS350 520~560 万 SC430 680 万 IS250 390~470 万 LS460 770~965 万 IS350 480~525 万 LS460L GS430 630 万 GS450h 680~770 万 LS600h LS600hL 販売目標(月販) GS350/430 1100 台 SC430 100 台 IS250/350 1800 台 LS 5000 台 関東自動車工業(50.28%) トヨタ田原工場、トヨタ自動車 東富士工場 九州(100%)宮田工場 GS450h 150 台 生産工場 トヨタ田原工場 トヨタ田原工場 出所)トヨタ広報資料をもとに作成 図表-6 国内トヨタ・ブランド(レクサス対応車種別)販売台数 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 Celsior (LS) 38647 24788 31955 19225 13382 19706 32871 14602 19395 12657 Aristo (GS) 12163 7037 17210 19055 12373 9861 7652 4954 3464 2293 Soarer (SC) 4706 3089 2162 1434 879 547 3463 1272 814 696 13469 34020 15897 19455 14620 6765 4875 Altezza (IS) Windom (ES) 23469 27813 23057 13249 11118 8346 10997 6639 4255 3541 LandCruiser (LX/GX) 32668 58489 51232 50185 40546 30145 25320 23929 25460 17810 1019 49954 34087 21525 17198 9520 28686 26222 Harrier (RX) 出所)FORIN 世界自動車統計年刊 各号より作成 図表-7 国内レクサス・ブランド販売台数 2005/9 2005/10 2005/11 2005/12 2006/1 2006/2 2006/3 2006/4 2006/5 2006/6 2006/7 2006/8 累積台数 GS350 682(15) 1237 1285 757 645 430 648 636 487 390 307 542 8046 GS430 448 630 481 203 181 158 159 134 125 95 52 151 2817 3 182 61 200 452 464 252 1614 GS450h SC430 103 148 140 127 145 178 196 144 108 120 101 77 1587 IS250 104 640 1162 823 700 510 883 853 832 655 431 837 8430 IS350 85 330 473 294 230 146 246 201 184 164 113 268 2734 1422(15) 2985 3541 2204 1901 1425 2314 2029 1936 1876 1468 2127 25228 月販台数 注)2005 年 9 月の販売台数は前月末における実績(特別招待会でのセールス)を含む。 出所)自動車登録統計情報 新車編 各号より作成 主要参考文献 【Books】 ・Michael E. Porter (1980): Competitive Strategy, Free Press (土岐坤・服部照夫・中辻萬冶訳『競争の戦略』ダイヤモンド社,467,1982) ・Michael E. Porter (1985): Competitive Advantage: Creating and Sustaining Superior Performance, Free Press (土岐坤訳『競争優位の戦略』ダイヤモンド社,659,1985) ・Michael E. Porter (1998): On Competition, Harvard Business School Press, vi+485 (竹内弘高訳『競争戦略論Ⅰ』及び『競争戦略論Ⅱ』ダイヤモンド社,1999) ・David J. Collis, Cynthia A. Montgomery (1998): Corporate Strategy A Resource-Based Approach, McGraw-Hill Companies, Inc. 4 (根来龍之・蛭田啓・久保亮一訳『資源ベースの経営戦略論』東洋経済新報社,xiv+366,2004) ・Steven Wheeler, Evan Hirsh (1999): Channel Champions How Leading Companies Build New Strategies to Serve Customers, Jossey-Bass Publisher (日本ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン訳『チャネル競争戦略』東洋経済新報社,xiii+298,2000) ・David A. Besannko, David Dranove, Mark T. Shanley (2000): Economics of Strategy 2 /Edition, John Wiley & Sons, Inc. (奥村昭博・大林厚臣監訳『戦略の経済学』ダイヤモンド社,xiv+709,2002) ・Jay B. Barney (2002): Gaining and Sustaining Competitive Advantage Second Edition, Prentice Hall, Inc., 600 (岡田正大訳『企業戦略論【上】基本編』, 『企業戦略論【中】事業戦略編』及び『企業戦略論【下】全社戦略編』ダイヤモンド社,2003) ・長谷川洋三 (2004):『レクサス トヨタの挑戦』日本経済新聞社,231 ・Chester C. Dawson Ⅲ (2004): LEXUS The Relentless Pursuit, John Wiley & Sons (Asia) Pte Ltd,xxiv+259 (鬼澤忍訳『レクサス~完璧主義者たちがつくったプレミアムブランド』東洋経済新報社,335+23,2005) ・山本哲士・加藤鉱 (2006):『トヨタ・レクサス惨敗』ビジネス社,240 【Journals and Magazines】 ・B. Wernerfelt (1984): " A resource-based view of the firm”, Strategic Management Journal, Vol. 5, 171-180 ・C. K. Prahalad, G. Hamel (1990):”The core competence of the organization”, Harvard Business Review, May/Jun, 79-93 (坂本義実訳「コア競争力の発見と開発」『Diamond Harvard Business Review』,Aug/Sep,4-18,1990) ・Jay B. Barney (1991):"Firm Resources and Sustained Competitive Advantage“, Journal of Management , Vol. 17, No. 1, 99-120 ・G. Stalk, P. Evans, L. Shulman (1992):”Competing on capabilities: The new rules of corporate strategy?”, Harvard Business Review, Mar/Apr, 57-69 (八原忠彦訳「戦略行動能力に基づく競争戦略」『Diamond Harvard Business Review』,Jun/Jul,4-19,1992) ・Michael E. Porter (1996):"What is Strategy", Harvard Business Review, Nov/Dec (中辻萬冶訳「戦略の本質」『Diamond Harvard Business Review』,Feb/Mar,54-72,1999) ・Jay B. Barney (2001):「リソース・ベースト・ビュー」 『Diamond Harvard Business Review』,May,78-87. ・岡田正大 (2001):「ポーターvs.バーニー論争の構図」 『Diamond Harvard Business Review』,May,88-92. ・大薗恵美 (2002):「戦略的組織か学習する組織か」 『一橋ビジネスレビュー』 ,Summer,89-103. ・(2003):「トヨタ 利益2兆円の野望‐レクサス 品質とサービス高評価 ニーズ取り込み急成長‐」 『週間東洋経済』 ,11.1,40-41. ・Jonathan Fahey (2004):「The Lexus Nexus 好調レクサスを支えるディーラー優遇戦略」『Forbes/US』,October,99-101. ・長谷川高宏 (2005):「“打倒ベンツ”レクサスの本気」 『週間東洋経済』 ,6.18,112-115. ・長谷川洋三 (2005):「レクサス逆上陸で始まる高級車戦争」 『エコノミスト』 ,8.30,84-87. ・麻生祐司・河野拓郎 (2005):「レクサスの正体」『週間ダイヤモンド』 ,9.3,46-54. ・永井隆 (2005):「レクサス発進!挑戦者たちの“考える力、変える力”」 『President』,9.12,50-57. ・(2005):「ベンツや BMW とは違うところを目指す」 「私はこうみるレクサスの勝算」「西欧市場でのレクサス プレミアムブランドへの挑戦」 『Mobi 21』,9・10 月,16-21. ・春日井章司・岡崎宏司・武田了 (2005):「GM も吹き飛ぶ トヨタ vs ダイムラー 世界覇権争奪」 『エコノミスト』 ,11.1,18~31 ・長谷川高宏・野村明弘・梅咲恵司・山崎豪敏 (2005):「レクサスの野望」 『週間東洋経済』 ,11.12,28-53. ・片山修 (2005):「レクサス 日本独創への挑戦 「高級の本質」を追求したモノづくりで真の世界一へ」 『Voice』 ,November,116-141 ・伊藤暢人・熊野信一郎・山川龍雄 (2005):「レクサス トヨタが放つ品質革命の全貌」『日経ビジネス』,11.28,31-44. ・野口均 (2006):「トヨタ・レクサスプロジェクト 最高のクルマを最高のサービスで!」 『Forbes/Japan』,January,158-162 【Yearbooks】 ・世界自動車統計年刊 2000~2005 各号,FOURIN ・世界自動車メーカー年鑑 2006,FOURIN ・自動車登録統計情報 新車編 2005/9~2006/8 各号,日本自動車販売協会連合会 ・新車登録台数年報 1990~2005 各号,日本自動車販売協会連合会 【Websites】 ・トヨタ・ホームページ: http://www.toyota.co.jp/ ・ホンダ・ホームページ: http://www.honda.co.jp/ ・日産・ホームページ : http://www.nissan.co.jp/ ・レスポンス(自動車総合情報サイト): http://response.jp/ 5
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