道衛研所報 Rep. Hokkaido Inst. Pub. Health, 56, 57-60(2006) 康食品中に含まれるシルデナフィルの検出・定量 Detection and Determination of Shildenafil in Health Foods 平間 祐志 林 隆章 兼俊 明夫 Yuji HIRAM A, Takaaki HAYASHI and Akio KANETOSHI ;health foods( 康食品) ;HPLC-M S;HPLC-PDA Key words:sildenafil(シルデナフィル) 近年,いわゆる 康食品 の摂取が原因となった 康 被害事例が数多く発生している .中国製ダイエット用 康食品による 康被害事例は死者4人を含む 796人の大き な 康被害を出した(平成 14年から平成 17年 11月 22日 現在) .問題となった 康食品には効果を高めるために甲 状腺ホルモン,N -ニトロソフェンフルラミン及びフェン フルラミンなど医薬品成 が不法に添加されていたことが 明らかになっている .また,強壮作用を標榜した 康 食品の中から,バイアグラの有効成 であるシルデナフィ ル及びその類似成 (図1)が検出されており ,平成 15 年4月から平成 17年 11月までの間で 79事例が厚生労働 省から発表されている .今後,シルデナフィル及びその 類似成 を含むような 康食品の摂取によって 康被害が 発生する恐れがあるものと えられる. 医薬品を含む 康食品は承認・許可を取得せず流通して いる 無承認無許可医薬品 に相当し,薬事法規制の対象 となっている.当所では平成 14年から,北海道保 福祉 部保 医療局医務薬務課と共に,道内で販売されている 康食品についての 無承認無許可医薬品試買検査 未承認医薬品の疑いがある製品の成 及び 検査 を実施して きた.平成 17年度は強壮効果を標榜する 康食品を対象 とした調査を行い,1試料からシルデナフィルを検出した. 図 1 シルデナフィル及び類似成 の化学構造 この試料について,HPLC-MS と HPLC-フォトダイオー ドアレイ(PDA)検出器を用いた方法で確認,定量した 結果を報告する. 2.標準溶液の調製 方 本試験では,国立医薬品食品衛生研究所より 譲された 法 ホンデナフィル(純度 18%) ,バルデナフィル,クエン酸 1.調査試料 シルデナフィル(98.7%) ,タダラフィルを標準品として 北海道内の6市町村の薬局,土産店,ヘヤーサロンなど 用した.バルデナフィルとタダラフィルの標準品につい より試買した 10製品を試料とした.10製品の内訳は,国 ては純度が記載されていなかったが,これらについては純 内で製造されたものが8製品,中国で造られたものが2製 度 100%と仮定して 用した. 品であり,そのうち,ドリンク剤2製品, 末2製品,錠 各標準品は精 剤3製品,カプセル3製品であった. し,適量のメタノールに溶解して 100 μg/mL の標準原液を調製した.さらに標準原液を 50%メ タノールで希釈または混合し,各成 につき 10μg/mL 57 の標準液を調製した.これらの標準液を 50%メタノール で希釈して 1∼5μg/mL の検量線用標準溶液を調製した. 3.試験溶液の調製 試験溶液の調製は,厚生労働省からの通知に準じて行っ た .最初に,カプセル内容物,錠剤,または 出(SIM )法 ホンデナフィル:m/z 467( [M+H]) バルデナフィル:m/z 489( [M+H]) シルデナフィル:m/z 475( [M+H]) 包内容 タ ダ ラ フ ィ ル:m/z 390( [M+H]) 物の各 析試料は乳鉢で 砕して 質化した.また,ドリ 結果及び ンク剤はそのまま 析に 用した. 察 次に 質化した試料 200mg(ドリンク剤の場合は 200 μL)を 10mL のキャップ付試験管に 取し,28%アンモ ニア水を 0.5mL,メタノール 1mL を加え良く混和した. 構造式を図1に示した.シルデナフィルは,そのクエン酸 これに酢酸エチル 4mL を加え 10 いる.副作用として,頭痛,ほてり,視覚障害などが報告 2500rpm で5 間遠心 間 振 と う 抽 出 後, 離を行い,酢酸エチル層を 取 検査対象としたシルデナフィル及びその類似成 の化学 塩(クエン酸シルデナフィル)が医薬品として承認されて されている.バルデナフィルは,その塩酸塩の水和物(塩 した.残 には酢酸エチル 3mL を加え再度,振とう抽 酸バルデナフィル水和物)が医薬品として承認されている. 出・遠心 離を行い酢酸エチル層を 取し,先のものと合 副作用として,頭痛,ほてり,鼻炎などが報告されている. わせた.50℃に設定したヒーティングブロック上で窒素気 タダラフィルは,国内では医薬品として未承認であるが, 流下,酢酸エチル層を蒸発乾固させた.残 にメタノール 海外では医薬品として承認されている.副作用として,頭 を加えて溶解し 10mL とした.このメタノール溶液の一 痛,消化不良等が報告されている.ホンデナフィルは,国 部をとり,50%メタノールを含有した 20mM ギ酸アンモ 内外で医薬品としては承認されていないが,シルデナフィ ニウム−0.2%ギ酸溶液で適宜希釈し,フィルターでろ過 ルと類似の化学構造を有し,シルデナフィルと同様の作用 して試験溶液とした. を示すことが確認されている .これらのシルデナフィル 4. 析条件 及び類似成 は強い血管拡張作用を示し,その副作用も報 シ ル デ ナ フィル 及 び そ の 類 似 成 の HPLC-PDA と 告されていることから,これらによる 康被害発生の恐れ HPLC-M S を用いた 析は,下記の条件で行った. HPLC-PDA 析条件 が否定できない.そのため, 康食品におけるこれら成 の含有の有無について,検査が必要とされている. 機 器:日立 L-7000HPLC システム カ ラ ム:イナートシル ODS-3(4.6mm i.d.×150mm, 5μm,GL サイエンス製) シルデナフィルとその類似成 における HPLC クロマ トグラムを図 2A に示した.シルデナフィル及びその類 温 2B にシルデナフィルの含有が疑われた試料の HPLC ク ロマトグラムを示した. 度:40℃ 移 動 相:A液 20mM ギ酸アンモニウム−0.2%ギ酸 似成 は保持時間が9 から 16 の間に溶出された.図 B液 アセトニトリル グラジエント 0∼ 1 :B 液 20% 1∼ 21 :B 液 20%→60% 21∼ 25 :B 液 60% 流 速:1.0mL/min 注 入 量:10μL 検 出 器:ヒューレットパッカード(現 Agillent)1100 シリーズフォトダイオードアレイ検出器 検出波長:190∼400nm,選択波長:290nm. HPLC-M S 析条件 機 器:島津 LC-10システム及び LCM S-2010EV カ ラ ム:イナートシル ODS-3(2.1mm i.d.×150mm, 温 3μm,GL サイエンス製) 度:40℃ 移 動 相:A 液 20mM ギ酸アンモニウム−0.2%ギ酸 B 液 アセトニトリル グラジエント 0∼ 20 :B 液 20%→60% 20∼ 25 :B 液 60% 流 図 2 HPLC-PDA によるシルデナフィル及び類似成 の クロマトグラム 速:0.2mL/min 注 入 量:2μL 検 出 法:ESI ポジティブイオンモード,選択イオン検 A:標準溶液,各成 いずれも5 μg/mL B:試験品の抽出液,試験品の重量あたり 10000倍に希釈 58 検出され,その保持時間はシルデナフィル標準品の保持時 この試料からは保持時間 10.5 にピークを示す成 が HPLC-MS で 析したシルデナフィル及び類似成 の 検量線はいずれも検討した濃度範囲(1∼5mg/mL)で良 間と一致した.図 3A にはシルデナフィル及びその類似 好な直線関係を示した.検量線から試料中のシルデナフィ 成 の紫外吸収スペクトルを示した.図 3B に示すように, ルを定量したところ,1カプセル(内容量 0.4g)当たり 試料の 10.5 の保持時間で溶出される成 の紫外吸収ス 38mg のシルデナフィル(クエン酸シルデナフィルとして ペクトルはシルデナフィル標準品のスペクトルと一致した. 53mg)を含有することが明らかになった.国内ではバイ このことからこの試料にはシルデナフィルが含有されてい アグラの有効成 ることが認められた. び 50mg 含む製品が承認されており,試験品にはこれと 図4にシルデナフィル及びその類似成 を HPLC-M S シルデナフィルが1カプセル中に 25及 同程度のシルデナフィルが含まれていたことが明らかに で 析したときのマススペクトルを示した.シルデナフィ なった. ル,バルデナフィル,タダラフィル及びホンデナフィルに 以上の結果から,いわゆる 康食品の中には無承認無許 はそれぞれ m/z 475,489,390及び 467に化合物固有の [M+H] イオンが検出された.SIM 法の選択イオンに 可医薬品が添加された製品が北海道においても流通してお これらのイオンを設定し標準溶液を A に示したように各成 り, 康被害を招く恐れがあることが明らかとなった.他 析したところ,図 5 が保持時間 10 から 17 の 康食品にもこのような無承認無許可医薬品が含まれて の間 いる恐れがあることから,今後もこれらの検査を継続する に検出された.試料では図 5B に示したように,保持時間 ことが重要と えられる. 12 にシルデナフィル(m/z 475)に一致するイオンを 検出した.HPLC-M S の 析から,試料にシルデナフィ ルが含有することが確認された. 図 4 シルデナフィル及び類似成 のマススペクトル 標準液の濃度:10μg/mL 図 3A HPLC-PDA による標準品のスペクトル 図 3B HPLC-PDA による標準品と試験品の スペクトルの比較 破線:シルデナフィル標準品,実線:試験品 図 5 HPLC-MS によるシルデナフィル及び類似成 の マスクロマトグラム A:標準溶液,各成 いずれも 5μg/mL B:試験品の抽出液,試験品の重量あたり 10,000倍に希釈 59 文 html 6) 厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知薬食監 麻発 1012006号 ホンデナフィルの 析方法について , 平成 16年 10月 12日 7) 厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知薬食監 麻発 1226003号 ホモシルデナフィルの 析方法につい て ,平成 15年 12月 26日 8) 厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知薬食監 麻発 0825002号 シルデナフィル,バルデナフィル,タダ ラフィルの迅速 析法について ,平成 17年8月 25日 9) 厚生労働省ホームページ:平成 16年 10月1日厚生労働省 医薬食品局監視指導・麻薬対策課 医薬品成 (ホンデナ フィル)を含有するいわゆる 康食品(無承認無許可医薬 品)の発見について , http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/10/h1001-5.html 献 1) 厚生労働省ホームページ: 康被害状況,無承認無許可医 薬品情報, http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/index.html 2) 三橋隆夫,祭原ゆかり,秋山由美,市橋啓子:兵庫県立 康環境科学研究センター紀要,2,67(2005) 3) 西岡千鶴,野崎香織,山下みよ子,毛利孝明,塚本 武: 香川県環境保 研究センター所報,2,84(2003) 4) 守安貴子,重岡捨身,蓑輪佳子,岸本清子,安田一郎:東 京 安研セ年報,55,73(2004) 5) 厚生労働省ホームページ:医薬品成 (シルデナフィル及 び類似成 )が検出されたいわゆる 康食品について, http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/other/050623-1. 60
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