カナダ・ケベック州アパレル産業調査報告書 2011年12月 日本繊維輸入組合 目次 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 02 訪問日程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 03 団員名簿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 03 ケベック州基礎データ 1.一般概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 04 2.基礎的経済データ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 05 3.日本との貿易データ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 06 ケベック州アパレル産業概要 1.成り立ちと変遷・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 07 2.アパレル産業の現状 (1)カナダ繊維産業の中心的存在のケベック・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 07 (2)繊維貿易・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 08 (3)素材背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 (4)品質・生産・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 (5)デザイン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 (6)アパレルブランド・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 3.輸出振興プロモーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 4.変わるカナダのアパレル産業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 5.アパレル製品に見る対日輸出の可能性(まとめに代えて)・・・・・・・・・・・・・・ 26 1 はじめに 今回、ケベック州政府在日事務所からお申し出を頂き、カナダ・ケベック州の アパレル産業を調査する機会を得た。正直なところ、ケベック州あるいはモント リオールと聞いても繊維輸入の実績は少なく、アパレル輸入との関連では思い浮 かぶものがほとんど無い状況で現地を訪問した。 一方、2010 年における日本の衣類(ニット製衣類及び布帛製衣類、衣類付属品) 輸入は、2 兆 2,490 億円、数量で 102 万トンとなり、2007 年にピークを迎えて以 降 3 年連続で減少している。このうち中国からの輸入は、金額で 1 兆 8,743 億 円、数量で 90 万トンと金額で 83.3%、数量で 88.2%を占め、中国からの一極集 中が続いている。 また、近年は中国人民元高や沿岸部を中心とした人件費の上昇など中国生産に 関わるコストアップ要因が顕在化し、また安定した供給ソース確保の観点から、 ベトナムをはじめとする東南アジアやバングラデシュでの生産に徐々に移行し つつある。 このような繊維輸入環境のなかでケベック州を訪問したが、やはりカナダとい う先進国の1州であるためアジアと比べ人件費が高く、また地理的にも日本から 遠いため、アジアの国々に求めるものとは全く別の視点を持つべきだと実感した。 今回の調査では、輸入の太宗を占めるアジアからのOEM生産とは一線を画し、 欧州からの輸入品のような現地の素材やデザイン、品質で日本市場に受け入れら れる商品・ブランドの紹介を中心に取り上げた。北米に位置しながらもフランス 語が公用語として使われるという独自の文化を持ったケベックが発信するアパ レル産業を紹介する良い機会となれば幸いである。 なお、調査にあたっては現地での訪問日程の調整をはじめ様々なご支援頂いた ケベック州政府在日事務所ならびに、ご担当の森様、そして現地での案内などに ご協力頂きましたケベック州政府やモントリオール市、Apparel Quebec の方々に、 この場を借りて厚く御礼申し上げます。 2 訪問日程 日 月 日 都 市 名 伊 丹 空 港 成 田 空 港 次 時 間 交通機関 発 14:35 NH2178 着 15:55 摘 要 空路、『成田』へ 【1 時間 20 分】 2011 年 成 1 発 17:45 9/11 ト ロ 田 ン 空 ト 空 港 港 着 17:00 (日) ト ロ ン ト 空 港 発 20:30 モントリオール空港着 21:40 AC2 空路、『トロント』へ 【12 時間 15 分】 AC426 空路、『モントリオール』へ 【1 時間 10 分】 到着通関後、ホテルへ移動 【対日時差:▲13時間】 モントリオール泊 10:00 ◇Apparel Human Resource Council 訪問 14:00 ◇Judith & Charles(店舗) 訪問 16:00 ◇モントリオール市内小売店視察 9/12 2 モ ン ト リ オ ー ル 滞 在 (月) モントリオール泊 9/13 3 10:00 ◇Peerless Clothing 訪問(紳士服縫製工場) 14:00 ◇S. Cohen 訪問(紳士服縫製工場) モ ン ト リ オ ー ル 滞 在 (火) モントリオール泊 9/14 4 10:00 ◇モントリオール市ファッション局 訪問 モ ン ト リ オ ー ル 滞 在 (水) 午後 ◇モントリオール市内小売店視察 モントリオール泊 9/15 5 モントリオール空港発 13:30 ニ ュ ー ヨ ー ク 空 港 着 14:50 AC746 空路、『ニューヨーク』へ 【1 時間 20 分】 (木) 【対日時差:▲13 時間】 ◇ Itochu Prominent USA 訪問 ニューヨーク泊 【 成 田 空 港 へ 帰 国 】 9/16 6 ニ ュ ー ヨ ー ク 空 港 発 10:30 ト ロ ン ト 空 港 着 12:10 ト ロ ン ト 空 港 発 18:05 AC707 空路、『トロント』へ 【1 時間 40 分】 AC1 空路、『成田空港』へ【12 時間 45 分】 (金) 機中泊 9/17 成 7 田 空 港 着 19:50 (土) 団員名簿 氏 団 長 名 会 社 名 米良 章生 日本繊維輸入組合 竹内 友幸 事務局 3 役 職 名 上席研究員 主 事 発着地 伊丹 成田 ケベック州基礎データ 1 一般概要 領土面積 人口 州都 州の形態 政治体制 通貨 公用語 民族 1,667,441k ㎡(カナダ全 10 州のなかで最大の面積) 778 万 2561 人(2008 年度) ケベック市(最も人口が多い都市はモントリオール) 連邦制 議会制民主主義 カナダドル(1カナダドル=約 75.72 円、2011 年 10 月 24 日現在) フランス語(州民の 40%以上はフランス語と英語を話すバイリンガル) フランス系(77%)、イギリス系(5%)、先住民族(1%)、その他(17%) ケベック州は北米大陸の北東に位置し、カナダ全 10 州(準州を除く)のなかで 最大の面積を有している。面積は日本のおよそ 4.4 倍で、カナダの約 17%を占める。 南部を流れるセントローレンス川沿いに発展 したケベック州の州都は人口約 70 万人のケベ ック市で、最大の都市は 1976 年にオリンピック が開催されたモントリオール市(人口約 360 万 人)でケベック州経済の中心都市である。 1974 年にフランス語が州の公用語となり、人 口の約 77%がフランス系住民とパリに次ぐ世 界で2番目のフランス語圏都市。また、移民の 受入れも積極的で、毎年多くの民族を受け入れ ている。2008 年度の移民数 4 万 5,264 人のうち 有資格労働者の割合が 59%、就学歴 14 年超が 3 分の 2 以上の文化・研究都市であり、これが経 済成長を支える一因となっている。 4 2 基礎的経済データ GDP 総額(2009 年度) GDP/人(2009 年度) 失業率(2008 年 平均) 主な産業 2,720 億カナダドル 3 万 7,998 カナダドル(3 万 2,536 米ドル) 7.2% 航空宇宙産業、農業および農業食品、自動車・陸運機 器、バイオ製薬、鉱業・軽金属、情報通信・ソフトウェアサ ービス、マルチメディア、観光、繊維・アパレル カナダは 1994 年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA:North American Free Trade Agreement)に加盟しており、4 億 5,000 万人の域内消費者に開放されている。なか でもケベック州は世界有数の大都市であるニューヨークまで飛行機で約 1 時間とア クセスに優れ、同州の輸出の 75%がアメリカ合衆国向けである。 また、セントローレンス川に造られた港は、約 100 カ国との海上輸送のために一 年を通じて開港している。 ケベック州経済を支える要因のひとつとしてレベルの高い教育を受けた労働者 の存在が挙げられる。17.7%が大学修了証書を取得しているなど有資格労働者の割 合が高い。また、人口の 36%がフランス語と英語を話し、11%は第三の言語を操る などバイリンガルもしくはマルチリンガルが多く「公用語はフランス語」、そして 「経済は米国」という独特な環境が生み出す人的資源が強みとなっている。 また、広大な土地と豊かな自然を背景に木材資源のほかアルミニウムなど世界規 模の鉱床を有する多品種にわたる鉱物資源の産出地となっているが、近年はGDP の 70%を占めるサービス産業と重要性が高まる先端技術産業を中心とした産業構 造に変化しつつある。 5 3 日本との貿易データ 対日輸出総額(2010 年) うち上位5品目 1位 2位 3位 4位 5位 7 億 7,622 万US$ (HSコード4桁ベース) 豚肉 大豆 航空機射出装置に類する装置ほか ヘリコプターおよび航空機類 糖類(甘しや糖など除く) 2 億 8,678 万US$ 8,917 万US$ 3,984 万US$ 2,811 万US$ 2,710 万US$ 2010 年のケベック州から日本への輸出総額は 7 億 7,622 万US$で前年比 6.9% 増加した。品目別では、豚肉が 2 億 8,678 万US$と対日輸出の 37%を占め、前年 比でも 13%増加。輸出品目の第 2 位は大豆で 8,917 万US$と、上位 2 品目で対日 輸出の 48%と約半数を占めた。この他では、航空機関連の部品や完成品が多く輸出 され、第 5 位にはケベック州の名産品として有名なメープルシロップ関連品が輸出 されている。 対日輸入総額(2010 年) うち上位5品目 1位 2位 3位 4位 5位 11 億 2,384 万US$ (HSコード4桁ベース) 航空機部分品 印刷回路 ブルドーザー等 ゴム製空気タイヤ トラクター 2 億 551 万US$ 1 億 5,530 万US$ 9,360 万US$ 7,987 万US$ 2,935 万US$ また、2010 年にケベック州が日本から輸入した総額は 11 億 2,384 万US$で前 年比 2.6%増加したものの、リーマンショック以前の 2007 年からは 18%減少して いる。品目別では、航空機部分品が 2 億 551 万US$と 18%を占めているが、前年 と比べると 27%減少した。輸入品目の第 2 位は印刷回路で 1 億 5,530 万US$。第 3 位は前年比で 46%増加したブルドーザー類、第 5 位にトラクターが輸入されてい る。上位 5 品目合計で 5 億 6,562 万US$と対日輸入の 50%強を占めたが、機械や 電子部品などを中心に輸入品目は多岐に亘る。 6 ケベック州アパレル産業の概要 1 成り立ちと変遷 ケベック州のアパレル産業は、洋服作りの工業化が進むとともに北米の生産拠点 として発展してきた。経済成長に合わせ消費を拡大させた米国市場の旺盛な需要を 満たすため、隣国の一大生産地として多くの縫製工場が建設された。今回訪問した Peerless Clothing 社や S.Cohen 社も 1920 年前後に設立され、その後、米国や国内 での需要増加に合わせ成長が続いた。1968 年にはモントリオール郊外にYKKカナ ダ社が設立されたことからも、北米での重要なアパレル供給拠点であった一端が窺 える。その後、1994 年に北米自由貿易協定(NAFTA)が発効すると、日本や欧州に 比べ高い関税を課している米国に対し無関税または優遇関税で輸出可能となった メリットから対米輸出を中心に輸出増加が続いた。 しかし、グローバリゼーションの急速な進展に伴う国際分業体制の確立と、新興 国と比べた価格競争力の低下から、中国をはじめとするアジア諸国製の製品に徐々 に米国市場を奪われた。さらには 2005 年からのATC(国際繊維協定)廃止によ り、それまではクォータ(輸出制 限枠)で規制されていた米国への カナ ダの衣 類輸出額の 推移 輸出が自由化され、中国やベトナ ムなどからの対米輸出増加に押 2500 され輸出減が続いている。 2000 参考までに、ケベック州が約半 1500 数を占めているカナダの輸出金 1000 額をWTOの統計で見ると、年々 500 増加していた輸出が 2000 年に衣 0 類輸出額 20 億 7,700 万ドルとピ 1990 1 995 2000 20 05 2010 ークを迎え、その後減少基調が続 単位: 百万US$ き 2010 年は 11 億 7,200 万ドルと 2000 年対比で 56%にまで低下し ている。 2 アパレル産業の現状 (1)カナダ繊維産業の中心的存在のケベック ケベック州の縫製産業はカナダのなかで最 も大きな割合を占めている。カナダ統計局の データによれば、2008 年のカナダ国内の縫製 企業数は 2,260 社。このうちの 51%がケベッ ク州にある。なお、この統計での縫製企業と は国内生産による収益が全収益の 51%を超え る企業のみを指し、その以外の収益が 50%以 上の企業は含まない。 その他の州と比べて、ニューヨークやボス トンなど米国の大消費地へのアクセスに優れ ていることが大きな利点となっている。 7 〔カナダの縫製業従事者・企業数〕 雇用者数 32,825 人 事業者数 2,260 社 うち、州別シェア ケベック州 オンタリオ州 ブリティッシュ コロンビア州 アルバータ州 マニトバ州 その他 51% 28% 12% 4% 2% 3% また、同データによる衣類およびアクセサ 〔同 衣類卸売業従事者・企業数〕 リーの卸売業者(この中には国内で生産して いる企業であっても、海外生産など国内生産 雇用者数 25,730 人 以外の収益が 50%以上あれば含まれる)の割 事業者数 1,714 社 合においても、ケベック州が 41%を占めてい うち、州別シェア る。これは、カナダ最大の都市トロントと首 ケベック州 41% 都オタワがあるオンタリオ州の 37%を上回り、 オンタリオ州 37% ケベック州でアパレル業が盛んであることを ブリティッシュ コロンビア州 15% 示している。なお、ケベック州にある当該企 アルバータ州 4% 業のうち、約 75%がモントリオール市に集中 マニトバ州 2% している。 その他 1% (2)繊維貿易 ア)糸および織物類 下表はケベック州の主要仕向け地別の輸出統計から見た、糸および織物類の輸出 額の推移である。カナダ統計局のデータによれば 1995 年に輸出総額が 3 億 9,982 万US$だったものが 2000 年には 7 億 9,567 万US$とほぼ 2 倍に増加したもの の、その後の 10 年間で 60%減少し 2010 年には 3 億 1,606 万US$となった。 仕向け地別に見ると、いずれも米国向けが 80%以上を占めている。2000 年から 2005 年までの 5 年間の減少幅が 17%であるのに対し、2005 年から 2010 年の同じ 5 年間では 43%減少し、この間の減少幅が大きくなっている。これは米国での衣類生 産減による需要の減少に加え、2004 年までは米国のクォータによって中国等との競 争から守られていたケベック州からの輸出が、2005 年のクォータ撤廃により米国へ の輸出が自由化されたため減少したと考えられる。 この他の仕向け地では 2010 年は中国が 653 万㌦で第 2 位となったがシェアは 2% を占めるに過ぎない。中南米の衣類生産拠点であるコロンビア、ブラジル、ペルー、 また衣類輸出の増加で需要が増しているベトナムへの輸出も増加しているがいず れもシェアが 1%にも届かず、米国向けの減少を補うには至っていない。 糸および織物類【輸出】上位 10 カ国の推移 1995 2000 単位:1,000US$ 2005 2010 米国 329,578 728,339 606,442 258,204 中国 1,290 973 3,247 6,528 メキシコ 407 7,746 5,974 5,221 ベルギー 326 6,684 1,682 4,046 コロンビア 263 1,684 1,682 2,804 ブラジル 1,755 392 1,424 2,710 韓国 3,986 7,126 4,446 2,435 香港 7,724 1,652 4,919 1,935 ベトナム 25 9 869 1,788 ペルー 258 655 1,047 1,608 399,824 795,672 676,616 316,055 合計 8 一方、輸入実績を主要輸入相手国別に見ると、糸および織物類の輸入額の推移は 下表のとおりとなる。1995 年の輸入総額 9 億 4,123 万US$が 2000 年には 10 億 3,837 万US$と増加したものの、それ以降は減少基調が続き 2005 年および 2010 年の各 5 年間でそれぞれ 28%、32%減少した結果、2010 年には 2000 年の 45%の水 準にまで減少し 4 億 6,414 万US$となった。この理由として、糸や織物の需要を 支えるケベック州の衣類生産が縮小したことが大きな要因として挙げられる。 供給国別では、いずれの年も米国からの輸入が最も多いが、2000 年の 4 億 3,410 万US$が 2010 年には 1 億 2,126 万US$と 10 年間で 72%減少し、またこの間の 輸入額に占めるシェアも 42%から 26%に低下した。一方、第 2 位の中国からの輸 入は 1995 年から年々シェアを拡大し 2010 年には 22%の 1 億 151 万US$と第 1 位 の米国に接近している。しかし、2005 年と 2010 年を比べるとほぼ横ばいで、米国 からの輸入減により相対的にシェアが上昇したのが分かる。 この他の供給国では、2010 年に第 6 位となったイスラエルがシェアは 4%に満た ないものの年々増加している他は、韓国やイタリア、台湾、インドなどの素材供給 力の高い国々からの輸入が年々減少している。 糸および織物類【輸入】上位 10 カ国の推移 1995 2000 単位:1,000US$ 2005 2010 米国 369,830 434,104 299,823 121,255 中国 64,512 72,366 102,393 101,512 韓国 68,068 89,462 40,968 37,403 イタリア 68,466 63,798 53,960 36,013 台湾 39,110 60,449 17,060 16,866 389 2,968 12,007 16,539 インド 19,521 49,108 31,735 12,525 ドイツ 21,458 21,443 26,557 12,001 インドネシア 21,562 26,680 10,634 11,177 パキスタン 59,574 47,270 30,910 10,844 合計 941,233 1,038,372 751,737 464,143 イスラエル イ)衣類貿易 カナダ統計局のデータによるケベック州の主要仕向け地別の輸出統計から見た 衣類(HSコード 61&62 類)の輸出額の推移は下表のとおり。1990 年の輸出総額 1 億 1,055 万US$が 5 年後に 4 倍強、さらにその後の 5 年間で 2 倍強に激増し、 2005 年には 10 億 4,887 万US$と 1990 年からの 15 年間で 9.5 倍にまで拡大した。 ここまで急激に増加したのは、米国向け輸出が伸びたことが最大の理由として挙げ られる。1990 年代の米国経済が堅調だったのに加えて、1994 年の北米自由貿易協 定(NAFTA)発効により自由貿易の恩恵がケベック州の対米衣類輸出にも及んだ。 しかし、それ以降は 2005 年のATC失効によりクォータの無い大競争時代に突入 し、価格競争力で勝る中国やアセアン各国などからの輸出品が米国市場でのシェア を拡大したことでケベック州からの輸出は近年減少し、2010 年は 4 億 110 万US 9 $と 2005 年に比べ 62%も減少した。 仕向け地別に見ると米国向けが圧倒的に多く、1990 年で既にシェアが 87%であ ったがその後も上昇を続け、2000 年には 96%に達するなどケベック州の衣類輸出 は極端に対米依存が強まった。2005 年以降は急激に減少し、2005 年の対米輸出額 9 億 7,194 万US$が 2010 年には 2 億 8,909 万US$に落ち込むとともにシェアも 72%と低下した。このように、米国一極集中が激しく第 2 位のオランダですらシェ アが 5.8%と 10%未満ではあるが米国以外の欧州諸国やオーストラリアなどへの輸 出は伸びている。 衣類【輸出】上位 10 カ国の推移 1990 1995 2000 米国 95,977 431,777 978,174 オランダ 380 848 1,794 ドイツ 1,170 8,875 1,740 英国 984 6,686 13,552 オーストラリア 7 157 154 スペイン 30 327 279 メキシコ 81 585 1,927 UAE 190 913 1,321 サウジアラビア 1,404 1,827 1,517 日本 835 1,534 2,224 合計 110,549 472,606 1,017,756 単位:1,000US$ 2005 2010 971,936 289,093 2,952 23,340 24,386 21,860 14,590 14,759 1,231 8,377 2,673 4,265 2,731 3,398 3,138 2,986 3,784 2,468 1,820 2,427 1,048,873 401,095 一方、衣類輸入を主要輸入相手国別に見たものが下表である。輸入総額は 1995 年以降年々増加し 1995 年の 9 億 677 万US$が 2005 年には 18 億 7,577 万US$と 2 倍に急増した。その後増加のペースは落ち着いてきたものの引き続き増加し、2010 年には 1995 年比で 2.6 倍の 23 億 9,784 万US$となった。この背景には、コスト 競争力に加えて川上から一貫した生産設備を持ち 2001 年 12 月のWTO加盟を契機 に繊維輸出を拡大させ「繊維強国」となった中国の存在がある。ケベック州の衣類 輸入総額は 2000 年からの 10 年間に 12 億 2,506 万US$増加したが、この間の中 国からの輸入増加額は 11 億 4,646 万US$と 94%を占める。 供給国別では、上述のとおり中国からの輸入が最も多いが 2000 年の 3 億 1,126 万US$が 2005 年には 9 億 7,311 万US$と 5 年間で 3 倍強に激増し、またこの 間の輸入額に占めるシェアも 27%から 52%に上昇した。 この他の供給国では、第 2 位のバングラデシュからの輸入が 1995 年から年々シ ェアを拡大し 2010 年には 2 億 7,786 万US$と 11%を占め、2000 年から 2010 年 までの 10 年間で 4 倍強に増加した。また、ベトナムやカンボジアからの輸入が 2000 年以降、急激に増加している。 衣類【輸入】上位 10 カ国の推移 1990 1995 2000 中国 139,957 163,998 311,262 バングラデシュ 13,586 25,756 63,945 インド 39,073 76,509 141,166 米国 38,794 96,164 74,590 ベトナム 84 2,993 4,755 10 単位:1,000US$ 2005 2010 973,111 1,457,724 156,292 277,862 181,469 94,398 65,950 67,896 18,948 50,883 インドネシア カンボジア イタリア パキスタン トルコ 合計 21,807 45,033 27,749 11,018 1,011,925 12,778 204 21,380 33,851 9,894 906,772 15,330 2,300 28,448 21,625 12,629 1,172,775 32,482 14,878 47,304 23,771 26,464 1,875,768 47,606 46,487 43,775 32,210 29,520 2,397,837 以上のように、ケベック州の衣類貿易は 1990 年で輸入が輸出を上回る「入超」 であったが、2005 年以降の輸出の減少と年々増加する輸入により 2000 年以降は貿 易バランスが大きく入超に傾き、2010 年には 19 億 9,674 万US$の大幅な入超と なった。 衣類貿易収支(単位:百万US$) 3000 2000 1000 0 -1000 -2000 1990 1995 輸出 2000 輸入 2005 2010 貿易収支 (3)素材背景 上述のとおり縫製業の盛んな地域であり、紳士・婦人、またニット・布帛などバ ラエティーに富んだアイテムが生産されているが、それに比べ素材背景は必ずしも 豊かとは言えない。カナダ全体の糸および織物の生産高は、2000 年に 41 億カナダ ドルであったが 2009 年には 15 億カナダドルと約 3 分の 1 にまで縮小し、州内の最 後のデニム工場も2年前に閉鎖された。現在残っている工場も自動車向けなどの産 業用資材や医療用途など非衣料が多い。縫製工場に投入される生地の約 79%が中国 やイタリアなど海外から輸入されている。 一方、ケベック州もしくはカナダの特色ある素材として注目されるのは毛皮。フ ァー使いの衣類やアクセサリーは日本のマーケットでも人気を集めているが、ケベ ック州は北海道よりも緯度が高く冬の寒さが厳しい気象下にあるため、毛皮や革が 生活に深く根差している。冬には氷点下 30 度以下にもなるという厳しい寒さから 身を守る必要不可欠な素材として古くから毛皮が使われている。モントリオールの 店頭にはファーを使った商品がたくさん並び、そのバリエーションは豊かである。 また、最近は動物愛護の観点からリユースやリサイクルファーを使ったものも見ら れる。 ここでモントリオールを拠点とする代表的な毛皮のブランドを紹介する。 11 ア)HARRICANA 1994 年にデザイナーの Mariouche Gagne が立ち上げたブランド。このブランド名 はカナダの川の名前に由来している。すでに、世界各国の 200 店舗で取り扱いがあ るカナダを代表する人気ブランドで、日本でも有力セレクトショップや有名百貨店 で販売されている。特徴は毛皮などのリサイクル素材の使用と美しいデザインの融 合。 公式サイト http://www.harricana.qc.ca/en/ イ)LUNA 1976 年創立。主にレディス向けに上質な毛皮を使ったカナダでも有数の毛皮アク セサリーのブランド。帽子、ケープ、財布、スカーフ、ショールなど、種類豊富な コレクションを 35 年に亘り発表している。 公式サイト http://www.lunafurs.com/ ウ)MUSI MUSI のコレクションは、ビーバーやフォックス、チンチラ、ミンクなどの選りす ぐりの素材を熟練の技で丁寧に仕上げ、エレガントで最先端のファッションを表現。 1994 年の設立以来、機能とともに芸術性を追いかけるデザインは世界中から高い評 価を受け様々な賞を受賞し多くの雑誌で取り上げられている。 公式サイト http://www.musifurs.com/ HARRICANA LUNA MUSI (4)品質・生産 今回の訪問で見ることが出来たケベック州もしくはカナダ製の商品は限られる が、その限りでの印象は百貨店クラスの製品が多く、生産現場もきちんと管理が行 12 き届いていた。スーツ工場では各工程で中間アイロンが施され、工程ごとのチェッ クも細かく行われるなど品質レベルが保たれている。 アジアの主要生産国と比べ高い人件費を考えれば、低価格品ではなく付加価値を 持った商品作りに取り組むのは当然であろう。米国のマーケットに並べる商品のな かでも、コストを掛けてそれに見合う品質を付加し、価格に反映させられる商品が クイック・レスポンスにも対応可能な近隣のケベック州で生産される。 なお、今回訪問した工場の概要は以下のとおり。 ア)Peerless Clothing Inc. 訪問日時:2011 年 9 月 13 日(火)10:00〜11:45 住所:8888 PIE IX BLVD, Montreal, Quebec, Canada 工場設立日:1919 年 主要生産品:紳士スーツ、紳士パンツ、スポーツコート 主要取引ブランド:Lauren Ralph Lauren, Calvin Klein, DKNY, Sean John, Michael Kors, Joseph Abboud 他 面談者:Mr. Elliot Lifson ; Vice‑Chairman ・全社のうち約 20%はモントリオールで製造、残りはインド、中国、ベトナム、 インドネシア、東ヨーロッパ、中南米などで生産。 ・ファミリー経営、北米で最大の紳士服テーラーメードと自負。 ・大手顧客は米国企業。米国バーモント州に倉庫(配送センター)を持ち、ニュ ーヨークに営業所あり。 ・週に 15 万〜20 万着のスーツを生産。 ・モントリオールは製造の拠点ではなく、創造性・ 独創力の拠点と考えるべき。 ・製造場所は大きな問題ではなく、その背後にあるノウハウと頭脳が重要。 ・生地はイタリア、中国、インド、メキシコ、かつては日本などから輸入。 ・ここ 10 年間、社内のシステムに投資。ERP(Enterprise Resource Planning) をつかった独自システムを構築。 ・ノウハウの流出を防ぐ事が大事。ノウハウを他にとられるとサービスのみにな り、付加価値やコントロールを失う。 ・当社の方針は、1)作業は分業し従業員は一つの作業しかせず効率化を進める、 2)ERPシステムを駆使し小売店の注文予約状況と在庫把握、3)ブランドは ライセンシング契約、4)特定のアイテムに特化・専門化し靴下やネクタイは 作らずにジャケット(スーツ、スポーツタイプ)、パンツのみ。 ・9.11 テロ以降は米国バイヤーの海外出張が減ったがモントリオールなら 1 時間 で来られる。 ・バーコード管理を進め製造や労働者のパフォーマンス管理にも使用。 ・労働組合があり、基本給プラス出来高によって報酬。作業の済んだものをバン ドルしてバーコードで管理。99%の従業員が最低賃金以上を稼ぐ。 ・生産管理は全てモントリオールで行っている。最初のサンプルはモントリオー ルで作る。その後の海外生産のサンプルも製造前にモントリオールの承認が必 要。 ・課題はノウハウの流出を防ぐ事とリーダーの育成。 ・バーモント州に配送センター(倉庫)があり、倉庫へは国境越えがあるため、 まとめて出荷しそこから米国各地へ配送。 13 Peerless Clothing 工場内の様子 同社ロビーの展示サンプル イ)S.Cohen Inc. 訪問日時:2011 年 9 月 13 日(火)14:00〜15:45 住所:153 Graveline, Montreal, Quebec, Canada 工場設立日:1923 年 主要生産品:紳士スーツ、紳士ジャケット、紳士パンツ、紳士コートなど 主要取引ブランド:S.Cohen(自社ブランド), McGregor, WEATHER REPORT, PERRY ELLIS PORTFOLIO, NAUTICA, TOMMY BAHAMA 他 面談者:Mr. Benjamin Cohen ・当社は 4 世代 90 年に亘り続いている老舗的企業。 ・NAUTICA はカナダ販売用のみの生産。Tommy BAHAMA や BANANA REPUBLIC も生産 している。 ・J.Press の注文は細かくモントリオールで生産。ニューヨーク市とコネチカッ ト州で販売。 ・肩パットも含めた通気性のあるスーツを開発したので、日本での販売を希望。 現在はアメリカ南部で販売中。 ・通常はデザインをもらって生産している。 ・生地の 65〜70%はイタリアからの輸入生地で、中国からは 15〜20%。残りは チェコ、トルコ、メキシコ、ポルトガルなど。フランスやイタリアの生地の展 示会にも出向く。BANANA REPUBLIC の生地はイタリア製の比率が高い。 ・出来る限り自動化を図っており、モルガン・テクニカの CAD などの機器を導入 し、オンラインでデジタル受注した後、工場へデータを流す事も可能。CAD で パターンを出力しマーカー印刷する。 ・これらによりテーラーやデザイナーは不要になった。システムがやってくれる。 ・Durkopp Adler のポケット製造機器や PFAFF のミシンを使用。 ・これらの新規システムは 2 週間程前に導入したばかりで、工場自体は 7 年前に 建設したもの。近代的で世界一のテーラーメード紳士服工場と自負している。 ・ライセンス生産、FOB、プライベートラベルなど様々な契約が可能。 ・全社のうち 90%をモントリオールで、残り 10%を中国の協力工場で生産して いる。 ・モントリオール工場の従業員は 285 名。 ・組合規定で年々賃金を上げなければならないので歩合による報酬はやめた。出 来高をコード管理して励みにする仕組みのみ取り入れている。 14 ・中国工場は自社ではない。隠す事もなく、コピーを恐れてもいない。 ・北米進出したい日本メーカーの製造も可能。 ・中国でも生産しているため過去 7 年に 36 回訪中し、そのうち 6 回に一度は日 本に寄る。特に生地と流行を見て回る。先日も、伊勢丹でおもしろい紳士ニッ トジェケットを購入。 ・ジャパン COSTCO の友人からカナダ製は好評と聞いた。カナダの感性はスーツ にも応用できると考える。 S.Cohen 社工場外観 スーツのアイロン機器 (5)デザイン ケベック州の大きな特色のひとつに、デザイン等の創造性の豊かさが挙げられる。 モントリオール市は「モントリオール・ファッション・シティ構想」を掲げ、様々 なプロモーションやイベントを通じ、デザイナーの育成やモントリオール製アパレ ル商品をPRする「メード・イン・モントリオール」キャンペーンを行っている。 創造性豊かなデザインの背景として、ファッション関連教育機関の充実がある。 モントリオール市は文化・研究都市であるため、様々な分野の大学などの教育機関 が存在するが、デザイナーやファッション等の人材育成のための大学や専門学校も 多い。ケベック州は公用語がフランス語のためにフランスとの往来も多く、モント リオールで学んだ後に「ファッションの都」であるパリなどで経験を積み、モント リオールに戻り活躍するデザイナーも少なくない。 ここでモントリオールを拠点に活躍する代表的なデザイナーおよびブランドを 紹介する。 ア)MUSE デザイナー Christian Chenail が手掛けるブランド。デザイナーになる前に建築 学を学んでいた経験が彼の完成されたファッションデザインに反映されている。 1989 年の最初のコレクション以降、モントリオールを拠点とする代表的なデザイナ ーのひとりとして活躍。 15 公式サイト http://www.muse‑cchenail.com/index‑eng.html イ)Valerie Dumaine 1997 年にモントリオールのカレッジを卒業した Valerie Dumaine のデザインは、 美しくエレガントなライン、そして一点一点に地元のアーティストによるプリント が入っているのが特徴的。彼女の作品は洗練されているにも係わらず大胆で同年代 の女性から多くの支持を得ている。 公式サイト http://valeriedumaine.com/eng/ ウ)Philippe Dubuc 現代的な素材を使いモダニズムを表現する Philippe Dubuc のコレクションは、 1993 年に誕生した。その革新的なスタイルには早くから各種メディアも注目し、世 界中から高い評価を受けている。 公式サイト http://www.dubucstyle.com/eng/home.html MUSE Valerie Dumaine Philippe Dubuc (6)アパレルブランド モントリオール市内にはハイセンスなアパレルブランドが数多く誕生している。 これらのなかにはファッション性が高く評価され、モントリオールまたはカナダの みならず、米国を中心とした世界各地に展開している企業も多い。 今回、実際にショップを視察した代表的なアパレルブランドを紹介する。 16 JUDITH & CHARLES メインアイテム:婦人服 ウェブサイト: http://www.judithandcharles.com/en/ m0851 メインアイテム:レザー製品(鞄、ジャケット) ウェブサイト: http://www.m0851.com/#/en La Vie en Rose メインアイテム:ブラジャー、ランジェリー ウェブサイト: http://www.lavieenrose.com/ JACOB メインアイテム:婦人服、その他 ウェブサイト: http://www.jacob.ca/ ALDO メインアイテム:靴、バッグ ウェブサイト: http://www.aldoshoes.com/ca‑eng TRISTAN メインアイテム:総合アパレル ウェブサイト: http://www.tristan‑america.com/ 17 DYNAMITE GROUP メインアイテム:婦人服 ウェブサイト: http://www.dynamite.ca/ Le Chateau メインアイテム:総合アパレル ウェブサイト: http://www.lechateau.com/ Souris Mini メインアイテム:子供服 ウェブサイト: http://www.sourismini.com/ Samuel Dong メインアイテム:レディースブランド ウェブサイト: http://www.samueldong.com/ Lululemon メインアイテム:ヨガウェアー ウェブサイト: http://www.lululemon.com/ MARIE SAINT PIERRE メインアイテム:レディースブランド ウェブサイト: http://www.mariesaintpierre.com/ 18 3 輸出振興プロモーション ケベック州政府およびモントリオール市は、繊維・ファッション産業振興のため 様々な活動を行っている。前述のとおり、モントリオール市は「モントリオール・ ファッション・シティ構想」を掲げており、1)ファッション都市としてのモント リオールを世界に発信、2)モントリオール製もしくは地元ブランドの市民への啓 蒙、3)地元ファッションイベントへのサポート、を柱に戦略的なプロモーション を展開している。 以下、主なイベント、プロモーションを紹介する。 ア)モントリオール・ファッション・ウィーク ファッション・シティとしてのモントリオールを世界に向けて発信するとともに 輸出ビジネスを拡大するため、モントリオールのアパレルやデザイナーなど多くの ファッション関連企業が参加する「モントリオール・ファッション・ウィーク(M FW) 」が 2001 年にスタートした。春と秋に年 2 回開催され、会期中は市内の会場 で展示商談会が開かれるほか、デザイナーによるファッション・ショーなど様々な ファッションイベントが開催され年々注目が高まっている。 海外からも多くのバイヤーや関係者がMFWを訪れ、最近はニューヨーク・ファ ッション・ウィークの開催期間の前後に合わせ開催するなど、ニューヨークとモン トリオールを一度に見て回れるようバイヤーの利便性を考慮し日程が組まれてい る。 ケベック州政府は第 1 回目のMFWから後援しており、日本の関係機関であるケ ベック州政府在日事務所も第 13 回 MFW以降、航空券と宿泊費を負担 して日本からのバイヤーを招待し ている。最近では商社やアパレル、 セレクトショップ、小売りなどから 数名が招待された。バイヤーの希望 に応じた工場訪問や、MFWに出展 者していないケベック州在住企業 との商談も手配している。 なお、次回のMFWは 2012 年 2 月 6 日(月)から 9 日(木)の 4 日 間行われ、これまで同様にバイヤー が招待される予定。 展示商談会会場の様子 〔ケベック州政府在日事務所〕 東京都港区虎ノ門 4‑3‑1 城山トラストタワー32 階 電話 03‑5733‑4001、 Fax 03‑5472‑6721 http://www.gouv.qc.ca/portail/quebec/international/japon/ 前回の第 21 回MFWは本年 9 月 6 日から 9 日に市内の MARCHE BONSECOURS で開 催され、以下のデザイナーによるファッション・ショーが行われた。 19 9 月 6 日(火) 15:00 Harricana par Mariouche 16:30 MARTIN LIM 17:30 Unttld 18:30 Travis Taddeo 19:30 Dinh Ba Design 20:30 Melissa Nepton 21:30 Dimitri Chris 9 月 7 日(水) 10:00 Philippe Dubuc 16:30 Barila 17:30 Anastasia Lomonova 18:30 Label Europe 19:30 Annie 50 20:30 Anomal Couture 21:30 Soia & Kyo 9 月 8 日(木) 11:00 Denis Gagnon 15:30 ModEthik presente: Chromozone, Rescued & Veinage 16:30 Marie‑Sophie Dion 17:30 Mulcair 18:30 Duy 19:30 Samuel Dong 20:30 Zenobia Bawa, Ronen Chen & Simon Chang 21:30 Second 9 月 9 日(金) 16:30 !Nu.I by Vickie 17:30 Andrew Floyd 18:30 Iris Setlakwe Collection 19:30 Bijoux Caroline Neron ファッション・ショーの様子 会場の MARCHE BONSECOURS 20 イ)「MODE MONTREAL」キャンペーン モントリオール市ではケベック州政府の支援を得て、地元で作られたアパレル製 品を広く市民や観光客に認識してもらうため、モントリオール製もしくはモントリ オールでデザインされた商品を並べる店舗に、裁縫で使用する「ピン」をイメージ した「MODE MONTREAL」のロゴを張り出しPRしている。 MODE MONTREAL のロゴマーク ロゴを張り出したショップの窓 また、専用のウェブサイトを開設してモントリオールのファッションに関連する 様々なイベントの紹介や、ブログ、ショップ情報、トレンド情報などを掲載しPR に役立てている。(専用サイト:http://www.modemontreal.tv/en ) 専用ウェブサイトの画面例 この他にも、観光イベントのひとつとして市内メインストリートの一角を歩行者 天国にしてファッションイベントが行われる「モントリオール・ファッション&デ ザイン・フェスティバル」や、ファッション関連の常設展示場の設置など、ファッ ション振興に対するモントリオール市の積極的な取り組みが見られた。 21 4 変わるカナダのアパレル産業 Apparel Human Resource Council の Executive Director, Jean G. Rivard 氏よ り「変わるカナダのアパレル産業」と題したレポートをご説明頂いたので、以下に その要旨をまとめた。 1.2005 年の状況 −ATC失効による輸入クォータ(枠)制限の撤廃 −国内製造の激減 −海外生産品の急増、しかし ・業界の終焉を意味するものではない ・多くのカナダ企業がサプライチェーンを断ち切った訳ではなく、単に生 産拠点を移したに過ぎない ・生産以外の重要な機能はカナダに残った (デザイン、ブランディング、マーケティング、マーチャンダイジング、 物流、情報技術など) 2.状況変化がもたらす業界の再編成 −もはや何処で縫製したかによって定義するのではなく、カナダで製品開発 したか否か ・デザイン、ブランディング、マーケティング、マーチャンダイジング、 物流など ・生産は国内でも海外でも出来る ・小売り機能も持ち得る −外部での製造や小売りの戦略はビジネスモデルの一部だが、それ自体が業 界を定義するものではない 3.業界の現実像 −2009 年のセクター別の雇用内訳は製造部門が 59%、卸部門が 32%、小売 り部門が 9% セクター別就労者の割合 Retailing sectors 9% 32% 59% Manufacturing sectors Wholesaling sectors −業界が消滅するのではなく、単に部門のシフトに過ぎない ・2004 年以降、カナダの衣類生産と卸売りの合計売上げは 120 億カナダド ル程度で推移。2006 年までは減少したものの大きな落ち込みには到らず、 2007 年以降は徐々に拡大 22 カナダの衣類生産と卸売りの売上げ推移 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 - 45% 55% 2004 50% 50% 50% 50% 2005 2006 Clothing manufacturing 60% 67% 40% 33% 2007 2008 Clothing wholesaling 4.アンケート調査結果 −調査回答数は 217 件で、この結果は統計的にカナダのアパレル業界を十分 反映 −過去 10 年では少なくとも最大の業界調査で、約 2 万 4 千人の就労者をカバ ーする −要点 ・業界は製造からサービスにシフト(国内製造、海外製造、小売りの混在) ・将来の成長には楽観的 ・克服すべき問題は国際的な環境ではなく、内部の問題に対応する能力(製 造業労働者の退職、後継者問題の解決) 5.考慮すべき事項 −以下 3 つのサブセクターはかなり重複しており、コアとなる製品開発機能 での重要なプレーヤー ・国内製造業者:48%が海外生産も行い、32%は小売り機能を持つ ・海外生産&輸入者:94%が製品開発、66%は国内でも生産、28%は小売 り機能を持つ ・小売業者:98%が製品開発、45%は国内で生産、53%が海外でも生産 −業界は製造業従事者からサービス部門にシフトしつつあり、さらにその傾 向は続く 労働者のセクター別内訳(2012 年は予測) Service Production 31% + 8% 42% 69% - 33% 58% 2001 2006 23 + 11% 51% + 22%* 53% - 23% 49% + 13%* 47% 2010 2012E −会員企業に見る景況感 ・昨年の後半から本年 5 月までの景況感は、いずれも指数が 50 を上回って おり、業況は改善している Index (50=Neutral) アパレル企業の月別景況指数 70 60 50 40 30 Aug Sep 2010 Oct Nov Dec Jan Feb 2011 Mar 6.労働者の世代交代 −今後、定年退職者問題のインパクトは大きく、アパレル業界は高齢化を迎 えている 労働者の年齢別労働者構成(2006 年) アパレル業界 産業全体 22% 57% 36% 34 才以下 21% 49% 35〜54才 15% 55才以上 −労働者の世代交代への必要性が高まり、60%の企業が 2 年以内に定年退職 のため労働者を失うとしている(なかでも、生産従事者の減少が大きな問 題) −今後 5 年以内に業界は 22%の労働力を定年退職で失う ・現在の国内生産レベルを維持するだけでも 7,000 人の生産従事者が必要 ・サービス関連従事者も 1,000 人近い労働力が必要の見込み −生産従事者確保の問題点 ・質の高い労働者の不足 ・熟練労働者の供給源があまりない ・わずか 18%の企業しか満足な社内研修が整っていない −サービス職の伸びは 3%で、以下の職種の成長が見込める ・テクニカルデザイナー、デザイナー、バイヤー、マーチャンダイザー、 マーケティング/広報/グラフィックデザイン、販売員、小売店従業員、 24 輸出入貿易、ITアナリスト/システム管理者 −多くの企業が労働者の戦略的計画を持たず、この結果として各企業の成長 目標を達成できるか大きな疑問が生じるとともに、潜在的な雇用の実現が 困難となっている アパレル企業の雇用計画の有無(2010 年) 雇用計画なし 雇用計画あり 29% 71% −さらに、45%は 5 年以内に企業存続の危機に直面し、このうち 35%は 2 年 以内と深刻な事態である −事業継続に問題があると回答したうち、18%が会社の売却を検討しており、 また 10%会社の整理を検討している 事業継続に問題があるとした企業の回答 30% 雇用計画を遂行 18% 一部/全部を売却 会社を整理 10% 25 5 アパレル製品に見る対日輸出の可能性(まとめに代えて) 現在のケベック州におけるアパレル製品の生産環境は、90 年代の日本の状況に近 い。当時の日本は急激な円高に対応するため国内生産から海外輸入に切り替え、な かでも改革開放以降市場経済への移行期を迎えていた中国の豊富で安価な労働力 を求めて多くの国内縫製工場が生産拠点を中国に移していった。その結果、国内市 場に流通する 8 割以上が中国製に置き換わり、国内でのものづくりは徐々に縮小し、 現在は一部の限られたものだけが残っている。ケベック州も NAFTA による優遇や 2004 年末までの対米輸出クォータという数量規制によって競争から守られていた が、クォータ撤廃により中国などアジア生産品との自由競争に晒され、主要な輸出 先である米国市場への輸出が急減するとともに、自国市場においても輸入の増加に よって国内生産が減少している。 しかし、今回の訪問先で聞くことが出来たのは国内生産の減少を憂う言葉ではな く、「どこで生産したかは大きな問題ではない。企画・デザインそして管理をどこ で行っているかが最も重要」というものだった。これは、高級品のみならず中・低 価格品にも細かな品質を要求する日本と、品質よりはファッション性やデザインを 重視する市場とのニーズの相違によるところが大きいと思われるが、特にケベック にはそれらを重んじる要素が窺えた。それは政府や市の支援もありデザイナーなど ファッション人材を育成する教育環境が充実し、そこで学んだ多くの人材がモント リオールさらには世界で活躍しているという自負である。 ただ、これらは日本のファッション衣料業界についても言えることで、日本の衣 料品市場の輸入比率が 80%を超えたとは言え、それは生産を中国その他の国に委託 したということであって、デザイン、スタイルを含めた企画や、どの素材を使用す るかの決定まで全て中国に任せ、中国の企画で、中国素材を使用した、中国生産の 製品を日本が輸入しているということではない。日本企画――日本生地使用――中 国生産――日本輸入(俗にいう持ち帰りビジネス)の衣料品が 2008 年までは、生 地ベースで 2,700〜2,800 億円あったが、これが 2009‑2010 年には、中国品の品質 向上、Service 向上で 1,400〜1,500 億円まで減少している。しかし、このことは企 画まで中国に委託したわけではなく、「使用素材(生地)の一部が中国品にとって 代わられた」という事に過ぎない。(その意味では、カナダは中国素材の使用率は 日本より遥かに高いと推測するが、やり方はほぼ同じと話しを聞いて了解した。) こう見てくると、日加の衣料品業界は、生産構造、業界構造はほぼ似通っている が、実はここにケベック州からの輸入促進の難しさ、即ち、ビジネスと見なすに足 るだけの数量に持っていくための難しさが潜んでいるとも言える。日本から招待し た Importer 若しくは Buyer は、カナダ市場向けに企画・生産された商品のなかに、 日本でも受け入れられそうなものを探し、もしあれば、Trial 数量程度を購入して みようと言うのが現状だと思うが、これではなかなか伸びが期待できないのではな いか。(もっとも現状で十分ということであれば、話しは別だが)もし、この殻を 破るにはどうしたらいいのか? 1 つは、日本で企画・生産・販売を担当している人(即ち、買い付けもできる人) を Importer と一緒に招待して見てもらうことである。最初は、既存の商品から、 選ぶしかないと思うが、反響がよければ、企画、生産を委託する、それが出来る人、 若しくは会社を招待し、可能性を広げていくやり方。 26 但し、その際留意しなければならないのは Brand である。Men s 用であれ Ladies 用であれ、全て Brand 品で、大半が米国 Brand、カナダ Brand はごく僅かだったが、 Trial 数量程度を Commit した Buyer との Brand に関する Deal はどうなっているの かを良く Check しておく必要がある。Brand−Owner にしてみれば、自らの Brand が 日本でどう Handle されるかは最大関心事の筈で、どんな数量でも、どんなところ にでも販売するということにはなっていない筈である。今まで、少量を買って行っ た人達の Deal の内容を Check して、招待する Buyer はどういう人にすべきか検討 すれば(既に検討済かもしれないが)面白い結果が出るのではないか。 価格問題には今回は敢えて踏み込まず議論もしなかったが、これも大事な要素で あることには違いない。 以上、様々な要素を勘案して、意思決定の出来る人、若しくは衣料品店で買い付 けを実際にやっている担当者が現地を訪問し話しをしたら、商売にも繋がる可能性 も大きくなろうし、今後どうしたらいいかについても様々な Suggestion が聞ける のではないかと思われる。 今一つは、以下のようなカナダらしい商品、ニッチ・マーケットを得意としてい る人、会社に商機があると思われる。必ずしも繊維専門の会社でない可能性もある が、永続性のある商売を探る意味では一つのやり方だと思う。(輸入組合のメンバ ーかどうか、という問題も出て来ようが) 今回訪問したモントリオール市内の店頭には、日本市場で充分に受け入れられる 品質・デザインの商品が数多く並んでいた。現実、既に日本のセレクトショップの バイヤーがシーズン毎に訪れ買付けしている。同じカナダでも西海岸のようなカジ ュアルテイストとは違い、落ち着いて洗練されたデザインのケベックのアパレル製 品は、今後、日本市場に浸透していく可能性が感じられた。 また、現地の素材を使ったケベックらしい商品の代表としてファーが注目される。 部分使いを含めファーを使った商品は日本の冬のファッションに欠かせないアイ テムであり、古くから冬の厳しい寒さとともに生活してきたケベックならではのフ ァー関連商品のバリエーションはとても魅力的である。最近は、動物愛護の観点か ら毛皮の不買運動も見られるが、これらを意識したリサイクル素材の毛皮や再生加 工革を使ったものも登場している。 いずれの商品もその特性から数多く売れるものではない所謂「ニッチ・マーケッ ト」を対象とした商品ではあるが、ファッション性やデザイン、また素材の良さな ど日本の消費者にアピール出来るだけの魅力を兼ね備えているものが多いので、こ れを機会に少しでも多くの日本のバイヤーがケベック州を訪問し、ケベックのアパ レル製品が日本で紹介されるよう期待したい。 27
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