No.137 - 株式会社ANA総合研究所

No. 137
No. 137
2 015
T HEMA
国内交通の
インバウンド対応と諸課題
小島 克巳
LCC の本質と国内 LCC の将来
花岡 伸也
通訳ガイドサービスから見た
訪日観光ビジネスの特徴と課題
赤堀 浩一郎
リレー連載
日本 の空 港 はいま
西藤 真一
2 015
表紙写真
夕照の灯台(山形・堅苔沢)
進 化する航 空テクノロジー
地上試験を行うMRJに搭載予定の PW1217G 型 ギアード・ターボファン・エンジン
©2015 United Technologies Corporation – Pratt & Whitey All Rights Reserved – Reprinted with Permission
環境にやさしい新型エンジン
ギアード・ターボファン・エンジン
航空機の燃費効率向上にかかせないのがエンジン性能だ。航空機に使用されているターボファン・
エンジンは、前部から ①空気を取り込み噴出させるファン ②取り込んだ空気の一部を圧縮する低
圧コンプレッサー ③圧縮された空気に燃料を混合して燃焼させたガスから回転エネルギーを得る
低圧タービン―といった構造になっていて、それらはシャフトで直結されている。まず、低圧タービン
を回して、それがシャフトを通じてファンに回転力を与え、回転するファンから空気を取り込み、
シャフトをさらに回転させ、エンジンの回転数を増す仕組みだ。
ファンから取り込まれた空気は、そのまま後方に噴出されるものと、圧縮・燃焼されタービンを
回すものに分けられる。一般的に、後者に対して前者の空気量が大きいほど燃費効率は良くなる。
そのため、ファンの直径をできるだけ大きくしたいところだが、ファンを大きくすればするほど、ファ
ンの先端部の回転速度が速くなり、この速度が音速を超えると衝撃波を発生させてしまう。
そこで開発されたのが「ギアード・ターボファン・エンジン」
。直接シャフトでファンを回すので
はなく、シャフトに減速ギアを取り付け、ギアを介してファンの回転数を一定数以下にする設計と
なっている。こうした仕組みの新型エンジンは、燃料消費量の低減による CO2 の削減、騒音の低減
にも大きく貢献する環境にやさしいエンジンであり、ANA が導入する国産旅客機 MRJ をはじめ、
多くの機種に搭載される予定である。
①ファン
②低圧コンプレッサー
減速ギア
③低圧タービン
燃焼室
減速ギア
©2015 United Technologies Corporation – Pratt & Whitey
All Rights Reserved – Reprinted with Permission
2
ていくおふ . No.137
©2015 United Technologies Corporation – Pratt & Whitey
All Rights Reserved – Reprinted with Permission
2015
No.137
Contents
進化する
航空テクノロジー
02
01
THEMA
04
1
ギアード・ターボファン・エンジン
国内交通のインバウンド対応と諸課題
―インバウンド 2,000 万人時代に向けて
小島 克巳
THEMA
2
12
THEMA
3
22
LCC の本質と国内 LCC の将来
花岡 伸也
通訳ガイドサービスから見た
訪日観光ビジネスの特徴と課題
赤堀 浩一郎
リレー連載
日本の空港はいま
30
第 2 回 地元による主体的な関わりで活性化を目指す福島空港
西藤 真一
空港とともに歩む
38
地元が支える福島空港
天 空 の ラ ンド マ ー ク
41
アット・ワルン
東北に躍る
裏表紙
八甲田 “ 雪の回廊と温泉 ” ウオーク
ていくおふ . No.137
3
T H E M A
1
国内交通のインバウンド対応と諸課題
―インバウンド2,000万人時代に向けて
要旨
・インバウンド 2,000 万人時代を見据えた交通サービスが必要。
・LCC 就航に対応した空港アクセスの改善が今後も求められる。
・わが国では交通事業者間の連携がいまだ不十分。
文教大学 国際学部
教授
小島 克巳
キーワード
インバウンド、空港アクセス、交通事業者間連携
はじめに
先般の日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、
国としての問題認識
最初に、政府と観光庁がインバウンドの国内移
2014 年の訪日外客(インバウンド)数は1,341万
動に対してどのような問題認識を持っているのか
人となり、2 年連続で過去最高を記録した。2003
を確認しておきたい。ここでは、
「観光立国推進基
年の小泉首相による観光立国宣言以来、リーマン
本計画」と「観光白書」から関連事項をピックアッ
ショックや東日本大震災などの困難を乗り越えな
プする。
がら、ようやくインバウンド1,000 万人時代に突
観光立国推進基本計画は、観光立国推進基本法
入した。さらに、2020 年の東京オリンピック・パ
(2007 年 1 月施行)の規定に基づき、観光立国の
ラリンピックの開催を控え、次の「2020 年までに
2,000 万人」という目標に向かって、官民一体と
なってインバウンドの受け入れ態勢を整備してい
く必要がある。
その一方で、インバウンドが1,000 万人を超え
た現状においても、その受け入れ態勢が不十分あ
るいは改善が必要と思われる点は多い。特に、国内
交通はインバウンドの国内移動を担う重要な役割
を有しており、交通インフラの整備や交通サービ
スの利便性の向上といった施策は、インバンウン
ドの円滑な移動や地方都市への誘客を図る上で早
急に取り組まなければならない課題である。
そこで本稿では、インバウンド2,000 万人時代
における国内交通の対応という視点から、主に公
共交通機関によるインバウンドの国内移動の問題
点を整理し、今後必要とされる施策について検討
を行うこととしたい。
4
ていくおふ . No.137
国内交通のインバウンド対応と諸課題 ―インバウンド 2,000 万人時代に向けて
実現に関する基本的な計画として2012年3月30
このように、インバウンド促進に対応した交通
T
日に閣議決定されたものである。この観光立国推進
施策として、空港アクセスの整備、国内移動のため
H
基本計画の中では、インバウンド促進に必要な交
の交通ネットワークの整備、移動手段の利便性の
E
通関連施策として以下の項目が指摘されている。
向上(IC カードの導入等)などの施策が国として取
M
り組むべき課題であると認識されている。よって
A
・空港・港湾・鉄道駅へのアクセス向上
―国際拠点空港(羽田・成田・関空)への鉄
以下では、空港アクセスや国内移動(都市内および
都市間)の問題を中心に考察していきたい。
道アクセスの改善のための調査・検討
―道路ネットワークの強化による空港・港
湾・鉄道駅へのアクセス向上
・国内の幹線交通に係る施設の整備
―高速鉄道ネットワークの拡充による観光旅
行者の広域移動の高速化・円滑化
―高速道路の整備の推進による観光地域への
アクセスの強化
・国内の地域交通に係る施設の整備
―観光資源でもある地域公共交通の活性化・
再生
―公共交通のネットワークの充実による観光
旅行者の円滑な移動
―共通 IC カードシステムの導入
旅行者の交通サービスの選択基準
インバウンドや日本人旅行者が空港アクセスや
国内移動で交通サービスを利用する場合、どの交
通手段を選択するかの判断基準は、それぞれ交
通機関の運賃、所要時間、運航・運行頻度、定時性、
快適性、安全性といった交通のサービス属性に基づ
くだろう。旅行者は一般的に、自分自身の旅行目的、
時間や予算といった制約条件などを照らし合わ
せて、最適な交通手段を選択すると考えられる。
さらに、ビジネス客か観光客かといった旅行者
属性の違いや、国際線利用か国内線利用かといっ
た旅行目的の違い、さらに空港からの出発なのか
到着なのかといった移動目的の違いなどによって
また、「観光白書」 平成 26 年版では、交通機関
による快適・円滑な移動のための環境整備として、
以下の施策を掲げている。
も重視される選択基準が異なり、結果的に選択さ
れる交通手段も異なるだろう。
例えば Tam et al.(2011)は、香港国際空港(HKIA)
への交通アクセス手段選択として、バスの定時性
・訪日外国人旅行者の移動手段の充実・利便
が改善されると、出発便の利用者が鉄道(Airport
性の向上(IC カード、利便性の向上、情報発
Express)から所要時間はかかるが運賃の安いバ
信等)
スに流れることを示しており、空港アクセスでは
・都心直結線(都心 ―首都圏空港間)の整備
に向けた検討
・バス・タクシー・レンタカーによる訪日外国
人旅行者の利便性や満足度の向上
・羽田空港における空港アクセスの改善に向
けた取り組み(深夜早朝時間帯のアクセス
改善等)
所要時間や運賃水準もさることながら、サービス
の定時性が重視される傾向にあることが分かる。
また Keumi and Murakami(2012)では、高松と
徳島から関西空港経由で出国する旅客を対象と
して、移動時間や移動費用、空港での待ち時間、
運航・運行頻度などの要因が関西空港へのアクセ
ス手段(航空と高速バス)の選択に与える影響を詳
ていくおふ . No.137
5
1
細に分析している。さらに Jou et al.(2011)は、
内の都市間移動の利便性はとても高い。運行の安
台北の桃園国際空港へのアクセス鉄道として新た
全性、駅施設や車両の清潔さなどの面でも世界的
に開業予定の高速鉄道(TIA MRT)が旅行者の空港
に評価が高い。
アクセスの選択に与える影響について分析を行い、
インバウンドへの対応としては、近年では駅名
移動時間、乗り換えの有無、荷物収納の容易さな
や案内表示の多言語表示が進むとともに、民鉄や
どがアクセス選択の重要な要因であり、運賃水準
地下鉄では駅ナンバリング(駅番号制)が導入され
はそれほど重要ではないことを示している。
るなどの改善が進められている。
その反面、首都圏や関西圏といった大都市圏に
わが国の交通サービスの特徴
は複数の交通事業者が存在しているため、インバウ
上述のように、インバウンドが交通サービスを
ンドのシームレスな移動という観点からは、事業者
選択する際には、幾つかの重要と思われる選択基
間の乗り換えが発生したり、事業者ごとに運賃が合
準が存在する。これらの選択基準は各交通機関の
算されるなどの問題点を指摘できる。最近では、
サービス品質として捉えることができるため、イン
鉄道事業者間の IC カードの共通化や相互直通運
バウンドの国内移動について考える場合、わが国
転の実施が増加し、乗り換えの煩わしさも以前
の交通サービスの長所と短所を整理しておくこと
よりは解消されているが、逆に列車の行き先や運
は有益である。
行種別が複雑になり、われわれ日本人でも戸惑う
まず、わが国の交通サービスに関して最も評価が
ことがある。また、駅構内施設のバリアフリー化
高い項目として定時性(信頼性、確実性)が挙げら
も法整備に伴い着実に進捗しているが、完全にフ
れるだろう。特に大都市圏では JR(在来線、新幹
ラットな構造になっている欧州のターミナル駅と
線)
、民鉄、地下鉄が高密度の鉄道ネットワークを
比較すれば、まだまだ不十分であると言わざるを
形成し、それらが数分刻みのダイヤで正確に運行
えない。
されていることは世界に類を見ない。また、東京駅
以上のようなわが国の交通サービスの特徴をま
を中心に高速鉄道ネットワーク(新幹線)が放射状
とめてみると、図表1のように整理することができ
に整備され、国内航空ネットワークと合わせて国
るだろう。
図表 1 わが国の交通サービスの特徴
長所
・高密度の都市交通ネットワーク
・高速鉄道ネットワーク(新幹線)の整備
・高度の運行品質(定時性、運行頻度等)
・駅施設や車両の清潔さ
・高い安全性(犯罪、事故)
・駅名や案内の多言語表示
・駅ナンバリングの実施
・IC カードの共通化 など
注:改善中のものも含む。
6
ていくおふ . No.137
短 所(注)
・交通事業者の多さに起因する利用のしづらさ
(乗り換え、運賃合算、異なる列車運行種別など)
・駅などの無料 Wi-Fi サービスの導入の遅れ
・クレジットカードの利用が限定的
・バリアフリ―化の遅れ など
国内交通のインバウンド対応と諸課題 ―インバウンド 2,000 万人時代に向けて
定時性は極めて高い水準にあり、空港アクセスの
T
運行頻度や輸送力も現状では十分であると考えら
H
インバウンド2,000 万人時代の国内移動の最重
れる。しかしながら、中長期的なインバウンド対応
E
要課題は空港アクセスの問題である。観光白書に
を考えると、①早朝深夜時間帯への対応 ②成田空
M
よれば、2013 年にわが国を訪れたインバウンド
港へのアクセス運賃の低廉化(LCC 利用者への対
A
のうち94% が航空機を利用しており、そのうちの
応)③ 2020 年の東京オリンピック・パラリンピッ
約半数が成田空港または羽田空港の利用者である
クとその後を見据えた輸送力の増強 ④空港間乗り
インバウンドの国内移動の諸課題
( 1 )空港アクセス
(図表 2)
。島国であるという地理的要因から、引き
継ぎの改善―といった課題を指摘できよう。
続きわが国を訪れるインバウンドの大半が航空機
利用であることは間違いなく、とりわけ首都圏空
① 早朝深夜時間帯への対応
港と都心とのアクセス向上が喫緊の課題となるだ
羽田空港の再国際化や成田空港への LCC 就航
ろう。さらに、空港アクセスの改善・充実は、近隣
に伴い、両空港の早朝深夜時間帯に運航される国
アジア諸国の国際空港との空港間競争という意味
際線利用者に対する空港アクセスの確保が課題と
合いからも重要である。
なっている。最近の成田空港では、LCC の早朝便
空港アクセスでは交通機関の定時性が重視され
利用者が空港内で前泊する光景が見られるように
る傾向があるが、わが国の交通、特に鉄道輸送の
なり、成田空港側も一部エリアを開放したり、カプ
セルホテルや24時間営業のコンビ
図表 2 インバウンドの入国時利用交通手段(2013 年)
ニをターミナル内にオープンさせる
などの対応をとっている。
国土交通省の需要予測によれば、
2012 ~ 22年の10年間で首都圏空
その他
5%
那覇
3%
海上輸送
6%
港の国際線需要は6 ~ 8 割増加す
ると見込まれている 1。羽田・成田
両空港の容量問題が抜本的に改善
新千歳
5%
されるまでの間は、増加する首都圏
成田 38%
中部 5%
空港のインバウンド需要の多くは
早朝深夜時間帯枠で対応するほか
福岡 6%
はなく、このような時間帯の発着便
に対応するための利用者の足の確保
羽田 11%
関西 21%
が喫緊の課題となってくる。
現状でも、京成電鉄が早朝や深夜
航空輸送
94%
に成田空港行きの有料特急を走らせ
たり、一部のバス事業者が都心からの
深夜便を走らせており、こうした交通
事業者の運行時間帯の拡大は大いに
出所:「観光白書」 平成26年版を基に作成。
1.国土交通省航空局「首都圏空港の機能強化に係る検討について」
(2013 年 11 月)
ていくおふ . No.137
7
1
歓迎すべきことである。また、タクシー移動という手
段もあるが、定額制タクシーを利用しても都心-成田
空港間は最低でも 2 万円程度はかかるため、一般
利用者には利用しづらいのが実態である。
② 成田空港へのアクセス運賃の低廉化( LCC 利用
者への対応 )
一般的に LCC 利用客は航空運賃のみならず空港
アクセス費用にも敏感であり、とりわけ都心から距離
のある成田空港へは低廉な運賃で利用可能なアク
セス交通の確保が求められる。最近の動きとして、
成田空港へ就航する LCC が増加するに伴い、LCC
利用者をターゲットとした格安な空港アクセスバ
長期的な空港アクセスの輸送力増強に関しては、
ス(通称 LCC バス)の参入が数多く見られる。都心
現在、JR 東日本や国などが以下のような羽田空港
-成田空港間を1,000円程度で結ぶ LCC バスは、
への新線構想を打ち出しており、今後の動きが注
日中時間帯だけでなく早朝深夜時間帯にも運行され、
目される。
LCC 利用者の取り込みに成功している。成田国際
空港株式会社の調査によれば、2014 年 3 月時点で
■
羽田空港アクセス線( 検討主体:JR 東日本 )
の出発旅客の自動車類利用者は2 年前より34%増
羽田空港アクセス線は、既存の東京貨物ターミ
加しており、その理由としては空港直行バスと自
ナル駅と羽田空港新駅との間を地下路線で結び、
家用車の増加を挙げているが、LCC バスの運行
東京貨物ターミナル駅から都心へは既存路線を
2
開始が大きく寄与しているものと考えられる 。
成田空港では2015年4月から LCC 専用の第3旅
活用した3 ルート(東山手ルート、西山手ルート、
臨海部ルート)の整備を構想している。これにより、
客ターミナルビルの供用が開始されるため、今後さ
新宿駅からは西山手ルートにより約 23 分、東京
らに LCC バスの需要は高まると予想される。また、
駅からは東山手ルートにより約18 分、新木場駅か
このような LCC バスに対抗して既存のバス事業者
らは臨海部ルートにより約 20 分で羽田空港へア
も新たに割引運賃を設定するなど、バス事業者間
クセス可能となる。ただし、2020 年の東京オリン
の競争が LCC 以外の航空利用者にも恩恵をもたら
ピック・パラリンピックまでの完成は困難なため、
している。鉄道事業者の早朝深夜時間帯の運行は
暫定開業の可能性が検討されている。
現実的には困難なため、こうしたバス事業者間の
競争が大いに期待される。
■
都心直結線( 検討主体:国土交通省 )
都心直結線は、東京駅の丸の内側地下に新東
③ 東京オリンピック・パラリンピックとその後を
見据えた空港アクセスの輸送力の増強
アクセス、並びに両空港間のアクセスを改善するこ
今後のさらなるインバウンド増加に対応した中
とを目指している。実現すれば、新東京駅から羽田
2.成田国際空港株式会社「平成 25 年度成田国際空港アクセス交通実態調査報告書」
8
京駅を設置し、都心から羽田・成田の両空港への
ていくおふ . No.137
国内交通のインバウンド対応と諸課題 ―インバウンド 2,000 万人時代に向けて
空港へは18分、成田空港へは36 分でアクセス可能
然として羽田空港と成田空港の空港間乗り継ぎが
T
となり、都心のビジネス環境が大幅に改善される。
発生する。
H
現行の羽田-成田間の公共交通機関による乗り
E
蒲蒲線( 検討主体:大田区 )
継ぎは、リムジンバスか、京浜急行・都営地下鉄・
M
蒲蒲線は東急多摩川線の蒲田駅と京浜急行の
京成の直通列車に限られ、いずれも100 分前後の
A
京急蒲田駅を連絡線で結び、東急東横線方面から
時間を要する。大きな荷物のある場合はリムジンバ
羽田空港への接続を図る構想路線である。完成
スが便利であるが、高速道路の渋滞などで時間を
後は、羽田空港国際線ターミナルまで自由が丘駅
読めない場合がある。反対に、直通列車は定時性と
からは22 分、新宿三丁目駅からは36 分で結ばれ
いう面では優位であるものの、通勤型車両であり
ると試算されている。
荷物置き場もなく、都心を経由するため人の乗り降
■
りが結構多く、大きな荷物があると利用しにくい。
東京モノレール延伸( 検討主体:東京モノレール )
上記の都心直結線も一つの対策であるが完成まで
東京モノレールが既存の浜松町駅から JR 東京
に時間がかかる。羽田と成田の個々の空港へのアク
駅まで延伸する計画である。実現すれば、東京駅か
セスは比較的充実しているものの、両空港間を接
ら羽田空港国際線ターミナルまで18分で結ばれ、
続するアクセスの利便性向上が求められる。
■
東京駅を起点とする鉄道ネットワークとの結節が
強化される。ただし、親会社である JR 東日本の羽
( 2 )都市間移動
次に、インバウンドの都市間移動の問題につい
田空港アクセス線との競合が指摘されている。
て考えてみたい。ここでいう都市間移動とは、到着
空港から他の都市へ直接移動する場合や、東京か
④ 空港間乗り継ぎの改善
2010年の羽田再国際化以来、多くの路線で羽田空
ら地方都市へ行くような移動のことである。
港での内際乗り継ぎが可能となっているが、米国
国内の都市間移動では航空会社や JR を利用す
本土路線や LCC を利用する場合には、現状では依
るインバウンドが大半だと思われるが、図表 3には
図表 3 航空各社のインバウンド向け航空券(国内線用)
運賃名称
Star Alliance Japan Airpass
利用条件等
1 区間 10,800 円、1 ~ 5 区間用
※日本への往復にスターアライアンス加盟航空会社の利用が前提
ANA
Visit JAPAN Fare
oneworld Yokoso/Visit Japan Fare
1 区間 14,040 円、2 ~ 5 区間用
1 区間 10,800 円、1 ~ 5 区間用
※日本への往復にワンワールド加盟航空会社の利用が前提
JAL
Welcome to Japan Fare
1 区間 14,040 円、2 ~ 5 区間用
出所:航空各社のホームページより作成。
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9
1
図表 4 JR 各社のインバウンド向け商品
商品名
JR6 社
JAPAN RAIL PASS
JR 北海道
HOKKAIDO RAIL PASS
備考
JR EAST PASS
JR Kanto Area Pass
JR 東日本
JR 東海
Mt. Fuji Round Trip Ticket
バスをセットにした往復切符
Suica & N'EX
空港アクセス+ IC カード
Suica & Monorail
空港アクセス+ IC カード
N'EX TOKYO Direct Ticket (One-way)
成田エクスプレス(上り)専用
The Shinkansen Tour
往復の新幹線+ホテル
Kansai Area Pass
Sanyo Area Pass
JR 西日本
Kansai WIDE Area Pass
JR Sanyo-Shikoku-Kyusyu RAIL PASS
JR 四国
JR 九州
ICOCA & はるか
空港アクセス+ IC カード
ALL SHIKOKU Rail Pass
四国内の他の鉄道事業者との共通パス
JR KYUSHU RAIL PASS
FUKUOKA TOURIST CITY PASS
福岡市内の他の交通事業者との共通パス
出所:JR ガゼット(2014)および JR 各社のホームページを基に作成。
航空会社の、図表 4には JR 各社のインバウンド向
市に高速鉄道で移動することができる。さらに、
け商品をそれぞれまとめている。日本人にはあま
航空会社と高速鉄道がコードシェアを実施してい
りなじみのない商品であるが、最近販売が開始さ
るケースもあり、その場合、利用者は航空券と同時
れた商品も多く、わが国の交通事業者が積極的に
に航空便名の付いた高速鉄道のチケットを購入す
インバウンド需要を取り込もうとしていることがう
ることができる。このような航空会社と高速鉄道
かがえる。
の提携は、今後のインバウンドの国内移動を考え
一方で、移動そのものの手間を考えると、到着
る上で参考事例となるだろう。
客が空港から直接地方都市へ向かう場合、羽田空
港では国内線への乗り継ぎが可能であるが、成田
( 3 )都市内移動
空港では行き先によっては羽田空港に移動しなけ
インバウンドの都市内移動に関しては、図表 1
ればならない。その場合の空港間アクセスにはか
に示したように、首都圏や関西圏では数多くの鉄
なりの所要時間を見込まなければならない。
道事業者やバス事業者が存在するため、かえって
また、新幹線で国内各地に移動する場合も空港
利用者には分かりづらくなっていることが多い。
からいったん東京駅や品川駅に出る必要がある。
運賃も各事業者が独自に設定しているため、乗り
しかしながら、フランス・パリのシャルル・ド・
換えのたびに切符を購入する手間や運賃が合算さ
ゴール国際空港やドイツのフランクフルト国際空
れるといった問題も発生する。このように、東京や
港では空港地下の鉄道駅に高速鉄道が乗り入れて
大阪の大都市圏の交通ネットワークは定時性や安
おり、空港からそのまま国内や近隣諸国の主要都
全性といった面では高い評価を得ているにもかか
10
ていくおふ . No.137
国内交通のインバウンド対応と諸課題 ―インバウンド 2,000 万人時代に向けて
わらず、インバウンドにとってユーザーフレンド
や人口減少の影響で縮小に向かう。インバウンド
T
リーであるとはいえない面もある。
の取り込みは、そうした国内市場の縮小を食い止
H
める有効な手段である。また地方にとっても、観光
E
JR 系と民鉄系の IC カードの相互利用や地域間での
振興を通してインバウンド誘致に取り組めば、地方
M
IC カードの相互利用が可能になっており、乗車のた
路線の維持や地方交通の活性化につなげることが
A
びに切符を購入するという手間は大幅に軽減され
可能となろう。
このうち運賃精算や乗り換えの問題については、
ている。図表4にあるように、JR では空港アクセス
わが国の交通機関は極めて高いサービス品質
と IC カードがセットになった商品も販売している。
を維持しており、世界にも類を見ないほどの高密
しかしながら、IC カードを利用すると運賃の割引が
度で正確な交通ネットワークが整備されている。
きかないという問題もあり、英国のオイスターカー
このような素晴らしい資産を有効活用するために、
ドのように1日の上限金額を超えると課金されない
2020 年の東京オリンピック・パラリンピックを
ようにするなど、IC カードの利便性については
一つの契機として、官民一体となってインバウンド
さらなる改善が必要である。
の受け入れ態勢を強化していかなければならない。
今後の課題
参考文献
本稿では、インバウンド2,000 万人時代を見据
えて、インバウンドの国内交通の問題点を整理
した。最後に全体的な視点から課題を二つ指摘
しておきたい。
第一に、交通事業者間の連携の重要性である。
国内交通のインバウンド施策は、これまで個々の
事業者で対応してきた感が強い。鉄道事業者を例
にとれば、JR や地下鉄各社がフリー切符を販売し
ているが、事業者が限定されるので使い勝手が悪
い面がある。その点、欧米の主要都市では各交通
機関が同一組織で運営されていたり運賃制度が統
・Jou, R.C., D. A., Hensherb and T.L., Hsu (2011)“Airport ground access
mode choice behavior after the introduction of a new mode: A case
study of Taoyuan International Airport in Taiwan”, Transportation
Research Part E, vol.47, pp. 371-381.
・Keumi , C., and H., Murakami (2012) “The role of schedule delays
on passengers’ choice of access modes: A case study of Japan’s
international hub airports”, Transportation Research Part E, vol.48,
pp.1023-1031.
・Tam, M.L., W. H. K., Lam, and H. P., Lo (2011)“The Impact of Travel Time
Reliability and Perceived Service Quality on Airport Ground Access
Mode Choice”, Journal of Choice Modelling, vol.4(2), pp.49-69
• 観光庁『観光白書(平成 26 年版)
』
• 国土交通省航空局(2013)
「首都圏空港の機能強化に係る検討につ
いて」
• 成田国際空港株式会社(2014)
「平成 25 年度成田国際空港アクセス交
通実態調査報告書」
•「特集 インバウンド-訪日外国人旅行者数の拡大に向けて-」
『JR
ガゼット』vol.323、2014 年 2 月号、pp.3 - 26、交通新聞社
一されているため、1枚のフリー切符で複数の交通
事業者を自由に利用できる。また、航空会社と鉄道
会社間といった異なる事業者間の連携も模索すべ
きである。事業者の枠にとらわれずに、個別利益よ
りも全体利益を考えることで、インバウンドにも利
Profile
小島 克巳(こじま・かつみ)
1965 年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。航空会社勤務の後、
用しやすい交通サービスが提供できるはずである。
慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程修了。2008 年
第 二に、交 通 のイン バウンド対 応の問 題は、
より神戸夙川学院大学准教授、2012年より同教授を経て、2013年
国内交通市場の活性化という視点で考えるべきで
より文教大学国際学部教授(現職)
。専門は交通経済学、公益事
業論。
ある。今後、各交通機関の国内市場は少子高齢化
ていくおふ . No.137
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T H E M A
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LCC の本質と国内 LCC の将来
要旨
・LCC= 格安航空会社の呼称は本質を誤解させる。
・ハイブリッド化で LCC と FSC の境界が曖昧に。
・日本ではアジア国際線に LCC 成長のポテンシャル。
東京工業大学 大学院
理工学研究科 准教授
花岡 伸也
はじめに
キーワード
LCC、ハイブリッド化、LCC 参入のインパクト
航空輸送サービスを提供する航空会社」と書く
日 本 に 本 格 的 な ロ ーコストキ ャリア(LCC =
ことができる 1。日本では「格安航空会社」という
Low-Cost Carriers)が登場したのは2012 年。LCC
運賃に注目した呼称が定着しているが、これはあ
元年と呼ばれた当時、国内 LCC の今後の展望につ
くまで一つの要素にすぎない。文字通り、低い
いて執筆する機会を本誌で得た(花岡、2012a)
。
費用(ローコスト)で航空輸送サービスを展開して
3 年後、再び執筆の機会を頂いた。この間、国内航
いるのが LCC である。低運賃は LCC の魅力の一つ
空市場に対し、LCC はどのようなインパクトを与え
だが、本家のサウスウエスト航空のように、既に低
ただろうか。本稿では、LCC の本質について改めて
運賃ではない LCC も存在する。LCC の本質を誤解
振り返り、国内 LCC 参入のインパクトや LCC 利用
しないためにも、
「格安航空会社」という呼称は
者の特徴をまとめ、今後の国内 LCC の将来について
論じる。
改めて LCC の本質とは何か
サウスウエスト航空(米国)の登場以来、世界各地
で多くの LCC が活躍している。サウスウエスト航空の
始めた “ サウスウエストモデル ”(Doganis, 2001)は、
LCC の伝統的モデルである。しかし、LCC の運航
システムやサービスは多様化・ハイブリッド化して
おり、さまざまなタイプの LCC が存在する。そこで、
LCC とはそもそもどのような航空会社なのか、その
本質について改めて振り返ってみたい。
LCC を簡潔に定義すると、
「効率化の向上によっ
て低い運航費用を実現し、低運賃で簡素化された
1.この定義は Wikipedia の「格安航空会社」に書いてある文とほぼ同じであるが、実は Wikipedia にこの文を書いたのは筆者である(2006 年頃)
。
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ていくおふ . No.137
LCC の本質と国内 LCC の将来
止めるべきだろう。
ムを採用している。LCC によって、チェックインカ
ウンター利用手数料などさまざまな付帯サービス
徴を、国内外の文献および筆者の見解に基づきま
課金があり、LCC の収入要素として大きな位置付
とめたものである 2。❶の低運賃は、自社を LCC と
けになりつつある(橋本、2012)
。No-frills Carriers
位置付けてビジネスを始める航空会社にとって、
に対するレガシーキャリアの呼称は、フルサービ
広く旅客に受け入れられ、競合他社に対して一定
スキャリア(FSC)である。FSC ではこうしたサービ
の優位性を得るまでは必要不可欠な特徴である。
スが航空運賃に含まれており、どの旅客も無料で
T
❷は低運賃運航をしながら利益を確保するために
サービスを受けられるのが一般的である。しかし、
H
必要な特徴である。もちろん、レガシーキャリアと
米国の一部のレガシーキャリアは機内サービスに
E
呼ばれる従来型の航空会社にも高い座席利用率は
課金しており、米国の国内線では両者の境界が曖
望ましいものの、一般的なレガシーキャリアの目
昧になりつつある。
以下、❹から⓫までが、低費用運航のために LCC
キロ当たり収入)である。運賃を抑えている LCC に
が実施している特徴である。それぞれ、主に削減され
とって、高い座席利用率なしに生き残るのは難しい。
る費用項目を括弧内に簡潔に記述した。❶から
LCC は No-frills Carriers とも呼ばれており、
❸も含め、これらの全部または一部を実施している
これが❸に該当する。つまり、無料のサービスを
航空会社が LCC と呼ばれている。このうち、❹の
徹底的に簡素化し、機内食や機内エンターテイン
ポイント・トゥ・ポイント・ネットワークを多く
メントの有料化や、一定重量以上の受託手荷物へ
の LCC が踏襲しており、これに対するレガシー
の課金などを付帯サービスとして課金するシステ
キャリアの呼称が、ハブ・アンド・スポーク・シス
図表 1 LCC の運航システム・サービスの特徴
❶ 低運賃
❷ 高い座席利用率
❸ 有料機内食、有料機内エンターテインメント、特定座席指定課金、受託手荷物重量別課金などの付帯サービス有料化
❹2地点間のポイント・トゥ・ポイント・ネットワーク(乗り継ぎサービスなし等による費用削減)
❺ 短い折り返し時間による高い機材稼働率(座席キロ当たり費用の削減)
❻ 非混雑空港・セカンダリー空港の活用(機材稼働率向上や空港使用料減免による費用削減)
❼ 座席クラスの一本化(エコノミークラスのみのサービス簡素化による費用削減)
❽ 多くの利用者が座ることのできる高密度な座席配置(座席当たり費用の削減)
❾ 機種統一(整備費用やパイロット・整備士の訓練費用等の削減、機材一括購入による割引)
❿ 航空券のインターネット予約・販売の推進(人件費、広告費、各種手数料の削減)
⓫ 職員の複数業務兼務(人件費削減)
2. LCC のビジネスモデルの特徴については、和書では杉山・松前(2012)が分かりやすくまとめている。
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A
標は、高い座席利用率ではなく高いイールド(旅客
M
図表1は、LCC の運航システム・サービスの特
2
テムを基本とするネットワークキャリア(NWC)
レガシーキャリアの違いは残っている。それが
である。LCC の登場により、従来型の航空会社に
❺の高い機材稼働率である。LCC が低費用で運航
複数の呼称が出てきたことは興味深い。
するためには、特に高い機材稼働率の維持が不可
図表1のどの特徴を重視するかによって、各 LCC
欠であり、それが LCC の生命線になると筆者は考
のビジネスモデルや戦略が異なる。それが世界
えている。機材稼働率を高く保つには、❹のポイ
の LCC の多様化につながっている。また、機内食
ント・トゥ・ポイント・ネットワークが望ましい。
などの付帯サービスを無料とする LCC もあるこ
また、❻の非混雑空港・セカンダリー空港の拠点
とから、LCC と FSC の中間に位置付けられるハイ
化が LCC の大きな特徴と指摘されることもある 3。
ブリッド化も進んでいる。そのため、自称であれ
これはニッチ路線の発掘と独占、空港使用料の
他称であれ、どの航空会社が LCC なのかは論者に
減免という利点だけでなく、希望する発着枠を容
よって異なる。さらに、同じ航空会社であっても、
易に得られることも理由である。それにより、高い
サービスを LCC から FSC に変えることもあれば、
機材稼働率が可能となるからである。
その逆もある。LCC が成熟した市場では、ハイブ
世界の主要な航空市場において、LCC のマー
リッド化により両者の差別化が難しくなっている
ケットシェアはどの程度あるだろうか。 図表 2 か
のである。
ら図表 5 は、それぞれ北米、欧州、東南アジア、
しかし、そうした現状を踏まえてもなお、LCC と
図表 2 北米における距離帯別 LCC 提供座席数シェア
(%)
3,000km 未満
北東アジアの各航空市場を発着する航空会社を
図表 3 欧州における距離帯別 LCC 提供座席数シェア
(%)
3,000∼6,000km
3,000∼6,000km
60
60
6,000km 以上
6,000km 以上
50
3,000km 未満
平均
50
平均
43.6
40
40
30.3
30
27.5
20
18.1
30
20
10
10
39.6
18.6
5.5
2.4
0
0
98 98 000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 年
2
98 98 000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 年
2
3.Abda ら (2 012) は、19 9 0 年から 2 0 0 8 年までの米国の国内市場において、LCC が拠点とした空港の多くは大規模空港であることを明らかにしている。実際、
セカンダリー空港の拠点化を徹底している LCC は世界でもライアンエアのみである。
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LCC の本質と国内 LCC の将来
対象に、提供座席数実績に基づく LCC シェアの
油費の割合が相対的に高くなり、航空会社が自ら
推移を示したものである。 ここでの LCC は、OAG
費用削減可能な要素が限られてしまう。3,000 ~
(Official Airline Guide)のリストに従ったもので
6,000km の中距離でも LCC のシェアは一定数あ
ある 4。
るものの、長距離で LCC のシェアが低いのは以上
四つの航空市場を通して明らかなのは、短距
の理由からである。
離の 3,000km 未満で LCC のシェアが高いことで
本格的 LCC が登場した2012 年、
「運輸と経済」
が組まれ、筆者を含め7 人の専門家による記事が
短距離までである。 高密度な座席配置は快適性
掲載された。この特集からいくつか重要な示唆が
が損なわれるため、長時間フライトには適さず
得られることから、その断片を紹介しよう。
旅客にも好まれない。 長距離では最大航続距離の
村 上(2012)は、米 国 の 航 空 市 場 を 対 象 に、
関係から必然的に大型機種での運航になり、機内
「LCC でもある程度の市場支配力を持つと高い運
清掃や給油のために短い折り返し時間の実現も
賃を設定する」ことを統計分析により明らかにし
難しくなる。 さらに、運航距離が長くなるほど燃
ている。特に、サウスウエスト航空の平均運賃が
図表 4 東南アジアにおける距離帯別 LCC 提供座席数シェア
図表 5 北東アジアにおける距離帯別 LCC 提供座席数シェア
3,000km 未満
(%)
(%)
3,000∼6,000km
3,000∼6,000km
60
6,000km 以上
平均
50
3,000km 未満
56.9
50.9
60
6,000km 以上
50
40
40
30
30
20
平均
20
15.1
10
8.2
0
12.9
10
0
98 98 000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 年
2
図表 2 〜 5
8.2
8.0
0.4
98 98 000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 年
2
注:図表 5 の北東アジアの日本には、ピーチ・アビエーション、ジェットスター・ジャパン、エアアジア・ジャパン(バニラエア)のみが含まれる。
スカイマーク、エアドゥ、スカイネットアジア航空、スターフライヤーは、OAG の LCC リストには含まれるが、図表 5 からは除いている。
出所:UBM Aviation「OAG MAX 時刻表データベース」
(1998.10 〜 2013.10)の各年 10 月第1週のデータをもとに三菱総合研究所作成。
4.実は、
OAG のリストにおいて、欧州 LCC 協会を 2012 年に脱退したエア・ベルリンは、同年から LCC に含まれていない。しかし、本稿では経緯を示すことを重視し、
エア・ベルリンを含めた座席数シェアを示している。エア・ベルリンを除いた場合、図表 3 において、平均の 2012 年は 31.2%、2013 年は 36.2 % となる。
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A
付帯サービスを利用しなくても我慢できるのは
M
12 月号で「LCC で変わる日本の空」と題した特集
E
優位性を発揮できるからである。 機内食などの
H
テムやサービスの多くが、4 時間以内の短距離で
海外事情から得られる示唆
T
ある。 これは、図表1で示した LCC の運航シス
2
バニラエア
レガシーキャリアに近いことを示
している。同様のことは、運輸政策
研究機構国際問題研究所が毎年発
行している報告書「アメリカ航空産
業の現状と今後の展望」において、
サウスウエスト航空のイールドが、
2008 年以降は常にレガシーキャリ
アを上回っていることからも示唆
される。一方、拙著(花岡、2012b)
で は、東 南 ア ジ ア の LCC と レ ガ
シーキャリアの運賃を、両者が激
しく競争している主要路線を対象に一定期間イン
している。エア・ベルリンのように、LCC から FSC
ターネットで調査し、LCC の最低運賃がレガシー
へ変貌した航空会社もある。このように、市場の
キャリアよりも低いことを示した。これは、LCC
成熟により、航空会社が生き残りのために LCC
市場が成熟した米国とは異なり、東南アジアでは
ビジネスから「卒業」することもある。他方、東南
LCC 市場が拡大している最中であることを端的に
アジアでは、フィリピンのセブ・パシフィックは
表している。
1996 年から、インドネシアのライオン・エアは
橋本(2012)は、2004 年に設立された欧州 LCC
2000 年から運航を開始しており、当初は自らを
協 会(ELFAA = European Low Fares Airline
LCC と位置付けてはいなかった 5。 しかし、2002
Association)に加盟している LCC の構成が、買収、
年にエアアジアが登場し、東南アジアで LCC が認
消滅、脱会により大きく変わっていることを指摘
知されて以来、両社とも2000 年代中盤から LCC
らしい運航システム・サービスを始め、国内外で
LCC と位置付けられるようになっている。
図表6 日本の航空会社のイールドの推移
単位:円/旅客キロ
竹林(2012)は、日本の航空市場の特殊性として
2011
2012
2013
新幹線の存在を挙げている。航空と高速鉄道の競
ANA
18.4
18.0
17.5
争は、欧州大陸をはじめとして、中国、台湾、韓国
JAL
17.9
17.5
17.1
スカイマーク
12.7
12.1
12.2
ピーチ・アビエーション
—
7.5
8.6
ジェットスター・ジャパン
—
5.8
6.7
エアアジア・ジャパン
—
7.4
6.1
など世界各地で見られる。しかし、日本の新幹線の
ように高頻度で大量輸送している事例は決して多
くなく、それが日本の LCC の成長にも影響を与え
ると考察している。
LCC のネットワークと拠点空港
2012 年にピーチ・アビエーション、ジェットス
出所:長谷ら(2014)
5.2009 年、ASEAN 航空自由化を担当するフィリピン航空当局者と、セブ・パシフィックの位置付けについて直接議論する機会があった。フィリピン当局はセブ・パ
シフィックを国内初の民間航空会社としており、LCC とは位置付けていないとのことだった(現在の認識は変わっているかもしれない)
。日本におけるスカイマー
ク等と同じように、国内と海外の位置付けが異なる例である。
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ていくおふ . No.137
LCC の本質と国内 LCC の将来
ター・ジャパン、エアアジア・ジャパン(現バニラ
的 LCC と呼んで差し支えないだろう。 なお、ピー
エア)の LCC3 社が登場した。 国際的には、1990 年
チ・アビエーションとジェットスター・ジャパンは、
代後半から2000 年代初頭にかけて登場したスカ
就航 2 年目の2013 年のイールドが上がっている。
イマーク、エアドゥ、スカイネットアジア航空、
1年目はまず低運賃でアピールし、2 年目には運賃
スターフライヤーの4社も LCC と認識されている。
を上げていることが見て取れる。対照的に、2013
しかし、図表6に示すように、2012 年に登場した
年10 月に運航中止したエアアジア・ジャパンは、
3 社のイールドは明らかに他社よりも低い。 イー
不振だった2年目を象徴するようにイールドが大
T
ルドによって LCC と位置付けるべきではないもの
きく下がっている。
H
スを幾つか踏襲していることから、この3社を本格
航 空日本 を 加えた LCC4社 のネットワークを、
2
図表 7 国内 LCC4 社のネットワーク(2014 年 12 月現在)
ピーチ・アビエーション
ロシア
バニラエア( 旧エアアジア・ジャパン)
新千歳
ジェットスター・ジャパン
春秋航空日本
北朝鮮
仙台
仁川
韓国
成田
釜山
中部
広島
福岡
中国
長崎
大分
高松
松山
日本
関西
佐賀
熊本
熊本
鹿児島
奄美
桃園
那覇
台湾
香港
A
この3 社 に、2014 年 8 月に 就 航 開 始した 春 秋
M
の 、図表1で示した LCC の運航システム・サービ
E
6
石垣
高雄
注:ピーチ・アビエーション、バニラエア、ジェットスター・ジャパン、春秋航空日本の国内 LCC4 社のネットワーク図を、2014 年 12 月時点(計画中は除き実際に
運航している路線)で作成。
6.本来は「座席キロ当たり費用」を用いて LCC が低費用なことを示すべきであるが、日本の航空会社は同データを公開していないことからイールドを用いた。
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空港より西に位置していることから4時間フライ
ト圏内が異なり、より多くのアジア圏域をカバーで
きるのも有利である。
成田空港は首都圏の旺盛な航空需要を期待で
きる。しかし、成田空港の混雑時間帯の発着枠は取
りにくく、また深夜早朝に運航禁止時間帯がある。
さらに、成田のような混雑空港では、ゲートから離
れ自走を開始した後、滑走路上で離陸までに待機
しなくてはならないことも多い。以上より、高い機
材稼働率の実現が難しい成田空港において、LCC の
「大成長」は難しいと考えられる。2015 年 4 月に開
業する LCC ターミナルが運航費用削減に貢献す
るのは間違いないが、それだけでは不十分だろう。
ただし、皮肉にも、羽田空港の昼間時間帯発着枠の
図表7に示す。 ピーチ・アビエーションは関西空
国際線開放により国際線の羽田シフトが起こり、
港を拠点とし、残り3 社は成田空港を拠点とし
それによって成田では空いている発着枠が少しず
ている。 た だ し、図 表 7か ら 明 ら か な ように、
つ増えているようである。これが成田空港を拠点
ジェットスター・ジャパンは関西空港と中部空港
とする LCC にとっての追い風になるかもしれない。
の拠点化も進めている。また、ピーチ・アビエー
ションとバニラエアは、国際線にも複数路線を展
国内 LCC 参入のインパクト
開している。 春秋航空日本は、中国の春秋航空の
LCC は国内航空市場にどのようなインパクトを
運航による上海との接続を意識した路線展開を
与えたのだろうか。国土交通政策研究所(長谷ら、
行っている。
2014)は、LCC 参入後の航空市場の変化について
図表7から、国内線も国際線も、需要の大きな路
多角的な調査・分析を行っている。その結果より、
線に参入してネットワークを拡張していることが
需要に関するインパクトは次のようにまとめら
分かる。北米、欧州、東南アジアで既に広域なネッ
れる。
トワークを有す大手 LCC は、それまで航空需要の
①1年以上LCC就航実績のある9路線7の年間旅客
なかったニッチ路線にも積極的に展開している。
数は、2011年比で、2012年は1.71 倍、2013年
しかし、日本の LCC はまだ萌芽期であり、そのよ
は2.42倍と増加している。
うな路線参入はほとんど見られない。
②9路線の競合路線(首都圏では成田路線に対す
関西空港は24時間空港であり、事実上は混雑
る羽田路線、関西圏では関空路線に対する伊丹
空港でもないことから、高い機材稼働率が重要な
路線)では、2011年比で、2012年は0.95 倍、
LCC にとって利点のある空港である。また、成田
2013年は0.87倍と減少しており、LCCの参入し
7.9 路線の内訳は、成田-新千歳・福岡・那覇・関西、関西-新千歳・福岡・那覇・鹿児島・長崎。
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LCC の本質と国内 LCC の将来
た成田路線や関空路線へ需要が移転している。
LCC 利用者の特徴
筆者はこれまで、2005 年にバンコクのドンムア
して路線別旅客数の推移を見たところ、LCC参
ン空港(花岡、2007)
、2013 年にハノイのノイバイ
入路線で旅客数が増加している。ただし、ほと
空港、そして2014 年にジャカルタのスカルノハッ
んどの路線でレガシーキャリアからLCCへの
タ空港において、LCC 利用者の実態調査を現地で
転換需要がある。この傾向は、東京-札幌線・
独自に行ってきた。各調査の目的は異なるが、いず
福岡線や大阪-札幌線・那覇線で顕著である。
れも LCC 利用者の属性、利用目的、選択理由を尋
T
しかし、新規誘発需要のある路線も多数ある8。
ねており、レガシーキャリアとは異なることが明ら
H
④大阪-福岡線は、2012年は18%増、2013年は
かになっている。 そこで、ハノイでの調査結果を中
E
42%増と大きく増加している。もともと新幹線
心に、バンコクやジャカルタと比較しながら LCC
の分担率が高い区間のため、新幹線からの転換
利用者の特徴を紹介する。
ベトナムでは、レガシーキャリアであるベトナム
⑤2011年3月に九州新 幹 線が全 線開通した。
航空、2008 年に改名して LCC として再出発した
よって、京阪神-鹿児島区間では2011年に新
ジェットスター・パシフィック、2012年末に運航を
幹線利用者が急増したものの、2012年には減
開始した LCC のベトジェットエアの3 社が国内線
少した。一方、航空利用者は2011年に減少後、
を運航している。 ベトナム航空の利用者は高所得
2012年にはLCCが参入し、2010年以上に増加
層中心で平均年齢が相対的に高く、利用目的は業
した。両者の合計も2010年と比べて2011年、
務が 70% で、友人訪問・帰省が 21%、観光はわ
2012年と増加しており、九州新幹線とLCCが競
ずか 8% である。その一方、LCC2 社の利用者は
い合って新規需要を誘発している。
中間所得層中心で20代の利用者が多く、利用目的
は業務が 50% と多いが友人訪問・帰省も 34% と
以上を要約すると、LCC 就航により新規需要
多く、観光は15%であった。 また、ベトナム航空
を誘発していることは間違いないながらも、レガ
の選択理由は、安全性 9、遅延の少なさ、座席の快
シーキャリアと新幹線からの転換需要も多いこと
適性が上位となった一方、LCC の選択理由は低運
が分かる。特に、首都圏では羽田空港のレガシー
賃が圧倒的に多い。 他都市の調査と比較すると、
キャリアから成田空港の LCC へ、関西圏も同様に
レガシーキャリアと LCC で所得層が異なること、
伊丹空港のレガシーキャリアから関西空港の LCC
LCC 利用者は若年齢層中心であること、レガシー
への転換需要がある。航空会社間の競争が、空港
キャリアと LCC の選択理由がほぼ共通しているこ
間競争にも波及しているのである。ただし、上記
となど、多くの点で一致している。
のいずれのインパクトもまだ初期効果段階であり、
都市によって異なるのは利用目的である。バンコ
確定的な傾向とは断定できない。LCC がどれだけ
クおよびジャカルタと比較してみると、レガシー
の新規需要を誘発するのか、少なくともあと3 年前
キャリアと LCC の業務目的が、それぞれバンコク
後経過してから判断する必要があるだろう。
35% と20%、ジャカルタ37% と35%、友人訪問・
8.石倉ら(2014)は、関西-新千歳線を対象に時系列分析に基づくモデル分析を行い、新規誘発需要と他航空会社からの転換需要の割合を定量的に推定した。
9.レガシーキャリアの選択理由で安全性は常に上位に挙げられるが、LCC が安全ではないという統計はない。イメージとしてこの理由が選択されていると考えられる。
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A
需要が多いと推察される。
M
③首都圏2空港と関西圏3空港を1発着地と見な
2
帰 省 が バンコク40% と53%、ジャカルタ50% と
52%、観光がバンコク24% と26%、ジャカルタでは
11% と9% となった。ジャカルタでは、レガシーキャ
リアであるガルーダ航空と LCC であるライオン・
エアの利用目的に大きな差は無い。しかし、業務が
多く観光が少ない点はハノイと似ている。友人訪
問・帰省は、バンコクとジャカルタで LCC は共
に50% を超えており、ハノイの結果と合わせても
LCC の中心的な利用目的であることが分かる。バン
コクは業務のシェアが相対的に小さい分、観光の
シェアが多くなっている。これは、観光を楽しむ余
裕のある富裕層がバンコクで増えていることと無
縁ではないだろう。既に調査から10 年が経過して
おり、観光目的のシェアがさらに大きくなっている
可能性もある。
これらの結果から、東南アジアの新興国において、
ただし、レガシーキャリアも観光 58%、友人訪問・
帰省16%、業務 20% と似たようなシェアになって
レガシーキャリアはこれまでの運航実績による
おり、この業務目的シェアは実態を反映していな
信頼と安心感から、業務や友人訪問・帰省を目的
い可能性が高いことから、ウェブ調査の限界点と
に利用されていることが分かる。 他方、LCC は低
して注意する必要がある。
運賃という魅力により、友人訪問・帰省を主たる目
以上の結果から得られる示唆は、業務目的の国
的として中間所得層や若年齢層に利用されている。
内線利用者に対しても、LCC はマーケティングを検
日本の LCC 旅客の特徴はどうだろうか。ここでも、
討するべき、というものである。実際、北米や欧州
国土交通政策研究所(長谷ら、2014)の調査結果
でも業務目的で LCC は利用されている。国内の大
を参照し、東南アジアと比較してみよう。国土交
手レガシーキャリアの牙城を崩すのは容易ではない
通政策研究所の調査は、LCC 利用経験者に対して
ものの、定時性を維持して信頼性を高めることに
ウェブ調査を実施したものである。LCC 利用者は
より、業務の利用者が増えていく可能性は十分に
相対的に低所得層のシェアが高く、若年齢層中
あるだろう。
心であり、低運賃の選択理由が圧倒的に高い点は、
東南アジアでの筆者による調査結果と同様である。
日本の LCC の将来
レガシーキャリアの選択理由の上位に安全性が
LCC が成長した短距離市場では、その割合の多
来る点も同じである。ここでも異なるのは利用目
寡はあるものの、LCC とレガシーキャリアがシェ
的であり、LCC は観光64%、友人訪問・帰省17%、
アを分け合っている。LCC が市場に浸透しても、
業務14% と業務目的のシェアが小さいことである。
レガシーキャリアのフルサービスを好む利用者が
20
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LCC の本質と国内 LCC の将来
いるからである。先行している北米や欧州の事例
ある。低費用という鉄則を守りつつ、将来の市場動
を見ても、航空市場が LCC に独占されるようなこ
向を的確に予測していくことが生き残りの条件と
とは今後も起きないだろう。しかし、LCC が成長
なる。
するにつれて両者のハイブリッド化が進み、市場
が成熟すればするほど、差別化は難しくなること
だろう。
• 竹林幹雄:低費用航空会社(Low Cost Carrier) の国内市場参入による
M
影響と今後,運輸と経済,Vol.72, No.12,59-68,2012.
路により既に充実した都市間交通ネットワークが張
• 橋本安男:欧州 LCC の現況について,運輸と経済,Vol.72, No.12,
り巡らされている日本においては、国内線における
• 長谷知治,小澤康彦,松永康司,渡辺伸之介,井上諒子,内田忠宏:
LCC のシェアは緩やかな増加となるだろう。 鍵に
39-50,2012.
LCC の参入効果分析に関する調査研究,国土交通政策研究,第 118 号,
2014.
なるのは、アジア各国の利用者が日本に訪れるアジア
• 花岡伸也:タイにおけるローコストキャリア参入の影響と利用者属性,
インバウンド需要である。中間所得層が増え続けて
• 花岡伸也:到来した LCC の波とわが国の行方,ていくおふ,ANA 総
いるアジア諸国では、海外旅行需要も同時に増加して
いる。短期滞在ビザの免除により、タイからの訪日者
数が急増しているのはその一例であろう。航空会社
間 の競争も一段と激しくなることから、これらア
ジア諸国の利用者に認知されることが個々の本邦
LCC にとって重要になる。
航空需要は、経済成長に伴う個人所得増に比例
運輸政策研究,Vol.10, No.1, 38-46, 2007.
合研究所,No.131,pp.2-9, 2012a.
• 花岡伸也:アジアの LCC の運賃分析,運輸と経済,Vol.72, No.12,
22-28,2012b.
• 村上英樹:LCC 参入後の航空市場形態,運輸と経済,Vol.72, No.12,
15-21,2012.
・Abda, M., Belobaba, P., and Swelbar, W.: Impacts of LCC growth
on domestic traffic and fares at largest US airports, Journal of Air
Transport Management, Vol.18, No.1, 21-25, 2012.
・Doganis, R: The airline business in the 21st Century, Routledge, 2001
(R. ドガニス:21世紀の航空ビジネス,中央経済社,2003)
.
して増加する。アジア諸国の多くは経済成長過程
にあり、経済危機やテロなどが発生しても、航空需
要は一時停滞後に再び伸びることは間違いない。
特に東南アジアでは、ASEAN 単一航空市場の実現
とそれに対応した LCC の成長により、需要増加傾
向が衰えることはしばらくないだろう。 日本では、
東南アジアとは異なり大きな経済成長は見込め
ないが、アジアの国際線市場には LCC 成長のポテ
ンシャルがある。激しい競争の中で生き残るため
には、各 LCC が変化する市場に対応して自社の運
Profile
花岡 伸也(はなおか・しんや)
1970 年生まれ。94 年東北大学工学部土木工学科卒業。99 年
東北大学大学院情報科学研究科博士課程修了。同年財団法
人運輸政策研究機構運輸政策研究所研究員。03 年タイ王国
アジア工科大学院講師、04 年同大学院工学技術研究科助教
授などを経て、2007 年より東京工業大学大学院理工学研究
科准教授(現職)。専門は交通政策。近著に「新しい空港経営
の可能性 ー LCC の求める空港とは」
( 関西学院大学出版会、
2012 年)など。
航システムやサービスを柔軟に変えていく必要が
ていくおふ . No.137
21
A
測されている。航空だけでなく、新幹線や高速道
文集 D3(土木計画学)
,Vol.70, No.5, 701-707, 2014.
• 杉山純子,松前真二:LCC が拓く航空市場,成山堂書店,2012.
E
ニアの開業により、長期的には確実に縮小すると予
需要誘発および航空会社間競合への影響に関する分析,土木学会論
H
うか。 国内航空市場は、人口減少と新幹線延伸やリ
• 石倉智樹,山本浩平,小根山裕之:国内線格安航空会社参入による
T
今後の日本における LCC の将来はどうなるだろ
参考文献
2
T H E M A
3
通訳ガイドサービスから見た
訪日観光ビジネスの特徴と課題
要旨
・訪日観光は多層的なニッチマーケットの集積。
・リピーターの醸成に向けた戦略的取り組みが必要。
・
「量」に加え、
「質」の向上への対応が求められている。
エクスプローラーズジャパン株式会社
代表取締役
赤堀 浩一郎
キーワード
通訳案内士、ニーズの多様化、リピーターの醸成、質の向上
は幅広い知識を持っていないと務まらないが、と
通訳ガイドとは
私は、訪日客向けの通訳案内士付きプライベー
はいえ、全ての質問に答えることはできない。そこ
トツアーサービス事業を行っている。通訳案内士
で当社では通訳ガイドからメールや電話で質問を
とは、観光客に対して外国語を使って観光案内を行
受けて、その場で調査、返答するサービスを行い、
い報酬を得る職業で、一般に通訳ガイドとも言う。
通訳ガイドをサポートしている。
「皇居前広場の
国家資格であり、観光庁長官の行う試験に合格しな
松の数はどれくらいあるのか?」
「ハローキティの
ければならない。語学力に加え、歴史や地理、一般
iPhone6のケースを買いたい」
「自衛隊の女性比率
常識といった幅広い知識が要求される。例えば、
は?」など多岐にわたる質問に対して、スタッフが
二次の外国語面接では、
「力士が取り組みの前にな
インターネットと電話を駆使して通常は数分以内
ぜ四股を踏むのか答えなさい」といったような普通、
に返答する。ちなみに調査するスタッフも通訳ガイ
日本人でも答えに窮するようなことが聞かれる。また
ドを配置している。豊富な知識と現場感覚を持つ
実務においては、こういった知識に加え、ツアーを
通訳ガイドが調べるからこそ、短時間で的確な返
安全 • 定時に運営する旅程管理能力、そしてお客様
答ができる。これにより現場の通訳ガイドは、お客
をおもてなしするホスピタリティ能力が求め
られる。さらには、夏の炎天下で一日中歩きっ
ぱなしに堪えられるだけの体力が必要であり、
まさに知力、気力、体力が十二分に要求され
る仕事と言えるだろう。
ツアー事業と併せて、通訳ガイドに対する
情報提供サービスも行っている。ツアーの現
場で通訳ガイドは訪日客から、さまざまな質
問やリクエストを受ける。通訳ガイドの仕事
通訳ガイドサポートサービス「ガリレオ」のウェブサイト
22
ていくおふ . No.137
通訳ガイドサービスから見た訪日観光ビジネスの特徴と課題
様の前であたふたして調べることなく、安心して
ツアーに集中することができる。さらに当社では
通訳ガイド向けのウェブサイト「ガリレオ」に、
実際の質問とその回答を掲載し、通訳ガイドの情
報収集の場を提供している。
多様な訪日客のニーズ
ツアー事業や通訳ガイドのサポートサービスを
通じて、訪日客のニーズはとても多様だと感じる。
錦鯉
都内で言えば、浅草や築地、明治神宮や原宿が定
インドネシア、ドイツ、シンガポール、中国、タイ、
ティを希望される場合も少なくない。
「青山や銀座
ベルギーなど世界中からこの大会に参加している。
T
番で人気だが、時には、意外な場所やアクティビ
の現代建築を見たい」
「日暮里繊維街で生地織物
以前、この大会に参加している外国人にインタ
H
を買いたい」
「新橋のタミヤ プラモデルファクト
ビューする機会があった。そのうちの一人の米国
E
リーに行きたい」
「プロのマンガ家から直接マンガ
人 は、この 大 会 を「 錦 鯉 のスー パ ーボウルだ 」
M
の指導を受けたい」など、思いも寄らないようなリ
と表現していた。世界中の錦鯉愛好家にとって
A
クエストを日々受けている。
まさに憧れの場なのである。彼らは錦鯉を carp と
当社では錦鯉愛好家の方をよくご案内させてい
は呼ばない。敬意を持って「KOI」と呼んでいる。
ただいている。米国の養鯉業者とお付き合いをさ
そんな彼らを当社では、日本全国の養鯉場見学にご
せていただいている関係で、主に米国の錦鯉ファ
案内したり、錦鯉の池づくりのヒントになるような
ンが来日する際のアテンドやサポートをさせてい
日本庭園を見てまわったりしている。ここで留意し
ただいている。錦鯉は新潟県が発祥の地であるが、
たいのは、彼らの多くは他の日本文化や日本の観
もはや錦鯉愛好家は全世界にまで及ぶ。実際、新
光地にはほとんど興味がない点である。彼らの興
潟県で生産される錦鯉のうち約 7 割が海外に輸出
味は錦鯉一点であり、浅草にも原宿にも茶道にも
されているそうだ。そんな彼らにとって日本は聖
ガンダムにもほとんど興味は示さない。われわれ
地であり、多くの錦鯉ファンが錦鯉の買い付けや
はどうしても、訪日客に対して日本文化全体でア
品評会に参加するためにやってくる。毎年冬に東
プローチしがちだが、多くの人は個別の分野に関
京で開催される全日本総合錦鯉品評会は、国内最
心 • 興 味を持っていることが多いように感じる。
大の錦鯉品評会で、日本のみならず世界中から約
考えてみれば、BMW が好きだからといってドイツ
1,500 尾が出品され、大会の会場には例年多くの海
に関連してベートーベンやソーセージが好きとは
外からの錦鯉愛好家が集う。昨年の総合優勝者は
限らない。
香港在住の方で、その他の入賞者リストを見ると、
意外な場所やモノが訪日客に人気がある一方、
ていくおふ . No.137
23
3
マスコミで訪日客に人気と報じられている秋葉原、
カルチャー等、多岐にわたっていることに起因す
寿司、温泉などについては、必ずしも全ての人に受
るが、世界のさまざまな国からさまざまな人が集
け入れられているわけではない。秋葉原のあの猥
まるのだから、ニーズが多様になるのは当然のこ
雑な雰囲気が苦手だと言う方もいれば、生魚は NG
とかもしれない。
という方も少なくないし、東アジアの人以外につい
ては、どちらかというと人前で裸になるのは抵抗が
訪日観光は多層的なニッチマーケットの集積
あり、温泉は苦手という人の方が多い印象がある。
ニーズが多様であるということは、マーケティ
まさに百人百様である。それは、日本の観光コンテ
ングの教科書的に言えば、訪日観光マーケットは
ンツが、伝統文化、ハイテク産業、食文化、ポップ
多層的なニッチマーケットの集積であると言える。
個人旅行者の割合が年々増え、また
図表 1 団体ツアー参加状況(観光 • レジャー目的のみ)
団体ツアー
アジアなどの新 興国の旅 行 者が、
個人旅行
単位:%
38.4
全国籍・地域
61.6
60.3
中国
42.1
マレーシア
ことから、旅行ニーズのニッチ化は
さらに加速化している。
39.7
53.8
台湾
より旅行慣れし成熟化し始めている
そのようなマーケットでは、地域
46.2
も観光地も観光事業者も特徴がな
57.9
いと選ばれない。国際観光はグロー
タイ
32.9
67.1
バル競争下にある。アジア新興国の
香港
32.6
67.4
増大する旅行需要の取り込みにあら
韓国
31.2
68.8
ゆる国が躍起になっている。事実、
ロシア
30.3
69.7
日本の外国人観光客数はここ10年
71.6
で約2倍に増えたが、世界の外国人
86.2
観光客数のランキングでは10 年前
と大きな変化はない。つまり日本も
28.4
シンガポール
13.8
ドイツ
米国
12.0
88.0
英国
11.3
88.7
インド
8.0
92.0
オーストラリア 7.8
92.2
カナダ
6.8
94.2
フランス
6.4
93.6
21.4
その他
0
増えたが、他の国も同じように増え
たということだ。これから国レベル
での競争だけでなく、さらに国内で
の地域間、観光地間での競争も加熱
していくことだろう。
そのような環境にもかかわらず、
78.6
20
40
60
80
100
注:団体ツアー参加状況を国籍・地域別に示したもの。団体ツアーは観光・レジャー目的のみ。
出所:観光庁「平成 25 年 訪日外国人の消費動向」を基に作成。
24
ていくおふ . No.137
日本の観光産業の多くは、多様な個
人ニーズにまだまだ対応できていな
通訳ガイドサービスから見た訪日観光ビジネスの特徴と課題
図表 2 訪日外国人旅行者数の変化
図表 3 世界各国、地域への外国人訪問者数( 2013 年 )
単位:万人
単位:万人
1,200
1,036
1,000
800
600
521
400
200
2013年
しかしながら、彼らを対象とした観光商
品はほとんどない。仕事目的で来日して
いるとはいえ、1日や2日はオフになり、
観光をしたいというニーズは少なからず
あるはずである。彼らの行動パターンや
特有の興味、最適なビジネスモデルや販
売チャネルなどを捉えたサービスを創り
上げれば、大きな潜在需要を顕在化でき
るはずだ。
A
30% は業務を主目的に来日している。
M
いことが多い。例えば、訪日客のうち約
3,779
3,154
3,116
2,835
2,654
2,571
2,566
2,481
2,467
2,420
1,792
1,658
1,584
1,426
1,321
1,279
1,217
1,190
1,095
1,091
1,067
1,036 ←日本は世界で 27 位、
1,004 アジアで 8 位
999
951
917
900
896
880
832
806
801
764
755
752
E
出所:日本政府観光局資料を基に作成。
8,301
H
2003年
6,976
6,066
5,568
4,770
T
0
1 位 フランス
2 位 米国
3 位 スペイン
4 位 中国
5 位 イタリア
6 位 トルコ
7 位 ドイツ
8 位 英国
9 位 ロシア
10 位 タイ
11 位 マレーシア
12 位 香港
13 位 オーストリア
14 位 ウクライナ
15 位 メキシコ
16 位 ギリシャ
17 位 カナダ
18 位 ポーランド
19 位 マカオ
20 位 サウジアラビア
21 位 オランダ
22 位 韓国
23 位 シンガポール
24 位 クロアチア
25 位 スウェーデン
26 位 ハンガリー
27 位 日本
28 位 モロッコ
29 位 アラブ首長国連邦
30 位 南アフリカ共和国
31 位 エジプト
32 位 チェコ
33 位 スイス
34 位 インドネシア
35 位 ポルトガル
36 位 デンマーク
37 位 台湾
38 位 ベルギー
39 位 ベトナム
40 位 アイルランド
3
出所:日本政府観光局資料を基に作成。
観光地や観光施設においては、自身の持つ強み
ているのか、といった市場調査ができているとこ
や特徴を明確にし、そのニーズに適したターゲット
ろは必ずしも多くない。ターゲットカスタマーの
カスタマーを定めていくことが極めて重要である。
選定、現状の把握、改善といった企業経営では必
しかしながら、私が見聞きする範囲では、それぞ
須とされている PDCA サイクルの実践こそが今後、
れにおいて、どのようなセグメント(出身地、目的、
多様化するニーズに選ばれていくために強く求め
年齢、職業等)の外国人旅行者が訪問し、支持され
られていると考える。
ていくおふ . No.137
25
現場の役割の重要性
私自身も通訳ガイドとして時には訪日客の案内
をすることがある。昨年の春も米国人のご家族を
連れて、17泊で九州地方を中心にご案内した。九州
では多くの温泉地を巡ったが、中でも皆さんに評
判だったのが熊本の黒川温泉だ。黒川温泉は日本
でも指折りの人気温泉地で、ミシュランでも二つ
星にランクされたことがある。われわれが宿泊し
た旅館についても、部屋も温泉も食事も接客もど
れも素晴らしく、皆さん大変ご満悦だった。
しかしながら、一つだけとてももったいないなあ、
と思うことがあった。夕食時のこと、食事もほぼ終
わり、デザートを楽しんでいる頃、宿の支配人が
挨拶に来られ、歓迎の言葉とともに宿からの贈り
物として地元の焼酎をお渡ししたいとの申し出が
思う。その際に、
「アルコールが飲めない方や長旅
あった。通常であれば、とても喜ばれる対応だと思
の方には、焼酎ではなくて別の対応をしよう」とい
うが、この時のゲストは皆さんアルコールが飲めない
うサービスの改善が行われ、そして都度の接客を
方ばかり。であれば、お土産に持って帰ることも考え
通じた現場の気付きの中で、当日にお客様に合っ
たが、この日は旅行開始の3日目で、残り2週間の長
た最適な対応をするという一連の流れができてい
旅に割れ物を持って行くのはかなりしんどい。結果、
れば、きっとこの日のゲストに対しても、もっと違
丁重にご辞退した。これについて、ゲストが気分
うアプローチがあったに違いない。だから、何とも
を害したということは一切なく、むしろせっかくの
もったいないなあ、と思うのである。現場で一人ひ
先方の心遣いをむげにしたことで恐縮されていた。
とりが得た情報を、チームでシェアし、組織のナ
しかし、それを横で見ていた私は、何とももった
レッジとしてサービス改善につなげていくサイク
いない対応だなあ、と思った。これはたまたまゲ
ルの構築が、多様化する個人客への対応には不可
ストがアルコールを飲めなかったから残念だった
欠だと認識させられた経験だった。
という話では必ずしもないと思う。夕食時にアル
組織の蓄積した定型的なナレッジによるサービス
コールは一切オーダーしていないということや、
の改善は有効ではある一方、最終的には個人のそ
海外からの旅行者で長旅をしているという情報も
の場での柔軟な対応力が必要である。通訳ガイド
伝えていることから、ある程度こういった事態にな
の現場においても、ゲストの出身国や文化的背景、
ることは予想できたはずだ。もっと言えば、きっと
年齢や職業等から、ある程度こういった対応が
こういった事例は、これまでにも起きているのだと
好ましいというマニュアルらしきものはある。しか
26
ていくおふ . No.137
通訳ガイドサービスから見た訪日観光ビジネスの特徴と課題
しながら、実際はお客様に会ってみないとどのよう
リピーター醸成への対応
な対応が最適なのかは分からない。例えば、VIP だ
全 ての 産 業 や 事 業 にお い て 上 顧 客 やリピ ー
からといって、必ずしもフォーマルに丁重に対応す
ターの醸成は最重要事項と言えるだろう。しかしな
るのが良いというわけではなく、ゲストによって
がら、訪日観光においては、海外旅行という特性か
はカジュアルな対 応を好む方もいらっしゃる。
らリピーターの醸成は容易ではない。いくらその時
実際、当社が契約している通訳ガイドが米国の某
の訪日旅行が満足いくものだったとしても、次の
有名企業の社長ご夫妻をアテンドした際も、ランチに
長期休暇も日本に来よう、と思う人はかなり限定
イタリアンファミリーレストランのサイゼリアに
されるに違いない。この点は、訪日観光事業を営む
ご案内し、大変喜ばれたことがあったそうだ。会話
人間にとって悩ましいところであり、大きな課題で
の流れの中で、普通の日本人の暮らしに大変興味
ある。
を持っておられた様子が分かったので提案した
それではどのような対応が必要だろう?個別企
結果である。通訳ガイドの現場は、常に新しいお客
業の対応だけでなく、国や地域そして観光地レベ
T
様との出会いである。お会いしてコミュニケーショ
ルでできることを挙げてみたい。
H
ンを重ねる中でその方の好みやスタイルを見出し
まず一つ目は、同じ旅行者に何度も頻繁に訪問
E
たり、最適なおもてなしのヒントを探るという姿勢
してもらうのは無理があるので、その方の家族や
M
が求められる。もちろんそれにあった対応の引き出
友人など周辺の人に口コミをして誘客する仕組み
A
しの多さが同時に必要となる。
「おもてなし」はと
をつくることが挙げられる。Facebook や Twitter
もすると、言葉遣いやお辞儀の仕方を連想しがち
などのソーシャルメディアが口コミの媒体として
だが、それだけではない。顧客のニーズを瞬時に判
有効であろう。素晴らしい景色や面白い光景をそ
断して対応する力が必要なのだ。
の場でアップして、知り合いに自分の感動を共有
とはいえ、何でも顧客の言いなりになることがお
してほしい、と多くの人が旅先でもソーシャルメ
もてなしではないと思う。茶の湯文化に代表される
ディアを利用する。ここで重要なのは、彼らはリア
ように、日本の伝統的なおもてなしは「主客対等」に
ルタイムに投稿したいということだ。リアルタイム
あるとされ、ホストが一方的に行うのではなく、
でできるだけその場で臨場感のある写真やコメント
ゲストも協力し一体となって創り上げていくもの
をアップしたいと考えている。しかしながら、日本
だと言われている。訪日客の多くも日本に来たから
では諸 外国に比べ、Wi-Fi 等の通 信 環 境が十分
には、日本のやり方を尊重したいという気持ちが
でないことが、訪日客の不満の上位として挙げられ
強く、例えば、寺社仏閣に行く前には、
「帽子は脱い
ている。実際、ツアー中にも、その場で投稿がで
だ方がいいのか?」
「サングラスは?」などと、ゲス
きず、がっかりするお客様の姿を頻繁に目にする。
トから質問してくることも少なくない。
「顧客ニー
通信環境が不十分であることは、訪日客にとって
ズへの対応」と「主客対等」
、このバランスを取って
メール等のやり取りができない、または、地図な
いくことが日本の目指すべきおもてなしだと思う。
どの必要な情報にアクセスできない、といった不
ていくおふ . No.137
27
3
便を強いているだけではない。ソーシャルメディ
者にとっては不便なことが多い。また日本に長期
アにアップしてもらうことは、観光プロモーション
滞在してもらうためには、日本全国を廻ってもらう
をボランティアでしてくれているようなものであり、
ことを促すのも有効な方法であるが、その際の悩
国や地域、観光事業者にとっては大きな機会損失
みの種は荷物である。概して彼らはとても大きな
として捉える必要があるだろう。
荷物を持って旅行するが、新幹線には大型荷物を
さらに最近では、ソーシャルメディアによる口コ
載せるスペースはほとんどなく、駅のコインロッ
ミを戦略的に誘発している事例も見かける。新宿
カーには大型のスーツケースは入らないことが多い。
にあるロボットレストランをご存じだろうか。大音
個人旅行者が増える中で、鉄道や飛行機などの公
量の中でロボットや派手なコスチュームの女性の
共交通機関で国内旅行をする上での荷物対策が求
大仕掛けのショーが見られるレストランとして訪
められている。
日客にも大人気である。このレストランは以前は他
三つ目は、リピーターを作り出しやすい観光コ
のエンターテイメント系レストラン同様、ショーの
ンテンツを売り物にすることが挙げられる。先述
最中の写真撮影は禁止となっていたが、最近では
の錦鯉などはその典型だ。年に2、3回来日の人も
可能になった。その背景の詳細については不明
決して珍しくない。最近は各地でマラソン大会が
だが、恐らく口コミを期待しての方針変更ではない
多く開かれているが、マラソンもリピーターを生み
かと考える。実際、当社のツアーに参加するお客様
出しやすい。私の知人は毎年ホノルルマラソンに
もソーシャルメディアでロボットレストランを知っ
出場している。ちなみにホノルルマラソンの出場
たので訪問したいと言われる方がたくさんいる。
者の過半数は日本人で、ハワイの観光経済を支え
最近はコンサートでも写真撮影を許可している
ケースが増えている。写真を撮られるデメリットよ
りソーシャルメディアによる宣伝効果の方がメリッ
トがあると判断しているのだろう。しかし、日本の
観光地に行くと、土産物屋では「No Photo」と表示
している店をよく見かける。文化財やプライバシー
の保護の観点はまた別だが、口コミマーケットを見
越した上での対応の見直しが必要かもしれない。
二つ目は、1回の旅行の滞在日数を伸ばし、消費
額増を促すことが挙げられる。これまでの日本の
観光サービスは、せいぜい1泊か2 泊ぐらいの日本
人旅行者を対象にしてきたため、長期旅行者向け
には必ずしもなっていないことが多い。例えば、日本
にはキッチン付きの宿泊施設は少なく、長期滞在
28
ていくおふ . No.137
る存在だ。他には釣り大会なんていうのもあるか
もしれない。釣りファンは世界中にいるだろうし、
通訳ガイドサービスから見た訪日観光ビジネスの特徴と課題
日本特有の魚や釣法を体験したい人はたくさん
たのか、それとも残したのか、お土産は何を買った
いるはずだ。定期的に釣り大会を開催すれば、きっ
のか、誰のために買ったのか、こういったことを把
とリピーターも醸成されるに違いない。いずれに
握している存在は他にはなかなかいない。当社で
しても、頻繁に訪れる機会をどう戦略的につくり
は通訳ガイドの持つ潜在的な力を活かした訪日観
上げるか、がポイントになるだろう。
光振興等に貢献するような新たな活動のフィール
ドの開拓を行っている。
量から質へ
2014年の訪日客は史上最高の1,341万人を記録
まとめ
した。国は東京オリンピック・パラリンピックが開
このように、今後ますます多様化する訪日客に
催される2020年までに2,000万人という目標を掲
対応するためには、①ターゲットカスタマーの選定、
げている。このように訪日観光に関して言えば、訪日
現状の把握、改善といった戦略的なサイクルをど
客数といった量的目標が話題になることが多い。
う確立するか ② 現場の気付きをどう促進させるか
T
しかし、今後継続的に訪日観光産業を成長させて
③リピーターをどう醸成させるか ④顧客満足度を
H
いくためには、量だけでなく、質の向上を図ってい
どう高めるか―といったことが必要であると述べ
E
くことが必要になるだろう。中でも一番重視すべき
たが、これらはどれもあらゆる産業やビジネスで
M
なのは訪日客がいかに満足したか、つまり顧客満
共通の課題である。訪日観光ビジネスというと、
A
足度の向上であると考える。
一般的には外国語対応や海外に向けての PR 活動
訪日客の満足向上については、これまで述べて
ばかりが重視されがちだが、訪日観光ビジネスを
きたとおり、顧客ニーズに合った対応を丁寧にか
特殊なものと捉えるのではなく、一般的なビジネ
つ戦略的に取り組むことが大切である。 スでは当たり前のことをしっかりと実践することこ
戦略的な取り組みとして、最近は通信会社を中心
そが大切だと思われる。
に訪日客の行動をビックデータとして取得、分析し、
最適なマーケティング活動やサービス向上につな
げる動きが出始めている。
このような定量データの活用に加えて、定性的な
情報も必要となるだろう。訪日客が何に感動して、
何に困っているのか、こういった定量的に分析しに
くい情報も戦略策定の上では不可欠だ。
その点で当社では通訳ガイドの知見の活用に取
り組み始めている。通訳ガイドは一日中訪日客に
付き添って、彼らの行動をつぶさに見ている。どん
Profile
赤堀 浩一郎(あかほり・こういちろう)
1969 年生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。国
際大学大学院(MBA)修了。全日本空輸勤務を経て、2008 年よ
り通訳案内士を活用した訪日観光、情報サービスを提供するエ
クスプローラーズジャパン株式会社を設立、代表取締役就任。
2010 年より事業創造大学院大学非常勤講師。近著に「訪日観光
の教科書(共著)
」がある。
な食事を食べたのか、それは美味しそうに完食し
ていくおふ . No.137
29
3
日 本
の
空
港
は
い
ま
第2回
地元による主体的な関わりで
活性化を目指す福島空港
島根県立大学 総合政策学部
総合政策学科 講師 西藤 真一
今回の法律の成立を受け、現在、国が管理する空
はじめに
2013年6月、第183回国会で「民間の能力を活用
港では、仙台空港をはじめとして幾つかの空港にお
した国管理空港等の運営等に関する法律」
、通称「民
いて公共施設等、運営権制度を活用した新たな空港
活空港運営法」が成立した。かねてより、滑走路等の
運営の方策が模索されているが、今後は地方自治体
基本施設と空港ビルの運営について、民間の能力を
が管理する空港においてもそうした検討が進み、
生かした一体運営を行う「空港経営改革」の重要性
利用者にとって利便性の高い空港経営の在り方が
が指摘されてきたが、それに向けた第一歩である。
具体化されるだろう。
図表 1 国内航空旅客数と国内空港数の推移
単位:百万人
ローカル線
幹線
離島空港数
離島以外空港数
国内空港数計
単位:空港数
100
100
80
80
60
60
40
40
20
20
0
0
1951 53 55 57 59 61 63 65 67 69 71 73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 年
注:1951 年から 1983 年までの国内航空利用者数は幹線およびローカル線を区別した電子データが入手不可能であったため、便宜的に電子データを入手できた国
内航空旅客数の合計値を表している。
出所:国土交通省「航空輸送統計年報」
、国土交通省資料「空港を取り巻く状況 関係資料」から筆者作成。
30
ていくおふ . No.137
一方、特に自治体が設置・管理する地方管理空港
貴重な社会基盤である。今後、これを最大限活用する
においては利用者獲得の面で大きな課題が残され
ために、最大のステークホルダーである地元のさまざ
ており、いずれの空港も利用促進に注力していると
まな主体が協働していく必要がある。地方空港やそ
ころである。しかし、LCC も含めたグローバル規模
のステークホルダーは、航空ネットワークの維持と
で進む航空会社間での競争や今後のわが国におけ
いう難問にどのように関わっていくべきか。この難
る人口減少を引き合いに出すまでもなく、国内航空
問を考える切り口として、福島空港の運営に誘致段
利用者数の推移からみて地方航空ネットワークの維
階から関わってこられた笹沼茂夫氏(前須賀川商工
持はますます厳しさを増すものと予想される。
会議所専務理事、元福島エアポートサービス店長)
収益状況の厳しい地方路線は少なくなく、それら
へのヒアリングをもとに、開港までの経緯やその
は税制や空港利用料の減免といった政策的配慮や、
後の利用促進の取り組みを紹介する。もちろん、
航空会社の中における内部補助(相対的に高収益な
福島空港の取り組みをただ真似てもほかの空港で
路線の黒字で赤字路線を支える)によって支えられ
同じように成果を得られるわけでは必ずしもなかろ
てきたところが大きいが、今や国にも航空会社にも
うが、その試行錯誤の過程や地元の熱意から生ずる
そうしたことをする余力はない。地元の地方自治体
諸活動は十分参考になるのではないだろうか。
がなんらかの補助をするケースも見られるが、同じ
く財政状況は厳しさを増しており、またその効果も
地方空港が直面する利用者減と福島空港
戦 後 の わ が 国 にお ける国内 航 空 の 旅 客 数 は、
短期的にはともかく、持続的ではありえない(支援
が途切れたら即座に効果を失うことが懸念される)
。
2000 年度まではほぼ一貫して増加傾向にあったが
そうしたことを考えると、今後は空港の存在意義が
その後停滞期を挟み、2007 年度からは減少を始め
ますます問われることになろう。
ている(図表1)
。これを幹線・ローカル線別に分
空港は地域振興における一つのツールであり、
解すると 1、図表 2に示すように、500 万人以上の乗
図表 2 空港規模別の着陸回数・乗降客数の推移
年度
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
着陸回数
1
1.01
1.04
1.06
1.09
1.12
1.11
1.09
1.12
1.16
乗降客数
1
0.96
1.00
1.01
1.03
1.03
0.99
0.94
0.95
0.92
200 万人以上
着陸回数
1
0.98
0.97
0.99
1.01
0.99
0.97
0.95
0.93
0.92
500 万人未満
乗降客数
1
0.97
0.94
0.95
0.95
0.93
0.90
0.83
0.81
0.78
100 万人以上
着陸回数
1
1.00
1.00
1.01
0.99
0.97
0.94
0.95
0.91
0.82
200 万人未満
乗降客数
1
1.00
0.98
0.96
0.95
0.96
0.92
0.86
0.79
0.77
500 万人以上
50 万人以上
着陸回数
1
0.98
1.01
1.00
1.01
0.98
0.94
0.90
0.90
0.87
100 万人未満
乗降客数
1
0.98
0.99
0.97
0.96
0.93
0.88
0.79
0.77
0.70
20 万人以上
着陸回数
1
1.02
1.06
1.12
1.15
1.07
1.03
1.03
1.04
0.97
50 万人未満
乗降客数
1
0.94
0.94
0.93
0.93
0.89
0.82
0.75
0.73
0.69
20 万人未満
着陸回数
1
1.08
1.03
0.99
1.02
1.00
0.95
0.90
0.80
0.77
乗降客数
1
0.91
0.88
0.88
0.85
0.82
0.75
0.70
0.61
0.57
注:上記の値は、2011 年度の乗降客数を基準に空港規模を分類したときの発着回数の平均値をもとに 2002 年度を 1 とした場合の指数である。ただし、離島および
2002 ~ 11 年度の期間中に開港、休止となった空港、県営名古屋空港は除外している。0.8 を下回る箇所のみ太字斜体で示している。
出所:国土交通省「空港管理状況調書」から筆者作成。
1.幹線とは、羽田、成田、伊丹、関西、新千歳、福岡、那覇の各空港を結ぶ路線で、ローカル線とは、それ以外の路線のことをいう。
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31
降客数を抱える大規模空港よりも、乗降客数の規
3 路線だけであったが、その後約 2 年間に福岡線、
模が小さな空港ほど大きな減少幅となっている。また、
函館線、沖縄線、帯広線が相次いで運航を開始し、
発着回数では年間500万人以上の乗降客数を抱える大
福島空港を利用した乗降客数は1995 年度には59.2
規模空港のみが増加傾向にあることも確認できる。
万人となった。その後も順調に旅客数は増加し、
近 年 利 用 が 伸 び 悩 む 地 方 空 港 は、1990 年 代
1999 年 6 月には上海、ソウルの各定期路線が開設
など比較的最近になって整備された空港が多い
されるに至り、国内線・国際線を合わせた旅客数は
(図表3)
。1993年3月に開港した福島空港もそのう
75.8 万人に達した。
ちの一つである。福島空港が開港した当初、福島と
しかし、その後利用率は伸び悩み、路線の撤退も
結ばれたのは札幌(新千歳)
、名古屋、大阪(伊丹)の
続いて利用者数は2013 年度には24.3 万人まで減少
図表 3 空港整備の状況
国管理
(旧第1種・2 種)
開港時期
1966 年度以前
( 第1次空港整備
五箇年計画以前
)
離島
(地方管理、旧第 3 種)
共用
その他
羽田、伊丹、名古屋、福岡、 鳥取、女満別、
(秋田)、 利尻、八丈島、種子島、 三沢、千歳、
高知、宮崎、高松、長崎、
岡山、花巻、富山、
福江、屋久島、大島、 小松、美保、
松山、大分、仙台、新潟、
(山形)、青森、
(帯広)、 奄美、三宅島、隠岐
札幌、徳島
調布
鹿児島、稚内、八尾、熊本、 松本、中標津、福井、
広島、北九州、釧路、函館
出雲、(旭川)、紋別
南紀白浜
1967 ~ 70 年度
1971 ~ 75 年度
那覇、鹿児島、大分、熊本
1976 ~ 80 年度
成田
1981 ~ 85 年度
地方管理
(旧第 3 種)
(秋田)、(帯広)
(山口宇部)、
弟子屈
壱岐、喜界、沖永良部
佐渡、久米島、南大東、
宮古、多良間、石垣、
波照間、与那国、奥尻、
対馬、伊江島、徳之島
与論、礼文、粟国、
北大東、下地島
女満別
上五島、小値賀
1986 ~ 90 年度
新千歳、高松
岡山、青森
新島、奄美
岡南、枕崎
1991 ~ 95 年度
関西、広島
福島、庄内、石見
神津島、慶良間
広島西、但馬
1996 ~ 2002 年度
2003 ~ 07 年度
2008 ~ 12 年度
中部、北九州
大館能代、佐賀、紋別、
南大東
南紀白浜
大分県央、
天草
能登、神戸
名古屋
静岡
種子島、多良間、隠岐
茨城、岩国
注1:青字は、旧空港の移転による開港を表す。
注2:丸かっこの空港は現在の特定地方管理空港(旧第 2 種空港)を表すが、港格の分類については空港整備時の区分に従って整理した。
出所:国土交通資料「空港を取り巻く状況 関係資料」
、財務省資料「社会資本整備を巡る現状と課題」を基に、一部加工して作成。
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第 2 回 地元による主体的な関わりで
活性化を目指す福島空港 した(図表 4)
。現在運休となっている国際定期便の
許可が出された。着工は1988 年、供用開始は1993
運航再開や、国内路線の利便性の充実を目指して、
年で、わが国の航空利用者がまだ右肩上がりに増加
福島県や地元商工会議所などによる利用促進活動
していた時代である。笹沼氏は「高速交通網は地域
が展開されている。
発展の礎となるのであって、須賀川の人々は皆、空港
の設置はその基盤としてぜひ誘致すべきだと考えて
いた」という。地元の須賀川市と玉川村、特に人口
地元の熱意による空港誘致
福島空港の整備構想は、1977年12月に策定された
「福島県長期総合計画」において示された。その後
約10 年を経て、1986 年から始まる第 5 次空港整備
五箇年計画の中で現実化し、同年 9 月に飛行場設置
の多い須賀川市では、福島空港を地域振興の切り札
とみて大きな期待を寄せていた。
明治の中ごろ、現在の東北本線が敷設されたが、
須賀川の人々は鉄道を欲しがらなかった。それが失敗
だったとの地元の思いが、空港
への期待につながる。
「やはり
図表4 福島空港の利用者数と利用率の推移
鉄道の問題が明治の時代にあ
単位:万人
国内線利用者数
国際線利用者数
るわけです。明治の当時に、
国内線利用率
国際線利用率
鉄道なんて煙のもくもくし た
単位:%
80
80
の は い ら な い っ て、一番端
のほうに持っていっちゃった
わけです。須賀川というのは、
郡山よりはるかに当時位置付
けとしては上だったにもかか
60
60
わらず、郡山が鉄道の拠点に
なって須賀川は立ち遅れた。
100年前のミスを繰り返すな
ということですね」
40
40
須賀川は古代から東北地方
の要衝として栄え、鎌倉時代
以降は戦国武将の二階堂氏が
治める地の城下町として栄え
20
20
た歴史を持つ。秋には日本三
たいまつ
大火祭りの一つ「松明あかし」
が開催され、多くの人出で市内
はにぎわう。この行事は戦国
0
0
92 93 94 95 96 97 98 99 000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
2
注:利用者数はチャーター便を含む実績値であるが、搭乗率の値にはチャーター便は含まれていない。
出所:福島県資料「福島空港利用状況」を基に作成。
時代にこの地を治めていた二
階堂氏の須賀川城が伊達正宗
によって攻略された際、合戦で
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33
図表 5 福島空港の位置
新幹線
至仙台
山形
新幹線
高速道路
至山形
至仙台
相馬
福島
鉄道
東北本線
喜多方
至新潟
二本松
東北新幹線
猪苗代湖
会津若松
郡山
東北自動車道
至小出
須賀川
須賀川 IC
至東京
至今市
白河
福島空港
いわき
至水戸
至東京
戦死した御霊を弔うために始められたこの地方の
50 年で郡山に追いつこう」を合言葉に誘致運動が
伝統行事である。当初は新しい領主の目を憚り、ム
始まった。
ジナ狩りとしてひそかに続けられていた行事だが、
2
今やこの地方の伝統行事として根付いている 。
当初、60カ所程度提案されていた候補地は1982
年には「須賀川の東部」に絞られ、さらに青年会議
この地方は城下町として栄え、また江戸時代には
所のメンバーらを中心とする熱烈な誘致活動の
交通の要衝としての宿場が置かれ、奥の細道では
結果、現在の地点に決まった(図表 5)
。空港の誘致
芭蕉も長逗留するなど、古来より人とモノが行き
には反対運動が展開されることがあるが、それも須
交う拠点として発展してきた。対して郡山の発展
賀川の場合は見られなかった。候補地決定後には、
は猪苗代湖から水を引いた安積疏水の開削が始
地元民間組織で会費を出し合い、
「福島空港と地域
まった明治に入ってからにすぎない。しかるに水
開発をすすめる会」を発足させ、空港を核とした
と鉄道をうまく利用した郡山は人とモノが行き交
地域づくりを早くから志向しながら、空港の早期
う拠点として成長し、今や福島県内で最大の人口
建設、早期開港に向けて活動を重ねていった。
(33.9 万人)を抱える中核市である。須賀川の人々
福島空港は県が設置・維持管理する地方管理空港
には、自分たちの町がさらなる発展を遂げるチャン
であるが、そうでありながら空港誘致の段階から、
スを自ら逸したという自責の念があった。そして、
さらにその後も福島空港がさまざまな課題に直面
世界につながる空港を福島県内に建 設 するという
する中で、課題の解決に向けて多大な努力や試行
機 運 が 高 まる中 で、その 絶 好 の 機 会をみすみす
錯誤を民間の人々が多く担ってきたという点が、
逃す手はなかったというのである。
「空港を誘致して
この空港の特徴であろう。
2.行事の詳細は須賀川市ホームページ「須賀川松明あかし」を参照されたい。http://www.city.sukagawa.fukushima.jp/taimatsu/origin.html
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第 2 回 地元による主体的な関わりで
活性化を目指す福島空港 地元の努力で初めて可能になった空港の開港
このように、福島空港の開港と活性化の諸活動の
であれば、福島県が名古屋事務所を開設してから、
と叱責された」
経過は、試行錯誤の苦労をいとわぬ人々の存在を抜
さらに、滑走路やターミナルビルなど空港として
きにして語ることはできない。もともと空港のない
一通りの施設が完成しても、路線就航までにやるべ
地域において、地元の誰もが空港運営に関与した経
き作業は数えきれない。機内やターミナルビルの清
験などない、空港の素人であった。
掃もその一つ。清掃は須賀川建物管理事業協同組
「われわれは、滑走路ができれば黙ってても飛行
合が請け負ったが、問題は収集したごみの処理と運
機は飛んでくるという認識だったんですよ。でも
搬先であった。福島空港は須賀川市に立地するが、
そんな話はない、とさんざん言われて。滑走路がで
ターミナルビルの住所は隣の玉川村。しかし玉川
きれば飛行機が来ると思ったら大きな間違いだか
村にはごみ処理施設がないので、玉川村のごみを処理
らな、と。どこのエアラインが就航するの?お客
している石川町に持ち込む。なんの問題もないよう
はいるの?どこへ飛んでいくんだ、と。しかし、そん
ではあるが、空港ができた恩恵には特段浴すること
なことは分かっていなかったから、じゃあ、どうす
なく、ごみだけ持ち込まれたような格好となった石川
べきか。福島から路線を作るにしても東京は近くて
町の対応は、必ずしも歓迎的ではなかったという。
あり得ないことは分かっていたから、大阪、名古屋、
あるいは空港からの移動手段としてタクシーの問
札幌、福岡だろうと。そして、
『すすめる会』では、
題もあった。空港を基地とするタクシーの体制を構
そこに乗り込んで路線化を頼もうということになり、
築するのに、空港周辺のタクシー事業者による「構
開港の5 年前から経済訪問と称してそれらの都市を
内タクシー協議会」を組織して、参加を希望する事
訪問し、懇談会を開いてもらった」と笹沼氏は振り
業者を集めることから始めた。
返る。
タクシーについては営業区域の問題もあった。
「大阪商工会議所にも須賀川商工会議所の名刺だ
「営業区域外の客を取り扱うことができない」という
け持って乗り込んだし、名古屋では頼みに来るの
タクシーの営業規制がある。空港から乗車するお客
様は営業区域をまたがるような長距離を乗る人も少
なくないが、例えば福島空港と郡山は営業区域が異
なるので、福島空港を営業区域に持つタクシーが郡
山までお客様を乗せた場合、郡山からの戻りでは客
を乗せられないのである。
「空港からのタクシー営業
はいくら長距離でも決して良い商売にはならず、むし
ろわれわれの使命感でやっていた」と笹沼氏は語る。
かくのごとく、空港を滞りなく運営するという作
業は笹沼氏らにとって多くの未経験課題への対応の
連続でもあった。もちろん、空港の設置管理者とし
て福島県も尽力したであろうが、県庁所在地の福島
市からは須賀川市はやはり遠く、何より民間の機動
力が行政のそれを凌駕していたともいえよう。
福島空港ターミナルビル
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35
図表 6 2013 年度における基本施設収支とターミナルビル決算
基本施設収支
収入
支出
単位:百万円
着陸料等
土地建物等貸付料
航空機燃料譲与税
空港管理費用
人件費
収支差
32
7
9
48
411
166
577
-529
ターミナルビル決算
売上高
販売費及び一般管理費
営業利益
営業外収益
営業外費用
経常利益
特別利益
当期純利益
単位:百万円
351
370
-28
31
27
-25
113
72
出所:福島県および福島空港ビル株式会社資料
地域が主体になった空港活用の模索
と大間違い。絶対そんなことはない。福島県の人間
2014 年度は地域の民間関係者や航空関係の識者
はけっこう裕福でしたので。沖縄、北海道、大阪でも
が福島空港の活性化や今後の運営の在り方を議論
言われるのは、福島の人間はすごくお土産を買って
する「福島空港有識者懇談会(FKS 委員会)
」という
いくから、ありがたいって喜ばれるんですよ。ところ
会議が開催されている。同じような会議体は各地に
がエアラインは客が減ると運賃を下げる。それで良
あるが、
「福島空港と地域開発をすすめる会」とい
くなるかというとならない。ダイヤが悪くなるから
う民間組織とともに開港前からの長きにわたって
その埋め合わせをしようとして安くするんですかね。
継続してこられたのは、空港を造って必ず豊かな
沖縄は平均 35,000円でしたから。福島県の人間
地域を創造するという希望、信念、何よりもさまざ
は35,000円じゃないと沖縄に行かないなんて誰も
まな人々からの応援があったからであった。
言わないよ。にもかかわらず勝手に35,000円にし
民間の目線は、ともすれば短期的になりがちで、
といて儲かんない儲かんないなんて、あんたらの経
長期計画の策定など将来を見据えた政策は行政部
営方針に問題があるんじゃないの、と。安いのはそ
門が策定するのがふつうである。ところが福島の場
りゃ嬉しいけど、それで儲からなくて飛ばなくなっ
合は、空港設置や路線開拓の段階からかなりの部分
たら地元は困っちゃうんだから、ちゃんと当たり前
を民間が担ってきた。残念ながら現在、福島空港の
の料金取ってよと。その代わり便をなくさないよう
利用者はピーク時の3 分の1程度にまで落ち込んで
にしてよって。値引きって一番安易なんですよね。
いるが、FKS 委員会を中心とする人々の市場開拓、
結局エアラインってエリートの方が商売していて、
路線活性化に向けた意欲は昔も今も変わるところが
エリートが一番安易なところに手を出すんですよ」
ない。
「県もねえ。補助金なんか出す、となって誰に出す
笹沼氏は、エアラインも地元ももっと知恵を絞る
んですかというと、客に出すんだから。そうではな
必要があると言う。
「ピークが平成11年。平成12年
くてエアラインに出したらいかがですか、そうすれ
くらいから航空法の改正で自由化が進んできて、
ば喜んでくれますよ。エアラインに例えば1,000 万
あるいは燃料が上がったりしてダイヤの見直しが
円出したら1,000 万円以上の値引きをして客を集め
出てきちゃうんです。便数も減る。エアラインも苦
る努力をしてくれますよ、と。例えばね。それじゃな
しい。苦しいとだんだんエアラインは運賃を下げて
きゃ、旅行代理店にお駄賃あげたらいかがですか、
くるんです。でも安くしてお客さんが乗るかという
とわれわれは長いお付き合いの中でそう思うんです。
36
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第 2 回 地元による主体的な関わりで
活性化を目指す福島空港 でも彼らは一般の民間企業に応援はできないとい
の経営に関心を示すとは考えにくく、
「福島空港に
う論理なんですね。補助金は県民にはできるが、
関する有識者会議」が福島県に提言したように、
企業にはできないという論理なんです」
空港運営権の設定・民間への売却には向かわず(断
「飛行機が来てなんぼなんです空港は。飛行機が
来ない空港はありえない、成り立たない。エアライ
念して)
、引き続き県による維持管理にとどまるもの
と考えられる。
ンを絶対大事にすべきだということです。媚を売る
もちろん本誌の前号で加藤一誠教授が指摘した
ということではなくて、飛行機に来てもらうために
通り、空港を採算性の観点だけで議論することは必
どうするか、っていうことを本気で考えなきゃだめ
ずしも適切ではない。東日本大震災の時に福島空港
ですね。お客さんを無理矢理乗せようとしたってそ
が果たした役割については、そこで詳しく述べられ
うはいかない」
ているのでここでは繰り返さないが、首都直下型地
現在、航空ネットワーク維持のための施策として、
震など、今後想定される大規模災害に備えた首都圏
59の空港で航空会社が払う着陸料や停留料の減免
空港の代替機能、また防災拠点として福島空港に期
が行われている。また44の空港で空港利用者向け
待されるところは大きい。しかしそれはそれとしても、
3
の利用促進の取り組み、補助事業が行われている 。
空港の採算性の問題、地元の負担の問題は厳然と残
しかし笹沼氏の言をまつまでもなく、単に航空会社
されるのである 4。
や旅客の負担を軽減するだけでは空港利用に結び
県が維持管理主体にとどまるにせよ、収益性を高
つかないのは、これまでの多くの地方空港の状況が
める努力を引き続き行わねばならない。そして、
示している。絶対的に多くの情報を持つ航空会社を
赤字を地元で引き受ける以上、地元の人々の交通
巻き込みつつ、地元や就航先のニーズを的確に
ニーズを踏まえた上で地元としてどのような空港活
把握し、空港の在り方を絶えず検討する地道な努力
用策があるのか検討し、負担についての理解を求め
の継続が重要である。
る必要がある。福島空港の地元で、官民が連携して
展開されている数々の取り組みは決して斬新なもの
空港の効率的な運営に向けた検討は避けら
ではないかもしれないが、多くの地元の人々が課
れない
題解決に向けて地道かつ着実な歩みを続けている
福島空港の経営上の赤字は、路線や便数が劇的に
点にこそ意義がある。
改善(増加)しない限り解消しないことはほぼ確定
的であるが、現在それぞれ別主体が所有・運営して
いる、空港の基本施設(滑走路など)とターミナルビ
ルを一体運営することによって共通費を削減できる
Profile
可能性は認識されており、さらなる合理化が可能と
西藤 真一(さいとう・しんいち) なる仕組みを模索することになろう。
1977 年生まれ。関西学院大学経済学部卒業。関西学院大学大
しかし、図表 6に示すように、仮に基本施設と
ターミナルビルを一体化して運営権を設定したとし
ても、現在の旅客数規模では民間事業者が福島空港
学院経済学研究科博士課程後期課程満期退学。2006 年より財
団法人運輸調査局研究員、副主任研究員を経て、2010 年より
島根県立大学総合政策学部講師(現職)
。研究分野は規制政策、
交通政策。
3.国土交通省(2 012)
「航空・空港の利用促進のための取組調査(大阪航空局管内、東京航空局管内)
」から筆者集計。
4.永澤祐二・加藤一誠(2 013)「東日本大震災と空港インフラの評価 —福島空港を事例に—」『産業経営研究』第 35 号、p.54.
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空 港とともに 歩 む
地元が支える福島空港
編集部では福島空港に関係が深い皆さんを取材しました。キーパーソン、コミュニティー、ビジネ
スといった視点から、福島空港を支え、ともに歩んできた地元の皆さんをご紹介します。
キ
ー
パ
ー
ソ
ン
飛行機をいかに飛ばすか、本気で考える
_ 笹沼茂夫 須賀川建物管理事業協同組合 専務理事
当時を振り返って語る笹沼さん
笹 沼 茂 夫 さ ん は、福 島 空 港 を 支 え て き た
“ 縁の下の力持ち ” の一人だ。空港誘致から現
在に至るまで、当時、社団法人須賀川青年会議
所第 16 代理事長として、空港と空港を取り巻
く環境の変化をつぶさに見て来た。
笹沼さんの言葉を借りれば、福島空港がで
むしろ
きるに当たって特徴的だったのは「筵 旗が立
たなかったこと」。つまり地元から空港建設に
対して目立った反対がなかったことだという。
む し ろ 地 元 の 人 た ち は 団 結 し、地 域 を 巻 き
込んで積極的に空港誘致に取り組んだのだ。
サービスの店長を任されたことを皮切りに、
当時は空港や飛行機の専門的な知識も十分で
施設管理、機内清掃など多岐にわたる業務に
なく、がむしゃらに、時には失敗しながらの
携わってきた。空港業務がスムーズに展開して
活動だったと振り返る。
いくためのサポートを自ら買って出た形で、
商工会議所会頭が社長を兼ねる第三セク
当時は「たいへん都合の良いのがいる。あれ
ターの会社である株式会社福島エアポート
に言えばたいていのことは解決する」という
役回りだったと言う。これ
までの苦労や反省は「いっ
ぱいありすぎて」と笑うが、
飛行機が就航することで成
立する空港では、航空会社
に媚を売るという意味では
なく、
「飛行機をいかにして
飛ばすのか、待っているだ
けではなく、われわれも本
気で考えなければいけない」
と力を込める。
福島空港全景
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コ
ミ
ュ
二
テ
ィ
−
地元民間主導による空港活性化のための会議
福島空港は笹沼さんに代表されるように、
地域住民が積極的に空港を盛り立ててきたが、
その背景には空港活性化のための会議の存
在がある。
地元民間と業界の代表の皆さんがさまざ
まな角度から福島空港の活性化の方策や今
後の在り方を論じるもので、形や名称を変え
ながら開港前から議論を続けてきた(現在は
福島空港有識者懇談会
「福島空港有識者懇談会」と呼んでいる)。
検討対象は国内線の就航先との交流、利用
者の増加策、新規路線の開拓、東日本大震
災後に運休状態となっている国際定期便の
運航再開など、広範に及ぶ。これらは、他の
地方空港の抱える課題と重なるところが多い。
ビ
ジ
ネ
ス
技術を生かしたものづくり
_ 笠原工業株式会社
剤の製造 と 事 業 内 容 は 幅 広 い。今 や 須 賀 川
を代表する企業だが、今後も持続的に地元の
雇用を進めていきたいと笠原賢二社長は語る。
笠原 賢二 社長
コメント
当社は大正 6 年(1917 年)
、須賀川市の誘致企業
第一号として長野県から進出してまいりました。
ここまで約百年、製糸業から多角化を進め、現在
は、発泡プラスチック、建設、機械設計、光学の
四事業を展開し、国内・海外
笠原工業は製糸会社としてスタートしたが、
その後事業構造を転換。現在、車のバンパー
などの多様な発泡体の製造、発泡プラスチック
成形機や生産システムの設計 ・ 施工、焼成カ
に四つの子会社を有してい
ます。福島空港からこれら
の地域へ直接旅立つことが
できれば、誠に便利になる
と期待しています。
ルシウム(ホタテ貝殻)を使用した消臭・除菌
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ビ
ジ
ネ
ス
アルミを進化させる
_ SUS 株式会社 福島事業所
使わず自重のみで動く、からくり機構の部品仕
分け・運搬装置は、機能性と実用性、美しさを兼
ね備えていた。知恵とデザインが融合した日本
のものづくりの一端を垣間見ることができた。
小野 雅人 所長
コメント
福島事業所は“アルミを進化させる SUS”の基幹
SUS(エス・ユー・エス)は静岡市に本社を
置き、アルミを用いたオートメーション向け機
製品であるアルミフレームを製造するマザー工場
です。ここ須賀川の地から静岡・滋賀・佐賀の拠
点を経て、日本全国のお客様にお届けしています。
械装置や、ユニット機器製品などの設計・開発
従業員の98%が地元採用で、毎年秋には廃校に
から製造・販売までを手掛けるメーカーである。
なった小学校を利用して地
福島事業所は、静岡一極集中のリスクを分散する
域の皆様との収穫祭を賑や
意味で、また、2001年「うつくしま未来博」跡地
活用の誘致運動もあって2005年に開設した。
小野雅人所長は「空港や高速道路へのアクセス
かに行ったり、地元のお米
を全国の社員が一括購入し
たりと、地域に密着した活
動を行っています。
が良い」と言う。アルミフレームを用いた動力を
グ ルメ 福島空港近郊のおすすめ食事処
松屋ダイニング
龍皇(ロンファン)
麻婆豆腐
須賀川で評判の中華料理店。もと
もとは「松屋食堂」の名前で出前を
中心とした定食屋だったが、4 代目店
主の小池晃由さんが中華料理店としてリニューアル
スタートさせた。メニューにある「福島名物ソース
所在地:福島県須賀川市大町181
TEL:0248-75-1877
うなぎ処
カツ丼」は松屋食堂時代の名残り。麻婆豆腐は山椒を
たっぷり使った四川風の本格派。
なかざわ
閑静な佇まいの店構えが印象的な地元の名店。坪庭
に面したカウンター、テーブル席はゆったりと落ち着い
た雰囲気。愛知県一色産の良質なうなぎと、白米との
相性を考えた甘さ控えめのタレが絶妙のバランス。
所在地:福島県須賀川市東町1番地 TEL:0248-73-3261
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天 空 の ランド マ ー ク
黄金に輝く、暁の寺
ワット・アルン
ワット・アルンは、タイ・バンコクにある寺院。四つの仏塔が高さ 75m の大仏塔を取り囲み、街の中
心を流れるチャオプラヤー川の川沿いにたたずむ。ワットは寺院、アルンは暁の意味。文字通り、黄金に
輝く、暁の寺として、三島由紀夫の小説「暁の寺」の舞台にもなったことで知られている。
アユタヤ時代に小さな寺院として建立されたが、1779 年にトンブリ王朝のタクシン王がワット・アル
ンと名付け第一級王室寺院となった。現在の美しい仏塔はラ―マ三世時代に完成したもので、10 バーツ
硬貨にも描かれている。ワット・アルンには実際に登ってみることもできる。上からはチャオプラヤー
川の周辺を見渡すことができるビュースポットでもある。夜はライトアップされ、その姿もまた美しい。
編 集 後 記
数十年前に会社訪問をした時のこと。面接担当者が私の単位数(たぶん内容も)を見て、しばしたじろぎ「私も最後にかなり残して、いまだに卒業
できない夢を見るけど、君これで卒業できるかい」と言ったのは二重の意味で正しかったのです。その年、私は卒業できず、
どうにか卒業できた後、
何十年以上も悪夢に悩まされるはめになりました。しかし、大学時代は留年を重ね、危うく放校になる瀬戸際で切り抜けた「火事場の馬鹿力」は、
今では私の貴重な財産の一つになっています。
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2015 No.137
2015 年 3 月発行 定価 600 円(税・送料込み)
編集・発行/ ANAホールディングス株式会社
ANA 総合研究所
東京都港区東新橋 1- 5 - 2 〒105 - 7140
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ホームページ http://www.anahd.co.jp/
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発行人/長瀬 眞
編集長/松井 收
制作/アウトソーシング・ジャパン
デザイン/株式会社アイアンドアイ
印刷/公和印刷株式会社
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東北に躍る
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壁に躍る
八甲田“雪の回廊と温泉”ウオーク
八 甲 田( 青 森 )は 世 界 有 数 の 豪 雪 地 帯。2013 年 2 月 に
は気象庁のアメダス全観測地点で史上最深の積雪となる
5m66㎝を記録した。その雪のために冬は通行止めとなる
八甲田・十和田ゴールドライン(国道 103 号)を、4 月 1 日
の一般開通前に歩くイベントが八甲田 “ 雪の回廊と温泉 ”
ウオーク。除雪した道路の両側にできる高さが最高 9m
に も 及 ぶ、距 離 に し て 約 8 ㎞ の 雪 の 壁 の 回 廊 を 美 し い
景観を楽しみながら歩く。雪の壁の回廊を歩いた後は、
す
か
ゆ
酸 ケ湯などの青森を代表する名湯で疲れた体をゆっくりと
温めることができる。青森に春の訪れを知らせる風物詩で
ある。昨年は 922 名が参加した。第 25 回八甲田 “ 雪の回廊
と温泉 ” ウオークは、3 月 30 日と 31 日の 2 日間開催される。
ISSN 0386-2690