トランの高級レジデンス

はじめに
近年、我が国のホテル業界は、大変化の時を迎えている。不況と相次ぐ外資系ホテルの
参入によってホテル間の競争は激化し、東京においても 2000 年 5 月に第一ホテルが 1052
億円という旅館・ホテル業界過去最大の負債を抱えて倒産した。日経流通新聞(2003 年 8
月 23 日付記事)によると、帝国データバンクが集計した 2003 年 1 月期∼7 月期の旅館・
ホテルの倒産件数は累計で 71 件に上り、過去最悪のペースを記録している。
しかしながら一方では、今後も、数年間に渡って、東京を中心として大規模な外資系ホ
テルの進出が続々と予定されている。
本稿は、こうした内的要因と外的要因の荒波にさらされている我が国のホテル業界を、
利用者に与える本質的な価値は何かと言う観点から研究し、今後のマーケティング戦略を
考えていくものである。
また、特に本稿のテーマとして、このような大変化の時代を迎えたホテル業界の中で、
外資系のホテルが続々と上陸し、新たな市場を作りつつある大都市における「アーバンホ
テル」を事例として取り上げる。
そして、「既存のアーバンホテルが利用者に提供してきた価値が現在の利用者の求める
需要と異なっているのではないか」という仮説のもと、序章では、本稿で取り上げるアー
バンホテルの定義と都市における存在意義について述べる。第 1 章では、政治的背景によ
り誕生した我が国のホテルの歴史と今日の利用者が求める価値の変遷とのミスマッチを
「統合化」と「モジュール化」という 2 つのキーワードを用いながら分析・考察する。第
2 章では、上記の過程を踏まえた現在の市場の動向についての分析を行い、第 3 章におい
て、今後の「消費者に求められるアーバンホテル像」を探ると共に、「都市におけるアーバ
ンホテル存在意義」の解明をして行きたいと考えている。
帝国ホテルの存在と
ホテルの起源
価値統合型ホテル
モジュール型ホテルの登場
利用者の変化
2.現状分析 (内的・外的な構造課題)
厳しい市場環境
異業種からの参入
外資系ホテルの参入
街施設との競合
偏りのある収益構造
経営手法の未成熟
3.今後の展望 (存在意義のリエンジニアリング)
街と一体化するホテル
今後あるべき
顧客を取り込むホテル
アーバンホテル像
1
利 用 者 に支 持 さ れ 、都 市 にとって不 可 欠 な
我が国への上陸
アー バンホテルへの転 換
既 存 ホテルが消 費 者 に提 供 す る 価 値 はニー ズと異 な る ?
アー バンホテルは﹁大 都 市 ︵東 京 ︶を 映 す 鏡 ﹂か?
1.歴史的考察 (価値統合型とモジュール型モデル)
(図 1)
序章
アーバンホテルの定義と都市における存在意義
まず、本研究で考えるアーバンホテルとは、どういうものかについて定義したい。
アーバンホテルとは、American Hotel&Motel Association が立地や価格帯から見て
分類した基準のうちの 1 つである。(図 2)
①立地(location)
都心部・都市ホテル
郊外・都市ホテル
エアーポート・ホテル
ハイウェイ・ホテル
リゾート・ホテル
(図 2)<『基本
(urban hotel)
(suburban hotel)
(airport hotel)
(highway hotel)
(resort hotel)
②価格帯(price)
最高級価格帯
高級価格帯
中間価格帯
エコノミー価格帯
低価格帯
(luxury)
(upscale)
(mid-price)
(economy)
(budget)
ホテル経営教本』より作成>
この基準によると、アーバン・ホテル(urban hotel)は、価格帯分類で luxury hotel
に属し、交通機関が集中し、アクセスにも優れた大都市の中心部に位置するホテルで、大
規模かつ豪華な諸施設と国際水準のサービスを持つ。また、多くのスイート・ルームを有
し、インテリジェント機能やゆとりある空間の 1000 室級の大型機能対応施設で国際会議
や展示会等に対応できるホテルとされている。
日本では、帝国ホテルやホテルオークラ、ホテルニューオータニ、リーガロイヤルホテ
ル等がこの分類に相当するとされる。
しかしながら、日本ではまだ明確な分類がなされていない事もあるため、本研究では、
現在、東京や大阪などの大都市に存在している同程度クラスのシティホテルについても加
えた上で、「都市において文化的・商業的に中心施設となりえているホテル」と定義する。
1)
次に、本稿のテーマとして何故、東京都心地区のアーバンホテルに注目したかについて
述べてみたい。
日本におけるホテル業界・市場は、大きく分類すると、①シティホテル(アーバンホテ
ルを含む)②ビジネスホテル③リゾートホテルの 3 つに分けることが出来る。その中から
本稿では、東京都心地区のアーバンホテルの実状に焦点を当てるが、その理由は、ホテル
が都市を映す鏡の1つであると考えられるからである。実際、都市におけるホテルは、シ
ョッピング・宿泊施設・飲食施設等の自らが果たす役割の多さから、今日では「現代のお
もちゃ箱」とも呼ばれている。
それをある意味で典型的に表わしているのが、1997 年 9 月 11 日に再開発によって誕生
2
したホテルグランヴィア京都を中心とする地域や、2000 年 5 月に誕生した名古屋マリオ
ットアソシアホテルを中心とした地域である。これらは駅や百貨店、そしてホテルと、ど
れに中心的施設として捉えるかは別として、再開発によって京都駅前は活性化し、都市「京
都」を映す鏡となっており、その中でホテルグランヴィア京都は重要な役割を果たしてい
る。
一方では、東京を中心とした大都市において、都市住民が癒しの場としてホテルで休日
を過ごすといった需要の高まりもあり、消費者のニーズが「ハード」的なものと共に「ソ
フト」的なものを重視するように変化しつつある現代において、大都市におけるホテルの
存在の重要性を浮き上がらせつつある。
このような現象から私は、都市におけるホテル、とりわけアーバンホテルは、バーチャ
ルリアリティではない、あるいは、バーチャルリアリティが進展している現代だからこそ
必要な、リアルな空間の中における人と人との交流を通した状態から新たな可能性が誕生
するインキュベーション的な存在であると共に、都市を映す鏡であるのではないかと考え
たのである。
また、東京都心地区には、今後数年に渡って、数多くの外資系ホテルの進出が予定され
ている。この現象は、世界のホテル市場において東京が魅力あるものであると共に、既存
の国内系ホテルが利用者のニーズを十分満たしていないことによる参入機会が存在すると
いうことではないだろうか。とすれば、改めて当業界のマーケティングについて分析する
事は意味を持つであろう。
現代において我々のライフスタイルが大きく変貌を遂げる中で、既存のアーバンホテル
は利用者のニーズを満たしておらず、新たな強みを作っていかなければならないのではな
いかという仮説の下、ホテル側がどのようにそのニーズの変化に対応して行けば良いかを
考察することにより、「Opportunity が存在する「東京」という巨大都市におけるホテルの
存在意義」、及び「競争が激化するアーバンホテルの顧客に提供すべき本当の価値」が、浮
かび上がってくるのではないかと考えている。
本稿では、以上の仮説の理由を
巻く環境の変化
①我が国における独特な市場形成過程
③都市(東京都心地区)における存在意義の変化
置き、考察していくこととする。
3
②市場を取り
の 3 つにポイントを
第1章
我が国ホテル市場の独特な市場形成過程
今日のホテルを意味する時、そこには「宿泊」施設というもの以外に、「飲料施設」
や「物販施設」等の様々な付帯施設がほとんどのホテルに存在し、それらが集まった
ものを人々は「ホテル」と呼んでいる。
しかし、そもそもホテルの語源は、古代ラテン語の人に関わる接続詞「ho」の意味
である「旅人に接遇する宿主」から「hospes」が生まれたことに始まる。その後、関
連して「手厚いおもてなし」を意味する形容詞「hospitalis」が生まれ、これが中性形
となり、「hospitale・大きな館・巡礼や旅人の為の宿泊所」と言われるようになり、更
に「hospitalis」は、「hospital」、「hostel」、「Inn」、「hotel」へと発達し、今日に至っ
た。
『スタンダード大辞典』によるとホテルは以下のような説明がなされている。 2)
①旅行者、その他を接遇するハウスで、優美なスタイルと豪華な施設を具備して、
従来のイン(簡易宿泊所)とは区別される。
②都市における貴人の大邸宅または迎賓館
③公務を行う建物、公会堂、国際会議場
上記のように、ホテルは様々な意味を含んでいるが、ホテルと語源的に同一的なホ
スピタルは、中世のヨーロッパにおいてキリスト教の僧侶が貧者を保護し、病人を看
護し、巡礼者や旅行者に宿を提供する文明と商業の中心的施設であり、また、今日、
ホテルで良く聞かれる「ホスピタリティをもっておもてなし」は、中世においては、「歓
待と救いの手をさしのべ、外敵から擁護する」という意味を持っていた。その後、フ
ィレンツェの大豪商「メディチ家」によって、「食卓備品や料理、サービス、迎賓館施
設」が誕生するなどの歴史を経て、現在のように付帯施設を含めた存在がホテルと呼
ばれるようになる。
本章では、我が国において「ホテル」という存在が何故、こうした付帯施設も含め
たものとして呼ばれるようになったかを ビジネスアーキテクチャにおける「統合化」と
「モジュール化」という概念を用いて「我が国のホテル史」を辿りながら、述べていく。
そしてこの概念を用いて、我が国のホテル業界が、政治的背景から誕生した帝国ホテル
を初めとした「価値の統合型ホテル」と、近年、都市部を中心として拡大しつつある宿泊
4
特化型の「価値のモジュール化型ホテル」の二極分化している背景を分析し、消費者がホ
テルに求める価値の変遷を探る事で、今後、アーバンホテルがいかにして消費者のニーズ
に応えて行くべきかについて考察する。
第1節
ビジネス・アーキテクチャにみる「統合化」と「モジュール化」の概念
ビジネス・アーキテクチャは、「分け方とつなぎ方」に注目した概念であり、「全体をど
のように切り分け、部分をどのように関係づけるか」といった「構成要素間の相互依存関
係のパターン」によって表わされるシステムの性質のことである。
ビジネス・アーキテクチャの概念は、決して新しいものではなく、ビジネス全体の仕組
みを構想する企業家も、組織をデザインするマネージャーであれ、製品を設計する技術者
であれ、生産工程を設計する技術者であれ、対象物を一個の「システム」と考えている場
合、意識的か無意識かを問わずに、「アーキテクチャ」という概念について考えて来たもの
である。なぜなら、「システム」とはそもそも、「相互依存関係」のある複数の「構成要素」
からなり、全体としてある「機能」を果たすものと考えられて来たからである。従って、
「システムとしてものを見ること」と「そのもののアーキテクチャを考えること」は一体
不可分であるとされている。 3)
具体的に言うと、アーキテクチャーでいわれている統合化とは「つなぎ合わせること」
であり、そこから新たな付加価値を見出すことである。逆にモジュラー化とは「切り離す
こと」であり、つなぎ合わせていた部分のコストを削減することによって効果を取り込む
ことである。
統合化が成功している事例としては、K―1 の例が挙げられる。K―1 は、それまで「空
手」・「キックボクシング」等々に分かれていた格闘技を統合化し、最高の格闘技家とは誰
かという付加価値をつけることによって、成功を収めている。
一方、モジュラー化においては、セルフサービスのうどん屋等、それまで店側が負担し
ていたサービスを切り離した飲食店の事例が挙げられ、これら統合化、モジュール化は各
企業の戦略的判断によってなされる。
5
第2節
「価値統合型ホテル」の誕生
1. 我が国独自の宿泊施設とホテルの上陸
我が国の宿泊施設の歴史は古く、『魏志倭人伝』によると、「郡使の往来に常に駐まる所
あり」と記述がある他、『日本書紀』によると、飛鳥時代の 6 世紀には、難波(現在の大
阪)に鴻 臚 館と呼ばれる外国からの使節を歓待する迎賓館的施設があった事などが記され
ている。しかし、一般の庶民が旅をする時に野宿ではなく宿泊施設を利用する様になった
のは、中世以降といわれ、街道宿駅などに「木賃宿」と呼ばれる宿泊施設が普及していっ
た。戦国時代の元亀年間(一五七〇∼七三)頃、庶民が旅行する時には、米や糒(ほしい
い)
・漬物・銭などを携帯し、宿屋から薪をもらって自ら飯を炊くか、暖かいお湯に糒を入
れて柔らかくして食べるなどし、薪代などとしてお金を支払っていた。その後、時代が進
むと宿屋が食事を用意し、菓子や酒肴を提供する「旅篭」と呼ばれる宿泊施設が普及し、
利用される様になって行く。
そして、現代ではこれらの宿泊施設の発展形態として、「旅館」と呼ばれる宿泊施設が温
泉等の行楽地を中心として普及し、多くの人々に利用されている。
一方、こうした我が国独自の宿泊施設である旅館に対して、「ホテル」と呼ばれる宿泊施
設が上陸してきたのは、幕末∼明治初期にかけてである。1858 年に、米・蘭・露・英・仏
の 5 ヶ国と安政通商条約が結ばれ、神奈川・長崎・新潟・兵庫などの港が開港された事で、
外国人が流入してくるようになった事がきっかけとなり、我が国初の洋館のホテル「横浜
クラブ」は、外国人居留地に住む外国人の為に 1863 年にイギリス人 W.H.スミスによって
建てられた。洋食や客室は、居留地に住むイギリス人やアメリカ人の会員の為に会食場、
宿舎として利用されていた。 4)
こうして、我が国においては洋館宿泊施設としてのホテルが 19 世紀半ばに誕生したわ
けだが、「価値統合型ホテル」が生まれるまでにはまだしばらくの時を要した。
6
2. 誕生の背景
我が国に「価値統合型ホテル」が普及した過程に大きく寄与したのは、「帝国ホテル」で
ある。
帝国ホテルは、明治時代に政治的な役割をもった重要な施設として 1890 年(明治 23 年)
に誕生した。当時、明治政府は、欧米の列強諸国に追いつく事を国家的な目標として「富
国強兵」、「殖産興業」をスローガンに急速な近代化を図っており、幕末に江戸幕府が調印
した不平等条約の改正が政府にとって重要な課題であった。
条約改正を担当していた井上馨外務卿は、法律制度の西欧化だけでなく、国民の生活・
文化にも西欧化を導入する事が条約改正交渉を有利にすると考え、外国要人接待の社交場
として鹿鳴館を建設すると共に、首都にホテルを持つ事が重要として、渋沢栄一・大倉喜
八郎・岩崎弥之助ら財閥に投資を勧誘し、なおかつ宮内庁からも 5 万円の持ち株を出資さ
せて「帝国ホテル」を建設したのである。
さて、帝国ホテルは、我が国を代表するグランドホテル
5)(国際ホテル)として、その
後誕生して行く「価値統合型ホテル」のさきがけ的存在となる。ただし、国家的プロジェ
クトとして誕生したこともあり、宿泊料金は、最低で 50 銭、3 食付で 2 円 75 銭、特別上
等の 3 食付で 9 円 25 銭と価格が非常に高価なものであった。 6)
開業後 6 ヶ月の宿泊客は 537 人と経営面では低調であり、取締役会長以下 5 人の重役は
常務理事を除いて全員無報酬であった。その後、経営を改善するために外国人を支配人と
して迎え入れたが、 7 )それでも営業不振が改善しない事からこの外国人支配人を解雇し、
経費節減の為に社員や管理職などを多数解雇し、リストラを実施している。要するに、ホ
テル業務がビジネスとして成立していた訳ではなく、外国人の要人等を接待する場所の確
保という使用目的がほぼすべてであった。
その為、利用者も外交要人の訪日や宴会、各種の夜会などで利用する外国人客や貴族階
級、政商等であった。この様にホテルの存在がビジネスとして考えられなかった事は、そ
の後、新大阪ホテルが西の迎賓館として帝国ホテルの全面協力を得て開業した事や、戦後、
大倉喜七郎が帝国ホテルに対抗して「ホテルオークラ」を作った事などにも表れている。
我が国のホテルの多くが利益を上げるための経営やマーケティングを重視せず、政治的
目的や文化的目的、オーナーの夢、ステータスの象徴といった事を重視して来た事実は、
必要以上の設備を備えてしまい、コストが膨らんでしまう今日の国内系ホテルの苦戦にも
多大なる影響を与えている。
7
3. 日露∼戦中(太平洋戦争)期
日露戦争以後、植民地政策によって我が国が朝鮮半島、満州へと進出して行くと、要人
の宿泊や宴会の為にホテルも進出していくこととなった。国策により鉄道会社がホテルの
建設と営業を行い、満鉄経営の「ヤマトホテル」、台湾総督府鉄道局の「台北鉄道ホテル」、
朝鮮鉄道の「朝鮮ホテル」等が建てられた。 8)
昭和期に入ると、観光も輸出品であるとの認識が生まれ、1930∼40 年頃にかけては、
当時の大蔵省の長期低利特別融資を受けたホテルが各地に建てられた。帝国ホテルの協力
によって誕生した上高地ホテルや川奈ホテル、志賀高原ホテル等がその代表例である。
こうした国策により、全国のホテルは 115 軒、収容人員 1 万人にまで増えている。同時
に外国から支配人を招聘して料理人の教育・指導等をしてもらうと共に、国費で研究員を
アメリカのコーネル大学ホテル経営学部等に留学させ、ホテル経営を学ばせるなどしてい
た。しかし 1937 年の日華事変以降、日本に対する欧米各国の風当たりが強まり、ヨーロ
ッパで第 2 次世界大戦が勃発した影響もあり、外国人観光客の数は減少して行くこととな
った。なお、この時代においては、「国策」により観光が育てられ、その中でホテルは外国
人観光客を主なターゲットとして、設備・サービス等の面で力を入れていた事が分かる。
4. 高度成長期
戦後復興を果たした 1960 年代以降になると、ホテルは様々なビックイベントや都市再
開発の中核施設として位置付けられ、続々と誕生する。
特に 1964 年に行なわれたアジア初の東京オリンピック開催に伴って、東京では、国策
として外国からの客をもてなす為の国際級ホテルの建設が相次ぎ、パレスホテルやホテル
オークラ、東京ヒルトンホテル、東京プリンスホテル、ホテルニューオータニなどのホテ
ルが開業し、今日、高級ホテルの代名詞として「御三家」と呼ばれる帝国ホテル・ホテル
ニューオオタニ・ホテルオークラの 3 ホテルが登場した。日本を代表するアーバンホテル
の誕生である。
1970 年代には大阪で開かれた万国博覧会の開催に伴い、大阪を中心にホテルの増設が行
なわれ、ホテルプラザや東洋ホテル等が誕生し、同時期の東京では、建築技術の革新と容
積率規制緩和などが引き金となって超高層ホテルが新都市開発の中核施設として建設され、
京王プラザホテルが新宿西口に、品川にはホテルパシフィック等が開業し、東海道新幹線
の開通や戦後の高度成長によって豊かになった我が国の中産階級層によるレジャー消費の
8
需要を担って行った。そして、そこでは日本のホテルが持つ「伝統と格式」が武器となっ
て、結婚式などの特別な行事の際にも利用され、高級感のシンボル的な存在として消費者
のニーズを満たしていた。
更に、1980 年代には千葉県浦安市舞浜に東京ディズニーランドが誕生した事に伴うホテ
ルの開業ラッシュや、鉄道・航空・不動産の各企業グループの勢力拡大に伴って、全国に
数多くのホテルが誕生するのであるが、多くは帝国ホテルをモデルとしており、個性的な
ホテルは少なかった。即ち極論すれば、帝国ホテルのミニチュア版のような「価値統合型
ホテル」が全国の各都市に広がって行ったのである。
以上、戦後の高度成長期を経て分かる事は、大きく分けて 3 点ある。
1つは、ホテルという存在がただ単に「宿泊」をする為に存在する施設でなくなったこ
とであり、「飲食」や「宴会」、「結婚式」、「待ち合わせの為の場所」等々の様々なシーンで
利用されるシーンが増え、このニーズに対応するようにホテル側も様々な付帯施設(価値)
を付け加えていったという点である。
2 点目は、利用者が主に一部の階級の人のみを対象としたものから、一般大衆へと変化
したことである。「結婚式を憧れのホテルで」といった利用が多くなり、一般の人たちが贅
沢な消費をする場としてホテルを利用するようになったのである。また、法人客・多人数
がメインのターゲットとなっていたことも特徴的である。ビジネスユースの「宴会」や「会
議」、「結婚式」等の多くの人数に対応する施設・サービスをホテル側が重視し、結果とし
て「宿泊」部門よりも宴会等の「飲料部門」等に力を入れるようになっていった。
3 つ目は、多くのホテルが「帝国ホテル」に代表されるグランドホテルと呼ばれる高級
な「価値統合型ホテル」を目指したという点である。高級な設備を備えるのが当たり前に
なり、どこのホテルも同じような「宿泊」・「レストラン」・「ショッピング施設」等々の施
設を整えていった。その結果、前述したようにどこのホテルに行っても大体同じような、
個性の無いミニ帝国ホテルが全国に拡大していったのである。これらは、利用者の観点か
ら付加価値サービスを考えるというマーケティングの発想からは程遠いものであった点が
大きいと考えられる。しかし、これらが実際に可能であったのは、帝国ホテル等が国策と
して誕生したのと同様に、全国各地の都市ホテルもまた、その地域なりの政治的意図を持
って生み出された背景があったからではないだろうか。
9
5. 街の利用者を取り込もうとするアーバンホテル
日本経済がはっきりと減速した 1990 年代以降においても、都市再開発に伴ってホテル
の建設は続いており、幕張プリンスホテルやホテルニューオータニ幕張などの新しいホテ
ルが開業している。21 世紀に入った現在でも、新しいホテルの計画が続々と発表されてい
るのである。
一方で、既存の国内系「価値統合型」ホテルも自ら付帯施設の充実を進め、ホテルの周
りに自ら「オフィスビル」を立てるなど、ホテルを中心とした「街」を作り出してきつつ
ある。これは、都市における「価値統合化」ホテルの 1 つの発展系であるといえるであろ
う。
例えば、「ホテルニューオータニ東京」を事例に見てみると、宿泊施設・レストラン・
大小宴会場はもちろんの事、
①ニューオータニ美術館
⑪宅配便カウンター
②フィットネスクラブ
⑫郵便局
③テニスコート
⑬キャッシュサービスコーナー
④ドラッグストア
⑭診療所
⑤理容室・美容院
⑮日本庭園(広さ約 4 万㎡)
⑥衣装室・写真室
⑦茶室
⑧ベビールーム
⑨旅行代理店
⑩フラワーショップ
といった施設を初め、「紀尾井ストリート」と呼ばれる通りの周辺に「サンローゼ赤阪」
と呼ばれるショッピング街などがあり、ルイ=ヴィトンやボッテガヴェネタ・ブルガリ・
ジャンニ=ヴェルサーチ等のブランドショップ、飲食店等が数多く存在する。その他にも、
1991 年に完成した「ニューオータニ
ガーデンコート」と呼ばれる企業のオフィスが多数
入居しているインテリジェントビルがあり、ホテルとオフィスビルの機能を連携し、入居
している企業にルームサービスなど 24 時間対応の各種サービスを提供しており、ホテル
を中心として一帯が「都市=街」としての機能を十分に果たしている。
10
ホテルニューオータニの例が表わす通り、アーバンホテルは、都市において重要な中核施
設としての価値(役割)を果たしている。ここでは、宿泊や飲食・ショッピング等々の生
活に必要な機能がほぼ全て揃えられており、しかもそれらの各施設が高級なサービスを提
供している事もあって、他の機能も全体として統合化された高級感によって付加価値の高
い商品になっている。例えば、ホテルニューオータニのラウンジ(ガーデンラウンジ)で
飲むコーヒー1 杯が 700 円∼1100 円と、通常のコーヒー専門店(例えば、キーコーヒーが
2002 年に開業した恵比寿三越店内にある CLAVIS では特選コーヒが 500 円)よりも高価
格であるのは、「雰囲気」を含めた各施設が統合化され、高級という名の付加価値の高い「場
所」や「サービス」を提供している事によるものであろう。
要するに、ホテルニューオータニ東京は、基本的に自前で付帯施設を増設することによ
って誕生した高級な「価値統合型ホテル」と言う事ができる。以上の事を図示すれば次の
様になる。
「価値統合型ホテル」
ショッピング施設
宿泊施設
婚礼式場
ホテル
会議場・ホー
飲食施設
美術館
オフィス施
「統合化された高付加価値」
(図 3)
11
6. 外資系ホテルチェーンの成立と日本への進出
ここ数年、続々と進出が相次ぎ注目を浴びている外資系ホテルであるが、海外において
ホテルと呼ばれるものが誕生したのはおよそ 150 年前である。欧州では産業革命を機会に
鉄道が発達し、旅行が容易になった
9)ことで、新たに誕生した新興所有階級が休養を目的
とした短期旅行を行うようになり、ホテルを利用するケースが増加するようになった。
19 世紀∼20 世紀前半に至るまでは、パリの「オテル・デュ・ルーブル」や「リッツ・
ホテル」、「カイザー・ホーフ」、ロンドンの「サボイ・ホテル」等の著名なホテルが世界の
主要都市に数多く誕生している。 10)
その後、ホテルはアメリカに上陸し広がって行くこととなる。「近代ホテルの革命王」と
呼ばれたエリスウォス・M・スタットラーが経営した「スタットラー・ホテル」は、顧客
のターゲットをそれまでの富豪階級から大衆へと変え、「快適・清潔さ・便利さ」を備えた
個室を適正な価格で提供することで業績を伸ばし、全米にチェーン展開を行った。
このスタットラーが生み出した経営手法は、非常に革新的であり、その手法は、その後、
夫人の寄付金によって、コーネル大学ホテル経営学部等に受け継がれ、今日世界をリード
するアメリカの国際ホテルチェーンのマネジメント・オペレーションシステムへと繋がっ
ていったのである。
さて、我が国にその経営手法が上陸したのは、戦後になってからであり、東急電鉄の五
島慶太社長がヒルトンホテルズ・インターナショナルと経営受委託契約
11) を結び、1963
年にドイツ人オラフ・ボンデを初代総支配人に招き、東京ヒルトンホテル(現キャピトル
東急ホテル)が誕生している。
この経営受委託契約によって世界一流のホテルチェーンから、基本構想・レイアウト・
国際的統一仕様・部門別売り上げ・経費管理システム・合理的組織と人事・研修システム・
業務マニュアル等のノウハウを採り入れたことは非常に画期的なことであった。
そして、1990 年代以降になると、豊富な経営ノウハウ・哲学を持った国際ホテルチェー
ンが我が国に本格的に進出し始めることとなる。
世界のホテル業界で熾烈な競争を繰り広げる「ヒルトン・インターナショナル」や「ハ
イアット・ホテルズ&リゾーツ」、「マリオット・インターナショナル」、「シックス・コン
チネンツ・ホテルズ」、「スターウッド・ホテル&リゾート
ワールドワイド」等の巨大ホ
テルチェーンが空白地帯であった東京へ参入して来たのである。
1992 年に東京都文京区に誕生したフォーシーズンズホテル椿山荘
12
12) を初めとして、
1994 年にはパークハイアット東京、ウェスティンホテル東京等、近年では更にその進出傾
向に拍車がかかっている。
そして、進出した外資系ホテルは、新御三家と呼ばれる「フォーシーズンズホテル椿山
荘」、「ウェスティンホテル東京」、「パークハイアット東京」の 3 つのホテルを中心に確固
たる地位を築き上げている。こうした外資系ホテルの参入現象については、第 2 章の外的
要因分析において更に詳しく述べる。
第3節
「価値モジュール型ホテル」の誕生
1. 誕生の背景と仕組み
「価値モジュール化型ホテル」(以下、モジュール型ホテル)とは、本来、ホテルが持
っていた「宿泊」という機能(価値)に特化したホテルのことである。
1990 年代以降、この「モジュール型ホテル」は、数多く開業し、新たなホテル市場を開
拓しつつある。
一般に、「モジュール型ホテル」は、「宿泊特化型ホテル」と呼ばれ、廉価な価格で宿泊
料金を設定しており、その為、ホテル内の飲食・物販施設等は、最小限に抑えられている
ケースが多い。基本的に飲食部門で売上げを考えているのではなく、宿泊料金を収入の柱
としている為、ホテル内にコンビニエンスストアを設置したりしているホテルも多く見受
けられる。以上の事を図示すると次の様になる。(図 4)
ショッピング施設
宿泊施設
会議場・ホール
ホテル
婚礼式場
飲食施設
美術館
オフィス施設
13
代表的なチェーンでは、ワシントンホテルグループ(本社・名古屋市)の宿泊特化型の
低価格ホテル「R&B」(部屋と朝食の意味)や APA ホテルグループ、東横イン等が挙げら
れる。
例えば「R&B」では、宿泊料金に朝食料金が含まれ、一泊+焼きたてパン・コーヒー・
ジュース等のモーニングサービス付きで 6400 円(東日本橋
税別・サービス料なし 2003
年 12 月現在)等の低価格となっている。その代わり、「R&B」では、歯ブラシやカミソリ
を置かず、リサイクル可能素材を使用した洗えるスリッパの設置やインテリアの一部に間
伐材を利用し、壁・床にリサイクルタイルを使用するなど徹底したコストのカットを行な
っている。 13)
こうした宿泊特化型ホテルが増加して来た背景としては、大きく分けて 3 点挙げられる。
今日の不況により、企業が出張費を抑制している事と、コンビニやファミリーレストラ
ンが増えて、ホテルに飲食サービスが必ずしも必要と無くなった事、そして、消費者の意
識の変化により、時と場合によって、価格志向でホテルを選ぶ事に抵抗感が無くなりつつ
あることも大きい。
極端な例を挙げれば、東京に来た旅行者が、宿泊施設は「モジュール型ホテル」を選ぶ
が、サントリーホールで小沢征爾氏の指揮するオーケストラを最高のグレードの席で聴き、
食事は、街の高級レストランで味わうといったケースである。低価格なホテルといえば「安
かろう悪かろう」であった時代と異なり、「モジュール型ホテル」が発達した今日では、十
分「快適・清潔さ・便利さ」を兼ね備えたホテルを利用シーンに応じて消費者が選択出来
るようになったのである。 14)
2. 新規参入の増加
この様に、「モジュール化型ホテル」は、「ビジネスマンの為のホテル=ビジネスホテル
等の低価格ホテル」という存在だけでなく、ファミリー層などの新たな利用者層を開拓し
た。その結果、市場が拡大し、新規参入も相次いでいる。
例えば、京王プラザホテル等のシティホテルを 4 店舗運営(多摩・八王子・札幌)して
いる京王電鉄は、非鉄道事業の柱として、宿泊特化型のホテルを福岡で出店したのを皮切
りに、首都圏で「プレッソ
イン」という名前のビジネスホテルを東京銀座(250 室規模・
シングルルーム 1 泊 7400 円
税別・サービス料なし・朝食無料サービス付)に 2002 年 2
月 22 日にオープンさせた。今後も、首都圏において、10 店前後の出店をチェーン展開し
14
て行く予定である。 15)
また、住宅産業界から参入してきた東急リロケーション株式会社が経営する東急スティ
は、「ホテルと住宅の長所を生かした新しいコンセプトのアパートメントホテル」を謳い、
東京都心部に「モジュール型ホテル」を現在までに 9 店舗(日本橋、新橋、渋谷新南口、
渋谷、四谷、門前仲町、目黒・祐天寺、蒲田、用賀)オープンさせている。(2003 年 12
月現在)
東急スティの特徴は、長期滞在の利用を主力に考えた施設と価格設定である。客室に電
子レンジ付のミニキッチンと乾燥機機能付きの全自動洗濯機、通信費無料の超高速インタ
ーネット専用線(100Mbps)等を常備し、客室面積も通常のビジネスホテルの約 2 倍の
18 ㎡∼37 ㎡
16)もの広さを持つタイプの客室も数多く揃えている。宿泊価格は、一泊でも
最低 6800 円∼(朝食付)と廉価な価格であるが、2 泊∼29 泊までは 5%引き、30 泊以上
になると 20%∼25%の割引が受けられる。 17)
更に、四谷にある東急スティでは、エグゼクティブをターゲットにして、1 ヶ月以上の
月額契約による「レジデンス」と呼ばれる高級シティホテルのスイート並みの設備を自負
する客室を、1 ヶ月 35 万円∼63 万円(41.6 ㎡∼62.55 ㎡) といった価格で提供している。
東急スティは、これまでのマンション建設等で養ったノウハウ
18)を生かすことで建築費
等のコストを抑えながら、十分な客室の広さや居心地の良さ等を前面に出した「モジュー
ル型ホテル」といえ、利用シーンは、一般の個人客以外に、企業がある一定の期間、人を
集中して業務(例えば、金融機関が経営統合する際のコンピューターシステムの組み直し
やゲームソフト開発等)を行う場合の拠点として利用されるケースも多くなってきている。
また、外資系企業の訪日ビジネスマンの利用も増えており、ホテル側もスタッフの 8 割が
英語を話せる人を配置するなど、従来、アーバンホテルがターゲットとしていた顧客層の
一部をも取り込もうとしている。
15
3. 競争の激化と既存のホテル市場へ与える影響
こうした「宿泊特化型ホテル=モジュール型ホテル」は、急激な供給増加によって、低
価格競争が一段と激化して来ていることも事実である。各ホテルは、建築コストの削減等
による初期投資の削減や、自動チェックイン機の導入・プリペイドカードの導入等による
人件費の削減、運営コストの引き下げなどを行ない、予約受付において手数料・低価格の
観点から旅行会社を通さないなどの低価格競争を支えるための各種の努力を行っている。
また、競争の激化に伴って、他のホテルとの差別化を図る為に「インターネットを使い
放題」等の付加価値を提供し、生き残りを計るホテルも登場してきている。
「モジュール型」ホテル市場においても今後、更なる競争の激化により競争力のないホ
テルの淘汰が始まるであろう。
一方で、時代の流れによってホテルに消費者が求める価値(役割)が変化して来た事に
より、増加しつつあるこれらの「モジュール型ホテル」は、ほぼ高級∼大衆的な「価値統
合型ホテル」しか無かった我が国のホテル業界に多大な影響を与え、市場を二極分化させ
た。
その為、ターゲット・セグメンテーション等の特徴が明確な「価値統合型ホテル」と宿
泊に特化し低価格を売りにする「モジュール化型ホテル」の間に挟まれたホテル群は、顧
客競争に苦戦し、収益力が低下している。
例えば、ホテル業界売上げ第 2 位の藤田観光が運営するビジネス中心の「ワシントンホ
テル」ブランドであり、この他にも藤田観光は、業績不振の「京都国際ホテル」等の関連
ホテルを売却・統廃合する方針を検討しているとも言われている。 19)
16
第2章
アーバンホテルを取り巻く環境の変化
第 1 章では、我が国ホテル市場の形成過程をビジネス・アーキテクチャの価値の「統
合化」と「モジュール化」という概念を基に考察した。
これにより分かった事は、「ホテル」は国策により導入され、その代表的な存在であ
る「帝国ホテル」の影響を強く受け、その後、誕生した多くのアーバンホテルが画一
的に必要以上な高級化路線の下でのレストランやショッピング施設等の「価値統合化」
を進めていったということである。高度成長期から近年までは、戦後、ホテルの主な
顧客となった一般大衆も「伝統と格式」に代表される豊かさを求めて贅沢な消費をし
たいというニーズをアーバンホテルに求め、そのニーズが法人需要や団体需要として
顕在化していたといえよう。
しかしながら、時代の変化と共に、安くとも水準以上の「価値モジュール型」ホテ
ルが誕生したことは、既存のアーバンホテル市場に大きな影響を与えている。個人が
利用シーン応じて選べる環境が整ったことで消費者のニーズにも変化が見られるよう
になりつつある。
本章では、こうした現在のアーバンホテル市場を取り巻く環境の変化について分析
する。そして、歴史的考察を踏まえた上での現在の構造的課題点(内的要因)と外資
系ホテルの急速な進出に代表される新たな課題点(外的要因)を明らかにすることで、
何故、「既存のアーバンホテルが自らの存在意義を再定義し、利用者に新たな価値を提
供して行かなければならないか」という問題について詳しく述べて行くこととする。
第1節
内的要因分析
1. 横ばい傾向の市場規模・増加するホテル数
自由時間デザイン協会の『レジャー白書』によると、我が国の国内旅行の参加人口、ホ
テル産業の市場規模は、国内旅行参加人口が 1991 年に 5.920 万人だったのが、1999 年に
は 5.600 万人、ホテルの市場規模が 1991 年には 9.860 億円だったのが、1999 年には 1 兆
円となっており、ほぼ横ばいの水準となっている。(図 5)
一方で旅館の市場規模は、規模としてはホテルを上回っているものの、1991 年から 1999
年に至るまで一貫して縮小傾向である。これは、消費者のライフスタイルの変化等により、
宿泊施設としての利用が旅館からホテルへとシフトして来ている為と思われる。
17
ホテル・旅館の市場規模
40000
(億円)
30000
20000
旅館
ホテル
10000
0
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
(年)
(図 5)<株式会社 矢野経済研究所 2001『レジャー産業白書』より>
ホテルの数は、戦後一貫して増加して来ている。1964 年度には、僅か 239 軒・客室数
22.083 しかなかったホテル数は、2001 年度には、8.363 軒・客室数 637.850 室にまで増
加した。
また、観光客が安心して泊まれる様に政府が施設面やサービス面などに優れた宿泊施設
として認定している政府登録ホテルは、2000 年時点で 1.085 軒と、1989 年度の 589 軒か
ら、ほぼ倍増している。(図 6)
東京都心地区においては、1990 年代以降、外資系ホテル以外にも、ホテルの進出が相次
いでいる。国内系ホテルのみを見ても 2002∼2003 年には、品川プリンスホテルエグゼク
ティブタワー(672 室)やセレスティンホテル(芝・243 室)、汐留の再開発地区にロイヤ
ルパーク汐留タワー(490 室)、パークホテル東京(274 室)が誕生し、更に、2003 年以
降には、ヴィラフォンテーヌ汐留(497 室)、東京プリンスホテルパークタワー(680 室)
等のホテルが新規開業を予定している。
この為、東京都内のホテル客室総数は、1988 年の約 6 万室から 2000 年には約 8 万 3000
室と、この 10 年余りの間に既に 40%近くも増加した。更に、今後 5 年間だけでも予定さ
れているホテルが開業すると、約 5000 室が新たに増加すると予測されている。 20)
以上のことから、戦後、我が国のホテルは質・量とも拡大の一途を辿ってきたものの、
1990 年以降は、ホテル数の増加に反して市場規模は横ばい傾向であり、特に東京都心地区
では、今後、競争環境がより厳しくなっていくのは確実と見られる。
18
ホテル件数の推移
(百軒)
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1989年
1991年
1993年
1995年
1997年
1999年
2001年
(図 6)<『日本ホテル年鑑』2003 年版より>
2. 偏りのある収益構造
ホテルの収入の内訳は通常、大きく分けて「宿泊」、「レストラン・バー」、「宴会」の 3
本柱から成り立っている。
国内系ホテルの収益構造は、全体的に外資系ホテルチェーンと比べて料理・飲料収入、
宴会の割合が高く、宿泊部門の割合が低いことが特徴である。
ホーワス・インターナショナルが 1997 年度に行った調査、「主要 20 ホテル経営分析」
(HOTERES1998 年 11 月 27 日)等によると、我が国の主要 20 ホテルの収入構成は、21.3%
が客室収入、39.4%が料理・飲料収入、その他の収入が 36.1%と料理・飲料収入の割合が
高くなっており、世界の国際ホテル平均値が宿泊部門・営業粗利益率約 71%、飲料部門約
23%と、宿泊部門の方が圧倒的に高比率となっているのと比較すると、国内系ホテルの収
益構造が飲料部門に依存していることが良く分かる。 21)
また、宴会セールスも活発で、宴会売り上げがレストラン・バーの収入を上回っている
ことから、個人客よりも法人客を重視して来たことも分かる。特に、高度成長期∼バブル
期を中心として日本のホテルのマーケティング≒宴会セールスという図式が成り立つほど、
国内系ホテルの飲料部門は、ホテル経営の収益を支える屋台骨の役割を果たし、法人宴会
の営業に力が注がれて来た。
しかし、この傾向には、近年の景気低迷による法人需要の減少等によって大きな変化が
現れつつあり、これが現在のホテル経営にとって大きな課題となりつつある。
日本の高級ホテルの代表とされる「帝国ホテル」・「ホテルニューオータニ」・「ホテルオ
ークラ」の「御三家ホテル」を事例にとっても収益構造の偏りは同様である。 22)
19
個別に「御三家」の各ホテルの営業状況を見てみる。以下、2003 年度版「日本ホテル年
鑑」付録のデータ資料集・2001 年版「日本ホテル年鑑 WEST」から各指標を分析してみ
る。1999 年の「御三家」各ホテルの営業状況は以下の通りである。(図 7)(図 8)
営業の状況(1)
ホテル名
(株)帝国ホテル (株)ニューオータニ (株)ホテルオークラ
項目
Ⅰ 客室
(1)客室利用率(%)
(2)客室数(室)
平均室料(円)
(3)平均客室売上高/1人当たり(円)
(4)1日当たり平均客室売上高(千円)
(5)1日当たり平均客数
(6)1室当たりの年間客室売上高(千円)
(7)邦人と外国人との割合(%)
邦人:外国人
Ⅱ 料理および飲食
(1)1人当たり/売上高<平均客単価>(円)
(2)1日当たり平均売上高(千円)
(3)1人当たり/平均料理・飲料原価(円)
(4)1日当たり平均客数(人)
(5)年間利用率<客席回転状況>(%)
Ⅲ 1日当たりの平均会社全体売上高(千円)
78
1,446
24,614
17,093
27,762
1,624
7,027
66.4
2,552
18,256
14,238
30,928
2,172
4,436
74.9
857
26,993
21,611
17,324
802
7,399
67.5:32.5
63.4:36.6
46.1:53.9
4,465
52,063
1,029
11,659
122.8
156,093
5,026
57,950
1,166
11,531
89.7
152,325
6,099
32,017
1,591
5,250
105.5
77,526
(図7)<*日本ホテル年鑑2001年版 WESTより作成>
営業の状況(2)
ホテル名 (株)帝国ホテル (株)ニューオータニ (株)ホテルオークラ
項目
Ⅰ 収入割合
(1)客室収入
(2)料理・飲料収入
(3)その他の収入
(4)営業外収入
合計
18.4
34.1
44.8
2.7
100
19.5
36.6
40.1
3.8
100
19.9
36.7
32.3
11.1
100
(図8)<*日本ホテル年鑑2001年版 WESTより作成>
図 7・図 8 から分かる通り、他の国内系ホテルと同様、「御三家」の各ホテルも収入割合
において客室収入の割合が極端に低く、いずれも全体の 20%以下になっている。
逆に、料理・飲料収入とその他の収入の割合は約 70%以上も占めている。
その結果、2001 年度の国内ホテルの飲料売上高ベスト 30 ホテルの内、帝国ホテル東京
は売上高 74 億 300 万円で第 2 位、ホテルニューオータニ東京は 59 億 6300 万円で第 3 位
20
と上位を占めている (ホテルオークラは 1999 年度データ実績 67 億 2500 万円で第 3 位)。
23)
「御三家」ホテルの全体的な収益性の特徴としては、帝国ホテルが客室部門と飲食部門
の両方においてバランスのよい体質であるのに対して、ホテルニューオータニは規模が大
きいが収益性が低く、ホテルオークラは外国人をメイン顧客に単価が高いということが分
かる。
次に「御三家ホテル」の経営分析を行ってみる。2003 年度版「日本ホテル年鑑」付録の
データ資料集によると、2001 年度の「御三家ホテル」の経営状況は以下の通りである。24)
有利子負債・キャッシュフロー分析
比率名
(株)帝国ホテル
(株)ホテルニューオータニ
(株)ホテルオークラ
売上高(千円)
56,516,000
55,248,991
45,481,951
当期経常利益(千円)
4,619,000
1,833,480
1,240,027
税引前当期利益額(千円)
4,090,000
600,537
△5,936,535
有利子負債総額(千円)
0
79,965,214
43,217,875
売上高有利子負債比率(%)
無借金
144.7
95
有利子負債経常利益倍率(倍)
無借金
43.6
34.9
営業活動によるキャッシュフロー(千円)
連結 4,385,000
連結 4,537,174
連結 3,504,906
投資活動によるキャッシュフロー(千円)
△2,032,000
△3,888,210
△4,263,048
財務活動によるキャッシュフロー(千円)
△442,000
△13,389,897
△211,861
(図 9)<『日本ホテル年鑑』(2003 年度版)付録のデータ資料集より>
ホテル業は、そもそも初期段階で数百億円以上の巨額な資金を投入し、その後、長期間
に及ぶ期間をかけて投下した資金を回収していくのが基本的なビジネスモデルである。そ
の為、昨今の厳しいデフレ経済下の状況下においては、当初計画した時点での客室収入や
料理飲料収入等を得る事が出来ず、資金回収のペースが鈍り、安定的にホテル業を経営し
て行くには困難な状況であるといわれている。こうした事が以下に説明する御三家各ホテ
ルのデータにも顕著に表れている。こうした点を踏まえて、各指標を見て行く。
まず、売上高では帝国ホテルは約 565 億円、ホテルニューオータニは 553 億円、ホテル
オークラは約 455 億円となっており、帝国ホテル、ホテルニューオータニは同規模、やや
小さい規模でホテルオークラが続くといった現状となっている。
有利子負債・キャッシュフロー分析で分かる重要な点は、帝国ホテルの飛び抜けた財務
の健全性である。売上高は 1 位、経常利益も 1 位、そして有利子負債は「0 円」と無借金
21
経営を行っている。有利子負債 0 円は、他業界の上場企業でも武田薬品工業(株)など一
部の優良企業に限られており、この事から、他業界と比較しても帝国ホテルの財務健全性
の高さが分かるといえよう。
一方でホテルニューオータニ、ホテルオークラの有利子負債は、それぞれ約 800 億円、
約 430 億円と過大なものとなっている。特にホテルニューオータニの有利子負債は、売上
高有利子負債比率は 144.7%、有利子負債経常利益倍率は 43.6 と非常に大きく、1 年の売
上高の約 1.5 倍もの有利子負債を抱えている。これは、これまで地元の要請や都市再開発
を通して、国内・海外各地に積極的に進出して来た拡大路線の投資が重くのしかかってい
る結果といえよう。過大な借入金により、積極的な拡大路線をとった結果、1999 年度に倒
産した(株)第一ホテルは、1999 年 3 月期に売上高有利子負債比率が 444%、経常損失
38 億 5400 万円にも達しており、有利子負債を抱えながら、積極路線を採るホテルは厳し
い経営環境に置かれているといえる。
収益性の分析 (図 10)
比率名
(株)帝国ホテル
(株)ホテルニューオータニ
(株)ホテルオークラ
総資本経常利益率(%)
7.7
1.4
1
売上高経常利益率(%)
8.2
3.3
2.7
総資本回転率(%)
0.94
0.41
0.37
固定資産回転率(回)
1.21
0.45
0.41
売上高営業利益率(回)
8
3.2
4.4
自己資本経常利益率(%)
12.5
6.3
2.9
売上高人件費率(%)
27.3
22.2
39.7
料理飲食原価率(%)
21.9
回答拒否
20.7
売上高減価償却比率(%)
4.8
6.3
5.7
売上高利子率(%)
無借金
3.1
2.7
G.O.P 売上高営業総利益率(%)
24
18.8
12.1
税引前当期利益(千円)
4,090,000
600,537
△5,936,535
売上高経常利益率(%)
14
12
10
8
6
4
2
自己資本経常利益率(%)
売上高営業利益率(%)
0
(株)帝国ホテル
(株)ホテルニューオータニ
(株)ホテルオークラ
総資本経常利益率(%)
(図 11)<『日本ホテル年鑑』(2003 年度版)付録のデータ資料集より作成>
22
収益性の分析でも帝国ホテルの健全性の高さが表れている。総資本経常利益率は他 2 ホ
テルの 5 倍以上、売上高経常利益率は 2 倍以上もの数字を上げており、売上高利子率も無
借金な為 0%と、こうした健全性を基にしっかりと税引前当期利益でも他 2 ホテルの約 7
倍以上の約 41 億円を計上している。
安全性(流動性)の分析 (図 12)
比率名
(株)帝国ホテル
(株)ホテルニューオータニ
(株)ホテルオークラ
流動比率(%)
156.8
25.4
54.3
固定比率(%)
126.5
426
262.7
固定長期適合率(%)
90.5
139.4
110.6
固定資産構成比率(%)
77.6
91.2
90.8
自己資本構成比率(%)
61.4
21.4
34.6
総資本借入金比率(%)
無借金
59
35.3
有形固定資産構成比率(%)
58.2
57.4
83.2
借入金利子率(%)
無借金
2.1
2.8
売掛債権回転率(回)
14.35
21.7
14.61
固定長期適合率(回)
19.71
回答拒否
8.95
総資産現預金比率(%)
13.8
3.2
4.5
流動比率(%)
300
275
250
225
200
175
150
125
総資本借入金比率(%)
自己資本構成比率(%)
100
75
50
25
0
(株)帝国ホテル
固定長期適合率(%)
固定比率(%)
(株)ホテルニューオータニ
(株)ホテルオークラ
(図 13)<『日本ホテル年鑑』(2003 年度版)付録のデータ資料集より作成>
安全性の分析でも帝国ホテルの優位性は揺らがない。有利子負債 0 円は他業界の上場各
社と比較しても飛び抜けた健全性を持ち、総資本借入金比率は無借金の為 0 円、自己資本
構成比率は 61.4%と高い安全性を誇る。一方で、ホテルオークラは、総資本借入金比率が
35.3%、自己資本構成比率が 34.6%と、安全性では、ホテル業界内の他の各ホテル企業と
比較して、まずまずの数値を保っているものの、ホテルニューオータニは、総資本借入金
比率が 59%(倒産した第一ホテルは 84%)、固定比率が 426%と高くなっており、自己資
本構成比率は 21.4%と低い事から高い安全性を持ちえていない経営環境にあるといえる。
23
生産性・その他データ
比率名
(株)帝国ホテル
(株)ホテルニューオータニ
(株)ホテルオークラ
純生産性(千円)
2,806
1,051
553
1 株当たりの配当額(円)
15
6.00(額面 50 円換算)
5.00(額面 50 円換算)
1 株当たりの税引後当期利益
(円)
78.55
8.70(額面 50 円換算)
△95.41(額面 50 円換算)
1 株当たりの純資産額(円)
1,245.17
420.77(額面 50 円換算)
701.38(額面 50 円換算)
1 室当たりの従業員数(人)
1.1
0.7
1.1
平均給与月額(円)
546,832
440,380
495,501
(図 14)<『日本ホテル年鑑』(2003 年度版)付録のデータ資料集より>
最後に生産性に関する分析を見てみる。ここでも帝国ホテルが純生産性の指標で他の 2
ホテルと比較して約 2.7 倍∼約 5.1 倍もの高い生産性を上げている。また、こうした高い
生産性と財務の健全性を保ちながらも、他の 2 ホテルと比べて平均給与額では高い水準で
ある事も大きな特徴であるといえよう。
以上のデータ分析から分かる事は、現状の経営環境下において、帝国ホテルの様にバブ
ル経済期において多店舗化や海外進出を抑えて、過大な積極的拡大路線を採らず、着実に
自己資金の範囲内での設備投資や顧客への営業努力、本業重視を行って来たアーバンホテ
ルが好調な業績と、高い安全性と、生産性、財務的健全性を誇っているのに対し、拡大路
線を採って来たアーバンホテルほど厳しい経営状況に置かれ、安全性や生産性、財務的健
全性が低下している事実である。この拡大路線を採るアーバンホテルと帝国ホテルの様な
地道な路線を採って来たアーバンホテルとの違いは、第 3 章第 2 節の「顧客を取り込むホ
テル」のブランド戦略についての部分でも後述する。
24
3. 重要度を増す立地特性(ホテル事業の特性)
本来、ホテルはその立地特性や抱える人口・特徴など進出する場所が非常に重要である。
その理由として、ホテル事業の 2 つの商品特性が挙げられる。柳田義男の『大手民鉄の
ホテル戦略』(交通新聞社)等によると、すなわち、ホテルが消費者に提供する価値の基本
的な本質は、①人手を介して提供されるサービスと、②立地を含めた施設そのものの機能
の 2 つとされる。この 2 つを含んだものが消費者へ提供される価値の源泉であるといえよ
う。一方でこの事は、ホテルが提供する価値が A.供給場所の限定性と固定性、B.供給量の
限定性と固定性等により定められるという事をも意味する。
つまり、A.供給場所の限定性と固定性とは、外商の物販等の一部サービスを除いて、商
品・サービスを提供する場所が基本的にホテル施設そのものに限定的に固定されてしまう
という事であり、ホテルまで利用者に来て貰わなければ価値を提供出来ないという特性を
持っているという事である。
また同時に、ホテルが提供する商品・サービスが時間と空間という性質を持つ為、ホテ
ルが利用者に対して同時に提供できる客室や宴会場、レストラン等の空間は、施設の規模
に左右され、保有する空間以上のものを同時には提供出来ず、需要の多寡に応じて供給量
を調整するという柔軟性を持ちえない B.供給量の限定性と固定性をいう特性を抱えてい
るのである。この事が、一般的にホテル事業が資本集約的な装置産業であるといわれる所
以である。
従って上記の理由から、本来、ホテルの進出計画を立てる時は、オーナーもしくは投資
家によって最終的にホテルを開業の是非を判断する為に、フィージビリティー=スタディ
ー(Feasibility Study)と呼ばれる各地域の調査・ホテル市場調査(競合ホテル分析)・
計画ホテルのタイプ選択・収支予測などの事業化可能性調査が詳細に行われる必要がある。
この事業化可能性調査を正確に行なったかどうかで開業後の客室稼働率などの利用状況や
業績動向は大きく変化して来る為、初期投資に数百億円以上を投じ、数十年かけて回収し
ていくホテル業のビジネスモデルにとって、この作業は極めて重要なものであると言えよ
う。
また、ホテル事業の経営上の不動産業的視点(土地建物の所有)から見ても、バブル崩
壊以降、不動産価格の下落が続く中で、土地資産という観点からいかに優良な場所にホテ
ルを開業させるかは非常に重要な点であり、ホテル経営の成否の大きな鍵となっている。
以上の点を踏まえて、『レジャー産業白書』(2001)を見てみると、1999 年度における
25
主要加盟ホテルの赤字施設の割合は、42.2%、加盟旅館の赤字施設の割合は 50.6%とほぼ
半分の施設が赤字の状態である。
これをホテルに注目して地域別に見ると、京浜地区が対象 35 ホテルの内、赤字ホテル
が僅か 8 施設しかないのに対して、地方都市では、対象 121 のうち、57 施設とほぼ半数
のホテルが赤字である。昨今の不況下では、地方都市の方がより厳しい現実となっている。
(図 15)
これは今まで、地方にホテルが進出する場合、フィージビリティー=スタディーよりも
政治的背景等によって進出が決まったホテルが相当数あることも原因の 1 つであり、当初、
我が国が「国」主導でホテル市場が成長して来たことの負の遺産ともいえる。
地域別の黒字ホテルと赤字ホテルの比率(99年度)
対象ホテル 黒字ホテル 赤字ホテル
赤字率(%)
96年度 97年度 98年度
99年度
全国
223
129
94
52.2
61.2
54.8
42.2
京浜
35
27
8
34.1
57.8
56
22.8
京阪神
32
20
12
54.8
65.9
58.3
37.5
地方都市
121
64
57
50.3
62.2
54.6
47.1
リゾート
35
18
17
76.9
56.8
50
48.6
出典:日本ホテル協会
(図15)
また、東京都心地区のホテルの利用状況を調査するために日経流通新聞が 2001 年 10 月
2 日に東京銀座の 20∼30 代の女性 100 人を対象に行った結果を見ても、利用するホテル
を選ぶ理由として第 2 位に「利便性の良い立地」を重視するとの回答が寄せられており、
今後、利用者から選択してもらう為にも立地特性を理解し、生かしていくことが必要であ
る。従って、各アーバンホテルにとって、利用者のニーズ分析をする事は、極めて重要で
あると言えよう。
26
4. 宿泊料金の値引き競争激化
元来、ホテルが利用者に提供する一番基本的な価値である、宿泊部門においても、競争
激化による収益環境の悪化の波が到来している。
通常、ホテルの宿泊料金には、ラックレートと呼ばれる正規料金とビジネスプランやコ
ーポレートレート、ホテル独自のパックプラン等の 2 本立てで価格設定がなされており、
正規料金の値段は「ホテルのグレード」を表すものとしての重要な意味合いも持っている。
例えば、1 日の宿泊の室料は、千代田区紀尾井町にあるホテルニューオータニ東京はガ
ーデンスイートが 18 万円、虎ノ門にあるホテルオークラのインペリアルスイートが 50 万、
恵比寿にあるウェスティンホテル東京のインペリアルスイートが 42 万円、港区高輪にあ
るホテルパシフィック東京のスイートルーム(3 ルームタイプ)が 10 万円とそれぞれのホ
テルのグレードや立地によって宿泊料金は異なってくる。
また、通常、同一のアーバンホテルでは、低廉な価格から(ウェスティンホテル東京は
スタンダードルームの 1 日の宿泊室料は 34.000 円)、スイートルームの高価格まで幅広い
価格帯のタイプを揃えており、フロントオペレーションのノウハウが進んだ外資系ホテル
は、「Yield Management」 25)と呼ばれるシステムを導入し、高価格帯∼低価格帯、季節、
ターゲット、曜日等のそれぞれに応じて対応出来る料金体系を備え、数十以上に渡る販売
チャネルを持っている。
しかし、ほとんどの既存の国内アーバンホテルにおいては、この「Yield Management」
システムは導入されていない。
こうした状況の中、インターネットの普及によって自社 HP を立ち上げたり、「旅の窓
口」といった宿泊予約サイトが充実して来たことにより、個人客に対して直販や販売チャ
ネルの拡大が図れるようになった事で、近年、アーバンホテルはデフレや不況の中で、個
人客を獲得しようと「レディースプラン」等、多くのパックプランを打ち出している。
その結果、例えば、「フォーシーズンズホテル椿山荘」では、正規料金で宿泊すると通
常 5 万 300 円(シングル)するものが、インターネットのホテル予約サイト「一休ドット
コム」を利用すると一泊朝食付(サービス料込)と、50%以上割引の 25.000 円で
26)宿泊
が可能になるといったケースが増えて来ている。
同様に、既存の国内アーバンホテルでも、需要がオフピークとなる日を中心に低価格の
パッケージ商品が導入されるようになった。
中でも、1994 年から始まった帝国ホテル東京の「レディースプラン」は大人気商品とな
27
った。当初、帝国ホテル東京に隣接する丸の内のオフィス街で働く OL 等の女性グループ
をターゲットとして誕生したこのプランは、ホテルの法人需要が落ち込む金曜日の夜に、
東京都心においてゆっくりと食事や映画・コンサート等を鑑賞してもらい優雅な週末を過
ごしてもらうことで、女性個人客の開拓を目指したものであった。 27)
この「レディースプラン」は、大反響を呼び、当初の予想ターゲットの OL や若い世代
の女性のみならず、40∼50 代の主婦層の掘り起こしにも成功し、その後、現在では、グル
ープではなく、1 人でのんびりとストレスを解消させることを目的として来る個人客とい
う新たな市場をも作り出している。
しかし、上記のような「パックプラン」の導入は個人市場を開拓する一方で、アーバン
ホテルの経営にとって必ずしもプラス面ばかりではない。
例えば、客室やレストランの稼働率は上昇するものの、「パックプラン」が低価格商品
である為、客室単価等は上昇しにくく、レストラン等の利用もホテル内ではなく外のお店
で行い、プランに付属するサービスのみを賢く利用する利用者が登場したことで、「パック
プラン」の導入によっては、なかなか収益が改善しなかったのである。また、当初、こう
した「割引プラン」がホテル市場で一般化する前には、正規料金で宿泊する顧客からの苦
情等もあった。
更に大きな問題は、他のアーバンホテルも続々と類似の「低価格パックプラン」を投入
したことにより、価格競争に陥りやすくなったことである。不況による消費の落ち込みと
東京への相次ぐ新規ホテルの進出により、既存のアーバンホテルは顧客を獲得する為に前
述した新たな販売チャネル等を利用して実質的な価格の引き下げを行ったのである。これ
により、現在では、正規料金の存在意義自体は低下し、顧客獲得の為に激しい低価格競争
が行われている。
その結果、客室稼働率は向上したとしても、あるいは維持出来たとしても、収益性は低
下し、ホテル経営にとって厳しい競争環境となっているのが実状である。
但し、外資系ホテルは Yield Management システムを導入し、1 室あたりの収益を最大
化することを考えながら、「低価格パックプラン」を市場に投入していることもあり、上手
くこうした「低価格パックプラン」を使い分けているように見受けられる。
例えば、Yield Management システムに基づいて、ある日の予約予想が低調な場合は全
ての価格帯の予約を受け入れ、逆に予約予想が好調であれば、低価格帯の予約を売りやめ、
高価格帯の予約のみを受け入れるというようにするといった具合である。
28
こうした仕組みによって客室単価を高くし、収益の向上を図っているのである。
以上のことを裏付けるように、1 日 1 室あたりの客室売上高の指標は、外資系アーバン
ホテルが上位を占めている。2001 年度の第 1 位は、パークハイアット東京の 42.065 円、
ウェスティンホテル東京も第 4 位の 27.234 円である。一方で国内アーバンホテルは、帝
国ホテル東京が第 9 位で 22.329 円、ホテルニューオータニ東京に至っては第 37 位 13.963
円で外資系アーバンホテルの約 2 分の 1∼3 分の 1 以下と大きく差をつけられてしまって
いる。(ホテルオークラは 1999 年度第 9 位で 20.145 円) 28)
インターネットの発達により、ホテル側にとっては消費者への販売チャネルが増えた一
方、自らのホテルの明確な独自性・強みや、客室販売における戦略・手法を持たない既存
のアーバンホテルは、厳しい価格競争に晒される様になって来た。
そして、そこには、選択肢の増えた個人消費者の厳しい視線が注がれているといえよう。
この点については、第 2 節の外的要因(2)外資系ホテルチェーンの参入で顕著になった
企業業績の二極分化の項においても後述する。
第2節
外的要因分析
1. 二極分化するホテル業界
(1)モジュール型ホテルの発展に伴う市場の二極分化
近年の我が国におけるホテル市場の特徴は、二極分化の傾向が強まっていることである。
シティホテルが商品や機能を多角化して様々な付加価値をつけているのに対して、ホテル
を宿泊の為にできるだけ安く利用したいという消費者のニーズは根強く、そうしたニーズ
に応えるために前述したようなワシントンホテルグループに代表される「ホテルのコンビ
ニ」を目指して、宿泊特化型ホテル「R&B」(部屋と朝食を意味する)を展開し始めた企
業が続々と進出している。
例えばワシントンホテルでは、2003 年 12 月現在で全国に 16 店舗、更に年間に 10 店舗
前後を出店させ、将来、100 店舗を開業する事を目指している。
一方では、外資系を中心としてラグジュアリー(luxury)と呼ばれる最高級価格帯のホ
テルが数多く建設される予定で、今後数年だけでも大量の供給が見込まれており、その代
表例が東京都心地区である。
29
(2)外資系ホテルチェーンの参入で顕著になった企業業績の二極分化
市場の二極分化は企業の業績にも大きな影響を与えている。
東京地区(京浜)における日本ホテル協会加盟主要ホテルの客室利用状況は、日本ホテ
ル協会の調査によると、バブル期の 1990 年頃には 84.9%と高い水準にあったが、バブル
が崩壊した後の 1995 年頃には 69.2%まで低下した。その後は改善し、住友信託銀行の『調
査月報』(2003 年 12 月号)によると、2003 年上半期時点までの東京地区の主要なホテル
の客室稼働率は、70%弱∼80%強の水準で推移している。 29)(図 16)
<主要ホテルの客室稼動率の推移>
(図 16)<住友信託銀行『調査月報』(2003 年 12 月号)より>
以下、近年、我が国に参入して来た外資系ホテルの代表的存在の「新御三家」(フォーシ
ーズンズホテル椿山荘・パークハイアット東京・ウェスティンホテル東京)と既存の国内
系ホテルを代表する「御三家」(帝国ホテル東京・ホテルニューオータニ東京・ホテルオー
クラ東京)を事例に説明してみたい。
外資系ホテルの代表である「新御三家」は、『日本ホテル年鑑』(2003 年度版)・住友信
託銀行の『調査月報』(2003 年 12 月号)によると、2001 年度の客室稼働率がパークハイ
アット東京は 88.3%、ウェスティンホテル東京が 83.1%(フォーシーズンズホテル椿山荘
は非公開)と好調である。2002 年度の実績でも米同時多発テロに伴う外国人ビジネスマン
減少の影響を受ける厳しい環境の中、ウェスティンホテル東京は、同 83.3%、パークハイ
アット東京は同 84.9%と好調を維持している。 30)
一方で、「御三家」の 2001 年度の客室稼働率は、帝国ホテル東京が 81.0%と唯一健闘し
ているものの、ホテルニューオータニ東京は同 63.8%、ホテルオークラ東京は 1999 年度
30
データで 74.9%であった。また、2002 年度の実績を見ても帝国ホテル東京が同 80.4%、ホ
テルニューオータニ東京が 63.1%と改善せず、帝国ホテルを除いて、「新御三家」と比較
して低稼働率となっており、対照的に苦戦を強いられている。
この他にも「御三家」は、他の業績指標を見ても、帝国ホテルが 1 強として国内系既存
アーバンホテルの中で気を吐くものの、他の「御三家」2 ホテルを初めとした既存の国内
系アーバンホテルは厳しい経営環境が続いている。
例えば、ADR(実質客室単価)31)と呼ばれる客室当たりの収益力の高さを分析する指標
では、2002 年度の実績で、帝国ホテルが 27.925 円、ホテルニューオータニが 20.691 円
となっているのに対し、パークハイアット東京は 50.616 円、ウェスティンホテル東京は
32.305 円と外資系の「新御三家ホテル」の収益力の高さが際立っている。また、図 17 を
見ても分かる様に、ADR をパークハイアット東京が 2000 年度と比較して 5.000 円余り、
ウェスティンホテル東京も約 800 円、上昇させて収益力を向上させているのに対し、ホテ
ルニューオータニは約 6.000 円も収益力を落としている。これは、価格競争に巻き込まれ、
客単価を下げる事により、何とか客室稼働率を維持せざるを得ないホテルとパークハイア
ット東京の様に、4 年連続客室料金を値上げしても十分な高客室稼働率を維持できる競争
力のあるホテルとの 2 極分化が進みつつある現在の市場状況を示すものであろう。つまり、
前述した様に、利用者の増大がない中でのアーバンホテル間の顧客獲得競争は、ゼロサム
競争となり、こうした競争環境下においては、各ホテルのブランド力が、顧客を獲得・維
持する為に極めて重要な役割を果たすと言える。その結果、顧客を獲得・維持出来たアー
バンホテルは高い収益性(ADR:実質客室単価)を挙げる事が出来るが、一方で明確な差
別化や強みを持って顧客へのブランド力を維持出来なかったホテルは収益性が低下し、厳
しい経営環境に置かれてしまうのである。
31
<東京都心のアーバンホテル客室部門の業績推移>
(図 17)<住友信託銀行『調査月報』(2003 年 12 月号)より>
2. アーバンホテルの利用者ニーズの変化
(1)法人から個人へ
アーバンホテルを利用する顧客層の変化はホテル市場へ大きな影響を与えた。特に、高
度成長期以降、それまでホテルのメインターゲットであった法人客の利用は、バブル崩壊
を機に減少傾向にある。法人需要をメインターゲットとしてきたホテルの宴会での客単価
は、1990 年代前半のバブル期の約半分に低下しているともいわれ
32) 、例えばホテルオー
クラは大型宴会の受注が「バブル期の 1 割」と大幅な減少になっているのである。 33)
また、日本旅行業協会が行った「第 10 回 JTAT 旅行商品動向調査」によると、一貫し
て団体旅行の減少が目立ち、代わって熟年層やシルバー層を中心として OL やファミリー
層などの個人旅行が増加傾向にある。
つまり、法人需要の回復見込みが立たない中で、現在、ホテル側は、近年、増加傾向に
ある個人客をどのようにして獲得するかが重要な課題となっている。これはすなわち、サ
ービス業としてマーケティング戦略が従来にも増して重要となっているという事である。
以下、法人客から個人客がメインターゲットへと移り変わりつつあるホテルに対する消
費者の動向を主に個人客のニーズを中心に見ていくこととする。
『観光白書』(平成 15 年)等によると、日本人消費者の国内宿泊旅行に対するニーズは、
国民 1 人当たり平成 14 年の平均宿泊旅行回数は 2.49 回、宿泊数は 4.65 回となっている。
共にここ数年は、ほぼ横ばい状態である。
宿泊する目的(国内旅行)は、観光がと兼観光があわせて 52.9%、家事・規制が 22.4%、
32
業務が 19.6%、その他が 5.1%となっており、国民全体では、1 年に約 6 億 2.900 万泊も
の宿泊をしている。更にこのうち、観光と兼観光をあわせた宿泊観光・レクリエーション
旅行の回数は、国民 1 人当たり平均 1.55 回、宿泊数 2.63 泊で消費額は約 6 万 4.700 円で
ある。また、月別では、8 月が高く、年間の 13.6%を占めている。これは、ホテルにとっ
て需要の波が存在するという事であり、前述したホテル業の特性を踏まえると、常に客室
稼働率を標準化する事を求められるホテル側にとっては、大きな課題の 1 つとなっている。
1 世帯当たりの旅行関連支出は 14 万 6.216 円で、その内、宿泊に費やす金額は、9 万
3.763 円となっている。(図 18) 34)
また、近年では、都市の持つ複合的な機能や各種の文化、情報の発信機能そのものが観
光魅力の対象となり、都市型観光も人気を集めていることが特徴的である。これは、例え
ば、舞台やミュージカル、オーケストラの公演を聴くためや、フジテレビがあるお台場地
区に観光を目的として、地方から観光客が上京してくるようなケースである。
今後の消費者のレジャーに対するニーズの見通しは、他の住生活、食生活、耐久消費財
と比べ、レジャー・余暇生活の方が高くなっており、消費者が生活の中で、レジャー・余
暇生活に対して大きなニーズを持っている事が分かる。しかしながら一方では、国内旅行
の参加人口・ホテルの市場規模は共に、1991 年からの約 10 年間で増加していない。
これがバブル崩壊後の長期不況を受けて消費者の個人消費が低迷している影響であり、
旅行自体を控え、一回当たりの支出を抑えるという旅行の安・近・短現象である。にも関
わらず、新規のホテル供給は次々と進められており、こうした現状を踏まえると、ホテル
に取っては今後も厳しい市場環境が続くと言えよう。
今後、東京のアーバンホテルが生き残っていく為には、後述する、個人客の確保と、新
規市場の開拓として、2002 年時点で僅か 524 万人と、先進各国と比較して低迷している
外国人観光客の取り込みが、重要な課題となってくると言えるのではないだろうか。
(図 18)<平成 13 年『観光白書』より>
33
(2)アーバンホテルに対する新しい個人需要
一方、ここ数年、東京都心地区にある外資系高級ホテルを中心としたアーバンホテルに、
東京圏に住む都市住民が泊まり、疲れを癒すという「新たな需要」が誕生しつつある。
この現象は、1990 年代始めに不況のどん底であった米国でも起きており、精神的なスト
レス解消を売り込んだ高級ホテルが成功した先行事例があるのだが、現在、日本でも同じ
ような現象が起きているのである。
例えば、日本人客の 8 割がリゾート目的という、パークハイアット東京では、近場から
1 人で来るリゾート目的の宿泊客が前年比 2 割増
35)と急成長している。
更に注目すべきなのは、こうした需要を支えているのが、高所得者層ではなく、一般大
衆であるという事である。一泊数万円もする高級ホテルを利用しているのは、若い OL や
家族連れ、会社員などであり、「外資系ホテルみたいな豪華なホテルは買えないが、5.6 万
円なら払える。刺激を受けられるので全然惜しくない」(千葉県市川市在住女性会社員 34
歳) 36)といった人々がこうした高級ホテルを、疲れずに行ける身近な場所にあり、非日常
的な空間に浸れる存在として利用しているのである。
こうした現象は、現代の消費者が物(財)を購入するというだけでなく、自らに空間や
雰囲気、時間を含めたサービスを受けたいというニーズが増大している現状と、消費者の
ライフスタイルの変化を示しているものであると言えよう。
アーバンホテル側もこうした新しいニーズに応えるべく、前述した帝国ホテル東京の「レ
ディースプラン」のような様々なパッケージプランを用意するようになった。
3. 国際都市「東京」の抱える課題(低迷する外国人旅行者)
世界の重要な一拠点としての国際都市「東京」に存在するアーバンホテルにとっては、
海外から訪れるビジネス客・観光客も重要な顧客である。
世界から我が国を訪れる外国人旅行者は、サッカーの日韓ワールドカップが行われた
2002 年のデータによると、訪日外国人旅行者数は、過去最高の 524 万人(対前年比 9.8%
増)となり、過去最高を記録した。中でも、アジア地域からの訪日旅行者数が増えており、
国・地域別では、1 位の韓国 127 万人を初めとして、2 位の台湾 88 万人、中国 45 万人な
ど、全体の約 3 分の 2 を占めている。(アメリカは 73 万人で第 3 位)
しかし他の先進諸国と比べると、我が国に外国から訪ねてくる旅行者数の数は少なく、
我が国から海外に多くの旅行者を送り出しているのに比べ、受け入れている外国人旅行者
34
の数は他の諸外国と比較して低水準であり、世界の中で第 35 位(2001 年)と低迷してい
る。 37)特に東京は世界の各主要都市との比較でも外国人旅行者が年間 1000 万人以上訪れ
る香港・ロンドン・パリの約 3 分 1 以下と最低ランクに位置しているのが現状である。38)
訪日の理由としては、観光が 256 万人(訪日外国人全体に占める比率 57.7%)、業務そ
の他が 175 万人となっており、訪問地は、1 東京・2 大阪・3 京都・4 神奈川の順となって
いる。
また、WTO(World Tourism Organization)によると、1996 年度における世界の国際
観光客数(観光・商用)と国際観光収入は、観光客数が 5 億 9200 万人、観光収入が US
$4.231 億ドル(約 50 兆 7.000 億円)となっており、内訳で見ると、欧米が観光客数で世
界の 78.2%、観光集収入で 75.8%を占めており、世界を圧倒的にリードする形となってい
る。
世界第 2 位の経済大国である我が国は、約 524 万人という僅かな人数しか、世界から外
国人旅行者を受け入れられておらず、厳しい現状に置かれているといえよう。
更に、世界における国際都市「東京」の都市間競争力に関しても東京都心地区のアーバ
ンホテルは不利な点を負っている。
国際空港の成田空港は、東京都心から 1 時間以上かかり、交通費や飲食費、通信費等の
物価も他の世界各国の都市と比べて、香港の約 1.2 倍近く、ロンドンの約 1.35 倍、ニュー
ヨークの約 1.4 倍近く、北京・シンガポールの約 1.4 倍も高い。 39)
こうした現状は、グ
ローバル経済が浸透した今日では、東京都心地区のアーバンホテルにとっても大きな弱み
となっている。その理由として、例えば、グローバル企業が世界各国の現地法人の社長等
のエグゼクティブを集めた会議をアジアで開催しようとした場合、東京ではなく、時間と
コストの節約が可能な他のアジア諸国を選んでしまうというケースが増大していることに
も表れている。
国際都市「東京」に立地する東京都心地区のアーバンホテルは、今後、厳しい条件の中
で、香港・シンガポール、そして中国のアーバンホテルとの競争にも打ち勝っていかなけ
ればならないのである。
35
4. 外資系ホテルチェーンの参入
(1)進出の背景
世界のホテル収入は 1996 年時点で US$2.500 億ドル(約 30 兆円)という巨大な市場
規模を誇っており、アメリカを中心とした巨大なチェーンホテルが合併や提携等により全
世界に次々と勢力を拡大しつつある。世界のホテルカンパニー上位 10 社のうち、アメリ
カのホテルは 9 社を占めている。(図 19)
こうした世界市場の流れの中で、国際都市「東京」はこれまで、外資系ホテルチェーン
にとって未開拓な市場であった。(図 20)
しかし、世界第 2 位の経済大国の首都としての潜在的魅力
40) と、バブル崩壊後に土地価
格等が下落した事によるホテル開業の為のコスト低減化、ラグジュアリー(最高級価格帯)
ホテルが比較的まだ少ない事によるビジネスチャンスを背景に、東京へここ数年、急速に
外資系ホテルチェーンが上陸しつつある。
東京における国際級ホテルブランド(仏アコー、米マリオット・インターナショナル、
英シックス・コンチネンツ、米スターウッドホテル&リゾーツ)の集積度を、世界の大都
市であるニューヨークやロンドン、パリと比較すると、約 25%∼50%以下であり、こうし
た状況を受け、1990 年代以降、「新御三家」と呼ばれるホテルを代表として、次々と外資
系ホテルが誕生して来た。2002 年には「フォーシーズンズホテル丸の内」が、2003 年に
は「グランドハイアット東京」(390 室)が開業し、更に 2006 年にかけても、「セントレ
ジス」(約 300 室)、「マンダリン・オリエンタル東京」(約 200 室)、「ザ・ペニンシュラ・
トーキョー」(約 300 室)等々の新たな進出が予定されており、今後、外資系ホテルチェ
ーンは東京へ続々と新規の進出を計画している。これによって、我が国のホテル市場も他
の産業と同じく本格的なグローバル競争の時代に入ったといえよう。
36
(2)外資系ホテルチェーンの持つ強み
こうして我が国には 1990 年代以降、外資系ホテルが続々と進出し、市場において地位
を確立している訳であるが、その理由として、ブランド力の差異が指摘されている。しか
し、外資系ホテルの好調を支える本当の強みとは、ブランド力を支える独自の運営システ
ムのノウハウとそれを支える人材の供給システムがしっかりと整えられている点にある。
以下、外資系ホテルチェーンの持つ強みについて見ていく。
新規ホテル開業・開設に当たっては、綿密な「マーケティングリサーチ」がなされ、そ
れを支えるべく「経営・運営ノウハウ」や「人材の供給」がシステムとして強みを発揮し
ている。
例えば、近年、東京都心地区に進出してきたホテル、及び、今後数年で進出予定のホテ
ルの多くは、「ラグジュアリーホテル」と呼ばれる最高級価格帯のホテルである。現在、東
京には、この価格帯のホテルは世界各国の都市と比べて少ないとされる。例えば、全世界
レベルで比較して、世界のベストホテルといったランキングが示される場合、既存の国内
系アーバンホテルが上位にランクインする事はほとんどなく、フォーシーズンズホテル椿
山荘等の外資系ホテルが僅かにランキングに名を連ねるといった現状からも、その実状が
窺えよう。 41)外資系ホテルチェーンはこのカテゴリーの市場にビジネスチャンスがあると
捉え、積極的に進出して来ているのである。これらのホテルの特徴としては、ターゲット
を外国人ビジネスマンと日本の個人客をメインとし、従来の「御三家」ホテルと比較して、
飲料施設や宴会場は少なく設定してある点が挙げられる。
その為、法人・多人数需要を満たすために重要な「最大宴会場面積」に関しても、帝国
ホテルは 1965 ㎡、ホテルオークラ東京は 1713 ㎡、ホテルニューオータニ東京 2452 ㎡と
広い宴会場を完備しているのに対して、フォーシーズンズホテル椿山荘が 634 ㎡、パーク
ハイアット東京が 405 ㎡、グランドハイアット東京が 1000 ㎡、2003 年以降に進出予定の
セントレジスが 800 ㎡といずれも巨大な宴会施設を設けていない。
一方では、滞在中にくつろげることを重視し、フィットネス施設やリラクゼーション施
設、こだわりを持った空間作りに力を入れて、メインターゲットの外国人エグゼクティブ・
ビジネスマンや、前述の個人顧客のアーバンリゾート需要に対応する設備とサービス体制
を整えている。
また、外資系ホテルチェーンの多くは、価格帯やターゲットを分けたサービス内容の異
なる業態(ブランド)を複数持っており、進出目的応じたホテルの出店計画が可能になっ
37
ている。
例えば、我が国でも人気が高い「ハイアット
ホテルズ&リゾーツ(米)」の場合は、
A.ハイアット=リージェンシー
B.グランド=ハイアット
C.パーク=ハイアット
D.スパ&リゾーツ
という 4 つのブランドを持っており、
基本的に価格帯は 4 つとも最高級価格帯に属しているものの、A.ハイアット=リージェ
ンシーは地方都市にも展開しビジネスからレジャーまで幅広くターゲットとするスタンダ
ードホテルであり、B.グランド=ハイアットは国際都市の一等地の繁華街に立地しキャパ
シティが大きく中心的な存在となるホテルを目指す最高級フラッグシップ・ブランドであ
る。
反対に、C.パーク=ハイアットは「国際都市の喧騒の中にある隠れ家」というコンセプ
トを持っており、その為客室数が少なく、ゆったりとした作りになっている。D.スパ&リ
ゾーツは文字通りリゾート地に展開するハイアットホテルのことである。
近年、我が国に数多く進出して来たハイアット系のホテルを上記のコンセプトに当ては
めてみると、A.ハイアット=リージェンシーは、福岡の博多駅近辺地区や大阪等に、B.グ
ランド=ハイアットは福岡のキャナルシティと呼ばれる再開発地区(商業集積地区)や
2003 年 4 月に誕生した六本木ヒルズに進出している。
C.パーク=ハイアットは、東京の JR 新宿駅徒歩 12 分の新宿中央公園そばに立地し、大
都会の喧騒とは離れ、ゆったりとした邸宅のような空間のようなホテルとして差別化が図
られている。
以上のような事を見ても分かるように、ホテルチェーン全体として、ターゲットや進出
目的を明確にした上で、同じホテルチェーン内の個々のホテルが競合しないように配慮し
ているのである。これは、外資系企業のブランド戦略の強さがサービス業においても見ら
れる事の証であろう。
更に、こうしたターゲットを明確にしたホテル作りが可能な背景として、経営ノウハウ
の点では、外資系ホテルチェーンの多くが、「所有」と「運営」の 2 つにホテルビジネス
を分けて考えていることも大きいであろう。
38
例えば、「ヒルトン・インターナショナル(米)」の場合は、全世界のホテルを「直営」、
「リース」、「マネジメント=コントラクト(管理運営受託)」、「フランチャイズ」等の 5
つの運営方式で行っている。全 1985 ホテルのうち、直営のホテルは僅か 78 ホテルにしか
すぎず、1492 ものホテルはフランチャイズで運営がなされている。これは、ホテルチェー
ン側にとってホテル出店の際に多大な資金を必要とせず、迅速に出店する事を可能にし、
フランチャイジーから安定的なロイヤリティ収入を得られることで全世界へ多くのホテル
を拡大させていくことに大きく役立っている。
これまで我が国に進出してきた外資系ホテルの中では、フォーシーズンズホテルズ&リ
ゾーツは、藤田観光(椿山荘)とフランチャイズ契約を結んでいるが、加盟金やロイヤル
ティを得るのみで、事業リスクを負うことはなく、また、ハイアットホテルズ&リゾーツ
の場合は、パークハイアット東京を進出するに当たって運営を委託する契約を結び、こち
らも出資は行わず、フィーを受け取るのみであった。 42)
財務的な問題以外にも、ホテル経営やオペレーションを専門に学ぶ人材を上手く育成・
活用できるシステムがアメリカを中心として整えられていることもこうした外資系ホテル
チェーンが世界に進出していく際の強みとなっている。
アメリカでは、ホテル業界からの要請を受け、1922 年にニューヨーク州のアイビーリー
グに属するコーネル大学にホテル経営学部が設立された。コーネル大学ホテル経営学部で
は、「 Management Operations」や「Human Resource」、「 Financial Management」、
「F&B Management」、「Marketing and Tourism」、「Property Asset Management」、
「Operations Management and Information Technology」等の専門科目を学び、大学に
隣接されているスタットラー・ホテルにおいて研修を行うことなどにより、現在に至るま
で多くのホテル経営者、ホテル投資家、コンサルタント等の専門家を輩出している。この
他にもアメリカにおいては、大学でホテル経営に関係する学部・学科が約 600 程度あると
され、卒業生の多くがホテルの総支配人やホテル経営のプロとして、国際ホテルチェーン
で活躍しているのである。
一方で、我が国においては、ホテル経営に関する専門的な教育をする大学は少なく、経
営やオペレーションのノウハウがシステムとして蓄積しにくかったという点は、外資系ホ
テルチェーンとの格差がある点であり、ホテルビジネスとしての成熟度の点では、我が国
の既存の国内系ホテルは劣っている点があるといわざるをえない。
我が国における産業別の人材育成の観点を見ても、他の業界・業種と比べてサービス業
39
における人材育成の遅れは、グローバル競争を強いられる事となったホテル業にも大きな
影響を及ぼしていると言えるであろう。こうした我が国の産業構造の課題点からもホテル
ビジネスをシステムとしてリエンジニアリング(再構築)し、新たな強みを作っていく事
が、激しい競争環境が予想される今後の我が国ホテル市場において生き残っていく為には
必要となると考えられる。
5. 異業種からの宿泊部門以外のホテル主力サービスへの新規参入
ホテルの売り上げの大きな割合を占めてきた宴会・飲料部門の中で、「婚礼市場」にも大
きな変化が現れ始めている。
株式会社リクルートの「ゼクシイ結婚トレンド調査」(2003・2002)等によると、「婚礼
市場」は、挙式披露宴市場のみで約 2 兆円とされており、披露宴会場としての利用率は、
ホテルが 36.7%、専門式場が 29.0%、レストランが 6.7%、公共施設が 2.9%であり、バブ
ル期に「ホテルウェディング」という言葉がブランドとして認知されるなど、婚礼市場に
おいて、ホテルはこれまで中核的な役割を担って来た。
その結果、既存のアーバンホテル総売上における「婚礼」分野の占める割合は高くなり、
2002 年度のデータによると、売上高の 30%以上を「婚礼」分野が支えるホテルが、全体
の約 25%、20%以上のホテルとなると、全体の約 63%をも占めており、ホテルの売上高
における「婚礼」分野への依存率は高い。 43)
しかし、「婚礼市場」は、団塊世代が婚礼年齢を迎えた 1970 年に年間 100 万組以上の婚
礼数をピークとし、現在では、2001 年時点で約 80 万組と減少傾向にある。今後も 10 年
後には約 60∼62 万組と婚礼数の更なる減少が予想されており、「婚礼市場」における競争
は激化していく環境にある。また、現在では、バブル崩壊後、婚礼スタイルのニーズが高
級・豪華志向な「ハデ婚」からシンプルな「地味婚」へと変化し、自分らしさや二人らし
さを追及したオリジナリティを求めるように移り変わった事もあり、市場全体のパイは縮
小しており、東京圏でも、1 人当たり 39.254 円と近年まで平均単価が減少している。 44)
加えて、近年の外資系高級ホテル等の新規参入によってホテル間同士の顧客獲得競争も、
激しさを増している。
例えば、組数上位 15 ホテルのデータを見てみると、外資系ホテルでは、1 位のシェラト
ン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル(組数 2592・宴会場数 14)や宴会場の少なさに
対して健闘している 10 位フォーシーズンズホテル椿山荘東京(同 868・同 7)が上位にラ
40
ンクインしているのに対して、帝国ホテルは 13 位(同 831・同 15)、ホテルニューオータ
ニは 8 位(同 880)と上位にはランクインしているものの、宴会場数 17 という巨大な規
模に見合った実績を残せていない。その結果、効率性の指標を表す宴会場稼働率上位 15
ホテルの中では、シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルが 3 位、パークハイア
ット東京が 9 位、フォーシーズンズホテル椿山荘東京が 12 位と外資系ホテルが名を連ね
ているのに対し、ニューオータニ等の御三家ホテルは 1 つもランクインしていない。ホテ
ルの売上高を支える重要な市場である「婚礼市場」においても、外資系ホテルや新規開業
ホテルが着実に市場を確保し、既存のアーバンホテルの収益環境を圧迫していると言えよ
う。
更に、「婚礼市場」は、少子高齢化によって成長の見込みが薄い市場にも関わらず、新た
な異業種からの参入も現れるようになって来ている。それが、1990 年代半ば頃から誕生し
て来た「ハウスウエディング」と呼ばれる外食産業からの「婚礼市場」への参入である。
「ハウスウエディング」とは、一軒家タイプのレストラン等を利用し、自宅にお客様を
招く様なプライベート感や、顧客が企画・装飾してお客様をもてなすオリジナル感を重視
した挙式・披露宴のスタイルの事である。貸切空間や、料理の美味しさ、オリジナルな演
出が可能といった点が特徴となり、従来のホテルや結婚式場と差別化を図り、新たな価値
を提供している。
代表的な企業としては、ヘラクレス上場の「テイクアンドギブ・ニーズ(T&G)」(東京・
港区南青山)や「プランドゥシー」(東京・渋谷区)、1997 年開業の「ルーデンス立川」(東
京・立川市)が挙げられ、こうした企業は独自のターゲットマーケティングを行い、市場
に参入をして来ている。
例えば、渋谷松涛・代官山を皮切りにハウスウエディング事業を展開して来た「テイク
アンドギブ・ニーズ」は、欧米風の豪華な一戸建て邸宅を舞台に、1 日 2 組限定(昼・夜)、
専属のウエディングプランナーによる 1 顧客 1 担当制、高品質な手作りの本格フレンチ料
理、オリジナルな演出等々の、既存のアーバンホテルにはなかったサービスを武器に業績
を伸ばしており、設立僅か 5 年余りの 2004 年 3 月期に、22 店舗(直営 12 店・提携レス
トラン 10 店)45)、受注組数が約 3000 組弱、売上高 107 億 1000 万円、経常利益 11 億 8100
万円を達成する見込み等、急成長を遂げている。 46)
これらの新規参入組は、組数を確保する為に、1 日に何組も回転させたり、セントラル
キッチンによる決められたコース料理によるパッケージ商品を提供して来た既存のアーバ
41
ンホテルに対し、高品質というサービスにおいて真っ向から勝負を挑み、こだわりを持つ
現代の消費者のニーズを上手く捉えた事で「婚礼市場」に大きな変化を生み出した。その
結果、市場に「ハウスウエディング」という新たなカテゴリーが誕生し、ホテルでの平均
費用約 290 万円に対し、約 337 万円(T&G の客単価は約 400 万円)と高価格でも高い人
気を得ているのである。 47)
既存アーバンホテルの売上高を支えてきた市場への脅威と、本来、アーバンホテルが提
供すべき高品質なサービスの分野で顧客を奪われつつある現状という 2 点において、この
「婚礼市場」の動向は大きな意味を持つであろう。
6. 都市における競合施設の充実
東京等の巨大都市においては、消費者のニーズに応えうる多様性のある「レストラン」
や「ショッピング」等の施設の充実も脅威となりつつある。
高度成長期に代表される時代においては、消費者が、物質的な豊かさを求めて豪華な食
事をする為に「ホテルレストラン」を選択したり、各種ブランドショップ等の高級店が揃
ったアーバンホテルに対して「高級な消費の場」として、大きな魅力を感じていたが、物
質的に豊かになり、アーバンホテルのみが「高級な消費の場」という訳ではなくなった。
表参道や銀座を初めとしてブランドショップや、高級店が数多く出店し、購入の機会と金
銭的余裕が生まれ出した事によって「アーバンホテルでなければ手に入れられない価値」
が急速に失われつつある。
そして、その代表例が前述した「婚礼」や「レストラン」、「ブランドショッピング」等
であろう。
例えば、レストランであれば、既存の多くのアーバンホテルには、ホテル独自の「フラ
ンス料理」、「中華料理」、「日本料理」といった3大料理の高級店がある。そして以前であ
れば、「高級料理」というキーワードが消費者に対して街のレストランとの差別化をはかる
強みであった。日本におけるフランス料理界の第一人者である帝国ホテル元料理長村上信
夫氏に代表されるアーバンホテルの高級レストランシェフの地位の高さと存在がそれを物
語っている。
しかし、現在、特に東京のような大都市においては、これまでのような強みを持たなく
なりつつある。アーバンホテル以外にも百貨店やオフィスビルのような大きな施設からオ
ーナーシェフが経営する 1 店舗のみの小さなレストランまでの高級レストランが多数誕生
42
し、3 大料理のみならず、「イタリア料理」を初めとして近年では、「ベトナム料理」等々、
次々とこれまでマイナーであった種類の料理や価格帯も多種多様な魅力あるレストランが
街に誕生し、溢れている。
この事を裏付ける様に『週刊ダイヤモンド』(2002 年 11 月 16 日号)の記事によると、
帝国ホテル吉村勲人社長は、「今は、食が多様化し、街場にもいいレストランがたくさんで
きていますから、なかなかホテルの特徴が出せない。だから客数も増えにくいのです。レ
ストランや宴会については、お客さまの行動や思考パターンにマッチした商品が提供でき
ているのかな、という不安は絶えずありますね。」と語っており、ホテル経営者側も、街の
レストラン施設の充実や消費者ニーズの変化によるホテルのレストラン事業の再構築の必
要性を認識しつつあるといえよう。こうした事からも、法人客から個人の多種多様なレベ
ルの高いニーズへと時代が移り変わる中で、依然としてホテル側が模索している現状が窺
える。
また、ブランドショップであれば、2002 年 9 月に表参道にルイヴィトンの世界最大規模
の店舗が誕生したように、今日では、アーバンホテルにおける高級ブランドショップの存
在意義は徐々に薄れつつある。ブランド商品を購入する時、消費者の選択肢としてアーバ
ンホテルでの購入は考えにくくなっている。また、広告塔としての存在意義も、「表参道・
青山」や「銀座・丸の内」、「六本木ヒルズ」において、各ブランドの直営店の旗艦店が数
多く誕生した事により、エリア自体が、異なる高級ブランド商品を集めたショッピングに
おける「価値統合型地域」となっており、優位性を持つに至っているといえよう。
例えば、「表参道・青山」地区には、世界的なスーパーブランドだけでも、「イヴ・サン
ローラン
リヴ・ゴーシュ」や「グッチ」、「シャネル」、「エンポリオ・アルマーニ」、「ル
ィ・ヴィトン」、「シャネル」等の旗艦店と呼ばれる販売拠点などが続々と進出し、2003
年には、「プラダ」、「クリスチャン・ディオール」も出店した。
この他にも「表参道・青山」地区一帯には、近年、「裏原宿」と呼ばれるセレクトショッ
プの集積地が登場したり、明治通りゾーンにはユニクロや GAP といったカジュアルブラ
ンドの店舗があるなど、多種多様なファッションのショッピングが可能になっている。
上記の分析から分かる事は、既存のアーバンホテルは、自らが揃え、統合化して来たそ
れぞれの価値(サービス)を「高級」、「ホテルらしさ」という抽象的なこれまでの概念だ
けで、進化した高付加価値な個々の競合施設や、分野別の「価値統合型エリア」に対して
優位性を保ち続けるのが難しくなって来ているという事である。この事実が、前述した「婚
43
礼市場」や、レストラン、ショッピングにおける「表参道・青山地区」や「銀座」等の都
市の多種多様な「価値統合型エリア」に、既存の顧客を徐々に奪われ、苦しんでいる現状
に繋がっている。つまり、消費者からの選択として「アーバンホテルでなければならない
理由」や「価値」、「強み」等の魅力が低下し、特に、東京都心などの大都市においては、
競争力を失いつつあると言えるのではないかと考えられるのである。
第3章
今後の東京におけるアーバンホテルの役割
第 2 章では、現在の我が国アーバンホテル市場が抱える構造的な課題点(内的要因)
と新たな課題点(外的要因)を考察することにより、既存のアーバンホテルが自らの
存在意義を再定義し、利用者に新たな価値を提供して行かなければならないかの理由
を述べてきた。
その結果、既存のアーバンホテルは、これまで顧客であった「婚礼客」や「ショッ
ピング利用客」、「レストラン利用客」の各分野においても、徐々に顧客を奪われつつ
ある状況であることが分かったといえよう。
本章では、内部競争の激化、新規参入、消費者のニーズの多様化・成熟、代替品の脅
威と様々な課題を抱える既存のアーバンホテル市場の現状を踏まえて、如何にすればこ
の競争激化の市場で打ち勝っていけるかについて考えて行く。
実際に、アーバンホテル側もこうした市場環境の変化に対応しようと新たな試みを
始めており、こうした取り組みの中から「街との一体化」と「顧客の囲いこみ」をキ
ーワードにそれぞれいくつかの事例を挙げて、今後の東京におけるあるべきアーバン
ホテル像の展望を探って行くこととする。
第 1 節 街と一体化するホテル
1. 品川プリンスホテル
品川プリンスホテルは、1978 年に誕生し、開業以来、スケートセンター(1991 年営業
終了)やボーリングセンター、屋外・屋内プール、屋内テニスコート、プリンスデリカ
48)、
品川プリンス・レジデンス(高級賃貸マンション)等の付帯施設の整備に努めて来た。
第 1 章で述べた「ホテルニューオオタニ東京」に似た「街を取り込む価値統合型ホテル」
44
といえよう。2002 年 4 月 25 日には、品川プリンスホテルエグゼクティブタワーが開業し、
総客室数 3680 室の巨大ホテルとなった。
エグゼクティブタワーの詳細について述べる前に、これまでプリンスホテルがとって来
たマーケティング戦略について見ていきたい。
プリンスホテルは、西武鉄道系列のホテルチェーンであり、全国に 50 軒以上のホテル
を展開してきた。これまでは、他の御三家と同じくエグゼクティブビジネスマンや法人を
メインターゲットにして来た高級路線のホテルであった。
しかし、1990 年代の外資系ラグジュアリーホテルの進出を受け、近年ではターゲットを
広げ、これまでよりも低い価格帯の顧客も取り込む為の努力がなされている。客室に設置
されていたミニバーを取りやめ、ホテル内にコンビニエンスストアを設置し、不採算のレ
ストランの閉鎖を行う等など、サービスの抜本的な見直しとコストパフォーマンスの改善
を図ったことで、従来よりも価格を低価格に設定することを可能とした。
例えば、ホテルレストラン「ハプナ」のランチブッフェ(11:30∼15:00)は、大人 2000
円・子供 1100 円(4 歳∼12 歳)という低価格で「ビーフストロガノフ」や「ズワイガニ」、
「しゃぶしゃぶ」、「ちらし寿司」等、約 40 品もの料理が時間無制限で食べ放題というサ
ービスを始めたことで、女性を中心に支持を集め、年間約 100 万人
49) もの利用者が訪れる
人気商品となっている。
こうした、ターゲットを広げるというマーケティング戦略の転換によって、現在の品川
プリンスホテルは、これまでの高級化路線の「価値統合型ホテル」とは違った道を模索し
始めた。エグゼクティブタワーの開業にもこうした傾向が良く表れている。
開業したエグゼクティブタワーのコンセプトは「エンターテインメント」である。エグ
ゼクティブタワー内には、672 室の新たな客室やレストラン施設等以外に、10 館の映画館
(1640 席)がある「品川プリンスシネマ」や「アイマックスシアター」、「ボウリング場」、
「クラブ ex50)」が設置されている。
施設利用の価格帯も、顧客ターゲットの拡大を表している。例えば、「ボウリング場」は、
街にあるボウリング場
51) の価格(平日一般
550 円)と同価格の一般 550 円であり、また、
エグゼクティブタワー内に新しく出来たレストラン施設においても、ホテル直営のフード
コートでも、「チキンカレー600 円」、「品川ラーメン 700 円」等々、300 円∼400 円からの
低価格設定の商品もあり、想定客単価は昼 700 円、夜 900 円と低くなっている。この値段
設定は、街にある一般の飲食店と比較してもほぼ同等の低価格であると言え、従来のアー
45
バンホテルの高級レストランという概念とは全く異なったものである。
巨大な客室数とエンターテインメント施設を武器にすることで、以前から強みであった
修学旅行客(年間平均 10 万人)等の団体客
52)とアジアからの旅行客(国内最大のアジア
人集客を誇る)、ビジネスマンを取り込むと共に、首都圏近郊からのカップル客や家族連れ
等をもターゲットにしている。品川プリンスホテルは、より一般大衆へとターゲットをシ
フトした自前の価値統合型ホテルの事例であるといえよう。上記の理由から品川プリンス
ホテルの客室稼動率は好調となり、日経産業新聞 53)によると、2001 年度上半期は約 91%、
2003 年 1 月∼9 月期はやや減少して 86.2%となっている。
しかしながら、今後の懸念材料も存在する。例えば、ターゲットの価格帯が広すぎると
いう点である。
宿泊部門では、本館(1015 室)、別館(257 室)、新館(1736 室)、エグゼクティブタワ
ー(672 室)と近隣にある高輪プリンスホテルさくらタワー(308 室)等の各ホテルがそ
れぞれ別のターゲットを設定しており、本館と別館は、「出張旅費範囲で利用するビジネス
マン」、エグゼクティブタワーは「アッパーなビジネスマン」、新館は「修学旅行等の団体
客」、高輪プリンスホテルさくらタワーは「エグゼクティブビジネスマン」と分けているも
のの、個人客も法人客も一般ビジネスマンもエグゼクティブビジネスマンも全部取り込も
うというフルライン戦略が、二極分化している現在の市場環境の中で強みを発揮できるか
は未知数である。
同じアーバンホテルが様々な個人・団体・高級格帯・中級価格帯の顧客層をメインター
ゲットとすることは、サービスの質とコストといった観点 1 つを取っても、使い分けのあ
るサービスの質を決めるのか、もしくは高価格帯か廉価な価格帯のどちらかにサービスの
質を一本化するのか等々、相反する矛盾点を作り出すことも予想される。つまり、前述し
た「ハイアット
ホテルズ&リゾーツ(米)」の様に対象となる顧客ターゲットに合わせて、
異なった立地にコンセプト、価格帯、ブランド名称をそれぞれ別に構築して展開するので
はなく、品川地区一帯に、異なるターゲットを対象にして、同じ「プリンスホテル」とい
うブランド名称でそれぞれの顧客が望む価値(サービス)を適切に提供出来るかという点
である。
また、近接する場所で、ほぼ同一のブランド名称で展開する事から、利用者から見たプ
リンスホテルに対するブランドイメージ・ブランド価値の行方も注目される。特にコスト
削減に伴うサービスの廃止(例えばルームサービスは廃止)や、重要な客室における床面
46
積の狭さ(一般的な高級ホテルのツインは約 40 ㎡だが、品川プリンスホテルは新館にお
いても約 27 ㎡とした) 54)は、これまで品川プリンスホテルを高級なアーバンホテルとし
て捉えてきた利用者に対し、どの様な印象を与えるのかが注目されよう。
更に、品川プリンスホテルが基本的に自前の「価値統合型ホテル」であることも、成熟
した街の各種施設との競合を考えると問題点となってくる可能性がある。
例えば、『月刊ホテル旅館』(2002 年 6 月号)の品川プリンスホテル取締役支配人渡辺
幸弘氏のインタビューによると、品川プリンスホテルにある個々の施設は街に既にあるも
のであり、1 ヶ所に集中していることが新しく、その施設をホテルが中心となって組み合
わせていくことが成功の秘訣となると述べている。
確かに、これまで映画館その他のアミューズメント施設を一体として備えるホテルはな
く、品川プリンスホテルの取り組みはホテルとしては新しいものの、東京都心地区には、
競合する質の高い専門の各種施設が既に存在し、今後も最も進出されやすい場所である。
2003 年 10 月に新幹線が開業した事で、空港へのアクセスも良い品川駅周辺は東京都心
部の交通の要衝として高い発展を遂げている。ホテルと反対側の東口周辺には、三菱商事
等の大企業の集積が進み 3 万人以上が勤務しており、立地的な優位性は非常に強いであろ
う。品川プリンスホテルは、広義の意味で「駅と一体化するホテル」と捉える事も出来る
特殊な事例ではある。
「駅と一体化するアーバンホテル」としては、例えば、近年誕生した「名古屋マリオッ
トアソシアホテル」が注目されている。 55)鉄道駅の再開発に伴って、利便性(立地特性)
を前面に出し、異業種である百貨店やオフィス等と役割を分担し、魅力あるエリアを作り
出した事で、広範囲に及ぶ集客力を得、ホテル自体も高業績となり、名古屋地区で NO1
の地位を確立した。ただホテルが自前で各施設を増設した訳ではなくホテルを運営する JR
東海(鉄道業)が中心となって、異業種とコラボレーションを組んで実現した例である。
しかしながら、こうした条件を加味しても、ターゲットの価格帯を広げた品川プリンス
ホテルが「ホテルらしさ」 56)という差別化要因だけで、競合する他の街にある専門施設に
対して優位性を保ち続けられるかは不透明である。また、基本的に各施設を自前で拡張さ
せて行くという点では、前述した名古屋の事例と大きく異なっている。
宿泊施設、映画館、ボウリングセンター、レストラン、宴会場等々の各施設を自前で整
備しながらも、1 つ 1 つの施設単体では、特定の強みを持たず、それぞれの施設が 1 ヶ所
に集まり規模の大きい施設であるという利点を持つ品川プリンスホテルは、法人マーケッ
47
トが減退する中で、アミューズメント施設の開業後、消費者に対して新鮮味が無くなった
時、現在ホテル市場で課題となっている「ニーズの多様化した要求度の高い個人客」を取
り込む事が出来るか、また、高い収益性をも確保出来るか、が重要な課題となって来る。
そして、同じ品川駅エリアには、品川プリンスホテルから徒歩 15 分圏内だけでも、大企
業が集積する東口の品川グランドコモンズに 2003 年新規開業した全日空系のアーバンホ
テル「ストリングスホテル東京」や「御殿山ヒルズ・ホテルラフォーレ東京」、「ホテルパ
シフィック東京」等の強力なライバルが存在する。総客室数 3680 室、映画館、レストラ
ン、ショッピングモール等、様々な自前の付帯施設を抱える巨大ホテル品川プリンスホテ
ルの行方は、今後のアーバンホテルの展望を占う上で重要な事例となってくるであろう。
2. グランドハイアット東京
2003 年春にグランドハイアット東京が開業した六本木ヒルズは、港区六本木六丁目の巨
大な再開発地区である。
1986 年に東京都から再開発誘導地区の指定を受けて本格的にスタートした六本木ヒル
ズは森ビル株式会社が中心となって約 17 年の歳月と約 2800 億円という巨額の資金を投じ
て、東京ドーム 8 個分の敷地(約 11.6ha)に「文化都心」というテーマを掲げ、ホテル
(グランドハイアット東京)やテレビ朝日本社、地上 54 階建てのオフィスビル(森タワ
ー)高級賃貸マンション(840 戸)、映画館(ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ)、レスト
ラン、ブランドショップから日用食品・雑貨までのショッピング施設、美術館(森アート
ミュージアム)、教育施設(森アーツセンター)等々の施設を整備する民間では国内最大規
模の再開発プロジェクトである。
居住人口約 2000 人、就業者 2 万人、1 日約 10 万人の人々が訪れると予測されており、
2003 年 4 月 25 日の開業日から約半年間で来街数が 2600 万人を突破した。 57)1 つの大き
な街が誕生し、この中でグランドハイアット東京は街の中心施設として位置づけられてい
る。
グランドハイアット東京は、総客室数 390 室、10 つの飲料施設と宴会場、スパ&フィ
ットネス等の施設を有し、世界的なデザイナー「ピーター・レメディオス」氏ら 3 人のデ
ザイナーがデザインを担当したラグジュアリーホテルである。一番小さい客室タイプでも
42 ㎡と広く、最上階のプレジデンシャルスイートは 260 ㎡、都内で唯一のプライベート
プールと日本庭園を持った豪華さを前面に出している。
48
六本木ヒルズにはゴールドマン・サックス証券やリーマン・ブラザーズ証券など、多く
の外資系企業も入居し、第 2 章で前述したように外国からのエグゼクティブビジネスマン
や個人客のアーバンリゾート需要等をメインターゲットとしている。 58) 2000 人が住むと
される高級賃貸マンション居住者の利用も需要として大きいと思われる。
( 賃貸オフィスの
成約率・賃貸マンション稼働率は約 90%、2003 年 10 月 27 日森ビル株式会社発表)
以上のことから、ホテルグランドハイアット東京は、高級化路線を貫いた「価値統合型
ホテル」であるといえる。しかし、第 2 章で述べたホテルニューオータニの事例とは異な
り、ホテルグランドハイアット東京の特徴は、ホテルが自前主義に基づいて付帯施設を増
加させ「価値統合化」を進めていくものではなく、当初から、「街のグランドデザイン」が
決まった上で、ホテルが存在するという事にある。
その為、ホテル自身もメイン・ターゲットが決まっており、六本木ヒルズ内の各施設と
相乗効果、コンセプトの統一が図れる仕組みとなっている。
例えば、六本木ヒルズ地区近辺には大使館等の施設が多いことから土地柄、もともと外
国人が多数居住している。新しく建設され約 800 世帯が入居する「六本木ヒルズレジデン
ス」は、月額 100 万円以上の高級賃貸な物件も多い。こうしたマンションの住人をメイン
ターゲットとして、既に先行オープンしている西友の高級都市型スーパーマーケット
「FOO:D magazine 六本木店」59)では、ポータリングサービス
60)やラッピング・コンシェ
ルジュサービス、各種ケータリング、英語も可のスタッフによる買い物相談、「良水倶楽部」
と呼ばれる調理・飲料水の会員への提供等、質の高いサービスを受ける事が出来るように
なっている。
更に、商業施設や他の各種施設にもこの高級化路線の特徴は表れている。全 200 店のう
ち、約 60 店舗はドイツの「ヒューボス」やフランスの「バカラ」、高級ブティックの「ロ
ロ・ピアーナ」、「ルイヴィトン」等の海外ブランドが入居する予定になっており、シネマ
コンプレックス「ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ」でも最新音響システムを備えた 9 ス
クリーン 2100 席を配置し、「The Premier」と呼ばれるゾーンで生演奏を聴けるライヴス
テージやスカイラウンジや日本庭園等の豪華な雰囲気が楽しめる設備や専用のエレベータ
で出入りする「A-list」バルコニーという名の VIP 用の個室が用意されている。
ニューヨーク近代美術館と提携し、2003 年 10 月にオープンした森美術館等も加えて、
生活に必要な「職」、「住」、「商」、「遊」、「学」等々の様々な機能が一体となり、特にホテ
ルゾーンは高級感を持ちつつ、1 つに集まった空間を作り出している。
49
一方で、グランドハイアット東京側はというと、例えばレストラン施設のコンセプト 1
つを取っても従来の代表的な日本のアーバンホテルの施設とは異なり、ホテルに設置され
たそれぞれのレストランが単独で集客出来る独自性を持った「フリースタンディング・レ
ストラン」を目指している。これは例えば、「パークハイアット東京の」○○レストランと
して認知されるものでなく、「○○レストラン」という名前だけで高い認知度を得られる事
を目標としているものである。つまり、アーバンホテルという統合化された価値を抜きに
しても「○○レストラン」単体で高い価値を持ち得る様な存在を目指しているという事で
ある。同じ「ハイアット
ホテルズ&リゾーツ(米)」の一員で、先行して 1994 年に新宿
に開業した、パークハイアット東京の「ニューヨークグリル」は超人気レストランであり、
多くの固定客を抱え、開業から約 10 年が経った現在でも予約が取り難いと言われている。
その結果、レストラン名だけで高い知名度を持ち、高付加価値をホテルにもたらしている。
これにより、高い目を持った個人の都市住民をも顧客層として取り込もうとしているとい
えよう。
以上のような事から、従来のようなホテルが自前で全ての付帯設備を整備するのではな
く、森ビルが中心となって、コンセプトを作り、そこにグランドハイアット東京やルィヴ
ィトン等のそれぞれが個性と強みを持った高付加価値な施設が集積するという新たな「価
値統合化」ホテルの誕生は、「街と一体化する」という視点から見ると 1 つの究極系であ
るといえるであろう。
日経流通新聞(2003 年 8 月 21 日付)、NIKKEI NET(10 月 27 日付) 61)、森ビル株式
会社 2003 年 10 月 27 日のプレスリリース等によると、グランドハイアット東京は、当初
想定していた外国人ビジネスマンだけでなく、六本木ヒルズが東京都心の新観光名所とな
った事によるレジャー客の宿泊をも取り込み、客室稼働率は 90%を超え、レストランの来
店者数も 50 万人を突破と、好調なスタートを切っている。
今後は、当初の目標通り顧客を獲得し、相乗効果が生まれながら六本木ヒルズが「文化
都心」としての役割を果たして行けるか、その中でグランドハイアット東京が好業績を維
持出来るかが注目である。
50
第2節
新時代のアーバンホテルの顧客獲得
以上、第 1 節では、再開発や増設、新規開業アーバンホテル等、主にハード面からの今
後の都市におけるアーバンホテルの存在意義と役割について考察して来た。
しかしながら、既存の全てのアーバンホテルが増設や付帯施設の新設等、ハード面の改
善を図れる訳ではない。本節では、ソフト面に注目して考察する事により、既存アーバン
ホテルが今後、採るべき道について述べていく事とする。
1. ブランド力を前面に押し出す帝国ホテル
現在、これまでなかった個性を持った高級外資系ホテルの参入が相次いだ事や、建築か
ら数十年を経て施設が老朽化しつつあるイメージにより、「御三家」のホテルは、近年、帝
国ホテルを除いてブランド・イメージの低下に苦しんでいる。
考えられる理由として最初に挙げられるのが、拡大と共にアーバンホテルが大衆化した
事によるブランドイメージの低下である。
戦後、「ホテルオークラ」や「ホテルニューオータニ」は、地元の要請や都市再開発を通
して地方都市へ積極的な進出を行って来た。近年でも 2003 年 6 月に「ホテルオークラ札
幌」を開業させた「オークラホテルズ&リゾーツ」(OHR)はその代表例である。1978 年
に発足した「オークラホテルズ&リゾーツ」の抱えるホテルは現在、計 24 ホテルに達し、
いまだ拡大路線の継続を行っている。これまでの教訓を生かして、自ら大型投資をしない
運営受託方式で拡大をするものの、今後も、資本提携等により、チェーン全体で国内外 50
ホテル、1 万室にまでする計画を立てている。
ホテルオークラは、上記の拡大策により拠点網を増やし、それによって新規顧客を獲得
するという手法により、世界各地・全国各地へブランドの浸透を図ろうとしているが、一
方で拡大によるブランド価値の低下や希薄化といった危うさも抱えている。短期間で急速
にホテル数を増やす事により、個々のホテルの競争力が維持出来なければ、全体としての
ブランド力の浸透や向上は望めず、全体としてもブランド価値が低下してしまうであろう。
実際に、2002 年度のホテルオークラ福岡やホテルオークラ神戸は客室稼働率が約 60%弱
∼70%強と好業績を挙げられておらず、OHR 全体でも同様である。 62)
対照的なのが、2003 年に 112 年目を迎えた帝国ホテルである。同ホテルは、地方都市
への進出を主とした拡大路線を行わず、現在でも伝統を堅持し、高いステータスを持った
ブランド力のあるアーバンホテルとして君臨している。
例えば、「ホテルオークラ」や「ホテルニューオータニ」等のアーバンホテルが続々と地
51
方都市にも進出する中、帝国ホテルは、我が国第 2 の経済規模を誇る都市である大阪にも
1996 年になってから進出するなど地方進出を手控えて来た。
その結果、現在でも、東京(1059 室)と大阪(387 室)、上高地(75 室)に直営のホテ
ルを、津田沼に「ザ・クレストホテル津田沼(85 室)」(運営はインペリアルエンタープラ
イズに委託)等のホテルを展開しているだけである。
この経営戦略、ただしマーケティング戦略としよう、が現在では、他のアーバンホテル
が地方都市に進出したホテルの赤字等で疲弊する中で、帝国ホテルが好調を保っている要
因の 1 つである。他のアーバンホテルは、その「統合化された価値」をパッケージとして
地方都市に過大な投資と共に進出し、大衆化する事によってブランド力が低下していった
のに対して、帝国ホテルは、「伝統」と「希少性」というものを大切にし、我が国ホテル業
界で唯一ともいえるブランド力の維持に成功しているのである。
また、帝国ホテルは、ブランド力を保つ為の顧客の獲得と維持を「インペリアル・クラ
ブ」と呼ばれる独自の会員組織によって行って来た。
「インペリアル・クラブ」は、日比谷クラブを前身として、1994 年に再組織化され、
2002 年 11 月現在、国内会員が約 5 万 5000 人、外国人会員が 2 万 5000 人の合計約 8 万
人
63) もの規模を誇っている。
クラブの会員には、宿泊予約の際に専用回線が設けられたり、
繁多期に客室が確保できる有線予約、客室料金の 10%OFF、専用カウンターでのチェック
イン、チェックアウト時間を午後 3 時まで延長、上高地帝国ホテルにおける会員専用の客
室等々、各種の特典が用意されているが、これらは、他のアーバンホテルが行なっている
顧客会員組織とほぼ同様のサービス内容である。
しかし、会員の獲得において独特な手法が取り入れられている。「インペリアル・クラブ
会員」になる為には、日比谷クラブの当時から、一定の条件が設けられており、入会の為
には、資格要件に関する審査または、現有会員による紹介が必要となっている。利用実績
や支払い実績が良い会員を選び出し、顧客に顧客を紹介してもらうシステムであり、帝国
ホテルがターゲットとする高所得者層に比較的、同質的な要件を満たす顧客を獲得しよう
とするターゲッティング・マーケティングである。
この方法によって、帝国ホテルは、既存会員の子息や後継者、友人、知人、医者や弁護
士といった層を顧客とする事に成功し、こうした人々がパーティや結婚式等で利用する事
で、帝国ホテルの格式や高級感といったブランド・イメージを維持するのに大きく貢献し
て来たのである。その結果、現在、帝国ホテルでは売上げの内、20%をインペリアルクラ
52
ブの会員が占めるに至っており、今後も、売上げの 30%程度をインペリアルクラブ会員か
らのものとする事で、ブランド力の向上と経営の安定を図って行く事を目指している。
一方、ホテルニューオータニやホテルオークラは、早い時期から積極的に地方進出を行
ない、大阪や福岡等の各地に各ブランドのホテルを展開して来た。しかしながら、こうし
た積極的な展開が各ホテル間の競争激化を招き、更に近年では、外資系の高級ホテルが地
方の政令都市等にも進出し始めた事によって大きな打撃を受けているのである。
無論、帝国ホテルも安泰という訳ではない。「歴史」と「伝統」を武器に、年齢の高い層
を中心に一定の強みを果たしているものの、次の若い世代の顧客獲得という点では、外資
系のアーバンホテルとの間で、顧客獲得競争が激しく行われている。帝国ホテルの「歴史」
と「伝統」というブランド・イメージが「古い」ものとして若い世代の顧客層に印象を与
えてしまえば、「親世代は利用しても、子供の世代は利用しない」ホテルになってしまうで
あろう。国内系アーバンホテルで唯一高いブランド価値を持つ帝国ホテルにとっても、今
後、外資系アーバンホテルとの熾烈な競争に打ち勝つための新たなマーケティング戦略が
重要となって来ると言えるのではないだろうか。
2. 独自性のある商品・サービスで「ファン」を獲得するアーバンホテル
ホテルが特定のターゲット層に強みを持った商品・サービスを開発し、提供できるかと
いう事も、後のアーバンホテルの生き残りの中では重要になってくる。つまり、前述した
帝国ホテルが歴史と伝統に裏付けされたブランド価値を武器に顧客を獲得し、ブランドロ
イヤリティを高めて来たのに対し、新たな価値(軸)によって顧客を獲得し、ブランドロ
イヤリティを高めていくという事である。
こうした点を踏まえて、本稿では、「キャラクター」と「地域密着」を取り上げてみた
い。
我が国のキャラクター商品全体の市場規模は、1999 年度時点
64)で年間約
2 兆円、世界
で一番の大きさを誇るといわれている。
こうしたキャラクターのファンを取り込もうとしているのが「東京ドームホテル」と「帝
国ホテル」である。
例えば、東京ドームホテルでは 2002 年 6 月 1 日から、23 階のスポーツフロアの客室を
1 日 10 室限定で、野球の巨人軍のマスコットキャラクター「ジャビット」をモチーフにし
た「ジャビットルーム宿泊プラン」(1 泊朝食付サービス料込で 16.000 円<ツイン利用 1
53
名料金>)として提供している。隣接する東京ドームの試合観戦チケットはついていない
ものの、客室内の壁には長島終身名誉監督のパネルを掲げたり、ジャビットをあしらった
枕カバー等を用意するなどし、中高年以上をメインターゲットに熱心なキャラクターマニ
アや巨人ファンを取り込もうとしている。
また、東京都心地区ではないが、帝国ホテル大阪が 2001 年に打ち出した「スヌーピー!
スヌーピー!」プランも熱心なファン層を獲得して大人気商品となった。
版権を有するユナイテッド・メディア社と交渉して、帝国ホテルのドアマンの姿をした
ホテルオリジナルの「ドアマン・スヌーピー」を誕生させたことで、世界中で帝国ホテル
大阪にしかいないドアマン姿のスヌーピーに会い来る事を目的として、コアなファン層が
宿泊をするようになったのである。
2002 年 5 月から 2003 年 3 月までは、第 2 弾としてドアマン・スヌーピーの刺繍入りル
ームガウンとスリッパがプレゼントされるサービス(1 泊朝食付、ツイン利用 1 名 2 万円)
がなされており、コレクションに加えたいというファンの心理を上手く考えたマーケティ
ングを行っている。
この他にも、同じく東京都心地区ではないが、京都の「京都ブライトンホテル」や「京
都宝ヶ池プリンスホテル」では、「エスコートプラン」と呼ばれるホテルのスタッフが直接
数名同行して京都を案内するプランや「京都の。」と呼ばれる町家や京野菜の農園の見学を
組み込んだプラン等々、中高年以上をメインターゲットにしたゆとりある地元と一体とな
ったサービスを行うなどのアーバンホテルが誕生しつつある。
ホテル独自の商品・サービスを開発し、特定の顧客層を獲得して、またリピート利用を
してもらえるような状況を作っていく事で「顔の見える顧客層」というものが明らかにな
る。これは、ホテルの強みとなると共に、顧客層に対して行うべきサービスの質、行うべ
きでないサービス等が考えられるようになっていくという観点からも重要であろう。
ただし、上記の「キャラクター」・「地域密着」といった様なキーワードや商品は、それ
だけでは、ただ単にホテルに行く目的が増えるという事にしかならない。必要な事は、新
しくカテゴライズしたサービスや商品を単なるプランで終わらせるのではなく、アーバン
ホテル独自の強みにまで昇華させる事である。例えば、2003 年 12 月にハリウッド映画「ラ
ストサムライ」が世界で公開されたが、皇居近くに立地する伝統的なアーバンホテルが日
本の文化や伝統を前面に打ち出した商品プランを「年始年末プラン」と同じ扱いで、単に
増設するだけであれば、他のホテルとの差別化を果たし、魅力や競争力が向上したとは言
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えないであろう。仮に、外国人にターゲットを合わせるのであれば、施設やサービスを含
めたハード・ソフト両面において一貫性を持ち、統合的に、かつ、継続されたターゲット
マーケティング戦略を展開していく所まで追及してこそ、初めて外国人観光客にとって、
そのアーバンホテルは高い魅力を持ったホテルとして認知され、顧客獲得やリピート利用
へと繋がっていくのではないだろうか。
第3節
新時代のアーバンホテルのあるべき姿
以上、本章ではいくつかの事例を挙げながら、 今後、アーバンホテルがどうすれば競
争に打ち勝っていけるかについて展望を述べた。
本稿の考察により、私は 現在、やはり「既存のアーバンホテルが持つ利用者への価値
提供」という強みはもはや存在しないのではないかと考える。
序章で述べた 3 つのポイントを整理するならば、1 つ目は、我が国の既存国内系アーバ
ンホテルが強みを持てなくなった背景に、明治時代に我が国に政治的な目的を持ってホテ
ルが上陸したことが、その後のミニ帝国ホテルの全国への拡大を招いてしまい、メインタ
ーゲットが一般大衆に移った高度成長期においても、「帝国ホテル」をモデルにした個性の
無い画一的なアーバンホテルが、法人客をターゲットとした大量消費・大量販売への道を
突き進んでしまった歴史的側面が挙げられるだろう。
2 つ目のポイントは、「価値モジュール型」ホテルの登場や「外資系ホテルチェーンの参
入」、「外食産業のウエディング市場への参入」、「街の各種施設の成熟」、「消費者のニーズ
の成熟」等に代表される外部からの競争環境の変化に既存の国内系アーバンホテルの内部
的構造問題が耐え切れなくなった今日の現状が浮き彫りになっているといえよう。
そして 3 つ目のポイントは、都市(東京都心地区)におけるアーバンホテルの存在意義
が変化せざるを得ない状況が生まれつつあるということである。ホテルが「伝統と格式」
に代表される「ホテルらしさ」のみで他の表参道・地区や銀座等の「価値統合型」の街に
対して差別化を図ることは難しくなりつつある。
多様化・高度化する個人消費者のニーズに応えてホテル市場が細分化する中で、従来通
りの法人、マス・マーケティング主体で拡大路線を行う既存の国内アーバンホテルは苦境
に立たされている。もう一度、自らが持つ強みと今後、都市において果たすべき役割を認
識した上で、新たな「価値の統合化」を再構築していくべきであろう。また、その基盤と
55
してターゲットとする顧客を明確にし、ターゲット顧客を獲得・維持する為のアーバンホ
テル独自の強みや価値を追求する事は極めて重要であると考える。
こうした考察の結果、本章で前述した事例を踏まえて、私が考えるキーワードは、
「街との共生」と「顔の見える利用者の獲得」の 2 つである。
「街との共生」という観点からは、私は、ホテルニュータニ東京のようなホテル発の自
前主義による街の取り込みによるホテルシティという「価値統合型モデル」には限界があ
るのではないかと考えている。その理由は、アーバンホテル以外にも、もはや、「街」に個々
の強みを持った各種施設が集まる「価値統合型地域」が誕生し、それらが成熟しつつある
からである。
従って、アーバンホテルが目指すべき姿は、街のグランドデザインの中で自らの持つ存
在価値を再定義し、他の各種専門施設とコラボレーションすることで強みを打ち出してい
くことにあるのではないかと考える。こうした考えを基にするならば、森ビルの再開発地
区に誕生したグランドハイアット東京は街との一体化という点において先進的な例である
といえるし、広義に解釈
65) するならば、西武鉄道という豊富な資金力を持ち、街づくりに
長けた企業がバックアップする品川プリンスホテルは価格帯が広くターゲットが見えづら
いながらも、この方向性に当てはまるといえるのかも知れない。
「顔の見える利用者の獲得」という点に関しては、アーバンホテルが「個」としての強
さを持つことが大事だと考える。
特に大規模な投資が出来ない既存のアーバンホテルにとっては、都市における自らの存
在意義を問い直した上で、新たな強みとなる商品・サービスを作り、ターゲットとなる顧
客層を囲い込むことにより、「個」としての強さを身に付けることが重要である。
利用者のニーズが多様化・成熟する現代において、各アーバンホテルがメインとなるタ
ーゲットをそれぞれ選定し、その利用者に対するサービスや商品内容を打ち出していくこ
と
66) でこそ個性のあるアーバンホテルが誕生し、ひいてはその存在が東京の活性化や世界
の大都市間競争において打ち勝っていく為の都市の魅力を生み出すと考えている。
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むすび
私が本稿の考察を通じて今、感じているのは、東京の「アーバンホテル市場の現状」は、
現在の我が国の経済状況や置かれている立場を象徴するものでもあるということである。
外資系ホテルが続々と進出してくる東京に対する Opportunity の存在と地方都市におけ
る赤字ホテルの多さは対照的であり、東京に一極集中している現在の政治・経済・文化状
況をよく表している。
また、国主導で進められ、現在に至るまでその影響を引きずっているという点は、道路
公団の民営化で揺れている昨今の問題と重なり、既存の国内系アーバンホテルの苦戦は、
消費者のニーズ・成熟度を見誤り、構造的問題と外圧(国内外両方を含む)の中で戦略を
見失った、もしくは重要視してこなかった事の負の遺産の象徴といえるのではないだろう
か。特に政治的背景を持ち、事前の収益分析を十分にせずに全国へホテルが続々と進出し
た我が国ホテルの歴史過程は、ホテル業界だけでなく、他の業界や官の施策においても同
様の例が数多く存在する、日本経済の現状を映していると言えるのではないだろうか。
ただ単に多様な施設を集めた「価値統合化モデル」が崩れている現在、既存の国内系ア
ーバンホテルが自らの価値を再定義し、「個」としての強みを持ちながら、都市の各種専門
施設とコラボレーションしていくことは、我が国の他業界の業種にも同様に求められてい
る。単純な「垂直統合」の限界と「コアコンピタンスの見直し」が必要であるといえよう。
今後、我が国の経済を占っていく意味でもアーバンホテル市場の行方は重要であり、日
本企業全体にとっての経営戦略・マーケティング戦略へも大いなる意義を持つであろうと
考えている。
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