光学部品のメーカーに 課題をつきつける生命科学

.feature
光学部品製造
光学部品のメーカーに
課題をつきつける生命科学
アンドリュー・リンチ
計測装置の設計者は、バイオメディカル用の光学部品に固有の製造上の挑戦
一般の光学ガラスに比べると、これら
に助けられ、その結果としてのトレードオフをうまく利用して、装置のシス
の原材料の価格は 2 〜 10 倍、またはそ
テム性能を最大化している。
れ以上になる。また、製造面でも、さら
なるコストの加算が必要になる。
17 世紀と 18 世紀に顕微鏡が発明さ
能な透明材料の範囲を限定し、これら
ケイ酸塩は扱いやすく研磨も容易だ
れ普及して以来、バイオメディカルに
の材料の相対コストは高くなり、相当
が、上述した材料の多くは加工が容易
使われる光学技術は著しく発展した。
に高い光学精度の確保が必要になる。
でない。ガラスに比べると、さまざま
新しい技術の出現とともに、医用レー
最も広く使われる UV 波長の光学材
に異なる硬度、熱的性質、破壊特性を
ザ、フローサイトメータ、新型顕微鏡
料には、合成石英と水晶、フッ化カル
示し、その製造と使用には周囲の環境
などのバイオメディカル用の光学機器
シウムなどのいくつかのフッ化物系材
からの特定の保護が必要になることも
はますます複雑になっている。これら
料、塩化ナトリウムなどの特定のハロ
多い。例えば、激しい吸湿性で知られ
の計測システムの複雑さによって、使
ゲン化アルカリの他、サファイアのよ
るハロゲン化アルカリは、従来法とは
用する光学部品に対する要求は留まる
うな結晶がある。可視波長に使われる
異なる研磨法が要求され、加工した製
ことなく増え続け、こうした要求は光
学部品メーカーへの課題として転化さ
(a)
れてきた。このような製造上の課題は、
経験豊富なバイオメディカル用の装置
企業が、
実現可能な製造能力の範疇で、
計測システムの性能を賢明に前進させ
ることに一役買ってきた。
図 1 この OD4( a )
フィルタと OD6( b )
フィルタを用 いた試
料の画像が示すよう
に、蛍光顕微鏡法は
わずかな部品や仕様
の違いから顕著な違
いが起こる。
UV 波長
バイオメディカルは応用範囲が広く、
用途もそれぞれに異なるが、そこには
いくつかの共通課題があり、それらが
使用される光学部品に対して難題をも
たらしている。その課題の一つは紫外
(b)
( UV )光の使用にある。UV の使用は
いくつかの理由で必要になる。例えば、
眼科の屈折矯正手術( LASIK またはそ
の場角膜曲率形成術)では UV 光の(可
視光に比べて)強いエネルギーと、短
い波長での高い精度が有効である。ま
た、蛍光顕微鏡法では UV 光による試
料の励起や撮像が必要になる(図 1 )
。
製造の観点から言うと、UV は利用可
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2011.2 Laser Focus World Japan
*これはLaser Focus World Japan 2011年2月号掲載記事のリプリントです。©ICS Convention Design, Inc. All rights reserved.
品の保管と使用にも特別の注意が必要
な設計者の選択はもちろん正しいが、よ
になる。水分の吸収は真空容器に入れ
り安価な一般のガラス材料が十分に使
ることで防止できるが、この方法は使
える場合も同じ様に多い。このことは、
用場所の制限が大きな問題になる。対
とくに望ましくない光が光学配置の前
照的にサファイアは材料間の性質の違
段で遮蔽される場合に該当し、種々の
いを説明する場合の例になる。硬度が
吸収と後方反射が起こる場合にも恐ら
ダイヤモンドの次に高いサファイアは、
く適用できる。
通常の研磨剤を使用できないため、ダ
N‐BK7 ガラスと Borofloat ガラスは、
イヤモンド系の研磨剤が必要になる。
いずれも高性能フィルタの基板として
これらの材料の多くは UV の屈折率
十分に使用されてきた実例であるが、
が低くなる。このことは、大きな屈折
それには透過対遮蔽(信号対雑音)比の
率の材料に比べると、こうした材料を
向上を可能にした新しい光学コーティ
用いる UV 用の集光レンズの曲率が大
ング技術も貢献している。これらのガ
きくなることを意味している。そのた
ラスは石英ガラスよりも安価なため、
めに、より大きな曲率のレンズを生産し
多数の独自の高性能フィルタを必要と
ようとすると、同時に研磨できる数量
する光学システム設計の代替基板とし
が減少し、レンズ単価へのコストの転
て歓迎される。このようなシステム設
化が問題になる。この問題の解決には、
計が必要となる応用としては、競争の
レンズを二つ以上の要素に「分割」し、
激しい各種の流体/化学分析計とフロ
光の屈曲作用を共有する方法がよく知
ーサイトメトリが好例である。
られている。この方法はコスト低減に
光学コーティング技術は大きな進歩を
はあまり貢献しないが、光学吸収のよ
遂げたが、バイオメディカル応用が要求
うな好ましくない副作用を防ぐ。しかし、
する難しさを免れたわけではない。光
この方法は実証済みの選択肢という段
学基板の場合と同様に、UV で機能する
階に留まっている。
コーティング材料は少なく、いずれも価
UV 透明材料の相対コストの高さと
格が高い。UV コーティング材料は酸化
使用の難しさを考えると、光学設計者
ハフニウム、酸化スカンジウム、二酸化
が材料の限界を完全に理解することが
ケイ素、酸化アルミニウムなどが広く使
最も重要になることは間違いない。特
われている。コーティング材料の多くは
定の材料の選択が避けられない場合も
かなり軟質で、吸水性も高い。光学コー
あるが、安価な UV 材料、つまり石英
ティングはコーティング設計の専門企業
ガラスで十分な場合も多い。また、石
との共同作業が有益であり、それ以外
英ガラスが使われる場合でも、より一
の包括的な助言を述べることは難しい。
般的なガラスで間に合う場合がある。
このことは蛍光実験において UV 光
医用レーザ
の遮蔽または透過に使用される特殊な
バイオメディカル用の光学部品は UV
光学フィルタが好例になる。石英ガラ
以外にも固有の課題がある。医用レー
スは実質的に自家蛍光( UV 光を照射さ
ザの多くは波長には関係なく高パワー
れた石英ガラスからの望ましくない蛍
ビームを発生するため、このことが光
光)
を発生しないため、設計者の多くは
学コーティング、光学表面、光学材料
フィルタの基板として石英ガラスを選
のいずれにも影響を及ぼす。このよう
択しがちである。多くの場合、このよう
なレーザに応用できる光学部品は、低
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パワーの応用に比べると、より厳しい
仕様が求められる。
コーティングと基板材料は注意深く
選択し、突発故障を引き起こすバルク
の吸収効果を最小にしなければならな
い。基板は気泡と不純物がなく、でき
るだけ均質のガラスが必要になる。コ
ーティングは高パワーレーザを照射す
る際に光学部品に起きる故障の主な原
因の一つであり、故障の防止には欠陥
のほとんどないコーティングが必要に
なる。コーティングに共通する欠陥に
は微視的ピンホール(コーティングのボ
イド)
、金属小塊(コーティング材料に
共通する固有の介在物)
、その他の外
部デブリなどの光吸収サイトが含まれ
る。光学表面はできるだけ細かく研磨
図 2 反射鏡に基づく反射型顕微鏡の対物レンズは深紫外から遠赤外までの色収差の補正が必要
となる撮像用途に役立つ。
し、研磨工程から自然に発生する多数
の表面の擦傷と陥没穴をできるだけ排
の手段と機能を実現している。伝統的
業の多くは、そのシステムに使用され
除しなければならない。これらの高度
な対物レンズから接眼レンズまでの光
る光学部品の一般的な性能要求を把握
な精密加工は、いずれも光学部品の燃
路には、さまざまな照明(レーザやレー
しているが、光学部品のどのような仕
焼、亀裂、場合によっては破砕をもた
ザ以外の光源を含む)ばかりでなく、
様に基づいて必要とするシステム性能
らす可能性のある高パワーレーザ吸収
カメラ、検出器および分光器専用の光
が生まれるかを知らずに、生産のコス
の原因の排除には重要になる。
路も存在する。これらの光路にはいず
ト効果を追及している場合もある。こ
引き続き医用レーザを例にとると、精
れも調和動作の機能を備えた新品の光
のことは多数の光学部品と多数の光路
度に関する要求は、現在バイオメディ
学部品が要求される。その中核となる
が必要となるシステムの場合にも当て
カル用光学部品に求められることが多
対物レンズは、新しい顕微鏡の多様な
はまる(図 2 )。光学部品メーカーがシ
い厳しい光学特性と公差の幅広い議論
光路を支える最重要の組立部品として
ステムメーカーの目標性能を理解しさ
がなされるようになることは容易に推
の役割を果たすため、その光学設計、
えすれば、コスト効果のある部品への
定される。レーザ手術に使われる光学
製造および組立は驚異的な発展を遂げ
修正を提案することもできる。バイオ
部品は、すべての公差を非常に厳しく
ている。新奇材料、複数の精密光学素
メディカル用の光学部品を生産するこ
設定し、レンズ形状やその他の不完全
子、組立中の能動アラインメントを使
との難しさを広く理解し、設計と製造
性から生じる焦点ずれや散乱の問題を
用する必要から、顕微鏡対物レンズの
の関係者が設計と見積りの両方の段階
回避しなければならない。さもなけれ
なかにはそのコストが新車の価格に匹
において一緒に作業することが、バイ
ば、手術した患者には予想外の結果や
敵するものもある。
オメディカル用の光学プロジェクトの
障害が発生する。
バイオメディカル装置を製造する企
成功にとって重要になる。
光学顕微鏡
新型の顕微鏡システムは、今日利用
可能な光学装置の中で最も複雑なシス
テムの一つである。新型顕微鏡は多数
の光学部品を接続してさまざまな撮像
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推奨文献
( 1 )H.H. Karow, Fabrication Methods for Precision Optics, New York: J. Wiley & Sons
( 2004 ).
( 2 )R
.E. Fisher, B. Tadic-Galeb, and P.R. Yoder, Optical System Design, New York: McGraw Hill
( 2008 ).
著者紹介
アンドリュー・リンチ( Andrew Lynch )は米エドモンド・オプティクス社( Edmund Optics )のソリ
ューションエンジニア。e-mail: [email protected]
LFWJ