Ⅷ 原油価格高騰による影響について ∼約半数の企業で収益面での影響みられるが、価格転嫁は困難∼ はじめに 原油価格が平成 16 年 7 月以降特に急速に上昇し、10 月後半にはニューヨーク商品取引 所(NYMEX)の米国産 WTI 原油先物価格が、55 ドル/バレルを超す史上最高値を記録し、景気 に対する先行きの不透明感も高まった。そこで、県内企業における原油価格高騰による影 響について調査・分析をおこなった。 ①コストでの具体的な影響(複数回答可) 全産業では「燃料費として」(68.2%)が最も多く、次いで「原材料・資材費として」が (40.8%)、「輸送コストとして」は 26.4%であった。産業別にみると、製造業では「原材 料・資材費として」(67.1%)が最も多く、次いで「燃料費として」(64.4%)であった。ま た、サービス業では「燃料費として」(84.4%)が特に多かった。 100.0% 84.4% 80.0% 68.2% 68.2% 40.0% 67.1% 64.4% 54.5% 60.0% 53.7% 46.3% 40.8% 26.4% 18.2% 20.0% 6.0% 全産業 (n=368) 建設業 (n=44) 原材料・資材費として 8.1% 1.4% 0.0% 0.0% 36.6% 24.7% 製造業 (n=73) 商業 (n=123) 燃料費として 輸送コストとして 15.6% 20.3% 8.6% サービス業 (n=128) その他 ②収益面での影響 収益面での影響については、「多少影響が出ている」(38.1%)が最も多く、次いで「今 は影響ないが、先行き影響が出てくる」(31.8%)、「今後とも影響はあまりない」が 15.5%、「大きく影響が出ている」と回答したのは 14.7%であった。産業別でみると、建 設業、製造業、商業では「多少影響が出ている」が最も多く、次いで「今は影響ないが、 先行き影響が出てくる」であった。サービス業では「今は影響ないが、先行き影響が出て くる」(30.7%)が最も多く、次いで「多少影響が出ている」(27.7%)であったが、「大き く影響が出ている」が 18.2%と他産業に比べ最も割合が高く、逆に「今後とも影響はあま りない」も 23.4%と他産業に比べ割合が高くなった。 0% 20% 40% 全産業 (n=381) 14.7% 38.1% 建設業 (n=45) 13.3% 42.2% 製造業 (n=75) 14.7% 商業 (n=124) サービス業 (n=137) 11.3% 18.2% 60% 100% 15.5% 31.8% 6.7% 37.8% 46.7% 9.3% 29.3% 42.7% 27.7% 80% 32.3% 30.7% - 20 - 13.7% 23.4% 大きく影響が出ている 多少影響が出ている 今は影響ないが、先 行き影響が出てくる 今後とも影響はあまり ない 次に「大きく影響がでている」と「多少影響が出ている」をあわせ「影響が出ている」 として、再度集計してみる。全産業では過半数の企業で「影響が出ている」であった。産 業別にみると、製造業で「影響が出ている」が 61.3%で他産業に比べ最も割合が高く、建 設業、商業でも過半数の企業で「影響が出ている」と回答した。サービス業では「影響が 出ている」とする企業は他産業に比べ若干割合が低かった。 0% 20% 全産業 (n=381) 40% 60% 80% 52.8% 建設業 (n=45) 31.8% 55.6% 製造業 (n=75) 32.3% 46.0% 30.7% 影響が出ている 6.7% 29.3% 54.0% サービス業 (n=137) 15.5% 37.8% 61.3% 商業 (n=124) 100% 今は影響ないが、先 行き影響が出てくる 9.3% 今後とも影響はあまり ない 13.7% 23.4% ③収益面での具体的な影響(先行きの不安も含む) 収益面での具体的な影響については、約 6 割の企業が「利幅減少による採算悪化の影響 はあるが、企業努力でカバーしていく」と回答した。「特に影響はない」(25.1%)が次い で多く、「採算割れなど深刻な影響がある」と回答した企業は 12.3%であった。産業別に みると、全産業で「利幅減少による採算悪化の影響はあるが、企業努力でカバーしてい く」が最も多かったが、建設業では「採算割れなど深刻な影響がある」が約 2 割で他業種 に比べ多く、サービス業では「特に影響がない」が約 4 割と他業種に比べ多かった。 0% 全産業 (n=374) 建設業 (n=43) 製造業 (n=75) 10% 20% 30% 40% 12.3% 50% サービス業 (n=131) 11.5% 80% 90% 11.6% 72.0% 17.3% 63.2% 49.6% 20.8% 38.2% 採算割れなど深刻な影響がある 利幅減少による採算悪化の影響はあるが、企業努力でカバーしていく 特に影響はない その他(具体的に) - 21 - 100% 1.6% 25.1% 69.8% 9.3% 12.8% 70% 61.0% 18.6% 商業 (n=125) 60% 0.0% 1.3% 3.2% 0.8% ④価格転嫁の有無 価格転嫁の有無については、業界、企業により対応が分かれている。最も多かったのは 「価格転嫁を出来ればしたいが、自社の環境ではとても困難」が 28.4%で、ついで「価格 転嫁を行わず、当面はコスト削減等の企業努力で対応する」(19.4%)と自社で上昇分を吸 収しようとする企業が多かった。「現状では価格転嫁をしていないが、今後は価格転嫁を 検討していく」(19.1%) と回答した企業もほぼ 2 割を占め、逆に「影響は軽微であるの で価格転嫁の必要はない」も 18.3%あった。「価格転嫁をしている」と回答した企業は最 も少なく 6.3%であった。 業種別にみると、建設業では「現状では価格転嫁していないが、今後は価格転嫁を検討 していく」(34.9%)が多く、次いで「価格転嫁を行わず、当面はコスト削減の企業努力で 対応する」(30.2%)であった。「影響は軽微であるので価格転嫁の必要はない」と回答し たのは 2.3%しかなかった。サービス業では、「影響が軽微であるので価格転嫁の必要は ない」が 33.9%で最も多く、他の業種と比べても特に割合が高かった。 0% 10% 全産業 (n=366) 6.3% 建設業 (n=43) 7.0% 製造業 (n=74) 20% 8.5% 30% 19.1% 40% 50% 60% 70% 80% 19.4% 28.4% 34.9% 23.3% 90% 100% 18.3% 2.3% 30.2% 2.3% 9.5% 28.4% 29.7% 23.0% 6.8% 2.7% 商業 (n=125) サービス業 (n=124) 4.8% 9.6% 15.2% 12.1% 15.2% 31.2% 26.6% 19.4% 13.6% 33.9% 3.2% 価格転嫁をしている 価格転嫁を実施予定または交渉中 現状では価格転嫁をしていないが、今後は価格転嫁を検討していく 価格転嫁を出来ればしたいが、自社の環境ではとても困難 価格転嫁を行わず、当面はコスト削減等の企業努力で対応する 影響は軽微であるので価格転嫁の必要はない - 22 - 15.2% ⑤コスト増加分に対する価格転嫁のウエイト (④で「価格転嫁している」もしくは「価格転嫁を実施予定または交渉中」と回答した 企業にのみ回答を求めた。) 「20%未満」が 18 件(36.0%)で最も多く、次いで「80%以上」が 12 件(24.0%)となっ た。40%程度までと回答した企業が過半数を占めた。 80%以上 全産業 建設業 製造業 商業 サービス業 全産業 (n=50) 60∼80% 40∼60% 20∼40% 程度 程度 程度 12 1 2 6 3 24.0% 5 0 0 5 0 10.0% 10.0% 5 0 1 3 1 7 1 0 6 0 14.0% ほとんど 0に近い 20%未満 18 2 3 10 3 合計 3 0 0 0 3 80%以上 60∼80%程度 40∼60%程度 20∼40%程度 20%未満 ほとんど0に近い 36.0% 6.0% 0% 20% 40% 60% 80% 50 4 6 30 10 100% ⑥価格転嫁が思うように出来ない理由について 全産業でみると、「市場の競争が激しい」が 58.7%で最も多く、「取引先との交渉が困 難」が 31.5%、「長期契約のため価格変更が困難」は 4.9%であった。業種別にみても、 サービス業以外はすべて「市場の競争が激しい」が過半数を占めていた。どの業種でも激 しい競争のため思うように価格転嫁ができない状況である。 0% 10% 20% 30% 全産業 (n=143) 60% 70% 80% 90% 100% 31.5% 4.9% 4.9% 72.2% 27.8% 56.7% 商業 (n=52) サービス業 (n=43) 50% 58.7% 建設業 (n=18) 製造業 (n=30) 40% 36.7% 65.4% 6.7% 25.0% 46.5% 5.8% 37.2% 11.6% 4.7% 市場の競争が激しい 取引先との交渉が困難 長期契約のため価格変更が困難 その他(具体的に) - 23 - 3.8% ⑦仕入・販売のコストに対し原油の依存度はどの程度か 全産業でみると、「10%未満」が 38.7%で最も多く、次いで「10∼20%程度」(19.4%) であった。20%程度未満の原油依存度が約 7 割であった。 0% 全産業 (n=155) 10% 11.6% 20% 30% 7.7% 40% 50% 19.4% 70% 80% 38.7% 90% 100% 8.4% 14.2% 35.0% 25.0% 5.0% 60% 20.0% 10.0% 5.0% 製造業 (n=29) 6.9% 6.9% 20.7% 3.4% 19.0% サービス業 (n=48) 6.9% 55.2% 8.3% 10.3% 6.3% 14.6% 30%以上 34.5% 20.7% 6.9% 27.1% 35.4% 20∼30%程度 8.6% 10∼20%程度 10%未満 8.3% ほとんどない わからない ⑧「収益面での影響」と「価格転嫁の有無」の関係(②の結果と④の結果をクロス集計) ②で「大きく影響が出ている」と回答した企業が④では「価格転嫁をできればいいが、 自社の環境ではとても困難」が 51.9%で最も多かった。「価格転嫁をしている」と回答し たのは 11.1%であった。収益に大きく影響していても、価格転嫁できない状況が強いこと がうかがえる。 0% 大きく影響が出ている (n=54) 10% 20% 11.1% 11.1% 多少影響が出ている (n=140) 30% 40% 50% 60% 80% 90% 51.9% 18.5% 13.6% 70% 33.6% 20.0% 7.4% 0.0% 21.4% 6.4% 5.0% 今は影響ないが、 先行き影響が出てくる 6.0% (n=116) 今後とも影響はあまり無い 5.9% (n=51) 23.3% 22.4% 24.1% 19.8% 4.3% 5.9% 2.0% 15.7% 68.6% 2.0% 価格転嫁をしている 価格転嫁を実施予定または交渉中 現状では価格転嫁をしていないが、今後は価格転嫁を検討していく 価格転嫁をできればしたいが、自社の環境ではとても困難 価格転嫁を行わず、当面はコスト削減等の企業努力で対応する 影響は軽微であるので価格転嫁の必要はない - 24 - 100% おわりに 米国産 WTI 原油先物価格が平成 16 年 10 月に 55 ドル/バレルを超す市場最高値を記録し、 その影響を受け世界中で原油価格の高騰が連鎖的に起こった。背景には中国やインド等経 済成長著しい地域での原油需要の増加や、米国でのガソリン不足に加え、投機筋やヘッジ ファンドによる先物での買い上げがあるといわれている。 平成 16 年 9 月に経済産業省が発表した「原油価格上昇の我が国産業への影響に関する 調査結果について」によると、「原油価格の上昇が我が国経済に与える影響については、 マクロ経済的に見れば、我が国経済に占める原油輸入の割合が低下していることもあり、 過去と比較して大きくないと考える。しかし、個別の産業・企業毎に見れば、その影響に は違いがありうる」とある。 今回の景気動向調査では、県内において燃料費をはじめ原材料・資材費や輸送コスト等 さまざまな形で収益面に影響していることがうかがえる。また、収益面で影響を受けてい る企業でも、市場での激しい競争により価格転嫁できない企業が多く、また価格転嫁でき た場合でも増加分に対する程度の小さい企業が多かった。 原油価格の高騰がマクロ経済的には過去と比較して大きな影響はないといえども、県内 企業においては経営に大きく関係してくることが今回の調査からもうかがえる。県内景気 の回復を考えた場合、原油価格の安定がすべてではないが、ひとつの重要な要素であると いえよう。 - 25 -
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