チームスポーツにおけるコミュニケーションの重要性 日本大学文理学部体育学科 スポーツ心理学演習 コミュニケーショングループ 加藤彰子 神島知子 石上航太 1:はじめに チームスポーツにおいてチームがうまく機能するためには、技術や戦術などと同じように、 コミュニケーションも非常に重要な要素の一つである。技術や戦術を向上させるためにコミュ ニケーションか必要とされるならば、コミュニケーションはチームスポーツにおいて最も重要 な要素であると言うことかできる。 優秀なチームを育成するためには、コミュニケーションの技術(コミュニケーションスキル) を向上させればよいと言える。そこで、コミュニケーションスキルと競技力は比例するかどう か。また、その間にはどのような関係かあるかを考えた。 2:コミュニケーションとは ①コミュニケーションの概念 一般的に個人対個人・個人対集団・集団対集団・が色々な記号を用いて、記号システムと してのメッセージを構成し、それを通路である目や耳を通して送り手か受け手に対してメッセ ージを発信・伝達し、及び受け手が送り手のメッセージを受信する過程とされている。 ②コミュニケーションの種類・方法 一般的にコミュニケーションは大きく2 つの種類に分類できる。まず 1 つは「言語的コミュ ニケーション」であり、もう 1 つは「非言語的コミュニケーション」である。前者は言葉を用 いてメッセージを伝える方法で、後者は主に言葉を使わずに行動を通じてお互いにメッセージ を伝える方法のことである。 ここではまず「ボディランゲージ」について触れておく。 (ボディランゲージは上のように分 類すると「非言語的コミュニケーション」に含まれる部類である. )この「ボディランゲージ」 とは、表情・姿勢・ジェスチャー・接触行動などを通じて、その顔の変化や目の動きの変化 などからお互いにコミュニケーションをとるということである。 特にスポーツ競技では敵である相手と戦う場合か多く、そこでは心理的な駆け引きを目や態 度や表情を通して、心の微妙な変化、たとえば弱気・あせり・集中欠如・怒り・慎重なとの 心理的トラブルを的確に把握し、また協力して戦う味方とはジェスチャーを交えた「サインプ レー」や「アイコンタクト」で信頼・激励・理解など意図している気持ちを伝えることのでき る「非言語的コミュニケーション」は重要な位置にあるといえる。 ③コミュニケーションに影響する要因 ☆スポーツ集団 ① 集団競技はチームが共同生活を送る場合と各自で生活を送った場合コンビプレーなどで 差はあるのか? 日本におけるスポーツ集団は、もちろん日本社会(文化)の影響を受ける。その中で出 現する長所・短所は以下の通りである. ☆長所☆ ・個々のスポーツ集団は、調和的で、高い自立性を持っている。 ・外部的変化に対しては受動的であるが、高い適応力や自己改善能力を持っている。 ・スポーツ集団のメンバー間には、温かい気配りや協調・共感がみられる。 ・同時に、集団メンバーの相互の間、及び他の集団との間に、活発な競争が存在する。 ・異質なメンバー(監督〜選手、先輩〜後輩、熟練者〜初心者など)の間の関係が重視さ れるとともに棲み分けが許容される。 ☆短所☆ ・内部の和が重視される反面、それを乱す外的要因を排除しようとするために、集団が閉 鎖的・独善的である。 ・変化に対して受動的・状況依存的であるため、対応に一貫性がなく無原則である。 ・スポーツ集団の活動やメンバーの関係は、非理性的で情緒優位な志向に陥りやすい。 ・スポーツ集団の意思決定や柔軟な対応などが困難で、マンネリ化しやすい。 ・スポーツ集団内部や関連組織の間で、過当な競争が行われやすい。 以上をふまえて、住食を共にし、行動することはお互いの意思や目標などを確認しやすく、 チームワークの向上が重要であるといえる。 ②ペアスポーツでのコミュニケーション ペアをチームスポーツの最小限の形と考える場合、やはり同じ方向を向き、息を合わせな ければならない。それにはお互いを思いやり、気持ちを一つにして臨まなければならない。 試合前にすることでもあるが、試合中のコミュニケーションはそれ以上に必要であると言える。 ☆上下関係(人間関係) * 上下関係・レギュラーと控えのコミュニケーション スポーツ活動とは、相手と競い合い勝敗を分けるものである。そのためチームスポーツに おいては、チームの勝利を優先すると必然的に技術的に優れたものがレギュラーになり、劣っ ているものは補欠になる.レギュラーと補欠の選手がうまくコミュニケーションをとるにはどう したらよいか。また上級生と下級生はどのようにコミュニケーションをとったらよいか、上下関 係の必要性について考えた。 上下関係というものは、日本の社会の中に常に存在する、ひとつの伝統的な文化のような ものであり、日本のスポーツのチームで上下関係がまったくないということはありえないだろ う。上級生と下級生がお互いに刺激し合って技術を高めていくことは必要だが、厳しい上下関 係は必要ないだろう。チームワークというものは、チームのメンバーがお互いの考えを理解 し合うことで築かれるものである。お互いが言いたいことを言い合えないような上下関係はコ ミュニケーションを悪くする。従って、必要以上の上下関係はないほうかよい。 レギュラーと補欠の関係でも同様である。お互いが話し合って理解し合い、刺激し合わなけ ればならない。チームとは、レギュラー選手だけで構成されるものではない。試合に出る者 同士が良いコミュニケーションをとるだけでは優秀なチームにはなれない。マネージャーや 控えの選手とも良いコミュニケーションをとる必要がある。マネージャーや控えの選手・下級 生とうまくコミュニケーションをとるには、それらの人たちに価値のある役割を与えることが必 要である。それがないと、自分がチームに存在する意味を見出せず、チーム内で良いコミュ ニケーションをとることができないからである。 ☆活動外(私生活) * コーチとのコミュニケーション・私生活でのコミュニケーション チームスポーツでのコミュニケーションは、必要不可欠なものだ。コーチからキャプテンへ、 キャプテンからプレイヤーヘ。そして、プレイヤーの中でも上級生から下級生へ指導しつつ、 指導される仕組みになっている。指導する身に立ってこそ、指導する身が深く共感できるもの である。どちらか一方の立場だけでは、知誰の受け渡しということすら十分には成功しがたい。 他の者とコミュニケーションをとることで、自分の知識の確認、プレーの確立につながるわけ である。そして、コミュニケーションをとる上で最も重要なことは、信頼関係が確立されてい るかということ。そして指導される側は、指導者に対し尊敬の念を持って接しているかというこ と。信頼をしていない者に対し、信念を持って指導することはできないし、指導される側も、 幾多の要求に対して受け入れる姿勢を持てない。そして、同じ目標を持つこと。進む方向かバ ラバラな者同士の集まりはただの集団としかいえない。 そこで、競技時間外でのコミュニケーションが必要となってくる。何度もお互いの意思・目 標を確認し合うことはとても重要なことである。どれだけ練習しても目標が定まってないチー ムは、決して成長しない。 ではプライベートのつながりの必要はあるのか? スポーツをする者は大抵経験がある合宿。これは暑いときに涼しい場所へ行き、多くの時間 練習するという意図もあるが、チームメイトと生活を共にすることで得られる何かがそこには あると思う。他人と生活する中で、人を思いやったり、上下関係を学んだり、普段はあまり見 えないお互いの内面を分かり合い、個々を認め合うことのできる場所であるだろう。図3 でも わかるように、合宿の意義として「チームの団結・統一・チームワークの向上が回答の中で も圧倒的に多かった。 以上のことから、チーム競技をする上で「コミュニケーション」は最も重要であると言える。 3:コミュニケーションスキルと競技力の関係 チームスポーツにおけるコミュニケーションの重要性について、実際にチームスポーツに参 加している選手・指導者にアンケートを実施し、その結果をグラフにした。 チームを方向づける要件 その他 集団生活 楽しさ 健康管理 規則 医科学サポート 選手管理 指導者 上下関係 地域のバックアップ 伝統 適切な目標 選手間のコミュニケーショ ン リーダーシップ 0 図1 ☆ チームを方向つける要因 10 20 チームを方向つける要因 30 40 図1 は、チームを方向づける要因に対する選手の回答数を示したものである.これをみる と、選手は、 「指導者」 ・ 「選手間コミュニケーション」 ・ 「適切な目標」 ・ 「リーダーシップ」 ・ 「楽 しさ」の5 つが重要としていることかわかる。中でも「選手間コミュニケーション」が最も支 持されている。 また、選手の回答だけでなく指導者の回答もほぼ同じような傾向を示しており、選手も指導 者もチームを方向づける上で、コミュニケーションの重要性を認識しているようである。 試合中の選手間のコミュニケーション ボディコミュニケーショ ン 最も必要なことだけ考える 試合中は行わない 目,表情 失敗のカ バー 状況の予測 プ レイ の確認 意思の疎通 相手チームへの意識 チームの雰囲気向上 0 図2 5 10 15 20 試合中の選手間のコミュニケーション ☆ 選手間のコミュニケーション 図2 は、試合中の選手間コミュニケーションがどのような形で行われているかを示したもの である。 「チームの雰囲気向上」 ・ 「プレーの確認」を選手間のコミュニケーションの目的にあ げる人か多く技術的にも精神的にもとても必要であると言える。それに対し指導者は必要なこ とだけ伝える・お互いを褒めあうなど、違った回答が得られた。 合宿の意義 その競技に集中 集団生活 規則 健康管理 精神力・忍耐力 社会性・あいさつ・礼儀 集中練習 モチベーショ ン を 高める お互いを 知る 為 信頼関係 選手間コミュニケーショ ン チームの団結・統一・チームワークの向上 技術の向上 0 2 図3 4 6 8 合宿の意義 10 12 14 16 18 20 ☆合宿の意義 図3 は、合宿の意義について示したものである. 「チームの団結・統一・チームワークの向 上」という回答が圧倒的に多く、 「選手間のコミュニケーション」 「技術の向上」という回答が それについで多い。 このことから、合宿においては、技術を向上させることは勿論重要だが、それ以上に、集団 生活の中でコミュニケーションをとり、チームワークを向上させることの方がより重要視されて いることかわかる。合宿は技術的なことよりも精神的なことに意義があるといえる。 指導者と選手間の私生活でのコ ミュ ニケー ショ ン 不必要 必要 0 図4 5 10 15 20 25 30 35 40 指導者と選手間の私生活でのコミュニケーション ☆指導者と選手間の私生活でのコミュニケーション 図 4 は、お互いの考えを理解し合い、信頼関係を築くために私生活でのコミュニケーション が必要であると考えている選手が多い。不必要という意見には、競技と私生活が別のもので あるからという理由が挙げられているが、不必要という回答は少数である。 コ ミュ ニケー シ ョ ンの方法と競技力の関係 思う 思わない 0 10 20 30 40 50 60 70 図 5 コミュニケーションの方法と競技力の関係 ☆コミュニケーションの方法と競技力の関係 図5 は、コミュニケーションの方法と競技力に関係があるという回答が圧倒的に多い。コミ ュニケーションの取り方が上手な者の方が、競技力が高いと一般的に考えられていることかわ かる。 ならば、競技力を高めるためにはコミュニケーションの取り方の技術を向上させればよいと いう発想が生まれてもよいはずであるが、チームスポーツの練習では、基礎的、実戦的な競 技の練習や、筋力トレーニングなどの体力を向上させる練習が中心であり、コミュニケーショ ンの取り方の技術を高めるための練習はあまり行われていない。 4:優秀なチームを育成するには・・・ 上記のアンケートの回答の結果から、優秀なチームを育成するうえで、「コミュニケーショ ン」は重要な役割を持っているといえる。Q 1 、〈チームを方向つける条件〉では、 「選手間 のコミュニケーション」が重要であるという回答が多く、また、Q 2 、 〈試合中の選手間のコミ ュニケーション〉では、 「チームの雰囲気向上」の回答が最も多かった。このことから、選手 が競技力を向上させるためには、練習中、試合中にいかにコミュニケーションを取れるか、ま た、選手と指導者間も含め、スポーツの場こおける対人関係を満足いくものとするためにも、 どのようにコミュニケーション能力を身につけるかが重要である。そのためだけではなく、コ ーチングやトレーニングの効果を高め、競技力向上、競技成績アップのために、意思の疎通、 気持ちの通い合いといったコミュニケーション能力が大きな役割を果たしている。では、コミ ュニケーションスキルを、トレーニングによって形成、獲得するにはどうしたらよいのか。まず、 コミュニケーションスキルには、「メッセージを送るためのスキル」と「聞くためのスキル」 がある。前者で重要なことは、①自分自身の考えを、直接当事者に伝えているか、②明確で 一貫性を持たせたメッセージを伝えているか、③含みのある言い方をしていないか、等。後 者で重要なことは、①能動的に聞いているか、②寛大な心で聞いているか、③先入観を持っ て聞いていないか、等。これらを意識してコミュニケーションをとろうとすることが、コミュニ ケーションスキル向上につながる。 5:まとめ 今まで述べてきたように、優秀なチームを育成するためには、コミュニケーションは重要な 役割を持つといえる。しかし、実際チームスポーツの練習の中でコミュニケーションのとり方 の技術を高めるための練習は行われていないのが現状である。選手同士、選手〜コーチ間で 「コミュニケーション」について深く考えることが優秀なチームを育成する第一歩となるだろう。 参考・引用文献 スポーツ心理学会編 2002 スポーツメンタルトレーニング教本 東洋 他編 1981 新版心理学事典 松田岩男 杉原隆編 1987 新版運動心理学入門
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