東海北陸自動車道の全線開通1年後における 地域への影響調査

東海北陸自動車道の全線開通1年後における
地域への影響調査
1
中川
雅允
・2杉 浩行
・3山本
貴司
1富山河川国道事務所
調査第二課
(〒930-8537 富山市奥田新町2番1号)
2富山河川国道事務所
調査第二課
調査第二課長(〒930-8537 富山市奥田新町2番1号)
3富山河川国道事務所
調査第二課
道路調査第一係長
(〒930-8537 富山市奥田新町2番1号)
平成20年7月に全線開通した東海北陸自動車道のインパクト調査として、道路交通指標調査
(ナンバープレート調査、常時交通量観測データ集計)及び地域への影響調査を実施し、開通
1年後の整備効果について分析した。ナンバープレート調査結果及び常時交通量観測データ集
計結果からは、交通流動の量的・質的変化を分析。また、地域特性を踏まえた入り込み客の調
査結果からは、観光分野の変化について把握した。調査期間中に高速道路料金休日上限1,000円
の割引制度が導入され、その効果についても把握できた。
キーワード
東海北陸自動車道、ナンバープレート調査
1. はじめに
(1) 道路交通指標調査
東海北陸道の全線開通1年後の交通流動変化を把握す
るため、ナンバープレート調査の実施と常時交通量観測
データの整理を行った。(表-1、図-1参照)
表-1 ナンバープレート調査の概要
対象路線数(地点数)
6路線(7地点)
調査時間・回数
平日5:00~9:00(28h)1回
休日1:00~5:00(28h)1回
至 新潟県
2. 調査の概要
氷見高岡道路
国道41号
北陸道
国道8号
東海北陸道
国道156号
至 福井県
東海北陸自動車道(以下、「東海北陸道」という。)
は、愛知県一宮市から岐阜県を経由して富山県砺波市を
結ぶ184.8kmの高規格幹線道路であり、富山県内では北
陸自動車道・能越自動車道(以下、「北陸道」,「能越
道」という。)と接続することで広域的なネットワーク
を形成しており、北陸圏域と東海圏域とが高速交通体系
で連結され、沿線地域の産業、経済、文化、観光等の発
展と振興が大きく期待されているところである。
平成20年7月5日に、岐阜県内の飛騨清見インターチェ
ンジ(以下、「IC」という)~白川郷IC間(延長約
25km)が開通し、1972年(昭和47年)の着工から36年を
経て全線開通されたところである。
そこで、東海北陸道の全線開通から1年経過した後の
地域への影響を把握するため、道路交通指標調査や地域
への影響調査を実施し、富山県を中心とした整備効果の
検討を行ったものである。
● ナンバープレート調査箇所
至 岐阜県
図-1 ナンバープレート調査箇所
3. 交通流動の変化
(1) 断面交通量
常時交通量観測データから、東海北陸道及び周辺路線
の1日あたりの交通量(平日・休日別)を整理した結果
を図-2に示す。
これを見ると、全線開通前(H20.4~H20.6)に比べて、
全線開通後(H20.7~H21.3)の東海北陸道の交通量は、
図-2-1より平日・休日とも約2倍となっているものの、他
の路線については、交通量が10%程度の増加、もしくは
減少している状況となっている。
さらに、休日の高速料金の上限を1,000円とする休日
割引が実施された平成21年3月下旬以降(H21.3~
H21.12)では、北陸道・能越道の休日1日あたりの交通
量は、全線開通前の1.2~1.4倍(図-2-2~2-4)であるのに
対し、東海北陸道では3.2倍と大きく増加している。
(図-2-1)
なお、東海北陸道とともに、富山県と東海地方を結ぶ
2
1.9
1.7 1.8
1.7 1.8
1
1
0
約10%減
0
2
2
1
0.5 0.5
0.6 0.5
0.6 0.6
H20.7~H21.3
H21.3~H21.12
全線開通後
全線開通
-1
H20.4~H20.6
H20.7~H21.3
H21.3~H21.12
全線開通前
全線開通後
全線開通
全線開通前
休日高速料金上限1000円
休日高速料金上限1000円
図-2-4
金沢森本~小矢部
約30%増
3.8
4
2.9 2.9
2.6
3
富山西~富山
3
3.0
2
2.3
2
1
1
0
約20%減
3
3.3
H20.7~H21.3
H21.3~H21.12
全線開通前
全線開通後
全線開通
2.5
2.4 2.4
国道41号
交通量(万台/日)
図-2-2
1
0
約10%減
H20.7~H21.3
H21.3~H21.12
全線開通前
全線開通後
全線開通
図-2-3
猪谷
4
約20%減
4
3
3
2
約20%減
2
1
1
1.0
0.6 0.7
0.6 0.8
H20.4~H20.6
H20.7~H21.3
H21.3~H21.12
全線開通前
全線開通後
全線開通
0.6
約2倍
0.4
0.3
1
1.1
0.7
0
0.5
国道156号
-1
0
H20.4~H20.6
H20.7~H21.3
H21.3~H21.12
全線開通前
全線開通後
全線開通
A
+
休日高速料金上限1000円
-1
小牧
5
約20%減
3
3
2
2
1
1
0.1 0.2
0
0.1 0.1
0.1 0.2
約30%減
H20.7~H21.3
H20.4~H20.6
全線開通前
0
休日高速料金上限1000円
図-2-5
4
4
-1
H21.3~H21.12
全線開通後
全線開通
+
図-2-1
0
+
全線開通前に対する増減比
2
交通量(万台/日)
3
3
0.2
A
4
全線開通前に対する増減比
交通量(万台/日)
白川郷~五箇山
4
1
-1
H20.4~H20.6
0
2
2
1
5
約3.2倍
3
休日高速料金上限1000円
+
5
2.2
+
休日高速料金上限1000円
東海北陸道
2.6
2
0
-1
H20.4~H20.6
4
約40%増
4
4
全線開通前に対する増減比
5
交通量(万台/日)
北陸道
5
+
+
図-2-7
0
0
0
-1
H20.4~H20.6
北陸道
1
ほぼ横ばい
交通量(万台 /日)
1.7
2
3
全線開通前に対する増減比
3
4
約20%増
3
全線開通前に対する増減比
3
4
全線開通前に対する増減比
4
高岡北~氷見
5
4
ほぼ横ばい
交通量(万台 /日)
交通量(万台/日)
能越道
倶利伽羅
5
全線開通前に対する増減比
国道8号
国道41号・国道156号については、東海北陸道の全線
開通とともに減少している状況にある。
(図-2-4、図-2-5)
休日高速料金上限1000円
1日あたり交通量
平日
休日
交通量増減比(対全線開通前)
平日
×
休日
図-2-6
図-2 路線別交通量の変化
平日
・2007 年から 2008 年までの変化
(2) 方面別交通流動
東海方面から富山方向の流入・流出する車両の車籍を
把握するため、ナンバープレート調査を行った。
東海北陸道を利用した車輌の車籍地について見ると、
東海地方のナンバーの割合が、年々高くなる傾向にある。
(図-3参照)
0%
20%
全通前
31%
(2007年)
全通後
(2008年)
全通1年後
(2009年)
40%
13%
21%
14%
北陸
80%
41%
11%
21%
富山
60%
44%
東海
100%
3%
14%
4%
46%
18%
4%
信越
・2007 年から 2009 年までの変化
15%
その他
休日
・2007年から2008年までの変化
・2007年から2009年までの変化
図-3 東海北陸道を通行する車輌の車籍地の割合
(3) 東海北陸道利用交通の範囲
ナンバープレート調査結果を基に、東海北陸道を利用
している東海方面車籍の利用交通量の変動についてみる
と、東海北陸道の全線開通前後では、休日に交通量が増
加していることが確認できる。
特に、休日割引が導入された2009年では、2007年と比
較すると、休日の交通量増大が顕著に現れている。
(図-4参照)
東海北陸道の全線開通は特に観光面に大きな効果をも
図-4 東海方面ナンバーの利用交通量の変化
たらしたものと想定されるが、観光については基盤整備
等の必要がないため、短期的に全通・休日割引の効果を
反映できることにあると考えられる。
(4) 移動距離と交通量
ナンバープレート調査結果から、東海北陸道を利用し
ている東海方面の利用交通量と五箇山ICからの距離の関
係をみると(図-5)、距離が遠くなるほど利用交通量は
低下している傾向が確認できる。五箇山ICからの距離で
みれば、80kmから150kmの間が変化点となっていること
が伺える。時間で言えば、約1時間~2時間(荘川IC~飛
騨清見IC間の平均速度75.6km/h:道路時刻表より)の間
となる。
伊豆:418.1km
沼津:395.3km
静岡:356.5km
全通後+料金割引 2009(休日)
浜松:283km
三河:208.1km
三重:212.7km
豊橋:249.5km
1000
岐阜:154.6km
飛騨:60.1km
(1) 交流人口の試算
富山・中部方面へのアクセスルートとなる東海北陸自
動車道、国道156号、国道41号(図-2のA-A断面)の全通前
~全通後+休日割引後の断面交通量の変化をみると
(図-7)、平日で約1,700台/日、休日で約5,100台/日の交
通量が増加しており、この交通量を基に交流人口を試算
した。
富山-東海圏の断面交通量の変化
800
25,000
30%増
600
20,000
400
200
0
0
100
200
300
五箇山ICからの距離 (km)
400
500
6
全通後
2008年(平日)の近似式
y = 5E+06x
2
R = 0.9661
沼津(418.1km)
静岡(356.5km)
全通後+料金割引
2008年(休日)
累乗 (全通+料金割引(休日))
-3.2962
4
全通後
2008年(休日)の近似式
-2.6776
y = 447680x
2
R = 0.9539
0
50
100
150
約5,100台/日
の増加
20,413
10,000
15,244
11,656
9,890
全通前
全通後
全通前
全通後+割引
H20.4~H20.6
H21.3~H21.12
H20.4~H20.6
H21.3~H21.12
平日
休日
図-7 AA断面の交通量の変化
(東海北陸道、国道156号、国道41号)
①東海北陸道開通前後と料金割引の影響
平成17年道路交通センサスによると車両1台当たり
の平均乗車人員が1.3人/台なので、これを基に年間の
交流人口の増加を試算してみると、
200
250
300
五箇山ICからの距離
【全通前~全通後+休日割引の変化】
平日:1,700台/日×1.3人/台×240日/年=約53万人/年増
休日:5,100台/日×1.3人/台×125日/年=約83万人/年増
年間合計:約136万人/年
-3.3864
y = 1E+07x
2
R = 0.9503
開通後+料金割引
2009年(休日)の近似式
2
0
約1,700台/日
の増加
全通後+料金割引
2008年(休日)
全通+料金割引(休日)
浜松(283km)
豊橋(249.5km)
三河(208km)
三重(212.7km)
飛騨(60.1km)
8
全通後(休日)
全通後 2008年(休日)
全通後
2008年(休日)
累乗
(全通後(休日))
岐阜(154.6km)
尾張小牧(155.8km)
名古屋(168km)
全通後(平日)
全通後 2008年(平日)
全通後
2008年(平日)
累乗
(全通後(平日))
20%増
0
この傾向は休日・平日ともに同様な傾向を示している
が、平日より休日の方が比較的距離の影響が小さい(利
用しやすい)傾向が見られる。
図-5の名古屋車籍に示されるように車籍地の人口や登
録車両台数の大小による影響も含まれていることから、
各車籍の登録台数の重みを取り除くために、交通量を登
録車両台数(千台単位)で割ったものが図-6である。
10
15,000
5,000
図-5 五箇山ICから車籍地までの距離と通行台数の関係
通行台数/車籍登録台数(台/28h/千台)
4. 地域への影響評価
交通量(台/日)
交通量 (台/28h)
1200
全通後 2008(休日)
名古屋:168km
全通後 2008(平日)
1400
すると、ここでも休日割引の効果が大きく影響している
のが判る。
【岐阜の場合】
250台/日(実測:195台/日)
開通後(平日)
318台/日(実測:309台/日)
開通後(休日)
全通+料金割引(休日)507台/日(実測:415台/日)
350
400
となり、136万人の交流人口が新たに発生した試算とな
る。立山黒部の年間入り込み客数が約100万人なので、
これに匹敵する規模の交流が発生したこととなる。
450
図-6 車籍登録車両台数を加味した交通量と距離の関係
自動車の登録台数の多い名古屋は平準化され近似曲線
は通行台数と距離の相関関係に有ることが確認された。
休日割引導入前後(全通後)の2008年と2009年を比較
②休日割引の影響
また東海北陸道全線開通後、休日割引の導入効果
を見ると(図-8)、休日割引導入前後で約3,900台/日
増加しており、同様に年間の交流人口を試算すると、
約63万人/年の増加となった。年間交流人口の増加136
万人に対して約半数(46%)を占める結果となり、休
日割引が大きな効果を発揮していることを示した。
【全通後~全通後+休日割引(2009年)の変化】
休日:3,900台/日×1.3人/台×125日/年=約63万人/年増
富山-東海圏の休日割引による交通量の変化
15,000
交通量(台/日)
46%増加
10,000
約3,900台/日
の増加
11,091
5,000
7,170
0
全通後
全通後+料金割引
H20.7~H21.3
H21.3~H21.12
図-8 料金割引による交通量の変化
(2) 富山県内の観光客数の変化
東海北陸道の全通及び休日割引の導入は、東海北陸道
の休日の交通に大きく影響した。そこで、富山県の観光
入り込み客数の変化についてみると、平成21年は過去最
高の入り込みとなっている。(図-9参照)
東海北陸道全通(7月5日)
リーマンショック(9月)
東海北陸道
五箇山IC~白川郷IC供用
東海北陸道
2,955
福光IC~五箇山IC供用
3500
観
光
入 3000
込
客
数
(
2500
万
人
/ 2000
年
能越道氷見ICまで延伸(4月)
能登半島地震(3月)
五箇山・白川郷
世界遺産に認定
休日高速料金上限1,000円(3月)
)
H1
H2
H3
H4
H5
H6
H7
H8
H9
H10
H11
H12
H13
H14
H15
H16
H17
H18
H19
H20
H21
1500
図-9 富山県内の観光入込客数の推移(富山県観光課)
ここで、全通前後の変化と割引前後の変化を調べるた
めに、観光入込客数を全通前の平成19年と全通後の同月
比の推移について表した。(図-10参照)
グラフからは、全通後1.0~1.12のレンジで推移し、さ
らに休日料金割引(休日上限1000円)導入後は1.02~
1.17のレンジに底上げしているのが判る。
対H19同月比
1.20
1.17
1.15
1.13
1.12
1.09
1.10
1.05
1.03
1.00
1.11 1.11
1.07
1.02
1.02
0.99
0.97
1.06
1.04
1.03 1.02
1.00
0.98
0.95
0.90
休日割引導入後
東海北陸道全通後
0.85
6月
5月
4月
3月
2月
1月
12月
11月
9月
10月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
1月
0.80
図-10 1ヶ月あたりの観光入込客数の変化(富山県観光課)
参考までに、先に「4.(1)①」で試算した全通前~
全通後+休日割引後の交流人口の増加と富山県の観光入
り込み客数の関係をみると、入り込み客数では東海北陸
道の全通前が2008年(4月~6月)が約845万人、全通+
休日割引導入後の2009年(4月~6月)が895万人で約50
万人増加している。このうち県外客の割合は約24%なの
で県外客の増加は約12万人。一方、富山県への観光流入
人口を単純に4月~6月の3ヶ月で試算すると、
【平日】53万人/年×3ヶ月/12ヶ月×30%※1×1/2※2×0.8※3
=約1.6万人
【休日】83万人/年×3ヶ月/12ヶ月×70%※1×1/2※2×0.7※3
=約5.1万人
※1:アンケートによる観光目的の割合
※2:流入分(半数と仮定)
※3:ナンバープレート調査による県外車の割合
これらを足すと約7万人となる。富山県の県外観光入り
込み客の増加12万人の約6割となる。
5. まとめ
全線開通によるネットワーク効果により東海北陸道を
利用する交通は増加した。特に料金割引の導入が相乗効
果として大きな効果を発揮し、増加量の約5割を占める
と推計された。平日より休日の利用が多く、短期的に効
果を発揮できる観光面での影響が伺える結果となった。
また、ナンバープレート調査では、東海系の車籍割合
が増加傾向を示し交流が活発になっていることが確認さ
れた。交通の質としては、北陸を訪れる車両は調査地点
から距離が離れるほどその交通量は小さくなる傾向が見
られたが、ここでも休日割引の効果が確認された。
交流人口の面では東海北陸道の全通及び休日割引によ
り、北陸-東海の交流に大きな影響を与え、人の流れに
換算すると年間で約136万人の交流増と試算された。
6. おわりに
今回の調査では、特に休日(観光)面での効果が強調
される結果となった。一方、産業・経済面では、高速バ
スの運行本数増加の効果も見られ、産業・経済面への更
なる効果も現れている。
また、試算結果については、起終点のデータが不足し
ているので、仮定の部分も含まれており、あくまでも試
算方法を提案したものと理解して頂きたい。ナンバープ
レート調査と合わせて、主要ICでの調査等、同時に起終
点が判れば、起点終点間の交通量予測の提案も可能と考
えられ、さらに、道路の整備状況(暫定2車線区間)や
道路の混雑状況等、他の供用道路のデータを蓄積するこ
とにより、より精度の高いものにできるのではないかと
考える。予測式を応用すれば、観光入り込み客の予測や、
関連して経済波及効果の試算も可能と考えられる。