真里「バレーコード、ちゃんと音が鳴ってますね」

スミ子「C……G……F……それからB」
真里「バレーコード、ちゃんと音が鳴ってますね」
スミ子「あと……」
真里「それは「Led Boots」のイントロじゃないですか!!」
スミ子「うん……昨日、ぴかりんに教えてもらった」
真里「光さんと一緒だったんですか?」
スミ子「お店休みだったじゃん。で、ぴかりんと偶然会って、その流れで私んちで
ジェフ・ベックのことと、あとコードの弾き方を教えてもらったんだ」
真里「よかったじゃないですか」
スミ子「でも、滅茶苦茶怖かったよ」
真里「え、光さんが、ですか?」
スミ子「うん。タバコのことで怒られ、ギターに対する態度に怒られ……今までの
ぴかりんとは思えないくらい違うんだもん。おしっこちびりそうだった」
真里「想像つきませんね」
スミ子「いやね。コードが弾けるようになったのはいいのよ。タバコの説教もさ。
でも……」
真里「何か問題でも?」
スミ子「そのあと、ジェフベックの話を」
スミ子「5時間も聞かされたんだよ」
真里「そんなに喋ってたんですか!!」
スミ子「うん。途中、ジェフベックが交通事故にあった話をしたら、いきなり号泣
しだして」
真里「自分で語って、自分で泣いてるんですか……」
スミ子「あと、ジェフベックは何回も離婚してるから、機会があれば結婚できるか
も、って嬉しそうに語って」
真里「光さん、旦那さんいますよね?」
スミ子「とにかく、複雑な気分だよ」
真里「でも、それだけスミちゃんのこと、信頼してるんじゃないでしょうか」
スミ子「うーんそうかなぁ」
真里「そうですよ」
スミ子「そう思っておこう」
***
スミ子「そうそう、ジェフ・ベックとジミー・ペイジって二人一緒にヤードバーズ
に居たことってあるんだね」
真里「お、勉強の成果が出てきましたね」
スミ子「うん。まぁ」
真里「二人一緒の時は、ジミー・ペイジはベースとして入ってたんです」
スミ子「そうなんだ」
スミ子「ちなみに、二人一緒の時の映像が残っているんですよ」
スミ子「マジ!!」
真里「はい。「欲望」っていう映画で、二人一緒に出てます」
スミ子「「欲望」ね……覚えておこう」
真里「ジェフ・ベックがアンプにギターを打つけて、踏んづけてましたね。それを
見て、ジミー・ペイジがニコニコしてるんですよ」
スミ子「そして、そのあと時、ジェフベックが抜けて……」
真里「ジミーペイジが加入するわけです」
スミ子「本題、入ろうか」
真里「はい」
***
スミ子「ヤードバーズ、最後のギタリストがジミー・ペイジなんだよね」
真里「そうです。しかも、ジミー・ペイジは一番ヤードバーズに長くいた人物で
す」
スミ子「他の二人はすぐやめたんだね」
真里「クラプトンやジェフ・ベックはもっとギターのことを追求したかったんでし
ょうね」
スミ子「ジミーペイジは違うんだ」
真里「うーん。これはあくまで憶測なんですけど、ジミー・ペイジはロックを客観
的に、そしてビジネスとしてどうしたら成功するか、を一生懸命考えていた人です
ね」
スミ子「大人だなぁ」
真里「残りのメンバーが抜けていく中、ジミーペイジだけは残って、ニューヤード
バーズとして、活動していきます」
スミ子「それって、のちのレッド・ツェッペリン?」
真里「そうです。契約上はヤードバーズを消化しなければいけないのと、オリジナ
ルメンバーがジミーペイジしかいなかったので、最初はニューヤードバーズでやって
ましたね」
スミ子「えっと、メンバーがジョンジー……ボンゾ、だっけ?」
真里「あと、ボーカルがロバート・プラントですね」
スミ子「この4人が ってのレッド・ツェッペリン……改め、赤い飛行船なんだ
ね」
真里「スミちゃん……」
真里「レッドは赤じゃありませんよ」
スミ子「え?」
真里「さっきの「Led Boots」もそうですが、このレッドは鉛を意味するんです」
スミ子「そうなんだ」
真里「それはともかく、レッド・ツェッペリンは、最初の頃はブルースを基調にし
たハードロックがメインになりますね」
スミ子「ハードロック……ロックにもいろんなジャンルがあるんだね」
真里「特にジミー・ペイジは低音を使ったギターリフを作るのが上手でした」
スミ子「ねぇ、リフってなに?」
真里「リフっていうのは、リフレイン、つまり繰り返しなんですけど……えっと、
なんて説明したらいいんでしょうか?」
真里「曲を印象付けるための導入の一つの顔、と言えばいいんですか?」
スミ子「そんなこと、こっちに聞かれても分からないよ」
真里「まぁまぁ聞けばわかりますよ」
スミ子「ほう」
***
スミ子「うぉ、ギンギンだね」
真里「こう弾いてると、アイー!! って行きたくなるんです。あ、この曲名は
「Communication Breakdown」です」
スミ子「他には何かある?」
真里「他だと……「Good Times Bad Times」「Heartbreaker」「Whole Lotta
Love」……いろいろあるので弾いてみましょう」
***
スミ子「うわぁ、カッコイイな。私も弾きたいよ」
真里「今のスミちゃんだったら、弾けるんじゃないですけね」
スミ子「え、本当!!」
真里「はい。音をこう歪ませて……」
スミ子「うぉおおお!! なにこの音!! 超かっこいい!!」
真里「アンプのゲインを上げてで歪ませてるんですよ」
スミ子「そんな機能がついてるんだ」
真里「ただ、ゲインを上げ過ぎると、ノイズになってなに弾いてるかわからなくな
るので、ほどほどに」
スミ子「えー、いいじゃん。もっと、歪ませようよ」
真里「ダメです」
スミ子「ちぇっ」
真里「じゃあ、手始めに「Black Dog」やってみましょう」
***
真里「ぎこちないですけど、なんとか弾けてますね」
スミ子「ほ、本当?」
真里「えぇ、もっと練習すれば、オリジナルのテンポで弾けます」
スミ子「いやぁ、楽しい」
真里「おや、初めてスミちゃんの口から「楽しい」って言葉を聞いたかもしれませ
ん」
スミ子「いやね、コードは全然抑えられないかったから、楽しくないけど……これ
はいいかも」
真里「レッド・ツェッペリンのリフは簡単に弾けるのが多いです」
スミ子「簡単なのにカッコイイ……もっといろいろ教えてよ」
***
真里「なんとか弾けてるじゃないですか!!」
スミ子「いやいや……ギンギンにして弾くの、楽しいね!!」
真里「ハマりましたか?」
スミ子「うん!!」
真里「でも、少し休憩しましょう」
スミ子「そうだね……ふぅ」
真里「じゃあ、雑談という名のジミーペイジ番外編」
スミ子「なんじゃそら?」
真里「あのですね。スミちゃんは私が神様として崇めているギタリストがいること
は覚えていますか?」
スミ子「勿論。野村義男でしょ。忘れないように1日10回は野村義男の名前を復唱
してるよ」
真里「スミちゃん……いい子になりましたね」
スミ子「それで、野村義男がどうかしたの?」
真里「野村義男様もジミー・ペイジが大好きなんですよ」
スミ子「そうなんだ。他の二人じゃなく」
真里「はい。ちなみに、野村義男様はCharがクラプトンが好きで、というインタビ
ュー記事を読んで、三代ギタリストを聞くようになったんです」
スミ子「その中で一番ハマったのが、ジミー・ペイジなんだね」
真里「そうです。けど……野村義男様は、最初、ジミー・ペイジというレコードを
探してたんですよ」
スミ子「ジミー・ペイジ? レッド・ツェッペリンじゃなく?」
真里「はい」
スミ子「あるの?」
真里「その当時はないです。後にロサンゼルスというサントラアルバムを出したん
ですが……それが最初だと思われます」
スミ子「まぁちゃんは聞いたことある?」
真里「ないですよ」
スミ子「そっか」
真里「そんな野村義男様、実は、3年B組金八先生のドラマで芸能界デビューしたん
です」
スミ子「ファンタのCMのやつだっけ?」
真里「全然違いますよ」
スミ子「あれ?」
真里「それはともかく、ある回の時に、ギターを弾くシーンがあったんです」
スミ子「ツェッペリン?」
真里「そうです」
スミ子「さっき、弾いた曲?」
真里「いえ。弾いていたのはアコースティックギターなので」
スミ子「なんの曲だろう」
真里「「Stairway to Heaven」 邦題は……「天国への階段」です」
真里「じゃあ、イントロのアルペジを弾いてみます」
***
スミ子「美しい……」
真里「この前、光さんが買ったダブルネックはライブの時に弾いてました」
スミ子「でも、ライブで使うとインパクトあるよね」
真里「ステージパフォーマンスもジミーペイジは凝っていましたね」
スミ子「例えば?」
真里「有名なものだと、さっきのダブルネックもそうですけど、バイオリンの弓で
ギターを弾いたり」
スミ子「そんなこと出来るの!!」
真里「弓で弦を叩いたり擦ったりする、通称ボーイング奏法というものです」
スミ子「なんか、ミスマッチな感じもするけど、面白そう!!」
真里「ライブ以外だと、いろんないろんな国の音楽を取り入れたり、独自の
DADGADチューニングを開発したりと、ロックの可能性を大きく広げていきましい
た」
スミ子「ブルースばっかりがロックじゃないんだ、と」
真里「そうですね。そして、出来上がった音楽が完成度が非常に高い」
スミ子「さっき言ってた、ロックビジネスを客観的に見てた結果なのかな」
真里「だと思います。だからこそ、今でもレッド・ツェッペリンというロックバン
ドは幅広い世代の人たちに愛されているんだと」
スミ子「そりゃそうだ」
真里「そして何より……三代ギタリストの中で」
真里「一番ギターが大好きなのは、ジミー・ペイジなんです」
***
スミ子「ギタリストはギターが大好きなのは当たり前なんじゃないの?」
真里「好きなもいろいろありますよ」
スミ子「ん?」
真里「ギターを弾くのが大好きなのか、ギターそのものが大好き、なのか」
スミ子「ジミー・ペイジはギターそのものが大好き、なんだ」
真里「はい。なぜなら、野村義男様がジミーペイジに直接会ってそう感じたからで
す」
スミ子「ジミーペイジにあったことあるんだ」
真里「はい。とある楽器屋でジミーペイジに遭遇したそうです」
スミ子「何々? サインとか貰ったの?」
真里「いえ……」
真里「ただただジミーペイジの後ろ姿を見ていただけです」
スミ子「話しかければよかったじゃん」
真里「それはいけませんよ」
スミ子「え?」
真里「ギターを楽しんでいる人に、声をかけるなんて失礼な行為です」
スミ子「そんなに楽しんでいたの?」
真里「はい。その姿を見た野村義男様は、今まで以上にジミーペイジのことが大好
きになったそうです」
真里「それは野村義男様がギターそのものが大好きだかこそ、そう感じたんだと」
スミ子「それを見て満足しちゃった、と」
真里「ところが、話はそれだけじゃ終わりません」
スミ子「まだあるの!!」
真里「はい。実は野村義男様は、とある受賞式の空き時間で楽器屋に行き、ジミー
ペイジに会いました」
スミ子「授賞式……野村義男、なんかしたの?」
真里「いいえ、野村義男様は、浜崎あゆみのバックバンドとして出たんです」
スミ子「浜崎あゆみ……あー、この前言ってた人」
真里「浜崎あゆみが最後だったので、演奏が終わり、ステージに野村義男様は残っ
ていました」
スミ子「てことは、最後受賞者が全員出てきて……」
真里「ジミーペイジも出てきました」
スミ子「おー!!」
真里「授賞式が終わり、ふとジミーペイジが野村義男様の前に近づき……」
真里「手を差し伸べ、握手を求めたそうです」
スミ子「まさか、楽器屋に居たこと知ってて」
真里「違います。実はその前に、ある番組で野村義男様はジミー・ペイジにインタ
ビューしたんです」
スミ子「なんだ、その前にあってんじゃん?」
真里「でも、直接本人じゃなく、インタビューしているビデオを撮って、ホテルに
いるジミーペイジに見せて、答えてもらうという内容でした」
スミ子「何だそれ。酷くない?」
真里「がっくしだったそうです」
スミ子「そりゃそうでしょ!!」
真里「でも、授賞式の時、ジミーペイジはインタビューした野村義男様のことを覚
えてくれて、インタビューしたことを更に掘り下げて話してもらったそうです」
スミ子「いいじゃんいいじゃん」
真里「でも、野村義男様は失神しそうで、まともに喋れなかったそうです」
スミ子「憧れていた人にそうされたね」
真里「もし、インタビューの時にジミー・ペイジ会ってたら、嬉しさは半減してる
かもしれないですね」
スミ子「これが偶然だからこそ、ってのもあるもんね」
真里「そんな出会い、ちょっぴり憧れちゃいますね」
***
スミ子「ねぇ、まあちゃん」
真里「どうしたんですか?」
スミ子「私も、いつかCharに会えるかなぁ」
真里「会えると思いますよ」
真里「ギターを弾き続けていれば」
スミ子「本当?」
真里「本当ですよ」
真里「だって、ギターは絶対裏切ったりしないです」
スミ子「そうなの?」
真里「当たり前です」
真里「だから、スミちゃんもギターを好きでいましょう」
スミ子「うん……」
真里「ところで、スミちゃんはCharに会えたら、どうしますか?」
スミ子「会えたら……うーん、そうだなぁ」
真里「何でもいいですよ。ギター教えて欲しいとか」
スミ子「えっとね……」
スミ子「Charと結婚したい」
真里「……え?」
スミ子「だから、結婚だって。私、Charの子供、欲しいなぁ」
真里「……はい?」
スミ子「あれ、もしかしてCharって結婚してる?」
真里「ええ、子供もいますよ」
スミ子「じゃあ……愛人で我慢しよう」
真里「あの……ギターのことじ」
スミ子「私、まだ処女だけど、Charにだったら……始めてあげていいかも」
真里「……」
スミ子「やっぱり、ロックギタリストだからエッチの時もワイルドなんだろうね」
真里「……」
スミ子「セッションという名のセックス……なるほど、セッションとセックスは表
裏一体なんだね!!」
真里「……」
スミ子「あ、でもでも。初めては痛い、って言うから、優しくはして欲しいかな
ぁ」
真里「……」
スミ子「そして、Charが……お前を俺好みの女にチューニングしてやるよ、みたい
なこと言って……キャー!!」
真里「……」
スミ子「ねぇ、まあちゃん。私も、ギター弾き続けてたら、いつかCharに処女を卒
業させてもらえるかな?」
真里「スミちゃん……」
真里「その話、もっと聞かせてください!!」