弁護士マイスター 「気をつけたい相続問題-相続法この未知なるもの」 2011/5/14 弁護士 第1 関 口 博 包括遺贈と遺留分減殺請求権の行使をめぐる諸問題 〈事例 1〉 遺産約40億円の被相続人A。うち現金10億円、その他は不動産。 相続人としては配偶者B、子CDEの3名。 ところが、Aの姉弟7名(X1∼X7)に全遺産を7分の1ずつ、(割合的) 包括遺贈をする公正証書遺言を作成。遺言執行者に弁護士Yを選任 Aがその後死亡。 BCDEは代理人弁護士を通じて遺留分減殺請求権を行使し、その後、東京家庭 裁判所に遺産分割の調停を行う。 遺産分割調停申立手続か共有分割訴訟その他の手続によるべきか。1 本件では遺産分割調停事件として受理されている。 ←平成8年最高裁判決は、特定遺贈及び全部包括遺贈与について訴訟説を採 用することを明らかにしたものであるが、割合的包括遺贈、相続分の指定遺言、 相続分の指定を伴う分割方法の指定遺言、割合的に「相続させる」旨の遺言に 1 1 三 遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効 し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するところ (最高裁昭和五〇年(オ)第九二〇号同五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八頁)、遺 言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰 属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解するのが相当である。その理由 は、次のとおりである。 特定遺贈が効力を生ずると、特定遺贈の目的とされた特定の財産は何らの行為を要せずして直ちに受遺 者に帰属し、遺産分割の対象となることはなく、また、民法は、遺留分減殺請求を減殺請求をした者の遺留 分を保全するに必要な限度で認め(一〇三一条)、遺留分減殺請求権を行使するか否か、これを放棄するか 否かを遺留分権利者の意思にゆだね(一〇三一条、一〇四三条参照)、減殺の結果生ずる法律関係を、相続 財産との関係としてではなく、請求者と受贈者、受遺者等との個別的な関係として規定する(一〇三六条、 一〇三七条、一〇三九条、一〇四〇条、一〇四一条参照)など、遺留分減殺請求権行使の効果が減殺請求を した遺留分権利者と受贈者、受遺者等との関係で個別的に生ずるものとしていることがうかがえるから、特 定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対 象となる相続財産としての性質を有しないと解される。そして、遺言者の財産全部についての包括遺贈は、 遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので、その限り で特定遺贈とその性質を異にするものではないからである。 以上によれば、原審の適法に確定した前記の事実関係の下において、被上告人が本件不動産に有する二 四分の一の共有持分権は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないものであって、被上告人 は、上告人に対し、右共有持分権に基づき所有権一部移転登記手続を求めることができ、また、上告人の不 法行為によりその持分権を侵害されたのであるから、その持分の価額相当の損害賠償を求めることができる。 原審の判断は結論において正当であり、論旨は採用することができない。(最判平成8年1月26日民集50 巻1号132頁) -1- ついては、その射程距離の範囲を超えているとされる。(「家庭裁判所における 遺産分割遺留分の実務・片岡武・菅野眞一、408頁)。 遺留分減殺請求訴訟も遺産分割調停事件を申し立てることも可能。 2 遺留分減殺請求者の1人である配偶者Bは、相続税額の軽減措置を受けられる か。 ←減殺請求者であっても配分者であり遺留分である4分の1までは軽減措置 が認められると考えている。 ※ 〈相続税額の軽減措置の内容〉まず、配偶者が相続したのが法定相続分まで の遺産であれば、納税額は算出されない。従って、相続人が配偶者のみであ れば、仮に数千億円の資産があっても配偶者には相続分は課税されない。さ らに、配偶者の取得分が法定相続分を超える場合であっても、配偶者が取得 した遺産が1億6000万円までであれば、配偶者には課税されない。配偶 者に対する相続税額の軽減であるから、税額軽減を受けるためには、遺言、あ るいは遺産分割によって配偶者の相続分が確定している必要がある。(「税 理士のための相続をめぐる民法と税法の理解、ぎょうせい、関根稔他・22 頁)2 3 妻や子どもが憎いために、全遺産を他の姉妹に包括遺贈したことが果たして良 かったかー納税の問題 遺贈により財産を取得したものは、相続したものと同様に、相続税の申告義務を 負うことになる(前掲)。しかも、遺留分減殺請求がなされていても、それが具体化 され、合意等が成立しない限り遺産合計約40億円についての納税義務を負う。 2 相続税法(配偶者に対する相続税額の軽減) 第 19 条の2 被相続人の配偶者が当該被相続人からの相続又は遺贈により財産を取得した場合には、当該配 偶者については、第1号に掲げる金額から第2号に掲げる金額を控除した残額があるときは、当該残額をも つてその納付すべき相続税額とし、第1号に掲げる金額が第2号に掲げる金額以下であるときは、その納付 すべき相続税額は、ないものとする。 1.当該配偶者につき第 15 条から第 17 条まで及び前条の規定により算出した金額 2.当該相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の総額に、次に掲げる金額のうちいずれか少な い金額が当該相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額のうちに占める 割合を乗じて算出した金額 イ 当該相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額に民法第 900 条(法定相 続分)の規定による当該配偶者の相続分(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合にお ける相続分)を乗じて得た金額(当該被相続人の相続人(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたもの とした場合における相続人)が当該配偶者のみである場合には、当該合計額)に相当する金額(当該金額が1億6 千万円に満たない場合には、1億6千万円) ロ 当該相続又は遺贈により財産を取得した配偶者に依る相続税の課税価格に相当する金額 -2- しかし、本件のように、遺留分減殺請求権が行使された場合、金銭債権3以外の 財産、特に不動産については、遺産分割未了の段階では、遺留分権者の同意がない 限り、処分して現金にして納税することができない。 ※相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内 に行う必要がある。そして、相続税は、申告書の提出期限までに金銭で納めるのが 原則である。 ただし、相続税の納税については、何年かに渡って金銭で納める延納と相続時で もらった財産その物で納める物納という制度がある。但し、延納には担保提供が 必要。 申告書が提出期限までに提出されても、延納が期限後になされると延滞税がか かる。延滞税率年14パーセント 本件の事案では、延納のための担保提供も、適切な資産がないかあっても遺留分 請求権者の同意を得ることができなかったので、延納できず。(その後、一部不動 産の売却が決まり、遺留分権者の同意も得られたので何とかしのぐ。) 〈教訓〉 ① 遺産と見込まれる財産のうち、金銭債権が少ない場合(言い換えれば不動産 が多い場合)は、納税を視野に入れて、遺言に関与する弁護士は、遺言書を書 くように指導する。 ② 本件事案では遺留分減殺請求権が行使されることは明白であったから、最初 から全体で2分の1(1人当たり14分の1)の部分包括遺贈で良かったの ではないか。しかし、翻って、遺言者の意思が、それを許さなかったのかも知 れない。 4 遺言執行者の役割 遺言執行者は、どこまで、仕事を行うべきか。 上記事案では、一部不動産の買主まで見つけてもらって、受遺者、相続人と も感謝した。 他方、財産目録の調整だけで、任務の終了を宣言する遺言執行者もあった。 当職が遺言執行者を担当した事案は、相続人のうち、唯一の受遺者に移転 登記後、まだ残務完了の前に、心神喪失となり、成年後見人の手続完了まで見 届けて、成年後見人に現金の引継等を行い、報酬も送金してもらった。 近時、遺言執行者の中立性が求められ、他方、遺言者からは受遺者のため に遺言を託すという経緯があるので、ジレンマに陥りやすい。4 3 最判昭和29年4月8日「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権がある ときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するの を相当とする(判例タイムズ40号20頁)。 4 東京高判平成15年4月24日【判示事項】 弁護士である遺言執行者が遺留分相殺請求事件について特定 の相続人の代理人となることは、弁護士倫理に反し懲戒(戒告)事由に当たるとされた事例(判例時報19 32号80頁) -3- 5 遺言執行者の報酬 この事例で、公正証書遺言には、遺言執行者の報酬として、遺産の 1.5%と するとの条項があり、受遺者の1人の関係者から、弁護士会の旧報酬規定に照 らして高額に過ぎるとの批判があった。 もともと、この報酬は、当然の事ながら、遺言者に十分説明していたとの ことであり、遺留分減殺請求権者との調整で多大な苦難が予想される案件で あったことから、このような定めとなったものであるが、遠縁の者ほどドライ に見がち。 〈教訓〉 このようなクレームが出てきても適切に対処できるように、あらかじめ、 遺言者との事務所の打合せ段階で、報酬についても十分説明し、その説明と遺 言者の反応をICコーダ-にとって、コンピューターに保存しておくべき。こ のような者があれば、クレームをつけた人間も納得するはず。 〈参考〉 遺言書に遺言執行者の報酬の定めがない場合(知り合いの税理士が作成し た公正証書遺言など)について、受遺者らその他の利害関係人と調整をつける ことが困難な場合などには、民法 1018 条5により家庭裁判所に報酬を定めて もらうと良い。 これについて、注釈民法(有斐閣)では、この制度があまり使われた例は ない。と言った記載がなされているが、私はこの部分を読む前に利用した。 家庭裁判所は、簡単に決めてくれる(決定を出してくれる)。 6 多数ある遺言書と死因贈与契約に基づく登記 本事例の遺言者は、包括遺贈の公正証書遺言の他にも自筆証書遺言が多数 あり、また、他に公正証書で死因贈与の契約も行っていた。 これを整序する必要があった。遺言に関しては、後の遺言がそれ以前の遺 言に抵触する部分があればそれは無効となり、包括遺贈が最後だったので、 ほとんど無視して良かった。6 死因贈与については、実務上、遺言書ほど、取り扱う例が多くなく、民法で は遺言の方式が準用されると書いているので、上記と同様に考えてしまうお それがある。7 この点、遺言の撤回の規定(民法 1022 条・1023 条)8が準用されるかは問 題であるが、判例は遺贈と同様に贈与者の最終意思を尊重すべきであるとい (遺言執行者の報酬)第 1018 条 家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬 5 を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。 (前の遺言と後の遺言との抵触等)第 1023 条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分 6 については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。 (死因贈与)第 554 条 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない 7 限り、遺贈に関する規定を準用する。 8 (遺言の撤回)第 1022 条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することが できる。 -4- う理由で、遺言の取消(撤回)に関する方式を除いて、書面による死因贈与の 取消(撤回)を認める(最判昭和 47 年 5 月 25 日民集 26 巻 4 号 805 頁)。 要するに、前の死因贈与を後の遺言で取消(撤回)することはできず、前 の死因贈与を取り消す(撤回する)ためには「書面による死因贈与の取消」 の書面がなければならない。 すなわち、判旨に関する争点は、死因贈与について遺贈の取消(正確には 撤回)に関する民法1022条の準用があるかである。 民法554条は、死因贈与は「遺贈ニ関スル規定ニ従フ」と規定するが、 その準用の範囲を明らかにしていないために、解釈によつて決定しなければ ならない。遺贈と死因贈与は、いずれも死因処分であつて、その経済的目的 が同じであるから、前者の規定が後者に準用されるのであるが、前者が単独 行為であり、後者が契約であるところから、遺贈の規定のうち、遺贈が単独 行為であるために設けられた規定は、死因贈与に準用されないと解されてい る。 そして、遺言の効力に関する規定は準用されるが、遺言の方式、遺言能力、 放棄、承認に関する規定が準用されないと解するのが通説(我妻・債権各論 (中巻)1237、高木・注民(14)37等)、判例(最3判昭32・5 ・21集11巻5号732頁、最1判昭43・6・6裁判集民事91号21 9頁)である。」(判例タイムズ283号127頁)とされる。 7 (1) (2) 9 債務の承継 Aが家作のアパートにつき住宅ローンを設定していた。残債務が100万 円あった。この債務はどうなるのか。 ↓ 本件は、100円の半額は、Aの相続人が承継されるものと考える。 すなわち、 本件では、まず、受遺者らが 6 分の1ずつの割合を受ける部分包括受遺者と して民法 990 条9により、相続人と同一の権利義務を有することになり、受遺者 らがローン債務を 6 分の 1 ずつ負担することとなると思われる。 ただし、相続人Bらは、遺留分減殺請求権を行使し、いわば遺産分割の中に 入ってきており、配分を受ける遺産は資産から債務を控除したものであり、そ の債務の中にローン債務も含まれる。 したがって、経済的・実質的には受遺者らが 12 分の 1 ずつ、Bが6分の 1、 CDEが 12 分の 1 ずつとなると思われる。 (包括受遺者の権利義務) 第 990 条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。 -5- 第2 1 在日韓国人・在日朝鮮人の相続 準拠法はどこの国のものか。日本の民法が適用された場合、非嫡出子の法 定相続分は2分の 1、これに対して韓国民法によれば、嫡出子と非嫡出子の差 別はない。1011あるいは北朝鮮の法律によるべきか。 (1)法の適用に関する通則法(旧法例) ①(相続)第 36 条 相続は、被相続人の本国法による。12 ②(反致)第 41 条 当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に 従えば日本法によるべきときは、日本法による。ただし、第 25 条(第 26 条 第1項及び第 27 条において準用する場合を含む。)又は第 32 条の規定によ り当事者の本国法によるべき場合は、この限りでない。13 ↓ 朝鮮民主主義人民共和国対外民事法 第 45 条 不動産相続に対しては相続財産がある国の法律を、動産相続に対 しては被相続人の本国法を適用する。ただし、外国に住所を有しているわ が国の公民の動産相続に対しては被相続人が住所を有している国の法律を 適用する。外国にあるわが国の公民に相続人がない場合、相続財産はその 公民と最も密接な関係にあった当事者が継承する。 ③ そこで、大韓民国民法の適用があるか、あるいは、朝鮮民主主義人民共和 国対外民事法の適用があり、同法45条と反致により、日本民法の適用があ るか。解釈に委ねられる。 (2)先例 ① 京都地裁判決昭和62年9月30日(判例時報1275号107頁) 「・・・ところで、本件は朝鮮に国籍を有する訴外太郎の相続を前提とす る事件であるところ、相続の準拠法は法例二五条によって被相続人の本国 10 (法定相続分)第 900 条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。 4.子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出で ない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分 は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。 11 大韓民国民法第 1009 条(法定相続分)①同順位の相続人が数人であるときは、その相続分は、均分とする。②被 相続人の配偶者の相続分は、直系卑属と共同で相続するときは、直系卑属の相続分の 5 割を加算し、直系尊属と 共同で相続するときは、直系尊属の相続分の 5 割を加算する。 12 13 旧法例第25ないし第26条に相当 旧法例第32ないし第29条に相当 -6- 法によることになるが、朝鮮は、本件相続の原因たる事実が発生する前か ら大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国(以下「北鮮」という。)とに分裂 し、それぞれ独自の法秩序を形成し、現実には、いわゆる三八度線を境と して南北朝鮮の各地域を各別に統治していることは公知の事実であり、こ のような場合、大韓民国法または北鮮法のいずれを属人法とすべきかは、 一国数法の場合の国際私法上の規定である法例二七条三項を類推適用して 解決するのが相当である。そして、その際、適用されるべき本国法の決定 に当っては、当事者がいずれの法秩序とより密接な関係があるかによって 判定すべきところ、《証拠略》によれば、訴外太郎の本籍は明らかではな いが、同人は生前自己の国籍を北鮮である旨述べており、朝鮮総連にも関 与していたことが認められ、右事実に照らせば、訴外太郎が身分上より密 接な関係を有する法秩序は、北鮮と認めるのが相当である。 したがって、本件においては北鮮の法をもって法例二五条の被相続人の 本国法と解すべきであるが、同国の実体的私法についてはその内容を知り 得ない状態であり、結局、法定地法たる日本民法を適用すべきものと解す るのが相当である。」 ②大阪地判 昭和63年4月14日 (判例タイムズ687号218頁) 「・・・準拠法について検討する。 本件は,国籍をいずれも朝鮮とする外 国人たる原,被告間の離婚請求事件であるから,法例16条により,離婚原 因事実の発生した時における夫たる原告の本国法を準拠法とすべきものであ る。ところで,朝鮮半島には,北緯38度線を境として大韓民国と朝鮮民主 主義人民共和国の各支配地域にそれぞれ別個の法令が通用していることは公 知の事実であるところ,後掲の各証拠によれば,原告は,慶尚北道金泉郡0 ○を本籍とするものではあるが,外国人登録上,自己の国籍を韓国ではなく 朝鮮と申告し,その両親らとともに北鮮系の組織である在日本朝鮮人総連合 会(以下「朝鮮総連」という。)に所属し,その一員としての地位を保つて いることが認められるから,原告は,その意思により北鮮国籍を選んだもの というべく,したがつて,本件においては,原告が身分上密接な関連を有す べき北鮮の支配地域において私生活関係を規律する法規として現に通用して いる法令をもつて法例16条にいう原告の本国法であると解すべきである。 そこで,離婚の許否ないし離婚原因に関する北鮮の法令についてみるに, 「北朝鮮の男女平等権に関する法令」(1946年7月30日北朝鮮臨時人 民委員会決定第54号,以下[平等権法令]という。)5条は,「結婚生活 において夫婦関係が異常で夫婦関係を継続できない事態が発生したときは, 女性も男子と同等の自由な離婚の権利を有する。 」と規定して離婚を許容し, 「北朝鮮の男女平等権に関する法令施行細則」(1946年9月14日北朝 鮮臨時人民委員会決定第78号,以下「平等権細則」という。)10条は, 「結婚生活にあつて夫婦生活をこれ以上継続できないときは,当事者は(中 略)離婚する。」と,11条は,「協議による離婚が成立しないときは,当 -7- 事者は所管の人民裁判所に離婚訴訟を提起できる。」(なお,協議離婚制度 は,[協議離婚手続を廃止して裁判離婚にのみよらせる規定](1956年 3月8日発付同年4月1日施行内閣決定第24号)により廃止された。)と, 12条は,「離婚訴訟を受理した裁判所は到底夫婦生活を継続できないと認 められるときは即時に離婚判決をなす。」と規定して,相対的かつ包括的な 離婚原因を定めていることが認められる(弁論の全趣旨により成立を認める 甲第10号証の1,2,崔達坤・北朝鮮婚姻法107頁以下,244頁以下)。」 (3)判断基準 「適用されるべき本国法の決定に当っては、当事者がいずれの法秩序とよ り密接な関係があるかによって判定すべきところ」(上記京都地判) 「原告が身分上密接な関連を有すべき北鮮」(上記大阪地判) →「原告が身分上密接な関連を有すべきか否か」 2 3 以上が主な争点、結局和解で終了。 参考知識 外国人である、在日の人たちが日本の公証役場で作成した公正証書遺言 が日本で効力をもつか、もつとしてその根拠法はなにか。 ↓ 在日韓国人ないし在日朝鮮人が、日本の公正証書による遺言をして、それ が、有効であるか、すなわち、遺言の方式の点については、ハーグの「遺言 の方式に関する法律の抵触に関する条約」を国内法化した「遺言の方式の準拠 法に関する法律」により定まる準拠法による。この法律は、遺言保護の観点に 立ち、遺言を方式上できる限り有効にしようとして、いわゆる選択的連結を 採用している。つまり、遺言の方式は(1)行為地法、(2)遺言者が遺言 の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法、(3)遺言者が遺言の成立又は 死亡の当時住所を有していた地の法(4)遺言者が遺言の成立又は死亡の当 時常時居所を有した地の法、(5)不動産に関する遺言について、その不動 産の所在地のいずれかに適合する時は有効であるとしている(同法2条)。 そして、本件では(1)(3)(4)のいずれにも該当するものであるか ら方式上有効であるといえる。 -8- 第3 その他の相続をめぐる諸問題 1 不在者財産管理人 〈事例3〉 Aがかなりの不動産、現金を残して死亡し、B∼E並びにYが相続人。いずれも 在日韓国人であったが、Yが北朝鮮のいわゆる帰国事業に賛同して北朝鮮に行った まま音信不通。この場合の対処法 〈対処法〉 ① Yにつき、不在者財産管理人の選任の申立14をしてBの妻F(日本国籍)に不在 者財産管理人となってもらう。 ② 不在者財産管理人FがYの代理をして、次のような、遺産分割協議書を作成し、裁 判所の許可を得て、Fも調印する。 「 代償財産 上記の遺産分割について、相続人B、同C、同D、同F、の各相続人が、 相続分を調整するため、代償財産として、各7,523,191円ずつを、 相続人(不在者)Fが出現した場合、同人に対し、金銭を持って交付す るものとする。」 寄与分について15 遺産の大半が現金預金債権等可分債権の場合、可分債権部分は当然分割される。 この場合、寄与分を主張する段階がない場合が多いと推定される。これは寄与分の 趣旨からして正しいのか。 別に、不当利得返還請求訴訟で争えるのか。 遺産が金銭生還だけの場合と不動産が多数ある場合とで取り扱いが異なってくる。 それならば、寄与者にしてみれば不動産をたくさん残してもらった方がありがたい。 → しかし、これは、遺言制度に対する認識の普及で解決すべき問題かも知れない。 2 3 14 相続財産管理人の申立と特別縁故者 ←賃貸人が賃貸していたアパートで一人暮らしの老人が死亡して2000万円以 上の預金を残して死亡した場合の処理、大家さんの認められる債権と、特別縁故者 (不在者の財産の管理)第 25 条 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産 の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係 人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中 に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。 15 寄与分)第 904 条の2 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続 人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるとき は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控 除したものを相続財産とみなし、第 900 条から第 902 条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた 額をもってその者の相続分とする -9- の申立が認められたとしてどこまでみとめられるか。 - 10 -
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