アムネスティ ハンドブック - アムネスティ・インターナショナル日本

アムネスティ
ハンドブック
amnesty international handbook
目次
ハンドブックの目的は?
アムネスティ・インターナショナルとは?
アムネスティの誕生
アムネスティはどんな活動をしているのでしょうか?
アムネスティの活動には効果があるのでしょうか?
アムネスティの活動へ参加するには?
手紙書きのヒントと手引き
アムネスティと激動する世界
ハンドブックの目的は?
アムネスティ・インターナショナル(以下アムネスティと略)の会員は、世界 140 以上の国および地
域にまたがり、人権のために活動するという目的のもとに結びついています。このアムネスティ・ハン
ドブックは、アムネスティ会員にその方針と活動についての一般的なガイドラインを説明するための参
考文献として国際事務局から発行されたものの日本語翻訳版をもとに、人権についてのアムネスティの
立場やアムネスティの活動方法についての説明をしたものです。
アムネスティとは何か、どのような効果を生んできたのか、どのような活動に参加できるか、など、
会員になったばかりの人の役に立つ説明があります。
翻訳版には、探したい情報を見つけやすいようにマニュアル形式(50音順)になった用語集もつい
ていました。この用語集の日本語版はホームページからダウンロードすることができます。または、コ
ピー代送料の実費でお送りすることもできます。東京事務所までご請求ください。
この文章の基になっているアムネスティ・ハンドブックは、第8版です。アムネスティの活動は人権
状況の変化に応じて常に変化し発展しています。ですからアムネスティのハンドブックに最終版はあり
ません。このハンドブックの発行の後にも国際評議員会議で大きな活動方針の変更がありましたが、こ
の第8版にはその点がまだ十分に反映されていません。
このハンドブックで説明されていることは、アムネスティの方針に関する公式文書あるいは公式に決
定された規約そのものではありません。そうした文書に関しては、東京事務所までお問い合わせくださ
い。
「あなたがたのやっていることは世界中に知られているのだということを殺人者たちにわからせる、ア
ムネスティのような組織や人びとこそが私たちには必要なのです。たとえ返事が返ってこなくてもがっ
かりしたりしないでください。あなたがたの運動は大きな効果を生んでいます。殺人犯や暴力を振るう
人びとは臆病者なのです。臆病なあまり、暗闇の中で顔を隠して、そういうことをしているのです。ア
ムネスティのような団体が行動を起こすと、彼らはその悪事が暴かれてしまったと感じるのです。」
バーサ・オリバ・デ・ナティヴィ(1981 年、ホンジュラスで夫が「失踪」した人権擁護活動家)
アムネスティ・インターナショナルとは?
◇アムネスティは、人権のために活動する世界的な運動体です。アムネスティの会員は、人権侵害の被
害者と連帯し、その時間とエネルギーを惜しみなく注いでいます。
◇アムネスティは活動する組織です。調査をし、人権侵害に関する文書および報告書をまとめますが、
それだけではありません。アムネスティ会員はこうした人権侵害を食い止めるため、実践的で効果的な
行動をとります。アムネスティは、危険にさらされている人びとに代わって普通の人びとが抗議の声を
挙げようと考えて結成されました。
◇アムネスティの活動は国際的な連帯の上に成り立っています。会員は、さまざまです。文化的社会的
背景も信条も異なる人びとが、あらゆる人の人権が護られる世界を目指して活動するという目的のもと
に団結しているのです。
◇アムネスティは世界中の人権のために活動しています。報道機関が注目するものもありますが、世界
のどこからも気づきもされていなかったものもあります。さまざまな人権侵害の被害者のために、どん
な形態の政府のもとでも活動をしているのです。
◇アムネスティはひとりひとりの被害者に的をしぼった活動に効果があると確信しています。調査やキ
ャンペーン、法律改正や政策変更をめざす努力、要求や手紙書きといった活動は、最終的には、実際の
女性や男性や子どもその人の運命を変えることをめざすものです。大規模におこなわれた残虐行為を扱
う場合でも、アムネスティは報告書の中で、ひとりひとりの被害者やその経験を引用するようにしてい
ます。こうした被害者は統計上に現れる単なる数字ではなく、それぞれに名前を持つ人びとなのです。
それぞれに誕生日があり、それまでの人生を歩んできた人びとなのです。そして、それぞれに正義を求
める権利をもっている人びとなのです。
◇アムネスティは政府や政治信条、経済的利益、宗教から中立の団体です。いかなる政府や政治体制に
対しても、支持も反対もしません。また、人権侵害の被害者が求める権利を保護するべきだという考え
方を支持するわけでもありません。中立性を保つため、アムネスティは、人権侵害の調査やその報告、
活動にあたって、政府や特定の政治団体に資金提供を求めたり受け取ったりしません。活動資金は、世
界中にいる会員の会費や財政活動でまかなっています。
◇アムネスティは、民主的な手続きを経て自分たちでその方針決定をする運動体です。アムネスティで
は、世界中の会員の代表者による選挙で選ばれた機関によってすべての方針が決定され、その活動の成
果を会員に報告します。
◇アムネスティは、国際的に連帯し、ひとりひとりの人権侵害の被害者のために効果的な活動をし、世
界を網羅し、人権の普遍性と不可分性を主張し、中立性と独立性を維持し、民主主義と相互尊重を維持
するという原則を共有する人権擁護活動家による世界にまたがるコミュニティです。
「あなた方の活動は、全世界にいる活動家の連帯と相まって、私の釈放につながりました。…どうすれ
ばこの感謝を表現できるのかわかりません。この連帯がなければ、私は残念ながら悪名高いあの刑務所
に今でもいたことでしょう。…独裁者が支配する刑務所で今も命を落としつつある世界中の囚人のため
の活動を続けてください。…私に希望を与えてくれた手紙を書いてくれたアムネスティの活動家の皆さ
んにお礼を申し上げます。手紙は治安部隊が没収してしまいましたが、釈放された後で、網の目をくぐ
りぬけてきたアメリカからの手紙を何通か読むことができました。…心から感謝を申し上げます。」ン
ガルレジ・ヨロンガ・モイバン(良心の囚人)(チャドで 8 カ月拘禁された後、1999 年 2 月 5 日に釈放
された)
アムネスティの誕生
40 年以上前のことになりますが、2 人のポルトガルの学生がグラスを掲げ、「自由のために」と乾杯
をしました。たったそれだけの行為を理由に、その 2 人の学生は7年の拘禁刑に処せられてしまいまし
た。そのことを知ったイギリスのピーター・ベネンソン弁護士は、何と恐ろしいことかと憤り、行動を
起こす決意を固めました。
ピーター・ベネンソンはイギリスの新聞「オブザーバー」に記事を書き、「忘れられた囚人たち」を
救援しようと国際キャンペーンを起こすことを呼びかけたのでした。ベネンソンが考えたのは、世界中
の政府や軍の当局者に抗議の手紙を雨あられのように送りつけようというものでした。1961 年 5 月 18
日、オブザーバー紙の一面いっぱいに「忘れられた囚人たち」という見出しの投稿記事が掲載され、そ
れを皮切りに「恩赦の請願 1961」と名打った一年間にわたるベネンソン氏のキャンペーン活動が開始し
たのでした。
「忘れられた囚人たち」の中では、世界中で政治的・宗教的信条を理由に人びとを投獄することに、
不偏不党かつ平和裏に抗議の声を上げるよう訴えたのでした。記事ではそのような理由で投獄されてい
る人びとを『良心の囚人』と呼びました。その後、この新しい言葉は国際問題を語る際の用語として認
識されるようになったのです。
この記事は大変な反響を呼び起こしました。一カ月の内に千通を越える支持や支援の手紙が舞い込み
ました。なかには良心の囚人に該当する人がいるという新しい情報を送ってくるものもありました。
半年も経たないうちに、ひとつの新聞記事が継続的な活動を展開する国際運動へと発展していきまし
た。一年経った時には、この新しい組織は、4 カ国に代表団を派遣し、良心の囚人のために声明を発表
し、210 件のケースを救援対象に取り上げるようになったのでした。会員は増え、7 カ国で支部を組織
するまでになりました。
不偏不党性と独立性はアムネスティ組織の誕生のときから重要な原則として位置付けられてきまし
た。また、人権を国際的に擁護することの重要性が強調されました。つまり世界のどこにいる人であれ、
その人びとのために、世界中の人びとがキャンペーンをおこなうということです。アムネスティが成長
するにつれ、活動の焦点は良心の囚人だけではなく、拷問や失踪、死刑など、世界中の他の人権侵害の
被害者にも広がっていきました。
1977 年、アムネスティの努力が認められ、ノーベル平和賞が授与されました。また、1978 年には国
連人権賞受賞の栄誉も受けました。
こんにちでは世界中のあらゆる地域でアムネスティの会員が活動を展開しています。140 カ国を越え
る国や地域で百万人を越える会員や支持者が、世界中のすべての人が人権を享受できるように連帯して
活動を展開しています。100 を越える国や地域に何千もの地域グループ、若者や学生のグループ、ある
いは専門家の人びとのグループがあり、個人会員やコーディネーターがいます。50 を越える国と地域に
支部を持ち、その他 20 カ国に準支部があります。今やアムネスティは世界的に認められ、尊重される
組織となり、各国政府や国連などの政府間組織に代表団を派遣し、会見したり、人権に関する国際協議
に参加したりしています。
「あなたたちが示してくれた支援と連帯は、誘拐された私たちの同志の生命と身体の安全を保障する上
で不可欠なものでしょう。あなたたちの活動が私たちを勇気づけ、自分たちは孤立しているのではなく
コロンビアを平和な国にするために日々活動している人びとの大きな集団の一部なのだと感じさせて
くれるのです。電話やファックス、電子メールのひとつひとつや、私たちのために費やされた資源や時
間のすべてが、私たちがより良い、正義に満ちた、平和なコロンビアを建設する努力をより一層力づけ
てくれるのです。報道関係者の注目を集めることもない私たちの同志や他のコロンビア人の生命と身体
の安全は、あなたたちの連帯と共感にかかっているのです。」コロンビアの人権に関する NGO である
Instituto Popular de Capacitacion (IPC) からアムネスティに寄せられた手紙より。1999 年 2 月 18
日、IPC の人権活動家であるホルヘ・サラザールさんとハイロ・ベドーヤさんは準軍事組織に三週間拘
束された後に開放されました。同じくオルガ・ロダスさんとクラウディア・ヤマヨさんもその 10 日前
に開放されました。
アムネスティはどんな活動をしているのでしょうか?
アムネスティの目指すものと責務
アムネスティは、世界人権宣言やその他の国際人権基準に規定されている人権をすべての人が享受で
きる世界を目指しています。
そのために、アムネスティは、身体と精神の安全、良心と表現の自由、差別からの自由への重大な
侵害を防ぎ、なくしていくために、調査をし、活動をおこないます。
世界人権宣言は、すべての人間の尊厳と発達にとって基礎となる人権を規定しています。そこには、
意見を述べる自由や表現の自由、結社の自由などの政治的な権利、働く権利や生活していくのに十分な
保障などの経済的権利、法のもとでの平等や結婚の自由などの市民的権利、教育への権利や地域社会の
中で文化的生活に参加する権利などの、社会的、文化的権利が規定されています。世界中のあらゆる国
家、あらゆる政府には、その領域内にいる人びとに対して、人権を尊重し、保護し、充足する責任があ
ります。アムネスティは、各国政府に対してこの責任に従って行動するよう働きかけることを目的とし
ているのです。
アムネスティは、すべての人権は相互に関連しあっていると考え、世界人権宣言に記されたすべての
権利が保障されること望んでいます。しかし実際の活動においては、すべての人権侵害に対して同じよ
うに取り組むことはできません。そのためにアムネスティは、とくに身体と精神の安全、良心と表現の
自由、差別からの自由に対する権利侵害に焦点を絞って活動しています。こうしたアムネスティの活動
対象範囲、責務については、アムネスティとして調査や具体的な活動が可能なのはどこまでかを考慮し、
会員たち自身によって決定しています。
これまで、アムネスティのキャンペーンは次の部分に向けられてきました。
- 良心の囚人の釈放
- すべての政治囚に対する迅速かつ公正な裁判の保障
- 死刑、拷問その他の残虐、非人道的、品位を傷つける取り扱いまたは刑罰の廃止
- 超法規的処刑と「失踪」の根絶
- 人権侵害の加害者たちに国際基準に則った裁きを受けさせるための、免責との闘い
活動を積み重ねる中で、アムネスティは上記のような活動の対象範囲、責務を拡大し、非政府組織や
個人(政府でない主体:non-state actors)による権利侵害にも取り組むことにしました。アムネステ
ィは、反政府武装勢力がその支配下の地域で引き起こした人質行為や拷問、国際法に反する殺害行為な
どの人権侵害にも反対します。
アムネスティは、武力紛争時に、敵対する勢力が文民や非戦闘員に対しておこなう人権侵害にも反対
します。アムネスティは、家庭内や地域社会内で、政府が共謀していたり効果的な手段を講じないため
に起こった人権侵害にも反対します。これに該当するのは、女性性器切除、女性の人身売買に伴う人権
侵害行為、レズビアンやゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの人びとに対する暴力といった
行為が、政府に容認されていたり大目に見られ横行したりしている場合などです。
アムネスティの活動
アムネスティは、人権侵害の情報を恒常的に適切かつ迅速に発信しようと努めています。アムネステ
ィは、組織的に中立な立場で人権侵害の状況や個別の事例の事実を調査します。こうして発見された事
実について公表し、会員や支援者、職員は、政府やその他の武装政治集団、政府間組織、企業などへの
働きかけを強め、その人権侵害を止めさせようとします。
そうした特定の人権侵害に対する具体的な活動に加えて、アムネスティはすべての政府に対して、法
の支配を守り、人権条約を批准し実施するよう求めています。アムネスティは、広範な人権教育活動を
おこない、政府間組織や個人あらゆる社会組織などに対して、人権を尊重し支援するように促します。
アムネスティの主な活動は、人権侵害の調査、公表と、その阻止のためのキャンペーンを展開するこ
とです。アムネスティの会員は、良心の囚人の釈放や死刑の減刑、法の改正、人権意識の変革のために
キャンペーンをおこないます。人権侵害に対して会員がおこなう活動は、次のように幅広いものです。
- 政府や人権侵害の責任者に対して直接要請行動をおこない、具体的なケースについての行動、政策や
実務の変更などを呼びかけます。
- 国連などの政府間組織に対して、人権をその活動の中心に据え、人権基準を設定しそれを実施し、具
体的な問題に対して行動をとるように働きかけます。
- 自国政府に対して、他国の人権侵害に対して反対する行動をとるよう、また難民保護や軍事、治安、
警察技術の移転などの人権問題について、自国内の法制度、政策、実務を改正するよう働きかけます。
- 企業など国以外の組織等に対しても、人権を守るよう働きかけます。
- 地域社会や権利のために活動する他の非政府組織(NGO)や教師、医師などの専門家集団と協働し
て、人権擁護活動家に対する研修をしたり支援を提供したりします。
- ひとりひとりの良心の囚人や拷問の被害者のための救援金を、被害者やその家族に提供します。
- 人権について学びそれをどのように守るかについて、人びとを助けるための人権教育活動を支援し、
また実施します。
- 地域や、国内的、国際的なイベントをおこない、ニュース媒体に情報を提供することで、社会の中で
の運動を起こしていきます。
アムネスティの行動指針
アムネスティのあらゆる活動は、国際的連帯、個別の被害者のための効果的活動、全世界をカバーす
ること、人権の普遍性と不可分性、不偏不党性と中立性、民主主義とお互いの尊重、という原則に則っ
ています。
国際的連帯:
人権は国境を越えるものです。アムネスティは、人権の擁護は一国のみの責任ではなく、国際的な責
任であるという信念に基づいて設立されました。アムネスティの会員はそれぞれさまざまな文化や背景
を持っていますが、お互いに連帯し、また人権侵害の被害者や世界中の人権運動と連帯して活動してい
ます。
ひとりひとりの被害者のための効果的活動:
アムネスティの調査やキャンペーン、法や政策を変えようとする努力、要請や手紙書きは、政治やイ
デオロギーのためではなく、現実の女性、男性、子どもたちを救うためにおこなうものです。アムネス
ティがキャンペーンを開始したのは 1961 年にポルトガルの2人の良心の囚人が新聞に取り上げられた
ときです。40 年以上を経て、大規模な人権侵害に取り組むこともありますが、基本的には報告書ではひ
とりひとりの被害者の状況を取り上げ、その身に何が起こったのかを語ろうと努めています。アムネス
ティは、人権侵害を統計的な数値で表わすだけでなく、事件のひとつひとつを具体的に紹介しようとし
ているのです。
全世界をカバーする:
アムネスティは、地球上のどこで起きた人権侵害であろうとも、また誰に対する人権侵害であろうと
も、活動の対象にします。アムネスティは、さまざまな人権侵害の被害者のため、いかなる政府の下で
の人権侵害に対しても活動します。アムネスティは、それぞれの国の人権状況を比較して「格付け」し
たりはせず、人権侵害の程度や深刻さに応じてそれを防ぐために取り組んでいるのです。
普遍性と不可分性:
人権は、人種、性、性的指向、宗教、民族、政治的その他の意見、国民的または社会的出自による違
いにかかわりなく、すべての人に同じく具わったものです。私たちは生まれながらに自由であり、尊厳
と権利を平等にもっています。人権はすべての人に認められる、普遍的なものなのです。尊厳をもって
生きるため、人間は、自由、安全そして相当な生活水準を享受する権利をもっています。人権は相互に
切り離すことができない、不可分なものでもあります。
不偏不党性:
アムネスティは、いかなる政府や政治体制に対しても支持も反対もしません。また、人権侵害の被害
者がどのような意見を持っているかも問いません。アムネスティの支部とグループは、世界中のさまざ
まな地域で、それぞれ異なる政治状況の中で活動しています。
独立性:
アムネスティは、あらゆる政府、政治的イデオロギー、経済的利害、宗教から独立しています。アム
ネスティはいかなる政府や政治体制に対しても支持も反対もしません。また、権利を侵害された被害者
の意見や大義を支持するわけでもありません。こうした独立性を保つため、アムネスティは、人権侵害
に反対するアピールを出したり、キャンペーン活動をおこなったりするにあたって、政府や政党に資金
を求めたりすることも、受け取ったりすることもしません。アムネスティの財源は、世界中に広がる会
員たちの会費やさまざまな財政活動による収入に限られています。
不偏不党性を確立し主張することによって、一部の人びとのためではなくあらゆる人びとが世界人権
宣言に掲げられた人権を認められるというアムネスティ活動の中心的前提に重点をおいて活動します。
批判活動の対象とされた政府がアムネスティを批判して、人権の問題ではなくアムネスティが政治的に
偏っているからそういう批判をするのだと批判を仕返してくることがあります。アムネスティは、不偏
不党性と中立性を維持することで、そうした批判を打ち消し、アムネスティの立場を強め、また、その
調査に対する国際的信頼性を高めているのです。
国際的な民主的組織
アムネスティは、世界中の会員たちによって成り立つ組織です。そうした会員たちがともに活動する
ため、アムネスティの活動は以下の基本的な構造によって担われています。
- 各地域では、アムネスティの会員は 5 人以上でグループを形成し、アムネスティの行動に参加します。
- 国内でのアムネスティの会員やグループの活動は、支部やそれに代わる組織によって進められ、支援
され、調整されます。
- 国際的には、支部の活動や、グループ、会員の活動は、アムネスティの中心事務所である国際事務局
によって、進められ、支援され、調整されます。国際事務局は、人権侵害に対するアムネスティの調査
活動をおこなうところであり、世界中の会員によって担われるキャンペーン活動のほとんどを推進する
ところです。
アムネスティは、民主的で自律的な団体です。つまり、会員自身がアムネスティはどのような活動を
おこない、どのようにそれを進めるべきかを決定します。こうした決定は、以下の意思決定手続によっ
ておこなわれています。
- まず、アムネスティの会員が構成するグループの内部で討議がおこなわれ、各支部の総会や執行機関
に決議案が提出されます。各支部では総会を開催し、そこで活動方針を討議し決議します。
- 各支部は世界大会に対して議案を提出します。世界大会はアムネスティの最高意思決定機関です。世
界大会は、各支部の代表者から構成され二年ごとに開催される会議のことです。アムネスティの国際規
約を変更できるのは世界大会だけであり、組織全体の方針や活動、国際事務局の予算を策定することが
できるのも世界大会だけです。
- それぞれの世界大会の間にその決議の執行責任を担うのは国際執行委員会です。国際執行委員会は、
9 人のボランティアの委員によって構成され、世界大会の間の期間、アムネスティとしての意思決定を
担い、国際事務局の活動を統合的に監督します。
- 国際執行委員会は、アムネスティの事務総長を任命します。事務総長は、アムネスティの日常的な業
務執行を指揮し、その代表者として発言する国際事務局の最高執行責任者です。
- 国際事務局は、運動体の方針を実行し、人権侵害に関する情報を収集、分析し、各支部、グループ、
会員に対し、キャンペーン活動について助言します。
アムネスティの活動には効果があるのでしょうか?
ひとりひとりが国際的に連帯して活動することにより、変化をもたらすことができるという信念こそ
がアムネスティ運動の基盤です。人びとの苦しみに時として権力者が冷淡なまでに無関心な世界の現実
を前に、この信念はあまりにも楽天的に思えるかも知れません。アムネスティの活動と人権状況の改善
との間の直接の因果関係を証明することは難しいかもしれませんが、それでもアムネスティは長年の活
動を通じて確固たる具体的な成果をあげてきています。
1961 年の創設以来、アムネスティは何千人もの人権侵害の被害者ひとりひとりのために救援を求める
訴えを起こしてきました。このようなひとびとの多くが状況の改善を得ることができました。あるひと
は刑務所から釈放され、あるひとは刑期の短縮を獲得し、あるひとは公正な裁判を受けることができ、
あるひとは拘禁中に人道的に扱われるようになり、あるひとは死刑を減刑されるなどの改善を経験して
きたのです。
1973 年に最初の緊急行動のアピールが出されてから、危険が差し迫った男性や女性、あるいは子ども
たちのために、アムネスティは 16,600 件の緊急行動をおこなってきました。緊急行動が発動されたう
ち、アピールとして名前の上がった人びとの約三分の一については状況が改善されたという報告をアム
ネスティは受け取っています。
アムネスティが人権のために寄与してきた手段はこれだけではありません。アムネスティは他のさま
ざまな組織とともに、人権を擁護するための国際基準を設定し、状況を改善するよう国連に働きかけて
きました。アムネスティの設立された 1961 年以後も、世界中の人びとを人権侵害から守るために国際
人権法の総体が形づくられてきました。人権が国内政治や党派政治の枠を超えたものであるということ
に大いに寄与してきた点をアムネスティは誇りにしています。アムネスティの最も重要な業績は、世論
を喚起し、人権を国際的な課題としてしっかりと位置付けたことだと言えるでしょう。
アムネスティの活動のひとつひとつに独自の目標があります。その目標をどこまで達成することがで
きたかを評価することにより、今後に生かすべき重要な教訓を学ぶことができます。1990 年代を通じて、
アムネスティ会員は集団虐殺(ジェノサイド)や戦争犯罪のような残虐行為に管轄権を持つ国際刑事裁
判所の設置のためにキャンペーンを展開してきました。ついに 1998 年、常設の国際刑事裁判所を設置
するための規程がローマで開かれた国連会議において政府代表により採択されました。これを受けてア
ムネスティ会員は他の 800 あまりの NGO と共に、この国際刑事裁判所設置のためのローマ規程を速やか
にできるかぎり多くの国々が批准するよう働きかける世界的キャンペーンを展開しています。
アムネスティのすべての調査活動やキャンペーン活動は、その活動対象となった人権侵害の被害者ひ
とりひとりの命運を変えていくことに照準を定めているのです。良心の囚人の釈放はアムネスティの活
動のみが寄与したとはいえないにせよ、その活動が達成することのできた誰にも判りやすい成果のひと
つだと言えるでしょう。刑務所の処遇が改善されるかも知れません。拷問を止めさせたり、未然に防止
したりできるかも知れません。死刑が減刑されるかも知れません。人権侵害の被害者が自分たちが忘れ
さられているのではないことを知り、生きる心の支えとなる希望を見出すことができるかもしれないの
です。
ひとりの囚人が釈放されたとしても、一つの恩赦が与えられたとしても、ある政府の人権についての
対応が改善されたとしても、ひとつの組織としてアムネスティはそれが自分たちの活動だけによるもの
だと自負するわけではありません。そうした変化は多くの要因が重なり合ってもたらされたものです。
特に多くの場合は、自らの危険を賭して努力した人権侵害の被害者の家族や友人たちの行為によるもの
でしょう。しかし、元囚人や拷問の被害者だった人、あるいはその他の人権侵害の被害者が強調するの
は、国際的な圧力が自分たちの自由を確かなものとし、その命を救ったのだということです。毎年、ア
ムネスティが救援対象として活動した人びとや、その弁護士や家族から、救援の努力に感謝する言葉が
寄せられます。そのような感謝や連帯の言葉がアムネスティの会員が人権のために活動を続ける原動力
になっています。そのうちのごく一部や、アムネスティの活動の効果を明白に示す引用文や事例などが
このハンドブックでもあちこちに紹介されています。
アムネスティは会員によって作られている組織で、その目的を達成するために会員の活動への積極的参
加を欠かすことができません。アムネスティの目的と原則を支援するすべての人に対して、会員となり、
アムネスティのキャンペーンに積極的役割を果たしてほしいと呼びかけています。
ひとりひとりの声が世界を変える
アムネスティ会員はさまざまな方法で役割を担うことができます。グループに参加することもできま
すし、個人会員として活動することもできます。個人としてアムネスティを支援するには以下のような
活動が考えられます。
- 良心の囚人やその他の人権侵害の被害者のために救援を求める手紙を当局者に直接書くこと。世界一
斉アピール(ワールドワイド・アピール)の情報は毎月のアムネスティ・ニュースレターやウェブサイ
ト<www.amnesty.org>に載っています。
- 緊急行動(アージェント・アクション)などのネットワークに参加すること。
- アムネスティに寄付すること。
- アムネスティの出版物を地域の図書館や書店に配ることや、友人や家族にアムネスティに参加するよ
う働きかけること。
- 自分の住む地域の代表である政治家や地域の報道関係者にアムネスティの懸念事項を伝えること。
「私は地下牢に裸のまま入れられていました。初めに 200 通の手紙が届いたとき、看守は私の服を返し
てくれました。次の 200 通が届いたとき、刑務所の管理職が私に会いに来ました。さらに次の手紙の山
が届いたとき、刑務所長は自分の上司に連絡をとりました。手紙は届き続け、三千通にもなり、ついに
は大統領が私を執務室に呼んだのです。大統領は大量の手紙が入った箱を見せ、私に尋ねました、「君
のような一介の労働組合指導者が、どうして世界中にこれだけ多くの友人を持つことができるのだ」と。
1975 年にアムネスティが釈放キャンペーンを展開したドミニカ共和国の労働組合指導者の言葉。
グループに参加して活動する
多くの会員が地域のグループに入り、アムネスティの活動に参加しています。グループは近所同志の
人が作ったり、同じ村や町、あるいは職場、学校、大学、宗教の集会所の人たちが集まって作ったりし
ています。アムネスティ・グループは同組織が公式に認めた活動単位としての会員の集団です。アムネ
スティ・グループは通常月に一度くらい例会を開き、活動の計画を立て、それを実行します。他にも、
例会ではアムネスティの課題を協議したり、元良心の囚人などの講師を招いて話を聞く機会を持ったり、
ビデオ上映会や手紙書きの活動などをおこなっています。
アムネスティ・グループの活動
- グループが担当するアクション・ファイルの活動。アクション・ファイルでは、ひとりの囚人や複数
の囚人のケース、あるいは死刑といったテーマに沿った活動がグループに割り当てられ、グループはそ
れについて直接要請の手紙を書くなどの活動をおこなう。
- 地域別行動ネットワーク(RAN)などのネットワークへの参加。
- アムネスティのキャンペーンやその目的について広報し、デモや記念集会、報道関係者への働きかけ
や広報活動、各種団体への働きかけや人権教育などを通じて人びとにアムネスティへ参加するよう促す
活動。
- さまざまな資金集めの活動をおこなってアムネスティの資金を獲得する活動。
- アムネスティの意思決定の過程に参加する活動。
直接アピールの手紙を送る -- 手紙が力を発揮する
権力を持つ当局者に対して手紙を書くのは手軽で効果的な方法です。個々のケースについて直接訴え
る手紙を送ることはアムネスティの当初の活動でしたし、今もアムネスティのキャンペーンの中核をな
すことに変わりありません。アムネスティは調査活動をおこない、会員やグループに手紙書きをおこな
うためのアピール・ケースを作成し、配布しています。
グループは年間にどれだけのケースを扱うか、また、自分たちがどういった活動をするかを決めるこ
とができます。たとえば、緊急行動(アージェント・アクション)ネットワークや地域別行動ネットワ
ーク(RAN)、あるいは医療関係者や女性についてのネットワークといった特定の種類のケースに焦
点を当てたテーマ別ネットワークに参加することもできます。アクション・ファイルを担当したり、各
種キャンペーンの一環として、あるいは毎月の世界一斉アピール(ワールドワイド・アピール)に基づ
いて手紙書きを活動の一部に取り込んだりすることもできます。一年を通じて、グループがさまざまな
地域やさまざまなテーマに取り組むことをアムネスティは奨励しています。
グループは、自分たちで手紙書きをおこなうと同時に、アピールの情報を盛り込んだビラを配布した
り、要請書やアピール葉書への署名を呼びかけたりして一般の人が参加してくれるよう働きかけます。
アムネスティ・グループと支部やコーディネーターとの協力
各支部は、グループが結成されるときにさまざまな支援をおこなうとともに、自国の各地域グループ
にアピール・ケースや国内・国際キャンペーンについての情報を提供します。各支部はアクション・フ
ァイルを配布したり、キャンペーンの材料を提供したり、講演をできる人を紹介するなどしてグループ
のキャンペーン活動を支援します。多くの支部は人権教育のプログラムを持ち、子どもへの教材などを
グループに提供しています。また、グループが各種団体に働きかける際には手助けや助言を提供するこ
とができます。ほとんどの支部ではグループ担当者を置き、支部内のグループに対する窓口となってい
ます。また、支部内の各コーディネーターからも、グループはキャンペーンや、各種団体への働きかけ、
報道関係への働きかけなどについてさまざまな助言や支援を得ることができます。国内に支部が無い場
合には、グループは国際事務局の担当地域発展チームから情報や支援を受けています。
自分たちでアムネスティ・グループをつくる
周囲に適当なアムネスティ・グループがみあたらない場合には、自分たちでグループを作ることもで
きます。グループを作るには、5人以上の会員が必要で、自分の住んでいる国の支部(ない場合には国
際事務局)の指導で半年くらいの経験を積まなければなりません。この期間に、限定はされますがキャ
ンペーン活動をおこないながらアムネスティについて学び、グループの基盤作りに専念します。こうし
てグループを作る会員が、必要な知識を持ち一貫性のある効果的なキャンペーン活動を維持する基盤を
築くことができると、グループの結成が認められ、アムネスティ運動の一翼を担いはじめるのです。
グループには運営担当者と国際連絡担当者、グループの財務を担う会計担当者、議事録を取る担当、
所属会員の登録を担当する人などの役割分担が必要です。また、財政活動の担当者、新規会員を獲得す
る人、報道関係者への連絡を担当する人、緊急行動やアクション・ファイルを担当する人、催しやキャ
ンペーンを担当する人なども必要に応じて決めていきます。
アムネスティの正式な組織として、すべてのグループは以下の活動をおこないます。
- アムネスティ規約(添付資料 1)を遵守する。
- アムネスティのマンデイト(責務)全般について責任を自覚し、マンデイト(責務)のさまざまな分
野についてキャンペーン活動をするよう努力する。
- アムネスティの選出された執行機関の決定を遵守する。
- 自国の支部あるいは国際事務局に半年ごと、あるいは一年ごとに活動を報告する。
- キャンペーン活動においては政治的不偏性と独立性を堅持する。
- 開かれた、独立した活動を維持する。
- 社会のできる限り多種多様な人びとの関心を得るよう努力する。
- 人権やアムネスティの活動について、会員の研修をおこなう。
- 自らの活動と国際運動を支える財政活動に取り組む。
アムネスティ・グループを結成したい人は自分の国の支部事務局か、支部がない国の場合は国際事務
局の該当の地域発展担当チームに連絡してください。
手紙書きのヒントと手引き
効果的な手紙を書くには、人権侵害の被害者に対する懸念を誠実にあらわし、手紙の終わりに簡潔に
要請事項をまとめることです。以下のことに気をつけて手紙を書きます。
- 丁寧で礼儀正しい文章で書きます。目的は被害者の救援であり、当局者を非難することではありませ
ん。
- 情報を的確に伝えます。事実を把握していることを示すため、十分にケースの詳細を盛り込むことが
必要です。
- 不偏不党を守ります。政治的言説は避けなければなりません。
- 各ケースについてアムネスティ国際事務局が個別に指示したことを守らなければなりません。例えば、
「アムネスティ」であることを書いてはいけないなどの指示があれば、それを守る必要があります。こ
うした注意は人権侵害の被害者や、その家族に直接手紙を書く場合、特に重要です。
- 中身の分量はできるだけ便箋一枚に収めます。長ければよいというものではなく、短くとも効果があ
ります。
- アムネスティ国際事務局から特定の言語で書くように指示が無い場合には、自分の流儀と言葉で簡潔
明瞭に書きます。
さらに、以下のことに注意してください。
- 自分が誰であるか、自分の経歴や職業などを盛り込みます。そうすることによって手紙の信憑性が増
し、関係国の出来事にさまざまな人びとが関心を寄せているということを伝えることができます。
- アムネスティのことを簡潔に説明し、アムネスティが世界的な広がりを持つ不偏不党な団体であるこ
とを強調します。
(「アムネスティ」であることを示してはいけないという指示がない場合に限ります。
)
- 世界人権宣言やその他の国際法、国内法や規準の適切な条項を引用します。これについての情報はア
ムネスティ国際事務局から提供されます。
- 具体的なアピールや勧告あるいは要請を書き、返信を依頼します。アピールや勧告の内容はアムネス
ティ国際事務局から提供されます。
あて先
各ケースのあて先となる適切な当局者の名前と住所はアムネスティ国際事務局から提供されます。国
際郵便の費用が十分にないときには、自分の国にある該当国の大使館に送ることもできます。大使館は
自国政府に手紙を送ることになります。
郵便物を翻訳し自国政府に送るための要員をもっている大使館もあります。自分たちで翻訳できる場
合でも、自国語で手紙を送ると効果がある場合もあります。該当国に直接手紙を送る場合にも、自分の
国にある大使館にもコピーを送るとアピールの圧力をかける効果が上がります。
書き出しの呼び名に厳格な規則はありません。アムネスティのアピールにはできるだけ適切な呼び名
が紹介されます。以下に一般的な指針をあげておきます。
- 大統領などの国家元首:「Your Excellency」または「Dear President (名前)」
- 王や女王、その他王族:「Your Majesty」
- 首相や大臣:「Dear Prime Minister」
、「Dear Minister」
- 大使級の外交官:「Your Excellency」
すべての手紙は「Yours truly」や「Yours sincerely」、あるいはもう少し公式な「Yours respectfully
and sincerely」などの言葉で締めくくります。
手紙を送ったら
手紙を送るときにはコピーをとっておき、返事があったときに参照して効果的な対応がとれるように
します。返事があったら、礼儀としてすぐに受け取った旨を返事します。同時に、該当国を扱う国別コ
ーディネーターがいる場合にはコーディネーターに、そうでなければ支部か国際事務局にコピーを送っ
てください。一定の時間が経過しても相手当局者から返事が無い場合には丁寧に問い合わせの手紙を出
します。とはいえ、なんの反応も無いからといって落胆しないようにしましょう。手紙に何の返事も無
い場合でも、送った手紙が驚くほどの効果をもたらした事例をアムネスティはいくつも経験してきてい
るのです。
「もう一度、自由の身になって、こうしてあなたたちにこの手紙を書くことができることが、どんなに
素晴らしく思えるか言葉に尽くせません。1997 年にアムネスティの努力で初めて何通ものグリーティン
グ・カードが私のもとに届いて以来ずっと、いつかはそうしたいと思ってきたことなのです。あの小さ
な牢獄の中に座って床一面にカードや封筒が敷き詰められて・・・、私のそのときの反応を正確に描くこ
とはとてもできません。それは心の奥底を揺さぶるもので、勇気が湧き、力が満ちてくる体験でした。
それ以降、私はひとりではないことを知り、そのことを頼みに最後まで持ちこたえることができたので
す。あなたたちは一枚のカードを送ったに過ぎないのかもしれません。でもその一枚一枚は小さな水の
雫でも、それが集まり、やがて大きな圧力の雪崩を引き起こしたのです。」
1998 年に釈放されたナイジェリアの新聞編集者クリス・アニャンウさんの手紙より。アニャンウさんは
1995 年に長期拘禁刑の判決を受けた何人かの人権活動家のひとりで、その裁判は秘密裏におこなわれ、
公正さを著しく逸脱した軍事法廷で国家反逆罪に問われたものでした。
アムネスティと激動する世界
こんにちわたしたちは、多くの人権侵害の悲劇や世界中で頻発する武力紛争に直面していますが、前
世紀中期以後、人権擁護の分野で多くの進歩が見られたことを忘れてはならないでしょう。世界人権宣
言に定められた権利に後押しされた人びとの戦いによって世界の人権状況は大きく変化し、人種および
性別による差別に反対する多くの人びとによる運動を促進し、その結果として一定の社会変革がもたら
されました。さらに、これらの世界人権宣言に規定された権利によって触発された人権擁護のための運
動が、全世界にはっきりと目に見える形で広まったのです。これらの権利は、より洗練された形で各国
憲法および国内法に規定されることになっただけでなく、国際人権条約として結実しました。これらの
権利は、国際連合の理論的基礎となっただけでなく、人権問題を取り上げ、平和を求め、貧困や読み書
きのできない人を減らし、人びとの健康を守るという世界的活動の原動力となったのです。
しかし、多くの人びとにとって世界人権宣言に規定された権利は、現在でも単なる紙切れに書かれた
約束以外のなにものでもありません。つまり、1 日に 1 アメリカドル(百円強)以下の収入でかろうじて
生活している 13 億の人びとにとっては、これらは決して実現されない約束でしかありません。また、
栄養失調や予防可能な病気のために毎日死んでゆく 3 万 5000 人の子どもたちや文字を知らない多くの
大人たち(その多くは女性です)にとってもそれは同じことであり、世界中の獄中で苦しんでいる良心
の囚人、150 カ国以上の国で拷問や残虐な扱いに苦しんでいる犠牲者、毎年死刑を宣告され、執行され
る多くの人びと、さらには社会的不公正・不平等・人権侵害などに触発される紛争によって違法に殺害
される何千人の人びとにとってもまた同じことなのです。
アムネスティが、現在までに何十年にもわたって戦ってきた人権侵害は、依然としてこの地球上の人
びとの生活に暗い影を落としています。いくつかの国では、監獄の門が開かれ、良心の囚人が釈放され
ました。元良心の囚人で、国家元首ないしは政府の代表者となった人が、少なくとも 11 人はいます。
しかし、多くの国では依然として大規模な超法規的処刑や失踪などの人権抑圧行動が発生しています。
今もアムネスティがその活動対象とする人権侵害の多くの犠牲者は、監獄の外での人権侵害に直面して
います。つまり、これらの人びとの多くは武力紛争下で殺害され、女性たちは家庭内ないしは地域社会
における暴力によって身体に重大な傷害を負わされたり殺害されたりしており、また街頭での警察部隊
の暴力による犠牲者となっている人びともいるのです。
現在の世界は、冷戦の終結により予測できないスケールで民族間の緊張が高まるという現象が見られ
る世界です。政変や不公正な富の配分が、国境を越えた大規模な人びとの移動に拍車をかけており、自
由で民主的であるとされている国においても、これらの人びとに対する不寛容な態度や人種差別が蔓延
しています。
アムネスティが誕生したのは、世界が激動していた時代でした。アムネスティは政府による抑圧の被
害者への断固たる連帯を表明した人びとから力を得ていました。アフリカの人びとは、1960 年代に植民
地主義の支配から逃れるための闘いをしていました。また、スペイン、ポルトガル、ソ連の独裁政府の
支配のもとにあった人びとは、自分たちの政府に反対する権利の確認を求めて戦っていました。アムネ
スティは、「思想の表明は、自由におこなわれるべきだ」と主張して、囚われていた反体制派の人びと
を救出する活動をおこなってきました。
1970 年代および 1980 年代には、ラテンアメリカにおいて軍事政権が拷問によって反対派の人びとを
根絶しようとしていました。アムネスティはこれに対して、拷問禁止を求める国際条約を推進し拷問の
根絶を求めて国際的キャンペーンをおこないました。また政治的な抑圧が、「逮捕・投獄」という方法
から街頭での「失踪」や超法規的処刑に変化してきたことに対応して、アムネスティはこうした新しい
形の人権侵害にも取り組むようになったのです。1990 年代および 21 世紀初頭には、政府だけでなくす
べての紛争当事者をその活動対象とすることにより、頻発する武力紛争にも対応するようになりました。
アムネスティは、意見を表明する自由の領域から、人のアイデンティティにもとづく人権侵害つまり
差別に基づく人権侵害の領域にも活動の焦点を広げてきました。つまり、何を考えているのかにより標
的にされる人びとだけでなく、何者であるのかによって危険にさらされる人びとも活動の対象とするよ
うになりました。
このことは、アムネスティがその本来の活動基盤から離れることを意味するものではありません。世
界人権宣言は、ホロコーストをきっかけとして生まれたものでしたが、このような集団虐殺(ジェノサ
イド)は、アイデンティティにもとづく究極の人権侵害でしょう。
ベルリンの壁が崩壊して以来、世界中で大規模な政治・社会・経済の変革が起きました。人権擁護運
動は、その質量ともに飛躍的な発展を遂げ、その結果、人権意識も過去になかったほどの伸張をみせて
います。しかしながら、依然として抑圧、貧困、戦争により地球上の多くの人びとの生活は荒廃してい
ます。1990 年に多くの人びとが抱いた楽観的な観測は、十分に根拠のある恐れに取って代わられ、現在
こそ真の人権擁護活動が求められているのです。
グローバリゼーション、つまり自由市場経済、複数政党政治システム、技術革新の広がりは、一握り
の人びとに多くの自由と富をもたらしている半面で、その他の人びとには貧困と希望のない未来をもた
らしています。国際通貨基金や世界銀行、世界貿易機関等の世界規模の経済組織は、多くの国の政治・
経済状況を支配するようになってきています。同時に多国籍企業が世界中の富と権力に対する支配を強
めています。
アムネスティは、グローバリゼーションから発生する新たな人権問題を前に傍観していたわけではあ
りません。アムネスティは、経済的、社会的、文化的権利が国際人権擁護運動によって比較的軽視され
てきたことを認め、こうした権利の擁護のための活動をより直接的にできるようにしました。アムネス
ティは、1997 年に経済的、社会的権利を含むすべての人権を促進する決意を再確認し、企業および金融
セクターにおいて、さらに、援助、貿易、投資に関する政府・政府間機関の方針に対して、人権擁護の
ためのキャンペーンをおこなうことを決めたのです。2001 年には、このような活動をさらに強化し発展
させると決定しました。
アムネスティの責務が発展・進化するにつれ、アムネスティがすべての深刻な人権侵害に反対するた
めの活動をすべきかどうかという問題が発生しました。アムネスティは、すでにすべての人権を促進す
ることを決めています。この問題は、これから数年の内に細部までの検討がなされ、その後に世界大会
による正式な決定がなされるでしょう。
アムネスティが変化する世界に適応し発展するには、戦略的思考、独創性そして活力がますます必要
とされるでしょう。これまでアムネスティの働きかけの対象であった権力構造が崩壊してしまう国が出
てきました。こうした事態にどう臨めばよいのかは大きな新しい課題です。新たな技術の発展および地
球規模のメディア・ネットワークにより、これらの危機が世界中において社会的・政治的に注目される
ようになってきています。しかし、このような地球規模での関心は、非常に偏ったものになってしまう
ことがあり、世界から忘れられ気づかれもしない人びとの危機的状況はまだ依然として存在するのです。
こんにち、アムネスティは、人権のための戦いを中心に据えることに成功した巨大でダイナミックな
運動体のひとつとなっています。そうした成果は、抽象的ではなく、人権侵害に直面している数え切れ
ないほど多くの個人のためにアムネスティがおこなってきた具体的なキャンペーン活動の成功による
ものです。
友人の皆さんへ
あなた方すべてに対して私が心から感謝の気持ちをもっていることをお伝えしたいと思います。皆さ
んは世界中の人びとの人権のために戦っているアムネスティ・インターナショナルのようなすばらしい
団体のメンバーであるからです。この機会に、皆さんの 2000 年 3 月 3 日の支援活動のおかげで、不当
な迫害により私の生命が危機に瀕していた状態が解消され、現在、私がこうして生きていられることに
対して感謝したいと思います。私は、私と私の属している COPA(アフアン民衆協議会中央委員会)を支
援してくれた人びとのことを決して忘れません--最後に、ひとり一人の人権のために声を上げ続けている人びとのための活動を決して止めないように
皆さんにお願いしたいと思います。友人たちよ、世界中で最も美しいのは、あなた方のような人びとで
す。あなた方が引き続き健康で、賢く、世界中の人びとに対してたくさんの愛情と連帯心を持ち続ける
ことができるように神に祈りたいと思います。
私を支援してくれたすべての人びとに対して心から感謝の気持ちを捧げます。
コロナド・アビラ・エム
注)ホンジュラスで小作農民の土地に対する権利擁護のために活動してきた民衆活動家であるコロナ
ド・アビラは、「殺す」という内容の脅迫を受けてきました。アムネスティは、2000 年 3 月 3 日に彼の
ためのアージェント・アクションをおこないました。2001 年 7 月、彼は彼のためにアピールの手紙を書
いたすべての人たちへの感謝の手紙をアムネスティに書き送りました。