意見募集:銀行格付手法案 Proposed Bank Rating Methodology

BANKING
SEPTEMBER 11, 2014
REQUEST FOR
COMMENT
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意見募集:銀行格付手法案
Proposed Bank Rating Methodology
コンタクト:
東京
概要
03.5408.4100
山本 哲也
03.5408.4053
VP-シニア・アナリスト
[email protected]
佐藤 俊作
03.5408.4159
VP- シニア・クレジット・オフィサー
[email protected]
レイモンド・スペンサー
03.5408.4051
シニア・ヴァイス・プレジデント
[email protected]
グレム・ナウド
03.5408.4149
アソシエイト・マネージング・ディレクター
[email protected]
ムーディーズは、グローバル銀行格付手法の形式および内容に対する大幅な
修正案を提示する。その中心的な要素は 2007 年以来、適用されてきたもので
ある。それらの修正案は、世界金融危機および最近の銀行セクターの苦境から
得た洞察、および銀行の破綻処理ならびに再生に対する規制・監督およびアプ
ローチの変更案にも対応する。格付手法の修正案は、ムーディーズが世界で付
与している全ての自国通貨建て銀行預金格付の 40%を含め、多くの銀行格付
に影響を与えるとみられるが、変更は、再生・破綻処理手法により資本構成上の
差が拡大しているとムーディーズが考える、欧州および米国の銀行に大きく集中
するだろう。預金格付が上昇し、一部の事例ではシニア無担保債務格付との差
が広がる可能性がある。債務構成および預金の支払い優先順位の違いにより、
欧州ではポジティブに作用し、米国ではネガティブに作用する。それ以外の地
域では、債務・預金格付の変更ははるかに限定的になるとみられる。
アプローチ案は、従来の格付手法と同様、主に 2 つの要素から構成される。す
なわち、単独での信用力評価(「破綻」の可能性と定義される)と、破綻に伴う
個々の証券のリスクの分析である。
単独での信用力評価の分析は定性分析と定量分析の両方から構成され、銀行
の信用リスクに関する従来の決定要因も引き続き用いる。これには、銀行の資産
の質、自己資本の充実度、収益性、資金調達構造の適切性、流動資産へのア
クセスが含まれる。ムーディーズの定量分析は、各銀行が業務を展開するマクロ
経済・金融環境に照らして評価し、予測能力に基づいて選択した指標に基づく
が、同時に、リスクおよびその低減要因に関する指標も広く用いる。この中に、資
産の質およびその他の主要指標の将来を見通した分析を織り込む。さらに、ビ
ジネスモデル、行動特性、不透明性と複雑性といった定性的な要因も検討する。
これらが、ムーディーズが各銀行に付与する単独でのベースライン信用リスク評
価(BCA)を左右する分析上の判断要因を構成する。BCAは、銀行の一つある
いはそれ以上の証券のデフォルトを回避するために緊急時のサポートを必要と
するか、あるいは実際にデフォルトに陥る(その時点でムーディーズは銀行が
「破綻した」 1 とみなす)可能性に対するムーディーズの見方を表す。全般的に
BCAの分布はほとんど変化しないであろう。
This Request for Comment is based on Moody’s
Investors Service’s Request for Comment titled
“Proposed Bank Rating Methodology, (September
9, 2014).” The rating approach described in the
Moody’s Investors Service report was adopted on
September 11, 2014.
1
「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャピタル証券等、破綻以前のデフォルトが想定される証券を除く。
ムーディーズ・ジャパン株式会社
BANKING
その後に、「破綻後」のサポートおよび構造の分析を行う。ムーディーズはまず、関係者からの
サポートの可能性を検討する。次に、運用可能な破綻処理制度の対象となる銀行を特定し、
各銀行の債務構成を分析する。ムーディーズの格付手法に加わったこの要素は、銀行の、清
算以外での、一部証券の選択的デフォルトを実質的に容認する「破綻処理制度」に向けた最
近の公的方針の大幅なシフトに伴うものである。このため、下位証券による、各クラスの債務へ
の潜在的な保護を検討する、負債サイドの分析を行う。新たな概念である「破綻時損失」によ
って、銀行は、適用される再生・破綻処理制度によって異なる、各債権者が直面するリスクを
検討することができる。その結果、多くの場合、預金格付はシニア無担保債務格付より高く、
一部のシニア無担保格付は BCA より高い水準となる可能性がある。
最後に、従来通りだが、複合デフォルト分析の適用におおむね近い形で、政府からのサポー
トの可能性を検討し、異なる債務クラスに対するサポートの差をより明確にする。
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銀行の信用力は、銀行業界および規制における危機の影響を受けた根本的な転換に応じて
変化し続ける。ムーディーズは、そうした変化に対応し、格付の精緻度と透明性を向上させる
柔軟性を確保すべく、枠組みの修正案を作成した。本格付手法の修正案については 2014
年 11 月 7 日まで市場からの意見を募集する。
本件は信用格付付与の公表では
ありません。文中にて言及されて
いる信用格付については、
ムーディーズのウェブサイト
(www.moodys.com)の発行体の
ページの Ratings タブで、最新の
格付付与に関する情報および
格付推移をご参照ください。
2
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
目次
概要
1
目次
3
本提案における修正点
4
意見募集
6
本意見募集の背景
8
格付への影響
9
ムーディーズが提案するアプローチ
11
BCA の概要
13
サポート・構造分析の概要
18
ファンダメンタル信用要因の詳細
24
31
サポート・構造分析の詳細
58
付録 1: カバードボンドの発行に特化した金融機関に対する格付のアプローチ
86
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財務プロファイルの評価
付録 2: 関係者の格付
90
付録 3: ムーディーズの銀行格付について
94
付録 4: マクロ・プロファイルの初期推定
98
付録 5: スコアカード指標: スコアリング上の閾値、ウエイト、定義
3
SEPTEMBER 11, 2014
100
付録 6: 資産の質に関する将来を見通した分析
101
付録 7: 破綻時損失:基本的な想定
103
付録 8: サポート評価における複合デフォルト分析の使用
106
付録 9:調整と検証
110
付録 10: 銀行のリスク度
114
付録 11: インパクト評価
118
付録 12:「ハイ・トリガー」証券を格付するためのステップ・バイ・ステップ・ガイド
121
用語解説
124
ムーディーズの関連リサーチ
127
参考文献
129
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
本提案における修正点
囲み 1:修正案の概要
» 新たなスコアカードを用いた BCA 手法を、ムーディーズの分析上の判断を完全に織り込
む形とした。従って、格付要因ごとのスコアは、財務指標だけではなく、各格付要因に関
連する幅広い定性的な考慮事項も反映する。
» 従来のスコアカードは、銀行財務格付を BCA にマッピングする形となっていた。それに対
して今回の格付手法の修正案では、銀行の単独での信用力に対するムーディーズの見
方を aaa から c までのスケールで表した BCA が格付の直接の基礎となる。これに伴い、A
から E までの細分化度の低いスケールで表した銀行財務格付を取り下げる。
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» 新たなスコアカードでは、銀行の破綻、すなわちデフォルトまたはデフォルトを回避するた
めのサポートの必要性の予測能力が高いことが過去の検証結果で判明した、比較的少
数の財務指標に注目する。ただし、アナリストおよび格付委員会は、各金融機関におい
て重要と判断する追加的な指標を考慮することがあり、それを BCA の分析にも織り込む。
» 主要財務指標の将来の見通しを、スコアカードの格付要因に直接織り込むことを提案す
る。最終的なスコアの付与には、将来の見通しに関するシナリオに基づく分析が引き続き
重要な役割を担う。
» BCA 分析の一部として、幅広いマクロ経済・金融指標に基づく、各国のマクロ・プロファイ
ルを決定することを提案する。スコアカードの各財務要因において、スコアリングプロセス
では財務指標とマクロ・プロファイルを複合的に勘案する。より厳しいマクロ経済環境で業
務を行う銀行が、良好な環境で業務を行う銀行と同水準の要因スコアを得るには、より強
固な財務指標が求められる。
» 個別証券に対する格付の付与に際して、提案では、適用される新たな銀行破綻処理メカ
ニズムおよび世界で提案されている破綻処理メカニズムが信用力に及ぼす影響を直接
織り込む。広範囲に及ぶデフォルトまたは破産を招くことなく特定の債務での損失負担を
当局が求めることが可能とみられる破綻処理制度の対象となる銀行については、分析に
「破綻時損失」の要素を織り込む。これは、負債構成や破綻・再建戦略の形式の差に応じ
て、異なる債権者クラス間で異なるとみられるリスクを区分するためである。これには、破
綻処理においては預金がシニア無担保債務よりもしばしば優先され、シニア無担保債務
にとってはジュニア債務がクッションになることがあるということを織り込んでいる。救済、破
産、または特別な破綻処理の対象となるとみられる銀行には、証券の種類に応じて既存
のノッチング手法を適用する。
» ムーディーズは、複合デフォルト分析に織り込まれる概念(相対的な信用力、サポートの
可能性、相互連関)を維持しつつも、サポートの枠組みを簡素化する。ソブリンの「サポー
ト提供能力」を示すものだが、ソブリン格付より高い水準に設定される場合のある「システミ
ック・サポート・インディケーター」の概念を排除し、自国通貨建てソブリン格付を用いるこ
ととした。もっとも、複合デフォルト分析(JDA)の適用において、ソブリンのリソースと比較し
て銀行システムが相対的に小さい場合、銀行とソブリンのデフォルト相互連関が低くなる
ことがあるとムーディーズは認識している。
4
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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囲み 1:修正案の概要
» 予備的な評価と現在のデータに基づくと、ムーディーズが現在付与している BCA の 95%
には変更は生じず、1%が 1 ノッチ引き下げ、4%が 1 ノッチ以上引き上げとなるだろう。従
って、BCA の平均は ba2 から変化しない。サポートの想定に変化がなければ、自国通貨
建て預金格付は約 0.5 ノッチ上昇し、34%が格上げ、7%が格下げとなる。一方、自国通
貨建てシニア無担保債務格付への影響はそれより小さく、平均 0.2 ノッチの上昇となる可
能性があり、シニア債務格付の 30%が格上げ、21%が格下げとなる。預金格付およびシ
ニア無担保債務格付の平均は Baa2 となる。最終的な格付アクションは、最終的な格付手
法が採用された後、格付委員会によって決定される。
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» 同時に、ムーディーズは、今回の格付手法案とは別に、EU、ノルウェー、リヒテンシュタイ
ン(2014 年 5 月 29 日発行のスペシャル・コメント参照)およびスイス(2014 年 7 月 29 日
発行のスペシャル・コメント参照)の多くの銀行に対する政府サポートの想定変更を検討し
ている。ムーディーズのサポートの想定は現時点では変更となっていないが、引き下げる
可能性が高まっている。サポートの可能性が大幅に低下すれば、格付手法が提案通りに
導入された場合のポジティブな影響が縮小し、これらの国々の銀行の預金格付はほとん
ど変化しないか、1 ノッチの格上げにとどまり、シニア無担保債務格付はほぼ変化しない
か、1 ノッチの格下げとなる。
» 総じて、ムーディーズは、格付手法の修正案の下での格付は、以下の諸点により敏感に
反応するものであると考えている。(1) 事業環境の変化、(2) 個別行のコア財務指標の変
化、(3) 政府サポートの可能性ならびに再生・破綻処理制度の進展、(4) 個別行の負債構
造の変化。
5
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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意見募集
本意見募集レポートは、銀行の信用格付手法の修正案について説明するものである。ムーデ
ィーズは、意見募集全体に対するフィードバックを求める。
信用格付手法が採用された場合の、格付への影響は後述の通りである。
市場参加者には、2014 年 11 月 7 日までにムーディーズのウェブサイト(www.moodys.com)
上の Request for Comment のページにご意見をお寄せいただきたい。
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寄せられた意見を適切に検討のうえ、格付手法案が最終案として発表された時点で、新たな
格付手法が 2014 年 7 月に発行された「グローバル銀行格付手法」に代わるものとなる。
6
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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囲み 2:主要な質問
BCA スコアカードの主要指標の選択についてご意見があるか。
2.
銀行システムのマクロ・プロファイルの導入案およびその解釈についてご意見がある
か。
3.
BCA スコアカードのキャピタリゼーション指標に「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャ
ピタル証券を含めるとすれば、どのような方法でキャピタルクレジットを付与するのが適
切か。運用可能な破綻処理制度のない銀行については異なる方法をとるべきか。
4.
運用可能な破綻処理制度の定義、および破綻時損失分析の適用範囲についてご意見
があるか。
5.
運用可能な破綻処理制度の適用対象となる金融機関の平均損失率を 5-10%とする初
期想定は妥当か。
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1.
6.
銀行グループ内の破綻処理の範囲に関するムーディーズの想定は妥当か。
7.
EU の銀行再生・破綻処理指令において預金者が優先されるとするムーディーズのア
プローチについてご意見があるか。
8.
銀行ごとのデータがない場合に EU 全体のデータを用いる、EU の銀行のジュニア預金
および優先預金に対するムーディーズのアプローチは妥当か。リテール金融機関のジ
ュニア預金については異なる見方をするのが妥当か。
9.
破綻前におけるさまざまな債務の取り扱いに関するムーディーズの想定は妥当か。デリ
バティブ債務をシニア無担保債務の損失を分担するものとして取り扱うべきか。その場
合はどのようにすべきか。グループ内資金調達を銀行間資金調達と異なる取り扱いとす
べきか。その場合はどのようにすべきか。
10. 破綻時損失のノッチングの閾値は、一定のレンジ(例えば 4.5-5.5%)内での裁量的なノ
ッチングを許容するレンジとすべきか、それとも固定の閾値(例えば 5%)とすべきか。
11. 破綻時損失分析は将来の債務構成の変化の可能性をどの程度考慮に入れるべきか。
その理由は。
12. バーゼル III の自己資本要件を満たす実質破綻時損失吸収条項付証券、ハイブリッド
資本証券、および「プレーンバニラ」劣後債務の格付を区別して行うべきか。
13. サポート提供者の信用力評価に、政府債務格付を上回ることもある「システミック・サポ
ート・インディケーター」ではなく、政府債務格付を用いることについてご意見があるか。
14. 親会社からのサポートと、協同組合または相互組合グループからのサポートを
関係者からのサポートに、地方・地域政府からのサポートとシステミックサポ
ートを政府からのサポートに統合することについてご意見があるか。
7
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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本意見募集の背景
過去 7 年間は、世界の金融業界、とりわけ欧州および北米の銀行セクターの大半のセグメン
トがほぼ連続的に危機に見舞われた時期であった。危機は、銀行のバランスシート、公的な
方針、銀行監督、規制要件、そして銀行の投資家に深刻な影響をもたらした。多くの国々の
経済および多数の国の財政に与えた影響への対応として、銀行破綻および金融市場への波
及リスクを縮小し、政府が過小資本の銀行に対して資金支援を提供する必要性を低下させる
ことを目的に、新たな監督制度、自己資本規制、および銀行の再生・破綻処理メカニズムの
導入が広く行われてきた。こうした展開は、銀行の債権者が直面する全般的なリスク、および
銀行の債務構成の中のさまざまな証券に投資する投資家の間のリスク分担を根本的に変化さ
せた。一方、多くの地域は基本的に全く影響を受けておらず、世界の銀行業界の状況は大き
く異なっているとムーディーズは認識している。
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ムーディーズは金融危機の直前に銀行財務格付(2007 年 3 月)および複合デフォルト分析
手法(2007 年 4 月)を導入し、その後、2013 年 6 月にグローバル銀行格付手法(統合版)を
発表し、2014 年 7 月にその修正版を発表した 2。ムーディーズの現行の格付手法は、銀行の
バランスシートへの危機の影響による圧力、および銀行破綻に対する当局の姿勢の変化を反
映できる、十分に柔軟なものとなっていることが実証されているが、2007 年以降にみられた多
くの衝撃、破綻、救済、デフォルト、規制改革によって、格付手法の見直しおよび修正が必要
となってきた。本意見募集は、従来の格付手法の頑健性および柔軟性に立脚しつつも、格付
手法の修正案について説明し、重要な改良を提案するものである。
今回の修正案の主な目的は次の通りである。
» 最近の銀行のバランスシートの動きおよび銀行規制当局の姿勢から得た洞察と、多くの銀
行システムで施行または検討されている新たな規制制度および破綻処理制度を反映する。
» 各銀行の事業環境およびそれが BCA 分析にどう影響を与えるかについての透明性の高
い分析を提示する。
» 銀行破綻事例によって有効性が立証された財務指標を用いて、銀行破綻リスクの予測能
力を高めるべく BCA 分析を強化する。
» 将来を見通した見解、追加的な指標、定性的調整を織り込んだ、各発行体の BCA 分析を
行う分析上の柔軟性を格付委員会に与える。
» 破綻時損失分析の導入により、破綻処理メカニズムの対象となるとみられる銀行の予想損
失を予測する、銀行格付の能力を高める。
» 地域および銀行による差を認識しつつも、ムーディーズの格付手法のグローバルな適用
のための整合性を確保する。
ムーディーズが分析を行う主要な要因は、現在使用しているものと同様であり、全ての銀行ア
ナリストにとって馴染みのあるものである。支払い能力と流動性が単独での信用力評価の分
析の中心となる。従来と異なるのはその分析の表示方法である。特に、「マクロ・プロファイル」
を通じて示されるシステム全体への潜在的な圧力の役割が大きくなる。従来の「スコアカード」
は、BCA への「入力値」が比較的柔軟性のないものであったが、今後は、銀行の単独での財
務に影響を与えるさまざまな信用要因(必要に応じ、補完的な指標の調整、将来を見通した
評価などを含む)に対する格付委員会の見方を包括的に織り込んだものとする。
また、格付には引き続き、必要に応じた関係者あるいは政府からのサポートの可能性を織り込
む。一方、破綻後のリスク評価には、「ゴーイング・コンサーン」ベースのメカニズムであれ清算
であれ、銀行破綻時における、下位クラスの債務の劣後性による損失へのクッションを考慮す
2
8
SEPTEMBER 11, 2014
ムーディーズのグローバル銀行格付手法は直近で 2014 年 7 月 16 日(ムーディーズ・ジャパン版は 2014 年 7 月 24 日)
にアップデートされ、銀行が発行する「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャピタル証券に対する格付の枠組みを織り込
み、実質破綻時損失吸収条項付証券に対する格付の枠組みの修正を行った。
意見募集:銀行格付手法案
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る重要性を反映し、負債サイドの分析を導入する。これは、「運用可能な破綻処理制度」の対
象となる銀行に適用され、破綻後の銀行全体の損失、グループ内での破綻の境界線に関す
るムーディーズの見方、格付対象の預金とシニア無担保債務の間での損失負担を考慮に入
れる。この分析により、債務・預金格付において、バランスシート上の制約が高まるリスクを反
映することが可能となる。
格付への影響
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格付手法の修正案は広範にわたるものとなるが、ムーディーズが付与するグローバル銀行格
付への調整は全般に軽微なものとなる。本意見募集に示した内容が導入され、2014 年 5 月
29 日付のスペシャル・コメント 3で発表した欧州におけるサポートの想定への並行的な変更が
なければ、ムーディーズによる自国通貨建て預金格付の約 59%は変更なし、34%が上昇し、
7%が低下となるとみられる。自国通貨建てシニア無担保債務については、自国通貨建て格
付の 48%が変更なし、30%が格上げ、22%が格下げとなる。これに伴って、自国通貨建て預
金格付は平均で約 0.5 ノッチ、自国通貨建てシニア無担保債務格付は平均で 0.2 ノッチ上昇
する。自国通貨建て預金・シニア債務格付の平均はBaa2 となる。
BCA はほとんど変化せず、中央値は ba1、非加重平均は ba2 となる。債務・預金格付の変化
は主に、新たな破綻時損失の枠組みの適用によるものである。これはとりわけ米銀の預金格
付にプラスの影響を与えるが、預金が法制上全面的に優先され、従ってシニア無担保債務の
劣後性によって恩恵を受けるとのムーディーズの評価による。一方、EU では、銀行再生・破
綻処理指令に基づき、預金の優先性に関してやや不明瞭なアプローチが適用されるため、
米銀ほどの恩恵はない。詳細については、付録 11 の「インパクト評価」を参照されたい。
図表 1
推定される格付への影響-預金格付(自国通貨建て) 4
影響(ノッチ数)
Imp
a c t (no tc he s )
N
umb e r in
現在の格付数
s a mp le
R e地域
g io n
North
北米America
EUEUand
Other Western Europe
及びその他西ヨーロッパ
Asia
Pacific
アジア太平洋
CIS
および西アジア
CIS and Western Asia
中南米
Latin
America
中東・アフリカ
MEA
世界全体
W OR LD
75
275
173
143
112
102
880
-2
0%
0%
3%
0%
0%
0%
1%
-1
0%
4%
5%
2%
13%
19%
6%
0
12%
16%
88%
95%
84%
79%
59%
1
8%
24%
3%
3%
2%
2%
10%
2
75%
49%
1%
0%
1%
0%
22%
3
5%
5%
0%
0%
0%
0%
2%
上下差
Ba la nc e
up / d o wn
W 加重平均
e ig hte d
a ノッチ
v e ra g e
no tc h
c ha ng e
Av e ra g e
ra ting
88%
75%
-3%
1%
-11%
-17%
27%
1.7
1.4
-0.1
0.0
-0.1
-0.2
0.5
A1
Baa1
A3
B2
Ba2
Baa3
Ba a 2
平均格付
推定される格付への影響-シニア無担保債務(自国通貨建て) 5
影響(ノッチ数)
N umb e r in
現在の格付数
R地域
e g io n
北米 America
North
EUand
及びその他西ヨーロッパ
EU
Other Western Europe
アジア太平洋
Asia
Pacific
CIS および西アジア
CIS and Western Asia
中南米
Latin America
中東・アフリカ
MEA
世界全体
W OR LD
72
143
31
48
22
8
324
-2
1%
0%
3%
0%
0%
0%
1%
-1
61%
14%
0%
2%
9%
0%
21%
0
29%
24%
97%
94%
86%
100%
49%
1
6%
36%
0%
4%
5%
0%
18%
Ba la nc e
up / d o wn
W加重平均
e ig hte d
aノッチ
v e ra g e
no tc h
c ha ng e
-54%
48%
-3%
2%
-5%
0%
9%
-0.5
0.8
-0.1
0.0
0.0
0.0
0.2
上下差
Imp a c t (no tc he s )
s a mp le
2
1%
21%
0%
0%
0%
0%
10%
3
1%
3%
0%
0%
0%
0%
2%
平均格付
Av e ra g e
ra ting
A3
Baa1
A1
B1
Ba2
Ba1
Ba a 2
出所: Moody’s
ムーディーズは、今回の格付手法案とは別に、EU、ノルウェー、リヒテンシュタイン(2014 年 5
月 29 日発行のスペシャル・コメント参照)およびスイス(2014 年 7 月 29 日発行のスペシャル・
コメント参照)の多くの銀行に対する政府サポートの想定変更を検討している。ムーディーズ
のサポートの想定は現時点では変更となっていないが、引き下げる可能性が高まっており、そ
9
SEPTEMBER 11, 2014
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2014 年 7 月 29 日発行のスペシャル・コメント”Reassessing Systemic Support for Swiss Banks”を参照されたい。
4
サンプルには、銀行単独の BCA を有する主要銀行が含まれている。
5
地域によっては、シニア無担保債務の平均格付が同地域の預金格付の平均を上回っているケースがある。これは、主と
して預金格付よりもシニア無担保債務格付の方が少ないなど、母集団の数の違いによるものである。
意見募集:銀行格付手法案
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の見直しにより、格付見通し期間のいずれかの時点で、格付手法の全般的にポジティブな影
響が大幅に縮小ないし消失する可能性がある。
サポートの可能性が大幅に低下すれば、格付手法が提案通りに導入された場合のポジティ
ブな影響が縮小し、これらの国々の銀行の預金格付はほとんど変化しないか、1 ノッチの格上
げにとどまり、シニア無担保債務格付はほぼ変化しないか、1 ノッチの格下げとなる。これらの
シナリオの詳細については、付録 11 を参照されたい。
ストラクチャード・ファイナンスや他のセクターの証券・プログラム格付との関係
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銀行格付手法の修正案は、運用可能な破綻処理制度を有する国において、特定の主要銀
行業務が継続的に機能を果たし、かつ/またはシニア無担保債務あるいはジュニア預金がベ
イル・インされると同時に特定の債務の返済が行われる場合があることを認識している。従っ
て、そのような主要業務を継続できない、またはそのような債務の返済ができない(例えばカ
バードボンドなど)可能性は、シニア無担保債務あるいは預金格付が示唆するよりも低いであ
ろう。特定のセクターにおいては、このリスクをより正確に反映するため、適切な場合にはシニ
ア無担保債務あるいは預金格付以外の評価基準を用いる場合がある。
本格付手法の適用範囲
本格付手法は、国の規制対象となる金融機関である銀行を対象とする。銀行は基本的に、そ
の規制・法制上の地位によって特徴付けられる傾向があり、国民からの預金受け入れや与信
供与の許可を受け、健全性規制の対象となり、中央銀行の流動性にアクセスすることができる。
EU では一般的に ‘credit institutions’(与信機関)とされる。本格付手法の対象となる金融機関
は通常、以下の特徴の大半を有する。すなわち、銀行業務の認可、リスクアセットに対する普
通株式等 Tier 1 比率などの規制上の自己資本比率、自己資本・流動性基準及び検査を含
む規制、決済システムの一部としての機能、多額の預金調達、中央銀行へのアクセスである。
本稿には、「銀行に準ずる」金融機関を含める場合がある。レバレッジのかかった大規模なバ
ランスシートを有し、借入および貸出を主たる業務とする金融機関等である。例えば、一部の
大規模な証券会社が含まれる場合がある。一方、国の規制上、「銀行」または「与信機関」で
あっても、実態的にはファイナンスカンパニーや、保険会社、国営事業体に近いものと判断す
る場合もある。これらについては、当該金融機関の業務およびリスクプロファイルに最も合致
するとムーディーズが判断する、異なる格付手法、あるいは複数の格付手法を適用して信用
力を評価することがある。
一部の金融機関は、銀行、証券、アセットマネジメント、プライベートエクイティ、保険等の複合
的な業務を展開しているか、あるいは金融コングロマリットである。その場合、ムーディーズは
通常、損益計算書、貸借対照表、またはその両方からみて、当該金融機関の業務の大半に
最も合致するとムーディーズが判断する格付手法を適用する。また、関連するプレス・リリース
に述べている通り、他の格付手法を補完的に用いる場合もある。銀行が発行するストラクチャ
ード債務(カバードボンド、資産担保証券等)は通常、該当する格付手法に基づいてストラク
チャード・ファイナンス・グループが格付を付与する。
10
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
ムーディーズが提案するアプローチ
ムーディーズによる単独でのベースライン信用リスク評価(BCA)の枠組み
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ムーディーズが提案する、単独での銀行破綻リスク分析のアプローチは、従来の格付手法に
重要な拡張・改良を加えるものであり、引き続き分析プロセスにおいて中心的な役割を担う格
付委員会で用いられる。ムーディーズは、各発行体の主な信用要因をまとめた「スコアカード」
を大幅に修正し、また、銀行システムにおけるシステミックリスクを評価した明示的なマクロ・プ
ロファイルを導入した。これは、破綻の可能性において銀行の事業環境がより大きな影響を与
えるとのムーディーズの認識を反映したものである。最近の危機でみられたように、銀行の事
業環境は、明らかに強固な財務指標をもつ銀行にも甚大な影響を及ぼすことがある。このマク
ロ・プロファイルは、ムーディーズのソブリン格付の構成要素と密接に結びついており、銀行の
財務比率分析に影響を与える。一方、スコアカードに織り込まれる 5 つの主要信用指標を用
いて銀行固有の要素を見直すこととした。各要因において、銀行の財務指標がより詳細な分
析の起点となる。これらの定量指標自体も、最も予測能力が高いことが明らかとなった要因お
よび指標から推定した、破綻に関する分析を基に修正された。
» 資産の質:総貸出に対する問題債権の比率
» 自己資本:リスクアセットに対する有形普通株主資本の比率
» 収益性:有形資産に対する純利益の比率
» 資金調達構造:有形銀行資産に対する市場資金の比率
» 流動性原資:有形銀行資産に対する流動資産の比率
ムーディーズは引き続き、これらのシンプルではあるが有効な財務指標の分析(整合性を確
保するために必要な調整を加えたもの)と、将来を見通した判断を総合的に判断する 6。銀行
のリスクは事前に確実に知ることが出来ず 7、関連する収益の認識後、幾分のタイムラグを経
て顕在化する傾向があるため、両者のバランスは銀行の信用分析において重要と広く認識さ
れている。この点で、従来の慣行との主な違いは、従来の格付手法では、そうした判断をスコ
アカードの結果とは別に示していたが、今後はそれをスコアカードに織り込むということである。
例えば、資産の質のスコアを付与する際に、指標のみに基づくのではなく集中リスクを織り込
むことがあり、そうした要因をムーディーズのリサーチに記載する。この表示方法の変更により、
ムーディーズの判断の性質および範囲について投資家への透明性を高めることができるもの
とムーディーズは考えている。これはムーディーズの保険会社に対する格付手法で用いられ
ているアプローチと概念的に近い 8。
格付手法の基本構造および主要用語
ムーディーズが提案するアプローチは、ムーディーズによる調査、最近の金融危機の経験、
学術的研究を織り込み、またそれに基づくものである 9。銀行格付を付与する際のアプローチ
には引き続き段階的アプローチを採用するが、新たな銀行「破綻処理」の形態を考慮して修
正を加えた。新たな段階的アプローチは以下から構成される。
11
SEPTEMBER 11, 2014
6
ムーディーズの 1993 年 6 月発行のスペシャル・コメント Bank Credit Analysis: Historical Origins and Current Practice
を参照されたい。
7
バーゼル銀行監督委員会の 2010 年 7 月発行の市中協議文書 Countercyclical capital buffer proposal を参照されたい。
8
ムーディーズの Property and Casualty insurer methodology (ムーディーズ・ジャパン版「損害保険会社のグローバル
格付手法」2014 年 3 月)および Life insurer methodology(同「生命保険会社のグローバル格付手法」2014 年 3 月)
を参照されたい。
9
巻末の参考文献を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
» 銀行の単独での財務力の評価によりBCAを導く。これは、外部サポート考慮前のデフォル
トの可能性、あるいは単独での破綻の可能性を示す 10。
» BCA に、関係者からのサポートの評価を織り込んで調整後 BCA を決定する。
» 予想される様々な破綻処理の形態において、銀行の破綻が各債権者クラスの予想損失に
与える影響を分析する「破綻時損失」分析、銀行全体の損失率、負債構造、その他のリス
クに関連したノッチングを考慮し、予備的格付評価を導く。
» 各債務クラスへの政府からのサポートの評価から、格付対象の各証券の信用格付を決定
する。
ムーディーズは、これらの評価を段階を追って統合し、各債権者クラスに対する格付を決定す
る。
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図表 2
銀行の証券に対する格付アプローチの全体像
出所:ムーディーズ
スコアカードには BCA の決定に至る分析の構造が示されている。スコアカードは、以下を体
系的に把握・表現する目的で作成されている。
» コアとなる信用指標に基づく過去のパフォーマンス
» それらの信用指標の将来のトレンドに対するムーディーズの予想
» 関連する他の財務指標や、財務指標では必ずしも捕捉されない幅広い考慮事項を織り込
んだ、信用指標に基づくスコアの定性的調整
ムーディーズのスコアカードは、格付委員会の評価を統合した形で織り込み、表現し、説明す
るものとして設計されている。ムーディーズによるリサーチと併せてお読みいただけば、ムーデ
ィーズの判断が十分に表現されている。その結果、スコアカードのアウトプットは、データのみ
に基づくものとは大幅に異なる可能性がある(ただし、頻繁に大幅な乖離が生じることを回避
するよう設計されている)。
データソース
分析を通じて、ムーディーズのアプローチでは、公表データに基づいて格付を付与することが
可能となっている。一貫性があり、世界で比較可能な分析の枠組みとするため、指標は比較
的幅広くシンプルなものを選択している。これは、シンプルな指標は複雑なものより有効な場
合が多いというムーディーズの見方と、世界中で入手可能な指標を使用する必要性を反映し
たものである。
10
12
SEPTEMBER 11, 2014
BCA は小文字の数字付加記号付き格付で表現される。ムーディーズは今後、銀行財務格付は付与しない。詳細
については 2014 年 4 月発行の Rating Symbols and Definitions (ムーディーズ・ジャパン版「格付記号と定義」2014 年 4
月)を参照されたい。「付録 3:ムーディーズの銀行格付について」も参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
BCA の概要
以下のセクションでは、BCA に影響を与える主要な要因と、その計測・評価方法を示す。この
分析は 3 つの要素から構成される。
» マクロ・プロファイル
» 財務指標(マクロ・プロファイルと併せて財務プロファイルとなる)
» 定性要因
図表 3
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BCA の構造
出所:ムーディーズ
1. マクロ・プロファイル
ムーディーズは、銀行が破綻する可能性に関する予測能力があるとムーディーズが考える、
システム全体の要因の評価から分析を始める。これは、マクロ変数が銀行の破綻率に大きく
影響を与えると結論付けている多くの学術的研究に基づき、最近の危機におけるムーディー
ズの経験にも合致している。これには以下が含まれる。
» GDP 成長率、実質金利等の経済変数
» 資金フロー、外貨準備、為替レート等の対外部門に関するデータ
» 民間セクター与信の対 GDP 比率およびその伸び率等の信用変数
» 不動産価格をはじめとする資産価格
ムーディーズは、これ以外の、予測の質を示すことが困難な要因が、特定のシステムの耐性
に影響を与える重要な役割を果たすこともあると考えている。例えば、ある国の制度の頑健性
と信頼性、法と秩序を維持し腐敗を回避する能力、システム全体の流動性メカニズムの存在
または欠如と資金調達の脆弱性、構造的な優位性または欠陥を考慮する。
これらの要因の多くは、完全に同一ではないにしても 11、ソブリンの信用力を分析する格付手
法 12と共通している。従って、銀行危機の要因は、ソブリン・通貨危機と密接な関係があるが
同一ではない。
学術的調査と、ムーディーズによる検証に基づき、特定のシステムで業務を展開する銀行の
BCA の位置付けを検討するための「マクロ・プロファイル」の要素を考案した。このマクロ・プロ
ファイルは、ソブリン格付グループによる分析に大きく依拠しており、事実、ムーディーズはソ
ブリン格付スコアカードを起点として使用する(囲み 3 参照)。
13
SEPTEMBER 11, 2014
11
IMF Working Paper 12/163: Systemic Banking Crises Database: An Update, Luc Laeven and Fabián Valencia を参照された
い。
12
2013 年 9 月 12 日発行の Sovereign Bond Ratings, (日本語版「ソブリン債の格付」(2013 年 10 月))を参照され
たい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
囲み 3: マクロ・プロファイルの検討方法
KEY:
ソブリン要因
銀行要因
1
2
3
経済力*
制度の頑健性*
イベント・ リスクに
対する感応性**
1
信用状況
銀行を取り 巻くカントリーリスク
3
業界構造に
関する調整
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調整前銀行システムマクロ・プロファイル
2
資金調達状況に
関する調整
*ソブリンのデフォルト
実績に関する調整を除く
**銀行要因を除く
銀行システムマクロ・
プロファイル
ムーディーズのマクロ・プロファイルはソブリン・スコアカードに大きく依拠しており、以下のように検討する。
経済力 (ソブリン要因 1) ソブリン・スコアカードの様々な要因を用いて経済力のスコアを算出する。それ以外に、後述
する「信用加熱」に関する調整も考慮する。
制度の頑健性 (ソブリン要因 2) ソブリン・スコアカードの様々なサブ要因を用いて制度の頑健性のスコアを算出する。
ただし、デフォルト実績の調整要因はここでは考慮しない。
イベント・リスクに対する感応性 (ソブリン要因 4) ソブリン・スコアカードの様々なサブ要因を用いて、イベント・リスクに
対する脆弱性を算出する。ただし、銀行システムの強固さに対するムーディーズの見方が、それ自体の決定要因となら
ないよう、銀行システムのサブ要因はここには織り込まない。
ムーディーズはこれらの要因を、ソブリン格付と同様の方法で統合する。詳細については後段の詳細なファンダメンタ
ル信用要因を参照されたい。銀行分析のこの段階では、政府財政は強固だが銀行システムが脆弱な国を把握する一
助となる、要因 3 の財政状況を含めない。財政状況自体が銀行格付を制約している場合には、後述の通り、その点を
ソブリン格付の考慮事項として織り込む。
このプロセスのアウトプットは 3 ノッチのレンジ(例えば Baa1-Baa3 といった形)で表される。次の、そのアウトプットに信用
状況要因(「中立」から「非常に弱い-」で表される)を織り込む。それに基づき、調整前マクロ・プロファイルのレンジを
「非常に強い+」から「非常に弱い-」までのレンジで表す。
最後に、資金調達状況または業界構造を反映して、調整前マクロ・プロファイルを上下に調整することによって、マクロ・
プロファイルを決定する。
14
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
このマクロ・プロファイルは、「非常に強い+」から「非常に弱い-」までのレンジで表す。ムー
ディーズは、マクロ・プロファイルを用いて、財務プロファイル分析において個々の銀行の財務
指標により決定したスコアを位置付ける。例えば、強固な銀行システムで特定の自己資本比
率をもつ銀行は、脆弱な銀行システムにおいて同じ自己資本比率をもつ銀行よりも、高い自
己資本スコアが付与される。
2. 財務プロファイル
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金融機関はリスクおよび期間の転換という機能をもつ。これは金融機関自身にリスクをもたら
すため、銀行の固有の強さは基本的に、引き受けた転換機能の度合いとリスクの低減能力に
左右される。これに対応し、銀行の絶対的・相対的な財務力を判断するムーディーズのアプロ
ーチは、銀行の信用力、ひいては存続能力に対するムーディーズの見方に焦点を当て、主
に支払い能力(損失を吸収する資本に対するリスクの大きさに示される)および流動性(銀行
による期間転換機能の度合いに示される)によって決まる。支払い能力は、資産の質、レバレ
ッジ、収益(これらが弱く予測不可能であるほど、より多くの資本かつ/または利益が必要となる)
の組み合わせから判断できるが、流動性は、銀行の資金調達プロファイルと現金入手能力
(銀行の資金調達の予測可能性が低いほど、より大きな流動資産バッファーが必要となる)に
よって決まる。
また、これらの要因は関連しており、他の全ての変数が同じであれば、キャピタリゼーションが
大きいほど損失吸収能力が高まり、カウンターパーティの信認が向上し、流動性に関する問
題のリスクが低下する。流動資産が多ければ、資金面の問題が発生した場合に損失を伴って
流動性の低い資産を売却する必要性が低いとみられるため、間接的に支払い能力が高まる。
当然、逆の場合もあり、支払い能力が低ければ流動性が圧迫される可能性がある。
従って、各銀行の財務プロファイルは、支払い能力と流動性の 2 つの特徴にかかっている。
ムーディーズは各事例において潜在的な軽減要因に対する「グロスリスク」を検討する。支払
い能力においては「グロスリスク」は銀行の資産価値が失われるリスクであり、流動性において
は資金調達の途が閉ざされるリスクである。潜在的な軽減要因には、支払い能力については
資本・利益創出能力、流動性については現金および流動資産準備金へのアクセス(中央銀
行からの銀行ファシリティを含む)が含まれる。このように、ムーディーズは 5 つの財務力要因
を分析する(図表 4 参照)。
図表 4
財務プロファイルの分析スキーム
出所:ムーディーズ
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
ムーディーズは、まず最初に過去の財務指標を用いて各要因のスコアを付与する。ムーディ
ーズの調査では、これらの財務指標の予測能力は証明されている。これはムーディーズの実
証分析に基づいており世界の格付対象銀行の体系的な枠組みとなる。前述の通り、この比率
は、その後、銀行が事業を展開する銀行システムにおける強みおよび弱みについてのムーデ
ィーズの見方によって調整される。また各指標がどう変化するかに関するムーディーズの見通
しも織り込む。同時に、ひとつまたは幾つかの指標のみで銀行の財務プロファイルの複雑さを
把握することはできないと認識している。従って、各要因に付与するスコアには以下が反映さ
れる。
» 各要因において選択された過去の財務指標、
» 付与されたマクロ・プロファイル(マクロ・プロファイルが弱いほど、財務指標に対するスコア
が低くなる)、
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» 財務指標の将来の見通し、または予想されるトレンド、および
» 各要因に関連するその他の考慮事項の評価。これは指標には完全に織り込まれていない。
例えば、特にリスクの高いセグメントまたは借り手に対するエクスポージャー、または特に脆
弱な資金調達源への依存などである。
ムーディーズは“aaa”から“c”までのレンジでスコアを付与する。これらのスコアを総合して、同じ
スケールで財務プロファイルのスコアを決定する。財務プロファイルの要因と、スコアリングプ
ロセスは、「財務プロファイルの評価」のセクションで詳述する。
3. 定性要因
ムーディーズは、財務プロファイルで考慮されない追加の 3 つの要因を特定した。これらは、
金融機関の健全性に寄与する重要な定性要因だが、(1)財務指標ではないか、(2)財務指標
ではあるが標準的な指標で容易に表すことのできない要因である。
その 3 つの要因は以下の通りである。
» 業務の分散度:銀行の事業活動の幅。単一の業務に依存している場合には当該業務に
おける問題の影響を受けやすい一方、複数の業務に広く分散されている場合には特定業
務の問題の影響から保護されている。
» 不透明性および複雑性:銀行固有の複雑性の度合いにより、経営陣にとっての課題や戦
略の失敗リスクが高まることがある。また、財務諸表がそのファンダメンタルズを示唆する信
頼性のあるものかどうかの度合いも検討する。
» 行動特性:銀行の戦略、経営、企業方針が、全体のリスクプロファイルを減少または増大さ
せうる度合い。
ムーディーズは、これらの要因をスコアカードに織り込んで財務指標を 1 ノッチまたはそれ以
上調整する。支払い能力や流動性の要因に容易に結び付けられない信用上の考慮事項が
ある場合には、こららの調整を控えめに行うことになるとみられる。業務の分散度および行動
特性に関する調整は、プラス、マイナスのいずれの方向もありうるが、不透明性および複雑性
に関する調整はマイナス方向のみである。定性要因と関連するノッチングプロセスは後段で
詳述する。
BCA スコアカードと格付委員会の裁量
前述の要因(マクロ、財務、定性)の考慮は、銀行の単独での信用力に影響を与えうる多くの
特徴を包括的に把握するに十分なものであるとムーディーズは考えている。また、ムーディー
ズは、世界の銀行の単独での信用力に対するムーディーズの見方に広く BCA を対応させる
ために過去の財務指標を用いた分析手法を設計した。そのため、算出はグローバルに一貫
性があり、ムーディーズの分析の起点として適切なものとなっている。ただし、スコアカードの
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
機械的な適用では、BCA に影響を与えうる状況および起こりうる事態を完全に予測できない
ため、ムーディーズは様々な信用要因の評価を十分に反映させる柔軟性を維持している。
それに沿って、スコアカードは BCA スケール上の 3 ノッチのレンジで表され、格付委員会はこ
のレンジ内で BCA を付与する裁量をもつ。また、例外的にそのレンジ外となることもある。付
与される BCA の大半はスコアカードのレンジの中央値となるとムーディーズはみているが、格
付委員会の最終的な判断は、スコアカードには織り込まれないその他のリスクの度合いを反
映し、競合他社グループに対する当該銀行の位置付けを考慮したものとなる。
図表 5
BCA スコアカードの例
ベースライン信用リスク評価
ABC銀行
国 XYZ
マクロ要因
152170
2
3
4
国/地域
マクロ・プロファイル
ウエイト
国2
国1
国2
非常に強い 強い
60%
20%
国3
国3
中位+
Strong
強い+ +
20%
100%
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国1
1
加重平均マクロ・プロファイル
財務プロファイル
5
6
7
10
11
過去の財務指標
初期スコア
想定トレンド
付与されたスコア
主な要因1
主な要因2
2.0%
a1
↓↓
baa
業種集中
Geographical
concentration
低下傾向
8.5%
ba2
↔
b
Nominal
leverage
名目レバレッジ
業種集中
a3
↔
a
Earnings
quality
収益の質
12
支払い能力
資産の質
問題債権/総貸出
自己資本
有形普通株主資本/リスクアセット
収益性
純利益/有形資産
1.0%
baa
baa1
支払い能力に対するスコア
流動性
資金調達構造
市場資金/有形銀行資産
15.0%
a2
↔
20.0%
baa1
↑
baa
Maturity満期変化
transformation
baa
グループ内制約
Intragroup
restrictions
流動性原資
流動性のある銀行資産/有形銀行資産
流動性に対するスコア
財務プロファイル
a3
baa
baa3
調整
コメント
業務の分散度
-1
モノライン貸出業者
不透明性および複雑性
0
n/a
行動特性
0
n/a
定性的要因による調整
-1
定性的調整
コメント
ソブリンまたは親会社による制約
Aaa
BCA レンジ
baa3 - ba2
調整後BCA
ba1
n/a
理由
競合他社比適切なポジション
出所:ムーディーズ
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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サポート・構造分析の概要
ムーディーズのBCAは、銀行が最も下位の証券でデフォルトする可能性 13、あるいはそうした
デフォルトを回避するためにサポートを必要とする可能性を示すものである。その意味では、
単独での破綻の可能性を示すものである。もっとも、BCAは信用格付の単一の決定要因では
なく、破綻が、銀行の発行する様々な証券に与える影響についてのさらなる分析も織り込む。
これらを統合するのがサポート・構造分析である。
この分析は、発生するとムーディーズが予想する順に 3 つの段階から成る。
» 関係者からのサポート グループ内の企業、時として関係第三者からのサポートを受け、そ
れによってデフォルトの可能性が低下することがある。
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» 破綻時損失 政府サポート考慮前の、破綻が銀行の格付対象債務証券で発生する潜在損
失に与える影響を検討するための負債サイドの分析。
» 政府からのサポート 地域・地方政府、中央政府、国際機関からサポートを受け、それによ
って一部または全部の証券のリスクが低下することがある。
図表6
信用格付へのサポートおよび破綻時損失分析の適用
出所:ムーディーズ
サポートに対するムーディーズの全般的なアプローチは、従前の複合デフォルト分析(JDA)
に類似したものであるが、そのアプローチをさらに簡素化した。
第 1 段階: 関係者からのサポート
ムーディーズによる分析の第一段階では、関係者からのサポートを考慮する。この第一段階
で、サポート提供者とサポート対象者の両者の分析を通して得られるアウトプットが、調整後
BCA である。調整後 BCA は、関係者からのサポートの考慮後の、デフォルトを回避するため
にサポートを必要とする可能性を示すものである。
ムーディーズは、関係者からのサポートを、以下の 4 つの要因を考慮して格付に織り込む。
» 銀行のサポート考慮前の破綻の可能性(BCA)
» 関係者がサポートを提供する可能性
» 関係者がサポートを提供する能力、および
» 当事者間の相互連関
サポートの可能性
ムーディーズは、関係者からサポートが提供される可能性を、「非常に高い」、「高い」、「中
位」、「低い」に区分する。これらのカテゴリーは、サポートの可能性のレンジと結び付けられる
(「付録 8: サポートへの複合デフォルト分析の適用」参照)。
13
18
SEPTEMBER 11, 2014
「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャピタル証券および優先株の毀損を除く。これらは存続が不可能
となる前に毀損する。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
ムーディーズは以下の主要要因の考慮結果に基づいて判断する。
» 支配
» ブランド
» 規制
» 地理
» 明文化されたサポート
» 戦略的重要性
» 財務上の結びつき
» 親会社の方針
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詳細については、後段のサポート・構造分析の詳細セクションを参照されたい。
サポート提供能力
関係者が銀行にサポートを提供する能力を検討する際には通常、関係者自身の BCA を用い
る。このアプローチは、関係者またはグループに対する政府からのサポートが、子会社には提
供されない可能性、また、子会社のサポートに使用される資源が単独での能力の範囲内に限
定される可能性を示唆している。ムーディーズは、政府からのサポートを別途検討する(後述)
するため、このアプローチをとっている。ただし、それが妥当な状況にある場合には、サポート
を考慮した格付(通常、シニア無担保債務格付)をサポート能力を示すものとして用いる場合
がある。例えば、サポート対象が、サポートを提供する関係者と実質的に不可分の関係にある
ため、政府からのサポートが関係者を通じて提供されることがほぼ確実な場合である。また、
サポートを提供する関係者が、保険会社や事業会社など、銀行ではない場合もありうる。
サポート提供者とサポート対象者の間の相互連関
また、サポート対象者とサポート提供者の間の相互連関も考慮する。ムーディーズは通常、相
互連関を、「非常に高い」、「高い」、「中位」の 3 つのカテゴリーに該当すると判断する。ただし、
異なる見方を反映して、それから逸脱する場合もある。
相互連関の判断は主に以下の要因に基づく。
» 関係者間の統合度
» 事業環境
例えば、同一国で同様の業務を展開する親会社と銀行子会社の間の相互連関は通常「非常
に高い」と判断する。一方、アフリカの銀行と、アジアの事業会社のコングロマリットである親会
社の間の相互連関は「中位」と判断する。
サポートの適用
ムーディーズは、JDAを用いて、BCAからのアップリフトの推定範囲を格付委員会に提示する
(「付録 8:サポートへの複合デフォルト分析の適用」参照)。次に、格付委員会は、検討対象
の固有の状況に関する判断を加え、通常、レンジ内でサポートのノッチ数を決定する。調整後
BCAを付与する際、実際の状況に対して本質的に限界のある算定モデルを適用するため、
固有の状況に応じて、格付委員会の判断がそのガイドラインから上下いずれの方向へも乖離
する可能性がある。従って、BCAとこのアップリフトを合わせて調整後BCAが決定される。この
調整後BCAは、子会社がサポートを必要とする可能性と、グループがサポートを提供できず、
子会社の最も下位の証券のデフォルトが容認される可能性(政府からのサポート考慮前)の両
方を反映する 14。
14
19
SEPTEMBER 11, 2014
銀行全体の破綻の前にデフォルトする仕組みとなっている「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャピタ
ル証券およびその他の証券を除く。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
第 2 段階: 破綻時損失および追加ノッチング
ムーディーズのサポート・構造分析の第二段階では、関係者からのサポート提供が拒否され
たか枯渇した後、銀行の破綻が様々なクラスの債務に与える影響(政府からのサポート考慮
前)を考慮する。ムーディーズはこの損失評価を「破綻時損失」と称する。これは一部の企業
債務の格付に用いられるデフォルト時損失分析に、概念的に非常に近いアプローチだが、必
ずしもデフォルトではなく銀行の破綻を基準とする。破綻時損失は新たな概念ではなく、ムー
ディーズは、損失規模の差に対する見方に基づいてシニア無担保債務と劣後債務に対する
評価に差をつけてきた。
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ただし、今後用いる方法は、より洗練された形で従来の分析ツールキットに追加される。これ
は、従前には適用が困難または不可能であった、銀行に破産以外での一部の証券の選択的
なデフォルトを容認する「銀行破綻処理制度」に向けての近年の大幅な政策転換に伴って必
要となってきた。また、規制当局は、破綻処理の円滑化に向けて、損失吸収資本の増強を義
務付けている。これにより、リスクの検討における負債サイドの分析の重要性が高まった。ムー
ディーズは、全ての債務証券の損失規模の検討にこのアプローチを用いていく計画である。
これに関する経験およびデータが欠如している場合でも、この枠組みにより、予想される規制
当局の姿勢に関する合理的な想定に基づいて、負債構造分析を透明な形で格付に織り込む
ことが可能となる。
また、このアプローチにより、特定の銀行において予想される破綻処理シナリオがもたらす、
各債務クラスおよび預金等への影響の差を認識することができる。このアプローチは、破綻時
の損失分析に統計モデルを用いたとしてもその精緻度が疑わしいほど引き続き不確実性が
大きいとのムーディーズの見方を織り込みつつ、ある程度簡素な形に保たれている。
適用範囲
破綻時損失の枠組みは 2 つの形をとる。運用可能な破綻処理制度の対象となる銀行には、
より先進的な分析を適用する。運用可能な破綻処理制度とは、破綻した銀行の秩序ある処理
を円滑化するために設けられた法制度であり、預金者およびその他の債権者への破綻の影
響をある程度予測可能なものとする。一方、そうした破綻処理制度の対象とならず、救済、破
産、または特別な破綻処理制度によって処理されるとムーディーズが判断する銀行について
は、ムーディーズは引き続き、従来のシンプルなノッチング手法を適用する。この手法では、
シニア無担保債務格付および預金格付(政府からのサポートおよび追加的なノッチング考慮
前)を調整後 BCA の水準とし、劣後債務を調整後 BCA より 1 ノッチ低くする。
破綻時損失の主要変数
枠組みを開発するにあたり、ムーディーズは、破綻時損失を左右する主要要因を織り込んだ
比較的シンプルなノッチング手法を構築すべく、シナリオをモデルに織り込む方法を用い 15、
その主要変数に焦点を当てた分析を行う。
» 損失率 他の変数が等しければ、破綻処理時の銀行全体での損失率が高いほど、銀行の
負債において損失が発生するリスクが高くなる。
» 劣後 ある証券クラスに劣後する債務の額が大きいほど、当該証券に対する保護が大きく
なり予想損失が小さくなる。
» 債務残高 ある証券クラスの残高が大きいほど、より多くの債権者が損失を吸収するため、
当該証券の損失規模は小さくなる。このように、債務を発行すると、より大きなプールに損
失を分散させることによって、当該債務自体の予想損失も変化する。
ムーディーズは、格付対象に関するムーディーズのデーターベースを用いて各債務の残高を
推定する。ムーディーズのデータが不完全な場合には、財務諸表分析、発行体とのコミュニケ
ーション、または外部データ会社からの情報を通じて調整する。また、シニア無担保債務と同
順位の預金の割合の推定も織り込む。
15
20
SEPTEMBER 11, 2014
モデルの想定の詳細については付録 7 を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
このアプローチにより、銀行グループ内の異なる事業主体間での必要な区分が可能となる。
多くの場合、破綻処理は国内で実施されるとムーディーズはみている。ただし、例外もあると
認識しており、例えば EU では、クロスボーダーでの業務統合の増加に伴い、国境の重要性
が低下しているとみられる。また、大規模に多国展開している銀行も、それぞれの業務間の関
連性により、単独の破綻処理制度の適用が現実的ではない。
損失規模のノッチング
これらの 3 つの変数を考慮し、調整後 BCA からのノッチングを決定していく。これは、3 つの
変数を総合的に考慮した損失規模に対するムーディーズの見方を表す。詳細については、
後段のサポート・構造分析の詳細セクションを参照されたい。
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このアプローチにより、負債構造における差に起因する損失規模の差が把握できる。基本的
に、より下位の債務が多いほどクッションが厚くなり、そのレベルの債務が多いほどリスクが拡
散する。これにより、負債構造における差がより明確となり、破綻時の損失規模が大きいとムー
ディーズが予想する場合には調整後 BCA より 1 ノッチ低い水準に、損失規模が非常に小さ
いと予想する場合には調整後 BCA より 3 ノッチ高い水準とする。
ムーディーズのアプローチには、複数の「ウオーターフォール」が考えうるという可能性(すな
わち、順位が不確かであること)が織り込まれる。その場合、例えば、銀行再生・破綻処理指
令(BRRD)の下での当局の裁量により、ムーディーズは異なる順位に応じた分析を行い、相
対的な可能性に応じてその結果にウエイトを適用することがある。サポート考慮前の、損失規
模に対するムーディーズの最終的な見方を示すのは、この可能性によってウエイト付けした結
果である。
将来の考慮事項
破綻時損失はムーディーズの分析が新たな段階に入ったことを象徴するものであり、破綻処
理制度の導入に伴って生じてきた問題に答えるものであると考えている。破綻処理制度の発
展とともにムーディーズのアプローチも変化し、他の金融システムでも同様の制度が発展して
くれば適用対象が広がっていくとみられる。必要なデータが十分に信頼の置けるものであると
判断すれば、他の多数の変数を組み合わせることが可能となり、完全にモデルベースのアプ
ローチに移行する可能性もある。とはいえ、前述のアプローチは、従前の方法から大幅に前
進したものであり、新たな銀行破綻処理の形態からもたらされた分析上の課題に対応したもの
となっている。
追加的なノッチングおよび予備的格付評価
以上の検討から、運用可能な破綻処理制度の適用対象となるか否かに応じて、銀行破
綻時にさまざまな証券で発生しうる相対的な予想損失に対するムーディーズの見解が
形成される。その後、支払いの可能性に影響を与える証券固有の特徴(利払い停止メ
カニズム等)を反映した追加的なノッチングを加えることがある。破綻時損失と追加
的なノッチングを経て、政府からのサポート考慮前の固有の信用力に対するムーディ
ーズの評価を導く。これを予備的格付評価(PRA)とする。
第 3 段階: 政府からのサポート
政府からのサポートに対するムーディーズのアプローチは、関係者からのサポートの検討に
類似した方法をとる。以下のインプットに基づき、複合デフォルト分析を用いて検討する。
» サポート考慮前の各債務クラスの信用力、
» 特定の債務クラスに公的セクターからのサポートが提供される可能性、
» サポート提供能力、および
» サポート提供者と銀行の相互連関
21
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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サポートの可能性
金融機関に対して公的主体(通常は政府だが中央銀行や国際機関の場合もある)からサポ
ートが提供される可能性を検討し、「政府による信用補完」、「非常に高い」、「高い」、「中位」、
「低い」の 5 つのカテゴリーに分類する。この評価は、以下の基本的な要因に基づく分析を通
じて行う。
» 政策および破綻処理制度の存在
» 国内の預金・貸出における市場シェア
» 市場での影響力
» 業務の性質
» 公的な関与
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これらの要因は、銀行全体に対してのみではなく、主要な債務クラスにサポートを提供する意
思がどの程度あるかについてのムーディーズの判断の根拠となる。サポートは選択的となるこ
ともあることから、これは重要である。例えば、公的主体が、下位債務よりもシニア債務に対し
てサポートを提供する可能性が高いと判断する場合がある。また、シニア無担保債権者では
なく政府が預金者を直接サポートしようとしていると考える場合もある。
サポート提供能力
ムーディーズは一般に、公的主体の長期自国通貨建て格付が、当該公的主体がサポートを
提供する能力を最も反映していると考える。
サポート提供者とサポート対象者の間の相互連関
関係者からのサポートの枠組みと同様、サポート対象となる銀行とサポートを提供する公的主
体の相互連関を考慮し、相互連関を「非常に高い」、「高い」、「中位」の 3 つのカテゴリーに分
類する。
多くの場合、ムーディーズは相互連関を「非常に高い」と想定する。これは、政府と銀行システ
ムの信用力は非常に密接に関連しているとのムーディーズの判断を反映している。そのことは
最近の危機に明確に示されていたと考えている。銀行セクターのリスクがソブリンのリスクを高
め、ソブリンのリスクが銀行のリスクを生み出していた。しかし、一部の銀行システムでは政府と
銀行システムの健全性の関連は弱く、従って相互連関は低い。例えば、政府の財政規模と比
較して銀行システムが非常に小さく、ムーディーズがデフォルト確率の相関が低いと判断した
場合、相互連関を「高い」か「中位」とすることがある。
サポートの適用
ムーディーズは JDA を用いて、必要に応じてサポートが提供される可能性の想定に基づき、
「予備的格付評価」からのアップリフトの推定範囲を格付委員会に提示する。このアプローチ
の算定方法は「付録 8:サポートへの複合デフォルト分析の適用」で詳述する。格付委員会は、
検討対象の状況を判断し、通常、このレンジ内でノッチ数を決定する。格付を付与する際、実
際の状況に対して本質的に限界のある算定モデルを適用するため、固有の状況に応じて、
格付委員会の判断がそのガイドラインから上下いずれの方向へも乖離する可能性がある。一
方、明確な根拠がなければ、格付委員会は大幅なノッチアップには慎重になる可能性がある。
アウトプットの概要
以上、ある国での全般的なリスクの幅広い評価から、個別銀行の予想損失を示す信用格付を
段階的に導く分析方法について説明してきた。
» 第一に、銀行を取り巻くシステミックなリスクに対するムーディーズの見方を表したマクロ・プ
ロファイルを検討する。
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SEPTEMBER 11, 2014
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» マクロ・プロファイルは、個々の財務指標を条件付けし、それが BCA(1 つ以上の
債務証券でのデフォルトを回避するために緊急時のサポートが必要となる、あるい
は実際にデフォルトする可能性についてのムーディーズの意見)に織り込まれる。
» JDA に基づき、関係者からのサポートを考慮して調整後 BCA を決定する。
» 次に、異なる債務・預金クラスでの破綻時の相対的な損失規模を織り込んで証券ご
との分析を行う。運用可能な破綻処理制度が適用される場合には、銀行全体での損
失規模、各証券の残高、下位債務によるクッションを考慮に入れる。運用可能な破
綻処理制度がない場合には、証券種類に応じたシンプルなノッチングに基づく。こ
れらに加えて、証券のその他の特徴を考慮し、各銀行の格付対象債務・預金クラス
への予備的格付評価を決定する。
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» 最後に、再び JDA に基づいて政府からのサポートの可能性を検討し、カントリ
ー・シーリングも考慮したうえで、長期自国通貨建て・外貨建て格付を導く。長期
格付には見通しが付与され、見直しも行われる。これによって格付への圧力の方向
性が示される。短期格付は長期格付に照らして検討する。
これらのステップをまとめると、次のようになる。
図表 7
信用ファンダメンタルズ概要の例
ABC銀行
XYZ国
マクロ・プロファイル
強い+
単独での評価
112
ba1
1
baa3
ベースライン信用リスク評価
# 関係者からのサポートアップリフト
# 調整後ベースライン信用リスク評価
#
60
105
証券クラスへ
のノッチング
104
予備的格付評価
政府からの
サポート
長期
見通し
短期
長期
見通し
短期
預金
2
baa1
2
A2
安定的
Prime-1
A2
安定的
Prime-1
シニア長期債務(銀行)
0
baa3
2
Baa1
安定的
Prime-2
Baa1
安定的
Prime-2
期限付き劣後債務(銀行)
-1
ba1
0
Ba1
安定的
Ba1
安定的
シニア長期債務(持ち株会社)
-1
ba1
0
Ba1
安定的
Ba1
安定的
期限付き劣後債務(持ち株会社)
-1
ba1
0
Ba1
安定的
Ba1
安定的
優先株(持ち株会社)-非累積型
-3
ba3
0
Ba3
安定的
Ba3
安定的
債務クラス
106
107
108
109
自国通貨建て格付
110
111
外貨建て格付
#
#
#
Not Prime
Not Prime
#
#
#
出所:ムーディーズ
23
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
ファンダメンタル信用要因の詳細
以下のセクションでは、BCA 分析で考慮する主要要因、分析に織り込む主要な指標、定量・
定性要因のスコアリングアプローチについて詳細に議論する。
第 1 段階: マクロ・プロファイル
BCA 分析の第 1 段階は、銀行が業務を展開するマクロ環境の評価である。これは、銀行の破
綻が、銀行個別の要因よりもマクロ経済に起因するシステミックな危機に密接に結びついてい
ることが非常に多いとのムーディーズの見方を反映している。前述の通り、その要因は以下の
ように分類される。
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» 経済力
» 制度の頑健性
» イベント・リスクに対する感応性
» 信用状況
» 資金調達状況
» 業界構造
最初の 3 つの要因は、銀行セクターとソブリンの信用力に共通して作用する要因であることを
反映して、ソブリン・スコアカード 16から直接用いる。ただし、相互連関は明確でなく、強いソブ
リンが弱い銀行システムをもつこともある 17。こうした例は政府財政が健全な国にみられるため、
ムーディーズは、銀行システムの強固さの評価において、ソブリン・スコアカードの財政状況を
含めないこととした。また、後述の通り、マクロ・プロファイルには銀行固有の要因も織り込む。
銀行が多くの国で業務を展開している場合、適用されるマクロ・プロファイルは通常、銀行が
主に業務を展開する国々のマクロ・プロファイルの加重平均となる。ムーディーズは通常、各
システムにおけるバランスシート(資産)の比率によってプロファイルのウエイトを決定する。た
だし、銀行のリスクプロファイルをより的確に表すと考える場合には、リスクアセット、貸出、収
益といった指標を用いることがある。
ムーディーズのマクロ・プロファイルは以下の要因を織り込む。
経済力
この要因を重視する根拠
銀行は、マクロ経済要因の影響を大きく受け、その業績のマクロ経済要因との相関も高いため、
経済力は重要な要因である。GDP 成長率が大きく変動する環境は、事業サイクルがよりはっ
きりしており、資産の質および収益がより変動的で、支払い能力におけるリスクが高まりやすい
ことを一般的に示している。
評価基準
ソブリン格付手法の要因 1 を用いて経済力を評価する。それには以下のサブ要因を考慮す
る。
24
SEPTEMBER 11, 2014
16
2013 年 9 月発行のムーディーズの格付手法 Sovereign Bond Ratings(日本語版「ソブリン債の格付」2013 年 10
月)を参照されたい。
17
Reinhart and Rogoff, This Time is Different および IMF Working Paper 12/163: Systemic Banking Crises Database: An Update,
Luc Laeven and Fabián Valencia を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
» 成長力
» 経済規模
» 国民所得
ソブリン・チームが行う「多様性」に関する調整は織り込むが、「信用加熱」に関する調整は織り
込まず、後段の信用状況で別途取り扱う。
詳細については Sovereign methodology(「ソブリン債の格付」)を参照されたい。
制度の頑健性
この要因を重視する根拠
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銀行はその性格上、与信のベースとなる契約を実行するうえで健全な法的枠組みに依拠して
いることから、国の制度の頑健性は重要である。契約を実行できない、あるいは腐敗やその他
の一般的な制度の弱さが広く観察される場合には、この要因が脅かされ、銀行システムが弱く
なる。
評価基準
ソブリン格付手法の要因 2 を用いて制度の頑健性を評価する。それには以下のサブ要因を
検討する。
» 制度の枠組みと効率性
» 政策の信頼性と効率性
ソブリン・チームが行う制度の頑健性全般に関する調整は織り込むが、デフォルト実績に関す
る調整は織り込まない。
詳細については Sovereign methodology(「ソブリン債の格付」)を参照されたい。
イベント・リスクに対する感応性
この要因を重視する根拠
ソブリンの対外脆弱性は、銀行セクターの脆弱性に大きな影響を与えるとムーディーズは考え
ている。例えば、多額の経常赤字はしばしば、銀行危機の前兆となることのある全般的な信用
拡大と関連づけられるケースが多い。政府の流動性および政治リスクは銀行セクターに即座
に波及しうる。
評価基準
ソブリン格付手法の要因 4 を用いてイベント・リスクに対する感応性を評価する。それには多
数のサブ要因を用いる。
» 政治リスク
» 政府の流動性リスク
» 対外脆弱性指標
ソブリン格付手法に用いられている上記以外のサブ要因(銀行セクター・リスク、銀行システム
の規模および脆弱性)は考慮しない 18。マクロ・プロファイルは銀行セクターの強さについての
ムーディーズの見方の検討に用いられるものであるため、銀行セクター自体の強さが重複して
18
25
SEPTEMBER 11, 2014
また、マクロ・プロファイルには、ソブリン格付手法の要因 3 の財政状況も明示的には織り込まない。この要
因は、BCA において、あるいは BCA または格付がソブリン格付を上回る可能性および度合いを検討する、サ
ポートに関する考慮事項において間接的に織り込まれる。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
用いられるのは適切とはいえない。銀行システムの他の側面(規模および資金調達の脆弱性)
については後段の信用状況で別途検討する。
詳細については Sovereign methodology(「ソブリン債の格付」)を参照されたい。
信用状況
この要因を重視する根拠
高水準の債務、または急速な信用拡大は、後に発生する信用の質に関する問題のシグナル
となることがあるため、信用状況は、銀行セクター全体の強さの評価における重要な考慮事項
である。
評価基準
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2 つの主要指標を用いて信用状況を評価する。
民間セクターの信用水準/GDP
民間セクターの信用水準/GDPはレバレッジの基本指標である。国民所得に対する債務残高
が大きいほど、当該債務の返済が困難となり、他の条件が等しければ、より多くの債務者が景
気および経済ショックの影響を受けやすくなる。このことは学術的研究にも裏付けられており、
信用/GDP の比率は、信用加熱が、深刻な影響を伴う信用バブル崩壊に転じるか否かに関
わってくる。ただし、この比率の解釈には注意を要する。債務水準の上昇は経済発展に伴っ
て自然に起こる金融活動の拡大によるものであるため、一部の成熟国ではその維持可能性
は相対的に高い 19。ムーディーズはこの比率を、ソブリン格付グループから得たデータを用い
て、ソブリン・スコアカードに織り込まれる他の要因と同じスケールに沿ってスコアリングする。
図表 8
民間セクターの信用水準/GDP のスコアリング
VS+
<=
20%
VS
<=
25%
VS<=
30%
S+
<=
35%
S
<=
40%
S<=
50%
M+
<=
60%
M
<=
75%
M<=
100%
W+
<=
125%
W
<=
150%
W<=
175%
VW+
<=
200%
VW
<=
400%
VW>
400%
民間セクターの信用拡大/GDP
民間セクターの信用の急速な拡大は、信用と実体経済の乖離を示す景気過熱の伝統的な指
標であり、最近の銀行破綻についてのムーディーズの調査でも重要な指標であった。また、
多くの学術論文では、危機の前兆として起こることの多いリスクテイクの拡大を示す重要な指
標とされている。ムーディーズはこの要因を、ソブリン格付グループから得たデータを用い、下
記のスケールでスコアリングする。繰り返すが、債務の増大は、経済発展とともに自然に起こる
金融活動の拡大プロセス、あるいは資産価格の持続的な上昇に伴うことがあるため、債務の
急速な増大に伴うリスクは必ずしも同様のリスクを示唆するものではなく、国によって異なる。
図表 9
民間セクターの信用の 3 年間における変化/GDP (pp)のスコアリング
VS+
<=
-30%
VS
<=
-20%
VS<=
-10%
S+
<=
-8%
S
<=
-5%
S<=
-3%
M+
<=
0%
M
<=
3%
M<=
5%
W+
<=
8%
W
<=
10%
W<=
15%
VW+
<=
20%
VW
<=
30%
VW>
30%
初期総合スコア
民間セクターの信用水準/GDP 要因に 70%、民間セクターの信用拡大/GDP 要因に 30%の
ウエイトを適用して、スコアを合計する。これには、信用拡大を、その国の信用市場の発展段
階と対比する効果がある。例えば、信用規模が小さければ、急速な拡大の影響が相殺される
19
26
SEPTEMBER 11, 2014
IMF Staff Discussion Note, Policies for Macrofinancial Stability: How to Deal with Credit Booms, June 7, 2012 を参照され
たい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
ことがある。もっとも、合計スコアが「弱い+(W+)」を超えた場合には「中立」とみなす。これによ
り誤った高いスコアを付与することを回避する。例えば、ある国がデレバレッジの途上にあるか、
信用状況が良好とはいえないために GDP 比での信用が小さい場合などである。そのため、
信用状況のスコアがマクロ・プロファイルに与える影響は非対称であり、「中立」から「非常に弱
い-(VW-)」までの 7 ポイントのスケールで表される。
分析上の調整
前述の通り、この比率の解釈には注意を要する。ムーディーズが付与するスコアには、追加の
多数の要因を反映した定性的な調整が加えられることがある。
» 民間セクター債務の GDP 比が高水準だが、債務のほとんどが固定金利であるために金
利上昇の影響をさほど受けない、あるいは債務に対して相対的に多額の金融資産が存在
する国もありうる。
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» 一方、民間セクターの信用の GDP 比は明らかに低いが、信用リスクを高める大幅な集中
が存在する国もありうる。
» また、多額の外貨建て債務を抱え、為替レートに対する感応度が高く、そのためセクター
の信用リスクが高まっている国もありうる。
» 不動産価格(特に商業不動産価格)の上昇が、初期の信用上の問題のシグナルである場
合が多い。
» 貸出態度調査にみられるように、信用緩和・逼迫の兆しを財務指標では把握できない場合
もある。
このスコアを付与する際には、他の格付グループによる分析を考慮することもある。
» ソブリン格付で評価される「信用加熱」調整要因
» 住宅ローン保険に対する格付手法 20で考慮される、住宅市場属性の評価
» 住宅ローン債権を裏付けとする証券に対する格付手法 21で考慮される住宅価格ストレス率
これらの例は網羅的なものではなく、信用の脆弱性に関する懸念を惹起する、銀行システム
のその他の特徴についても同様に調整を行うことがある。その他の資産価格指標(コモディテ
ィ、株式等)が、銀行の支払い能力に関する問題を示唆する資産価格バブルの指標として評
価されることもある。
総合信用スコア
初期スコアに調整を加え、「中立」から「非常に弱い-(VW-)」の 7 段階のスケールで信用要因
に対する評価を決定する。
調整前マクロ・プロファイル
最初の 4 つの要因を以下の方法で統合し、調整前マクロ・プロファイルを決定する。
» 経済力、および制度の頑健性は、ソブリン格付手法と同様の方法、すなわち同じウエイトで
統合する。ただし、財政状況は考慮しない。財政状況はイベント・リスクに対する感応性に
よって制約され、それに応じて銀行にとってのカントリーリスクのレンジが異なる。
» 次に、銀行のカントリーリスクの評価と信用状況の要因を統合する。2 つの要素に適用する
ウエイトは、信用状況の要因によって異なる(図表 10 参照)。
27
SEPTEMBER 11, 2014
20
2012 年 12 月 11 日発行の Moody's Global Methodology for Rating Mortgage Insurers を参照されたい。
21
詳細については、2013 年 5 月 28 日発行の A Framework for Stressing House Prices in RMBS Transactions in EMEA を
参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
» 状況が悪化するに従って、マクロ・プロファイルにおける信用状況の影響が大きくなり、シス
テミックリスクの上昇(または低下)に応じて BCA が変化する。
図表 10
銀行のカントリーリスクと信用状況の相対的ウエイト
信用状況のスコア
ウエイト – 信用状況
ウエイト – 銀行のカントリーリスク
中立
0%
100%
弱い+
10%
90%
弱い
20%
80%
弱い-
30%
70%
非常に弱い+
40%
60%
非常に弱い
50%
50%
非常に弱い-
60%
40%
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最終的なマクロ・プロファイルの決定に際しては、より定性的な 2 つの要因、すなわち資金調
達状況と業界構造を考慮に入れる。
資金調達状況
この要因を重視する根拠
金融機関は期間転換機能をもつことから、市場の信認を失って資金が引き揚げられるリスクに
対して極めて脆弱である。信認喪失は特定の銀行の個別要因による場合もある。しかし、金
融機関の健全性に対する懸念が、特定の銀行に限られたものでなく全般的なものである場合、
資金調達の問題は銀行システムレベルで起こることが多い。投資家と発行体の情報の非対称
性や、資産の質に対する懸念が生じた場合の銀行の支払い能力についての不確実性を反
映して発生することもある。相互に高度に結びついたシステムでは、ある金融機関の問題が、
カウンターパーティのエクスポージャーを通じて他の金融機関に即座に波及する可能性があ
る。
そのため、資金調達の問題は、システミックな脆弱性を反映する場合もあれば、そうした脆弱
性を生み出す可能性もある。ムーディーズは財務プロファイル分析に、銀行の個々の資金調
達プロファイル上の強みまたは弱み(満期のミスマッチ、保有する流動資産等)を反映するが、
システム全体への圧力を考慮することが重要と考えている。
評価基準
市場価格の一時的な変化はムーディーズによるファンダメンタルリスク分析においてはさほど
重要ではない。ただし、銀行システムへの資金供給全体(の量またはコスト)における実際の、
あるいは潜在的な持続的変化を示す指標は、システム全体にわたる問題の発生や、収益悪
化、資金調達コストの上昇、資金供給の逼迫に対して負債削減を余儀なくされる状況を通じ
て、銀行のファンダメンタルズが変化することを示唆する有益な情報である。これらを勘案し、
資金調達に関する指標を、銀行の指標に顕在化する以前に、システム全体にわたる資金調
達へのストレスを示すものと考えることがある。
指標は銀行の資金調達量およびコストに関係するものもある。国によって必然的に異なるが、
以下を含む。
»
28
SEPTEMBER 11, 2014
市場資金指標 市場資金の調達コストおよび調達可能性に関する指標を検討する。例え
ば、カウンターパーティリスクを伴う銀行の借入金利(LIBOR)と、当初はカウンターパーテ
ィリスクが発生しない翌日物金利スワップ(OIS)の差である LIBOR-OIS スプレッドなどで
ある。両者の差は、インターバンク市場における信用リスクと流動性リスクに対する市場の
見方を示す。2007 年および 2008 年にみられたようにこの指標が急速に変化するときに
は、その通貨での全銀行の市場における調達上の問題を示唆している。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
»
中央銀行のバランスシート 中央銀行のバランスシートの急激な拡大は、資金調達上のス
トレスに直面し、銀行がリスクの極小化を目的に中央銀行預け金を拡大していることを示
唆している。また、資金調達上のストレスに対して、特別なサポートのための操作を積極
的に実施していることを示唆している場合もある。
これらの要因のいずれかが突如として悪化した場合、ムーディーズはその資金調達に関する
要素を織り込んでマクロ・プロファイルを下方修正することがある。ただし、下方修正を行うの
は、その変化が、ファンダメンタルズに影響を与えるとみられるほど大きく持続的な場合のみ
である。
また、上方修正を行う場合もある。ある国が、銀行システムの流動性を高めるとみられる固有
の特徴をもつ場合にはスコアを上方調整することがある。例えば、極めて多額の外貨準備高
を有する場合や、銀行に流動性を供給する特別なメカニズムがある場合などである。
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業界構造
銀行セクターは、強さ、あるいは脆弱性を示唆するとみられる構造的な特徴をもつことがある。
これには、供給不足または超過、金融イノベーション、自由化、競争環境の歪み(政府が圧倒
的な役割を果たしているなど)が含まれる。
この要因を重視する根拠
例えば、貸出残高に関する過当競争が生じれば、合理性を欠くプライシングが行われたり緩
い審査基準が適用されたりすることにより、最終的に銀行システムの信用コストが高まるため、
供給超過や競争上の歪みは重要な検討事項である。一方、金融イノベーションや自由化は、
長期的な恩恵をもたらし、急速な信用拡大の要因となることが多いため、重要な要因である。
評価基準
供給超過の計測は困難であるため、この要因はマクロ・プロファイルへの定性調整要因として
織り込む。ひとつの指標となるのが、銀行セクター内での集中度であり、高度に細分化された
システムはしばしば供給超過に見舞われる。ムーディーズは、ハーフィンダール・ハーシュマ
ン指数 22に基づく集中度と、例えば、システム内の上位 5 行の国内市場シェアの合計を考慮
する。しかし、ある水準の集中度がその国の銀行業界に与える影響は市場構造によって異な
るため、一般化することは困難である。例えば、細分化されているとみられる地域密着傾向の
ある銀行システムが、実際には、参入障壁が高く安定的な利益を確保できる市場内に集中し
ている場合もある。
その他に競争に歪みをもたらしうる例として、非営利目的で重要な業務を担う金融機関、例え
ば公的(機関が所有または出資する)金融機関、相互銀行などである。そうした例はドイツ(大
規模で従来重視されてきた州立銀行が圧倒的な役割を果たす)、中国(地方政府出資の金
融機関が銀行市場に歪みをもたらしている)でみられる。ここでも、これらがどの程度、市場を
深刻に歪めているかは、その規模だけではなく性質によって左右される。従って、それらが業
界にマイナスの影響をもたらしていると判断した場合には、スコアを調整することがある。
イノベーションの波はそれぞれ新たなものであるため、イノベーションを特定する指標を設ける
ことは困難あるいは不可能である。しかし、法制度の大きな変化や、革新的な仕組みの増加
は通常、スコアの調整につながるシグナルとみなされる。
ムーディーズは、システムにおける参入障壁、審査基準の変化につながりうる銀行規制の変
化、信用仲介の新たなチャネルを考慮に入れて、自由化およびイノベーションを検討する。例
えば、一部の国では与信に政府からの制約が加わっている。それが突如として解除されれば、
銀行は蓄積している資本の活用先を求めるため、リスクの高い信用加熱が一気に起こる可能
性がある。資本統制の解除も同様の影響をもたらす可能性がある。そうした事例は 1980 年代
22
29
SEPTEMBER 11, 2014
ハーフィンダール・ヒルシュマン指数(HHI)は、市場の集中度を測るために(主に米国公正取引委員会に)
一般的に用いられる。HHI は企業の市場シェアの二乗和と定義される。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
のスウェーデン、1984 年のニュージーランドでみられた。オフバランスビークルまたは銀行以
外のビークルの活用も、リスク選好度の高いイノベーションを示唆している場合がある。これは、
特に米国での証券化の手法を活用した「シャドーバンキング」の急速な拡大など、最近の危機
においてもみられた。「シャドーバンキング」は本質的に把握・計測が困難であり、ムーディー
ズは、銀行セクターにおけるオフバランスビークルの種類および普及に関する知見に基づい
て判断している。最近の規制上の取り組みによっても、このセクターの構造および拡大に関す
るデータが入手しやすくなる可能性がある。
総合マクロ・プロファイル
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経済力、信用、制度のスコアの平均をとり、資金調達状況と業界構造に関する調整を加えて、
総合マクロ・プロファイルを決定する。以下に、一部主要国の銀行システムのマクロ・プロファイ
ルの初期推定結果を示した。「付録 4:マクロ・プロファイルの初期推定」を併せて参照された
い。
図表 11
一部主要国の推定マクロ・プロファイル 23
国
オーストラリア
カナダ
フランス
ドイツ
英国
米国
日本
韓国
メキシコ
サウジアラビア
ブラジル
中国
イタリア
南アフリカ
スペイン
インド
インドネシア
トルコ
ロシア
カザフスタン
アゼルバイジャン
アルゼンチン
エジプト
キプロス
ウクライナ
23
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SEPTEMBER 11, 2014
カントリーリスク
信用状況
資金調達
業界構造
マクロ・ プロファイル
Aaa - Aa2
Aaa - Aa2
Aaa - Aa2
Aaa - Aa2
Aaa - Aa2
Aaa - Aa2
Aa1 - Aa3
Aa1 - Aa3
A1 - A3
Aa3 - A2
A2 - Baa1
A1 - A3
A1 - A3
A2 - Baa1
A1 - A3
Baa1 - Baa3
Baa2 - Ba1
A3 - Baa2
Baa3 - Ba2
Baa3 - Ba2
B1 - B3
B3 - Caa2
B2 - Caa1
Baa2 - Ba1
Caa2 - C
中立
弱い
中立
中立
中立
弱い +
弱い
弱い +
中立
弱い +
弱い +
弱い 弱い
弱い +
弱い
中立
中立
弱い
中立
中立
中立
弱い
非常に弱い +
非常に弱い
弱い +
-1
0
-1
0
0
1
0
-1
0
0
0
0
-1
-1
-1
0
0
0
0
0
0
0
-1
-3
0
1
1
0
-1
-1
-1
0
0
0
0
-1
0
0
0
0
-1
0
0
0
-1
0
0
0
0
0
非常に強い
非常に強い 非常に強い 非常に強い 非常に強い 非常に強い 強い +
強い +
強い
強い
中位 +
中位 +
中位 +
中位 +
中位 +
中位
中位
中位
中位 弱い +
弱い 非常に弱い +
非常に弱い
非常に弱い 非常に弱い -
2014 年 8 月時点。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
財務プロファイルの評価
金融機関のショックに対するエクスポージャーとその吸収能力を評価する次のステップとして、
分析の第二の要素である銀行の財務ファンダメンタルズに焦点を当てる。この評価では、支
払い能力と満期転換(流動性)という一対のファンダメンタルズに着目する。
» 「支払い能力」– 銀行のリスクと、資本ならびに収益生成による吸収能力を総合的に勘案
» 「流動性」– 銀行の資産と負債の満期のミスマッチ、資金調達の信頼性、および流動性準
備でキャッシュ流出をカバーする能力を総合的に勘案
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これらの 2 つの要因は、基本的に密接に関連する(図表 12 参照)。銀行の流動性は資金調
達能力に依拠し、資金調達能力はカウンターパーティの信認に依拠する。カウンターパーテ
ィの信認は、カウンターパーティが銀行の支払い能力と資産の質をどうみるかに左右される。
資産の質は資産取得のための資金調達能力に依存する。約定満期日以前に銀行が資産を
処分する必要がある場合、当該資産を簿価で売却できずに損失が発生し、ひいては資本減
少を招く可能性がある。これは、銀行の信用力の急激な悪化につながりうる根本的に不安定
な均衡状態といえる。
図表 12
支払い能力と流動性は相互に関連する
資産の質の低下は損
Falling
asset quality
失発生と資本減少を
creates loss and
招く
reduces capital
リスク・プロファイル
支払い能力
Solvency
Risk Profile
Funding
reduces in
資本劣化に伴い資金
response
to weaker
調達が減少する
capitalisation
資本および収益性
Capital
and
Profitability
銀行 は資 産の 売却に
Bank f orced to sell
よる現金化を迫られる
assets f or cash
資金調達
Funding
Access to
cash
現金へのアクセス
Liquidity
流動性
現金化のために資産
In realising cash,
を売却した結果、損失
assets
sold at loss
が発生する
まず、様々な指標を用いて各要因を評価する。その際、「グロスリスク」と「リスク軽減要因」を考
慮する。支払い能力要因に関しては、(信用リスク、市場リスク、オペレーショナルリスクを主因
とする)潜在損失がグロスリスクの指標となる。リスク軽減要因は、資産サイドで損失を吸収す
るために使用できる資本およびその他準備金、そして収益性である。流動性要因に関しては
通常、保険対象となるリテール預金ではなく、保険対象とならないプロのカウンターパーティか
らの信頼性の低い資金調達の利用をみることでグロスリスクを評価する。リスク軽減要因となる
のは、銀行に資金調達が不安定な時期を乗り切ることを可能にする、銀行の流動資産の準備
と資産・負債のマッチングである。
これらの要因は原則的に、予測能力が実証されている標準的な財務指標を用いた分析を通
じて一貫した方法で評価される。ムーディーズは、いかなる場合も、データの入手可能性およ
び一貫性と、格付対象銀行全体にわたる様々な銀行に対する財務指標の適合度を両立させ
るように努める。そのため、定義の透明性とその採用の普及が確保されるまでの間、少なくとも
当面は、バーゼル銀行監督委員会の普通株式等 Tier1 比率、流動性カバレッジ比率(LCR)、
安定調達比率(NSFR)などの比率を全般に使用することはしない。ムーディーズの格付委員
会は、選択された指標の解釈と理解に努め、当該機関あるいはセクターがさらされるリスクを
説明するために必要とされる場合には、個別銀行あるいは個別のシステムでのみ使用される
追加のデータも検討する。従って、スコアの形で示される格付委員会の意見は、様々な関連
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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指標と要因を十分に考慮した上で得られたものとなる。以下ではそのプロセスについて解説
する。
過去の期間
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以下に示す比率は、手法の定義に従って過去の財務指標から導かれる。それらは必然的に
時間の経過とともに変動し、重要性も変化する。問題債権比率と収益性に関する比率は、直
近 3 期間の期末の比率、および必要に応じて直近中間期の比率を用い、この期間の平均比
率と直近期の比率のいずれか低い方を分析の起点として用いる。そうすることで、これらの比
率が本来有する変動性が緩和されると同時に、比率の突然の悪化を把握することもできるよう
になる。また、そうすることで指標の改善が与える影響も緩和される。これは、指標の改善は長
期的に証明される必要があるとのムーディーズの見方を反映している。資本に関する比率は、
直近の報告数字を用いる。資金調達構造と流動資産に関する比率については、最も状況を
表し、かつ信頼できると考えられる直近期末の数字を用いる。
マクロ・プロファイルの統合
まず、各比率を「非常に強い+(VS+)」から「非常に弱い-(VW-)」までの 15 のカテゴリーの
1 つにマッピングする。これにより、世界の銀行セクターの比率が相対的にランク付けされる。
次に、当該銀行のマクロ・プロファイルを考慮して、「aaa」から「caa3」までにわたるスコアを決定
する。これにより、当該銀行が置かれた事業環境が各スコアに織り込まれる。例えば、2 つの
銀行の資本比率が同じであっても、それぞれのマクロ・プロファイルによって自己資本のスコ
アは異なるものとなる(図表 13 参照)。
この関係はまた、マクロ・プロファイルが最も弱いシステムに本拠を構える銀行は b1 を超える
調整前のスコアを得られず、最も強いシステムに所在する銀行は aaa から caa3 までの調整前
のスコアを得られるように組み立てられている。これは、マクロ経済状況が極めて悪化している
場合、非常に強固な財務を有する銀行であっても相当程度その制約を受ける一方、マクロ・
プロファイルが最も強いシステムに所在する銀行も破綻する可能性があるため、ムーディーズ
の BCA は当該銀行固有の信用特性の変化により敏感に反応するとのムーディーズの見方を
反映している。しかし、状況によっては、スコアはレンジを越えていずれの方向にも調整される
ことがある。ムーディーズは、特定の要因によってその銀行が破綻の危機に瀕しているとみる
場合、個別要因のスコアを「ca」または「c」とする。そのような場合、全体の財務プロファイルが
最もスコアが低い要因とのリンクによって同様に「ca」または「c」となる。
図表 13
財務比率、マクロ・プロファイルと初期スコアの関係
Macro Profile
マクロ・
プロファイル
32
SEPTEMBER 11, 2014
VS+
VS+ aaa
VS
aaa
VSaa1
S+
aa1
S
aa2
Saa3
M+
a1
M
a2
Ma3
W+
baa1
W
baa2
Wbaa3
VW+ ba1
VW ba3
VW- b1
VS
aaa
aa1
aa1
aa2
aa2
aa3
a1
a2
a3
baa2
baa3
ba1
ba3
b1
b3
VSaa1
aa1
aa2
aa2
aa3
a1
a2
a3
baa1
baa2
ba1
ba2
ba3
b2
caa1
S+
aa1
aa2
aa2
aa3
a1
a2
a3
baa1
baa2
baa3
ba1
ba3
b1
b3
caa1
S
aa2
aa3
aa3
a1
a2
a3
a3
baa1
baa3
ba1
ba2
ba3
b2
b3
caa2
Financial Ratio
財務比率
SM+
M
Maa3 a1
a3
baa1
a1
a2
a3
baa1
a1
a2
baa1 baa2
a2
a3
baa1 baa2
a3
baa1 baa2 baa3
a3
baa2 baa3 ba1
baa1 baa2 baa3 ba2
baa2 baa3 ba1 ba2
baa3 ba1 ba2 ba3
ba2 ba2 ba3 b1
ba3 ba3 b1
b2
b1
b2
b2
b3
b2
b3
b3
caa1
caa1 caa1 caa1 caa2
caa2 caa2 caa3 caa3
W+
baa2
baa3
baa3
ba1
ba1
ba2
ba3
ba3
b1
b2
b3
b3
caa1
caa2
caa3
W
ba1
ba1
ba2
ba2
ba3
ba3
b1
b1
b2
b3
b3
caa1
caa2
caa2
caa3
Wba3
ba3
b1
b1
b1
b2
b2
b3
b3
b3
caa1
caa1
caa2
caa2
caa3
VW+
b2
b2
b2
b3
b3
b3
b3
caa1
caa1
caa1
caa2
caa2
caa2
caa3
caa3
VW
caa1
caa1
caa1
caa1
caa1
caa2
caa2
caa2
caa2
caa2
caa2
caa2
caa3
caa3
caa3
VWcaa3
caa3
caa3
caa3
caa3
caa3
caa3
caa3
caa3
caa3
caa3
caa3
caa3
caa3
caa3
意見募集:銀行格付手法案
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ムーディーズの予想
支払い能力の各スコア(資産の質、自己資本、および収益性)は過去のデータのみで決まる
のではなく、ムーディーズの将来を見通した予想とシナリオ分析も織り込まれる。従って、スコ
アリングの過程では、それらの将来を見通した比率とトレンドも考慮される。例えば、銀行が最
近大幅な資本増強を実施している場合、過去の比率よりも資本増強後の資本比率の方がより
重要である。他方、問題債権比率が急速に上昇している場合、スコアはムーディーズが今後
1 年から 1 年半程度の見通し期間内に到達すると予想される問題債権比率の影響を大きく受
ける。ムーディーズは、将来の損失を予測する手法を精緻化していくため、将来の資産の質、
自己資本、収益性の比率を決定する枠組みの開発をさらに進めていく。詳細は、「付録 3:ム
ーディーズの銀行格付について」を参照されたい。
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ムーディーズは、資金調達および流動性について常に将来を見通した比率を用いるわけで
はないが、例えば合併・買収の結果、構造的な変化が予想される場合、あるいは急激な預金
や流動資産の喪失などが発生して当該銀行のバランスシートに大きな調整が見込まれる場合
などは、それらの方向変化を織りこんだスコアを付与する。
その他の要因
さらに、スコアの付与にあたってムーディーズは通常、その他多数の関連する指標や要因を
考慮に入れる。各比率は適切な文脈で捉えられる必要があるため、その動向、競合他社対比
での位置づけ、変化のスピードに影響を与えている、または今後与えうる要因を検討する。実
際、財務比率や戦略の突然の変更が信用リスク・プロファイルの変化の前兆となることは多い。
それらの要因は、ムーディーズが付与する BCA の決定に大きな影響を与えうる。
以下では、個別の要因とスコアリングについて詳細に解説する。
1.支払い能力
前述の通り、ムーディーズは、グロスリスク(主に信用リスク、市場リスク、オペレーショナルリス
クで決定される全体的な資産の質)とリスク軽減要因(資本、収益、引当金)を総合的に勘案し
て支払い能力を測定する。ムーディーズの分析はそれに従って組み立てられる。
図表 14
スコアカードの構造-支払い能力
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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A. 資産の質(25%)
この要因を重視する根拠
銀行では通常、レバレッジが高水準となっていることから、資産価値のわずかな悪化でも支払
い能力に大きな影響を与えうるため、銀行の資産の質は信用力の重要な要因である。多くの
銀行の破綻は信用の質の問題に起因している。信用の質の問題は、次のような様々な形態を
とる。
» ローンの裏付けとなる担保価値の悪化(長期にわたり多くの国の商業用不動産市場でみら
れてきた)
» 自宅所有者が住宅ローンを支払い続ける能力の低下(例えば、米国で 2007-09 年にみら
れた)
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» 景気低迷がもたらす銀行の企業顧客の収入減少により、顧客の銀行借入返済能力の低
下
» 個人債務に対する法的枠組みおよび社会的姿勢の変化による損失発生の増加(2003 年
に発生した韓国のクレジットカード事業の損失はこの例)
評価基準:問題債権/総貸出
これらのリスクは問題債権/総貸出(以下、問題債権比率)という一つの財務比率で相当程
度捕捉できるとムーディーズは考えている。貸出債権の質が悪化すると問題債権比率が上昇
し、債券保有者を保護する収益と自己資本のバッファーを減少させることで、債券保有者に
不利益をもたらす潜在的な問題や信用損失の発生、ひいては支払い能力への圧迫の予兆と
なる。
銀行の破綻を予測する指標としてのこの比率の有用性は、様々な場面で実証されてきた。
2006-12 年のムーディーズの調査でも、結果的にサポートを必要とすることになった銀行を特
定する上で、問題債権比率の差異が有効な方法となっていたことが判明している。
多数の学術的研究も同様に、問題債権の相対的水準とその変化率が銀行の将来の財務破
綻に対する比較的信頼性の高い指標となることを示している。
従って、ムーディーズは問題債権比率を分析の起点として用い、図表 15 に示すグリッドを用
いて初期スコアを決定する。
図表 15
問題債権/総貸出のスコアリング
VS+
<=
0.5%
VS
<=
0.75%
VS<=
1.0%
S+
<=
1.5%
S
<=
2%
S<=
3%
M+
<=
4%
M
<=
5%
M<=
6%
W+
<=
8%
W
<=
10%
W<=
15%
VW+
<=
20%
VW
<=
25%
VW>
25%
資産の質に関するその他の考慮事項
ムーディーズは、銀行が事業を行なう幅広い環境条件を検討することに加え、当該銀行の資
産の質に影響を与えるその他の関連要因も考慮する。そのような関連要因は、客観的かつ一
貫性のある測定が困難か、解釈の余地が大きいことが多い。そのため、あらかじめ決まったス
ケールに当てはめてそれらの要因の影響を決定するのではなく、格付委員会がそれらを検討
し、その結果としての判断として、付与される資産の質のスコアに織り込む。
貸出残高の伸び
過去における貸出残高の伸び率は、資産の質の悪化の重要な先行指標になるとムーディー
ズは考えている。銀行の経営破綻の事例を観察すると、その多くで貸出残高の伸び率が市場
平均を上回っている。貸出残高の伸び率が平均を上回るのは、貸出審査基準が緩和された
34
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
か、積極的な貸出戦略に転換したことを示唆するもので、それが資産の質に及ぼす影響は経
済下降期に顕在化する。
通常、年間 10%を超える貸出残高の伸び率が 3 年間継続した場合、ムーディーズは分析を
厳格化し、それが資産の質の悪化を示唆するものかどうかを評価する。この分析では、成長
の源泉と性質について、急速な名目 GDP 成長といったリスク軽減要因と合わせて検証する。
そこでは、特に市場全体の貸出残高伸び率とその銀行の貸出残高伸び率を比較し、その銀
行システムにおいてリスクが高いと考えられる特定のカテゴリーの伸び率を検証する。ムーデ
ィーズは一般に、貸出残高の伸び率が市場のベンチマークと比較し 50%以上の伸び率を示
す場合、資産の質のスコアを下方調整する。リスクの高いローン・カテゴリーで絶対値が年
10%を超える伸び率を示す場合、または国内市場の伸び率を 50%以上上回る場合も、資産
の質のスコアを下方調整する可能性がある。最終的なスコアを付与する際には、次の諸点を
考慮する。
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» 起点スコア。このスコアが「b」や「caa」のカテゴリーにあるなど既に非常に低い場合、スコア
を調整しない場合がある。問題債権比率にその高い貸出残高の伸び率が既に反映されて
いることが考えられるためである。
» 経済成長の動向。高い成長率を示す新興国経済では、信用残高の急速な伸びはそれほ
ど懸念材料とはならないか、既にマクロ・プロファイル要因で捕捉されている場合がある。
» タイミング。平均を上回る伸び率は、他の時期よりも市場がピークに達した時期により問題
となる 24。
» 構成。貸出残高全体の伸び率は穏やかであっても、内訳をみると後々大きなリスク
となる高リスクのサブポートフォリオの大幅な伸び率が隠されていることがある。
他にリスク軽減要因がない限り、貸出残高の伸び率が 10%を超える銀行、あるいは国内市場
の貸出残高の伸び率を 50%以上上回る銀行の資産の質に付与されるスコアが「baa」を上回
る可能性は低い。また、問題債権比率が比較的低い場合であっても、特に高い貸出残高の
伸びを示す銀行資産の質に「ba」を上回るスコアが付与される可能性は低い。貸出残高の伸
びが高リスクの資産クラスに大きく依存している場合、スコアが「b」を上回る可能性は低い。い
ずれの場合も、貸出審査基準が極めて厳格と考えられるなど他のリスク軽減要因も考慮に入
れる。
与信集中
ムーディーズは、銀行の信用エクスポージャーが以下の項目にどの程度集中しているかを評
価する。
» 少数のカウンターパーティ
» 単一の業種、および
» 限定された地域
銀行は信用力が低い個人や企業向けに貸出を行うことも少なくないことから、与信集中は銀
行の分析において重要な要因となる。貸出先の数が少ないほど、またそれらの相関度が高い
ほどリスクは高くなる。逆に、個別のローンの信用力が同じであっても、分散度が高く相関度が
低い資産で構成される巨額ポートフォリオは、集中度の高い少額のポートフォリオより大幅に
資産の質が高くなる。
地理的集中が問題となるのは、小さな地域に集中する貸出先のグループは、異なる地域また
は国に広く分散する場合に比べ、貸出先の顧客の間の相互関係が本来的に緊密になりがち
であることから、相関度が高まることが多いためである。地理的な分散はそのようなリスクを軽
減する要因となるが、地理的な分散の効果を厳密かつ一貫性を持って測定するのはその複
雑性を考慮すれば不可能である。例えば、銀行が多数の国をまたいで事業を行なう場合には、
24
35
SEPTEMBER 11, 2014
The early 1990s small banks crisis: leading indicators, Bank of England Financial Stability review を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
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一定の分散効果が得られる。しかし、分散の程度は、事業を行なう国々の間の結びつきの深
さ、それらの国々におけるエクスポージャーの分布、それらの国々の人口によって決まる(人
口の少ない国は人口の多い国よりも分散度が低くなる)。
ムーディーズは、業種の集中も重要であると考えている。業種の集中が重要となるのは、同一
業種内の企業は同一の市場の動向から影響を受け、相関度が高まるためである。そのためム
ーディーズは、金融セクター内の他社への集中も含め、特定の業種への集中を考慮する。し
かし、一部の業種へのエクスポージャーはその他の業種へのそれよりリスクが高い場合があり、
全ての集中が等しいわけではない(例えば、特有の変動性が損失のボラティリティを高める商
業用不動産セクターは他の業種に比べリスクが高い) 25。
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貸出残高以外の形で与信集中がみられる銀行もある。それらの資産は、社債、証券化商品か
らソブリン債務まで様々な形をとり、全てが信用リスクを内在しており資産の質に影響を与える。
しかし、それらの資産は通常公正価値で計上されるため、不稼働債権や毀損債権の比率に
は含まれない。とはいえ、その中にはリスクの高い資産が含まれる可能性があり、「公正価値」
を測定することも難しい 26。
グローバルに適用される業種分類の定義は存在しないため、業種の集中を測定する比率を
厳密に定義することはできない。そのような事情や、銀行と借り手の間には機密保持契約が
存在するなどの理由から、集中リスクの評価は厳密性を欠く作業となるが、発行体との議論を
通じて情報を得る場合もある。
銀行の与信先が世界中あるいは多くの多様な地域に分散しており、また、特定業種へのエク
スポージャーの集中がなく(最大の業種でも有形普通株主資本の 200%未満)、リスクが高い
とムーディーズが考える単一の業種(商業用不動産セクターなど)に有形普通株主資本の
50%以上の集中がみられないなど、銀行の大口エクスポージャーが資本対比でそれほど大き
くない場合(有形普通株主資本の 100%未満)、資産の質にプラスの調整がなされることがあ
る。この場合も、各ケースにおける起点スコアとエクスポージャーの性質に左右される。問題債
権比率が低い銀行、地理的分散や業種分散が非常に進んでいる銀行、際立った大口集中
がみられない銀行は、他に制約要因が存在しなければ、「aa」カテゴリーの資産の質のスコア
が得られる可能性がある。
エクスポージャーが特定の地域または比較的小規模な多様化していない経済に集中してい
たり、銀行の大口上位 20 エクスポージャー合計が大きかったり(有形普通株主資本の
200%)、単一の業種へのエクスポージャーが巨大であったり(有形普通株主資本の 500%)、
リスクの高い業種に一定程度の集中がみられる場合(有形普通株主資本の 100%)、資産の
質のスコアを引き下げる可能性がある。1 つ以上の集中カテゴリーにおいて上記のガイドライ
ンに当てはまる場合、支払い能力のスコアを引き下げる可能性があり、集中の度合いが深刻
とみなされる場合は、他に軽減要因がなければ、資産の質のスコアが「ba」を上回る可能性は
低い。
長期間にわたる貸倒実績
問題債権のコストは最終的に、減損および貸倒償却を損益計算書に計上することで処理しな
ければならない。前述の理由によってそれらのコストを計上する時期は異なるが、ポートフォリ
オの真の経済的信用損失は損益計算書を通じて長期的に可視化される。そのためムーディ
ーズは、「サイクルを通した」リスクの指針として、銀行のポートフォリオに長期間にわたって発
生した与信関係費用も考慮に入れる。例えば、問題債権比率は非常に低いが長期的な貸倒
率が高い場合、ムーディーズは支払い能力のスコアを調整する場合がある。問題債権比率は
長期のファンダメンタルズよりも短期の変動要因を反映している可能性があるというのがその
25
26
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SEPTEMBER 11, 2014
例えば、 通貨監督庁と連邦準備制度理事会が 2013 年 4 月に発行した An analysis of the impact of the Commercial Real
Estate Concentration guidance を参照されたい。このレポートは、一定の閾値の不動産業務への集中度と一定のレベルの
エクスポージャーの成長率を超過した米国の銀行の破綻率が、それらのレベルに達しない銀行を大幅に上回ったことを
報告している。
例えば、一部の証券化商品は銀行に多大な損失をもたらし、2007 年以降の銀行破綻の主要な要因となった。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
理由である。例えば、クレジットカード・ファイナンスを提供する銀行において、問題債権の償
却スピードが速いため貸倒率は高いものの、問題債権比率が必ずしも高くないケースは、この
例に該当する可能性がある。他方、住宅ローン提供会社において、高い問題債権比率を示
すものの回収率が高いため貸倒リスクが低く、長期的にみれば貸倒実績が低い水準に止まる
場合もあろう。
一般的に、「長期」という場合、約 10 年間またはひとつの事業サイクルをカバーする期間、す
なわち資産の質の問題を含み得る期間を指す。仮に、この期間を通じて貸倒費用が償却前
利益の 40%未満、かつ、いずれの年においても償却前利益の 60%を上回らない場合、資産
の質は全般に良好かつ安定的で、他の要因にも左右されるが、資産の質のスコアは比較的
高い「baa」あるいはそれ以上であることを示唆している。
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しかし、この期間の貸倒費用が償却前利益の 50%以上である場合、他の要因にも左右され
るが、ムーディーズは通常、資産の質のスコアは「ba」あるいはそれ以下のレンジにあると考え
る。与信関係費用が償却前利益の 50%を大きく超える場合、かつ/または貸倒費用の変動が
非常に大きい場合は、資産の質のスコアは「b」かそれ以下のカテゴリーとなる可能性がある。
問題債権の定義
問題債権の引当率に対するムーディーズの見方は問題債権指標の信頼性にも左右され、そ
の信頼性は当該国の会計基準、規制要件、それらに対する銀行の解釈によって変わってくる。
そのためムーディーズは、会計上の定義の差や監督慣行、法律実務の差を考慮に入れてス
コアを調整する場合がある。ムーディーズは、問題債権の定義がやや狭いと考えられる国に
おいては、問題債権が過少に評価されるリスクを考慮し、独自の判断に基づきスコアを調整
する場合がある。
さらに、一部の国では、法律実務上問題債権の認識と償却のまでのタイムラグが存在する場
合がある。これは、特定の時点でみると問題債権は非常に少ないが、問題債権が増加傾向に
あり、問題債権比率がポートフォリオのリスク度を過少評価している可能性がある。他方、別の
国においては、問題債権が時に数年間という長期にわたってバランスシート上に維持される
国もある。この場合、問題債権の額は大きくなるが、適切に引当がなされることで残存リスクが
ほとんどないケースもある。単一のグローバルなスケールでそれらの差を調整することは不可
能である。従って、ムーディーズは、問題債権発生率、当該国の問題債権管理、法律実務、
およびそれらが銀行の経済基盤に及ぼす影響などについての理解に基づいて調整を行なう。
従って、問題債権が過大評価されていると考えられる場合、ムーディーズは支払い能力のス
コアを上方調整することがある。一方、問題債権が過少評価されているとみられる場合は、資
産の質のスコアを引き下げ、過小報告されたリスクを反映することがある。
貸出以外の信用リスク
銀行の信用リスクは必ずしも貸出に関わるものに限定されない。例えば、一部の銀行では、主
として残存価格リスクのあるリース事業や、社債のポートフォリオ保有を行っている。それらのリ
スクは通常、問題債権や減損費用の指標では概して捕捉することができない。
従って、ムーディーズは、残存価格など貸出以外の信用リスクに関する情報を検討し、それら
のリスクの評価を行なう。その結果、リース事業や証券ポートフォリオに内在する信用リスクを
織り込む形でスコアを調整することがある。それらのリスクが大きいと考えられる場合(長期間
の損失が平均で償却前利益の 10%以上に相当する場合など)、資産の質のスコアを1ノッチ
あるいはそれ以上引き下げることを検討する。潜在的損失がこの閾値を大幅に上回る場合、
この点は特に重要となる。ただし、起点とする比率が十分に低い場合(「ba」以下のカテゴリー
の場合など)には、この限りでない。この追加リスクが、既に低い資産の質に対するムーディー
ズの見方に、さらに大きく影響を与えることはないと考えられるためである。
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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市場リスク
市場リスクは多くの金融機関が本来的に抱える財務リスクであり、主として以下のような経路か
ら発生する。
» トレーディング・リスク。 オリジネーション、マーケット・メイキング、自己勘定売買、ヘッジな
どでは、ポジションの市場価値の変動により損失が発生する可能性がある。
» 投資リスク。銀行は他の企業や資産に長期の投資を行なう。未公開株式や不動産への投
資の場合、投資の価値は大幅に変動し、かつ/または当初期待した投資リターンのレベル
が実現しないことがある。
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» 銀行勘定における金利リスク。銀行は利回り曲線のスティープ化やフラット化のリスク、ロー
ン金利と負債の金利がそれぞれ異なるベンチマークを参照して決定される場合のベーシ
ス・リスクなどにさらされることがある。
» 為替リスク。銀行は一つまたは複数の通貨の変動リスクにさらされることがある。
» 年金リスク。銀行は年金基金の資産価値が負債価値に対して変動するリスクにされており、
年金加入者を保護するためにキャッシュを注入する必要が生じることがある。
» 保険リスク。銀行は保険子会社の資産の市場価値の変動のリスクにさらされることがある。
これらに関連するリスクは、様々な異なる方法で評価しうる。バリュー・アット・リスク(VaR)はトレ
ーディング・リスクの計測において広く用いられる指標であり、多数の大手銀行が用いる市場リ
スクに対する規制上の所要自己資本の計算基準になっている。しかし、この指標はモデリング
や評価のアプローチによって大きな差異が生じることから 27、一貫性についての懸念が高まっ
ている。実際、最近の金融危機では、損失が想定VaRと無関係に推移したことも少なくなかっ
た。これは、VaRモデルのデータが不十分で、過去のストレスを適切に捕捉していなかったこと
に加え、計算上は流動性のある証券の価値が減少し流動性も損なわれたためである。
投資リスクについては、定義上トレーディングよりも期間が長くなることから、通常 VaR モデル
には含まれない。投資についての開示の質は劣り、通常、貸借対照表計上価額に限定される。
投資に関連するリスクは、保有する証券の性質(債務/株式など)と内在する固有のリスクに左
右される。
資産と負債の金利にミスマッチが存在する場合、銀行勘定に構造的な金利リスクが発生しうる。
これらのリスクは通常、一定の金利ショック(一般的にはイールドカーブのパラレルシフト)が一
定期間における資金利益に与える影響や、銀行の純資産価値に与える影響をモデルにより
測定される。これらのリスクは、バーゼル II の第三の柱に基づく限定開示の対象とされるが、
分析が行なわれたり、一貫して提示されることはほとんどない。こうした理由に加え、リスクの評
価が技術的に困難なこともあり、現在のところバーゼル合意の「第一の柱」である最低所要自
己資本の計算には含まれない。
為替リスクについては、銀行が調達する資金の通貨と銀行が貸出または投資する通貨にミス
マッチがあった場合などに発生する。さらに、収入の通貨と経費支払いの通貨にもミスマッチ
がありうる。これらのリスクは開示が限られており、それが評価と比較を困難にしている。
年金基金は時に銀行に重大なリスクをもたらすが、そのリスクは銀行の総合的なリスク管理の
枠組みに統合されていないケースが多い。年金リスクは通常、非常に長期的な性質を帯びて
いるため、資産と負債の短期的な変動の影響が限定的であることが理由の一つである。年金
基金は法的に銀行本体の財務から切り離されており、資金拠出の問題は通常、銀行の経営
陣と年金基金受託者の間の話し合いに委ねられていることから、契約義務としての性格は弱
い。
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バーゼル銀行監督委員会が 2013 年 1 月に発行した Regulatory consistency assessment programme (RCAP) – Analysis of risk
weighted assets for market risk を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
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このように、市場リスクは資産の質に対するムーディーズの初期スコアでは捕捉されない。す
なわち初期スコアは、市場リスクがそれほど重要ではないことを暗に想定している。従って、ム
ーディーズは、市場リスクの度合いに対する判断を織り込むため、資産の質のスコアを下方調
整することがある。ムーディーズはそのために、次のような指標や指針を考慮する。
» キャッシュ・トレーディング勘定の規模。トレーディング勘定が総資産の 10%以上の場合、
重要なリスク要因であることが多い。
» トレーディング収入の寄与度。長期間にわたってトレーディング収入が全体の収入の 10%
以上となっている銀行は通常、重要な市場リスクを抱えていることを示唆している。債務や
株式引き受け手数料も、市場リスクを示唆する場合がある。
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» VaR および市場リスクアセットの変動。前述の限界があるとはいえ、有形普通株主資本対
比で高い水準にある VaR や市場リスクアセット、あるいはそれらの水準や構成の急速な変
化は、トレーディング・リスクの高さあるいは大幅な変化を示唆している可能性がある。
» デリバティブへの大きなエクスポージャー。デリバティブの会計指標には様々なものがある
が、ネット・デリバティブが銀行の有形普通株主資本以上である場合、あるいはグロス・デリ
バティブが銀行の有形普通株主資本の 5 倍以上である場合、重要な市場リスクを示唆し
ている可能性がある。
» 巨額に上る投資額。長期投資が銀行の有形普通株主資本の半分以上となっている場合、
重要な市場リスクを示唆している可能性がある。
» 銀行勘定の金利リスク。次の場合には、金利リスクが高まっているとみなす場合がある。(1)
銀行の主要通貨における 100 ベーシスポイントのイールドカーブのシフトの全体的な影響
が銀行の資金利益の 5%以上の損失をもたらす場合、あるいは(2)同様のシフトに起因す
るバランスシートの現在価値の変動が有形普通株主資本の5%以上となる場合。
» 為替リスク。為替レートが 10%変動した時に銀行の有形普通株主資本/リスクアセットの比
率または収益が 5%以上の影響を受ける場合、重大で構造的な為替リスクを抱えるとみな
す可能性が高い。
» レベル 3 資産。多くの国において、時価会計で計上される資産は、その評価方法に従っ
ていくつかのカテゴリーに分類される。「レベル 3」資産は、取引された証券を参照すること
で評価するのではなくモデルによって評価する資産であり、市場「モデルリスク」指標とみ
なしうる。レベル 3 資産の価値が有形普通株主資本の 50%を上回る場合、モデルリスクの
重要な源泉とみなす可能性が高い。
これらの要因は、個別にもまた全体としても、銀行の資産の質に対するムーディーズの意見に
影響を与える。銀行が貸出業務にそれほど積極的でなく、そのためコアの問題債権比率の重
要性が低下する場合、より市場リスクの重要性が増す。ムーディーズは、上記の様々な市場リ
スク指標を評価するに当たって、それらが市場リスクの高まりを示唆するものかどうかについて
意見を形成する。ユニバーサル・バンクや銀行勘定の金利リスクがそれほど高くないリテー
ル・バンクの場合、初期スコアが非常に高い場合(「a」カテゴリーあるいはそれ以上)を除いて、
市場リスクが資産の質のスコアに影響を与えることはない場合もある。市場リスクが比較的高
い銀行の場合、資産の質に「baa」を超えるカテゴリーのスコアを付与する可能性は低く、銀行
の事業モデルが市場リスクに偏れば偏るほど、資産の質に「ba」または「b」のカテゴリーのスコ
アを付与する可能性が高まる。
オペレーショナルリスク
銀行業務の中には大きな「オペレーショナルリスク」を抱えるものがある。オペレーショナルリス
クは通常、「内部プロセス、人、システムが不適切であるか機能しないこと、または外生的事象
から生じる損失に係るリスク」と定義される。この定義には、法的リスクも含まれるが、戦略リスク
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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や風評リスクは含まれない 28。ムーディーズはこのリスクを支払い能力の初期スコアで捕捉し
ない。規制上のリスク指標は大きく異なっており 29、満足できる形で測定するのは難しい。とは
いえ、このリスクが銀行にとって重要になることがある。
例えば、一般的に資本市場業務は高いオペレーショナルリスクにさらされているとムーディー
ズは考えている。その理由としては以下が挙げられる。
» 個人が巨額に上る名目金額の取引を実行することも少なくない。運用実績に基づいて報
酬を得ることが多いそれらの個人は、損失隠しや利益捏造の誘惑に駆られる。銀行のシス
テムや管理体制がいかに洗練されたものであっても、詐欺を働こうとする個人はしばしば
抜け道を見つけ出す。過去 20 年以上にわたってみられた数々の詐欺行為の顕著な類似
性がそれを示している。
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» 同様に、資本市場取引はリテール・バンキングに比べ規模が大きくなりがちなため、(詐欺
ではなく)錯誤による失敗がそれに関連する収入対比で重大な影響を及ぼすことがある。
» 資本市場業務は通常、洗練されたカウンターパーティとの間で行なわれる。そのため、カウ
ンターパーティが損失を被った場合、訴訟に持ち込まれやすい。訴訟に持ち込まれる可
能性は国によっても異なる。例えば、米国では、「集団訴訟」、監督官庁の調査、それらに
関連する巨額の和解金や罰金の支払いは珍しいことではない。他の多くの国々ではその
ような事態は稀にしか起こらず、通常、罰金や和解金もそれほど巨額に上ることはない。
その他の業務もオペレーショナルリスクにさらされる。カストディ・サービスや資産運用業務な
どは、直接的に信用リスクや市場リスクを負うことは殆どない。しかし、取引の規模が大きくなり
頻度が増すにつれ、錯誤リスクとその影響は増大する。プライベート・バンキング業務の顧客
は訴訟を厭わず、風評問題に敏感である。前述の通り、リテール・バンキングにおいても、監
督当局が銀行に賠償責任を義務づけることがある。例えば、英国では、監督当局が銀行に対
して多額の消費者向け賠償支払いを命じたことがある。
オペレーショナルリスクはほとんどの事業活動に本来的に内在するもので、ある程度「所与」の
ものといえる。オペレーショナルリスクが相対的に低いとの見方に基づいて、ムーディーズが
資産の質のスコアを上方修正することはほぼない。しかし、事業活動、事業慣行、規制・法的
環境が組み合わさってオペレーショナルリスクのレベルが高まると考えられる場合、資産の質
のスコアを引き下げることがある。事業モデルに照らして銀行のオペレーショナルリスクが高ま
っていると考えられる場合、資産の質に「baa」カテゴリーを上回るスコアが付与される可能性は
低い。問題の程度と内容によっては、オペレーショナルリスクに対して脆弱な銀行にはより低
いスコアを付与することがある。
B. 自己資本 (25%)
この要因を重視する根拠
予想外の損失が発生するリスクが大きいほど、銀行が債券保有者を保護するために資本を保
有する必要性も増すことから、自己資本と資産の質は密接な関係にある。自己資本は債権者
の信頼を醸成し、銀行の資金調達を可能にする要因でもある。
評価基準:有形普通株主資本/リスクアセット
銀行の自己資本の評価方法には様々なものがある。1988 年に最初のBIS規制が導入されて
以来、銀行の自己資本の計測には規制上の指標が最も広く用いられてきており、長年、Tier 1
資本/リスクアセットが主要な指標とされてきた。この指標は、その後のBIS規制および各国に
おける規制の改定によって、長年にわたり大幅に改良されてきた。しかし、危機下において、
規制上のリスク指標が、特に内部モデルに基づく場合には、信用リスクを過度に楽観視してい
40
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28
International Convergence of Capital Measurement and Capital Standards, Basel Committee on Banking Supervision, June 2006.
これは一般にバーゼル II と呼ばれる書類である。
29
バーゼル II では、「基礎的指標手法」、「標準的手法」、「先進的計測手法」が認められている。
意見募集:銀行格付手法案
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た(分母の過少評価)ケースや、損失吸収を十分に行わなかった資本要素を過度に評価して
いた(分子の過大評価)ケースが多くみられた。その後、バーゼルIII規制の導入をはじめ、こ
れらの問題を解決するための規制改革が行われている 30。規制上の指標は、今後数年間で
さらに改良されていくとムーディーズは認識している。とはいえ次の理由から、リスクアセット指
標はムーディーズが用いる主要指標の一つとしての価値があると考えている。
» 銀行破綻に関するムーディーズの調査では、リスク非加重のレバレッジ指標を含め数ある
指標の中で、有形普通株主資本/リスクアセット指標が最も破綻予測能力の高い指標であ
った。
» ムーディーズがみるところ、資産のリスクとそれらに対するリスク加重は、不十分な点や一貫
性を欠く点が認められたものの、総じて相関関係を示していた。
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» 銀行の実質破綻時に関する当局による判断は、規制当局の自己資本に対する評価と密
接に結びついているため、不完全とはいえ、規制当局の指標はそれ自体に現実的な意味
がある。
指標の分子である有形普通株主資本には、銀行が実質的な破綻状態にあると規制当局が判
断する時点以前に株式と同様損失吸収能力を持つハイブリッド証券、すなわち「ハイ・トリガー」
コンテンジェント・キャピタル証券を除き、ハイブリッド証券のエクイティクレジットは含まれな
い 31。なぜなら、ムーディーズのBCAはこの比率に基づいており、実質的な破綻状態にあると
規制当局が判断する時点でこれらのハイブリッド証券に損失が発生するリスクを反映して設計
されているためである。しかし、運用可能な破綻処理制度が適用される銀行については、銀
行の破綻後に上位の債務クラスが利用できる様々なプロテクションを評価する「破綻時損失」
の分析において、その他の全てのハイブリッド証券を考慮する。また、有形普通株主資本は、
繰延税金資産の参入上限を全体の 10%とし、有価証券の含み損益を除外する。従ってそれ
は、最も狭義かつ現在最も広く用いられている規制上の資本である普通株式等Tier 1 資本に
近いものとなる。
ムーディーズは、初期スコアを設定する際、銀行のリスクアセットがバーゼル I とバーゼル II
のどちらに従って計算されたかによって、両アプローチの平均リスク加重の差異に基づき、2
つのスケールを用いる。異なるアプローチの下でのリスクアセットをほぼ同等にすることが出来
るまでに開示が進んだ時点で、バーゼル III の下で銀行に適用する最終的なスケールを設
定する予定である。ただし現段階では、スケールの差異はそれほど大きくはならないと考えて
いる。
図表 16
有形普通株主資本/リスクアセットのスコアリング
Capital (25%)
Basel I
Basel II
Basel III
VS+
>=
23.8%
25.0%
25.0%
VS
>=
21.4%
22.5%
22.5%
VS>=
19.0%
20.0%
20.0%
S+
>=
17.1%
18.0%
18.0%
S
>=
15.7%
16.5%
16.5%
S>=
14.3%
15.0%
15.0%
M+
>=
12.9%
13.5%
13.5%
M
>=
11.4%
12.0%
12.0%
M>=
10.0%
10.5%
10.5%
W+
>=
8.6%
9.0%
9.0%
W
>=
7.1%
7.5%
7.5%
W>=
5.7%
6.0%
6.0%
VW+
>=
4.3%
4.5%
4.5%
VW
>=
2.9%
3.0%
3.0%
VW<
2.9%
3.0%
3.0%
自己資本に関するその他の考慮事項
上述の通り、ムーディーズは有形普通株主資本/リスクアセット比率は自己資本を評価する有
力な指標になると考えている。しかし、自己資本にスコアを付与する際には、その他の自己資
本指標も考慮する。格付委員会が通常考慮に入れる指標には以下のようなものがあり(ただし
これらが全てではない)、付与されるスコアには格付委員会の判断が織り込まれる。
41
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30
http://www.bis.org/bcbs/basel3.htm. を参照されたい。
31
この定義によって、2010 年 7 月 1 日に発行されたムーディーズのクロス・ セクター格付手法“Revisions to Moody’s
Hybrid Tool Kit”(ムーディーズ・ジャパン版「ムーディーズのハイブリッド証券のツール・キットに対する変更」2013 年 9
月) の銀行への適用が一部変更となる。
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名目レバレッジ
ムーディーズの分析では、有形普通株主資本/有形資産の比率も考慮される 32。この比率
は、規制上の指標とは別に、ウエイト付けを排した自己資本について補完的な見方を提供す
る。この比率はリスクの測定を織り込んでいないが、ストレスが最大の時点ではリスク測定の指
標が役に立たないことが往々にしてあるため、依然として有用である。この比率はまた、自己
資本の有用な「バックストップ」指標となり、「モデル」リスクに対抗することができる。会計処理
の差異による歪みを内包し、簿外リスクや特殊な商品のリスクを適切に捕捉しておらず、政府
債、リバース・レポ、住宅ローンなど低リスク資産のリスクを過大評価しているとはいえ、この指
標は有用である。
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» 有形普通株主資本/有形資産が 10%を超えた場合、ムーディーズは通常、自己資本の
スコアの上方調整を検討するトリガーとみなす。調整は1ノッチであることが多いが、名目レ
バレッジがムーディーズの主要指標である有形普通株主資本/リスクアセット比率では十分
に反映されない強固な支払い能力を示唆していると考えられる場合、それ以上の調整を
行うこともある。
» 有形普通株主資本/有形資産が 5%未満の場合、ムーディーズはスコアの下方調整を検
討する場合がある。それらの銀行は、たとえ主要指標が良好であっても、通常「baa」を上回
るスコアが付与されることはない。
» 有形普通株主資本/有形資産が 3%未満の場合、通常自己資本のスコアが「ba」を上回
ることはない。
» 有形普通株主資本/有形資産が 2%未満の場合、極めて高い名目レバレッジを示唆して
おり、通常自己資本のスコアが「b」を上回ることはない。
最低所要自己資本
自己資本のスコアを付与する際には、規制上の最低所要自己資本を考慮する。これが重要
なのは、一見健全な規制上の自己資本比率が、整理手続き、実質破綻状態、外部支援が得
られない場合の潜在的デフォルトまでの距離の判断を誤らせることあるからである。ムーディ
ーズは通常、最低所要自己資本はバーゼル III が想定する「実質破綻時」である 5.125%の
近傍であると考える。しかし、国内で採用される閾値がそれより高い場合、予想自己資本比率
と整理手続きが予想される時点の間の「バッファー」がやや小さくなることを考慮して、自己資
本のスコアを下方調整する場合がある。
一般的に、規制上の最低所要自己資本までのバッファーがリスクアセットの 3%未満の場合、
「baa」より高い自己資本のスコアを付与することはないであろう。バッファーが 2%を下回った
場合、「ba」より高い自己資本のスコアを付与することはないであろう。バッファーが 1%以下に
なった場合、スコアが「b」を上回ることはないであろう。ムーディーズがこれらの判断をする際
には、実際の自己資本が最低所要自己資本を下回った場合にどのようなアクションがとられる
可能性があるのかも考慮する。最低所要自己資本の未達によって債券保有者に害が及ぶこ
とがない場合もあるが、規制当局が債券保有者に損失を負担させようとする場合もある。
自己資本の質
自己資本の検討に際しては、有形普通株主資本の質も考慮する。有形普通株主資本に含ま
れるのは、BCA 事由が発生するよりも前に損失吸収を行うとみられる資本要素のみであるた
め、定義上は、普通株式と「事前に」損失を吸収できる「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャ
ピタル証券のみである。のれん、無形資産、有形普通株主資本合計の 10%を超える繰延税
金資産などの破綻処理時の損失吸収能力が疑われる項目は除かれ、比較的質の高い項目
に限定される。
32
42
SEPTEMBER 11, 2014
付録 5 の定義を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
しかし、ムーディーズの基本指標が特定の項目の価値を過少あるいは過大に評価していると
考えられる場合、自己資本の質のスコアを調整することがある。例えば、繰延税金資産の実現
度が非常に高いと考えられる場合、修正自己資本比率の推計に基づいて自己資本のスコア
を上方調整することがある 33。同様に、資産の質が健全で資金調達状況が銀行の満期までの
証券保有を可能にするなど、有形普通株主資本に織り込み済の含み損の実現可能性が実
際には極めて低い場合、修正自己資本比率に基づいて自己資本のスコアを調整することで、
そのような損失の一部を相殺することがある。
反対に、有形普通株主資本に含まれる含み益の質が疑わしいと考えられる場合、ムーディー
ズは自己資本のスコアを下方調整する場合がある。その場合、ムーディーズはそれらの含み
益を控除した場合の有形普通株主資本/リスクアセット比率を反映した自己資本のスコアを付
与する可能性がある。また、質が疑われるその他の項目を考慮するためにスコアを調整するこ
ともある。
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自己資本の代替可能性
銀行の自己資本による損失吸収能力は、全体の自己資本比率だけではなく、自己資本がそ
の銀行グループのどこに存在するかによっても影響も受ける。これは、完全な資本の代替可
能性を想定している連結ベースの公表自己資本比率は誤解を与える恐れがあることを示唆し
ている。実際には、グループ内の資本移動に対して規制上、会計上または税務上の阻害要
因が存在する場合がある。例えば、銀行が規制を受けるノンバンク業務(自己資本に係る規
制が存在する保険子会社など)を行なっている場合、銀行業務のリスクを支えることができる
有形普通株主資本の割合は小さくなる。
内部的な資本の代替可能性を測定するのは困難なため、その評価は基本的に定性的なもの
にならざるを得ない。グループに適用されるものよりも高い自己資本規制が存在する(資本が
「閉じ込められる」」)規模の大きい規制子会社を有する場合、支払い能力の全体のスコアを
引き下げることがある。調整の規模は、自己資本の初期スコアと自己資本の代替可能性がど
の程度阻害されるかによって決まる。
自己資本へのアクセス
ムーディーズは、銀行が必要な場合に新たに自己資本を調達する能力を考慮する。銀行が
新たな自己資本を私募調達する場合、それが「外部サポート」を必要とする状況に近いと考え
られる場合であっても、ムーディーズはそれ自体を「外部サポート」行為とは考えない。その理
由は、例えば銀行が株主割当発行で民間株主から資金を調達するのは、それが有利な資金
調達方法だと考えた結果だからである。投資家がその増資に応じるかどうかは投資家自身の
選択となる。対照的に、銀行が政府や政府系機関など公的部門からしか新規資本を調達でき
ないような場合には、ムーディーズはこれを緊急時のサポート事由とみなす可能性が極めて
高い。
このため、銀行の民間資本調達能力を考慮することが必要となる。資本調達能力の高い銀行
はそれだけ、外部サポートが必要となる状況を回避しやすくなる。上場している銀行の場合、
民間資本調達力は投資家の需要で決まる。投資家の需要を示す指標の一つは、その銀行の
純資産と比較した時価総額である。時価総額が財務報告上の純資産を上回るほど、その他
の条件が等しい場合にはその銀行は資本調達が容易になる。しかし、銀行の時価総額が純
資産を下回った場合には、既存株主の持分の希薄化が大きくなるため、新規の資本調達はよ
り困難になる。
ムーディーズはこの観点から自己資本のスコアを調整することがある。一般的に、銀行の時価
総額が純資産を下回った場合、それが新規資本調達の阻害要因となりうることを考慮し、自
己資本のスコアを1ノッチ引き下げることを検討する。時価総額が純資産を下回ればそれだけ、
33
43
SEPTEMBER 11, 2014
将来の収益に依存する純営業損失の繰越ではなく利益計上のタイミングの差を主因とするものや、実質的に一般の政府
に対する請求権と同等のものである場合。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
スコア引き下げの可能性が高まる。銀行が新規資本調達の必要に迫られているにも関わらず、
それができない場合、引き下げ幅は1ノッチを上回ることもある。
非上場銀行や組合組織の場合には、オーナーが追加資本を提供する十分な資力を有する
かどうか、また必要な時に追加資本の提供を行って銀行の自己資本比率を維持することにオ
ーナーにとっての経済合理性が十分にあるかどうかを判断する。そうではない場合、自己資
本のスコアを引き下げることがある。相互銀行の場合には、企業構造上、必要な時に新規資
本の調達が十分に出来ないことも想定されるので、自己資本のスコアを下方調整する場合が
ある。
問題債権に対するカバレッジ
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銀行の貸出債権の一部はほぼ確実に毀損し損失が発生する。これは銀行業務に内在するも
のであり、銀行はそれらの損失に備えて一定レベルの貸倒引当金を計上する。貸倒損失に
対する引当率が高ければ問題債権のリスクは軽減される。反対に、カバレッジが低い場合、
銀行は損失が予想を超えて拡大するリスクにさらされる。
ムーディーズは、毀損資産の内容を考慮する。例えば、地場の市場慣行や回収技術にもよる
が、クレジットカード会社は問題債権の大部分をカバーする引当金を計上する可能性がある。
それらの無担保ローンはいったん滞納が深刻化すると完済はほぼ見込めなくなるためである。
一方、借り手に全額請求権を行使できる住宅ローン提供会社は、住宅価格が安定し、かつ
LTV(loan-to-value)比率が低い限り、裏付けとなる担保の価値を考慮して、低い水準の貸倒
引当率でも十分な場合がある。
貸倒引当金と高品質の担保が問題債権の金額を相当程度超過すると考えられる場合(例え
ば問題債権の 2 倍の水準)、ムーディーズはそれを追加的な準備金および損失吸収源とみ
なし、自己資本のスコアを上方修正する場合がある。しかし、ある時点の問題債権額が非常
に少額というだけで、スコアを上方修正することはないであろう。少額の数字は急激に変化し
やすく、それほど意味を持たないためである。
反対に、問題債権が貸倒引当金、回収額見込み額、および担保で十分にカバーされていな
いとみられる場合、ムーディーズは自己資本のスコアを下方調整することがある。その不足額
が自己資本の額に比して相当程度大きい場合(例えば有形普通株主資本の 25%を上回る
水準)、通常1ノッチの調整が行なわれる。しかし、公表問題債権には表れていない潜在的な
損失が引当金の金額を大幅に超過し、資本に重大な影響を与える可能性があるとムーディー
ズが判断した場合、ノッチングを更に調整する可能性がある。
C. 収益性 (15%)
この要因を重視する根拠
収益性は金融機関の資本生成能力を示す指標であり、従って損失を吸収しショックか
ら回復する能力を示す指標でもある。他の条件が同じであれば、収益性が低いか赤字
となっている銀行は、高い内部資本生成力を有する銀行よりも低い評価となる。
評価基準:純利益/有形資産
ムーディーズは、総資産対比でみた純利益(税引後、ムーディーズの調整後)を収益
性の指標として用いる。この指標は、最近の危機時においても予測能力を維持してい
たことが判明しており、次のようにスコアリングされる(図表 17 参照)。
図表 17
純利益/有形資産のスコアリング
VS+
>=
2.5%
44
SEPTEMBER 11, 2014
VS
>=
2.25%
VS>=
2.0%
S+
>=
1.75%
S
>=
1.5%
S>=
1.25%
M+
>=
1.0%
M
>=
0.75%
M>=
0.5%
W+
>=
0.375%
W
>=
0.25%
W>=
0.125%
VW+
>=
0.0%
VW
>=
-1.0%
VW<
-1.0%
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
収益性に関するその他の考慮事項
ムーディーズの格付委員会は通常、銀行の長期的な損失吸収能力に大きな影響を与える収
益の質の評価を主目的として、収益性のスコアを付与する際にはその他一連の要因につい
ても評価する。
収益の安定性
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例えば、資金利益の比重が大きくコストも低く安定しているリテール業務を主体とする事業モ
デルは、より高リスクの業務で発生する一時的な収益変動を吸収することができる。それに対
して、顧客からの信認、投資家心理、個人トレーダーの運用実績の振れに左右される度合い
が高い事業への依存度が大きい場合、必要な時にそうした収益で損失を吸収できるかどうか
がより不確実となるため、警戒が必要になる。そのため、事業フローが不安定になりがちなホ
ールセール銀行よりも、収益を生成する資産ストックを保有するリテール銀行や商業銀行が分
析上有利に扱われる可能性が高い。
このような考え方は銀行の営業基盤の強さの評価に類似している。ムーディーズは市場シェ
アの高さそれ自体は銀行の信用力を高める要因にはならないと考える一方、魅力的な市場で
強固な地位を有している銀行は長期的により高く安定的な収益を計上する可能性が高いと考
える。他方、高い市場シェアを有するが収益の変動も大きい銀行の場合、事業分野そのもの
の信頼性が低いことを示しており、信用力という観点からは市場地位が強固であってもそれほ
ど有利なものとはならない。
ここでは、銀行の事業モデルと収入の安定性に対するムーディーズの見方に基づいて定性
的な判断が行われる。いずれの場合も、過去のパフォーマンスと今後予想されるパフォーマン
スを検討する。そうすることで、事業の取得や売却のほか、環境の変化も考慮に入れることが
できる。
(景気後退期を含め)長期間にわたって(景気後退期を含めて)収益変動性が限定的であっ
たと考えられる場合(例えば償却前利益/総資産の比率の平均値からの標準偏差が約 20%
以下)、この強さを織り込むためにスコアを上方修正することがある。過去の収益変動性が相
対的に高いと考えられる場合(例えば標準偏差が 50%以上)、この弱さを反映させるためにス
コアを下方修正することがある。そのような銀行が「ba」を上回る収益性のスコアを得るのは難
しい。
支払い能力の総合スコア
ムーディーズは、財務プロファイルにおけるそれぞれのウエイト(25%、25%、15%)を適用し
た 3 つのサブ要因である資産の質、自己資本、収益性のスコアを総合して、支払い能力の総
合スコアを導出する。ムーディーズは、資産の質と自己資本を、それぞれ支払い能力の問題
とリスク軽減要因の最大の要因と考えており、これらをより重視している。収益性のウェイトを低
くしているのは、報酬が過度に高くハイリスク・ハイリターン型の金融機関の場合、収益性が銀
行の債権者に提供しうるクッションは限定的であるとの認識の下、そうした金融機関の収益性
が高く評価されることを避けるためである。前述の通り、ムーディーズは特定の要因によって銀
行が破綻の危機に瀕しているとみる場合、その要因に「ca」または「c」のスコアを付与する。支
払い能力の総合スコアが「ca」または「c」となった場合、全体の財務プロファイルのスコアも同
様のスコアとなる。
2.流動性
ムーディーズの流動性の評価は、銀行の資金調達構造(資金が引き揚げられる可能性の判
断に基づく)に加えて、デフォルトを起こさずまたは緊急時のサポートに依存することなく、資
金逼迫期のつなぎ資金となりうる流動性原資というリスク軽減要因を総合的に勘案するもので
ある。
45
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
従って、流動性の総合評価は、資金調達構造(負債側の分析)と流動性原資(資産側の分析)
の二つの要素に分割される。
図表 18
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スコアカードの構造-流動性
A. 資金調達構造 (20%)
この要因を重視する根拠
資金調達源の中には信頼性の劣るものもあることから、銀行の資金調達構造は潜在的な支援
の必要性に密接に関わってくる。すなわち、信頼性を欠く資金調達源(短期性の資金や、リス
ク感応度が特に高いカウンターパーティから調達する資金など)を多く用いる銀行は、周期的
に債務のリファイナンスが困難となる可能性が高くなる。そのような銀行は、その他の条件が同
じであれば、サポートを必要とするリスクがより高まる。
資金調達源には様々なものがあり、それぞれに特徴がある。極端にいえば、リテール預金者
のリスク許容度は各々異なり、従って各々の預金の動きも異なる。しかし、十分に分散された
預金基盤は通常、ほとんどの条件の下で比較的安定的な動きを示す。殆どの国において、一
定金額までの預金者を国が保護する預金保険制度があることがその主な理由である。この制
度の下で保護された預金者にとって、金融機関のリスクは理論的にはそれほど重要ではない。
とはいえ、預金保護スキームに事前の財政的裏付けが必ずしもあるわけではなく、一時的に
預金が引き出せなくなる可能性があるため、実際には預金の取り付け騒ぎが起こりうる。
しかし、リテール預金は全般に、インターバンク調達、債券、短期のコマーシャル・ペーパーな
どの「ホールセール」の資金調達源よりも「粘着性」(安定性)があるとムーディーズは考えてい
る。ホールセール資金は、リスク選好や信用力の変化により敏感に反応し、安定性の面で劣
る 34。
評価基準:市場資金/有形銀行資産
35
ムーディーズの主要比率は、市場資金/有形銀行資産である。この比率は、信用力に敏感
な投資家やカウンターパーティからの資金調達がバランスシートに占める割合を表している。
従って、負債サイドのボラティリティとその結果生じる流動性リスクを測る指標となる。ムーディ
46
SEPTEMBER 11, 2014
34
例えば、IMF Working Paper 09/152 を参照されたい。
35
付録 5 の定義を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
ーズは、調整後の総資産に対する市場資金の比率を測定する。総負債ではなく調整後の総
資産と対比するのは、定義上永久資金源となる株主資本(総資産と総負債の差額)を評価す
る立場からである。この指標は、カバードボンドあるいはそれと同等の資金調達を除き、全て
の市場資金を同等に扱う。カバードボンドあるいはそれと同等の資金調達は、通常長期かつ
超過担保の性質を併せ持つことから、他の一般的な市場資金に比べて大幅に感応度が低い
とのムーディーズの見方に基づき、その 50%が市場資金の計算上除外される。
ムーディーズの調査によると、この比率は今回の危機時においても高い予測能力を示した。
市場資金への依存度が相対的に高い銀行は、サポートを必要とする傾向も高まるという結果
がみられた。ムーディーズは、この指標を次のようにスコアリングする(図表 19 参照)。
図表 19
市場資金/有形銀行資産のスコアリング
VS
<=
3.75%
VS<=
5.0%
S+
<=
7.5%
S
<=
10%
S<=
15%
M+
<=
20%
M
<=
25%
M<=
30%
W+
<=
35%
W
<=
40%
W<=
50%
VW+
<=
60%
VW
<=
70%
VW>
70%
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VS+
<=
2.5%
出所:Moody’s
資金調達構造の調整要因
上述の通り、資金調達構造の初期総合スコアを決定するムーディーズの比率は、銀行の資金
調達構造の細部を捕捉するようにはできていない。そのためムーディーズは、銀行の資金調
達全般の質、ひいては最終スコアに影響を与えるその他一連の要因も考慮する。以下では、
それらの要因の評価の枠組みを説明する。
市場資金の質
感応度の高い資金調達先に対する銀行の負債の依存度を示す指標である。この指標は、市
場資金調達は預金による資金調達よりも信頼性が劣るとの想定に基づいており、それは概ね
当たっているとムーディーズは考えている。しかし、市場資金の範囲は広く、その中には他の
資金よりも信用への感応度が高いものがある。感応度の程度を決定する要因は多種多様で
ある。そのため、ムーディーズの評価は、様々な資金調達の種類や投資家のタイプが持つ特
徴に対するムーディーズの見方に基づくより定性的な判断に依拠する。
ムーディーズは、様々な市場資金の調達手段を次のように区分する。
» 外国人投資家。投資家と発行体の関係が十分に確立していないことが多いため、外国人
投資家は一般的に安定性が劣る。外国人投資家は、リスク回避の傾向が高まる局面でキ
ャッシュを本国に送金する傾向があることから、外国人投資家からの資金調達は国内投資
家からの調達に比べて本来的に信頼性が劣る。
» マネー・マーケット・ファンド。これらの資金は、オープンエンド(中途変更が可能)で短期の
投資(オーバーナイトかそうでなくとも非常に短期)としての性格を有するほか、信用格付
への感応度が高くその投資家層が信用力に敏感であることから、相対的に変動性が高い。
» インターバンク調達。銀行間の関係はしばしば互恵的で、銀行間預金にはある程度の「粘
着性」(安定性)が認められる。しかし、インターバンク調達は通常無担保であるため、ストレ
ス時には引き揚げられやすい性格を持つ。加えて、銀行間の相関関係は通常高く、一つ
の銀行が苦境に陥った場合にしばしばその他の銀行に伝染する。そのため、全ての銀行
が一斉に資金を引き揚げ、他行へのエクスポージャーを減らそうとする動きがみられること
がある。
» 国内の無担保自国通貨建て投資家。投資家と発行体の関係がより強いことが多く、投資
家の選択も限られていることが多いため、これらの資金は比較的粘着性がある。従って、こ
の投資家の資金が市場資金に占める比率が高くなれば、市場資金調達の質の向上に寄
与する。
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
» レポ調達。この種の有担保調達は、証券が担保となることから、カウンターパーティの信用
力に敏感ではなく、従って理論上は信頼性がある。しかし、実際にはこの種の資金調達手
段であっても、カウンターパーティに信用上の懸念が発生すれば引き揚げられたり、期間
が短縮されることがある。特に非伝統的な担保が用いられるレポ取引契約の場合にそれが
あてはまる。
» カバードボンドの投資家。投資家が担保の利益を享受でき、信用動向にそれほど敏感で
はないことから、比較的粘着性がある。一部の銀行システムでは、カバードボンドによる資
金調達が機関投資家の主要な運用手段となっており、投資家はこれらの証券に投資する
以外に選択肢がほとんどないことから、カバードボンドによる調達の安定性を高めている。
この資金調達手段は通常、長期である(後段で詳述)。
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» 少額債券。この種の債券はリテール投資家によって保有されることが多く、リテール預金に
似た動きをする。場合によっては、預金保険の対象となり、債券保有者の信用への感応度
をさらに減少させることもある。そのような情報が入手可能な場合、ムーディーズはこの種
の債券を市場資金ではなく預金として再分類することがある。
市場資金が高品質のもの(少額債券、国内投資家、カバードボンド投資家など)を多数含ん
でいると考えられる場合、ムーディーズは資金調達構造のスコアを引き上げる場合がある。例
えば、初期スコアはやや低いが、それが資金調達の信頼性を十分には織り込んでいないと考
えられる場合などである。しかし、市場資金が最も信認感応度の高い投資家(例えば外国の
マネー・マーケット・ファンド)に偏っている場合には、流動性の総合スコアを引き下げることが
ある。信頼性の劣る資金調達源が資金調達の主要部分を占める場合には、十分なリスク軽減
要因がない限り、ムーディーズが「ba」カテゴリーを上回るスコアを付与する可能性は低くなる。
銀行グループ内の資金調達は、カウンターパーティが通常銀行であることから、市場資金とし
て扱われる。この種の資金の性格と信頼性はグループによって大きく異なっており、資金調達
構造のスコアに大きな影響を与える場合もある。例えば、それらの資金の中には極めて裁量
的で短期の性質のものがあり、契約面の信頼性が弱い可能性がある。但し、ムーディーズは
その種の資金提供を関係者からの支援の一形態とみなすことがある。他方、グループによっ
ては、リテール預金の「パススルー」など構造的な取り決めを有するものがあり、それらの資金
は実際上は極めて安定的である。そのようなケースでは、この種の資金を控除した比率を用
いて資金調達構造のスコアを付与することがある。
預金調達の質
ムーディーズはまた、預金の信頼性に基づいて預金調達を区分する。
» 当座預金。支払いの受払いに伴って日々変動するこのタイプの預金は、個別にみると最も
変動性が高い預金とみられるが、顧客は日々の取引にこのタイプの預金を用いているので、
全体としてみると最も安定的な資金調達源となることが多い。
» 少額貯蓄口座。このタイプの預金は比較的安定的で、顧客は相当長い期間にわたって資
金を滞留させることが多い。残高が少ないため金利変化に対する感応度は小さくなり、預
金者は不作為による損失を被ることがほとんどないというのが一つの理由である。
» 税制優遇のある貯蓄口座。預金者は引き出しを行なう際に不利益を被ることが多いため、
このタイプの預金は大口の場合であっても比較的安定的である。
» 大口個人預金。このタイプの預金は金利の変動により敏感に反応するため、安定性がや
や劣る。大口であるということは、少数の個人が大きな金額をコントロールしており、従って
引き出された場合の影響も大きくなる。加えて、預金保険の上限を超える預金者は、信用リ
スクの動向により敏感になる。このタイプの預金には個人富裕層の預金が含まれる。
» 預金獲得チャネル。郵便貯金口座や支店口座は、証券会社やインターネットを通じて獲
得した預金よりも粘着性が高い傾向がある。
48
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
» 企業預金。通常は金額が大きく、預金保険の対象とならないこの種の預金は、信用リスク
により敏感に反応する。従って、企業預金の管理者はリテール預金者よりも信用リスクに敏
感になる。しかし、このタイプの預金(少なくともその一部)は、キャッシュ・マネジメント、貸
出あるいはその他のサービスなどの顧客との長期間にわたる取引関係に結びついており、
一定の粘着性がある。小規模事業者の預金については、オーナーがこれらの口座を決済
目的に用いることが多く、リテール預金や当座預金と同様の動きを示すことが多い。
» 洗練された投資家。銀行、保険会社、中央銀行、地方政府などの投資家は、銀行に多額
の預金を預ける。このタイプの預金は、通常は預金管理者の金利・リスク感応度が極めて
高く、インターバンク調達やマネー・マーケット商品に似た動きをみせる。
ムーディーズは、公開情報や市場特性の分析に加え、発行体との議論を通じて、銀行の資金
調達基盤の理解に努める。
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ムーディーズは、それらの情報に基づき資金調達構造のスコアを調整することがある。預金の
構成が預金保険の対象となる少額のリテール顧客でほぼ占められ、当座預金の比率が高く、
富裕層の大口預金、機関投資家・大企業の預金の割合がそれほど大きくはないと考えられる
場合には、資金調達構造のスコアを引き上げる場合がある。一方、機関投資家・大企業、個
人富裕層、インターネット・バンキングなどのより信用リスクに敏感な顧客が預金調達に占める
比率が高い場合、あるいは特定の調達先への集中が大きいとみられる場合、ムーディーズは
資金調達構造のスコアを引き下げる場合がある。
期間構造
事業の性格上、銀行は短期で借りて(預金またはホールセール資金のいずれか)長期で貸し
出すいわゆる期間の転換を行なう。前述の通り、これが銀行事業に内在する脆弱性源となる。
しかし、満期のミスマッチの程度は様々である。
財務諸表には、常にではないが、しばしば期間別に資産と負債の満期が開示される。しかし、
開示は一貫性を欠き、また資産が契約上の満期に沿った動きを示さない場合も頻繁に存在
するなど、相当の不確実性を伴うことから、ミスマッチの度合いを評価するグローバルなスケー
ルを構築するのは不可能である。
長期資金と短期資金のマッチングの度合いは、バーゼル委員会による安定調達比率(NSFR)
でも測定できる 36。しかし、この比率を一貫した形で入手することはまだできない。ムーディー
ズはそのため、「コア」となる安定資金調達と非流動資産の関係に注目する。この指標は概念
的にNSFRに近いもので、ムーディーズが証券業界のグローバル格付手法で用いるネット・キ
ャッシュ・キャピタル/リキッド・ネット・アセットに似ている 37。ムーディーズは、金融機関の安
定的な資金調達(コア預金、長期債務、株式)が長期かつ非流動の資産(貸出、非流動の投
資、トレーディング在庫のヘアカット、のれんなど)をどれだけ超過(不足)するかを測定する。
オフバランスシートのコミットメントももう一つの(偶発的な)期間転換の源泉となる。例えば、銀
行は顧客または他の銀行に巨額の未使用クレジットラインを供与している場合があり、偶発的
なキャッシュ流出を発生させる可能性がある。そのようなキャッシュ流出の可能性は、銀行が
受ける(または供与する)コミットメントの具体的内容やカウンターパーティの行動に左右される
ため、固定的なスケールを用いて正確に評価することは出来ない。銀行が供与したコミットメン
トの中には、他のコミットメントに比べて銀行がストレスに直面している時に使用される可能性
が高いものがある。例えば、銀行と密接な関連を持つ非連結の特別目的会社に提供される資
金供与枠は、引き出される可能性が高い。他方、未使用の住宅ローン・コミットメントについて
は、銀行が困難な状況にあっても感応度はそれほど高くない。
49
SEPTEMBER 11, 2014
36
http://www.bis.org/publ/bcbs188.htm を参照されたい。
37
2013 年 5 月 24 日発行の Global Securities Industry Methodology(ムーディーズ・ジャパン版「証券会社のグローバル格
付手法」2013 年 7 月)を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
ファンディング・ギャップがほぼゼロで、従って資産と負債が「完全にマッチ」している場合(あ
るいは安定調達比率が 100%を大きく上回る場合)、ムーディーズは資金調達構造のスコアを
引き上げることがある。これは、銀行は資産の満期に合わせて計画的に負債を返済できるた
めである。しかし、たとえ資金がマッチングしていたとしても、ホールセール資金調達に依存す
る金融機関に高い資金調達のスコアを付与する可能性は低い。これは、実務上、銀行は調達
資金の満期が短期化する中でも貸し出しを継続し、かつ/またはトレーディング在庫を保有し
続け、営業基盤を守ろうとすることから、資金が枯渇した時にマッチング方針を放棄する可能
性があると考えられるためである。
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反対に、銀行のホールセール資金調達が短期調達(デュレーションが 12 ヵ月未満)に大きく
偏っており、対応する流動資産を保有していない場合、当該銀行が 12 ヵ月以内に満期が到
来するホールセール資金を返済するためには、新規事業の制限かつ/または損失を覚悟した
上での非流動の資産の売却によってしか返済できないことを意味する。ホールセール資金へ
の高い依存度は、長期の非流動資産に対する安定調達資金の不足分としても示され、そのよ
うな場合には、ムーディーズは資金調達構造のスコアを引き下げることがある。その不足が重
大なリスクを示しているとムーディーズが考えた場合、リスク軽減要因がない限り、資金調達構
造のスコアは「ba」カテゴリーまたはそれ以下に位置づけられる可能性が高い。
市場へのアクセス
銀行が多額のホールセール借入を有する場合、その銀行は通常のビジネス環境下において
資金調達市場にアクセスできるとムーディーズは考える。
しかし、銀行特有あるいは銀行システム全体の懸念材料によって、銀行の無担保あるいは場
合によっては有担保の資金調達市場へのアクセスが制限を受けることがある。それは次のよう
な事態を招く。
» 資金調達コストが上昇することによって収益が影響を受け、かつ/または採算性の認められ
る新規事業を行なう銀行の能力が制約を受ける
» 負債のデュレーションが短くなり、ミスマッチが拡大する
» 満期前に資産を売却する必要が生じ、結果的に損失が発生し資本の毀損につながる可
能性がある
債券の多くは非公開で受け払いが完結するため、銀行の資金調達能力を正確に測定するの
は困難な場合がある。しかし、債券あるいはクレジット・デフォルト・スワップのスプレッドは、銀
行が発行する債券に対する市場の需要を示す恰好の指標となる。それらの指標が格付レベ
ル相当を大幅に上回るスプレッドを銀行が支払っていることを示唆する場合、ムーディーズは
市場へのアクセスが制限されていることを反映するため、流動性のスコアを調整する場合があ
る。ムーディーズは、銀行の資金調達市場へのアクセスを評価するため、債券またはクレジッ
ト・デフォルト・スワップに基づくムーディーズのマーケット・インプライド・レーティング(MIR)を
用いることがある。MIR がムーディーズの発行体格付から大きく乖離する、あるいその絶対水
準が低いなど、何らかの苦境を示唆している場合、その銀行の市場へのアクセスは低下して
いると判断する場合がある。その判断にはムーディーズによる地場市場の分析とその解釈が
織り込まれる。MIR が入手不可能な場合、あるいは流動性の欠如のためにその MIR が信頼
できないとみなした場合、ムーディーズは、市場へのアクセスを判断するため、地場市場に関
する自らの知見に照らして、調達スプレッド、最近発行された債券に対する市場の反応、ある
いは債券発行の欠如などを考慮する。その分析の結果によっては、流動性の総合スコアを引
き下げることがある。例えば、銀行が市場で資金を調達できず、事業継続のために必要となる
資金調達源からの調達力が深刻に悪化していると考えられる場合、ムーディーズが「b」カテゴ
リーを上回るスコアを付与する可能性は低くなり、さらに資金調達ができなくなり破綻に至る可
能性が高まった場合には、「ca」あるいは「c」のスコアを付与する可能性がある。
50
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
B. 流動性原資 (15%)
この要因を重視する根拠
銀行の負債サイドの構造は、銀行の資産サイドと合わせて評価されなければならない。銀行
が資金調達先の姿勢の変化に応じて売却可能あるいはレポ市場での資金調達に利用可能
な高品質の流動性の高い証券の形で見返り資産を有している場合、その銀行は信用力に敏
感な投資家からも一定程度は借り入れを行なうことができる。
評価基準:流動資産/有形銀行資産
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ここでも、世界の銀行について確実に計算できると考えられる定義された比率が分析の起点
となる。ムーディーズが起点として用いる主要比率は、流動資産/有形銀行資産である。この
指標は、前述の市場資金/有形銀行資産比率の相殺要因となる。ムーディーズの調査はこ
こでも、相対的に流動資産の保有水準が低い銀行はサポートを必要とする傾向が高まること
を示している(図表 20 参照)。
図表 20
流動資産/有形銀行資産のスコアリング
VS+
>=
70%
VS
>=
60%
VS>=
50%
S+
>=
40%
S
>=
35%
S>=
30%
M+
>=
25%
M
>=
20%
M>=
15%
W+
>=
10%
W
>=
7.5%
W>=
5.0%
VW+
>=
3.75%
VW
>=
2.5%
VW<
2.5%
出所:Moody’s
流動性原資の調整要因
上述の通り、ムーディーズの流動性原資の初期総合スコアを決定する比率は、銀行の流動性
プロファイルの細部を捕捉するようにはできていない。そのためムーディーズは、銀行の流動
性の全般的な質、ひいては最終スコアに影響を与えるその他一連の要因を考慮する。以下で
はこれらの要因の評価の枠組みを説明する。
流動資産の質
資産サイドでは、流動資産の質とその換金性を考慮することが重要であるとムーディーズは考
えている。
例えば、分析に際しては、担保が設定されている資産は無視して、質が高く担保が設定され
ていない流動資産、いかなる市場環境下でも非公開市場で即時に売却できるか担保に差し
入れて現金化できる、あるいは極端な状態において中央銀行の標準条項による買いオペ対
象とされるなど、高品質の担保が設定されていない流動資産を銀行がどれだけ保有している
かを評価する。マーケット・メイキングやトレーディングの過程で用いられる資産は、担保は設
定されていないが流動性が限られる場合があり、またそれらを売却または担保に差し入れて
現金化した場合、資本市場で顧客にサービスを提供する銀行の能力が損なわれる場合があ
る。そのため、それらの一部はムーディーズの分析から除かれる。
ムーディーズは、流動資産の比率が流動性を過大評価していると考える場合、流動性原資の
スコアを通常、最大で 3 ノッチまで引き下げる場合がある。そのような場合は、流動資産に以
下のような資産が含まれているケースである。(1)相当程度の処分制約のある資産、(2)マー
ケット・メイキング目的で保有されている資産、(3)即時に市場で売却できないか信用力が劣
る資産、あるいは(4)中央銀行からの資金調達に活用できない資産。
ムーディーズは、流動資産の比率が流動性を過少評価していると考える場合、流動性原資の
スコアを通常、最大で 3 ノッチまで引き上げる場合がある。そのような場合は、以下が存在す
るものの比率には反映されていないケースである。(1)契約に基づく信頼性の高いコミットメン
トライン、(2)非常に質が高い資産(Aaa または Aa 格の政府債あるいは政府機関債など)。
38
51
SEPTEMBER 11, 2014
付録 5 の定義を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
この分析では、銀行の規制上の流動性カバレッジ比率(LCR)またはそれに相当する比率、特
にLCRの構成要素である高品質の流動資産(HQLA)を考慮に入れる 39。LCRは、負債サイド
で想定されるキャッシュ流出に対して充当可能な流動資産がどの程度あるのかを測定するも
ので、短期の期間転換の指標となる。一般的に、HQLAは上述の考え方に基づいたムーディ
ーズの流動性評価と密接に関連すると考えている。しかし、LCRがムーディーズの評価と異な
っており、それが他では認識されない潜在的な強みあるいは弱みを示唆する場合、総合的な
評価にそれらの要因を織り込むため、流動性のスコアを調整する場合がある。例えば、貸出コ
ミットメント枠のドローダウンなどのキャッシュ流出の可能性を考慮する場合がある。
ムーディーズは、公開情報に加え、格付対象発行体との一連の対話を通じて得た情報に基
づいてこの分析を行なう。
グループ内の制約
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連結ベースの資金調達指標は一見強固であるが、それによって、流動性と資金調達を維持
する銀行の能力を大幅に低下させるグループ内の制約が隠れている場合がある。例えば、預
金の大部分は子会社が獲得するが貸し出しは親会社が行なう場合がある。その場合、子会
社から親会社に資金を移転するに際して重大なグループ内エクスポージャーが発生する。一
般的に、親銀行と同じ国にある子会社の場合には、子会社に何らかの制約が課される可能性
は低くなるが、子会社が異なる国に所在しその国の規制基準に従う場合には、子会社の所在
国の規制当局が親銀行に不利となる規制を課すことがありうる。そのような場合、連結ベース
のバランスシートには子会社の預金が含まれているにも関わらず、親会社は自らのバランスシ
ートに不安定な市場資金調達を計上せざるを得なくなる。
この検討では、異なる規制当局の姿勢とグループ内の銀行の資金調達状況を考慮する必要
があり、定性的な判断に大きく依存せざるを得ない。そのためグローバルなスケールを設定す
るのは適切ではない。しかし、グループ内の資金調達に重要な障壁があるとムーディーズが
判断する場合、流動性の総合スコアを通常最大で 3 ノッチまで、深刻なケースではそれ以上
引き下げることがある。例えば、ストレス時に資金移転に制限が課せられるかもしれない銀行
の連結グループ内の複数の主体の資金調達プロファイルに大きな差異がある場合などである。
流動性の総合スコア
流動性の総合スコアは、総合財務プロファイルのそれぞれのウエイト(20%と 15%)に応じて
加重された資金調達構造と流動性原資のスコアの平均から導かれる。ムーディーズは、流動
性原資よりも資金調達構造を重視する。これは、市場資金調達の増加は、銀行の流動性原資
の同額の増加による軽減効果を超えて、銀行の信用リスクプロファイルを高めるとのムーディ
ーズの見方を反映したものである。そのため、流動資産の保有は少額ながら市場資金調達が
限定的で預金調達が主体の銀行は、多額の流動資産を保有するものの市場資金調達も多
額となっている資本市場調達が主体の銀行よりも、高い流動性の総合スコアを達成できる。こ
れは、全般に後者の方が脆弱であるとのムーディーズの見方を反映したものである。
3.財務プロファイルの総合スコア
上述の支払い能力と流動性の評価と、関連する調整の合計から、各要因の複合スコアが導か
れる。ムーディーズは、これらのスコアを組み合わせることによって、BCA スケールで「aaa」から
「c」で表わされる全体的な財務プロファイルを導出する。組み合わせでは、支払い能力が財
務プロファイルの 65%を占める一方、流動性が残りの 35%を占める。これは、第一に支払い
能力が銀行の破綻の根本原因であり、流動性の問題はその兆候であると考えられること、第
二に個別銀行の流動性リスクは事業を継続する過程で中央銀行によって一部緩和されるで
あろうとのムーディーズの見方を反映したものである。
39
52
SEPTEMBER 11, 2014
この規制上の比率の詳細は http://www.bis.org/publ/bcbs238.htm を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
定性要因
既に述べたように、銀行のファンダメンタルズはこれまで議論してきた二つの要因、すなわち
支払い能力と流動性にほぼ集約することができるとムーディーズは考えている。しかし、それら
の中核的なファンダメンタルズに影響を与えうるその他の銀行固有の要因が存在し、それらは
支払い能力や流動性の様々な要因に直ちに帰するとは限らない。それらは通常、定性的な
性格を持ち、特定の比率から得られる情報に基づいて判断するケースもあるとはいえ、基本
的に比率に基づくスコアリングには馴染まない。それらの要因は、以下の通りである。
» 業務の分散度
» 不透明性および複雑性
» 行動特性
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以下では、これらの要因とムーディーズの評価方法について説明する。
業務の分散度
業務の分散度が重要となるのは、単一の業務で発生したストレスへの銀行の感応度を見極め
る上で指標としての役割を果たすからである。業務の分散度は、相関が低い様々な業務を通
じた収益源の分散が、銀行の収益源の安定性、ひいては予想外のショックを吸収する可能性
を高めるという意味で、収益の安定性に関係する。しかし、これは(上述の支払い能力で考慮
される)資産の多様性とは区別される。また、業務の分散度と収益の安定性とは切り離して考
えることが重要である。なぜなら、「モノライン」のビジネスモデルでも長年にわたって高い安定
性を示してきた例があるためである。とはいえ、銀行自らが選択した業務分野で問題が発生し
た場合には、他に頼る収益源がないことから脆弱性が露呈するのは免れない。従って、ムー
ディーズは、収益のボラティリティが同程度の場合であっても、モノラインの銀行は業務が分散
された銀行よりも脆弱であるとみなす。
ムーディーズはそのため、この評価を考慮して、財務プロファイルを調整することがある。一般
に、収入または利益の 4 分の 3 以上を単一の業務(例えば住宅ローン、クレジットカード、資
本市場取引など)に依存する銀行は、比較的分散度が低い銀行とみなし、財務プロファイル
の評価を1ノッチ、場合によってはそれ以上引き下げることを検討する。しかし、フルサービス
のリテール・バンキングは一定の多様性を内在しており、単一の業務とはみなさない。
一方、極めて分散された業務を展開する銀行の場合、複数の業務が全体の収益の安定化に
寄与し、資本生成と損失吸収の確実性を高めることから、債権者に恩恵をもたらすとムーディ
ーズは考える。収益の安定性を考慮した支払い能力のスコアの調整にこの恩恵が織り込まれ
ていない場合、ムーディーズは財務プロファイルを1ノッチ引き上げることでその恩恵を反映
することがある。
不透明性および複雑性
ムーディーズは、他の条件が同じであれば、金融機関の複雑性が増加するにつれて金融機
関のリスクも増加すると考える。これは、複雑性は経営陣の課題を増幅し、戦略や事業遂行上
のリスク(上述の伝統的なオペレーショナルリスクとは区別される)を高めるためである。また、
複雑な組織の場合、単純化した形で業務内容を公開することが多く、不透明さが増すことが
多い。それに対し、比較的複雑ではない銀行は、少ない開示でより高い透明性を実現できる。
しかし、単純性が透明性を保証する訳ではない。一部の業務活動の中には、他の業務活動
に比べて本来的に不透明であるものもあるとムーディーズは考えている。例えば、資本市場
業務(トレーディング)は極めて複雑な場合が多い一方で、比較的複雑ではないものもある
(例えば株式ブローカー業務など)。また、バランスシートが急激に変化し、開示内容が急に
実態を適切に反映しなくなった結果、不透明性が高まる場合がある。ムーディーズはまた、一
部の商品、特にデリバティブや高度な証券化商品などは、本来的に他の商品よりも複雑であ
ると考えている。
53
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
その一方、会計上の開示が乏しいか信頼性が低いために銀行のファンダメンタルズを見極め
ることが困難な場合、業務内容が複雑ではなくても不透明なことがある。
ムーディーズは、不透明性かつ/または複雑性が平均を上回る銀行は、次のような特徴を持っ
ていると考えている。
» 様々な地域で様々な法的主体を通して数多くの業務を行なっている。これは、上述の分
散を生み出す特徴でもあるが、組織を複雑にする要因にもなる。
» デリバティブへのエクスポージャーが大きい。金融機関のネットのデリバティブ資産または
負債が有形普通株主資本を上回る場合、債権者にマイナスとなる一定の複雑性と不透明
性が存在すること示唆する。
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» 複雑な法的構造。金融機関の法的構造あるいは所有構造が複雑な場合がある(例えば多
様な少数株主持ち分、オフショア持ち株会社、ピラミッド構造など)。
» 他の金融機関向けの複雑で長期にわたるエクスポージャー。この種のエクスポージャーは、
金融機関の間に内在する高い相関関係とそこから生じる「誤方向リスク」によって、リスク・
プロファイルの評価をより困難にする。このエクスポージャーによって、一金融機関の問題
が直ちに他の金融機関に伝染するという脆弱性の問題が生じる。
» 信頼性を欠く会計。会計基準の信頼性には差異がある。US GAAP と IFRS は全般に高度
な基準であると考えられる。しかし、一部の会計基準の要求水準はより低く、銀行の資産の
真の価値、ひいては支払い能力の判定を困難にしている。会計基準そのものとは別に、特
定の国の証券取引規制の質、監査基準および監査慣行の成熟度、ならびに発行体の財
務報告体制の質についての懸念も、銀行の資産の真の価値に関して疑念を抱かせる要
因となる。
これらの特徴は、非常に大規模な銀行にみられる場合が多いとムーディーズは考えている。
ムーディーズは、必ずしも規模自体をネガティブな信用要因とはみなしていない。しかし、バラ
ンスシートの絶対的な規模を複雑性の潜在的指標とみなして、より詳細に検討する場合があ
る。
ムーディーズは、金融機関が上記のいずれかの特徴を示す場合、通常は1ノッチ、極端なケ
ースではそれ以上の幅で財務プロファイルの評価を引き下げる場合がある。
行動特性
銀行の信用力は、ムーディーズが「行動特性」と称する要因の影響を受けるが、「行動特性」
はその他の懸念事項の兆候も示唆する。ムーディーズが検討する要因には、次のようなもの
がある。
» キーマンリスク。銀行が特定の幹部あるいは幹部グループに大きく依存している場合、そう
したキーマンを失えば銀行の将来のファンダメンタルズに悪影響を与える可能性があると
いう意味で、その銀行のリスクを高める要因となる。例えば、ある銀行の顧客がその銀行の
最高経営責任者と銀行自体を密接に結び付けて考える場合、後継計画が十分でなけれ
ば、最高経営責任者の退任とともに、銀行は取引および収益を失い、ひいては資本の減
少につながることもありうる。
» インサイダーおよび関連当事者にかかるリスク。銀行が銀行の経営陣などのインサイダー
に関連当時者貸出の形で多額の貸出を実行する場合、利益相反の問題を生み、銀行の
評判、ひいては銀行の資金調達能力を損なう可能性がある。
» 戦略および経営。急激な戦略変更、経営陣の刷新、手腕が実証されていないチームなど
は全て、銀行のリスク・プロファイルに関する不確実性を高める突然の変化の予兆となって
いる可能性がある。積極的な成長計画はリスク選好の高まりを示唆する場合があり、リスク
管理に明らかな弱点がある場合、銀行にとって不利なエクスポージャーを増大させる要因
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
となる。役員や経営人による監督の厳格性について懸念がある場合にも、この要因で考慮
される。
» 配当方針。積極的な配当方針は、財務の柔軟性の低下を示唆する場合がある。銀行の経
営陣は、マイナス・イメージの醸成や株価への悪影響を懸念して、定着した配当水準の引
き下げを躊躇する傾向がある(配当ほどではないとはいえ、自己株取得も同様である。そ
の自己株取得が発表済みであっても、実行の時期と確実性は経営陣の裁量に委ねられる
部分が大きい)。
» 報酬方針。同様に、給与に比して高い賞与を支払い、それも現金賞与に偏るなど、積極
的な報酬方針が採用される場合、債券保有者に不利となる短期的なリスクテイクを助長す
る可能性がある。
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» 会計方針。より厳格な会計基準(US GAAP や IFRS など)に従いながら、強引な会計方針
を採用する銀行がある。財務諸表の訂正も会計管理体制の効率性、財務比率の正確性
について疑念を抱かせる要因となる。銀行が収益データを訂正せざるを得なくなるケース
では、極端な場合、経営陣および金融機関全般に対する資金調達カウンターパーティの
信頼が失われることもある。
これらの要因のいずれかが銀行全体のリスク・プロファイルに重大な影響を与えると判断され
る場合、ムーディーズは財務プロファイルの評価を引き下げる場合がある。引き下げ幅は通常
1 ノッチであるが、複数の問題が認識され、かつ/または問題の根が深い場合には、それ以上
になる場合もある。
BCA に対する制約
ソブリン格付
銀行は、事業の性格上、ソブリンに対して多額のエクスポージャーを抱える傾向にある。それ
には、流動性に関連する中央銀行へのエクスポージャーや政府債の保有という形をとる直接
的なものと、それ自体が政府の信用力に相関する実体経済への貸出エクスポージャーなどの
間接的なものがある。
そのため、銀行が本拠を置く国の自国通貨建て長期債務格付を上回るBCAが銀行に付与さ
れることは殆どない 40。一般に、ソブリン関連のリスクは、第一にムーディーズのマクロ・プロフ
ァイルを通じて、第二に必要に応じて行なわれるムーディーズの与信集中に係る調整を通じ
て捕捉される。しかし、初期のBCAがソブリンよりも高くなる場合、付与されるBCAはソブリン格
付に制約を受ける可能性がある。これにより、与信集中の評価では捕捉されない間接的なエ
クスポージャーが非常に大きいことが判明するリスクを捕捉する。
一方、場合によっては、BCA が自国のソブリン格付を上回るケースもある。通常はその幅が1
ノッチを上回ることはないが、政府への直接のエクスポージャーが比較的小さい場合(例えば
有形普通株主資本の 50%未満)、国外で高度に分散した業務を行なっている場合、また国
際資本市場からの信認感応度の高い資金への依存度が低い場合、などである。それらの状
況は、銀行とソブリンの間の信用力の依存関係を低下させる要因になるためである。
親会社またはグループの財務力
親会社あるいは当該金融機関グループの信用力の悪化は、直接かつ間接的に銀行子会社
の信用の質に影響を与える。親会社の段階での信用問題は、様々な経路を通じてリスクを子
会社に移転する。4 つの主要な経路について説明する。
40
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SEPTEMBER 11, 2014
詳細は 2012 年 2 月 13 日発行のムーディーズのクロス・セクター格付手法 How Sovereign Credit Quality May Affect
Other Ratings(ムーディーズ・ジャパン版「ソブリンの信用力はどのように他の格付に影響しうるか」2012 年 2 月)を参照さ
れたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
» 資金移転によるサポート。増配や特別配当または企業間の資金移転(貸出あるいは預金)
は、子会社の資本かつ/または流動性を低下させる一方、親会社の資本かつ/または流動
性を強化する。
» 信認感応度/伝染。親会社の信用問題がグループ内の他の企業の信認の喪失につなが
り、その結果子会社の市場へのアクセスの喪失かつ/または営業基盤を損なう原因となるこ
とがある。また、銀行子会社が必要な時に第三者から資本を調達する選択肢は多くはない
が、親会社の問題に起因する信認感応度/伝染が選択肢をさらに狭める場合がある。
» イベントリスク。親会社の破綻(あるいは信用の質の悪化)が子会社の売却あるいは分離を
余儀なくさせる場合がある。そのような事態は、売却取引における取得側の信用力、売却/
分離に伴うレバレッジ増加、分離の場合には子会社のスタンドアローン企業としての事業
運営能力など、いくつかの要因によって、信用上のマイナス要素を生じさせることがある。
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» インフラの共有。親会社と銀行子会社は、IT システムやリスク管理・財務を含む重要な管
理・業務機能など、主要なインフラを共有することが多い。それらのシステムや業務機能の
停止は、組織全体に影響を及ぼす。
ムーディーズは、スコアカードの指標を分析する際に、親会社の信用リスクを考慮に入れる。
特に、親会社の巨額のエクスポージャーは、与信集中分析の潜在的調整要因となる。親会社
の流動性についての懸念は、子会社の流動性のスコアを下方調整する要因になるが、十分
に分離されていない子会社の自己資本のスコアには、親会社が提供する可能性のあるサポ
ートの可能性が反映されている場合がある。
しかし、子会社の格付に用いる手法の主要要因を検討しても、親会社の信用問題に関連する
リスクを完全には捕捉できないとムーディーズが判断する場合がある。例えば、親会社の信用
リスク上の問題に関連する信認感応度の伝染やイベントリスクの高まりは、ムーディーズのスコ
アでは完全には捕捉できないかもしれない。そのような状況では、親会社の格付が銀行子会
社の格付結果に制約を加えることがありうる。その場合、子会社の格付に親会社の信用問題
に伴うリスクを完全に反映させるため、事例ごとの定性的な判断が必要である。
実際上、銀行子会社の BCA が親銀行の単独ベースの信用力を 3 ノッチ以上上回るケースは
ほとんどないと考えられる。しかし、親会社の BCA が「b1」から「c」のレンジに移行し、親会社
の破綻が子会社の信用プロファイルに与える影響が徐々に明らかになるにつれて、親会社と
子会社のノッチング差は拡大するとみなす場合がある。例えば、格付がより高い主体に子会
社を売却する動きの進展は、銀行子会社の BCA を高め、親会社の BCA とのノッチ差を拡大
する要因になりうる。
BCA の判定
ムーディーズの BCA は、基本的に次の 3 つの分析要素によって決定する。
» マクロ・プロファイル
» 財務比率(マクロ・プロファイルと併せて財務プロファイルとなる)および
» 定性要因
BCA は、ムーディーズの BCA の「aaa」から「c」のスケールで示される。ムーディーズは、個別
要因のスコアを「aaa」、「aa」、「a」、「baa」などのカテゴリーで公表する予定である。
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 21
BCA スコアカードの例
ベースライン信用リスク評価
ABC銀行
国 XYZ
マクロ要因
152170
2
3
4
国/地域
マクロ・プロファイル
ウエイト
国2
国1
国2
非常に強い 強い
60%
20%
国3
国3
中位+
Strong
強い+ +
20%
100%
国1
加重平均マクロ・プロファイル
財務プロファイル
5
6
1
7
10
11
過去の財務指標
初期スコア
想定トレンド
付与されたスコア
主な要因1
主な要因2
2.0%
a1
↓↓
baa
業種集中
Geographical
concentration
低下傾向
8.5%
ba2
↔
b
Nominal
leverage
名目レバレッジ
業種集中
a3
↔
a
Earnings
quality
収益の質
12
支払い能力
資産の質
問題債権/総貸出
自己資本
有形普通株主資本/リスクアセット
収益性
1.0%
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純利益/有形資産
baa
baa1
支払い能力に対するスコア
流動性
資金調達構造
市場資金/有形銀行資産
15.0%
a2
↔
baa
Maturity満期変化
transformation
20.0%
baa1
↑
baa
グループ内制約
Intragroup
restrictions
流動性原資
流動性のある銀行資産/有形銀行資産
流動性に対するスコア
財務プロファイル
a3
baa
baa3
調整
コメント
業務の分散度
-1
モノライン貸出業者
不透明性および複雑性
0
n/a
行動特性
0
n/a
定性的要因による調整
-1
定性的調整
コメント
ソブリンまたは親会社による制約
Aaa
BCA レンジ
baa3 - ba2
調整後BCA
ba1
n/a
理由
競合他社比適切なポジション
出所:Moody’s
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
サポート・構造分析の詳細
ムーディーズのBCAは、銀行が最も下位の証券でデフォルトする可能性 41、あるいはそうした
デフォルトを回避するためにサポートを必要とする可能性を示すものである。その意味では、
単独での破綻の可能性を示すものである。もっとも、BCAは信用格付の単一の決定要因では
なく、破綻が、銀行の発行する様々な証券に与える影響についてのさらなる分析も織り込む。
これらを統合するのがサポート・構造分析である。
この分析は、発生するとムーディーズが予想する順に 3 つの段階から成る。
» 関係者からのサポート グループ内の企業、時として関係第三者からのサポートを受け、そ
れによってデフォルトの可能性が低下することがある。
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» 破綻時損失 政府サポート考慮前の、破綻が銀行の格付対象債務証券で発生する潜在損
失に与える影響を検討するための負債サイドの分析。
» 政府からのサポート 地域・地方政府、中央政府、国際機関からサポートを受け、それによ
って一部または全部の証券のリスクが低下することがある。
図表 22
信用格付へのサポートおよび破綻時損失分析の適用
サポートの意味
銀行に対するサポートは正確に定義しにくい。サポートの中にはムーディーズが「緊急時の」
サポートとはみなさない側面も含まれており、それらは BCA に織り込まれる。例えば、
» 銀行が強力な親会社と関係を持つことにより、資金調達が容易に行える場合がある。その
ようにして得られる収益および資金調達への恩恵を測定することは非常に困難である。従
って、これらの恩恵は BCA の一部とみなす。
» 銀行は関係者とキャッシュ調達に関する取り決めを結んでいることが多い。契約書による
合意があれば、商業的な契約とはみられないような場合でも BCA に織り込む。
» 銀行は一般に、通常の業務の一環として中央銀行から資金を調達している。
» 預金保険は銀行システム全体に対するサポートの一形式である。これがなければ、預金基
盤が不安定なものになることは確実で、銀行は預金取り付けに対する防護策としてより多く
の流動性資産を保有することが必要となり、他の条件が等しければ、それによって収益性
が低下する。
また、グループ企業間で必要に応じて資本や流動性を提供するという契約が、より私的な形
式で結ばれていることも多い点をムーディーズは認識している。こうした契約の実行は、必ず
しも緊急時のサポートの必要性を示す兆候とは限らない。この主のサポートが実施される場合
は、それがデフォルト回避に必要であったかどうかを考慮する。
ムーディーズが「緊急時の」サポートとしての性質を持つとみなす他の種類のサポートは、
BCA 分析とは別に検討する。そのようなサポートの例を以下に挙げる。
41
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SEPTEMBER 11, 2014
「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャピタル証券およびその他の証券の毀損を除く。これらは存続が
不可能となる前に毀損する。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
» 標準的な条件あるいは契約条件以外による第三者(親会社、関係者、中央銀行)からの流
動性の提供
» 「実質破綻」条項をトリガーとするジュニア債務の減額による追加資本生成
» 規制上の自己資本の不足または市場の信認の喪失を避けるための第三者からの資本の
提供
» 商業的には利用できない公的セクターまたはグループ内のリスク軽減スキーム
» 損失認識や破綻処理手続き開始を遅らせるための会計基準または規制基準の適用免除、
等の個別免除措置
» 政府の調停や支援による合併または買収
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「通常」のサポートと「緊急時」のサポートとの境界は不明瞭であることが多い点をムーディーズ
は認識している。さらに、銀行は「緊急時」のサポートがなければデフォルトするという明らかな
リスクがない場合でも、少なくとも短期的に「緊急時」のサポートを受けることがある。企業グル
ープ内ではこうしたケースがさらに多くみられる。企業グループ内では、法的契約外の資本・
流動性サポートが関係者間で行われることが比較的多い。従って、サポートの種類の識別に
は、必然的にムーディーズの判断が関与することになる。しかし、大抵の場合は銀行に提供さ
れた緊急時のサポートがデフォルト回避のために必要なものであったかどうかの識別は可能
であるとムーディーズは考えている。
ムーディーズのサポート分析の構造
サポートに対するムーディーズの全体的なアプローチは、現在複合デフォルト分析(JDA)の枠
組みで用いるアプローチと類似している(「付録 8:サポートへの複合デフォルト分析の適用」
を参照)。しかし、ここではアプローチを簡素化した。
上述したように、サポートの可能性を評価するためのアプローチには、ムーディーズの判断が
関与する。保証契約がある場合などを除けば、当然ながら将来のサポート提供には不確実性
が伴う 42。
そのため、ムーディーズはサポートに関する判断を下すための枠組みを以下に提示するが、
サポートを取り巻く状況は極めて特殊であることが多く、容易に予想できない要因を伴う。従っ
て、期待されるサポートから債務証券が得られる恩恵の評価は、下に示すアプローチから逸
脱することがある。さらに、「期待される」サポートと「実際に受ける」サポートとの違いは曖昧な
ことが多く、それが銀行の単独での信用力とサポートを考慮した信用力との境界を不明瞭にし
ている。例えば、銀行の国有化や政府保証が発表されれば、契約上の合意が成立する前で
も、直ちに資金調達の機会が改善する。しかし、調達状況の改善は、あくまでもサポートの期
待の効用である。
ムーディーズは、政府サポートがなければデフォルトが発生するという実質破綻に陥ったこと
が公表される前に、グループ企業が関係者にサポートを提供するのが一般的であるとムーデ
ィーズは考えている。そのため、通常は関係者からのサポートを破綻時損失分析より前に検
討する。一方、公的セクターからのサポートは BCA 事由の後に提供され、そのようなサポート
は特定の債務を対象とする傾向が強まると予想しているため、公的セクターからのサポートの
評価は一般に破綻時損失分析の後で行う。
第 1 段階: 関係者からのサポート
ムーディーズによる分析の第一段階では、関係者からのサポートを考慮する。この第一段階
で、サポート提供者とサポート対象者の両者の分析を通して得られるアウトプットが、調整後
42
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SEPTEMBER 11, 2014
保証またはそれと同等の法的拘束力のある信用補完の恩恵を受ける事業体または証券に対する格付の詳細につ
いては、ムーディーズのスペシャル・コメント Moody’s Identifies Core Principles of Guarantees for Credit Substitution
(日本語版「信用代替とみなされるための保証の基本原則」)を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
BCA である。調整後 BCA は、関係者からのサポートの考慮後の、デフォルトを回避するため
にサポートを必要とする可能性を示すものである。
原則的に、ほとんどの企業グループは連結対象の銀行にサポートを提供することが予想され
る。次に挙げるいくつかの考慮事項がこの予想の根拠となっている。
» グループ企業は投資対象である。従って、グループ企業には、投資価値を保護するため
に必要な場合はサポートを提供するインセンティブが作用する。
» グループ企業は直接的・間接的エクスポージャーを通じて相互に結びついていることが多
い。1 つのグループ企業の破綻は、追加のサポートがなければ他のグループ企業の破綻
につながる可能性がある。
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» グループ企業は相互に顧客を紹介することによりシナジーを追求することが多い。グルー
プ企業の破綻を容認すれば、この潜在価値を失うことになる。
» 多数の企業は純粋に「単独」で存在するようにはできていない。様々な事業体は、グルー
プ全体の戦略に適合する専門的な業務の遂行、特定のサービスの提供、特定地域での
事業を行う。
» 規制上の要件。規制または法律により、企業グループは関係者にサポートを提供する義
務を負う場合がある。
» レピュテーションリスク。 グループ企業 1 社の破綻により資金調達が困難になり得るため、
レピュテーションリスクはサポート提供への強力なインセンティブとしてグループ全体に作
用する。
しかしながら、サポート提供の意思の強さは企業により異なる可能性がある。
サポートの可能性
ムーディーズは、関係者からサポートが提供される可能性を、「非常に高い」、「高い」、「中
位」、「低い」に区分する。これらのカテゴリーは、サポートの可能性のレンジと結び付けられる
(「付録 8: サポートへの複合デフォルト分析の適用」参照)。
次の考慮事項を検討し、サポート提供の可能性を判断する。
» 支配。 グループが 100%所有し、支配している事業体はサポートを受ける可能性が高い。
» ブランド。グループの名称とロゴを使用する事業体は、レピュテーションを維持するというグ
ループ自身の利益のためにサポートを受ける可能性が高い。
» 規制。同一の規制当局の規制を受ける事業体は、サポートに関する規制上の障壁がない
とすれば、規制上の強制によりサポートを受ける可能性が高い。
» 地理。逆に、サポートを提供する事業体は、政治的あるいは規制上の考慮事項によって海
外子会社へのサポート提供が制約される可能性がある。
» 明文化されたサポート。コンフォート・レター、公的または私的なキープウェル・アグリーメン
トは、サポート提供の可能性の証左となり得る。
» 戦略的重要性。グループ戦略にとって重要とみられる事業体は、売却される可能性が低く、
サポートが維持される可能性が高い。規模の大きい子会社は、小規模の子会社に比べ戦
略的重要性が高い場合が多い(ただし、常にそうであるとは限らない)。
» 財務上の結びつき。事業体の売却がグループの財務および企業戦略に与える影響を考
慮する。影響が大きいほど、信用補完を受ける可能性のある事業体が売却される可能性
は低くなる。グループ内で多額の資金を調達している事業体もサポートを受ける可能性が
高いと考えられる。
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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» 親会社の方針。企業グループは本来、関係者に対し支援的であるとムーディーズは想定
している。しかし、常にそうであるとは限らない。グループ企業のサポートを行わなかった、
あるいはデフォルトの直前にグループ企業を売却したことがあれば、サポートの可能性の
評価は低くなる場合がある。
これらの基準を満たす数が多いほど、サポートの可能性は高いと考えられる。例えば、グルー
プが 100%所有・支配し、グループのブランドとロゴを使用し、グループ戦略の中核を成すと
みなされる業務を遂行している事業体は、具体的なサポートを受ける可能性が「非常に高い」
とみなされるだろう。
他の点は同じだが、グループが 51%を所有・支配している事業体は、サポートの可能性が「高
い」とみなされるだろう。
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グループが 100%を支配し、事業地域または商品がグループの事業にとって比較的周縁に属
するとみられるため、売却してもグループに大きな影響はないとみられる事業体は、具体的な
サポートを受ける可能性が「中位」とみなされるだろう。
他の点は同じだが、異なるブランドを使用し、同一グループに属することが明白ではない事業
体であれば、他の緩和要因がなければ具体的なサポートを受ける可能性が「低い」とみなされ
るだろう。
政府所有の銀行に対する「親会社」のサポートは通常、「関係者からのサポート」ではなく「政
府からのサポート」の項で検討することに留意されたい(後段参照)。
サポート提供能力
関係者が銀行にサポートを提供する能力を検討する際には通常、関係者自身の BCA を用い
る。BCA は通常、連結財務諸表に基づいて決定されるため(つまり、子会社も含まれる)、サ
ポート対象の子会社を除いた関係者の財務力をより正確に反映させ、子会社の強さまたは弱
さを関係者のサポート提供能力に織り込むことを避けるために、この BCA を修正する場合が
ある。
サポートがグループ内の特定の事業体ではなく、グループ全体から得られると考えられる場
合、グループの「想定」BCA を用いることがある。これは、グループが単一の法人であるとした
場合(すなわち、連結財務諸表に基づく場合)にムーディーズが付与するであろう BCA である。
ここでも、サポート対象の事業体を除くために BCA を修正することがある。
このアプローチは、関係者またはグループに対する政府からのサポートが、子会社には提供
されない可能性、また、子会社のサポートに使用される資源が単独での能力の範囲内に限定
される可能性を示唆している。ムーディーズは、政府からのサポートを別途検討する(後述)す
るため、このアプローチをとっている。ただし、それが妥当な状況にある場合には、サポートを
考慮した格付(通常、シニア無担保債務格付)をサポート能力を示すものとして用いる場合が
ある。例えば、サポート対象が、複雑な相互関係等によりサポートを提供する関係者と実質的
に不可分の関係にあるため、政府からのサポートが関係者を通じて提供されることがほぼ確
実な場合である。また、関係者が、保険会社や事業会社など、銀行ではない場合にもありうる。
サポート提供者とサポート対象者の間の相互連関
サポート対象者とサポート提供者の間の相互連関も考慮する。形式的には、この相互連関は
JDA で算出するパーセンテージとして表され、理論上は 0% から 100%の範囲内のいずれか
の値をとり得る。しかし、一般にグループ内の銀行は広義の同一業界で事業を行い、事業地
域が地理的に近接していることが多いため、実際の相互連関の値はプラスかつ高い数値とな
ることが予想される。そのため、ある事業体が問題を抱えていれば、グループ内の他の事業体
もそれに関連した問題を抱えている可能性が高く、そのためにサポートが必要な時に後者が
それを提供する能力が低下する。この現象によって、弱い事業体が強い事業体から受けるサ
ポートの恩恵が弱まる。
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
ムーディーズは通常、相互連関を、「非常に高い」、「高い」、「中位」の 3 つのカテゴリーに該
当すると判断する。ただし、異なる見方を反映して、それから逸脱する場合もある。
相互連関の判断は主に以下の要因に基づく。
» 関係者間の統合度。グループ内の資金調達への依存度が高いほど、相互連関を「高い」
ではなく「非常に高い」とみなす可能性が高い。
» 事業環境。関係者が事業を行う市場間の関係が密接であるほど、相互連関を「高い」では
なく「非常に高い」とみなす可能性が高い。これを評価する際には、事業ラインと商品のタ
イプ、および地理的な所在地を検討する。
例えば、親会社と同一の国および市場で業務を行い、資金の大半を親会社から調達している
リテール銀行は、サポート提供者と「非常に高い」相互連関を示すとみなす可能性が高い。
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一方、欧州中心の事業展開を行うユニバーサル銀行グループが所有し、自身で資金調達を
行う米国のリテール銀行のサポート提供者との相互連関は「高い」とみなされるであろう。
稀に相互連関を「中位」とみなすケースがあるかもしれない。例えば、アジアの大規模な非金
融コングロマリットとアフリカの小規模リテール銀行子会社との相互連関がこれにあたる。
サポートの適用
従って、次の 4 要因に基づいて関係者からのサポートを格付に織り込む。
» 銀行のサポート考慮前の破綻の可能性(BCA)
» 関係者がサポートを提供する可能性
» 関係者がサポートを提供する能力
» 当事者間の相互連関
このアプローチの背景となる数学的手法の詳細については、「付録 8:サポートへの複合デフ
ォルト分析の適用」を参照されたい。ムーディーズは、JDA を用いて、BCA からのアップリフト
の推定範囲を格付委員会に提示する。このノッチングレンジには、レンジ内でサポート提供の
可能性が最も低い(例:「中位」のサポートの可能性の 30%)、中程度(例:40%)、サポート提
供の可能性が最も高い(例:49%)等の度合いに相応するアップリフトノッチ数が示される。格
付委員会は、検討対象の固有の状況に関する判断を加え、通常、レンジ内でサポートのノッ
チ数を決定する。調整後 BCA を付与する際、実際の状況における数学モデルの使用には本
質的な限界があるため、固有の状況に応じて、格付委員会の判断がそのガイドラインから上
下いずれの方向へも乖離する可能性がある。従って、BCA とこのアップリフトを合わせて調整
後 BCA が決定される。従って、調整後 BCA はある銀行が 1 つあるいは複数の債務をデフォ
ルトするか、あるいはデフォルト回避のために緊急時の政府サポートを必要とする可能性、す
なわち、関係者からのサポートを使い果たした後に破綻する可能性を示す。
62
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 23
関係者からのサポート・ワークシートの例
想定
インプット
コメント
(i) XYZ 国
サポートを提供する関係者の所在国
サポートを提供する関係者
親会社
BCA
参照する信用評価
Baa1
サポート提供者の信用力
相互連関
非常に高い
ノッチング・
ガイダンス
BCA
サポート
水準
(最小-中位-最大)
適用するノッ
チング幅
付与された調
整後 BCA
ba1
高い
1-1-2
1
baa3
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出所:Moody’s
調整後 BCA は、子会社がサポートを必要とする可能性と、グループがサポートを提供できず、
子会社が実質破綻時損失吸収条項付証券をデフォルトすることを容認する可能性の両方を
反映するものでもある。
第 2 段階: 破綻時損失および追加ノッチング
ムーディーズのサポート・構造分析の第二段階では、関係者からのサポート提供が拒否され
たか枯渇した後、銀行の破綻が様々なクラスの債務に与える影響(政府からのサポート考慮
前)を考慮する。他の要因(特に破綻する前に利払いを停止できる能力)の検討と合わせた結
果が固有の信用力の指標となる。ムーディーズはこの指標を予備的格付評価(PRA)と称して
いる。
ムーディーズはこの損失評価を「破綻時損失」と称する。これはデフォルト時損失分析に概念
的に非常に近いアプローチだが、銀行の破綻によりトリガーされ、必ずしもデフォルトがトリガ
ーになるわけではない。破綻時損失は新たな概念ではなく、ムーディーズは、損失規模の差
に対する見方に基づいてシニア無担保債務と劣後債務に対する評価に差をつけてきた。
しかし、より精緻な方法でこの概念を検討するため、ムーディーズは新しい技法を用いる。そ
の必要性は、近年の公共政策の抜本的な変化をみれば明らかである。公共政策は、銀行の
破産手続きの枠外で一部証券を選択的にデフォルトさせるという「破綻処理制度」を支持する
姿勢を強めている。このようなプロセスは、以前であれば実行が困難あるいは不可能でさえあ
った。こうした経緯により、より高度な負債サイドの分析が、リスクと格付の決定において重要な
要素となっている。ムーディーズは、このアプローチを用いて、運用可能な破綻処理制度が適
用される銀行の全ての債務証券の損失規模を決定できると考えている。
ムーディーズのアプローチは、破綻またはデフォルトした銀行に関するデータの分析をを織り
込む。このデータには、米国のFDICが提供する長期間の豊富な時系列データ、ムーディー
ズの銀行債券デフォルト・データベース、2007 年以降の「破綻」銀行に関するムーディーズの
分析が含まれる。これらを総合して、緊急時の資本注入や通常は救済目的の債務交換を通じ
て様々なクラスの債権者が強要される損失負担を考慮した、破綻時に発生するとみられる損
失に対する洞察が得られる。しかし、これらのデータには制約がある。例えば、FDICのデータ
に含まれる破綻銀行の大部分は、限定的な業務と高い資産の集中度を特徴とする小規模な
地方銀行であるため、FDICのデータの適用性には限界があるとムーディーズはみている 43。
欧州や他地域で銀行が清算されることは比較的珍しく、利用可能な破綻銀行の損失データ
は限られている。また、ムーディーズの銀行シニア無担保債務のデフォルト・データベースは
少数の発行体しか含んでいない。多くの国で破綻処理制度は導入途上にあり、詳細が明らか
43
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SEPTEMBER 11, 2014
1986 年以降に FDIC による破綻処理の対象となった銀行の総資産の中央値はわずか 7,300 万ドルであった。ム
ーディーズがグローバルに格付する銀行の総資産の中央値は 290 億ドルである。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
になりつつあるものの、そのような制度が実際に適用されたときの影響は、依然としてかなり不
透明である。そのため、将来どのような行動がとられ、その結果どの程度の損失が生じるかは、
限られた過去の例とは異なる可能性がある。また、新たな破綻処理制度導入の目的は、まさ
に過去の破綻処理のアプローチとの決別であることも、その一因となっている。
こうした状況を踏まえた上で、ムーディーズは特定の銀行、ならびに各債務クラスと格付対象
の預金について、考え得る破綻処理シナリオが及ぼす異なる影響を把握できるアプローチを
構築した。このアプローチは、破綻時の損失分析に統計モデルを用いたとしてもその精緻度
が疑わしいほど引き続き不確実性が大きいとのムーディーズの見方を織り込みつつ、ある程
度簡素な形に保たれている。さらに、「ゴーイング・コンサーン」としての破綻処理は公共政策
の枠組みに含まれていないため、世界の多くの銀行にとって破綻処理との関連性は限定的
であり、そのような破綻処理よりも、政府サポートが提供される可能性の方が依然として高いと
みられる。
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運用可能な破綻処理制度が適用される銀行への適用
より進んだ破綻時損失アプローチは、最も関連性が高いと考えられるシステムに適用する。具
体的には、運用可能な破綻処理制度の適用対象になるとみられる銀行である。どの銀行が該
当するかは、次に挙げる主要な特徴を参照して決定する。
» 具体的な法制度。破綻した銀行の秩序ある破綻処理を可能とする具体的な法制度の有無
を確認する。
» 影響の明確な把握。銀行の破綻および破綻処理が預金者およびその他の債権者に与え
る影響が、法制度によってかなり明確に把握できる。
» 政府からのサポートの縮小。破綻処理制度が運用可能であると考えられる場合、ムーディ
ーズは、発効済みの法制度を活用するという政策および規制当局の意思が存在し、政府
からのサポートの可能性が低下するか、場合によっては除去されると予想する。
ある銀行がこれらの条件を満たせば、運用可能な破綻処理制度(ORR)の適用対象であると
みなす。これらのケースでは、後述する破綻時損失アプローチを適用する。当初の適用地域
は、EU(銀行再生・破綻処理指令の導入を見越して)、米国(ドッド・フランク法 Title I および
Title II を踏まえて)およびスイス(銀行インソルベンシー規則を反映して)に限られるとムーデ
ィーズは予想している。他地域でも法制度が整備されれば、ノルウェー、リヒテンシュタイン、
南アフリカ、香港、カナダ等の他のシステムにも適用範囲が広がるとみられる。
運用可能な破綻処理制度が適用されない銀行への適用
しかし、多数の銀行システムにおいて公共政策の枠組みにゴーイング・コンサーンとしての破
綻処理は含まれていないため、世界の多くの銀行にとって破綻処理の関連性は限定的であ
る。破綻処理手続きが用いられるケースもあるかもしれないが、事前に明確に定義されるので
はなく、その場の状況に応じて決められる傾向がある。そのような破綻処理よりも、政府サポー
トの提供あるいは破産手続きの方が可能性としては高い。このようなシステムの銀行について
は、破綻が異なる債務クラスに及ぼす影響を明確に見通すことはできないとみられる。この点
を踏まえた上で、こうしたケースではこれまでの想定を維持する。すなわち、
» シニア無担保債務と格付対象預金は一般に類似した損失特性を持ち、破綻時の損規模
はムーディーズの過去のデータに基づくデフォルト時損失率約 60%と一致する 44。これは、
PRAが調整後BCAと等しいことを示唆する。
» 劣後債務の損失規模は大きくなるとみられ、調整後 BCA を 1 ノッチ下回る PRA に相当す
る。ただし、後述するように、ハイブリッド証券についてはノッチングを追加する。
» 持ち株会社のシニア無担保債務は銀行子会社に対し構造的に劣後するため、調整後
BCA を 1 ノッチ下回る、サポートを織り込む前の PRA に一致する高い損失規模になるとみ
44
2011 年 2 月 10 日発行のムーディーズのスペシャル・コメント Defaults and Recoveries for Financial Institution Debt
Issuers, 1983-2010 を参照されたい。
64
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意見募集:銀行格付手法案
BANKING
られる。持ち株会社のジュニア証券にもこれを適用し、後段で説明する通り、追加
ノッチングを行う場合がある。
期待損失率がこれらの想定に一致しないと考え得る理由があるときは、これらの想定から離れ
ることもあり得る。また、特異な状況に応じて運用可能な破綻処理制度が適用される銀行に対
するアプローチを適用したり、補完的ツールとしてより一般的に使用したりすることもある。
運用可能な破綻処理制度が適用される銀行の破綻時損失の主要変数
政府からのサポート考慮前の破綻シナリオにおいて、様々な債権者が被り得る損失に影響す
る要因は多数ある。ムーディーズは、破綻時損失を左右する主要要因を織り込んだ比較的シ
ンプルなノッチング手法を構築すべく、シナリオをモデルに織り込む方法を用い 45、その主要
変数に焦点を当てた分析を行う。
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» 損失率。他の変数が等しければ、破綻処理時の銀行全体での損失率が高いほど、銀行の
負債において損失が発生するリスクが高くなる。
» 劣後。ある証券クラスに劣後する債務の額が大きいほど、当該証券に対する保護が大きく
なり予想損失が小さくなる。
» 債務残高。ある証券クラスの残高が大きいほど、より多くの債権者が損失を吸収するため、
当該証券の損失規模は小さくなる。このように、債務を発行すると、より大きなプールに損
失を分散させることによって、当該債務自体の予想損失も変化する。また、ムーディーズは、
これによりバランスシートの制約が高まり、通常は無担保債務の厚みが減ることを考慮する。
これらの変数を考慮する際には、下で詳述する他の要因の検討も必要である。
1.
破綻処理時のバランスシート
ムーディーズの破綻時損失分析の第 1 段階は、適切なバランスシートの設定である。これに
は、ムーディーズが通常 BCA の決定の基礎とする連結財務諸表以外に目を向け、破綻処理
がグループ内の様々な事業体に与える影響を検討する必要がある。規制当局の権限は通常
は国外まで及ばないため、破綻処理は国内で実施されるとムーディーズは予想している。従
って、多国籍の銀行グループの場合、連結された総体を所管国ごとのサブグループに分割
することがある。これらのサブグループの中で、負債と預金のデータを連結し、異なる主体の
同クラスの債権者は平等に扱われると想定する。
例えば、銀行の海外子会社は通常、親会社ではなく子会社が所在する所管国の破綻処理が
適用されるとムーディーズは考えている。そのため、これに該当すると考えられる場合は、デ
ータの入手可能性に応じて、格付対象の主要海外事業体ならびに銀行破綻処理の対象とな
らない国内の銀行以外の子会社を「非連結化」する。ただし、海外の資金調達のための特別
目的会社はこの「境界線」の内側に含まれる。資金調達のための特別目的会社は一般に、親
会社に調達した資金をそのまま提供しているため、特別目的会社の債務は国内発行債務と
経済的には同等とみなすのが一般的である。また、海外支店の債務および預金もこれに含む。
従って、破綻処理の境界線をどこに置くかは、規制当局の管轄範囲に対するムーディーズの
認識に従い判断する。上述したように、通常は国境がこの境界線になると想定するが、各国の
規制当局が連携してクロスボーダーの破綻処理が可能になるケースがあるかもしれない。そう
した場合、銀行債権者は国が異なっても平等な取り扱いを受ける。例えば、ユーロ圏でそうし
たケースがいずれ発生する可能性があるが、銀行再生・破綻処理指令(BRRD)は国ごとの破
綻処理とクロスボーダーの破綻処理を認めており、後者がどのように実施されるかは依然とし
て不透明である。一方、規制当局が国内事業体にリングフェンス規制を適用する場合などは、
同一グループに属する国内金融機関でも個別に破綻時損失分析を実施する場合がある。
45
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モデルの想定の詳細については付録 7 を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
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図表 24
破綻時損失分析における境界線の設定例
英国
UK
スペインの破綻
スペイン
Spain
Spanish
処理が適用され
resolution
る境界線
perimeter
スペイン
ボリビア
Bolivia
Spain
英国の破綻処理が
UK
適用される境界線
resolution
perimeter
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英国
UK
Non-operational
破綻処理制度が
運用不可能
Resolution
Regime
出所:Moody’s
破綻処理制度の適用範囲を決定した後、破綻処理における銀行の負債サイドが、破綻の可
能性がほとんどない時点での負債の構造とは異なり得ることを確認する。一般に、担保付き債
務、銀行間預金、短期債務は「その他の債務」として扱う。すなわち、他の格付対象証券(主
にシニア債務)と損失を分担しないことを意味する。これらの債務は破綻処理が実施される前
にゼロとなるか担保が設定されるためである。また、デリバティブ債務の場合も同様で、破綻
処理が実施される前に担保が設定されるか、ベイル・インの対象に含めることは技術的に難し
すぎる、あるいはシステミックリスクを発生させやすいとみられるためである。ただし、銀行によ
って異なる取り扱いをする可能性がある 46。
バランスシートを設定する際にムーディーズは預金の優先度が果たす役割を考慮する。特に、
シニア無担保債務と同順位の預金(「ジュニア預金」)と、優先順位の高い預金を区別する。
» 米国では、全ての預金がシニア無担保債務より支払い順位が高いと想定する。預金者を
優先する国内法は現在のところ海外の預金には適用されないが、二通貨で支払い可能な
預金が増えていることから、実際には全ての預金が優先されると考えられる 47。
» EUでは、預金保険制度の対象になる家計および中小企業の預金を優先することをBRRD
の中で規定している 48。その他の預金、すなわち大企業や金融機関の預金は優先されず、
清算時にはシニア無担保債務と同順位になる。
» EUの銀行預金に占める優先預金の割合は、銀行、預金保険制度、規制当局の開示が概
して不足しているため、現時点では不明瞭である。市場参加者にとってこれは重要な情報
であるため、ムーディーズは銀行の検証されたデータから預金基盤を算定することが可能
な程度まで開示情報が向上することを期待している。当面は、保険制度の対象となる預金
の割合のEU平均(74%)を用いて、BRRDの下で優先される預金の割合を判断する 49。基
本的にリテール預金を預金基盤とする一部の金融機関については、90%が優先される預
金と想定する。
46
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米国では子会社の無担保デリバティブ債務は、それより下位の債務が全体の損失吸収に不十分な場合にはシニ
ア無担保債務と共に損失を被るとムーディーズは考えているが、EU での取り扱いははっきりしない。
47
例として、連邦預金保険公社の 2013 年 9 月 10 日付けのプレス・ノーティスを参照されたい。
48
預金保険制度でカバーされる預金はさらに優先される。
49
2014 年に Joint Research Centre of the European Commission が発行した Updated estimates of EU eligible and covered
deposits,を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
» スイスでは、銀行インソルベンシー規則に基づき、全ての預金が優先されると想定するが、
保証付きの預金はさらに優先度が高くなる。シニア(保証付き)預金の割合は EU と同等と
想定する。
次に、銀行単独の財務基盤の悪化と破綻処理時の損失リスクに応じて、預金の何割が破綻よ
り早い時点で流出するかを推定する。ムーディーズによる想定はケースごとに異なる可能性が
あるが、一般的には次に挙げる内容が想定される。
» 「ジュニア」ホールセール預金は 25%流出する。これは、大半の金融機関以外からの預金
について 20-40%の流出を想定している流動性カバレッジ比率(LCR)規制と一致する。
» 「優先」リテール・中小企業預金は 5%流出する。これも、安定的な預金の 3-5%の流出とい
う LCR の想定に一致している。
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» 全ての預金が同順位であるシステム(米国など)では、全体の流出比率を 10%と想定する。
この内、75%がホールセール預金、25%がリテール・中小企業預金である。
2.
損失率
第 2 段階は、連結に含まれると判断された事業体について適切な損失率を決定するこ
とである。この損失率によって、劣後と債務残高が格付対象証券それぞれの期待損失
にどの程度影響を与えるかが決まる。損失率は、普通株式を除く総負債に対する比率
で表す。すなわち、損失率は 100%(破綻処理時に銀行資産の価値がゼロになるとい
う実現可能性が極めて低い状況)から 0%(損失を吸収するのは株式のみで、破綻処
理が実施されても負債から損失は生じないという状況)の範囲にまたがることが考え
られる。破綻処理時に株式にプラスの価値があれば、損失率はマイナスの値にさえな
り得る。
従って、損失率は基本的に次の 2 変数によって決まるとムーディーズは考えている。
» 資産のボラティリティ。破綻時の銀行資産の回収額の変動性が大きいほど、資本が大幅に
不足し、破綻処理時に強要される損失率が高くなる。これを左右するのが、事業環境、地
域での経験、資産構成、株式資本を含む様々な要因である。まず資産のボラティリティの
第一の指標として、各銀行のマクロ・プロファイルを用いる予定である。いずれは他の要因
も含めた損失率予想を開発するかもしれない。
» 破綻処理のアプローチ。加えて、資産の質にかかわらず、破綻処理の形式によって損失
率が高まる可能性がある。例えば、銀行の業務機能を維持するゴーイング・コンサーンの
破綻処理では、銀行業務の縮小により企業価値が減少する破産手続きに比べ、全体的な
企業価値が改善し、損失が小さくなるとみられる。
全体の損失規模はこれらの変数に基づいて決定される。一般に、銀行全体の破綻時損
失率は、事業会社のデフォルト時損失率より低くなるとムーディーズはみている。こ
れは、本質的にレバレッジが高いことや、銀行は資産の価値が若干減少しただけでデ
フォルトし得ることを意味する調達のミスマッチと対照的である。例として、当面は
次に示す指針を用いて損失率を決定する予定である。
図表 25
当面使用する破綻時平均損失率
ゴーイング・コンサーン
破産処理
マクロ・プロファイル
マクロ・プロファイル
マクロ・プロファイル
マクロ・プロファイル
非常に強い / 強い / 中位
弱い / 非常に弱い
非常に強い / 強い / 中位
弱い / 非常に弱い
5%
10%
10%
n/a
これらの損失率は、可能な限り実際の銀行破綻時の損失率から導出する。詳細については、
「付録 7:破綻時損失:基本的な想定」を参照されたい。
67
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
これらは平均損失率であり、銀行の実際の損失率についての大幅な不確実性が織り込まれ
ている。そのため、通常はこれらの想定から乖離することはないが、追加情報に基づき、特定
の状況(破綻処理手続きが開始される可能性が高まっている、あるいは実際に開始されたな
ど)においては異なる想定を用いることもある。十分なデータが入手できれば、運用可能な破
綻処理制度の対象になる銀行が増加するに従って、損失率の導入を進める予定である。
3.
劣後
ある証券クラスに劣後する負債の金額によって、その証券クラスに対する保護の度合いが決
まる。理論的には、ある証券より支払い順位が低い負債が多いほど、破綻処理時にその証券
から損失が発生する可能性は低くなる。
ムーディーズは一般に、次のような順序で証券が劣後するとみなしている。リストの下に位置
するほど優先順位が高い。
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» 優先株(持ち株会社)
» ジュニア劣後債務(持ち株会社)
» 期限付き劣後債務(持ち株会社)
» シニア長期債務(持ち株会社)
» 優先株(銀行)
» ジュニア劣後債務(銀行)
» 期限付き劣後債務(銀行)
» シニア長期債務(銀行)および同順位の(ジュニア)預金
» 優先預金
» その他負債(担保付き借入を含む)
従って、例えばシニア長期債務および同順位の預金を評価する際には、持ち株会社の全債
務と破綻処理対象となる銀行が発行した全てのジュニア債務の合計が、それらに劣後すると
推定する。これを、劣後する債務の総債務に対する比率で表す。
バランスシート構造が優先順位を反映していないと見られる場合は、バランスシート構造を調
整することがある。例えば、一部の国・地域において、破綻処理時に持ち株会社発行の負債
がそれと同種の銀行発行の負債と同順位の取り扱いを受ける可能性があるとみなす場合があ
る。同様に、政府保証債務とグループ間債務の順位も、適用される法制度次第で異なり得る。
4.
債務残高
ある債務クラスの金額が大きいほど、負債総額が損失に対して大きくなり損失が希薄化される
ため、損失規模は小さくなる。
損失規模を考慮したノッチングの指針
上記の要因を単純な表(図表 26)にまとめたものが、各証券クラスに適用する破綻時損失ノッ
チングの指針となる。 全ての証券クラスにおいて、調整後 BCA に対するノッチングは、劣後
する債務の総債務に対する比率(表の縦軸の下にいくほどその比率が高い)と、証券残高の
総債務に対する比率(表の横軸の右にいくほどその比率が高い)の双方を勘案して決定され
る。劣後と残高の効果は、債務に対する損失率によって異なるため、各事例のノッチングの閾
値は損失率と結びつけて示される。劣後の増分は損失率の 0.5 倍ごと、金額の増分は損失
率の 1 倍が単位となっている。これは、劣後比率の 1 ポイント上昇(その分、当該証券のデフ
ォルト確率が低下する)は、同順位の証券の金額が 1 ポイント分増加した場合(デフォルト時
の損失額が減少する)の倍の効果があることを意味する。
68
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 26
運用可能な破綻処理制度:調整後 BCA からのノッチング
負債の x%として表される損失率
x = loss rate as % of liabilities
ある証券クラス
Subordination
に対
する劣後
to
instrument
(負
債に(%
対す
class
ofる
比率、%)
liabilities)
>=0 <0.5x
>=0.5x <1x
>=1x <1.5x
>=1.5 <2x
>=2x
証券クラスの残高(負債に対する比率、%)
Volume of instrument class (% of liabilities)
>=0 <x
>=x <2x
>=2x <3x
>=3x
-1
0
1
2
0
1
2
2
1
2
3
3
2
3
3
3
3
3
3
3
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調整後 BCA からのアップリフトの上限は 3 ノッチである。損失規模がさらに縮小すれば、それ
を超えるノッチングも概念上はあり得る。しかし、支払い請求の絶対的な優先順位に違反する
可能性があり、破綻処理期間においてそのような請求を規制当局がどのように扱うかについ
ては不透明であるため、極端に低い期待破綻時損失率は現実的ではない。
さらに、劣後債の比率が損失率より低い証券に対するノッチングは 2 ノッチを上限とする。これ
は、劣後する債務の比率が最も高い証券は、金額が最大でも劣後する債務の比率が低い証
券より高く格付されるべきであるというムーディーズの判断を反映している。これは、3 ノッチと
いう最大のノッチング幅の恩恵を受ける証券は、銀行に平均的な損失を被る場合でもデフォ
ルトしないことを意味する。
最大のノッチダウン幅は 1 ノッチで、劣後債の比率が損失率の 50%以下で残高比率も損失
率より低い証券に適用される。従って、これは通常、債務構成の最下位の証券に該当する。
そうした証券は、損失に対する保護がほとんどなく、金額も小さい。これは最も劣後する証券
の例だが、一部の銀行のシニア無担保債務もこのカテゴリーに該当する場合がある。銀行の
劣後債務、持ち株会社のシニア債務、持ち株会社の期限付き劣後債務もいずれもこのカテゴ
リーに該当し、このノッチングが適用される可能性がある。一方、一部の銀行の劣後債務は、
持ち株会社の多額の債務の効果により、このカテゴリーより上に位置付けられることがある。
図表 27 に、損失率を 5%としたノッチング例を示した。劣後債務の総債務に対する比率の閾
値は 2.5 ポイント(損失率の 50%)ごとに上昇する。残高の総債務に対する比率の閾値は 5 ポ
イント(損失率と同率)ごとに上昇する。
» ケース 1:劣後債務の総債務に対する比率が 1%、残高の総債務に対する比率が 3%の証
券は、調整後 BCA より 1 ノッチ低い水準に位置付けられる。これは、破綻時の損失規模
が大きくなる可能性が非常に高いとみられるためである。
» ケース 2:劣後債務の総債務に対する比率が 1%、残高の総債務に対する比率が 50%の
証券は調整後 BCA より 2 ノッチ高い水準に位置付けられる。銀行が破綻し、全体での損
失率が 5%の場合、劣後債務の額が相対的に小さいため、少額ながら損失を被るとみられ
る。
» ケース 3:劣後債務の総債務に対する比率が 10%、残高の総債務に対する比率が 3%の
証券は調整後 BCA より 3 ノッチ高い水準に位置付けられる。この証券は、銀行全体の損
失率が想定平均の 5%の二倍以上となった場合にのみデフォルトする。
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 27
損失率が 5%の場合の破綻時損失を考慮したノッチングの例
Loss Rate
5%
損失率
Volume
of instrument class (% of liabilities)
証券クラスの残高(負債に対する比率、%)
=>0 <5
=>5 <10
=>10 <15
=>15
ケース 2 2
=>0 <2.5
-1 ケース 1
0
1
ある証券クラス
Subordination
=>2.5 <5
0
1
2
2
に対する劣後
to instrument
=>5 <7.5
1
2
3
3
(負 債に 対す る
class (% of
=>7.5
<10
2
3
3
3
比率、%)
liabilities)
ケース
3
=>10
3
3
3
3
出所:Moody’s
データの検討
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問題となる残高は、いくつかの情報に基づいて決定される。
» 格付債務:債務証券の分析の始点は、格付対象債務の残高である。発行体と償還期限を
見分けることができるため、これは開示財務諸表より優れた情報源である。短期債務(発行
時における満期が 1 年未満のもの)およびその他の債務は、破綻時より早い段階で担保
が設定される可能性が高く、長期シニア無担保債務のように損失を吸収しないため、残高
に含めない。
» 財務諸表:バランスシートの規模と預金基盤の規模に対するムーディーズの見方は、財務
諸表によって決定される。破綻処理の対象となる範囲からみて適切と考えられる場合は、
財務諸表を調整する。具体的には、破綻処理の対象外の事業体の債務や、適切な場合
にはデリバティブ債務などのボラティリティの高い項目を控除する。
必要に応じてこれらのデータを調整し、最も正確な状況を把握する。例えば、格付を
付与していないシニア無担保債をシニア無担保債務に加算する。この情報は投資家にと
って重要であるため、市場からの圧力に対応して、開示情報が改善されることをムーディーズ
は期待している。
損失吸収の順序
一部の破綻処理制度では、損失吸収を強要する順序に関する不透明性がほとんどない。
そのようなケースでは、上で定めた負債の優先順位とバランスシートに占める比率は
わかりやすいものとなり、関連するノッチング表を参照しながら証券のノッチングを
行うことができる。
しかし、一部の破綻処理制度では、どのような順位付けが適切であるかが本質的に不透明で
ある。例えば、BRRD では規制当局の判断により、清算時の優先順位が同順位であるにも関
わらず、「非適格」預金がシニア無担保債務より優先される可能性があるとムーディーズは考
えている。そのようになった場合には、格付対象預金(劣後する負債が多いことから恩恵を受
ける)とシニア無担保債(預金が損失を吸収しないために損失率が高まる)の期待損失率は大
きく異なることになろう。
ムーディーズはこの不確実性を織り込むために、1 つまたは複数の異なる優先順位を別途設
定し、当初の優先順位から得られる結果と、異なる優先順位から得られる結果を比較する。こ
の 2 つのシナリオをそれぞれ”de jure”(破綻処理制度で規定された通りの順位で損失吸収が
行われるシナリオ)と “de fact” (規制当局の裁量を織り込んだシナリオ)と名付ける。
次に、それぞれの結果が示唆する期待損失に確率を当てはめる。これら 2 通りの期待損失の
加重平均を算出し、それを格付にマッピングし、調整後 BCA からのノッチングを行う。預金の
優先順位についての”de facto”シナリオ実現確率の初期推定は以下の通りである。
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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» EU、ノルウェー、リヒテンシュタイン:50%。これらの国・地域では、非適格預金の清算時の
支払い順位はシニア無担保債務と同順位となるが、破綻処理の際に裁量的な優先取り扱
いを受ける可能性があるとムーディーズは考えている。
» スイス:100%。スイスの破綻処理制度では、非優遇預金がシニア無担保債務より優先され
るため 50、”de jure”シナリオと”de facto”が同じとなる。
» 米国:100%。上述の通り、現行規制において預金は優先される。そのため、”de jure”シナリ
オと”de facto”が同じとなる。
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これらの”de facto”シナリオについての初期推定は、それぞれの国・地域の銀行破綻処理に適
用される法的枠組みおよび関連規制の分析に基づいて行った。ムーディーズの推定は今後
変化し、法的枠組みおよび関連規制が発展・変化し続けるに従って、状況によっては銀行に
よって異なってくる可能性もある。また、パーセンテージは、破綻処理の枠組みが実際にどう
適用されるかによって決まる。他の銀行システムについても、破綻処理制度の施行状況に応
じて、同様のアプローチにより確率を推定する。
財務構造の変化への対応
ムーディーズのアプローチは、時としてノッチングが債務構造の変化(例:債務残高
が変わることにより破綻時損失が変わる)によって変わり得るという性質を持ってい
る。アップリフトを決定する負債サイドの比率のレンジは、意図的に広く設定してい
るので、バランスシートの短期的な変化には影響されにくい。加えて、上述したよう
に破綻時損失はその性質上、最終的にはムーディーズの判断に基づく評価である。従
って、格付委員会は短期的な性質のものと予想されるバランスシートの変化に起因す
る変化を「無効にする」ために示唆されるノッチングとは異なるノッチングを行い、
規制対応に伴う変化などの構造上の本質的な変化を予想して、現在のバランスシート
よりも将来のバランスシートを考慮する場合がある。
実際には、新たな破綻時損失の評価を年間少なくとも 1 度、財務諸表の開示後に行う
予定であるが、定期的な銀行 BCA と格付のレビューと同時に、また、そのような機会
とは別に資本構造が大きく変化した場合に、破綻時損失の想定の適切性を見直すこと
もある。
予備的格付評価の決定:追加ノッチングの検討
上述した破綻時損失分析は、運用可能な破綻処理制度の適用の有無に応じた、損失規
模に対するノッチングの指針を示すことのみを目的としている。ムーディーズは、一
部の債務クラス固有の他の特徴を織り込むため、「追加ノッチング」と称するさらな
るノッチング調整を検討する。このセクションでは、証券の種類によるデフォルト確
率の違い、つまり銀行破綻(この確率は調整後 BCA によって表される)と、銀行ハイ
ブリッド証券、コンティンジェント・キャピタル証券(実質破綻時損失吸収状況付き
証券と「ハイ・トリガー」証券を含み、CoCo と称することもある)および劣後債務
の利払い停止とのタイミングの差をさらに区別するための手法を説明する。破綻時損
失分析の結果を始点として、こうした要因を考慮し、追加ノッチングを行い、各証券
クラスに予備的格付評価(PRA)を付与する。PRA は信用格付ではなく、政府からの
サポートを受ける前の段階における各証券の全体的な信用リスクの評価である。
金融危機下で明らかになったように、ハイブリッド証券の「デフォルト」 51確率は銀
行シニア債務より高く、利払い停止、株式転換、元本削減、グッド・バンク/バッド・
バンク構造、救済目的の債務交換により、清算の枠外での債務再編から損失が発生し
得る。従って、劣後による損失のリスクを捕捉するだけでなく、破綻処理の枠外での
71
SEPTEMBER 11, 2014
50
2014 年 7 月 31 日発表の”Banking System Outlook on Switzerland”を参照されたい。
51
ハイブリッド証券は発行条件で利払い停止、元本削減、あるいは株式転換が認められているため、これらはデ
フォルト事由には該当しない。これらの事由が発生した場合、契約違反ではないが、投資家が損失を被る重大
な信用事由となる。ムーディーズはこうした事由をインペアメントとみなしている。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
利払い停止および元本削減から生じる追加的なデフォルト確率をハイブリッド証券の
格付に織り込む。ムーディーズはPRAの決定において、考え得るデフォルト事由また
はインペアメント(経済的損失)事由(同じ銀行の資本構造の中でも証券ごとに異な
る可能性がある)のタイミングと、インペアメント発生時の損失規模を考慮する。
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「ハイ・トリガー」証券の格付については、銀行全体の破綻かつ/またはトリガー抵触
の確率、ならびにそのいずれか、あるいは両方が発生した場合の損失規模を捕捉する
モデル・ベースのアプローチを用いる。利払い停止リスクがある場合は、関連する実
質破綻時損失吸収条項付証券の格付ノッチングに織り込み、「ハイ・トリガー」証券
については、モデル導出の格付と実質破綻時損失吸収条項付証券の格付のいずれか低
い方に格付する。銀行の BCA は分析上、重要な要因であるため、最終的には、銀行の
全体的な信用評価と整合する分析の枠組みとなる。ムーディーズが銀行格付を付与す
る通常の方法と同様、格付委員会は、モデル・ベースのアプローチによって証券の信
用リスクを捕捉できないと考えられる場合、格付委員会の判断に基づき、柔軟性をも
って格付を決定できる。
ムーディーズの一般的な格付慣行に従い、国ごとおよびケースごとの固有の信用判断
を補完要因として、ムーディーズの格付が決定される。とりわけシステミック・サポ
ートの可能性は、各所管国の規制環境に特有の事実や状況を考慮して評価を行う。
追加ノッチング指針
ハイブリッド証券、コンティンジェント・キャピタル証券(実質破綻時損失吸収条項
付証券および「ハイ・トリガー」証券を含む)、劣後債に適用する追加ノッチング指
針 52を図表 28 にまとめた。損失規模に対するノッチング後の追加ノッチングは、証券
間のデフォルト確率の差を反映したものである。
バーゼルⅢの自己資本要件を満たす証券は、規制当局の判断かつ/または規制上の自己
資本トリガーの抵触によって株式に転換されるか、元本が削減される。これらの証券
は、Tier 2 証券(劣後債)あるいはその他Tier 1 証券(非累積型優先証券)として発行
され、実質破綻よりかなり早い段階あるいは実質破綻に近い段階で、元本削減や該当
する場合は利払い停止が強制的に行われる 53。リストアップされたその他の劣後証券
は全ての国ではないが、大半の国で最終的には発行が停止されることになる。
図表 28
ムーディーズの劣後債務、銀行ハイブリッド証券、実質破綻時損失吸収条項付証券の追加ノッ
チング指針
72
SEPTEMBER 11, 2014
証券の種類
通常の規制上の取り扱い
利払い停止メカニズム
追加ノッチング
1
「プレーン・バニラ」劣後
債務(法令に基づくベイ
ル・インの対象になるも
のと ならないもの)
下位 Tier 2 または Tier 2
なし
一般に 0
2
ハイブリッド証券
Tier 2 または Tier 3
強制、弱いトリガー、
累積型、 償還期限延
長の対象となる
一般に 0 または -1
3
ジュニア劣後債務
上位 Tier 2
任意、累積型
0 または - 1
52
ハイブリッド証券の中には信託が発行する優先証券の形態を採るものあり、それらの発行代金は優先証券また
はジュニア劣後債務を通じて銀行に転貸される。それらのストラクチャーをとる証券の分析では、信託が投資
家向けに発行した債務の特徴と、銀行あるいは銀行持株会社と信託の間の債務関係の特徴にも焦点を当てる。
53
ある証券に「ハイ・トリガー」条項が設定されているかどうかを判断するため、ムーディーズは一般にバーゼ
ル III で最低要件とされる普通株式等 Tier 1 (CET1) 資本のリスク資産に対する比率 5.125%を基準として用いる。
これを上回る水準のトリガーが設定されている場合、格付上は一般にハイ・トリガー証券とみなす。ムーディ
ーズは自己の裁量により、限られたケースにおいて、システムごとに実質破綻時を判断する水準を 5.125%より
高く、あるいは低く設定する場合がある。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 28
ムーディーズの劣後債務、銀行ハイブリッド証券、実質破綻時損失吸収条項付証券の追加ノッ
チング指針
通常の規制上の取り扱い
利払い停止メカニズム
追加ノッチング
実質破綻時損失吸収条
項付劣後債務
Tier 2
なし
0 または - 1
5
期限付き元本削減条項
付きジュニア劣後債務
上位 Tier 2
任意/強制、累積型
- 1 から - 3
6
優先証券
Tier 1
任意/強制、累積型、
非累積型、あるいは
非現金累積型(ACSM)
利払いメカニズム
- 1 から - 3*
7
実質破綻時損失吸収条
項付優先証券
その他 Tier 1
任意、非累積型
-2
8
「ハイ・トリガー」劣後債
務または優先証券
Tier 2 またはその他 Tier
1
その他 Tier 1 証券に
ついては任意、非累
積型
トリガー抵触、銀行全体
の破綻の確率と、そのい
ずれかあるいは両方が発
生した場合の損失規模を
モデルを用いて決定。利
払停止のリスク(該当する
場合)は、実質破綻時損
失吸収条項付証券の格
付ノッチングに織り込み、
「ハイ・トリガー」証券につ
いては、モデル導出の格
付と実質破綻時損失吸収
条項付証券の格付のい
ずれか低い方に格付す
る。
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証券の種類
4
*純損失トリガーがある非累積型 Tier 1 証券には最大 Baa1 のキャップが設定される。
以降のセクションでは、各種の劣後債、ハイブリッド証券、実質破綻時損失吸収条項付証券、
および「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャピタル証券に対するムーディーズの PRA 決定
の根拠を説明する。劣後債、ハイブリッド証券、および実質破綻時損失吸収条項付証券につ
いては、PRA を特定のノッチング範囲に位置づけるための指針を示す。提示したそれぞれの
範囲にはほとんどのケースの格付結果になると想定される「標準」のポジションが示されている。
しかし格付委員会は、該当する場合、トリガー、銀行の資本基盤の判断、利払い停止の可能
性など具体的な証券の特徴に基づき、これらの範囲内でフレキシブルに PRA 水準を決定す
る。また、規制当局が将来どのような行動を採るかを探るため、過去における規制当局の介入、
非介入の実績も検討する。
銀行の財務力にかかわらず劣後債務(「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャピタル証券を除
く)のストラクチャー上のリスクには変化がないので、全格付領域にまたがるBCAを有する銀行
が発行するこれらの債務のノッチング範囲は固定される 54。銀行の財務状況が悪化し、劣後
債務に損失吸収が強要される可能性が高まった場合は、それらは銀行固有の財務力に結び
付いているので、通常、格下げされる。しかし、清算外のリストラクチャリングの下での利払い
停止かつ/または元本削減が切迫している場合は、ムーディーズは、ノッチング範囲が示唆す
る格付より低い格付をもたらす可能性がある期待損失アプローチを用いる。期待損失アプロ
ーチについては本レポートの後段で説明する。
「ハイ・トリガー」証券の格付は、最終的に格付委員会の判断を反映するが、格付の枠組みは、
BCA で表される発行銀行の現在の財務力に対するムーディーズの見解、現在の資本水準
(将来の資本水準に関するムーディーズの見通しを織り込んで調整する場合がある)、実質破
綻に関連付けられる資本水準、および格付対象の証券に設定されたトリガーに関連付けられ
54
73
SEPTEMBER 11, 2014
BCA が B1 以下の銀行の場合、まずその銀行の低い財務力の原因となる固有の諸要因に着目して期待損失分析
を使用することも考慮する。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
る資本水準(これによってトリガー抵触までの距離が決まる)を織り込むモデル・ベースのアプ
ローチを用いている。モデルは、「ハイ・トリガー」証券の 2 つの信用リスク、すなわち銀行が実
質破綻に陥るリスクと実質破綻時より早い段階でトリガーに抵触するリスクを捕捉する。
また、トリガー抵触かつ/または銀行全体の破綻より早い段階で利払いが停止されるリスクがあ
る場合は、それも捕捉する。このリスクは、関連する実質破綻時損失吸収条項付証券の格付
ノッチングに織り込み、「ハイ・トリガー」証券については、モデル導出の格付と実質破綻時損
失吸収条項付証券の格付のいずれか低い方に格付する。
「プレーン・バニラ」劣後債務
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単純な劣後債務、すなわち「プレーン・バニラ」劣後債務(バーゼル I または II に基づき発行
される Lower Tier 2 証券を含む)は、利払い停止メカニズムを有しておらず、一般に清算時に
のみ損失を吸収する。金融危機以降、破綻に瀕した銀行が公的支援を受ける前提条件とし
て、劣後債務の保有者に損失負担を強制するという当局の意思や政治的意思が顕著にみら
れるようになった。その結果、劣後債務が銀行の破綻処理のコストを共同で負担するとの見方
はますます強まっている。
一部の所管国には既に、銀行の破綻処理の枠組みと法令に基づくベイル・イン制度の中で、
劣後債に損失の負担を課すことを当局に認める明示的な法律がある。金融危機時の経験か
ら、銀行破綻処理の枠組みは迅速に設定できることが明らかになっていることから、PRA を決
定する上では、そのような制度が備わっているかどうかにかかわらず全ての劣後債を同様に
扱う。また、銀行破綻処理制度を導入する国は増えることが予想され、バーゼルⅢは契約条
項によるか、劣後証券を「ベイル・イン」する規制当局の権限によるかのいずれかによって、規
制上の自己資本は損失を吸収するものでなければならないと明言している。
このことから、デフォルト確率は通常、調整後 BCA と整合性を持つと考えられる。損失規模は
破綻時損失分析によって捕捉される。そのため、この種の証券には通常、追加ノッチングは
行われない。
図表 29
劣後債務
証券種類
追加ノッチングレンジ
標準追加ノッチング
「プレーン・バニラ」劣後債務(法令に基づく ベイル・インの
対象に なるものとならないものがある)
0
0
支払い停止のメカニズムを有するハイブリッド証券
劣後債務の大部分は利払い停止のメカニズムを有していない。しかし、中南米、欧州、
アジアの一部地域では、一部でそのような証券が発行されるケースがある。中南米を
例にとると、ハイブリッド証券は短期で、最低規制資本要件が満たされなくなると累
積型の利払い停止が強制される。欧州では、Tier 3 証券(下位 Tier 2 と同順位の弁済
を受ける短期の証券)が同様のトリガーを有しており、トリガー抵触が起こると利払
いが停止され期限が延長される。
図表 30
ハイブリッド証券
証券種類
追加ノッチングレンジ 標準的追加ノッチング コメント
ハイブリッド証券 0 または -1 ノッチ 0 ノッチ
弱い規制 資本トリガー抵触に結び付けられており、
累積型利払い停止が実行される可能性は低く、損失
規模イベントの発生の可能性も低い。従って、リスク
はほぼ「プレーン・バニラ」劣後債務に相当し、従って
それと同様に扱われると考えられる。
これら全てのケースで、トリガー抵触の可能性は低い。さらに、トリガー抵触が起こったとしても、
銀行は清算が近いか清算外のリストラクチャリングの過程にあり停止した利払いが長期にわた
って累積される可能性は低いため、利払い停止に伴う損失の増分は小さくなる。そのため、損
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
失の可能性は「プレーン・バニラ」劣後債務に比べてもそれほど大きくないことから、破綻時損
失分析に基づくノッチングに加えて、さらに追加ノッチングを行うことはないであろうろう。
ジュニア劣後債務
ジュニア劣後債務(バーゼル I または II に基づき発行される Upper Tier 2 証券および一部の
Tier 1 証券を含む)は通常、契約条項に基づき銀行が累積型の利払い停止を実行できるオ
プションを持つよう仕組まれる。利払い停止や支払いの適時性に関するリスクを反映して、ほ
とんどのジュニア劣後債務は PRA のノッチングに加えて、さらに追加ノッチングを行う。
図表 31
ジュニア劣後債務
証券種類
追加ノッチングレンジ
標準追加ノッチング
コメント
ジュニア劣後債務
0 から -1 ノッチ
-1 ノッチ
利払い停止が累積型でない場合、-1 ノッチ。
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支払い繰延オプションに制限が設けられている劣
後債務の場合、ノッチングを追加しない可能性が
ある 55。
実質破綻時損失吸収条項付劣後債務
実質破綻時損失吸収条項付劣後債務(バーゼルⅢに基づく規制上の適格資本で、Tier 2
資本に分類される)は通常、償還期限があり、利払い停止メカニズムがない。直接契
約条項に盛り込むことにより、この証券は実質破綻時に株式への転換かつ/または元本
削減によって損失を吸収する。
図表 32
実質破綻時損失吸収トリガー条項付劣後債務
証券種類
追加ノッチングレンジ
契約条項に基づき実質 0 または -1 ノッチ
破綻時に損失がトリガ
ーされる劣後債務
標準追加ノッチング コメント
-1 ノッチ
「プレーン・バニラ」劣後債務と比較した、株式転
換/元本削減のタイミングに関する潜在的不確実
性の高さを反映して、さらに 1 ノッチ引き下げる。
ある所管国・地域の規制当局が、実質破綻時損
失吸収条項付証券と従来の証券(損失負担が強
要されるタイミングに関して、法的な破綻処理制
度の適用を受けるという契約条項を含まない証
券)に対し、異なる取り扱いをする可能性が非常
に低いと考えられる場合、実質破綻時損失吸収
条項付証券に追加ノッチングを適用しない。
実質破綻時損失吸収条項付証券の PRA は、多くの場合、「プレーン・バニラ」劣後債務と比
較した、株式転換/元本削減のタイミングにかかわる潜在的不確実性の高さを反映して、「プレ
ーン・バニラ」劣後債務の PRA からさらに 1 ノッチ引き下げる。例えば、銀行が全面的な破綻
処理に至る事態を回避するため実質破綻前にこの証券に損失吸収を強制する場合があり、
また規制当局が市場全体に混乱が及ぶことを回避するため、システム内の全ての銀行に同
時に契約条項に盛り込まれた損失吸収トリガーの発動を強制する可能性がある。
バーゼルⅢは実質破綻時損失吸収条項付証券を、ベイル・イン制度の対象となる他の証券と
同等に扱うことを意図しているが、実際にこの目標が達成されるかどうかはまだわからない。実
質破綻時損失吸収条項付証券だけを異なるものとして扱わず、実質破綻時に損失負担を強
要されるのは、他の全てのジュニア銀行証券も損失を負担する場合に限られることが示され
れば、PRA を「プレーン・バニラ」劣後債務と同水準にすることを検討する。
» 誤解を避けるため、目論見書のリスク要因において当該証券が既存または将来のベイル・
インの枠組みの適用対象となると説明している場合でも、ムーディーズはこれを契約の一
部とはみなさない。また、破綻した(実質破綻した)銀行の処理に関する現行法令に基づき、
55
75
SEPTEMBER 11, 2014
制限付き支払繰延オプションとは、利払停止が最低規制自己資本などの弱いトリガー抵触と結びついたオプシ
ョンである。銀行が清算あるいは清算外リストラクチャリングの寸前にある状況にない限り、それらのトリガ
ーに抵触する可能性はほとんどない。.
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
規制当局が実質破綻状態であると判断した時点で証券の損失負担を求める権限が行使
されるリスクに言及している場合、実質破綻時損失吸収条項付証券に例外が設けられるこ
ともある。当該証券に数量的な損失トリガーが付帯されていないと想定すれば、PRA を決
定する上でこれを「プレーン・バニラ」劣後債務に相当するとみなすことがある。
元本削減条項を有する期限付きジュニア劣後債務
欧州の銀行はトリガー抵触に結び付いた利払い停止と元本削減の条項がある短期ジュニア
劣後債務を発行している 56。それらは、一般に累積型であり、満期到来前に、支払い停止し
た利息と元本削減分の支払いを行わなければならない 57。そのため、元本削減が満期前のど
の時点で発生するかによって、銀行がゴーイング・コンサーンとして破綻処理の枠外で存続し
ても、これらの証券の保有者は追加的な利払い停止のリスクに晒される。そのため、トリガーの
種類とハイブリッド証券の利払い停止が累積型か非累積型かによって 1 ノッチから 3 ノッチの
範囲で追加ノッチングを適用する。
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図表 33
元本削減条項を有する期限付きジュニア劣後債務
証券種類
追加ノッチングレンジ
元本削減条項を 有する償 - 1 から -3 ノッチ
還期限付きジュニア劣後
債務
標準追加ノッチング コメント
- 1 ノッチ
トリガーの種類とこのハイブリッド証券が累積型
か 非累積型かによって、左記レンジに位置づけ
られる。
優先証券
優先証券、あるいは(EUなどのいくつかの所管国(地域)にみられる)請求順位が普
通株のみに優先するジュニア劣後債務は、定義上、損失吸収証券となる。優先証券は、
特定の財務トリガー抵触によって元本削減の対象とされ、銀行の清算手続き外のリス
トラクチャリングから除外されるか、銀行が財務破綻に陥った際には大幅にディスカ
ウントされて普通株式への転換の対象にされることがある。通常、永久債の性格を持
つ優先証券は返済されず、利払いの停止はデフォルト事由に該当しない 58。
利払い停止となった利息は通常、累積されず、支払停止期間が長引くと保有者は相当
大きな損失リスクに晒される。従って非累積型の優先証券は、銀行破綻以前に毀損さ
れることがあるため、PRA に追加ノッチングを織り込む。累積型優先証券(発行頻度
は高くない)は通常、PRA を 1 ノッチ下回る水準に格付される。
図表 34
優先証券
証券種類
追加ノッチングレンジ 標準追加ノッチング
コメント
優先証券
- 1 から -3 ノッチ
利払い停止が累積型の場合は、-1 ノッチ。
-2 ノッチ
利払い停止が純損失トリガーを持つ非累積型の場合は-3
ノッチ、ただし PRA は Baa1 を上限とする。
3 ノッチの追加ノッチングは、利払い停止に伴うより高い格付遷移リスクを反映するため、純損
失トリガーが付帯された非累積型優先証券のために留保される。この PRA は Baa1 のシーリン
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SEPTEMBER 11, 2014
56
純損失トリガーとバランスシート損失トリガーがありうる。利益に基づく純損失トリガーに対して、バランス
シート損失トリガーには通常、利益剰余金、準備金、そして直近年度の利益を含める。バランスシート損失ト
リガーが報告されるまで銀行は数年にわたる損失計上とそれによる多額の資本枯渇を経験する可能性が高いこ
とから、このトリガーは利益に基づくトリガーよりも弱いとみなす。しかし、数年にわたって純損失を計上し
ているとしたら、その銀行はバランスシート損失トリガーに抵触する可能性が高まる。
57
ド イ ツ の 銀 行が 発 行 する 享 益権 付 証 券 (Genussschcine)お よ び オー ス ト リ ア の銀 行 が 発行 す る補 完 的 資 本
(Ergänzungskapital) はこのタイプの資本の例である。享益権付証券のほとんどは、バランスシート損失トリガー
が付いた累積型のジュニア劣後債務である。このトリガー抵触が実際に利払停止や元本削減に結びついた場合、
削減された金額は満期に支払い期日が到来する。しかし、ある種の享益権付証券は、その後に利益が計上され
た場合、当初の期限後 4 年までの期間の累積利息と元本削減金額を返済するよう銀行に義務づける。補完的資
本は純損失トリガーを有しているが、通常、非累積型である。
58
対照的に、ジュニア劣後債務は利払いを後日まで延期できるとしても、累積した未払の利息に不払いが発生し
た場合、デフォルト事由に該当する。.
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
グの対象となる。これは、財務基盤や資本基盤の強弱にかかわらず、どの銀行も収益変動を
経験する可能性があり、それが純損失トリガーに抵触する可能性を生むからである。
所管国(地域)ごとの考慮事項
欧州銀行は、清算の際に優先請求権を持つ非累積型の信託型優先証券を発行する。これら
のハイブリッド証券には、通常、最低規制資本要件などの弱いトリガーに結びつけられる強制
利払い停止メカニズムしか持たない。トリガーに抵触する可能性は比較的低く、特に資本基
盤の強化と支払不能回避のために政府の支援を受けてきたシステム上重要な銀行にそれが
いえる。そのため、PRA は通常、さらに 1 ノッチ引き下げられる。
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オーストラリアの銀行が発行するハイブリッド証券は純損失トリガーがある非累積型の優先証
券が多い。銀行は規制当局の承認を得てトリガーを無視するオプションを持つ(明示的な場
合と明示的でない場合がある)。オーストラリアの銀行は外国でのホールセール資金調達へ
の依存度が高いため、明示の規定がないにもかかわらず、純損失トリガーは銀行あるいは当
局によって無視される可能性が高い。そのためこれらの証券の PRA には、場合によって、3 ノ
ッチではなく 2 ノッチの追加ノッチダウンが適用され、Baa1 の上限も外される可能性がある。
銀行が利払いを停止する可能性が非常に低いとムーディーズが判断した場合(例えば、脆弱
な事業環境において強力な政府サポートを受けるが、自己資本比率は高い銀行)、銀行固有
の財務力が何を要因として弱くなっているかに応じて、非累積型優先証券の PRA のノッチダ
ウン幅を上述した 1-3 ノッチのレンジの中で 1 ノッチにとどめる可能性がある。
実質破綻時損失吸収条項付優先証券
実質破綻時損失吸収条項付優先証券(バーゼルⅢの自己資本規制の下でその他Tier 1 に
分類される)は通常、非累積型で任意の利払い停止メカニズムを有する永久証券である。この
証券は、契約条項に直接盛り込まれた規定によって、実質破綻時あるいはそれに近づいた時
に株式転換かつ/または元本削減を通じて損失を吸収する。損失のトリガーは、実質破綻時
損失吸収条項付劣後債務とは異なり、規制当局が実質破綻と判断した時点だけではなく、バ
ーゼルⅢに示唆された普通株式等Tier 1(CET 1)比率 59が 5.125%を下回った時に発動され
る。
バーゼルIIIが提案するトリガーは、実質破綻時に「十分に近い」トリガーの閾値に相当すると
いうのがムーディーズの見解である。異なるトリガー水準が設定された証券については、その
証券を実質破綻時損失吸収条項付証券の格付の枠組みに基づいて格付できるほど、トリガ
ーが実質破綻に近い水準にあるかどうかを所管国(地域)ごとに判断する 60。「破綻時ベース
(ゴーン・コンサーン)」証券とみなされるため、それらは経営難に陥った銀行が普通株配当の
停止、負債削減、資産売却など他の全てのオプションを使い果たした後に損失吸収の機能を
果たす。その銀行はそのような状況下ではストレス・テストを充足していないであろう。
図表 35
実質破綻時損失吸収条項付優先証券
証券種類
追加ノッチングレンジ 標準追加ノッチング コメント
実質破綻時 損失吸 適用しない
収 条項付優先 証券
- 2 ノッチ
これらの証券には伝統的な非累積型優先証券と同じ
追加ノッチングを適用する。
伝統的な非累積型優先証券と同様に 2 ノッチの追加ノッチダウンを適用することにより、銀行
の実質破綻時より早い段階で発生し得る非累積型利払い停止に関連したインペアメント発生
の確率と、銀行全体が破綻する確率を捉えることができる。
77
SEPTEMBER 11, 2014
59
普通株式等 Tier 1(CET 1)比率は、普通株式等 Tier 1 資本のリスク調整後資産に対する比率として定義される。
60
実質破綻とみなされる自己資本比率を上回る水準にトリガーが設定されているとムーディーズが判断した場合、
「ハイ・トリガー」証券の格付指針に沿って格付する。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャピタル証券
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「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャピタル証券は、Tier 2 劣後債(通常は利払い停止メカ
ニズムを持たない)あるいはその他 Tier 1 非累積型優先証券である。これらの証券は、実質
破綻とみなされる自己資本比率を大きく上回る水準にトリガーが設定され、抵触すれば株式
に転換されるか、全額、一部あるいは一時的な元本削減が行われる。これらの証券の株式転
換/元本削減条項は、銀行の財務が逼迫した場合、銀行全体の破綻を回避するために自己
資本を強化することを目的としている。この種の証券には、その形式にかかわらず、複数のリ
スクがある。すなわち、銀行の実質破綻時に請求順位がジュニア債務/優先株と同等になるリ
スクや、実質破綻時よりかなり早い段階でトリガーに抵触し、損失負担を強要されるリスク、ま
た、その他 Tier 1 証券の場合、おそらくトリガー抵触前に非累積ベースで利払いが停止され
るリスクである。これらの証券は銀行全体の破綻より早い段階で損失を吸収する仕組みになっ
ているため、破綻時損失分析の対象とならない。従って、実質破綻時損失吸収条項付証券と
は対照的に、損失規模と支払いの適時性の両方を織り込むというアプローチを適用する。
ムーディーズは「ハイ・トリガー」証券の格付にあたり、通常用いるハイブリッド証券および実質
破綻時損失吸収条項付証券の格付アプローチから離れて、モデル・ベースのアプローチを
用いる。単純な言い方をすれば、「ハイ・トリガー」証券の絶対的なリスクは「トリガーまでの距
離」であり、単純なノッチングによるアプローチよりもモデルを用いたアプローチの方が、これを
適切に捉えることができる。しかし、トリガーまでの距離は、これらの証券のリスクの一面を表し
ているにすぎない。第 2 のリスクは、BCA によって表される銀行のファンダメンタルな財務力
からみた証券のリスクである。
これら 2 つのリスクを共に捕捉するため、ムーディーズの格付の枠組みは、BCAで表される銀
行の現在の財務力に対するムーディーズの見解と直近のCET 1 比率(自己資本に対するム
ーディーズの予想を考慮して調整する可能性がある)を織り込むモデル・ベースのアプローチ
を用いて、トリガー抵触の確率と銀行全体が破綻する確率を決定する。モデルは銀行の現在
のCET 1 比率と証券に損失負担を強要するトリガーとして設定された自己資本比率までの距
離を計測する 61。
モデルでは、銀行全体が破綻する確率に、銀行全体の破綻より早い段階でトリガーに抵触す
る確率を加え、それをムーディーズの期間を考慮しないベクトルにマッピングする(図表 47 参
照)。損失規模を織り込んだ後、モデルは格付分析の始点となる格付を導出する。元本が全
額削減される証券については、実質破綻時損失吸収条項付証券の格付の上限を適用しない
場合は、ノッチング範囲を 1 ノッチ追加する。「ハイ・トリガー」証券の格付を位置づけるための
ステップ・バイ・ステップのガイダンスについては、付録 12 を参照されたい。
このモデルへのアクセスをご希望の方は、[email protected] 宛ての電子メールまたはフ
ァックス(+1.212.658.9475)にてご請求下さい。モデルは、ムーディーズが格付分析で用いる
実際の投入値あるいは特定の証券に付与する格付を決定する上で、考慮する可能性のある
全ての追加要因を反映したものではありません。
「ハイ・トリガー」証券のモデル・ベースの格付が銀行の実質破綻時損失吸収条項付証券の格
付を上回る場合 62、実質破綻時損失吸収条項付証券の格付を「ハイ・トリガー」証券の上限と
する。これは、「ハイ・トリガー」証券の格付は、実質破綻に達するリスクおよびトリガー抵触まで
の距離に関連した信用リスクから構成されるため、「ハイ・トリガー」証券の格付が実質破綻時
損失吸収条項付証券の格付を上回ることはないからである。
78
SEPTEMBER 11, 2014
61
通常、リスクアセットに対する CET 1 の比率が一定水準を下回ればトリガーに抵触したとされる。契約文書は
CET 1 をバーゼル III の資本控除項目を全て織り込んだ「完全施行ベース」の CET 1 と規定している場合もあ
れば、一部の項目しか控除していない「移行措置ベース」の CET 1 と規定している場合もある。ムーディーズ
は、証券発行時の CET 1 比率の定義を考慮して、トリガー抵触までの距離を計測する。.
62
「ハイ・トリガー」証券の格付が銀行の BCA を上回ることはあり得ないが、実質破綻時損失吸収条項付証券の
格付は、Tier 2 証券かその他 Tier 1 証券かに応じて、アンカーポイントとなる銀行の調整後 BCA から通常 2-3
ノッチ低くなるため、こうしたケースが起こり得る。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
銀行が、「ハイ・トリガー」証券と同じ種類の自己資本に算入される格付対象の実質破綻時損
失吸収条項付証券を発行していないケースがある。そのようなケースでは、上限となる実質破
綻時損失吸収条項付証券の格付を決定するために、「ハイ・トリガー」証券と同じ種類の自己
資本(Tier 2 またはその他 Tier 1)に算入される実質破綻時損失吸収条項付証券を当該銀行
が発行したと仮定し、関連する破綻時損失分析(運用可能な破綻処理制度の適用の有無に
応じ)と追加ノッチングを適用して、格付の上限を決定する。
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モデル・ベースの格付は、トリガー抵触の確率しか考慮しておらず、非累積型の利払い停止
などの他の条項にかかわるリスクを必ずしも織り込んでいない。しかし、このリスクは、関連する
実質破綻時損失吸収条項付証券の格付ノッチングによって既に捕捉されており、「ハイ・トリガ
ー」証券については、モデル導出の格付と実質破綻時損失吸収条項付証券の格付のいずれ
か低い方に格付する。関連する実質破綻時損失吸収条項付その他Tier 1 証券の格付は、銀
行全体の破綻時の損失規模と、銀行全体の破綻より早い段階の利払い停止によりインペアメ
ント事由が発生する可能性を既に織り込んでいる(つまり、銀行がデフォルト回避のために緊
急時のサポートを必要とする場合、デフォルト確率はBCAが示唆するデフォルト確率より高く
なる) 63。従って、「ハイ・トリガー」証券を格付する際は、トリガー抵触、銀行全体の破綻、およ
び、その他Tier 1「ハイ・トリガー」証券の場合は利払い停止に関連したインペアメント、というリ
スクの中で、事実上、最も高い信用リスクを考慮した格付を付与している。
モデルから導出された格付は、「ハイ・トリガー」証券の格付を決定するための起点にすぎず、
最終的な格付と一致するとは限らない。ムーディーズが通常、格付を付与する場合と同様に、
格付委員会はモデル(場合によってはスコアカード)に基づくアプローチでは証券の信用リス
クを適切に捕捉できないと考えられる場合、格付委員会の判断によって格付を調整すること
ができる。考慮する他の要因として、銀行に何らかの行動を起こさせる証券の契約条項がある。
例えば、トリガー抵触時に低い価格で株式に転換しなくてはならない「ハイ・トリガー」証券の
場合、既存の株主に対する非希薄化条項が発行条件に含まれていなければ、銀行はあらゆ
る手段を講じて株式転換トリガー抵触とそれに伴う株式の希薄化を回避しようとするかもしれ
ない。一方、元本が全額削減される「ハイ・トリガー」証券の場合、銀行はトリガー抵触を躊躇し
ないかもしれず、そのような証券のリスクは損失規模にかかわらず、株式転換される証券より
高くなると考えられる 64。
証券の契約条項以外に、銀行固有の他の状況も考慮する場合がある。例えば、自己資本の
問題に対処しトリガー抵触を回避するために、新株を発行する能力や、レバレッジ削減または
事業売却といった他の改善措置をとる能力などである。また、自己資本バッファーにどのくら
い余裕があるかも考慮する場合がある。これらの要因は銀行の BCA にも影響するが、「ハイ・
トリガー」証券の格付に対し、より大きな影響を及ぼす。
予備的格付評価
ムーディーズの破綻時損失分析と追加ノッチングを合わせた結果が PRA である。これは、サ
ポートがない場合の格付に等しい。
図表 36 は、運用可能な破綻処理制度が適用される、調整後 BCA が baa3 以上の銀行の各
証券の PRA の導出例を示したものである。各証券クラスについて、破綻時損失分析から、“de
jure“シナリオと“de facto“シナリオのそれぞれのノッチング結果が導かれ、ウエイトが適用され
て、破綻時損失分析に基づくノッチングが決定される。次に、特徴に応じて各証券に追加ノッ
79
SEPTEMBER 11, 2014
63
最低でも 70%の損失率を想定した場合(この場合、調整後 BCA から 1 ノッチのノッチダウンが適用される)、実質破綻時
損失吸収条項付証券の格付は、利払い停止の発生する確率が銀行全体の破綻確率の 2.5 倍を上回ることを意味する。
64
Charles P. Himmelberg と SergeyTsyplakov による論文 “Incentive Effects and Pricing of Contingent Capital”(2014 年、
Goldman Sachs Asset Management)は、コンティンジェント・キャピタル証券がトリガーされる可能性は(発行条件によっては
おそらく損失率も)、株式転換証券がトリガーされる可能性より高いと指摘している。銀行の自己資本比率が既にトリガー
水準に近い場合、トリガーされる確率が高まれば、銀行の経営陣はより積極的にリスクをとり、資本の取り崩しに対してより
強いインセンティブを持つようになる(あるいは、その時点で、より積極的な会計慣行を用いて損失を認識し、規制当局も
銀行が損失認識を加速しようとする姿勢を支援する可能性がある)。こうしたインセンティブは、元本が削減されるコンティ
ンジェント・キャピタル証券で作用するが、株式転換される証券では作用しない。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
チングが加えられる。破綻時損失分析と追加ノッチングを合わせ、調整後 BCA に対する証券
へのノッチングが決まり、PRA が導かれる。
図表 36
予備的格付評価の例:運用可能な破綻処理制度が適用され、調整後 BCA が baa3 の場合
追加
ノッチング
証券クラスに
よる
ノッチング
予備的格付評価
LGF ノッチング
De jure
De facto
破綻時損失分析の
ノッチング
預金
1
3
2
0
2
baa1
シニア長期債務(銀行)
1
0
0
0
0
baa3
期限付き劣後債務(銀行)
-1
-1
-1
0
-1
ba1
シニア長期債務(持ち株会社)
-1
-1
-1
0
-1
ba1
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証券クラス
優先株式(持ち株会社) - 非累積型
-1
-1
-1
-2
-3
ba3
図表 37 は、調整後 BCA が baa3 だが、運用可能な破綻処理制度が適用されない銀行の例
である。破綻時損失分析に基づくノッチングが証券種類に応じて決定され、追加ノッチングが
加えられる。これらを合わせて調整後 BCA に対するノッチングが決定し、PRA が導かれる。
図表 37
予備的格付評価の例:運用可能な破綻処理制度が適用されず、調整後 BCA が baa3 の場合
破綻時損失分析の
ノッチング
追加
ノッチング
証券クラスに
よる
ノッチング
予備的格付評価
預金
0
0
0
baa3
シニア長期債務(銀行)
0
0
0
baa3
期限付き劣後債務(銀行)
-1
0
-1
ba1
シニア長期債務(持ち株会社)
-1
0
-1
ba1
優先株式(持ち株会社) - 非累積型
-1
-2
-3
ba3
証券クラス
インペアメント事由によっては、期待損失分析を用いて格付を決定
証券や預金が差し迫った損失吸収に直面するという状況がありうる。それは、ハイブ
リッド証券の利払い停止かつ/または元本削減のトリガーが発動される状況が近づいて
いる、銀行が資本基盤強化のため長期にわたる非累積型の利払い停止に踏み切る、規
制当局が利払いを妨げたり、株式転換か元本削減を強制しようと介入するなどの場合
である。投資家が受け取る金額、もしくはほぼ確実に受け取ると予想される金額が、
もし債務者が財務的苦境になかったり、あるいは第三者への支払いを行うことを妨げ
られなかったならば投資家が受け取るであろうと予想される金額を下回る場合、たと
え関連契約において、投資家に対する当然の救済措置(破産を求める権利等)が定め
られていなかったとしても、これらはすべて経済的損害(インペアメント)事由とみ
なされる 65。
これらのケースでは、利払い停止の予想期間あるいは清算外の元本削減が強要される可能
性、そしてそれらのイベントが発生した場合の損失の規模を織り込んだ期待損失分析を用い
65
80
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「格付記号と定義」参照(この文書は定期的に更新され、最新版は moodys.com から入手可能である)。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
て格付される 66。格付は、必要に応じて、本格付手法が示唆する範囲を超えて下方調整され
る。ハイブリッド証券が利払いを停止し、後にそれを再開した場合、銀行の財務状況が安定し、
銀行が長期間にわたって利払いを実施できる可能性が高まったと判断できる時に限って、ム
ーディーズは格上げと通常のノッチング指針の使用を検討する。
元本が削減され、その後、元本回復が始まった証券の場合、ムーディーズは元本が完全に回
復される可能性を評価する。株式転換または元本削減が行われる可能性のあるコンティンジ
ェント・キャピタル証券は、その時点で証券の契約条項に基づいてムーディーズが予想する損
失規模に応じて、Caa 下位から C のレンジの格付が付与されることになるだろう。
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既存のハイブリッド証券と劣後債務も、額面から大幅にディスカウントされて、他の形態の債務
または株式に交換されてきた。交換の目的が破産申請または返済不履行の回避とみなされ
れば、その交換は清算外のリストラクチャリングに相当し、格付上はもう一つの種類のインペア
メント事由である救済目的の債務交換とみなされる。これらのケースでも、ムーディーズは期待
損失アプローチを用いて、当該証券に格付を付与し、銀行が当初に約束した支払額である額
面に対しどれくらいの損失が発生するかを判定する 67。
81
SEPTEMBER 11, 2014
66
BCA が b1 以下の銀行については、ハイブリッド証券の特徴やそのような弱い BCA をもたらすことになった要因によって
は、期待損失分析の使用も検討する。
67
ムーディーズの格付手法“Moody’s Approach to Evaluating Distressed Exchanges” (Moody’s Investors Service, March 2009)
(ムーディーズ・ジャパン版 「ディストレスド・エクスチェンジの評価に対するムーディーズのアプローチ」
2010 年 9 月)を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
第 3 段階: 政府からのサポート
政府からのサポートに対するムーディーズのアプローチは、関係者からのサポートを
評価するアプローチと類似している。ムーディーズの評価方法は、内容よりも形式に
おいて変化の途上にあり、より定性的で柔軟なアプローチとなることを意図している。
これによって、銀行債権者へのサポートに対する姿勢を決定する、捉え難いことが多
い現実の変化を織り込むことが可能になるとみられる。
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ムーディーズの格付に織り込まれるサポート水準は、政府が金融機関のサポートに公
的資金を用いる可能性と、サポートを提供する政府の能力を反映する。しかし、グロ
ーバル金融危機によって、サポートの可能性は一定ではなく、急速に変化し、ときに
は短期間で低下し得ることが明らかになった。また、一つの金融機関でも債務クラス
によってサポート水準は異なることがある。例えば、通常はシニア無担保債務の方が
ジュニア証券に比べサポートを受ける可能性が高い。
サポートの可能性
ムーディーズは、公的主体(通常は政府だが、中央銀行あるいは国際機関の場合もあ
る)による特定の債権者クラスへのサポートの可能性を、その証券の公的な重要性が
「政府による信用補完」「非常に高い」「高い」「中位」「低い」の 5 つのカテゴリ
ーのどれによって最も適切に反映されるかに基づいて評価する。ムーディーズは、い
くつかの考慮事項を分析し、サポート評価を決定する(最終的には、各銀行の証券ク
ラスごとに決定する)。
まず、全体的な公的サポートの枠組みを織り込む。ある格付対象証券への政府からの
サポートの可能性の全般的な評価は、関連する公的主体の全般的な姿勢と、公的主体
が自身の信用力以外にサポートを提供する上で直面する可能性のある制約要因の理解
によって大きく左右される。
» 公的方針。ムーディーズは、国内また場合によっては汎国家的な公的方針の枠組みが、
サポートの可能性を示す重要な指標であると考えている。債権者に損失負担を強要できる
ことを認める明白な法的枠組みがあり、銀行の業務継続が担保されれば、市場シェアやシ
ステム上の重要性に関わらず、サポートの可能性は「中位」か「低い」に評価されることが多
い(「低い」とされることのほうが高い)。ただし、これも債務クラスによって異なり、公的方針
の枠組みは例外を認める場合もある。また、政府にサポート提供の意思があっても、サポ
ート提供能力が制約されるケースがある。例えば、EU の政府補助の規制や、ドル化現象
により財政の柔軟性が事実上制約される場合などである。公的方針の枠組みの先行指標
となる世論や政治的見解、ならびに政府による銀行サポートの実績も考慮する。一方、公
式に表明された信頼できるサポート方針を持つ国もあると考えられる。
さらに、以下に挙げるより銀行固有の考慮事項について評価を行う。
» 国内預金・貸出市場のシェア。一般に、高い市場シェアを持つ銀行ほど、国内経済と国内
金融システムの機能にとって高い重要性を持ち、政治家がサポートを提供する傾向が強く
なる。逆に、比較的小規模な銀行がシニア無担保債務をデフォルトしても、預金者の取り
付け騒ぎにつながる可能性は低く、国内経済および金融システムに与える影響も比較的
限定されるため、政府はそのようなデフォルトを容認する可能性が高い。概して、3%以上
の市場シェアを持つ国内最大の銀行は、前述の公的方針に応じて、システム上の重要性
が「高い」または「非常に高い」とみなされる可能性が高い。地域市場のシェアを考慮する
場合もある。例えば、国内シェアは低いが地域で主導的な役割を果たしている銀行は、国
内統計が示唆するよりも重要度が高いとみなすこともある。
» 市場への影響。大部分の商業銀行のシステム上の重要性は、各行の国内預金・貸出市場
のシェアに適切に反映されているとみられる。しかし、ホールセール銀行の中には極めて
大規模かつ/または複雑な銀行があり、一部のシステムは相互の関連性が強いため、国内
預金・貸出市場のシェアが小さくても、デフォルトした場合にその他の市場参加者(その他
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
の銀行、保険会社など)あるいは市場全般の信認に影響を与え、金融システムの安定性を
毀損したり、政治的に容認できないとみなされる可能性がある。一部のケースでは、債権
者に損失負担を強要することが理論上は可能であっても、高い不確実性と混乱を招くこと
なく実施することは現実的には難しすぎる場合がある。そのような金融機関の一部の証券
は、公的方針の制約がなければサポートの可能性が「高い」または「非常に高い」と考えら
れる。
» 業務の性質。銀行の業務の性質が、その銀行に対してサポートを提供するかどうかの政府
の判断に影響する場合がある。例えば、顧客に富裕層が多い(多額の預金を受け入れ、ロ
ンバード型貸出を利用できるなど)プライベートバンクはサポートに値しないとみなされる可
能性がある。一方、公共政策上の役割を持つと認識されている、あるいは実際にそうした
役割を果たしている小規模な銀行(社会的弱者の預金を受け入れる銀行など)は、市場シ
ェアが示唆するよりもサポートを受ける可能性が高いかもしれない。
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» 公的関与。政府が銀行に出資していれば、サポートの可能性が高まる可能性がある。公共
セクターが公共政策にかかわる理由で(過去に実施した救済の結果ではなく)銀行の
100%の持分を維持している場合(売却する見込みはない)、その銀行は「政府による信用
補完」とみなされることが多く、公的に高い重要性を持ち、制約がなければサポートを受け
る可能性が高いことを意味する。この背景となっているとみられるのが、公共政策上の重要
性(上記参照)や、政府保有の銀行のデフォルトを容認すれば政府の信用力に対する市
場の信認を喪失するリスクである。政府関係者が銀行の執行役員あるいはそれ以外の役
員の地位に就いている場合、銀行の行動に共同責任を負うという暗黙の了解があるため、
やはりサポートの可能性が高くなるとみられる。
これらの要因に基づき、ムーディーズは銀行全体だけでなく、格付対象の証券クラスごとにサ
ポート提供の意思の水準を判断する。サポートは選択的に提供される場合があるとムーディ
ーズは考えているため、この点は重要である。例えば、公的主体はジュニア債務よりシニア債
務にサポートを提供する可能性が高いと判断する可能性がある。同様に、政府はシニア無担
保債務の債権者より預金者に直接サポートを提供しようとすることも考えられる。
例えば、ハイブリッド証券やコンティンジェント・キャピタル証券の他にも、劣後債務や「プレー
ン・バニラ」劣後債務による強制的な損失吸収を、破綻に瀕した銀行が公的セクターからのサ
ポートを受けるための前提条件とするという意向が規制当局や政府の中で強まっているのは
明らかである。そのため、ムーディーズは通常、ジュニア証券は政府サポートの恩恵を受けな
いと想定し、多くの所管国(地域)でジュニア債務格付に政府サポートの可能性を織り込まな
いこととした。しかし、政府がこの債権者クラスにサポートを提供する強い意思を維持し、政府
のバランスシートに対する財政上の制約の範囲内でサポートを提供する能力を持つ国が例外
的に存在するかもしれない。そのようなサポート提供の意思が存在するという確信が持てれば、
格付にサポートを織り込む。それによって、一部のジュニア債務の格付が、PRA を上回り、従
って調整後 BCA を上回る可能性がある。
さらに、銀行と持ち株会社が発行する同種の証券でも、異なるサポートの可能性を想定する
場合がある。所管国(地域)によっては、規制当局が一部あるいはすべての持ち株会社の債
務を損失吸収証券とみなす可能性があり、そうなれば政府サポートは受けられない。他の規
制当局は、これとは極めて異なる見解を示すかもしれない。
サポート提供能力
一般に、関係する公的主体のサポート提供能力を最も適切に示すのは、自国通貨建て長期
格付であるとムーディーズは考えている。この格付には、ソブリン格付手法に基づき、銀行セ
クターから生じる偶発債務リスクが織り込まれている。他のサポート提供者あるいはサポート制
約要因があり、それがソブリン格付に反映されていないとムーディーズが考えるような稀なケ
ースでは、自国通貨建て長期格付を参照しないこともある。例えば、例外的な状況で、政府が
国際機関からのサポートを受けることにより、自身の債務返済能力を超えて銀行セクターにサ
ポートを提供できることがあり得る。そのようなケースでは、政府以外の主体がサポート提供者
であると判断する、あるいは、銀行セクターが利用可能な追加資源を反映させるために政府
のサポート能力を上回るサポート能力の指標を適用する可能性がある。
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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サポート提供者とサポート対象者の間の相互連関
関係者からのサポートの枠組みと同様、サポート対象銀行の信用力と関係する公的主体の信
用力との相互連関を考慮する。
ムーディーズは通常、相互連関を「非常に高い」「高い」「中位」の 3 つの大きなカテゴリーに
分類する。
ほとんどの場合、相互連関は「非常に高い」と想定する。これは、政府の信用力と銀行システ
ムの信用力は通常、極めて密接に関連しているというムーディーズの見解を反映している。こ
のことは、最近の金融危機において、銀行セクターのリスクがソブリン・リスクを悪化させ、ソブ
リン・リスクが銀行セクターのリスクを生み出したことにより明白に示されたとムーディーズは考
えている。
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しかし、一部のシステムでは政府財政の健全性と銀行システムの健全性との結び付きが弱い
こともある。ムーディーズのソブリン・アナリストと銀行アナリストは、様々な要因に基づいて国毎
にこの関係を評価する。考慮する要因には次のようなものがある。
» 政府のリソースと比較した銀行セクターの規模。これはシステミックな危機が発生した場合、
どの程度、政府へのリソースの依存が起こり得るかをみる重要な指標となる。
» 銀行システムと経済におけるストレスのレベル。これはシステミックな危機が発生する可能
性を示す指標となる。
» 銀行システムの外貨建て債務の、政府の外貨建てリソースに対する比率。これは政府が必
要なサポートを提供する能力を示す指標となる。
上記の要因を分析した結果、相互連関を「非常に高い」ではなく「高い」と判断する場合があ
る。例えば、銀行システムの規模が国内経済および政府のリソースの規模からみて比較的小
さいケースである。銀行システムの規模が政府に比べて非常に小さいため、銀行セクターの
信用力と政府の信用力との関連性が弱いというさらに限定的なケースでは、相互連関を「中
位」と判断する可能性がある。
サポートの適用
政府からのサポートを次の要因に基づいて債務格付に織り込む。
» サポート考慮前の各債務クラスの信用力
» 特定の債務クラスに公的セクターからのサポートが提供される可能性
» サポート提供能力
» サポート提供者と銀行の相互連関
このアプローチの算定方法は「付録 8:サポートへの複合デフォルト分析の適用」で詳述する。
これを基に、各金融機関に対するサポート考慮前の信用力への、サポートを考慮したノッチの
レンジを格付委員会に提示する(図表 38 参照)。格付委員会は、検討対象の状況を判断し、
通常、このレンジ内でノッチ数を決定する。格付を付与する際、実際の状況に対して本質的
に限界のある算定モデルを適用するため、固有の状況に応じて、格付委員会の判断がその
ガイドラインから上下いずれの方向へも乖離する可能性がある。一方、明確な根拠がなけれ
ば、格付委員会は大幅なノッチアップには慎重になる可能性がある。
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 38
政府サポート・ワークシートの例
想定
インプット
Aaa
サポート提供者の信用力
相互連関
コメント
XYZ 国
サポートを提供する政府
非常に高い
自国通貨建て銀行預金シーリング
Aaa
自国通貨建てカントリー・シーリング
Aaa
外貨建て銀行預金シーリング
Aaa
外貨建てカントリー・シーリング
Aaa
調整後 BCA
からのノッチ
ング
自国通貨建てカ
ントリー・シーリ
ングの影響
自国通貨建
て格付
外貨建てカン
トリー・シーリ
ングの影響
外貨建て
サポート水準
ノッチング指
針(最小 – 中
位- 最大)
baa1
高い
1-2-2
2
0
A2
0
A2
baa3
高い
2
0
Baa1
0
Baa1
預金
シニア長期債務(銀行)
1-2-2
格付
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予備的格
付評価
期限付き劣後債務(銀行)
ba1
低い
0-0-1
0
0
Ba1
0
シニア長期債務(持ち株会社)
ba1
低い
0-0-1
0
0
Ba1
0
Ba1
優先株(持ち株会社) - 非累積型
ba3
低い
0-0-1
0
0
Ba3
0
Ba3
Ba1
サポートは動的な性質を持つ
政府が金融機関の異なる債権者クラスに対し財務サポートを提供する意思と能力を持つ可能
性に関するムーディーズの意見は、想定ではなく確率に基づく信用判断であり、時間の経過
と共に変化する可能性があることに留意することが重要である。ムーディーズは、政府があるク
ラスの銀行債権者に対してサポートを提供することは一切ないとも、必ずサポートを提供する
とも想定していない。むしろ、サポートの可能性についてのムーディーズの意見は、現在の法
律および規制、過去に政府がとった措置、公共政策の表明、他国の動向、政治的意向の変
化、等の複数の考慮事項に基づいた、信用力に関するある時点での判断である。
従って、ムーディーズのサポートについての意見は動的で、時間の経過に伴い、特定の国あ
るいは類似した規制方針に向かわせる要因が存在する複数の国の中で、これらの基礎的な
要因と同じように急速に変化することが予想される。さらに、これらの要因の相対的な重要性
は、あらかじめ決定することができず、ケースごとに異なる。例えば、他国での動向が大きな重
要性を持たない場合もあれば(北朝鮮など)、ある国における変化からの「デモンストレーショ
ン効果」が極めて強い影響を及ぼす場合もある(ユーロ圏諸国など)。サポートの可能性を決
定するためのムーディーズのアプローチ(サポートの意思と能力の評価)は、透明性が高くわ
かりやすいものであると同時に、外的要因の変化に応じて信用判断を変更できるように柔軟
性を備えていることを目指している。信用判断を変更した場合は通常、ムーディーズの他の慣
行にならい、格付アクションに関連したコメントにおいてその理由を説明する。
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
付録 1: カバードボンドの発行に特化した金融機関に対する格付のアプローチ
はじめに
本セクションは、主たる業務がカバードボンドまたはそれに類似する金融商品(ファンドブリー
フ債等)の発行に限定されている金融機関に対し、ムーディーズがどのように格付を付与する
かについての、投資家、発行体、その他の市場参加者の理解の一助とすることを目的として
いる。このアプローチは、親銀行または銀行グループに代わってカバードボンドを発行するこ
とを専業とする金融機関のみに適用される。主たる業務に加え、非常に限定的な貸出業務を
行っている場合もある。本セクションでは、こうした金融機関を特別カバードボンド発行体
(SCBI)と称する。
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多くの国では、銀行はオンバランスのカバードボンドを発行することが可能である。一方、一部
の国ではそれが認められず、カバードボンド発行のための特別目的会社の設立を求められる。
また、専業主体を通じて発行する方法がとられる場合もある。また、必要資金調達額が小さい、
あるいは銀行自体が小さすぎるという理由から、個別に SCBI を設立できない銀行が合同で、
より効率的にカバードボンド市場にアクセスすることが可能な合弁企業を設立することもある。
銀行と SCBI の関連の強さは、銀行が SCBI の持ち分または支配権を 100%保有しているか、
SCBI が利益の共通する様々な銀行グループによって設立された合弁会社かによって異なり
うる。
非常に特殊な業務内容にもかかわらず、SCBI の業務は通常、単独または連結ベースで規制
または健全性監督の対象となる。こうした金融機関が、監督の対象となり一連の健全性規定
への準拠を求められること自体は、ポジティブな要素である。また、カバードボンドの発行自体
も、投資家に対してより高水準の法律上および財務上の保護を提供することを目的とした特
殊法の支配を受けることがある。
こうした法的主体は預金受入金融機関ではなく、営業基盤が狭く特定領域に限定されている
ため、銀行固有の財務力を評価するアプローチ(本稿でこれまで説明してきたアプローチ)が
適用されず、従って異なるアプローチが必要である。SCBI は銀行または銀行グループと本来
結びついているため、ムーディーズは SCBI を、「サポート提供者」から提供されると予想され
る親会社サポートの可能性、規模、特性に基づいて格付を付与する。このサポートの特徴に
よって、SCBI の格付は、サポート提供者の格付と同水準になることもあれば、それを下回るこ
ともある。次のセクションでは、こうした法的主体に対して予想されうる親会社のサポートの水
準を分析する際に考慮する要素(すなわち SCBI の格付に影響を与える要素)について述べ
る。
カバードボンドに対するムーディーズの格付手法は、基準格付となる SCBI の格付に依拠して
いるため、SCBI の格付はカバードボンドの格付プロセスの重要な入力値である。
SCBI に適用される格付手法
SCBI に対する格付は、サポート提供者の格付を起点とする。サポート提供者が直接、カバー
ドボンドを発行する場合、基準格付はサポート提供者のシニア無担保格付となる。
SCBI は、親会社からのサポートの可能性および強さに応じて、サポート提供者の格付と同水
準か、1-2 ノッチ低い水準になるとみられる。場合によっては最終格付がさらに低い水準となる
可能性もある。例えば、親会社によるサポートが銀行グループから直接提供されず、銀行の
持ち株会社から提供される場合である。サポートの提供および親会社にとっての SCBI の重
要性に関する根拠が不十分である場合には、ムーディーズが SCBI に格付を付与できないこ
ともある。
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
ムーディーズの分析の結論を出すにあたり、提案されたアレンジメントの実現可能性や、サポ
ート提供者が行使できる裁量の水準について、法的意見を求めることがある。
SCBI の格付は次の 3 つのカテゴリーに基づいて決定される。
カテゴリー 1: SCBI の格付がサポート提供者の格付と同水準となる場合
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親会社からのサポートが、完全・取り消し不能・無条件で、SCBI が全ての債務を確実に履行
できるよう適時に提供する義務を伴うものであれば、SCBI の格付はサポート提供者の格付と
同水準になるとみられる。サポート提供者は、サポート提供時にいかなる裁量も行使してはな
らない。例えば、i) SCBI が、カバードボンドプログラムの期間中において無条件・取り消し不
能の有効な保証の恩恵を受ける場合、または ii) カバードボンドプログラムとは別に、サポート
提供者が SCBI を完全かつ適時にサポートすることを求める法律・規制・社内規定がある場合
(フランスの affiliation 等)などである。
カテゴリー 2: SCBI の格付がサポート提供者の格付より 1 ノッチ低い水準となる場合
以下の場合には、SCBI の格付がサポート提供者の格付より 1 ノッチ低い水準となるとみられ
る。
親会社からのサポートが以下の条件全てに合致する場合
» SCBI の流動性および支払い能力が常に適切な状態にあるような仕組みが構築されている
(かつそれらの条件が書面に言及されていることが求められる)。ただし、これは SCBI をカ
テゴリー1 に位置付けるほどの広範なコミットメントではない(カテゴリー1 が債務の完全な
履行を求めるのに対し、SCBI が支払い可能で流動性を維持できる状態とする責任に限
定)。また、親会社によるサポートの規定は無条件でなければならない。
» 開示されている。親会社によるサポートは開示書類(例えば発行体の目論見書やプレスリ
リースなど)に盛り込まれていなければならない。
» 法的拘束力がある。前述の a の例を用いれば、親会社が SCBI の流動性および支払い能
力を維持できなかった場合、SCBI または SCBI が発行した債務証券の保有者は、親会社
に対してその義務の履行を求めることができる。債務の保有者が親会社に義務の履行を
求める権利に関する具体的な規定がない場合、ムーディーズは、SCBI が親会社に対して
義務の履行を求めることができる可能性を(SCBI の仕組み、親会社に対する請求の行使
に係る合理的な費用に充当できる準備金の存在等)に基づいて分析する。
» 書面上、カバードボンドの全額返済前に親会社からのサポート提供が停止される可能性
のある規定が盛り込まれていない。
» 親会社からのサポートが提供される際に、親会社が裁量を行使できないような仕組みが構
築されている。
加えて、
» 完全に戦略に合致している。サポート提供者が、貸出資金調達のための代替的なプラット
フォームを利用できるということは考えにくい。
» レピュテーションリスクがある。SCBI のデフォルトがサポート提供者の営業基盤に大きな打
撃を与え、サポート提供者のホールセール市場での資金調達を阻害する可能性がある場
合には、この条件に合致するとみなされる。例えば、SCBI が親会社と同一のロゴを使用し
ている、あるいは SCBI が親会社グループの一員と認識されている場合である。
» オペレーション上、高度に統合されている。例えば、SCBI がサポート提供者に事業および
資産に関するサービスを依頼している場合には、この条件に合致するとみなされる。
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
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カテゴリー 3: SCBI の格付がサポート提供者の格付より 2 ノッチ以上低い水準となる場
合
以下のいずれかの条件に該当する場合、SCBI の格付がサポート提供者の格付より 2 ノッチ
低い水準となる(2 ノッチ以上となる場合もある)。
» サポート提供者からのサポートに対するコミットメントはあるが、厳しい制約がある(例えば、i)
ポートフォリオの一部に信用損失が発生しないようにする、あるいは ii)あらかじめ設定され
た適格基準に合致しなくなった資産を入れ替えるといった形の親会社によるサポート)か、
サポートが開示されていない。
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» 親会社によるサポートが、一定の事象の下では停止されることを認めた文面による規定が
ある。例えば、サポート提供者が一方的にキープウェル・アグリーメントを終了させることが
できる、または、信用提供者の裁量あるいは SCBI に関する一定の終了事象(前払い金が
返済されなかった、支払い不能に陥った等)により信用枠を取り消すことができる場合。
» 親会社によるサポートが、サポート提供者が一定の裁量を行使できるような仕組みとなって
いる。例えば、サポート提供者または第三者が、SCBI の流動性および支払い能力を維持
するために必要と判断した場合にのみ親会社からのサポートが提供されるメカニズムとな
っている。
さらに、
» サポート提供者の戦略にある程度合致しているが完全にではない。例えば、サポート提供
者が、貸出の資金調達のために異なるプラットフォームを利用することがある。
» レピュテーションリスクがある。SCBI のデフォルトがサポート提供者の営業基盤に大きな打
撃を与え、サポート提供者のホールセール市場での資金調達を阻害する可能性がある場
合には、この条件に合致するとみなされる。例えば、SCBI が親会社と同一のロゴを使用し
ている、あるいは SCBI が親会社グループの一員と認識されている場合である。
» オペレーション上、部分的に統合されている。例えば、SCBI がサポート提供者以外に事業
および資産に関するサービスを依頼している場合には、この条件に合致するとみなされる。
サポート提供者が前述の特徴を多くをもつ場合、SCBI の格付はサポート提供者の格付より 2
ノッチ以上低い水準となることがある。また、ムーディーズは、SCBI と親会社の関係が不明な
場合には、SCBI に対する格付にこの格付手法を適用することはできないと判断することがあ
る。
複数の親会社をもつ SCBI
一部の市場では、SCBI は銀行グループ(以下「グループ銀行」)により設立され、サポートさ
れている。SCBI は、グループ銀行の規模および資金調達額が小さく、単独ではカバードボン
ド市場での調達ができないため、同市場での調達を行う。
複数の親会社をもつ場合にも、カテゴリー1、2、3 の定義が適用される。ただし、サポート提供
者の格付決定はより複雑となる。これは、サポートが銀行グループにより提供されることから、
どのサポート提供者の格付を分析の中心とするかについての疑問が生じるためである。
ムーディーズはまず、法的書面と SCBI の仕組みをレビューし、仕組みに関する書面に基づ
き利用可能な資本および流動性、各サポート提供者の責任の性質、連帯責任の有無を検討
する。この分析結果に応じ、サポート提供者の格付は、(i)グループ銀行のデフォルトが SBCI
が発行する全ての証券のクロスデフォルトにつながりうる場合には「最も弱い法的主体」の格
付、(ii)各グループ銀行の契約上の責任に応じ、各行が SCBI に対して連帯責任を負ってい
る場合には、グループ銀行の格付の平均または最も高い格付となるが、(iii)いずれの法的主
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意見募集:銀行格付手法案
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体にも格付が付与されていないか、各当事者の責任が書面に明確に記載されていない場合
には SCBI に格付を付与することが出来ないこともある。
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従って、こうした種類の取引におけるサポート提供者の格付は、法的取り決めの性質および
強さ、各当事者の相対的な重要性、各国・地域のモーゲージ市場における資金調達に影響
を与えうる重要度を勘案した SCBI へのシステミックサポートに焦点を当てた事例ごとの分析
に基づく。
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意見募集:銀行格付手法案
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付録 2: 関係者の格付
高度に統合され一体化している子会社
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一部の事例では、銀行子会社が、親会社の業務に高度に統合されていることがあり、その場
合、子会社の単独での分析では有意な BCA が導けない。例えば、税制・規制上の特別措置
が適用される地域に設立された子会社で、当該子会社自体は営業基盤を有しておらず、グ
ループの他の関係者からのサービスに大幅または完全に依拠している場合などである。特定
の場所でグループの事業を展開するための取引のブッキングの拠点である場合もある。こうし
た場合、財務指標は分析にほとんど関係ないか、あるいは意味をもたない。そのため、銀行が
親会社またはグループと経済的に不可分であるとのムーディーズの見方を反映し、銀行の親
会社の BCA あるいはグループの想定 BCA を直接付与する。
そうした銀行は以下の多くの特徴を示すものとみられる。
» 子会社の規模が、親会社の主要拠点国以外では小さい(親会社の資産または収益の 5%
未満など)。
» 取引のブッキングの拠点としての役割。通常、グローバル事業を行うにあたり重要な許認
可を得ている。
» 大規模な親子間での資産・負債(20%以上)。
» 関係者から多額の金利収入を得ているか、多額の利息を支払っている(20%以上)。
» 関係者との間に多額の収益および費用の移転がある(20%以上)。
» リスクマネジメントに関する大幅なサポートを受けている(信用リスクおよび金利リスクのほと
んど全てを関係者が引き受け)。
» 商品およびマーケティング上で大幅なサポートを受けている(親会社の営業部隊を通じた
預金または貸出、あるいは主要商品の設計・価格決定がグループ内の関連会社で行われ
ている)。
» 効率性が極端に低い(親会社に大幅に依存している)。
» 自らの営業基盤がほとんどなく、そのため第三者に売却することが困難。
BCA が付与されない銀行
ムーディーズは格付対象のほとんどの銀行にBCAを付与するが、全ての銀行というわけでは
ない。信用代替(保証またはそれに準ずる信用補完)の恩恵を受けているとムーディーズが判
断した場合には通常、BCAを付与しない 68。
複合デフォルト分析へのインプットとしてのモニター格付の利用
サポート提供者に関する情報の定期的な入手は、サポートの恩恵を受ける発行体の格付に
織り込まれるアップリフトの評価に重要である。従って、サポート提供者の信用力を、情報に基
づいて適時にモニタリングする必要がある。関連情報の定期的な入手または提供には、サポ
ート提供者の経営陣の参加は必ずしも必要ではない。格付対象発行体は、ムーディーズによ
る分析上重要な情報を定期的に提供する責任がある。サポート提供者に関する重要な情報
が定期的に入手できない場合には、サポート提供者のアップリフトが削減される可能性がある
が、(それ以外のネガティブな要因がなければ)発行体格付の取り下げにはつながらない。こ
れは、単独での BCA が格付の下限を構成し、(適用される場合には)政府からのサポートの
想定により格付が下支えされるためである。
68
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SEPTEMBER 11, 2014
詳細については、スペシャル・コメント Moody’s Identifies Core Principles of Guarantees for Credit Substitution.(日本語
版「信用代替とみなされるための保証の基本原則」2011 年 2 月)を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
モニター格付は、公表モニター格付の場合もあれば、非公表モニター格付の場合もある。サ
ポート提供者に関する重要な情報の定期的な提供は、格付対象発行体の格付のアップリフト
を継続して支えるカギとなる。これには、サポート提供者の経営陣の参加、または経営陣への
アクセスは必ずしも必要ではない。
プロセスについては、サポート提供者の評価に必要な情報は発行体から提供されるものと想
定している。ただし、発行体が別段の依頼または手配をしている場合はその限りでない。一方、
サポート提供者に関する重要な情報の継続的な提供がない場合には、サポート提供者から
の追加的なアップリフトが取り除かれる可能性がある。しかし、サポートが除去されても、他に
ネガティブな要因がない場合には、発行体格付の取り下げにはつながらない。これも、単独で
の BCA が格付の下限を構成し、(適用される場合には)政府からのサポートの想定により格
付が下支えされるためである。
想定グループ BCA
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ムーディーズはグループに対して BCA を正式に付与することはないが、連結ベースの財務
力が重要であり、そのため、分析の一貫としてグループ全体の「想定」BCA の評価を行うこと
がある。グループのほとんどが銀行で構成されている場合、この想定 BCA は、単一の銀行で
あると想定した連結ベースのファンダメンタルズに基づく。この想定グループ BCA を用いるこ
とにより、銀行子会社レベルではみられない可能性がある分散効果を考慮することになる。グ
ループが、例えば銀行業務と保険業務を展開するといった「ハイブリッドな」性格をもつ場合
には、銀行子会社の BCA と保険子会社のシニア債務格付(外部サポートを考慮しない)の平
均が起点となる。ウエイトは、資産、資本、収益の相対的な規模の分析に基づき、持ち株会社
は、相対的に強固な子会社より脆弱な子会社の影響を強く受ける傾向があるとのムーディー
ズの見方を反映し、通常、最もウエイトの小さい結果に注目する。そうした分散効果は実際に
は限定的と考えられることから、ムーディーズは通常、この想定 BCA と、個々の事業体の
BCA の平均(資産またはリスクアセットによって加重される場合が多いと考えられる)を比較し、
その差を 1 ノッチにとどめる。
銀行持ち株会社の債務
多くの銀行グループは持ち株会社の下に組織化されている。持ち株会社自体はほとんど、ま
たは全く業務を担わず、グループの事業の所有者として存在していることが多い。最もシンプ
ルな形態のものは、持ち株会社の資産は、持ち株会社が株式発行で調達した資金による子
会社への投資というものである。従って、純粋持ち株会社はその投資からの配当に依拠して
自社の外部株主への配当支払いを行っている。
持ち株会社自体が債務やハイブリッド証券を発行することもある。持ち株会社の格付に対する
ムーディーズのアプローチは以下の通りである。
持ち株会社単体での分析
持ち株会社の目的は戦略、国・地域の慣行、規制によって異なり、純粋持ち株会社であること
もあれば、自ら経済活動を行っている場合もある。持ち株会社の固有のファンダメンタルにより、
傘下の銀行の BCA に比べ、破綻の可能性が高い(あるいは低い)と判断する場合もある。こ
の分析では通常、持ち株会社が抱える流動性リスクの分析に焦点を当てる。例えば、市場で
調達して、同様の条件で銀行子会社に貸し出しており、実質的に資金調達媒体となっている
持ち株会社は、流動性リスクを負っていない。連結対象外の事業が大きなデフォルトリスクに
さらされていないとムーディーズが判断する持ち株会社については、当該持ち株会社の債務
が銀行債務に構造的に劣後するとのムーディーズの見方に従って、以下のように予備的格付
評価(PRA)を行う。
» 運用可能な破綻処理制度が適用される場合、前述の破綻時損失を用いて PRA を検討し、
政府からのサポートのアプローチに従って必要と認められればサポートを付与する。
91
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
» 運用可能な破綻処理制度が適用されない場合、持ち株会社のシニア長期債務格付なら
びに期限付き劣後債務の PRA を調整後 BCA より 1 ノッチ低い水準とし、政府からのサポ
ートのアプローチに従って必要と認められればサポートを付与する。
ただし、持ち株会社がこれにとどまらず、単独でのリスクプロファイルが子会社の BCA から導
かれない場合がある。通常、これは、持ち株会社がバランスシート上で期間転換を行っている
場合である。例えば、
» 持ち株会社が借入とは異なる期間の貸出を行っている場合、例えば、後者が長期の場合
には流動性リスクが発生する。
» 持ち株会社が支払い優先順位の異なる貸出を行っている場合、例えば、劣後債務の資金
を提供するためにシニア債務を発行している場合には追加の信用リスクが発生する。
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» 持ち株会社が子会社への出資のために借入を行っている場合(ダブルレバレッジ)、配当
に依拠して利払いを行うことになる。これは、連結ベースでの株式以外に、グループ内株
式を「発行」するに等しい効果があり、持ち株会社債務の発行を通じて子会社レベルの自
己資本比率が上昇する。
もちろん、これらが複数組み合わさっている場合もある。例えば、持ち株会社が子会社への出
資と永久劣後資本証券への投資のために 3 年債を発行することもある。また、持ち株会社自
体が事業を行っており、すなわち純粋持ち株会社ではなく、自らの権限で事業活動を行って
おり、それによって子会社のリスクが上昇または低下することもある。
持ち株会社のリスクの計測
銀行持ち株会社レベルでの情報開示は通常限定的であり、年次ベースで発行されるシンプ
ルなバランスシート等に限られる。ムーディーズの分析の重要な要素のひとつはダブルレバレ
ッジの度合いであり、これにより持ち株会社が抱える追加的な流動性リスクをシンプルに把握
できる。ムーディーズはダブルレバレッジを、持ち株会社の株式と子会社への出資額の比率
で算定する。ただし、会計上の計上方法が異なっており、簿価ベース(利益剰余金を含まない)
の場合や、純資産残高ベース(利益剰余金を含む)の場合があり、さらに注意が必要である。
» ダブルレバレッジが「隠れている」場合がある。例えば、子会社の劣後ハイブリッド資本証
券の保有が貸出として表示されていることがある。従って、持ち株会社の会計上にはダブ
ルレバレッジが表れておらず、シニア債務から株式に類似する永久劣後債務への転換が
隠れていることがある。
» 持ち株会社の会計は通常、質が低く、報告の頻度が少ないため、ダブルレバレッジのモニ
タリングの信頼性が低くなる(経営陣はグループ会社間および会計期間の間で自由に資
金を転換することができる)。
指針として、ダブルレバレッジが 115%以上の場合、オペレーティングカンパニーと持ち株会
社の間の資本および配当の流れをより詳細に検討する。これがグループの大きな弱みにつな
がると判断した場合には、前述の構造的劣後に基づくノッチングに加え、持ち株会社の債務
にさらに 1 ノッチの差を加える。ダブルレバレッジ比率に表れないその他のリスク(例えば、他
の信用リスク、流動資産による短期債務のカバレッジの度合いなど)により、リスクが増大また
は縮小していると考える理由がある場合には、これとは異なる方法をとることがある。例えば、
ダブルレバレッジが非常に高水準で、子会社からのキャッシュに非常に強固な障壁があり、か
つ/または持ち株会社の満期ミスマッチが大きい場合などは、さらに 1 ノッチ、場合によっては
それ以上のノッチ数を加えることがある 69。
69
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例えば、子会社から持ち株会社へのサポートに追加の個別要因による障壁があるか、規制関連の懸念がある場
合。バンカシュアランスグループなどがそうした例となりうる。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
潜在的な政府からのサポートの評価
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ムーディーズは、銀行が発行する証券と同様の方法で、持ち株会社の債務に政府からのサポ
ートを織り込むことがある。銀行と銀行持ち株会社の債権者に対するサポートに差がないと予
想する場合もある。これは、両社が同一の規制当局の監督下にあり、また銀行と持ち株会社
の本質的な結びつきから債権者を明確に区分することが実質的に困難なためである。一方、
規制環境およびサポート環境により、見方が大きく異なる場合もある。例えば、規制当局は持
ち株会社の債権者による損失負担を容認する(すなわちサポート姿勢が弱い)一方で、銀行
の債権者には引き続きサポートを提供するといった場合である。
93
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
付録 3: ムーディーズの銀行格付について
ベースライン信用リスク評価(BCA)は、関係者 70もしくは政府による緊急時のいかなる支援もな
いと想定した場合の、発行体の単独ベースでの固有の財務力についての意見である。BCA
は基本的に、1 つ以上の債務でのデフォルトを回避するために緊急時のサポートを必要とす
る可能性、またはそうしたサポートがない場合に 1 つ以上の債務で実際にデフォルトが発生し
ているとの意見である。BCAは確率指標であり、緊急時のサポートがない場合のデフォルトの
規模についての意見を示すものではない。
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契約上の関係や、政府もしくは関係者から毎年継続的に得られることが期待される補助金は
BCA に織り込まれるので、発行体の単独ベースでの財務力に固有のものとみなされる。緊急
時のサポートは通常、個別特殊な性質のものであり、発行体が存続不可能になることを回避
するために提供される。
銀行に対してムーディーズが付与する BCA は、緊急時のサポート考慮前の、格付対象証券
のいずれかでデフォルトが発生する可能性を示すものである。これには、BCA 事由発生以前
に損失を吸収するよう組成された一部の証券(「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャピタル
証券および一部の優先株等)の毀損は含まれない。
BCA は格付ではないが、格付を決定するプロセスで用いられる投入値である。図表 39 に定
義される BCA は、小文字のアルファベットと数字の付加記号を用いるスケールで表され、数
字付加記号付きのアルファベットを用いる長期格付(グローバル・スケール)に対応する。
図表39
BCA の定義
aaa
aaa と評価される発行体は、財務の安全性が極めて高く、最高の財務力を有すると判断され、支援
を必要とするリスクは最小限である。
aa
aa と評価される発行体は、財務の安全性が高く、高い財務力を有すると判断され、支援を必要とす
るリスクは極めて低い。
a
a と評価される発行体は、財務の安全性が良好で、中級の上位の財務力を有すると判断され、支
援を必要とするリスクは低い。
baa
baa と評価される発行体は、ある程度の財務の安全性を有し、中級の財務力を有すると判断され、
支援を必要とするリスクは中程度である。
ba
ba と評価される発行体は、財務の安全性が疑わしく、財務は投機的と判断され、支援がなければ
デフォルトが発生するリスクが相当程度ある。
b
b と評価される発行体は、財務の安全性が低く、財務は投機的と判断され、支援がなければデフォ
ルトが発生するリスクが高い。
caa
caa と評価される発行体は、財務の安全性が極めて低く、財務は投機的と判断され、支援がなけれ
ばデフォルトが発生するリスクが極めて高い。
ca
ca と評価される発行体は、固有もしくは単独ベースの財務は非常に投機的である。デフォルトに陥
っているか、それに非常に近い状態にあるが、いずれにしても元利回収がある程度見込めることが
予想される状態か、あるいは関係者もしくは政府による緊急支援によりデフォルトを回避したか今
後回避することが予想される発行体である。
c
c と評価される発行体は通常はデフォルトに陥っており、元利回収の見込みはほとんどないか、あ
るいは政府もしくは関係者の支援を受けているが、今後は清算されていく可能性が高く、支援がな
ければ元利の回収の見込みはほとんどない。
注: ムーディーズは、aa から caa までの評価分類に対し、1,2,3 という数字付加記号を付加している。1 は、債務が文字評価カテゴリーで上位
に位置することを示し、2 は中位に、3 は下位にあること示す。
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SEPTEMBER 11, 2014
関係者には、親会社、協同組合・相互組合グループ、大口投資家(通常、議決権の 20%以上を保有)が含まれる。政府
には、地方・地域政府と中央政府が含まれる。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
破綻(「BCA 事由」)を示唆するものには以下が含まれる。
» 実質破綻時損失吸収条項付証券または類似証券のデフォルト。
» 第三者(親会社、関係者、中央銀行)からの普通株または優先株による資本注入。銀行の
支払い能力または存続可能性に関する懸念はない。
» 通常、債務クラスに関わりのない流動性支援(中央銀行から銀行への担保貸付等)。
–
サポート提供者からの特別な直接貸出。
–
サポート提供者による既存債務の継承。
–
サポート提供者による既存債務または新規債務への保証。
» 商業ベースでは考えにくい条件でのリスク軽減スキーム(資産保証等)。
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» 猶予措置。例えば、損失認識の繰り延べや、破綻処理手続きの開始を遅らせるための会
計・規制基準の適用免除等。
» 存続可能性に関する懸念に対し、商業ベースでは考えにくい(例えば保証を伴う等の)条
件で実質的に政府指導の下で行われる吸収・合併。
ムーディーズの BCA には、規制、預金保険、中央銀行へのアクセスといった、銀行にとって
必要な構造的特徴である「秩序ある」サポートの有形・無形の効果が織り込まれている。一律
に利用可能な条件での、中央銀行からの資金・流動性、政府保証プログラムへのアクセスが
確保されていれば、BCA 事由に該当するとは考えにくい。ただし、それが欠如すれば銀行が
デフォルトの危機に瀕するとみられる場合はその限りではない。
ムーディーズの調整後 BCA には、銀行の親会社またはグループ企業(これらを総称して「関
係者」とする)からのサポートの可能性が織り込まれる。
ムーディーズによる様々な債務・預金格付は、破綻時損失(BCA 事由が発生しサポートが提
供されない場合の各債務クラスの損失規模の評価)と、各債務クラスに政府からのサポートが
提供される可能性に対するムーディーズの見方を総合的に考慮したものである。これらの要
素から、格付対象の各債務クラスの予想損失、ひいては信用格付が導かれる。
銀行預金格付
銀行預金格付は、外貨建て及び自国通貨建て預金債務を遅滞なく返済する銀行の能力に
関する意見であり、また長期預金格付の場合は、デフォルト時に予想される金融損失も反映
する。銀行預金格付は、公的もしくは民間の保険スキームの対象となる預金に適用されるの
ではなく、むしろ保険の対象となっていない預金に適用されるのであるが、状況によっては、
保険の対象外の預金に対しても、保険の対象となる預金同様に公的なサポートが一定の状
況によっては及ぶ可能性を織り込むことがある。外貨建て預金格付は、外貨建て預金に関す
るムーディーズのカントリー・シーリングの制約を受ける。このため同じ銀行の預金でも、外貨
建てと自国通貨建てで格付水準が異なる(通常は外貨建てが自国通貨建てを下回る)ことが
ある。
預金の中で優先順位がある場合には、別途明記されない限り、ジュニア預金のリスクを反映
する。
格付の見通し
ムーディーズは、長期発行体格付および主要な債務クラスの格付に対して見通しを付
与する。見通しの詳細については Rating Symbols and Definitions(ムーディーズ・ジャパ
ン版「格付記号と定義」2014 年 4 月)を参照されたい。
発行体格付
発行体格付は、カウンターパーティに対するシニア無担保金融債務及び契約を履行する能
力に関する意見である。従って、発行体格付は政府からのサポートを織り込み、シニア無担保
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SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
債務格付に連動する。発行体格付は、保証等、特定の(しかし全てではない)シニア無担保
金融債務や契約のみにしか適用されない保証等のサポートに関する取り決めは織り込んでい
ない。
外貨建て債務の取り扱い
外貨建て格付は、債務の自国通貨建て格付とムーディーズのカントリー・シーリングに関する
方針に基づく。外貨建て預金格付は全ての場合、外貨建て預金のカントリー・シーリングによ
って制約される。外貨建て債務格付も、外貨建て債務のカントリー・シーリングによって制約さ
れるが、外貨建て債務格付は外貨建てシーリングを上回る場合がある。
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外貨建て債務格付が外貨建て債務のカントリー・シーリングを上回るか否かを判断する手法
は、次の分析に基づく。すなわち、(1) 自国通貨建て債務格付、(2)政府のデフォルト時に外
貨建て債務の一律支払い凍結が行われる可能性、および(3)外貨建て支払いが凍結された
場合に、一部の債務証券クラスが凍結対象とならない可能性である。
全てのハイブリッド証券とコンティンジェント・キャピタル証券には、ハイブリッド証券を示す付加記
号 (hyb)が付される
利払い停止のメカニズムが明確な特徴として組み込まれているか否かにかかわらず、全ての
ハイブリッド証券と損失吸収条項付コンティンジェント・キャピタル証券の格付にハイブリッドを
示す付加記号(hyb)が追記される 71。付加記号が追記された証券に対する格付は、これまで
通り当該証券に付随する期待損失を表す指標として用いられる。格付は、構造分析と銀行の
信用ファンダメンタルズ分析に基づく、様々な損失シナリオに関してその時点で得られる最善
の情報に基づく評価である。一方、付加記号は、予測がより難しく信用力には必ずしもリンクし
ない、規制当局かつ/または政府介入などの外因性に起因する格付変動の可能性を示唆す
る。
ムーディーズのハイブリッド証券および劣後債務の格付は一部のリスクを捕捉しない
その他のムーディーズの債務格付と同様に、ムーディーズのハイブリッド証券、コンティンジェ
ント・キャピタル証券、および劣後債務の格付は、延長リスク、市場リスク、流動性リスク等の一
部のリスクを捕捉していない。ムーディーズは、全社的慣行として、満期まで格付を付与し、証
券の延長リスクを織り込まない。延長リスクとは、証券が第 1 回繰上償還日に償還されないリス
クである。金融危機以前には、発行体と投資家の間で、ハイブリッド証券と劣後債務は第 1 回
繰上償還日に繰上償還されるとする暗黙の合意があった。金融危機の時期にそれが必ずし
も当てはまらなくなり、これらの証券の市場価値を大きく損ねる結果となった。
銀行が財務難に陥り、繰上償還日に市場調達が不可能になった場合、あるいは規制当局が
その繰上償還を承認しなかった場合、ハイブリッド証券、コンティンジェント・キャピタル証券お
よび劣後債務は償還されないまま残る。これは、必要に応じて損失吸収に利用できる資本を
準備させておきたい規制当局の目的には叶うが、投資家の期待には沿わない場合がある。ハ
イブリッド証券、コンティンジェント・キャピタル証券、および劣後債務に対するムーディーズの
格付は延長リスクを織り込んではいないが、確かにリスクとして存在し、永久債や償還期限が
極めて長いハイブリッド証券の利払い停止かつ/または元本削減の可能性を高めるリスクとな
る 72。
特に、ハイブリッド証券やコンティンジェント・キャピタル証券の場合、利払い停止かつ/または
元本削減の強要により、流動性の喪失といった影響が市場全体に広がる可能性がある。こう
したリスクの存在は認識しつつも、ハイブリッド証券およびコンティンジェント・キャピタル証券
の格付は、市場リスクや流動性リスクを織り込むというより、信用リスクを評価するものである。
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SEPTEMBER 11, 2014
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2011 年 10 月 18 日発行の Introduction of Moody’s Hybrid Indicator (hyb) for Financial Institutions”(ムーディーズ・
ジャパン版「金融機関のハイブリッド証券格付に付加記号(hyb)を導入」2011 年 1 月)を参照されたい。
72
ムーディーズのスペシャル・コメント“Debt Redemption Extenstion Risk” (Moody’s Investors Service, December2008)
(日本語版「期限前償還が延期されるリスク」2008 年 12 月)を参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
短期格付
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ムーディーズの短期格付は長期格付からマッピングされる。詳細については Rating Symbols
and Definitions(ムーディーズ・ジャパン版「格付記号と定義」2014 年 4 月)を参照されたい。よ
り先進的なアプローチである破綻時損失分析の枠組みでは、預金格付がシニア無担保債務
格付より高い水準となりうる。これにより、短期債務格付と短期預金格付が異なる場合が生じる
可能性がある。
97
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
付録 4: マクロ・プロファイルの初期推定
73
図表 40
銀行システムごとのマクロ・プロファイルの初期推定
国
信用状況
資金調達状況
業界構造
マクロ・ プロファイル
Ba2 - B1
na
B2 - Caa1
B3 - Caa2
Ba1 - Ba3
Aaa - Aa2
Aaa - Aa2
B1 - B3
Baa2 - Ba1
Caa2 - C
Aaa - Aa2
A1 - A3
Ba3 - B2
A2 - Baa1
Baa2 - Ba1
Aaa - Aa2
Aa1 - Aa3
A1 - A3
Baa2 - Ba1
Baa2 - Ba1
Baa1 - Baa3
Baa2 - Ba1
A2 - Baa1
Aaa - Aa2
Ba1 - Ba3
B2 - Caa1
Aa1 - Aa3
Aaa - Aa2
Baa3 - Ba2
Aaa - Aa2
Ba2 - B1
B3 - Caa2
Ba2 - B1
Aaa - Aa2
Baa2 - Ba1
Baa1 - Baa3
Baa2 - Ba1
Aa3 - A2
Aa2 - A1
A1 - A3
Aa1 - Aa3
Ba1 - Ba3
Baa3 - Ba2
弱い na
中立
弱い
弱い +
中立
中立
中立
弱い
中立
中立
中立
中立
弱い +
弱い 弱い
弱い
弱い 中立
弱い +
弱い 非常に 弱い
中立
弱い +
弱い 非常に 弱い +
中立
中立
弱い
中立
弱い +
非常に 弱い +
弱い +
弱い
弱い
中立
中立
弱い 弱い +
弱い
弱い
中立
中立
-1
na
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0
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0
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0
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-1
-1
0
-1
-1
0
0
0
-1
弱い 中位 +
非常に 弱い +
非常に 弱い +
弱い 非常に 強い
非常に 強い 弱い 中位 非常に 弱い 非常に 強い
中位 +
弱い
中位 +
弱い +
非常に 強い 強い +
中位 +
中位
中位 弱い +
非常に 弱い 強い 強い
弱い
非常に 弱い
強い +
非常に 強い 弱い +
非常に 強い 非常に 弱い +
非常に 弱い 弱い +
強い +
弱い
中位
中位
中位 強い
中位 +
強い +
弱い +
弱い +
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アルバニア
アンドラ
アンゴラ
アルゼンチン
アルメニア
オーストラリア
オーストリア
アゼルバイジャン
バーレーン
ベラルーシ
ベルギー
バミューダ
ボリビア
ブラジル
ブルガリア
カナダ
チリ
中国
コロンビア
コスタリカ
クロアチア
キプロス
チェコ共和国
デンマーク
ドミニカ共和国
エジプト
フィンランド
フランス
グルジア
ドイツ
ガーナ
ギリシャ
グアテマラ
香港
ハンガリー
インド
インドネシア
アイルランド
イスラエル
イタリア
日本
ヨルダン
カザフスタン
銀行のカントリー・ リス
ク
73
98
SEPTEMBER 11, 2014
2014 年 8 月時点。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 40(続き)
国
信用状況
資金調達状況
業界構造
マクロ・プロファイル
Aa1 - Aa3
A2 - Baa1
A2 - Baa1
Ba2 - B1
na
Aa2 - A1
Aa2 - A1
Aa3 - A2
A1 - A3
A1 - A3
B3 - Caa2
Baa1 - Baa3
Aaa - Aa2
Aaa - Aa2
Aaa - Aa2
A2 - Baa1
Caa1 - Caa3
A3 - Baa2
Ba2 - B1
Baa1 - Baa3
Baa1 - Baa3
Aa3 - A2
A2 - Baa1
Aa2 - A1
Baa2 - Ba1
Baa3 - Ba2
Aa3 - A2
Aaa - Aa2
A2 - Baa1
Baa1 - Baa3
A2 - Baa1
A1 - A3
Baa3 - Ba2
Aaa - Aa2
Aaa - Aa2
Aa1 - Aa3
na
Baa1 - Baa3
Baa3 - Ba2
Ba3 - B2
A3 - Baa2
Caa2 - C
Aa1 - Aa3
Aaa - Aa2
Aaa - Aa2
A2 - Baa1
na
Ba3 - B2
弱い +
弱い +
中立
弱い na
中立
弱い
弱い +
弱い 中立
弱い 弱い 弱い +
中立
弱い +
中立
非常に 弱い +
弱い
中立
中立
中立
弱い +
弱い 弱い 弱い
中立
弱い +
弱い +
中立
弱い
弱い +
弱い
弱い +
中立
弱い
弱い
中立
弱い
中立
弱い
弱い
弱い +
弱い 中立
弱い +
中立
中立
非常に 弱い
-1
0
0
0
na
0
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0
0
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0
0
-1
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-1
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0
-1
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na
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0
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-1
-1
-1
-1
0
強い +
強い 中位 +
弱い
強い +
非常に 強い 強い
強い
中位
強い
非常に 弱い +
中位 強い +
非常に 強い 非常に 強い 強い 非常に 弱い
中位 弱い +
中位 +
中位 +
強い 中位 強い 弱い +
中位 強い
非常に 強い
強い 弱い 中位 +
中位 +
中位 非常に 強い
強い +
強い
非常に 弱い 中位
中位 弱い
中位
非常に 弱い 強い 非常に 強い 非常に 強い 中位
非常に 弱い +
非常に 弱い +
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韓国
クウェート
ラトビア
レバノン
リヒテンシュタイン
ルクセンブルグ
マカオ
マレーシア
モーリシャス
メキシコ
モンゴル
モロッコ
オランダ
ニュージーランド
ノルウェー
オマーン
パキスタン
パナマ
パラグアイ
ペルー
フィリピン
ポーランド
ポルトガル
カタール
ルーマニア
ロシア
サウジアラビア
シンガポール
スロバキア
スロベニア
南アフリカ
スペイン
スリ・ランカ
スウェーデン
スイス
台湾
タジキスタン
タイ
トリニダード・トバゴ
チュニジア
トルコ
ウクライナ
アラブ首長国連邦
イギリス
アメリカ
ウルグアイ
ウズベキスタン
ベトナム
銀行のカントリー・リス
ク
99
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
付録 5: スコアカード指標: スコアリング上の閾値、ウエイト、定義
Asset Quality (25%)
資産の質(25%)
Problem Loans / Gross Loans
問題債権/総貸出
VS+
<=
0.5%
VS
<=
0.75%
VS<=
1.0%
S+
<=
1.5%
S
<=
2%
S<=
3%
M+
<=
4%
M
<=
5%
M<=
6%
W+
<=
8%
W
<=
10%
W<=
15%
VW+
<=
20%
VW
<=
25%
VW>
25%
Capital (25%)
自己資本(25%)
Tangible Common Equity / RWAs (Basel
有形普通株主資本/リスクアセット(バーゼル
I) I)
Tangible Common Equity / RWAs (Basel
有形普通株主資本/リスクアセット(バーゼル
II) II)
Tangible Common Equity / RWAs (Basel
有形普通株主資本/リスクアセット(バーゼル
III) III)
>=
23.8%
25.0%
25.0%
>=
21.4%
22.5%
22.5%
>=
19.0%
20.0%
20.0%
>=
17.1%
18.0%
18.0%
>=
15.7%
16.5%
16.5%
>=
14.3%
15.0%
15.0%
>=
12.9%
13.5%
13.5%
>=
11.4%
12.0%
12.0%
>=
10.0%
10.5%
10.5%
>=
8.6%
9.0%
9.0%
>=
7.1%
7.5%
7.5%
>=
5.7%
6.0%
6.0%
>=
4.3%
4.5%
4.5%
>=
2.9%
3.0%
3.0%
<
2.9%
3.0%
3.0%
収益性(25%)
Profitability (15%)
純利益/有形資産
Net income / tangible assets
>=
2.5%
>=
2.25%
>=
2.0%
>=
1.75%
>=
1.5%
>=
1.25%
>=
1.0%
>=
0.75%
>=
0.5%
>=
0.375%
>=
0.25%
>=
0.125%
>=
0.0%
>=
-1.0%
<
-1.0%
資金調達構造(20%)
Funding Structure (20%)
市場資金/有形銀行資産
Market funds / tangible banking assets
<=
2.5%
<=
3.75%
<=
5.0%
<=
7.5%
<=
10%
<=
15%
<=
20%
<=
25%
<=
30%
<=
35%
<=
40%
<=
50%
<=
60%
<=
70%
>
70%
流動性原資(15%)
Liquid resources (15%)
流動資産/有形銀行資産
>=
70%
>=
60%
>=
50%
>=
40%
>=
35%
>=
30%
>=
25%
>=
20%
>=
15%
>=
10%
>=
7.5%
>=
5.0%
>=
3.75%
>=
2.5%
<
2.5%
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Liquid Assets / tangible banking assets
ムーディーズが用いる指標はいずれも、2013 年 12 月 19 日発行のクロス・セクター格
付手法 Financial Statement Adjustments in the Analysis of Financial Institutions(ムーディーズ・
ジャパン版「金融機関の分析における財務諸表調整手法」2014 年 3 月)に基づく完全
調整後ベースのものである。これに加え、既存の指標の定義にも以下の修正を加えて
いることに留意されたい。
有形普通株主資本 (TCE)
TCE は、普通株式から、質が高いとはいえない無形資本を差し引き、「ハイ・トリガ
ー」コンティンジェント・キャピタル証券に対するエクイティクレジットを加えたも
のである。 繰延税金資産は合計の 10%を上限とする。
有形資産
有形資産は、総資産からデリバティブ、のれん、およびその他の無形資産を差し引い
たものである。
有形銀行資産
有形銀行資産は、有形資産合計(前述)から保険資産を差し引いたものである。
市場資金
市場資金は、他の金融機関からの資金、短期借入、トレーディング債務、その他の金
融債務(損益は発生するが公正価値ベース)、シニア債、その他の長期借入から、ト
レーディング・デリバティブ、およびカバードボンドの 50%を差し引いたものである。
流動資産
流動資産は、現金、中央銀行預け金、他の金融機関への預け金、投資有価証券、売買
可能有価証券、その他有価証券、満期保有目的有価証券、国債、有価証券からの未収
所得から、トレーディング・デリバティブを差し引いたものである。
100
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
付録 6: 資産の質に関する将来を見通した分析
ムーディーズの格付は、定性・定量データの評価に基づく、信用力の将来を見通した見解で
ある。銀行の信用力に関する判断の重要な要素は、貸出ポートフォリオのパフォーマンスと、
それが銀行の自己資本および支払い能力に及ぼす影響であろう。
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ムーディーズのアプローチでは、不良債権比率や今後数年間の「予想損失」率のプロファイ
ルに表される資産の質がどう変化するとみられるかを評価する。このアプローチでは、住宅ロ
ーン、商業用不動産、法人向け貸出、リテール向け貸出等の様々な資産クラスに焦点を当て
る。この評価の一環として、ムーディーズは、異なる地域での資産の質の変化を示唆する先行
指標を用いる。先行指標の選択は銀行システムによって異なり、その国の経済構造、成長を
牽引する主な要因、銀行システムの貸出ポートフォリオの構成、時系列データの入手可能性
を考慮するが、地域にわたって追跡する先行指標の種類に類似性がみられることは多い 74。
ただし、いずれの場合も、ムーディーズは、不良債権に関する一連の指標をはじめ、銀行の
資産の質を予測する能力に基づいて指標を選択する。
先行指標の他に、資産の質がどう変化するかを評価するにあたって、ムーディーズのグロー
バル・マクロ・アウトルック 75に示されたマクロ経済見通し、資産の質のトレンド、ストラクチャー
ド・ファイナンスの延滞率および損失率に関するデータを含む、様々な要因を考慮に入れる。
また、それぞれの国における支払い遅延に関する法規制、会計慣行、その他の定量指標、定
性情報も検討する。定期的なモニタリングおよび評価のプロセスで入手する銀行固有のデー
タも、個々の銀行の資産の質の判断材料である。デフォルト時損失(LGD)率に関する判断は、
学術論文や、各国における観察結果および知見に基づく。データが限定的であるために完
全な分析が困難な場合には、他の格付手法に沿って、エクスポージャーおよび損失率につ
いて保守的な想定をする。
これらの見通しと損失率、銀行の収益および証券ポートフォリオがどう変化するかについての
見方に基づいて、銀行のバランスシートがどう変化するとみられるかを検討する。主なアウトプ
ットは、BCA スコアカードの支払い能力の要素に織り込まれる 3 つの指標である。ただし、こ
れは今後、拡大する可能性がある。
中心ケースからストレステストへ
将来の信用力についてのこれらの詳細な評価に基づき、銀行の資本基盤がどう変化するか
についての評価を行う。これらはムーディーズのベンチーマークとなるストレステストにも織り込
まれる。ストレステストは金融機関のリスクマネジメントのプロセスにおける重要なツールであり、
予想外ではあるが深刻な事象の潜在的な影響を推定する。ストレステストが有効なものとなる
には、透明性があり、分析の基礎となる想定が明確化されており、異なるポートフォリオに損失
がどう影響を与えるかが明白となっていなければならない。ムーディーズによるストレステスト
では、銀行の業務に関する潜在的な信用リスクおよび市場リスクに焦点を当て、予想外の展
開に対する銀行の耐性を評価する。ムーディーズの格付スケールはグローバルに適用される
ものであるため、ストレステストの一貫性が重要となる。
そのため、ムーディーズは、体系的なストレステストを、銀行の資本に関する中心的な見通し
に織り込まれる、将来を見通した予想損失率に明示的に結び付けている。プロセスの主なス
テップとして、「ストレス時」損失率を導くために、予想損失率に一定の「乗数」を適用して調整
を行う。これらのストレスが銀行のバランスシートに影響を与える。
この「乗数」は、バーゼルIIの「内部格付手法(IRB)」によるリスクの計測におおむね基づいて
いるが、この枠組みにおける精緻な計測方法は、最近の先進国における金融危機に照らして
調整された。それぞれの乗数曲線の形状は資産クラスによって異なるが、用いられる乗数は、
101
SEPTEMBER 11, 2014
74
2013 年 11 月 11 日発行の‘Leading indicators of Asset-Quality for Banks in Eastern Europe and the Middle East’ (148129)、
2014 年 1 月 27 日発行の‘Leading Indicators of Asset Quality for Banks in Asia Pacific’ (162799)を参照されたい。
75
例えば、2014 年 8 月 11 日発行の’Summer lull: Subdued, but less risky global growth likely”を参照されたい。,
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 41 の例示のための曲線を反映する傾向がある 76。ムーディーズは、インプライド損失分
布の 96 パーセンタイル(おおよそ 25 年に 1 度の発生確率に相当)に基づいて乗数を用いて
いる。
図表 41
乗数曲線の例
95パーセンタイル
98パーセンタイル
99パーセンタイル
99.9 パーセンタイル
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乗数
(SL/EL)
予想損失(EL)率
出所:ムーディーズ
ムーディーズは、ストレス時損失率を導く資産別の乗数曲線を用い、それを銀行の貸出ポート
フォリオに適用する。貸出ポートフォリオにストレスをかける方法に加えて、銀行の有価証券で
は、現在の格付からノッチダウン後、あるいは過去の株価下落に基づき、社債の理想化され
た損失率テーブルに沿ってポートリオに損失が発生すると想定する。銀行の収益フロー(純
金利収入、手数料収入、トレーディング収入、非金利収入等)にも、25 年に 1 度の事象にお
おむね相当するヘアカットが適用される。中心ケースでは、主要なアウトプットは BCA スコア
カードの支払い能力に織り込まれる 3 つの指標となる。
これらの体系的なストレステストに加え、個々の銀行および銀行システムの必要性に応じて、
銀行の耐性に関する補完的な分析を行う。これは規制当局がしばしば用いる「シナリオ分析」
に含まれていることがあるが、これをムーディーズの独自のモデルまたは銀行の内部プロセス
に基づいて行う 77。これらの分析の結果が、資産の質、資本、収益性のスコアを検討するうえ
で重要な役割を果たすことがある。ただし、ムーディーズの格付委員会が、これらの分析の想
定、あるいは体系的なストレステストのプロセスを調整・変更することがある。
102
SEPTEMBER 11, 2014
76
これらの乗数に関する詳細は、2014 年 4 月 11 日発行の‘Expected and unexpected bank losses: revisiting the Basel
approach’ (167213)を参照されたい。
77
2014 年 6 月 9 日発行のスペシャル・コメント Modelling links between economic factor and bank losses を参照されたい。.
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
付録 7: 破綻時損失:基本的な想定
運用可能な破綻処理制度が適用される銀行の破綻時損失の決定には、下で詳細に説明す
るモデル・アプローチを用いる。技術的にはムーディーズのコーポレート・ファイナンス・グルー
プが用いるモデル・アプローチが密接に関連した基礎となっている 78。
破綻時期待損失を導出する枠組み
銀行の個々の債務の破綻時期待損失は、破綻処理時の全社ベースの回収率の確率分布と
デフォルト時に予想される債務と破産手続きにおける請求順位から導出される。
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デフォルト処理時の全社ベースの回収率の確率分布は、考えられる全社ベースの回収率シ
ナリオごとに確率を適用する。すなわち、銀行全体の回収率が 0%、1%、2%になる可能性か
ら 100%になる可能性まで(全債務が全額回収されることを意味する)を特定し、さらに、破綻
時の企業価値が高いことにより優先株式や普通株式の保有者も一定の回収が得られる可能
性があることを鑑み、回収率が 100%を超える可能性まで特定する。
デフォルト時に予想される債務構造には、負債とそれ以外の債務が含まれる。予想さ
れる請求順位は通常、現行の破綻処理制度の規定に従うが、実際にはそれとは異なる
順位が適用されると考えられる場合、これを変更することがある 79。
こうした情報があれば通常、各債務の破綻時期待損失率を推定するには十分である。
予想される破綻時の企業価値それぞれについて、「ウォーターフォール」に従い各債
務の支払い順位を決定する。次に、各債務の破綻時期待損失率を、これらのシナリオ
全体における破綻時損失の確率加重平均により決定する。この確率加重平均期待損失を付
録 8 の図表 47 に示した早退損失率に基づいて格付にマッピングする。
モデルには次のような想定が用いられる。
想定
破綻時ファミリー損失率の平均
上で詳述したように、破綻時ファミリー損失率の平均は、資産に内在するボラティリティと破綻
処理の形式に関するムーディーズの判断によって決定される。最終的には銀行ごとに決定す
る。
破綻時損失の分布の決定
平均破綻時損失率および平均値の両側の分布の初期想定は、いくつかのデータソースの分
析に基づいている。その一つが米国 FDIC の長期間にわたる豊富な時系列データで、1986
年以降破綻した 2,500 行の損失データを提供している。
このデータは必然的に 1 ヵ国に限定されたものであるが、損失率に関する有益な情報
であるとムーディーズは考えている。総資産比での損失率の平均は 25%、中央値は
21%である。損失率は平均値の両側に広く分布しており、標準偏差は 30%で損失率が
ゼロまたはマイナス(すなわち FDIC にとって回収率が 100%以上)が大きな割合
(14%)を占める。分布は正規分布曲線を断ち切ったような曲線を描く。
78
クロス・セクター格付手法 “Loss Given Default for speculative-Grade Non-Financial Companies in the U.S. Canada and
EMEA” (2009 年 6 月発行)を参照。
79
例えば、多くの政府が金融機関の破綻に際して請求順位を変更するために臨時法を制定した。特に、一部のシステム
で預金は破産法において支払いを優先する規定がなくても、実際は優先されるとムーディーズは考えている。
103
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 42
FDIC 報告の損失率の確率分布
3.5%
3.0%
2.5%
界
2.0%
Marginal Probability
限
確
率
1.5%
1.0%
0.5%
0.0%
100% 95% 90% 85% 80% 75% 70% 65% 60% 55% 50% 45% 40% 35% 30% 25% 20% 15% 10% 5%
0% -5%
Family LGD
デフォルト時ファミリー損失率
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出所: FDIC, Moody’s
しかしながら、これらのデータの大半は、極めて小規模の銀行に関連していることに留意すべ
きである。1986 年以降に FDIC による破綻処理の対象となった銀行の総資産の中央値はわ
ずか 7,300 万ドルに過ぎないが、ムーディーズがグローバルに格付する銀行の総資産の中央
値は 290 億ドルである。銀行の規模別にみた場合、FDIC の標本に含まれる大規模な銀行
(破綻前の資産が 10 億ドル超)の平均破綻時損失率は約 10%で、全体平均の半分未満で
ある。
同時にムーディーズは、サポートがなければ破綻していたとみられる約 200 の格付対象銀行
に関し、独自の調査を実施した。これらの銀行のうち、実際にデフォルトした銀行はほとんどな
いため、破綻時損失の代数として救済目的の債務交換(大半がハイブリッド資本証券)からの
損失および資本注入を合計した。この値が、銀行がサポートを受けなかったとすれば債券保
有者が被ったであろう損失の総額の指針である。このようにして算出した平均損失率は負債
総額の約 3%と、FDIC の標本より遥かに低い。
いずれのデータセットも将来の損失を予測するための完全に信頼できる指針ではない。米国
のデータは 1 つのシステムに限定されており、ムーディーズのデータは破綻処理制度が縮小
または廃止を目指す政府サポートによって歪曲している。また、「ゴーイング・コンサーン」ベー
スの破綻処理では顧客、営業基盤の価値、資金調達、ひいては企業全体の価値が維持され
るため、破産手続きに比べ損失率は低くなるとムーディーズはみている 80。
これらの制約を考慮した上で、ムーディーズは 2 つの損失率を初期想定として設定する。
» 負債の 5%。資産のボラティリティが低く、ゴーイング・コンサーンの破綻処理の対象となる
ため企業価値が維持されるとみられる銀行にこの損失率を適用する。 これには持ち株会
社の会社更生手続きが含まれるが、銀行自体の同手続きは含まれない。
» 負債の 10%。資産のボラティリティが高い銀行、または破産手続きが行われ企業価値を維
持できないとみられる銀行にこの損失率を適用する。
破綻時の有形株式資本の総負債に対する標準的な比率は 3%と想定する。これはバーゼル
III の最低所要レバレッジ比率に極めて近く、破綻処理実施時に残存する株式資本の推定値
として合理性を持つと考えられる。したがって、上述した 5%と 10%の損失率は総資産の 8%と
13%に相当する。
また、モデリングにおいて損失率は切断された正規分布曲線に従って平均値の両側に分布
すると想定する。標準偏差はそれぞれ 6%と 10%である。これは、少数の銀行では破綻処理
時に債権者に損失が発生せず、資本注入ではなく緊急の流動性供給による破綻処理が行わ
れ、かつ/または、株主が損失の全額を吸収するとの予想を想定に織り込むことを意味する。
80
104
SEPTEMBER 11, 2014
例として、米国のシステム上重要な銀行のレビュー結果に関するムーディーズのスペシャル・コメントを参照されたい。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
どちらの初期想定の損失率を用いるかは、多数の要因によって決まる。初期想定として、マク
ロ・プロファイルが「非常に強い」、「強い」、「中位」とされる銀行は資産のボラティリティが
低く、マクロ・プロファイルが「弱い」、「非常に弱い」とされる銀行は資産のボラ
ティリティが高いと考える。また、EU の BRRD や米国ドッド・フランク法 Title II の適
用を受ける銀行はゴーイング・コンサーンの破綻処理が行われ、ドッド・フランク法
Title I が適用される銀行は清算に近い破綻処理が行われるとムーディーズは考える。
その他の要因を考慮し、別の損失率を使用する場合もある。その要因を次に挙げる(ただし、
ここに挙げた要因が全てではない)。
» 資産、銀行、システムごとに発生した損失
» 異なる形式で破綻処理を行うことにより維持されるとみられる企業価値に関するムーディー
ズの判断
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» 破綻時に予想される株式資本の水準
図表 43
破綻時ファミリー損失率の推定確率分布
平均損失率
5% mean5%
平均損失率
10%
mean 10%
0.09
0.08
0.07
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
0
100% 95% 90% 85% 80% 75% 70% 65% 60% 55% 50% 45% 40% 35% 30% 25% 20% 15% 10%
5%
0%
出所 Moody’s
格付手法でモデルを使用しない理由
ムーディーズのアプローチはモデル手法に基づいているが、分析においてはモデルを直接
使用しない。これは、(1)破綻処理には不確実性が内在するため、モデルを用いたアプロー
チの精度は信頼できず、(2)損失および預金の内訳のデータは、総合的な結論を導くには十
分であるが、正確な個別の格付判断を行うための十分な頑健性を備えていないとムーディー
ズは考えているためである。もっとも、将来的に、必要なデータの信頼性が十分に高いと確信
した場合には、完全にモデルベースのアプローチに移行し、他の多数の変数を統合して用い
る可能性もある。
105
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
付録 8: サポート評価における複合デフォルト分析の使用
ムーディーズは複合デフォルト分析の枠組みを用いてサポート水準を予想する。このアプロー
チは事業会社や政府系企業などの多数の金融機関以外の格付にも用いられている 81。
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複合デフォルト分析は、ある債務のデフォルトリスク(従ってデフォルト損失)は、主債務者と、
主債務者にサポートを提供する可能性のある別の(単数または複数の)主体の両者のパフォ
ーマンスに依存するという考え方に基づくものである。複合デフォルト分析によって得られる主
な利点は、一貫した透明性のあるアプローチによって、契約に定められていない(概して不確
実な)外部サポートを織り込めることである。とはいえ、銀行預金格付を決定するのはムーディ
ーズの判断であって、モデルではないことに変わりはない。ムーディーズが意図しているのは、
その判断についての透明性を高め、それらが格付に与える影響に、より高い一貫性を持たせ
ることである。ムーディーズの銀行に対する複合デフォルト分析の枠組みでは、段階的プロセ
ス、あるいは「積み上げ型」アプローチに従って、提供される可能性のあるサポートを評価する。
段階的サポ―トモデルは、銀行に外部サポートが提供される場合、どのような順序で提供され
るかを示したものである。各サポート提供者は、銀行にサポートを提供する能力と意思につい
て評価される。サポート提供能力については、関係者からのサポートの場合はサポート提供
者の BCA または想定 BCA、公的セクターの主体によるサポートの場合はサポート提供者の
自国通貨建て格付に基づいて評価する。サポート提供の意思については、必要な場合にサ
ポートが提供される可能性についてのムーディーズの意見に基づいて評価する。サポート提
供者とサポート対象の双方がデフォルトする確率は、(a)いずれか一方がデフォルトする確率と、
(b)一方がすでにデフォルトを起こしており、その条件の下で、もう一方がデフォルトする確率
によって決まる。これを、事象 A と事象 B について、代数で次のように表すことができる。
P(A and B) = P(A | B) x P(B) (1)
または、
P(A and B) = P(B | A) x P(A) (2)
事象 A は「債権者 A 自身の債務でのデフォルト」とし、事象 B は「債務者 B 自身の債務での
デフォルト」とする。同様に「A and B」は「債務者 A、債務者 B 双方の債務でのデフォルト」す
なわち債務者双方のデフォルトとする。P(●)は、事象「●」が起こる確率、P(●|*)は「*」の発生を
条件として「●」が起こる条件付き確率と定義される。ムーディーズの格付は、発行体が(P(A)
and P(B))のデフォルトを起こす確率を直接に推定するために使用することができる。しかし、
条件付きデフォルト確率、P(A|B)および P(B|A)を推定するには、債務者双方のデフォルト要
因の間の関係を考慮しなければならない。P(A)、P(B)、P(A|B)、P(B|A)の 4 つの確率はいずれ
も、信用補完がない場合のリスクを示すことを意図したものである。つまり、共同サポートまた
は介入がない場合の、債務者のデフォルトの可能性を示すものである。
理論的には、式(1)または式(2)に示した条件付きデフォルト確率のいずれかを推定することに
よって、この問題への直接の回答が得られるが、格付が低い方、あるいは信用補完を受ける
側の企業の条件付きデフォルト確率と、格付が高い方、あるいは信用補完を提供する側の企
業の無条件デフォルト確率の最終結果に注目する方が、より理解しやすいかもしれない。「格
付が低い方の債務者 L のデフォルト」を L とし、「格付が高い方の債務者 H のデフォルト」を
H とすると、式(1)を次のように書き換えることができる。
P(L and H) = P(L | H) x P(H) (3)
条件付き確率 P(L|H)が理論最大値(つまり 1)または最小値(つまり P(L))になる状況を想
像することは難しくない。この極端な結果を、順に例をとって検討してみよう。.
81
JDA の考え方については、ムーディーズのスペシャル・コメント “The Incorporation of Joint-Default Analysis into Moody’s
Corporate, Financial and Government Rating Methodologies” (2005 年 2 月)を参照。
106
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
P(L|H)=1 発行体の財務力が、格付の高い方の当事者の事業に密接に関連していると想定
する。例えば、1 社のサプライヤーが支配的なシェアを持つ競争の熾烈な流通市場で、流通
業者がデフォルトを起こすリスクは、サプライヤーの財務の健全性に大きく左右されるといえる。
言い換えれば、格付の高いサプライヤーがデフォルトを起こしたという条件下で流通業者がデ
フォルトを起こす条件付き確率、P(L|H)は 1 に等しい。この場合、L と H は相関が最大である。
このシナリオでは、式(3)で表される、両者がデフォルトを起こす複合デフォルト確率 P(L and
H)は P(H)となる。つまり、この場合の共同債務の格付は、サプライヤーの格付に等しくなり、
発行体 L の単体での格付にかかわらず、格付の上方調整はない。
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P(L | H) = P(L). 格付の高い欧州の銀行が、格付の低い米国の農業関連企業に信用状を提
供していると想定する。農業関連企業自体が財務難に見舞われる可能性もあるが、農業事業
の健全性は、欧州の銀行のデフォルトにつながりうる要因とは一般的に関連性がない。このシ
ナリオでは、銀行のデフォルトが発生したという条件下で、農業関連企業のデフォルトが発生
する条件付きデフォルト確率、すなわち P(L|H)は、農業関連企業の単体でのデフォルトリスク
P(L)に等しい。つまり、事象 L と事象 H は相関がなく、互いに独立している。この場合、複合
デフォルト確率は、単体でのデフォルト確率から推定して、P(L)*P(H)となる。こうした関係にあ
る共同債務の格付は通常、信用補完を提供する企業 H の格付より高くなる。実際、格付の高
い方の企業デフォルトを条件とした、格付の低い方の企業の条件付きデフォルトリスクは、相
関が最も高い場合(P(L|H)=1)と、独立している場合(P(L|H)=P(L))の間のいずれかの地点の値
となる。
相関が中程度の場合
ここでは、デフォルトリスクの関連が中程度の場合の推定を行う単純な方法を提示する。W を
相関ウエイトとし、W=1 は格付の低い方の企業と高い方の企業のデフォルトの相関が理論上
最大の場合、W=0 は両社のデフォルト事象が完全に独立している(相関がゼロの)場合としよ
う。1 と 0 の間にある W の値は、両者のデフォルト事象の相関の程度を示す。
相関ウエイトを用いて、債務者 L と H の複合デフォルト確率を次のように表すことができる。
P (L and H) =W* P(L and H | W=1) + (1-W)* P(L and H | W=0) (4)
あるいは、より簡潔に次のように表すことも可能である。
P(L and H) = W*P(H) + (1 - W)*P(L)* P(H) (5)
言い換えると、債務者 2 者の単体での格付が決まれば、共同債務への格付を付与するには、
相関ウエイトさえ決定すればよいということである。
標準的想定
ムーディーズは通常、次に示す想定を JDA で使用する。
図表 44
カテゴリー別のサポートの可能性の想定
107
SEPTEMBER 11, 2014
サポート水準
下限
上限
政府による信用補完
95%
100%
非常に高い
70%
94%
高い
50%
69%
中位
30%
49%
低い
0%
29%
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 45
カテゴリー別の相互連関(相関)想定
相互連関
90%
非常に高い
高い
70%
中位
50%
デフォルト確率、予想損失率、格付
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ムーディーズは、相対的なデフォルト確率の正規化されたレンジに従って、デフォルト確率と
予想損失率を格付にマッピングする。これらは実際のデフォルト実績あるいは損失実績に対
応するものではなく、格付水準によるリスクの相対的な差を表しているにすぎない。しかし、こ
の差は、理想化された 4 年損失実績に密接に基づいており、それを調整して特定の期間や
実績に対応していない「無期限のベクトル」を導出する。形式的には、格付を区切るリスク倍
数は 0.62 である。例えば、JDA の目的上、1 ノッチのアップリフトは平均して 38%のリスク低下
を意味する。この関係は、Aaa を除く格付スケール上のどの地点でも成立している。Aaa 格付
は信用リスクが最も低く、最高の信用力を持つとムーディーズが考える債務のみに付与される
ため、Aaa と Aa1 を区切るリスク倍数は 0.1 である。これは、Aa1 から 1 ノッチのアップリフトによ
り Aaa に格付するためには、リスクが 10 分の 1 になるとみなす必要がある。これは、JDA にお
いてはサポート提供者が Aaa 格付である場合の方が、Aa 格付である場合より、サポート要因
がアップリフトに強く作用することを意味する。
この点が、JDA の適用において理想化された 4 年デフォルト率を用いる従来の格付手法から
の細かいが技術的な変更である。この変更によりどのように異なる結果が得られるかを図表
46 に示す。
図表 46
相対的な期待損失率:無期限のベクトルと期間 4 年の理想化された曲線の比較
無期限のベクトル
Horizon
free vector
4 年の理想化曲線
4期間
yr idealized
Reative RIsk (Baa3 = 1)
100.000
相対リスク
10.000
1.000
(Baa3=1)
0.100
0.010
0.001
0.000
Aaa
Aa1
Aa2
Aa3
A1
A2
A3
Baa1
Baa2 Baa3
Ba1
Ba2
Ba3
B1
B2
B3
Caa1
Caa2 Caa3
出所: Moody’s
修正後の相対的なデフォルト率と JDA におけるアップリフトの基準を図表 47 に示す。同様の
相関が、破綻時損実分析に基づく期待損失率から格付、あるいはその逆へのマッピングに適
用される。
108
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 47
デフォルト率検索
デフォルト率からの格付検索
相対的なデフォルト率
(baa3 = 1)
下限
自国通貨建て預金格付
aaa
0.00
0.01
Aaa
aa1
0.02
0.03
Aa1
aa2
0.03
0.04
Aa2
aa3
0.06
0.07
Aa3
a1
0.09
0.11
A1
a2
0.15
0.19
A2
a3
0.24
0.30
A3
baa1
0.38
0.49
Baa1
baa2
0.62
0.79
Baa2
baa3
1.00
1.27
Baa3
ba1
1.62
2.06
Ba1
ba2
2.62
3.33
Ba2
ba3
4.24
5.39
Ba3
b1
6.85
8.72
B1
b2
11.09
14.11
B2
b3
17.94
22.83
B3
caa1
29.03
36.93
Caa1
caa2
46.98
56.76
Caa2
caa3
76.01
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BCA
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意見募集:銀行格付手法案
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付録 9:調整と検証
はじめに
2008-2012 年の金融危機において、銀行がデフォルトする、あるいはデフォルト回避のために
政府または民間の親会社による緊急時のサポートを必要とする事態が歴史的にみて多数発
生した。デフォルトする可能性が高い銀行、あるいは親会社や地方・中央政府のサポートを受
ける可能性が高い銀行を事前に予測することは可能だっだだろうか?この短いセクションでは、
ムーディーズの格付対象銀行において BCA 事由が 1 年で発生する確率を、銀行財務デー
タおよびマクロ変数を用いて予測するモデルを説明する。
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データ
データは 2006-2012 年における 100 ヵ国弱の 1,019 の銀行の年間財務諸表とマクロ経済変
数から構成され、合計 5,182 のデータを含む。1,019 行のうち 165 行(16%)がデフォルトした、
あるいはデフォルト回避のための緊急時のサポートを受けた(「BCA 事由」)。図表 48 に、サ
ンプルに含まれる銀行数と BCA 事由の数を国別にまとめた。
図表 48
サンプル中の国別の銀行数および BCA 事由
銀行数
BCA 事由の数
ウクライナ
31
29
米国
94
17
スペイン
43
18
英国
33
10
アイルランド
14
11
ドイツ
36
9
ロシア
111
8
ギリシャ
9
8
ブラジル
44
6
オーストラリア
16
5
フランス
15
5
オランダ
11
5
562
34
1,019
165
所在国
その他
合計
銀行のバランスシートと比率のデータソースはムーディーズの Banking FM である。データセッ
トには大半の格付対象銀行が含まれているが、データベース導入から間もない初期のデータ
に含まれる銀行は限定的である。マクロ経済データは IMF と世界銀行のデータを利用してい
る。
モデル
2 値変数 I を、ある年に(ここでは、X 年 7 月 1 日から X+1 年 6 月 30 日までとする)ある銀行
で BCA 事由が発生した場合の値を 1、そうでない場合は 0 と定義する。X 年 6 月 30 日時点
の既知の変数によって、その後 1 年における BCA 事由の発生を予測できるかどうかが問題と
なる。銀行破綻の予測を試みるこれまでの分析と同様、モデルは銀行の賃借対照表・損益計
算書のデータと比率ならびにいくつかのマクロ変数に焦点を定める。銀行の財務指標とマクロ
経済データは、公表された時点で通常大きな時差がある。そのため、X 年(X 年年央から X+1
110
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
年年央までの1年)の BCA 事由発生を予測するため、X-1 年 12 月 31 日時点の銀行および
マクロ経済のデータを使用する。これにより、銀行の財務報告とマクロ経済データ公表の時差
を最短の 6 ヵ月にすることができる。
BCA 事由と説明変数との関係は、ロジットモデルとして表される。ここで、BCA 事由発生の確
率は、財務データおよびマクロ経済データの非線形関数として次の式で表される。

P( I t +1 = 1) = Ψ  α +


N
N
∑
j =1
β j Z j ,t +
∑
j =1

γ j Y j ,t 


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ここで、P() はある年に銀行でBCA事由が発生する確率、Zは銀行のバランスシートのデータと
比率、Yはマクロ経済変数、 Ψ ( ) はロジスティック累積分布関数(CDF)である 82。BCA事由
を示す変数は 0 か 1 の値をとるため、標準的な最小二乗回帰法を用いることはできない。パ
ラメータは最尤推定法により推定した。
結果
多数の銀行のバランスシート(および比率)とマクロ経済変数を検索した結果得られた、最も説
明力があるモデルの推定パラメータを図表 49 に示す。
グローバル要因
年間指標変数の推定係数は高い有意性を示した。観測可能な変数を検索する中で、米国の
失業率の変化をモデルに投入すると、高い有意性を持ち、年間指標変数の推定パラメータと
高い相関を示し、ほとんど等しい結果を生むことがわかった。米国の失業率の変化が有意性
を持つのは、米国に端を発し世界に波及した 2007-08 年の危機と共に米国の失業率が大幅
に悪化し、多数の国で BCA 事由が著しく増加したことによるものである。その後、米国の失業
率が低下するに従い、BCA 事由も比例的に減少した。これは事実上、ある年に米国の失業
率が上昇すれば、ある銀行のバランスシートにおいて BCA 事由発生の確率が上昇することを
意味する。
ソブリン格付
ソブリン格付は BCA 事由と相関性を持つ重要な変数であることがわかる。特に、ソブリン格付
が投機的等級の下位、すなわち B1 以下である場合、その国で BCA 事由が発生する確率は
高くなる。この指標変数は危機初期のウクライナおよび危機後期のユーロ圏周縁国において
BCA 事由が多数発生したことをほぼ捉えている。さらに、過去 1 年でソブリン格付が 2 ノッチ
以上格下げされた場合、その国の銀行にデフォルトが発生する可能性は高くなる。
銀行の特徴
BCA 事由を予測する上で、銀行の特徴が高い重要性を持つことがわかる。BCA 事由発生の
確率が高い銀行は次のような特徴を持つ。すなわち、総資産からみて大規模な銀行、市場資
金(他行からの借入を含む長・短期債務)の総資産に対する比率が高い銀行、総資産比で流
動資産が少ない銀行、貸出総額に対する不良債権比率が高い銀行、リスクアセットに対する
有形株主資本の比率が低い銀行、自己資本利益率(ROE)が低い銀行、総資産純利益率が
低い銀行である。
大規模な銀行ほど BCA 事由が発生しやすいというのは、直観と相容れないかもしれないが、
最近の危機下における BCA 事由の大部分が、直接的なデフォルト/破産事由ではなくサポー
82
銀行に BCA 事由が発生した理由をどの変数でも説明できない場合、無条件の平均値を確率として用いる。
P( I BCA,t +1 = 1) = Ψ (αˆ ) =
111
SEPTEMBER 11, 2014
165
= 3.18%
5182
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
ト事由であったことを反映しているにすぎない。大規模な銀行ほどシステム上の重要性が高い
とみなされ、サポートを受けやすかった。
利益がマイナスの値になるケースを考慮することの重要性に留意されたい。ROE が低いほど、
BCA 事由発生の確率が高いと予想されるが、ROE がマイナスになればその確率は著しく上
昇する。さらに総資産純利益率が-1%未満であれば、その後 1 年で BCA 事由が発生する確
率は極めて高くなる。
マクロ経済
幅広いマクロ経済変数をモデルに投入したところ、次の変数が有意であることがわかった。
» 5 年間の GDP 成長率と比較した民間セクター債務の増加率:民間セクターの債務が
GDP 成長率を上回って増加した国では、多数の BCA 事由が発生した。
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» 株式取引高の GDP に対する比率:経済規模からみた株式市場の取引高が大きい国は、
BCA 事由が多数発生する可能性が高い。
» GDPの 5 年ボラティリティ:実質GDPのボラティリティが高いほど、BCA事由の発生数が多
くなるとみられる 83。
» ある国の短期(1 年)実質 GDP 成長率:実質 GDP 成長率が大幅に減速すれば、短期的
に銀行の BCA 事由の発生数が増加するとみられる。
各国のすべてのマクロ経済変数の中で、GDP 成長率と比較した民間セクター債務の増加率
および実質 GDP のボラティリティの 2 つがモデルの適合性を最も高めることがわかった。
米国の失業率の変化が果たす役割は重視に値する。例として、2 つの銀行を想定しよう。A
銀行は米国の失業率がその後 1 年で 2%ポイント上昇すると予想される年において自己資本
比率が 8%、B 銀行は米国の失業率がその後 1 年で変化しないと予想される年において自己
資本比率が 8%である。他の条件がすべて等しければ、自己資本比率が同じでも、A 銀行で
BCA 事由が発生する確率の方が高い。その後 1 年で米国経済が悪化し、世界経済に影響
を与える(あるいは世界経済の悪化と相関する)可能性があるため、A 銀行はより大きな打撃
を受けるとみられる。ムーディーズのデータサンプルの中で、2007 年にバランスシートが悪化
した銀行では、2008 年半ばから 2009 年半ばにかけて BCA 事由が発生する可能性は他の
年に比べ大幅に高かった。
モデルの適合性
モデルはサンプル・データを用いた検証で高い適合性を示した 84 。発生したBCA事由の
80.6%について、モデルが予測したBCA事由発生の確率は 3.18%(サンプルにおける無条件
のBCA事由発生確率)を上回った。発生したBCA以外の事由の 82.9%について、モデルが予
測したBCA事由発生確率は 3.18%を下回った。全体的に、モデルはBCA事由の無条件の平
均確率に比べると、実際に発生したBCA事由の 82.8%を正確に分類した。
BCA 事由の直近のサイクルは特異なものであり、再び起こるとは限らない可能性もある。しか
し、将来のショックについてこれまで見たことのない経路を予想する信頼できる方法はなく、異
なる要因が果たした過去の役割を理解することは依然重要である。有意性を持つことがわか
った変数は全て直観的にも有意であり、他の調査でも有意性が認められており、ムーディーズ
の分析の更なるサポートとなっている。
83
10 年あるいは 20 年の実質 GDP 成長率のボラティリティを用いても、同様の結果が得られる。しかし、5 年
の推定ボラティリティの方がデータサンプルにおける適合性が高い。
84
但し、多重共線性として知られる説明変数間の高い相関には注意が必要である。これは、全体としてのモデルの適合
性を低下させるものではないが、どのデータ系列が他よりも重要あるいはそうではないといった、個別の説明変数の解釈
に影響を与える可能性がある。
112
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
モデルの頑強性
モデルの運用結果は、母集団から抽出した多数の下位サンプル(小規模銀行や最大手
銀行を除いたサンプルなど)における推定に対し、非常に頑強であった。銀行の規模
に関して得られた興味深い結果の一つが、銀行全体についてリスクアセットに対する
有形株主資本の比率を推定パラメータとして使用すると、高い有意性を持つとわかっ
たことである。
銀行破綻に関する実証的研究で有意性が判明した変数もある。経常収支、実質為替レ
ートや、その他の輸出入関連変数である。これらの変数をモデルに投入したところ、
その有意性は境界線上であり、モデルの仕様に含めた変数に比べ有意性はかなり低か
った。
図表 49
BCA 事由モデルの推定結果
Std
Z
切片
-5.21
1.52
-3.43
I - 投機的等級下位のソブリン格付
2.60
0.33
7.78
I - 年間のソブリン格付の変化 > 1
1.37
0.38
3.61
米国の失業率の変化 (t:t+1)
0.72
0.06
11.14
-10.79
2.91
-3.71
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推定
ある国の実質 GDP 成長率 (t:t+1)
実質 GDP 成長率と比較した民間セクター債務の増加 (t-5:t)
1.07
0.31
3.50
GDP ボラティリティの対数 (t-5:t)
1.09
0.18
6.18
株式取引高の GDP 比(t)
0.20
0.09
2.24
総資産の対数
0.31
0.06
5.02
総資産に対する市場資金の比率の対数
0.64
0.16
3.94
総資産に対する流動資産の比率の対数
-0.24
0.12
-1.97
3.24
1.18
2.74
-10.64
2.74
-3.88
0.81
0.43
1.87
-0.39
0.10
-3.94
I -ROE< 0%
0.78
0.31
2.47
経費率
0.65
0.49
1.32
不良債権比率
リスクアセットに対する有形株主資本の比率
I -総資産純利益率< -1%
自己資本利益率(ROE)
P(+,+)
80.6%
P(+,-)
19.4%
P(-,+)
17.1%
P(-,-)
82.9%
分類精度
82.8%
注:頭に I -が付いた説明変数はバイナリー(0,1)指標変数
113
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
付録 10: 銀行のリスク度
BCA の調整
BCA の調整は、過去の銀行破綻の分析を参考にして行った。この分析から得られた結論は、
BCA の中央値は投資適格等級下位から投機的等級上位になる、すなわち、「標準的な」銀
行システムの「標準的な」銀行の BCA は ba1/baa3 になるとみられることである。事実、この
BCA はムーディーズの現在の BCA の中央値とほぼ一致しており、今回の格付手法の修正は
大規模な格付変更につながることはないとムーディーズが予想する根拠の一つとなっている。
従って、多数の銀行は BCA の定義に従い次のカテゴリーのいずれかに分類される。
baaと評価される発行体は、固有もしくは単独ベースで中級の財務力を有すると判断され
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る。従って、関係者もしくは政府によるいかなる緊急的支援の可能性もないと想定した場
合は、信用リスクは中程度であり、一定の投機的な要素を含みうる 85。
baと評価される発行体は、固有もしくは単独ベースの財務力は投機的と判断される。関係
者もしくは政府によるいかなる緊急的支援の可能性もないと想定した場合は、相当の信
用リスクがある 86。
優れたファンダメンタルズを持つ銀行の BCA は、「a」カテゴリーになるとみられる。
aと評価される発行体は、固有もしくは単独ベースで中級の上位の財務力を有すると判断
される。従って、関係者もしくは政府によるいかなる緊急的支援の可能性もないと想定し
た場合でも、その信用リスクは低い水準にある 87。
従って、「aa」カテゴリーの BCA は、例外的に強固な極めて少数の金融機関のみに付与され
る。
aaと評価される発行体は固有もしくは単独ベースで高い財務力を有すると判断される。従
って、関係者もしくは政府によるいかなる緊急的支援の可能性もないと想定した場合でも、
その信用リスクは極めて低い水準にある。88。
理論的には可能であるが、銀行に aaa の BCA を付与する状況は現時点では考えられない。
これは、過去のデフォルトとサポートのデータに加え、銀行が示してきた高い遷移リスクは
BCA の最上位カテゴリーの定義と整合しないとのムーディーズの見方を反映している。
銀行単独のリスクとは何か
どの格付手法にも、業界固有のリスクに関する意見が織り込まれている。航空業界等の一部
の業界は景気循環に伴う変動性が比較的高いため、高リスクとみなされる。一方、安定した需
要がある食品小売業のような業界は衝撃を受けにくいため、比較的リスクが低いと考えられる。
一方、銀行業界に内在するリスクを検討する場合、他の業界には通常みられないいくつかの
課題がある。
» 銀行は経済の正常な機能にとって重要であることから中央銀行や政府からサポートを受け
ることが多いため、緊急時のサポートの事例を信頼性をもって観察できない。
» さらに、そのような緊急時のサポートがデフォルトを防止したかどうかについて確信を持つ
ことは不可能なケースが多い。
85
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SEPTEMBER 11, 2014
Symbols
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and
and
and
and
Definitions
Definitions
Definitions
Definitions
(2014 年 4 月)(ムーディーズ・ジャパン版「格付記号と定義」2014 年 4 月)参照。
(2014 年 4 月)(ムーディーズ・ジャパン版「格付記号と定義」2014 年 4 月)参照。
(2014 年 4 月)(ムーディーズ・ジャパン版「格付記号と定義」2014 年 4 月)参照。
(2014 年 4 月)(ムーディーズ・ジャパン版「格付記号と定義」2014 年 4 月)参照。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
» 銀行破綻は短期間に集中して発生する傾向がある。そのため、分析対象期間によって破
綻率が大きく異なり得る。
» 時間の経過とともに銀行セクターの母集団は常時変化していくため、サポート事例をモニ
タリングするコーホートを形成するのが難しい。
ムーディーズは次の 3 つのデータソースを利用して分析を行う。
» 現在の格付手法を導入した 2007 年以降に実施されたデフォルト回避のための銀行サポ
ートの事例
» 銀行格付を導入した 1983 年以降に発生した銀行のデフォルト
» 米国で FDIC が設立された 1934 年以降の FDIC による銀行サポートの事例
ムーディーズの格付対象銀行の多くがデフォルト回避のためサポートを受けた
RE
CO QU
M ES
M T
EN FO
T R
CL
O
SE
D
上述したように、ムーディーズは、グループ関係者、あるいは多くの場合、政府または中央銀
行からサポートが提供されなかったとすればデフォルトしたと考えられる銀行は世界で 165 行
あったことを確認した。格付対象銀行数は世界で 1,000 行を若干上回ることから、2006-12 年
の破綻率は 16%になる。年換算では 2%強で、Ba3 格付の発行体の長期的なデフォルト率と
ほぼ等しい。
この破綻率には大きな地域差がある点に留意することが重要である。金融危機下の銀行破綻
は欧州および北米に集中していたが、それ比べて他地域の破綻率ははるかに低かった。
とはいえ、ムーディーズは、これが他地域の銀行に比べた欧州および米国の銀行の本質的な
脆弱性の高さをを示しているわけではないと考えている。長期的にみた場合、中南米やアジ
アでは一定の間隔で銀行危機が発生してきた。しかし、これらの地域では好調な経済成長を
一因として、銀行危機の発生は近年落ち着きをみせている。また、このデータが銀行は投機
的等級に格付されるべきであることを示すと解釈するわけでもない。上述の通り、調査は多く
の地域で危機の期間に著しく偏っているため、長期的にみた場合、リスク水準を過大評価し
ている可能性がある。
銀行のデフォルト率
ムーディーズは 1983 年から銀行に格付を付与しており、約 30 年にわたる格付対象銀行の
デフォルト履歴を有している。このデータに基づく平均年間デフォルト率は約 0.6%で、Baa3
格付の発行体のデフォルト率に等しい。
図表 50
ムーディーズが格付を付与している世界の銀行債務のデフォルト率
世界の銀行の年間デフォルト率(全債務)
Global
banks annual default rate (all debt)
年間平均
Mean
annual
6.0
5.0
4.0
% 3.0
2.0
1.0
0.0
出所: Moody’s
しかし、上述の通り、このデータはいくつかの要因により歪曲されている。
115
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
» デフォルト率ではサポート提供によりデフォルトを回避した金融機関の数がわからない。
» 格付対象の母集団の構成が、時間の経過とともに米国から欧州、中南米、アジアへと大き
くシフトしてきた。そのため、母集団の構成は一定ではなく、例えば 1980 年代後半のデフ
ォルト率を 2000 年代後半のデフォルト率と直接比較することはできない。
従って、1 ヵ国のデータを抽出して長期間のデフォルト率を測定するのが有益である。米国の
データを用いれば、1980 年代後半と 1990 年代前半の 2 つの際立った危機の局面を含む最
良の長期時系列データが得られる。これによると、年間デフォルト率は 0.8%となり、Ba1 格付
の発行体のデフォルト率にほぼ等しい。
RE
CO QU
M ES
M T
EN FO
T R
CL
O
SE
D
ムーディーズの格付対象銀行の集団は変化していくという性質があるため、ここでもデフォル
ト率の分母はある程度歪曲されているが、その度合いは理論上、グローバルな統計より遥か
に小さい。また、サポートを考慮しても結果が大きく異なることはないとムーディーズは考えて
いる。これは、米国では長期にわたり最大手銀行以外の銀行の破綻を容認してきたため、サ
ポートを受けた債務金額は大きいかもしれないが、サポートを受けた銀行の数は(ムーディー
ズの統計が示すように)少ないからである。
図表 51
ムーディーズが格付を付与する米国の銀行債務のデフォルト率
US
Bank annual default rate (all debt)
米国の銀行の年間デフォルト率(全債務)
年間平均
Mean
annual
6.0
5.0
4.0
% 3.0
2.0
1.0
0.0
出所: Moody’s
FDIC のサポート率
ムーディーズの統計と FDIC が預金保険を開始した 1934 年以降に記録された銀行破綻を比
較することは有益である。FDIC のデータは、多数の銀行(2012 年末時点で 7,083 行)を母集
団とする長期間の一定したデータベースであるという長所を持つ。この 80 年間の年間破綻率
(FDIC の支援を必要とした銀行または直ちに破綻した銀行の比率)の平均は 0.44%であった。
これは Baa2 格付の発行体のデフォルト率に近い。既に述べたように、これらの破綻は特定の
期間、すなわち 1930 年代(ただし、これに先立つ大恐慌期の破綻率は極めて高く、それが
FDIC 設立の契機となった)、1980 年代後半と 1990 年代前半、および最近の 6 年間に集中
している。
116
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 52
破綻した、または支援を必要とした FDIC 加盟金融機関の割合
Annual
Failure rate
年間破綻率
Annual
assistance rate
年間支援率
4 4year
average
年平均
4.5
4.0
3.5
3.0
%
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
1935
1937
1939
1941
1943
1945
1947
1949
1951
1953
1955
1957
1959
1961
1963
1965
1967
1969
1971
1973
1975
1977
1979
1981
1983
1985
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
2007
2009
2011
2013
0.0
RE
CO QU
M ES
M T
EN FO
T R
CL
O
SE
D
出所: Federal Deposit Insurance Corporation, Moody’s
ムーディーズのデータセットと比較するため、ムーディーズの銀行デフォルト率の統計期間に
合わせた 1983 年以降の破綻率をみると 0.98%となり、ムーディーズのデータのデフォルト率
0.8%を若干上回る。これは、Ba2 格付の発行体の年間デフォルト率にほぼ等しい。
この分析から、米国のようなシステムでは破綻率が 0.5%から 1%の間になるとみられる。ただ
し、平均値をはさんでデータは高いボラティリティを示す。これは、BCA の中央値が ba2 と
baa3 の間に位置することを示唆している。
117
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
付録 11: インパクト評価 89
図表53
推定される格付へのインパクト-ベースライン信用リスク評価
N umb e r in
s a mp
le の数
現在の
BCA
地域
R e g io n
北米
North
America
EU
及びその他西欧
EU and Other Western Europe
アジア・太平洋
Asia Pacific
CIS・西アジア
CIS and Western Asia
中南米
Latin America
中近東・アフリカ
MEA
世界
W OR LD
79
292
186
144
120
107
928
Imp a c t (no tc he s )
B a la nc e
up / d o wn
上下差
インパクト(ノッチ)
-2
0%
0%
0%
0%
1%
0%
0%
-1
0%
2%
1%
0%
1%
1%
1%
0
100%
94%
91%
97%
98%
96%
95%
1
0%
2%
5%
3%
0%
3%
3%
2
0%
1%
2%
0%
0%
0%
1%
3
0%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
1%
6%
3%
-2%
2%
2%
W e ig hte d
a v更
e ra
変
ノ gッeチ 数Aのv e ra g e
B CA
no tc h
加重平均
c ha ng e
平均 BCA
0.0
0.0
0.1
0.0
0.0
0.0
0.0
a3
ba1
baa3
b2
ba2
ba2
ba2
RE
CO QU
M ES
M T
EN FO
T R
CL
O
SE
D
出所: Moody’s
図表54
推定される格付へのインパクト-預金(自国通貨建て)
W e ig hte d
N umb e r in
s a mp
le の数
現在の
BCA
地域
地域
R
e g io n
北米
北米
North America
EU
EU 及びその他西欧
及びその他西欧
EU and Other Western Europe
アジア・太平洋
アジア・太平洋
Asia Pacific
CIS・西アジア
CIS・西アジア
CIS and Western Asia
中南米
中南米
Latin America
中近東・アフリカ
中近東・アフリカ
MEA
世界
世界
W
OR LD
75
275
173
143
112
102
880
Imp a c t (no tc he s )
B a la nc e
up / d o wn
上下差
インパクト(ノッチ)
-2
0%
0%
3%
0%
0%
0%
1%
-1
0%
4%
5%
2%
13%
19%
6%
0
12%
16%
88%
95%
84%
79%
59%
1
8%
24%
3%
3%
2%
2%
10%
2
75%
49%
1%
0%
1%
0%
22%
3
5%
5%
0%
0%
0%
0%
2%
88%
75%
-3%
1%
-11%
-17%
27%
v e ra g e
a v更
e ra
g eチ 数Aの
変
ノッ
no tc h
ra ting
1.7
1.4
-0.1
0.0
-0.1
-0.2
0.5
A1
Baa1
A3
B2
Ba2
Baa3
Ba a 2
加重平均
c ha ng e
平均格付
出所: Moody’s
図表55
推定される格付へのインパクト-預金(外貨建て)
Imp a c t (no tc he s )
N umb e r in
s a mp
le の数
現在の
BCA
地域
R e g io n
北米
North
America
EU
及びその他西欧
EU and Other Western Europe
アジア・太平洋
Asia Pacific
CIS・西アジア
CIS and Western Asia
中南米
Latin America
中近東・アフリカ
MEA
世界
W OR LD
13
261
179
141
117
102
813
B a la nc e
up / d o wn
上下差
インパクト(ノッチ)
-2
0%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
-1
0%
4%
2%
2%
6%
4%
3%
0
85%
16%
94%
95%
92%
94%
69%
1
15%
23%
3%
3%
1%
2%
9%
2
0%
50%
1%
0%
1%
0%
16%
3
0%
5%
0%
0%
0%
0%
2%
15%
75%
2%
1%
-4%
-2%
24%
W e ig hte d
v e ra g e
a v更
e ra
変
ノg
ッeチ 数Aの
ra ting
no tc h
平均格付
加重平均
c ha ng e
0.2
1.4
0.0
0.0
0.0
0.0
0.4
A1
Baa1
A3
B2
Ba2
Baa3
Ba a 2
出所: Moody’s
図表56
推定される格付へのインパクト-シニア無担保債務(自国通貨建て)
N umb e r in
s a mpBCA
le の数
現在の
地域
R e g io n
北米
North
America
EU
及びその他西欧
EU and Other Western Europe
アジア・太平洋
Asia Pacific
CIS・西アジア
CIS and Western Asia
中南米
Latin America
中近東・アフリカ
MEA
世界
W OR LD
72
143
31
48
22
8
324
Imp a c t (no tc he s )
B a la nc e
up / d o wn
上下差
インパクト(ノッチ)
-2
1%
0%
3%
0%
0%
0%
1%
-1
61%
14%
0%
2%
9%
0%
21%
0
29%
24%
97%
94%
86%
100%
49%
1
6%
36%
0%
4%
5%
0%
18%
2
1%
21%
0%
0%
0%
0%
10%
3
1%
3%
0%
0%
0%
0%
2%
-54%
48%
-3%
2%
-5%
0%
9%
W e ig hte d
A v e ra g e
a v e ra g e
変更ノッチ数の
ra ting
no tc h
平均格付
加重平均
c ha ng e
-0.5
0.8
-0.1
0.0
0.0
0.0
0.2
A3
Baa1
A1
B1
Ba2
Ba1
Ba a 2
出所: Moody’s
89
118
SEPTEMBER 11, 2014
サンプルには、銀行単独の BCA を有する主要銀行が含まれている。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表57
推定される格付へのインパクト-シニア無担保債務(外貨建て)
N umb e r in
s a mp
le の数
現在の
BCA
地域
R e g io n
北米
North America
EU 及びその他西欧
EU and Other Western Europe
アジア・太平洋
Asia Pacific
CIS・西アジア
CIS and Western Asia
中南米
Latin America
中近東・アフリカ
MEA
世界
W OR LD
11
100
70
25
31
37
274
Imp a c t (no tc he s )
インパクト(ノッチ)
-2
0%
0%
0%
0%
0%
0%
0%
-1
0%
7%
10%
0%
10%
11%
8%
0
91%
22%
89%
96%
84%
84%
64%
1
9%
42%
1%
4%
3%
5%
18%
2
0%
23%
0%
0%
3%
0%
9%
3
0%
5%
0%
0%
0%
0%
2%
W e ig hte d
B a la nc e 変更ノッチ数の
A v e ra g e
a v e ra g e
up / d o wn
ra ting
no tc h
上下差
平均格付
加重平均
c ha ng e
9%
64%
-9%
4%
-3%
-5%
21%
0.1
1.0
-0.1
0.0
0.0
-0.1
0.3
A3
Baa1
A1
B1
Ba2
Ba1
Ba a 2
出所: Moody’s
図表 58
異なるサポートに関するシナリオ下で推定される欧州銀行格付へのインパクトー預金(自国通貨建て)
W e ig hte d
a v e ra g e
no tc h
c ha ng e
の加重平均
RE
CO QU
M ES
M T
EN FO
T R
CL
O
SE
D
N umb e r in
サポート・シナリオ
S up p o rt S c e na rio
現状維持
Current
縮小
Reduced
排除
Eliminated
275
275
275
B a la nc e
up
/ d o wn
上下差
Imp a c t (no tc he s )
インパクト(ノッチ)
現在の
s a mpBCA
le の数
<=-3
0%
1%
5%
-2
0%
2%
6%
-1
4%
8%
22%
0
16%
26%
29%
1
24%
36%
21%
2
49%
26%
16%
3
5%
2%
1%
変更ノッチ数
75%
52%
4%
1.4
0.8
0.0
A v e ra g e
ra ting
平均格付
Baa1
Baa1
Baa2
出所: Moody’s
図表 59
異なるサポートに関するシナリオ下で推定される欧州銀行格付へのインパクトー預金(外貨建て)
N umb e r in
現在の
s a mpBCA
le の数
サポート・シナリオ
S up p o rt S c e na rio
現状維持
Current
縮小
Reduced
排除
Eliminated
261
261
261
Imp a c t (no tc he s )
インパクト(ノッチ)
<=-3
0%
1%
5%
-2
0%
2%
7%
-1
4%
8%
21%
0
16%
26%
31%
1
23%
36%
20%
2
50%
26%
16%
>=3
6%
2%
1%
W e ig hte d
B a la nc e
A v e ra g e
a v e ra g e
up
/ d o wn 変更ノッチ数
ra ting
no tc h
上下差
平均格付
c ha ng e
の加重平均
75%
53%
4%
1.4
0.8
0.0
Baa1
Baa1
Baa2
出所: Moody’s
図表 60
異なるサポートに関するシナリオ下で推定される欧州銀行格付へのインパクトーシニア無担保債務(自国通貨建て)
N umb e r in
現在の
BCA
s a mp
le の数
サポート・シナリオ
S up p o rt S c e na rio
現状維持
Current
縮小
Reduced
排除
Eliminated
143
143
143
Imp a c t (no tc he s )
インパクト(ノッチ)
<=-3
-2
-1
0
1
2
>=3
0%
2%
19%
0%
10%
22%
14%
24%
24%
24%
29%
22%
36%
23%
9%
21%
10%
3%
4%
1%
0%
W e ig hte d
B a la nc e
A v e ra g
a v e ra g e
変更ノッチ数
up / d o wn
ra ting
no tc h
上下差
平均格付
c ha ng e
の加重平均
48%
-2%
-52%
0.8
0.0
-1.2
Baa1
Baa2
Baa3
出所: Moody’s
図表 61
異なるサポートに関するシナリオ下で推定される欧州銀行格付へのインパクトーシニア無担保債務(外貨建て)
N umb e r in
現在の
BCA
s a mp
leの数
S up p o rt S c e na rio
サポート・シナリオ
現状維持
Current
縮小
Reduced
Eliminated
排除
出所: Moody’s
119
SEPTEMBER 11, 2014
100
100
100
Imp a c t (no tc he s )
インパクト(ノッチ)
<=-3
-2
-1
0
1
2
>=3
0%
1%
13%
0%
6%
24%
7%
22%
19%
22%
30%
29%
42%
28%
10%
23%
12%
4%
6%
1%
1%
W e ig hte d
B a la nc e 変更ノッチ数
A v e ra g
a v e ra g e
up
/ d o wn
ra ting
no tc h
上下差
平均格付
の加重平均
c ha ng e
64%
12%
-41%
1.0
0.2
-1.0
Baa1
Baa2
Baa3
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
サポートに関するシナリオ
» 現状維持:現在のサポートの想定が維持され、JDA を用いて適用される。
» 縮小:グローバルなシステム上重要な金融機関とみなされる銀行には、政府からのサポー
トについて 2 ノッチが付与される。その他の、システミックサポート提供の可能性が「中位」
または「高い」とムーディーズが考える銀行には 1 ノッチが付与される。システミックサポート
提供の可能性が「中位」より低いとムーディーズが考える銀行については、政府からのサポ
ートについてのアップリフトはない。ただし、現在、システミックサポート要因について 4 ノッ
チ以上のアップリフトが加わっている銀行については、特別な個別要因を示唆する可能性
があるため、現状水準を維持する。
» 排除:政府からのサポートに関するアップリフトは行わず、証券に対する格付は、ソブリン・
シーリングを考慮し、PRA に沿ったものとなる。
RE
CO QU
M ES
M T
EN FO
T R
CL
O
SE
D
» サンプルには、EU、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイスの銀行が含まれる。
120
SEPTEMBER 11, 2014
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
付録 12:「ハイ・トリガー」証券を格付するためのステップ・バイ・ステップ・ガイド
上述の通り、「ハイ・トリガー」証券の信用リスクは、実質破綻時に損失負担を強要されるリスク
だけでなく、破綻より早い段階で財務力が低下した場合に損失負担を強要されるリスクも含ま
れる。これら 2 つのリスクを評価するため、ムーディーズのモデルは、銀行が破綻する確率とト
リガー抵触の確率、ならびにそのいずれかまたは両方の事由が発生した場合の損失規模を
捕捉する。また、ムーディーズが用いる枠組みは、利払い停止のリスクを、その他 Tier 1 証券
の場合は関連する実質破綻時損失吸収条項付証券の格付ノッチングによって捕捉し、「ハ
イ・トリガー」証券については、モデル導出の格付と実質破綻時損失吸収条項付証券の格付
のいずれか低い方に格付する。
RE
CO QU
M ES
M T
EN FO
T R
CL
O
SE
D
「ハイ・トリガー」証券を格付するためのステップ・バイステップ・ガイドを以下に掲載する。
ステップ 1:「ハイ・トリガー」抵触の確率の決定
この例では、銀行のCET 1 比率が 7%を下回れば、その銀行が発行した「ハイ・トリガー」証券
のトリガー事由が発生すると想定する。この確率を推定するため、ムーディーズは将来の
CET1 比率が正規分布になると想定する 90。この分布曲線は、銀行固有の 2 つのデータを投
入して導出することができる。
» 銀行の直近の CET1比率(将来の資本に関するムーディーズの予測に基づき調整される
可能性がある)は、将来の CET1 比率の分布の平均である。図表 62 の濃い青色の線が示
す値(CET1:10%)である。正規分布を想定しているので、CET1 比率が平均を上回る確
率と下回る確率は、いずれも 50%である。
» 銀行の BCA は、緊急のサポートがなければ銀行が破綻する可能性を反映している。規制
当局は、CET1 比率トリガーが 5.125%以上に設定されたコンティンジェント・キャピタル証
券のTier I 資本への算入を認めているため、ムーディーズは、CET1 比率が 5% 91以下に
低下する確率を、BCAによって捕捉された破綻の確率と同じであると見做している。ムーデ
ィーズが、銀行が実質破綻したと見做される資本比率が 5.125%を上回ると考える場合(所
管国・地域ごとに決定され、適用されるケースは限られる)、それに応じてモデルを調整す
る。次に、ムーディーズの理想化されたデフォルト率テーブルを用いて、銀行のBCAに関
連付けられた破綻の確率を決定し、それを曲線の 5%閾値を下回るエリアに割り当てる(図
表 62 ではAのエリアとなる)。
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90
将来の自己資本モデルに正規分布を用いることを決定する前に、ムーディーズはいくつかの別の手法を検討したが、ど
の手法もそれぞれに限界がある。モデルは「ハイ・トリガー」証券の格付アプローチで用いる 1 つの情報にすぎず、正規
分布の使用は欠点もあるが、合理的で一貫性のある結果が得られる。正規分布では、自己資本が平均値(モデルでは
直近の報告 CET 1 比率、将来の資本に関するムーディーズの予測に基づき調整することもある)を超えて改善すること
を示しているが、モデルは資本の増加分はすべて配当として支払われると想定しているため(実際の慣行でもそうなって
いる)、この点は重要ではない。また、銀行はマイナスの影響が生じるショックに対応して、報酬カット、人員削減、配当お
よびジュニア証券の支払いの減額や停止という措置を講じると想定している。最終的には、経営陣が極端なアップサイド
やダウンサイドの変化に対応する措置を講じれば、テール部分が薄い正規分布曲線になる。
91
ムーディーズのモデルでは、単純化のため 5.125%ではなく 5%を用いている。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
図表 62
銀行のコンティンジェント・キャピタル証券のモデリング
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出所:Moody's
A の面積を計算すれば、既に決定した平均値と整合する分布のボラティリティと、CET1 比率
がエリア A 内に位置する確率を計算することができる。ボラティリティと平均値が得られれば、
銀行ごとに分布曲線を描くことができ、銀行の CET1 比率がいずれかの水準(このケースで問
題となる 7%の閾値(図表 62 の薄い青色の線)の左側のエリアを含む)に移動する確率を決
定することができる。この線より左側の曲線の下の面積(エリア A とエリア B をあわせた部分)
が、銀行の CET1 比率が 7%を下回る確率、すなわちトリガー抵触の確率を表す。
トリガー抵触の確率をモデル導出の格付にマッピング
トリガー抵触の確率を決定すれば、理想化された 4 年デフォルト率テーブルを用いて、格付
にマッピングすることができる。モデル導出の格付は、ある格付水準の証券の通常の期待損
失規模を織り込むことになり、一般に、株式転換あるいは一部または一時的な元本削減条項
に関連した損失を効果的に捕捉できるとムーディーズは考えている。元本が全額削減される
証券については、元本削減条項にかかわる損失規模が大きくなる可能性を反映させるために、
さらに 1 ノッチのノッチダウンを行う。ただし、次のセクションで説明するように、実質破綻時損
失吸収条項付証券の格付が格付の上限となっている場合は除く。
モデルへのアクセス
このモデルへのアクセスをご希望の方は、[email protected] 宛ての電子メールまたはフ
ァックス(+1.212.658.9475)にてご請求下さい。モデルは、ムーディーズ・インベスターズ・サー
ビスが格付分析で用いる実際の投入値あるいは特定の証券に付与する格付を決定する上で、
考慮する可能性のある全ての追加要因を反映したものではありません。
ステップ 2:実質破綻時損失吸収条項付証券の格付を「ハイ・トリガー」証券の格付の上限とする
「ハイ・トリガー」証券のモデル・ベースの格付が銀行の実質破綻時損失吸条項付証券の格付
を上回る場合 92、実質破綻時損失吸収条項付証券の格付を「ハイ・トリガー」証券の格付の上
限とする。これは、「ハイ・トリガー」証券の格付は、実質破綻に達するリスクおよびトリガー抵触
までの距離に関連した信用リスクから構成されるため、「ハイ・トリガー」証券の格付が実質破
綻時損失吸収条項付証券の格付を上回ることはないからである。
銀行が「ハイ・トリガー」証券と同じ種類の自己資本に算入される実質破綻時損失吸収条項付
証券を発行していないケースがある。そのようなケースでは、上限となる実質破綻時損失吸収
条項付証券の格付を決定するために、「ハイ・トリガー」証券と同じ種類の自己資本(Tier 2 あ
るいはその他 Teir 1)に算入される実質破綻時損失吸収条項付証券を当該銀行が発行したと
仮定し、調整後 BCA を基準にノッチダウンを行い、格付の上限を決定する。
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「ハイ・トリガー」証券の格付が銀行の BCA を上回ることはあり得ないが、実質破綻時損失吸収条項付証券の格付は、
Tier 2 証券かその他 Tier 1 証券かに応じて、銀行の調整後 BCA より通常 2-3 ノッチ低くなるため、こうしたケースが起こ
り得る。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
モデル・ベースの格付は、トリガー抵触の確率しか考慮しておらず、非累積型の利払い停止
などの他の条項にかかわるリスクを必ずしも織り込んでいないことに留意する必要がある。しか
し、このリスクは、関連する実質破綻時損失条項付証券の格付ノッチングによって既に捕捉さ
れており、「ハイ・トリガー」証券については、モデル導出の格付と実質破綻時損失吸収条項
付証券の格付のいずれか低い方に格付する。
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その他Tier 1 実質破綻時損失吸収条項付証券の格付を銀行の調整後BCAマイナス 3 ノッチ
に位置付けることにより、関連性を持つ 2 つの個別のリスクを捕捉する。すなわち、銀行全体
が破綻した場合の損失率の高さと、銀行全体の破綻より早い段階で利払いが停止されること
によりインペアメント事由が発生する可能性である(つまり、銀行がデフォルト回避のために緊
急のサポートを必要とする場合、デフォルト確率はBCAが示唆するデフォルト確率より高くな
る) 93。実際に「ハイ・トリガー」証券に格付を付与する際には、トリガー抵触、銀行全体の破綻、
またその他Tier 1「ハイ・トリガー」証券の場合は利払い停止に関連するインペアメント、というリ
スクの中で、最も高いリスクを考慮した格付を付与している。
ステップ 3:「ハイ・トリガー」証券の最終的な格付は、格付委員会が判断する
ムーディーズが開発したモデル導出の格付は、最終的な格付を決定するための起点にすぎ
ず、最終的な格付と一致するとは限らない。ムーディーズが通常、銀行格付を付与する場合と
同様に、格付委員会は、モデル(場合によってはスコアカード)に基づくアプローチでは証券
の信用リスクを適切に捕捉できないと考えられる場合、自身の判断によって格付を調整するこ
とができる。
「ハイ・トリガー」証券の格付を位置付ける上でムーディーズが考慮する可能性のある他の要
因には次のようなものがある。
» 銀行に何らかの行動を起こさせる証券の契約条項。例えば、トリガー抵触時に低い価格
で株式に転換しなくてはならない「ハイ・トリガー」証券の場合、既存の株主に対する非希
薄化条項が発行条件に含まれていなければ、銀行はあらゆる手段を講じて株式転換トリガ
ー抵触とそれに伴う株式の希薄化を回避しようとするかもしれない。一方、元本が全額削
減される「ハイ・トリガー」証券の場合、銀行はトリガー抵触を躊躇しないかもしれず、そのよ
うな証券のリスクは株式転換される証券より高くなると考えられる。
» 銀行に関係する状況。ある証券の契約条項以外に、銀行固有の他の状況も考慮する場
合がある。例えば、自己資本の問題に対処しトリガー抵触を回避するために、新株を発行
する能力や、レバレッジ削減または事業売却といった他の改善措置をとる能力などである。
また、利払い停止につながる自己資本バッファーのトリガー抵触までにどのくらい余裕があ
るかも考慮する場合がある。これらの要因は銀行の BCA にも影響するが、「ハイ・トリガー」
証券の格付に対し、より大きな影響を及ぼす。.
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利払い停止リスクに関して通常の損失率(55%、これに対し、銀行全体が破綻した場合の損失率は 100%)を想定すれば、
実質破綻時損失吸収条項付証券の格付をこの水準に位置付けることは、利払い停止が発生する確率は銀行全体が破
綻する確率の 4 倍を上回ることを意味する。例えば、BCA が baa3 の銀行のデフォルト確率は、理想化された 4 年デフォ
ルト率テーブル上で 2.38%であるのに対し、Ba3 格付(調整後 BCA が BCA と等しいと仮定した場合にその他 Tier 1 実
質破綻時損失吸収条項付証券が格付される水準)に関連付けられるデフォルト確率は 9.79%となり、リスクが適切に捕捉
されていることを示している。
意見募集:銀行格付手法案
BANKING
用語解説
ムーディーズの銀行格付手法の用語
Adjusted Baseline Credit Assessment (BCA) 調整後ベースライン信用リスク評価(BCA)(「関係
者によるサポート」、「ベースライン信用リスク評価」参照) – 調整後 BCA は、サポート・構造分
析の最初のステップの結果であり、銀行がデフォルトを回避するために関係者から提供される
可能性があるとみられるサポート以外のサポートを必要とする可能性を示す。
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Affiliate Support 関係者からのサポート(「調整後ベースライン信用リスク評価」、「サポート」参
照)– サポート・構造分析において最初に考慮する関係者によるサポートの分析は、関係者や
政府からの緊急時のサポートを考慮しない場合に銀行が破綻する可能性(BCA に表される)
からスタートし、次に 1) 銀行の関係者からのサポートの可能性、2) それらの関係者がサポート
を提供する能力、および 3) 銀行とそれらの関係者の間の相互連関を検討する。これらの分析
の結果として得られるのが調整後 BCA である。
Anchor Rating 基準格付 –(1) カバードボンドの発行体、または(2)サポート提供者の格付
Asset Quality 資産の質(「財務要因」、「スコアカード」参照)– BCA スコアカードの 5 つの財務
要因のひとつである資産の質(ウエイト 25%)は主に、総貸出残高に対する問題債権の比率
によって測られる。これは、債券保有者にとって不利となる潜在的な問題、信用損失、支払い
能力への圧力を示す。銀行では通常、バランスシート上のレバレッジが高水準となっているこ
とから、資産価値のわずかな悪化でも支払い能力に大きな影響を与えうるため、多くの銀行の
破綻は信用リスクに起因する。その他、貸出の伸び、大規模かつ/または高リスクの与信集中、
銀行の市場リスクおよびオペレーショナルリスクも考慮する。
Baseline Credit Assessment (BCA) ベースライン信用リスク評価(BCA)(「マクロ・プロファイル」、
「財務要因」、「定性要因」、「スコアカード」参照)– 銀行の単独での信用リスクの将来を見通
した評価。マクロ・プロファイル、財務要因、定性要因に基づき、銀行のデフォルトが発生する
可能性、またはそうしたデフォルトを回避するためにサポートを必要とする可能性を表すもの
である。
Capital 自己資本(「財務要因」、「資産の質」、「スコアカード」参照)– BCA スコアカードに織り
込まれる 5 つの財務要因のひとつである自己資本(ウエイト 25%)は、リスクアセットに対する
有形普通株主資本の比率で測られる。自己資本は銀行の資産の質とともに変化する。不測
の損失発生リスクが大きいほど、債券保有者を保護するため、また資金調達に必要な債権者
の信認を維持するために資本を保有する必要が高まるためである。その他、規制上の指標と
は異なるウエイトを適用しない資本の指標としての名目レバレッジ(総資産に対する有形普通
株主資本の比率)、資本の質、追加的な資本へのアクセス、問題債権に対するカバレッジも
考慮する。
Financial Factors 財務要因(「ベースライン信用リスク評価」、「資産の質」、「定性要因」、「スコ
アカード」参照) – 銀行の財務力評価において考慮される 5 つの財務ファンダメンタルズ要因
で、BCA スコアカードに織り込まれる。銀行の資産の質、自己資本、収益性の 3 つの要因は
支払い能力を左右し、銀行の資金調達構造、流動性原資の 2 つの要因は流動性を左右する。
Funding Structure 資金調達構造(「財務要因」、「スコアカード」参照)– BCA スコアカードに織
り込まれる 5 つの財務要因のひとつである資金調達構造(ウエイト 20%)は、有形銀行資産に
対する市場資金の比率で測られ、銀行が支援を必要とする可能性と強い関連性がある。銀行
が信頼性の低い原資(短期資金またはリスクに敏感なカウンターパーティからの資金)を使用
している場合、債務のリファイナンスが困難となる可能性が相対的に高い。単一の指標では、
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意見募集:銀行格付手法案
BANKING
銀行の資金調達構造の脆弱性を包括的に把握することができないため、市場資金や預金調
達の質、銀行の市場へのアクセスも考慮する。
Government Support 政府からのサポート(「サポート」参照)– 地域・地方政府、中央政府、国
際機関からのサポートは、銀行の証券の一部または全部における損失のリスクを低減しうる。
サポート・構造分析において、政府からのサポートは、最終的な債務・預金格付を決定する前
の最後のステップ(関係者によるサポートおよび破綻時損失分析の後)で考慮される。
Gross Risk グロスリスク(「支払い能力」、「流動性」参照)– 支払い能力においては、銀行の自
己資本、収益、引当金による相殺効果を考慮する前の、銀行の資産の価値が失われるリスク
を示す。流動性においては、現金および流動性資産へのアクセスによる低減効果を考慮する
前の、資金調達が失われるリスクを示す。
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Liquid Resources 流動性原資(「財務要因」、「スコアカード」参照)– BCA スコアカードに織り込
まれる 5 つの財務要因のひとつである流動性原資(ウエイト 15%)は、有形銀行資産に対する
流動資産の比率によって測られ、銀行が信認感応度の高い投資家から資金を調達する能力
を示す。銀行が、現金を確保するために売却するかレポ取引に活用できる質と流動性の高い
証券を保有していれば、資金調達カウンターパーティの姿勢の変化に対応する能力が高まる。
Liquidity 流動性(「グロスリスク」、「流動性」参照)– 銀行の資産と負債の満期のミスマッチ、資
金調達の信頼性、流動性準備金からのキャッシュ流出に対応する能力を指す。
Loss Given Failure 破綻時損失(「サポート・構造分析」参照)– サポート・構造分析の 2 つめの
ステップ。破綻時損失は、関係者からのサポートが枯渇し(あるいは拒否され)、政府サポート
が得られない場合、銀行の破綻が様々なクラスの債務に与える影響を考慮する。ムーディー
ズのアプローチでは、運用可能な破綻処理制度の対象となる銀行の、格付の異なる証券で
発生しうる損失を検討する。その際、破綻処理の方法(例えば、「ゴーイング・コンサーン」ベー
スのベイル・インでは会社更生手続よりも損失が小さくなる可能性がある)、債務クラスの劣後
性(支払い請求および損失からの保護に関する優先順位の検討の一助となる)、債務クラスの
規模(債権者の規模および数が大きいほど、損失規模は小さくなる)を考慮する。
Macro Profile マクロ・プロファイル - 銀行の破綻の可能性についての予測能力があるとムー
ディーズが考えるシステム全体に関する要因の評価。マクロ・プロファイルは、ムーディーズの
ソブリン格付グループの分析に大きく依拠しており、ソブリン格付スコアカードを起点とし、ソブ
リンの 1) 経済力、2) 制度の頑健性、3) イベント・リスクに対する感応性を考慮する。その後、
ムーディーズの信用状況に対する評価(中位から非常に弱い)と統合し、調整前マクロ・プロフ
ァイルを導出する。その後、資金調達環境と業界構造を反映して調整前マクロ・プロファイル
を上下に調整することによって、最終的なマクロ・プロファイルを決定する。
Operational Resolution Regime 運用可能な破綻処理制度 (「破綻時損失」参照)– ムーディー
ズは、運用可能な破綻処理制度をもつシステムを、破綻した銀行の秩序ある破綻処理を可能
とする具体的な法制度をもつシステムと定義する。こうしたシステムでは、銀行の破綻および
破綻処理が預金者およびその他の債権者に与える影響が明確である。制度が運用可能であ
ると判断すれば、政府からのサポートの可能性が低下するか、場合によっては除去される。
Preliminary Rating Assessment(PRA) 予備的格付評価 – 政府サポートが提供されず、債務・預
金シーリングを考慮する前の、特定の証券の予想損失に関するムーディーズの見方を示した、
Aaa から C までの数字付加記号が付与された証券の長期的な信用力の評価。従って、PRA
はベースライン信用リスク評価、関係者からのサポート、破綻時損失分析、その他のノッチン
グ上の考慮事項を織り込んだものである。
Profitability 収益性 (「財務要因」、「スコアカード」参照)– BCA スコアカードに織り込まれる 5
つの財務要因のひとつである収益性(ウエイト 15%)は、総資産に対する純利益の比率で測
られ、銀行の資本創出能力を検討する一助となり、損失を吸収しショックから回復する能力の
補完的指標となる。分析では収益の安定性も考慮するが、業務フローがより変動的なホール
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意見募集:銀行格付手法案
BANKING
セール銀行よりも、収益を創出する資産を保有するリテール銀行および商業銀行の評価が高
くなる。
Qualitative Factors 定性要因(「ベースライン信用リスク評価」、「財務要因」、「スコアカード」参
照)– BCA スコアカードに織り込まれる、金融機関の健全性に貢献する重要な定性要因で、
財務指標以外の要因や一般に用いられる指標では容易に表せない要因が含まれる。具体的
には、銀行の 1) 業務の分散度、2) 不透明性および複雑性、および 3) 行動特性が含まれる。
Scorecard スコアカード– 5 つの主要信用要因(資産の質、自己資本、収益性、資金調達構造、
流動性原資)に着目した分析ツール。これらのシンプルではあるが有効な財務指標を、将来
を見通した判断および定性要因と組み合わせてベースライン信用リスク評価を導く。従来の手
法とは異なり、ムーディーズによる将来を見通した判断に基づく指標の調整は、スコアカード
による推定結果に加えられるのではなく、スコアカードに織り込まれる。
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Solvency 支払い能力(「グロスリスク」、「流動性」参照)– 銀行の信用リスク、市場リスク、オペレ
ーショナルリスクの度合いと、自己資本、引当金、収益創出による損失吸収能力を総合的に
判断したもの。
Support サポート (「関係者からのサポート」、「政府からのサポート」参照)– ベースライン信用
リスク評価(BCA)で測られる銀行の単独の信用力に対する外部リソースで、銀行の債務証券
の一部または全部のデフォルトの可能性を低減する。サポート・構造分析では、銀行の関係
者からのサポートがまず考慮され、調整後 BCA が決定される。次に、破綻時損失分析、政府
サポートの可能性が順に織り込まれて、銀行の最終的な債務・預金格付が導かれる。
Support and Structural Analysis サポート・構造分析(「破綻時損失」および「サポート」参照)–
銀行の破綻が、発行済の様々な証券に与えうる影響の段階的評価。この分析では、発生する
とみられる順に 3 段階で評価を行う。すなわち、1) デフォルト発生の可能性を低減しうる関係
者からのサポート、2) 外部サポート考慮前の、銀行の格付対象債務証券の潜在損失規模に
ついての負債サイドの分析である破綻時損失、3) 銀行の債務証券の一部または全部のリスク
を低減する、地域・地方政府、中央政府、国際機関からの公的サポート、の順で検討する。
Support Provider サポート提供者 – 特別カバードボンド発行体(SCBI)の場合、当該 SCBI に
親会社としてのサポートを提供することが期待される SCBI グループの格付対象メンバーをさ
す。
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意見募集:銀行格付手法案
BANKING
ムーディーズの関連リサーチ
格付手法:
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行、証券会社、ファイナンス会社の財務諸表に対するムーディーズの 標準的調整手法」
2010 年 9 月)
» Financial Statement Adjustments in the Analysis of Financial Institutions, December 2013 (ム
ーディーズ・ジャパン版「金融機関の分析における財務諸表調整方法」2014 年 3 月)
» Revisions to Moody’s Tool Kit, July 2010
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August 2009
» How Sovereign Credit Quality May Affect Other Rating, February 2012 (ムーディーズ・ジャ
パン版「ソブリンの信用力はどのように他の格付に影響しうるか」2012 年 2 月)
» Local Currency Country Risk Ceilings for Bonds and Other Local Currency Obligations,
March 2013) (ムーディーズ・ジャパン版「自国通貨建て債券および他の債務のカントリー・
シーリング」2013 年 10 月)
意見募集:
» Moody's Proposed Approach for Rating Bank 'High Trigger' Contingent Capital Securities and
Revisions to Framework for Rating Non-viability Contingent Capital Securities, May 2014 (ム
ーディーズ・ジャパン版「銀行の「ハイ・トリガー」コンティンジェント・キャピタル証券に対す
る格付アプローチの提案および実質破綻時損失吸収条項付証券の格付の枠組みの見直
し」2014 年 5 月)
» Cross Sector Rating Methodology - Financial Statement Adjustments in the Analysis of
Financial Institutions, October 2013 (ムーディーズ・ジャパン版「金融機関の分析における
財務諸表調整手法」2013 年 10 月)
スペシャル・コメント:
» Bank Systemic Support Global Update: Resolution Regimes Drive Shifts in Support, July 2014
» Reassessing Systemic Support for Swiss Banks, July 2014
» Basel III Implementation in Full Swing: Global Overview and Credit Implications, July 2014
» Compendium of Bank Resolution and Bail-in Regimes in the Asia-Pacific, July 2014
» Reassessing Systemic Support for EU Banks, May 2014
» Moody’s Analytical Treatment of Deferred Tax Assets in Bank Stress Testing and Scenario
Analysis, February 2014
» Expected and unexpected bank losses: revisiting the Basel approach, April 2014
» Modeling System-Wide Trends In Banks’ Asset Quality, February 2014
» Moody's Adjustment to Increase the Risk Weightings of Sovereign Debt Securities in the
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意見募集:銀行格付手法案
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» FAQs: Moody's Finalizes Approach for Rating Certain Bank Contingent Capital Securities and
Changes Baseline Assumptions for Rating Bank Subordinated Debt, May 2013 (日本語版「一
般的な質問(FAQs):ムーディーズは 銀行の一部のコンティンジェント・ キャピタル証券に対
する格付 アプローチおよび銀行劣後債務に 対する格付アプローチを決定」2013 年 6 月)
» Bank Compensation Reform, March 2011
» Moody’s Approach to Estimating Bank Credit Losses and their Impact on Bank Financial
Strength Ratings, May 2009 (日本語版「各銀行の信用損失額の推定に対するムーディー
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» The Implementation of Basel II: Preliminary Results, December 2008
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ムーディーズ・ジャパン株式会社
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著者
Nick Hill
Roland Auquier
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171718(English)
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ディーズはこれらの情報をいかなる種類の保証も付すことなく「現状有姿」で提供しています。ムーディーズは、信用格付を付与する際に用いる情報が十分な品質を有し、またその情報源が
ムーディーズにとって信頼できると考えられるものであること(独立した第三者がこの情報源に該当する場合もあります)を確保するため、すべての必要な措置を講じています。しかし、ムー
ディーズは監査を行う者ではなく、格付の過程で又は MJKK 及び(又は)MSFJ の刊行物の作成に際して受領した情報の正確性及び有効性について常に独自に確認することはできません。
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他の種類の責任を除く)、あるいはそれらの者の支配力の範囲内外における偶発事象によるものである場合を含め、責任を負いません。
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評価しなければなりません。
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示的を問わず)いかなる保証も行っていません。
MJKK は、ムーディーズ・グループ・ジャパン合同会社(Moody's Corporation (以下、「MCO」といいます。)の完全子会社である Moody’s Overseas Holdings Inc.の完全子会社)が全額出資する信用
格付会社です。MSFJ は、MJKK が全額出資する信用格付会社です。MSFJ は、NRSRO(「全米で認知された統計的格付機関」として、米国SEC(米国証券取引監視委員会)の登録を受けた格
付機関)ではありません。したがって、MSFJ の信用格付は、NRSRO ではない者により付与された「NRSRO ではない信用格付」であり、それゆえ、MSFJ の信用格付の対象となる債務は、米国
法の下で一定の取扱を受けるための要件を満たしていません。MJKK 及び MSFJ は日本の金融庁に登録された信用格付業者であり、登録番号はそれぞれ金融庁長官(格付)第 2 号及び第
3 号です。
MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)は、同社が格付を行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形及び CP を含みます)及び優先株式の発行者の大部分が、MJKK 又は MSFJ(のうち該
当する方)が行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、20 万円から約 3 億 5,000 万円の手数料を MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)に支払うことに同意していることを、ここ
に開示します。また、MCO、MJKK 及び MSFJ は、MJKK 及び MSFJ の格付及び格付過程の独立性を確保するための方針と手続を整備しています。MCO の取締役と格付対象会社との間、及
び、 MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)から格付を付与され、かつ MCO の株式の 5%以上を保有していることを SEC に公式に報告している会社間に存在し得る特定の利害関係に関する
情報は、ムーディーズのウェブサイト www.moodys.com 上に"Shareholder Relations-Corporate Governance-Director and Shareholder Affiliation Policy"という表題で毎年、掲載されます。
オーストラリアについてのみ:この文書のオーストラリアでの発行は、ムーディーズの関連会社である Moody's Investors Service Pty Limited ABN 61 003 399 657(オーストラリア金融サービス認可
番号 336969)によって行われます。この文書は 2001 年会社法 761G 条の定める意味における「ホールセール顧客」のみへの提供を意図したものです。オーストラリア国内からこの文書に継
続的にアクセスした場合、貴殿は、ムーディーズに対して、貴殿が「ホールセール顧客」であるか又は「ホールセール顧客」の代表者としてこの文書にアクセスしていること、及び、貴殿又は
貴殿が代表する法人が、直接又は間接に、この文書又はその内容を 2001 年会社法 761G 条の定める意味における「リテール顧客」に配布しないことを表明したことになります。ムーディー
ズの信用格付は、発行者の債務の信用力についての意見であり、発行者のエクイティ証券又はリテール顧客が取得可能なその他の形式の証券について意見を述べるものではありませ
ん。リテール顧客が、ムーディーズの信用格付に基づいて投資判断をするのは危険です。もし、疑問がある場合には、ご自身のフィナンシャル・アドバイザーその他の専門家に相談すること
を推奨します。
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