日本のサブカルチャーにおけるアマチュア創作活動の特質 -初音ミクを例に- 文藻外語學院日本語文系 助理教授 小高裕次 1.はじめに 本稿では、初音ミクをめぐる創作・二次創作活動から、日本のサ ブカルチャーにおけるアマチュア創作活動に見られる特徴を指摘 し、同時に創作活動におけるパラダイム変換の様相を明らかにした い。 2.初音ミクとは 初音ミクとは、クリプトン・フューチャー・メディアという日本 企 業 に よ っ て 制 作 さ れ た DTM(Desk Top Music)ソ フ ト 、お よ び そ の パ ッ ケ ー ジ に 使 用 さ れ て い る 少 女 の キ ャ ラ ク タ ー で あ る *1 。 初 音 ミ ク で は 、 ヤ マ ハ が 開 発 し た 音 声 合 成 シ ス テ ム 『 VOCA LO ID2 』 を 採 用 し 、 女 性 の 歌 声 を 作 成 す る こ と が で き る 。 元データとなる音声には、声優である藤田咲の音声が使用されてい る。 2007 年 の 発 売 以 降 、パ ッ ケ ー ジ に 描 か れ た 少 女 の キ ャ ラ ク タ ー が 人気となり、多くのユーザが同ソフトを使用した既存楽曲のアレン ジ や オ リ ジ ナ ル 楽 曲 を ニ コ ニ コ 動 画 *2 な ど の 動 画 共 有 サ イ ト に 投 稿 し始めた。すると、その楽曲を聴いて刺激を受けた視聴者が楽曲に 合わせた初音ミクのイラストを描き、再投稿するようになった。さ ら に 、 動 画 作 成 ソ フ ト を 自 作 し 、 初 ミ ク の 3D デ ー タ と 共 に 無 料 配 布 す る 者 が 現 れ 、3 D ア ニ メ ー シ ョ ン を と も な っ た プ ロ モ ー シ ョ ン 風 ビデオクリップが投稿サイトに溢れることとなった。 * 1 h ttp :// www. c r yp to n . c o . jp /mp /p a g e s /p ro d / v o c a lo id /in d e x . js p * 2 h ttp :// www. n ic o vid e o . jp /v id e o _ to p -1- 初音ミクのヒットを受けて、クリプトン・フューチャー・メディ アはキャラクター・ボーカル・シリーズとして『鏡音リン・レン』 『 巡 音 ル カ 』 を そ れ ぞ れ 2008 年 ・ 2009 年 に 発 売 し て い る 。 3.初音ミクから見えてくるもの 3.1.アマチュア創作活動の多さ 日本におけるアマチュア創作活動の特徴の一つ目は、日本人が二 次創作を含めた創作活動を非常に好むという点である。濱崎・武田 ・ 西 村 (2010)に よ れ ば 、2008 年 5 月 末 か ら 6 月 の 調 査 時 点 で 、「 初 音 ミ ク 」 と い う タ グ の 付 い た 動 画 は ニ コ ニ コ 動 画 に 26 ,079 本 存 在 し 、 再 生 回 数 が 3,0 00 回 以 上 の 動 画 だ け で も 7,138 本 に の ぼ り 、 そ れ ら は 2,911 人 の ユ ニ ー ク ユ ー ザ に よ っ て 投 稿 さ れ て い た と い う 。 一 本 の DTM ソ フ ト に 関 係 す る 創 作 者 だ け を と っ て も 約 三 千 人 に の ぼるのである。 3.1.1 従来型の創作活動 日本人の創作活動好きには、長い歴史がある。 短歌や俳句・川柳は江戸時代から庶民に親しまれてきた。小説の 同 人 誌 は 、明 治 18( 1885)年 に 尾 崎 紅 葉 ら に よ っ て 創 刊 さ れ た『 我 楽 多 文 庫 』に ま で 遡 る こ と が で き る 。マ ン ガ の 同 人 誌 に つ い て も 、1953 年に創刊された石ノ森章太郎によって創刊された『墨汁一滴』に始 ま り 、 す で に 60 年 近 く の 歴 史 を 持 つ 。 マンガをはじめとするサブカルチャー同人活動の頂点は、コミッ クマーケットであろう。「コミケ」と略称されるコミックマーケッ トは、夏と冬の年二回・各三日間ずつ開催される同人誌即売会であ る。販売される商品の内容は、マンガや小説の同人誌・同人ゲーム およびそれらのキャラクターグッズはもとより、アイドル・プロレ ス・特 撮・鉄 道・航 空・軍 事 な ど さ ま ざ ま な ジ ャ ン ル に 及 ん で い る 。 コ ミ ッ ク マ ー ケ ッ ト の 公 式 サ イ ト に よ れ ば 、2010 年 12 月 29 日 か ら 31 日 ま で 東 京 ビ ッ ク サ イ ト で 行 わ れ た 「 コ ミ ッ ク マ ー ケ ッ ト 7 9 」 -2- は 、三 日 間 の 入 場 者 数 が 延 べ 52 万 人 に の ぼ る 。参 加 サ ー ク ル 数 も 3 万 5,000 で あ り 、 日 本 に お け る ア マ チ ュ ア 創 作 者 の 多 さ を 物 語 っ て いる。 また、音楽活動を行うアマチュア演奏者も多い。 例えば、「アーティストとライブファンのためのライブハウス特 選 ガ イ ド 」 で あ る Liv eWalker と い う WEB サ イ ト が あ る *3 。 こ こ に 紹 介 さ れ て い る ラ イ ブ ハ ウ ス 数 は 全 国 で 2,592 件 で あ る (2011 年 4 月 29 日 現 在 )。 も ち ろ ん プ ロ の 演 奏 者 が ラ イ ブ ハ ウ ス で 演 奏 を 行 う ことも少なくないであろうが、ライブハウスの総数から考えれば、 演奏者の多くはアマチュアであると思われる。 また、大都市や中規模の都市では、駅前や公園・商店街などでス トリートライブを見掛けることも少なくない。 具体的なアマチュア演奏家の数を推測する手がかりになるのが、 日 本 経 済 新 聞 社 が 2007 年 か ら 年 に 一 度 主 催 す る「 日 経 お と な の バ ン ド 大 賞 」で あ る 。応 募 資 格 は「 満 40 歳 以 上 の 方 が 2 名 以 上 含 ま れ た 合 計 2 名 以 上 で 編 成 さ れ た メ ン バ ー 全 員 が 大 人 (満 18 歳 以 上 )の バ ン ド 」 で あ る 。 2010 年 に 開 催 さ れ た 「 日 経 お と な の バ ン ド 大 賞 2010」 で は 、 全 国 か ら 662 の バ ン ド が エ ン ト リ ー し て い る 。 1 つ の バ ン ド が 3~ 5 名 程 度 か ら な る と 考 え る と 、同 コ ン テ ス ト に 参 加 し た ア マ チ ュア演奏家だけで 2 千名にのぼるであろう。一般にアマチュアバン ド は 10 代 か ら 20 代 の 青 少 年 に よ っ て 結 成 さ れ 、 年 を 経 る に 連 れ て 仕 事 や 家 庭 の 事 情 な ど で バ ン ド 活 動 を「 卒 業 」す る こ と を 考 え る と 、 日本におけるアマチュア演奏者は万単位で存在すると推測される。 ライブハウスで演奏を行ったりストリートライブを行うアマチュ ア演奏家のほとんどは、既存のプロによって制作された楽曲を演奏 しているであろう、ということは容易に予想がつく。しかし、演奏 者の母集団の大きさから見れば、自ら作詞作曲を行うアマチュア演 奏家の数も決して少なくないであろうと推測できる。 *3 h ttp ://w ww. l ive wa l k e r. c o m/ -3- 3.1.2 コンテンツ投稿・共有サイトにおける創作活動 これまで述べてきたような従来型のアマチュア創作活動は、現在 で も 根 強 い 人 気 を 持 っ て い る が 、イ ン タ ー ネ ッ ト の 普 及 に と も な い 、 新しい形のアマチュア創作活動が広まっている。インターネットに おけるアマチュア創作活動の中で重要な位置を占めているのが、各 種のコンテンツ投稿・共有サイトである。 コンテンツ投稿・共有サイトの中でも、最も広く知られているの が動画共有サイトである。 YouTube *4 は 、 世 界 規 模 で 利 用 さ れ て い る 動 画 共 有 サ イ ト で あ る 。 YouTube は 2005 年 に ア メ リ カ の ベ ン チ ャ ー 企 業 と し て ス タ ー ト し 、 翌 2006 年 に 検 索 サ イ ト 大 手 の Goo gle に 買 収 さ れ 、 現 在 に 至 っ て い る 。日 本 語 へ の 対 応 が 行 わ れ た の は 2007 年 で あ る 。月 間 の ユ ニ ー ク ビ ジ タ ー は ア メ リ カ 国 内 だ け で 1 億 1100 万 人 に 達 す る 。ま た 、株 式 会 社 Nielsen が 行 っ た 調 査 で は 、2007 年 10 月 の 一 ヶ 月 間 に お け る 日 本 の 利 用 者 数 は 1, 455.1 万 人 で あ り 、 日 本 で 最 も 利 用 さ れ て い る 動 画 共 有 サ イ ト で あ っ た (岡 本 2007)。 日本国内最大手の動画共有サイトはニワンゴが運営するニコニコ 動 画 で あ る 。前 述 の Nielsen に よ る 調 査 で は 、2007 年 10 月 の 一 ヶ 月 間 に お け る 日 本 国 内 の 利 用 者 数 は 38 6 万 人 と YouTube の 四 分 の 一 以 下 で あ っ た が 、 一 人 あ た り の 利 用 時 間 は 2 時 間 50 分 10 秒 、 利 用 頻 度 は 8.09 回 で 、 YouTube の 一 人 あ た り 利 用 時 間 1 時 間 6 分 53 秒 ・ 利 用 頻 度 5.43 回 を 上 回 っ て い る 。 動 画 共 有 サ イ ト に 投 稿 さ れ る コ ン テ ン ツ は 、 YouTub e で は ビ デ オ 撮影による映像が多数を占める。これには、アマチュア演奏家の演 奏 も 含 む 。一 方 、ニ コ ニ コ 動 画 で は 、MAD と 呼 ば れ る 二 次 創 作 ア ニ メ ー シ ョ ン や 、 MikuMikuDance( 後 述 ) に よ る 3DCG ・ 手 書 き ア ニ メ ー シ ョ ン の 比 率 が YouTube よ り も 高 い 。ま た 、ニ コ ニ コ 動 画 に 投 稿 さ れ た ア ニ メ ー シ ョ ン が YouTube へ 転 載 さ れ る こ と も 多 い 。 * 4 h ttp :// www. yo u tu b e . c o m/ -4- 小説に関しては、各種の小説投稿サイトがある。また、携帯電話 からの投稿・閲覧を前提とした小説は「ケータイ小説」と呼ばれ、 一 つ の ジ ャ ン ル を な し て お り 、2006 年 に は ケ ー タ イ 小 説 を 書 籍 化 し た 『 恋 空 』 の 発 行 部 数 が 120 万 部 を 越 え る な ど 、 一 世 を 風 靡 し た 。 SS と 呼 ば れ る 、主 に 二 次 創 作 を 中 心 と す る 短 編 小 説 の 場 合 は 、2 ち ゃ ん ね る *5 の ス レ ッ ド に 投 稿 さ れ る こ と も あ る 。 2 ち ゃ ん ね る で は 、書 き 込 み 数 が 1 ,000 件 に な る・ス レ ッ ド の フ ァ イ ル サ イ ズ が 500 キロバイトを越える・最終投稿から一定の時間が経過するなどする と、当該スレッドは過去ログに保管され、一般のユーザーが読めな くなってしまう。そのため、一般ユーザーがあとから読めるように スレッドの内容をコピーしたまとめサイトやまとめブログが数多く 作られている。 画像投稿サイトで最もユーザ数が多いのは、ピクシブ株式会社が 運 営 す る Pix iv *6 で あ る 。pix iv は 無 料 で ア カ ウ ン ト を 取 得 し 、イ ラ ス ト や 漫 画 を 投 稿 す る こ と が で き る 。2 007 年 の サ イ ト 開 設 以 降 順 調 に ア ク セ ス 数 を 伸 ば し 、2009 年 12 月 に は 、月 間 ペ ー ジ ビ ュ ー が 10 億 に 達 し て い る 。ま た 、台 湾 を 筆 頭 に 185 カ 国 か ら の ア ク セ ス が あ り 、 現在では中国語(繁体字)環境と英語環境に対応している。 その他、外国にあまり類が見られないと思われるものに、音声投 稿 サ イ ト の こ え 部 *7 が あ る 。 こ え 部 の 説 明 に よ る と 、 同 サ イ ト の 基 本的な楽しみ方は「どんな『こえ』を聞いてみたいかを『お題』と してリクエストする」「『お題』にこたえて『こえ』を録音する」 「『こえ』を聞く」の三つである。投稿者が声優になった気分を味 わ え る と い う の が 基 本 的 な コ ン セ プ ト で あ る 。2011 年 5 月 2 日 現 在 の 「 部 員 」 ID 数 は 約 30 万 6,000 人 、 投 稿 さ れ た 「 こ え 」 の 数 は 約 200 万 件 で あ る 。 * 5 h ttp :// www. 2 c h . n e t/ * 6 h ttp :// www. p ix i v. n e t / * 7 h ttp ://k o e b u . c o m/ -5- 3.2.インターネット上の協同によるコンテンツの進化 初音ミクのヒットの原因は、アマチュア創作者同士の連係にあっ た。その過程については第 2 章でも簡単に触れたが、本節では第 2 章の内容を補足するとともに、アマチュア創作活動の転換期におけ る初音ミクの位置づけを試みたい。 初音ミク作品初期の投稿は、初音ミクのパッケージイラストの静 止画像に楽曲を合わせたものであった。その後、投稿された楽曲を 気に入った利用者が新たなイラストを描き、楽曲と合わせて再投稿 するようになった。さらに、あにまさ(ハンドルネーム)がフリー ウ ェ ア 3D ソ フ ト Blender で 使 用 で き る 3D モ デ ル を 公 開 す る と 、楽 曲 に 合 わ せ た 3DC G ア ニ メ ー シ ョ ン を 作 成 す る ユ ー ザ が 出 始 め た 。 こ の 動 き は 、 2008 年 に 入 っ て 、 樋 口 優 ( ハ ン ド ル ネ ー ム ) が 初 音 ミ ク の 3DCG ア ニ メ ー シ ョ ン 作 成 に 特 化 し た MikuMikuDance *8 を 無 償 公 開 し た こ と に よ っ て 、 さ ら に 加 速 し た *9 。 イ ラ ス ト の バ リ エ ー シ ョ ン や 派 生 キ ャ ラ ク タ ー・定 番 ア イ テ ム も 、 インターネットユーザによって追加されてきた。例えば、三等身の デフォルメキャラクターである「はちゅねミク」と定番アイテムで あ る 長 ネ ギ は 、 Oto mania( ハ ン ド ル ネ ー ム ) が 楽 曲 部 分 を 作 成 し 、 た ま ご( ハ ン ド ル ネ ー ム )が 動 画 を 作 成 し た 、「 ロ イ ツ マ ・ ガ ー ル 」 の パ ロ デ ィ 動 画 「 V OCA LO ID2 初 音 ミ ク に 「 levan Polkka」 を 歌 わ せ てみた」から広まり、定着したものである。その他、「亞北ネル」 「弱音ハク」など初音ミクに性格設定を付加した派生キャラクター も 生 ま れ て い る *1 0 。 インターネットにおける協同作業には、互いに顔も本名も知らな *8 V oc a lo id P ro mo tio n V id e oP ro je c t h ttp :/ /www. g e o c i tie s . j p /h ig u c h u u 4 /in d e x . h tm * 9 M ik u M ik u D an c e 制 作 ま で の 経 緯 に つ い て は 岡 田 ( 2 0 0 8 )を 参 照 。 * 1 0 高 橋 ( 2 00 8 ) を 参 照 。 -6- い者同士が、作品のみを通じて知り合い、オリジナル作品に付加価 値を付け加え続けていくという大きな特徴がある。インターネット 上の協同作業そのものは、初音ミク以前にも存在した。しかし、協 同作業が、創作者同士だけでなく、付加価値の追加の過程をインタ ーネット上で見守ってきたコンテンツ利用者をも巻き込んだ一大ム ーブメントとなったという点において、初音ミクは象徴的な存在で あると言える。 3.3.メジャーデビューへの過程の変化とインターネット特有の問題 インターネットの普及により、アマチュアからプロとしてデビュ ーするに至る過程にも、新しい道ができつつある。それと同時に、 アマチュア創作者が金銭を受け取るようになることに対するバッシ ングの問題が発生している。 3.3.1 メジャーデビューへの過程の変化 従来、創作物の商業化に関する決定権は、頒布媒体を大量生産す る能力を有するコンテンツ産業が握っていた。 例えば、マンガ家や小説家の希望者は、出版社へ作品を持ち込む か、出版社の主催する新人賞に応募し、出版社にその価値を認めら れることがデビューの条件であった。 同様に、音楽の世界では、レコード会社などによるオーディショ ンや、レコード会社社員によるスカウトによって、「発掘」される 必要があった。 一方、アニメーションについては、アニメーション制作会社とテ レビ局または映画会社・スポンサーなどからなるプロ集団によって 企画される。アニメ監督になるためにはアニメーション制作会社に 入社し、下積みを経たのち監督を任されるようになる以外方法はな かった。 このような状況は、インターネットにおける評価システムの充実 により、変化しつつある。 -7- インターネット上の評価システムのうち、最も古くから存在する も の が 、サ イ ト へ の ア ク セ ス 数 の 表 示 で あ る 。WEB サ イ ト に 設 置 さ れたカウンターの数字がすなわちそのサイトの評価となる。 YouTube や ニ コ ニ コ 動 画 の 再 生 回 数 も 同 様 で あ る 。 次に、サイトの被リンク数が評価の対象となった。あるサイトか ら別のサイトにリンクを貼るのは、単なる閲覧よりも能動的な行為 であるため、閲覧者に「リンクを貼ろう」と思わせるサイトは良い サイトである、という考え方である。被リンク数によるサイトの評 価は検索サイトの検索結果表示の順序に影響を与えている。また、 は て な ブ ッ ク マ ー ク *1 1 な ど の ソ ー シ ャ ル ブ ッ ク マ ー ク や 、 ブ ロ グ の トラックバックなどによる評価も同様の考え方である。 閲 覧 者 に よ る よ り 直 接 的 な 評 価 も あ る 。WEB サ イ ト に 作 成 者 の メ ー ル ア ド レ ス が あ る 場 合 、 閲 覧 者 が 直 接 WEB 作 成 者 に 意 見 や 感 想 を 述 べ る こ と が で き る 。WEB サ イ ト に コ メ ン ト 欄 が 設 置 さ れ て い る 場合には、閲覧者の意見や感想を第三者が見ることも可能である。 ま た 、 ア マ ゾ ン ・ ド ッ ト コ ム *1 2 で は 、 購 入 者 の コ メ ン ト と 五 段 階 の 評価という二通りの方法で商品の評価が行われている。また、閲覧 者 の 評 価 を よ り 簡 単 に し た ワ ン ク リ ッ ク 評 価 も あ る 。 web 拍 手 *1 3 や Facebook *1 4 の 「 い い ね ! 」 ボ タ ン が そ う で あ る 。 プ ラ ス 評 価 だ け で な く 、 マ イ ナ ス 評 価 も ク リ ッ ク 一 つ で 行 え る WEB サ イ ト も あ る 。 インターネット上による新しい評価システムは、コンテンツの流 通過程にも変化をもたらしつつある。 コンテンツの流布に関する決定権のすべてをコンテンツ産業が握 っている状況では、コンテンツの存在を広く知らしめるため、宣伝 活動が必要でり、そのためには多額の宣伝費用を必要とした。 * 1 1 h ttp ://b . h a te n a . n e . jp / * 1 2 h ttp :// www. a ma z o n . c o . jp / * 1 3 we b 拍 手 公 式 サ イ ト h ttp :/ /www. we b c la p . c o m/ * 1 4 h ttp :// www. fa c e b o o k . c o m/ -8- 現在のコンテンツ産業は、インターネット上で一定の評価を得た コンテンツをすくい上げることが可能にになっている。初音ミクの 場 合 、2008 年 1 月 に ニ コ ニ コ 動 画 に 投 稿 さ れ 、一 ヶ 月 強 で 再 生 回 数 が 25 万 回 に の ぼ っ た doriko の「 歌 に 形 は な い け れ ど 」が 、同 人 CD の発売を経て同年 3 月からカラオケ配信されるようになり、6 月に は グ ル ー ヴ ・ ノ ー ト か ら 一 般 流 通 の 形 で CD 化 さ れ 、 発 売 直 後 の オ リ コ ン ・ デ イ リ ー ラ ン キ ン グ で 25 位 に 入 っ て い る *1 5 。 こ の よ う に 、 ニ コ ニ コ 動 画 で 再 生 回 数 が 多 か っ た 楽 曲 が 、カ ラ オ ケ 化 さ れ た り CD 化されるという流れが出来上がっている。 イ ン タ ー ネ ッ ト 上 で 発 信 さ れ た コ ン テ ン ツ を 、 CD 化 や 書 籍 化 な ど「物質化」する形で消費者に届けるこのやり方は、元となるコン テンツがすでに一定の評価を得ているため、多額の宣伝費用が不要 になるというメリットをコンテンツ産業にもたらす。 3.3.2 金銭授受の発生に関する論争 初音ミクユーザの中からプロデビューを果たす創作者が出現する 一方で、トラブルも発生している。 初音ミクをめぐるトラブルの一つは、いわゆる「みくみく騒動」 *1 6 で 明 ら か に な っ た 著 作 権 の あ り か の 問 題 で あ る 。 ク リ プ ト ン ・ フ ュ ー チ ャ ー ・ メ デ ィ ア は 投 稿 サ イ ト 「 ピ ア プ ロ 」 *1 7 を 立 ち 上 げ 、 初 音ミクなどの自社キャラクターの著作権は同社の所有であること、 二次創作及びその配布は自由であること、宣伝や広告のためのキャ ラクター使用を禁止すること、公序良俗に反する作品へのキャラク ター使用を禁止すること、等のガイドラインを設けた。楽曲・イラ スト・動画の制作者が異なる場合、出来上がったビデオクリップは * 1 5 J -C A ST モ ノ ウ ォ ッ チ 「 「 ニ コ ニ コ 」 の 名 曲 CD 化 埋もれた「才能」 を音楽業界へ」を参照。 * 1 6 A SC II. jp 「 み く み く に し て あ げ る ♪ 「 着 う た 」 配 信 で ひ と 悶 着 、 ド ワ ン ゴ子会社が謝罪」を参照。 * 1 7 h ttp ://p ia p ro . jp / -9- 誰のものになるのか。金銭の絡まないアマチュア創作活動では問題 に な ら な い こ と が 、金 銭 の 授 受 が 発 生 す る と 重 要 な 問 題 に な り う る 。 また、アマチュア創作者がプロフェッショナルとなり金銭を受け 取 る こ と 自 体 に 忌 避 感 を 覚 え 、バ ッ シ ン グ を 行 う 勢 力 も 現 れ て い る 。 「 嫌 儲 」 と 呼 ば れ る こ う し た 勢 力 に つ い て 、 IT・ 音 楽 ジ ャ ー ナ リ ス ト の 津 田 大 介 は 次 の よ う に 分 析 し て い る *1 8 。 ネットで、コミュニティーが育てた著作物は、そのコミュニテ ィーの共有物だという考え方は、たぶん昔からあったと思うんで すよ。ただ、いわゆる嫌儲みたいな考え方というのは、一体誰が 主張しているのかという疑問はある。 コミュニティーが育てたと言っても、その中でもコアの部分に 直接クリエイティブに貢献しているクリエイターがいるわけじ ゃないですか。例えば、初音ミクで曲を作りましたと、でもそれ に 対 し て 絵 を 付 け な い と ニ コ ニ コ 動 画 は 成 立 し な い か ら 、誰 か CG を 書 く 人 が 必 要 だ し 、Flash で 動 画 編 集 を し て ― ― み た い な 話 で ど んどん盛り上がっていく。でも、「実作業」をするクリエイター の数って実はそんなに多くない。 再生数を確認できたりとか、コメントやブログで宣伝したり、 共有物のクリエイティブ作業のサイクルの中に見る側も参加で きるけれど、やっぱり作る側と見る側では貢献の方法とか貢献度 は明らかに違うわけですよね。ニコニコ動画はそのあたりがあい まいになっているとは思うんですけれど、外野から引いて見る と、消費する側、クリエイティブに直接関わっていない側に「オ レらがこれを育てたんだ」という意識はすごく強くあるように思 えるんですよね。 で、おそらく、そういう消費する側、見る側が、嫌儲的な考え 方をものすごく主張しているような気がするんですよ。そういう 人たちが嫌儲的な「空気」を作っていく。 * 1 8 大 塚 ( 2 00 8 ) よ り 引 用 。 - 10 - つまり、コンテンツの応援というかたちでムーブメントを「支え ている」という意識を持つ消費者が、創作者が利益を得ることに対 して否定的な態度を取るというのである。津田の分析は、違法ダウ ンロード肯定論者の主張と繋がる部分もあり、興味深い。 4.結論 本稿では、初音ミクをめぐる創作・二次創作活動から、日本のサ ブカルチャーにおけるアマチュア創作活動に見られる特徴を三点指 摘した。 一つ目は、日本におけるアマチュア創作者の多さである。日本で は古くからアマチュア創作活動が盛んであった。さらに、インター ネットの普及にともない、これまでになかった形のアマチュア創作 活動の場が次々と作られている。 二つ目は、インターネット上におけるアマチュア創作者同士の協 同作業である。名前も顔も知らない者同士が互いの作品に手を加え るという状況が出来上がっている。 三つ目は、インターネットの普及によるアマチュア創作者のメジ ャーデビューに至る過程の変化である。これまでは、コンテンツ産 業の手を経ることによってしか作品を流通させることができなかっ た。しかし、現在ではインターネットを利用して、アマチュア創作 者が直接全世界に自分の作品を発表できる環境が整えられている。 一方で、インターネット上でアマチュア創作者のコンテンツを無償 で楽しんできた消費者が、創作者の金銭授受に対してバッシングを 行う、という問題も発生している。 本稿で取り上げた現象や問題は、もちろん初音ミクをめぐる創作 ・二次創作活動に限ってみられるものではない。しかし、一大ムー ブメントを起こした初音ミクは、インターネット時代のアマチュア 創作活動の可能性や問題点の縮図として、興味深い存在であるのは 確かである。 - 11 - 参考文献 asahi.com(2 007)「 普 通 の 若 者 が 携 帯 小 説 ベストセラーも続々」 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