14 タンパク質濃度の測定 教養学科 自然研究講座 鵜澤 武俊 はじめに 生体物質には多くのものがありますが、遺伝子の本体である核酸と共に、生体内の化学反 応を進める触媒として、タンパク質は重要な役割を担っています。 高等学校学習指導要領理科第 9 生物 II の(1)生物現象と物質では、 「生物体内の化学変化や エネルギー変換、様々な生物現象を支えるタンパク質や核酸などの働きを観察、実験などを 通して探究し、生命を維持する共通の原理を理解させ、生物現象を分子レベルでとらえるこ とができるようにする。 」ということが目標に掲げられています。生物に含まれるタンパク質 の濃度の測定は、このような観察、実験の基礎となるものです。 今回は、そのタンパク質の濃度の測定方法の 1 つを実際に体験してみます。 A. 原理 今回は、色素結合法の一種であるブラッドフォード法を用いてタンパク質の濃度を測定し ます。 ある種の色素はタンパク質と結合すると色調が変化することが知られており、色素結合法 は、この現象を利用したものです。今回は、CBB (クマシーブリリアントブルー) G-250 とい う色素がタンパク質と結合すると、赤紫色から青に変色することを利用してタンパク質の濃 度の測定を行います。この際、溶液中に含まれるタンパク質の濃度が高いほど濃い青になる ため、その色の濃さを分光光度計で測定することにより、タンパク質の定量を行います。 またタンパク質の濃度の定量を行う時には、濃度が既知のタンパク質溶液の吸光度を測定 し、その吸光度の値から検量線を作り、その検量線を用いて未知試料の吸光度の値から、試 料中のタンパク質濃度を求めます。標準タンパク質としては、BSA (Bovine serum albumin、 牛血清アルブミン)などが良く用いられます。 B. 実験手順 ブラッドフォード試薬は作製に時間がかかるため、事前に作製したブラッドフォード試薬 の溶液を用いて実験を行います。 (1)BSA 標準タンパク質溶液の作製 (1-1)あらかじめ 2 mg の牛血清アルブミン(BSA)粉末が封入されている市販のガラス容器を開 封し、蒸留水を 1 ml 加え、粉末を溶かします。 (1-2)この溶液を 10 ml のメスフラスコに移します。最初の容器を、約 3 ml の蒸留水を用い てゆすぎ、ゆすいだ液をメスフラスコに移し、最初の容器の中に残留したタンパク質を、メ スフラスコに移します。 (1-3)メスフラスコの秤線まで蒸留水を加え、BSA 濃度が 0.2 mg/ml の標準溶液とします。 (2)検量線の作成 (2-1) BSA の 0.2 mg/ml 溶液を用意します。分光光度計を使用する 30 分以上前に、装置のス イッチを入れ、波長を 595 nm に合わせておきます。 (2-2)下の表に従い、濃度既知試料を作ります。溶液の分注はピペットマンという微量溶液を 扱える器具を用いて実施します。以下の溶液を小型試験管に加えます。 No. 1 2 3 4 5 6 _____________________________________ BSA 濃度(mg/ml) 0 0.04 0.08 0.12 0.16 0.20 _____________________________________ BSA 溶液 (μl) H2O (μl) 0 120 12 24 36 48 60 108 96 84 72 60 _____________________________________ (2-3)次に上の試験管の各々に、ブラッドフォード試薬を 3 ml ずつ加え、vortex という撹拌 器で撹拌します。 (2-4)直ちに変色するので、数分後にセルに溶液を入れ、1 時間以内に吸光度を測定します。 (2-5)吸光度の測定が終了したら、各試験管の中のタンパク質量を横軸、吸光度を縦軸にして グラフを書き、検量線を描きます。 (3)未知試料中のタンパク質濃度の測定 (3-1) 分光光度計のスイッチを入れ、波長を 595 nm に合わせておきます。卵白を 1ml 取り出 し、1%食塩水で 100 倍希釈し、未知試料の水溶液を用意します。 (3-2)下の表に従い、溶液を試験管に分注します。分注はピペットマンを用いて行います。 No. 1 2 3 4 5 __________________________________ 未知試料水溶液 (μl) H2O (μl) 0 120 10 110 20 100 40 120 80 0 __________________________________ (3-3)次に上の試験管の各々に、ブラッドフォード試薬を 3 ml ずつ加え、vortex で撹拌しま す。 (3-4)BSA の時と同様に色が変わるので、セルに溶液を入れ、1 時間以内に吸光度を測定しま す。 (3-5)吸光度を測定が終了したら、各試験管の吸光度を、先に作成した検量線と照らし合わせ、 タンパク質濃度を推定します。 (3-6)未知試料中のタンパク質濃度が、濃すぎたり薄すぎたりした場合は、未知試料の吸光度 が検量線の範囲を超えてしまいます。その場合は、最初の溶液の希釈率を変えて、再び測定 を行います。 参考 ○ブラッドフォード試薬作製方法 (1)クマシーブリリアントブルー G-250: 100 mg を 95 % エタノール: 50 ml に溶解します。 溶けにくいので、マグネチックスターラーで撹拌します。その際、蒸発としぶきが飛び散る のを防止する為、容器にラップを被せておきます。 (2)色素が溶けたら、85 % (w/v)のリン酸を 100 ml を加え、撹拌します。 (3)更に水を加え 1 l にして、1 時間位撹拌します。 (4)No.2 のろ紙(普通のもの)で、試薬をろ過します。 (5)1 日静置してから使用します。もし、試薬の色が赤茶色ではなく青の場合は、試薬の作製 に失敗しているので、作り直します。 ◯ブラッドフォード法の特徴 ブラッドフォード法に使われる色素のクマシーブリリアントブルーは、酸性条件でアルブ ミン等のタンパク質と結合し、色調が赤紫から青に変化します。この変色は、タンパク質の アルギニンやリジン残基と色素のスルホン酸基の結合、及び非極性アミノ酸とトリフェニル メチル基の結合に基づいています。この為、タンパク質のアミノ酸組成により呈色強度が大 きく変わります。 (1)ブラッドフォード法には以下の長所があります。 1)発色法の中で、最も高感度な方法です。 2)還元物質の存在下で使用できます。 3)操作は、タンパク質溶液を色素溶液と混合し、5 分室温で放置するだけで測定可能になる 為、非常に簡便です。 4)発色が安定で、時間経過による吸光度変化が少なく、試料数が多い場合でも測定までの反 応時間を厳密にそろえる必要はありません。 (2)一方、以下の短所もあります。 1)界面活性剤がブラッドフォード試薬と結合して強く発色する為、タンパク質と界面活性剤 が共存しているとタンパク質濃度の測定が事実上不可能になります。 2)DNA や RNA などの核酸も発色するので、あらかじめ除いておく必要があります。 3)タンパク質の種類による発色強度のばらつきが大きい性質があります。よく使われる標準 物質である BSA の発色強度を 1 とすると、 ウマミオグロビンは 1.19、 ウマシトクロム c は 1.07、 ウシγグロブリンは 0.56、ウシキモトリプシノーゲンは 0.48、ウサギ IgG は 0.37、卵白ア ルブミンは 0.32 となります。 4)酸性条件で反応させる為、脂質などの不純物が沈澱することがあります。 5)あまり長時間おくと、色素・タンパク質複合体が沈澱してしまいます。 (3)この測定法の妨害物質としては、ほとんどの界面活性剤、DNA (0.1%以上)があります。 ◯未知試料のタンパク質濃度の求め方 (1)検量線の作成 1)最初に検量線を作成します。その為に、何通りかの濃度が既知のタンパク質溶液を用いて、 ブラッドフォード試薬による発色を分光光度計で測定します。 2)その結果が得られたら、下のようにグラフを作成します。 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0.04 0.08 0.12 0.16 0.20 BSA濃度 (mg/ml) 3)次にこれらの測定点を通る直線を下の図のように引き、検量線とします。 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0.04 0.08 0.12 0.16 0.20 BSA濃度 (mg/ml) (2)未知試料中のタンパク質濃度の推定 4)この直線を引いたグラフが出来たら、次に未知試料を用いて得られた吸光度をグラフの縦 軸に重ね合わせ、そこから検量線に向けて水平線を引きます。そして水平線が検量線に交差 した点から、横軸に向けて垂線を降ろします。そして、垂線が横軸に交差した点のタンパク 質濃度を読み取ります。この濃度が未知試料のタンパク質濃度となります。 1.0 未知試料 0.8 の吸光度 → 0.6 0.4 0.2 未知試料 の濃度 0 0.04 0.08 0.12 BSA濃度 (mg/ml) 0.16 0.20
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