未知座小劇場第39回上演台本 pdfファイル

大日本演劇大系 連続上演
大阪物語
独戯
明月記
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闇 黒光作品集
Ⅰ
第五章
Ⅱ
番外
Ⅲ
序の章
1
39
未知座小劇場第 回テント興業上演台本
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総合目次
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大阪物語
独戯
明月記
後記
資料・演技について
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Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
Ⅰ 大日本演 劇大系・第五章
3
大阪物語
2
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章
章
章
章
章
章
章
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打上花火
曼珠沙華
もりぐち泉
たかはしみちこ
京ララ
そらどれみ
きく夏海
語呂巻力
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女1
女2
鍋島
釜田
刈田
熊野
五色
山ちゃん
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[
目
次
]
4
[
登場人物
]
[
1
章
]
人 が 乗 って も 大 丈 夫 な 円 卓 が ある 。
この音楽に和太鼓のリズムが重なる。
廃 屋 の 中 は シト シ ト し て い る 。 薄 暗 い 。 湿 気 が
多 い。雨 上が り の 木 立 のよ うに 、 水滴が いたる
とこ ろから ポトリポトリと垂れて いる 。 さび た
金 属を つ た って 落ち て き た の だ ろ う 、や け に 茶
褐色だ。ときおり、鉄の軋む音がする。また、
ガラガラ と も 鳴る。ここ はや け に 大時代 的だ。
大き な 土管が 地上から 突き 出て いる 。 その 上を
見 る と 、 土 管が 天 に 向 か って 伸 び て いる 。こ れ
は ど う や ら 、 煙 突 が こ の 地 上で 折 れ 、 上 部 が 天
に ぶ ら 下 が って いる と い っ た と こ ろ だ 。
女 1 、 女 2 襤 褸で 登 場 。や が て 人 々 も 各 所 か ら
麻袋を持ち 、背負って登場。他 にも何か 背負っ
て いる 。
も う 少 し 世 界 定め に こ だ わ ろ う 。
こ こ は 、 三 次 元 的 な 処 理 が で き な いが 、古 び た
バス 停 が あ る 。 気 を 持 た せ た 言 い 方を す る と 、
きっと行き 先は⋮⋮ 人生と同じ ように不 明なの
女1は 、後ろ向き の歩行。ゆっくり動き始める 。
円 卓 に 上 る 。 そこ は 自 分 の 場 で あ り 、 日 本で あ
り、地球で あり、宇 宙。身体が その境界と渡り
合う。円卓 からゆっ くり落ち る 。
こ の﹁ ゆ っくり落 ち る ﹂ 全 体は、独特 で あり 記
憶の底に残る。
再び テ ー ブルに 上 る。再び 境 界を 飛 翔しようと
す る 。一 瞬 限 界が 敗 れ る 。⋮ ⋮ よ うで あ る 。 破
裂。自身の 内部。縮 小 。濃度が 増すこと により
引 力 が 発 生 す る 。 つ いに 自 身が 自 身 の 重 さ に 耐
えられない。破裂。カオス。
女 2 は 歩行 。 お か も ち を 持 って い る 。 。
こ の間 、救急 車行 き過 ぎる 。電 車が 通 り過 ぎる 。
ヘリコ プタ ーが 舞って行き過 ぎ る 。街の 喧騒 。
登 場 し た人 々 はこ の 世 界 定 め の 場 に 住 み 着こ う
として いる 。そのよ うな一連の 動き。
こ の人 々 は 純 白 の ウ エ ディ ン グド レ ス で ある 。
鍋 島 、 釜 田 、 刈 田 、 熊 野 、 五 色 、 山ち ゃ ん 達 で
ある 。なお 、こ の鍋 島 、釜田 、 刈田 、熊 野、五
色は 自 分が オ カ マ と 思 って いる 、 ある い は それ
を 自認する ご婦人達で ある。山ちゃ んは バック
パッカ ーよ ろし くリ ュックサッ クを 背負 って い
る 。 バッ ク パッ カ ー か ら 容 易 に 連想 さ れ るが 山
5
だ。
強 烈 な 残 響 音 。 地 上 の 煙 突 か ら 土煙が 上が る 。
ま た、幾多 の民に 習 い共に、わ が運命 の 喜び と 悲し み
を 、誇 り 高 き 言 葉で 言 上たて ま つら ん 。 願 い叶 う な ら
ば、天におわす我らが大神様よ 、その天 上に光り輝 く
夜 空 の 星 の ご と くこ のひ と 時 を 、 安 ら か に 見 守 り た ま
え 。 厄 災 あ ら ばこ の 世 のす べて と とも に 遍 く ご 加 護
の あら んこ とを 。
と 、 一 升瓶 のラ ッ パ飲 み 。 残 り の 一 口 で 酒 し ぶ
き。
女2
東西 、口上あ い勤めます 。
女2
いざ 物語ら ん 。
女1
⋮⋮
女2
天に おわす我らが 大神様よ、種々 の木の実を 盛った神 空襲警 報鳴る。
饌を 高くか ざして 供え ん。今、こ の祭壇 の前にかし づ
き申し上げるは、名も無き流転流浪の河 原者の口上な
釜田
︵ 対 空灯 火よ ろし く 懐中 電 灯を 照 ら す 。 ハン グル︶ 退
れば、一夜のいくば くかの慰み として 、 聞きとどめ お
避 、 退避 、 退避 !
か れ んこ と を 。 た だ 、 物 語 の 神 あら ば 、 直ち に 出 雲 の
国 よ り 立 ち 返り 、 い で 現 れよ 。 今 、 平 成 の 世 の 神 無 月、 人 々 の うち 何 人 か は 対 空 灯 火 よ ろ し く 懐中 電 灯
豊穣の世の開襟を失笑されるは、それも またよし。こ
を 照ら す 。 蝋 燭も 灯 す 。
れより物語るは、罪深き我らが 願い、大地の願い、ふ
とこ ろ深 き 海原に浮 かぶ 藻屑 な れば、一 夜の宴 の酒 の
鍋島
︵ ハ ン グル︶ 息をこ ろし ましょ う 。何 ー んに も考え ず 。
肴に供され るこ とも あろうが 、 ゆめゆめ その真に 受 け
つ いで に 思 いを 殺 し て み せ ま し ょ うか 。 それで も 余 る
て の 世 迷 い ご と に あ た う は 、こ れ 世 の 習 いに あら ず 。
思 いが あ っ たら ば 、 なら ぬ 私も 殺 し ま し ょ う 。会え ぬ
古来、古よ り物語ら んとする幾多の民は 、われらが 運
あなたに会えまする 。だから何 ーんにも考え ず、まず
命の喜びと 悲しみを 仰せのとうり黙々と語り続けて き
は息をころしましょ う。
たごとく、こ のよう にこ の祭壇 の前にか しづ く下 僕も
6
ちゃ んは女 形で ある 。こ う なる とここ は タイの
カオサン通 りかもし れない。
な お 、 多 分 あ ま り 関係 な い が 、 宮 城 県 蔵 王 山 の
刈田岳・熊 野岳・五色岳の三峰に抱かれた円型
の火口湖を ﹁お釜﹂という。
女2 は 舞台 上、下 手のだ い じ ん柱 近く の框 の 上
に盛り塩。こ れから 行われる戦 場で の武運 長久
を 祈り 、 厄 災 退散 と 大地 の 豊 穣 を 祈り 五 穀を ま
く。儀式は 終わる。
六人 の ﹁ シッ ー、 シー、 シ ー シッ ー ﹂で 一 くさ
り その場を 包 む 。
五色
︵ ハ ン グル︶ 静かに な っ たとこ ろ で 、 フーや 。
刈田
︵ ハ ン グル︶ 一 息か ?休 憩や な 。
釜田
︵ ハ ン グ ル ︶ はよ う蝋 燭 消 し いや 。どこ から 光漏 れ る
か わ か ら ん や ん 。 攻 撃 の 的 に な っ たら ど な いす んや 。
鍋島
︵ ハ ン グ ル ︶ 鎌ち ゃ ん ⋮ ⋮
釜田
︵ ハ ン グル︶ なんや 鍋や ん。
鍋島
︵ ハ ン グル ︶ 聞え るや ん 。たぶ ん 焼 夷弾で 丸 焼 けや 。
こ ん なゴ ー ゴ ー ゆ う の聞 いたこ と あら へ ん 。風が 、 炎
を 巻 き 込 ん で 、 ま た 巻 き 込 んで る 劫 火 の 轟 音や 。 外 は
昼間のようかも知れ んな。
山
ゴー 、ゴー⋮ ⋮
釜田
︵ハングル︶聞きたない。
刈田
︵ ハ ン グル︶ どこ 見て ゆ うて んや 。何で あた し の顔が
汚 いや 。え え 加 減に し いや 。つ くりが い い さか い、 化
粧して ない だけや 。
釜田
︵ハングル︶ 聞きたない、何も聞えへん。ま ったく、
いつの話し て んや 。 いまは草木も 眠る 丑 三つ時で っ せ。
五色
︵ ハ ン グ ル ︶ と り あえ ず 、 蝋 燭消 し いや 。 ゴ チャ ゴ チ
ャ ゆ うて ん と 消 し ッ !
刈田 ・熊野
︵ ハン グ ル ︶ あか ん !こ れ は うち の 希 望 の灯 火
や。
鍋島
︵ ハ ン グル︶ 時 化て んな ぁ 。
刈田
︵ ハ ン グル︶ あんたのオ ソソ と はちゃ う 。
鍋島
︵ ハ ングル︶ おっしゃ いましたや な いか、な いか。
熊野
︵ ハ ン グル︶ せめて 、こ んな暗 い とこ 居ると き は 、 せ
めて 、こ うして灯し とか な、見失うや な い。そら な 、
昼間は周り の明るさにかまけて 、気になら ん。あん た
か て そ う や 。で も な 、こ う周 り が 暗 い と か な ん わ 。 暖
か い灯 りや ろ 。
と 、 三 人 は ハン グ ルで ﹁ 道 頓 堀 行 進 曲 ﹂︵ 日比
繁次郎・作詞
塩 尻 精 八 ・ 作 曲 ︶を アカ ペラ で
歌 う 。 五 色 は 口で 伴 奏 中 心 。
♪ 赤 い 灯 青 い灯
道頓堀の
川面 にあつまる恋の灯に
7
五色
︵ ハ ン グル︶ あんたら 、 いつまで 蝋 燭つけて ん。何 考
えて んや 。
刈田
︵ ハ ン グル︶ まずは息を こ ろすこ とや 。
熊野
︵ ハ ン グ ル ︶ しゃ べ っ た ら 息こ ろ され んや ろ 。ス ー ス
ー 逃 げて る や ん 。
刈田
︵ ハ ン グ ル ︶ 逃 げ 足 の 速 いや っち ゃ 。
五色
︵ ハ ン グル︶ 無駄 口たた くんや な い。
刈田
︵ ハ ン グ ル ︶ どこ を 叩 いて る ゆ う んや 。こ こ か 、 それ
ともここか ?
鍋島
︵ ハ ン グ ル ︶ いや ら し い 話 に な ん で 。
熊野
︵ ハ ン グル︶ あんた なに 考え て ん 。
山
シー⋮⋮
な ん で カ フ ェ ー が 忘ら り ょ か
酔うて くだまきゃ
あばずれ女
澄ま した顔すりゃ カ フェ ー の女王
道頓 堀が 忘ら り ょか
釜田
︵ ハ ン グ ル ︶ 風 前 の灯や 。真 っ暗 な って も 知 ら んで 。
鍋やんゆう たったり 。
鍋島
︵ ハ ン グ ル ︶ こ ら ッ !ゴ チャ ゴ チ ャ ゆ わ ん と 、 す っ き
り 自 己破 産 せえ ッ !
熊野
︵ ハ ン グ ル ︶ あか ん 。こ の恋 の 灯 火消 し た ら ⋮ ⋮
五色
︵ ハ ン グル︶ 消し たら ど や ゆ う ん や 。
刈田
︵ ハ ン グ ル ︶ 消 し て も う たら 、
刈田 ・熊野
︵ ハン グ ル ︶ うち ら も うオ カ マや な い !
五色
︵ハングル︶ なんと!
婦人達
︵ ハン グ ル ︶ うち ら オ カ マや !
山
あて は女形や 。
婦人達
︵ ハングル ︶太古の昔 からか ?
山
この世の生業や。
婦人達
︵ ハン グル ︶ それで !
山
切ないほどの、人に悟ら れぬ、芸や。
婦人達
︵ ハングル︶ゲイとオ カマはど う違う!
山
字が 違 う 。操 の立て 方が 違 う 。
婦人達
︵ ハングル ︶ それだけ か ?
山
女形には芸が ある。
婦人達
︵ ハングル ︶女形は芸 者か?
山
女形は女とは違う!
婦人達
︵ ハングル ︶ そうや 、オカ マは 女や ない。
刈田 ・熊野
︵ ハン グル︶だか ら 、こ の 恋 の灯 火消 し たら あ
か んのや 。
五色
︵ ハ ン グ ル ︶ と は ゆ うて も 蝋 燭は 消 し いや 。
刈田 ・熊野
︵ ハン グル︶希 望 の灯 火は 、
五色
︵ ハ ン グル︶ そうゆ うて も 、
釜田
︵ハングル︶ シー!
五色
︵ハングル︶ なに?
鍋島
︵ ハ ン グル︶ シッ !
釜田
︵ ハ ン グル︶ シー ! 誰か 来る !
鍋島
︵ ハ ン グル︶ シッ !
釜田
︵ハングル︶ シー!
五色・刈田 ・熊野
︵ ハン グル ︶ シッ !
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六人 の ﹁ シッ ー、 シー、 シ ー シッ ー ﹂で 一 くさ
り その場を 包 む 。
釜田
︵ハングル︶ 灯りをけしてッ!
刈田 ・熊野
︵ ハン グル︶エッ !
鍋島
︵ ハ ン グル︶ 蝋 燭を 消 し て !
五色
︵ ハ ン グル︶ も う、やや こ し い。 フー !
山・刈田・熊野
︵ ハングル︶キャ ー
あたり は、暗 くな ったか と 思 ったが 女 1が 喋っ
て いる 。
セリポス島 に流れつき、島の王ポリュデクテスの弟デ
ィ タト ス に 救わ れ た 。 そこ で ペ ル セ ウ ス は 、 り り し い
若者に成長した。ところが、島 の王ポリュデクテス は、
美し いダナ エに思いをよ せて い たため、 ペルセウス が
邪 魔で し か たが なか っ た 、 そこ で ボ リ ュ デ ク テス は 言
葉たくみに 、地の果てに住む怪物ゴルゴンを 退治して
くるよう、 ペルセウ スにしむけてしまっ た。
ゴ ル ゴ ン は 、 髪 の 毛 一 本 一 本が 蛇 に な って い て 、 あ ま
り の 恐 ろ し い形 相 に 、 そ の 顔を 見 たも の は たち どこ ろ
に石になってしまうという女怪だ。
ペ ル セ ウ ス は 、 知 恵 の 女 神 ア テナ から 作戦 を さ ず か り 、
伝令の神ヘルメスからは、翼の ある靴と 杖を借り、 地
の 果て オ ケ ア ノ ス に や って き た 。 そし て 、 直接 ゴ ル ゴ
ン の 顔 を 見 な いよ う に 青 銅 の 盾 に 姿 を 写 し なが ら 、 眠
って い る ゴ ル ゴ ン た ち に 近 づ き 、 そ の う ち 不 死 身で な
か った メド ゥ サを み ごと に 退治 し た 。
ペルセウスが メドゥサの 首を 切り 落としたと き、ほと
ばしる血の 中から う まれたのが 、天馬 ペガ サスで ある。
ペルセウス は 、 メド ゥ サ の首を ひ っさげ 、 天馬 ペガ サ
スにまたが ると帰り 道を急いだ 。
こ の と き メド ゥ サ の 首 は おび た だ し い血 に 染 ま って い
た 。 見 開 か れ た ま ま の目 は 、 ペ ル セ ウ ス を 見て いる よ
うで あった 。メドゥ サの髪の毛 は、ほと ばし った血 に
よ って よ じ れか ら み つ き 、 それ は ま るで 髪 の毛 一 本 一
本 の 蛇が 大 蛇に 変 身 し たよ うで あ っ た 。 その 大 蛇の 数
は、十六匹。ペルセウスはあまりの恐ろしい形相にこ
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女1
⋮
⋮⋮︵や がて 夜空を 見 上げ︶
⋮ ⋮ 北 極 星 、こ ぐま 、 ケ フ ェ ウ ス 、 カ シ オ ペア 、 ペ ル
セ ウ ス 、 は くち ょ う 、 ア ン ド ロ メ ダ 、 ペ ガ サ ス 、 み ず
が め 、 くじ ら ︵ と 星 座を 追 って 視線 は そ れ なり に 動 く︶
⋮ ⋮ 夜目 遠 目 笠 の 内 、 そ ん な 戯 言 も と う に 縁 な い 身 と
な っ たこ の ば ばで も 、順 に 星 々 を こ う し て 仰 ぐ と 、 不
思議 と 昔 の こ とが 想 い起こ せま す のじゃ 。 さて 、 今 夜
はどんな話をしまし ょうかのう 。︵ゆっ くりペルセ ウ
ス仰ぎ、そして指差す︶⋮⋮ペルセウス⋮⋮わしはわ
し の ば ば さ ま に ペル セ ウ ス の話 を 聞 い た こ とが ある 。
それは恐ろしい話じゃ った。怖くて 怖くて 、朝まで 一
睡もで きなか ったほ どじや 。⋮ ⋮昔、ア ルゴスにアク
リ シオ ス と いう 王が いた 。 王に は ダナ エ と いう 娘が い
た 。 あ る と き 、 王 ア ク リ シオ ス は 、 ﹁ 娘 ダ ナ エ に 子 供
が 生 ま れ る と 、殺 さ れ る ﹂と い う 神 の お 告 げを聞 い た 、
こ れを 恐 れ た 王 は 娘 ダナ エ に 男 が 近づ く こ と ので き な
いよ う、城 の なかとじこめてし まったのじゃ 。
ア ク リ シオ ス が ほ っ と す る の も つ か の 間 、 大 神 ゼ ウ ス
は 、 城 の 塔 の 窓か ら さび し げ に 外を 見て い る ダ ナ エ を
見 そめ 、 黄 金 の 雨 と な って 降 り そ そ ぎ 、 思 いを と げ て
し ま っ た 。 つ ま り 、 一 発 や って し ま っ た と い う わ け じ
ゃ。
だか ら、ダナ エはペルセ ウスを産 んだ。王アクリシオ
スはおどろき、娘ダナエと孫の ペルセウスを小船に 乗
せて 海に 流 して し ま った 。運よ く、母子 を 乗せた船 は
倒 れ な い よ う 胸 ぐ ら を つ か んで い た 私 ま で 殴 ら れ る 有
様だった。
森氏は、一通り追求し終わると、 今度は、権力との関
係を追求し 出した。しかし、寺岡 氏は、 それをきっ ぱ
りと否定し た。
すると、森氏は、私に、
女1
﹁ 後 ろ で 寺 岡 の 手を 持 っ て 押 さえ て ろ ﹂
女2
と指示した。私は、寺岡 氏の後ろに回り、寺岡氏の両
手を 後 ろ 手 に して 持 ち 、押 さえ た 。森 氏 は 、 寺岡 氏 の
前 に 正 座 す ると 、 再 び 権 力 と の 関係を 追 求 し た が 、 そ
の 際 、 いき なり 寺岡 氏の 左 腿 に 細 身 のナ イ フを 剌 し た 。
寺岡氏は、
女1
﹁ううっっ﹂
女2
と う め き 声 を あ げて 上 体 を よ じ ら せ た 。 私 は 、 そこ ま
で 激 し く 追 求 す る 森 氏に 驚 き 、 そ ん なこ と し たら 、 こ
の あと ど う す る つ も り な ん だ と 思 っ たが 、 そ れ だ け 激
し く追 求す る 必要が ある のだ ろ うと考え 、 そうし た 思
いを 打ち 消 し た、 そ して 、 寺岡 氏の体が 倒れ な いよ う
一 層 力 を こ めて 寺岡 氏の 体を 押 さえ 、 森 氏と と も に 追
求した。
だが 、 寺岡 氏 は、 権力と の 関係を 否認し 続け た。途中
から、永田 さんが追 求に加わったが、その時、森氏は、
ナ イ フを 抜 き 、坂 東 氏に 耳打ち し た。坂 東 氏は、 寺 岡
氏のそばに 坐ると、
婦人達
﹁この野郎﹂
女1
﹁ 本 当 のこ と を いえ ﹂
10
の 十 六 匹を 一 つ づ つ 殺 し 、 切 り 捨て て し ま っ た のじ ゃ
っ た 。青 銅 の 蛇を 造 り 旗 竿 の 先 に 掲 げ る に は 、 も う 時
は遅かった のじゃ 。
⋮⋮
女2
それ は異様な 光景じゃ っ た。十六 のうち の一 つの話を
しよう。
女1
⋮ ⋮ ﹁こ の 野 郎 、ふ ぎけ た 野 郎 だ !﹂
女2
と い いなが ら 、 顔面 と腹 部を 一発 づ つ殴 っ た 。カ 一 杯
殴 っ た ため 、 寺岡 氏 は鼻 血を 出 し た 。こ の 私 の 欧打 が
き っか け と な って 、 皆が 寺岡 氏 の 頭や 顔 を 激し く殴 っ
た。
そ の あ と 、 私 の 後 ろ に 立 って い た 森 氏が 寺 岡 氏 の 追 求
を 始 め た 。 森 氏は 、 新 し い組 織 作りが で き なか っら ど
うするつも りだったか、組織を 乗っ取ったら どうす る
つもりだっ たか 、な どと追求し 、森 氏の 追求に応じ て
私 たち は 、
女1・婦人達
﹁ど うなんだ!﹂
女2
﹁は っきり笞えろ∼!﹂
女1
と い い なが ら 、 寺岡 氏を 殴 っ た 。 そし て 、 寺 岡 氏が 、
森氏の追求に、
女2
﹁ 坂 東 さ ん と 調 査 に 行 っ た時 、 坂 東 さ ん を ナ イ フで 殺
して逃げよ うと思っ た﹂
女1
﹁ 警 察 の 顧問 を し て いる 叔父 さ ん に 情 報を 売 って 助 か
る道を 確保 す るつも り だった﹂
女2
など と笞え た時は、さら に激し く 怒り、寺岡 氏をめち
ゃ くち ゃ に 殴 っ た 。 あ ま り 激 し く 殴 る た め 、 寺 岡 氏 が
女1
女2
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女1
女2
女1
女2
ア イス ピ ッ クを 受け 取 って 、 寺 岡 氏の 前 に 立て 膝で 坐
り 、 静 か な 口調で 、
﹁お前に死刑を宣告する 。最後に いい残すこ とはない
か﹂
と い っ た 。 寺 岡 氏は 、小 さ な声で 、
﹁革命戦士として死ねなかったのが残念です ﹂
と 笞 え た 。森 氏は 、 寺岡 氏の セ ー ター と シャ ツを ま く
り 上げて 胸 を は だ け る と 、
﹁ お 前 のよ う な 奴 は ス タ ー リ ン と 同じ だ 。 死 刑 だ ﹂
と い って 、 ア イス ピ ッ ク を 心 臓 部 に 刺 し た 。 し か し 、
一度で は 絶命し なか った。する と、森 氏 は、全体を 見
ま わ し た 。 お そら く 、 誰が 自 分 に 続 く の か 確か め よ う
としたので あろう。 私は、どのみち 殺さ れるのなら 早
く殺してし まった方が いいと考え 、また 、こ のよう な
誰もやりたがら ない 任務は党の ために率 先してやる べ
きだと思っていたので、
﹁よ し、俺が やる﹂
と い って 、 そ ばに いた 大 槻 さ んと N 氏に 寺岡 氏を 支え
る のを 代 わ って も ら い、 森 氏か ら ア イス ピ ッ ク を 受 け
取 って 寺岡 氏の心 臓 部を 剌 し た 。血 は ま っ た く 出 な か
った。私は二度、三度と剌したが、絶命しなかった 。
す る と 、青 砥 氏が 私 に 代 わ って ア イ ス ピ ッ クで 剌 し た 。
やはり絶命しなか った。私は、 脊髄の付け根の延 髄を
剌 せ ば 即死 す る と 聞 いて い た の で 、
﹁ 脊 髄 の 付 け 根を 剌 せ ば い い ので は な いか ﹂
と い うと 、 誰 かが 寺岡 氏 の首の 後 ろを ア イス ピ ッ クで
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女2
と い って 、ナ イフを 寺岡 氏の左腕 の付け根に 刺し た。
それで も 、 寺岡 氏は 、 権力 と の 関係を 否 認し た 。
こ う した追求 のため、寺岡氏の足 の下から血がしみ出
して来たばかりか、腕からも血が 流れて 来て 、私の 手
や 袖 口が 真 っ 赤に な っ た 。
そ の あ と 、 森 氏 は 、 寺 岡 氏の 前 に 立 って 、 寺 岡 氏を に
らみつけて いたが、しばら くす ると、重々しい口調で 、
女1
﹁お前の行為 はこ れまで と異なり 、反革命と いわざる
を得ない。死刑だ!﹂
女2
と い っ た 。 私 たち は 、反 射 的に 、
女1
﹁
!﹂
女2
⋮⋮
﹂
女1
﹁
女2
何だと!
婦人達
﹁ 異議 なし !﹂
女2
と笞えた。
私は 、その時 まで 死刑など考えて も いなか っ たが 、森
氏の死刑の 提起に以 外な感じは せず、死刑に賛成し た。
それは、寺岡 氏の問 題を 敵対的 なも のと み なし たか ら
で ある。し かも、私は、死刑を 厳格な規 律のために 必
要 な 革 命 的 制度 と 思 って い た の で 、 死 刑 そ の も の に 反
対する気持 はまった くなか った ので ある 。こ の時、 寺
岡 氏は 、目 を つぶ り 、じ っと し て いて 死 刑 の 決 定に 動
じ なか った が 、心中 は いか ばか りで あっ たろ う 。
私は 、 寺岡 氏 を 後ろで 支え ながら 、ど うや っ て 死刑 に
す る の だ ろ うと 森 氏 を 見て いる と 、 森 氏 は 、 誰か か ら
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女1・2の語りをかき消すようにご婦人達のハ
ンド ・クラ ッ プ入る 。全員のハンド ・クラッ プ
となる。
暗 闇の 中で 声が す る 。
釜田
︵ ハ ン グル ︶ さー行 き ま っせ 。も うす ぐや ! 今 夜も い
てこましま っせ。鉄 、ブリキ、ト タン、 真鍮、何で も
ええからな 。袋一杯 なったら、 闇夜にま ぎれて消え る、
ええな。
鍋島
︵ ハ ン グル︶ 教え と いた る 、 今 日 の 匁計 り の 値 は銅が
一 番や っ た 。が 、ス ケ ベ根性出して 袋に つめ たら 、 身
動 き と れ へ んで 。助 太 刀 当 て に し た ら 、 互 いに 命 取 り
や 。オ カ マ はオ カ マ ら し く 自 分 の面 倒 は 自 分で 見る 。
ええな!
婦人達
︵ ハン グル ︶ええ よ !
釜田
︵ ハ ン グル︶ 本当や な !
婦人達
︵ ハン グ ル ︶オ カ マ に 二 言 は な いよ !
釜田
︵ ハ ン グ ル ︶ オ イド の 穴 が ゆ る ゆ る に な って 、 皺 くち
ゃ に な って も !
婦人達
︵ ハ ン グ ル ︶ も と も と 皺 くち ゃ や !
五色
︵ ハ ン グル︶ 今 夜は 、人 の死に 水 取 ったら あ か ん。
刈田
︵ ハ ングル︶ 明日の朝、 猪 飼野の くず鉄屋で 顔合わせ
ら れ たらめ っけも の 。
熊野
︵ハングル︶ 大阪府警のガキども に撃ち殺されるもオ
カマの花道 。
婦人達
︵ ハン グ ル ︶ 命 が あ っ たら ま た 会 い まひ ょ か !
と、散 会の呈。
釜田
︵ ハ ン グル︶ 待ち ッ !
婦人達
︵ ハングル ︶⋮⋮
鍋島
︵ ハ ン グ ル ︶ 鎌ち ゃ ん 、 ど う か し た か ?
12
剌 し た 。 そ れで も 絶 命 し な か っ た 。
女1
﹁植 垣、首を 締めろ﹂
女2
と 坂 口 氏が い っ た 。 私 は 、 寺 岡 氏 の 後 ろ か ら 両 手を 彼
の首にまわ して 締め よ うとし たが 、締め きれなか っ た。
吉 野 氏が 、
女1
﹁ロ ープで 締め た方が い い﹂
女2
と い い 、 誰 か が サ ラ シを 持 って 来 た 。 私 たち は 寺 岡 氏
を 早 く 絶 命 さ せ よ う と 必 死 だ っ た 。 サラ シを 寺 岡 氏 の
首 に ま いて 、 古 野 氏 や 山 本 氏 、 大 槻 さ ん 、 長 谷 さ ん た
ち が 両 方か ら 引 っ張 り 上げて 首 を 締め た 。 寺岡 氏の 体
は 、 数 分 の 間 、 け い れ ん し て い た 、 そ の うち 、 け い れ
んは 間 遠に なり 、 止 ま っ た 、青 砥 氏が 寺 岡 氏が 死 ん だ
こ とを 告 げ た 。 サラ シが は ず さ れ る と 、 寺岡 氏の 体 は
くの宇のよ うになって 床に崩れ た。
女12
⋮⋮
女2
こ のようにして 、一つづ つ⋮⋮一 つづつ⋮⋮ 一つづつ
⋮⋮一つづ つ⋮⋮
最後に十六の墓標が残った⋮⋮
女1
⋮⋮
⋮⋮
13
︵ ハ ン グル︶ シュ 、 シュ 、 シュ⋮ ⋮聞えて き たで 。
釜田
︵ ハ ン グ ル ︶ 散 会 は 、も うち ょ い と まち いや 。鍋 や ん 、 鍋 島
熊野
︵ハングル︶うそ、ウソ 、そんな あほな。
今日は何日や?
鍋島
︵ ハ ン グ ル ︶ ⋮ ⋮ 鎌ち ゃ ん 、 今 日 は 大 阪 大 空 襲 の 月 命
蒸 気 機 関 車 の 音 近 づ いて く る 。
日や 。
釜田
︵ハングル︶ご名算!
釜田
︵ ハ ン グル︶ その あほが 、もひ と つオ マケで 、や って
鍋島
︵ ハ ン グル︶ 忘れて おま し た 。
来る のが 満 州鉄 道 の ア ジア号 だ ったら ど な いす る 。
五色
︵ ハ ン グル︶ それが ど な いし た ん 。
五色
︵ ハ ン グル︶ なんか 来る !
鍋島
︵ ハ ン グル︶ も うす ぐ来 るや ろ 。 救世 主が 。
釜田
︵ ハ ン グル︶ 車 窓から 、 煌々 とも れる灯 りが 、こ の 大
刈田 ・熊野
︵ ハン グル︶救世 主 ?
阪砲兵工廠 の鉄 くず の山を 照ら すときが 、散会の時 や
釜田
︵ ハ ン グ ル ︶ 男 の 胸で 熱 い 鼓 動 を 聞 き 取 る よ う に 、 息
で 。え え な 。
こ ろして 耳 澄 ます ん や 。も う ボ ツボ ツ聞 え て くるこ ろ
鍋島
︵ ハ ン グ ル ︶ 車 輪 の 軋む その 音に 乗 って 、鉄 の 山を 駆
や。
け 巡 る んや 。蒸 気 が ボ イラ を 泣 き 叫 ば せ る 。 大 阪 府 警
鍋島
︵ ハ ン グル︶ シュ 、 シュ 、 シュ⋮ ⋮
のガ キ ど も が 、 京 橋 向 いて 最 敬 礼 の 身 動 きで き ぬ 、 そ
刈田 ・熊野
︵ ハン グル︶ シュ 、 シュ 、 シュ⋮⋮
の 間を 縫 っ て 、 いて こ ま し た る んや 。 時 間 は な いで 。
五色
︵ ハ ン グ ル ︶ な んや ね ん 、 そ の シ ュ 、 シュ ⋮ ⋮
ち ょ っと の 間や 。 今 日は 、 無 礼 講や !
釜田
︵ ハ ン グル︶ 草 木も 眠る 丑三つ時 、 大阪大空 襲の月命
熊野
︵ ハ ン グル︶ う そ、ウソ 、 シュ 、 シュ 、 シュ ⋮⋮ 来た !
日 、 静 寂 の し じ ま を 押 し や って 、 シ ュ 、 シュ
鍋島
婦人 達
︵ ハ ン グル︶散 会や !
刈田 ・熊野
︵ ハン グル︶ シュ 、 シュ 、 シュ⋮⋮
婦人達
︵ ハン グル ︶行こ か !散 会や ! シュ 、 シュ 、 シュ⋮
鍋島
︵ ハ ン グル︶ シュ 、 シュ 、 シュ⋮ ⋮
⋮ シュ 、 シ ュ 、 シュ ⋮ ⋮
五色
︵ ハ ン グル︶ シュ 、 シュ 、汽 車か ?
刈田
︵ハングル︶蒸気機関車や!
釜田
︵ ハ ン グル︶ そうや 、 あ の 東西線 を 突き進 んで 、 京 橋
で 止ま る 。 御 霊が 、 ホ ームで 待 って る ん や 。来 んわ け 蒸 気 機 関 車 の 轟 音 に 汽 笛を 伴 って 行 き 過 ぎ る 。
鉄 体を 軋 ま せ 止る 。 蒸 気 と 騒 音 に ま ぎ れ て ご 婦
に は いか ん 。
人達は散会して 退場 。
五色
︵ ハ ングル︶ なにゆうて んや 。始発はまだや 。まして
蒸 気 機 関 車 と は そら な い わ 。
ノ ー ト パソ コ ン か ら 着 信 音 の ベ ル 鳴 る 。 集 中 す
る二人。
再び ノ ート パソ コ ンから 着 信 音の ベル 鳴る 。
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女2
懐か し いな。
女1
えッ ?
女2
懐か し い。
女1
うそ。
女2
本間、千代子や。
女1
え 、 あたし 浜 田 光夫 ?
女2
なに ゆうて んや 、それや と あたし が吉 永小 百 合か ?
女12
奥 さ ん、オ ウ ジョウし ま っせ、 鹿 の フン 。
女2
鳴 っ て んで 。
女1
へえ 。
女2
そや か ら 、 鳴 って んで 。
女1
うそ。
女2
本 間 ⋮ ⋮ 懐か し い な 。
女1
あの 呼び 出し 音、なつか し いん?
女2
懐か し いな い か ?
女1
あ た し は い つ も のこ とや から 。
女2
そら ま そうや な 。
14
[
2
章
]
女1
ボ ケ て へんや ん 。
女2
ボケてるようなツッコミやがな。
女1
所詮ボケ・ツッコミの二 元 論は日常会話の限 界を アウ
フヘーベン 、
女2
ほう、奥さんゆわはるや ん。
女1
バームクーヘンの歴史は 非常に古 く、今から 約二百年
程前に誕生し、芯棒に生地をか け焼き上げる製法は古
代ギリ シャ に まで さ か のぼると いわれて おります 。 一
層一層丁寧 に焼き上げることか ら、長寿 ・繁栄をイ メ
ー ジし 、 結 婚 式や お 祝 い事に 欠 か せ な い バーム ク ー ヘ
ン 。 切り 口 が 木 の 年 輪 のよ う に 見え る た め 、 木︵
︶
︶と名付けら れ、現在では﹁お菓子
のお菓子︵
の王様﹂と 呼ばれるようになり ました。 確か な眼で 選
んだ良 質な 素材を 使 い焼き 上げ るこ とは もとより、 バ
ームクーヘンのふ る さと、森の 国ド イツ⋮⋮はい、や
っとで まし たド イツ 。アウ フヘ ー ベンも バームクー ヘ
ン も 単 な る ド イ ツ 語 や と いう 語 源 を 求 め て や って ま い
りました。
女2
ホエ 。どこに いくん。
女1
しょ うもないというのはドイツや 。
女2
キ ビ シ イ !⋮ ⋮ いや ま あ そら な 、 志 百 年 の 大 計 か ら み
れば、日常会話の脈絡など、目クソ鼻クソ。
女1
あ か ん 。ち ゃ う 。 そ の い い加 減 は な い 。 ユ ー ハ イ ム や
で 、 横浜か ら 船 に 乗 って 神 戸 に つ い た 。 いや 、 高知 か
ら船に乗って 神戸に ついた。とも あれ、まだ先は長 い
や ろ 。 喋り なが ら 、 行 き 先 見 つ け る んも テク ニ ッ ク や 。
と 、 音 楽 に 乗 って ご 婦人 達 登 場 。
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蔵王三山
女1
釜田 ・鍋島
山
女1
婦人達
女1
フットサル・エクササ イズ決まる 皆さん、 お疲 れ様
で し た 。 私 は ジーコ で す 。︵ 動 き 決ま る ︶ どや 、 ジ ー
コ か て け な げに 日 本 語 の ワ ン セ ン テ ン ス や 。オ マ リ ー
で おま 。駐 車場 あり ま へん 。が んばら ん か い。
山
道に 迷ったのかもしれま へん。
婦人達
道 に 迷 って し ま い ま し た 。
女2
どこ から来た ん。
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それぞ れあら ぬ方向を 示す 。
女2
しゃ んとせえ 、優勝で け へんか っ たんや 。ど うしてや 。
も うえ え 。 あ っち か ら 来 た ん な ら 、こ っ ち へ行 き な は
れ。
15
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女1
鳴 っ て へんて 。 ま っ た く あ ん た の 、 往 年 性 認 知 症 は 手
に おえ ん 。
女2
あ ん た に は 聞 いて な い 。
じゃ 、 誰に聞 いて んや 。
あの呼び出し 音を鳴らして いる、まだ見ぬあなたに。
二度目は郵便 配達に聞き なさい。
あ た し が あ た し に 聞 いて ど う す ん の 。
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ノ ー ト パソ コ ン 開 く 。 音楽 。
女1
女2
女1
女2
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女2
ほ う 、 耳も ク ソ す んで 、 で も 奥 さ ん 、 そ ん な の 便 所 に
入 っ た とこ 、 見 たこ と な いわ 。 男 便 所か 、 女 便 所か ?
女1
あんた、会話が一行ずれてる。
女2
なに 回り くど いこ と言うて んや 。 私なんか 、こ の目尻
んとこ 、毎 日、 バー ム ク ー ヘン ぶ ら 下 げ て ます 。
女1
函 館 か ら 船 に 乗 って 神 戸 に 着 い た 、こ こ は 港 まち 女 が
泣 いて ま す 、 五 木で す 。
女2
ス ベッてますで 、五木は ん。
女1
三行 前 の 訂 正 を し た んや 。
女2
横 浜 か ら 船 に 乗 って 別 府 に 着 い た 、こ こ は 小 雨 ま ち 女
が 泣 いて ま す 。
女1
函 館 か ら 船 に 乗 って 東 京 に 着 い た 、こ こ は 日 暮 れ まち
女が 泣 いて ま す 。
女2
いつ 横浜で る んや 。はよ う神戸にこ んか い!
女1
あんたはなんにこだわって んだす 。
女2
だ か ら 、 鳴 っ て んで 。
女1
も う 止 んで る わ い 。
女2
ウソ ?
女1
ホンマ。
女2
じゃ 、 いつか ら 鳴 って ん の 、こ の 呼び 出し 音 。
釜田
ちゃ う。そや ない。しゃ んとし な はれ。
女1
どこ で 関西弁 覚え たんや 。
女2
あん たのは関西語ちゃ う 。生まれ はどこや 。
熊野
長 崎 か ら 船 に 乗 って 神 戸 に 着 い た 、 五 木で す 。
女1
あて つけみ た いに うま いや な いか ?
五色
道 に 迷 って は い け ま へ ん の ん か ?
女2
ち ゃ う 、 道 に 迷 って は い け ま へ ん のか ?や 。
鍋島
あ の 、 人 生 の 道 に 迷 っ た ので す 。
釜田
人生を踏み外したのかも 知れません。
女12
な んやて ?
婦人達
道 に 迷 って し ま い ま し た 。
女12
で?
婦人達
こ っち か ら や って 参 り ま し た 。
女12
ほうー?
婦人達
あ っち で は 勝 つ つ も りで す 。
女2
だか ら 優勝で けなんだんや 。
女1
パー ぺきに喧嘩売 って る 。そやろ 、なんぼ顔が 白 いか
らて 、喧嘩 売んなら 、血相かえ なあかんや ん。
五色
売 っ て は いま せ ん 。で き る なら 、 人 生を 買 い た いと 思
って い た の で す 。
釜田
は い は い、人 生 は 売 り 買 いす る も んや オ マリ で す 。
女2
ねえ ちゃ ん、 無理し たら あか んわ 。
鍋島
は い は い、で は 参 り ま し ょ うか ? こ ち か ら 参 り ま し た
ので 、 あち に 参 り ま す 。
刈田
わ た し は 、こ ち か ら 参 り ま し たが 、 本 当 に 、 こ ち か ら
来 た ので し ょ う か 。 や が て あち ら に 参 り ま す が 、 そ れ
はどこに参 るのでし ょうか?
釜田
女には構うな!
熊野
どこ におん。
鍋島
そん な暇、あら へんや ん 。
五色
そっちかて、 いけまっせ 。
刈田
そ れ を いえ ば 、 向 こ うか て 選 択 肢 や ろ 。
釜田
カ マ か け と ん な 。こ の わ たし に カ マか け る の か 。
蔵王三山
そんな大声でカマカ マゆうて 、何が楽し い。
釜田
私は 釜田や 。
鍋島
わたしは控え めな鍋島や 。
女1
お い 、ここ に お んや ろ 。
女2
あんた、3テンポ遅いわ 。
女1
ば あち ゃ んに はカ マえ る や ろ 。
釜田 ・鍋島
生物学 的な女にの残 骸に興味はないわ 。
鍋島
あ ん た な んで 、面 と 向か って カ マ な んて ゆ う ん 。
釜田
それは、あたしが いう。この釜田が いう、カ マうな。
女1
迷え る人生が あるうち は いい!
間
刈田
刈田 、 あっけ にとら れて 、
熊野
熊野、二の句がつけず、
五色
五 色 、 朝 ぼ ら け の 王が 飛 んで い く !
16
ブッ つ か り ながら それ ぞれ へ。
だか ら、
♪ 霧 氷⋮⋮
♪ 霧 氷⋮⋮
♪ 霧 氷⋮⋮
知ら んで 、ど ないして くれるん。
なんやねん。
な ん や ね ん と は 、 な んや ね ん 。 ご ら ん 、 詳ら か に 見て
ごら ん。も 一つ努力 して心眼で 見なさい 。あんたの 、
あまりの、 常識的な、礼を失し た、御託 言に⋮⋮
釜田
迷え る人生が あるうち は いい!
鍋島
恥ず かしや な いか 、ないか 。自責 の念が 、絶 対 零度
釜田
摂 氏 マ イナ ス 二 七 三 ・一 五度 。こ の 状態 に 近 づ くこ と
はで きるが 、到達す るこ とは理 論 的に不 可能 なのを 、
知 って のこ とで おま す のか 。
鍋島
そん な論理を 覆し、今見 事に 絶対 零度だす、 ないか 。
釜田
ただ いま、絶対零度を演 劇的に解 決して おま す 。
刈田
刈田 、摂氏マ イナス二七 三・一五度。
熊野
熊野、摂氏マイナス二七 三・一六度。
五色
五色、摂 氏マ イナス二七 三・一七度を 四捨五 入で摂 氏
マ イナ ス 二 七 四 度 。
刈田
刈田 、 四捨五 入で 摂 氏マ イナ ス 二 七 四度 。
熊野
熊 野 、 同じ く 四 捨 五 入で 摂 氏 マ イ ナ ス 二 七 四 度 。
鍋島
は い 、揃 いま し た 。
蔵王三山
ピッキーン!
女12
な んや 、ど な いし まし た ?
釜田
論理値を突破してしまいよりまし た。
婦人達
ピキピキピ ッキ ーン !ピキピッ キ ーン!
鍋島
お待 たせしま し た。
蔵王三山
︵歌う︶⋮⋮
♪霧氷
霧氷
思い出は
かえら ない
遙かな
遙かな
冬空に
消え た恋
霧の街角で
告げたさよならが
僕を
僕を
僕を
泣かす
と 、 ア カ ペラ 。 釜 田 と 鍋 島 は 口で 伴 奏 。 ﹃ 霧 氷 ﹄
宮川 哲夫 ・ 作詞 、利 根一郎 ・作曲から 。
17
鍋島
刈田
熊野
五色
釜田
女1
鍋島
釜田 ・鍋島
はい、拍手。
女12
⋮⋮
鍋島
お婆ちゃ んたち 、不満なようなので 、もう一 度行きま
す。
釜田
ハイ、本番テイクツウ、 三、二、︵一、Q︶⋮⋮
蔵王三山
♪霧氷
霧氷
女12
も うえ え !
女2
東 北 の 一 番 上 の 左 上や 。
女1
え?
女2
いや 、一つ下 。
女12
⋮⋮
女1
あき た︵秋田 ︶。
女1は なぜか匍匐前進。
と 、 背 を 向 け 襤 褸 の両 袖を 広 げて 立ち 塞が る 。
音楽 。
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女1
こうしてまど ろむとね、 うまくいく。そんな時よく夢
を み る 。も う特 技 な の 。⋮⋮ 今 か ら
年前、ギリ シ
ャ の哲学 者 デモ クリ ト ス は 、 身 の 回り の 物を小 さ く 小
さ く 切 って い く と 最 後に ど う な る の だ ろ う か と 考 え ま
し た 。も う こ れ 以 上 小 さ く なら な い 原子 を 推 論 し ま し
た。いまで は素粒子 と呼びます 。エネルギーの粒で す。
わたしは素粒子の粒ですか?
♪ 君が いた 夏は
遠い夢の中
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音楽変 わる 。襤褸 の衣 装転 換。﹁大阪 物語・
1﹂ の衣装に変わる。女 1は歌う 。同時
に 女 2 、 釜 田 ・鍋島 は踊 る 。 刈 田 ・ 熊 野 ・ 五 色
は 絶対 零度 の体勢 の ま ま 場 所を 移動す る 。
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女1
ア タ フ タ 、 あ たふ た ⋮ ⋮
釜田
なに して んや 。
女2
キビ シイ、んちゃ う。
鍋島
婆ち ゃ ん何 し て ん ?
女2
ハイ、ゆうたり。
女1
老這 ︵狼狽︶ 、して んや 。
釜田 ・鍋島
︵あんぐり︶⋮⋮
女2
ほら ス ベリま し た 。
釜田 ・鍋島
⋮⋮
女2
見た ままや ん 。ご推 察い たします 、あんたら の気持ち
は よ う わ か る 。 ま あ 、 一 つ は 捻 ら な あか ん わ な 。で も
どないしょ 。なんとしょ。知ら ん。もう知ら ん。あん
たは、何 十 年変わら んつもりや 。少しは 成長し いや 。
女1
あた いの好みやろ。
女2
嗜好の話やおまへん。
女1
あた いのセン スやから ほ っときや 。
女2
個人 の問題に し たら あか んわ 。
女1
アイ デンティ ティや 。
女2
ア イ デ ア と ア イ デ ン テ ィ ティ はち ゃ う や ろ 。
女1
な に ゆ う と ん 、 同じ カ タ カ ナ 文 字 や ろ 。
女2
それ や 、 年取 ると そうい うコ ジツ ケを 平気で ぶ っ放す 。
そ れ は も う 兵 器 や 。 若 い 者 に 言 い 訳で け し ま へ ん 。
女1
⋮ ⋮ 言 い 訳 さ せて く れ る ガ キ が い る うち は い い⋮ ⋮ く
るなら来て みなはれ !そんな追憶が、と ぐろを巻いて 、
こ の あたいに押し 寄 せる なら 、 こ うして 両 手を 広 げて 、
今で も 立ち 塞 が って 見 せまし ょ う !
18
女2
あ ん さ ん 、 い っ た いこ れ な ん だ ん ね ん 。
釜田
絶対 零度 の演 劇的な解決が、いま芸術に昇華 してしま
いよ りまし た 。
鍋島
わか ら へんの ?至福の瞬 間に立ち 会ったんや ないか、
な いか 。
君 の髪の香りはじけた
浴 衣 姿が ま ぶ し す ぎて
お 祭 り の 夜 は 胸が 騒 い だ よ
は ぐれ そう な人ごみ の なか
は なれ な いで 出しか け た 手を
ポ ケット に 入れて 握り しめて い た
君がいた夏は
遠 い夢 の中
空に消えて った
打ち 上げ花火
﹃ 夏祭 り ﹄ ︵ 作詞 ・ 作曲
破矢ジンタ︶から
釜田 ・鍋島
オ イ ! 何やこ れは !気持ち い いか !
女2
年 寄 り の 冷や 水 も ギ ッ ク リ 腰 や な いか 。
鍋島
婆ち ゃ ん、 い ったいどこ まで 引 っ 張り廻す んや 。
釜田
こ れ 見て み 、 さ っ き か ら 、 づ ー と 置 き っ ぱ な し で 、ど
な いす る つ も り ?
鍋島
何 と か せえ 。
釜田
絶 対 零 度 の 中 で 凍て つ い た ま ま や 。
鍋島
も う ず ー と 前 か ら 限 界や 。
女1
もっと動け!
釜田 ・鍋島
あか ん 、ピキピキ ピッキ ー ンや 。
蔵王三山
ピ ッ キ ー ン !︵ と 動 き ︶
釜田
動か んでええ 。
鍋島
やめ なはれ!砕ける!
女2
ピキ ピッキーン!
蔵王三山
ピ ッ キ ー ン !︵ と 動 き ︶
釜田
動か んとき。
鍋島
玩 具 に す んや な い 。
女12
ピキピキピ ッキ ーン !ピキピッ キ ーン!
蔵王三山
ピ ッ キ ー ン !︵ と 動 き ︶
女1
ピキ ピッキーン!
女2
若 者 よ 、 体を 鍛 え て おけ !ピ ッ キ ーン !
蔵王三山
ピ ッ キ ー ン !︵ と 動 き ︶
釜田 ・鍋島
ス タン ディ ン グオ ー ベー シ ョ ン !
鍋島
至福 の瞬間に 立ち 会った あなたの熱 い思いを 、その手
のひ ら に 包 み 、 割 れ ん ば か り の 拍 手に 載 せて 、 そ っ と
差し出して ください 。
釜田
熱 き 貴 方 の 賛 同が 、 絶 対 零度 の 女 王 たち の 、 凍て つ い
た心を、その内部か ら、涙のし ずくのよ うに溶かすで
しょう。
鍋島
そ し て し っ か り 、 そ の 心 に 焼 き 付 け ま し ょ う 。こ の 方
々 が 大 阪 の おばちゃ んで す 。 殺 し て も 死 んで く れ な い、
大 阪 の お ば ち ゃ ん の 原 型で す 。
釜田
熱 き 拍 手を 。
鍋島
こ の ため に 私 たち は 長 い 旅を して き た ので す 。
釜田
今一 度 、熱 き 拍 手を 、 ア ンコ ー ル !
山・蔵王三山
⋮ ⋮ わ た し は 遠 い西 方 の 果て か ら こ の 地 上 の
国へはるばると旅してきた。わ たしがこ の国に到達す
る ま で の 遍 歴 に は 、 幾 度 か 死 を 覚悟 す る 拙 い運 命 の 嘆
19
空に消えて った
打ち 上げ花火
山
釜田
鍋島
さ あ いこ か 。 ゆ うて んや 。
女12
⋮⋮
山
︵ ド イ ツ 語 ︶ ク ラ ン ケ 、 ES 細 胞 知 って ま す か ?
釜田
︵ ハ ン グ ル ︶ ES 細 胞 知 って ま す か ?胚 性 幹 細 胞で す
ね 。胚盤 期 と いう発 生 初期の胚 の一部で ある ため 、 授
精 し た 胚 、 つ ま り 初 期 の 赤ち ゃ んを を 殺 し て 入 手 し ま
す 。こ れ は 、 倫理問 題を はら み ます ね 。 ︵ 日 本語 ︶ ど
うぞ。
鍋島
知ら んのや っ たら、お黙 り。知ら んそうです 。
釜田
何も ゆうとら へんや ん。
鍋島
ES 細胞なんか知ら へんやろ。顔みたら 分か るや ん。
女1
⋮⋮
女2
E H エ リ ッ ク や っ た ら 知 って んで 。親 戚 か ?
鍋島
無理すんな。
山
︵ド イツ語︶ クラ ンケ、 ES細胞欲し いんや 。
釜田
︵ ハングル︶ 皆さん、こ こ にあっ たかも知れ ないES
細 胞を 求め て 、 長 い 旅 の末や っ て ま いり ま し た 。︵ 日
本語︶どう ぞ。
鍋島
ここ にあったかも知れな いES細 胞を求めて 、長い旅
の末や って ま いりま し た。ビ ジ ネス プラ ンで すよ 。 あ
なた方の未来かもし れまへん。 ありうべき、もう一 つ
の人生を お 届けでき るかも知れ ません。 安打スタンド
はホームラ ン。
女12
⋮⋮
鍋島
知ら んのや っ たら 、お黙 り。
山
︵ ド イ ツ 語 ︶ ク ラ ン ケ 、 それ は 希 望で す 。
20
きをも ったものだが 、それゆえ にこ そ、 幼少のころ聞
い たこ の 国 の 風 光 の 名 媚 、 人 情 の 温純 敦 厚 、 そして 清
潔にして 礼 儀正しい民族性など は、わたしの内部で は
ほとんど絶対化されていた。たどりつくまでに費し た
苦労 のかず かずを ま ったく無意 味にし な いためにも 、
こ の 国 は 無 限 に 美し く なけ れ ば なら なか っ た 。こ の 国
の人々 は い ま 果たし て 憧れと い うも のを 理解するだ ろ
うか。わたしは幼くして夢にこ の国を 憧れ、古くマ ル
コ ・ポーロ の名 指し た黄金は 、 こ の国の 人々 の 胸中 に
こ そ輝 いて いる にち が い な いと 信じ て 疑 わ なか っ た 。
憧憬 、なんと 懐かし い言 葉だろう 。それはつ ねに裏 切
られるため に、あたかも懊悩の蕾のように欲望の萼に
つ くも の と は いえ 、 そ れ ある ゆ え に ま た わ た し は 様 々
の 苦難 の う ち に も み ず か ら を 見 捨て るこ と が なか っ た 。
多 く異 邦を 憧れる 少 年の心情が 、 その 国 の現 実よ り は
その国の過 去の栄華 に、汗と脂 の匂いよ りは保存され
た遺跡の無機的な美に向かうも のとはいえ、少なくと
もこの国で は、一輪の花にかける哀惜の情や、一碗 の
茶 の 香り に 確か め あ う 心 の 交 わ り を 今も 見 喪 って い な
い と わ たし は 聞 いて い た 。 ︵ 高 橋 和 巳 ﹃ 遥 か な る 美 の
国﹄から︶
⋮⋮
︵ ド イ ツ 語 ︶ いこ か 。こ こ と ち ゃ うや ろ 。
︵ ハ ン グ ル ︶ 来 る とこ ろ を 間違 っ たよ うで す ね 。 さ あ 、
ま いり ま し ょ うか 。 長居をし す ぎ たよ う で す 。︵ 日 本
語︶どうぞ。
山
釜田
鍋島
釜田
鍋島
釜田
鍋島
釜田
鍋島
釜田
上のその勇 士はおよ そ七分の一 にす ぎな いのです 。と、
ゆ うて んや 。
︵ド イツ語︶ クラ ンケ、 それは記 憶です 。
︵ ハ ングル︶ 皆さん、それは記憶です 。︵ 日 本語︶ど
うぞ。
そうです。それは記憶で す。だが 氷河期は一 万年前に
終わったのでしょうか。終わってはいま せん。現在 は
氷 期 と 氷 期 の 間 の 間 氷 期で ある に 過 ぎ ま せ ん 。 だ か ら
わたくしたちは、凍土の中から染み出た、海水にまみ
れ 出 た 、 解 けて し ま った 、 記 憶 で し か な い ので あり ま
す 。こ れ は 、 神 の あ だ なす 錯 誤 で あり ま す 。 視 界 、 五
センチメートル下を とくとご覧 あれ。や がてわたくし
たち は 、 き っと あ そ こ に 帰 る の で す 。 あ の 氷 塊 の 中 で
抱かれるのです 。ま かり間違ってしまっ た、魂の記憶
と お さら ば し て 、 貴 方 の 亡 骸は 、 凍て つ く ので す 。 も
う一つの人 生 のため に 、と いって んや 。
魂 な ど 消 し 飛 び ま す 。が 、 そ の 肉 体と い う ク ソ 袋 は 間
違 いで す 。
間違 うとは、 タイミングが おうとら んとちゃ うで 。間
と 間 の 間に ある 間が ちゃ うと い うと ん の や 、と い っ て
んや 。
ゆうて へん。
いま 、ゆうたやない。
うち は ゆ う た 。
それでええや ん。
だ か ら 、 ベラ ベラ い いす ぎや ろ
21
釜田
︵ ハ ン グル︶ 皆 さ ん、 あ なた 方の ES細 胞が 、 絶対 零
度 に 凍て つ い た 、こ の 方々 の 記 憶 を 氷 解 し た か も し れ
な い ので す 。で も だ め で し た 。 無 駄 足で し た 。︵ 日 本
語︶どうぞ。
鍋島
大 阪 グ ラ ン ド マ ザ ー 、 婆 ち ゃ ん 、 さよ う な ら 。で き る
なら また会 いましょ う。離別が いつも 寂寞を 携えて や
って くる と は いえ 、 悲しむこ と は あり ま せ ん 。 誰も 再
会が ないと はいえ な いのですか ら 。悲し みは乗り越え
る た め に 、 私 たち の 前 に 試 練 と し て さ し 出 さ れ ま す 。
耐えましょ う。風雪には忍耐で す。孤独 に耐え 、それ
を 美 学 に 昇 華 し ま し ょ う 。押 忍 、 も うこ こ で は 忍 耐 と
は 希 望で す 。風 雪 が 五 ミ リ メ ー ト ル の 氷 解 に 姿 を 変 え
た なら ば 、 それ は 雨 あら れ 、 雹 と 呼 び ま し ょ う 。 パ ン
サーのごと くすばや か った風雪 は雹に豹変します 。こ
のとき耐え るとは、美意識を内包した闘 いとなるで し
ょ う 。学 術 的に 申す まで も な く 、 それ は 、 雹 は 文 学 に
豹変したのです。パラダイムチェンジ。忍耐と希望と
人生のレト リックを深 く理解して いただきたい、と 申
して います 。
釜田
意 訳 し す ぎや ろ 。 ワ ン セ ン テ ン ス や で 。む ち ゃ くち ゃ
やん。
蔵王三山
ピッキーン!ピキピキピッキ ーン!︵と動き︶雑
談はやめて 、お願い。
鍋島
閑話 休題 。 南 氷 洋 の 海 氷 を も ろ と も せ ず 、 風 雪 に 耐え 、
海面にヌッ クと立つ 氷山が、わ たくしたち の視界に 五
センチメートルを 超える勇士を 見せたとしても、海面
22
女1
⋮⋮
女1
オイ、おばはん。
釜田
︵ ハングル︶ アホの相手は止めて 、ぼち ぼち 行こか 。
女2
何や ?
︵日本語︶どうぞ。
女1
お い 、 ねえ ち ゃ ん!
鍋島
も う 阪急 は 阪 神や 。
女2・ご婦人達
な んや ?
釜田
どうや 、驚 い たか 。異国 間対話ナ ビ ゲータを あまくみ
女1
ど っち で もえ え 。一 度で しゃ べ っ たりや 。ま ど ろ っこ
る んや な い 。
し いや ろ 。 なにして んや 。
鍋島
異国 間言語を 股にかけ、 国境を さすら うイン ストラク
鍋島
正 確 に ゆ わ な あか んや ろ 。
ター!
女1
ワンクッショ ン、ツウクッション 、なにゆいたいんや 。
鍋・釜
ア リ ゾナ 州 の ア ンコ ー ル ・ラ イ フ ・ス ミ チ オ ン ・モ
釜田
あ ん た 、ち ょ っ と 来 い 。 そ ん な 単 純 に 物 事 を 判 断 し た
ン サ ン ト 財 団か ら や って ま い り ま し た 。
ら あか んや ろ 。︵ 女 1の 耳元で 。小声で は な い︶も う
婦人達
ピキピキピ ッキ ーン !ピキピッ キ ーン!道に迷っ
阪急は阪神や。ハイどうぞ。
女1
︵鍋 島の耳元で 。小声で はない︶ 阪急は阪急で 、阪神
て し ま いま し た 。 ポ リ ボッ ク ス を 探して いる ので は あ
は 阪 神や 。 阪 神 は 阪 急 や な いや ろ 。
り ま せ ん 。 人 生 に 迷 った ので す 。
鍋島
︵女 2の耳元 で 。小声で はない︶ 北半球も南 半球も 氷
山
︵ドイ ツ語︶行こか!
が 解 けて 、 海面 水 位 が 上 昇し と り ま す 。 こ の ま ま や と 、 釜田
︵ ハ ン グル ︶ 記憶 は 思 い 出で は あ り ま せ ん 。 人 生 の 掃
大阪は大丈 夫やけど 、まも なく 東京は水没します 。遷
き 溜め に 捨 て 去 るこ とを 忘 れて し ま っ た 生 ご み な の で
都を 真剣に 考え なあか んや ん。 緊急 な政 治課題で おま
す 。 い ず れ は 酵 素 に よ って 分 解 が 始 ま り ま す 。 そ れ が
す 。 いや 、 こ れ ホ ン マ 。
お 嫌 なら 、 当 、 ア リ ゾナ 州 の ア ン コ ー ル ・ラ イ フ ・ ス
女2
︵ 刈 田 ・ 熊 野 ・ 五 色 の 耳 元で 。小 声で は な い ︶ 北で 飛
ミ チオ ン ・ モ ン サ ン ト 財 団 に お 任 せ く だ さ い 。 冷 凍 催
び 込む んや ったら 曽 根 崎の森を 抜 け 淀川 まで いか ん な
眠 を 格 安 の 値 段で お 届 け し ま す 。 そ れ で は 大 阪 の お ば
ら ん 。 南 は 道 頓 堀 や が 、 橋 の 上 に 鉄 柵で きて も たや ろ 。
ちゃ ん、ま た会いましょう。︵ 日本語︶どうぞ。
まあ、あんたなにゆうとん、それもこれも優勝して か
鍋島
音楽 !
ら の は なし や ろ 。来 年来 年、で も ま っこ と 心 配や 。 あ
れ 、こ れ が ホン マ の 取 ら ぬ 虎 の 皮 算 用 や な あ 。
と 、 副 う そ う な 音 楽 。 ご 婦 人 たち 、 ゆ っ く り と
蔵王三山
ピキピキ ピッキー ン!ピキピ ッキーン !氷解!
し た 動 きで 、 音楽 に 乗 って 退場 。こ のと き ノ ー
ト パソ コ ン から 着信 音の ベルが 徐々 に 大 き く な
山
︵ドイ ツ語︶話 にセンスも なければ 脈絡もないなあ。
る 。や が て 、 ノ ート パソ コ ンか ら の 着 信 音 のみ
となる。
[
3
章
]
女2
鳴 っ て んで 。
女1
そや な 。
女2
ず ー と 、 鳴 っ て んで 。
女1
まも なく開局です。マイクテスト 、チェック 、チェッ
ク⋮⋮
着信 音 のベル鳴る なか女2 が シンセサ イザーで
演奏する﹃レットイットビー﹄が 流れる はじめ
る。
女1
それではオー プニングに、今日までのメール投票、集
計 結 果 第一 位で す 。 歌 います 。
♪空は澄みきり
蒼く
果て なく広く
あの思いは
海に
なが れ 出る
人生とは
そん なものだ と
23
女 1 は 受話 器を と る 。 な お こ の 受話 器 は ノ ー ト
パソコ ンの 近くに 置か れて いた 、ワイアレス ヘ
ッドホンマ イクで ある。
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♪星空をみ あげる
心が お おき くなる ね
そこ はき っと
無限
だからさ
人生とは
そん なものだ と
な ん ち ゃ って ね
∼略 ∼
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W
女1
それ で は お待 ち か ね の イ ン ター ネ ッ ト ラ ジオ を 始め ま
す 。不 定 期 国 立 ラ ジ オ 放 送 局 の 開 局 の 時 間が 、 今 日 も
や って き ま し た 。も うすで に ア ク セ ス し て い た だ い て
いる、全世 界のリス ナ ーの皆さ ん。お元 気で し たか ?
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だか ら 軽く
ジャンプしてみると
あっけなくおさらばでき るものさ
人生とは
そん なものだ と
な ん ち ゃ って ね
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♪星空をみ あげる
心が お おき くなる ね
そこ はき っと
無限
だからさ
人生とは
そん なものだ と
な ん ち ゃ って ね
女1は 歌い終わると、女2 のエンディ ングの演
奏の中、女 1の次の台詞を始め る。女2 は演奏
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な ん ち ゃ って ね
/
P
C
T
ー ネ ッ ト が 電 波 か だ って ?
そ んな細か い話 し は さ て
お いて 、電 磁 層 に 操 ら れ 迷 子 に な た 7 M ヘ ル ツが
と 出 会 い ま し た 。 そ ん な プロ ト コ ルが ある か だ っ て 。
言 う に 事 欠 いた そ の 杓 子 定 規 は 三 寸 五 分 の 尺貫 法で す
女1
リスナーの皆 さん。お元 気でしたか ?
お変 わり あり
か?
い い で は な い で す か 、 パ ン ダ が 歩 く んで す か ら 、
ま せ んで し たで し ょ うか 。相 変 わ ら ず の 騒 が し い シ ャ
そ ん な い い 加 減 な 無 理を 言 って は い け ま せ ん 。 十 数 年
ン プ ーで 、 いや 石 鹸 で 、 いや い や 世 間で 、 ホ イ 、 快 調
さまよ った電波の波 動が 、私の 鼓膜を 揺するなんて 、
のオ ヤ ジギ ャ グ三 段 論 法と ばし て 、相変 わら ず のわ た
それはも う 無理難題 に決まって います 。 無難をまと も
くしです 。 それで は 早速、ブラ ジルに お住ま いの、 あ
に受け答え させるのですか?
リスナー のやさしさは
と 十 年で 六 十 才 に な る おじ い チ ャ マ か ら の 、 テキ ス ト
どこに行 っ たのでし ょうか 。君も 砂の中 に銀河が 見え
チャ ッ ト が 届 いて い ま す 。 日 本 の お 孫 さ ん へ の メッ セ
な いク チで す ね 。
ー ジで す 。 ご 紹 介し ま し ょ う 。 み っち ゃ ん 、 聞 いて る
か な 。人 生 残 り 少 な いか も 知 れ な い おじ い チャ マか ら 、 ⋮ ⋮ 十数 年 、 ⋮ ⋮ そ れ は も う 二 昔 、⋮ ⋮ ず い ぶ んと 遠
く へ⋮ ⋮ 思 え ば 日々 は多 く の 年 月を 数 え て し ま い ま し
あと五十年も生きなければいけ ない、幼 少の君への 暑
た。ついに昭和と平成を股にか けた、名 状しがたく 横
い厚いヨタ ・カの星です 。
た わ って し ま っ た 大 い な る 流 れ を 、 心 の 中 で あ れ 、 皮
⋮⋮ 五尺七寸 、極めて健 康、⋮⋮ 。⋮⋮静寂 。いま、
膚で あれ 、 美し い沈 黙 に 秘め な がら ,日 本と 世界の 状
こ の物言わ ぬ 漆黒 の 闇に 、 身体を 委ね な がら 、 いま だ
況を 眺めて き たあな たに、心か ら のメッ セー ジを 贈 り
出会わぬ多 くの人々 へ、来る日を夢 見て 試験電波を 発
ます 。
信します 。 CQ、CQこちら7 Mヘルツ 、出力5㍗ 、
試験電波発 信中、JE3⋮⋮ いやコール サインはあり ⋮⋮⋮﹁わたしが訴えて いるのは あくまでも 平和で あ
ります。その崇高なる原則は犠 牲で あります。同胞た
ません。メリット5で極めてクリアな方、特にメリッ
ち よ 、 漆黒 の時 が深 ま れ ば深 ま る ほ ど 、 夜明 け は 近 い ﹂
ト1の混信中のあなた、タヌキ などやめて発信願いま
ファイナ ル⋮⋮⋮こ んな痛みは まだ通用 するでしょ う
す。
か?
通用するなら 、発信願います。
み っ ち ゃ ん 、 悪 いけ ど 君 の あと 十 年で 六 十 才 に な る お
じ い チャ マ の ほ うが 混 線 し て い る よ うで す 。で なか っ み っ ち ゃ ん ま だ 聞 いて い ま す か 。 君 の あと 十 年で 六 十
才 に な る お じ い チャ マ は 少々 ヤ ケ 気 味 で す よ 。 火 傷 し
たら 、 十 年 一 昔 前 の ハム 無線 に よ って 、 イン ター ネ ッ
な い 程 度 に 聞 いち ょ く れ 、
ト ラ ジオ が 電 波 ジャ ッ ク さ れ た の で し ょ う か 。 イ ン タ
25
P
I
が 終わると 退場。
右記の 歌詞は意訳したも のです 。
はか くもし たたかで あります 。
CQ 、CQCQ、いまだ 出会わぬ美しき憂愁の沈黙よ 、
こちら7M ヘルツ、 出力5㍗、 試験電波発信中、JE
3⋮⋮⋮いやコールサインはありません。試験電波発
信 、 発 信 願 いま す 。 こ の メッ セ ー ジが ⋮ ⋮ ⋮ ﹁ わ た し
が 訴えて いるのは あ くまでも平 和で あり ます 。その 崇
高 な る 原 則 は 犠 牲 で あり ま す 。 同 胞 たち よ 、 漆 黒 の 時
が深 まれば深 まるほ ど、夜明け は近い﹂ ファイナ ル⋮
⋮⋮と叫ばざるを得 ない向こうに、信じられぬほど の
星 空が ある と は いいが た い痛み を ⋮⋮ いや 正確に は 、
そこ に は メ ッ セ ー ジ を 発 す る そ の 裏 か ら そ の メッ セ ー
ジを 信じ ら れ ぬと い う 、 痛みが あり ます 。も うこ こ で
はき っと 、 痛みこ そ メッ セ ー ジ なので あ り ます 。つ い
に痛みとは︵いい切ろうとするが、言い切れない︶⋮
⋮⋮ そして 痛みとはッ!
⋮⋮ !
ク リ ア ー 5 、 いや ク リ ア ー 1 、 こ の メ ッ セ ー ジを メ ッ
セ ー ジ下 さ い。星 座 の 煌 く 乱 反 射 に も 似 て 、 電 波 の 赴
く ま ま に 、 メッ セ ー ジ下 さ い 。 痛 み こ そ メッ セ ー ジ な
ので あ り ま す 。 そし て 痛 み と は ッ !
こち ら 試験電 波発信中、 漆黒の闇をこ のメッ セージが
覆 い尽 く さ んこ とを 祈り ます 。 き っと そ のと き 、 そ の
と き こ そ、 美 し き 沈 黙 は 、 あら か じ め 失 わ れ た 言 葉 を 、
ついに発す るでしょ うかッ!
混線の 雑音。電子 音。乱反射。
26
⋮⋮ わたしは 今日まで生きてきました。一回コッキリ
の生しか生 きること しかできな いながら 、だが それを、
決して他人 とは取替え のできな い固有の理由で 。あな
たもまた、 そのよう にして 大い なる流れ の中で 、美 し
い沈黙⋮⋮ それはあたかも、いまこ のよ うに漆黒の 闇
に 閉 ざ さ れ なが ら も ︵ 天 空 高 く 一 本 の 指 を 大ら か に 突
き 上 げ る ︶ ひ と たび 天 空 高 く 舞 い 上が れ ば そこ は 満 点
の煌 く星 座 、数え 切 れぬ星の輝 きが ある と信じられ る
ほ ど の 確 か な思 いを 込め た 沈 黙 ⋮ ⋮ そ の よ う な 美 し い
沈黙を 秘めてきたので あろうと 、わたし は今、そん な
あ な た に 想 いを 馳 せ ま す 。 そこ で は あ な た は き っ と 、
十全に孤立し、自由に食べ、十二分にクソをし、そし
て 考え て 生 活して い る 個人で あ り たか っ た の だ と 確 信
し ま す 。で す か ら あ な た は 、 勇 気 に 徹 し ぬ く 諦 念 を 、
孤 独 と いう 寂寞を 、 も の の 憐れ と いう 憐 憫をこ そ、 美
し い沈 黙 に 秘め さ せ なけ れ ば な ら なか っ たで あろ う と
推 察し ます 。と き あ たかも 、 大 いなる 流 れ の なかで 美
し い沈黙を 秘め、な おその美し い沈黙に 、勇気と孤 独
とものの憐れを、あらかじめ名 付けるこ とを 諦観して
しまったロ マンとし て 秘めるこ とで 、二 重の秘め事を
秘めてしま ったも の 言わぬ、それは大い なる流れで は
なか ったのでしょうか 。だが 、 いえ だか らこ そわたし
は あ な たに 宣 告 し ま す 。も う 帰 る べき ロ マ ン は な い の
だ と 、 美 し い沈 黙 と 引 き 換え に 、 帰 る べ き ロ マ ン の 通
路 は 取 り 払 わ れて し ま っ た の だ と 。 未 だ 命 名 さ れ ず 無
名性の中で 佇む美し い憂愁の沈黙よ、大いなる流れと
混線の 雑音。電子 音。乱反 射のカット アウト 。
女1
はい!
み っ ち ゃ ん楽 し く聞 いて も ら え ま し たか 。 君
の あと 十 年 で 六 十 才 に な る おじ い チャ マ か ら の 単純 明
快 なメッ セ ー ジで し た。こ のほ か 、や た ら と メッ セ ー
ジきて ます が 、全部 昆虫 、 いや ム シ。続 いて ニュー ス
で す 。 隣の ち っと も 美 人 じゃ な いけ ど 色 が 白 くて カ ワ
イイ美代ちゃ んが 高 校二年生に なりまし た。次は密 告
です。向か い隣の還 暦迎え た善 次郎さんは、まだ朝立
ち が ありま す 。す ば ら し いけ ど 下 ネ タ の 密 告 は 最 低 で
す ね 。で は 時 間 まで ニ ュ ー スで す 。 内閣 はこ の ほ ど 、
文部 科学 省 から 提出 されて いた 臨時 法 案を 、午 後の 閣
議で 了承し 、明日から開かれる 臨時国会 の、衆議院 本
会議 に 法 案 と して 提 出す るこ と を 決 定し ま し た 。こ の
法 案 は わ が 国の 標 準 語 を 東 京弁 か ら 、 関 西 弁 に 変 更 す
ると いう極 めて 大胆 なも のとな って おり ます 。国民 的
なコ ンセ ン サスも な いなか 法 案が 、 臨時 国会 期間中 に
決議 され、 参議院に 送ら れるか ど うか は あたりまえ な
が ら 、 危ぶ ま れ て お り ま す 。
⋮⋮
⋮⋮ たくさん⋮⋮ あな たはなくし ましたか 。⋮⋮わ
たしはわからないくら いたくさ んなくし たのだと思 い
ます 。かと 言って 、 なくした分を 埋め 合 わせて 余る 何
か を 手 に 入 れ た わ け で は な い の で す 。で も そ ん な に 気
に せ ず に ⋮ ⋮ 今 日 ま で や って 来 た ので す か ら 。 大 丈 夫 。
ほら、聞こ えるでし ょ。耳を澄 ますと、 微かですが 聞
こえ ますよ 。懐かし い音や 、思 い出し た くも ないあ の
音も 。目を 閉じて も いいで すよ 。瞼のう ら に 見え る か
も知れません?
で も ね、泣く のはやめ て⋮⋮も う 、
泣くのはや めましょ う。わたし にはどうにもできま せ
んから 。⋮ ⋮涙 は 流 して いいこ とにしま す 。少し だ け
なら 構いま せん。⋮ ⋮ そうして 元気がで たら⋮⋮な く
し たも のを 忘れ ま し ょ う 。
27
女1
CQ 、CQCQ、いまだ 出会わぬ美しき憂愁の沈黙よ 、 こちら7M ヘルツ、 出力5㍗、 試験電波発信中、JE
3⋮⋮⋮いやコールサインはありません。試験電波発
信、発信願 います。発信⋮⋮痛みとはッ !
⋮⋮ッ !
発信ッ⋮⋮発信ッ⋮⋮発信ッ⋮⋮
人々 の 歓声が聞こ えて いる はずだ。が 、それは
女の頭から 外したヘッドホンから流れるクラ シ
ッ ク 音楽 。 や が て 、 その 音楽 は 女 の 声 を 打ち 消
して 、 大 音 響で その 場を 覆う 。 し ばら く 流れる
音楽 。
女1
⋮⋮ あの唐突ですが、幸せ、ですか?
⋮ ⋮ 今で も ⋮
⋮悔いはありませんか?
⋮⋮ それは、悔いなどあり
ませんね⋮⋮⋮これからも、だから⋮⋮ ありませんか?
そうです ね⋮⋮ あ りませんね 。⋮⋮ そ うです 、き っ
と あり ま せ ん 。 だか ら ⋮ ⋮ こ れ か ら も ね 。⋮⋮ わ た し
は 、 も ち ろ ん あ り ま せ ん よ 。⋮ ⋮ あ な た は ど うで す か ?
だから⋮ ⋮ あの、 幸せ、です か ?
ク エス チョン マ
ー ク ⋮ ⋮て んて んて ん
わ た し が 。 嫌 いで す 。
女 は 一 枚一 枚 ト ラ ン プを 見 る 。
女1
朝のスッキリした目覚め は遠い昔だね、レースのカー
テ ンを 射 す 朝 日が 、 わ たし の 微 熱 を 逆 撫 で す る と 、 決
って その 日 は 憂 鬱 な 一 日 。 布 団 を 頭まで こ うや って 被
って ⋮⋮し ばら く死 んだふ りを す ると⋮ ⋮
0
0
4
2
女1
あなたは幸せですか?
⋮ ⋮ 携 帯 電 話 の 呼 び 出し 音が
なると、わ たし の音 なんかじゃ ないと 判 って いるの に、
バッ ク に 手 を や る わ たし が 嫌 い で す 。 朝 起 き て 、 月 曜
日だと 判って いるの に、今日は 何 曜日だ ったかしら と、 やけに 長い静 寂。
ふ と 思 って し ま う わ たし が 嫌 い で す 。電 子 メー ル は 、
嫌 いで す 。 電 車 の 中 で 化 粧を す る の は 嫌 いで す 。 嫌 い
女1
まど ろむとね 、うまくいく。そんな時よく夢 をみる。
だ 嫌 いだ と い う わ た し はも っと 嫌 いで す 。 朝 靄 の 中 を
も う特 技 な の 。⋮⋮ 今か ら
年前、ギ リ シャ の 哲 学
駈けて いく新聞 少年の、白い吐 息が 、き っとわたし は
者デモクリトスは、 身の回りの物を小さ く小さく切 っ
嫌 いで す 。 も っ と 嫌 い な の は 、 バ イ ク に 載 っ た 新 聞 お
て いくと最 後にどう なるのだろ うかと考え まし た。も
じ さ んで す 。階 段を バ タ バ タと 、 早 く起 き ろ と 走 り 回
うこ れ 以 上 小 さ く な ら な い 原子 を 推 論 し ま し た 。 い ま
る 、 朝 の 五 時 半 の 足 音が 、 本 当 は 一 番 嫌 いで す 。 カ ト
では素粒子と呼びます。エネルギーの粒です。わたし
リ ー ヌ ・ド ヌ ー ブ の ﹃ 昼 顔 ﹄ は 嫌 いで す 。 女 性 専用 車
は素粒子の粒ですか ?
両 は 、 乗 る ので す が 理 由 な く 嫌 いで す 。 ニキ ビ 面 の 、
ま せ たガ キ のギ ラ ギ ラ し た 視線 は 嫌 いで す 。 パ ジャ マ
に 着か え て の、 あす は不 燃 物 と 三度唱 え る わ た し は 嫌
いで す 。 雨 は 嫌 いで す 。 だ か ら 、 井 上陽 水 の ﹃ 傘が な
い ﹄ は も っ と 嫌 いで す 。 満 員 電 車 の 、 ニ コ チ ン と ア ル
コ ー ル の混 ざ っ た人 息 き れ は 嫌 いで す 。 牛 乳 の 匂 い は
む か し か ら 嫌 いで す 。こ ん な風 に 嫌 いで す と 数え る 数
ほどに、嫌 いなものはないのに 、嫌いだとあげつら う
28
女 は 先 程の ヘッ ド ホ ン ワ イ アレ ス マ イ ク を つ け
て いる 。
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女2・蔵王 三山
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と 橋掛 か りで 。や が て 登 場 。
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女2
︽マク ベス夫人︾ ねえ あな た、あなた の お顔は
まるで 本のよう、だ れの目にも 怪しい内容を 読
み と ら れて し ま う 。 世 間を 欺 く の に は
世 間と 同じ 顔 つ き を して 、 目 にも 、 手 にも 、 口
にも、
歓迎 の 色を 浮か べ るこ とで すよ 。み せ か けは無
邪気な花、
で も そ の下 に は 蛇 を 忍 ば せ る 。 せ っか くお 出 向
きの
お 方 に は 、 た っ ぷ り ご 馳 走 し な くて は 。ね え 、
今夜の大仕事を手早 く片づける のは、全部わた
しにおまか せなさいな。
首尾よ くいけば、こ れから 先に続く二 人の長い
昼と 夜、
至 上 の 王 権 、 支 配 権は二 人 のも の に な る ので す 。
︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾⋮ ⋮ ︷ ルビ あ
なた︸貴下 ︷ ルビ ︸ 、貴下 の ︷ ルビ か お︸面
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こ の と き 、 街 並み の 向こ う か ら 音楽 を 従え て 、
女 性 の 郵 便 配達 員 ︵ 女 2 ︶が 近 づ く のが 見え る 。
白いヘルメット、ブルーの半袖の上着、紺のズ
ボン、腰に 巻きついた例のカ バン、七枚剥ぎの
足 袋 。能 役 者が 橋掛 か りを 登 場 と い った 呈 。だ
が 女 2 は 襤 褸で ある 。
刈 田 、 熊 野 、 五 色 が こ れ に 従 って 登 場 す る 。 彼
ら は 、 白 い ヘル メッ ト 、 ブ ル ー の 半 袖の 上着、
紺のズボン、腰に巻きついた例 のカ バン 、七枚
剥 ぎ の 足 袋 などが 、 それ ぞ れ 意 味 な くウ エ ディ
ングドレス とマッ チして いる 。こ の刈田 、熊野、
五色はワン ポイント の持ち 物で ﹁阪神タイガー
ス ﹂ ファン と 判るも のを 着 け た り 、 ある いは持
ったりして いる。
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女1
︽ マ ク ベス ︾ や っ て し ま っ て
それで や ったこと になるの なら 、
早 くや っ た 方が い い 。暗 殺 と い うこ の 大き な 網
で
将来を 一網打尽に たぐり寄せる。あの 男の息の
根を 止めて
成功を もぎ取る、 それがで きるのなら 、ただの
)
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こ の一撃で
一 切 合 切 のけ りが つ くと い う の なら 、 こ の 世で 、
そ う だ こ の 世で だ 、 時 の 海 に 浮 か ぶ こ の狭 い 砂
州 の 現 世で 、
それ な ら 来 世 のこ と など 構 うも のか 。
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 独 白 や って し まえ
ば 、 そ れで 事が す む の なら 、 早 くや って し ま っ
たほうが︷ ルビ い︸可︷ ルビ ︸い。暗 殺と い
う一網を︷ ルビ くだ ︸下︷ ルビ︸し さえすれ
ば 、 一 切 の 結 果を ︷ ルビ ら ︸ 羅 ︷ ルビ ︸し尽
くして し ま へるも の なら 、此 一 撃で 以って 万 事
が 終局と な るも の な ら 、 それが 此 世で の 、 ﹁時 ﹂
の︷ルビ こちら ぎし ︸此 方岸︷ ルビ ︸ 、此 浅
瀬で の終局で あるの なら、未来 なんか︷ ルビ
か ま ︸ 関︷ ルビ ︸っ たこ とは ないんだ 。
女2・蔵王 三山
笑 い ⋮⋮
女2・蔵王 三山
︽魔女一同︾きれ いは、き たない。き たないは 、
きれい。
泳 いで 行 こ うよ 、 霧で よ ど ん だ 空 の 中 を よ 。
︽ 魔 女 三人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ ︷ ル ビ き れ い︸ 清
美︷ ルビ ︸は︷ルビ きたない︸醜穢︷ ルビ ︸
、
醜穢は 清美。
狭 霧や 穢 い 空気 ン 中を ︷ ル ビ と ︸ 翔 ︷ ルビ ︸
30
/////
︷ ルビ︸は誰の眼にも︷ルビ ふしぎ︸奇怪
︷ ルビ ︸ な事の 書いて ある︷ ルビ ほ ん ︸ 書籍
︷ ルビ ︸ のや うに 見え る 。︷ ルビ は た ︸周 囲
︷ ルビ ︸を 欺すには 周 囲と︷ ルビ おン な︸同
︷ ルビ ︸じよ うにし て いら っ しゃ い。目 にも 、
手にも 、 歓 迎 の︷ ル ビ こ こ ろ ︸意 ︷ ル ビ ︸を
示して 、罪 のない草 花と見せか けて 、其 蔭の
︷ ル ビ ま む し ︸ 蝮 ︷ ル ビ ︸ に な って ゐ な くち
ゃ いけ ま せ ん 。 さ 、 来 る 人 の待 ち 受けを せにゃ
なりますま い。今夜の大切な仕事は万事わたし
にお任せなさいまし 、未来永遠に無上の 権力を
得ると得な いとは、 それで 決る んですか ら 。
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︽マク ベス︾叫び 声が聞こ え た気がし た、﹁も
う眠りはないぞ、
マクベスが眠りを 殺したぞ﹂、無心の眠り、
も つれ た心労 の糸 玉を 濃や かにほ ぐし て くれる
眠り、
昼 間 の 生 へ の 安ら ぎ の 死 の 床 、 つ ら い 労 役を 終
え た沐浴、
心の傷 の軟膏、大自然の供する豪華な馳走、
人 生 の 饗 宴 の滋 養 の 一 皿
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 何 処 か で ︷ ルビ ど
な︸呼号︷ ルビ ︸って る声が 聞こえ るや うに
思へた、﹁もう安眠は出来んぞ!
マク ベスが
安眠を 殺し ッち ま っ た﹂と 。⋮ ⋮ あの、 罪の無
い、心の︷ ルビ もつれ︸縺︷ ルビ ︸れを︷ル
ビ いい︸ 好︷ ルビ ︸い︷ルビ あんばい ︸塩
女1
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︽ マ ク ベス 夫 人 ︾ か し ず く 悪 霊 たち 、 今こ そわ
たしを 女で なくして おくれ、
私の全 身になみなみと、頭 の上から爪 先まで 、
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梅 ︷ ル ビ ︸ に 整 へて く れ る 安 眠を 、 其 日 々 々
の生の︷ルビ じゃ くめ つ ︸寂 滅︷ ルビ ︸とも 、
労 苦の︷ル ビ ゆあ︸浴︷ ルビ ︸みとも 、傷つ
いた︷ルビ こころの ︸精神︷ ルビ ︸の︷ルビ
ぬりくすり ︸薬膏︷ ルビ ︸と も、大自然が
︷ルビ きょう︸供︷ ルビ ︸す る二の膳とも 、
生 命 の ︷ ル ビ おも ︸ 主要 ︷ ル ビ ︸ な滋 養 物 と
も いう べき 安眠を⋮ ⋮
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ぼう。
/
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心で 、︷ルビ いっぱ い︸充溢 ︷ ルビ ︸ にして
くれ!
予 の血を ︷ ルビ こ ご ヾら ︸凝 結 ︷ ル
ビ ︸ せて く れ 、 憫 れ む 心 な んか ヾ 働 いて 、 ︷ ル
ビ むご︸酷︷ ルビ ︸い企を ぐらつかせ たり、
実行 の 邪魔 を し たり し な い為 に !
さァ、此の
女 の 胸 へ 入 って 来て くれ 、や い 、 人 殺 し を ︷ ル
ビ しごと ︸職︷ ル ビ ︸とす る 精 霊 共よ 、此 の
甘ッ たる い 乳を 苦い ︷ ルビ た んじ ゅ う ︸ 胆汁
︷ ルビ ︸ に 変ッち ま って くれ 、目に 見え な い
姿をして 、 人 間の悪 事を 手伝う ︷ ルビ お のし
ら ︸ 汝等︷ ルビ ︸、 今何 処に ゐるか知ら ない
が!
さ ァ 、 真 暗 な 夜よ 、 ︷ ル ビ おのし ︸ 汝
︷ ルビ ︸も来て 、暗 闇地獄の 黒煙で 、押 し包
んで し ま っ て くれ 、 予 の 鋭 い剣 に 己が 切 る ︷ ル
ビ きずぐち ︸創口︷ ルビ︸を 見せないために、
天が ︷ ルビ くらや み ︸ 昏闇︷ ルビ ︸の 幕越し
に 隙 見を し て 、 ﹁ 待 て 、 待 て !
﹂と呼ぶよう
なこ とが な いため に 。⋮⋮
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︽ マ ク ベス ︾ よ し 、 決 心 は つ い た 。 そ う と な っ
たら
全 身 の 力 を 引 き し ぼ って こ の 恐 ろ し い 大 仕 事 に
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残 忍 と 冷酷 を
漲ら せて おくれ、わたしの血をどろど ろにして 、
憐れみ に通ずる血 の管を塞 いでしまう のだよ、
せっか くの恐ろし いも くろみに、良心 の呵責な
どが
揺 さぶ り に 入 って 、 な ま じ 実行 を 押 し と ど め る
ことの
な いよ うに 。 さ あ 人 殺 し の 手 先 ど も 、 わ た し の
乳房に
取 り 付 いて 、 甘 い 乳を 苦 い 胆 汁 に 変 え て お く れ 、
お前ら は
目 に 見 え ぬ 姿 の ま ま 、こ の 世 の 悪 事 と いう 悪 事
に
手を 貸 して いるの だから 。 そして たれこめ た夜 、
お前は
地獄のどす黒い死 の煙を死人を くるむ ように厚
く纏うのだよ、わたしの鋭い刃 の切っ先がえ く
っ た 傷 口を 見 な いで 澄 む よ う に 、
天 が 暗 闇の 帷 の 切 れ 目 か ら 覗 き 込 んで 、 思 わ ず
こう叫んだり
しないようにー﹁やめて、やめて﹂
︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳 ︾ さ ァ さ 、恐 ろ し
い︷ ルビ た くら み ご と ︸ 企 事 ︷ ルビ ︸ の︷ ル
ビ か いぞ へ︸介添︷ ルビ ︸を する精 霊 共よ 、
早 く来て ︷ ルビ わし ︸予︷ ル ビ ︸を 女 で な く
して くれ、 頭から 足 の爪先まで 、醜 い、 残忍な
/
を唐紅に染 めなして 、
とりかかろう。
紺青を 赤一色に変えてしま うだろう。
さあ行こう、時を 欺くのは美しい装い、
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ や 、 何 処 か で 叩 く ?
偽りの心中を隠す のは偽り の顔。
⋮⋮どうしたのだ俺は?
音 のす る た び に
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ ぢ ゃ 、 決 心 し た 。 全
︷ ルビ び くび く︸ 悸々 ︷ ルビ ︸する 。 ⋮⋮
力を引絞って、此怖ろしい仕事に取り掛かろう。
さ、さ、あッち へ。何事もないような顔 附きを
手を 見て あ 、 何 と いふ て だ ?
えッ!
目の
し て 人 目 を 欺こ う 。 心 に 偽 り が あ る 時 は 、 ︷ ル
玉が 引摺り 出されさ うだ。︷ ル ビ だ いネ プ チ
ビ か ほ ︸ 面 ︷ ルビ ︸を 偽りで 包 んで ゐ にゃ な
ュ ー ン ︸ 大 海 神 ︷ ル ビ ︸ の 大 洋 の 水を 傾 けて
らん。
も、此の手を︷ルビ きよ ︸浄︷ ルビ ︸めるこ
女1
と は 出 来 ま い 。 いや いや 、 あ の 限 り の な い︷ ル
ビ あを ︸ 碧 ︷ ルビ ︸い波が 、 ︷ ルビ か へ︸
却︷ ルビ ︸ って ︷ ル ビ ま ッ か ︸ 真 紅 ︷ ルビ ︸
に なッち ま ふ だ ろ う 。
蔵王三山
︽ マ ク ベス 夫 人 ︾ ご め ん な さ い 皆 さ ん 、
いつも のこ とです のよ 。な んでも あり ま せん、
︽マク ベス︾あの 音はどこ から?
いった いおれはど うなった のだろう、 音という 申し 訳 ないのはせ っか くの楽しみを台 なしにし
て し ま って 。
音にとび 上がる。
ああ、なんという 手だこれは?
う!
目 の 玉 ︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 人々 を 制して
がえ ぐり出 される。
皆 さ ん 、 あ れ は 只 ほ ん の 癖 だ と 思 って 下 さ い 。
大わ た つみ の 果て 知ら ぬ大 海原でこ の 手を 濯 い
まったく︷ ルビ さ︸然︷ ルビ ︸うなんですか
だ なら
ら 。只、 折 角 の 興を 醒 まして 、 まこ とに 。
血 の 穢 れを 清ら に 洗 い 流し て く れ る だ ろ うか 。
女1
いや 、こ の 手の 方が 波 ま た波 の は るか な 連 なり
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少しで も 震え るざ まを み せ たら 、乳く さ い小 娘
と
ふ れて 回るが いい 、失 せろ 、恐 怖の影 法師、
存在し ないまやか しの姿!
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 亡霊に ︷ ルビ さ
が ︸ 退︷ ルビ ︸れ !
目通りを避けろ!
地
の 中 へ ︷ ル ビ はひ ︸ 入 ︷ ル ビ ︸ ッ ち ま へ !
︷ ルビ き さま ︸汝︷ ルビ ︸の 骨には髄が 無く、
汝の血は冷たく、汝 の目には物を 見る力 は無い
筈だ、そん なにじろじろ見つめ たって 。
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 亡 霊 に 人 の 敢え て
す る 事 なら 、何 で も す る 。す さ ま じ いロ シ ア 熊
の姿で 来い 、角の生え た︷ルビ さい︸犀︷ ル
ビ︸なり、ヒルケーニヤの虎なりの姿で 来い。
其 姿 さ へ ︷ ル ビ よ ︸ 止 ︷ ル ビ ︸ し て く れゝ ば 、
、此︷ルビ しつかり ︸堅固︷ ルビ ︸し た筋肉
が 仮 に も 慄 へる た う な 事 は な い の だ 。で な く ば 、
生 き 返 って 来て 、︷ ルビ あ れ ち ︸荒 地︷ ルビ ︸
で 真剣 勝負 を ︷ ルビ さが ︸挑 ︷ ルビ ︸め 。其
時 、 若 し ︷ ル ビ ふ る ︸ 慄 ︷ ル ビ ︸ へて 引 ッ 籠
って ゐ る よ う だ っ た ら 、 俺 を 小 娘 の人 形 だ と 悪
口しろ 。退 れ、 怖ろ し い影め !
︷ルビ くう︸
空︷ ルビ ︸な︷ ルビ ぎぶ つ ︸ 偽 者︷ ル ビ ︸
め、退れ!
蔵王三山
︽ ロ ス ︾ 見え た と は 何 か ?
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︽ マ ク ベス ︾ 出て 行 け 、 消 え ろ !
お前は土の
中のものだ !
お 前 の 骨 に 髄 は な く 、 血 は 冷え き って い る 。
そうや って 睨めつ けて いる お前の目に は
も のを 見る 力 など な いはず だ 。
︽マク ベス︾ 男にやれるこ となら な んでもや っ
てみせる。
毛む くじゃ ら なロ シア熊の姿で 出てこ い、
角で 武 装し た犀、ヒ ルカニ アの虎、
いまの その姿で さえ なけれ ば、おれの筋肉は
微動だ にするものか。生き 返って 戻ってきても
いいぞ、
それで 剣を 抜 いて 無人 の荒 野で 決闘を 挑 んで み
ろ、
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︽マク ベス夫人︾ まだここ にしみが ある。
︽ マ ク ベス 夫 人 ︾ 消 え て お し ま い 、こ の いや な
しみ、消え て 。一つ 、二つ、
そうら 、時 間です よ 。 地獄 はなんて 暗 いんだろ
う。どうし たの、ねえ あなた、かりにも 戦にで
る 男で し ょ う 、 それ で こ わ い の ?
だ れ に 知 れ た って こ わ いこ と な ん か あ る も ので
す か 、 わ た し たち を 非 難 で き る も の な ん て いや
し な い 。で も ねえ 、 あの 老人 の 体にこ れ だ け の
血が 流れて いただな んて 。
︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 独 白 まだこ ヽ
に︷ルビ しみ︸汚点︷ ルビ ︸が 附いて いる 。
︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 独 白 え ヽ、 厭
ァな︷ルビ しみ︸汚 点︷ ルビ ︸消えッち ま へ
と言へば!
⋮ ⋮ 一 つ 。 二 つ 。 おや 、ぢ ゃ ︷ ル
ビ もう︸最早︷ ル ビ ︸時 刻 な ん だ 。⋮ ⋮ 地獄
は暗い凄い処!
⋮ ⋮ ま ァ、何 で す ねえ ︷ ルビ
あなた︸貴 下︷ ルビ ︸は!
⋮⋮︷ルビ いく
さにん︸武 人︷ ルビ ︸で あり ながら 、こ んな
こ とが 怖 く って ?
︷ルビ けど︸気取︷ ルビ ︸
ら れ る のを 恐 れ る 必 要 は な いぢ ゃ あ り ま せ ん か ?
主 権者を 裁 判す る こ とが 出来 る 筈は あ り ま せ
ん の で す も の 。 ⋮ ⋮ け れ ど も 、 誰 だ って 、 老 人
に︷ルビ こ んな︸如 是︷ ルビ ︸に沢山血が あ
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︽ロッ ス ・坪 内逍 遥 訳︾何 を 見て 、と お っしゃ
る ので ご ざ いま す ?
女1
︽ 幻 影 2 ︾ マ ク ベ ス 、 マ ク ベス 、 マ ク ベス 。
︽ 幻 影 3 ︾ い いか 、 マ ク ベ ス に 敗 北 は あり 得 な
い。
バーナ ム の大森林 がダン シ ネインの高 い丘めが
けて
攻めて こ ぬ限り 。
︽幻の 二 ・坪 内逍 遥 訳︾ マ ク ベスよ !
マクベ
スよ!
マ ク ベスよ !
︽幻の 三 ・坪 内逍 遥 訳︾ マ ク ベスは、 あの大き
なバーナ ム の森が、ダンシネーンの高い丘の上
へ、攻め 寄 せて 来 な いうち は、 ︷ ルビ い くさ ︸
戦︷ ルビ ︸に負ける というこ とはないんだか
ら。
女2
殆 ど 忘 れ て し ま っ た 。⋮ ⋮ 夜 の 叫 び 声 を 聞 いて
冷水を浴び るように 感じ た時代も あった 。凄い
話しを聞くと、︷ルビ かみのけ︸頭髪︷ ルビ ︸
が 逆 立 って 、 い き て ゐ る よ う に 、 動 い た こ とも
あ っ た 。 随 分 怖 ろ し い目 に も 逢 って 見 た 。 今ぢ
ゃ ァ人 殺し にも 慣 れ て し ま った ので 、ど ん な 怖
ろ し いこ と も 、も う 俺を ︷ ルビ おび や か ︸ 脅
︷ ルビ︸すには足ら ん。⋮⋮
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ら うと は 、 思 いが け て や し な い 。
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︽ マ ク ベス ︾ な ん だ 、 あ の 騒 ぎ は ?
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ や 、 あ の 騒 ぎは ?
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︽ マ ク ベス ︾ な ん の 騒 ぎ だ ?
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ や 、 あ の 騒 ぎは ?
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女1
︽ シー ト ン ︾ 侍 女 たち の声 のよ うで す 。
︽ シー ト ン ・坪 内 逍 遥 訳︾ 婦人 たち の 泣 き 声で
ございます 。
と 、 女 2 は 電 報を 渡 す 。 弔 電 で ある 。 刈 田 、 熊
野 、 五 色 は 弔電 を 投 げる 。
女1はこれを 受け取り読む 。
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︽マク ベス︾おれ は恐怖の味を 忘れて し まった 。
女1
以前には、夜の叫び声を聞 けば
五感が 凍りつき、 恐ろし い話には
︽シートン︾陛下 、お后さまが お亡くなりに。
髪が 命 あるも のの よ うに 総毛立 った
︽ シート ・坪 内逍 遥 訳︾ お 妃が お︷ル ビ か く
も の だ っ た 。だが 恐 怖と い う 恐 怖を な め 尽 し た
れ︸死去︷ ルビ︸に なりまし た。
いま、
殺 戮 の 思 い に 慣 れ 親 し ん だ こ の 胸 は 、 ど ん な 悲 女2が 弔電を 読む ように台 詞が始まる 。やがて 、
惨にも
女 1 の 弔電 を 読む台 詞 が 重 な る 。
驚 くと いうこ とが な い 。
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 怖 ろ し い と いう 味 は 、 女 1 ・ 2 ・ 蔵 王 三 山
36
刈田 ・熊野
五色
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女1
︽ マ ク ベス ︾ 時 の 記 録 の 終 の 一 語 に た ど り 着 く 。
昨日と いう昨 日は 、阿 呆の為に、塵に 返る死へ
の道を
照らしてきた一筋 の光。消えろ、消え ろ、束の
間のともしび、
/
︽ マ ク ベス ︾ い つ か は 死 ぬ 身で あ っ た 。
そ ん な 知 ら せを 聞 く と き も あ ろ う と 思 って い た 。
明日、明日、明日、
時 は 小 き ざ み な 足 ど りで 一 日 一 日を 這 うよ う に 、
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ ︷ ルビ き ぜ ん︸喟
然︷ ルビ ︸として やがては死 なねばなら なか
ったのだ。 いつかは 一度︷ルビ そ︸然︷ ルビ ︸
う い う 知 ら せを 聞 く べきで あ っ た 。⋮ ⋮ 明 日が
来 た り 、 明 日が 去 り 、 又 来 た り 、 又去 っ て 、
﹁時﹂は忍び足に、 。
人生は 歩き回る影法師、あわれな役者、
舞台 の 出のあいだ だけ 大威 張りで わめ き散らす
が、
幕が下 りれば沈黙 の闇。たかが白痴の語る
一 場 の 物 語 だ 、 怒 号 と 狂 乱 に あふ れて いて も 、
意 味 な ど な にひ と つ あ り は し な い 。
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 小 刻 み に 、 記録 に 残
る 最 後 の 一 分 まで 経 過 し て し ま う 。 総て 昨 日 と
いう日は、 阿呆共が 死んで 土に なりに行 く道を
照らしたの だ。消え ろ消え ろ、 束の間の︷ルビ
ともしび ︸ 燭火︷ ルビ︸!
人生は歩いてゐ
る 影 た る に 過 ぎ ん 、 只 一 時 、 舞 台 の 上で 、 ぎ っ
くりばった りをや って 、やがて ︷ルビ も う︸
最早︷ ルビ︸噂もされなくなる惨めな俳優だ、
︷ ルビ ば か ︸白 痴︷ ルビ ︸が 話す話 だ 、騒 ぎ
も 意 気 込 み も ︷ ルビ え ら ︸ 甚 ︷ ルビ ︸ いが 、
たわ いも な いも のだ 。⋮⋮
女2
蔵王三山
︽使者︾この目で 見たとおりを ご報告 いたしま
すが、
はて 、 どう申し 上 げたらよ いも のやら 。
︽ 使 者 ・坪 内 逍 遥 訳︾ 御 前 様 ⋮ ⋮ 確か に 見え ま
し たこ とを 御注 進 申 し 上 げる の で ご ざ い ますが 、
何 と 申し 上 げて ︷ ル ビ い︸可 ︷ ルビ ︸ いか 存
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︽ 使 者 ・坪 内 逍 遥 訳︾ も し 間 違 って を り ま し た
ら 、 ど ん な お 怒りで も 受けます る 。が 、 御覧 な
さ いま し 、 こ こ か ら 三哩 の 処を や って ま ゐ り ま
す 。 へい、 森が ︷ ル ビ いご︸ 動︷ ルビ ︸いて
︷ルビ ま ゐ︸参︷ ルビ ︸りま す 。
女1
/
︽ マ ク ベス ︾ そ れ が 偽 り な ら ば
お前を 干ぼしにして くれす 。真実なら
わ たし に 同じこ と を して く れて 構わ ん 。
待てよ 、信じすぎては危う いぞ。真実めかして
嘘を言 う悪魔めの二枚舌が そろそろ
怪し く なって きたから な。 ﹁怖れるな 、バーナ
ムの森が
ダンシネインに攻めてこぬ限り﹂、それが いま 、
ダンシネンに
向けて 森が動いた 。よ うし 武器を取れ、武器を 、
打 って 出 る ぞ 。
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じません。
女2
蔵王三山
︽ 使 者 ︾ 丘 の 上 に 立 って 見 張 り を い た し て おり
ましたとこ ろ、
バーナ ム の方に目 をやりま すと、それが急に、
ど うも そ の 、
森が動 き始めまし たので 。
︽ 使 者 ・ 坪 内 逍 遥 訳 ︾ 丘 の 上で 見 張 り を 務 め て
を り ま して 、 バーナ ム の 方面 を 見まし た とこ ろ 、
どうやら森が︷ルビ いご ︸動 ︷ ルビ ︸ き 出し
ましたやうに存じました。
女1
︽ マ ク ベス ︾ で た ら め を 言 う な 、 た わ け 。
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ ︷ ル ビ う そ︸嘘 ︷
ルビ ︸を︷ ルビ つ︸吐︷ ルビ ︸け!
女2
蔵王三山
女2・蔵王 三山
︽使者︾お怒りはごもっともでございますが、
で たら めで は
ございません。
こ の三 マイル 近く まで 迫って きて おり ます 。
あれは 動く森で ご ざ います 。
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︽日本語︾ミス、ミス、ミステーク。でも、だ
れが 信じる ん。
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蔵王三山
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︽ 日 本 語 ︾ なに ゆ うて ん の 、も うち ょ っと 待 っ
てや、ミス ター・ポストマン。
蔵王三山
︽日本語︾ちゃ う 、メール・ウーマンや。
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︽日本語︾ウソー !
女て か、信じら れへん。
女2・婦人 達
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︽ 日 本 語 ︾ も うえ え 、冗 談 は 顔 だ け に せ いや 。
センスないで。
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︽ 日 本 語 ︾ あ の⋮ ⋮ 悪 う 思 わ んと いて な 、 時 間
が な いんや けど 。
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︽日本語︾勘弁してや
女2
︽日本語︾女や
女1
︽日本語︾女?
郵便局員 ?
それホンマ、ミ
セス ・ロビ ンソン
女2
︽ 日 本 語 ︾ なに ゆ うて ん の 、 ミ セ ス ・ ロ ビ ンソ
ンとはだれや。
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︽ 日 本 語 ︾ サ イ モ ン & ガ ー ファ ン ク ルで ウウ
ウ ー、 ヘヘ ヘイ、ヘ ヘヘイ⋮⋮
蔵王三山
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︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ も し 嘘 だ と 、す ぐ 手
近の木に︷ ルビ き さ ま ︸ 汝︷ ルビ ︸を 吊るし
て 、餓 死す るまで ︷ ルビ う︸打︷ ルビ ︸ッ
︷ルビ ち や ︸棄︷ ルビ ︸って おくぞ。 事実な
ら 、俺を︷ ルビ さ︸然︷ ルビ ︸うし た って
︷ ルビ か ま ︸ 関︷ ルビ ︸はん 。⋮⋮俺 の 決心
が ゆ る んで 、 疑 いが 起こ り か け た 、 悪 魔 め が 、
両 義 語で 、 ︷ ルビ ほ んたう ︸ 事 実︷ ル ビ ︸ら
し い嘘を 吐 いた のか も 知 れ ん 。 ﹁ バーナ ム の森
が ダ ン シ ネ ー ン へや って 来 る ま で 怖れ る に は 及
ば ん 。 ﹂ と こ ろが 、 今 、 森 が ダ ン シ ネ ー ン へや
って き た 。 ⋮ ⋮ 武 器 だ 、 武 器 だ 、 さ ァ 、 打 って
出ろ!
女2
⋮⋮
と、再び電話に。
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︽ 日本 語︾ ミセス ・ロビ ン ソ ン 、 顔 は 関係 な い
んち ゃ いま す か 。
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︽ 日 本 語 ︾ ジェ イ キ ン ス軍 曹 、待 て !
何処に
行 くんや 。 それは脱 走や ど 。
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と、急に女2へ。
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︽日本語︾ルー。 プルルー 、リリリン 、もしも
し 、 あ の用 事 中 な ん で 、ち ょ っ と 待 って く だ さ
い。お願い。
女1
︽ 日 本 語 ︾ も し も し す いま せ んで し た 。 御用 は
何でしょう 。あの、 日本語喋れますか?
あた
し ダ メ な ん で す け ど 。け ど 関西 語 や っ た ら いけ
ま す 。 いえ 、 関 西 バ ル ブ 弁 や あり ま せ ん 。 関
西 語で す 。 問 題 な け れ ば 関西 語 で お願 い し ま す 。
は、ありが とうござ います。
半 音 お声 が 、 いつも よ り 下 が って います 。 お 体が 悪 い
ので は あり ま せ んか ?
⋮⋮マスター! それではお言
葉 に 甘え 、 関西 弁 で 報告 さ せて い た だ き ま す 。 いえ い
え 、恐れ い ります 。 わ たし なん ぞは 、 寄 る 年波 に負 け
まして 、と んと いけ ません。
女2
︽ 日 本 語 ︾ な んで す ね ん 。
女1
はっ!
大変 失礼しまし た。最近通信事情が 安定せず 、
ときおり河 内弁が 乱 入して参り ます。一時の混線で す
ので 、ご容 赦くださ い。はっ!
熱 海よ りこ ち ら に 参
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と 、 女 1は 電 話 の 受話 器を と る 。
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蔵王三山
︽ 日 本 語 ︾ ミ セ ス ・ロビ ン ソ ンや な い 。も う 好
き に せえ 。 知 ら ん 。
女1
︽ 日 本 語 ︾ ご め ん 、ち ょ っ と 待 って 。 そこ に 居
てや。
ます 。生ぬ る いので あります 。 たかだか 一国の中で 、
標 準語 の 位 置を 狙 っ て な んと い たし ます か 。マス タ ー !
関西語は 独立しな ければなり ません。独立してこ そ
犠牲者は浮かばれます。また、 それでこ そ独立国、 関
西は国語を 持つこと になるので あります 。はい、ご 安
心 くだ さ い 。こ の ほ ど 憲 法 草 案 を 起 草 い たし まし た 。
なずけて 生駒草稿。前文、本文 、付記とも一文﹁す べ
て は 疑 いう る ﹂で あ り ます 。も ち ろ ん進 行 中で あり ま
す 。 関西 市 民 希 望 者 で 投 票 を 行 って おり ます 。 得票 6
433、ただいま一 位﹁レット ・イット ・ビィ﹂。五
票 差で ﹁ 六 甲 おろし ﹂ 、 十八 票 差で 三 位 、河 内 音頭
﹁ 河 内 十 人 斬り ﹂ が 続 いて お り ま す 。 い ず れ か が は れ
て 、市 民に 口ず さま れる 国歌に なろ うと 、二言が あ る
も ので は あ り ま せ ん 。 今 の 私 の 日々 は 、 独 立 記念 日 の
式典で 、 供 される﹁ マク ベス﹂ 上演の練 習に余念が あ
り ま せ ん 。 は い 、 不 肖、 語 呂 巻 力 が ﹁ マ ク ベス ﹂ を 演
じます。国家独立とは、影に日にさまざまな軋轢が あ
る も ので あ り ま す 。 強 引 な戦 略 戦 術 も ご ざ い ま す 。 不
肖、語呂巻 力、す べて の責 任を とり、人 民裁 判の断 頭
台 の露 と 消 え る 覚 悟 で あります 。まこ と 私に相 応 し い
マクベスの 最後で あります。私はついに そのようにし
て 、マク ベ ス として 関西 市 民を 信 頼し 、 その市 民 の 未
来に希望を 託すもので あります 。どうして 私だけが 生
き の べら れ ま し ょ う か ?
女2
ハイ ハイ
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りまして 、 はや 二 十 年と なりま す 。つつ が な く勤め に
励 んで おり ます 。と は 申し まし て も 、 い ま だ 関西 弁 に
なじめず、 不 肖、︷ ルビ ごろ まきち から ︸語呂巻 ︷
ルビ︸力不 徳のいたすところで あります 。何を 申さ れ
ま す 。 いえ いえ 、 大 阪 出 身 の マ ス タ ー の 、 足 元 に も 近
づ け ま せ ん 。 近づ く ど こ ろ か 、 大和 川 の ヘド ロ に 足 を
取 ら れ て 、 道 頓 堀 川 から 浮 か び 上が れ な い 始 末 で あ り
ます 。女子 供 のいたす電子 飛脚 に 手を染 めまし たが 、
キ ー ボ ード の 上で 、 器用 す ぎ る 私 の 指 先 が 、 素人 同 然
の駆 け出し 漫才師の 持ち ネ タよ り早 く、 眼にも 留ら ず
す べり ま く る も ので す か ら 、 関 西 弁 イ ン プ ッ ト メソ ッ
ド が ゆ うこ とを 聞 い て く れ ま せ ん 。 ノ ー ト パソ コ ン な
ど 川 原 の 草 ス キ ーで 遊ぶ 、 袖 口 が 青 鼻 こ す り 付 けて テ
カ テカに 光 った悪ガ キ に くれて や るのが ち ょ うどで あ
り ま し た 。 それ 以 来 私が 、 口 ず さ んで お り ま す の は 関
西 語で あり ま す 。
マス ター!
ただいまよ り関西語 にきりかえ ます。
女2
関西 語 !
女1
そうで ありま す 。マス タ ー !
ご 記憶で あり ましょ う
か?
ちょ うど十年前の一月十七日、午前5時46 分.
関西弁が 関西語にな った瞬間で あります 。東京一極 集
中の弊害、 地方都市 無視の防災体制の遅れがもたら し
た 、不 条 理 な事態 と 犠 牲 者で あ り まし た 。ご 存知 の よ
うに昨 今も 、 日本の標 準語を 東 京弁から 、関西弁に と
いう法案が 審議されて いますが 、関西語 は自立しなけ
れ ば な り ま せ ん 。 関 西 は 東 京 の 属 国で は な い ので あ り
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と 、 女 2 は 電 報を 渡 す 。祝 電 で ある 。
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蔵王三山
︽ マ ク ベス 夫 人 ︾ 皆 さ ま お 休 み な さ い ま し 。
︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾で は 、 ど な たも
御 機 嫌よ う !
女2・蔵王 三山
︽レ ノックス︾ それで は失 礼を 。陛下 のご回復
を
心より お祈りいたします。
︽レ ノ ク ・坪 内逍 遥 訳︾ さ よ う なら 。 陛下が速
やかに御全快遊ばされますよう!
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と 、 女 2 は 電 報を 渡 す 。 弔 電 か ?
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女2
と り あえ ず 今 夜で 最 後で す 。 残 業 で や って ん や な い の 、
あたしの好意なの。オールドイングリッ シュ勉強なん
で あた し が 、 せ ん な ら ん のや 。 そや ろ 、 昼 に 配 達 指 定
し て 悪 いこ と な い や ろ 。 別 に あ た し が 届 け ん で も え え
や ん 。 自 分 で 自 分に 電 報出す の は 、 そら あ ん た の勝 手
や さか い文 句 は あり ま へ ん のや 。で も 、 今 後一 切 、 あ
た し に 届 け い な ん ぞ 、 そ ん な 無 茶 ゆ わ ん と いて 。よ ろ
し い な 。民 営化 な っ て も あたし はし り ま へんで 。
女1
︽ 日 本 語 ︾ それ は 関西 語 ?
蔵王三山
︽ 日 本 語 ︾ 関西 バ ル ブ 弁 や
?
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女1
︽ マ ク ベス 夫 人 ︾ い い の 、 話 し か け な いで 、 ど
んどん悪く なります から 。
質 問 す る と いら だ つ ば か り 。 す ぐ に お 引 き 取 り
を。
退出の順序などはどうか一 切お構いな く。
さあさ あ、早速に 。
︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ ど う ぞ ︷ ル ビ
な ン に ︸ 何 ︷ ル ビ ︸ も 言 わ な いで 下 さ い 。 だ
んだん様子が悪くなる。問答を するに、 尚ほ
︷ルビ げき︸激︷ ルビ ︸しま す 。⋮⋮ す ぐお
開きにしま せう。退席 の順序な んぞにゃ ︷ルビ
か ま ︸ 関︷ ルビ ︸は ず、さ、 す ぐに お︷ ルビ
さが ︸退︷ ルビ ︸り 下 さ い。
女2
︽レ ノックス︾ それで は失 礼を 。陛下 のご回復
を
心より お祈りいたします。
︽レ ノ ク ・坪 内逍 遥 訳︾ さ よ う なら 。 陛下が速
やかに御全快遊ばされますよう!
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と 、 女 2 は 電 報を 渡 す 。祝 電 か ?
刈 田 、 熊 野 、 ︽ マ ク ベス ︾ 昨 日 と い う 昨 日は 、 阿 呆 の 為 に 、
五色は投げる。
塵に返る死 への道を
照らしてきた一筋 の光。消えろ、消え ろ、束の
間のともしび、
女2
顔 ほ ど や な い 。 な に ベ ン チャ ラ ゆ うて や 、 知 ら ん知 ら
人生は 歩き回る影法師、あわれな役者、
ん、知ら んで
舞台 の 出のあいだ だけ 大威 張りで わめ き散らす
蔵王三山
あ ん さ ん に は 敵 い ま へんが な 。
が、
幕が下 りれば沈黙 の闇。たかが白痴の語る
と 、 女 2 は 次 の台 詞 を 喋り ながら 退 場 。
一 場 の 物 語 だ 、 怒 号 と 狂 乱 に あふ れて いて も 、
︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 小 刻 み に 、 記録 に 残
女1・2・蔵王三山
る 最 後 の 一 分 まで 経 過 し て し ま う 。 総て 昨 日 と
いう日は、 阿呆共が 死んで 土に なりに行 く道を
照らしたの だ。消え ろ消え ろ、 束の間の︷ルビ
︽ マ ク ベス ︾ い つ か は 死 ぬ 身で あ っ た 。
そ ん な 知 ら せを 聞 く と き も あ ろ う と 思 って い た 。
ともしび ︸ 燭火︷ ルビ︸!
人生は歩いてゐ
る 影 た る に 過 ぎ ん 、 只 一 時 、 舞 台 の 上で 、 ぎ っ
くりばった りをや って 、やがて ︷ルビ も う︸
︽マク ベス︾時は小きざみ な足どりで 一 日一日
を這うように、
最早︷ ルビ︸噂もされなくなる惨めな俳優だ、
︷ ルビ ば か ︸白 痴︷ ルビ ︸が 話す話 だ 、騒 ぎ
も 意 気 込 み も ︷ ルビ え ら ︸ 甚 ︷ ルビ ︸ いが 、
︽ マ ク ベス ︾ 時 の 記 録 の 終 の 一 語 に た ど り 着 く 。
たわ いも な いも のだ 。⋮⋮
と 、 女 1 は 手 に 持 つ 電 報を テ ー ブ ル に 叩き つ け
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女1
︽ 日 本 語 ︾ええ や ん 。じ ょ ず や ん 、 顔 と 同じ よ
うに綺麗や ん。
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た 。 ﹁ バ ン ﹂と い う 音と 同 時 に 音楽 。
と、同時に刈田・熊野・五 色のハンド ・クラッ
プ静かには いる 。
女1
大阪城は!
女1
いま で も 森 之 宮か ら 京 橋 まで 、 電 車 は 地面 走 って る か ?
な んで か 知 って る か ? そ れ は な 、 高 架 に す る と 、 ご っ
つ い 塀が あ る の に 、 電 車 の 窓か ら 砲 兵 工 廠 の なか 覗 か
れ るち ゅ う わ けや 。 難 儀 なこ っちゃ 。で も 最 後 の 最 後
の 日 に 、 そ こ も 廃 墟 に な っ た 。 鉄 く ず の 山や 。 見晴 ら
し のえ え こ ち ゃ ろ 。 だか ら 、 1 ト ン爆 弾 の 雨 の 中で も
焼け落ち な んだ、大阪城は、一 際高くみえるやろ。
44
51
29
女1
紅 蓮 の 炎 と 強 風 が 荒 れ 狂 う な か 、 おばち ゃ ん が 燻 って
いる 手を 差 し 出し ﹁ 小 便で 早 く 消 して ﹂ と 叫ぶ んや が 、
恐 怖 の なか 、ち じ み 上が り 、頑 張 って も で ま へ んで し
た。
女1
混 線 、 ブレ イ ク 、 混 線 で す 。
女1
三 月 か ら 八 月 まで お っ き な 空 襲 は 八 回 あ っ た 。 B が こ の と き 他 の ご 婦 人 たち 、 暗 闇 の 中 随 所 に いる 。
ハンド ・ク ラッ プは 、女1とご 婦人 たち のする
P ム ス タ ン グ の 護 衛で き よ っ た 。 いち ど き に 二 百 も
全員のハン ド ・クラ ッ プと なって いる 。
三百もな。 それが油脂焼夷弾す き放題、 無差別にばら
撒 く 。 そ れ はも う ⋮ ⋮ 猛 火 と 強 風で 止 ま って る 路 面 電 ハンド ・クラ ッ プ 静か に フ ェ イド アウ ト して い
く 。 同 時 に 、 ご 婦人 たち のか ま び す し い ハ ン グ
車が 揺れる んや 。⋮ ⋮数え 切れ ん人が 死 んで も た 。 何
ルの台詞の声量が リ ゾ ルブして 大きくなり、騒
も 無 い 見渡 す 限 り の 焼 け 野 原 。 うち の 近 く の 大川 の 水
音と なる 。急に 止む 。
面 に は 焼 死 し た 人 の 亡 骸が 浮 か んで た 。
な お 、 山ち ゃ んこ こ に は い な い 。
女1
混線やて !
女1
最 後 の 八 月 十 四 日 は 1ト ン爆 弾 の 雨や 。城 東 線 の 京 橋
駅⋮⋮
婦人達
︵ 騒 音のハ ン グル︶⋮ ⋮
!
女1
城東線?
釜田
︵ ハ ン グル ︶ さー行 き ま っせ 。も うす ぐや ! 今 夜も い
女1
森 之 宮か ら 京 橋走 って る や ろ 。
てこましま っせ。鉄 、ブリキ、ト タン、 真鍮、何で も
女1
環状線。
ええからな 。袋一杯 なったら、 闇夜にま ぎれて消え る、
女1
ほ う 、 電 車 に 乗 って ま で 銭 勘 定す る よ う に な っ た か 。
ええな。
結 構 なこ っ ち ゃ 。⋮ ⋮ そ の 京 橋 駅 に 一 ト ン 爆 弾が 落 ち
鍋島
︵ ハ ン グル︶ 教え と いた る 、 今 日 の 匁計 り の 値 は銅が
た んや 。 数 百人 が 死 んだ 。 狙 い は 大 阪 城 一 帯 の 大 阪 砲
一 番や っ た 。が 、ス ケ ベ根性出して 袋に つめ たら 、 身
兵工廠やった、壊滅や。
動 き と れ へ んで 。助 太 刀 当 て に し た ら 、 互 いに 命 取 り
;
︻ 注記2 ︼台本中の英語の台詞は﹃マクベス﹄︵大
場建治 刊・研究社︶からの引用である。また、一部
﹃小説・熱海殺人事件﹄︵つかこうへい 刊・新潮社︶
からも引用した。明記して謝意を表す。
45
;
︻ 注記1 ︼ ここでの観客は日本人を想定している
ので、発せられる英語は観客に言語として届かないで
あろうと容易に想像できる。
そのように想定している。つまり、英語を俳優は喋
っているのだが、何を言っているのか解らない、とな
るのだろう。そこで対訳の字幕を用意することにしよ
;
;
;
鍋島・釜田は退場 。場は刈田・熊野・五色の静
か な複雑な ハンド ・ クラッ プと なって い た。そ
のリズ ム が 、ド アを ﹁ド ンド ン ﹂と 叩 く 、 音と
なる。﹁ド ンド ン﹂ 。
う。すると、日本人の俳優が演じ、英語を喋る舞台を、
日本人が観ながら、日本語の字幕を見るということに
なる。
ここでの字幕であるが、黒衣によるメクリで行う。
であるが、黒衣は順当にメクリをめくる必要はない。
しかし、それはあたかも順当であるかのように装わな
ければならない、ということが注意点である。
なお、邦訳は坪内逍遥のものを使用しよう。なぜ坪
内逍遥の邦訳であるかは、小田島雄志の訳より、現代
のわれわれが単に分かりにくいからに過ぎない。
以上の結果、観客は坪内逍遥の邦訳に注視すること
を諦めるかも知れない。この諦めるというプロセスを
経て、台詞が古英語であるという違和感を払拭しうる
だろうか。であるなら、俳優が台詞を喋るという演劇
営為を、少しは対象化できるはずである。
;
や 。オ カ マ はオ カ マ ら し く 自 分 の面 倒 は 自 分で 見る 。
ええな!
婦人達
︵ ハン グル ︶ええ よ !
釜田
︵ ハ ン グル︶ 本当や な !
婦人達
︵ ハン グ ル ︶オ カ マ に 二 言 は な いよ !
釜田
︵ ハ ン グ ル ︶ オ イド の 穴 が ゆ る ゆ る に な って 、 皺 くち
ゃ に な って も !
婦人達
︵ ハ ン グ ル ︶ も と も と 皺 くち ゃ や !
五色
︵ ハ ン グル︶ 今 夜は 、人 の死に 水 取 ったら あ か ん。
刈田
︵ ハ ングル︶ 明日の朝、 猪 飼野の くず鉄屋で 顔合わせ
ら れ たらめ っけも の 。
熊野
︵ハングル︶ 大阪府警のガキども に撃ち殺されるもオ
カマの花道 。
婦人達
︵ ハン グ ル ︶ 命 が あ っ たら ま た 会 い まひ ょ か !
刈田 ・ 熊野・五色 のハンド ・クラッ プで のド ア
を ﹁ト ント ン﹂ 。
女1
﹁ド ンドン﹂ 叩か んかて ベルついて ますよ 。
刈田 ・ 熊野・五色 のハンド ・クラッ プで のド ア
を ﹁ド ンド ン﹂ 。
女1
﹁ ド ン ド ン ﹂ 叩 か ん か て 聞こ え て る って 、 ど な た な 。
ド アを ﹁ド ンド ン ﹂と 叩 く 音 。次 のド アを 叩 く
音もにも 、 刈田 ・熊 野・五色の ハンド ・クラッ
プが 重 なる 。
女2
初め て お伺 い し ますが 、 後藤は ん ッ 、で っしゃ ろ !
よ う お聴き 、こ れが ド ンド ンド ンや 。
半身阪 神ファンの なので、 帽子、ハッ ピ、メガ
ホ ン 、 タオ ル の 半 分 が ト ラ 模 様 の いで た ち で 登
場 。 大 阪 の おばちゃ んが よ く持 つ 買 い物 籠も 持
つ 。 襤 褸 を 羽 織 って いる 。
女1
半身阪神ファンの田淵は ん?
蔵王三山
阪 神 ファ ン のレ ン タ ル おね ぇ ー さ んで ー す 。 N P
O 脱 籠 城 か ら や って ま い り ま し たで ー 、 ワ レ 。
女2
何や 先客で っか、ほなら 出直そか な。
女1
で 、 そのハン シンハンシンは最初が 阪神、それとも 半
身?
46
[
5
章
]
女1
だか ら、近所 迷惑やて 。
女2
こ れがトント ントンで 、ドンドンドンはこ れや 。
女1
は い は い、よ う お越 し 、 だ れで も か ま んか ら お入り 。
鍵 開 いて ま す 。
女2
ハイ は一回や 。
女1
ハイ !
女2
︵ド ンドンと 叩く︶これ は!
女1
ト ン ト ント ン や
女2
後藤はん、ま だ見ぬあん たにお聞 きしますが 、いった
い 耳 掃 除 い つ し た ん や 、 お と と いか ?
女1
母 さ ん お 肩を 、
女12
ト ント ント ン!
女2
お邪魔します 、こ んばんわ。半身阪神ファン の田淵で
す 。盆 と 正 月一 緒 に 運 んで き ま し たで 。
)
(
)
(
女2
ど う ゆ うふ う に 、
女1
とこ ろで田淵 はん、
女2
田淵 ほどきれ いな放物線を描くホームランバッターは
おら へ な ん だ 。で も な 、 抗 議 す ん の は ボ ー ルひ ろ う て
からやて 、 試合続行 中や ん、 そや ろ 、泣 く泣 く西 武 に
奉公出した んは親心やて 。それを友情に 応え たかて 、
帰 って きて の ヘッ ド コ ー チは な いや ろ 。 男涙 は 忍 ん
で 、耐え て 、 意 地で も 監 督や ろ 。で 、 岡 田 に 、も う ち
ょ っとス マ イ ル せや ゆ う た っ た んや 、努 力 は 認め る 、
笑 窪 ま で つ くれ ゆ わ んか ら 、ち ょ っと は 白 い 歯 み せ て
のスマイルやろ。
女1
歯 磨 く の わ す れ た んち ゃ う 。
女2
ムッ スとすんやったら虫 歯なおしてからや、 奥歯かみ
締めら れ へ んや ろ 。 今 日の 六甲 おろし は ヤ ケに 身に し
みるなあ。
女1
淵ッ !
ブチッとくるぞ!
女2
静 か に し い 。 何 の ため に こ ん な に 喋り なが ら 無 口に な
って る んか 分か ら ん や ん ?
女1
結構なお手前ですなあ。
女2
抹茶に茶柱の心境で、明鏡止水。
女1
誰が 千 姫や 。
女2
う ま いこ と ボ ケ ま ん な あ 。 は い は い 、 気 い す ん だ ら シ
ャラップ。
女1
⋮⋮
女2
スト ラ イクや な。間違 い ない、キ ンコンカンや 。
女1
今、金柑塗った?
47
)
(
女2
順 番 が チャ う や ろ 。何 の 御用で す か ?
が 世 間や ろ ?
あるいは、 名のら んか い?
それが、エーと、エーと
切符やろ。
蔵王三山
あつは、ぷふ い、キ マイラ 。
女2
あんたら 、何 しにきたんや
!
エーと切符や
女1
切符 ?
女2
仕舞 いに怒るで、エーと チケット や 。
女1
も う 入 って 来 た んや か ら 、 戸 ﹁ と ﹂ は イラ ク 。
女2
イラ ク ?
女1
戸 ﹁と﹂ は 、イラ ン 。
女2
そうや エー⋮ ⋮ チケット や ろ 間 エ チケット や 。 バン
ザイ!
こ んな長いネタ振り回わさして 仕舞いに 怒る
で!
蔵王三山
おも ろ な いや んけ、 ワレ 。
女1
あんただれなん。
女2
名 前 な んて ⋮ ⋮ こ こ に 居 る だ け で 幸 せ や 。
女1
でッ !
女2
こんばんわ。 半身阪神ファンの田淵でんねんやわ。観
て わから ん か 、ここ まで 心 的領 域を 形 象 化 さして 、 こ
れ 以 上 な に 説 明 せえ ゆ う んや 。 慮ら んか い 、標 準 語 で
喋 って んと ち ゃ うや ろ 。 見て の と う り 傷 心 の 身 や 。
女1
へー
女2
なんなんその感嘆疑問は、
女1
立派 や なーて
女2
何が ?
女1
大変 や なーて
しょうか?
畳 表 の メが 潔 く 擦 り 切 れて いるで は あ り
ませんか 。ウソー、わたしは畳 表のメに 、目を疑いま
し た 。田淵 は ん 、 私 の畳 表 の メ は 、 い っ た いどこ に 消
え て い っ た ので し ょ うか ?
女2
畳 の 淵 踏 んで ま っ せ 。
刈田・熊野・五色も反応。
女1
一つ 一つ記憶を 刻みつけ た、あの 私の畳表の メはもう 、
帰 って こ な い ので し ょ うか ?
畳表のブラックホール
に飲み込ま れた、私 の畳表のメ はいま、 どこを さま よ
って いる ので しょ う か 。き っと 私の記憶 が多す ぎて 、
比 重が 極 限 に 達 し 、 ビ ッ グ バン を 起こ し たに違 い あ り
ま せ ん 。限 ら れ た 思 い出で よ か っ た ので す 。
女2
も うええか、で 、 耳掃除 いつした んや 、や っ ぱ一昨 日
か?
女1
抱え き れ な い 思 い出を 、 こ れで は 垂 れ 流す し か ありま
せん。一つ の畳表の メに一つの思い出を そっとしま っ
て 見せまし ょうか。泣くに泣か れぬ天満 橋、枯れて し
まえ と星を 見上げた 州崎橋、それでも追 うに追われ ぬ
水分橋、数えて 収め た八百八橋の数ほどに、数に限 り
は ある た と え 、 そ れ なの に 、こ の 先 、 垂 れ 流 さ な あ か
んとは、そら殺生や 。一足づつ に消えて 行 く。夢の夢
こ そあはれ なれ。あ れ数 うれば 曉の、七 つの時が 六 つ
鳴りて残る一つが 今生の、鐘のひびきの聞きをさめ 。
女2
キンコンカンや。
48
女2
姉ち ゃ んあん ただれや 。
女1
表札みたやろ、後藤さんです。
女2
後藤︵﹁ゴッドー﹂と発 音︶はん ?
なんか 他所いき
や な 。 ホ ン ト は 仙ち ゃ んや ろ 。
女1
仙ち ゃ ん ?
女2
わて が田淵は んで おます 。あんたが 仙ちゃ ん 。収まり
が 非 常にえ え 。なんでや ろ 。
女1
な ん で す って ?
向か いが 山本は んやから 、 奇跡で っ
せ。まった く本当のような話や な。田淵 はん、あんた
筋 書き の な いド ラ マ 運 んで き た んか ?
女2
とこ ろで 後藤 はん。
女1
仙ち ゃ ん 。
女2
いつ の間に。
女1
七回の裏にはすでに。
女2
とこ ろで 仙ち ゃ ん 、 あ ん さ んいっ た いここ に 住 んで 何
年になりま す んや 。
女1
シャ ワ ー の 水 が プ チ パ チ プ チ の 頃 か ら 、 五 年 。
蔵王三山
ウソ吐け、ワレ!
女2
チャ チャ 入 れ る んも た い が いにし なは れや 。 な んだ ん
ね ん 、 用 済 み なら さ っ さ と 帰 り な は れ 。
刈田
こ の 人が 私ら を 必要 とし て ます ん や な いか 。
熊野
そうや ないか 。
五色
阪 神 フ ァ ン の レ ン タ ル お ね ぇ ー さ んで ー す 。
女1
ウソつき ました。十 年一昔、 住めば都で 、光陰矢
の如し、畳 のメ七回数え 終わり ました。八回目に突 入
した今年の春、愕然としたのは、あたし だけでしたで
女1
こ ら 大変や 。
熊野
あ ん たこ そ 、 何 し に き た ん 。 同 じ 阪 神 フ ァ ン の 好で ゆ
う た る が 、 こ こ いら で 表で て 石 投 げて み 、 阪 神 フ ァ ン
に ぶ っ つ か る ん や 。 阪 神 フ ァ ン か さ に き て 、 ゴ チャ ゴ
チャ ゆ う ん や っ たら 、 顔 洗 って 出 直して こ な あか ん わ
な。
五色
あの な、優勝でけなんだ 愚痴、こ んなところで ゆうて
も し ょ う も な いや ろ 。家 帰 って 、 来 年 の 開 幕 ま で 布 団
か ぶ って 寝 と き 。
女1
あの なあ、も う何 年も前 から 、ガ ス 止まって んや 。何
心 配して た んや ろ 。
女2
何 ブ ツク サ独 り 言 ゆ うて んや 。
女1
田淵 は ん、 あ んたが ブツ ク サ独り 言 ゆ うて た んや ろ 、
訳わから ん 。
女2
い つ で も 訳 わ か る と 思 う な よ 。 闇 夜 の 晩 か て あ る んゃ 。
で も 、こ の キ ン コ ン カ ン の 情 緒 は 嗅 ぎ 分 け な あか ん わ
な 。 は よ 来 いよ キ ン コ ン カ ン 、 危 な い ぞ キ ン コ ン カ ン 、
飛び 込む な よキ ンコ ンカ ン 。耳 澄ま さ ん か 、ここ は 耳
澄 ます とこ や ろ 、 胸 に 手当て る 。 な んで 細 か いとこ に
手を抜くんゃ 。弓手が下で 、馬 手が 上、静かに当て る
んゃ 。こ こ は ぐ れ た ら 一 生 も ん や 、 ワレ 根 性 入 れ た れ
よ。
女1
いつ の間に河 内弁になったん?
女2
細 か いこ と ゆ う た ら あか ん 。 可 愛 げ な く な る 。 夕 焼 け
小焼けでキ ンコンカ ン、ハイ!
女1
ハイ !
み な さ ん 最 高で す か !
49
女1
田淵 はん、ゴーンやろ。
女2
ま た て ん ご ゆ うて 、 あて は な 、こ う 見え て も 前 は 、 近
鉄 ファンや った んや 。
蔵王三山
あて ら も や 。
女1
もう昔の話や 。
蔵王三山
それで 、こ の半身阪 神ファンか いな。
女2
物 事 は 奥 ま で み いよ 、 ま あえ え 、 つ ま り や な 、こ のキ
ンコ ンカ ン が 聞こえ んて か 。
女1
え、何が ?
女2
聞 く 気 な いや ろ 。何 年住 んで ま ん のや 。 申し 訳な いや
ろ。
女1
は ば か り なが ら 、 共 同 便 所の 水 洗 の 音 、 隣 の 学 生 の 話
し声、天井裏を駆け 回るトムと ジェリー 、階段ギ シギ
シ軋む 音、 丑三つ時 に、どこと なく聞こ えて くる人 生
の た め 息 、 も う 申 し 分な く過 不 足 な く そ ろ うて 充 分 や
から、文句はありま せん。
女2
ご立派やが な 、これは電 車や 。
女1
ツレ イン ?
女2
間違 いなく、 近鉄電 車の 踏み 切り の音や 。え え なあ、
こ うや って こ こ に い る だ けで キ ンコ ンカ ンや ろ 、涙 で
る や な い か 。こ の家 はえ え 家 や 、 ア ン さ ん は 幸 せ も ん
や 。人生に 感 謝せな な。ジーンと心に沁みるな。ま る
で パチンコ 屋で 聞 く 蝉時 雨や な あ。
女1
訳わから ん。
蔵王三山
シュ 、 シ ュ 、 シュ⋮ ⋮ シュ 、 シュ 、 シュ ⋮⋮
女2
お 湯 沸 いて ん で 。ヤ カ ン か け っ ぱ なし ち ゃ う か ?
女1
女2
女1
女2
女1
それ 以外あり ま へんや ん 。
一撃 ッ!
ノースイーストッ!
北斗 !
そや な、 東南 がこ っち や から 、 ケ ン シロ ー、 北東はこ
っち や ッ !
女2
ス ト ラ イク ツ ウ 。キ ン コ ンカ ン や ⋮ ⋮ 間違 い な く 北 東
の彼方から 聞こえるキンコンカ ン。
蔵王三山
待てーっ!
ば あち ゃ ん 、こ ん な ん 楽 し いか 。え
ら い立派 に スト イッ クや な いか 。
五色
ノ ー ス イ ー ス ト ッ !で 、 北斗 !
熊野
おと な し ゅ う に 聞 いて て も 、 メ チ ャ ク チャ こ じ つ け ま
く って んや ん 。
刈田
ツッ コ ま なしゃ な いや な いか 。
熊野
あ ん た 、 いや ら し いで 。
五色
そうや、いうまでもなく品位の問 題や 。大阪 のおばち
ゃ んのレ ベ ル そのま まや ん。向 上心とか 克 己心もて や 。
刈田 ・熊野
うち ら にも 仕事 さ せなさ い 、汗を かか せなさ い 。
女1
こ ん な んえ え んや ろか 。
蔵王三山
ええないっ!
と 、 女 1を 押 し 戻 す 。
女2
疑うな!
疑え ば、屋根まで 飛んで 、壊れて 消え た人
生 も 、 単 な る 影 法 師 。 バ ー ム グ ロ ー ブ が 動 いて こ そ 人
生や おま へ んか 。
50
女2
⋮ ⋮ 悲 し い 。 仙ち ゃ ん 、 あ ん た そ ん なこ と 口 に し て 、
恥ずかしさ に押しつぶ されるや ろ。わか ります 。わ か
りますが それを いっちゃ お終いよ。
女1
言 う に 言 わ れ ぬ 信 濃 橋 、 け ど 、 恥 ず か し さこ ら え 、 い
わ な あか ん と き は 、 殺 生や け ど いわ な あ か ん 。 ため ら
う 街 に 、 傘 も さ さ ず に 濡 れ 鼠 、 チュ ウ と 鳴 いて 、 大 見
得き って 宙 返り 。蛙 が 鳴くから かえ ろ、 ハイッ !
女2
泣 き た い の は あ ん た だ け や お ま へ んで 、で も 体 は 鍛 え
なはれ⋮⋮
女1
半信 半疑の田 淵はん。
女2
半身阪神ファンの田淵や 。
女1
それでも 半信 半疑の田淵 はん。
女2
ホ ン マ ノ のこ と は こ そ っ と 、 聞 こ え ん よ う に いえ 。
女1
悲し か ったら 泣きなさい 。
女2
そうや 、半信 半疑で 半身 阪神ファ ンの田淵で す 。前は
近鉄 ファンで ありま し た、も う 昔の話や 。全身阪神 フ
ァ ン に は な り き れて ま せ ん 。 そ ん な 田 淵 で す 。
女1
幸 せ は 歩 いて こ な い 、 手 のひ ら に 太 陽 を 、 三 歩 進 んで
二 歩下 が る 。真 っ 赤 に 燃え る 君 の 血 潮 、 人 生 は ワ ン ツ
ウ パン チ!
女2
ワ ア チャ 、 ア チャ 、 ア チ ャ !
タッ タッ タッ タッ タ、
百 裂拳 !
お前はも う死んで いる。
女1
もしかして、それケンシロー。
女2
さも ありなん 。正確に。
女1
北斗 神拳 !
女2
はい、出まし た。
51
女1
カンカン。
女2
あか んて 、 阪 神も 近鉄も 同じや っ たら 、 メセ ナ わから
んなんや ん 。
女1
J R も 南 海も カ ン カ ン 。
女2
仙ち ゃ ん 、 あ ん た なに ゆ うて ん の 、し か り し いや 。 い
つものテン ポと違うというのが わかるんや ったら、し
っか り せえ な あか ん や ろ 。 判る んや ろ っ !
女1
京阪も阪急もカンカン。
女2
仙ち ゃ ん 、 仙 ち ゃ ん て ⋮ ⋮
女1
や っ ぱり 、 大 阪は気 楽 に ジャ ン プ し ます !
女2
体鍛 えて 、あ んじょうお気張り。
女1
⋮⋮
女2
若 者 よ 、 体 は 鍛 え て おけ 。⋮ ⋮ ど う し た ん 、 仙ち ゃ ん
ッ!
女1
あんた何しにきたん!
女2
阪神電鉄の軌間は
㎜ 。つまり 軌道 間、二 つのレ ー
ル の 間が な 、 少々 大 き い ん だ す 。で 安 定 し て る か ら 、
列 車 の 通 る 音が 小 さ い の んや 。
女1
線 路 に 継 ぎ 目 が な いから や ろ 。
女2
何で 鬼の首と った桃 太郎 みたいに ゆん。楽し いか ?
そら 新 幹線 のレ ール の 長さは 1 5 00m も あるや ろ 。
それが ど な いし たん 。そら 岡山 には新幹 線 は 止まる や
ろ 。 それが ど な いし た ん 。 あ ん た の おか げか 。
女1
じ ゃ 阪 神 電 車 は ど の くら いな ん 。
女2
な ん で 、 近鉄 電 車て 先に 訊 か へん の 。美 味し いとこ は
後に残 そうよ 。
5
3
4
1
刈田
この 方にはその人生がおまへんのや。何とかしたりた
いや な いか 。何で そ う思わ ん。
熊野
こ の 方 は 夜 な 夜 な 、 マ イ ク に 向 か って ゆ う と り ま し た 。
聴 者 の 皆 さ ん 。 お元 気 で し たか ?
お変 わりありま せ
んで し たで し ょ うか 。
五色
お変 わ り な い わ け な いや な い 。 皆 さ ん 生 き て ます んや
で 。 な んち ゅ うこ と を の た ま う ので し ょ う か 。
刈田
試験電波発信 、発信、応 答応答 願 います 。お応え しま
す。
熊野
貴 方 にコ ン タ クト を 求め て や って ま いり ま し た 。
刈田
ピッキーン!︵と動き︶
熊野・五色
いま 世 間で 注目 の レ ン タル おねぇーさ んで ーす 。
刈田
ピキ ピキピッキーン!ピキピッキ ーン!︵と 動き︶
女1
⋮ ⋮ キ ンコ ン キ ンコ ン 。
女2
それは阪神電 車の踏み切りや。
蔵王三山
無視すんな!
女1
チン チン。
蔵王三山
あんたはまず無視せえ !
女2
何を 言うてる んんや 。聞こえ る の は 京阪のキ ンコンカ
ナでっせ。
蔵王三山
無視すんな!無視す ると、飛び込み自殺やろ。
女1
南海やろ、京阪はコンキ ンや。
女2
なんやて 、そしたら 近鉄 は ?
女1
カ ン カ ン ⋮ ⋮ 田 淵 は ん 、 な んか 今 日 、え ら い テ ン ポ わ
る い な あ 。 店じ ま い し ょ うか 。
女2
あか んか ん。 阪神は ?
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
京阪は。
京阪、阪急も
㎜。
銀河鉄道は。
え っ 、 あんた はカム パネ ルラ か 、 それとも ジ ョ バンニ
か ど っち や 。
関係 な い 。 銀 河 鉄 道 の 軌 間は ッ !
宮沢 先生しか 知りません。
半信 半疑で 半 身阪神ファ ンの田淵 なんやろ。 なんとか
し な さ いよ 。
それ とこ れと はちゃ うで しよ 。
そ ん な台詞 は 、 脈絡 ある 話 を し て 言 い な さ い 。
ハイ !
まこ とに おかし い話で し たが 、こ れ は 本当 は
軌 間 の 話 し で は あ り ま せ ん ので 、 銀 河 鉄 道 の 軌 間 は ⋮
⋮ 訊 か んで お いて 。 ハ イ 、 オ チ ま し た 。 お 後 が よ ろ し
いよ うで 。
ハイ 、お囃子 。引っ込み ます 。拍 手、さよ う なら 。
オ フ サイド !
落 語 とちゃ う ん 。
もと い、ボーク!
退場 !
よ ぉ そ ん な ア ホ なこ と 言 ぅ わ 。こ う 見え て も うち は 半
身阪神ファンの田淵でっせ、抗議はします。
監督を呼べ、 監督や ないと抗議は 受け付けま せん。
仙ち ゃ ん !
わ た し が 仙ち ゃ んで す 。 何 の 文 句 を 言 いに 来 ま し た ん
や 。 それと も 事件、 御用 は ?
52
女1
女2
女1
女2
3
5
4
1
7
6
0
1
女1
近鉄 電 車は ?
女2
何で 鬼の首と った金太郎みたいに ゆうん。琴 ヶ浜の内
掛けや ん。
女1
ほい。
女2
名 手 大 関、琴 ヶ 浜が 内掛 け 決めて 、 それは当 然 の 決ま
り 手や 。 そ れ は当 然 や け ど 焼 け 火 鉢 、 期 待 し ます わ な 。
決めますわ な。それが琴 ヶ浜の 内掛けや ん。
女1
近鉄 電 車は ?
女2
よ う お越し 。 自 分で 調 べ な は れ 。
女1
知ら んねやろ 。
女2
は い 、ここ で 問 題で す 。 15 0 0 mも ある ロ ン グレ ー
ル、一体ど のように して運ぶのでしょうか お答え くだ
さい。
女1
ガ タ ン ゴト や ろ 。
女2
そうや 、聞こ え へんのや ろ。だか ら聞 いたや ん。
女1
聞こ え へんゆ うて んのに 。
女2
だ か ら 聞 い た ゆ うて んの や 。 あ の な、 耳 掃 除 い つ し た
んや 、 おと と いか ?
女1
あ ん た はキ ン コ ンカ ンや 。キ ンコ ンカ ン⋮
女2
そうや 、その と おりや 。
女1
だ っ たら何 で ガ タ ン ゴォ ト ンや 。
女2
だれがガタガ タや 。
女1
あん たが 、 阪 神が ガ タン ゴトで 、 近鉄が ガ タ ン ゴォ ト
ンて 区別し たんや ろ 。
女2
つまり近鉄の軌間は
㎜や か ら 、 違 いは あ って 当 然
やろ。
女1
ほ う 、 そ ん な ん いう の は 何 処 のダ レ ジャ 。
女2
そら ま あ色々 あるけど、 一 番の事 件は、一昨 々 日な、
郵政民営化 に先立って、一丁目 と七丁目 の特定郵便局
が 、売 り 上 げ 上げ な なら んや ろ うからて 、 ため し に 接
客 の シュ ミ レ ー ショ ン し た んや て 。 テレ ビ で も ニ ュ ー
ス に な っ た か ら 、ひ ょ っ と し て 視 た か な あ 。
女1
初耳やで 。
女2
え ら い騒 ぎや っ た んや 。
女1
ほう そう、そら 大変や 。で 、ど っちが ユウセ イや った ?
女2
⋮⋮
女1
で。
女2
そら ま あ 。
女1
そら ま あッ ?
女2
そら 、 ま あ !
女1
そら ま あッ ?
女12
そ ら ま あ 、 ま あッ !
女2
⋮ ⋮ 仙ち ゃ ん
女1
半身阪神ファンの田淵は ん?
女2
ぼち ぼち 失 礼 し ます 。
蔵王三山
うち ら も 、 今 日 は 失 礼し ま し ょ う 。
女1
え?
ウソー。
刈田
後藤はん!ご 無沙汰して います。 いかが お過 ごしです
か?
熊野
お元 気 のこ と と 思 います 。こ の お 手紙がち ょ うど 九 百
九十九通目 の御便りとなりまし た。十六年前にあなた
のこ とを 知 り 、 あ な た のこ とを も う 少し 知 り た くて 、
53
女2
そら ま あ 。
女1
そら ま あッ ?
女2
そら 、 ま あ !
女1
そら ま あッ ?
女12
そ ら ま あ 、 ま あッ !
蔵王三山
そら ま あ 、 十何 年も 引こ も る んや か ら 、 あ ん たが
い くら 古 い お友 達 や から て 、 ジ タ バ タ し て も ⋮ ⋮
女2
引こ もる んが 、なぜ悪 い 。籠城は 立派 な戦術 や 。
女1
田淵 はん、なんかゆうたか?
女2
昨 日 な 、 ス ー パで なス ー パー マ ン が 一 玉 三 百 六 十円 も
し て た レ タ ス な 、 百 円で 投 売 り し て た ん や で 。え ら い
事件や 。
女1
スー パーマン の出現が事件かい、 それとも一玉百円が
かい。それとも見たことも ない、さぞ華 麗な投売りだ
ったんやろ なあ、うちも一目み たかったなあ。
女2
一昨 日な、向か いの商店街の奥の 銭湯に⋮⋮
女1
ほ う 、 セ ン ト ウ い う ぐら いや か ら 、一 番 風 呂 で し た か ?
女2
そら ま あ⋮
女1
そ れ と も 血 ま み れ の 男が 駆 け 込 ん で 来 ま し た か ?
そ
こではさぞ凄惨なセ ントウシー ンが繰りひ ろげられ た
んで し ょ う な あ 。
女2
そら ⋮
女1
まあッ!
女2
そら ま あ、ダ 洒落 いうの んは、あ んまり拘ら んとスー
と 通 り 過 ぎ る んが 粋 や か ら な 。 普 通 銭 湯 も の は ユ ウ だ
けやから。
54
返事を 書くことが、 出来たので すから、 それは捨て た
お便りを 差 し 上げた のが 、つ い昨 日のこ とのよ うに 思
も ので は あ り ま せ ん 。
わ れ ま す 。 ⋮ ⋮ 今 、 こ の お 便 り 読 んで い た だ いて い る
女1
⋮⋮
で し ょ うか ? いつも のこ と なが ら 、 そ う 思 って し ま い
蔵王三山
後藤はん、昨日お手紙さしあげました。ちょうど
ます 。さっ そく、昨 日も 今 日も 相変わら ずの、私の 晩
千通目の御便りとなりました。
ご 飯 のこ と を 書 いて み ま す 。 い やち ょ っ と だ け 違 う こ
とを 書けば 、今 夜は 、駅前 のロ ーソ ンに 出か けて ワ ン
カ ッ プを 一 つ 買 って き ま し た 。 一 つ だ け 贅 沢 で す 。 長 と 、 刈 田 ・ 熊 野 ・ 五 色 は 退 場 。
龍の二級で す。晩酌を付けたのです。ヤカンにワンカ
女2
⋮ ⋮ 仙ち ゃ ん 。 うち ら ち ょ っ と だ け 、 お 知 り 合 い に な
ッ プを 入 れ て 人 肌 に 暖め よ う と し た ので す が 、 ア ル ミ
れたやろか ?
の 蓋を 取 っ て 暖め る のか 、 そ の ま ま か 悩 んで し ま い ま
女1
多 分 、昨 日よ りち ょ っと 。我 慢し たダ 洒落 の 分だけ は 。
し た 。何 年 ぶ り の晩 酌で し ょ う 。 遠 い昔 で す 。
女2
事件やろか?
五色
結 局 、 ア ル ミ の 蓋を 切 っ て 暖 め た ので す が 、 勘 所 を 逃
女1
どや ろか 。
が し 、 少し だ け ア ル コ ー ルが 飛 んで し ま いまし たよ 。
そや な 。
で も 、 ワ ン カ ッ プを 持ち 上げ る と き 、 あ ま り の 熱 さ に 、 女2
女1
⋮⋮ あの
と っさに指 先を 、 耳 たぶに持 って いくこ とは忘れて い
女2
なんやろ。
ま せ んで し たよ 。 後 藤は ん 、 あ な た の 人 前 に 出 る 恐 怖
女1
何 も な いで 。 何 も な い け ど 、 今 日 も だ れ も こ な ん だ な
が 少し 、 い つか 薄ら いだと き 、 ワンカ ッ プを 買 いに ロ
あて ⋮ ⋮
ーソンにいけるよう な日がきたとき、そのときはお知
女2
そう か 、じゃ 、お邪魔し まし た。
ら せ く だ さ い 。 ワ ン カ ッ プ の 熱 燗で 乾 杯 を し た いと 思
女1
お邪魔されました。
います 。
女2
⋮⋮ あの
刈田
かしこ。
女1
⋮ ⋮ な んで す や ろ
熊野
そん な貴 方か ら 、つ いに 返信が 、 昨 日来たので し た。
⋮⋮ その
こ ん なわた しで も 、 人 と 話 すこ とがで き るで し ょ う か ? 女2
女1
⋮⋮ はい、半身阪神ファンの田淵 はん?
刈田・五色
できますとも !
女2
最 後 に 一 つ よ ろ し いで し ょ う か ?
熊野
き っ と き っと 、で き ます とも 。
ええッ!
刈田・五色
捨て た も ので は あ り ま せ ん 。 あ な た は こ う し て 、 女 1
女1
ええ 、
女2
あの 、これそこ の﹁ドンドンドン ﹂のとこに落ちてま
し たで 。
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女1
)
女2
女1
女2
女1
女2
お別 れですね 。
だか ら
だから、本当 に、お別れですね。
忘却の彼方へかえりましょうか?
それとも 最後にキ
ーを 外して 、中島み ゆき歌いましょうか ?
いえ 、 あ の 、 実 は 、 く だ ら な い心 配が 一 つ 、
ええ 、是非。
あま り なので 、人に聞 い たこ とが 、
ええ 、分かります。ハイッ!
あ る 日 、 臨 終 間 際 の 息 も 絶え 絶え の お じ いち ゃ んが 家
族 を 前 に 、 医 者 の 手 を 採 って い い ま し た 。 先 生 、 二 人
のドラ 息子 が 心 配で 心 配で 、死 んで も 死 に 切れま へ ん
のや 。
心 し て 聞 いて ま す 。
医 者 が 、 おじ いち ゃ ん の 手を と っ て い い ま し た 。
なんとかしたらなな。
心 肺 ﹁ 心 配 ﹂ 停 止で す 。
だれが名付け たか・私に は・別れ うた唄いの ・影が あ
る⋮⋮足袋脱げ。
半身阪神ファンの田淵は ん
55
女 1 は 何 も なか っ たか の よ う に 封 書を 受け 取 る 。
(
女2
それで は、今 日こ うして お邪魔し たのは、事 件で し た
でしょうか ?
女1
多分、す べったダ洒落 の過激さほどに。
女2
許 容 範 囲だ っ たで し ょ う か ?
女1
それを強要し ますか?
女2
貴方の教養の問題です。
女1
ハイ 、中央ア ルプス千畳 敷スキー 場の大滑降です。
女2
お っ しゃ って 。
女1
ほ っ て お いて も 見 事 に 滑 り ま くり ま す 。
女2
つ か の 間 の 退 屈 と 、 少 し ば か り の 友 愛 に 満ち た 苛 立 ち
を 置 いて 帰 り ま す 。
女1
お別 れですね 。
女2
そ ん な 嬉 し そ う な 笑 み を 浮 か べて いわ な い の が 、 エ ー
と、切符で す 。
女1
お別 れで す か ら 、度を 越 して 悲し みが こ ぼ れ て いる の
です。
女2
大変 よ くわか ります 。が 、 仙ちゃ ん 。 あなた は 、 大阪
の お ばち ゃ んが 、こ の ま ま す ん な り 帰 る と 思 って い ま
すか。
女1
別 れ は 、 い つ も 、 後 ろ 髪 を 引 く も ので す か ら 。
女2
掛布は髪ないで、どうなんの、か わ いそうや んか 。
女1
寄る 年波には勝てません 。
女2
や は り 、も う 少し 引 っ張 って く れ へ んと そこ に 帰 れ ま
せん。
女1
あの 、
女2
あの 、
)
(
女1はスパイク タッ プ シューズを履 く。
女2
ハイ は一回や ッ 。
女1
ハイ !
女2
︵ド ンドンと 叩く︶これ は!
女1
ト ン ト ント ン や
女2
耳掃除 いつし たんや、おとといか ?
女1
母 さ ん お 肩を 、
女12
ト ント ント ン!
女2
お邪魔します 、こ んばんわ。半身阪神ファン の田淵で
す。ワープしました。
女1
半身阪神ファンの田淵は ん?
で その ハン シ ン ハン シ
ン は 最 初が 阪 神 、 そ れ と も 半 身 ?
女2
ガキ のつか いや ないから 、大阪の おばちゃ ん は気短い
の知ってるやろ。
女1
ワ ー プ ま で し て も ろ う た のに 、え ら い 失 礼 し ま し た 。
で 、 御用は ?
うち 忙し いね んや わ 。
女2
単刀 直入にい います。お宅は読売 新聞ですか 。それと
も ﹁ 希 望 の 光 ﹂ 読 ん で も ら え て ま す か 。 つ いで に 町 内
会 費払 いま し たか 、 で なか った ら 、押 し 売 り お断 り て
書 いて て も ら わ な 、 一 応 挨 拶 し て し ま い ま す 。
女1
いま さら挨拶 なんかええ て 。
女2
挨拶 抜きなんて、結構友達になってますやんか。
女1
無理やりな。
女2
そ の 無 理 つ い で に 、 タッ プ踏 んで 。
女1
そら 無 理や わ 。
女2
無 理 や り ワ ー プして こ こ まで き た んや 。 いま さら 無 理
と は おか し いや ろ 。 や り 。 それ と も 、で け へ ん ゆ う の
は あ ん た 、 ま さか ジ ャ イ アン ツ ファンや な いや ろ な 。
ジャ イアン ツ ファン はス パイク で タッ プ 踏まれ へん の
や。
女1
ハイ ハイ
女2
準備運動代わりにランニング!
と、女 1はラ ンニング。
女2
息 切 れす なよ ! な ん な 、 そら 無 理 や りや って んや ん 。
いや いやや ん。だか ら 、ゆうたや ろ、せ めて 体は何 が
56
女2
ほ ん と の 最 後 に 一 つ よ ろ し いで し ょ う か ? 履 いて 。
︵ タッ プシューズを 置く︶
女1
ええッ!
女2
はよ 履き。
女1
はい。
女2
意を 決して お 邪魔し たん は、こ の ス パイクで タッ プを
切 って も ら おう と 思 うて や って ま い り ま し た んや で 。
女1
最 初 か ら 、 何 で そ う い わ へ ん の 。 めち ゃ くち ゃ 回 り く
ど いや ん 。
女2
それ じゃ ーワ ー プします 。
女1
え 、 今 夜は何 年前に !
女2
それ 履か んと いうこ とは ないやろ 。ワープで け へん。
女1
ハイ ハイ。
で 、女2は 、
あ って も 鍛 え と か な 、 そ う や ろ 、 息 切 れ す る と 、 い や
いや に 見え て し ま う や ろ
女2
わて が ほ んま によ う いわ んわ 。一 緒に いきま しょ 。
女1
無 理 や りや か ら それで い いや ろ 。
女2
リーリーリー 牽制ッ!
リーリーリー牽制ッ !
リー
リーリー滑りこみッ !
お待 た せしまし た。ほ なら 、
音楽行こ か ーッ
歌い!
笠置シヅ子﹃買物 ブギ ー﹄ 流れる。
♪今日は 朝から
私 の お家は
て んや わ んや の
大騒 ぎ
盆と正月
一緒に来たよな
て んて こ ま いの
忙し さ
何が な んだか
さっぱりわからず
どれが どれやら
さっぱりわからず
何も聞かずに
飛 んで は 来 たけ ど
何を 買 うやら
どこで買うやら
そ れ が ご っち ゃ に
なりま して
わて ほ んまに
よ ういわん わ
わて ほ んまに
よ う いわん わ
女1は 歌 いながら タップ。 決まる。音楽の途中
♪たまの日曜
サン デーというのに
何が 因 果︵ いんが ︶と
言 うも のか
こ んな に沢 山︵ た くさん︶
買物たのまれ
人の迷惑
考え ず
あるも の な いも の
手あたりしだいに
人 の気 持ち も
知 ら な いで
わて ほ んまに
よ ういわん わ
わて ほ んまに
よ う いわん わ
∼略 ∼
ちょっとおっさん
こ んにち は
ちょっとおっさん
こ れ な んぼ
おっさ んいますか
こ れ な んぼ
おっさんおっさん
こ れ な んぼ
おっさ んなんぼで
なんぼがおっさん
おっさ ん
おっさ ん
おっさん
おっさん×3
わて つ んぼで
聞こえまへん
わて ほ んまに
よ ういわん わ
わて ほ んまに
よ う いわん わ
あーし んど
作詞 ・ 作曲 / 服 部 良 一
57
と 、 い うも の の 女 1 は タッ プを 快 適 に リ ズ ム を
刻む 。
と、女2は﹃六甲おろし﹄を弾く。女 1はタッ
女2
)
女2
女1
女2
女1
女2
(
女1
ち ゃ う んち ゃ う 。
女2
何が ?
息 あ げ んや な い ッ !
女1
ス パ イ ク は い て 、何 で ﹃ 買物 ブギ ー﹄ な ん 。 い くら な
んで も 無理 あるや ん 。
女2
無理が通れば 道理が引っ 込む 。草履 ﹁道理 ﹂ 代わり
のス パイク シューズ が 今、無理 して 頑張 って くれた ん
やない。
女1
周 り 近 所 か ら 、 苦情 き て も 、 そ ん な んや 言 い 訳で け へ
んや ん。
女2
ス カ ッ と し た や ろ 。え え や な い 。
女1
ち ゃ う や ろ 、 ス パ イ ク 履 いて 、 歌 う た う ん な ら 、え え
か、半身阪 神ファン の田淵はんに向かって いうのも 失
礼 なが ら 、 なに は さ て お き ﹃ 六 甲 お ろ し ﹄ や ろ 。
女2
よろしい。
女1
当然やん。
女2
お お い に よ ろ し い 。じゃ 、 厚 い ご 要 望 に お 応 え し て ま
いります 。
女1
そうこ なな、でも 、道上洋三バー ジョンは止めてや 。
女2
ごち ゃ ごちゃ いわ ん 。
女1
風 は こ っち や な 、 指 を ペ ロ ッ で 田 淵 は ん 、 浜 風 よ ー
し。
女1
女2
)
(
女1
女2
女1
女2
女1
何で 歌わんの ?
唇真 一文字に 結んで 、風を 切って ますから 。
そん なんやか ら あか んのや 。
えっ?
いつもそうなん。あんたはやっぱ歌わんの。あたしは
そやから と 思 います 。だから 、キ ンコ ン カンも聞こ え
ま へん のや 。す ぐ そこ に 踏 み 切 り あるや ん 。頑 張 っ て
や 。何 票 差 ある と 思 って ま す ん や 。 上向 いて 、 ボソ ボ
ソ と 歌 って る か ど う か 解 ら んよ う な 、 視 線 上に 投 げ 上
げ て る ん か 、 足 元 の 芝 生 見て 歌 って る か る か ど う か 解
ら んよ うで は 、も う 情 け のう な ります 。
今度 は、なに 言 い始める つもり。
仙ち ゃ ん 、 ワ ー プし た け ど 、 うち ら ま だ 、 お 知 り 合 い
に な れ た ま ま や ろ 。 も う す ぐ 友 達 や ん 。 そや か ら 分 か
るやろ。わてが何で こ うして お 邪魔したか 。無駄 口 た
た き に 来 た んと 訳が ち ゃ いま っ せ 。
半身阪神ファンの田淵は ん。
は い な 、 仙ち ゃ ん 。
お知 り 合いと お友達はご 近所です か ?
半身阪神ファンと全身阪 神ファン のほどには 。
お買 い物 のつ いで に 、 お 邪魔して いただ いて 、 ありが
とうおまし た。はよ せんとお店 締りますで 。
で は 仙ち ゃ ん 、 し っか り 歌 って く だ さ い 。こ の マ イ ク
58
プを 踏 み 始 め る 。女 2 、急 に バ ンと鍵 盤 を 叩 い
て 止め る 。
女 1 、 2 の タッ プ 。 決 ま る 。
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
か。
近所迷惑で っせ。
最 後 に 一 つ よ ろ し いで し ょ う か ?
ええッ!
キ ン コ ン カ ン が 浜 風 に 乗 って 、聞 こ え そう な 、 そ ん な
気がしますが、自信がもう少しもてませ ん。
﹃ 六 甲 おろ し ﹄を 無 理や り 歌 って 。 タッ プを 踏 んで み
ますか?
ぜひ 強 引 に っ !
心の準備はッ !
ハイ、今スパイクは中央 アルプス 千畳敷スキ ー場の大
滑 降 の 上で す 。
女2は﹃六甲おろし﹄を弾 く。
♪流れる雲に竿さして
別れの歌、口ずさむ
荒ぶるる意気、途切れ切れ
明 日に 歌 う は 、青 春 の 日々
あ、あ 、汗
青 春 の 日々
なめん な、なめん な、なめ んな
∼略 ∼
あ、 あ、汗
59
)
女1
女2
(
女1
女2
女1
女2
をつけて 、しっかり 歌って くだ さい。そうして 、得票
6 43 3 、 ﹁レ ッ ト ・イッ ト ・ ビ ィ ﹂ 、 五票 差で ﹁ 六
甲おろし ﹂ のこ の 五 票 差を 逆 転 して 下 さ い。不 肖、 明
日は全身阪 神ファン の田淵 のお ばちゃ ん は、必ずイ ン
ターネット 投票しま すから 。仙ちゃ ん、 だから 、が ん
ばって歌って くださ い。あなた の歌声で みんなを元 気
づけて くだ さ い。
はい。
貴 方 の独立す る 大阪の国 語 は 関西 語で す よ ね 。
はい。
だか ら 、カントリーソン グ 国歌 は﹃六甲おろし﹄で
す。
はい。
で は 失 礼し ま す 。明 日は 全 身阪神 ファンの田 淵 の おば
ちゃ んは、一言、そうお伝えし たかったのです。
少し だけお知 り合いにな れた田淵 はん。
はい。
それ だけです か?
練炭 自殺誘 いに来たと思 いましたか 。
そのほうがましだったかも知れま せん。
ぼち ぼち 失 礼 し ます 。
え?
ウソー。
仙ち ゃ ん 。 う ち ら も うち ょ っと だ け 、 お知 り 合 いに な
れるやろか ?
意を 決して お 邪魔し たん は、こ の ス パイクで タッ プを
切 って も ら おう と 思 って や って 来 た ん と 違 い ま す や ろ
青 春 の 日々
なめ んな、なめ んな、なめんな
(
女 2 が 弾 く 曲 に 重 な って 、 レ コ ー ド の 原曲 ﹃ 六
甲おろし﹄ 作詞/ 佐 藤 惣 之助
作曲/古 関裕
而 が 流れ る 。こ の曲 で 女 1 、 2 は タッ プ を 踏
む。
やがて 女2退場。
﹃六甲おろし﹄消える。
女 1 は 一 人 で タッ プを 刻む 。 タッ プ の 音だ け が
響く。響く、まだ響 く⋮⋮
静寂のなか、女1の息切れ の﹁ゼーゼー、ハー
ハー﹂がや けにうら 悲し く聞こ え る 。
)
静寂の中の女1の息切れの﹁ゼーゼー、ハー ハ
ー ﹂ は や が て 、 忍 び 笑 いから 、 大笑 い に 変 わ る 。
時間にすれば、五分強ほど笑うことになる。そ
の笑 いは文楽の義太夫語りの、 あのあき れる程
長 い 笑 いで ある 。
こ の笑 いの中 、 音楽 入る 。 タッ プシュ ーズを 脱
ぐ。
)
(
女1
笑 い わは、わーは、わーはは、わーっはあははは⋮
⋮⋮⋮
女1は女2から受け取った封筒を開く。
)
(
女1
⋮ ⋮ 笑 い泣き で 読み 始 め る 前 略 ⋮ ⋮ ず いぶ んと ご 無
沙汰しちょ りますが 、そん後、 お変わり ねえかえ 。 お
便りも 出さ んじ、今 日まで 来た んは、時 間がねえか ら
で も 、よ だ き か っ た け んで も 、 貴 方 んこ つ 忘れ たけ ん
60
[
6
章
]
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︽マク ベス夫人︾ ねえ あな た、あなた の お顔は
まるで 本のよう、だ れの目にも 怪しい内容を 読
み と ら れて し ま う 。 世 間を 欺 く の に は
世 間と 同じ 顔 つ き を して 、 目 にも 、 手 にも 、 口
にも、
歓迎 の 色を 浮か べ るこ とで すよ 。み せ か けは無
邪気な花、
61
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女2
と 橋掛 か りで 女 2 。 いで た ち は 半 身 阪 神 フ ァ ン
の応援グッ ズ一つ、 郵便配達員 の腰カバン、座
布 団二 枚 、 買い物カ ゴで 登 場 。 女 2 は 老 女で あ
る。
(
で も 、 ね え んで 。 た だ 、 あ ん た に 近 況 を お 知 ら せし て
ん、ご迷惑かち思うて、今日まで失礼しち来ました。
こ こ じ 貴 方 は ﹁ な し か え ﹂ ﹁ ど げ な っち ょ ん の か え ﹂
と 訊 く んじ ゃ ろ うえ 。 そ げえ 訊 か れて ん 、 うち ん 近 況
は 、 雨 蛙 が な いち 、 雨が 降 る ぐ ら いじ 、 た いし たこ た
ねえ んで 。 隣の猫 ん たまが 、うち ん顔見ち 欠伸をしち
外 に 出ち い く ぐら い んも んじゃ 。 大 事 件 ち ゅ う たら 、
駅前んなんもねえ 通 りに、オムラ イスし かねえ ファ ミ
レスができ た ぐら いじゃ 。ため しに﹁小 倉アイス﹂ た
の んじ み た ら 、 や っ ぱ ﹁オ ム ラ イ ス ﹂が で ち き た ん で 。
た いて え 、 明 日 か ら も 何 も ね え じ 、 た い て え 、 こ げ な
幸せが 続 く んじゃ ろ う 。 そしち 明 後 日も じゃ 。 それ が
不 満ち ゆ う のじゃ ね え んで え 。 仙ち ゃ ん へ⋮ ⋮ 昨 日 の
仙ち ゃ んよ り 。
女1
⋮⋮ あの唐突ですが、幸せ、ですか?
⋮ ⋮ 今で も ⋮
⋮悔いはありませんか?
⋮⋮ それは、悔いなどあり
ませんね⋮⋮⋮これからも、だから⋮⋮ ありませんか?
そうです ね⋮⋮ あ りませんね 。⋮⋮ そ うです 、き っ
と あり ま せ ん 。 だか ら ⋮ ⋮ こ れ か ら も ね 。⋮⋮ わ た し
は 、 も ち ろ ん あ り ま せ ん よ 。⋮ ⋮ あ な た は ど うで す か ?
だから⋮ ⋮ あの、 幸せ、です か ?
ク エス チョン マ
ー ク ⋮ ⋮て んて んて ん
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︽ マ ク ベス ︾ や っ て し ま っ て 、 そ れで 事が 済 む
も の なら 、 早 くや っ て し ま っ た ほ うが よ い 。暗
殺の一網で 万事が 片 付き、引き 上げた手元に大
き な 宝が 残 る の なら 、こ の 一 撃 が す べて で 、 そ
れ だ けで 終 わ り に な るも の なら ⋮ ⋮ あの 世 のこ
とは頼まぬ 。ただ時 の浅瀬のこちら側で 、それ
で す べて が 済む も の なら 、 先行 き のこ と な ど 、
誰が 構 って おら れ る も のか 。 福 田 恒 存 ・ 訳
女12
日本語・笑 い ⋮⋮
女12
日本語 き れ いは、穢 い。穢 い はきれ い。 さあ、飛
んで いこ う 、 霧の な か 、汚 れ た 空を か い くぐり 。 福
田恒存・訳
⋮⋮⋮
女2
手話 叫び声 が聞こえ たようだっ た、﹁もう 眠りはな
い、
)
(
︽ マ ク ベス 夫 人 ︾ か し ず く 悪 霊 たち 、 今こ そわ
たしを 女で なくして おくれ、
私の全 身になみなみと、頭 の上から爪 先まで 、
62
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マクベス は眠りを殺した﹂¦ ¦あの無心 の眠り、
心労 のも つれた絹糸 を ときほ ぐして くれ る眠り、
その日その日の生の 終焉、つら い労働の 後の沐浴 、
傷ついた心の霊薬、 大自然が 用意した最 大のご馳
走、
人 生 の 饗 宴 に おける 最 高 の滋 養 ¦ ¦ 小 田島 雄志
・訳
女1
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で も そ の下 に は 蛇 を 忍 ば せ る 。 せ っか くお 出 向
きの
お 方 に は 、 た っ ぷ り ご 馳 走 し な くて は 。ね え 、
今夜の大仕事を手早 く片づける のは、全部わた
しにおまか せなさいな。
首尾よ くいけば、こ れから 先に続く二 人の長い
昼と 夜、
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︽ マ ク ベス ︾ よ し 、 心 は 決 ま っ た 。 あ と は か ら だじ ゅ う の 力をふ り し ぼ って 事 に あたる のみ だ 。 i
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さ あ 、 奥 へ 。晴 れや か 顔 つ きで み ん なを 欺 く の
だ、偽りの心を隠す のは偽りの顔しかな いのだ。
小田島雄志・訳
日 本語 あの 戸を叩く音は、どこ だ?
どうしたとい
うのだ、 音 のす る た び に 、び くび くして いる ?
何と
いうこ と だ 、こ の 手 は ?
ああ!
今にも 自分の眼 玉
を くり ぬき そう な ! 大海の 水を 傾 けて も 、こ の血を き
れいに洗い流せはしまい?
え え 、だめ だ、のたう つ
波も、こ の 手をひ た せば、紅一 色、緑の 大海原もたち
まち 朱と染 まろう。 福田恒存 ・訳
手話 ごめんなさい皆さ ん、
いつ も のこ と です のよ 。 な んでも ありません 、
申し 訳ないの はせっか く の楽しみ を台 なしに して しま
って 。 大 場 建治 ・ 訳
英語
(
残 忍 と 冷酷 を
漲ら せて おくれ、わたしの血をどろど ろにして 、
憐れみ に通ずる血 の管を塞 いでしまう のだよ、
せっか くの恐ろし いも くろみに、良心 の呵責な
どが
揺 さぶ り に 入 って 、 な ま じ 実行 を 押 し と ど め る
ことの
な いよ うに 。 さ あ 人 殺 し の 手 先 ど も 、 わ た し の
乳房に
取 り 付 いて 、 甘 い 乳を 苦 い 胆 汁 に 変 え て お く れ 、
お前ら は
目 に 見 え ぬ 姿 の ま ま 、こ の 世 の 悪 事 と いう 悪 事
に
手を 貸 して いるの だから 。 そして たれこめ た夜 、
お前は
地獄のどす黒い死 の煙を死人を くるむ ように厚
く纏うのだよ、わたしの鋭い刃 の切っ先がえ く
っ た 傷 口を 見 な いで 澄 む よ う に 、
天 が 暗 闇の 帷 の 切 れ 目 か ら 覗 き 込 んで 、 思 わ ず
こう叫んだり
しないようにー﹁やめて、やめて﹂
女2
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女2
手話 まだこ こにしみが 。
消え て おし ま い、こ の忌 まわし い しみ !
消えろと言
うのに!
¦ ¦一 つ 、二 つ 。 さ あ、 いよ いよ や る べ き
時 刻 ¦ ¦ な んて 地獄 は 暗 い ん だ ろ う !
¦ ¦ な んで す 。
あ な た 、 な んで す か !
軍人だというのに、恐れたり
して !
だ れが 知ろ うと 、恐れ るこ とが ありまして !
私 たち の 権 力 を とが め る も のが あり ま し て ?
!
¦
¦それにしても思いもよらなか った、あの老人にあれ
ほどの血が あろうと は。 小田 島雄志・訳
女1
英語
女2
侍女たち の声のよ うです。
女1
日 本語 おれ は恐怖の味を 忘れて しまった。
以 前 に は 、 夜 の 叫び 声 を 聞 け ば
五 感 が 凍り つ き 、 恐 ろ し い話 に は
髪が 命 あるも ののよ うに 総毛立 っ た
も の だ っ た 。 だが 恐 怖と いう 恐 怖 を なめ尽 し た いま 、
殺 戮 の 思 いに 慣 れ親 し ん だこ の 胸 は 、 ど ん な 悲 惨にも
驚 く と いうこ とが な い 。 大場建治 ・訳
女2
手話 なんの騒ぎだ?
女1
英語
女2
日 本語 なん の騒ぎだ?
女1
手話 なんの騒ぎだ?
女2
英語
女1
ハング ル なんの騒ぎだ?
64
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T
︽ マ ク ベス ︾ 出て 行 け 、 消 え ろ !
お前は土の
中のものだ !
お 前 の 骨 に 髄 は な く 、 血 は 冷え き って い る 。
そうや って 睨めつ けて いる お前の目に は
も のを 見る 力 など な いはず だ 。
男にや れるこ と なら なんで もや って み せる 。
毛む くじゃ ら なロ シア熊の姿で 出てこ い、
角で 武 装し た犀、ヒ ルカニ アの虎、
いまの その姿で さえ なけれ ば、おれの筋肉は
微動だ にするものか。生き 返って 戻ってきても
いいぞ、
それで 剣を 抜 いて 無人 の荒 野で 決闘を 挑 んで み
ろ、
少しで も 震え るざ まを み せ たら 、乳く さ い小 娘
と
ふ れて 回るが いい 、失 せろ 、恐 怖の影 法師、
存在し ないまやか しの姿!
女2
見え た とは何か ?
女1
日 本語 マク ベス 、マク ベス 、マ ク ベス 。
マ ク ベス は け っして 滅び は せ ぬ 、 か の バーナ ム の 森 の
樹が
ダ ン シ ネ ー ン の 丘 に 立 つ 彼 に 向 か って くる ま で は 。
小田島雄志・訳
女2
)
(
女1
女2
)
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女1
女2
女1
女2
女1
女2
(
女1
女2
女1
女2
65
)
冷静 な対応を !
市 民 の 皆 さ ん 、 騒 ぐ んや な い !
騒 いで いる の は と、女2を指差す ⋮⋮
あたし?
そうや。
あん たのほうが声 おおき おまっせ 。
はいはい。
ハイは一回。
はい。
とこ ろで 夜遊び はどこ な ?
門限 過 ぎて るや ろ 。ええ
加減にしてもらわなな。
鍋・釜
失 礼で すが 。
女1
失礼ですが⋮⋮
女2
ス ト ッ プセ ン テ ン ス 。 そ の フレ ー ズ の 後 は 聞 き 飽 き た 。
(
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
)
(
)
(
騒 ぎ に 乗じ て 鍋 島 と 釜田 が バ ケ ツを 持 って 登 場 。
﹁ 失 礼 し ま し た 。 御 見 そ れ い た し ま し た 。 お許 し く だ
さいませ、 お代官さま﹂云々。お城も見え へんのに 、
そんな常套 句 城東区 は、あの な、市内 ならまだし も、
河 内 なら 何 とす る 。
結 構 が ん ば っ て 、 つ いて い って い ま す が 、 先 見え へ ん
のやけど。
人 生 先 見え て て 、何 の 因 果か 応 報 か 。 語 る 世 間 に 鬼 が
いて 、 救 う 仏 も 浮 か ば れ る 。 そ や ろ 、 若 造 、 素 直に そ
やおいい。
そか なと思う けど、ほんとは訳わから んや ん 。
娘! 間 素 直に そや おいい。
本当 に そのと うりです 。
返す 踵が 軽す ぎる 。惜し いこ と し た な、 次 は 生 娘 間
素 直 に そや お い い 、 や っ た んゃ で 。
最近、無理はしませんのや。
⋮ ⋮ チェ ・ ジ ュ ウ さ ん 。
はい。
無理しっぱなしやないか 。
人 生 、 そ の 通 りで おます 。
こ の 火盗改め 鬼 の平蔵 最 後にも う 一度聞 く。 お加代 、
夜 遊び と き たら 、 火 遊び と なる が 、 それ に 相 違 ある ま
い。
はあ?
こ の 期に及んで 、しらを きりやる か 。火遊び を 昼にし
て何とする 。アバン チュールに なら へんやろ。忍んで
こ そや 。
(
)
(
女12
な んの騒 ぎ だ ?
女2
なんの騒ぎだ ?
いった いなんの騒ぎだ!村上!
女1
ゴ ミ 回 収車の 音楽 の 口 真 似 ⋮ ⋮
女2
え っ 、早 いや ん、不 燃物 ?
可 燃 物や たか な あ 。 資源
ゴ ミや 、 ど な いし ょ 、 間 に 合 わ へ んが な 。 と、消 防
車のサイレ ンの口真 似
女1
は い 、 救急 車 で す 。急 性 ア ルコ ー ル の 方は ど こ で す か ?
女2
あか ん、串か つ、油かけ っぱなし や 。あわて る な、騒
ぐな。
女1
パトカーのサイレンの 口真似 ⋮⋮
(
)
歩は一兵卒で安うおますが、
女2
あ の な あ 、 掛 麩 ゆ う ぐ ら いや か ら 、 な ん か 掛 か って ん
ゃろ。
女1
は い な三 十一 番。そこで んが な 。オ ッちゃ ん 小 鉢 手に
持ち 、 あて の 頭 見 ま し た 。 髪 の 毛 睨 み ま し た 。青 海 苔
し こ た ま パ ッ パ 、 パ ッ パ 、 パッ パで ハ イ お待ち 。 本 物
の 掛 布 が き たら ど な いす んや 、 髪 の 毛 な いで 、 青 海 苔
振 り か け へ んて か い 。
女2 ・鍋 ・ 釜
そら な いや ろ 。
女1
坊 さ んが 来 た ら ど な いす んのや 、 禿や な い ぞ 、 髪 の毛
あんぞ、剃 りあげて るだけや な いか 。
女2
ねえ ちゃ ん無 茶ゆうたら あか んわ 、 そんな店 あら へん
や ろ 。 姉 歯 のオ ッ サ ンが 来 たら 鬘や て 見 抜 いて パッ 、
て か 。 そ ん なこ と ゆ う たら 、 掛 布 は ん お うじ ょ う し ま
っせ。
女1
ほんまやて。
女2
ほ ん ま や っ た ら 、 うち の いう のも ほ ん ま や 。 火 遊び と
き たら 夜 遊 び に な る や ろ 。で 、 薪を く べ た の は 誰や 。
鍋島
ほら 、や っぱ 火事ですが な。
釜田
ほ う か 、で 、 放 火 ?
鍋島
そら 判ら んが な、消 防か 警 察に聞 か な 。
女1
薪くべた?
何でここで 焚き 火の話しになる んや 。
釜田
や っ ぱ 、 お前 か ? な んで そ ん なこ とす んや 。
鍋島
あか んて 、 素 人 相 手に 、 ま だわか ら んて 。
女2
スッ トコドッ コイ!控え おろう。こ の火盗改め鬼の平
蔵 を 甘 く 見 る と 、 痛 い目 を 見る の は 、 お 豊 、 そ の 方 や
66
女1
ど う で も え え け ど 、 そ う いうこ と や な いや ろ 。
女2
言 う にこ と か いて 、 メ ザ シを 頼 ん だ わ た し は ど う な ん
の。
女1
なんか いま、ごっつうホップした 。
女2
昨 日 な 、飲 み 屋で ビ ー ル の あて に あて は メ ザ シ 頼 ん だ
んだス 。オ ッちゃ ん 、 メザシ一 つ頂戴。 シラ ーや 、 二
十 四や 。
女1
キビ シーイ!
鍋・釜
六 四 、二 十 四で 無 視や な 。
女2
解 説 す んや な い 。
女1
で!
女2
頭 の 髪 の 毛 、 黄 色 と 黒 に 染 め 分 け たオ ッ ち ゃ んが 、 視
線 メ ニ ュ ー に 投 げや んの 。しゃ な いか ら 、 思 い っ き り
﹁優勝!﹂ゆうたった。
女1
バン ザーイ!
女2
オッちゃ ん、声 さらに張 り 上げて ﹁優勝メザ シ、一丁 !
﹂
女1
バン ザーイ!
⋮ ⋮ ま あ ま あや 貸 して 、 貸 し て 。 と 、
女 2 の 応 援 グッ ズ を 取 り 、 着 け て 、 あて は よ う 分 か
ら んで 、 ﹁ 三 十 一 番 ﹂ 一 つ 頂 戴 、 っ て 頼 ん だ ん だ 。 た
ったの三十一円。
女2
掛 布 の 背 番号 三 十一 。
女1
何 出 て き たと 思 いま っか 。
女2
まさか?
女1
そのまさかで すがナ 。小 鉢に入りきら へん、すき焼き
用 の 大 き な 麩が 一 つ 。ど う せえ ゆ う んや 。 そら ま あ 、
釜田 は 、 持 って 来 た バ ケ ツ の 防 火用 水 を か け る 。
鍋島
なに す んや !
釜田
落ち 着け、熱 さませッ !
鍋島
︵ 落 ち 着 いて ︶ ど や 、え え キ ャ チ コ ピ ーや ろ 。とこ ろ
が な、困 っ たが な、 南極 の氷解 け始め た が な 。脳死 状
態で預か って た人 体 冷凍保 存冷 体が 蘇生 し たが な。 脳
の超微細構造が 、人 類誕生前のウイルス に影響受け た
ん だ す が な 。 そ う と し か 考 え ら れ ん 、 恐 ろ し こ っち ゃ 。
こ う な っ た ら シ ベリ ア の 永 久 凍 土で しゃ ろ 。
鍋・釜
そ う し て 、 わ た し は 遠 い 西 方 の 果て か ら こ の 地 上 の
国 へは る ば る と 旅 し て き ま し た 。 ア ンコ ー ル ・ラ イ フ
・ス ミ チオ ン ・モ ン サ ント 財 団 インスト ラ ク ター の
鍋島
鍋島です。
釜田
釜田 で す 。ち ゃ うや ろ 、 ベラ ベラ しゃ べ る な ゆ う と ん
や。
鍋島
ベラ ベラ しゃ べら んか っ たら 、え え んや ろ 。で は 一 つ
だ け ゆ う た る わ 。 シ ベリ ア の 永 久 凍 土 ま で たど り 着 く
経費ないんや。どな いしょ、な んとかならんか。な っ
たが な、こ こで 、無 理や り臓器 の再 生を 目 指します 。
大阪のおばちゃ んの ES細胞い ただきた い。わが 、 ア
ン コ ー ル ・ ラ イ フ ・ ス ミ チオ ン ・ モ ン サ ン ト 財 団 人 体
冷 凍保 存 冷 体 の ため に 、 活力 あふ れ る 大 阪 の おばち ゃ
んのES細 胞いただきたい。
67
ぞ。
女1
お豊 ?
お加 代から 、お豊に いつ なったん。も うすき
に ジャ ン プ し 。
鍋島
ほ ん なら 、 お 豊 は ん 。
釜田
あん たを 見込 んで 、お尋 ね いたし ます 。こ ん な人 見か
けまへなんだか?
鍋・釜
ピキピキピ ッキーン!ピキピッキーン!︵ と動き︶
釜田
こ れ 以 上、 薪 く べたらか なんのや 。
鍋島
こ れ 以 上、溶 け たら か ん のや 。責 任と んか い 。
釜田
それ とも 、お ばちゃ ん、 あんたが 薪 くべたんか いや 。
女2
薪くべ、薪くべ、薪くべと、人身を煽り、国家転覆を
企む 輩は、 その方に 相違ないか !
女1
へえ へえ 、 相 違 お ま す 。
女2
この期に及んで二言を 申すか。
鍋島
な に の た ま っ と ん 。 シラ 切 って る 暇 あら へ ん のじ ゃ 。
え え か 、 う ち の 財 団 は 金 が あら へ ん の 。 ど な いこ な い
ゆ うて も 、 冷 凍保 存 は金 か か ん ね ん や 。 ア ル コ ー ・ ラ
イ フ ・ エ ク ス テ ン シ ョ ン 財 団 3 千 万 円 、 ク ラ イオ ニ ク
ス 研 究 所 三 百万 円 の 向 こ う を は って 、 赤 字 覚 悟 で 冷 凍
保 存 引 き 受 け る に は 、 一 遺 体二 百万きら な 、応 募が あ
ら へ ん のや 。こ の値 段で は保 存 施 設 作ら れ へ んわ な 、
当然や。そやさか い、南極の四万年前の氷河に入れと
く ゆ う の は ど な いで しゃ ろ 、 と ま あ企 画 出 し た ん だ 。
ど や え え ア イ デ アや ろ 、 通 っ た が な 。 あ な た の 望む 時
代 に 、 望む 若 さで も う一 つ の新 し い人 生 を 氷河 の中 で
育みましょ う!
釜田
ア ン コ ー ル ・ ラ イ フ ・ ス ミ チオ ン ・モ ン サ ン ト 財 団 の
企 業 秘密 を ベラ ベラ しゃ べる な 、 しゃ べ り 過 ぎや ゆ う
て んや !
鍋島
アンコール!
と 、 山 ち ゃ んが ﹁ ド ンド ン 、 シュ ビ 、 シュ ビ シ
ュビルア、 アーアー アアアー﹂とロック ウイス
キ ー の グラ ス を 片 手 に 出て くる 。
る 距 離 感 の 破 壊こ そ 、こ れら を 兼 ね 備え た ﹁ 骨 髄 性 幹
細 胞 ﹂ の 属 性こ そ、 言 う に 及 ば す 、 移 植 後 の 雑 菌 を 駆
逐するで ありましょう。ああ、 なんというエッ ネルギ
ー!
そこ にこ そ 、 新 た な る 望 む べ き 臓 器が 再 生 さ れ 、
不 死 の あり う べ き バ ラ 色 の 未 来 が 約 束 さ れ る ので あ り
ます 。そん な不 老不 死の臓器を 提供し た い。そのため
こ の ア ンコ ー ル ・ラ イ フ ・ス ミ チオ ン ・ モ ン サ ント 財
団は大阪の おばちゃ んの﹁骨髄 性幹細胞 ﹂が欲し い 。
どうしても 欲し い。 冷凍保存一 体二百五 十万円、安 い、
生 体 なら 一 ダ ラ ー 、 極 安 !
釜田 は 、持 って 来 た防 火用 水を 三度 、 鍋 島を 越
して客席にかけるが 、紙吹雪。
(
山
︵ グ ラ ス の 氷 を 鳴ら す ︶ クラ ン ケ ⋮ ⋮
山
ドンドン、シュビ、シュビルア、 アーアーアアアー、
釜田
グラ ス の 底に 顔が あ っ た って い い じゃ な いか 。人 生 の
クランケ⋮ ⋮
新 し い 門 出 に 南 極 の 氷で オ ン ザ ロ ッ ク ! ⋮ ⋮ ど う ぞ !
釜田
あほ の相手や めて 、はよ 行こ うか ⋮⋮どうぞ !
鍋島
ES細胞は、クローン動 物作成に 使用できる 段階にま
鍋島
阪急 は阪神か い!
で 到達して おります 。しかし胚 の一部を 利用するに は
取 扱 い に 関 す る 倫 理 的 な 問 題 も 生 じ ま す 。 よ って わ た
し は 、 E S 細 胞 取 得 と い う 前 言 を 速 や か に 翻 し 、こ れ と 、 三 人 は ﹁ド ン ド ン 、 シ ュ ビ 、 シュ ビ ル ア 、
アーアーアアアー﹂と退場。
を成人の骨 髄から取 り 出した﹁ 骨髄性幹細胞﹂に換え
ることを 提言したので あります 。で は最 適な成人と は、
女1
何 の こ と か い っこ う に 。
と問わねば なりませ ん。それは 、臆面も なく駄洒落 を
女2
え え い 、 なら こ れ に 見 覚 え が あろ う 。 と 、 弔電を 出
洒落と言 い 切る あつ かまし いセ ンス、しゃ べりだし た
ら 止め ぬ テ ン ポと 饒 舌 、豹 柄を 恥ずか し げも な く着 用
す こ の 訴 状 に よ る と 、 夜毎 ﹁ 薪 く べ は け っして 滅 び
しうる精神的厚顔無恥、初対面 の人を隣人と射程し う
は せ ぬ、 バ ーナ で 森 も 焼き尽 く せ ﹂と 、 奇声が 闇 夜 に
68
釜 田 は 、持 って 来 た バケ ツ の 防 火 用 水 を 再 び か
ける。
)
69
女1
雰 囲 気 は 何 と か 分か る よ う な 、 思 いは な ん と か 、こ こ
まで来るけど⋮⋮
女2
は っ き り せ んち ゅ うこ っちゃ 。
女1
まあ、
女2
ほ ん まか ど う か わか ら んち ゅ うこ とや ろ 。
女1
そうやな。
女2
や っ と 吐 く気 に な っ たか 。で は 素 直に 申す が よ い 。 薪
くべる裏山とはどこ や。
女1
マク ベス 。
女2
あ あ 、 パ ー や 。 な け な し の韻 を 踏 んで ま で 苦 労 し た ん
や。
女1
マク ベスはど うゆうても マク ベス や ろ。
女2
二度 も三度も まったく、 シェイクスピア翁の 作なるこ
と ぐら いは 、知 って る わ い 。こ の 火 盗 改 め 鬼 の平 蔵 、
何度も 甘く 見ると巾 着袋だ。 と、巾着袋を出す ︶こ
の 巾 着 袋を 、 た だ の 巾 着 袋 と 思 う な よ 。 ほ れ 、ここ の
こ れ 切 った ら 、ど う なるか 知ら へんぞ 。 なら ぬ 堪忍 、
するが 堪忍 、それで も 余る 堪忍 は、こ の 巾着の中に 入
って も ろ う て き まし た んや 。ど や !
女1
やめてェ!
女2
や め て や と 、 ねえ ち ゃ ん 余 裕や な いか 。
女1
あほらし、や めて 以外なにゆうん 。あほちゃ うん。
女2
あ ん た そ れ は ゆ い 過 ぎ や 。人 聞 き 悪 いや な い か 。
女1
も う 我 慢で け へ ん 。黙 っ て 聞 いて る だ けや と 思 わ んと
いて や 。
女2
あ ま り の 展 開 に 、 頭 に き た な 。 頭 突 っ 込 んで 、 そ ん な
(
響き、とある。お志 乃、どうだ 。二言はつけまい。
女1
それ いうんなら﹁マクベスはけっして 滅びは せぬ、か
の バ ーナ ム の 森 の 樹 が ﹂や 。め ち ゃ くち ゃ 訛 って る や
ん。
女2
ついに吐いたか!
ど う や 、 少し は 楽 に な っ た と 思 う
が 、 全部 吐 いて まえ 。え っ !
そのバーナ の森とは ど
こ の裏 山のことや 。
女1
マク ベス、マ ク ベスやて 。
女2
発 音 悪 い んち ゃ う か 。
女1
マク ベスッ !
女2
発 音 違 いと 温 情を 指し 示 し たが 、 それも なら ぬと は 強
情 なや つめ 。
女1
ほ ん ま や て 、 マ ク ベスや て 。
女2
ほん まほんま と、聞き飽 きる。どこ にほんま ばっかリ
つま って る 人生が あります んや 。そんな んや 、成り 立
ち ま せ んや ろ 。え え な 、 ウ ソ も 真 の 人 生 なら ば 、 咲 い
て み せ まひ ょ 空 花よ り も 美 し く 、 騙 る 心 は 痘痕 も 笑 窪
の 方 便 と 、 言え ぬ あ の 世 は 今 日 の うち 。 ま いど ま い ど
と会 釈を預 けて 行過 ぎる 。ぼち ぼちで ん なと 受けて 流
すは淀川で 、 流れて 揺らめき舟を押す。もうまるで 、
まごうかた なき映して漂う白雲や、ないか いな。だか
らもう、風に柳と吹く身の上に 、ほんまほんまと、 い
きせききって棹差す な。
女1
な ん や よ う 分 か ら んが 、 無理 し て る の は よ う わ か る 、
気がする、と思うわ 、たぶん、 そうやろ 。
女2
それや 。
女1
女2
女1
女2
70
)
女1
女2
女1
勘違 いして る や ん 。持 っ て 行 くと こ 間違 ご う て る 。品
評 会 し て る んち ゃ う んや で 。
女2
どや と、買い物籠から 絹ごし豆腐をだす 。
女1
どや とはどや 。
女2
絹は絹でも絹ごし豆腐や 。おそれ入れ。
女1
恐れ 入りまし た。絹の靴下に、絹 ごし 豆腐を 、てら い
なく差し出す、その発想と勇気 に恐れ入りました。
女2
一言多い。
女1
明日の朝の味 噌汁の具や 。その豆腐さぞ名の ある絹ご
し 豆腐やろ なあ。さすがやねえ 。どこで 買うのん。ひ
ょっとして 、大豆よ りニガリが 超一級品ちゃ うん。当
たりやろ、 当 たったやろ。隣近 所とは 訳がちゃ いま す 。
海洋深 層 水 か ら の 恵 み ﹁ に が り 靖 国 ﹂ 。
女2
お園 、おばち ゃ んの特技 を教えよ うか 。
女1
結構ですのや けど。
女2
遠慮 いたすで ないない。
女1
め っ そうも お ま へん 。
女2
長ら くお邪魔 し たのう。も うす ぐ失 礼を いたす 。さて 、
何 を 隠 そ う 、 わ た し の特 技 はこ の 豆 腐 の 角 で 、 頭を カ
チ 割 る こ と さ 。 で き る な ら 、ひ と こ と 、 つ い にひ と こ
と﹁あ、痛 い﹂と叫びたいのさ 。畳 のメを汚すが、 堪
え て つか あ さ いよ 。 マ イ 、 フレ ンド 、 救 急 車は いり ま
へんで 。
女1
何考えてん。
女2
色々 、 一 杯 。
女1
ち ゃ う や ん 、 そ ん な 豆 腐 の角 で 、 頭を カ チ 割 って や で 、
(
女2
(
女2
女1
女2
女1
女2
女1
)
女1
とこ に入る んか い。 巾 着袋放り ぱなしで 、ほ っぽ いて
どこ に行 く 気や 。こ の ネ タど う す る ん。
ワ イ ワ イ 、 ど や 、 ど や 。 ど や 、こ うす る 。 と 、 箪 笥
から 靴下を 出す
よ う ま あ 、 そ ん な 都 昆 布 、 箪 笥 に 隠 し て た こ っち ゃ 。
こ れ ど う し た ら 都 昆 布 に 見え る ん 。
ブラ ブラ 振 って み 。ほら 、 そんな 箪 笥預金 は な い。
箪笥預金や な い。見て のとおり絹 の靴下や 。 シルクや 。
夏木 マリがど うしました んや 。
ごち ゃ ごち ゃ い わ ん 。 闇 夜に 、 絹 を 裂 く よ な 女 の 悲 鳴
や!
つ い に 奥 の 手 出して か ら 、 自 分で 出 さ れ へ ん のや ろ 。
悔しかったら、自分で出してみてみい。
ええ んや な。
そ ん な も っ た い な いこ と 止め と き 。 あ た し が 出 し た る 。
家でやと、 なんなと 使い道あるやろ。な 、そうし 。
女が 一旦、下 着出したんや。も う 止めれん。人生一度
は 、 絹 を 裂 くよ な 女 の悲 鳴 の 例 え よ り 、 ホ ン マ も ん さ
せてもら い ます 。さ あ、ど のくら いの高 周波で いき ま
し ょ か 。 ご 要 望 に お こ たえ さ し て も ら い ま す 。
好き にせえ 。
こ の 高周波、電磁層まで 届けと、 思いのたけで参りま
す 。ホント に 、参り ます 。
ま た ホ ント い いよ っ たッ !
あか ん、 あか んや ろ 。隠
し 弾 だ せ ゆ う んや な 。よ ろ し お ます 。ご 期待 に お応 え
し まひ ょ 。
女2
女1
/
女1
/
女2
中原中也﹁湖上﹂から引用
71
女1
)
女2
女2
(
女1
女1
)
女2
も し れ な い 、 切 な い 人 生が 、 身 震 いす る 物 語 に よ っ て
浄化されんや 。いわ く言 いが た いはか な さよ 、例え よ
うも ないも ののあわ れよ 。わた し の愛し てや まぬ無 常
よ 、す べて を 語 り つ く せ 。 間 なんか いえ 。
す ん なり言え たら 、ゆう が な、つ ま り 、だか ら 、 分か
るや ろ 。え え いクッ ソ 。
こ こ ま で 持 っ て き た んや 。 今 日こ そ な ん と か せえ 。 あ
ん さ んが 今 日用 意 し た、 絹 の 靴 下 は 宵 闇 の 水面 に 映 る
満 月や 。
そ ん なこ と あ ら へん 。 あ たし の 高 周 波 は 電 磁 層 を 突 き
ぬけ、満天 の煌 く星 座へ乱反射 のごとく交信をかわ す
ので す 。電 波 の赴 く ま ま に⋮ ⋮
水面 に映る満 月は舟浮か べたら おわりや 。
つ いに 、 買 い 物 籠を 漁 る 。意を 決 して 買 い 物 籠を 掲
げる で も 。で も 、で も ⋮ ⋮ そ れで も ⋮ ⋮ 、
ポッ カリ 月が 出まし たら 、
舟を 浮か べて 出掛けませ う。
波 は ヒ タヒ タ 打つで せう 、
風も 少しはあるで せう。
沖に 出たら ば 暗 いで せ う 、
櫂 か ら ︷ ル ビ し たゝ ︸ 滴 垂 ︷ ル ビ ︸ る 水 の 音 は ︷ ル
ビ ち か ︸ 昵 懇︷ ル ビ ︸し いも の に 聞え ま せ う 、
︱︱ あなたの言葉の杜切れ間を。
(
女2
女1
ど う な ん の や 。 そら ま るで 、 あ れや ん 、 つ ま り 、 そ の 、
変 人 以 上や ん 。
天才か?
す ん なり言え たら 、ゆう が な、つ ま り 、だか ら 、 分か
るや ろ 。え え いクッ ソ 。
だからッ、思 い切れッ!
どうや 、こ うして 無心にこ
の柔 肌の一 点に目を や ると、身も だえす んや ろ 。 そ の
身 も だ え を 思 い 切 ら な あ か ん の や 。 見て み な は れ 、 こ
の な ん と も いえ ん 、 三 次 元 の コ ー ナ ー 。 人 生 そ の も の
や な あ 。互 いに 九 〇 度で ガ ッ プ リ 四つや 、 いや ガ ッ プ
リ三つのミステリ アストライアングル。身動きとれま
へんのや 。 身震いしてしょうな い。行き 場を失 い、 引
く に 引 か れ ず 立ち す くむ 。人 生 や な あ 。 涙 や な あ 。 笑
いや な あ。 情 念が 渦 巻 いて る な あ。ゆ う に 言 わ れず 、
涙した朝も あったはずや。わか るで、よ うわかる。泣
く に 泣 か れ ず 涙 を か んで 、こ ぼ す 笑 顔 が ほ ろ 苦 い 。 思
わず 叫び た い瞬間も ある 。そら そうや 。 そうや ろ 。 な
そうやろ。
なに ゆうて ん 。豆腐の角 の他愛も ない話しを 、面白お
か し くす ん のも 、ほ ど ほどにし て 、はよ なんとかし 。
山 折 哲 雄 は ん か て ゆ うて る んや 。 日本 近 代 の 壮 士 節 は 、
山田晋平に 引きつが れ、古賀 メロディー によ って 甘 く
ささやかれ たが、その情念はつ いに美空ひ ばりによ っ
て 完 成 さ れ た 。こ れ が 演 歌や 。 わ たし の 身も だえ を 、
つ いに 思 い 切る 、こ の思 い 切る のが 情 念 や 。情 念 は や
がて 己を物 語る。そ うして 、こ の他愛も なく見え る か
72
)
(
ぞうり﹂と 言いまし た。
女2
そん なに揺す るんや ない 。
女2
そん なアホな、笑われま っせ。河 内音頭16ビートで
女1
こ の 大阪 の お ばちゃ んの 買 い物 籠 は そん な舟 で あり ま
踊られへんて。
した。
女1
常光 寺の本尊は地蔵菩薩です。お稲荷さんで はありま
女2
そうやトム 、 そうや ﹁ ト ム ・ソ ー ヤ ﹂
へ ん 。 お 揚 げ さ ん は お 供え で き ま へ ん 。 そこ で 、 南 北
女1
まじ めに。
朝時代の御 世の昔か ら 、お地蔵 さんのお 御足を 守る た
女2
こ の まじ め な おばちゃ ん を 捕 まえ て 、 なに ゆ う ん 。
め 、こ の ﹁ 金 の ぞ う り ﹂を お 供 え す る の で す 。
女1
で は 生 真 面 目 に 。こ れ は 大 阪 の お ばち ゃ ん の そ ん な 買
女2
へー 、ようで きた、ホント のよう なはなしや な。
い物 籠で し た。
女1
いま 、ホント といいまし たね。
女2
大阪 のおばち ゃ んが その 籠持つか らこ そ、大 阪のおば
女2
えっ?
ちゃ んは大阪のおばちゃ んなのか、その籠が大阪の お
女1
そんな返し文 句は、﹁黄金のゾウ リ﹂のまえ では、か
ばちゃ んを 仕立て る のか 、 籠が 属 性か 、 大 阪 の おば ち
ら っきしで す 。
ゃ んが 属性か、それ は 、華やか な、長い 、 それで いて
あつか ま し い、 栄 光 の 大 阪 の お ばちゃ ん 史 の 暗 部 に 隠
女1は女2の左手に﹁黄金 のゾウリ﹂を置く。
れ、後先ありません。
女1
で は 、 いわ ば こ れ は 大阪 の おばち ゃ ん そのも ので す ね 。
女1
さあ、絹ごし 豆腐に﹁金 のぞうり ﹂を履かして くださ
女2
まっこと、御意。
い。
女1
そ ん な 大 阪 の お ば ち ゃ ん の 懐 に 、 水が 滴 る 櫂 を 挿し 、
女2
えら いセンスやなあ。
それでも 漕 ぐ手は止め ないで 、 上に下に とかき 回し ま
女1
お ば ち ゃ ん の 発 想 で は つ いて こ れ ま へ ん か ?
せう。そうして取り い出だしますは、こ れ、﹁黄金 の
女2
ど う な って も 知 ら んで 。 厚 揚 げ な ら ま だ し も 、 巾 着 に
ゾウリ﹂で あります 。
な って 、 お 餅に 成 済 ま し た 絹 ご し 豆 腐 が 鰹 出 汁 に 染 ま
女2
あんさん、お国は?
る なら 、 あ あ、や っ と 帰 れ た そ の巾 着 の 、 堪忍 袋 の 緒
女1
河内です。
を 切るが 、 それを 承 知でええ ん や な。
女2
そこ で は 、薄 揚げさ ん﹁ 黄金 のゾ ウリ ﹂ゆ う ん。
女1
覚 悟 の 上で す 。
女1
いいえ 。
女2
それでは参り ます。マイ 、フレンド、畳のメを汚すが 、
女2
で ま か せゆ う たら あか ん わ 。
堪え て つ か あ さ いよ 。
女1
常 光 寺 界 隈 向 こ う 三 軒両 隣で は 、 小 さ い 頃 か ら ﹁ 金 の
と 同時 に 、 女 2 は す ばや く 左 手 の薄 揚 げを 、 右
手の絹ごし 豆腐に重 ねる。続いて 同時に 、両 手
の天地を逆 転。下から左手、薄 揚げ、絹 ごし豆
腐 と な る 。 女 2 は 左 手を 掲 げ て い る 。
同時に 、音楽 。
女2
プル ルンッ!
ど うや ?
何も動かない。
女1
も う 少し強 く 。
女2
あいわかりました。それではプル ルン!
女1
プルルン!
女12
プルプル、プルルン!
ここで プルルンと 動いたのは、女1と 2で あっ
た。
1
.
7
女1
身も だえ をふ ん切って 、 思 い切り ます 。マ グ ニ チュ ー
女1
それが ﹁黄金 のゾウリ﹂です 。絹 ごし 豆腐が ﹁黄金の
ド
で
ゾウ リ ﹂を 履 いて い る ので す 。 最 高や な いで す か 。 そ
れこ そ、つ いに美空ひ ばりの向こ うにたち 現れたれ た、 同時に 、 音楽 。
も う一 つ の 演 歌 の可 能 性の姿で す 。今絹 ごし 豆腐は 情
念と化し、 身もだえ し ながら思 い切ろう として います 。 女12
プルプル、プルルン!
女2
え っ 、ウソ ー 。
女1
大阪 のおばち ゃ んには見え へんのですか ?
今度は 、絹ごし豆腐が プル ルンと動く 。
女2
見え る と か 見 え んと か 、 そ ん な お 話 し や な い や ろ 。 大
阪 の おばち ゃ んはこ こ で 感じ る から 、 そ れで 十分や 。
女2
プルルンやで 、プルルンや!
女1
そうです 。よ くできまし た。
女1
おばちゃ ん、思い切った !
女2
ありがとさん 。
女2
身動きとれま へん。身震 いしてし ょ うない。
女1
できるなら、 プルルンと 、少しだけプルルンと、震度
女1
身震 いして いるのは﹁黄金のゾウリ﹂を履いた絹ごし
豆腐です。
で プル ルンとッ
73
女1
自信が ありま す 。今夜は そんな気 がして ます 。絹の靴
下 か ら 、 突 拍 子 も な く呼 び 出 し て 、て ら い な く 差 し 出
す 、 勇気 に 満ち た 絹 ご し 豆 腐 の 情 念 を 頂 け たら 、 そ い
つにのしを つけて お 返しできる かも知れ ません。
女2
南 無 八 幡 、え べ っ さ ん 。 お願 いし ま っ せ 、 メ リ ケ ン は
んッ !
5
.
3
)
(
女1
お待 たせし ま し た 。豆腐 の角で 、 頭を カ チ割 る のは 、
今で す 。
女2
絶 叫で 、 豆腐 の角で の 頭 のカ チ割 り !
音楽 、 カット アウ ト 。
)
あ、 あ⋮⋮
見え ますか 。
何が ?
大阪城が、バーナムの森が、倒壊した高速道路が⋮⋮
あ、 あ、あ⋮ ⋮ あか ん。 痛 ない。 豆腐の角が 欠けても
た。
(
女2
女1
女2
女1
女2
(
74
女2は泣く。それは文楽の義太夫語り の、あの
あきれる程 ため た泣 きで いある 。
女1
聞こ え ますか 。
女2
何が ?
女1
それ は、つま り、踏み 切 りの音が 、カントリ ーソング
が⋮⋮
女2
キャ ーッ!
ウソ、なにこれ、ツーと伝わるこの冷た
いも ん 。
女1
えっ?
女2
何 と い うこ と だ 、こ の 手 は ?
ああ!
今にも自分の
眼玉をくり ぬきそう な!
大 海 の 水を 傾 け て も 、 こ の
血をきれいに洗い流せはしまい?
と、豆腐の雫を
ペロリ
女1
情 念 み せて 、 も っ と 語 り !
女2
優勝 メザシ!
女1
なんなんそれは?
女2
分か った。 単 純や ん、出 会 いが し ら は あか ん わ な 。こ
の 買 物 籠 持 つ の 忘 れ る と は 、 ま あ何 と お こ が ま し い 。
不遜で ありました。まったく失 礼小金治 。
女1
なに ゆうて ます ん。こ れ 大阪城や ろ。感じ たやろ。バ
ーナ ム の森 が 動 くん なら 、 大阪 城かて 動 くゆ うた ん は
あんたやろ 。
女2
こ れ 大阪城 な ん、何 と な んと 南都雄二 。大阪城が黄
金 の ぞ う り 履 いて ん の 。
女1
⋮ ⋮ お ばち ゃ ん あ ん た 、 違 う 言 い 切れ る ん 。
女2
ひえー!
女1
語の真の意味で、違うと論証できるん。
女2
ひえー!
、 それは 詭弁 や ん。
)
女2
な ん と も なら ん 。
女1
おばちゃ んの思い切りと 絹ごし豆腐の身もだえが ブル
ルンです。
女2
ブルルン!
女1
語り 始めまし たか。笑って います か?
女2
人 目 に は 可 笑 し か ろ う 。 だ が 、 自 分で は 笑 わ れ へ ん わ
い。
女1
泣 い て いる の で す か 。
女2
ど っち か 言え ば 泣 き た い 気 分や 。
女1
泣いてください。
女2
そ う 思 う た の は 、 あて だ けや おま へ んで 。 氏 子 総 代 、
浴衣 仕立て で お参り に来て いた み んなか て 、 そうや っ
たと。
女1
通天閣かてゆうた。
女2
なら 、 水面 の 上に 、 なけ なし のわ ずか な思 いを 投 げて 、
川底見上げた夜空に、あんたは いったいどんな星を 出
し た んや 。 。
女1
バーナムの森が動くんなら、大阪城かて動くと。
女2
確か に ゆ う た 。 ゆ う たこ と に な る んや ろ う な 。
女1
そん な、それ は無責 任や ん 。
女2
オ ー プンソ ー ス は 、 自 己 責 任は あ るが 、 あん た への責
任 あら へ ん わ い 。
女1
もて あそんだ な。
女2
もて あそばれ たな。
女1
それでも大阪城は動く。
女2
ア イ ス ピ ッ ク 代 わ り に カ チ割 り 氷 作っ たこ の 頭が 、 豆
腐 の 角 で 、 カ チ 割 れ たら 、 き っ と な んで も み え る や ろ
うと、あん たに大見 得切ったの は、こ の 大阪のおばち
ゃ んや 。
女1
あて に は 見え へん のや 。
女2
バー ナ ーで 焼 き つ くす ん は 大阪城 か ?
女1
そうや な、な くなるんや から、動 いたのかも 知れまへ
ん。
女2
お忍 っ、ついに吐いたな 。
女1
も う え え て 。 火 盗 改 め 鬼 の 平 蔵 受 け 継 いで 、 今 夜は い
つもと違って、とって おきの絹 の靴下で 、あんたの 十
75
女1
詭弁 を 逆 手に と って 、 そ れ は 大 阪 城で おます 。
女2
こ の 黄金 の ぞ う り の 上に 鎮 座 ま し ます と 、 あ た いが ト
マトを 載せ ると 、こ れはト マト で あって 、すで にト マ
トで なくなるのでし ょうか。ト マトソースでもいいの
で す ね 。す ると 、 絹 ご し 豆 腐 は い つ 大 阪 城 に な っ た の
でしょうか ?
女1
それ は戻り値 なしの詭弁 のブラッ クボックス です 。
女2
三 度 、ひ え ー !
ついにこの黄金 のぞうりは変数です
か?
変数 値が 日本 だとすると 、 それは 日本で あって 、
す で に 日 本 で は な い ので す ね 。 思 わ ず 標 準 語 し て し ま
いまし たが 、 それは 大阪で あって 、すで に 大阪で な い
のですね。こ れは そ んなソ ース コ ードで ありまし た ん
ですか?
女1
天神祭りの宵 宮に⋮⋮
女2
天神祭り?
女1
あて が な 、 菅 原道 真 は ん お迎え に 上が り 、 お 旅 所に お
御 連れす る 、 御迎 船 の舳 先の お 迎人 形や ったこ ろ 、 大
川 の 水面 に 映 る 大 阪 城 はも の ご っつう 綺 麗や っ た な あ 。
と こ ろ が 大 阪 城 は ん 、 水面で ゆ ら ゆ ら 揺 ら め く だ け や
な い んや 。 御 迎 船 動 くや ろ 、 す る と 大 阪 城 は んも 、 一
緒 に 来 る ん や 。 そ ん な あ ほ なこ と あ る か いて 、 奉 安 船
に 、 供 奉 船 に も 、 奉 拝船 に も 聞 いて み た んや 。す る と
みんな、大阪城はんご一緒に、後ろきて はりまっせと、
口を そろえ てこ とも なげに いいよる 。驚 くには驚 い た
が 、 大 阪 城 は んも お 供を す る と は 、 さ す が は 天 神 祭 り
や 、 船渡 御 や と 感 心 し たも んや 。
(
女1
女2
女1
女2
)
女1
女2
女1
女2
女1
女2
女1
女2
76
女2
女1
女1
女2
ヤコラ セー 、ドコ イ ショ⋮⋮
八番の絹ごし豆腐を 導き出しました。そんな絹ごし 豆
女1
はよ せえ 。
腐に﹁黄金 のゾウリ ﹂を履かせることが でけたのは 、
女2
黄金 のゾウリ 、 お履か せ くだは い 。行 けーッ !
修行 のたま も の、それもこ れも 大阪のおばちゃ んの お
か げで あり ます 。感 謝 申し ます 。 申し ま す が 、 動か へ
と 同時 に 、 女 1 は 新 し く 買 い物籠から 出して 用
なんだ。
意して いた左手の薄 揚げを 、右 手の絹ご し 豆腐
お仙っ!
に 重 ね る 。 続 いて 同 時 に 、両 手 の 天 地を 逆 転 。
⋮⋮
下から左手、薄揚げ 、絹ごし豆腐となる 。女1
半 身 阪 神 フ ァ ン の 田 淵 は ん っ ! な んで す か 。
は左手を掲 げて いる 。
半身 阪神ファ ンの田淵は 、 半信半 疑の田淵で も ありま
し たが 、 ご 無沙 汰 し て いる 間に 、 全 身 全 霊 の田 淵 と な
女1
いか がでしょ うか 。
りました。
女2
ま あ 、 そこ そ こ で は な い か と 。
全身全霊の田淵はん。
女1
では、プルプル、プルルン!
行 きます 。
は い 仙ち ゃ ん 、何 で す か ?
女2
まって!
プルプル、プルルン!
はなぜだめだったのですか?
女1
え?
それ は お応え で きま へん 。環境が 違 います 。
女2
右手に!
環境 ?
女1
右手に!記憶 の向こ うに !
忘れ去れぬ憤怒をッ。
仙ち ゃ ん !
自 己責 任で や って み ま す か 。
女2
こ れ や と 、 イ カ リ ソ ー ス の 容 器を テ ー ブ ル の 上に 置
自 己 責 任で !
今 日 も ま た ﹁ あ 、 痛 い ﹂ と いえ へ んか っ たこ の 全 身 全
く
霊 の 田 淵 に 成り 代 わ り 、 一 言 ﹁ あ 、 痛 い ﹂ と ゆ うて み
女1
え?
ま へんか 。
女2
クラ スや、継 承し。
ま い どです 。
女1
意味わかりま へん。
不 肖 こ の 全 身 全 霊 の田淵 、 音頭と り ます 。よ ろ し いか 。 女2
人生わからんかことはしこたまあります。いちち 、す
お願 いします 。
べて わか っ たら 、細 木数 子 の商 売 上が っ たりや 。
ええ ー、さて こ の 場 の 皆 様 へぇー 、ち ょ いと 出まし た
女1
イカ リ、ソ ー スです ね。
私 は 、 お 見 か け ど お り の 若 輩で 、 ヨ ー ホ イ 、 ア 、 エ ン
女2
色々 あるや ろ 。肝心 なの は、 プル ルンで 体ゆ す ったら
女1
女2
女1
77
女1
女2
)
女2
(
女1
女2
女1
女2
女1
です。
あか ん。揺するのは 絹ごし 豆腐 。あんた の体動いたら 、
女2
今 の 仙ち ゃ ん な ら 、 き っ と 出 来 る 。
その容器の 中 身が 動 くからす ぐ 分かる。ええ な。
女1
全 身 全 霊 の 田 淵 は ん 、 そ れ で は 自 己責 任で 参 り ま す 。
は い 。一つえ え で す か 。
女2
お供します。
何 ね 、 仙ち ゃ ん !
女1
間 プルルン !
見て くれは いかがで しょ うか 。
あ ん た 何 に 拘 って る ん 。
視線 に晒 され るこ の想像 力 は、コ ミカ ルで す か 。 それ と 、 音 楽 。 女 1 は 豆 腐 の 角 に 頭を ぶ っ つ け る 。
と も 、 そこ そこ 絵 に な って い ま す や ろ か 。
知 ら ん 。 だ れ も 見て へ ん 。で も な 、 世 間 の み な さ ま に
女2
プルプル、プルルン!
は訊か んと き、黙 っとき。いろ んな誤解 を 生んでも し
ょ う な いで 。と り あ え ず そ の 自 意 識 に は 笑 顔で 応え と と 、 女 2 も 豆 腐 の 角 に 頭を ぶ っ つ け た 。
き。
無矛 盾ではな いのですね ?
女1
あ⋮ ⋮
豆腐 にソ ース は、矛 盾で は ないわ な 。少々 の 違和で 、
女2
あ、 あ
二の足踏む わな。
女1
あ、 あ、あ⋮ ⋮
少々 の違和 感 に耐えて 見 せます 。
女2
仙ち ゃ ん !
仙ち ゃ ん !
あんたなんか文句あんのやろ。 それでも
ごちゃ ごち ゃ ゆわ ん 。
女2はすで に 豆腐 から 頭を 離して いる 。
は い 、こ う な っ たら こ の 身も だえ を 、 黄金 の ゾウリ を
履 いた絹ご し 豆腐に 送り ます 。 そ ん な 身 も だえ を 豆 腐
女2
頑 張 ら んか ワ レ !
の中で 、 プ ルルンと 揺らめか せて ごら ん に入れまし ょ
女1
あー っ!
う。ブルルンにプル ルンを 増長させ、臨界点のその 瞬
女2
⋮⋮
間、絹ごし 豆腐が思 い切ったその瞬間を 見切りまし ょ
女1
あい、あい⋮⋮
う 。 そ れ は 豆腐 の 角 に 、こ の 頭 を 預 け た 瞬 間で す 。 見
女2
聞こ え ん。も っと大きな声で !
事 、 絹 ご し 豆腐 の 角 で 、こ の 頭 カ チわ っ て ご 覧 に い れ
女1
あ い 、 あ いッ !
ましょう。 そのとき 私の情念は ﹁あ、痛 い﹂と語る の
女2
愛で は地球救われん。﹁ あい・た﹂や、﹁た﹂た抜き
女2
なに 意 地はって んや 。畳 の メ、そ の テーブル の下残 っ
て んで 。 あ ん たに は 重 と うて 一 人で 動か さ れ んや っ た
んや ろ 。知 って んで 。ズ ー と ﹁ 一緒 に 動 か して ﹂て 言
い そび れて き た の知 って んで 。 おみ と う し や て 。
女1
そ れ で も 、 ホ ン マ モ ン や って 。
女2
息 止 め ろ 。 ホ ン マ 、 ホ ン マと ゆ う んや な い 。 国 家 が 、
国家足りう る骨格と して の属性とは。
女1
一つとして軍 隊。
女2
さら に !
女1
一つとして貨幣。
女2
さら に !
女1
一 つ と して 権 力 。 それが す べて で す 。こ れら の鉄 扉面
を 剥 ぐと そ こ に は 恐 怖と い う 二 文 字が 静 か に 眠 って い
る 。こ れを ロ マ ン と い う 。
女2
⋮⋮ 模範的な解答ありが とうおました。どんな本読む
とそんな骨董品みたいな、呪文に出会うんだす。天牛
に か て そ ん な 古 本 も う な いで 。 そ ん な 暇 あ る んや っ た
ら息止めろ 。
女1
な ん か 息 苦し い わ 。
女2
後藤!
女1
全身 全霊の田 淵はん、な んだすや ろ。
女2
仙ち ゃ ん、 そ んな んや 大 阪城 は動 か へん 。息 止め な動
か へん。
女1
誰も 、動 くと 思 うて へん が な 。わ か って るて 。も うえ
えて 。や っ ぱり 、﹁ あ﹂で 、﹁ い﹂や っ た んやて 。
女2
そ ん な も ん 、 軽 く うち ゃ って 、 軽 や か に ジャ ン プ す ん
78
す んや な い 。 あ いた 、で 血を 流 せ 。
女1
出 来 る なら 、 ﹁ た ﹂が 出 ぬ 悔 し さ で 額 の 上か ら 血 の涙
を 流し た い ほどです 。
女2
仙ち ゃ ん そ れ や 。 ま だ 、 そ の 絹 ご し 豆 腐 、 額 か ら 離 す
んや ない。 いま 仙チャ ンは 身も だえ して ます んや 。 静
か に そ っ と 、て ら い な く 絹 ご し 豆 腐 に 思 いを は せて み
て 。聞こえ るやろ、 絹ごし 豆腐 の呟きが 。聞こえ る は
ず や 。 そ れ を 、 あ ん た の 口で 物 語 って お あ げ 。 絹 ご し
豆腐の身も だえを 浄 化して あげ な。あん たしか 、で け
し ま へ ん の や 。こ こ で て 行 き た い んや ろ 。畳 の メ と も
おさらばや 。
女1
全 身 全 霊 の 田 淵 の お ばち ゃ ん 。
女2
目え つむるんや ないで 。 息止めろ 。
女1
全身全霊の田淵はん!
⋮⋮国家とは。
女2
なんやて 、こ んな時になにて んご ゆ うて んや 。笑われ
へ んて 、 そ ん な ギ ャ グ 、 東 京 弁 に 任し と き 。 死 語 、 死
語や 。
女1
死 語 のよ う な ギ ャ グに 付 き 合 って き た んは あ た いや 。
国家とは!
女2
後藤はん!
それはあた いの台詞 や 。しっか りし い。
女1
あん たの口癖 、物まねし ただけや 。なんか知ら んが、
今 の うち な ら 応 え ら れ る 気 す る わ 。 い つ も の よ う に が
ま んす る か ら 、や っ て 。
女2
知ら ん。
女1
お別 れすんのが 怖いんか ?
も うこ うして 二 十年も 三
十年も付き 合うて き た んや から 、こ れが 潮時やろ。
︻ 注記 ︼ 文中のハングル・マクベスは姜姫止さん
によるものです。また、大分弁は藤野茂子さんによる。
謝意を表します。
[
7
章
]
女2
軽や か に う っ ち ゃ て な 、 ジャ ン プ せ な な 。琴 ヶ浜 の 内
掛 け を 見事 に か わ し て 、 大 見 得 切 って も え え で 。 そ う
す る と 、 バ ーナ ム の 森 が 動 い た くら いや か ら 、 大 阪 城 オ ル ゴ ー ル の中 、 女 1 、2 は そのま ま 居 る 。ご
かて 軽く動 くや ろ 。 そら 動か ん か っ たら 、あんたの 方
婦人達 いつ の間にか 各 所に ある 。ご婦人 達は、
か ら 、 近 づ いて っ た り 。 な に ゆ う て ん や 。 詭 弁 や あ ら
旅行用 のカ バンを そ れぞれ持 って いる 。
へん。動くと いうの は運動の問 題や あら へん。相対 的
な位置の問 題やから 、距離がち じ んだゆ うんは、関係
鍋・釜
も しも し 、 ど な いし ま し た んや 。
が 変 化 し た と い うこ と だ っ せ 。 そ れが 動 く ゆ うこ と だ 。 蔵 王 三 山
こ ん な と こ で 居 眠 り し て 、 風 邪ひ き ま っ せ 。
しかしや な 、こ の 奥 の 手使うと 、後先わ から んなん の
婦人達
し っか りし なはれ 。
で 、 結 果を 保 証で け へ んゆ う ん が 、 な ん とも なら ん と
五色
ま あ 、 そら な んだ 。 手 の 上に 御 揚 げと 冷奴 載 せて 、 ま
こ で 、 人 に は よ う 勧 め ん のや け ど 、 そ れ で も か ま ん ゆ
さ か 、 あ ん さ ん そ の 口ん 中 に お 味 噌 入 れ て んや な い や
う なら 、 そ ら も う あ ん さ ん の 勝 手 だ す さ か い に な 。 よ
ろな。
う は 、 あ ん じ ょ う 気 張 って も ら わ な なら ん と ゆ うこ と
熊野
こら また、あんさん家の お味噌汁 の出汁はソ ースです
ですわな。
か いな 。 そ う 、ソ ー ス な んどと いう駄洒 落 は 、 辺見 ま
り。
オ ルゴ ー ルがや け に 物 悲し く聞こえ る 。
刈田
それともイタ飯系。
女2はオルゴールの流れる なか、豆腐を食べる 。 女1
⋮⋮
79
女 1 は ガ ク リ と 崩 れ 落 ち る 。ソ ー ス 、 絹 ご し 豆
腐、薄揚げはそのまま。
こ の女 1の﹁ガ ク リ ﹂と 同 時 にオ ルゴ ー ルの音
静かに入る 。
;
や。
女1
軽 く うちゃ っ て 、 軽や か に ジャ ン プ⋮ ⋮
鍋島
♪8時ちょうどのあずさ2号で
鍋・釜
♪ 私は
私は
あなたから旅立ちます⋮⋮
山
︵ ド イ ツ 語 ︶ は よ 行 くで 。
釜田
ええ 歌やないか。特に釜ちゃ んの声に張りが ある。旅
立ち に は お 似 合 いや 。特 に 今 日 のはえ え 、 さ あ、行 き
ましょうか⋮⋮どうぞ!
鍋島
ええ 歌やないか。特に鍋ちゃ んの声に張りが ある。旅
立ち に は お 似 合 いや 。
釜田
も う え え 、こ こ に あ ん さ んら を 連 れ て き た の は 間 違 い
や っ た 。 頑 張 って 関 西 弁 練 習し た の に 何 も な れ へ ん か
っ た 。 ど な いし て く れ る ん や ! 誰が 責 任 と る ん や ! み
んさい、ご覧のとおり何にもおまへなんだ。焼け野ヶ
原や 、も う ペン ペン 草かて 生え へんや ろ 。納得して も
ろ た と 思 い ま す 。行 き まひ ょ 。 ⋮ ⋮ ど う ぞ ! いや ち ゃ
う、用意はできまし たな。あなた方の、時間の解凍旅
行は、終わりました。
鍋島
行きまっせ。
蔵王三山
は い 。 さ よ なら は 、 いつ まで た って も 、 とて も 言
え そうにありません 、私にと って⋮⋮
鍋島
歌わ んかてえ え 。
釜田
⋮ ⋮ 何 か 未 練 が ある よ う で す が 、 皆 さ ん いか が いた し
ましたか?
鍋島
ピキ ピキピッキーン!
蔵王三山
ピキピッキーン!
鍋島
あな たが たはここ に居て 付くつも りですか ?
釜田
カ バ ンは持ち まし たか ?
80
五色
なんなん、その変に尊敬した眼差しは。
女1
おは ようさんで 。どちら さんです やろ。
刈田
まあ、なんと 、挨拶でき るように なりましたやないか 。
熊野
そうで っか 、 そらよか っ た。
五色
こ れ で あて ら も 、 心 置き な く 旅 立 て ま す が な 。
蔵王三山
では。
女1
そら ま あ、 ご 丁 寧 に 。 お はよ う さ んで し た 。
婦人達
おはようさん。
女2
おはようさん
ではありまへんで 。あんさ ん、まだ
日い越して まへん。
女1
で 、 御用は ?
女2
そ う 直 球 投 げ ら れて も 。 いや 、 見 るか ら に 、 ダ イ エ ッ
ト 成 功 し た んや なて 。ス リ ム に な っ たや ん 。何 キ ロ 落
ちたん。
女1
七キ ロ 。
女2
ウソ こ け 、ご まか せるん なら 、こ んばんわ。
女1
どち ら さんで すや ろ 。
山
︵ド イツ語︶語呂巻力。
釜田
なめ たこ とゆ うと ったら あか んで 。わ たし は アンコ ー
ル ・ラ イ フ ・ス ミ チ オ ン ・モ ン サ ン ト 財 団 の 語 呂 巻 力
や !⋮⋮ ど う ぞ!
鍋島
み な さ ん 。 さ よ なら は 、 いつ まで た って も 、 とて も 言
え そうに あ りません 、私にと って 、 あな たは今も 、 ま
ぶ し いひ と つ の 青 春 な ん で す
釜田
な に ゆ う と ん 。 な んち ゅ う 意 訳す んや 。え え 加 減 に し
い。
釜田
そのように貴 方の手にカ バンを持て ば旅立て るわけで
は あり ま せ んね 。心 の 準備を !
蔵王三山
では!
刈田
後ろ 髪を引か れないため に
山
︵ド イツ語︶ ポエムがポ エムを産み、それが いずれ真
実と なるなら、それはポエムなのか 、そとも現実なの
か 、す る と ポ エムと は現 在で あ る のか 。
釜田
こ の 語呂 巻力 の前で 、髪 の話 はす んや な い⋮ ⋮ ど う ぞ !
鍋島
嵐の予感です 。
熊野
さ さ や か で す が 、 一 つ の 思 い 出を 置 いて 行 き た い と 思
います 。
五色
し ば し の 時 間 を お許 し く だ さ い 。
刈田、 熊野、五色はカ バンからワンカ ッ プを そ
れぞれ二つずつ出す 。刈田、熊 野は女1と2に
渡す。五色は祭壇に 置く。刈田 、熊野、 五色は
ワンカップの蓋を開ける。
刈田
思 い 残 し た ワ ンカ ッ プで の 乾 杯で す 。
熊野
熱 燗 なら なおのこ とよか ったのや けど、それ はまたの
こ と に し と き まひ ょ 。
五色
さ あ 蓋を 切 っ て 、ち じ め て い う と フン 切 って !
女1
なんに乾杯をしましょうか?
五色
貴方の一番嫌いなアングラ︵=物語︶に!
女1
では黙して乾杯!
81
蔵王三山
はい。
鍋島
準備は!
蔵王三山
ピキピッキーン!
釜田
こ こ で あな た 方を 解 凍す る わ け に は ま い り ま へ ん 。 旅
立ち は 事 故 だ った の で す 。し た が って 現 状は 手違 い の
ま ま な ので す 。
鍋島
何 十 年も 、 冷 凍保 存 の な かで 閉じ こ も って い た あ な た
方 の 、 し ば し のカ バ ン は いえ 、 カ バ 、 バ カ 、 バカ ン ス
は、終わり ました。
釜田
まいります。
鍋島
カ バ ンは持ち まし たか ?
蔵王三山
はい。
釜田
バカ ンスはもち ましたか ?はい。で は!
蔵王三山
ピキピッキーン!
刈田
でも !
蔵王三山
道に迷ってしまいました。
山
︵ ド イ ツ 語 ︶ 吉 野を のが れて 、 生 駒 の 山 中 を 義 経 一 行
が 行 くよ !
釜田
迷う人生など馬にけられて 後ろ足 、 それが 右 足で あろ
うとなかろ うと、後ろ足で 砂か けんか い 。すると、 前
足は手かと問うなか れ、雑念!
⋮⋮どうぞ!
鍋島
迷え る 人 生が ある うち は い い 。 そ こ で 閉 じ こ も る の は
籠城戦で ある。だが 、わがアンコール・ライフ・ス ミ
チオ ン ・モ ン サント 財 団は貴 方 に 、 そし て 貴 方に 、 リ
セ ッ ト し た 純 白 の 明 日を 、 不 老 不 死 のも う 一 つ の 人 生
を お届けし ましょう 。
女2
女1
女2
女1
鳴 っ て んで 。
え ! いつか ら 鳴 って ん の !
ず ー と 鳴 って んが な 。ず ー と な 。
はい。
と、女 1はワイヤ ーレスマ イクをつける。
2
女1
CQ 、 CQこ ち ら 7 M ヘ ル ツ 、 出 力 5 ㍗ 、 試 験電波 発
信中、JE3⋮⋮いやコールサ インはありません。 メ
リット5で 極めてクリアな方、特にメリット1の混 信
中のあなた、タヌキ などやめて 発信願います。
て な こ とを 二 十 年前 はや って いま し たが 、 い ま は貴 方
も 、 私も 片 手で 出 来 る ネッ ト ラ ジオ で す 。 ネッ ト ラ ジ
オ 局 の 開局 時 間が 、 今 夜もや っ て き まし た 。 全 世 界 の
リスナーの 皆さん。 お元気でし たか ?
お変わりあり
ま せ んで し たで し ょ うか 。相 変 わ ら ず の 騒 が し い シ ャ
9
と、音楽入る。
7
6
9
1
女1
参 り ま す 。 C Q 、 CQ C Q !
ン プ ーで 、 いや 石 鹸 で 、 いや い や 世 間で 、 ホ イ ホ イ ホ
イ、快調のオヤジギャ グ三段論 法とばして、相変わら
ず の わ た く し で す 。 それで は 、 独 断 と 偏 見で 選ぶ 、 田
淵 は ん の お 気 に 入 り チャ ッ ト の コ ーナ ー 。ま ず は 、 チ
ャットネーム大阪の 後藤さんから。なに なに、独立し
ま し た 。 遊 び に 来 て ね 。 パス ポ ー ト も ビ ザ も い り ま へ
ん 、 そこ ん と こ ヨ ロ シク ッ !
どうやら 海外結婚で 日
本を 脱 出す る 模 様 ー で す 。ウ ソ ー 、 独 立 し ま し たが 、
国で は あり ま せ ん 。 わ た くし 後 藤 は 、 日 本から 独 立 し
た世界市民です。日本語表記住所、大阪府大阪市。皆
さ んも 気 軽 に 独 立 し て ね ∼ェ 。 ⋮ ⋮
こら 後藤、も っと詳しく説明しろ 。
それで はも う 一 つ 。イギ リ ス 沖の 北 海、シーラ ンド 公
国から のチャット 。 ヘイヘイ、 わが 国の 国土は海の 上、
バス ケット ボールのコ ート 程度 、
年 月 日に独 立
してからズ ーと快適よ。モジョ 使えるよ うにしようか
な?
独 立 記 念 パ ー テ ィ す る よ 。 P 2 P よ 。こ ら わ れ
勝 手に ヘイ ヘイ ヘイ 。
お っ と 、 後 藤 は ん 、 イ ラ ッ シャ イ ∼ 。 な に な に 、 も っ
と気楽 に⋮ ⋮ 国家と は、一つと して軍 隊 ⋮⋮
と、ガ リガリキーと混線音。
女2
CQ 、 CQ⋮ ⋮こち ら 7 メM ヘル ツ、出力5 ㍗、試験
電 波 発 信 中 、 J E 3 ⋮ ⋮ いや コ ー ル サ イ ン は あ り ま せ
ん。
82
女1、女2、刈田 、熊野、 五色は飲む 。同時に
酒しぶき。
同時に 音楽 。
ご婦人達は退場のゆっくり した動き。それはプ
ロローグの動きと重 なる。
と 、 混 線 音や む 。 こ の 後 、 混 線 が 起こ り 止む 。
女1
少々 焼 け気 味 の田 淵 の お ばちゃ んで す 。面 倒 くさ いん
で 音声 チャ ッ ト に 切 り 替え ま す 。登 録 I D お持ち の 方 、
もうバン バンきて 、 バンバン。
お相 手くるま で 、こち ら から 。ミ チミ チ道ち ゃ ん聞 い
てますか。
女2
CQ 、 CQ⋮ ⋮こち ら 7 M ヘルツ 、出力5㍗ 、試験電
波 発 信 中 、 JE 3 ⋮ ⋮ いや コ ー ル サ イ ン は あ り ま せ ん 。
⋮⋮五尺七 寸⋮⋮ いまだ出会わ ぬ多くの人々 へ、来 る
日を 夢 見て 試 験電 波 を 発 信 し ま す 。 CQ 、 CQ こ ち ら
7 M ヘルツ 、 出力5 ㍗ 、 試 験電 波 発 信 中 、 J E3⋮ ⋮
いや コ ー ル サ イン は あり ま せ ん ¦ ¦
女1
後 藤 ち ゃ んで す よ 。 聞 こ え て ま す か ?
途中で メンゴ 、
それは一つ として 貨 幣⋮⋮一つ として 権 力 、こ れら の
鉄 扉面 を 剥 ぐと そこ に は 恐 怖と い う二 文 字が 静 か に 眠
って い る 。 こ れ を ロ マ ン と い う 。 言 葉 を 変 え れ ば 恐 怖
と は 情 報 の こ と で す よ 。で す か ら 気 楽 に ⋮ ⋮
女2
ク リ ア ー 5 、 いや ク リ ア ー 1 、 こ の メ ッ セ ー ジを メ ッ
セ ー ジ下 さ い。星 座 の 煌 く 乱 反 射 に も 似 て 、 電 波 の 赴
く ま ま に 、 メッ セ ー ジ下 さい
婦人達
迷 え る 人 生 が あ る うち は い い !
女1
⋮⋮わたしは今日まで生きてきました。一回コッキリ
の生しか生 きること しかできな いながら 、だが それを、
決して他人 とは取替え のできな い固有の理由で 。あな
たもまた、 そのよう にして 大い なる流れ の中で 、美 し
い沈黙⋮⋮ それはあたかも、いま漆黒の 闇に閉ざさ れ
な が ら も ︵ 天 空 高 く 一 本 の 指 を 大ら か に 突 き 上 げ る ︶
ひ と たび 天 空 高 く 舞 い 上が れ ば そこ は 満 点 の煌 く星 座 、
数え切れぬ星の輝きがあると信じられるほどの確か な
思 いを 込 め た沈 黙 ⋮ ⋮ その よ う な美 し い 沈 黙 を 秘 め て
き た ので あ ろ う と 、 わ たし は 今 、 そ ん な あ な た に 想 い
を 馳 せ ま す 。 そこ で は あ な た は き っと 、 十 全 に 孤 立 し 、
自由 に 食 べ 、 十二 分 に ク ソ を し 、 そして 考えて 生 活 し
て いる 個人 で あり た か っ た の だ と 確信 し ます 。で す か
ら あなたは 、 勇気に 徹し ぬく諦 念を 、孤 独と いう寂 寞
を 、も の の 憐れ と い う 憐憫を こ そ、美し い沈黙 に 秘 め
させなけれ ば なら なかったで あ ろうと推 察します 。と
き あたかも 、 大 いな る 流れの な かで 美し い沈黙を 秘 め 、
なおその美しい沈黙 に、勇気と 孤独とも のの憐れを 、
あらかじめ 名付けるこ とを 諦観 してしま ったロマン と
して 秘める こ とで 、 二重 の 秘め 事を 秘め て しま った も
の言 わ ぬ、 それ は 大 いなる 流れ で は なか った ので し ょ
うか 。
83
鍋島・釜田
道 に 迷 って し ま い ま し た 。
蔵王三山
人 生 の 道 に 迷 って し ま っ た の で す 。
婦人達
迷 う人 生 な ど馬 に けら れて 後ろ 足、 それが 右足で あ
ろ う と なか ろ う と 、 後ろ 足で 砂 か け んか い 。す る と 、
前足は手か と問うなかれ、雑念
女1
ブレ イ ク 、 ブ レ イ ク 。混 線 、 混 線 や て 。
84
c
e
b
t
I
はいは一回。
女1は テーブルからゆっくり落ちる。このとき 、 女2
女1
一 二 三で 眼 つ む り な は れ 。行 き ま っせ 。 一 、 二 、 三 !
ご婦人達は その背後で 、女1の 六分割の動きを
再現。また 、こ の女 1の動きは プロロー グのテ
と、音楽大き くなった。
ーブルから落下する動きの再現で ある。
ご婦人達退場。
女1
どや 。
女2
待ち 。
女1
⋮⋮ だが 、いえ だからこ そわたし はあなたに 宣告しま
女1
どや て 。
す 。も う帰 る べきロ マン は な い のだと 、 美し い沈黙 と
女2
あんた、聞き たいんか。
引 き 換え に 、 帰 る べ き ロ マ ン の 通路 は 取 り 払 わ れて し
女1
別に 。
まったのだと。未だ命名されず 無名性の中で佇む美し
女2
ほな、止めと くわ。
い憂愁の沈黙よ、大 いなる流れとはかくもしたたかで
女1
イ ケ ズ す んや な い 。
あります 。
女2
そや な 、
⋮⋮
女1
ふん、
だか ら 、気楽 に ジャ ン プ 。 そして 静かに一言 ﹁
女2
ま あ 、こ れ は 言 わ ずが 華 や !
﹂ 。こ れ で す べて が 始 ま り ま す 、
女2
わー はっ⋮⋮
かも。
女1
わーはっはっ⋮⋮
女2
聞 こ え と り ま す か 、 大 阪 の お ばち ゃ んで っ か ?
女12
わーはっは っはっはぁ っ⋮⋮ 笑 い。その 笑 いは文
女1
毎度 !
女2
オイド!
で 、 それで 、 あの、 そ のや な⋮⋮
楽 の 義 太夫 語 り の 、 あ の あき れ る 程 長 い 笑 いで ある
女1
なんやねん。
女2
大阪城、動きましたか。
混線の 音。
女1
ホイ、ガタンゴトンヤ。
女2
田淵 はん、大阪城空飛び ましたか ?
女2
とこ ろで 今日やろ。
女1
あ ん さ ん 、 そ ら 環状 線 に 乗 って み な は れ 。
女1
何が ?
女2
ま た こ の 勿 体 つ けて 、 腐 り ま っ せ 。
女2
ああ、しらば っくれて 。インター ネット投票や 。締め
女1
はいはい。
切り今日や ん。結果で たんやろ 。聞かせて 。
.
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(
)
)
(
り国家行事のたびに著作権経費発生することになりま
女1
それでは、全世界のリスナーの皆 さん、お待 たせしま
っせ。大き な財政負 担やで 。 と、演奏の準備
した。あなたの、あなたの、そして あなたの待ちに待
った 、発 表 の時 間で す 。 ファン ファーレ 。
女1
それ は大丈夫や 。亡くな った日から数える、著作権切
女2
え?
と、ファンファーレ ⋮⋮
れ の 期 日 は 、 明 日で ち ょ う ど に な り ま す 。
そう 。
女1
集計 結果第四位6431 、河内音 頭﹁河内十人 斬り﹂ 、 女2
女1
それで は国家 斉唱をして 、今夜の ネットラ ジオを 終わ
第三位6 4 33 ﹁レ ット ・イッ ト ・ビ ィ ﹂ 。
り ま す 。で は シ ー ユ ー ・ ア ゲ イ ン ! さ よ う なら 、 グ ッ
女2
ヨッ シャ ー !
来 た 来 た 。 浜 風 に 乗 って 来 い 。
バイ、またね、再 見、ティ アーモ、ティ アーモ、ティ
女1
第二 位644 0、﹁六甲 おろし﹂ 。
アーモー︵ 手話で ﹁ さようなら ﹂、ハン グルで 。広 東
女2
なん なん、途中経過では なかったやつが一位になった
語で 、イタリ ア語で 、フラ ンス 語で 、ド イツ語で 、 ス
んか 。 そら 可 笑し いで 。
ペイン語で ⋮⋮語等々と続く。メルシー、アモーレ !
女1
え 、 こ こ で お 知ら せし ま す 。こ の 第二 位 の ﹁ 六 甲 おろ
アモーレ ミオ !
ティアーモ、ティ アーモ、ティ アー
し ﹂ 、 その 健 闘を称 え 、わが 国 の応 援歌 と 決 定し ま し
モ∼!
た。
女2
ヨッ シャ ー !
ヨッ シャ ー !
女1
で は 、 栄え あ る 一 位 、 カ ント リ ー ソ ン グ の 発 表で す 。 女 2 は 演奏 。 女 1 は 歌 う 。
女2
と 、ファン フ ァーレを 弾く ⋮⋮
)
()
女1
⋮⋮ 手話で ﹁ ヘイ・ジュード ﹂と 言わざる をえ なか
った
女2
拍手!
女1
それで は⋮⋮
女2
あの な、こ の曲まだ著 作 権あんの んとちゃ う ん。つま
♪もう おさらばさ 、
おも い なや む のも いい
軽くジャンプして 、
流れに 掉さすのも いい
軽くいうのさ
ま たな、 お さら ば さ
歌 って み ろ よ 別 れ の う た
軽 く ジ ャ ン プす る の さ 、
気楽にね
波乱万 丈
85
)
(
(
こ の女 2 の ファン ファーレ の中 、 音楽 と混線 音
が 大きくなる。女1の発表曲名が聞こえ ない。
ま た 音楽 等 元 に 戻 る 。
♪ 外 は き っと青 空 さ
空をみ あげるまで は
誰にも わから ない
軽くジャンプしす るのさ
気楽にね
晴天の霹靂
と、ワ ンカップにラ イトが 絞られるなか、女1
は退場。
音楽 の 続く中溶暗 。
暗転。
)
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0
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幕
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女1
シー ユー・ア ゲイン!さようなら 、グッ バイ 、またね 、
再 見、ティ アーモ、 ティ アーモ 、ティ ア ーモー︵ 手話
で ﹁ さよ う なら ﹂、 ハン グルで 。広 東語 で 、 イ タリ ア
語で 、 フラ ン ス 語で 、ド イ ツ語 で 、ス ペ イン語で ⋮ ⋮
語 等々 と 続 く︶ メ ル シー 、 お 久 し ぶ り で し た 。 皆 さ ん
お変 わり あ り ま せ んで し たか 。 お元気で し たで し ょ う
か ?ま た い つ か 、 ど こ か で お会 いし ま し ょ う 。
アモ ーレ !ア モ ーレ ミオ !
ティ アーモ、ティアーモ 、
ティアーモ ∼!⋮⋮ ︵ 手話で﹁ さようなら、また会 い
ましょう﹂ ︶⋮⋮
86
一 番が 終わ る こ ろ レ コ ー ド ﹁ ヘイ ・ ジ ュ ー ド ﹂
が 入 る 。林 檎にラ イ ト が 絞 ら れ る 。
こ の中 、演奏をや め た女2 は 退場 。
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87
Ⅱ 大日本演 劇大系
番外
時折旬
独戯
88
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089
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章 章 章 章 章 章 [[[[[[
;;;;;;
序 1 2 3 4 5 ;;;
男 時折旬
女 打上花火
コーラス隊
[
目次
]
[
登場人物
]
89
6 7 8 9 章 章 章 章 章 章 章 章 章 章 章 章 章 093
093
096
097
098
100
103
103
104
107
112
114
117
さて 、 テー ブルに は アッ プ ルが 一つ二 つ 。勿論
こ れ は 物 理 的にリ ン ゴで ある と 同時 に 、
ズ ボ ン と シャ ツ そ れ な り に ある 。
酒 の瓶 転が って い る 。
電話器がある。
マ イ ク と ヘッ ド ホ ン の 着 い たラ ジオ カ セ ッ ト あ
る。
出刃包 丁が ある 。
90
18 17 16 15 14 13 12 11 10
・・・・・・・・・・・・・
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]]]]]]]]]]]]]
[[[[[[[[[[[[[
;;;;;;;;;;;;;
[
序
章
]
[
1
章
]
そこ は 四畳 半。し か し デ フ ォ ル メ され て いて そ
のよ うには 感じら れ はし な い。 ただ圧倒 的に 長
いテーブル 。番傘二 つ。独、戯 と それぞ れ艶や
かに描か れて いる 。
袖幕が 奥行を だし て 一二 袖 まで ある 。
音楽 静 か に 入る 。
音楽 フ ルボリュ ー ム ヘ。光 りはつれて 溶 暗 。
暗 転 の なか テレ ビ か ら 臨時 ニ ュ ー ス を 告 げ る 音 。
音楽 CO。
アナウ ンサーの声 ︵ 男の声 ︶割り入る 。音楽の
男
臨時 ニュース を お知ら せ します 。 臨時ニュー スを お知
ら せ し ま す 。謹 んで 臨時 ニ ュ ー ス を 中 し 上 げ ま す 。 昨
年から 引き 続いて 、 各 方面から の心 配を 集め 、成り 行
き が 見 守ら れて ま い り ま し た 御 容 体 は 急 変 し 、 つ い に
ミサイルは発射されてしまいました。内閣はこれに 伴
い 直ち に 危 機 管 理 室 を 設 置 、 首 相 官 邸 に 危 機 管 理 官 が
召 集 さ れ ま し た 。 事 態 は深 刻で 、 被 害 に あ わ れ た 方 々
の 救 出が 行 わ れて い ま す 。 同 時 に ラ イ フ ラ イ ン の 復 旧
が 望まれて いますが 、現 地の関係筋 の情 報によりま す
と、被害に あわれた日本人 の旅行客の氏名は今のとこ
ろ報告されて いませ ん。家屋の倒壊は、甚大と思われ
ますが、焼 け出され た方々は近くの避難 所や小学校に
避 難を 始め ま し た 。 更 なる 第二 波 の 津波 に ご 注 意 く だ
さい。
こ れ よ り 番組 は特 別 番組 と なり ま す 。
う ず く ま って い た 男 、 す で に ヌ ッ ク と 立ち あが
って いる 。
男
謹んで 臨時こ ユースを 申し 上げま す 。すで に 南極 の氷
は目にもと まら ぬ速 さで 融 け始 めて いま す 。
同時に 、下駄と 竹 の杖で 大き く踏み肘 す 。下駄
と杖の踏む 音一発。
同時に 、水前寺清子の﹃涙 を抱いた渡 り鳥﹄が
大きくCI 。
照明は 激変。
91
画面電源が 入ったま ま真っ白に なる。
台詞入るとゆっくりと男にスポッドが 入る。
テープから それな りに流れて いた男の声を 、生
の声で 乗っ取り、ある方向への逸脱。
逸脱のエネルギーと力の展開。
[
2
章
︺
竹の杖 、下駄、白 無垢は動 く。
独自の腰の移動。それによ る体勢。重心移動の
発見。
男 は 長 い チー ブ ル の 上を 歩 き 始 め る 。
92
音楽 に 乗 って 、 歩 くと い う 行 為 を 展 開 す る 。
[
3
章
]
[
4
章
]
風呂帰り。
男 の い で たち は 、 赤 い 六 尺 褌 。 白 無 垢 を 羽 織 る 。
竹の杖。高下駄。手には風呂道 具。頭はは入道。
そ の 順 に 日 本 手 拭で 鉢 巻 き 。 体 は 白 塗 り 。
テーブ ルに腰を下 ろす 。洗面 器から力 ツプ酒を
三つ 。一つ 開 けて 一 気 。もひ と つ 開 けて 三 口で
飲 む 。 ﹁ あ あー っ ﹂ と 絵 も いえ ぬ 飲 み っ ぶ り と
そ の 音 。 三 つ 目 の ア ル ミ の 蓋 に 手を か け る が 、
文 の 徳 、 考 え ざ る は 三文 の 損 、 ど うで も い いけ ど 布 団
敷 く前 に 便 所 へ行 け 、もひ と つ おま けで 見か け た美 人
は 三 歩下 が って ツ バ 付け ろ 、 そ れで も や っ ぱり 金 だ け
は落ち たも のでも 挨 拶 励行⋮⋮ 人生 そん なこ んなの格
言が 、歴史 を 越えて 遠 い嘘 のよ うに 思え る のは 、こ の
わ た し だ け で し ょ う か 。 いえ い え 、 言 い わ け は ご 無 用 。
な ん た って 一飲 み し た 後 のこ の ス ル メを 咬 み し め る お
じ さ んの思 考 回路 は 、 それはも う新潟 の 冬で ありま し
た 。落 ち を 自 分で い う の も 、 耐 え ら れ る 年 ご ろ で す の
で 、一 筆啓 上、 辺り 一面 雪で 真 っ白 、汚 れを 知ら ぬ 、
純白の乙女 のようなすがすがし い朝なのです。拝啓 、
いささか回りくどい落ちでしたが、少し しだけ可笑 し
か ったら にこ りとか 、そよよと か 、くす くすとか笑 っ
て いただ く と、 いさ さかこ のわ たくしも 、話す張り 合
いと いうも のが 出て ま いります 。
笑い。
と 、 竹 の 杖 を 物 干 し サオ に し 白 無 垢 を か け る 。
]
[
5
章
男
︵ 笑 い ︶ ごち そ う さ ま で し た 、 風 呂 上が り に か け つ け
三杯いくまえ のこの二杯目の幸 せを咬み しめる優し さ
に拘るとき 、腹八分、過ぎたぎるは及ばざる、及ばざ
る は 過 ぎ た る に あら ず 、 覆 水 盆 に 返ら ず 、 考 え る は 三
93
そっと置く 。二つの 空いたコッ プをすす り、指
で 拭き 舐め る 。
[
6
章
]
悲哀と 共に情感のごも った笑顔と笑 い 。
快 活 な 笑 いが 何 か を 思 い 出 し たよ う な 笑 いに な
る。決まる 。
間。
快 活 な 笑 いが 何 か 悲し い笑 いに なる 。 決ま る 。
間。
快 活 な 笑 いが 何 か 怒 っ た笑 いに なる 。 決ま る 。
間。
笑 い な が ら タオ ル を 絞 る 。 ボ タ ボ タと 落ち る 滴 。
合わせて深 いため息 。なし くず しに笑 い振り切
るようにタオルを バンと鳴らす 。クルリ と背を
向ける。
﹁ パン ﹂ と 同時 に 音楽 。す ぐ さ ま フ ル ボ リ ュ ー
ム。光は背中のみ 。
ゆ っ く り と タオ ル を 物干 し に か け た 。 星 空で も
見るのだろ うか、首を ゆっくり 上げた。
男の自 己への没入の過激さの展開。四畳半その
も のが そこ に ある 。
哀 愁 に 満ち た 背 中 。
[
7
章
]
男
ち ょ っ と 待 て っち ゅ う ね ん︵ 音楽 小 さ く な る ︶ 。⋮ ⋮
今 、 こ の酒 グ ∼ っ と 呑 んで 身 ぃ 清 め て 気 持 ち よ ぉ 行 て
いけ 。何 ?
結 構で おま す ?
その言葉 だけで 、頂 戴
し た んも い っし ょ ⋮ ⋮ 、何を ぬ か し と ん ⋮ ⋮ 。呑め っ
94
)
)
(
95
(
よ おますけ ど ねぇ、 酔ぉてから が 長いね んさか い。 も
ち ゅ う たら 呑め !
われ酒嫌いか?
何?
好き。 好
ぉこ ないな ったら い なんで 。な 、何して んね?
人が
きや ったら 呑んだらえぇやないか⋮⋮。呑め へんのか?
酒 呑 んで る のに 、何 して んね ん ?
えぇ?
剃刀探し
どぉして も呑まんのか⋮⋮?
俺もなぁ、こぉして
て る⋮ ⋮ 、 そ ん なも んあるか い 、 剃 刀み た いなも ん 。
い っ た ん 注 さ し た か ら に は あ と へは 退 か んで ⋮ ⋮ 。
何するて ?
仏のど たまの髪下 ろす ?
何をぬかし と
呑めへんのか?
呑 む な⋮⋮ !
呑むな !
われが 呑
る ね 、こ こ の うち に 剃 刀 み た い な 気 の 利 ぃ た も ん あ る
ま んち ゅ う んや っ た ら 、 わ れ の 口引 き 裂 いて !
い、
か い。 奥か ら 三 軒目 に 髪 結 い か み ぃ さ んが 居て は る 。
い!
いただきま⋮ ⋮!
怒んなはんな⋮⋮、へぇ、
いただきます。︵クィ、クィ⋮⋮︶おっき、ごっつぉ
向こ ぉ行て 借 ってこ い ﹁ 夕 べラ クダが フ グ 食て 当 た っ
は んで 。 わ れ 、 なか なか が え ぇ が な ぁ 。 お い 、も ぉ 一
て死にまし た、髪の毛ぇ下ろす のん剃刀が要りまんね
杯 いけ⋮⋮ 。も ぉ 一 杯 呑め !
へ、いただきま︵クィ、
ん ﹂ 言 ぅ て 借 って こ い !
何?
そんな 厚かましぃこ
ク ィ 、 ク ィ 、ク ィ ⋮ ⋮ ︶ お お き 、 ご っ つ ぉ さ んで お ま
とよぉ言わ ん?
気 の あか んや っち ゃ な ぁこ の ガ キ !
し た 。わ れ み た い な 呑 み 方し た ら な ぁ 、 酒 呑 んで ん ね
そんなも ん遠慮せ んと言ぅて こ い。も しもなぁ、貸
やら水飲んでんねやら分かれへん。もぉ 一杯呑め!
す の 貸 さ ん の っち ゅ う た ら な ぁ ⋮ ⋮ 死 人 の カ ン カ ン 踊
呑みま、呑 んだらよ ろしねんや ろ⋮⋮、何ぼでも呑 み
り見せたる、言ぅ たれ!
ま ︵ ク ィ 、 ク ィ ⋮ ⋮ ︶ ハ 、 ハ 、 ハ ∼ ッ ⋮ ⋮ 、 や っ ぱ り 、 ⋮ ⋮ 考え る ん じゃ あり ま せ ん 、考 え る な ョ 、 思 いを め
酒はこないしてゆっくり呑まな あきまへんなぁ。わ た
ぐら す んじ ゃ な い、 考え る なと いうのに 。 そんな人 生
い ね ぇ 、 ホ ン マ 言 ぅ たら ね ぇ 、 お酒 い た って 好 き で お
が どこ に ある 。たか がス ルメじゃ ないか 。思うな、 考
ま ん ね 。 せ や け ど 、 あん たが 恐 い顔して 、 大き な声 出
え るんじゃ ない!⋮ ⋮こ うして して いる と、フト考え
して 睨 み 付 け な は る や ろ 、 つ い 恐 いも ん で っ さか い 無
て し ま う 。 考え る 程 のこ と じゃ な い 。 な の に 考え て し
我 夢 中 で い た だ い た んで 、 味 も 何 に も 分 か れ し ま へ ん 。
まう。そうするめえ と思うのに 。だから 君の名前はす
今こ ぉや って ゆっく り呑 んだら ホンマえ ぇ酒ですわ 、
・ る ・ め 、 な んち ゃ って ︵ 音 楽 は 消 え て い る ︶ ⋮ ⋮ 咬
家 主も よ っ ぽ ど 死 人 のカ ン カ ン 踊 り が 効 ぃ た んで ん な
み し め て い る の は 、 わ た し の 爪 に 火を と も す よ う に 、
ぁ 。 あ の渋 ち ん の 家 主が で っ せ 、こ ん な え ぇ 酒 持 っ て
つつが なくすごしたこ の人生で しょうか 。それとも 、
くる と は 思 いま へ な ん だ 。え ぇ 酒 で おま す わ 。 空き 腹
成就されることなく、あの失意 のうちで 、出て行きど
に 二 杯 も 呑 んだ も ん や さ か い 五 臓 六 腑 に 染 み 渡 って 、
こ ろ な く 苦 渋を 砥め て し ま っ た 、青春 の 輝 き とで も い
え ぇ 具 合に 回 って き ま し た 。わ た いね ぇ 、 酔 う の は 早
うも ので し ょ うか 。 グツグツと 発酵し 、 つ いに飽和 点
吹き抜けて フエミニ ン シャ ン プ ーの 香り が そよ そよ ぱ
ー っと 、こ のわ たし を 包 ん だ 時 の 恥 ず か し さ に にて 、
あ あ振 り 向 か な いで 天下 茶 屋 の 人 。 若 か っ た おじ さ ん
は 歩 道 の 敷 き 石 はが して 、 手が 血 ま み れ に な る まで 穴
を 掘 っ たも のさ 。す ると 君が ホ ホを リ ン ゴ の︵ リ ン ゴ
を 持 つ ︶ よ う に 真 っ 赤に し て 、 蝶 蝶が 豆 腐 に と ま る よ
う な声で 、 若か った おじ さ んに だ けに聞 こ え るよ う に
﹁ お は よ う ﹂ と い っ た の さ 。す る と 世 界 は ﹁ お は よ う﹂
で いう ぱ い に な って し ま い、 穴 に 入 り な が ら 、 心 に ポ
ッ カ リ お い た 穴に 、 ま た若か っ た おじ さ んは 入るし か
なかったんだ。穴に 入りながら 、そんな 少年の穴に 入
って し ま っ た 若か っ た おじ さ ん は 、 恥ず か し さと 嬉 し
さを 追 い越 して や って き たガキ の処 世術 。 誰から 教 え
て もち っ た んで も な いの だ け れ ど 、 死 ん だふ り を し て
し ま っ た の さ 。 いや 、 あ の と き 青 春 の ま っ た だ な か で 、
不安と恍惚に溺れながら死んだ んだ。そのとき、若か
ったおじ さ んはリン ゴで ありま した。そして 幼心は 発
見した。火を吹くよ うな、雨の 降るよう な恥ずかし さ
で人は死ねるんだと 。二重底の穴から這 い出すのに、
何 年か か る と 思 って る んだ 。人 目 に 晒 さ れ る よ り 恥 ず
かしいんだ 。一度し か いわねえ ッ!
な んだよ その 顔
は 、 パンダ が イカ に 墨ふ っか け ら れて よ う な顔しや が
って 、可 愛 くねえ ん だよ 。八 百 八 橋を け つか ら わ た る
に意味があると思ってんのか、意味なんて所詮ねえ ん
だ。リンゴはリンゴだ。ほらこ うして、酒のなくな っ
たコ ッ プ の 上にこ の リ ン ゴを 置 き まし ょ う 。こ の フォ
96
に達し、追憶に化けてしまった、青春の、もう一度 繰
り 返せと いわれれば 、金輪際御 免被りた いあの、栄 光
と 、 不 安 。 若 さ ゆえ 輝 く あ の 可 能 性 と 残 酷 の 日々 。 あ
あ若 さ ゆえ 悩み 、 若 さゆえ 苦し み 、 初め て の 口づ け に 、
マイベイビ イウォ ン チュ、ウォ ン チュ シ イユアゲイ ン 。
ああなんて ス ッ パか ったカ ルピ ス 。 それ は青春 の味 。
だが なあ、 なめ る んじゃ ねえ 若 造ォ 。こ の俺は な あ 、
ス ル メ ー 枚 ありゃ 、 ニ 升 は お 茶 のこ さ い さ い 、 女 の け
つ だ 。 軽 い って い っ て ん だ よ 、 そ れ を な ん だ 、 な ん で
ス ル メ ば っ か し あて に す る んで す か 、 だ と . ざ け る ん
じゃ ねえ 、こうして ⋮⋮咬みし める人生 、斜すに預 け
たカウンター、ゆら め くコッ プ の酒に尋 ねてみれば 、
ま る で おで んに 染 み こ んで し ま っ た 、 ダ シ の 味 に に て
奥深 い話 が 聞 こ え て くるじゃ ね え か 。 そ う だ ろ 、 そ れ
が 立ち 飲 み の 、 赤 い ち ょ うち ん に 思 い 入 れ たコ ッ ブ 酒
の美学 だろ うが 。咬 みしめ る人 生 捜すよ うじゃ 、酒 の
味 な んて わ か りゃ し ねえ んだ 。 人 生 な ん て の は な 、 い
いか 、 耳の 六か っぽ じ いて 良 く 聞 けッ 、 恥ずかし さ に
耐えられねえから、一度しか いわねえッ 。人生なんて
の は 八 百 八 橋を け つ か ら 渡 る よ う な も ん だ 。 あ あ 恥 ず
か し い 。 顔 か ら 火が で る 雨が 降 る 。こ ん な 自 責 の 念 に
かられるのは、このわたしが若かりし頃、初めてラ ブ
レ ターを 出 し た 次 の 日 の 朝 、 鞄 片 手に 息 咳き って 駆 け
て いく、角 のコ ーヒ イ屋曲が っ た三歩目 に 、君が 泣 き
そな顔で いたっけな。吹き抜けて いくの.は朝のそよ
吹く風で あ りまし た 。君のうなじを そよ そよふ ー っ と
︵ 間 ︶⋮⋮
お前 エーッ !︵すでに正面をむ いて いる︶
同時に 音楽が 大き くCI。 雨がふ る 。
97
ル ム を 何 と 名 付 け ま し ょ うか 。 そ れ は 決 ま って いま す ,
こ れが 人 生 で す 。コ ッ プ は 台 で は あ り ま せ ん 。 リ ン ゴ
は 花で は あ り ま せ ん 。二 つ の 無 意 味が 手 を つ な ぎ 、 己
の 悲 哀を 咬 み し め ま す 。 見 つ め る わ た し は な んで し ょ
か 。 慰 め な んか は い り ま せ ん , 美 し いと で も い いま し
ょか 。声を あら げて 笑 いましょ うか 。︵ と笑う。と 同
時 に リ ン ゴ に か ぶ り つ く ︶ ⋮ ⋮ ︵ 笑 って 、 食 べ なが ら ︶
そ ん な 人 生 で も 咬 み し め て み る と 、こ れ が や っ ぱ り 一
つ 一 つ 味 が ある か ら 人 生 、 涙 流 し た って 止 め ら れ ね え
よ な 。だが 若造 、咬 み し め る人 生 探す よ うじゃ 一人 前
にスルメ咬 んじゃ ねえ 。そんなときはこ ダして 、最 後
に 残 っ た カ ウ ン タ ー の つ ま み 、 口 に 押 し 込 んで ︵ 最 後
の ワ ン カ ッ プを 開 け る ︶ 人 生ふ っき る よ うに 、 一 気 に
飲 み 干 す ん だ 。 そ う だ ろ う 若 造 ッ , そ う す りゃ 人 生 咬
み し め る 暇 な んて ね え ん だ ッ ! ︰ だ が お じ さ ん は な 、
ちょっとだけつまみ 残して おくんだ。最 後の一ロ一気
に あ おる 。 フー ッ と 一 息 つ いて 、コ ッ プ を タ ン と カ ウ
ン タ ー に 置 く 。 そ っ と 残 し たス ル メを 口 に 入 れ る ん だ 。
そ い つ が 赤 ち ょ うち ん の 、 コ ッ プ 一 杯 に か け た 、
立ち 飲 み の 美 学 と い わ せて い た だ け ま す か ッ !
⋮⋮ 本当 は な 若造ッ 、人 生咬みし めて る んじ ゃ ねえ 、
咬 み し め る 人 生 が 在 る わ け で も ね え 。こ の 歳 に な る と 、
忘れちゃ いけない世 迷ごとの一 つや二つ は あるも ん だ 。
そいつを 今 夜も 忘れ ま いと、こ うして ス ル メを咬む ん
だ 。 今 夜 の ため に だ ッ ! 明 日 な んて わ か りゃ し ねえ ー
ツ!︵クルリと背を み せる︶
[
8
章
]
音楽を 背に傘と 出 刃包丁を 携え た、 そして 居な
い女との道行き。
男
お前 エーッ !
傘 に 走 る 。 ﹁ 独 ﹂ の 傘 を さ す 。 フラ フ ラ と 雨 の
なかに行く 。絵になるタメ。
男
お前 エーッ
98
フラ フラ と 後ず さ り 。出刃 包丁を 取 る 。決意で
ヌ ッ ク と 構 え る 。 し か し ま た フ ラ フラ と 前 へ 出
る 。 そこ は 雨 の なか 。傘 さす 手 は なえ 男 は 雨 に
濡れる。出刃包丁を 握る手に徐々に力が 入る。
ゆっくりと 出刃包丁を頭上にせりあげる 。しか
し ま た フラ フラ と 後 ず さ り 。 長 い テ ー ブ ル の 一
番奥。最後 の何かを みて の道行 き 。
ゆ っ く り と 前 へ進 む 。
男
お前 エーッ !
ネオ ンやらが 瞬き 、車のラ イトが行き す ぎるか
もしれない。
[
9
章
]
傘を 閉 じ る 。 雨 は 止 んで い る 。
テーブルに座る。
男
︵ 女 で ︶ふ し ぎ ね 。 あ のひ と 、 信 じ き って い たも の ね 。
こ の 世 と 、 あ の 世 の あ い だ に は 、深 い川 が なが れて い
[
章
]
10
電話が 鳴る。電話 にスポッ ト 。
照明一変する。
99
る って 。一 度 渡 っ た ら 、 最 後 。 二 度 と 引 き 返 せ な い 川 。
それが境 。 ほら 、こ うして って ⋮⋮ の包 丁 、 手に持 っ
て 、喉 首 の 前 に あて て さ⋮ ⋮ こ の 手を 、 ち ょ っと 動 か
し たら 、 そ の川が現 れるのよ 、こ うして 咽に あて る と 、
も う 水 の 音 が 聞 こ え て く る って ⋮ ⋮ 真 顔 で 、 あ のひ と
言 う ん だ も の 。 そ の た んび に 、 わ た し 、 ひ っつ か ん で
その包丁も ぎとった けど、生き た心地が し なか った わ
⋮⋮
なにかしてる ときだって 、なにか というと、ちょっと
手を とめ 、 ぼ んや り として る の よ ね 。気 が つ いて 、 声
か け るで し ょ 。 水 の 音を 聞 いて い ん だ っ て 。こ う な の
よ 。 そ ん な こ と が し ょ っち ゅ う だ っ た か ら ⋮ ⋮ し ま い
に は 、 わ た し も ね 、 ほ ん と に 、 ど こ か 、 身 近を さ ⋮ ⋮
見え な い川 が 、 なが れて いる よ う な気が して さ 、 ど き
っ と す る こ と あ っ た わ 。 水 道 の 蛇 口 の 水 音に だ って 、
下 水 の 水が 雨で なが れ る 音に だ って 、 つ い 耳澄 ま し た
り し て る の よ 、 ほ ら 、 冷え る わ 。 お あ け な さ い よ 。
男、受話器を取る 。
受話器を 耳につけ ず、見つめ合う間。
男
︵ 受 話 器を 放 して ︶も し も し 、 ハ イ 、モ シモ シ、よ く
か けて いた だき まし た 。二泊 三 日、 あな たが ハワイ 旅
100
民として、このどうしようもない少子化推移に悩んじ
行 決 定で す 。一 言 感 想を 。も し も し 、 ハ イ 、 モ シモ シ、
ゃ ったなんかしてるかも知れんのだぞ。一蓮托生、君
よ く聞こえ ま せ ん 。 ︵ 受話 器を 口元 に 近 づ け 、 大き な
も 私も な んともで き な い、無為 に座すこ の共犯 関係 と
声で ︶大き な声で し や べって下 さい。話 がみえ ず聞 こ
いうささや か な犯 罪を犯して る とは、あすも学 校が 休
え ないので すから、こうして いると、ま ったくわたし
み だ と い っ て 喜 ぶ 小 学 生 に も 劣 る ぞ 。 な ん と い って 言
何を して い る のか 、 ほとほと困 って しま います 。も し
い 訳す る の だ 。 考 え る だ け で 夜 も 眠 れ な いじゃ な い か 。
も し 、 ハ イ 、 モ シモ シ、 そ うで す 、 わ た し が 受話 器 を
わたしを不 眠症にで もするきか 。そんなことは許され
受話 器とし て 使 って いま せ んで し た 。
るこ とじゃ な い、い いか 、わた しと君は 、すで に人 に
︵ 無 言 の 間 ︶ 待 て ッ 、ラ ー メ ン ー 杯で 切る ん じゃ な い
は 言 え ぬ 、 二 人 だ け の 秘 密 を も って し ま っ た ん だ よ 。
︵ 受話 器を 投 げ た ︶ も うすで に 問 題 は 、 こ こ が ラ ー メ
こ の電 話 は すで に 盗 聴 されて い る 、こ こ で 電 話を 切 れ
ン 屋 か ラ ー メン 屋 じ ゃ な いか な ど と い う の よ う な 段 階
ばこ の犯 罪 は完 結し て しまうの だ 。しか し 切る な、 そ
にとどまってはいな いのだ。状 況を 甘くみるんじゃ な
うすれば進 行中の犯 罪は、万が 一に孤独 な一人暮ら し
い 。こ こ で こ の 電 話 を 切 れ ば 、 わ た し は こ の 日 本 に 電
の弱 者救済 に なら ぬ と 誰が いえ る 。⋮⋮ じゃ こ うし よ
話 が 登 場 し て 以 降 、 あま た あ っ たで あろ う 、すで に 無
う 。こ の厳 粛な 夜 の 、善 良 な 市 民 に 許 さ れ る さ さ や か
限 の領 域 に 達 して い るで あろ う 聞 違 い電 話 の その原 因
な嫉楽 にし よ う。い いか 、きみ がこ う い うんだ 。﹁ も
のす べて の 罰と 罪を 、わ たし の 全存在を 賭 けて 、 脇 目
し も し 。こ ち ら は N T Tで す 。 受 話 器 の 受 信 状 況 を 調
も 振ら ず お まえ に ︵ と 受話 器を 指 差し た ︶ 大 い なる 鉄
査して おり ます 。ご 面 倒で す が 、 遠 くで ﹃ 今 日も 快 便 、
槌を下すぞッ!だから切るんじゃ ない。これは天誅だ
快 食 、 煙 草 が う ま い 。 わ たし は 日 本人 ﹄ と い って 下 さ
だ 。 天 誅 と 思 い 込め 。人 間や め る のか ! ?
じゃ 人 間
い﹂という んだ。す るとわたし は⋮⋮
と して の 余 裕と 大ら か さを 持 つ べき だ 。 何 を い って い
る 。 います で に 、問 題 は 君 ︵ と 受話 器を 指 差し た ︶ の
人 間 性が 問 わ れ る と い う 段階 に 達 し た の だ 。 怖 いこ と 男 、 走 る 。
じゃ な いか 、 たかが 間違 い電話 などと 思 って は いけ な
男
今日も快便、快食、煙草がうまい。わたしは 日本人!
い 。こ ん な 訳も わ か ら ん と も い って い い 夜 に 間 違 い 電
話 を し て 、 受け た と いう 、 そ れ は も う 共 犯 関係 と い う
さ さ や か な 秘密 を も って し ま っ た の だ 。 そ れ が ど う い 受話 器 へ 。
うこ と か わ か って い る のか 。 日 本中が 今 夜も 善 良 な 市
11
101
男
どうでした、聞こえまし た。そうですよ、大きな声で
あ あ ⋮ ⋮ モ シ モ シ ⋮ ⋮ そ うで す 、 そうで す !
いいましたよ。可笑しいなあ︵ また走る 。大きな声で︶ 男
わいや。うン、うン、そうか、そうか、よッ
俺の女房は死んだ。俺はしがない一人暮らし。帰って 玉江 !
しやッ!
お父ッ あ んが いうワ 。電話 の 紐引 っ張ッ て
きても一杯ひ っかけ寝るだけよ 。
お母 あはんに聞こえ るように⋮ ⋮ ああ?
構わん、 構
わん、いう通りしぃ !小春!
わいはなァ、東京へ来
何度かやる。その行為はつ いに痛まし い。世界
とるンや、 東京へ。 関根名人は んにお祝 い云いに行 く
拡が る 。
ンやち うたら 、お前 の気ィ悪る して 、病 気にも 障る や
ろ か と 、 そ れで 黙 っ て 出て 来 た んや 。 堪 忍 し て や !
⋮⋮ええ ?
判ったら何 ンぞいわ んか いなァ !
男・玉江
お父ッ あ ん、お母 あ んなァ、 物いわはる どころや
あら へン ね ェ 。 お母 あん⋮ ⋮ 危 篤 状態 な んだッ せえ !
男
ええ ?
キト クーて何ンや、キト クーて ?
あ、モ シ
モ シ⋮ ⋮ モ シモ シ
男・玉江
お父ッ あ ん、お母あ んはなァ 、もゥ死にかけては
るんだッせえ!
男
死にやせん、 死にや あせ ん、わいが帰るまで 死にや あ
せん!
関 根 は んに 挨拶 す んだ ら 直に か え る よ って 、
それまで 生 きとら な あか ん !
[
章
]
関根名人はん!
本日は 、まこと に⋮⋮まこ とにお目
出度うさんでござり まする。
男・関根
有難うご ざ います 。 心から お 礼を 申し あ げます 。
こ の孤 独 な痛まし さは﹃ 王 将﹄ へと向 か う 。
こ の度 は 、 事 情が あ って 、 私が 先に 名 人 を 名 乗るこ と
さて パ ロ ディ ーを 辞 書で 引 くと ﹁他人 の 作品 の
に成りまし たが⋮⋮
形式・文体をまねて 、風刺・滑 稽化したもの。
男
ち ょ 、ち ょ ッ と待 つ と く ん なは れ 。ま だ 有り ます ね ン
も じ り ﹂ と ある 。こ こ で は 自 己 切 開 を と も な っ
云 わ ん な ら んこ と が !
わて は なァ、名 人はん!
永
た 自 己批 評 を 成 立 さ せる 、 と 読 み た い 。
座 布 団 か ら 下 り 、 手を 突 い て 。
男・関根
恐れいり ました、坂 田さん、貴 方こ そ名 実ともに
名 人 の 位 に 就 く べ き お 方で す 。
男
叶わ んなァ、 そないむ つかしせら れると⋮⋮ ︵笑 い︶
小春ーッ!
死んだら あか ヘンで !玉江 ッッ、電話 、
電話、お母 あんの方 へ向け!
わ いが 、 良 う良 う い い
聞かしたる !
小春 ーッ !
死 ん だら あ か ヘンで !
なァ、 お前が お
ら んよ うに な ったら わ い、一人 で ど な い す る んンや 。
ええ 、わい一人、わ い、一人で ⋮⋮
死 に な や ッ 、 死 ん だ ら あ か んで ェ !
わ いが な ァ 、 わ
いが 今 な ァ 、 わ いが お題 目 い う た る か ら 、 一 緒 に 妙 見
は んを 念じ て なァ⋮ ⋮ 死 んだら あか んぞ ウ⋮⋮⋮え え
か 、聞 きや 、 いうで ェ !
なんみょうほうれんげきょ
う!
なんみょうほうれんげきょ!
な んみょ うほ う
れんげきょ う⋮⋮
と 受話 器を 持 っ た 念 仏 は つ づ く 。
男
そ の よ う に 念 仏 ば か り と なえ た け れ ば 、 尼 寺 へ行 け 。
尼 寺 ヘッ !
こ の バム レ ッ ト と い う 男 は 、こ れ で 自 分で は け っこ う
誠 実な人 間 のつもり いるが 、そ れでも母 が うんで く れ
ね ば よ か っ た と 思 う ほど 、 い ろ ん な 欠 点 を 数 え たて る
こ と はで き る 。 う ぬ ぼ れが 強 い 、 執念ぶ か い、 野心 満
々 だ 、 そ の ほか ど ん な 罪 を も 犯 し か ね ぬ 。 自 分で も は
っきり意識 し ない罪 、 そう いう も ので 一 杯だ 。こ の よ
う な 男が 天 地の あ い だ を 這 いず り ま わ っ て 、 い っ た い
何をしよう というの だか ?
102
'
い事⋮⋮ あ の十六年前、始めて 手合わせして 貰ろうて
か ら 此 の 方 、 ず ー ッ と あ ン たを 一 生 の 敵 や 、 敵や と 、
憎 んで 憎 ん で ⋮ ⋮ 堪 忍 し て お く ン な は れ !
そや け ど 、 若 し 、 そ の 憎 い 憎 い あ ン たち ゅ う 敵が な
か っ たら 、 わて は と って も 是 れ だ の 将棋 指し に は 成 っ
て し ま せ ん 。 ほ ン ま に 有り 難 い こ っち や 、 済 ま んこ っ
ちゃ 思てます。それを一遍云いとうて云 いとうて⋮⋮
男・関根
恐れ人り ます。その気持ち は 私も御同様です。十
年間、私も あなた一人を目標にして⋮⋮
男
あ、 あ!︵激 し く手を 振 り、遮り ︶も一ッ !
まだも
ウ一ッ⋮⋮
あのなァ、名人はん、名人はん。今日のお祝 に何ンぞ
と 思もて 、 一 生 懸 命 考え た んで す が 、 ん せェ 、 わて に
出来る事ッ たら 将棋 、 指す事と 、子供時 分から の 草 履
作りと 、 そ の 外 に は 何 一 ッ 知 り ま せ ん 。 そ れで 、 坂 田
が 十三代名 人 はんの お祝 いに差し 上げら れる物ッち ゅ
う たら ⋮ ⋮ ︵下 駄 を とる ︶え ろ う 不 出 来 で す け ど 、 こ
れで も 十同 年振りに 手ェに 豆一 杯で かし て 一所懸命 作
りまして ン 。坂田が 精一杯の気 持ち だす 。笑わんと 、
穿 いたッと くなはれ !
男・関根
坂田さん!
あなたという人 は⋮⋮
って いな い と 誰が いえ る 。
そこ だ ツ !
や って し ま って 、 それで 事が す む ので あれ ば 、早 くや
って し ま っ たほうが いい。そう だろうッ マク ベスッ !
恐れるな マク ベス 、バーナム の森が 動 きだすまで は。
暗殺 の一網で 万事が片付き、引き 上げた手元 に大きな
宝が 残る なら 、こ の 一撃がす べてで 、 そ れだけで 終 わ
りになるも のなら ⋮ ⋮ あの世の.ことは たのまぬ、 た
だ時 の 浅瀬 のこち ら 側で 、 それ で 、 それ で す べて が 済
む も の な ら 、 先 ゆ き のこ と な ど 、 誰が 構 って おら れ る
も のか 。
だか ら 、 いくらでも血を 流すが い い、みじめ な祖国の
運命!
荒 れ 狂う 暴 政 の あら し 、 思 う ぞ んぶ ん 国 の 岩
根を 揺るが す が い い 、善も 、も う貴 様 の 力を 押 さえ ら
れ ぬ の だ 、 さ あ 、 い くら で も 非 道 のふ る ま い に 手を 汚
したら いい、苦情を 言うものはどこにも いないのだ ぞ!
違 う 、 おれが や っ た ので は な い 、 よ せ 、 血 み ど ろ の 髪
の 毛 を ふ り たて て る の は 。え え いッ !行 って し ま え 、
人を おびや かす 影法 師!
ありもしない幻、ええ い、
行 って し ま う の だッ !⋮ ⋮ ︵ 笑 い︶ なら ば 、 バーナ ム
の森を動か してみろ ッ !
⋮⋮
受話 器を 持 った。
男
楽隊がいくわ⋮⋮
103
生か 、死か 、 それが問題 だとする なら 、どち らが 男ら
し い生きか たか 、じ っと 身を 伏 せ 、不 法 な運 命 の矢 弾
を 耐 え 忍ぶ のと 、 そ れ と も 剣 を と って 、 押 し 寄 せ る 苦
難に立ち 向 い、とど めを剌すまで はあと には引かぬ の
と、一体どちらが。 いっそ死んでしまったほうが 。死
は 眠 り に す ぎぬ ⋮ ⋮ それ だ け の こ と で は な いか 。 眠 り
に 落 ち れ ば 、 そ の 瞬 間 、 一 切が 消 え て な く な る 、 胸 を
痛める憂いも、肉体につきまと う数々の 苦しみも。願
って も な い さ いわ い と いうも の 。死 んで 、眠 って 、 た
だ それ だ け なら !
眠 って 、 い や 、 眠 れ ば 、夢 も 見 よ
う 。 そ れが いや だ 。 こ の 生 の 形 骸から 脱 し て 、 永 遠 の
眠りについて、ああ、それから どんな夢 に悩まされる
か 、 誰も そ れを 思 う と⋮ ⋮ いつ まで も 執 着が のこ る 、
こ ん なみじ め な人 生 にも 、 さも なけ れ ば 、 誰が 世 の と
げ と げ し い 非 難 の 鞭 に 堪え 、 権 力 者 の 横 暴 や 驕 れ る も
の の 蔑 み を 、黙 って 忍 んで いる も のか 。 その気 に な れ
ば、短剣の一突きで 、いつでもこ の世に おさらば出来
るで は な いか 。それ で も 、こ の 辛 い人 生 の坂道を 、 不
平 たら たら 、汗 水た ら して 登 って いくの も 、 な んの こ
と は な い 、 ただ 死 後 に 一 抹 の 不 安が 残 れ ばこ そ 。こ う
いう反省と いうものが、いつも 人を臆病 にしてしま う。
決 意 の 生 き 生 き し た 血 の 色 が 、 憂 欝 の 青 白 い 顔 料で 硬
く塗りつぶ されて し ま うのだ。乾坤一擲 の大事業も 、
そ の 流 れ に 乗 り そこ な い 、 行 動 の き っ か け を 失 う の が
⋮⋮しっ、︵と再び 受話器へ︶気をつけ ろよ。そうし
て聞き耳を 立てて いる その後ろで 、キラ リと短剣が 光
ああ、わたし のいとしい、なつか し い、美し い庭 !
⋮⋮わたし の生活、わたしの幸福、さよ うなら⋮⋮ さ
よ う なら ⋮ ⋮
楽 隊 は 、 あ ん な に 楽 し そ う に あ ん なに 嬉し そ う に 鳴 っ
て いる 、 あ れを聞 いて いると 、 も う 少し し たら 、な ん
の た め に わ たし たち が 生 き て い る の か 、 な ん の た め に
苦し んで い る のか 、 わか るよ う な気がす るわ 。⋮⋮ そ
れが わか っ たら 、 そ れが わか っ たら ね !
⋮⋮
男
︵急 に︶二番いきます。
コ ーラ ス 隊 出 る 。
音楽が 終わると電 話 の切れ た﹁ブー、 プー﹂が
大き くなる 。
男、受話器に近づき見つめ る。
と、な ぜかマイク を 手にす る。
哀愁に 似た視線を 流す 。
男
︵急 ︶歌います。
マ イ ク を 使 って ふ っ き れて 歌 う 。
[
章
]
13
章
]
12
[
104
男
モスクワへ!
モスクワ ヘ!
モスクワヘ!
受話 器を 蹴る 。
コーラ ス隊は男のマイクを 取る。
男、コ ーラス隊か ら マイク を取りかえ す 。
コーラ ス隊は男のマイクを 暴力的に再び取る。
入り乱れる。
く戦 法を 思 い出す ぜ 。
男・矢吹
わ か って る よ 、 そ う で か い声 は り あげ て わ め く な
って ⋮ ⋮
男・力石
ど う し た 。 と び 込 ん で こ な い のか 。も ぐ り 込 んで
くる んじゃ ないのか 。
14
アッ パー一発、倒れる男。
男・力石
立てえ ジョー!
こ の力 石と は っきり 決 着を つけ
る気が ある んなら、 立つんだジョー!
︵と倒れた。
そして また 立つ︶
男・力石
た⋮⋮ 立 った⋮⋮ 理 論を 越え たけ んか 屋 、不可能
を可能にす る殺し屋、野性の男矢吹丈!おれのすが た
が 見え る か !
おれ の声がきこ えるか ジョー!
つぎ
は⋮⋮ いよ いよつぎ は おれの番だ!︵よ と倒れた︶
男・矢吹
︵ 殴 り な が ら ︶ な に を ぶ つ く さ う め いて や が る 。
その血鼻をふきながらのわらい顔はいただけないぜッ!
おれはで え っきれえ なんだ!
や せが ま ん って や つ
はな!
それ ど うし た 力 石ッ !︵ と 殴 っ た ︶
[
章
]
男・力石
︵殴られ︶アワ、アワ⋮⋮
ふ ふ ふ 、 ジ ョ ー よ ⋮ ⋮ い ま の うち に 心 ゆ く ま で 打 って
お くが い い ぜ !
静かに 体勢に入る 。
男・矢吹
それどうした力 石!
も う ア ッ パーを 打 って こ ね さて 、 ﹁ 語 り ﹂で あ る 。 光 源 は 釣 燈 寵 だ け で あ
え のか っ!
り 、 そ の 位 置と 顔 へ の用 い 方で 世 界 は 変 化 し て
男・力石
ふふ⋮⋮ どうしたね ジョー、 おまえ のス ェー・バ
いく。
ッ ク を 見て いる と 少 年院 時 代 に 青 山 が や っ た こ んに ゃ
105
現象はマイクの取 りあいだが、なにか 悽惨。
静かに﹃あしたの ジョー﹄を始める。やがて⋮
⋮ここ ぞと 盛 り 上が る 。
こ の ﹃ あし た の ジ ョ ー ﹄ は 、 男が コ ー ラ ス 隊 か
ら 袋叩き に あいなが ら と いうこ と に なる のだが 、
それぞれなにに拘って いるのだろうか。
べ、またた くまに異 常な繁殖を 示し飴め たので ごぎ い
ます
蓄 生 の あ さ ま し さ か 、 そ の 増え る こ と 限 り を 知
らず、やがて 樹木の 幹ははがれ バ葉はか しらね、はて
はシダやコ ケも たべ つ くされ、 それはま るで 一 夜に し
て 竹藪 一 帯 の 山が 丸 裸 に な って し ま っ た と 言え ばよ ろ
し いので ご ぎ いまし ょぅ か 。だ が 、 野ネ ズ ミ の 増殖 は
止 ま り ま せ ぬ 。 節 理 は 野 ネ ズ ミ たち を 飢 え さ せ ま す 。
飢え れ ば 食 を 求 め て 動 き 始 め ま す 。 だ が 、 そ の 野 ネ ズ
ミたち の行 く手には 、わが ヤマ タイコ ク が あったので
す 。わ たし は 踵を 返 し 、 その 模 様を わが 民に 告 げ知 ら
せ た ので は ご ざ い ま す が 、 わ が 鬼 遣 は 事 なら ず 、 能 く
衆 を 惑 わ さ ず 、 無 念 の数 日が 過 ぎ 去 り ま し た 。
だが 節理は節 理、日ごと 人々 の目 につく野ネ ズ ミの数
が 増して 来 た ので ご ざ います 、 や がて 民 は 、わが 鬼 遣
を 求め 、 そ の 道を 知 ら ・しむ る べ く 侍り 始め た ので ご
ざ いま す 、 だが 、 あ ろ うこ と か 他 の 民 は 、 野 ネ ズ ミ の
来 襲を 山 奥深 く隠 れ 棲む あの人 の 、 いや ︵ 最 前 のヒ ロ
ヒトノ病名︶のなせる業と語り始めたのでございます.
確か に 禍 は 、 あの人 の 隠れ 棲む 方角 から や って ま い り
ます 。こ の ま まで は 村が 滅びる を 前 にし て 、 藁にも す
が る 気 持ち が 、︵ 最 前 のヒ ロ ヒ ト ノ 病 名 ︶を 取 り 付 く
よすがとし た ので ご ぎ います 。 私が何も せずば、す ぐ
に あの人は わが 民 に 討 た れ無念の死をとげるほか あり
ます まい。私は考え ました。し かし野ネズミの来襲を
防 ぐ 道 は ⋮ ⋮や は り ⋮ ⋮ 自 然 に 打ち 勝 つ に は 自 然 し か
ございます ま い⋮⋮こ の節理に たどりつ くしかあり ま
106
男
⋮ ⋮ そ れ は も ぅ 、 違 い 違 い昔 のこ とで あり ま し た 。 人
々 の 日々が 日々 の値 を 持つなか で 、人々 の生活を潤 わ
せて いた、 わ たしが ヤ マ タイコ ク の 卑弥 呼 のこ ろで あ
りました。
⋮ ⋮ それ は 私 が 、ち ょ う ど 十 四の 春 の 頃で あ り ま し た 。
⋮ ⋮ち ょ う ど 十 四の 春 の頃で あ り まし た 。 ブ 百 年に 一
度咲くのは 竹の花、咲けば不吉 な世迷い言、わけのわ
からぬ繰言も、風の 流れに咲き 乱れ、人 の噂も喉元 す
ぎて 百 日目 、 あ の 人 が 病 に み ま わ れ た の は 、 そ ん な 頃
で ありまし た。
⋮⋮ ありまし た。
病 の 名 は 、 ︵ 最前 のヒ ロ ヒ ト の 病 名 。 確か 腸 閉塞 ︶ 。
不治の病で 妙薬はな く、その噂 は、あの人を人 里離 れ た 、 山 奥 へ 追 いや っ た ので ご ぎ い ま す 。 そ れ は 、ち ょ
うど、こ ん な竹藪で ごさいまし た。
な ぜ 、 そ ん な 山 奥 の 竹藪 を 知 って いる のか と 、 お 申し
でしょうか 。それは、あの人と 私は親が 取り認めた許
嫁 、 人 目 忍 んで 、 日 々 の 糧を 届 け た の は 私 だ っ た の で
ごぎいます 。それにしましても︵最前のヒロヒトノ病
名︶は恐ろしい病で ございまし た。眉毛 は抜け、頭髪
は次第に少なくなり 、顔の原形はとめど なく朽ちて ゆ
く ので す 。 一 二 日 と 空け ず 通 う 私 は なす 術 も な く 、 そ
の変化を 記 憶に 刻む しかござ い ませんで し た。
そんなある日、山奥の竹藪にも竹の花が咲いたのでご
ざ います 。 花が 咲 き 実が 稔り ま し た 。と こ ろが 何 と い
うこ とで ご ざ いまし よ う 、 野ネ ズ ミが そ の 竹の 実を 食
なら ず 、野 ネズ ミの 集団自殺を 見て いた ので しょ う か 。
そんな私が、次に想い起こせるこ とは、民を 前にし、
鬼 道 に たち 向 か う 私 自 身 の 姿で す 。 私 は 祭 壇 を 見 上 げ
る幾多の民に向かって告げたのです。
わが 守護神は いま、その 御心を 開き、私に示し あそば
し た 。 野ネ ズ ミ は 神 の使 い、何 者にも 、 その行 く道 を
防 ぐこ と あ たわ ず 、 防 ぐ心 に 邪 は 忍び 入 り 、 民を 滅 ぼ
す 。 邪を く ら い さら いつ くして 行 くわが 使 い、 座し て
見届けよ、 さらば、 民の明日の豊熟危うからず。
じゃ がヒミコ 、わが守護 神に問う 。わが民邪を持たず 。
守 護 神こ た え て いわ く 。 な ら ば ︵ 戦 前 の ヒ ロ ヒ ト ノ 病
名︶の者救え 。救う道ただ一つ、︵最前 のヒロヒト ノ
病名︶の者、その母と交い、その後、その母の血をす
す れ . さす れ ば そ の 者 、 たち ど こ ろ に 元 の 若 者と な ら
ん。さすれ ばわが使 い、村に現 れず。
女 、 奥 の 袖から ﹁ 戯 ﹂ と 記 し た 傘を さ し て 登 場 。
静かに歩く。
男
私 の 体力は そこ まで で ご ざ いまし た。わが 民 が 、何 に
向か って 動 き始め た のか、確か める気力 はすで に あり
ま せ んで し た 。気を 失 って し ま っ た ので ご ぎ います 。
そんな私が 幾日か後 、目ざめたとき、私 はそれまで の
た だ のヒ ミ コ で は な く 、 い いえ 、 た だ の ヒ ミコ は も う
死に、世界 界は一夜にして変わ ったごと く、私はヤ マ
タイコクのヒ ミコ だ ったのです 。何が 破 産し、何か 成
107
せ んで し た 。 なら ば 、 あ の 人 が 徒々 殺 さ れ る よ り 、 闘
うも のを と 考え たの で ご ざ いま す 。私は す ぐさま 宮 室
へま いり 、 賢 所で 手 に し たも の 、 それは 南 部 十 四 年 式
拳銃。
我 を 忘 れ 幾 時 ほ ど 駆 け 続 け た ので し ょ うか 。 夜 の帳 は
落 ち 、 日 の 光が 無 言 の鐘 と 鳴 り 渡 り 、 吐 く息 と 踏 み し
める足音だけが、後に残ります⋮⋮
あの人は無事で ありまし た。野ネズミは避けて 通 った
ので しょ う か 。私も ま た不 思議 なこ とに 野ネズ ミの 群
れ に 会 わ ず たど り 着 いた ので し た 。 私 は あ の と き あ の
人 に 何 を 言 え ば よ か った ので し ょ う か ⋮ ⋮ 何 も 言え ま
せ んで し た 。南 部 十 四 年 式 拳 銃 を 渡 す 私 の 手 だ け が 、
か す か に 震 え 、 あ の 人 の目 が 月 の 光を 受 けて 、 物 悲 し
そうに潤んで いたのを憶えて おります。私はいたたま
れず、その 場を立ち 去りました 。夜明け まで 帰らね ば
なりませぬ 。そんな 振り 返る暇 など ない 私が 振り 返 っ
た の は 、 も しや あの 人 は 、 南 部 十 四 年 式 拳 銃を 使 っ て
自殺をする ので は な いか 、 私が その銃を 持 って い っ た
⋮ ⋮ 私 は あ の人 に 自 殺を す す め に 行 って し ま っ た の だ 、
と いう 想 い が 脳裏を よ ぎ っ たと きでし た 。
だが 、振り返った私が見、開いたものは、南部十四年
式の銃声で はありま せん。それは、月光をとうとう 湛
え る 谷 あ い の 湖 に 、 先を 争 って 入 水す る 野 ネズ ミ の 群 、
集団自殺の 叫びだっ たのです 。
私は そのとき 、そのあり 様を前に 何を考えて いたので
し ょ う か 。 何 を 想 っ て い た ので し ょ う か 、 何 一 つ 定 か
章
]
15
[
女 、 前 に 進 む 。 女 は 純 白 の ウ エ デ ィ ン グド レ ス
を 着て いる 。白 袋 。
女
おじ さ ん 、 後 藤 さ ん来 れ な いんだ って 。
男
⋮⋮ さあ、ま いりましょ うか。
と、男はズボンを はく。
女
忙し いんだって 。
男
いいんだよ。行けばわか るんだから、気を使わなくっ
た って 。
女
はいこれ手紙 。
男
あり がとう。でもねそいつにはき っと、今夜はだめだ
か ら 明 日 に して く れ って 書 いて ん だ 。 だ が 今 夜じゃ な
いと、今夜じやないとだめなんだよ。それはわかって
いるはずなんだ。そんな手紙だけで すま せら れるこ と
じゃ な い ん だ 。 だ っ て 、 昨 日 の 今 夜じ や な いか 。 そ れ
は 誰 だ っ て わか って い る こ と な ん だ 。 そ れ な の に ⋮ ⋮
ヤッ パリ行 こ うか︵ と傘を さす ︶
女
じゃ 、置いと くよ︵と 置 く︶
男
行くんだろ。
女
ええ 。
男
じゃ 、俺も行 くよ 。
女
どこ へ?
男
どこ へ って 、 だ って 行 く んだ ろ 。
女
ええ 。
男
だ っ たら 一 緒 に 行 っ た っ て い いじ ゃ な いか 。
女
一緒に?
男
そう さ。一億 総玉砕だったんだから。
女
イチオクソウギョクサイ ?
男
そう さ、昨 日 のこ と 、 い や 一昨 日 のこ とじゃ な いか 。
108
就 し た の か 確か め る 術も な く 、 竹 の 花が 突 如 咲 き 誇 っ
たように、 私はすで にヤマタイコクのヒ ミコだった の
です。
⋮⋮ひ さしぶ りに二人で 、 お話で き ましたわ ね⋮⋮何
も 窓わ ず に 聞 いて く だ さ る だ け で あ たし は 嬉し い 。 さ
あ、ま いり ましょう か 。
女
男
女
男
女
男
女
男
女
男
女
109
女
男
女
男
男
それ で って ⋮ ⋮ つ ま り 死 んじゃ っ たか ら 。 そ う だ ろ 。
だ か ら 、 仮 に わ た し たち が そ う し た っ て 、 な に が 可 笑
昨日と違う んだ。と いうこ とは 今日と昨 日は、いいか
し いも んか 。
い、今まで の今日と昨日とは違 うってこ となんだよ 。
ふ ー ん そうか 。
たから 、行 こ う って い って んだ ろ 。行 っ たって い い ん
そ う さ 、 忘 れ る ほ ど の 暇 は 過 ぎち ゃ い な い 。
だよ 。わか るだろ、ここ に居な くったって いいんだ 。
⋮ ⋮ だ って 、 も う 死 んじ ゃ っ た ん だ よ 。
しゃ べ った 。 初めて しゃ べ ったじ ゃ な いか 。 自 分の意 ⋮ ⋮ なに考 え て んだよ 。
女
なにか考えて いるみたいでしようか あたし?
見。だろ?
男
ど う し て そ う わ た し の問 いか け に 対 し て 、 い つ も 自 分
えっ?
の問 いをこ のわたし に向けるん だよ 。そ ういう対話 に
つ ま り 、 死 ん じゃ っ たか ら あ あだ と か 、こ う だ と か 、
疑問 はない のか 。
なにか 本論 を い いた か っ た 、 大 事 なこ と を だ 。だが 遠
女
だか ら 疑問だら け なので す 。
慮して 口 寵 も っ た 。 そこ で つ い わ たし は 我 慢で き ず 、
も う い い、行 こ う 。
しゃ べ っ た 。 そ う だ ろ 。 そ う に 決 ま って い る ︵ と 笑 う ︶ 男
女
えっ?
。
男
行こ うって い って んだよ 。
可笑しかった 。
女
どこ へ?
別に 。
男
どこ へって⋮ ⋮こ れじゃ 話も なに も あったも んじゃ な
じゃ 、悪か っ たかな。
い。
別に 。
女
えっ?
じゃ なんなの 。
男
ほら またそれ だ。そのこ とを話も なにも あっ たも んじ
いい んだよ、 気にするこ とはない 。死んじゃ ったんだ
ゃ な い、 と い って ん だよ 。
ろ 。何 し た って い い ん だ か ら 、 君 だ って 例 外じゃ な い
女
それじゃ ⋮⋮
んだから 。
男
ウン なんだい?
そう いうも ん なのか、
女
それじゃ ⋮⋮
そう いうも んだ。みんな そう思って いなくて も、そう
男
はい。
じゃ なく、 つまりや はりそうな んだけれ ども、動か し
難くそうじゃ ないんだ。だから そういうもんなんだ 。
音楽 入 る 。
それで ?
女
それで いいのです、すべて の人が 満足する文学なんて
あったため しが在り ません。
男
訳の わから んこ とを いう んじゃ な い。
女
それ は傲慢で す 。つまり 、理解不 能な事態を 拒否する
のはその歳のなせるわざ。
男
ばか にするんじゃ ない。
女
口自 分を 卑下 し な くて も い いので す 。す べて のも のは
常にわかり ません。 それが 宇宙です 。で もき っと、 あ
ら ゆ る も の が 和 解 し 、す べて の も のが 氷 解 し 融 和 す る
あの一 点は 、き っと 訪れます 。 それは、 自然が 自然 的
に滅びる日、その概 念矛盾をこ の世界の言葉を使って
いえ ばこ の 世 界が 滅 び る 日、す べて は解 脱す る ので す 。
男
貴様はッ、いったいなに 様のつも りだッ!
女
いた いけない少女としたら⋮⋮
男
⋮⋮ 君は錯乱して いるのでしょうか?
女
おじ さ ん 地 球 と い う 世 界 は 円 い の で し ょ う か 。
男
もう︵もういい、というつもりか ︶⋮⋮はい、わかり
ませんと笞えましょ う。
女
混 乱 して いる おじ さ ん 、 正 確に い いま し ょ う 。か つて
世 界 は 錯 乱 し た ので あり ま し た 。 そ し て 今 、 世 界 は 錯
乱し ながら 錯乱したふ りをして いるので す 。なぜで す
って 、 それ は 支離 滅 裂の 錯 乱で は 救 いが な いか ら に 他
な り ま せ ん 。 ほ ら 、 あの おじ さ だ って そ う し な け れ ば 、
あそこに一 時たりと も、あのよ うに立って いること は
できないのですよ。そのよ うにして 、世界は丸く収ま
って いる ので ありま し た。
110
女
⋮⋮ わたしは話も なにも あったも んじゃ なか ったら 、
き っと わ た し は なに も 話 さ なか っ た んだ と 思 う んで す 。
だから 、わ たしはこ の時 間を 無 為 のうち にすごし た ん
で す ね 、 お じ さ ん の あた し は 。 で も 、 わ た し も 花を 観
ては美し いと思い、そんなわか しをみる あなたは幸ぞ
で す か 、 な ど と た あ いも な く聞 いて み た い乙 女こ ろ を
忘 れ た わ け で は あ り ま せ ん 、ひ と な み に 、 小 比 類 巻 か
おるちゃ ん のソ ウ フ ル な ヴォ ー カ ルを い い なと 思 う 、
ストレ ート なハート 、こ れが そ の ハート なので あり ま
す︵とハートのチョコレートを だす︶。ちょっと気 恥
ず か し いよ う な 夢 、 憧れ 、 希 望 、 未 来 そ ん なこ ん な を
忘 れ た わ け で は あ り ま せ ん 。 そ ん な 忘 れ な か っ たこ こ
ろがこ れ な ので す ︵ と 、 ま た チ ョコ レ ー ト を だ す ︶ 。
それでも、 そんなわ たしでも、わたしが 話もなにも あ
ったも んじゃ なか っ たわたしで あったの なら 、それ は
き っと おじ さ んに 、 そ ん なわ た し が 見え なか っ た の か
も 知 れ ま せ ん 。 だ か ら おじ さ ん 、 ⋮ ⋮ だ か ら って お じ
さ ん 、 心 配 な んて い り ま せ ん 。 き っ と 、 おじ さ ん と わ
たしの対話 は、行間を読み込ま れるもので あったので
し ょ う 。 そこ に 秘め ら れ たも の は 、き っ と 通じ あ っ た
の だ と 思 う ので す 。 だか ら 、 お じ さ ん と わ た し の 対 話
は 、 そ れ は も う 文 学 なので す 。
男
文学 ッ?
て めえ なにを い って ん だッ !
女
ご不 満でしょ うか。
男
ああ不満だ。
取 って 付 け たよ う な壮 大で 華 麗 な 音楽 強 く C I 。
女
︵笑 い︶
テ ー ブ ル の 上 の 女 は 大 き く 片 足 を 踏 み 出す 。こ
の 体勢で 世 界が 滅 ん だよ うに 脱 力 。ゆ っ くり 腰
から 上の関節を組み 立てて いく 。腕、首 、手首、
肩と組織。踏み出し た上体が決まると肋骨を組
み 立 て なが ら 、 残 し た足を 踏 み 出 し た 足 に 近づ
け 徐々 に 起 つ 。 立ち 腰が 決 ま っ たか と 思 う と 、
ヨロ ヨロ と 一 二 歩前 にで る 。踏 み と ど ま って 安
定しよ うと 大き く腹 胸式の呼吸 。こ の聞 、呼吸
が いか に な される の か 、 なされ な いのか 定かで
は な い 。 な に か 喋り た い の だ ろ う か 口を パク パ
ク。
女
そ、れ、は、も、う、モ 、ノ、ガ 、タ、リ、 なのです 。
も うす で に 取 って 付 け たよ う な壮 大で 華 麗 な 音
楽はない。
男
⋮⋮
女
おじ さ ん、わ たし は 物 語 の話 しを して いる の で す 。行
間に隠され 、読みと る物語の話 しをして いるのです 。
そ ん な愛 の メッ セ ー ジを 届 け に き た ので す よ 。
男
わ た し は 、 そ ん なも のを 頼ん だ お ぼえ は な い ん だ け ど
な。
女
い い え 、 先 ほ ど の 電 話 で わ た し は 受け た ので す 。
男
それ は電話が 混線して い たんじゃ ないのか 。
女
世 界 は 錯 乱 し たふ り を し て い る ん で す も の 、 電 話 の 混
線など、大した意味があるとは思われません。
男
わたしが今、 それを問題 にして いるんだ。
女
そ ん なこ と は ど うで も い いこ とで は あり ま せ んか 。
男
良 く な い . わ た し は ど う なる ん だ 。え ッ 、 こ の わ た し
は 誰に なる んだ ?
誰なんだ?このわたしはッ!
女
⋮⋮
男
な ぜ 黙 って い る 。 さ あ い って み ろ 、こ の わ た し は 誰 な
ん だ 。 確か に わ た し は君 に 、 メ ッ セ ー ジ を 届 けて く れ
るように頼 んだ。それもとび っ ぎりのメッセージを だ。
し が な い 四 畳 半 の 一 人 暮 ら し の 男が 、 今 夜か ぎ り の 、
そ れ は も う 今 夜か ぎ り の メッ セ ー ジを だ 。 そ れ が 君 の
仕事だろうが。そんな単なるメッセージ屋が、純白の
ウ エ デ イ ン グド レ ス に 身を つ つ み 、 い た い け な い 少 女
111
男
おまえ はッ 、 なんの話を して いる んだッ !
女
それ は あたか も 、こ のデコ ボコ の 地球と いう 世界を 、
あ の 月 か ら 見れ ば 、 も う そ ん な こ と は ど うで も い い ほ
ど 円 く 見え る ほ ど に 。だ か ら か ぐや 姫 は 月 に か え っ た
ので す 。だ から 乙女 は、金欄ど んす の帯 絞めて 、 お嫁
にいったのです。
男
な ん の話 を し て いる と わ たし は 聴 いて いる の だ ッ !
女
物語です!
女
男
女
男
女
男
女
男
じゃ ないってす ぐわ かるよ 。
女
おじ さ ん 、 後 藤 さ ん な ぜ 来 れ な い のか って 、 ど うして
きかないの 。聴くのが、怖いので ありますか。
男
それ が メッセ ー ジとでも いうつら りか 。
女
それ も とび っ き り の メッ セ ー ジ。 しが な い四畳 半の一
人 暮ら し の 男に 贈る 、 今 夜か ぎ り の 、 そ れ はも う 今 夜
かぎりのメツセージ。
男
いってみろッが
女
あ の か た は 、 み ん な のこ とを 心 配 し なが ら 、 こ の 六 十
年間に なん の後悔も な く、すこ や か な寝 顔で 、 あの 世
に 旅 立 っ た ので あり まし た 。
男
な ん のこ と だ ッ !
女
腸閉塞。
男
︵ 形 容 し が た い 怒 りで ︶ それで ッ !
女
ホ ・ ワ ・ギ ・ ョ ⋮ ⋮
男
︵笑 い︶だからッ!
女
後藤 さんは死 んだので す 。
男
⋮⋮︵笑い。ズボンとネクタイを 取る︶
女
物語が死んだように。
男
死んだ⋮⋮︵笑い︶
女
息 の 根 と め る まえ に 、 世 界が 錯 乱 を 装 っ た と き 、 なす
術もなく、物語の死にみずをと ったので した。
男
出刃 包丁は、 鈍く光って は いだ 。 窓ガラ スか ち 刺し 入
る 月 明 か り 、 夜 鳴 き ソ バ 屋 の 笛 の 音が 、 遠 くで 聞 こ え
て 行 き 過 ぎ る 。︵ 出 刃 包 丁 を と る ︶ さて 、春 の 、 夜 の
電 柱 に 身を 寄せて 思 う 、 人 を 殺 し た 入 の ま ご こ ろ ⋮ ⋮
112
女
男
を 装 う 愛 の メッ セ ー ジを た れ な が す の な ら 、こ の わ た
し が 、 誰 な のか 、 ど ん な 誰 な の か ぐら い 言 いえ る だ ろ
う 。 そ ん な 愛 の メッ セ ー ジを 、 こ の 昔 若 か っ た おじ さ
んにたれながしてみ るといい。
い っ て も い い ので す か 。
わたしに恐れるなにがあるというのだ。今日は昨日と
違 う 、 新 た なる 一 目 な の だ 。 さ あ い って み ろ 。
簡 単 な んで す よ 。昨 日 の おじ さ ん は 今 日 の お じ さ んで
あり 、 その おじ さ ん は 明 日 の お じ さ んで あり まし 。
おたしは、誰なんだッ!
︵笑 い︶⋮⋮ ついにいいましたね 、おじさん、そんな
自分さがし の物語は 、昔昔のその昔、そう、世界が 錯
乱を 装 った とき 終わ りを つ げた ので すよ 。だ って 、 あ
の 人 は 死 ん で し ま っ た ん で す も の 。 で す か ら 、 おじ さ
ん は 誰で も な い ので す 。 ほら 、 そこ に 転 が って いる 、
リンゴのよ うに⋮⋮ リンゴはリ ンゴなのです。
それでも、わ たしは行 く んだよ。
どこ へ?
だか ら⋮⋮だ って 、わた し はも う ホラ 、こ う してズボ
ンもはいたしネクタイだって絞 めてしま ったんだ。
おじ さん、 後 藤さんは来 れ な いん だ って 。
それ はだから 、今夜はだめだから 明日にして くれって
い っ た って 、こ っち か ら 出 向 い て い け ば 少 し の 時 間 ぐ
ら いなんとかして くれるよ。そうだろ、わたしとはも
う 六 十 数 年 の つ き あ い な ん だ か ら 。 そ れ が 入 情 って も
んじや な い かッ !
世 間 って の は ま だ ま だ 捨て た も の
16
113
で にカ セ ッ ト ラ ジオ の 音 量は 、 ス ピ ー力 ー に 乗
女
おじ さ ん 、 い ま 物 語 は 、 死 線 を さ 迷 い 宙ぶ ら り ん な の
っ取ら れて いる 。 音楽 大き くな る なか 、 音楽 に
で あり ます 、昨 日だ れが 死 んだ って 、 世 界 は いま だ 錯
の って 女 退 場 。
乱を 装った ままなので あります から 。
女 は 昭 和 と いう時 間を 歩 く よ うに ゆ っ くり 歩 く 。
男
わたしに、誰を殺せというのだ。
女
ひ と つしか な い物語をで す 。世界 が 錯乱を 装 ったとき 、
装 っ た ま ま で 自 分を 探す 物 語 は 、 迷 宮 の 門を 開 き 、 そ
の 迷 路 の 中 で 飢え 死 に し の で し た 。 残 っ た も の は ⋮ ⋮
男
残 っ たも の は ⋮ ⋮
女
終末 へ向か う 、数か ぎり なく姿を 換えて 繰り 返される 、
たった一つ の物語。
男
こ こ は わ た し の 四 畳 半で あ っ た し 、こ れ か ら ら わ た し
の 四畳 半で あり づ け る だ け だ 。
女
こ の 四畳 半 は 、や っ ぱ り こ の 四畳 半は 、 い い え こ の 四
畳 半は 、 そ れで も や っぱりこ の 四畳 半は 、 だか ら そ れ
は おじ さ ん 、 世 界が 錯 乱を 装 っ たよ う に で し ょ うか 。
男
⋮⋮ ︵笑い。とその場に へたりこ む︶
女
おじ さ ん、 最 後 の メッ セ ー ジで す ︵ と 傘を さ す ︶ 。 お
じさん、その手紙は、迷路 のなかで 物語の死にみずと
って 死 んだ 、 後 藤 さ んの、 おじ さ ん あて の遺 書、 読 ん
[
章
]
で下さい。
男
︵同時に、大きな奇声︶⋮⋮
男はラ ジオ に 近づ き、ヘッ ド ホ ーンを す る 。マ
同時にカセットラ ジオから 音楽が 流れて いたよ
イクをとる 。スイッ チボタンを 押す. 音楽﹃ ヘ
うに急に 音楽 大きく なる。音楽 は﹃ ヘイ ・ジュ
イ ・ ジュー ド ﹄ C 0 。
ード﹄ 。
同時に 照明はラ ジオと男に絞られる。この時す
男
ハー イ、ヤッ ピー,一週 間のごぶ たさ。今夜も元気に
'
だと思った ジョン・レノンに聖 戦を挑んだというわ け
よ ﹂ ど う だ い 、聖 戦 と き たも ん だ 。 つ づ き いこ う ﹁ だ
だ失敗は、 ポリ公が 来るまで そこにいたことさ。﹃ラ
イ麦畑で 捕 まえて ﹄ も って いた んだから ラ イ麦畑で 捕
まったら 上出来だっ たんだが﹂ おっと、どこまで シャ
レ て ん のか は ごラ ジ オ の まえ の あ ん たに おまか せし て 、
先行こ う。
﹃イエスタデイ﹄ 流れる。
感慨ともため息ともつかず 、男はいっふ く。く 拝啓 、こ のよ うな手紙を 書くとは 思って いま せんで し
た 。 おや 、 急 に 改ま ったじゃ な いか 。ど うし た んだ い
ゆる煙。
︵﹃イエス タデー﹄ はすで に消えて いる ︶。あなた と
別れても う何 年にな るのでしょ うか 。季 節のかわり め
男
マ ー ク 、 聴 いて るか な 。 感 慨もひ とし おと い っ たとこ
に な る と 、 いまで も や は り 、 あ な た の 体 のこ とが 気 掛
ろだろう。 それじゃ マークの手紙だ。いま彼は、ニュ
か り と な っ て き ま し たが 、 そ れ も 、 今 日 限 り と 思 い 、
ー ヨ ー ク の 刑 務 所 、 刑 期 二 十 年 の 判 決を う け て 服 役 中
ペンを 走ら せて いま す 。こ のよ うな身勝 手なこち ら か
だ。なにし たんだって、それはマークに対して失礼と
ら のご 無 礼 を まず 申 し 上げ、 お 詫び して おきます 。 い
き たも ん だ 。それじ ゃ 手紙を 読 む 前 に 教 え とこ う 。 ほ
ま に な って 考え て み る と い ろ い ろ なこ と が あ っ た よ う
ら 、ニュー ヨ ーク の ジョ ン ーレ ノ ン の 自 宅 の前で 、 レ
に思われます。また、なにもなかったよ うにも思われ
ノンを拳銃で射殺し だのが 、なにを隠そうマーク・ チ
ます 。あな たと別れても、それ は寝起きを ただ別に し
ャッップマンさ。昨 日の今日だから、特 赦期待しとこ
て いる だ け のよ うで も あり 、か と い って 神代 の昔 か ら 、
う 。じゃ お 手 紙 拝 見 ︵ と 、 女 が 置 いて い っ た 手 紙 を ひ
なにも 存じ 上げて い ない人 のよ うにも 思 われます 。こ
らく︶。
の 世 の 不 思 議 な 縁で 結ば れ 、 来 世 ま で も と 誓 い つ つ も 、
いわ くいいが たく別 離を 迎え た わ たくし たち は、出 会
男
﹁ ジ ョ ン ・レ ノ ン は 偽 物 だ 。 お れ は そ れが 頭 に き た 。
わ なか っ た 偶 然 よ り 、も うす で に 遠 く 隔 た って し ま っ
殺すしか な いと思っ た﹂おっと 、どうだ い聞 いたか い。
たこ と は ま ち が い な いで し ょ う 。と 、 申 し ま して も 、
の っ け か ら 乗 っち ゃ って 、 最 後 ま で も っ て く れ な く っ
こ れから も 折り にふ れ、思 い起 こ すこ と は 無 くなり は
ちゃ 、困っちゃ うよ 。それで ﹁ おれはな 、小説の﹃ラ
し な いと 思 わ れ ます 。で も も う それ は き っと 、 あた く
イ麦畑で 捕 まえ て ﹄ の 土人 公 。だか ら 人 間的に偽 物
114
四畳 半私設 放送局の深 夜放送を 開始、、用意いいか な、
ダ イ ヤ ル 合 わ せ たか な 、 い っち ゃ う ぜ 。 ま ず 、 今 夜 の
記念す べき 第一曲は 、こ の お手 紙くれた マーク・チャ
プマンに贈るあのな つかしのビ ート ルズ 、﹃イエス タ
デイ﹄、それじゃよ ろしく。
115
[
章
]
17
し の 中 か ら 出て い っ た 、 あ な た と は 別 の あ る な に か で
ある、といえるものでしょう。誤解を恐 れず申し上げ
れ ば 、 ま だ あの 長 い テ ー ブ ル は 使 って い ま す で し ょ う
か、あのテーブルに、開けると いつも当 たるドアーを
あけて 、わ たしが 最 後に 出て い くとき 、 あなたはわ た
し に 出 刃 包 丁 を 差 し 出し 、こ の よ う に 申 し ま し た 。
出て いくの な ら 、こ の俺 を 刺 せッ 、皮を そぐ だけで も
い いッ !
そ れ だ け だ って い い ん だ 。 そ のひ と 振 り が 、
本当に 出て い くこ と に なる んだ 。後悔し たくなか っ た
ら 、 ただ 握 る だ けで も い いッ !
誤解を恐れず 申し上げます。今日、わたしはこのよう
に ペンを 握 り 、 あな たを 殺し ま し た 。れ が わ たし の ラ
スト シーン⋮⋮
最 後 に な り ま し たが 、 た び たび の 復縁 の 心 や さ し い お
誘い、お礼もうしあげ失礼いたします。ご自愛下さ い。
︵ 長 い笑 い︶ ⋮⋮
︵ 大 き い声で ︶ 今 日、わ たし はこ のよ うに ペ ンを 握り 、
あなたを殺しました 。それがわ たしのラ ストンーン⋮
⋮
︵笑 い⋮⋮︶
男は笑 い続けて いる。
さて 、 映画の有名 なラスト シーンを二 三、盛り
上 げて 展 開 す るこ と に な る 。 自 身 のラ ス ト シ ー
ンを 求めて の立ち 振 る 舞い。
結 集し 社 会 のた め に 役立て よ う 。 働 く 意 欲 が わ く 社 会
の た め と 独 裁 者 も 始 め は そ う 言 って 人 心 を つ か ん だ 。
だが 、それはウゾだ った. ,独裁者は自分の欲望だけ
を 満足 させ た のだ 。 国家 間の 障 害を 取 り 除こ う 。 偏 見
同時に 音楽 。ビ ー ト ルズ﹃ アイ・ウォ ン チュ ー ﹄
をやめて 理 性を 守る んだ。そうす れば科学も 幸福を 高
。
め る 。 諸君 、 持て る 力 を 隼 め よ う ︵ 大喚 声 ︶
同 時 に チャ ッ プリ ン の ﹃ 独 裁 者 ﹄ の 以 下 の 部 分
ハンナ 、僕が わかるか ね 。元気を お出し 。ど こ に居て
から英語で 流れる。
も ⋮ ⋮ 雲 が 割 れ 始 め たよ 。 暗 や み を 抜 け 、 僕 たち は 生
ま れ か わ る 。も う 獣 のよ う に 憎 し み あ う こ と も な い 。
男
私は 皇帝 なんかになりた くない。 征服 の柄むゃ な い。
⋮⋮元気を お出しハンナ、人は 、また歩き始めた。行
た だ 皆 を 助 け た い だ け だ 。 人 開 け 互 い の 幸 せ を 支え 合
く 手 に は 、 希 望 の 光 が 満ち て い る 。 未 来 は 誰 の も の で
って 生 きて いる 。 憎 んで は 心 め だ 。 大 地 は 必 ず 皆 に 恵
もない僕たち 全員のものだ。だから元気を⋮⋮
み を 与え る 。だが 私 達 は 方向を 見失 っ た 。欲 望に 毒 さ
れ 他 人 を 貧 困 や 死 に 追 込 んで る 。 乗 物 は 早 く な っ た が
人 は 孤 独 に な っ た 。 知 識 は 増え たが 豊 か な 感 情 を な く 音楽 大 き く な る 。
し た 。 機械 よ り 人 、 知 識よ り 心 が 大 切だ 。で なけ れ ば
男
ハンナ 、あの声は⋮⋮
⋮⋮⋮⋮⋮ ⋮人に戒めを求めて いるのだ 。今も私の声
男
あの人だわ⋮⋮
は 全 世 界 の 人 々 に 届 いて ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ い る 女 や 子 供 、
組織の犠牲 者に、そんな人々に言おう。 絶望しては な
ら な い と 、 欲 望 は や がて ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 独 裁 者 は 滅 び 民 音楽 さ ら に 大き く な る 。 チ ャ ッ ブリ ン の演 説 の
テンションも最高潮。
衆の力が芽吹くだろ う 。人 は死 ぬが 自由 は残る。兵 上
達よ独裁者に耳を傾 けて は なら ない。君 達は感情まで
男
遣う 。わたし のラ スト シーンだッ !
も 統制され 操ら れて いる。独裁 者の心は 冷たい機械で
出来て いる 。君達は 機械じゃ な い人 間な んだ。愛を も
て 、 憎し み は 捨て よ う 。 諸君 ﹁ 神 の 国 は 汝ら の中 に あ す べて は CO 。 出 刃 包 丁を 取 る 。
り﹂というが⋮⋮特 定の人でな く皆の中にあるんだ 。
男
こうして目を つむると、スクリーンのなかの心の旅路
誰で も 、 人 生を 楽 し くす る 力 を 持 って い る 。 そ の力 を
116
男
⋮⋮ お前ッ!︵笑うが、 毅然となり︶わたし の、わた
し のラ ス ト シー ン は ッ !
男
男
男
音楽 ・ 高倉健﹃唐 獅牡丹﹄ が 大き くC I。
男
遣う、わたし のラ スト シーンだッ !
音楽 C O 。
音楽 静 か に 入る 。
男
わたしは、近所のわたしに、お前は患い、実家に帰り 、
病 死 し た と い って き た 。 そ ん な ふ う に し て 、 お 前 を 殺
し た 、 そ ん な わ た し のラ ス ト シ ー ン は 、 ど うや ら 通 用
し な いと い うこ とら し い 。︵ 笑 う 、 男で ︶ふ し ぎ ね 。
あ のひ と 、 信 じ ぎ っ て い た も の ね 。 こ の 世 と 、 あ の 世
の あ い だ に は 、深 い 川 が なが れ て いる っ て 、 一 度 渡 っ
たら 、 最 後 、 二 度 と 引 き 返 せ な い川 。 そ れ が 境 。 ほ ら 、
こうして って⋮⋮こ こ の包丁、 手に持って、のど首 の
前 に に あて て さ ⋮ ⋮ こ の 手を 、 ち ょ っ と 動 か し た ら 、
その川が 現 れ る のよ 。こ うして のど に あて る と 、も う
水 音が 聞 こ え て く る って ⋮ ⋮ 真 顔 で 、 あ のひ と 言 う ん
だ も の 。 そ の た んび に 、 わ た し 、ひ っ つ か んで そ の 包
丁もぎとったけど、 生きた心地がしなか ったわ⋮⋮
︵すでに出刃包丁は のど首へ︶ その出刃 包丁、こ うし
て引いたのは︵間︶こ のわたし だッ !
同時に 暗転。同時 に強烈な 雷音。同時 に雨がふ
る 、 静 か に 光り 入 る 。 男 の 首 筋 は 血 に 染 ま って
いる。ロス コ 。
雨にま み れて 、首 筋 の血が 、身体を紅 く染める 。
男
︵笑 う︶⋮⋮ しまいには 、わたしもね、ほんとに、ど
こ か 、 身 近 を さ⋮ ⋮ 見え な い川 が 、 流れ て いる よ う な
気がして さ 、どきっとすること あったわ 。水道の蛇 口
の 水 音に だ って 、 下 水 の 水が 雨 で 流れ る 音に だ って 、
つい耳澄ましたりしてるのよ。ほら 、聞 こえるで しょ。
⋮ ⋮ で も こ れ は 雨 よ 、 見え な い 川 じゃ な い、 ま し て ゃ 、
水道の蛇口 の水音な んかじゃ な く、雨:⋮こ んなわ た
し の 、 べ っ と り し た 血を 、す べ て を 洗 い 流すよ う に 、
117
男
男
男
をふ りかえ るよ うに 、こ の数 十 年間はや る ぜ な い長 い
一瞬だ⋮⋮
通り 雨だ。
こ の 雨は 、も うどこ へも や ら す の 雨よ 。
お待 ち なす って ⋮⋮ 花田 秀 次郎 さ んと おみ う け いたし
やす。
さよ うで ござ います 。
道 中 、 仁 義 略 さ し て い た だ き ま す ,て まえ ⋮ ⋮
こ の け り は 、 俺 に つ け さ し て おく ん な い 。 堅 気 の おめ
え さんを連れて いくわけにはいかねえ 。みて おくんな
い、あれか ら 四十三 年、心に誓 って 収めてきたこ のド
スを⋮⋮ お さっし 願 います 。渡 世上、あ んさんには な
んの恨みも ごぎんせ ん。勝負はこ の場か ぎり、どち ら
が 勝 って も 恨 み っこ なし だ ぜ、 さら ば 、 さら ば 、 一 回
か ぎり の人 生よ 。死 んで 貰 いま す ッ 。
118
雨が 降って んのよッ !
⋮⋮ だが なッ 若造ッ︵と 傘をさす ︶!
咬みしめる人
生 探す よ う じゃ 一人 前に ス ル メ 咬 んじゃ ねえ 、 ︵ 笑 う︶
そ う だ ろ う 若造 ッ 、 だが だ ッ 、 おじ さ ん は な 、ち ょ っ
とだけつまみ残して おくんだ。最後の一ロ一気にあお
る 。 フー ッ と 一 息 つ いて 、コ ッ プを タ ン と カ ウ ン タ ー
に 置 く 。⋮ ⋮ 本当 は な若造ッ 、 人 生咬 み し めて る ん じ
ゃ ねえ 、咬 み し め る 人 生が 在 る わ けで も ねえ 。こ の 歳
に な る と 、 忘れちゃ いけ な い 世 迷 いご と の 一 つや 二 つ
は あるも ん だ 。 そ い つを 今 夜も 忘れま い と 、こ うし て
今 夜も ス ル メを 咬 む んだ 。 そ う だ ろ ー ッ !
だ お前 エ
ーッ !
音楽 C O 。
一つの静寂。
男
︵ 静 か に ︶ 明 日 な んて わ か りゃ し ねえ 、 今 夜 の ため に
⋮ ⋮ ︵ 笑 う ︶ 今 夜 の ため に だ 、 明 日 な ん て わ か りゃ し
ねえ 。.
同時に 音楽 ・小 柳 ルミぞ﹃ お久しぶ り ね﹄が 静
かに大き くCI。
章
]
18
[
男
︵こ のうえ な く優しく︶ お前エーッ⋮⋮
雨 は や んで いる 。
小 柳ル ミ子 の﹃ お 久しぶ り ね﹄で 光は 解 放 され
る。
最後の 身体の展開 、足を踏む 。踏むこ とで の身
119
体の開放。
幕
Ⅲ 大日本演 劇大系
序の章
明月記
120
121
[
登場人物
]
・・・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
]
挨拶 さだめ川 殺意の舟歌 身体と民謡との距離 漫才 ]
章 章 章 章 章 ]
1 2 3 4 5 ]
]
[[[[[
;;;;;
;;;;
女A 曼珠沙華
女B 打上花火
ゲスト
群集
[
目次
]
121
121
122
127
127
]
131
131
132
133
135
141
146
147
挨拶
︵ 中 略 ︶ 隅 か ら 隅 まで ー ︵ ツ テが チョ ン と 一 発 ︶ お ん
願いあげます。
キが チョンチョン チョン⋮ ⋮おおきく チョン。
122
13 12 11 10
]]
]
・・・・・・・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
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・
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・
・
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・
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・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
楽器演奏 ゲスト・即興 受け・打上花火 受け・曼珠沙華 関係 異化 雨上がりの紫陽花 フィナーレ ]
章 章 章 章 章 章 章 章 ]
6 7 8 9 ]]
[[[[[[[[
;;;;;;;;
[
1
章
]
挨拶 。
挨拶はこ れから 始 まるこ と に無責 任に 期待を 抱
かせ、なりふりかまわず煽る内容。
意 味 に つ いて の 本 質 論 を 演 技 と し て 展 開 。
挨拶
︵ 即 興︶⋮
[
2
章
]
同時に 幕が 振り落 と される 。女Bが 傘 を さし背
を む けて い る 。
同 時 に 音楽 。ち あ き な お み の ﹃ さ だ め 川 ﹄ 大き
く流れる。
同時に 女A傘をさして 袖幕から登場。女Aは女
123
B のラ イ フ マ ス ク の 仮 面 を し て い る 。
女Bゆ っくり振り向く。女 Bは女Aのライフマ
スクの仮面をしている。
こ れか ら 舞台で 使 うものを 女A、女Bが運び 出
す。
呼吸と 腰︵重心︶を動く。 袖から 袖へ呼吸と腰
︵ 重 心 ︶ を 動 く 。こ の 間 に 身 体 を 晒 す 。
その短時間に見ら れる身体を 獲得し、 その身体
を生きる。
動く身 体から の、 感情の一 瞬の激変と その復帰 。
運び込む物自体の 世界をひ ろげる。物 は人に使
われその物 の個性を 主張しはじ める。物 の世界
を 広 げ る と は 、 ど の よ う な 使 い 方を す る のか 、
ど のよ う な 関係 を 成 就 す る のか に 関わ る 、極 め
て人間的な行為で ある。だが舞台には、労働と
い う 生 活が な い 。 物 は 生 活 の 場 で 、 人 と 関係を
結び 、 その 有用 性を 獲得して い くにも か か わら
ず、しかし 生 活を 支える身体は ある 。
その身体による物 の発見は、新たなる物の世界
で ある 。 役 者たら ん とす る 身体 の 獲得で ある 。
曲 の 最 後 、 舞台 中 央で 向 き 合 う 。
[
3
章
]
殺 意が 因 果 関係 の なか で 自 足す る と き 、 そこ に
出現するの は、古典 的な殺人、 いや それ はたん
なる人殺し と見るこ とができる 。しかし 人類史
などと いう も のは、こ の因果関係 の磁 場 から ど
こ まで 出て いけ る の か を 、 試 そ うとす る 、 さし
女B
女A
女B
女A
ねえ あなた、 人 間が いつ か ら 駄 目 に な っ たか 知 って る ?
えっ?
人間がよ⋮
ええ ⋮
間。
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
⋮ 行 こ うか 。
どこ へ?
あっち の方へ。
だめ よ 。
なぜ ?
待 つ んで し ょ 。
あっ、そうだ った。
なにを 、しよ うか ?
待 つ んで し ょ 。
そうだった。
ねえ 。
女A
えっ?
女B
あ な た 、 わ た し たち 老人 の あ り が た い 三 こ と 健 康 法 っ
て し って い る ?
女A
えっ?
女B
だめ ねえ 、な んにも知ら ないんだから 。いい、カゼを
ひ か な いこ と 、こ ろ ば な いこ と 、 そして こ れが 大 切 で 、
で も 考 え 過 ぎち ゃ ダ メよ 。 い い 、 義 理を 欠 くこ と 。 と
い う の は ね 心を く だ いて 、 誰に 義 理を 欠 こ うか な ん て 、
思い詰めて 、心臓悪 くしちゃ ったおばあちゃ んも あ る
くら いだか ら 、 い く ら 三こ と 健 康 法 って い っ た って 、
程 ほ ど って も ん な の よ 。 そ れ に ち ょ っ と 聞 いて い た だ
ける。わたしが ね、昨 日、暑か ったじゃ ない、スー パ
ー に 行 っ た のよ 。わ たし だ って ス ー パ ー ぐ ら い に は い
き ま す よ 、 入る な り いや ー な 顔 す る の よ 店 員 が 。ク ラ
ー ク ・ ケ ン ト と 待ち 合わ せ に ス ー パー に 来 た んじゃ な
い って 言 っ て や っ た のよ 。 あ な た も こ ん ど 行 っ た と き
言 って や っ て 、 ま っ た く 、 そ の 女 店 員 な んて の た ま っ
た と 思 う 。 お ば あち ゃ ん こ こ は ス ー パ ー な ん で す 、 い
くら 暑 い た って 涼み に 来 る とこ ろじゃ な いんで す よ 、
で す って 。 な ん な ん で し ょ ね 。 礼 儀を 知 ら な い の に も
程が ありま すよ 。わ たしがスー パーが 買 い物するとこ
ろと いうのを知ら な いとでも 思 ったんで しょうかねえ 。
そ りゃ 、 鮮 魚 売 り 場 の 前 に は 、 少し だ け 長 く い ま し た
よ 。で も 、 人 に 後 ろ 指 さ さ れ る ほ ど じ ゃ あ り ま せ ん で
し たよ 。 そ の くら い の 礼 儀を わ き まえ な く っち ゃ 世 間
の 皆 さ ん 、 に 隣 の か わ い い お ば あち ゃ ん な んて 顔 は で
124
ず め ラ ス コ ー リ ニコ フで あれ ば ﹁ 神 の 意 志 ﹂ と
で も 呼 べる も ので あ る だ ろ う 。
だ か ら 、次 のよ う に 最 初 の 台 詞 が 吐 か れて も 、
な んら 驚 く に あ た ら な い 。
と ま れ 、こ の 場 は 、 殺 意 の 因 果に 割 り 入ろ う と
す る 、ひ と つ の 黒 の 舟 歌 で あ る 。
ポトリ と女A、女 Bの顔か ら仮面が落ち る。
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
と、二人は首を絞めた。
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
今 日 も 、 暑 い わ ねえ 。
︵ 手 を 放して いる ︶ええ 。
氷を ほうばってカリッ
ほんとうに。
昼 寝 も こ う 暑 く っち ゃ ⋮
打ち 水す る の も お っ く う ね 、 一 雨 く れ ば 気 も 晴 れ る ん
だけど。
苦し いんで し ょ 。
どうして。
首を 絞めて る んですも の 。
ど う し て 、 そ ん なこ と 聴 く の って 聞 いて る の 。
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
苦し いだけ な んだろ うか って ⋮
聞 いて み たら ?
だ か ら 聞 いて ん じ ゃ な い 。
だれに?
あな たによ。
あ た し が あ た し に 聞 いて も だ め よ 。
だ っ て 、 首 よ 、 息で き な い のよ 。 しゃ べれ な いじゃ な
いの。ど う や って 聞 け って いう の。答え て くれると で
も、あなたは思ったの。
だか ら 判ら な いって い って るじゃ な い。判ら なか った
の よ 。 だ か ら あ な た に き いて る ん じ ゃ な い 。
聞 いて いる の は 、わ たし で しょ 。
ど っち だ って 同じ じゃ な い 。 あた し し か い な い んだか
ら。
あたししかいないんでしょ。
あたししかで しょ。
思 い 出す のが 、こ わ い ん で し ょ 。
そう いう、あたしがでしょ。
そう いう、あたしがでしょ。
もう 、消え たら。
あな たこ そ消え たら 。
お昼のお弁当 、今日も一 つなのよ 。
それ は、あた し の台詞 。
暑いわね⋮
い く ら い っ た って 、 こ ん が ら が っ たり し や し な い ん だ
から。
125
きません。
女B
︵笑 う︶⋮⋮
女A
ねえ あなた、 人 間が いつ か ら 駄 目 に な っ たか し って い
る?
女B
えっ?
女A
人間がよ⋮⋮
女B
ええ ⋮
女AB
そ れ は ね 人 間が 人 を 、 心 底 憎 ん で 殺 さ な く な って か
らよ。
女A
人間がよ⋮⋮
女B
心 底 憎 んで 、 人 を 殺 さ な く な って か ら よ ね 。
女AB
こ うして⋮ ⋮
126
u
o
m
たわけや な い。わしが臆病者で 、よう死 ねんかった ん
も う 消えて !
じゃ 。どう か許して くれ。
怖くなったのね。
あれ 以上怖いも のなんて なか った わ 。
女A
い つ ま で わ た し を 、 こ な いにひ と り ぼ っち し て おき な
よ く いったわ ねえ 。
は る のや 。 あの 蜆 川 で 言 う たこ と は 、 み な 嘘 か え 。
いま さら なにが 怖いも んですか 。
女B
嘘や ない。
ようゆうた。
女A
ほ ん なら 与 兵 衛 さ ん 、 早 うきて や 。
いいますわよ お。
女B
死なれへんか った。よ う死ねんか ったんや ! わしは、
ようゆうた。
よ くよ く、 だめ な人 間や 。だ け ど な、 あ んとき は 、 お
いいますわよ 。
まえ の後追 って 、 ほ んまに死 ぬ 気や った んや 。 それ だ
ようゆうた。
けは信じて や 。そして済まんけ ど、寿命 のくるまで い
いいますわよ
か し と いて や 。 お 亀 ッ !⋮
おお、ようゆうた。
女A
も う え え や な いか 、も う え え や な いか 、も う え え や な
え え い 、 ゆ わ いで か 。
いか 。 い く ら ゆ うて も せ ん な い こ と 。 お 初 、 死 場 所 は
ほ ん なら 与 兵 衛 さ ん 、 早 うきて や 。
こ こ に 決 め よ う 。こ の 曾 根 崎 の 森 を 抜 け る と も う 淀 川
す ぐ 行 くで ! 南 無 阿 弥 陀 仏 !
や 、二 人 の 足で は そこ まで も つ ま い 。追 手に 捕 ま る ぐ
嬉し い!今度 こ そわたし から 離れ ぬと約 束し なはるか 。
ら い なら 、 い っ そこ こ で 二 人 し て ⋮
するとも、死ねばええのやな。
女B
徳 兵 衛 さ ま ⋮ も し 途 中 で 追 手 に 捕 わ れ 、 別々 に な って
わ た し は あ ん た の 来て く れ は る の を 、 今 日か 明 日か と
も 、二 人 の 浮 名 は 捨 て ま いと 用 意 して き ま し たが 、 初
待 って いる のえ 。も う 寂し う
め の 望み 通 り 、一 所で 死ねるこ の 嬉し さ 。
て 切の うて 、待 切 れ んさか い迎え にき たのや 。
女A
お お よ く い う た 、 い さ ぎ よ う 死 の うや な いか 、 のち の
そんな汚い坊さんしてはらんと 、わ
世 の 死 様 の 手 本 に な って み し ょ う や な い か 。
たしの そばで 暮ら し なはれ 、あんた寂しうはな
女B
え え 徳 兵 衛 さ ま 、 そ う と 決ま れ ば 、 さ あこ の 帯 を 裂 い
いのんか 。
て くだ さ い まし 。こ の 身 体 乱 れ ぬよ うに ゆ わえ ます 。
女B
お亀 、済まな んだ。わし は人に助 けら れ、役人にえ ろ
女A
うん。
うどやされ たが、坊 主になれば 命は助けてやると言 わ
れて 、こ の 通り、乞 食坊 主に な ったんや 。お前を 騙 し と 、 赤 い 帯を 二 つ に 裂き 、 長 い 赤 い線 と な る 。
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
帯が 裂 ける 。
女B
帯は 裂けまし たが、主様とわたし の仲は、あの世でま
すます強く⋮
女A
よ く 締まったか 。
女B
はい、よ く締まりました。
女A
お前 と 、こ の 世で おう た が 二人 の 因 果。 あの 世で は晴
れて 夫 婦に な って ⋮
女B
はい⋮
女A
不 憫 は な いか ⋮
女B
徳兵 衛さま⋮
女A
恨 む や な いで 。
女B
いつ まで 悲し んでもしか たありま せん。お経を念じる
間 に 、ひ と 思 い に ッ ⋮
と、﹁南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏﹂
女A
南無阿弥陀仏 、南無阿弥 陀仏⋮
と、ヘリコプター の飛行音きこえる。
女A
︵刺す︶⋮
ヘリコ プターの飛行 音大き くなり行き 過ぎる。
その後を 追 うよ うに 格 子 窓から 指を 差し 視線を
走らせる女 A。それに女Bも加 わる。し ばらく
視線を送り 続ける。
女Aの指と視線は、なしくずしに夕日を遮るよ
うになった。
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
きれ いな夕日や あ。
ヘリ コ プター ⋮
どこ に 飛んで くんや ろか 。
あ ん た 、毎 日 毎 日他 に 聞 くこ と な い んか 。
あの子もよう 眺めとった 。
ヘリ コ プ タ ー のオ モ チャ が 一 番 好 き や っ た 。
どこ に 飛んで くんや ろか 。
あの なあ⋮
⋮も う行こうか。
どこ へ?
あっち の方へ。
だめ よ 。
なぜ ?
待 つ んで し ょ 。
127
女A
此 の 世 の なご り 、 夜も な ご り 。死 に 行 くこ の 身を たと
ふれば、あだしが原の道の露。
女B
一足づつに消えて行く。夢の夢こ そあはれなれ。あれ
数うれば曉 の。七つ の時が 六つ 鳴りて残 る一つが今生
の 。 鐘 のひ び き の 聞 き を さ め 。
女A
お初ッ!
あっ、そうだ った。
⋮ な にを 、し よ うか ?
待 つ んで し ょ 。
あっそうだった。
﹁ 民 謡 ﹂ は ﹁ 民 謡 ﹂で あ り う る の か 。
民謡と いう日本的なるものと、いまこ う ある 身
体との距離。
128
女A
女B
女A
女B
[
4
章
]
急に大きく﹁民謡﹂CI。
宇崎竜童﹃八木節ロックンロール﹄
動 くの か 、踊る の か 、こ の よ う な解 釈が在りう
る のか 、 身 体も ま た 二 人 の 創 出 す る 世 界 も 劇 的
で ある 。
[
5
章
]
いわゆ る﹁漫才﹂ 。﹁漫才 ﹂を感じ さ せずの導
入。
そして 漫才で はな くなって いく。漫才 はどこ ま
で、どのよ うに漫才で なくなって いける のか。
す べて の意 味で お も し ろ い 事 。
リープ、森 永ッ!
ま だ 、 森 永 不 買や って ん の 。
誰が ッ ?
あんたがよ。
関係 な いで し ょ 。
あ ん た 、 ど う し て そ う な のダ メで し ょ う が 。
ニ ド お い し く な いで し ょ 。 お い し いも の に 拐 か さ れ る
アラ 、なにか いけないテーマに触 れたかしら 。
も の 、 それ は 大衆 。 大衆 論 はこ の あたり から 構 築し な
お砂糖ッ、理由 あるの?
く っち ゃ 。
理由 ?
女A
知ら ないわよ 。
そうよッ、お湯を そそぐ前に、砂糖2杯もの幸福を い
女B
アラ 、 あたし 大衆よ 。
れ たで し ょ 。
女A
あ あ そ う よ 、 判 って ま す よ 。 あ ん た は ピ ン か ら キ リ ま
分相 応じゃ なか ったかし ら 。
で 、 大三元 の 役満で 、 誰が 見 た っ
そ ん なこ と で い い の 、 世 間 の み な さま に 言 い 訳 た つ の 、
あ な た の 残 り 少 な い 生 活 、ひ ょ っ と し た ら そ の お 砂 糖 て 親 の ト リ プ ル 役 満 海 底 ツ モ ノ 大 衆 あ が り 。
女B
ど う い うこ と よ 。
き っか け に 乱れて し ま う か も 知 れ な いじ ゃ な い 。 若 者
女A
ま い り ま し た 、と いうこ とで す よ 。
に 見 せ つ け て や る 誠 意 と か 謙 虚 さ な んて 微塵も なか っ
女B
判りゃ いいのよ 。
たじゃ ない 。
女A
判 っ て な いで し ょ 、 ど う し て お 湯 を 入 れ る 前 に 砂 糖 を
だ って 、 いく ば くも な い 人 生 、こ こ ろ ゆ くま で 、 おい
入れるのよ 。2杯も よ 、カッ プ の
し くコ ーヒ ー な んて 言 わ な いわ 、 せめて イ ンス タン ト
コ ーヒ ー 味 わ って 飲 め れ ば って ⋮こ の お 腰 に し み つ い 中 に よ 、取 り か え し が つ か な いじ ゃ な いで す か 。
女B
えッ
た 生 活 の 重 み に 賭 け て 誓 って も い い わ あ た し ⋮
女A
悲 し い ワ 、 あ な た か ら そ ん な ﹁ え ッ ﹂ な んて 聞 く の は 、
そりゃ あなた は公務員生 活⃝ 年満 期を 勤め あ げてこ う
場 つ な ぎじ ゃ な い 、 根 拠が な い わ 、 た ん な る 台 詞 割 り
い う 生 活 な んで す も の 、 年金 あ り ま す も の 、 だ れ は ば
だわ。意味 ないんだ ったら 大衆らしくや ったらどう な
かることな くインス タントコーヒー飲む のにゴールド
のよ 。
ブレ ンド の 赤ラ ベル 、 いーえ プ レ ジ デ ン ト だ って い い
女B
あな た⋮
で し ょ うよ 、え え 判 って ます よ 。 それ は し っか り 、 き
っかり肝に 命じて おります 。判 って ます 。今入れたク
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
129
﹁漫才 ﹂にいわゆ る﹁ドラ マ﹂を 挿入 、つまり
時 間を ど の よ う に 劇 的に 私 有す る のか 。
演技に おける時間 の問題 。
女A
あな た、判って くれたの ね。
女B
︵大衆らしくやる︶
女A
︵ 泣 き 落 し だ ︶ お 願 いだ か ら 、も うこ れを 最 後 に し て
ちょうだ いよ。インスタントコ ーヒ ー飲 むときは、カ
ッ プを 両 手 で 思 い 入 れ た っぷ り に 人 肌 に 暖 っ た め て 、
ス プー ン 一 杯 のコ ー ヒ ー 、 その 後ス プー ンを 変えて 。
女B
えッ ?
女A
あな たッ !
女B
ごめ んなさい 。思い出し た。王将 のギョーザラ イスだ
った。
女A
王 将 だ け じゃ なか っ たで し ょ うが 。
女B
そう よ 、鶴 橋 のホルモン 屋でキム チとラ イス と焼き肉 、
一つのハシで 食べんの?あたし そんなの信じられな い。
あたしには そんな勇気のいるこ とできな いわ。いい、
キ ム チ の し るよ 。 焼 き 肉 の タレ よ 、ラ イ ス が ま か り 間
違 って サ サ ニ シキ だ って ごら ん な さ い、 ど ん な顔し て 、
そ ん な ハ シ を サ サ ニ シキ に つ き さ し た ら い い んで し ょ
う 。 あ あ 鳥 肌 だ つ 。 そう い う の って メ チ ャ メ チャ す ぎ
る んじゃ な い 。ギ ョ ー ザ の タレ の つ い た ハ シで ご 飯 食
べる なんて 大衆のや るこ とじゃ ない。味 はどうす ん の
味は⋮
女A
で も 、 日 本 で は 明 治 に な って 一 つ の箸 で た べ る よ う に
なったのよ ⋮。
女B
でも 、江 戸時 代で はそう いうこ と は なか ったのよ ね⋮
日本の近代化間違ってたのかしらね。
女A
判る ゥ ?そう なのス プー ン変え る のも 、 ハシ変え るの
も 、こ れ 近 代 に 対す る批 評 性 な ので す 。 ごら ん な さ い、
未だかつて 外 食産業として資本の最先端 を走る﹁ほ っ
か ほ っか 弁 当 ﹂ 。 あ た し は あす こ が 最 先 端 で あ る ゆ え
要 求 し た い ので す 。 し か し 、 あ す こ の 持 ち か え り の 弁
当 に は ハ シ は 一 つ し か つ いて い な い 。 近 代 主 義批 判 の
微 塵 も な い んだ 。 ど うや って 一 つ の ハ シ で オ カ ズ と ご
飯を 食べろ というの 。
女B
ウラ バシしたら いいんじゃ ない。
女A
あな た、どうして 、そう いう場当 たり的な、 テクニッ
クの問題で すり抜けようとする のウラ バ シのどこ に 近
代 に 対す る 批 評 性が ある と お っ しゃ る の で す か 。 あ ん
た そ れで も 満期 あけ の元 公 務 員 さ んッ !
女B
公 務 員 って そ ん な も の よ 。
女A
︵ 間 ︶ だか ら 私 は ﹁ ほ っ か ほ っか 弁 当 ﹂ は ハ シを 二 本
付 け る べ き だ と 思 い ま す 。こ の ハ シ 一 本 の 近 代 主 義 批
判が な いか ぎり 、 ﹁ ほ っか ほ っ か 弁 当 ﹂ は 今度こ そ つ
ぶれます 。
女B
ス プ ー ン取 っ かえ たら い い んで し ょ 。
女A
そう なの、それだけなの 。そうす ればおいし くインス
タントコーヒーが いただけるの 。
女B
いつも おいし くいただいて います よ、あたし は⋮
女A
ど う し て 、 そ ん な 自 信 に 満ち あぶ れ た 顔を し て 言 い 切
って し ま う の 。ス プ ー ン 変 え な く っち ゃ 、 イ ン ス タ ン
トコーヒ ーがこびりついたままでしょうが、お湯と 砂
130
見つめ あう瞳と瞳 。
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
けど。
女A
どうして ?それじゃこだわりなさすぎるじゃ ない。い
い、お湯に とけたイ ンスタント
コ ーヒ ーに 砂糖を 入れて あ ま くして い くの。こ
れがこ つで しょ 。
女B
あ た し ど っち で も い い と 思 う け ど な 。
女A
だ め で し ょ 。 こ だ わ る の 。 そこ ん とこ し っ か り 押 さ え
と か な く っ ち ゃ 。こ う い う 生 活 だ か ら こ そ イ ン ス タ ン
ト コ ー ヒ ー 、 お 湯 、 お 砂 糖 に こ だ わ り ぬ いて 生 活 支 え
ん の よ 。 あ ん た そ れ 以 外 に こ の 生 活 支え ら れ る と 思 っ
て んの。
女B
責 任 と 主 体 性 を も って や り ぬ いて 生 活 の 根 拠 に す ん の
ね。
女A
そうよ、あなた。そうなのよ。
女B
で も 、で も よ 、 イ ン ス タ ント コ ー ヒ ー に お 湯 入 れて 砂
糖 入 れ る の と や っ ぱ り 同じじゃ な い 。
女A
違うじゃ ない、決定的に違うじゃ ない。インスタント
コ ーヒ ー と お湯に 砂 糖 入 れ る の はこ う糖 分 の 甘さを 増
して いくこ となの。
女B
そうよ、そうでしょ。
女B
湯ましじゃ な いの?
女A
言 葉 の ア ヤ で 水 ま し って いう の 。 甘さ を う す め て い っ
て し ま う の よ 。 あ ん た 水 増し の 生 活 な ん か たえ ら れ て 、
あたしはたえられま せん。
女B
住 め ば 都 って こ と も ある し 、 体 質 に あ っ たら い い んじ
ゃ な い 。 い や だ っ た ら さ 出て 行 け ば い い ん だ し ね 、 元
131
女B
糖 と 混 ぜ る 前 に ス プ ー ン の 上で 、 イ ン ス タ ン ト コ ー ヒ
ーと砂糖が 淫乱に妥 協してしま うじゃ な い。そんな イ
ンスタントコーヒーがおいしいわけないでしょうが 、
誰が 責 任取 んだよ 。
あたしが取るわ⋮
突然聞 くけど 、あんた何 にこ だわ
って ん の 。
こ だ わ るこ と にこ だ わ っ て んで す 。
そん なにこだ わることな いのよ。こ のインス タントコ
ーヒー、お中元なんだから 。
だか ら お中元 だとか、年金で 買 っ たとか そん なこ とが
問 題 じゃ な い って い って んで し ょ う が 、 い いで す か 、
じゃ あ、 お 聞 き し ま す け ど 、 あ な た チー ズ 好きで す か
だ ー い 嫌 いで す 。
じゃ あ、ピザトーストは ?
好き 。
ど う し て 、 何 故 ? あ ま り にも い い か げ んす ぎ る んじゃ
な く って そ う い う の は 、 だ か ら あ た し は あ な た に 言 っ
た の よ 。 イ ン ス タ ン ト コ ーヒ ー を 飲 む と き に はコ ー ヒ
ーカッ プを 両 手で 思 い入れたっぷりに人 肌に 暖めて ス
プーン一杯 のコ ーヒ ーを 入れ、 そして お 湯を 注 ぎな さ
いって 。コ ーヒ ーを ほどよ くか きまわす 。次にス プ ー
ンを換えて 、お砂糖を⋮
二 杯 ほ ど 、ち ょ っ と ぜ い た くか な 。
糖 尿 に な ら な い よ う に と 願 いを 込 め て 二 杯 入 れ 、 ゆ っ
くりかきま わす 。
ねえ あなた、 あたしは砂糖を 先に 入れても い いと思う
132
々ここ あたしらの家じゃ ないんだから 。
女A
体 質 に あ う 訳 な いで し ょ う 、 出て 行 き た くて も 出 れ な
いで しょ う 、こ んな とこ 好きで いる んじ ゃ な いんだ か
らッ!
[
6
章
]
大正琴 と ハーモニカの合奏 。
舞台で の俳優がす る楽 器の可能 性。いずれ楽 器
は 変 わ って い くこ と に な る だ ろ う 。
[
7
章
]
ゲスト の登 場。看 守で ある 。
ゲスト
い い加 減に し ろ 、こ こ が うる さ いと周 りか ら 苦情が
で て る ん だ 。何 時 だ と 思 って い る 。
ゲスト
就 寝時 間は と っ くにす ぎて いる 。早 く寝 る よ うに 。
女AB
おやすみなさい。
ゲスト 退場。
女A
何 も か も 瓜二 つ だも のね 。︵ 観 客 の 頭 上を 指 して ︶ あ
らッ、流れ星。
女B
︵ 見 上 げて ︶ 見え る 見え る 。き れ いだ ねえ ⋮ 。 あッ 、
消えちゃ っ た。
女A
消え ちゃ った 。
女B
本当 に 見え た ?
女A
う ん 。西 の 空 を ⋮ 。
女B
東の 空じゃ なかった?
女A
西 の 空よ 。
女B
東の空よ。あたしは右目でみたのよ。
女A
あたしは左目 。
二人、ニッと笑う 。
2
.
9
2
.
9
女B
あたしの右目 の視力は
よ。
女A
あたしの左目も
よ。
女AB
にてるわねえ。
女B
あ ん た 、ち く わ 好 き ?
女A
大 好 き 。 あ た し 直径 1 c m の 穴 の あ い たち く わ が 好 き
よ。
女B
それ それ、 あ たしもよ 。 直径 1c mの穴のや つ。
女AB
似てるわねえ。
女B
︵ 突 然 自 分 の 乳房を つか む ︶ ど う ? あ ん た気 持ち い い ?
女A
︵ 自 分 の 乳 房 を つ か んで ︶ あ ん た は ?ど う ?
女B
あた い、夢みてるみたい。
女A
あ た い も よ 。 奥 の 方 が ド キ ド キ い って る わ 。
[
8
章
]
相 手を め だ た せ る 。
女 Aが 女 Bを 支え る 。
女B
ねえ 、あんた 。こ うや って いると 二人は幸せ な姉妹み
たい。
133
ゲスト が 繰り広 げ るも のを 即興で 支え る 。
女B
女A
女B
女A
女B
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
それ は あ んた の心臓が 鳴 って る ん だよ 。
心臓が?
うん。
ねえ 。 あ ん た 。 あ た し の 心 臓 も あ ん た の 心 臓 と 似て る
かしら?
き っ と そ っ く り さ 。 切り さ いて 調 べて み よ う か 。
痛 い よ 。 そりゃ 。
痛 い ね 。ごめ んごめ ん 、 も う そ ん なこ と いわ な い 。
いわ ないで ね 。
い う も んで す か 。
︵自 分のホホを軽くぶって︶痛い あんた?
︵ 自 分 の ホ ホ を 軽 くぶ っ て ︶ あ ん た は 痛 い ?
本当 に痛いのかしら ?︵ 軽 くぶ つ ︶
本当 に痛いのかしらねえ ?︵軽くぶつ︶
痛いと言うか ら痛いんだわ、き っと。
じゃ 、ぶ たれ て ﹁ 痛 く な い﹂と い って も 痛 い かしら ?
︵強 く自分のホホをぶつ︶ほら!
うッ !痛くな いっ。
ど う なす って ?
⋮ わ か ら な い 。 あ ん た は ?ほ ら っ ︵ 自 分を ぶ つ ︶
痛くない!
二人ホ ホをさする 。
女B
やっぱり痛いわ。
女A
やっぱり痛いよ。
134
女B
女A
女B
女A
[
9
章
]
相 手を め だ た せ る 。
女 Bが 女 Aを 支え る 。
温泉 に つか って い ま し た 。 さし ず め 仙 台で は
﹁ 一 の 蔵 温 泉 ﹂ に つ か って 身 体 が ﹁ 一 の 蔵 ﹂ に 、
札 幌で は ﹁ い くら 丼 温泉 ﹂ に つ か って 身 体が
?
?
??
女A
︵ 笑 い ︶ あ あ ∼え え 湯や 辰 拭 弔△ 蠅 肇
女B
何 処 い って た ん ?
女A
﹁一 の蔵 温泉 ﹂気持ちよ か ったワ 、も お身体が ﹁一の
蔵 ﹂や 、 ほ んま に 。
女B
ギクッ。
女A
美味し∼いつまみが あったら自分の身体飲んでもええ
でえ∼ほんまに。
女B
ギクッ、ほっ、ほんまのほんま?
女A
あか んアン パンマンより きつ い、やめとこ 。 それより 、
一杯やりまひ ょ。︵ 一升瓶を あけて ぐいっと一杯飲 む︶
うひ ょ ∼ お い し い ∼ シ ・ ア ・ ワ ・ セ 。 さ あ 、 ど う ぞ
︵とつごうとするが ︶ その前にクイズで す。答え は簡
単で す 1 1 は ?
女B
ギクッ、︵恐る恐る︶2やっ。
女A
ブウッ∼∼∼ ∼∼
女B
ギ ク ッ 。 な 、 な んで ?
女A
答 え は 簡 単で す 。 うひ ょ ひ ょひ ょ ひ ょ ∼ 。 さ あ 、 風 呂
上が りの一 杯、宴会 しましょ 。 どうぞ︵ や っとつぐ ︶
今 日 の テ ー マ は 演 技 に つ いて や 。
女B
ギ ク ッ 。何 や それ 、 演 技 に つ いて ?聞 い たこ と ある な 。
女A
演技 とは何か ?
女B
演技 と は 、技 を 演じ る と 書くから 技 を 演じ る こ とや 。
女A
技って何や?
女B
しら んわ。
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
+
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女A
え っ !技も 知 ら んの?
私 プ ロ レ ス ラ ーちゃ うも ん 。
役者やもんな ?役者じゃ の∼
ふ る ウ ∼⋮
演 劇 って な に ?
色々 あるが な 、面白 い演 劇、面白 くない演劇 、静か な
演劇、うる さい演劇、つまら な い演劇、どうしようも
ない演劇︵何やかんや並べる︶⋮
ち ょ と待て っエ、それみ んな演劇 の仲間か ? 誰が 決め
た んや ?
誰で も な い 、 感 想や 。
法 律 で 取 り 締 ま っ たらえ え の に な あ ∼ 。
今 、 私 ら 何 や って る と お も て ん の ?
芝 居 の 本 番中 や 。
ギ ク ッ 、こ ん な んで え え の ?こ ん なこ と で 。 罰 せら れ
へん?
法 律 は 単 な る 提 案や 。ギ ク ッ 、や け ど お 客 さ ん に おこ
られるかもしれへんな。
ギクッ、一升、無くなってしもうた。
誰の一生や ?
私ら 二人の女 のイッ ショ ウや 。
エ ン ギ で も な いこ と 云 わ んと いて 。
何云 うて んの 、こ れは演技や 。技 を 演じ なさ い。
ギクッ。⋮踊 ります︵女 Bの歌に 合わせ女A﹁割り箸
踊 り ﹂ひ と 振 り ︶
あり が と う 。ち ょ っとは 芝 居 に 戻 ったか な ?
135
﹁ウニ﹂に なって いるそんな様子で⋮。
女A
既 に 国 生 み を へて 、 さ ら に 神 を 生 み き 故 、 生 め る 神 の
名は?
女B
オ ホ コ トヲ シヲ の 神
次に
女A
イ ハ ツ チビ コ の 神
次に
女B
イハスヒメの神
次に
女A
ア メ ノ フキ ヲ の 神
次に
女B
オホヤビコの神
次に
女A
カ ザ モ ツ ワ ケ ノオ シヲ の 神
次に
女B
アワナギの神
女A
アワナミの神
女B
ツラ ナ ギ の 神
女A
ツラ ナ ミ の 神
女B
アメノミクマリの神
女A
クニノミクマリの神
女B
アメノクヒザモ チの神
女A
クニノクヒザモチの神
女B
アメノサヅチの神
女A
クニノサヅチの神
﹁ 神 の 名 遊び ﹂で 時 空が 歪 む 。カ バ ン 屋 へ 移行 。
※﹁ 神 の名 遊び ﹂ は千 賀 ゆ う子 さ んの ﹁古 事 記
を め く る 2 ﹂よ り 抜 粋、 引 用 さ せて い た だ き ま
した。
[
章
]
女 A 、 カ バンを 開 け る 。 中 を 覗 き なが ら ⋮
女A
メ タ セ コ イ ア 、 って 知 っ て る ?
女B
︵ 小 さ い声 で ︶ チャ ッ ク 下 ろ す ぞ 、 チャ ッ ク 下 ろ す ぞ
⋮
136
﹁ 神 の 名 遊び ﹂
女B
クニノサギリ の神
女A
アメノクラド の神
女B
クニノクラド の神
女A
オ ホ ト マト ヒ コ の 神
女B
オ ホ ト マト イ メの神
女AB
こ の子をうみしによりてみほとやかえてや みこやせ
り
10
女B
全然、まった く。
女A
ギ ク ッ ︵ カ バ ン の 中 か ら 聖 書を 2 冊 取 り 出 し 1 冊 を 女
Bへ︶はじめます。
女A
今か ら 、私卵を うみます 。
女B
今か ら 、私卵を うみます 。
と、なにやら様子が違う。
女A
こ の 巨大な落 葉高木は、 その化石から 類推す ると、時
に三十メートルにも 及 んだで あ ろうといわれたのだ っ
た⋮ フラス コ の中で 発 芽し、無 菌室で 育 った苗はま も
なく中国四川省に返された。順 調に成長し その雄姿を
再びこ の現 代にみせ るかに思わ れたが 、 九五〇年、
忽然とその姿を消し たのだった。
女B
数千 万年の時が その蘇生を 受け付けなかった のか、そ
の 存 在 に 興 味 を 持 つ 何 者 か に よ って 奪 い 去 ら れ た の か 、
いまだ謎の ままで ある。
女A
九 六〇 年、 巷にまこ と しやか な 噂が 流れた 。
女B
︵予 期せぬ言 葉に﹁え っ !﹂と振り向く︶⋮
女A
球果からはじ けた、メタセコイアの胞子は偏西風に乗
って ゴ ビ 砂 漠 に 、 蒙 古 平 原を か け ぬ け 、 こ の 地 上を 席
捲し たと、 まこ とし やかに語ら れた。
女B
⋮
女A
︵笑 い︶⋮
女B
誰なんだいお前は⋮
女A
まこ としやか な噂は伝説を生んだ 。メタセコ イアの胞
子 は 、 中 国 か ら 舞 い 上が る 黄 砂 に 乗 って 、こ の 日 本 に
も 辿り 着 い た んだと 。
女B
なんの話しだ い、それが 伝説とはとんだ話し だね。
女A
こ の 続きを 聞 き たか っ た ら 、こ の カ バンを 買 って 下 さ
い。
女B
その なかには 何が 入って いるの?
女A
えっ?
女B
だか ら 、そのカ バンの中 には何が は いって いるんだよ 。
女A
運で す。
女B
えっ?
女A
︵笑 い︶たか がカバン屋に、そんな唐突な質問投げか
けて 、 立 場 が 逆 転す る とで も お 思 いで し ょ うか 。
女B
そうだとしたら⋮
女A
たか がカ バン 屋は、ただ 切り 返す だ けで す 。
女B
相 撲 じゃ な い ん だ か ら 、 土俵 に 俵 は な いよ 。 そ う 簡 単
に は 切 り 返 さ れ は し な い と 思 う ん だ が ど うで し ょ う か 。
女A
話 の 続き は聞 き た く な い ので し ょ うか 。
女B
た か が カ バ ン 屋 は 俵 の な い 土 俵 で 、 話 し を 売 って カ バ
ンを渡すのかい。
女A
い っ と き ま す が 、 カ バン 屋 は い つ だ って 、 カ バ ン を 売
ったことは ないので す 。だから 、カ バン 屋にカ バンを
買いにくる カ バンを 買う人はカ バンを 買 ったこ とは な
いのです 。 それでも 不思議 なこ とにカ バン屋はカ バン
を 買 って 下 さ いと い う ので す 。
女B
それじゃカバン屋はお前 の喋ったセンテンス と同じで
137
女A
メタセコイア。生きた化 石。新生代針葉樹。種子植物
スギ科。葉は対生。中生代の第三紀にか けて世界中に
繁茂し た 。 九 四 五 年、 中 国 四 川 省で 発 見 さ れ た 化 石
のメタセコ イアから 奇跡的に採取された種子は、フラ
スコ の中で 芽をだし 、数千万 年 の時を越えて 、こ の現
代に蘇った のだった 。
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
単純 です ね 。
単純 で 悪 いか 。
綺麗です。
二度 目は効 果うすれんだ 。唐突に 出た一度目 は、お愛
想でも納得するが、ダメ押しさ れると理不尽な疑問 形
が断定形を押しのけて、女の五段活用を はじめてごら
ん 。 否 定 形 はも し か し た ら 、 す ぐ そこ に ⋮
複 雑 な お ん な 心 の 文 法で す ね 。
⋮なんの用なんだい。
二 つ 目 の唐 突 な 質問 。 そ の 手は桑 名 の焼き 蛤 。わ たし
はただのカ バン屋で す 。
なに 企 んで る 。
不 安 に なり ま し たか 。
思いすぎだ。
カ バ ン 屋は い つも そんな 不 安に さ いなまれて いまし た 。
も う い いッ 。
い っ と き ま す が 、 カ バン 屋 は い つ だ って 、 カ バ ン を 売
ったことは ないので す。
じゃ 、何を売 って んだよ 。
カ バ ン 屋 の 前 の商 売 を 知 って いま す か ?
えっ?
カバン屋の前 の商売です 。
カ バ ン 屋 の 店 先で 、 あ た し が いち いち 聞 い た こ と が あ
る と で も 思 って いる のか い 。
こ の 国の多 く のカ バン屋 の前 の商 売で す 。
おまえ 、ただ のカ バン屋 じゃ ない ね 。
138
文 法が な い じゃ な い か 。
女A
文法で小説は 書けません。ただ自由・文 法なだけなの
です。
女B
それを いうなら自由奔放だよ。
女A
ガ キ の よ く 読 む 小 説 に 出 て く る ダ ジャ レ を 真 似 て み ま
した。
女B
なに 企 んで る 。
女A
不 安 に なり ま し たか 。
女B
思いすぎだ。
女A
カ バ ン 屋は い つも そんな 不 安に さ いなまれて いまし た 。
女B
思 い す ぎ だ っ て い って る だ ろ うが 、 た だ 、 お 前 のふ ら
ち な お 喋り に つ いて 行 く 隠 れ 蓑 な ん だ よ 。 初対 面 な ん
で 気を 使 っ て る んだ 。解 る だ ろ 、 商 売 や って んだ っ た
ら。
女A
は い 、 そ の気 の 使 い 方 好 きで す 、 綺 麗で す 。
女B
えッ ?
女A
そ の 気 の 使 い 方で す 。
女B
いや 、 その 後 。
女A
好きです。
女B
その 後だよ。
女A
綺麗です。
女B
てれるぜッ⋮
女A
えッ 。
女B
は っ き り いわ な くて い い だ ろ 。
女A
いえ って い っ たから 。
女B
いいよ。立場逆転した。
女B
よか ったね。
女A
カバン屋のバイブル、カ バン屋の 日本書紀、 あるいは
カ バン 屋 独 立 宣 言 と で も い って い いこ の 逸 話 に 対 し て 、
あなたは他にいうべき言葉はな いのですか。
女B
おめ で と う 。
女A
⋮こ れが 、こ との顛末で す 。
女B
よか った。よ うッポスト カン バン 屋。よ うッ 新たなる
カ バン 屋 パラ ダ イム っ、 ペッ ペ ッ ペッ ペ ッ 。
女A
そ の 唾 、 自 分 の 頭 の 上 に 落 ち な い と い いで す ね 。
女B
こ の 脈絡 の行 間を 読めッ !
女A
や っ ぱり バカ にして る ん だ な 。
女B
カ バじゃ なか ったのか 。
女A
そ う で す 。 運 は こ こ に 入 って いま す 。
女B
涙で る。もう いい。本当 によかった。お疲れ 。⋮ それ
以外いうこ と ない。 期待に応え られなくて メンゴ。
女A
納得します。ついにあな たは、感涙にむせび ました。
それで 十分です。
女B
涙 な んか 出て な い 。
女A
いいえ 出まし た。わたし 行間を読みますから 。
女B
かってに解釈するな。
女A
幾多 のカンバン屋さんはきっと浮かばれます 。
女B
琵 琶 湖 の 水面 に で も 浮 き や が れ 。
女A
えっ?
女B
お付き合いす るが、それじゃ 日本中のカバン 屋は運詰
め 込 んで 、 商 いに 励 んで いる と いう わ け だ 。ま っ た く
臭 い商売じ ゃ な いか 。
139
女A
唐 突 な 質問 の 連発で す が 、立 場 は 逆 転し っ ぱ なしで 、
わたし の手 の平、いえ 、も うこ こ はカ バン屋のカ バン
の中なのかも知れま せん。
女B
カ バ ン 屋のまえ の商売は ?
女A
そう 直にで れ ばす ぐ教え て あげた のに。
女B
ゴ チ ャ ゴ チャ はも う い い ん だよ 。
女A
カ バ ン 屋 の前 の商売 は 、 カ ン バン 屋で し た 。
女B
︵爆笑︶何か と思えば、またダジャレかい。
女A
い い え 、 マ ジ で す 。 マ ジ ほ ど 怖 い ダ ジャ レ は な いと 思
いませんか 。
女B
⋮
女A
カ ン バン 屋 は ある 日 、 高 い所で 仕 事を し て お り ま し た 。
とこ ろが 突 風、 その 突風に 煽ら れた拍子 に 梯子を 踏 み
外し 、 地面 に 叩きつ けら れ たので す 。そ のときンを 落
と して し ま い、カ バ ン に な っ た ので す 。 カ ン バン 屋 は
それ以来、一つの運を無くして いつも不 安にさいなま
れて きまし た。こ う なればも う カ バンは 、も一つの運
を 落 と す わ け に は い き ま せ ん 。 そ うで は ありま せ ん か 。
それで は世 の中真っ 暗 闇じゃ ご ざ いませ んか 。考え て
もみて くだ さ い、なにせ二つ運を落としてしまえ ば タ
ダ のカ バ な ので す か ら 。 そこ ま で い くわ け に は ま い り
ま せ ん 。⋮ 故 な く消 し 飛 んで し ま っ た運 。カ ン バン 屋
は考えたのですもしかするとも う一つの運も、いつど
んな拍子に と 思った のです。つ いに考え つきました 。
カ バンの中 に運を詰 めよう、と 。そのと きからカン バ
ン 屋 は は れ て カ バ ン 屋に な っ た ので す 。
し の べて 、 ふ と わ れ に 還 る ため の⋮
女A
そ れ は 気 心 の 残 骸で す 。 あ な た 、 カ バン 屋 に な れ ま す 。
いえ も う と っ く に カ バン 屋 な の か も し れ ま せ ん 。
女B
あ た し に は 、 商 う 気 心 な んて な い よ 。
女A
でも なれます 。
女B
かってに解釈するな。
女A
行 間 を よ んで る わ け じ ゃ あり ま せ ん 。
女B
あたしのこ と はほっとき なよ 。
女A
カ バ ンを 売 ら な いこ のカ バン 屋 だ って 、 商 う 気 心 な ん
て あるわけ ありませ ん。カ バンを売らな いカ バン屋 は 、
お客の持 って くる気 心を 色分け し、カ バンに入るよ う
に し て 持 っ て 帰 って も ら う だ け な の で す 。
女B
カ バ ンを 買 う ため に カ バ ン 屋 に い って 何 が 悪 いッ 。
女A
悪 く あり ま せ ん 。 だ って それが 人 生 な ので す か ら 。で
も ほ んとう に 、 あな たはカ バン を 買うため にカ バン 屋
に行 ったこ とが あり ます か 。だ れも な い ので す 。だ れ
も が 、 何 を 詰 め よ う か と い う 思 いを 込 め て カ バ ン 屋 に
行 く ので す 。 そこ で わ たし はこ のカ バン に 詰 め た運 を 、
少し ばか り 働か せて 、 色 分け し 、 お客 の 持 って き た 気
心が運がつ くように す るだけで す 。企業 秘密をここ ま
で ばら し ま し た 。カ バン 一 つ 買 って くだ さ い 。カ バ ン
を売らないカバン屋は、あなたの気心詰めてさしあげ
ますが 。
女B
詭弁 だ 、こ じ つ け だ よ 。 こ の ペ テ ン 師 。
女A
じゃ お伺 いし ますが 、あ なたはこ のよ うに 舞台にたっ
て 、 い っ た い何 を 商 って いる の で す か ッ 。
140
女A
残 念 ながら 、 閉 じ 込 め て し ま っ た 運 を 売 る わ け に は い
きません。
女B
それじゃ 、カ バン屋はカ バンも売らず、運も売らず、
何 を 商 って いる ん だ 。
女A
カ バ ン 屋 は 気 心を 商 って います 。
女B
ピ ュ ア ー だ ね 、 い いか げ んに し ろ ッ 。
女A
そ う 、 気 心 は い つ だ って い いか げ んで 、 う つ ろ いや す
い。
女B
カ バ ン の中 に 運 を 詰 め 込 んで カ バ ンを 売ら な いカ バン
屋さん、一 つ、その気心とやら をこのあたしにも分け
て 貰え ま せ んか 。
女A
ま い ど いら っ しゃ い 。ど ん なカ バ ン に い たし ま し ょ う
か。
女B
気心の入ったやつ。
女A
そうです。そうして お客 はカ バン 屋の店先を くぐり、
カ バンを 買 って い く ので す 。 そ うじゃ な か っ たら カ バ
ン 屋 な んて と う い 昔 に つ ぶ れて い る んで す 。 考 え て み
て くだ さ い 。あなた は生まれて こ のか た 、 いくつ の カ
バンを 買い まし たか 。押し 入れ を 開けて 数えて みて 下
さ い 。 そこ に は き っ と 、 用 済 み のカ バン が ゴ ロ ゴ ロ と
転が って い るはずで す 。なぜで しょ うか 。カ バンが 単
なるカ バン なら た っ た一つでよ か ったは ず なのです 。
女B
押し 入れには、忘れようにも忘れられない記憶が詰ま
って んだよ 。そんな押し 入れの 中に ファ ッ ションに 添
い寝し た使 い古し のカ バンが 山 ほど ある なら 、それ は
一 つ 一 つ の 思 い 出 な のか も し れ な い ね 。 そ っ と 手を 差
?
女B
⋮ 風 が 吹 いて いる⋮ 本当 に 。風が 吹 いて いる 。 そんな
馬 鹿 な 、 風 な んて 吹 く わ け な い じゃ な い 。 だ って こ こ
は⋮
女A
一丁目一番地ッ!
女B
水の 音⋮ 流れて る んだッ !︵笑 い ︶ おーい 叩△ 澆鵑
瓩い討い襯叩⊃紊硫擦 るッ !
福
女A
それじゃ また 。
女B
行 く のか い。
女A
ええッ。
女B
いつかまた会えるんだろうか。
女A
いつかまた気心のしれたころに。
女B
最後に一つ、もうなにも聞かないから、一つ教えてお
くれ。
女A
カ バ ンを 売 ら な いこ の謎 のカ バン 屋 にで す か 。
女B
そう 。よかっ たら、カ バンを売ら ないカ バン 屋は、い
つカン バン 屋からカ バン屋にな ったのか 。それが い つ
の話か聞か せて もら うと 、 嬉し いので す がッ !
女A
と き 、 暗 雲 た なび く 乱 世 、平 安 の 世はち ょ う ど 八 百 年
前、一一八九年、文治五年四月、陸奥の国平和泉、衣
川にいだか れた高館の戦場で あ った。まもなくその持
仏 堂で は 一 人 の若武 者が 自刃 の 露 として はて る はず で
あ っ た 。 そ の 若 武 者 と は 、 歳 幼 く七 歳 に し て 、 鞍馬 の
山 の 奥深 く 、 禅 林 坊 阿 闍 梨 覚 日 の 弟 子 と な っ た 稚 児 の
成 長し た姿で あった 。 その名は 源 久郎義 経ッ !
女B
や っ ぱり それ は 、子 供騙 し のこ じ つけ だッ 。
女A
こ じ つ け だ と し たら ッ ?
141
??
?
?
?
女B
⋮
女A
人の気心じゃ なか ったのですか。するとあなたも ペテ
ン 師で す か 。
女B
人 の 気 心 勝 手 に あつか う な 。 おま け に 色まで つ けや が
って 、何 様 のつも り だ い。
女A
カ バ ン 屋 のま え の商売を お忘れで す か 。カ ン バン 屋で
す 。カ ン バ ン 屋に 色 は つきも の で す 。 い ま さら 何を お
っしゃ るのですか 。 昔と った杵 柄忘れる よ うじゃ 、 カ
バン屋の お 里もし れ たも の 。
女B
あ あ いや あ 、 こ う い いや が って 。 お前 は や っ ぱ り ペ テ
ン 師 だ 。 だ が な 、 お 前 の ペ テ ン はソ フト ば っか り だ 。
とろけてま うぜ。中 途 半端じゃ ないか。悔しかったら
チェ ー ンで も 巻 いて ヘビ メ タや って み ろ 。
女A
ここでとぐろを巻くつも りはありません。
女B
ハー ド だよ 。 ばかや ろ う 。 ハード で 気 心 揺す って み ろ
って んだ 。
女A
演歌じゃ なか ったので す か 。
女B
こじ つけはも ういい。も う いいよ 。
女A
そう 、もうわ たしの用は 終わりで す 。だって 、ここま
で 鎖で 引 っ 張 り 回 し た ので す か ら き っ と 気 心 は 動 き は
じめ、その風に乗って メタセコ イアの種 子は、飛び 立
ったといって いいのですから。
女B
な ん だ って ッ !
女A
だってここは、一丁目一 番地なのです。
女B
ここが一丁目一番地ッ!どういうことよ。
女A
謎 の カ バン 屋 の新 ・ 日 本 書 紀 第一 項ッ !
照明激変。
章
]
11
[
女B
も う や めて ッ !︵と 怒 っ て 魚を 投 げ 付ける ︶
魚がある。
こ の魚が二人の想 像力を武 器に二人のかつて の
子供になる 。
観 客 に と って は 魚 は 物 理 的 に 人 で ある 。
女A
女B
女A
女B
痛 い じゃ な い の 、か わ い そう に 。
何が 。
魚が 。
魚が ?
女A魚を取る。
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
女B
かわ いそうに 。なによ そ の目、そ んなに いや なの。
べつ に⋮
おか し いと お も って る んで し ょ 。
なに を いって いるのよ 。
おか し くって おかし くって しか たが ないんで しょ 。
あたしはただ⋮
おか し か っ た ら 笑 い な さ いよ 。
おか し くなん か ないわ 。
笑 い なさいって !
︵え へへと笑 う︶⋮
も っ と笑 いな さ いッ !
︵笑 う︶⋮
だめ よッ、も っと、も っと笑うのよッ !
︵ばか笑 い。ひ きつり悲 惨になって くる︶⋮
も う 笑え な い って いう の ッ !
あ な たが 笑 っ て み たら ッ !ど う な の笑 って み な さ いよ 。
笑 い な さ い って ッ !
142
女B
おつ き あ いす る 身にも な ってもら い たい。
女A
そ う す る と 、 こ の わ た し たち の 歴 史 が 、 あ な た の 人 生
が 、 そして こ のわ た し の生 活が 、こ じ つ け の 積み 重 ね
ではない、と、ついにいい切っていいのですね。
女B
で き る なら ⋮
女A
ど う 、で き る なら そ のこ じ つ けを 、 メ タセ コ イ アが 数
千 万 年 の 時 を 越 え て 蘇 っ た よ う に と っ ぱ ら って 見 た い
と 、 カ バン 屋は 思 う ので す ッ !
︵笑 う︶⋮
そん なんじゃ わから ないッ !
︵笑 う︶⋮
泣 い て いる の か 、も っと 笑え ッ !
︵笑 う︶⋮
笑え ッ !
笑え ッ !
﹁笑え ッ !﹂と笑 いが混乱 。ついに寂 莫は飛躍
しない。錯乱は静寂へ。
二 人 は 魚 を 目 に す る 。 身 体 の 一 部 が 痒 く な って
くる 。除々 に 痒さは 増す 。
互 いに 相 手が 早 く 寝 な いこ とを 責 め る 。
女A
魚、 私、駄目 なのジンマ シン⋮
女B
魚、 私、駄目 なのジンマ シン⋮
痒さが 激し くなって くる。
女A
女B
女A
女B
女B
女A
女A
あんたが早く寝ないから 。
あんたが早く寝ないから 。
⋮
⋮
あんたが早く寝ないから 。
あんたが早く寝ないから 。
お前が殺った んだろ!
女B
そ れ は 何 も 知 ら な い 、が んぜ な い 、 僕 は 五 尺 之童で し
た 。 僕 は 夜 空を 飛 ん で お り ま し たこ の 黒 髪 は 来 る 風 に 、
千 切 れ ん ば か り の フ ラ フリ フラ の フラ ッ タ ー 、学 生 服
はそんな風を背にはらみ、上へ上へと押し上げます 。
順 風 満 帆 の 空中 飛 行 ⋮何 処で 殺 し た ん だ ッ 。
女A
それ はまるで 夢を 見て い るよ うで も ありまし た。それ
は荒 野をか けめ ぐる 夢がかけこ んで行 っ た月の砂漠 だ
ったのかも 知れません。砂に隠れた幻の地平線を求め
て す べ て の も の は め く る め くひ る が え り ⋮ ホ ラ 、 幻 の
地平線から 銀板の月が登ります⋮その日は雨だったか?
女B
そ の ゆ ら め き は あ る は ず が な い 。 け れ ど そ れ は 見え て
いるのです 。頭上に まとわりつ いて 、そして 離れよ う
としない、こ の大地に染みて そこにある のだと思いま
す 。 光と な って 滲み 出て いる 。 それ は き っと 少 年達 の
想 いが 行 き 場を 失 い 、 袋小路 の 迷路 に 苛 立ち 、苛 立 つ
ほ ど に 発 光 し て いる 、 そ ん な 栄 光 の 光 の 具 合 な ので す
⋮ 泣 いて い た のか ?
女A
風 が 吹 き 始 め ま し た 。こ の 風 は き っと 俺 が 学 校 に 行 っ
て た と き 、 昼 休み の 体 育 館 の 裏 を 吹 いて い たや つ だ 。
み な さ ん の ホ ホや う なじ を そよ いで ゆ き ま す 。 一 時 間
目 の 授 業に 遅 刻して 、取 り 残 さ れ た プラ ッ ト ホ ーム を
通り過ぎた 風、体育 の時間を 休 んだ、昼下がりの一 人
きりの教室 に吹いて いたのがこ の風だ。ほら、風が 吹
き始めまし た⋮どんな気がした んだッ!
女B
風 は いま、 風 鈴 に 化 身し て います 。風 はこ の 空気を 振
る わ せ 、 音 波 と な っ て チリ ン 、 リ ン リ ン と そ の 身を 振
143
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
144
て きて いる で は あり ま せ んか 。 そのため ク モ の糸 は 、
るわせ、僕をとりま きます⋮ず っと考え て いたのか ?
光一の手元で 、今にも切れそうになって います。光一
女A
御破算で 願いましては⋮ 美しい言葉⋮一言つぶやき、
はあわてて 、自分の足元のクモ の糸に手を伸ばしッ !
そのように 、おもいやる程に、 願う程に 、叶うなら ⋮
⋮何故一緒に死ななかった?
はかなく美し い言葉 だと思います 。だか らこ そきっと、
女A
黙りゃ れッ ! わら わはヒ ミコ ⋮ヒ ミコで あっ た そのゆ
こ の 世 に あ ま た あ り 、 月 あか り に 照 ら さ れ た 、 成 就 せ
え に 、わら わ の命 は 助 けら れ 、 わら わ に 生きて 苦し み
ざ る ほ の か な思 いが 、 そ う つ ぶ や く ので し ょ う ⋮ 正 直
を 、 国を 失 った悔し さを 味 わえ 、と いう ⋮ あの人 は そ
に 言 って み ろッ !
ういった。 あの人が ヤマトだっ たのか⋮ ヤマトが あの
女B
ねえ 君、君はこ うして 、 未練が 梯子に乗って いた。ぬ
人 だ っ た の か ⋮ いず れ に し ろ 、 こ の うら み 、 ヤ マト に
けがらが土蔵の中で 、解き放たれたみまごうばかり の
返 さ ね ば な ら ぬ な あ ⋮ 千 年を 生 き 延 び て 、 生 き 延 び た
時 間 の中に 、 いつは て る とも な い迷宮 の 物 語 へと旅 立
が ゆえ にナ メて き た 。 その ノ シ に 、 国を 滅ぼ さ れ 、 財
て ば 、 君 は いつも 格 子 の 外で 僕 と いた 。 いや 、 その と
を奪われたうらみを つけて 返し て くれよ う。それこ そ
き、君は僕だったのだ⋮歳はッ !
ヒ ミコとヤ マト の無 理心中、わらわの道行じゃ !⋮ 毎
女A
子を 生んだこ とのない身は子持ち より幸せと 申せまし
晩毎晩、夢 に うなさ れて いるんじゃ ないのか い?
ょ う 、 な ぜ なら 子 を 持 た ぬ 身 は 子 と い う も のが 良 い も
のか困ったも のか、 それがわか らず 色々 な苦労から 免
れて いるので
す⋮ だが 、も う 遅 い、何 が なされよ う 二人、 大きく踏み 出す。
とも、す べて は遅す ぎるッ⋮誕 生日の前 の日だろッ ?
女B
親を 殺した小 雀が恋し恋 しと鳴き まする。恋 し恋し飛
女B
ある 日のこ とで ござ いま すッ !お 釈迦様は⋮ 極楽 の蓮
び ます る 。 なにが 恋 し と 聞 い た ら ば 、 チ ュ ン チュ ン チ
池 のふ ち に た って ⋮ こ の 、 一 部 始 終 を じ っ と 見て い ら
ュンチュ ン 鳴くばか り 。鳴いた お口のなかからは舌 だ
っしゃ いま し た⋮や がて お釈迦 様は、光 一を 地獄か ら
す 舌 さえ 見え ま せ ん 。 あ た しゃ 舌 き り 雀 で す 。 あ た し
助 け よ う と お考え に な っ た ので ご ざ いま す 。 そして 、
の恋しさ知 りたけりゃ 、あたし の舌に聞 いとくれ。 あ
光一が慈悲をかけ、 その命を慈 しんだク モのその糸を、
たしも それ を 知り た くて 、 今日も お 空を 飛び ます る 。
お釈迦様は蓮池の底深 くたらし 、光一の前に差しだし
明 日も お 空 を 飛び ま す る ⋮ 悔 や んで は い な い のか ?
た ので ご ざ いま す 。 光一 は そ の ク モ の 糸 を 登 り 始 め ま
⋮だが人は人に出会い、親は子に 出会い、子 は親に出
した。まも なく蓮池 の縁に手が 届かんとするそのと き、 女A
会 う 。 女 は 男に 出 会 い、 男 は 女 に 出 会 う 。こ の 出 会 い
ふと下を見ますと、多くの餓鬼どもがクモの糸を登 っ
女A
女B
女A
星 空 に と ど いて い た は ず だ 。 星 か ら の 光 線 は 水中 で は
きっと⋮
女AB
⋮ こ ん なふ う に き ら め いて い た は ず だ ッ !
女AB
︵ む き あって ︶オ イも う いいん だよ 。も う すこ し 寝
て いろ よ 。 こ っ か ら が い い と こ だ 。こ こ ま で は い つ だ
ってこ れた んだから な。
女B
そ れ は 私 の い うこ と 。
女A
そ れ は 私 の い うこ と 。
女B
ここ から 先は 私一人で い く。
女A
ここ から 先は 私一人で い く。
女B
一人 にしてよ 。
女A
一人 にしてよ 。
女B
も う い いか ら 寝 な さ い 。
女A
も う い いか ら 寝 な さ い 。
女AB
⋮
女A
あな たこ そ寝 なさいって ッ 。
女B
あな たこ そ寝 なさいって ッ 。
女A
あな たが寝な いとあたし は眠れな いのよ。
女B
あな たが寝な いとあたし は眠れな いのよ。
女A
一人 にしてよッ。
女B
一人 にしてよッ。
女AB
⋮
女B
寝 な さ い って ッ !
女A
寝 な さ い って ッ !
女B
寝 な さ い って ッ !
女AB
⋮
145
女B
の中で 様々 な想いは 漠として 生 まれ、や がて 血を滴 ら
せ つ いえ さ る ⋮ げ に 恐 ろ し き は 、 げ に 恐 ろ し き は ⋮ お
前を 見て 、 笑 っ た ん だよ な ?
苦し いよ う = 、 苦し いよ う =⋮ 暑 いよ う 、 苦 し いよ う 、
焼け死んじゃ うよう 。水、水を くれ⋮母ちゃ ん逃げよ
う、母ちゃ ん逃 げよ う⋮母ちゃ ん、母ち ゃ ー ん⋮ そ の
子は何をしてたんだッ?
母 さ ん 好 き な んで し ょ 。 父 さ ん 嫌 いで も 、 母 さ ん は 好
きで しょ 。じゃ 抱 いて あげる いら っしゃ い︵と、喪 服
の片肌ぬいで卓袱台 の上へ、大股開きで すわる︶さ あ
いら っしゃ いこ わ いこ と な んて な い のよ 。 お 乳す わ し
て あ げ る 。 や さし く 抱 いて あ げ る か ら い ら っしゃ い ⋮
その後、お前は何をしたんだ?
⋮ 記 憶が 蘇る 。⋮ あなた の中で 僕 の 記憶を 蘇 ら せて く
れ ま せ んか 。夢 を み た い と い う ので は あ り ま せ ん 。 こ
ん な 僕が た だ いや だ と 言 う ので も あ り ま せ ん 。 あ な た
の中で 僕 の 記憶が 蘇 る なら 、 僕 は それを か っ さら い 、
き っと在る だ ろ う 僕 のも う一 つ の可能 性 を 生きて み た
いと思うのです⋮お前の見上げ た空は何 色だった?
︵ 星 空を 見 上 げて ︶ 人 が 死 ぬ 時 は 何 時 だ って 、 視 線 は
地面す れす れに ある と は思わ な いか い。 き っと それ は
こ の人 の一 生で 一 番 低 い視線 な んだ 。 そ の 視線 は そ の
人 の 最 後 の 風 景 と し て そ の 脳 裏 に深 く 刻 ま れ る だ ろ う 。
す べて の人 の 最 後 の 風景が き れ いだ っ た ら い いのに ね
え 。 それで 十分だと 思わ な いか い、 それ で いいんだ よ
ね。⋮君が 水中から 見上げた視線は水面を突き抜けて
お 願 い だ か ら も う ほ っ と いて ッ 。
お 願 い だ か ら も う ほ っ と いて ッ 。
お 願 い だ か ら も う ほ っ と いて ッ 。
お願 いだから 一人にして ッ!
お願 いだから 一人にして ッ!
お願 いだから 一人にして ッ!
お願 いッ !
二人、 大きく踏み 出す。
女B
お願 いッ !
女A
お願 いッ !
女AB
お 願 いだか ら 寝てち ょ うだ い。
女AB
泣 か な いで 。
女B
寝て 。
女A
泣か ないで 。
女B
寝て 。
女A
泣か ないで 。
女B
寝て 。
女A
泣か ないで 。
女B
寝て 。
女A
泣か ないで 。
女AB
お 願 いッ !
女Aは 出刃包丁で 魚を刺し た。女Bは招き猫を
絞 め 殺 し た 。 音楽 C O 。
女A・女Bの号泣が続く。そして続く。
女Aは 出刃包丁を 持つ。女 Bは魚を持 つ。
女AB
そ んなに泣 くと、お父 さんが 起 きるでしょ 。
女B
そ ん な に 泣 く と 、 お 婆 さ んが 起き るで し ょ 。
女A
そん なに泣くと、近所の人が 起き るでしょ。
女AB
お 願 いだか ら 寝て ッ !
女 B は さか なを 子 供 の 首 を 絞 め る 。
女Aは女Bから魚を狂ったようにとる 。女Bの
対象は招き猫に変わる。女Bは傘をさし 雨降る
外 へで たよ う だ 。
女A
そ ん なふ う に 子 供 の 首 を 絞 め た ん じ ゃ な い ん だ ろ ッ 。
女B
いいえ 、 私はこ うして 子 供を 刺し 殺し たんで す⋮ そん
なふ うに子 供を 刺し 殺し た んじ ゃ な いん だろ うッ ?
女A
い い え 、 わ た し は こ うし て 子 供 の 首 を 絞 め た んで す ⋮
⋮ そ ん なふ う に 子 供 の 首を 絞 め た んじゃ な い ん だ ろ う
ッ?
女B
いいえ 、 私はこ うして 子 供を 刺し 殺し たんで す⋮⋮ そ
ん なふ う に 子 供 を 刺 し 殺 し た ん じ じ ゃ な い ん だ ろ う ッ ?
女A
い い え 、 わ た し は こ うし て 子 供 の 首 を 絞 め た んで す ⋮
そ ん なふ う に 子 供 を 殺 し た ん じ ゃ な い ん だ ろ う ッ ?
女AB
は い、 私が こ の 手で 、 こ の母 の 手で 、我 が 子 の 首を
146
女A
女B
女A
女B
女A
女B
女A
147
女A
街が あったからッ!
女B
政治 が 気 に く わ なか っ た か ら ッ !
女AB
天 皇ヒ ロヒ ト が 死 んで し ま っ た か ら ッ !
女AB
ち が う⋮
女B
すべては違うわッ !
女A
そし て す べて は そうよッ !
女AB
だからわたしを殺して ッ!
[
章
]
12
絞 め た んで す ッ !
女A
そし て 、 あた しも 死のう と おも っ たんです 。
女B
で も 、 怖 く な っ た ので す 。 い いや そん なこ と は な い⋮
でもこうして生きて いる。
女A
わか ら ない⋮
女B
そ の 目 は あ た し を 信 じ て いま し た 。す べて を 許 す よ う
に⋮でも 、 死を 受け 入れる目の輝きなど が あるでし ょ
うか 。
女A
微笑 んで さえ いまし た 。
女B
そう よ 、手を こ のわたし に 差し の べさえ し た のよ 。
女A
なぜ なのッ!
女B
微笑 んで いたからッ ?
女A
邪魔だったんでしょッ?
女B
包丁が あったからッ?
女A
お酒 の んで た から ッ ?
女B
テレ ビが うる さか ったか らッ ?
女A
男が 憎か ったからッ ?
女B
お客が来たか らッ ?
女A
お隣が気にくわなか ったからッ?
女B
暑苦しかったからッ!
女A
電車が通り過 ぎたからッ ?
女B
人 が 歩 いて い た か ら ッ !
女A
話し 声が聞こえ たからッ !
女B
外が うるさか ったんで し ょッ !
女A
ビ ル が 高す ぎ たから ッ !
女B
人が 多すぎたからッ!
空間が 歪む 。
二人はこの劇的なるものを 実証する。
中島み ゆきの﹃世情﹄流れる。
女Aと 女Bは互いに首を絞 めはじめる 。数分の
女Aと女B の、したが って女の 自死へ至ろうと
する場。
音楽 C O。同時に 女B倒れ る 。女A立 ったまま
絶命か ?
女A泣き崩れる。
女B静かに起き上がり、女 Aに傘をさしかける 。
女B
傘ささないと 身体に毒よ 。
[
章
]
13
女A
綺麗なお星さまね。
女B
月 な んて で て な い わ 。
女A
あじ さい、き っと 綺麗だ わ 。
女B
えッ ?
女A
雨 上 が り の 朝 の 紫陽 花 。
女B
そうね。
女AB
︵ 間︶⋮
女A
あし たが ⋮
女B
あし たが ⋮
女AB
あ し たが あ れ ば !⋮
148
女A傘をさす 。
静に音楽入る。
小 柳 ル ミ コ ﹃ おひ さ し ぶ り ね ﹄
最後の 身体の展開 。足を踏む 。踏むこ とで の身
体の開放。
フィナ ーレ
149
幕
Ⅳ 後 記 150
151
①
151
158
未知座小劇場からの報告・2006
﹃力場 の論理 ︱ 演技につ いて ・序章 ﹄
﹃未知座小劇場からの報告﹄と題して 、十年前に 書き始め
たこ の拙文 の想 いは 、思 いの丈を 遥かに 凌 駕して 霧 散し 、以
降、幾 度 頓 挫 し たこ とで あろ う か 。 頭を 擡 げて そし て 消え て
行ったその幾多の想 念は、もうすでに数え 上げるこ となどは
できはしない。
今 あら た め て 、こ こ で 筆を 起 こ す こ と が 可 能 で あ る と は 、
露 程も 思 わ な いが 、 せめ て 露 分 け 衣 の 一 枚 は 剥 が し た いと 思
う。
想 いは 、 全 体を 構 想 し 、 それ を そ のよ うに 提 出し た い の だ 、
と し て あり 、や は り それ は 捨て が た く あ る 。 全 体 は 想 念 と し
て 構想し う るが 、現 場と いう一 つ の具 体 性が 、 その 全体を 常
に 喰 い破る 。具 体 性 と はここ で は力で あ るこ とを 止 め ず 、 全
体の構想を 遠ざけず にはおかなかった。きっと、現 場性とは
そのよ うに して ある ので あろ う 。現 場 性 と は 常に 発 案や 身 体
の 正当 化 の 連続で あ る の だ か ら 。
こ の連続 の一時 点を 切り取ることは可 能で あろうか ?
やはり、やはりき っと、可能ではないのだ。ある 切り取り
に よ って 、 全 体 の 構 想 は 変 容 す る 。 だ か ら そこ で は 、 一 つ の
積み重ねと 、も う一 つの積み重 ねによ って 、その非 連続の連
続 に よ って 、 全 体 と して の 想 念 に 漸 進 す る し か な い のも ま た 、
あら ためて 言 う まで も な いで あ ろ う 。つ いに 全 体 と して の 想
念 と い う 構 想 は 、 虚 構で ある の だが 、こ の 全 体 と い う パラ ダ
イムの限界が白日の下に晒されるのは、一つの積み 重ねと、
もう一つの積み重ねによる推敲 の論理性を 楯にとるしか術が
無 い のも 、 こ れ ま た 同時 に 、 あ ら ため て 言 う まで も な いで あ
ろう。
152
・・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
;;
① 未知座小劇場からの報告・2006 ② あとがきと解題 36
153
はないので あった。で あるが、こ の事態を論理化し 、文章化
することが わ たし の責務で あり 、そのよ うな位置、 あるいは
立 場で あ っ たと 、 自 身で は 思 い 込 んで い る 。現 時 点 で も そ の
よ う に 位 置 付 けて い るこ と に 変 わ り は な い 。説 明責 任は 以来 、
わたしの側 に あり 続けて いるので あった 。
未知座小 劇場の集団性を解体することとは、まず 、既存の
方 法で 舞台 や テ ン ト 公 演 を 行 為 し な いこ と で あ る の だ か ら 、
現象的には ﹁集団性を解体する ﹂は、未知座小劇場 の解体と
して 、演劇 状況には 出現する 。こ れは 甘 受す ればな るよ うに
なると いう しか ない 。しかし 、 われわれという未知 座小劇場
は、その思 い込みだ け によ って 展開で き たわけで は な いので
あるから 、 その 舞台 は多 くの具 体的な、 有無名 性に 関わら ず 、
幾 多 の 方々 の 無 私 の 物 心 両 面 に よ る エ ネ ル ギ ー の 傾 注を い た
だ くこ と に よ って 可 能 と な っ た ので ある か ら 、 論 理 化 と い う
言 語 化 作 業 を へて 、 事 態 の 報 告 を 提 出 し 公 開 す る こ と を 、 礼
わたしにはここ 十 年、次のよ うな脅迫観念が ある 。
を 失 し な い ため の 、 わ た し が 自 身 に 課 す 責 務で あろ う、 と し
未知 座小 劇場が 集 団を標榜す るこ とを 停め 、その 集団性を
てきたので あった。こ の意味で 、十年来 わたしは礼を失して
解 体す るこ とを 確認 し た のが 、 1996 年5∼6月にかけて
いる 、と い うこ と に なる のは 間 違 いな い ので ある 。
行った第 回テント 公演﹃レス ピレーター﹄に重なるからや
こ とが 、 状 況 にか ま け た だ け なら ば何 とで も なる 。ま た 、
はり十年来 のものと なる。
集 団を 標 榜 す るこ と を 停め 、 そ の 止め た こ と の 展 望 を 、 以 降
未知座小 劇場の集団性を解体することが、同時に 未知座小
の演劇営為 が更なる 展開で ある としてま ず自身が 指し示すこ
劇場 そのも のの論理 的解消を 論 証し、そ れを 受け入 れざるを
とがで きて いるので あれば、ある いは そ の道程が 方 法として
得 な いと い うこ とで は なか っ た ので ある か ら 、ま あ それ は ど
可 能で ある と 位 置づ け るこ とが で きて い た なら ば 、 現 場 性 の
う と い う こ と は な い ので ある が 、 そ の こ と に よ って わ た し の
舞台 へのこ だわりが 頓挫し たわ けで ない ので あるか ら 、事 実 、 みが可能 性を 開示で きると位置づけるこ とがで きて いたなら
ば 、 な ん と も いえ ぬ こ の 脅 迫 観 念 は な い ので あ っ た 。
わ たし は わ たし と し て 未知 座小 劇場を 持 続す るこ と を 諦めて
い な い ので ある か ら 、 ま っ と う な と こ で は 何 も 変 わ っ た ので だ か ら や は り 、 現 時 点で 明 確 に 言 え る こ と は 、 論 理 化 と い
さて 、こ の拙文 の 初めで 、想 念と いう 構想が 陳べら れる 。
あるいはま た、仮に わたしが﹃ 力場の論 理﹄という 一文をも
の に す る と す る なら 、こ こ は 序 章 と い う こ と に な る だ ろ う 。
なににこ だわり、 なにを 陳べるのか 。 それはそも そもはた
して 、語る に足る 価値が あるの か 、どの よ うな方法を取るの
か、ということになるのだが、 それはまたしても﹃ 未知座小
劇場 か ら の 報告 ﹄が 、こ こ で は 完 結し な いこ とを 意 味す る 。
で ある が 、 それ は 遅 々 と し て あ る 重 い 歩 一 歩を 進 め る 一 つ の
作 業 仮 説 で は あ る と いえ る 。 ま た 、 未 知 座 小 劇 場 が 今 抱 え る
﹁テント 公 演﹂を 前 にして 、黙 して 座す か のよ うな 体たら く
は、人 後に 落ち るで あろう。ま あ、実は そのよ うなこ とはど
うで も 良 く 、 現 場 は 明ら か に 動 き 始 め た 、 と い うこ とこ そが
射 程 さ れて ある 。
154
う組織︵=戦後民主 主義︶に対する相対 的価値として仮設さ
う 言 語 化 作 業 の 頓 挫 と い う 、 わ た し の そ の 力 量 の な さこ そが
れ た は ず で ある 。 そ れ が こ の 集 団 論 の 歴 史 性で ある 。行 為 す
﹁未知 座小 劇場が 集 団を標榜す るこ とを 停め ﹂ざる を 得なか
るこ と のま じ め に い い加 減で あ るこ と の 価値 、 それで も な お 、
っ た 大元 な の だ と い うこ と は 、 わ た し が わ た し 自 身 に 言 わ ざ
自 身が 引 き 受け ざ る を 得 な い背 反 性に は 居 直る ので は な くま
るを 得 な い ので あ っ た 。こ こ が 出発で あ り 、こ れを 本 質と し
ともに向き 合おうとする倫理性、それを 基準にすることによ
て 見据え る こ とで 、 論理 展開を 可能 とし た 。
って 初めて 対話や 、 他 者 への意 思が 成立 す るとす る 決意 性、
すでに出発から、こ の事態を 社会科学 的なもう一 つの政治
こ れ ら を 象 徴と し て 内 含す る 集 団 論 は 、 相 対 す る 組 織論 が 、
性を 持ち 出 し 、概 括 を 試み るこ と は 不 能 で あると 実 感 して い
よ り 現 代 的 に 合 理 化 さ れ るこ と に よ って 、 市 民 化 さ れ るこ と
た 。 そ れ は 、 いや そ の 道 程こ そ 、 も う 一 つ の ﹁ 未 知 座小 劇 場
に よ って 瓦 解 し た 。 こ れら が 総 じ て ポス ト 構造 主義 へ なだ れ
が 集 団を 標 榜す るこ とを 停め ﹂ たに 辿り 着 くで あろ う 。 経緯
を う ったと いうのは 容易 い。わ たし はこ れを称して 相対 的客
は そ のよ う なも のと して あ っ た 。
観 主義と い うが 、 そこ で は なに も 問 題 は 解 決 さ れ な いので あ
った。
書き始めると、いいように筆が滑り始める。道程を整理し
問 題 は 、 ど の よ う に 言 語 化 す るか 、 と し て 収 束し た 。こ の
て お くこ と に し よ う 。
作業は頓挫 して いる 。しかし、 自身の状 況は推 移す る 。推 移
こ こ で い う ﹁ 未知 座小 劇場が 集団を 標 榜す るこ と を 停め ﹂
する中で 頓挫すると は、現場性の中で行為として思考せざる
と は 集 団 の 枯 渇で は な く 集 団 論 の 枯 渇 の こ と で ある 。
かりに一 つの物言 いとして ﹁ 集団は時 間とともに 腐敗する ﹂ を 得 な いと いうこ と で あった 。こ の 作業 は 同時 に 、 位 置付け
る ため の 言 語を 獲 得 す る と い う 作 業が 課 せら れ る 。 複雑に 入
と いうテー ゼが あっ たとして 、 こ れは組 織と いう物 理 性には
り組むが、 それは言 語を持たな いということで ある 。言語を
的を 射るで あろうが 、 集団とは わ たし のこ とで ある とす ると
持 たな いと は思考が 不能で ある と いうこ とで あり 、 方向 性を
き 、こ の 物 言 いは何 も のも 分 析 して い な いこ とが わ か る 。 つ
確 定で き な いこ と に なる 。
ま り 、 わ た し は 腐 敗 し た と い っ て 、 自 身 を 打 っ 遣 る こ と ので
き る 行 為 な ど ど こ に も な い 、 と い う だ け で 十分で あ ろ う 。こ こ のこ と が ま っ た きを 得て 懐 疑 な い な ら ば それ は 破綻で あ
る 。だが 、 こ と は ﹁ 未知 座小 劇 場 の 集 団 性を 解 体す る ﹂ と は
の 視 点で 十 分で あ っ た 、 と い う べ き だ ろ う 。 つ ま り 、こ れ を
を 、 ど のよ うに 読む か と い うこ とで あ っ た 。こ の ア プロ ー チ
主 体 性 論 と し た と き 、こ の 集 団 論 は 枯 渇 す る 。 事 態 は 、こ の
手順が言語 化を 導くということで あった 。それは、 たとえ ば
集団論を言 語論として射程することが、やがて要請 されるこ
ここで いう ﹁もう一 つの政治性 ﹂とは﹁行為するこ とのまじ
と に な っ た ので あっ た 。
め に い い加 減で ある こ と の 価値 、 そ れで も な お 、 自 身が 引 き
さて こ こ で わ たし が 言 う 集団 論 の 出 自 は 、 党派 性 など と い
いつも立ち 止 って 考 え るわけに も いか な いからで な く、
見え な い の だ 。こ の と き 、 な さ れ るこ と は ﹁ 見え な い﹂
ことにこだ わることしかできはしない。 付け焼刃に 借
り物の思想 性を 孫引きしたとこ ろで、す ぐにその鍍 金
ははげるのだ。だから、静かに 自身の中に垂らした推
力 に 合 わ せ て 、 果て 度 な い 井 戸 を 掘 る の が い い 。 井 の
中 の 蛙 と 手 を 繋 ぐ な ら ま ず は 繋 いで み る こ と だ 。や が
て その蛙を 、はるか 下から 見 上 げ なけれ ば なら な い の
で あるか ら 、 ま ず は それを 楽 し んで み る こ と だ 。孤 独
と 寂寞 の な かで 、 ゆ るや か なリ ズ ム を 刻 む ので ある 。
三 島 由 紀夫 の 自 決 、 高 橋和 巳 の 自 死 、 妙 義 山 に い た
る 惨 死 か ら 、こ れら の三 方 の ベ ク ト ルか ら す る 、す く
ん で し ま っ た 地 点 に 、 無 名 の 死 を 仮 想 し 、 そこ か ら 自
身 の 中 に 垂 ら し た 推 力 に 合 わ せ て し た 、 果て 度 な い 下
降の井戸 の なか にま だ いるが 、 たまに そ んな一 点か ら
頭 上を 見 上 げ たと し て も 、や は り 満 天 の 星 空 は 見え る
ので ある 。 それは一 重に孤立す るこ とを 意味する 作 業
で あ っ た と いえ る 。
こ の拙文は そんな地点からする 、まずはの 経過 報告
で ある 。
こ の﹁ 書か なけ れ ば な ら なか っ たこ と ﹂は き わめて
個 的 なこ と に な る こ とを 、 あら か じ め お 断 り し て お き
た い 。 そ の よ う なも のと し て ﹁ 書か な け れ ば なら な か
っ た こ と ﹂ は あ る 。 いや む し ろ 、 こ の ﹁ 書 か な け れ ば
なら なか っ たこ と ﹂ を 具 体化す る ため に 、多 くのこ と
は あ っ た と いえ る ほ どで ある 。
状 況 の 中 で 、 作為 さ れ た 行 為 が 、 生 活 の な か か ら の
必 然 的 な も ので ある か の よ う に 自 身を 標 榜 し て 、思 考
よ り ま ず 展 開こ そが 求め ら れ る と い うこ と は 多 々 あ る 。 こ の﹃ 書 か なけ れ ば なら なか っ たこ と ﹄ は ﹁ 霧散 し 、 幾度
な く頓挫 し た﹂も の の一 つで あ り 、 その メモから 転 載で ある 。
そ れ は ま ず そこ に 行 為 が ある あ こ と を 、 指 し 示 そ う と
す る か ら で ある が 、 か と い って 、 結 果で 何 か が 和 解 し 、 こ こ で は ﹁ 未 知 座 小 劇 場 が 集 団 を 標 榜 す る こ と を 停 め ﹂ た の
は 、 ど こ か ら 出 発 し た の か を 確 定し よ う と し て い る 。こ こ で
氷解すると いうこ と は そんなに あるわけではない。む
しろ、迷路 こ そ用意 されて いる 、と いう のが 常だろ う。 いう﹁三島 由 紀夫の 自決、高橋和巳の自 死、妙義山 に いたる
155
受けざるを 得ない背反性には居 直るので はなくまともに向き
合 お う と す る 倫 理 性 、 そ れ を 基 準 に す る こ と に よ っ て 初めて
対話や 、他 者への意 思が 成立す るとする 決意性、こ れらを 象
徴として 内 含する集 団論﹂の残 骸として あった別名で あり、
だから 恥ず かし げも なく脈絡 上 明 確に言 ってしまわ ざるを 得
な いが 、 そ の 全 共 闘 運 動 論 も ま た ﹁ も う 一 つ の 政 治 性 ﹂で あ
ったのだと したとき 、失語にい たらざる 得なか ったというこ
とで あった 。つまり 、 あらかじ め 読むす べを 封印し て 出発し
た ので あっ た 。
いま少し 、こ の事態に至った 経緯を 、 その前史を 綴って お
きたい。それは、少しばかりのわたくし 事を 綴った引用にな
るが、黙許 いただき たい。
156
ることは、 集団内部 に﹁もう一 つの、新しい物語﹂ではなく、
惨死﹂とは 、 未知 座小 劇場が 結 成された 1972 年 のこ と と
物 語 そ の も のが 再 生 産 さ れ る こ と に な っ た ので あっ た 。 そ れ
な る 。こ こ か ら の ﹁ 果て 度 な い 井 戸を 掘 る ﹂ 営為 は 、 ま ず 政
は テ ン ト そ のも のが ︿ 物 語 ﹀ と な って し ま っ た の だ と いえ よ
治的言語の唾棄、それは政治か らの遁走 として表象された。
う 。き っと こ のと き ﹁行 為 す る こ と のま じ め に い い 加 減で あ
こ の表 象を マニ フェ スト 化す れ ば 、 それ 以来 、 未知 座小 劇場
が 掲 げ る ﹁ 演 技 論で す べて を 突 破 せ よ ! ﹂ と な る の で あ っ た 。 るこ と の 価 値 、 それ で も な お、 自 身が 引 き 受け ざ る を 得 な い
背反性には居直るのではなくまともに向き合おうとする倫理
こで 獲得されるべき 演技論は、既存の物 語論への批 評性によ
性 、 そ れ を 基 準 に す るこ と に よ って 初 め て 対話 や 、 他 者 へ の
って 方法化 されると し た。だが 、ここで の 集団論と いう運 動
意思が成立するとす る 決意性、これらを 象徴として 内 含す る
論 は 、 繰 り 返すこ と に な る が ﹁ 行 為 す る こ と の ま じ め に い い
集団論﹂が 物語と化 して いたので ある。物語と化す とは、そ
加 減で ある こ と の 価 値 、 それで も な お、 自 身が 引 き 受け ざ る
れを 支え る 集団論と いう運 動が 、や はり つ いに 憤怒や 義 憤に
を 得 な い背 反 性に は 居 直る ので は な くま とも に 向き 合 おうと
支え ら れ た 想 念 、多 く の 倫 理 性 に よ って 支え ら れて いたで あ
す る 倫 理 性 、 そ れを 基 準 に す る こ と に よ って 初めて 対話 や 、
ろ う も の か ら 、 つ い に 決 別で き なか っ た と い うこ と で あ ろ う 。
他者への意思が成立するとする 決意 性、これらを象徴として
こ れら の論 証 は 後論 に 譲るが 、 つまり そ れら の 根 拠 は つ いに 、
内 含す る 集 団 論 ﹂で あっ た 。
近代 主義的 な倫理性で あったと いうこ と になるでで あろう。
以 上を 経 過 と し て 、 ま た そ の よ う に 仮 設 す る なら 、こ こ で
だがしかし 、わたし はどうして も強調し なければならないが 、
の 出 発 と な って いる ﹁ 未 知 座 小 劇 場 が 集 団を 標 榜 す るこ と を
仮想した﹁ 無名の死 ﹂は、なにがどう推 移しようと 、厳然た
停め ﹂ た 経 緯 は 、 言 葉で 言 って し まえ ば ﹁ 既 存 の 物 語 論 への
る 事 実 と し て あ り つ づ け る ので あ っ た 。
批 評 性 ﹂を 勝ち 取 れ なか っ た 結 果で ある と い うこ と に な る 。
こ こ で いう 物 語 論 が 射 程 す る 、 物 語 の 最 高 形 態 と し て の 天 皇 こ のよ う に して 、 解 体 の 対 象 と して 射 程し た概 念 に よ って 、
自 身が 解 体 す る 。こ こ に こ そ 、 わ れ わ れ が た ど り 着 いた ﹁ 未
制という概 念に、集 団として 展 開した運 動が 、論難 され破綻
知 座小 劇場 の 集団性 を 解 体す る ﹂と いう 作業の 本 質 は あ っ た
し た ので あ っ た 。 方 法 的に 少し だ け 踏 み 込 んで 発 言 す れ ば 、
ので ある 。
す で に 迷 路 の中 に 迷 い込 んで い た 演 劇 的 物 語 性 に 対 し て 、 集
団で す る も う一 つ の 、 新 し い物 語 を 対 置 で き なか っ た ので あ
論証を待 つまでも 無く、未知 座小劇場もまた時代 の思想的
った。
限 界に 無 縁 で なか っ た ので あ っ た 。 その よ う に 言 い 切 って し
物語や集団、ある いは運動の概念規定を避けたまま、命題
まえ る なら 、 言 い 切 って し ま い た い 。一 気 に 状況 の 方に掻 っ
ら し き も の を 放 り 投 げて いる が 、こ の 拙 文 の 位 置 付 け が ﹁ 序
攫え る なら 、 それに 越し た事は な いので あるが ⋮⋮
章 ﹂で ある と い うこ とで お許 し 願 う し か な いが 、 総 じ て いえ
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できるなら ﹁情報と して の物語 ﹂などと 記述せず、 愚 直にか
こ のよ う にして 十 年の 経過 は 始 ま った ので あった 。
つ直截に
こ の 間 の 仮 説 は 、 物 語 と は 情 報のこ と で あ る 、 と い う テ ー
︵ ︻ リ レ ー ショ ナ ル デ ー タ ベース 管 理 シス テ
ゼに推 移し た 。こ の 転位は、ロ ラ ン ・バ ルトが 物語 の あれこ
ム︼・
︶としたい
れに言及す る一つの 手立てとして の、テクスト論に 通じるで
のは山々で あるが 、すると物語 ↓情 報↓
の 連 綿が 素 っ
あろ うか 。 それ は 残 念 ながら 、 観 るこ と を 研 鑽 せ ぬ 、も の い
飛び ﹁ 情 報 と し て の 物 語 ﹂ と い う 物 言 い が 仮 設 さ れ な い ので
う 観 客 に 過 ぎ な い の で は な いか 、 と 悪 意 を も って 捻 じ 曲 げ た
ある 。
い ので ある が 、 そ う も 行 くま い 。 だが 、 や は り 、こ と は 解 析 こ の 十 年 の 経過 の 模索 として 、 未知 座 小 劇場 は そ の一 つと
す るこ とで は な く行 為 す るこ と に ある 。 物 語 は デ ー タと し て
して 、情 報 の極 北と いう現在を 求め一般 第二種電気 通信事業
情 報の傘下 に下 った ので あるか ら 、 繰り 返すが 、解 析によ っ
者となりレ ンタルサーバサービ スを結果した。笑い話ではな
て 情 報は物 理 的力を 持ち うるで あろうが 、こ とは そ の解 析で
く、情報の 最先端は ネットワークシステムのサーバ・クライ
は な く行為 で ある 。
アント 型サ ービス の なかに あり 、揚言す れば﹁す べて はデー
この自問 は、情報として の物 語は、それは行為す ることの
タベース化できる﹂というドク サまで 辿 り着いたので あった 。
リ アリ ティ ーは いか にして 獲得 されるか 、 へと 作業 仮 説を 導
この﹁すべてはデー タベース化できる﹂を換言すれば、私の
く。
性欲 さえ ヴ ァ ー チャ ル の中で 提 供し 、 実 体化す るこ とで 解 消
ここは序 説で ある 。先走るのは止めよ う。
で き る と い うこ とで ある 、と い う シス テ ム を 意 味す る 。だか
右記の﹁行為することのリアリティー ﹂とは演技 の方法の
ら、いま物 語りは情 報として 切 り刻まれ 、データの 海の中で
ことであった。それを取り巻く状況をここで﹁情 報として の
瀕死といおうか、それは溺死寸前で あり 、死滅を 前にして い
物 語 ﹂ と 仮 設し た と こ ろ で 、 な に も 語 っ て は い な い ので あっ
る と い うこ とに な る だろ う か 。
た 。 つ ま り 、 情 報 に つ いて 何 事 も 語 って い な いし 、 位 置 付 け 右 記 の こ と を 踏 ま え 、現 在 新 聞 紙 上 を 賑 わ す 、 法 的 に 起 訴
て も い な い 。 そこ で 強 引 に 言 い ま わ し て み れ ば 、こ こ で は 情
されて いる
︵ ウ ィ ニ ー ︶ を み て み る なら 、こ の フ ァ イ
報は、デー タとして 流通するので あるか ら 、まずは 個別主体
ル 共 有ソ フ ト が サー バ・クラ イ アント 型 サービ ス シ ス テムで
の︷ ルビ パロ ー ル ︸ 言 葉 ︷ ル ビ ︸︵
︶として あるし
あったら現 状 の検察側から の求刑はなか ったで あろ う 。現状
か な い 。こ のよ うで あれ ば 、 物 語 は 情 報 を 形 作る デ ー タ の 位
は 、こ の シ ス テ ム が
︵
︶技術という中央サ
置を 逸 脱で き ないので あるから 、物語は つ いに 倫理 や 、道徳
ー バを 媒 介 し な い 無 政 府 的 な 連 関 シス テ ム に よ り 展 開 さ れて
や 、 伝 説 等 と して 結 実し な い の で ある 。 こ れを ま ず ﹁情 報と
い る 結 果で ある 。情 報 の 権力 性 か ら は 著 作 権 云 々 は 瑣 末 なこ
して の物語 ﹂と称 呼 し たとこ ろ で 、残 る のは匠 気で し か な い 。 とに過ぎな い。幻想で あるが 、 情 報管理がついに可 能で ある
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のこ とで あ る 。し た が って 当 然 、 未知 座 小 劇 場 の 表 現 論 は 、
記号学 への 接 近と い う事態に、 導びかれ た。こ れら の詳細は
本論に 譲り 、ここで は粗筋め いて概 括す れば、それ は前述の
﹁未知 座小 劇場が 集 団を標榜す るこ とを 停め ﹂をま ったく発
想を 異にし た 地平で 位 置付ける と いう 作 業を 意味し た。換言
す れ ば 、 未 知 座小 劇 場 の情 報論 は 言 語学 と 手を 結ぶ こ と に よ
って 、 新 た なるも う 一 つ の 物 語 など と 表 象す るこ と を 止め た
の だ と いえ る 。 レ ト リ ッ ク と し て ﹁ 新 た な る も う 一 つ の 物 語 ﹂
といったところで 、 それはもう︿物語﹀でないのは明白で あ
る。それは、未知 座小劇場そのものとしての︿力場 ﹀となっ
た。
思索の種 明かしを 具体的に綴れば、例えば﹁︷ルビ ラン
ガージュ ︸言葉︷ ル ビ ︸ は 常 に ︷ ルビ ラ ン グ ︸言 語︷ ル
ビ ︸に助けら れて現 れ出る、と 言え るで しょう。︷ ルビ ラ
ンガージュ ︸言葉︷ ルビ ︸は ︷ルビ ラ ング︸言語 ︷ ルビ ︸
が な くて は 存在で き な い ので す 。︷ ルビ ラ ンガ ー ジュ ︸言
個
葉︷ ルビ ︸の方は完 全に︷ルビ アンデ ィ ヴィデュ ︸
︷ ルビ︸から逃れて おり﹂︵ ﹃一般言語学 第三回講義︱コ
ンスタンタンによる 講義記録﹄ 相原奈津江 ・訳︶と いう行が
ある 。強 いてこ の行 で はないと だめだと いうこ とで はない。
こ の部 位を ﹁︷ ルビ ラ ンガ ー ジュ ︸演 劇 ︷ ルビ ︸ は常に
︷ ルビ ラ ン グ ︸ 舞台 ︷ ルビ ︸ に助 けら れて 現 れ出 る、と言
え るで し ょ う 。︷ ル ビ ラ ンガ ー ジュ ︸演 劇︷ ルビ ︸は︷ル
ビ ラ ン グ ︸ 舞台 ︷ ルビ ︸が な くて は 存 在で き ない のです 。
︷ ルビ ラ ンガ ー ジュ ︸演 劇︷ ルビ ︸の 方は完 全に ︷ ルビ
アンディヴィデュ︸
俳優
︷ ルビ ︸か ら逃れて おり﹂と
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と い う イ デ オ ロ ギ ー に 根 ざ し た 茶 番で あ る の だ 。 ま た 、こ こ
で 展開されて いる法理念を、素人として 展開してみ れば、舞
台で殺人の 場面が あ ったので 、 現 実に殺 人事件が 起 きたこと
の 舞 台 の犯 罪 性 を 問 って いる よ う に 装 う こ と 、 そ れ は 、 ピ ス
ト ル に よ る 殺 人 事 件 の 因 果で 、 ピ ス ト ル 発 明 者 の 犯 罪 性を 問
うこ とに 似 る 。こ ん な論理は破 綻して い るこ と は言 うまで も
な い 。 そこ で の 尚 且 つ の 振 る 舞 い は 、 い いよ う に ナ リ フリ か
まった、情 報の権力 化という囲 い込みで あり、本質は権力闘
争で ある 。で あるが 、すで に情 報が 権力 に 囲い込ま れるとこ
ろ に 立 ち 止 ま って は い な い の も 確かで あ る 。 情 報 は 情 報 と し
て ある ので は な く、 デー タとし て ある の で あった 。 すで に 情
報はア・プ リオ リに あるこ とは ない。こ こ まで 綴る と、
︵ ウ ィ ニ ー ︶ 作 成 の プロ グラ マー に 触 れ る の が エ チ ケ ッ ト
で ある だ ろ うが 、こ れは 特 に な い 。 た だ 、 餅屋 は 餅 屋 と して
キ ッ チリ落 とし 前 を つ け る し か な い ので は と 思 う 。 それ はで
きるのだ、という立 場にわたし は今いる 。
十年の模索の経過 は、一つと してこ のように情報の現在の
明確化を迫 った。同時に﹁もう一つの政治性﹂によらない表
現 論 を 要 求 し た 。 以 降 の各 章 の 多 くを 割 いて 、こ の 内容 を 開
陳す るこ とになるだろう。末尾にこ れら の方法の種 明かしを
こ こ で し て お いて 、 こ の ﹁ 未 知 座 小 劇 場 か ら の 報 告 ・2 0 0
6 ﹂を 閉 じ るこ と に し た い 。
未知座小 劇場は、言語学を援用し、その表現論を 仮設する
ことから出発した。それは十年前の情報論とともに あった、
も う 一 つ の 大き な 支 柱で あ っ た 。こ れ は き っと 奇 異 に聞え る
で あろう。 だが 、こ こで いいた いのは、 情 報と言語 学 の絡み
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理 ﹄ の 命 題 で あ っ た 。こ こ が 序 章 と い う こ と で 、こ のよ う な
す るこ とで 出発 し た ので あっ た 。
更 なる 物 言 いが 許 さ れ る と す る なら 、 未 知 座小 劇場 のこ れら
これらを 集団論に 暫定してみよう。﹁ラングという共同幻
の 命 題 へ の 論 証 接 近 は 、 それ は ﹁ 演 劇を 演 劇 的に 死 滅 さ せ る ﹂
想が 、 いか に 私 たち を 規 制して いる か 、 そして いか に 惰 性化
に は の 命 題 を 射 程 す るこ と に な る だ ろ う 。 つ いで 、 こ う な る
が 強 いも の で あるか 、と い う 記 号 の 世 界 の 恐 ろ し さ に ほ か な
と 定 式 化 は フッ サ ー ルを 突き ぬ け 、 ウ ィ ト ゲン シ ュ タ イ ン の
りません。 その本質は人為 的関係に過ぎ ないのに、 あたかも
﹃論理哲学 論考﹄にで あう。と はいううものの、そこは﹃力
自 然 物 の よ う に 存 在 して いて 変 革 不 可 能 な 物 神 性 を 呈 し て い
場 の 論 理 ﹄ の 遠 い 向 こ うで あ る 。 いか ん と も し が た く、 自 身
る ﹂ ︵ ﹃ ソ シュ ー ル を 読む ﹄ 丸 山 圭 三 郎 ︶ と い うこ とに な れ
の無能を思 い知ら さ れるだけで 、なんら の予断を許 されて は
ば 、こ こ で ﹁ラ ン グ ﹂を ﹁ 集団 ﹂として 読みかえて み れ ば 、
い な い 。 し か し 、 な おこ の 状 況 、 こ の 地 平 で 未 知 座 小 劇 場 が
パロールが 演技や 俳 優となり、 ある いは 集団を シニ フィアン
断 言 し う る の は 、 演 劇を し て も う 演 劇 に 返るこ と は な いで あ
とすれば﹁ 演技や 俳優﹂はシニ フィエと なる。する と演劇と
ろ う 、と い うこ とで あっ た 。
いうラ ンガ ー ジュ は 、 虚 構を 出 汁 に し た 可 能 性を 行 為 す る と
こ うして 、すで にこ のとき前 述し た﹁ 未知 座小 劇 場の集団
いう営為に はなりはしないか。
性を 解 体す るこ とが 、 同時 に 未 知 座小 劇 場 そのも の の論 理 的
ここまで 定式化して、誤解を 恐れずも ないが、さらに誤解
を 恐 れて 異 なる 定式 化を 試み れ ば 、ラ ン ガ ー ジュ = 表現 営為 、 解消を論証 ﹂し、立証したとす ることは 、遠い昔で あるとい
うこ とがで き る ので あった 。
ラ ン グ = 演 劇、 パロ ー ル = 舞台 、 演 技 = シ ー ニ ュ 、 俳優 = シ
ニ ファ イ ン 、 観 客 = シニ フィ エ とで き た ので あ っ た 。こ れら
の弁 証 法の 恣 意 的 な 全体が 、 未 知 座小 劇 場と いう変 数 に持 た 最 後 に 予 告 め くが 、こ の ﹁ 未 知 座 小 劇 場 か ら の 報 告 ・ 2 0
せた定数で あった。こ の物言いが何かを 指し示すこ とはない。 06 ﹂は、 大阪演劇情報センター出版から発刊予定の﹃力場
の論理﹄の ﹁序章﹂として 起稿した。﹃ 力場の論理 ﹄は、こ
一 つ の 仮 説 に 過 ぎ な いが 、 よ り 演 劇 と い う 関数 か ら 遠 ざ か る
の 十 年来 の 拙 文 、 書 き 下 ろ し 文 や 寄 稿文 に よ って 編 ま れ る 予
術で あった 。それはまた、可能 性を行為 することのリアリテ
定で あ る 。 それ は 予 断 し て い た だ け る と 思 う が 、 ﹁ 全 体 を 構
ィを 獲得す る 方法を 模索する道 程で あっ た。もち ろ んす べて
想し、それをそのよ うに提出し たいのだ﹂とする想念を、正
を ま と めて 投棄 せ ざ るを え な い 、 など と いう 試行 錯 誤 は 度々
で あ っ たが 、 演 劇を 一 切 演 劇か ら 語ら な いこ とで の 思 惟こ そ 、 当 に 迫 って 固め 取 る と い う ので は な く 、 軟 弱 に も 大 風 呂 敷 を
広 げ 掬 い 上 げよ う と いうも ので ある 。 そ のよ う に し て 説 明 責
演劇的課題を凌駕し うるという仮設で あ った。それはまた、
任として 位 置付けた ﹁未知座小 劇場から の報告﹂を 完結しよ
わ た し たち が 現 代 に お いて か か え る 思 想 的課 題 に 向 き 合 う 術
うというので あった 。
と も な っ た ので あっ た 。 い う ま で も な く こ れら は﹃ 力 場 の 論
﹁死 んだものはもう帰ってこない。
生 きて いる も のは 生き て いるこ と し か 語ら ない 。﹂
ので あろ うか。
︵
記︶
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② あ と が き と 解 題 2
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未知 座小 劇場が 揚 言し た﹁大 日本演劇 大系﹂は数 章ほど あ
る。だが 、なぜ第五章・﹃ 大阪物語
﹄と番外・
﹃独戯﹄と 序の章・﹃明月記﹄ の三本を 連続上演し なければ
なら な いの か ?
と 問 うこ とか ら 始め よ う 。
前回の﹃ 大阪物語﹄の公演で ﹁ 大日本演劇大系﹂は一つの
︷ ルビ エ ポッ ク ︸区 切り︷ ル ビ ︸を 迎 え たよ う な ので ある 。
自 身で エ ポ ッ ク な ど と い う と 面 映 いが 、 大 そ う なこ とで は な
く、こ の あ たりのこ とを 少しだ け﹁あと がき﹂をか りて 書い
/
つ いにこ こ まで 来 て わ たし は 、わ たし の 脅迫観念 に 少し ば
か り の 距 離 を 置 くこ とが で き る よ う に な っ た か も し れ な い 。
が 、 あら た な 悔 恨 か ら 逃 れ る こ と はで き な いで あろ う 。 そ れ
は﹁仮想し た︿無名 の死﹀は、 なにがど う推移しよ うと、厳
然 た る 事 実 と し て あ り つ づ け ﹂ る だ け だ か ら で は な い 。こ の
﹃力場の論 理﹄を 、 わたしが わ たし の無 力を 廃し、 せめて二
年前に 上梓 して いれ ば、こ の序 章 だけで も いいから 提示で き
て いれ ば 、 も う 一 つ の あら た な ︿ 無 名 の 死 ﹀ に 向 き 合 うこ と
は なか った ので は な いか 。 その よ う な、 何 かを 思 い 留 まら せ
る事ので き る力がこ の拙文に あるなどと いうので は ない。無
力でも いいから、彼 に差し出すことさえ ⋮⋮ 。今はもう差し
出すこ とさえで き な いので ある が 、差し 出すこ とさえで きて
いたならば 、そうして さえも、何もでき なかったか もしれな
い ので ある が 、 語 り か け る 回 路 は 、 無 駄 話 で も い い の だ 、 そ
れ は 成 立 し て い た か も し れ な い ので あ っ た 、 と 今 も 夢 想 す る 。
わたしは、前回の公演﹃大阪物語・︷ ルビ かが り︸鹿狩
︷ ルビ ︸︷ルビ みち ぞう︸道 三︷ ルビ ︸追悼公 演﹄の台
本あとがきで﹁彼とともに幻視して いたで あろう演 劇的課題
に対し 、幾 ばくか の 、今はまだ 定かで は ない仮説を 、提示で
き た ので は な いか と す る ﹂と 銘 記し た の で あ った 。 き っとこ
れ は 後 先が 逆で ある の だ 。こ の ﹃ 力 場 の 論 理 ﹄ こ そ ﹁ 未 知 座
小 劇場が 集 団を 標 榜 す るこ とを 停め ﹂ の 経緯を 言 語 化 し たも
のとして、まず提出 されなけれ ばならなかったのだ 。
こ うして つ いに、 苦渋 の悔恨 と なった 。
やはりも う、なんといおうと⋮⋮
だ けで ある 。 バ グ は 駆 逐 さ れ る こ とが 前 提で ある に も か か わ
ら ず 、 バ グ が な く な っ た と き 、 そ の プロ グラ ム は 持 命 を 終え
る 。 イ メー ジを 極 論 す れ ば 、完 成 と は 自 死 へ至る行 為 と なる
ので ある 。 で は 、 破 綻 と 未 成 熟 と 未完 成 が 目 指 さ れ る べき な
のか ?
き っと そうで は あるま い。
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︷ ルビ ち か ら ば ︸ 力 場︷ ル ビ ︸を 転 位 さ せ な け れ ば なら
ない。力場とは何か と問われると、それはわたしの演劇的な
造語で あるから、少々 厄介になるがそれは、演劇的磁場を う
ごめ く 身 体 の 棲 家 の こ とで ある 。煙に 巻 くよ うに な るこ とを
恐 れ る ので 、 と り あ え ず 、 舞台 のこ とで ある 、 と 言 い 放 って
お くこ と に し た い 。
磁 場を ど の よ う に 転 位 さ せ る のか ?こ の 仮 設 に よ って 、 大
日本演劇大系連続三 本立て 興業 は捻出さ れた。例え ば、﹁独
戯﹂は出演 者は一人で ある 。﹁明月記﹂は出演者は二人で あ
るが、相手を 自身と 思って いる 二人が居 る。つまり は二人と
いう一人 な ので ある 。﹁大阪物 語﹂は出 演者は二人 で あった 。
こ れら の 結 果、 関係 と いう 構造 を 求め ざ るをえ なか ったよ う
で ある 。構 造 と は相 対 的な 関係 性のこ と で は な い。 場と いう
シス テム と して の 全 体で ある 。 こ こ で の 構造 は 記号 を 孕む 。
さて 、や は り﹁迎え たよ うなので ある﹂ と いう予 期 せぬ事態
こ そ、前述 の﹁オ ー バー フロ ﹂ に 似る 。
こ のよ う にして 、 未知 座小 劇 場は力場 を 転位させ る ため に 、
大日本演 劇 大系 連続 三本立て 興 業を 行為 す るこ とと なった 。
最後に、 今年の二 月段階で、このテント公演の企 画意図を
161
)
(
て おき たい 。
バッ ファ ・オ ー バ ー フロ ー と いう 言 葉 が ある 。 車 などで オ
ー バ ー フロ ー と いえ ば 、 水や オ イ ル な ど が パ ー ツ か ら あふ れ
るこ とを い う 。プロ グラ ミン グ 言語 の概 念で は﹁ プ ロ グラ ム
が 確保 し た メモ リ サ イズを 越え て 文 字 列 が 入力 され ると領 域
が あふ れて オ ー バ ー フロ ー し ま い 、 予 期 し な い 動 作が 起 き
る ﹂こ と を いう の だ が 、 総じ て 正 常で な い 、 ある い は 計 算 ど
うりに いか なか った 状態を意味する。こ こで は﹁思 惑が 外れ
た 、 そ ん な こ と に な る は ず は な いが 、 そ う な る か ? ﹂ と い う
こ と に なる 。こ の 場 で は 、 少し だ け良 い 意 味 に 使 い た いの だ
が 、 それで も バッ フ ァ ・オ ー バ ー フロ ー が 現 象す れ ば 、 それ
はやはり不 良品で あ ったり、バグ︵
︶ で あ る の で 、 シス
テム の 命 取 り に な る 。何 ら か の 善 後 策 、 デ バッ グ ︵
︶
が必要となる。
多 分 、計 算 ど おり にオ ー バー フロ ー に なるこ と は な い 。し
か し 、 あら か じ め 完 成 さ れ た シ ス テ ム な ど な い の で あ る か ら 、
バグと いうオ ー バー フローが発 見されて 、修正され シス テム
は 強 固 に な って い く 。 プ ロ グ ラ ム が 枯 れ る ま で 、 バ グと プロ
グラ ム は 付 き 合 って い くこ と に なる 。面 白 いこ と に 、 バグが
発 見され な いよ うに なると 、 そ の プロ グラ ム は 枯れ たと言わ
れ る 。 同 時 に 枯 れ る と は 、 新 た な る 要 求 に そ の プ ロ グラ ム が
こ たえ き れ な い と い うこ と に な る 場 合が 多 い 。 少々 強 引 に ま
と め れ ば 、 大 規 模 な シス テムで あれば あ る ほ ど 、 そ れが 万 全
に 運 用 さ れ る た め の プロ グラ ム は 、 完 全 無 欠 で あら なけ れ ば
なら な い 。 し か し 、 残 念 なが ら 人 手が 絡 む 以 上 、 完 全無 欠 の
プロ グラ ム など な い ので あるか ら 、完 成 に向か って 隣接す る
た せ いも あ る が 、 再 演 は な い 。 再 演 よ り も 新 作を と い
う のが 当 時 の 流 れで あ っ た 。 端 的 に いえ ば 、 テ ン ト 公
演 の 場 合 、 そ の 全 体 の 作 業 量が 新 作で あ ろ う と 旧 作 で
あろうと な んらか わ りが な い、 と いうこ とが あった 。
● 所 謂 ﹃ 大 日 本 演 劇 大 系 ﹄ に つ い て 少々 ・ 草 稿
︱
さ ら に そこ に 、 未知 座小 劇 場 の テ ン ト 公 演 は 、 一 ヵ 所
企 画 書にか え て ︱●
で な く数 ヵ 所で や る と い う 、 移 行 の概 念 が つ いて 回 っ
て いた ので 、 その 全 体 性から 強 いら れ る 莫 大 な時 間 量
こ の冊 子 の 上演台 本 三 本 は 、 明 確 な意 図 に よ って 書
の中で は 、 吐 き捨て たも のより 、新たな る可能 性を 求
き 継が れ 、 連 作 さ れ たも ので は な い 。 そ れ ぞ れ の 状 況
め て 、 や は り 新 作を 抱え た い 、 と いう の が あ っ た の で
の なかで 上 梓 し たも ので ある 。 執 筆時 期 も 異 なる 。 わ
ある 。再 演 の イ メー ジを 想 起す るこ とす ら ありえ な か
たし の記憶 が 正しけ れば、各々 の初演は 、多 分﹃明 月
った、というのが実情で あった 。
記﹄が一九八五年以 降だったし 、つづいて﹃独戯﹄は
1 9 9 0 年 前 後 の 筈 だ 。 ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ は 昨 年で ある 。 ﹃ 明 月 記 ﹄ と ﹃ 独 戯 ﹄ は 小 屋 を 想 定 し た 台 本で あ っ
た ため に 、 その 再 演 の可 能 性が よ り あ っ た と い うこ と
不 確か な部 分は 上 演 記録 を 参 照 い た だ く し か な い 。
も あるが 、 事 情 は 少 々 違 う 。再 演 は 意 図 的で あ っ た 。
﹃ 明 月記﹄は、大阪・枚方市で 行われたイ ベントか
や は り ﹁ 大 日 本 演 劇 大系 ﹂ と い う冠 で あ る 。 ﹁ 大 日 本
ら 招 請 を う けて 実現 し た 。 本 番 まで 一 月 あまり し か な
演劇大系 ﹂というも のを想起し たのは﹃明月記﹄の 作
く 、 あ わ た だし く 初 日を 迎 え た 、 と 思 う 。 ﹃ 独 戯 ﹄ は 、
業と重なる 。
外部から 執 筆と演出 の依頼が あ って 公演 までこ ぎつ け
た 。 多 分 客 の入 り が 悪か っ た の だ ろ う 、 原 稿 料 等を 辞 ふ り 返って み ると、こ の時 期は 、テント 公 演 の現 状
と 可 能 性が 捉え 返さ れよ うと し 、新 た な る 可 能 性が 模
退し たわけで はないが 、うやむ や の中で もらえ なか っ
索 されて い た。詳細 は﹃ 未知 座 小 劇場か ら の 報告﹄ の
た ので あ っ た 。 現 在 も 受 け 取 っ て い な い 。こ の よ う に
﹁書かなけ ればなら なか った事 ﹂に譲るが 、要は、 未
記 憶 の 底を 掘り 起こ し なが ら 綴 り は じ め る と 、 少し ず
知 座小 劇場 の 新 た な る 展 開が さ ら なる イ メ ー ジで 切 り
つ何かが 頭を擡 げて き そうだが 、それら のこ とども は
開けなかっ たので ある。言葉を かえ れば 、テント公 演
別の機会に 譲ろう。
が ス ケ ジュ ー ル 化 し 、 そ のこ と に 力 量が 傾 注 さ れ る 。
﹃ 明 月記﹄ と﹃独戯﹄ はこ れま で 数 回の再 演を行 っ
持続しこ なされるこ とが問題と なる。わ たし の言葉で
て き た 。こ れ に くら べ、 未知 座 小 劇場で 上演し た 、 他
は﹁物語としてのテント﹂となる。状況 的には構造 主
の 舞台 の再 演 は 、 そ の多 くが テ ント 公演 のも ので あ っ
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説 明 し た メ モ 書 き を 転 載 し て 、 こ の ﹁ あ と が き ﹂ を 終え よ う 。
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﹃大阪物語﹄の公演は二〇〇五年十一 、十二月に 、大阪府
八尾の未知 座小劇場で行われた。未知座小劇場の公演として
は 、 数 年ぶ り と な っ た 。 ま た 同 小 屋で の 興 業 は 十数 年ぶ り で
あった。
﹃大阪物語﹄の公演企画書は二〇〇四年十一月、打上花火
と 曼珠沙華 から 提出 され、 同 年 十二 月に 採 決され た が 、 提出
された企画 書に﹃大 阪物語﹄後 の公演を ﹁テント 公 演を射程
することで の今回の﹃大阪物語﹄公演﹂という企画意図が 盛
り 込 ま れ た 。こ こ に は 、 ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ は 単発で す る 公 演 で は
な く、持 続 す る 意 志 を 展 開す る と いう 思 いが 反 映 さ れ たこ と
に よ るが 、 十数 年の イ ン ター バ ル の 内容 が そのよ う に ﹃ 大 阪
物 語 ﹄ を 規 定し た と い って い い 。 換 言 す れ ば 、 十数 年の イ ン
タ ー バ ル が 明ら か に 演 劇 営 為 に よ って 支 え ら れ て き たこ とを
物 語 って い る 。
こ のよ う にして 今 回の﹃ 大阪 物語
﹄ は出発し
て あ っ た 。 そうして の テント 公 演で ある 。こ の解 題 の 場で テ
ント 公 演 に つ いて 語 る 言 葉 を 多 く持 た な いが 、端 的 に 言 って
し まえ ば 、 す べて が 論 理 化 さ れ て テ ン ト 公 演 が 行 為 さ れ る の
で は な い、 と いうこ とで ある 。 こ の 他 の こ と ど も は 後述 の
﹃ 未知 座小 劇場 か ら の 報告 ﹄ に 譲るが 、 こ の 解 題 を 綴 って い
る 段階で も うま く 報 告で き る か ど う か 心 も と な いと いう のが 、
163
[
解題1・大阪物語
)
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義 か ら ポ ス ト 構 造 主 義 の なが れ と 重 な る 。こ れ ら の こ
と が あ い ま って 、 舞 台 は ﹁ メ タ 演 劇 ﹂ の 様 相 を 呈 し た 。
それは意図 されたこ とだが、劇中の台詞 としては﹁も
う返るべきロマンは ない﹂となった。
演 技 論 的に 綴れ ば 、行 為 す るこ と のリ アリ ティ 、 作
業するこ と の納得さ 加 減をどのように 集 団化しうる の
か と い うこ とで あっ た 。何が 目 指 さ れて お り 、 ど の よ
うに行為 さ れねばなら ないのか というこ とを語る言 葉
が 獲得され ねば なら なか った 。 それが 一 つ のド ク サ
︵ イ デオ ロ ギ ー ︶で あ って も い い の だが 、 真 摯 な行 為
に耐え うるドクサで なければなら なか っ たので ある 。
こ れら の問 題を とらえ 返す ため に、現 状の 再 検証が
目指された。具体的な作業として、演劇といわれるも
のを解 体し て 、一か ら組み立て てみよ う と いうわけで
ある 。もち ろん演劇 そのも のを 疑うため にで ある 。 抽
象的な作業ではなく、最もリアリティのない物語を行
くて に 仮 設 して み る 。こ のよ う に して 、 関係 、 身 体 、
言語等の検証が﹁大日本演劇大系﹂のそれぞれの、一
つの章として企まれた。
そ の 途 上で ある 現 在 、 テ ント 公 演 と な っ た 。こ の 作
業を ﹁大日 本演劇大系﹂を絡め て 語るに は別稿が いる。
ただ、こ の 地点で 言え るこ とは 、こ の冊 子 の上演台 本
三 本で 、こ れ ま で の 作業 を あら か た 全 体 と し て 指し 示
すこ とがで き る と い うこ とで あ る 。
こ の意味で 冊子 の三本で あり 、 ﹁ 大日本演 劇大系 ﹂
三本立て 興 業で ある 。
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記
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て 改めて 読 み 返して み た。こ ん な機会が ないとなか なかで き
現 状で ある 。
な い 作 業で 、 記 憶 の 遥 か 彼 方 に あ っ たも のが 、 突 然 突き つ け
さて 、今 回の﹃ 大 阪物語
﹄ の 出 演 者 はオ ー デ
られたりもした。肩のはり具合といったらいいのか 、大言壮
ィ ショ ン に よ って 決 定し た 。前 回 の﹃ 大 阪物 語 ﹄で は 、オ ー
語 と い っ た ら い い の か 、 そ ん な も のが 特 に 目 に 付 く 。 だが 、
ディ ション による出 演 者と いうこ とを 前 提に台 本を 用 意し 、
こ れ はこ れ で ある 。 ま た 、 表 現 が 稚 拙で あ っ たとし て も 、 打
舞台を用意 する 勇気 は、残念で あるが持ち 得なか っ た。だか
ち 消 す わ け に は いか な い 。こ こ か ら 出発 し た の は 、 間違 い な
ら と い う 結 果だ け で は な いが 、 出 演 者 を 二 人 に し て ﹃ 大 阪 物
いので ある から⋮⋮
語 ﹄ を 用 意 し た 。 今 回 は オ ー デ ィ シ ョ ン に よ って 出 演 者 を 決
定し 、 舞台 を 目 指し た 。オ ー デ ィ ション と いう シス テム に 対 思 いや 、 イ デオ ロ ギ ー 的 な面 を 修 正せ ざ るを 得 な いとこ ろ
は ある が 、 決意 と い う 事で いえ ば 、 そ ん な 具 合で あ っ た の だ
して 諸論が あるで あろうが 、こ こ への行 為 は、常に 二人だけ
ろ う 。 つ ま り 、 そ う ず れて は い な い 。
の出演 者で 舞台を 目 指す と いうこ と は、 なか なか あ り 得な い
だ ろ う と い う こ と で あ る 。ひ と え に 未 知 座 小 劇 場 は 未 知 座 小 こ こ が 解 題 と い う こ と で 、 資 料 を 転 載 す る こ と に し た 。 黙
殺す る と い う 習慣が わ たし に あ れ ば 、 そ れ は それで うれしか
劇場だけで は あり得 な い、と言 い切って も 仕 方が な いが 、 未
ったので あるが 。
知 座小 劇場 の 方 法で あるか ど う か は 、 今 後 の 展 開が 、 それを
確 定 し て い くこ と に な る だ ろ う と 、ひ と ま ず 言 って お くこ と ﹁ ﹃ 明 月 記 ﹄ と ﹃ 番 外 ・ 独 戯 ﹄ に つ い て ﹂ は 大 阪 ・ 八 尾 の
シルキ ー ホ ー ル 上演 台 本に 寄 せ た文で あ る 。﹃ 明 月 記﹄ と
にしたい。
︵
記︶
﹃番外・独戯﹄を ﹁喰いあわせ公演・大日本演劇大系﹂と 銘
打 って おこ な っ た 。
﹁物語論 あら 書き ﹂ は ﹃ 番 外 ・ 独 戯 ﹄ 初 演 の 際 の 、 台 本
あとが き に 寄せたも ので ある 、 と 日付か ら推 察して いる 。
[
解題2・独戯
︵
記︶
今 回 の 独 戯 は 、 劇 団 ど く ん ご の 時 折 旬 氏を 御 名 指 し て の 上
演で ある 。
●﹁明月記・独戯 喰いあわせ公演・大日本演劇大系 ﹂
﹃ 大 日 本 演 劇 大系 番 外 ・ 独 戯 ﹄ の 初 演 は 一 九 八 八 年で あ
る。その後、二、三回の上演が ある 。未知座小劇場 以外の上
版後記●
演 は あ っ た や に 聞 き 及 んで い る が 、 手 元 に 資 料が な い 。
﹃ ﹁ 明 月 記 ﹂ と ﹁ 番 外 ・ 独 戯 ﹂ に つ いて ﹄
こ の﹃ 番 外・独戯 ﹄を 改 作と 、こ の冊 子 に 収め る に あた っ
]
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●初版後記●
﹃ 物語論あら 書き﹄
165
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点が 、 大日 本演 劇大 系 の出発で す 。
演 技 論 の違 いと い って 済 ま さ れ な い問 題 が 孕ま れて
い る の で す が 、 と り あえ ず こ こ で は 、 関 係 の せ り 上 が
る 瞬 間 に 、 演 劇 は 成 立 し 、 演 技 は 行 使 さ れ た ので あ る
と、それは芝居の現 場で あったのだ、としたいわけで
す。
多 くを 語ら ず さき に い き ます 。
一 人 演 劇は 、 百 歩 譲って ある と して い い。 だが 、一
人 芝 居 は な い 。こ れ は 、 言 葉 の 問 題 で は な い 。
一 人 演 劇で も な く一 人 芝 居で も な いも のと して 独 戯
を 設 定し ま し た 。 し たが って ﹃ 独 戯 ﹄ は ﹃ 明 月 記 ﹄ の
反 措 定で す ,
相 互が 存在 を 問 うも の と して あ り ます 。こ の 摸索を
とおして 第一章が発 見されるも のと考え ます。
以 上が 、 大 日 本 演 劇 大 系 の 三 年 間 と いえ ま す 。
八尾公演で なんらかの 結論がで るものと期待して い
るところで す。
さ て 、こ の 大日 本 演 劇 大 系 と 、 テ ン ト の 関 係 は 大 日
本演劇大系 の大きな課題です。今後大日本演劇大系 の
な か で 展 開 し て いけ れ ば さ い わ いで す 。
︵文責・河野明
記
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大 日本演 劇 大系 は 、 以 降 第一章 ・二 章 と 続 いて いて
い く も ので す 。 そ の プラ ン は い って し ま え ば ﹁ 演 劇 が
演 劇 的に死 滅す る 瞬 間 ﹂ まで 摸 索 して み よ う と す る も
ので す 。
こ れは ﹁ 自 然が 自然 的 に消 滅 ﹂ す るこ とが な いよ う
に 、 ま た ﹁ 演 劇が 演 劇 的 に 死 滅 す る 瞬 間 ﹂も な いと 考
え ま す 。し か し ﹁ 演 劇が 演 劇 的 に 死 滅す る 瞬 間 ﹂を か
りに﹁観客が観客に 向き会う瞬間﹂という極めて 共産
主 義 的 な 瞬 間を 幻 視 す るこ とで 、演 劇 の 本 質を 明ら か
にしてみよ うという 試みです 。
﹁ 自 同 律の 不 快 ﹂が あ る ので あ れ ば 、 自 同 律の愉快
も ま た あ る ので あろ うと 考 え て み る わ け で す 。 き っ と
﹁わたしは ﹂とつぶやき﹁わたしで ある ﹂と述語す る
時 間 は 、人 間に 莫 大 な想 像 力 と 、 宇 宙史 に 匹 敵す る 時
間を 押 し 付 ける ので す から 、も ち ろ ん そ のとき 、人 間
のこ とを 人 間と 呼ぶ のか ど うか は 定かで は ありま せ ん
が 、こ の 大 日本演 劇 大系 の 第一 章 ・二 章 ⋮ ⋮ 終章 は 十
年 な いし 二 十 年 の 幅 で 摸 索 せ ざ る を 得 な いで あ ろ う こ
とは、十分に予測しているものです。
さ て ﹃ 序 の 章 ﹄ は 、 最 低 の と こ ろ か ら 始 め よ う 。こ
れ 以 上 退 け ば 演 劇で な く な る と こ ろ か ら 始 め よ う 、 と
し たも ので し た 。
か のピーター・ブルッ クは、一人の人と、 それを観
るも のが い れ ば それ は 演 劇で あ る と し た ので す が 、 残
念 なが ら 、 こ れ は 明 ら か な まち が いで す 。二 人 の人 と 、
それを 観 る も のが い れ ば 、 それ は 演 劇で ある 。こ の 視
は 物 化 して いる ので あろ う 。 敵 が 見え な い など と い う
こ とで は な い。 敵 な ど ど うで も い い ので ある 。 そ の よ
うにして 錯 乱を 装 って いるので ある。前 後するが 、こ
の物化のほ どに観客 は第三者を 装うので ある。
物語は今、自分探し、イメージ、構造、天皇制、奪
われた時 間 、 近未来 と その姿を 換えて き たも のの、 瀕
死 の 宙ぶ ら り ん な の で ある 。
幾多うまれてきた物語は、より多くその歴史を紐と
けば、民衆が求めて きたといってもいい。物語を活性
化してきた のは民衆 の力で あっ た。その力が 、人前で
な に か を や って み せ る と い う 行 為 を 、 第 三 者 と し て で
は な く 支え て き た 。 こ の エ ネ ル キ ー が 結 実 し よ う と す
る場が、芝 居で あった。
こ のあたり の展開は﹁ 十五・物語論﹂に置換すると
して 、さて 登 場人物 は一人 なので ある 。
ひ と の前で 何かをして み せる必 要 十分条件 を 二人 の
俳優関係と し たとき 、こ の文の 脈絡を踏 まえて 綴れ ば 、
それはすべてを相対 化する物語 の捏造で あった。物 語
を 生きて 見 せよ うと いうこ とで あ っ た 。 二 人 の 俳優 の
﹃ 明 月 記 ﹄ に そ って いえ ば 、 関 係 を 生 き て み せよ う と
いうこ とで あった。
さ て 、 登 場 人 物 は 一 人 な ので あ る 。多 言 を 要 し ま い 。
そこ に う ご め く の は 物 語 な ので ある 。 瀕 死 の 、 宙ぶ ら
り ん の⋮ ⋮ 。 あえ て いえ ば 、こ の ﹃ 独 戯 ﹄ は 物 語 論 と
して 成立さ せよ うと し た。老婆 心 ながら 、瀕死の、 宙
ぶ ら り ん の 物 語 は 、 支配 構 造 と い う 権 力 関係を 補完 す
166
こ の﹃ 大日 本演 劇大系 ・番外﹄ は前 作﹃ 大 日本演 劇
大系
序の章・明月記﹄との関係において語るしか な
い、と いう とこ ろに わたしは ある 。
﹃ 番外 ﹄ と の 関係で ﹃ 明 月 記 ﹄ を 概 略 す れ ば 、 それ
は一人の女を二人の 女 優が 舞台 で力場す るというこ と
で あった 。 演技 の 本 質を 関係 性 の問 題 以 外に は な い と
して 展開し たので あ った。演技 という交 通の可能性を
関係 論とし て 閉じ 込 めて よしと し たので ある 。極 論 す
れ ば 、 人 の まえ で 何 か を 見 せ つ け る 地平 に お いて 、 演
技 の 成 立 は 関係 と し て し か 登 場 し な い の で ある 。
一 人 で 何 事 か を 、 見 せ つ け る こ と に お いて は 、 演 技
はついに登 場しないで あろう。つまり観 客は、ついに
第三者で あることを やめてはいない。
な ぜか 。物 語が 死 滅し て いるか ら に ほか な ら な い。
生 活か ら 物 語 は 駆 逐 さ れて い る と 言 い 換 え て も い い 。
こ の場 の 脈 絡 で 綴れ ば 、 関係 の 可 能 性 の 展 開は 幾 分
か は 物 語 へ の 距離感 の 確 定と い うこ とも で き る 。
さて、物語りは常に、時の権力 の用いる支配構造と
いう権力 関係を その中心ファク ターとしてきたが、現
代という様 式において は、物語 はロマン という様相を
帯 な い ほ ど に 物 化 し て い る と い って い い 。 つ ま り 、 支
配 構造 と い う 権力 関 係 が 、か つ て の 支 配 構造と いう 権
力 関係 の 全 体 性を 脱 皮 し 、新 た なる 支配 構造 と いう 権
力 関係 を 捏 造 す る こ と に よ って 高 次 化 し た 距 離 、 そ の
距離は 逆 説 で も な く 、 関係を な し くず し にす る 無 関 係
化という支 配構造と いう権力関係の定着 さほどに物 語
]
[
解題3・明月記
﹃明月記﹄について 銘記す ることはあまりない。
初 演 は 1 9 8 7 年 三 月で あ る 。 機 会 を 得 る ご と に 各 地で 上
演 を 行 って き た 。 こ の 航 程 の 途 上 で ﹃ 明 月 記 ﹄ の 最 終 公 演 は
テ ン ト で 打 ち 上 げ る 、 と イ メ ー ジ す る よ う に な って い っ た 。
﹃ 明 月 記 ﹄ で 仮 設 し た 作 業 が 、 果て し な く 、 終 わ り な き 道 標
を 模索す る よ う なも ので あった が ゆえ 、 そのよ うに 思 い切る
必要が あったのかも しれない。
ついに﹃明月記﹄ は最終公演を迎え る 。
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る 上部 構造 と して の ロ マ ン と い う物 語を 、観 客が 拒 否 さて さて 、 そのよ うに なるか どうか 、 テント 公演 を 前にし
て の予断は 闇の中で ある 。
し 、 正し く 物 語 の 死 に 水を と ろ う と し た 結 果で ある と
は位置付けてはいな い。単純に 綴れば、もろ刃の剣 と
して ある物 語が 片刃 になり、他 の刃も 、 刃で ある必 要
が な く な っ た な に が な に か わ か ら へ ん 、 と いえ ば い い
のだろうか 。飛躍す る気はまったくないが、それは 天
皇 制 の 今 日 的 状 況 と 添 い 寝 し て き た ので あ っ た 。
つ いに ﹃ 独 戯 ﹄で はこ のよ う な 物 語が の た うつ ので
あるが 、さて 、 役者 たら んとす る 身体は いか に 蘇生 し 、
自 己権力と して の 身 体たるか は 、や はり 演技にかか わ
って いる ので ある 。
や は り 最 後 に ﹁す べて を 演技 諭 で 突 破 せよ !﹂と 。
記
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Ⅴ 資料・演技について
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⑤ 上演履歴 ① ② ③ ④ ・・
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演技について
第 回﹃大阪物語﹄上演台本あとがき 無観客試合と演劇 ﹃大阪物語﹄とカンディンスキーの三日 オーディション募集要項 38
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183
187
① ﹃大阪物語﹄上演 台本あとがき
久し ぶ り に 台 本 の こ のス ペー ス に 文 字 を 置 くこ と に な る 。
心情として は、久しぶりという 感じはま ったくない 。何かが
持 続して い る か 、 そ う 装 うか 、 事 実は ま っ た く違 う のか 、 今
のとこ ろ 定 かで は な い 。 さし 迫 ら れて す る 整 理 に ゆ だ ね るこ
とにしたい。
さて 、ご 多 分にも れす 、こ の台 本は パソコ ンのエ ディ タで
起こ し た 。
ワ ー プ ロ ソ フト を 使 わ な く な って 久し いが 、 縦 書 き ので き
/
あとが き を 借りて 、二 三報告 して おき たい。
今回の企 画﹃大阪物語﹄は、来年︵2 006年︶ のテント
公演を明確に射程し た一環として 位置付けられて いる。あり
て いに いえ ば 、 こ の 展 開 の 中 で 、 テ ン ト 公 演 の 展 望 が 理 論 的
にも 人 的、 経済 的に も 出 せる の か ど うか と いうこ と で ある 。
こ の経緯で の﹃ 大阪 物語﹄で あ る 。
また、こ の公演は﹃︷ルビ かがり︸鹿 狩︷ ルビ ︸︷ ルビ
みち ぞう ︸ 道 三︷ ル ビ ︸ 追 悼 公 演 ﹄ と 銘 打 って い る 。
鹿狩道三は新潟の演劇人で あった。わ れわれ未知 座小劇場
の テ ン ト 公 演 に 数 回 の 出 演 が あ た 。 無 理 を い って 迷 惑を か け
たり、楽し く遊んだ 。享年四十三歳、若 くして逝っ た。昨 年
のこ とで あ った。
ここに居 るわたし は﹃大阪物 語﹄を 書 くというこ とが、ど
う 追 悼 た り うる の か 、と い う 枷 を は め る こ と と な っ た 。こ れ
は 、 彼 と と も に わ れ わ れ が 抱え て いたで あ ろ う 演 劇 的課 題 を 、
歩一歩進め るこ とに なるのだが 、彼が 独 自に、その 現場で 抱
えて いたで あろう演 劇的課題を 、となる と それには 自信が な
い 。 た だ わ れわ れ が 、彼 と と も に 幻 視 し て いたで あ ろ う 演 劇
的課題 に 対 し 、 幾 ば くか の 、 今 は ま だ 定 か で は な い 仮 説を 、
提 示で き た ので は な いか と す る 。 そ の よ う な 少し ば か り の 自
負 を 、 や が て 打ち 砕 か れ る こ と も ある だ ろ う が 、こ の文 章 を
読 んで い た だ いて い る あ な た と 、 いま は 亡き 鹿 狩 道 三 に 、 静
かに差し 出 そうと思 う。
私 事 に な る が 、 こ れ は べ つ に 奇を て ら って のこ と で は な く 、
ペン ネ ーム を ﹁ 闇黒 光 ﹂ 、 演 出 名を ﹁河 野明 ﹂と し た 。こ の
171
/
るエディタになかなか出会えず 、Mac のエディタからWi
n d o w s の ﹁ 秀 丸 ﹂ 等々 渡 り 歩 き 、 今 回 は シェ ア ー ウ エ ア
の ﹁ Q X ﹂ で 仕 上 げ た 。 縦 書き ので き る エ デ ィ タ は いく つ か
あ っ たが 、 こ の ﹁Q X﹂が 馴染 んだと い うこ と に な っ た 。ま
た、目論見としては、音声入力で台本を 仕上げる、というの
も 掲 げ た の だが 、こ れ は 環境 設 定が ま ま なら ず 中 途 で 挫 折 の
憂き目をみてしまた。
こ れら は さて おき 、台 本 執 筆 に ワ ー プ ロソ フト や エ ディ タ
を 利 用 す る よ う に な って 困 り つ づ け たこ と は 、 編 集 履 歴が 思
うよ うに残 せないこ とで あった 。こ まめ に別版で バック アッ
プを 行え ば い い ので あるが 、や は り つ い つ い、保 存 は 上 書き
保存となり、細部の編集履歴は残りにくい。つまりは、意思
や 、 試行 の 経緯が み え な いので ある 。こ れを 何 とか し た いと
いうことも 、今回の目論見で あ った。
試行錯誤 の結果、 Linuxで CVS ︵ バージョ ン管理シ
ス テム ︶ サ ー バを た て 、W i n do w s か ら CV S クラ イ ア
ント アプリ ケーショ ン・Win CVSで 話をすると いう、台
本 の ため の CV S 環 境 構 築を お こ な っ た 。こ れ は 見 事 に 成 果
を み た 。台 本の各版 は二 百数 十 ほ ど 版 を 重 ね 、こ れ ら のす べ
て の変更 編 集比 較を 可能 とし た 。
細部の報告はここでは割愛す るが、大阪演劇情報センター
で は 、こ れ ら の シス テム サ ー バ 環境 を 、 演 劇 関係 者 に 無 料で
利用して いただけるようにした 。機会が あり、希望で あれば
試 し て い た だ くこ と は 可 能 で す 。 ま た 、 今 回 の わ た し の 台 本
書きを シュ ミレ ー シ ョ ン と す る なら 、 本 格 利 用 の 準 備 は 整 っ
たこ とに な る 。詳細 はご 連絡 く だ さ い。
﹃演技について﹄
大 日 本 演 劇 大 系 ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ に そ って
演 技 に つ いて 想 うと き 未知 座小 劇場で は 、 物 語 に つ
いて 考え る こ と 、 そ れは行為す るこ と の リ アリ ティ ー
へと 通じ る 錯誤に 思 いを は せる こ と に な る 、と いう 縛
り の 中 に あ る が 、こ れら の 仮 説 はや は り 架設で ある の
で 、こ こ ﹃ 大阪 物 語 ﹄で は 次 の よ う に 命 題 化 す る こ と
にした。
無 駄 は 演 劇 営為 たり う るか ?
言 うま で も な く 、こ こ に は ﹁ 無 駄 なこ と を し て も 意
味が ない﹂や 、また ﹁他にやることが あるで はないか﹂
と い っ た 思 いが 隠 さ れて いる 。 こ れを 近 代 主義 的 な 発
想として 切り捨てることは容易 いが、文 化云々はさて
おき﹁演劇とは大い なる無駄で ある﹂と いうことはふ
まえ るしか ないで あ ろう。
で 、 試行 さ れる のは標 準語 の﹁ 関西 語 ﹂化 と 、国歌
の﹁レッツ ・イッツビー﹂と﹁ 六甲おろし﹂の選択 決
定で ある 。
こ うして﹃ 大阪物語﹄ の幕はあがる。
こ の文 に 立 ち 入 る と 、 迷 路 に は ま る ので 、 違 う ﹁ 大
日 本 演 劇 大 系 ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ に そ って ﹂ を メ モ 風 に 書 き
留めることで補足としたい。
わ たし はこ れ まで の 自 身 の台 本 を 、 大鉈を 振 る って
その世界を み ると、 ベケット の ﹃ゴド ー を待ち なが ら ﹄
のウラ ジミールとエストラゴン の世界に 視線を 置いた
よ う に 思 う 、と し よ う 。で 、 今 回 の ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ で 初
め て 、 つ い に 現 れ な か っ た 、 ゴ ド ー の側 に 視 点を 置 い
たように思われる、としよう。
こ の文を 綴 り ながら の 、一 般化 の誘 惑を 受 け 入れて
172
事態はすすでに﹁闇黒光﹂が成立した初期の意志に 戻ったに
過 ぎ な い 。 それ は ﹁ 闇黒 光 ﹂が 個人 の ペ ン ネ ームで は な く、
台 本 執 筆者 の表 象で あ っ た 、と いう のが 経緯で ある 。 たま た
ま 他 の 方が 、 使 う 機 会が なか っ た 、 と い うこ と に な って し ま
っ た ので あ っ た 。 思 え ば 、こ の 表 象が 想 起 さ れ た の は 三 十数
年前、埴 谷 雄 高の﹃ 闇のなか の 黒 い馬﹄ が 出版 され 、 近くの
踏み切りで 女子大生の投身自殺があった、その日のクラブハ
ウ ス の 情 景 は 、 今で も 記 憶 の な か で 明 瞭 で ある 。
余談は幾多 あるが 、要は演出 の責 任性をこれまで と違った
形で 、明瞭 化して み ると いうこ とで ある 。今後はこ れで いく
ことにしました。
最 後に 、 台 本 の 原 稿用 紙 の 升 目を 埋め て いる 最中 に 、左 記
の 引 用 文 を 、 関 係 者 に 送 る 事 態 に な っ た 。 よ り よ く 書 いて 送
ることが 出 来なか っ た。制限字数が 百二 十字なのに 千二百字
と思い込んで書き始め、極端に縮小したりもした。この﹁あ
とが き ﹂を か り 、め め し くも 今 と な って 修 正し よ う と いう わ
けで ある 。 左が その 提出し た文 の引用で ある 。正確には百二
十字と千二 百字の中 間に位置し たも ので ある。
173
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こ れら の い ず れ に も 興 味が 尽 き な い 。が 、 最 悪 は ④
に﹁ウラ ジミールと エストラゴ ン﹂がゴドーさんと 思
って いな い ゴド ー さ ん、と いう 究極を 、 置 く場 合で あ
る 。 ③まで に 止めて おく のが 幸 せで ある 。仮に ④を メ
ビウスの輪だ、ゲーデルの不完 全性定理だといい始め
ると 、も う 収 集が つ か な いので いや に な る 。 いや に な
る が 、 興 味 が 尽 き な いので こ れ ま た いや に な る 。
﹃ 大阪物 語 ﹄で は ゴド ー は 大阪 の おばちゃ んと な っ
た 。 十 年前 なら 、ま った く違 っ た 大阪 の おばちゃ ん に
な って い た だ ろ う 。 いや 、 大 阪 の お ばち ゃ んで は な か
っ た 、と い う のが 正 確だ ろ う 。
も ち ろ ん 、 こ のよ う に 設 定して 台 本 の 執 筆 を し た わ
けで は な い 。 最 後 の ﹁ 幕 ﹂ と い う 字を 置 い た時 点で の
で 、こ の 思 いの ブ レを なんと かす る た め に 、 以下 の 自 身の
文章を 、 資 料として 記載す るこ とで 、こ こで いう重 ねて の補
足で ある﹁ あとが き ﹂を 閉じ た い。
なお、こ の拙文も 同じ く、台 本 執筆中 のも ので あ った。
最 後 に 、 筆を 置 く まえ に 、 少 々 、 自 嘲 の感 を 免 れ 得 な いと
黙 視して き た ﹁コ ン ポ ジ ショ ン ﹂ に つ いて 若 干 。 も ち ろ ん
抽象絵画の 祖といわ れるカンジンスキー のコンポジ ションか
ら の 引 用 で ある 。 引 用 と いえ ば 実に おこ が ま し い 。 カ ン ジ ン
まで 書きつが
スキーのコ ンポジションという 作品は、
れ た と す る なら 、 そ の 、 が ﹃ 大 阪 物 語 ﹄で あると す る 、 ほ
と んど 身 の ほ ど 知 る ため の 、 さ さやか な 決意で ある 。それは
また﹁大日本演劇大系﹂として のマニフェストである。﹃大
阪物語﹄をカンジンスキー論として展開できる日の来ること
を、祈りつ つ⋮⋮
記
16
①行 くに いけなか っ たゴド ー さん
②行 く気 のなか った ゴド ーさ ん
③ 自 分を ゴド ー さ ん と 思 って い な い ゴ ド ー さ ん
事で ある 。 明 日に な れ ば 、き っ と 様子も 変 わ る と い う
とこ ろで の 話 しで あ る 。そのよ うなこ と なので 、こ こ
で いう﹁ 大 鉈 ﹂を ﹁ いいか げ ん ﹂として いただ くと 幸
いこ の うえ な い 。
16
し ま うが 、 つ ま り ベ ケット の﹃ ゴド ーを 待ち ながら ﹄
の﹁ゴドー ﹂を観念 とすると、 それは﹁ 希望﹂で あ っ
たりまた﹁情報﹂等々で あったりする。これは、作品
論として、まあ置いて おきたい。だが、﹃ゴドーを 待
ち ながら ﹄ を マンガ ¦¦とり あえ ず ﹁マ ンガ ﹂と言 っ
て おきます ¦¦とし て 読むと﹁ ゴド ーさ ん事故に あ っ
て 間に 合わ なか っ た んだ ﹂ 等々 と なる 。 こ れを 類 型 化
すると、
174
② 無 観 客 試 合 と 演 劇 /
/
1
﹁︷ルビ しあい︸観客試合︷ ルビ︸﹂と﹁︷ル
ビ むしあ い︸無観客 試合︷ ルビ︸﹂
演 劇 公 演 の 舞台 を 、 テレ ビ 録 画 などで 観るこ と が ある 。多
くは﹃劇場 への招待 ﹄とか いっ た番組 な のだが 、そこで は舞
台 を 観 る と いう 感 覚 を 捨て 去 る こ と を 思 う 。こ れら の 番 組 の
多 く は 、当 然 のこ と で は あるが 、 ある 企 画 と 意 図 に よ って 、
分を 自 身に 課 し たの か ?
処分を断行す ることがそうなのか 。
ま あ 、 い って し ま え ば 、こ れ ら のこ と は ど うで も い いこ と
だ 。わ たし が 引 っか か っ たこ と は 、 無 観 客 試 合と い う言 葉 の
形 容 矛 盾だ 。こ の言 葉 の成 立す る 前 提は 、 試 合と い う概 念 に 、
観客が 含ま れて いる からにほか なら ない 。それは﹁ 観客試合 ﹂
と いう言葉 が ないほ どにで ある 。にもか かわらず、 無観客と
いう形 態で 、 試 合を 形 容す る 。 つ ま り 試 合で な いも のを 試 合
と い って し ま う 、 自 己矛 盾が こ の 形 容 矛 盾 の 本 質だ 。語 の 正
意から 行 け ば 、 無 観 客 試 合と い う言 葉 は 成 立し な い ので あり 、
仮 に そ の よ う な 形 態 が あ っ た と し て も 、 す で に そ れ は 試 合で
はない、と いうことで ある。多 分、試合という言葉 か、観客
と いう言 葉 が 曖 昧で ある のか 、 概 念 その も のを ずら さざ るを
得ない状況にわれわれはいるのだろう。
2
観客と試合と
さて お断 りし た いが 、わ たし はここで 観客論を 開 陳しよ う
として いる ので は な い。観客と いう言葉を整理しよ うとして
い る に 過 ぎ な い 。 し たが って 、 次 の よ う に ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂ を
整理したとしても、ここで綴ろうとすることは残る 。
国際サッ カー連盟 ︵FIFA︶の規律 委員会の決 定は、再
び の事態を 避 けるこ とで あり 、 それは 日 本人 選手と 日本から
訪れるで あろう観客らへの安全性の配慮、つまりはW杯アジ
ア 予 選で の 不 慮 の 事 故に 対 す る 配 慮 等 な の だ ろ うが 、 結 果 、
こ れを なぜ ﹁無観客 試合﹂と表 現するのか、ということにな
175
任 意 の 部 分 が 選 択 さ れ 、 切 り 取 ら れ て 、 編 集 さ れ た も ので あ
る 。こ の 無 観 客 試 合 は 、 それ は それで あ る 。
今ひ と つ の 無 観 客 試 合 を 、 テ レ ビ で 観 戦 。 タ イ で 行 わ れ た
W 杯 ア ジ ア 予 選 、 日 本 × 北 朝 鮮 戦 の テレ ビ 中 継 な の だ が 、こ
のわたしの観戦という位置は、国際サッカー連盟︵ FIFA︶
によるのだ ろけども 、無観客試 合なので 、いくら テレビで 観
戦 し て いて も 、 や は り わ た し は 観 客 で は な いこ と に な る 。こ
の事態からすると、観客とは試合会場に いる観衆のことにな
る 。語 の 意 味を 予 断 す る と 、 試 合を 衆 目 に さら さ な いこ とが 、
無観客試合と思われるが、背に腹は変え られず、あるいは、
中 継 契 約 を 解 約 で き なか っ た の か も 知 れ な い 。 北 朝 鮮で の 試
合 チケット を 予約し て いた人 たち は、キ ャ ンセ ルの 憂き目を
見たのか 。 とも あれ 、 テレ ビ の 前で 、ラ イ ブ中 継が フレ ーム
で 切り取ら れた全体で あったと しても、 わたしは観 衆で あっ
た。
わ た し は 、 と い い ながら も こ の事 態 の 経 緯 を 、 何 も わ か っ
て いな い 。 そし て 知 ら な い 。 第 三 国で 行 う の は 、 ホ ー ム で や
るはずだった、北朝 鮮への制裁 なのか。同時に、試合終了後
の 選 手 たち が 危 害 が 加え ら れ る か も し れ な い 事 態 を 、 そ れ は
﹁ 北 朝 鮮で の 観 客 暴 徒化 を 理 由 に 、 ワ ー ル ド カ ッ プ ︵ W 杯 ︶
アジア最終予 選の日 本×北朝鮮戦を 第三 国、無観客で 開催す
る と し た 処 分 ﹂で あ る なら 、 北 朝 鮮 の 観 客 に 対 す る ペナ ル テ
ィ の ツ ケを 北朝 鮮サ ッ カ ー 側 が 被 っ た の か 。 さら に 、で ある
なら 日本サ ッカ ー 協 会と 、当 日 、サッカ ー場で 観戦 しよ うと
予 定して い た人々 が 、 割を く っ たと いう こ と に なる 。で はこ
のよ うな事 態を 招 聘し たFIF Aは、ど のよ うな自 己責 任処
﹁面白 い舞台で あれば客は 入る﹂
こ れ は 間 違 いで は な く 、 正解 だ 。 だが 、何 も い っ て い な い
に 等し い 。 ﹁面 白 い 舞台で あれ ば 客 は 入 る ﹂ と は 、 それ は そ
れで 当 たり 前のこ と で あり、だ から と い って 無制限 に観客数
が 増加 す る ので は な いか ら だ 。 ﹁ い い ﹂ や ﹁面 白 い ﹂ は 、 あ
る 価値 観 の 表 出で あ る 。 つ いに は 個 的 な 嗜 好 だ 。 個 的 な 嗜 好
が 情 報 と し て 力 を 持 つに は 、 生 活圏 を 離 れて は な い 。 わ た し
が 言 う まで も な いが 、こ の 個 的 な 嗜 好が 生 活圏 を 離 れ 、 つ ま
り幻影化す るには、 マスという 媒体や 、 メディアが 必要だろ
う 。し たが って ﹁ 面 白 い 舞台 で あ れ ば 客 は 入 る ﹂ と いう 物 言
いは、生活圏での話 しで あり、ここにマスコミュニ ケーショ
ンの浸透度 により、 その生活圏 は広がる ので あろうが、やは
り 、 口コ ミ と い う 交 通 形 態 を 逸 脱 し な い 。
だからこ うも言うことができる。個的な嗜好が生 活圏を離
れ 、 つ ま り 幻 影 化 す るこ と に よ って 、 個 的 な 嗜 好が 操 作可 能
と なる なら 、
﹁面白 くない舞台でも客は 入る﹂
こ れ は論 理 的帰 結 と なる 。ま た、 それ が 継 続す る か ど うか
は別問題で 、本質論 とは別に、 イベント 屋の力量と 、ビジネ
スモデルに帰結するだろう。
すでにお 分かりのように﹁選 手はが んばっても っといい試
合を し な い と だめ だ ⋮⋮ ﹂と は 、川淵 某 の無責 任な 、責 任放
棄の発言に他なら な い。それが 、現場への叱咤激励 の発言だ
っ た と し て も 、 事 態 の 起 因 を 選 手 たち に 求 め 、 責 任 回避 を 図
ったとなる ほかない 。百歩譲っ たとして 、で はチェ アーマン
とは何者なのだ。
現場経験もないので、選手と いう言葉を持ち 出す のはやめ
よ う 。つま り 俳 優 は 舞台で 、 い い 舞台 を し よ う 、面 白 い演技
をしよう、 あるいはダメにしよ うなどと いう、そのような即
時 性を 展 開 す る の み の 余 裕は あ り ま せ ん 。や ら な け れ ば い け
な いこ と は 、 そ ん な こ と を う っ ち ゃ り 、 通 り 抜 け て 山 ほ ど あ
る。
176
る。
閑話 休題 。どうも 持ち 場が違 うとこ ろ に迷 い込み そうで あ
る 。 わ たし は 、ス ポ ー ツ 選 手で も 、ス ポ ー ツ イ ベン ト 屋で も
な い 。 ま し て や 、 武 道を 志 す も ので も な い 。 舞台 表 現 を 志 す
も ので あり 、 その思 想 性が 、 抜 き 差し な ら ぬも ので ある なら 、
それを由と するも のです 。いわ ば、 単な る 門外漢で ある 。そ
こ で ﹁ 観 客 ﹂ と い う 言 葉 を 手が か り に 、 見え な いも のを 、こ
の 際 見て お こ う と す る に は 、 徒 手 空 拳 で 進 み す ぎ る よ う に 思
われる。
実は、こ のわたし の発言には 経過が ある。
か つて J リ ー グが 発 足 間も な いこ ろ 、 ある クラ ブ チーム が
破綻 す る な ど し 、 観 客 動 員が 落 ち 込 んだ 時 期が あ っ た 。こ の
と き 当 時 の チェ ア マ ンで あ っ た 川 淵 某が 、 正 確で は な いが
﹁ 選 手 は が んば って も っ と い い 試 合 を し な い と だ め だ⋮ ⋮ ﹂
とのインタビューコ メントがテレビニュ ースで流れて いたの
を 記憶す る 。こ の発 言を 舞台 に 置き 換え て み よ う 。
177
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に の問 題で あ っ た の だ ろ うと い うこ と だ 。こ れが わ たし の 位
置づけで あ る 。
さて 、命をやり取 りする試合に、われ われはどのように加
担 す るこ と が で き る の だ ろ うか 。多 分 、 その事態 に 立ち す く
むしかないだろう。これは野次馬ということだ。野次馬以外
に は 立 会 人 が あ り え る 。 ま た 、 助 太 刀 人 も あり え る 。こ う な
ると、観客 の出自は 、試合に対した立会人なのだろ うか、助
太刀人、野次馬なのか?
たしか、黒澤明の姿三四郎と 試合をし た月形龍之介たち は 、
吹き す さぶ 未 明 の荒 野で 絵 に な って い た よ う に ⋮ ⋮ 記憶 の 彼
方で す 。
命 のや り 取 り を 語 り 継 ぐよ う に あ っ た 立 会 人 は 、 審 判に な
ったように 思われる 。助 太刀人 が観客だ 。野次馬は つ いに野
次馬で 、第三者で責 任の埒外だ 。もうほ とんどわたしの悪意
は
は
や
に通じる 。
こ こ で 、 や っと サ ポ ー タ と い う 言 葉 に たど り 着 い たこ と に
な る が 、こ の 言 葉 は いま だ に な じ め な い 。 わ た し の 直 訳で は
サポータは助太刀人 だ。まして やサポー タは十二人 目の選手
といわれる と、観客 たろうとして いるわ たしは困ってしまわ
ざるを得な い。
甲子園 球 場には観 客も サポー タも いな い。阪神 フ ァンが い
るだけだ。
とも あれ 、日本式 の命のやり 取りの試 合から 、死 合を抜き
去 った、 仕 合をス ポ ー ツに重ね るこ とで 試合は ゲー ム に なっ
た 。 そこ で や り 取 り さ れ る の は 勝 負 だ 。 こ れ が と り あえ ず 整
理して 差し 出すこ と ので き る わ たし の独 断 と 偏見だ 。
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さて 、こ の論理破 綻を 回避し たも のを 日韓 共催W 杯だと い
うこ とがで きるのだ ろうか 。定かで はな いが 、わたしには そ
の よ う に 見 え る 。こ れを だ れ が 支え た の か わ た し に は わ か ら
ない。また 位置づけ る立場にな い。それでもこ うして 今、わ
たしは﹁無 観客 試合 ﹂と いう言 葉に向き 合って いる 。
出発は﹁ 観客﹂と ﹁試合﹂と いう言葉が 並列する 違和から 、
無観客試合という言 葉は形容矛 盾だだと する想いか ら 出発し
て いる 。 わ たし の 力 量で 、こ こ で ス ポ ー ツ の 何 た る か 、 試 合
の語源 等を 紐解き、こ のわたし の違和に 迫るこ と はできない 。
舞台 と う い 作業場に 足を 置き 、 生 活感 覚 を 押 し 開 くこ と だ け
だ。
さて 、 ス ポ ー ツ と 試 合 は い つ のこ ろ か ら 手を 取 り 合 っ た の
だろうか。 近代日本 の国威高揚として西 洋式肉体強 化術云々
と なる と 、 稿数 が い くら あ って も 足ら な い 。違 う 語 り 口を し
よう。
わ たし は 試 合と い う 言 葉を 、 どこ まで たどるこ と が で き る
のか。果し 合い状。 宮本武蔵。 決闘。ど うやらこ の あたりだ 。
死 合 い 、 間 合 いを 試 す 、 死 を 合 わ せ る 。 こ う い う イ メー ジが
成立して くる。仮に、何 の根拠もなく、武道の世界では命の
や り取 りを 試合と い う 、と言え ば 、わ た し の語 感 に 重 なる 。
そうで ある のか ど う か は 別 と し て 、 つ ま り 試 合と い う 語 含意
は 個 的 な の だ 。 決 闘 は 1 対 多 で も イ メ ー ジで き る 。 こ れ が 集
団的になる と 合戦と なる。さて あたかも 、試合が 死 合 いに重
なるとして いるが 、 そうで はな い。天覧 試合、御前 試合など
と なる と す べて は 死 合 いに 重 な ら な い 。 こ こ で 一 貫 して いる
の は 勝 負 と いう こ と で あ る 。 そ れ は 死 合 いを 含 んで 、 生 き 死
ここまで くるとわけがわから ず、納得するにはサポーター
=観客と理解するし かない。し かしこれ は﹁無観客 試合﹂で
は なか っ た のか 。
す る と F I F A は ﹁無 観 客 試 合 ﹂ と い うこ と で 、 押 し や っ
たも のとは 、何 なのか ?
ほと んどもう 、何かを押 しやるよ
う に 装 うこ とで 保 障 し た の は 、 F I F A の 権 威 だ け だ 、 な ど
と 与 太を 飛 ば し た く な る 。
もち ろ ん こ ん なこ とを 綴る た め に 、文 意を 運 んで いる わ け
ではない。しかし一 つだけ言って おきた い事は﹁サ ポーター
=観客は十二人目の 選手だ﹂と いう、あたかも本質に迫るか
の よ う な メ ッ セ ー ジ は 、 な んら 内 実を 持 って い なか っ た と い
うこ とで あ る 。つま り 日本サッ カ ー 協会 は ﹁ 十二人 目 の 選手 ﹂
が いない試 合など あ り 得ない、 とはし な か った。選 手の いな
い試合など あり得な いにもかか わらず、で ある。あたかも本
質に迫るか のよ うな メッセー ジを保 障す る ため のポ ーズすら
し なか った ので は な いか 。 その 証 左 に 、 重 ねて 不 思 議で あっ
たのは、誰もが﹁無 観客試合﹂ など試合ではないと いう意思
が 組 織 さ れ た 、 と 思 わ な いで は な いか 。 こ こ まで く る と 、 F
I F A の ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂ を 素 直 に 受 け 入 れ た と い う ので は な
く、サポー タと呼ば れる側にサ ポータは いなか った と いわざ
るを 得ない 。すると サポータと はクラ ブ チームを 、 無 償で 真
摯 に 支え よ う と す る 、 フ ァ ン た ち のこ と だ と 、こ れ ま た 言 わ
ざるを得な くなる。
こ の事態 を 、語 彙や 形態を 含 めて 混 乱 して いると いうのは
容易 い。そ のように あるなら 、やがて 整 理されるだ ろうとな
る か ら だ 。 リ ア リ ス ト を 装え ば 、 整 理 さ れ る な ら 、 と っ く の
178
さてもう 一つ、古 代ローマの 円形劇場 には剣闘士が いた。
こ れ は 娯 楽 性 の 高 い 見 世 物 だが 、 元 は 葬 儀で あ っ た と も の の
本 に は ある 。 そこ に は 市 民 と い う 観 客が いる 。 儀 式 だ 。
勧進角力も神社や 仏閣で行われた儀式だ。大衆と いう観客
が いる 。
最 後にギ リ シャ 悲 劇に はコ ロ スが 登 場 す る 。コ ロ ス は ﹁ 舞
台と観客と の間の媒介者﹂として いる。
試 合と い う言 葉 に こ だ わ り な が ら 、 観 客 と いう イ メー ジを
す く い 上げ よ うとす る と 、こ の よ うに多 義 に わ たる 。こ こ で
言 う 野 次 馬 から コ ロ ス ま で に 共 通 す る 立 場 は 、 当 事 者で は な
いと いうこ とで ある 。
さて さて 、 こ こ ま で の 無 理 に 無理 を 重 ね た 、 論 拠 も 示 さ な
い独断と 偏 見は当然 のよ うに行 き詰るわ けで 、次のよ うに命
題らしきも のを掲げ 、文意を運 ぶこ とに しよう。
サポータはどこに行ったのか ?
日 本× 北 朝 鮮戦 の テレ ビ 中 継 画面 か ら 、こ ぼ れ聞 こ え る 太
鼓と応 援コ ー ルの中 に いたのか 。いや 、 あれこ そ感 動 的にも 、
任意の第三者たらんことを選択したにも かかわらず 、拒絶さ
れた観客と 呼ばれたはずの一群ではなか ったのか。どう考え
てみても、 FIFAが無観客試 合ということで 、ゲートの外
に押しや っ たのは、 あの一群で あったと 思われる。 だが 、テ
レ ビ 中 継中 の アナ ウ ン サ ーや 、 解 説 者 、 ある いは サ ッ カ ー 関
係者の発言を 総合す ると、彼ら はサポー ターに変身したり、
また観客に なったりしてしまうのだ。つ いには﹁日本全国の
テレビで 応 援して い ただ いたサ ポーター のみ なさん ﹂まで登
場する。
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う 言 葉 を 用 いて いる 。こ れら は イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の 検 索 サ イ
ト で 調 べ た も ので 、 F I F A の オ フ ィ シ ャ ル サ イ ト を 覗 い た
りも し たが 、 規約 委 員 会 の 公 式 文 章 に 直 接 あ た っ た ので は な
いこ と を お 断 り し て おき た い 。 ち なみ に 、 ニ ュ ー ス 記 事 で は
﹁試合﹂と いう語に ﹁
﹂や﹁
﹂が当てら れて いる 。
さらにお断 りしたいがFIFA の公用語が英語かど うかも調
べて は いな い。こ れ は 余談に な るが ﹁
﹂の近似値
として ﹁
﹂に目が いくこととなった。
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真剣勝負
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よ うや く 表 現 の 鳥 羽 口に 立 つ こ とがで き た 、 と い え るが 、
や は り 次 に 移る 前 に ﹁ 試 合 ﹂ に 対して 決 め うち を 綴 って お く
しかないよ うで ある 。
わたしたち は現在 生活の中で ﹁真剣勝 負﹂という言葉を持
って い る 。 気 軽 に 使 っ た り も す る 。 わ た し の 個 的 な 言 語 観 か
ら 行 く と 、 いつ のこ ろ 捏造 さ れ た ので あ ろ う か 、 と 考 え て し
ま う 。こ の ト ート ロ ジーは何を 意味す る のか 。こ の 拙文 の脈
さて 、こ こ まで ﹁ 試 合 ﹂と い う言 葉 へ の 思 い入 れ を 持 つ と 、 絡 か ら 行 く なら 、 勝 負 と は 元 来 真 剣 で 行 う ので あり 、こ の 勝
FIFAはこれにど のような言 葉を使ったのかが、気になっ
ち負けを死 合 いに重 ねるものを 試合とし た。そう位 置づける
てきた。
こ とで 、こ こ で 言 う ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂を 理 解 し よ うと し た の だ 。
の
繰り返すこ とになるが、試合で やり取りする勝負は 真剣でこ
︵AP通信︶によると﹁
﹂と い う文 字が
そ決着する 、とする なら、なぜ その試合を、駄目押 しするよ
見え る 。こ こ で は ﹁ 観 客 ﹂ に ﹁
﹂で は な く ﹁
うに﹁真剣 ﹂と念押 しせざるを 得ないのか。それは ﹁試合﹂
﹂を 使 って いる こ とが わか る 。 こ の 状 態 を F I F A は
が﹁試合﹂で なくなり、かつて の﹁試合﹂に対する 追憶と記
﹁
﹂︵非公開ということだろ う︶とい
179
昔に整理されて いる はずだ、と なる。つ まり、こ の あたかも
一 見混 乱 と 見え る 現 状こ そ 、 整 理 さ れて いる の だ 。 こ の 仮 設
がわたし の違和と結びつく。違 和で ある から合理的ではない
と なら な い か ら 、や や こ し い 。
つまり、 そも そも は﹁無観客 試合﹂と いう言葉を 発し たと
たん、観客 と いう概 念を 含意し なか った ﹁試合﹂と いう言葉
に 、 観 客 が へば り つ いて し ま う の だ 。 ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂ と い う
言 葉 が それ ほ ど の 力 を 持 って い る と い う ので は な い 。む し ろ
﹁ 試 合 ﹂ と いう 概 念 が 、 そ の と き 捻じ 曲 げら れ たこ と に よ る
のだ。それ は﹁試合 ﹂という文 化が照ら し出されたというほ
うが 正解で あろう。 つまり、本 来的には ﹁試合﹂と いう概念
に、﹁観客 ﹂という概念が 含意 されなか ったのにも かかわら
ず 、 現 代 の わ た し た ち の 想 いが 、 ﹁ 試 合 ﹂ と い う 言 葉 に ﹁ 観
客 ﹂を 預 け て し ま わ ざ るを 得 な いねじ れ か ら くる 、 歪 み の磁
場が 、一瞬 、見通し のいい荒 野 に連れ出 されたので ある。も
ちろん、語源として ここで言う意味で﹁ 試合﹂が あったのか
ど う か で は な く 、 現 代 の わ た し たち に と って の ﹁ 試 合 ﹂ の 語
源 が そ う 捏 造 さ れて いる と い う こ とで あ る 。
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で ある 。
憶が 忘却の 彼 方から ﹁真剣﹂と いう言葉 を 呼び 寄せ るのだ。
不 謹 慎にも ソ シュ ー ル 風に言え ば パロ ー ルがラ ン グ を 動かし さて 、こ れら は そ う ある と い う 前 提で ある 。話 し を 進 め る
に は 、こ れ ら の カ テ ゴ リ ー に 対 し 身 体を 置 く と い う 作 業で あ
た と い う こ と に な ろ うか 。 関 係 構 造 か ら いえ ば 交 通 形 態 の 変
る 。当 然 そ れ は 演 技 論で ある 。 こ の 表 現 行 為 と いう 視 座で
容 な の だ が 、 さて こ れ は わ れ わ れ 精 神 の 、 自 然 成 長 過 程 と し
﹁ 無 観 客 試 合 ﹂ の ﹁ 観 客 ﹂ を 見 て い くこ と に し よ う 。
て 変 容 し た ので あろ うか ?
別 稿を 起こ さね ば なら ぬ領 域 に
まずは﹁ 観客﹂と いう言葉が 、スポー ツと呼ばれ る現代的
突入するこ と は避け 、誤解を恐 れず言 い 放つが 、こ れで は
な語彙の中 に、どのように閉じ 込めれれて いるのか を 、炙り
﹃ 龍馬 は い か な い﹄ で あろ う 。 わ た し た ち のが 引 き 受けて あ
出す 事に な るだろう 。か と いって 、ス ポ ーツ原論が あると仮
る 近 代 は 、 い く つ か の 世 界 大戦 を 持 って き たで は な いか 。 同
設して 舞台 表現 と い う物 事を 進 めて き た わ けで は な いので 、
時に連合赤軍 ﹁事件 ﹂はある。つまり、 先日の、三 年一組の
そ う せ ず 、 む し ろ 、 表 現 に お け る 観 客 と い う 観 点か ら 接 近し
教 室 に 投 げ 込 ま れ た 、 火 薬 入 り の 瓶 を 、 ど う 演 劇 的 に 解 決で
て 荒 書きす るこ と が 、こ こ で の 道 筋 で あ る 。 つ ま り ま っと う
きるのかと いうこ とで ある。残 念ながら 、われわれ の演技論
にそうせざるを得ないのだ。
は 、 そ の 爆 発 の 前 で 佇 んで い る 。 そし て 明 確 に いえ る の は 、
火薬 入り の 瓶 の対極 に あるも の が ﹁ 無観 客 試 合﹂と いう概 念 た とえ ば 、 ある テ レ ビ を 見て いる と き 、ス ポ ー ツ 中 継 アナ
ウ ン サ ー の ﹁ 高 橋 尚 子 選 手が 、 沿 道 の 観 客 に 向 か っ て 、 手を
で ある 。
振り声 援にこ たえて います 。ま も なく四 〇キロを過 ぎます ﹂
﹁試合﹂から﹁無 観客試合﹂ への推 移は、﹁勝負 ﹂から
と いう発 声 を し たと し よ う 。こ こ で の 、 こ のス ポ ー ツ中 継 ア
﹁ 真 剣 勝 負 ﹂ へ の 変 容 性 に 重 な る 。こ の 、 ﹁ 勝 負 ﹂ か ら ﹁ 真
ナ ウ ン サ ー は 状 況を 、ス ポ ー ツ 、 一 人 の マラ ソ ン 選 手 、 観 客
剣勝負﹂へ の変容性 の中に ある のは、わ れわれが引 き受けて
と い う絡 み で 紡 いで いる わ け だ 。 一 人 の マラ ソ ン 選 手が 観 客
ある近代、こ れらを 上記のようにイデオ ロギー︵=ドクサ︶
と して マ ニ フェ ス ト す る の は そ う 意 味 あ るこ と と は 思 わ な い 。 に 対 し 、 状 況 を マラ ソ ン し て い る 。で は 、 観 客 は 誰 に 対 し て
それ は ま た 、 換 言 し て ﹁ 勝 負 ﹂ か ら ﹁ 真 剣 勝 負 ﹂ へ の推 移が 、 いる のか 、 と いった 細 部に踏み 込む 勇気 は な いが 、 ス ポーツ
中 継 アナ ウ ン サ ー は 、 一 人 の マ ラ ソ ン 選 手が マラ ソ ン 競 技 を
文 化 成 長過 程と し て 、わ れ わ れ の 持 つ 攻 撃 性や 、 テ ロ リ ズ ム
行 って いる 状 況 に 、 も う 一 つ の 何 か を 付 加 し た の だ 。ス ポ ー
の非生産性を官許の元に去勢す るという経済性のみで 置き換
ツ中継アナ ウンサーが 沿道の観衆を観客と呼んだとき、一人
え ら れ たも の だ 、 と 言 い 放 って も 同 時 に 意 味 が な い 。 つ ま り
の マ ラ ソ ン 選手 は 、 表現 と い う 属 性 を 背 負 っ たこ と に な る 。
﹁ 勝 負 ﹂か ら ﹁ 真剣 勝 負 ﹂ への 推 移を 歴 史 成 長過 程 と 位 置づ
ス ポ ー ツが 表現 に 成 り 下 が っ た 瞬 間で あ る 。 つ ま り ス ポ ー ツ
けしまう仮設は、﹁投げ込まれた、火薬 入りの瓶﹂として あ
は何かに成り上がることもでき ないし、成り下がることもで
るこ の今を 、無批 判に追認する だけのこ と 以外で は ないから
き な いと い う意 味で で ある 。こ の マラ ソ ン 競技が イ ベント と
して あった のか ど う か と いうこ と は 関係 な い。ス ポ ー ツはス
ポ ー ツで あ り 、 表 現 は表 現 で あ る 。
では、こ こで の意 図を明確にするため に ﹁スポー ツは表現
か?
﹂ と 問 うこ と に し よ う 。 それ は 表 現 で ある と 同 時 に 表
現 で な い 。 ト ー ト ロ ジと 逆 説 の オ ン パレ ー ド だ が 、 それ はこ
う だ 。 ス ポ ー ツ と は 対 他 性 に お いて は 競 技 で あ り 、 対 自 性 に
お いて は 表 現 で ある 。で は 表 現 と は 何 か ?
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情 報とし て の観 客 = 演技 論 の 地平
行きがか りとはいえ、思わず ﹁表現と は何か?
﹂などと
問 いかけて し まったことに後悔しきりで ある。当然 、これに
真っ当に答え 切る力 量はない。
なら ばこ の拙文の 出発と、自問 の意図 に還り、思 いを絡み
と る し か な い 。 幸 い なこ と に か ど う か わ か ら な いが 、 右 記 の
﹁ 3 ﹂から 、こ の ﹁ 4 ﹂ へは 意 図 的に 、 ほ ぼ 一ヵ 月 の時 間が
あ っ た 。 書 き な ぐ っ た 思 い は 頓 挫 し たこ と に な って し ま っ た
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︻ 注記 ・編集 ︼ ここまでの﹁1﹂から﹁3﹂は、
闇黒光の文責で、2005年06月10日に﹃
大阪演劇情報センター 更新記録・編集後記
﹄
に発表された。参照 は﹁
﹂である。
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ので 、 その 後思 いも 動 く 。こ れ を 整 理す るこ とから 始め よ う 。
所 期 の思 いは 、 そ う 複 雑なも ので は な か か った 。 仮 に ﹁ 無
観 客 試 合 ﹂ と い う 言 葉が 実 体 化 し て あ っ た と し て 、 そこ で 屹
立するイメージへの違和とは何か?
こ れを 整理す るこ とで 、
よ し と す る 魂 胆で あ っ た 。 だ が さて 、こ と は そ う い うこ と だ
けで はないようで ある。つまり ﹁無観客 試合﹂とは 、 様々 な
語り口はあるだろうが、こ の拙文でした 、試合の形 式を 規定
する用語で はなく、観客に纏わ る概念の問題で ある とせざる
を 得 な い の で は な い か 、 と な る 。こ こ に 、 思 わ ず ﹁ 表 現 と は
何か?
﹂ などと問 いか けて し ま う脈絡 が あった 。こ れが 整
理 の 大 枠で ある 。
できれば、サッカ ーには﹁無観客試合﹂というゲネプロ
︵ オ ペラ な どで は 、 初 日 の 前 に 、 本 番 ど お り に 行 う 稽 古 の こ
とを いう、 とも のの 本に ありま す 。演劇 業界でも そ うかもし
れ ま せ ん 。 アリ ア リ の 稽 古 で す 。 バッ ク ツ ア ー な ど で 、 見 学
の 方 は 居 る か も し れ ま せ んが 、 観 客 は い ま せ ん 。
=ド イツ 語 ︶ のよ う な試合が ある んだ 、と いうこ とで 通り
過 ぎ た い の で あ っ た 。し か し 、 こ れ は F I F A の 国 際 試 合で
ある。そこ で ﹁無観 客試合﹂と 宣言する ので ある。 世界規模
の イ ベ ン ト の な せ る 業で あろ う が 、 う が って いえ ば ﹁ ゲ ネ プ
ロ は 本 番で す ﹂ と い う ので ある 。
こ の と き ﹁ は い そ うで す か ﹂ と いえ な い の は 、こ こ で 問 題
を こ う 仮 設 す る か ら に 他 な ら な い 。こ と は サ ッ カ ー の問 題 で
はない。﹁無観客試合﹂と いう 言葉がありえ たという、わ た
し たち の 状 況 の問 題 で ある だ ろ うか ら だ 。 それが ﹁ 無 観 客 試
合﹂という概念で も なく、またイメージでもなく、で ある 。
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なら ないの だろうが 、こ の あた りの﹁情 報と演技﹂ に 対する
位 置 付 け は 、 別 途 拙 文 と し て ﹃ 情 報と 演 技 に つ いて ﹄ や ﹃ 演
技 に つ いて ﹄
が ある ので 参 照 願え れ ば 幸 いで ある 。文 脈 上概 括
す る なら 、 行 き は ぐ れて し ま っ た ﹁ 観 客 ﹂や ﹁ 物 語 ﹂ へ の 望
郷の眼差しを、別名としての﹁もう一つの物語﹂あるいは
﹁ ありえ て し ま っ た 未 来 ﹂ に 送 る ので は な く 、 ある いは ま た
﹁すべてを 概括するかのように あった、 物言わぬよ うに物言
う 日 常 ﹂を 嘯 くよ う に 、 凝 視す る ので は な く 、 百 花 繚 乱 の 情
報論の海へ 竿さし、 それに耐え うる演技 論を行為す るを良と
した。だが 、 いま演技論は情報論を 装いわれわれの前にある
のだ、と揚言したのであった。
さて 、 こ の﹁ 4
情 報とし
て の 観 客 ﹂ は 前 節 の ﹃ 表 現 行 為 と いう 視 座で ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂
の ﹁ 観 客 ﹂ を 見て い く﹄ と い う こ と か ら 始 め た が 、 思 い の 丈
で 強 引 に 纏 めて いる と い う 感を 免 れ 得 な い 。 それは 、 素 直に
文章化することが 出 来ず、こ う ﹁纏める ﹂と いうこ とでしか
文 意 を 運 べ な い 、 わ たし の 現 状 を 示 し て あ る と いえ る 。 そ う
は なら じ と す る なら 、 素 描し よ う と して き た イ メ ー ジを 提 出
し 、こ の纏 め に 繋 げ て お くこ と で 、こ の 拙文を 終わ るこ と に
しよう。
5
卑弥 呼 の 踵
舞台 と い う 形 式を どこ か ら 想 起す る の か 、と いう こ と にも
なる 。それ は、どこ まで 時 間の ネジを 巻 き 戻して お くのか 、
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こ の言 葉が 状況とし て 成立しえ たと いう こ と は 、 そ の バッ ク
ボ ー ンが す で に あり 、 それが ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂と いう 価値で 成
立すること により、 物事の関係 は変容し たというこ とを意味
する。それ はまた、表現行為が 見定めることを 余儀なくされ
る 観 客 の在 り 処が 、 こ れ まで と はず れて ある 、と い うこ と に
なるからで ある 。
換言する なら、無 名性のなか に観客が いるで あろ うと想定
し た ゲネ プ ロ と 、 あ ら か じ め 観 客を 拒 否 して 、 観 客 を 想 定す
るこ とは、 決定的に 異なる行為 で ある 。
多 分 、 演 劇 営為 が 、 見る 観ら れる と い う相 対 性 の 磁 場か ら
抜 け 出し 、 可 能 性と して の 関係 性を 行 為 す る 作業で ある なら
ば 、 必 ず や 見 る と い う 行 為 は 、 体 験か ら 経 験 に 登 り あが る 作
業として 、 舞台 に 上 が り 役者 た ら んとす る 俳優 の前 に 、 俳優
の 対 自 性 を 含 んで 起 ち 現 れ ず に は お か な い 。こ れが 無 名 性 の
中に観客を 想 起する と いうことで あり、 結果、演劇 営為は可
能性の実態 を わたし 権化して 、 行為する という役者 たら んと
す る 身 体 の うえ で 、 演 技 を 捏造 す る 方 法 へ 至 ろ う と す る も の
で ある の な ら 、こ の 観 客 の 在 り 処 の ず れ は 、 何 を も たら す の
で あろうか 。
わたしは いま、注 釈をこ とさら加え ず 、未知 座小 劇場の演
技 論 を マ ニ フェ ス ト め いて 語 っ て いる の は 、 そ の 演 技 論 を 情
報 論 と し て 語 る し か な い 逡 巡 か ら くる 。 端 的 に いえ ば 、 こ こ
で いう﹁ 見 る観ら れ ると いう相 対 性の磁 場﹂は、も う 遠い昔
の︽昭和︾ という時 代にあった物語としてではなく、あらた
めて いうまでもないが、それは 今日で いう情報として あるか
ら に 他 なら な い 。情 報 =物 語 に つ いて の 何 ほ ど か を 語ら ね ば
183
の構図は、 卑弥呼の 前に観客は なく﹁無 観客試合﹂が ある。
と い うこ と で ある 。 ま た そ れ は 、 削 ぎ落 と す こ と の 出 来 る も
ま た 観 客 の 前 に は 卑 弥 呼 は おら ず ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂が ある 。
のはす べて 削 ぎ落と す と いう仮 設で ある 。こ の社会 性を 帯び
こ の拙文 で 出発し て あった﹁ 違和 ﹂は 、 卑弥 呼 の 側から す
た表現という鏡に﹁無観客試合﹂はどう映るのか。
る ﹁ 演 技 論 ﹂で ある と 括 るこ と が で き る だ ろ う 。 ま た、 観 客
もち ろ んこ れはイ メー ジの話 しで あり 、 その原初 形態から
の 側 か ら す る そ れ は ﹁情 報論 ﹂ で ある し か な い の だ 。こ の二
前 述 し た ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂ を 見 よ う と し て き た 。こ こ で い う イ
メー ジと い う の は 、 ロ マ ン ・ロ ラ ン の ﹁ 花で 飾 っ た 一 本 の 杭 ﹂ つ は 、 ゆ き は ぐ れ て ある 。 唐 突 に 聞 こ え る か も し れ な いが 、
こ の 拙文 に 隠 され た 、 舞台で 行 為 す るこ と のリ アリ ティ ー の
のよ う なも ので ある 。こ の ロ マ ン ・ロ ラ ン の ﹁ 杭 ﹂ は 祭 り の
なさや、物 語の不可 能 性は、こ こでも論証できるは ずで ある 。
原 初 形 態 と 読む の だ が 、 さて 舞 台 の 原 初 形 態 は 。
こ れら を 前 に して 、 逃 げを 撃 つ の は 容易 い 。こ の ﹁ 演技 論 ﹂
原 始 共 産 制 。 雨 乞 いが 行 わ れ て い る 。 それ は 共 同 体 の 意 思
と﹁情報論 ﹂をまとめて情況論として語ればいいので ある 。
で ある 。﹁ 薪くべ﹂ が 行 われて 炎が 舞う 。祭壇が あ る 。その
も ち ろ ん 逃 げで あっ て も 、 そ れ が 現 代 的 な 課 題 や 思 想 的課 題 、
前 で 巫 女 は 御託 宣 を 求め る 。 そ れ ら を 前 に 人 々 は 祈 る 。こ こ
あるいは演 劇的課題 に対し何ら かの仮設を 提示したもので あ
に いる 巫 女 は 、 わ た し の 場 合は ﹁ 事鬼 道 能 惑衆 ﹂ の 卑弥 呼
れ ば 、 そ れ は 一 つ の 営為 で あ り 、 一 つ の 可 能 性で あ る 。 当 た
で ある 。や がて 御託 宣が おりる 、 それは 御託 宣が お り たと 装
り を つ け て いえ ば 、 そ れ で は 現 象 学 と し て の 論 に な ら な い の
うこ とかも しれない 。とも あれ 卑弥呼は 踵をかえす 。
で ある 。こ の ジレ ン マこ そ﹃ 演 技 に つ い て
∼無観客試合
踵が かえ ったこ の 瞬 間こ そ、 世 界史 の なかで 舞台 が 成 立し
と演劇∼﹄ と いう拙 文で あると いうこ と は言を また ない。
た 瞬 間で あ る 。こ れ ら は す べて 儀 式 の 一 環で あ る か も し れ な
いが 、その とき 卑弥 呼は、人々 と萬 神の 間に割り入 り 、自身 繰り 言 に なるまえ に ﹁ 無観客 試合﹂に かえ ろ う 。で あるが 、
を 物 語 ろ う とし た の だ 。 祈る人 々 は 、一 瞬に観 客 に 転換し た 。 これまたあるイメー ジに なる。これを 提出して終わりにした
い。
余 談 に な る が 、 舞台 に あが り 役 者 足ら ん と す る 俳 優 の 、こ の
踵をかえす と いう様態は、何も のかを一 瞬に異態に 転換する 前述で 、 舞台 の基 点を 卑弥呼 の踵にも とめた。そこから の
﹁無観客試 合﹂のま まで は、つ いにそれ は単なる総 括に過ぎ
行為 のこ と で ある 。 人々 はこ れ を 演技 と いうが 、技 とす る に
ない。すで にお分か りのように ﹁無観客 試合﹂は総括の対象
は おこ が ま し い。と い うこ とで 、で き る なら 、 あら か じ め 役
で は な いの だ 。 それ は課 題で あ り 、可 能 性で ある 。 そうで あ
者で ある能 役者と言 われる 方々 に お任せ し たいのが 、偽ら ざ
る なら 、も う一 つ の 視 点が 必 要 で あ っ た 。仮 に 卑弥 呼 の 踵が
る と こ ろ で ある 。 だ か ら と い っ て 、 舞台 に あが り 役 者 た ら ん
千 年 の 向 こ う なら 、 千 年 の あち ら が 必 要 と な る 。 来 年 の テ ン
とする俳優はアンド ロマックよ ろしく﹁ 天におわす 我らが 大
ト 公 演で も 汲々 して いる のに 、 な ん のホ ラ だ と いう のは請 け
神 様 よ ﹂ と いう わ け に は い か な い ので あ る 。 つ ま り 、こ こ で
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こ の ﹃ 演 技 に つ いて
∼無観客 試合と演 劇∼﹄を綴りはじめ
合 い だ が 、 こ れ は 大 向 こ う 受 け を 狙 っ た 法 螺 な ので ご 勘 弁 願
たのだが、 その思いもまた、日々 の稽古 の中に切り 刻むしか
いたい。こ こに﹁虚 体﹂を おき たい。﹁ 虚体﹂といえば埴谷
な いよ うで ある 。
雄 高 の 自 同 律 の不 快 と して の ﹁ 虚 体 ﹂で あるが 、 自 同 律 の和
記
解 と し て の ﹁ 虚 体 ﹂ を 本 歌 取 り す る ので あ る 。 た と え ば ﹁ わ
︻ 注記・編集 ︼﹃演技について ∼無観客試合と
たしが 蝶で あるとす るとき、わ たしは蝶で ある﹂としての、 演劇∼﹄の﹁添付資料﹂への掲載にあたり、編集責任
自同律の和 解として の﹁虚体﹂で ある。向こ うとあちらの幅
で全体を各章に分け小見出しをつけた。初期、発表時
のなかで、こちらの﹁無観客試合﹂を、 自同律の和 解として
の文にはこの小見出しはない。
の﹁虚体﹂から見定めることを 試行する 。もうこと は﹁無観
客 試 合 ﹂で な く なる の は い たし か た な い 。
や は り 最 後に お 詫 び す る し か な いよ う で ある 。論 拠や 出 典
を示さないままの軽業師め いた展開は、当然顰蹙をかう他な
い。ただ、ここで 綴 ったのは論文でも演 劇論でもな い。それ
は 、 未 知 座 小 劇 場 が す る 現 場 か ら の 報 告 で ある 。こ の一 点 は 、
最 後 ま で 手 放 さ な か っ た つ も り で ある 。 こ の 意 味 で 黙 許 願え
れ ば 幸 いで ある 。
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さて さて こ のよ う な中で の、 今回の公 演﹃ 大阪物 語﹄は、
③﹃大阪物語﹄とカンディンスキーの三日
来 年の テン ト 公 演を 射 程し た 、 こ の いま の行 為 と な って いる 。
それは行き はぐれて しまった、 テントと いう最も古 典的な領
域に視線を 贈り、百 花繚乱の情 報論の海から、自殺行為にも
に た 綱渡 り を し よ う と い う 図で あるか ら 、も うこ れ は ﹁ あつ
本日は、ご来場いただきありがとうございます。
は 、ぷふ い ﹂と いう し か な いので あ っ た 。
こ うして つ いに、こ の拙文も ﹃ 大阪物 語﹄で何ら か の具体
性を 差し 出すしか な いと いうと こ ろにた どり着いた よ うで あ こ の一行 で 、拙文 を閉じ たい 思 いに偽 りはない。 ﹃ 大阪物
語﹄に触れ るにはあまりにも、 生々し い時 点にいる 。かとい
る。一つの 糧にと台 本執筆中にもかかわらず﹁無観 客 試合﹂
へ絡 み とら れて ある で あろ う情 報論を 見 定め るこ と を 望み 、
う論理を 、 具体化し 全体とする 。こ うな ると、 単に ﹁論理構
築の日々 ﹂ と いった とこ ろで そ の内実が まったく違 うので あ
ろうと仮説するしか な い。だが 実はわたしは、こ のカンディ
ンスキーの ﹁構想と いう論理を 、抽象化 し全体とす る﹂作業
は 、 カ ン デ ィ ン ス キ ー の 具 体で あ る と 予 断 し て いる 。
さて 、こ の 仮 説 は わ た し が カ ン デ ィ ン ス キ ー に 接 近す る 場
合の、かろ うじて 手に入れて いる出発と して の命題でしかな
い。具体性はなんら 模索されて いない。しかし一つ の可能性
本公演のサブタイトルは﹁コ ンポジション ﹂で ある 。い
を、現時点でする一つの可能性を﹃大阪物語﹄に預 けるこ と
わずもが なカンディ ンスキーで ある。
にするとど うなるのか。その夢 想の結果は、やがて ﹃大阪物
抽象絵画 の祖といわれるカン ディンスキー
∼
年
語 ﹄ が 上演 さ れ 、 舞 台 上で 行 為 さ れ る か 、 あ る い は 行 為 さ れ
にコ ンポジ ション7
年 と いう 作品 が ある 。こ の 圧 倒 的
な いか 、 と いうこ と に な る ので あ ろ うが 、 い ま 初 日 を 前 に 言
㎜×
㎜ には一つの逸話があ
な迫力で 迫りくる絵 画
及するこ と はで き な い。ここで は、﹁構 想と いう論 理を 、抽
る。出典は 忘れたが 、 それは﹁ 構想三年の後、三日で 仕上げ
象化し 全 体 す る ﹂こ と は ど う い うこ と な のか 、と い う 整 理を
た ﹂ と い う も の だ 。 さて 、こ の 逸 話 を ど う 読 む の か ?
﹃ 大 阪物 語 ﹄を 踏 ま え 、 それ に そ って 試 み よ うと す る だ けで
コ ン ポ ジ ション 7 の前に 立 つ と 、こ の ﹁ 三 日 ﹂と いうこ と
ある 。 ある いは 、 自 身に その賭 場 口を 指 し 示すこ と が で き る
が コ ケオ ド シだ と い うこ と が わ か る の は わ た し だ け で は な い
か。
で あろ う 。 そ の 上で も 、こ の ﹁ 三 日 ﹂を 受 け 入 れて み る に は
素人がす るカンディンスキー への思いから 離れる ために、
﹁ 構 想 三 年 ﹂を ど う イ メ ー ジす れ ば い い の か 。
コ ン ポ ジ シ ョ ン 7 の 製 作 年で あ る 一 九 一 三 年にふ れ よ う 。こ
まずこの﹁構想三 年﹂を論理 構築の日々だったと憶測しよ
う 。も ち ろ ん根 拠 は な い 。 そ の よ う に 仮 設 す るこ と で ﹁ 三 日 ﹂ の 年は フェ ル デ ィ ナ ン ・ド ・ソ シュ ー ル
∼
年 が亡
は 究極 可 能 と な る 、 と 台 本 執 筆 の 経 験 上 いえ る 。 論 理 性を 言
くなった年として記憶する。カ ンディンスキーのコ ンポジシ
霊 に 預 け る こ とで 可 能 だ 。し か し こ こ で 繰 り 広 げら れて いる
ョ ン 7 の 構 想が 三 年 と 受 け 売 る なら 、こ のカ ン デ ィ ンス キ ー
の は ﹁ 抽 象 ﹂で ある 。一 般 論 か ら す れ ば 具 体 の 対 極 に あ る も
の 構 想 の 期 間 に 、 ソ シュ ー ル は ス イ ス の ジュ ネ ー ヴ 大学 で 数
のにほか なら ない。 いわば、具 体こ そ論 理で あろう 。さらに
人の聴講生を前に、 あの﹁一般言語学講 義・第三講 ﹂を行 っ
いう なら 、 構想 と い う論 理を 、 抽 象化 し 全 体とす る のだ 。し
て いたこ と に な る 。 こ の 符 号 に な んら 歴 史 的 な 事 柄 が 絡 む も
か し 、 台 本 の場 合 、 一 概 に い っ て も 仕 方 が な いが 、 構想 と い
ので は な い が 、 妄 想 が 広 が る の も 事 実 だ 。こ れ は 得 意 な 分 野
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って ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ の パン フレ ッ ト を 余文 で 汚 す わ け に は いか
な い 。何 ヵ 月か の 立 ち 稽 古 に よ って 積 み 重 ね ら れて き たも の
に 、 その現 場で 向か い 合 って 来 た 者と し て 、や は り それ は 心
が 痛 む 。 俳 優 たち の 練 習で す る 身 体 の 軋 み の 道 程 に 見 合 う 、
何を、わたしは発酵 させたのか 。
ままよ。
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とも あれ 、カ ンデ ィンスキ ー のコ ンポ ジション7 だ 。文意
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の脈絡をふ まえるなら、その全 体はシス テムで ある 、という
こ と に なる 。 パー ツ 記号 が 全 体 の中で 相 互 に 軋み あ って い
る 。こ の運 動を 成 立 さ せ る 手立 て こ そ論 理で ある 。 コ ン ポ ジ
ション7のカンディ ンスキーは そのため に三年を要 した事に
なる 。と い う独断が 、ソ シュ ー ル の﹁ 記 号 ﹂を 援用 す るこ と
に よ って 成 立す る 。 そし て つ い に 、 コ ン ポ ジ シ ョ ン 7 と いう
全体は、情 報=物語で あるか?またそのように呼ぶことに意
味 は あ る か ?老 婆 心 なが ら お 断 り し て お き た いが 、 ま たこ の
﹁人々 は 、言語学 が 自然科学 の次元に 属するのか 歴史 科学
様な場で 好 みを 持ち 出す 非礼を 詫び なが らで は ある が 、こ れ
の次元に 属するのか をを知ろう として議 論を重ねた 。言語学
ら の思 いは 、 あの喧 し か った テ クスト 論 と は 最も 遠 いゐとこ
は そ の 二 つ の いず れ に も 属 さ ず 、 未 だ 存 在 し な いと は いえ 、
ろにある。
記号学 と い う名 のも と に 存在 す べき 科学 の一部 門に 属して い
さて 、 と おこ が ま し くも 続 け よ う 。
る。﹂
こ れから 御覧 いた だ く﹃ 大阪 物 語﹄に は 、二人 の 女 優が 登
カンディ ンスキーの﹁抽象﹂を﹁記号 ﹂としてイメージし 、 場する 。彼 女 たち は 、 舞台に 上 り 役者たら んとし 、 相互に意
味するも ので あるの か 、 ある い は指し 示 すも のと な るのか 。
その想 いを 、稚拙な 理解で 素描 して 差し 出すには、 どうして
は た ま た 、 相 互 に 記 号 と し て 軋 み 合 うこ と に な る の か 。 そ う
も 無 理が あ る の は 承 知 だが 、 そ れで も な お 試み る な ら 、 信 号
の ﹁ 赤 ﹂ や ﹁ 黄 ﹂ は さ て お き 、 ソ シ ュ ー ル の い う ﹁ 言 語 記 号 ﹂ して 役者と なるのか 。 それら は す べて 観 て の お楽し み と なる 。
とは、﹁馬 ﹂などと いう指し示す言葉は 、その﹁意 味される
内 容 ﹂ と で 表 裏 一 体 = 記 号 と し て 成 り 立 って い る 、 と 。 た ぶ 最 後 ま で お楽 し み 頂 け れ ば 幸 いで あり 、 望 外 の 喜 び で す 。
んこ の 関係 こ そ文 化 で ある のだ ろ うが 、 こ の﹁馬 ﹂ は恣意 的 記
で ある 、と 。さら に 、こ れら の 記号 は 独 立して いる ので は な
く、システムとして 、﹁馬﹂は ﹁猫﹂や ﹁犬﹂等と の差異に ︻ 注記・編集 ︼ この﹁演技について ∼﹃大阪物
語﹄とカンディンスキーの三日 ∼﹂は、二〇〇五年
よ って 成 立 す る 、 と 。社 会 科学 など に 親 し んで き た も のと し
十一、十二月に未知座小劇場で行われた公演当日の
て は 、こ れ を ﹁ 真 理 ﹂ など な い と 論 証 し た一 例 、 と 驚 愕し な
パンフレットに掲載されたものを、ここに転載した。
が ら 読 ま ざ るえ なか った ので す が ⋮ ⋮ 。
で ある 。そしても う すで に お分かりのよ うに、カ ン ディンス
キーの﹁抽象﹂とソ シュールの﹁記号﹂とを対置させたいの
で ある 。
ソ シュ ー ル の 弟 子 たち に よ っ て 編ま れ た ﹃ 一 般言 語学 講 義 ﹄
や その 手 稿 で 彼 は 、 ま だ 存 在 し な いが 、 言 語 学 を 包 み 込 む 記
号学を予見し、次のようにいって いる。
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④ オ ー デ ィ シ ョ ン 募 集 要 項 189
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⑤ 上 演 履 歴 191
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未知座小劇場
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落乱丁本の取替えは出来ませんので、ご了承ください。
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著 者・︷ルビ やみくろみつ︸闇黒光︷ ルビ︸
編 集・未知座小劇場
編責任・河野明
発 行・ 大阪演劇情報センター電子出版
発行所・㈱オフィスゼット
発行日・2006年6月 日・初版
頒 価・3000円
連絡先・〒
大阪府八尾市佐堂町
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表 題・未知座小劇場第 回テント興業上演台本