大日本演劇大系 連続上演 大阪物語 独戯 明月記 2 n o i s i v e r ;;;; 闇 黒光作品集 Ⅰ 第五章 Ⅱ 番外 Ⅲ 序の章 1 39 未知座小劇場第 回テント興業上演台本 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 003 087 119 149 167 2 [ 総合目次 ] 2 n o i s i v e r 大阪物語 独戯 明月記 後記 資料・演技について ;;;;; Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅰ 大日本演 劇大系・第五章 3 大阪物語 2 n o i s i v e r 005 014 023 029 045 059 078 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ] ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ] 章 章 章 章 章 章 章 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ] 1 2 3 4 5 6 7 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ] ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ] ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ] 打上花火 曼珠沙華 もりぐち泉 たかはしみちこ 京ララ そらどれみ きく夏海 語呂巻力 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ] 女1 女2 鍋島 釜田 刈田 熊野 五色 山ちゃん [[[[[[[ ;;;;;;; ;;;;;;;; [ 目 次 ] 4 [ 登場人物 ] [ 1 章 ] 人 が 乗 って も 大 丈 夫 な 円 卓 が ある 。 この音楽に和太鼓のリズムが重なる。 廃 屋 の 中 は シト シ ト し て い る 。 薄 暗 い 。 湿 気 が 多 い。雨 上が り の 木 立 のよ うに 、 水滴が いたる とこ ろから ポトリポトリと垂れて いる 。 さび た 金 属を つ た って 落ち て き た の だ ろ う 、や け に 茶 褐色だ。ときおり、鉄の軋む音がする。また、 ガラガラ と も 鳴る。ここ はや け に 大時代 的だ。 大き な 土管が 地上から 突き 出て いる 。 その 上を 見 る と 、 土 管が 天 に 向 か って 伸 び て いる 。こ れ は ど う や ら 、 煙 突 が こ の 地 上で 折 れ 、 上 部 が 天 に ぶ ら 下 が って いる と い っ た と こ ろ だ 。 女 1 、 女 2 襤 褸で 登 場 。や が て 人 々 も 各 所 か ら 麻袋を持ち 、背負って登場。他 にも何か 背負っ て いる 。 も う 少 し 世 界 定め に こ だ わ ろ う 。 こ こ は 、 三 次 元 的 な 処 理 が で き な いが 、古 び た バス 停 が あ る 。 気 を 持 た せ た 言 い 方を す る と 、 きっと行き 先は⋮⋮ 人生と同じ ように不 明なの 女1は 、後ろ向き の歩行。ゆっくり動き始める 。 円 卓 に 上 る 。 そこ は 自 分 の 場 で あ り 、 日 本で あ り、地球で あり、宇 宙。身体が その境界と渡り 合う。円卓 からゆっ くり落ち る 。 こ の﹁ ゆ っくり落 ち る ﹂ 全 体は、独特 で あり 記 憶の底に残る。 再び テ ー ブルに 上 る。再び 境 界を 飛 翔しようと す る 。一 瞬 限 界が 敗 れ る 。⋮ ⋮ よ うで あ る 。 破 裂。自身の 内部。縮 小 。濃度が 増すこと により 引 力 が 発 生 す る 。 つ いに 自 身が 自 身 の 重 さ に 耐 えられない。破裂。カオス。 女 2 は 歩行 。 お か も ち を 持 って い る 。 。 こ の間 、救急 車行 き過 ぎる 。電 車が 通 り過 ぎる 。 ヘリコ プタ ーが 舞って行き過 ぎ る 。街の 喧騒 。 登 場 し た人 々 はこ の 世 界 定 め の 場 に 住 み 着こ う として いる 。そのよ うな一連の 動き。 こ の人 々 は 純 白 の ウ エ ディ ン グド レ ス で ある 。 鍋 島 、 釜 田 、 刈 田 、 熊 野 、 五 色 、 山ち ゃ ん 達 で ある 。なお 、こ の鍋 島 、釜田 、 刈田 、熊 野、五 色は 自 分が オ カ マ と 思 って いる 、 ある い は それ を 自認する ご婦人達で ある。山ちゃ んは バック パッカ ーよ ろし くリ ュックサッ クを 背負 って い る 。 バッ ク パッ カ ー か ら 容 易 に 連想 さ れ るが 山 5 だ。 強 烈 な 残 響 音 。 地 上 の 煙 突 か ら 土煙が 上が る 。 ま た、幾多 の民に 習 い共に、わ が運命 の 喜び と 悲し み を 、誇 り 高 き 言 葉で 言 上たて ま つら ん 。 願 い叶 う な ら ば、天におわす我らが大神様よ 、その天 上に光り輝 く 夜 空 の 星 の ご と くこ のひ と 時 を 、 安 ら か に 見 守 り た ま え 。 厄 災 あ ら ばこ の 世 のす べて と とも に 遍 く ご 加 護 の あら んこ とを 。 と 、 一 升瓶 のラ ッ パ飲 み 。 残 り の 一 口 で 酒 し ぶ き。 女2 東西 、口上あ い勤めます 。 女2 いざ 物語ら ん 。 女1 ⋮⋮ 女2 天に おわす我らが 大神様よ、種々 の木の実を 盛った神 空襲警 報鳴る。 饌を 高くか ざして 供え ん。今、こ の祭壇 の前にかし づ き申し上げるは、名も無き流転流浪の河 原者の口上な 釜田 ︵ 対 空灯 火よ ろし く 懐中 電 灯を 照 ら す 。 ハン グル︶ 退 れば、一夜のいくば くかの慰み として 、 聞きとどめ お 避 、 退避 、 退避 ! か れ んこ と を 。 た だ 、 物 語 の 神 あら ば 、 直ち に 出 雲 の 国 よ り 立 ち 返り 、 い で 現 れよ 。 今 、 平 成 の 世 の 神 無 月、 人 々 の うち 何 人 か は 対 空 灯 火 よ ろ し く 懐中 電 灯 豊穣の世の開襟を失笑されるは、それも またよし。こ を 照ら す 。 蝋 燭も 灯 す 。 れより物語るは、罪深き我らが 願い、大地の願い、ふ とこ ろ深 き 海原に浮 かぶ 藻屑 な れば、一 夜の宴 の酒 の 鍋島 ︵ ハ ン グル︶ 息をこ ろし ましょ う 。何 ー んに も考え ず 。 肴に供され るこ とも あろうが 、 ゆめゆめ その真に 受 け つ いで に 思 いを 殺 し て み せ ま し ょ うか 。 それで も 余 る て の 世 迷 い ご と に あ た う は 、こ れ 世 の 習 いに あら ず 。 思 いが あ っ たら ば 、 なら ぬ 私も 殺 し ま し ょ う 。会え ぬ 古来、古よ り物語ら んとする幾多の民は 、われらが 運 あなたに会えまする 。だから何 ーんにも考え ず、まず 命の喜びと 悲しみを 仰せのとうり黙々と語り続けて き は息をころしましょ う。 たごとく、こ のよう にこ の祭壇 の前にか しづ く下 僕も 6 ちゃ んは女 形で ある 。こ う なる とここ は タイの カオサン通 りかもし れない。 な お 、 多 分 あ ま り 関係 な い が 、 宮 城 県 蔵 王 山 の 刈田岳・熊 野岳・五色岳の三峰に抱かれた円型 の火口湖を ﹁お釜﹂という。 女2 は 舞台 上、下 手のだ い じ ん柱 近く の框 の 上 に盛り塩。こ れから 行われる戦 場で の武運 長久 を 祈り 、 厄 災 退散 と 大地 の 豊 穣 を 祈り 五 穀を ま く。儀式は 終わる。 六人 の ﹁ シッ ー、 シー、 シ ー シッ ー ﹂で 一 くさ り その場を 包 む 。 五色 ︵ ハ ン グル︶ 静かに な っ たとこ ろ で 、 フーや 。 刈田 ︵ ハ ン グル︶ 一 息か ?休 憩や な 。 釜田 ︵ ハ ン グ ル ︶ はよ う蝋 燭 消 し いや 。どこ から 光漏 れ る か わ か ら ん や ん 。 攻 撃 の 的 に な っ たら ど な いす んや 。 鍋島 ︵ ハ ン グ ル ︶ 鎌ち ゃ ん ⋮ ⋮ 釜田 ︵ ハ ン グル︶ なんや 鍋や ん。 鍋島 ︵ ハ ン グル ︶ 聞え るや ん 。たぶ ん 焼 夷弾で 丸 焼 けや 。 こ ん なゴ ー ゴ ー ゆ う の聞 いたこ と あら へ ん 。風が 、 炎 を 巻 き 込 ん で 、 ま た 巻 き 込 んで る 劫 火 の 轟 音や 。 外 は 昼間のようかも知れ んな。 山 ゴー 、ゴー⋮ ⋮ 釜田 ︵ハングル︶聞きたない。 刈田 ︵ ハ ン グル︶ どこ 見て ゆ うて んや 。何で あた し の顔が 汚 いや 。え え 加 減に し いや 。つ くりが い い さか い、 化 粧して ない だけや 。 釜田 ︵ハングル︶ 聞きたない、何も聞えへん。ま ったく、 いつの話し て んや 。 いまは草木も 眠る 丑 三つ時で っ せ。 五色 ︵ ハ ン グ ル ︶ と り あえ ず 、 蝋 燭消 し いや 。 ゴ チャ ゴ チ ャ ゆ うて ん と 消 し ッ ! 刈田 ・熊野 ︵ ハン グ ル ︶ あか ん !こ れ は うち の 希 望 の灯 火 や。 鍋島 ︵ ハ ン グル︶ 時 化て んな ぁ 。 刈田 ︵ ハ ン グル︶ あんたのオ ソソ と はちゃ う 。 鍋島 ︵ ハ ングル︶ おっしゃ いましたや な いか、な いか。 熊野 ︵ ハ ン グル︶ せめて 、こ んな暗 い とこ 居ると き は 、 せ めて 、こ うして灯し とか な、見失うや な い。そら な 、 昼間は周り の明るさにかまけて 、気になら ん。あん た か て そ う や 。で も な 、こ う周 り が 暗 い と か な ん わ 。 暖 か い灯 りや ろ 。 と 、 三 人 は ハン グ ルで ﹁ 道 頓 堀 行 進 曲 ﹂︵ 日比 繁次郎・作詞 塩 尻 精 八 ・ 作 曲 ︶を アカ ペラ で 歌 う 。 五 色 は 口で 伴 奏 中 心 。 ♪ 赤 い 灯 青 い灯 道頓堀の 川面 にあつまる恋の灯に 7 五色 ︵ ハ ン グル︶ あんたら 、 いつまで 蝋 燭つけて ん。何 考 えて んや 。 刈田 ︵ ハ ン グル︶ まずは息を こ ろすこ とや 。 熊野 ︵ ハ ン グ ル ︶ しゃ べ っ た ら 息こ ろ され んや ろ 。ス ー ス ー 逃 げて る や ん 。 刈田 ︵ ハ ン グ ル ︶ 逃 げ 足 の 速 いや っち ゃ 。 五色 ︵ ハ ン グル︶ 無駄 口たた くんや な い。 刈田 ︵ ハ ン グ ル ︶ どこ を 叩 いて る ゆ う んや 。こ こ か 、 それ ともここか ? 鍋島 ︵ ハ ン グ ル ︶ いや ら し い 話 に な ん で 。 熊野 ︵ ハ ン グル︶ あんた なに 考え て ん 。 山 シー⋮⋮ な ん で カ フ ェ ー が 忘ら り ょ か 酔うて くだまきゃ あばずれ女 澄ま した顔すりゃ カ フェ ー の女王 道頓 堀が 忘ら り ょか 釜田 ︵ ハ ン グ ル ︶ 風 前 の灯や 。真 っ暗 な って も 知 ら んで 。 鍋やんゆう たったり 。 鍋島 ︵ ハ ン グ ル ︶ こ ら ッ !ゴ チャ ゴ チ ャ ゆ わ ん と 、 す っ き り 自 己破 産 せえ ッ ! 熊野 ︵ ハ ン グ ル ︶ あか ん 。こ の恋 の 灯 火消 し た ら ⋮ ⋮ 五色 ︵ ハ ン グル︶ 消し たら ど や ゆ う ん や 。 刈田 ︵ ハ ン グ ル ︶ 消 し て も う たら 、 刈田 ・熊野 ︵ ハン グ ル ︶ うち ら も うオ カ マや な い ! 五色 ︵ハングル︶ なんと! 婦人達 ︵ ハン グ ル ︶ うち ら オ カ マや ! 山 あて は女形や 。 婦人達 ︵ ハングル ︶太古の昔 からか ? 山 この世の生業や。 婦人達 ︵ ハン グル ︶ それで ! 山 切ないほどの、人に悟ら れぬ、芸や。 婦人達 ︵ ハングル︶ゲイとオ カマはど う違う! 山 字が 違 う 。操 の立て 方が 違 う 。 婦人達 ︵ ハングル ︶ それだけ か ? 山 女形には芸が ある。 婦人達 ︵ ハングル ︶女形は芸 者か? 山 女形は女とは違う! 婦人達 ︵ ハングル ︶ そうや 、オカ マは 女や ない。 刈田 ・熊野 ︵ ハン グル︶だか ら 、こ の 恋 の灯 火消 し たら あ か んのや 。 五色 ︵ ハ ン グ ル ︶ と は ゆ うて も 蝋 燭は 消 し いや 。 刈田 ・熊野 ︵ ハン グル︶希 望 の灯 火は 、 五色 ︵ ハ ン グル︶ そうゆ うて も 、 釜田 ︵ハングル︶ シー! 五色 ︵ハングル︶ なに? 鍋島 ︵ ハ ン グル︶ シッ ! 釜田 ︵ ハ ン グル︶ シー ! 誰か 来る ! 鍋島 ︵ ハ ン グル︶ シッ ! 釜田 ︵ハングル︶ シー! 五色・刈田 ・熊野 ︵ ハン グル ︶ シッ ! 8 六人 の ﹁ シッ ー、 シー、 シ ー シッ ー ﹂で 一 くさ り その場を 包 む 。 釜田 ︵ハングル︶ 灯りをけしてッ! 刈田 ・熊野 ︵ ハン グル︶エッ ! 鍋島 ︵ ハ ン グル︶ 蝋 燭を 消 し て ! 五色 ︵ ハ ン グル︶ も う、やや こ し い。 フー ! 山・刈田・熊野 ︵ ハングル︶キャ ー あたり は、暗 くな ったか と 思 ったが 女 1が 喋っ て いる 。 セリポス島 に流れつき、島の王ポリュデクテスの弟デ ィ タト ス に 救わ れ た 。 そこ で ペ ル セ ウ ス は 、 り り し い 若者に成長した。ところが、島 の王ポリュデクテス は、 美し いダナ エに思いをよ せて い たため、 ペルセウス が 邪 魔で し か たが なか っ た 、 そこ で ボ リ ュ デ ク テス は 言 葉たくみに 、地の果てに住む怪物ゴルゴンを 退治して くるよう、 ペルセウ スにしむけてしまっ た。 ゴ ル ゴ ン は 、 髪 の 毛 一 本 一 本が 蛇 に な って い て 、 あ ま り の 恐 ろ し い形 相 に 、 そ の 顔を 見 たも の は たち どこ ろ に石になってしまうという女怪だ。 ペ ル セ ウ ス は 、 知 恵 の 女 神 ア テナ から 作戦 を さ ず か り 、 伝令の神ヘルメスからは、翼の ある靴と 杖を借り、 地 の 果て オ ケ ア ノ ス に や って き た 。 そし て 、 直接 ゴ ル ゴ ン の 顔 を 見 な いよ う に 青 銅 の 盾 に 姿 を 写 し なが ら 、 眠 って い る ゴ ル ゴ ン た ち に 近 づ き 、 そ の う ち 不 死 身で な か った メド ゥ サを み ごと に 退治 し た 。 ペルセウスが メドゥサの 首を 切り 落としたと き、ほと ばしる血の 中から う まれたのが 、天馬 ペガ サスで ある。 ペルセウス は 、 メド ゥ サ の首を ひ っさげ 、 天馬 ペガ サ スにまたが ると帰り 道を急いだ 。 こ の と き メド ゥ サ の 首 は おび た だ し い血 に 染 ま って い た 。 見 開 か れ た ま ま の目 は 、 ペ ル セ ウ ス を 見て いる よ うで あった 。メドゥ サの髪の毛 は、ほと ばし った血 に よ って よ じ れか ら み つ き 、 それ は ま るで 髪 の毛 一 本 一 本 の 蛇が 大 蛇に 変 身 し たよ うで あ っ た 。 その 大 蛇の 数 は、十六匹。ペルセウスはあまりの恐ろしい形相にこ 9 g n i o g u o y e r a e r e h W 女1 ⋮ ⋮⋮︵や がて 夜空を 見 上げ︶ ⋮ ⋮ 北 極 星 、こ ぐま 、 ケ フ ェ ウ ス 、 カ シ オ ペア 、 ペ ル セ ウ ス 、 は くち ょ う 、 ア ン ド ロ メ ダ 、 ペ ガ サ ス 、 み ず が め 、 くじ ら ︵ と 星 座を 追 って 視線 は そ れ なり に 動 く︶ ⋮ ⋮ 夜目 遠 目 笠 の 内 、 そ ん な 戯 言 も と う に 縁 な い 身 と な っ たこ の ば ばで も 、順 に 星 々 を こ う し て 仰 ぐ と 、 不 思議 と 昔 の こ とが 想 い起こ せま す のじゃ 。 さて 、 今 夜 はどんな話をしまし ょうかのう 。︵ゆっ くりペルセ ウ ス仰ぎ、そして指差す︶⋮⋮ペルセウス⋮⋮わしはわ し の ば ば さ ま に ペル セ ウ ス の話 を 聞 い た こ とが ある 。 それは恐ろしい話じゃ った。怖くて 怖くて 、朝まで 一 睡もで きなか ったほ どじや 。⋮ ⋮昔、ア ルゴスにアク リ シオ ス と いう 王が いた 。 王に は ダナ エ と いう 娘が い た 。 あ る と き 、 王 ア ク リ シオ ス は 、 ﹁ 娘 ダ ナ エ に 子 供 が 生 ま れ る と 、殺 さ れ る ﹂と い う 神 の お 告 げを聞 い た 、 こ れを 恐 れ た 王 は 娘 ダナ エ に 男 が 近づ く こ と ので き な いよ う、城 の なかとじこめてし まったのじゃ 。 ア ク リ シオ ス が ほ っ と す る の も つ か の 間 、 大 神 ゼ ウ ス は 、 城 の 塔 の 窓か ら さび し げ に 外を 見て い る ダ ナ エ を 見 そめ 、 黄 金 の 雨 と な って 降 り そ そ ぎ 、 思 いを と げ て し ま っ た 。 つ ま り 、 一 発 や って し ま っ た と い う わ け じ ゃ。 だか ら、ダナ エはペルセ ウスを産 んだ。王アクリシオ スはおどろき、娘ダナエと孫の ペルセウスを小船に 乗 せて 海に 流 して し ま った 。運よ く、母子 を 乗せた船 は 倒 れ な い よ う 胸 ぐ ら を つ か んで い た 私 ま で 殴 ら れ る 有 様だった。 森氏は、一通り追求し終わると、 今度は、権力との関 係を追求し 出した。しかし、寺岡 氏は、 それをきっ ぱ りと否定し た。 すると、森氏は、私に、 女1 ﹁ 後 ろ で 寺 岡 の 手を 持 っ て 押 さえ て ろ ﹂ 女2 と指示した。私は、寺岡 氏の後ろに回り、寺岡氏の両 手を 後 ろ 手 に して 持 ち 、押 さえ た 。森 氏 は 、 寺岡 氏 の 前 に 正 座 す ると 、 再 び 権 力 と の 関係を 追 求 し た が 、 そ の 際 、 いき なり 寺岡 氏の 左 腿 に 細 身 のナ イ フを 剌 し た 。 寺岡氏は、 女1 ﹁ううっっ﹂ 女2 と う め き 声 を あ げて 上 体 を よ じ ら せ た 。 私 は 、 そこ ま で 激 し く 追 求 す る 森 氏に 驚 き 、 そ ん なこ と し たら 、 こ の あと ど う す る つ も り な ん だ と 思 っ たが 、 そ れ だ け 激 し く追 求す る 必要が ある のだ ろ うと考え 、 そうし た 思 いを 打ち 消 し た、 そ して 、 寺岡 氏の体が 倒れ な いよ う 一 層 力 を こ めて 寺岡 氏の 体を 押 さえ 、 森 氏と と も に 追 求した。 だが 、 寺岡 氏 は、 権力と の 関係を 否認し 続け た。途中 から、永田 さんが追 求に加わったが、その時、森氏は、 ナ イ フを 抜 き 、坂 東 氏に 耳打ち し た。坂 東 氏は、 寺 岡 氏のそばに 坐ると、 婦人達 ﹁この野郎﹂ 女1 ﹁ 本 当 のこ と を いえ ﹂ 10 の 十 六 匹を 一 つ づ つ 殺 し 、 切 り 捨て て し ま っ た のじ ゃ っ た 。青 銅 の 蛇を 造 り 旗 竿 の 先 に 掲 げ る に は 、 も う 時 は遅かった のじゃ 。 ⋮⋮ 女2 それ は異様な 光景じゃ っ た。十六 のうち の一 つの話を しよう。 女1 ⋮ ⋮ ﹁こ の 野 郎 、ふ ぎけ た 野 郎 だ !﹂ 女2 と い いなが ら 、 顔面 と腹 部を 一発 づ つ殴 っ た 。カ 一 杯 殴 っ た ため 、 寺岡 氏 は鼻 血を 出 し た 。こ の 私 の 欧打 が き っか け と な って 、 皆が 寺岡 氏 の 頭や 顔 を 激し く殴 っ た。 そ の あ と 、 私 の 後 ろ に 立 って い た 森 氏が 寺 岡 氏 の 追 求 を 始 め た 。 森 氏は 、 新 し い組 織 作りが で き なか っら ど うするつも りだったか、組織を 乗っ取ったら どうす る つもりだっ たか 、な どと追求し 、森 氏の 追求に応じ て 私 たち は 、 女1・婦人達 ﹁ど うなんだ!﹂ 女2 ﹁は っきり笞えろ∼!﹂ 女1 と い い なが ら 、 寺岡 氏を 殴 っ た 。 そし て 、 寺 岡 氏が 、 森氏の追求に、 女2 ﹁ 坂 東 さ ん と 調 査 に 行 っ た時 、 坂 東 さ ん を ナ イ フで 殺 して逃げよ うと思っ た﹂ 女1 ﹁ 警 察 の 顧問 を し て いる 叔父 さ ん に 情 報を 売 って 助 か る道を 確保 す るつも り だった﹂ 女2 など と笞え た時は、さら に激し く 怒り、寺岡 氏をめち ゃ くち ゃ に 殴 っ た 。 あ ま り 激 し く 殴 る た め 、 寺 岡 氏 が 女1 女2 女1 女2 女1 女2 n o i t a n d i d n e l p s a e k a m o t t n a w I 女1 女2 女1 女2 ア イス ピ ッ クを 受け 取 って 、 寺 岡 氏の 前 に 立て 膝で 坐 り 、 静 か な 口調で 、 ﹁お前に死刑を宣告する 。最後に いい残すこ とはない か﹂ と い っ た 。 寺 岡 氏は 、小 さ な声で 、 ﹁革命戦士として死ねなかったのが残念です ﹂ と 笞 え た 。森 氏は 、 寺岡 氏の セ ー ター と シャ ツを ま く り 上げて 胸 を は だ け る と 、 ﹁ お 前 のよ う な 奴 は ス タ ー リ ン と 同じ だ 。 死 刑 だ ﹂ と い って 、 ア イス ピ ッ ク を 心 臓 部 に 刺 し た 。 し か し 、 一度で は 絶命し なか った。する と、森 氏 は、全体を 見 ま わ し た 。 お そら く 、 誰が 自 分 に 続 く の か 確か め よ う としたので あろう。 私は、どのみち 殺さ れるのなら 早 く殺してし まった方が いいと考え 、また 、こ のよう な 誰もやりたがら ない 任務は党の ために率 先してやる べ きだと思っていたので、 ﹁よ し、俺が やる﹂ と い って 、 そ ばに いた 大 槻 さ んと N 氏に 寺岡 氏を 支え る のを 代 わ って も ら い、 森 氏か ら ア イス ピ ッ ク を 受 け 取 って 寺岡 氏の心 臓 部を 剌 し た 。血 は ま っ た く 出 な か った。私は二度、三度と剌したが、絶命しなかった 。 す る と 、青 砥 氏が 私 に 代 わ って ア イ ス ピ ッ クで 剌 し た 。 やはり絶命しなか った。私は、 脊髄の付け根の延 髄を 剌 せ ば 即死 す る と 聞 いて い た の で 、 ﹁ 脊 髄 の 付 け 根を 剌 せ ば い い ので は な いか ﹂ と い うと 、 誰 かが 寺岡 氏 の首の 後 ろを ア イス ピ ッ クで 11 n o i t c e j b o 女2 と い って 、ナ イフを 寺岡 氏の左腕 の付け根に 刺し た。 それで も 、 寺岡 氏は 、 権力 と の 関係を 否 認し た 。 こ う した追求 のため、寺岡氏の足 の下から血がしみ出 して来たばかりか、腕からも血が 流れて 来て 、私の 手 や 袖 口が 真 っ 赤に な っ た 。 そ の あ と 、 森 氏 は 、 寺 岡 氏の 前 に 立 って 、 寺 岡 氏を に らみつけて いたが、しばら くす ると、重々しい口調で 、 女1 ﹁お前の行為 はこ れまで と異なり 、反革命と いわざる を得ない。死刑だ!﹂ 女2 と い っ た 。 私 たち は 、反 射 的に 、 女1 ﹁ !﹂ 女2 ⋮⋮ ﹂ 女1 ﹁ 女2 何だと! 婦人達 ﹁ 異議 なし !﹂ 女2 と笞えた。 私は 、その時 まで 死刑など考えて も いなか っ たが 、森 氏の死刑の 提起に以 外な感じは せず、死刑に賛成し た。 それは、寺岡 氏の問 題を 敵対的 なも のと み なし たか ら で ある。し かも、私は、死刑を 厳格な規 律のために 必 要 な 革 命 的 制度 と 思 って い た の で 、 死 刑 そ の も の に 反 対する気持 はまった くなか った ので ある 。こ の時、 寺 岡 氏は 、目 を つぶ り 、じ っと し て いて 死 刑 の 決 定に 動 じ なか った が 、心中 は いか ばか りで あっ たろ う 。 私は 、 寺岡 氏 を 後ろで 支え ながら 、ど うや っ て 死刑 に す る の だ ろ うと 森 氏 を 見て いる と 、 森 氏 は 、 誰か か ら g n i o g u o y e r a e r e h W 女1・2の語りをかき消すようにご婦人達のハ ンド ・クラ ッ プ入る 。全員のハンド ・クラッ プ となる。 暗 闇の 中で 声が す る 。 釜田 ︵ ハ ン グル ︶ さー行 き ま っせ 。も うす ぐや ! 今 夜も い てこましま っせ。鉄 、ブリキ、ト タン、 真鍮、何で も ええからな 。袋一杯 なったら、 闇夜にま ぎれて消え る、 ええな。 鍋島 ︵ ハ ン グル︶ 教え と いた る 、 今 日 の 匁計 り の 値 は銅が 一 番や っ た 。が 、ス ケ ベ根性出して 袋に つめ たら 、 身 動 き と れ へ んで 。助 太 刀 当 て に し た ら 、 互 いに 命 取 り や 。オ カ マ はオ カ マ ら し く 自 分 の面 倒 は 自 分で 見る 。 ええな! 婦人達 ︵ ハン グル ︶ええ よ ! 釜田 ︵ ハ ン グル︶ 本当や な ! 婦人達 ︵ ハン グ ル ︶オ カ マ に 二 言 は な いよ ! 釜田 ︵ ハ ン グ ル ︶ オ イド の 穴 が ゆ る ゆ る に な って 、 皺 くち ゃ に な って も ! 婦人達 ︵ ハ ン グ ル ︶ も と も と 皺 くち ゃ や ! 五色 ︵ ハ ン グル︶ 今 夜は 、人 の死に 水 取 ったら あ か ん。 刈田 ︵ ハ ングル︶ 明日の朝、 猪 飼野の くず鉄屋で 顔合わせ ら れ たらめ っけも の 。 熊野 ︵ハングル︶ 大阪府警のガキども に撃ち殺されるもオ カマの花道 。 婦人達 ︵ ハン グ ル ︶ 命 が あ っ たら ま た 会 い まひ ょ か ! と、散 会の呈。 釜田 ︵ ハ ン グル︶ 待ち ッ ! 婦人達 ︵ ハングル ︶⋮⋮ 鍋島 ︵ ハ ン グ ル ︶ 鎌ち ゃ ん 、 ど う か し た か ? 12 剌 し た 。 そ れで も 絶 命 し な か っ た 。 女1 ﹁植 垣、首を 締めろ﹂ 女2 と 坂 口 氏が い っ た 。 私 は 、 寺 岡 氏 の 後 ろ か ら 両 手を 彼 の首にまわ して 締め よ うとし たが 、締め きれなか っ た。 吉 野 氏が 、 女1 ﹁ロ ープで 締め た方が い い﹂ 女2 と い い 、 誰 か が サ ラ シを 持 って 来 た 。 私 たち は 寺 岡 氏 を 早 く 絶 命 さ せ よ う と 必 死 だ っ た 。 サラ シを 寺 岡 氏 の 首 に ま いて 、 古 野 氏 や 山 本 氏 、 大 槻 さ ん 、 長 谷 さ ん た ち が 両 方か ら 引 っ張 り 上げて 首 を 締め た 。 寺岡 氏の 体 は 、 数 分 の 間 、 け い れ ん し て い た 、 そ の うち 、 け い れ んは 間 遠に なり 、 止 ま っ た 、青 砥 氏が 寺 岡 氏が 死 ん だ こ とを 告 げ た 。 サラ シが は ず さ れ る と 、 寺岡 氏の 体 は くの宇のよ うになって 床に崩れ た。 女12 ⋮⋮ 女2 こ のようにして 、一つづ つ⋮⋮一 つづつ⋮⋮ 一つづつ ⋮⋮一つづ つ⋮⋮ 最後に十六の墓標が残った⋮⋮ 女1 ⋮⋮ ⋮⋮ 13 ︵ ハ ン グル︶ シュ 、 シュ 、 シュ⋮ ⋮聞えて き たで 。 釜田 ︵ ハ ン グ ル ︶ 散 会 は 、も うち ょ い と まち いや 。鍋 や ん 、 鍋 島 熊野 ︵ハングル︶うそ、ウソ 、そんな あほな。 今日は何日や? 鍋島 ︵ ハ ン グ ル ︶ ⋮ ⋮ 鎌ち ゃ ん 、 今 日 は 大 阪 大 空 襲 の 月 命 蒸 気 機 関 車 の 音 近 づ いて く る 。 日や 。 釜田 ︵ハングル︶ご名算! 釜田 ︵ ハ ン グル︶ その あほが 、もひ と つオ マケで 、や って 鍋島 ︵ ハ ン グル︶ 忘れて おま し た 。 来る のが 満 州鉄 道 の ア ジア号 だ ったら ど な いす る 。 五色 ︵ ハ ン グル︶ それが ど な いし た ん 。 五色 ︵ ハ ン グル︶ なんか 来る ! 鍋島 ︵ ハ ン グル︶ も うす ぐ来 るや ろ 。 救世 主が 。 釜田 ︵ ハ ン グル︶ 車 窓から 、 煌々 とも れる灯 りが 、こ の 大 刈田 ・熊野 ︵ ハン グル︶救世 主 ? 阪砲兵工廠 の鉄 くず の山を 照ら すときが 、散会の時 や 釜田 ︵ ハ ン グ ル ︶ 男 の 胸で 熱 い 鼓 動 を 聞 き 取 る よ う に 、 息 で 。え え な 。 こ ろして 耳 澄 ます ん や 。も う ボ ツボ ツ聞 え て くるこ ろ 鍋島 ︵ ハ ン グ ル ︶ 車 輪 の 軋む その 音に 乗 って 、鉄 の 山を 駆 や。 け 巡 る んや 。蒸 気 が ボ イラ を 泣 き 叫 ば せ る 。 大 阪 府 警 鍋島 ︵ ハ ン グル︶ シュ 、 シュ 、 シュ⋮ ⋮ のガ キ ど も が 、 京 橋 向 いて 最 敬 礼 の 身 動 きで き ぬ 、 そ 刈田 ・熊野 ︵ ハン グル︶ シュ 、 シュ 、 シュ⋮⋮ の 間を 縫 っ て 、 いて こ ま し た る んや 。 時 間 は な いで 。 五色 ︵ ハ ン グ ル ︶ な んや ね ん 、 そ の シ ュ 、 シュ ⋮ ⋮ ち ょ っと の 間や 。 今 日は 、 無 礼 講や ! 釜田 ︵ ハ ン グル︶ 草 木も 眠る 丑三つ時 、 大阪大空 襲の月命 熊野 ︵ ハ ン グル︶ う そ、ウソ 、 シュ 、 シュ 、 シュ ⋮⋮ 来た ! 日 、 静 寂 の し じ ま を 押 し や って 、 シ ュ 、 シュ 鍋島 婦人 達 ︵ ハ ン グル︶散 会や ! 刈田 ・熊野 ︵ ハン グル︶ シュ 、 シュ 、 シュ⋮⋮ 婦人達 ︵ ハン グル ︶行こ か !散 会や ! シュ 、 シュ 、 シュ⋮ 鍋島 ︵ ハ ン グル︶ シュ 、 シュ 、 シュ⋮ ⋮ ⋮ シュ 、 シ ュ 、 シュ ⋮ ⋮ 五色 ︵ ハ ン グル︶ シュ 、 シュ 、汽 車か ? 刈田 ︵ハングル︶蒸気機関車や! 釜田 ︵ ハ ン グル︶ そうや 、 あ の 東西線 を 突き進 んで 、 京 橋 で 止ま る 。 御 霊が 、 ホ ームで 待 って る ん や 。来 んわ け 蒸 気 機 関 車 の 轟 音 に 汽 笛を 伴 って 行 き 過 ぎ る 。 鉄 体を 軋 ま せ 止る 。 蒸 気 と 騒 音 に ま ぎ れ て ご 婦 に は いか ん 。 人達は散会して 退場 。 五色 ︵ ハ ングル︶ なにゆうて んや 。始発はまだや 。まして 蒸 気 機 関 車 と は そら な い わ 。 ノ ー ト パソ コ ン か ら 着 信 音 の ベ ル 鳴 る 。 集 中 す る二人。 再び ノ ート パソ コ ンから 着 信 音の ベル 鳴る 。 m u a B n e h c u K 女2 懐か し いな。 女1 えッ ? 女2 懐か し い。 女1 うそ。 女2 本間、千代子や。 女1 え 、 あたし 浜 田 光夫 ? 女2 なに ゆうて んや 、それや と あたし が吉 永小 百 合か ? 女12 奥 さ ん、オ ウ ジョウし ま っせ、 鹿 の フン 。 女2 鳴 っ て んで 。 女1 へえ 。 女2 そや か ら 、 鳴 って んで 。 女1 うそ。 女2 本 間 ⋮ ⋮ 懐か し い な 。 女1 あの 呼び 出し 音、なつか し いん? 女2 懐か し いな い か ? 女1 あ た し は い つ も のこ とや から 。 女2 そら ま そうや な 。 14 [ 2 章 ] 女1 ボ ケ て へんや ん 。 女2 ボケてるようなツッコミやがな。 女1 所詮ボケ・ツッコミの二 元 論は日常会話の限 界を アウ フヘーベン 、 女2 ほう、奥さんゆわはるや ん。 女1 バームクーヘンの歴史は 非常に古 く、今から 約二百年 程前に誕生し、芯棒に生地をか け焼き上げる製法は古 代ギリ シャ に まで さ か のぼると いわれて おります 。 一 層一層丁寧 に焼き上げることか ら、長寿 ・繁栄をイ メ ー ジし 、 結 婚 式や お 祝 い事に 欠 か せ な い バーム ク ー ヘ ン 。 切り 口 が 木 の 年 輪 のよ う に 見え る た め 、 木︵ ︶ ︶と名付けら れ、現在では﹁お菓子 のお菓子︵ の王様﹂と 呼ばれるようになり ました。 確か な眼で 選 んだ良 質な 素材を 使 い焼き 上げ るこ とは もとより、 バ ームクーヘンのふ る さと、森の 国ド イツ⋮⋮はい、や っとで まし たド イツ 。アウ フヘ ー ベンも バームクー ヘ ン も 単 な る ド イ ツ 語 や と いう 語 源 を 求 め て や って ま い りました。 女2 ホエ 。どこに いくん。 女1 しょ うもないというのはドイツや 。 女2 キ ビ シ イ !⋮ ⋮ いや ま あ そら な 、 志 百 年 の 大 計 か ら み れば、日常会話の脈絡など、目クソ鼻クソ。 女1 あ か ん 。ち ゃ う 。 そ の い い加 減 は な い 。 ユ ー ハ イ ム や で 、 横浜か ら 船 に 乗 って 神 戸 に つ い た 。 いや 、 高知 か ら船に乗って 神戸に ついた。とも あれ、まだ先は長 い や ろ 。 喋り なが ら 、 行 き 先 見 つ け る んも テク ニ ッ ク や 。 と 、 音 楽 に 乗 って ご 婦人 達 登 場 。 ? o o t , t i k s a e w y a M 蔵王三山 女1 釜田 ・鍋島 山 女1 婦人達 女1 フットサル・エクササ イズ決まる 皆さん、 お疲 れ様 で し た 。 私 は ジーコ で す 。︵ 動 き 決ま る ︶ どや 、 ジ ー コ か て け な げに 日 本 語 の ワ ン セ ン テ ン ス や 。オ マ リ ー で おま 。駐 車場 あり ま へん 。が んばら ん か い。 山 道に 迷ったのかもしれま へん。 婦人達 道 に 迷 って し ま い ま し た 。 女2 どこ から来た ん。 . k s a o t t n a w I ! x o b e c i l o p a o t o G ) それぞ れあら ぬ方向を 示す 。 女2 しゃ んとせえ 、優勝で け へんか っ たんや 。ど うしてや 。 も うえ え 。 あ っち か ら 来 た ん な ら 、こ っ ち へ行 き な は れ。 15 . n a m e c i l o p e k i l e W ( 女1 鳴 っ て へんて 。 ま っ た く あ ん た の 、 往 年 性 認 知 症 は 手 に おえ ん 。 女2 あ ん た に は 聞 いて な い 。 じゃ 、 誰に聞 いて んや 。 あの呼び出し 音を鳴らして いる、まだ見ぬあなたに。 二度目は郵便 配達に聞き なさい。 あ た し が あ た し に 聞 いて ど う す ん の 。 . y a w r u o t s o l e v a h e W ノ ー ト パソ コ ン 開 く 。 音楽 。 女1 女2 女1 女2 . d o o g t o n s i t I . e s u o N 女2 ほ う 、 耳も ク ソ す んで 、 で も 奥 さ ん 、 そ ん な の 便 所 に 入 っ た とこ 、 見 たこ と な いわ 。 男 便 所か 、 女 便 所か ? 女1 あんた、会話が一行ずれてる。 女2 なに 回り くど いこ と言うて んや 。 私なんか 、こ の目尻 んとこ 、毎 日、 バー ム ク ー ヘン ぶ ら 下 げ て ます 。 女1 函 館 か ら 船 に 乗 って 神 戸 に 着 い た 、こ こ は 港 まち 女 が 泣 いて ま す 、 五 木で す 。 女2 ス ベッてますで 、五木は ん。 女1 三行 前 の 訂 正 を し た んや 。 女2 横 浜 か ら 船 に 乗 って 別 府 に 着 い た 、こ こ は 小 雨 ま ち 女 が 泣 いて ま す 。 女1 函 館 か ら 船 に 乗 って 東 京 に 着 い た 、こ こ は 日 暮 れ まち 女が 泣 いて ま す 。 女2 いつ 横浜で る んや 。はよ う神戸にこ んか い! 女1 あんたはなんにこだわって んだす 。 女2 だ か ら 、 鳴 っ て んで 。 女1 も う 止 んで る わ い 。 女2 ウソ ? 女1 ホンマ。 女2 じゃ 、 いつか ら 鳴 って ん の 、こ の 呼び 出し 音 。 釜田 ちゃ う。そや ない。しゃ んとし な はれ。 女1 どこ で 関西弁 覚え たんや 。 女2 あん たのは関西語ちゃ う 。生まれ はどこや 。 熊野 長 崎 か ら 船 に 乗 って 神 戸 に 着 い た 、 五 木で す 。 女1 あて つけみ た いに うま いや な いか ? 五色 道 に 迷 って は い け ま へ ん の ん か ? 女2 ち ゃ う 、 道 に 迷 って は い け ま へ ん のか ?や 。 鍋島 あ の 、 人 生 の 道 に 迷 っ た ので す 。 釜田 人生を踏み外したのかも 知れません。 女12 な んやて ? 婦人達 道 に 迷 って し ま い ま し た 。 女12 で? 婦人達 こ っち か ら や って 参 り ま し た 。 女12 ほうー? 婦人達 あ っち で は 勝 つ つ も りで す 。 女2 だか ら 優勝で けなんだんや 。 女1 パー ぺきに喧嘩売 って る 。そやろ 、なんぼ顔が 白 いか らて 、喧嘩 売んなら 、血相かえ なあかんや ん。 五色 売 っ て は いま せ ん 。で き る なら 、 人 生を 買 い た いと 思 って い た の で す 。 釜田 は い は い、人 生 は 売 り 買 いす る も んや オ マリ で す 。 女2 ねえ ちゃ ん、 無理し たら あか んわ 。 鍋島 は い は い、で は 参 り ま し ょ うか ? こ ち か ら 参 り ま し た ので 、 あち に 参 り ま す 。 刈田 わ た し は 、こ ち か ら 参 り ま し たが 、 本 当 に 、 こ ち か ら 来 た ので し ょ う か 。 や が て あち ら に 参 り ま す が 、 そ れ はどこに参 るのでし ょうか? 釜田 女には構うな! 熊野 どこ におん。 鍋島 そん な暇、あら へんや ん 。 五色 そっちかて、 いけまっせ 。 刈田 そ れ を いえ ば 、 向 こ うか て 選 択 肢 や ろ 。 釜田 カ マ か け と ん な 。こ の わ たし に カ マか け る の か 。 蔵王三山 そんな大声でカマカ マゆうて 、何が楽し い。 釜田 私は 釜田や 。 鍋島 わたしは控え めな鍋島や 。 女1 お い 、ここ に お んや ろ 。 女2 あんた、3テンポ遅いわ 。 女1 ば あち ゃ んに はカ マえ る や ろ 。 釜田 ・鍋島 生物学 的な女にの残 骸に興味はないわ 。 鍋島 あ ん た な んで 、面 と 向か って カ マ な んて ゆ う ん 。 釜田 それは、あたしが いう。この釜田が いう、カ マうな。 女1 迷え る人生が あるうち は いい! 間 刈田 刈田 、 あっけ にとら れて 、 熊野 熊野、二の句がつけず、 五色 五 色 、 朝 ぼ ら け の 王が 飛 んで い く ! 16 ブッ つ か り ながら それ ぞれ へ。 だか ら、 ♪ 霧 氷⋮⋮ ♪ 霧 氷⋮⋮ ♪ 霧 氷⋮⋮ 知ら んで 、ど ないして くれるん。 なんやねん。 な ん や ね ん と は 、 な んや ね ん 。 ご ら ん 、 詳ら か に 見て ごら ん。も 一つ努力 して心眼で 見なさい 。あんたの 、 あまりの、 常識的な、礼を失し た、御託 言に⋮⋮ 釜田 迷え る人生が あるうち は いい! 鍋島 恥ず かしや な いか 、ないか 。自責 の念が 、絶 対 零度 釜田 摂 氏 マ イナ ス 二 七 三 ・一 五度 。こ の 状態 に 近 づ くこ と はで きるが 、到達す るこ とは理 論 的に不 可能 なのを 、 知 って のこ とで おま す のか 。 鍋島 そん な論理を 覆し、今見 事に 絶対 零度だす、 ないか 。 釜田 ただ いま、絶対零度を演 劇的に解 決して おま す 。 刈田 刈田 、摂氏マ イナス二七 三・一五度。 熊野 熊野、摂氏マイナス二七 三・一六度。 五色 五色、摂 氏マ イナス二七 三・一七度を 四捨五 入で摂 氏 マ イナ ス 二 七 四 度 。 刈田 刈田 、 四捨五 入で 摂 氏マ イナ ス 二 七 四度 。 熊野 熊 野 、 同じ く 四 捨 五 入で 摂 氏 マ イ ナ ス 二 七 四 度 。 鍋島 は い 、揃 いま し た 。 蔵王三山 ピッキーン! 女12 な んや 、ど な いし まし た ? 釜田 論理値を突破してしまいよりまし た。 婦人達 ピキピキピ ッキ ーン !ピキピッ キ ーン! 鍋島 お待 たせしま し た。 蔵王三山 ︵歌う︶⋮⋮ ♪霧氷 霧氷 思い出は かえら ない 遙かな 遙かな 冬空に 消え た恋 霧の街角で 告げたさよならが 僕を 僕を 僕を 泣かす と 、 ア カ ペラ 。 釜 田 と 鍋 島 は 口で 伴 奏 。 ﹃ 霧 氷 ﹄ 宮川 哲夫 ・ 作詞 、利 根一郎 ・作曲から 。 17 鍋島 刈田 熊野 五色 釜田 女1 鍋島 釜田 ・鍋島 はい、拍手。 女12 ⋮⋮ 鍋島 お婆ちゃ んたち 、不満なようなので 、もう一 度行きま す。 釜田 ハイ、本番テイクツウ、 三、二、︵一、Q︶⋮⋮ 蔵王三山 ♪霧氷 霧氷 女12 も うえ え ! 女2 東 北 の 一 番 上 の 左 上や 。 女1 え? 女2 いや 、一つ下 。 女12 ⋮⋮ 女1 あき た︵秋田 ︶。 女1は なぜか匍匐前進。 と 、 背 を 向 け 襤 褸 の両 袖を 広 げて 立ち 塞が る 。 音楽 。 0 0 4 2 女1 こうしてまど ろむとね、 うまくいく。そんな時よく夢 を み る 。も う特 技 な の 。⋮⋮ 今 か ら 年前、ギリ シ ャ の哲学 者 デモ クリ ト ス は 、 身 の 回り の 物を小 さ く 小 さ く 切 って い く と 最 後に ど う な る の だ ろ う か と 考 え ま し た 。も う こ れ 以 上 小 さ く なら な い 原子 を 推 論 し ま し た。いまで は素粒子 と呼びます 。エネルギーの粒で す。 わたしは素粒子の粒ですか? ♪ 君が いた 夏は 遠い夢の中 e r 音楽変 わる 。襤褸 の衣 装転 換。﹁大阪 物語・ 1﹂ の衣装に変わる。女 1は歌う 。同時 に 女 2 、 釜 田 ・鍋島 は踊 る 。 刈 田 ・ 熊 野 ・ 五 色 は 絶対 零度 の体勢 の ま ま 場 所を 移動す る 。 n o i s i v 女1 ア タ フ タ 、 あ たふ た ⋮ ⋮ 釜田 なに して んや 。 女2 キビ シイ、んちゃ う。 鍋島 婆ち ゃ ん何 し て ん ? 女2 ハイ、ゆうたり。 女1 老這 ︵狼狽︶ 、して んや 。 釜田 ・鍋島 ︵あんぐり︶⋮⋮ 女2 ほら ス ベリま し た 。 釜田 ・鍋島 ⋮⋮ 女2 見た ままや ん 。ご推 察い たします 、あんたら の気持ち は よ う わ か る 。 ま あ 、 一 つ は 捻 ら な あか ん わ な 。で も どないしょ 。なんとしょ。知ら ん。もう知ら ん。あん たは、何 十 年変わら んつもりや 。少しは 成長し いや 。 女1 あた いの好みやろ。 女2 嗜好の話やおまへん。 女1 あた いのセン スやから ほ っときや 。 女2 個人 の問題に し たら あか んわ 。 女1 アイ デンティ ティや 。 女2 ア イ デ ア と ア イ デ ン テ ィ ティ はち ゃ う や ろ 。 女1 な に ゆ う と ん 、 同じ カ タ カ ナ 文 字 や ろ 。 女2 それ や 、 年取 ると そうい うコ ジツ ケを 平気で ぶ っ放す 。 そ れ は も う 兵 器 や 。 若 い 者 に 言 い 訳で け し ま へ ん 。 女1 ⋮ ⋮ 言 い 訳 さ せて く れ る ガ キ が い る うち は い い⋮ ⋮ く るなら来て みなはれ !そんな追憶が、と ぐろを巻いて 、 こ の あたいに押し 寄 せる なら 、 こ うして 両 手を 広 げて 、 今で も 立ち 塞 が って 見 せまし ょ う ! 18 女2 あ ん さ ん 、 い っ た いこ れ な ん だ ん ね ん 。 釜田 絶対 零度 の演 劇的な解決が、いま芸術に昇華 してしま いよ りまし た 。 鍋島 わか ら へんの ?至福の瞬 間に立ち 会ったんや ないか、 な いか 。 君 の髪の香りはじけた 浴 衣 姿が ま ぶ し す ぎて お 祭 り の 夜 は 胸が 騒 い だ よ は ぐれ そう な人ごみ の なか は なれ な いで 出しか け た 手を ポ ケット に 入れて 握り しめて い た 君がいた夏は 遠 い夢 の中 空に消えて った 打ち 上げ花火 ﹃ 夏祭 り ﹄ ︵ 作詞 ・ 作曲 破矢ジンタ︶から 釜田 ・鍋島 オ イ ! 何やこ れは !気持ち い いか ! 女2 年 寄 り の 冷や 水 も ギ ッ ク リ 腰 や な いか 。 鍋島 婆ち ゃ ん、 い ったいどこ まで 引 っ 張り廻す んや 。 釜田 こ れ 見て み 、 さ っ き か ら 、 づ ー と 置 き っ ぱ な し で 、ど な いす る つ も り ? 鍋島 何 と か せえ 。 釜田 絶 対 零 度 の 中 で 凍て つ い た ま ま や 。 鍋島 も う ず ー と 前 か ら 限 界や 。 女1 もっと動け! 釜田 ・鍋島 あか ん 、ピキピキ ピッキ ー ンや 。 蔵王三山 ピ ッ キ ー ン !︵ と 動 き ︶ 釜田 動か んでええ 。 鍋島 やめ なはれ!砕ける! 女2 ピキ ピッキーン! 蔵王三山 ピ ッ キ ー ン !︵ と 動 き ︶ 釜田 動か んとき。 鍋島 玩 具 に す んや な い 。 女12 ピキピキピ ッキ ーン !ピキピッ キ ーン! 蔵王三山 ピ ッ キ ー ン !︵ と 動 き ︶ 女1 ピキ ピッキーン! 女2 若 者 よ 、 体を 鍛 え て おけ !ピ ッ キ ーン ! 蔵王三山 ピ ッ キ ー ン !︵ と 動 き ︶ 釜田 ・鍋島 ス タン ディ ン グオ ー ベー シ ョ ン ! 鍋島 至福 の瞬間に 立ち 会った あなたの熱 い思いを 、その手 のひ ら に 包 み 、 割 れ ん ば か り の 拍 手に 載 せて 、 そ っ と 差し出して ください 。 釜田 熱 き 貴 方 の 賛 同が 、 絶 対 零度 の 女 王 たち の 、 凍て つ い た心を、その内部か ら、涙のし ずくのよ うに溶かすで しょう。 鍋島 そ し て し っ か り 、 そ の 心 に 焼 き 付 け ま し ょ う 。こ の 方 々 が 大 阪 の おばちゃ んで す 。 殺 し て も 死 んで く れ な い、 大 阪 の お ば ち ゃ ん の 原 型で す 。 釜田 熱 き 拍 手を 。 鍋島 こ の ため に 私 たち は 長 い 旅を して き た ので す 。 釜田 今一 度 、熱 き 拍 手を 、 ア ンコ ー ル ! 山・蔵王三山 ⋮ ⋮ わ た し は 遠 い西 方 の 果て か ら こ の 地 上 の 国へはるばると旅してきた。わ たしがこ の国に到達す る ま で の 遍 歴 に は 、 幾 度 か 死 を 覚悟 す る 拙 い運 命 の 嘆 19 空に消えて った 打ち 上げ花火 山 釜田 鍋島 さ あ いこ か 。 ゆ うて んや 。 女12 ⋮⋮ 山 ︵ ド イ ツ 語 ︶ ク ラ ン ケ 、 ES 細 胞 知 って ま す か ? 釜田 ︵ ハ ン グ ル ︶ ES 細 胞 知 って ま す か ?胚 性 幹 細 胞で す ね 。胚盤 期 と いう発 生 初期の胚 の一部で ある ため 、 授 精 し た 胚 、 つ ま り 初 期 の 赤ち ゃ んを を 殺 し て 入 手 し ま す 。こ れ は 、 倫理問 題を はら み ます ね 。 ︵ 日 本語 ︶ ど うぞ。 鍋島 知ら んのや っ たら、お黙 り。知ら んそうです 。 釜田 何も ゆうとら へんや ん。 鍋島 ES 細胞なんか知ら へんやろ。顔みたら 分か るや ん。 女1 ⋮⋮ 女2 E H エ リ ッ ク や っ た ら 知 って んで 。親 戚 か ? 鍋島 無理すんな。 山 ︵ド イツ語︶ クラ ンケ、 ES細胞欲し いんや 。 釜田 ︵ ハングル︶ 皆さん、こ こ にあっ たかも知れ ないES 細 胞を 求め て 、 長 い 旅 の末や っ て ま いり ま し た 。︵ 日 本語︶どう ぞ。 鍋島 ここ にあったかも知れな いES細 胞を求めて 、長い旅 の末や って ま いりま し た。ビ ジ ネス プラ ンで すよ 。 あ なた方の未来かもし れまへん。 ありうべき、もう一 つ の人生を お 届けでき るかも知れ ません。 安打スタンド はホームラ ン。 女12 ⋮⋮ 鍋島 知ら んのや っ たら 、お黙 り。 山 ︵ ド イ ツ 語 ︶ ク ラ ン ケ 、 それ は 希 望で す 。 20 きをも ったものだが 、それゆえ にこ そ、 幼少のころ聞 い たこ の 国 の 風 光 の 名 媚 、 人 情 の 温純 敦 厚 、 そして 清 潔にして 礼 儀正しい民族性など は、わたしの内部で は ほとんど絶対化されていた。たどりつくまでに費し た 苦労 のかず かずを ま ったく無意 味にし な いためにも 、 こ の 国 は 無 限 に 美し く なけ れ ば なら なか っ た 。こ の 国 の人々 は い ま 果たし て 憧れと い うも のを 理解するだ ろ うか。わたしは幼くして夢にこ の国を 憧れ、古くマ ル コ ・ポーロ の名 指し た黄金は 、 こ の国の 人々 の 胸中 に こ そ輝 いて いる にち が い な いと 信じ て 疑 わ なか っ た 。 憧憬 、なんと 懐かし い言 葉だろう 。それはつ ねに裏 切 られるため に、あたかも懊悩の蕾のように欲望の萼に つ くも の と は いえ 、 そ れ ある ゆ え に ま た わ た し は 様 々 の 苦難 の う ち に も み ず か ら を 見 捨て るこ と が なか っ た 。 多 く異 邦を 憧れる 少 年の心情が 、 その 国 の現 実よ り は その国の過 去の栄華 に、汗と脂 の匂いよ りは保存され た遺跡の無機的な美に向かうも のとはいえ、少なくと もこの国で は、一輪の花にかける哀惜の情や、一碗 の 茶 の 香り に 確か め あ う 心 の 交 わ り を 今も 見 喪 って い な い と わ たし は 聞 いて い た 。 ︵ 高 橋 和 巳 ﹃ 遥 か な る 美 の 国﹄から︶ ⋮⋮ ︵ ド イ ツ 語 ︶ いこ か 。こ こ と ち ゃ うや ろ 。 ︵ ハ ン グ ル ︶ 来 る とこ ろ を 間違 っ たよ うで す ね 。 さ あ 、 ま いり ま し ょ うか 。 長居をし す ぎ たよ う で す 。︵ 日 本 語︶どうぞ。 山 釜田 鍋島 釜田 鍋島 釜田 鍋島 釜田 鍋島 釜田 上のその勇 士はおよ そ七分の一 にす ぎな いのです 。と、 ゆ うて んや 。 ︵ド イツ語︶ クラ ンケ、 それは記 憶です 。 ︵ ハ ングル︶ 皆さん、それは記憶です 。︵ 日 本語︶ど うぞ。 そうです。それは記憶で す。だが 氷河期は一 万年前に 終わったのでしょうか。終わってはいま せん。現在 は 氷 期 と 氷 期 の 間 の 間 氷 期で ある に 過 ぎ ま せ ん 。 だ か ら わたくしたちは、凍土の中から染み出た、海水にまみ れ 出 た 、 解 けて し ま った 、 記 憶 で し か な い ので あり ま す 。こ れ は 、 神 の あ だ なす 錯 誤 で あり ま す 。 視 界 、 五 センチメートル下を とくとご覧 あれ。や がてわたくし たち は 、 き っと あ そ こ に 帰 る の で す 。 あ の 氷 塊 の 中 で 抱かれるのです 。ま かり間違ってしまっ た、魂の記憶 と お さら ば し て 、 貴 方 の 亡 骸は 、 凍て つ く ので す 。 も う一つの人 生 のため に 、と いって んや 。 魂 な ど 消 し 飛 び ま す 。が 、 そ の 肉 体と い う ク ソ 袋 は 間 違 いで す 。 間違 うとは、 タイミングが おうとら んとちゃ うで 。間 と 間 の 間に ある 間が ちゃ うと い うと ん の や 、と い っ て んや 。 ゆうて へん。 いま 、ゆうたやない。 うち は ゆ う た 。 それでええや ん。 だ か ら 、 ベラ ベラ い いす ぎや ろ 21 釜田 ︵ ハ ン グル︶ 皆 さ ん、 あ なた 方の ES細 胞が 、 絶対 零 度 に 凍て つ い た 、こ の 方々 の 記 憶 を 氷 解 し た か も し れ な い ので す 。で も だ め で し た 。 無 駄 足で し た 。︵ 日 本 語︶どうぞ。 鍋島 大 阪 グ ラ ン ド マ ザ ー 、 婆 ち ゃ ん 、 さよ う な ら 。で き る なら また会 いましょ う。離別が いつも 寂寞を 携えて や って くる と は いえ 、 悲しむこ と は あり ま せ ん 。 誰も 再 会が ないと はいえ な いのですか ら 。悲し みは乗り越え る た め に 、 私 たち の 前 に 試 練 と し て さ し 出 さ れ ま す 。 耐えましょ う。風雪には忍耐で す。孤独 に耐え 、それ を 美 学 に 昇 華 し ま し ょ う 。押 忍 、 も うこ こ で は 忍 耐 と は 希 望で す 。風 雪 が 五 ミ リ メ ー ト ル の 氷 解 に 姿 を 変 え た なら ば 、 それ は 雨 あら れ 、 雹 と 呼 び ま し ょ う 。 パ ン サーのごと くすばや か った風雪 は雹に豹変します 。こ のとき耐え るとは、美意識を内包した闘 いとなるで し ょ う 。学 術 的に 申す まで も な く 、 それ は 、 雹 は 文 学 に 豹変したのです。パラダイムチェンジ。忍耐と希望と 人生のレト リックを深 く理解して いただきたい、と 申 して います 。 釜田 意 訳 し す ぎや ろ 。 ワ ン セ ン テ ン ス や で 。む ち ゃ くち ゃ やん。 蔵王三山 ピッキーン!ピキピキピッキ ーン!︵と動き︶雑 談はやめて 、お願い。 鍋島 閑話 休題 。 南 氷 洋 の 海 氷 を も ろ と も せ ず 、 風 雪 に 耐え 、 海面にヌッ クと立つ 氷山が、わ たくしたち の視界に 五 センチメートルを 超える勇士を 見せたとしても、海面 22 女1 ⋮⋮ 女1 オイ、おばはん。 釜田 ︵ ハングル︶ アホの相手は止めて 、ぼち ぼち 行こか 。 女2 何や ? ︵日本語︶どうぞ。 女1 お い 、 ねえ ち ゃ ん! 鍋島 も う 阪急 は 阪 神や 。 女2・ご婦人達 な んや ? 釜田 どうや 、驚 い たか 。異国 間対話ナ ビ ゲータを あまくみ 女1 ど っち で もえ え 。一 度で しゃ べ っ たりや 。ま ど ろ っこ る んや な い 。 し いや ろ 。 なにして んや 。 鍋島 異国 間言語を 股にかけ、 国境を さすら うイン ストラク 鍋島 正 確 に ゆ わ な あか んや ろ 。 ター! 女1 ワンクッショ ン、ツウクッション 、なにゆいたいんや 。 鍋・釜 ア リ ゾナ 州 の ア ンコ ー ル ・ラ イ フ ・ス ミ チ オ ン ・モ 釜田 あ ん た 、ち ょ っ と 来 い 。 そ ん な 単 純 に 物 事 を 判 断 し た ン サ ン ト 財 団か ら や って ま い り ま し た 。 ら あか んや ろ 。︵ 女 1の 耳元で 。小声で は な い︶も う 婦人達 ピキピキピ ッキ ーン !ピキピッ キ ーン!道に迷っ 阪急は阪神や。ハイどうぞ。 女1 ︵鍋 島の耳元で 。小声で はない︶ 阪急は阪急で 、阪神 て し ま いま し た 。 ポ リ ボッ ク ス を 探して いる ので は あ は 阪 神や 。 阪 神 は 阪 急 や な いや ろ 。 り ま せ ん 。 人 生 に 迷 った ので す 。 鍋島 ︵女 2の耳元 で 。小声で はない︶ 北半球も南 半球も 氷 山 ︵ドイ ツ語︶行こか! が 解 けて 、 海面 水 位 が 上 昇し と り ま す 。 こ の ま ま や と 、 釜田 ︵ ハ ン グル ︶ 記憶 は 思 い 出で は あ り ま せ ん 。 人 生 の 掃 大阪は大丈 夫やけど 、まも なく 東京は水没します 。遷 き 溜め に 捨 て 去 るこ とを 忘 れて し ま っ た 生 ご み な の で 都を 真剣に 考え なあか んや ん。 緊急 な政 治課題で おま す 。 い ず れ は 酵 素 に よ って 分 解 が 始 ま り ま す 。 そ れ が す 。 いや 、 こ れ ホ ン マ 。 お 嫌 なら 、 当 、 ア リ ゾナ 州 の ア ン コ ー ル ・ラ イ フ ・ ス 女2 ︵ 刈 田 ・ 熊 野 ・ 五 色 の 耳 元で 。小 声で は な い ︶ 北で 飛 ミ チオ ン ・ モ ン サ ン ト 財 団 に お 任 せ く だ さ い 。 冷 凍 催 び 込む んや ったら 曽 根 崎の森を 抜 け 淀川 まで いか ん な 眠 を 格 安 の 値 段で お 届 け し ま す 。 そ れ で は 大 阪 の お ば ら ん 。 南 は 道 頓 堀 や が 、 橋 の 上 に 鉄 柵で きて も たや ろ 。 ちゃ ん、ま た会いましょう。︵ 日本語︶どうぞ。 まあ、あんたなにゆうとん、それもこれも優勝して か 鍋島 音楽 ! ら の は なし や ろ 。来 年来 年、で も ま っこ と 心 配や 。 あ れ 、こ れ が ホン マ の 取 ら ぬ 虎 の 皮 算 用 や な あ 。 と 、 副 う そ う な 音 楽 。 ご 婦 人 たち 、 ゆ っ く り と 蔵王三山 ピキピキ ピッキー ン!ピキピ ッキーン !氷解! し た 動 きで 、 音楽 に 乗 って 退場 。こ のと き ノ ー ト パソ コ ン から 着信 音の ベルが 徐々 に 大 き く な 山 ︵ドイ ツ語︶話 にセンスも なければ 脈絡もないなあ。 る 。や が て 、 ノ ート パソ コ ンか ら の 着 信 音 のみ となる。 [ 3 章 ] 女2 鳴 っ て んで 。 女1 そや な 。 女2 ず ー と 、 鳴 っ て んで 。 女1 まも なく開局です。マイクテスト 、チェック 、チェッ ク⋮⋮ 着信 音 のベル鳴る なか女2 が シンセサ イザーで 演奏する﹃レットイットビー﹄が 流れる はじめ る。 女1 それではオー プニングに、今日までのメール投票、集 計 結 果 第一 位で す 。 歌 います 。 ♪空は澄みきり 蒼く 果て なく広く あの思いは 海に なが れ 出る 人生とは そん なものだ と 23 女 1 は 受話 器を と る 。 な お こ の 受話 器 は ノ ー ト パソコ ンの 近くに 置か れて いた 、ワイアレス ヘ ッドホンマ イクで ある。 m o d s i w f o s d r o w r e p s i h W e b t i t e L ♪星空をみ あげる 心が お おき くなる ね そこ はき っと 無限 だからさ 人生とは そん なものだ と な ん ち ゃ って ね ∼略 ∼ m o d s i w f o s d r o w r e p s i h W e b t i t e L e b e b t i t e l , e b t i t e L , e b t i t e l , e b t i t e L t i t e l , e b t i t e L , e b t i t e l , e b t i t e L m o d s i w f o s d r o w r e p s i h W e b t i t e L e b t i t e L e b t i t e L m o d s i w f o s d r o w r e p s i h W m o d s i w f o s d r o w r e p s i h W 女1 それ で は お待 ち か ね の イ ン ター ネ ッ ト ラ ジオ を 始め ま す 。不 定 期 国 立 ラ ジ オ 放 送 局 の 開 局 の 時 間が 、 今 日 も や って き ま し た 。も うすで に ア ク セ ス し て い た だ い て いる、全世 界のリス ナ ーの皆さ ん。お元 気で し たか ? e b e b t i t e l , e b t i t e L , e b t i t e l , e b t i t e L だか ら 軽く ジャンプしてみると あっけなくおさらばでき るものさ 人生とは そん なものだ と な ん ち ゃ って ね t i t e l , e b t i t e L , e b t i t e l , e b t i t e L e b t i t e L ♪星空をみ あげる 心が お おき くなる ね そこ はき っと 無限 だからさ 人生とは そん なものだ と な ん ち ゃ って ね 女1は 歌い終わると、女2 のエンディ ングの演 奏の中、女 1の次の台詞を始め る。女2 は演奏 24 e b t i t e l , e b t i t e L , e b t i t e l , e b t i t e L e b t i t e L な ん ち ゃ って ね / P C T ー ネ ッ ト が 電 波 か だ って ? そ んな細か い話 し は さ て お いて 、電 磁 層 に 操 ら れ 迷 子 に な た 7 M ヘ ル ツが と 出 会 い ま し た 。 そ ん な プロ ト コ ルが ある か だ っ て 。 言 う に 事 欠 いた そ の 杓 子 定 規 は 三 寸 五 分 の 尺貫 法で す 女1 リスナーの皆 さん。お元 気でしたか ? お変 わり あり か? い い で は な い で す か 、 パ ン ダ が 歩 く んで す か ら 、 ま せ んで し たで し ょ うか 。相 変 わ ら ず の 騒 が し い シ ャ そ ん な い い 加 減 な 無 理を 言 って は い け ま せ ん 。 十 数 年 ン プ ーで 、 いや 石 鹸 で 、 いや い や 世 間で 、 ホ イ 、 快 調 さまよ った電波の波 動が 、私の 鼓膜を 揺するなんて 、 のオ ヤ ジギ ャ グ三 段 論 法と ばし て 、相変 わら ず のわ た それはも う 無理難題 に決まって います 。 無難をまと も くしです 。 それで は 早速、ブラ ジルに お住ま いの、 あ に受け答え させるのですか? リスナー のやさしさは と 十 年で 六 十 才 に な る おじ い チ ャ マ か ら の 、 テキ ス ト どこに行 っ たのでし ょうか 。君も 砂の中 に銀河が 見え チャ ッ ト が 届 いて い ま す 。 日 本 の お 孫 さ ん へ の メッ セ な いク チで す ね 。 ー ジで す 。 ご 紹 介し ま し ょ う 。 み っち ゃ ん 、 聞 いて る か な 。人 生 残 り 少 な いか も 知 れ な い おじ い チャ マか ら 、 ⋮ ⋮ 十数 年 、 ⋮ ⋮ そ れ は も う 二 昔 、⋮ ⋮ ず い ぶ んと 遠 く へ⋮ ⋮ 思 え ば 日々 は多 く の 年 月を 数 え て し ま い ま し あと五十年も生きなければいけ ない、幼 少の君への 暑 た。ついに昭和と平成を股にか けた、名 状しがたく 横 い厚いヨタ ・カの星です 。 た わ って し ま っ た 大 い な る 流 れ を 、 心 の 中 で あ れ 、 皮 ⋮⋮ 五尺七寸 、極めて健 康、⋮⋮ 。⋮⋮静寂 。いま、 膚で あれ 、 美し い沈 黙 に 秘め な がら ,日 本と 世界の 状 こ の物言わ ぬ 漆黒 の 闇に 、 身体を 委ね な がら 、 いま だ 況を 眺めて き たあな たに、心か ら のメッ セー ジを 贈 り 出会わぬ多 くの人々 へ、来る日を夢 見て 試験電波を 発 ます 。 信します 。 CQ、CQこちら7 Mヘルツ 、出力5㍗ 、 試験電波発 信中、JE3⋮⋮ いやコール サインはあり ⋮⋮⋮﹁わたしが訴えて いるのは あくまでも 平和で あ ります。その崇高なる原則は犠 牲で あります。同胞た ません。メリット5で極めてクリアな方、特にメリッ ち よ 、 漆黒 の時 が深 ま れ ば深 ま る ほ ど 、 夜明 け は 近 い ﹂ ト1の混信中のあなた、タヌキ などやめて発信願いま ファイナ ル⋮⋮⋮こ んな痛みは まだ通用 するでしょ う す。 か? 通用するなら 、発信願います。 み っ ち ゃ ん 、 悪 いけ ど 君 の あと 十 年で 六 十 才 に な る お じ い チャ マ の ほ うが 混 線 し て い る よ うで す 。で なか っ み っ ち ゃ ん ま だ 聞 いて い ま す か 。 君 の あと 十 年で 六 十 才 に な る お じ い チャ マ は 少々 ヤ ケ 気 味 で す よ 。 火 傷 し たら 、 十 年 一 昔 前 の ハム 無線 に よ って 、 イン ター ネ ッ な い 程 度 に 聞 いち ょ く れ 、 ト ラ ジオ が 電 波 ジャ ッ ク さ れ た の で し ょ う か 。 イ ン タ 25 P I が 終わると 退場。 右記の 歌詞は意訳したも のです 。 はか くもし たたかで あります 。 CQ 、CQCQ、いまだ 出会わぬ美しき憂愁の沈黙よ 、 こちら7M ヘルツ、 出力5㍗、 試験電波発信中、JE 3⋮⋮⋮いやコールサインはありません。試験電波発 信 、 発 信 願 いま す 。 こ の メッ セ ー ジが ⋮ ⋮ ⋮ ﹁ わ た し が 訴えて いるのは あ くまでも平 和で あり ます 。その 崇 高 な る 原 則 は 犠 牲 で あり ま す 。 同 胞 たち よ 、 漆 黒 の 時 が深 まれば深 まるほ ど、夜明け は近い﹂ ファイナ ル⋮ ⋮⋮と叫ばざるを得 ない向こうに、信じられぬほど の 星 空が ある と は いいが た い痛み を ⋮⋮ いや 正確に は 、 そこ に は メ ッ セ ー ジ を 発 す る そ の 裏 か ら そ の メッ セ ー ジを 信じ ら れ ぬと い う 、 痛みが あり ます 。も うこ こ で はき っと 、 痛みこ そ メッ セ ー ジ なので あ り ます 。つ い に痛みとは︵いい切ろうとするが、言い切れない︶⋮ ⋮⋮ そして 痛みとはッ! ⋮⋮ ! ク リ ア ー 5 、 いや ク リ ア ー 1 、 こ の メ ッ セ ー ジを メ ッ セ ー ジ下 さ い。星 座 の 煌 く 乱 反 射 に も 似 て 、 電 波 の 赴 く ま ま に 、 メッ セ ー ジ下 さ い 。 痛 み こ そ メッ セ ー ジ な ので あ り ま す 。 そし て 痛 み と は ッ ! こち ら 試験電 波発信中、 漆黒の闇をこ のメッ セージが 覆 い尽 く さ んこ とを 祈り ます 。 き っと そ のと き 、 そ の と き こ そ、 美 し き 沈 黙 は 、 あら か じ め 失 わ れ た 言 葉 を 、 ついに発す るでしょ うかッ! 混線の 雑音。電子 音。乱反射。 26 ⋮⋮ わたしは 今日まで生きてきました。一回コッキリ の生しか生 きること しかできな いながら 、だが それを、 決して他人 とは取替え のできな い固有の理由で 。あな たもまた、 そのよう にして 大い なる流れ の中で 、美 し い沈黙⋮⋮ それはあたかも、いまこ のよ うに漆黒の 闇 に 閉 ざ さ れ なが ら も ︵ 天 空 高 く 一 本 の 指 を 大ら か に 突 き 上 げ る ︶ ひ と たび 天 空 高 く 舞 い 上が れ ば そこ は 満 点 の煌 く星 座 、数え 切 れぬ星の輝 きが ある と信じられ る ほ ど の 確 か な思 いを 込め た 沈 黙 ⋮ ⋮ そ の よ う な 美 し い 沈黙を 秘めてきたので あろうと 、わたし は今、そん な あ な た に 想 いを 馳 せ ま す 。 そこ で は あ な た は き っ と 、 十全に孤立し、自由に食べ、十二分にクソをし、そし て 考え て 生 活して い る 個人で あ り たか っ た の だ と 確 信 し ま す 。で す か ら あ な た は 、 勇 気 に 徹 し ぬ く 諦 念 を 、 孤 独 と いう 寂寞を 、 も の の 憐れ と いう 憐 憫をこ そ、 美 し い沈 黙 に 秘め さ せ なけ れ ば な ら なか っ たで あろ う と 推 察し ます 。と き あ たかも 、 大 いなる 流 れ の なかで 美 し い沈黙を 秘め、な おその美し い沈黙に 、勇気と孤 独 とものの憐れを、あらかじめ名 付けるこ とを 諦観して しまったロ マンとし て 秘めるこ とで 、二 重の秘め事を 秘めてしま ったも の 言わぬ、それは大い なる流れで は なか ったのでしょうか 。だが 、 いえ だか らこ そわたし は あ な たに 宣 告 し ま す 。も う 帰 る べき ロ マ ン は な い の だ と 、 美 し い沈 黙 と 引 き 換え に 、 帰 る べ き ロ マ ン の 通 路 は 取 り 払 わ れて し ま っ た の だ と 。 未 だ 命 名 さ れ ず 無 名性の中で 佇む美し い憂愁の沈黙よ、大いなる流れと 混線の 雑音。電子 音。乱反 射のカット アウト 。 女1 はい! み っ ち ゃ ん楽 し く聞 いて も ら え ま し たか 。 君 の あと 十 年 で 六 十 才 に な る おじ い チャ マ か ら の 単純 明 快 なメッ セ ー ジで し た。こ のほ か 、や た ら と メッ セ ー ジきて ます が 、全部 昆虫 、 いや ム シ。続 いて ニュー ス で す 。 隣の ち っと も 美 人 じゃ な いけ ど 色 が 白 くて カ ワ イイ美代ちゃ んが 高 校二年生に なりまし た。次は密 告 です。向か い隣の還 暦迎え た善 次郎さんは、まだ朝立 ち が ありま す 。す ば ら し いけ ど 下 ネ タ の 密 告 は 最 低 で す ね 。で は 時 間 まで ニ ュ ー スで す 。 内閣 はこ の ほ ど 、 文部 科学 省 から 提出 されて いた 臨時 法 案を 、午 後の 閣 議で 了承し 、明日から開かれる 臨時国会 の、衆議院 本 会議 に 法 案 と して 提 出す るこ と を 決 定し ま し た 。こ の 法 案 は わ が 国の 標 準 語 を 東 京弁 か ら 、 関 西 弁 に 変 更 す ると いう極 めて 大胆 なも のとな って おり ます 。国民 的 なコ ンセ ン サスも な いなか 法 案が 、 臨時 国会 期間中 に 決議 され、 参議院に 送ら れるか ど うか は あたりまえ な が ら 、 危ぶ ま れ て お り ま す 。 ⋮⋮ ⋮⋮ たくさん⋮⋮ あな たはなくし ましたか 。⋮⋮わ たしはわからないくら いたくさ んなくし たのだと思 い ます 。かと 言って 、 なくした分を 埋め 合 わせて 余る 何 か を 手 に 入 れ た わ け で は な い の で す 。で も そ ん な に 気 に せ ず に ⋮ ⋮ 今 日 ま で や って 来 た ので す か ら 。 大 丈 夫 。 ほら、聞こ えるでし ょ。耳を澄 ますと、 微かですが 聞 こえ ますよ 。懐かし い音や 、思 い出し た くも ないあ の 音も 。目を 閉じて も いいで すよ 。瞼のう ら に 見え る か も知れません? で も ね、泣く のはやめ て⋮⋮も う 、 泣くのはや めましょ う。わたし にはどうにもできま せ んから 。⋮ ⋮涙 は 流 して いいこ とにしま す 。少し だ け なら 構いま せん。⋮ ⋮ そうして 元気がで たら⋮⋮な く し たも のを 忘れ ま し ょ う 。 27 女1 CQ 、CQCQ、いまだ 出会わぬ美しき憂愁の沈黙よ 、 こちら7M ヘルツ、 出力5㍗、 試験電波発信中、JE 3⋮⋮⋮いやコールサインはありません。試験電波発 信、発信願 います。発信⋮⋮痛みとはッ ! ⋮⋮ッ ! 発信ッ⋮⋮発信ッ⋮⋮発信ッ⋮⋮ 人々 の 歓声が聞こ えて いる はずだ。が 、それは 女の頭から 外したヘッドホンから流れるクラ シ ッ ク 音楽 。 や が て 、 その 音楽 は 女 の 声 を 打ち 消 して 、 大 音 響で その 場を 覆う 。 し ばら く 流れる 音楽 。 女1 ⋮⋮ あの唐突ですが、幸せ、ですか? ⋮ ⋮ 今で も ⋮ ⋮悔いはありませんか? ⋮⋮ それは、悔いなどあり ませんね⋮⋮⋮これからも、だから⋮⋮ ありませんか? そうです ね⋮⋮ あ りませんね 。⋮⋮ そ うです 、き っ と あり ま せ ん 。 だか ら ⋮ ⋮ こ れ か ら も ね 。⋮⋮ わ た し は 、 も ち ろ ん あ り ま せ ん よ 。⋮ ⋮ あ な た は ど うで す か ? だから⋮ ⋮ あの、 幸せ、です か ? ク エス チョン マ ー ク ⋮ ⋮て んて んて ん わ た し が 。 嫌 いで す 。 女 は 一 枚一 枚 ト ラ ン プを 見 る 。 女1 朝のスッキリした目覚め は遠い昔だね、レースのカー テ ンを 射 す 朝 日が 、 わ たし の 微 熱 を 逆 撫 で す る と 、 決 って その 日 は 憂 鬱 な 一 日 。 布 団 を 頭まで こ うや って 被 って ⋮⋮し ばら く死 んだふ りを す ると⋮ ⋮ 0 0 4 2 女1 あなたは幸せですか? ⋮ ⋮ 携 帯 電 話 の 呼 び 出し 音が なると、わ たし の音 なんかじゃ ないと 判 って いるの に、 バッ ク に 手 を や る わ たし が 嫌 い で す 。 朝 起 き て 、 月 曜 日だと 判って いるの に、今日は 何 曜日だ ったかしら と、 やけに 長い静 寂。 ふ と 思 って し ま う わ たし が 嫌 い で す 。電 子 メー ル は 、 嫌 いで す 。 電 車 の 中 で 化 粧を す る の は 嫌 いで す 。 嫌 い 女1 まど ろむとね 、うまくいく。そんな時よく夢 をみる。 だ 嫌 いだ と い う わ た し はも っと 嫌 いで す 。 朝 靄 の 中 を も う特 技 な の 。⋮⋮ 今か ら 年前、ギ リ シャ の 哲 学 駈けて いく新聞 少年の、白い吐 息が 、き っとわたし は 者デモクリトスは、 身の回りの物を小さ く小さく切 っ 嫌 いで す 。 も っ と 嫌 い な の は 、 バ イ ク に 載 っ た 新 聞 お て いくと最 後にどう なるのだろ うかと考え まし た。も じ さ んで す 。階 段を バ タ バ タと 、 早 く起 き ろ と 走 り 回 うこ れ 以 上 小 さ く な ら な い 原子 を 推 論 し ま し た 。 い ま る 、 朝 の 五 時 半 の 足 音が 、 本 当 は 一 番 嫌 いで す 。 カ ト では素粒子と呼びます。エネルギーの粒です。わたし リ ー ヌ ・ド ヌ ー ブ の ﹃ 昼 顔 ﹄ は 嫌 いで す 。 女 性 専用 車 は素粒子の粒ですか ? 両 は 、 乗 る ので す が 理 由 な く 嫌 いで す 。 ニキ ビ 面 の 、 ま せ たガ キ のギ ラ ギ ラ し た 視線 は 嫌 いで す 。 パ ジャ マ に 着か え て の、 あす は不 燃 物 と 三度唱 え る わ た し は 嫌 いで す 。 雨 は 嫌 いで す 。 だ か ら 、 井 上陽 水 の ﹃ 傘が な い ﹄ は も っ と 嫌 いで す 。 満 員 電 車 の 、 ニ コ チ ン と ア ル コ ー ル の混 ざ っ た人 息 き れ は 嫌 いで す 。 牛 乳 の 匂 い は む か し か ら 嫌 いで す 。こ ん な風 に 嫌 いで す と 数え る 数 ほどに、嫌 いなものはないのに 、嫌いだとあげつら う 28 女 は 先 程の ヘッ ド ホ ン ワ イ アレ ス マ イ ク を つ け て いる 。 , e y e r u o y n i m o c l e w r a e b , e m i t e h t e k i l k o o L l f t n e c o n n i ' h t e k i l k o o L . e u g n o t r u o y , d n a h r u o Y , r e w o [ 4 章 ] , e m i t e h t e l i u g e b o T . s r e t t a m e g n a r t s d a e r y a M g n i m o c s ' t a h t e H . t ' r e d n u d n e p r e s e h t e b t u B 29 . m o d r e t s a m d n a y a w s n g i e r e v o s y l e l o s e v i G ! h t e b c a M / n e m e r e h w k o o b a s a s i , e n a h t y m , c c a f r u o Y 女2・蔵王 三山 女2 e m o c o t s y a d d n a s t h g i n r u o l l a o t l l a h s h c i h W と 橋掛 か りで 。や が て 登 場 。 , h c t a p s i d y m o t n i s s e n i s u b t a e r g s ' t h g i n s i h T ! h t e b c a M 女2 ︽マク ベス夫人︾ ねえ あな た、あなた の お顔は まるで 本のよう、だ れの目にも 怪しい内容を 読 み と ら れて し ま う 。 世 間を 欺 く の に は 世 間と 同じ 顔 つ き を して 、 目 にも 、 手 にも 、 口 にも、 歓迎 の 色を 浮か べ るこ とで すよ 。み せ か けは無 邪気な花、 で も そ の下 に は 蛇 を 忍 ば せ る 。 せ っか くお 出 向 きの お 方 に は 、 た っ ぷ り ご 馳 走 し な くて は 。ね え 、 今夜の大仕事を手早 く片づける のは、全部わた しにおまか せなさいな。 首尾よ くいけば、こ れから 先に続く二 人の長い 昼と 夜、 至 上 の 王 権 、 支 配 権は二 人 のも の に な る ので す 。 ︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾⋮ ⋮ ︷ ルビ あ なた︸貴下 ︷ ルビ ︸ 、貴下 の ︷ ルビ か お︸面 t u p l l a h s u o y d n a ; r o f d e d i v o r p e b t s u M こ の と き 、 街 並み の 向こ う か ら 音楽 を 従え て 、 女 性 の 郵 便 配達 員 ︵ 女 2 ︶が 近 づ く のが 見え る 。 白いヘルメット、ブルーの半袖の上着、紺のズ ボン、腰に 巻きついた例のカ バン、七枚剥ぎの 足 袋 。能 役 者が 橋掛 か りを 登 場 と い った 呈 。だ が 女 2 は 襤 褸で ある 。 刈 田 、 熊 野 、 五 色 が こ れ に 従 って 登 場 す る 。 彼 ら は 、 白 い ヘル メッ ト 、 ブ ル ー の 半 袖の 上着、 紺のズボン、腰に巻きついた例 のカ バン 、七枚 剥 ぎ の 足 袋 などが 、 それ ぞ れ 意 味 な くウ エ ディ ングドレス とマッ チして いる 。こ の刈田 、熊野、 五色はワン ポイント の持ち 物で ﹁阪神タイガー ス ﹂ ファン と 判るも のを 着 け た り 、 ある いは持 ったりして いる。 / / / / l l e w e r e w t ' n e h t , e n o d s i t ' n e h w e n o d e r e w t i f I n o i t a n i s s a s s a ' h t f I . y l k c i u q e n o d e r e w t I w o l b s i h t t u b t a h t , s s e c c u s , e s a e c r u s s i h h t i W . e r e h , l l a d n e e h t d n a l l a e b e h t e b t h g i M , r i a f s i l u o f d n a , l u o f s / )i r i a (F h c t a c d n a e c n e u q e s n o c e h t p u l e m m a r t d l u o C , e m i t f o l a o h s d n a k n a b s i h t n o p u , e r e h t u B . r i a y h t l i f d n a g o f e h t h g u o r h t r e v o H . e m o c o t e f i l e h t p m u j d ' e W / / / 女1 ︽ マ ク ベス ︾ や っ て し ま っ て それで や ったこと になるの なら 、 早 くや っ た 方が い い 。暗 殺 と い うこ の 大き な 網 で 将来を 一網打尽に たぐり寄せる。あの 男の息の 根を 止めて 成功を もぎ取る、 それがで きるのなら 、ただの ) ( / / こ の一撃で 一 切 合 切 のけ りが つ くと い う の なら 、 こ の 世で 、 そ う だ こ の 世で だ 、 時 の 海 に 浮 か ぶ こ の狭 い 砂 州 の 現 世で 、 それ な ら 来 世 のこ と など 構 うも のか 。 ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 独 白 や って し まえ ば 、 そ れで 事が す む の なら 、 早 くや って し ま っ たほうが︷ ルビ い︸可︷ ルビ ︸い。暗 殺と い う一網を︷ ルビ くだ ︸下︷ ルビ︸し さえすれ ば 、 一 切 の 結 果を ︷ ルビ ら ︸ 羅 ︷ ルビ ︸し尽 くして し ま へるも の なら 、此 一 撃で 以って 万 事 が 終局と な るも の な ら 、 それが 此 世で の 、 ﹁時 ﹂ の︷ルビ こちら ぎし ︸此 方岸︷ ルビ ︸ 、此 浅 瀬で の終局で あるの なら、未来 なんか︷ ルビ か ま ︸ 関︷ ルビ ︸っ たこ とは ないんだ 。 女2・蔵王 三山 笑 い ⋮⋮ 女2・蔵王 三山 ︽魔女一同︾きれ いは、き たない。き たないは 、 きれい。 泳 いで 行 こ うよ 、 霧で よ ど ん だ 空 の 中 を よ 。 ︽ 魔 女 三人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ ︷ ル ビ き れ い︸ 清 美︷ ルビ ︸は︷ルビ きたない︸醜穢︷ ルビ ︸ 、 醜穢は 清美。 狭 霧や 穢 い 空気 ン 中を ︷ ル ビ と ︸ 翔 ︷ ルビ ︸ 30 ///// ︷ ルビ︸は誰の眼にも︷ルビ ふしぎ︸奇怪 ︷ ルビ ︸ な事の 書いて ある︷ ルビ ほ ん ︸ 書籍 ︷ ルビ ︸ のや うに 見え る 。︷ ルビ は た ︸周 囲 ︷ ルビ ︸を 欺すには 周 囲と︷ ルビ おン な︸同 ︷ ルビ ︸じよ うにし て いら っ しゃ い。目 にも 、 手にも 、 歓 迎 の︷ ル ビ こ こ ろ ︸意 ︷ ル ビ ︸を 示して 、罪 のない草 花と見せか けて 、其 蔭の ︷ ル ビ ま む し ︸ 蝮 ︷ ル ビ ︸ に な って ゐ な くち ゃ いけ ま せ ん 。 さ 、 来 る 人 の待 ち 受けを せにゃ なりますま い。今夜の大切な仕事は万事わたし にお任せなさいまし 、未来永遠に無上の 権力を 得ると得な いとは、 それで 決る んですか ら 。 / / / ⋮⋮⋮ / . e r o m o n p e e l S ' / . p e e l s t n e c o n n i e h t , ' p e e l s r e d r u m s e o d h t e b c a M / , e r a c f o e v a e l s d e l l e v a r e h t p u s t i n k t a h t p e e l S , e r e h e m x e s n u , s t h g u o h t l a t r o m n o d n e t t a h T l l u f p o t e o t e h t o t n w o r c e h t m o r f e m l l i f d n A , d o o l b y m k c i h t e k a M , y t l e u r c t s e r i d f O , t e a s b r u s o ' c r u d o n b o a c l e s e r so 's e rt , us e ta f ae i nf l ts s a' ' ee rf y gi a l d , sn h di c n a ir e me h f ts o ri ur h hu t o a fn e o d f me e li h,ah ThBC , e s r o m e r o t e g a s s a p d n a s s e c c a ' h t p u p o t S e r u t a n f o s g n i t i s i v s u o i t c n u p m o c o n t a h T , n e e w t e b e c a e p p e e k r o n , e s o p r u p l l e f y m e k a h S s t s a e r b s ' n a m o w y m o t e m o C . t i d n a t c e f f e ' h T / , e t k t h s g ,r i i sa n n ed i ,k m klae clmh g ie t n hht i t if r s f o ' e,od d ce nt r nmeue u aokok m tCown s m a u b.sel uf hb o sett y e is , sheth l scnot l esnn a liu h g tmdeg h eu' r gseso! o i'h rd f setehl r fto k runi h l utinp i oa ke, m yne ed enpl y nnhe o m iotenH ke' e rtl v k eilya, a vaamey t ewp hr r t c d,eudar nshonhoo ArWYATNT - ︽マク ベス︾叫び 声が聞こ え た気がし た、﹁も う眠りはないぞ、 マクベスが眠りを 殺したぞ﹂、無心の眠り、 も つれ た心労 の糸 玉を 濃や かにほ ぐし て くれる 眠り、 昼 間 の 生 へ の 安ら ぎ の 死 の 床 、 つ ら い 労 役を 終 え た沐浴、 心の傷 の軟膏、大自然の供する豪華な馳走、 人 生 の 饗 宴 の滋 養 の 一 皿 ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 何 処 か で ︷ ルビ ど な︸呼号︷ ルビ ︸って る声が 聞こえ るや うに 思へた、﹁もう安眠は出来んぞ! マク ベスが 安眠を 殺し ッち ま っ た﹂と 。⋮ ⋮ あの、 罪の無 い、心の︷ ルビ もつれ︸縺︷ ルビ ︸れを︷ル ビ いい︸ 好︷ ルビ ︸い︷ルビ あんばい ︸塩 女1 / / ︽ マ ク ベス 夫 人 ︾ か し ず く 悪 霊 たち 、 今こ そわ たしを 女で なくして おくれ、 私の全 身になみなみと、頭 の上から爪 先まで 、 31 y r c e c i o v a d r a e h I t h g u o h t e M 女2 梅 ︷ ル ビ ︸ に 整 へて く れ る 安 眠を 、 其 日 々 々 の生の︷ルビ じゃ くめ つ ︸寂 滅︷ ルビ ︸とも 、 労 苦の︷ル ビ ゆあ︸浴︷ ルビ ︸みとも 、傷つ いた︷ルビ こころの ︸精神︷ ルビ ︸の︷ルビ ぬりくすり ︸薬膏︷ ルビ ︸と も、大自然が ︷ルビ きょう︸供︷ ルビ ︸す る二の膳とも 、 生 命 の ︷ ル ビ おも ︸ 主要 ︷ ル ビ ︸ な滋 養 物 と も いう べき 安眠を⋮ ⋮ / ぼう。 / / 心で 、︷ルビ いっぱ い︸充溢 ︷ ルビ ︸ にして くれ! 予 の血を ︷ ルビ こ ご ヾら ︸凝 結 ︷ ル ビ ︸ せて く れ 、 憫 れ む 心 な んか ヾ 働 いて 、 ︷ ル ビ むご︸酷︷ ルビ ︸い企を ぐらつかせ たり、 実行 の 邪魔 を し たり し な い為 に ! さァ、此の 女 の 胸 へ 入 って 来て くれ 、や い 、 人 殺 し を ︷ ル ビ しごと ︸職︷ ル ビ ︸とす る 精 霊 共よ 、此 の 甘ッ たる い 乳を 苦い ︷ ルビ た んじ ゅ う ︸ 胆汁 ︷ ルビ ︸ に 変ッち ま って くれ 、目に 見え な い 姿をして 、 人 間の悪 事を 手伝う ︷ ルビ お のし ら ︸ 汝等︷ ルビ ︸、 今何 処に ゐるか知ら ない が! さ ァ 、 真 暗 な 夜よ 、 ︷ ル ビ おのし ︸ 汝 ︷ ルビ ︸も来て 、暗 闇地獄の 黒煙で 、押 し包 んで し ま っ て くれ 、 予 の 鋭 い剣 に 己が 切 る ︷ ル ビ きずぐち ︸創口︷ ルビ︸を 見せないために、 天が ︷ ルビ くらや み ︸ 昏闇︷ ルビ ︸の 幕越し に 隙 見を し て 、 ﹁ 待 て 、 待 て ! ﹂と呼ぶよう なこ とが な いため に 。⋮⋮ / / / / / / , w o h s t s e r i a f h t i w e m i t e h t k c o m d n a , y a w A k h t o d t r a e h e s l a f e h t t a h w e d i h t s u m e c a f e s l a F . w o n / / ︽ マ ク ベス ︾ よ し 、 決 心 は つ い た 。 そ う と な っ たら 全 身 の 力 を 引 き し ぼ って こ の 恐 ろ し い 大 仕 事 に 32 / . t a e f e l b i r r e t s i h t o t t n e g a l a r o p r o c h c a E 女2 p u d n e b d n a , d e l t t e s m a I / 残 忍 と 冷酷 を 漲ら せて おくれ、わたしの血をどろど ろにして 、 憐れみ に通ずる血 の管を塞 いでしまう のだよ、 せっか くの恐ろし いも くろみに、良心 の呵責な どが 揺 さぶ り に 入 って 、 な ま じ 実行 を 押 し と ど め る ことの な いよ うに 。 さ あ 人 殺 し の 手 先 ど も 、 わ た し の 乳房に 取 り 付 いて 、 甘 い 乳を 苦 い 胆 汁 に 変 え て お く れ 、 お前ら は 目 に 見 え ぬ 姿 の ま ま 、こ の 世 の 悪 事 と いう 悪 事 に 手を 貸 して いるの だから 。 そして たれこめ た夜 、 お前は 地獄のどす黒い死 の煙を死人を くるむ ように厚 く纏うのだよ、わたしの鋭い刃 の切っ先がえ く っ た 傷 口を 見 な いで 澄 む よ う に 、 天 が 暗 闇の 帷 の 切 れ 目 か ら 覗 き 込 んで 、 思 わ ず こう叫んだり しないようにー﹁やめて、やめて﹂ ︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳 ︾ さ ァ さ 、恐 ろ し い︷ ルビ た くら み ご と ︸ 企 事 ︷ ルビ ︸ の︷ ル ビ か いぞ へ︸介添︷ ルビ ︸を する精 霊 共よ 、 早 く来て ︷ ルビ わし ︸予︷ ル ビ ︸を 女 で な く して くれ、 頭から 足 の爪先まで 、醜 い、 残忍な / を唐紅に染 めなして 、 とりかかろう。 紺青を 赤一色に変えてしま うだろう。 さあ行こう、時を 欺くのは美しい装い、 ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ や 、 何 処 か で 叩 く ? 偽りの心中を隠す のは偽り の顔。 ⋮⋮どうしたのだ俺は? 音 のす る た び に ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ ぢ ゃ 、 決 心 し た 。 全 ︷ ルビ び くび く︸ 悸々 ︷ ルビ ︸する 。 ⋮⋮ 力を引絞って、此怖ろしい仕事に取り掛かろう。 さ、さ、あッち へ。何事もないような顔 附きを 手を 見て あ 、 何 と いふ て だ ? えッ! 目の し て 人 目 を 欺こ う 。 心 に 偽 り が あ る 時 は 、 ︷ ル 玉が 引摺り 出されさ うだ。︷ ル ビ だ いネ プ チ ビ か ほ ︸ 面 ︷ ルビ ︸を 偽りで 包 んで ゐ にゃ な ュ ー ン ︸ 大 海 神 ︷ ル ビ ︸ の 大 洋 の 水を 傾 けて らん。 も、此の手を︷ルビ きよ ︸浄︷ ルビ ︸めるこ 女1 と は 出 来 ま い 。 いや いや 、 あ の 限 り の な い︷ ル ビ あを ︸ 碧 ︷ ルビ ︸い波が 、 ︷ ルビ か へ︸ 却︷ ルビ ︸ って ︷ ル ビ ま ッ か ︸ 真 紅 ︷ ルビ ︸ に なッち ま ふ だ ろ う 。 蔵王三山 ︽ マ ク ベス 夫 人 ︾ ご め ん な さ い 皆 さ ん 、 いつも のこ とです のよ 。な んでも あり ま せん、 ︽マク ベス︾あの 音はどこ から? いった いおれはど うなった のだろう、 音という 申し 訳 ないのはせ っか くの楽しみを台 なしにし て し ま って 。 音にとび 上がる。 ああ、なんという 手だこれは? う! 目 の 玉 ︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 人々 を 制して がえ ぐり出 される。 皆 さ ん 、 あ れ は 只 ほ ん の 癖 だ と 思 って 下 さ い 。 大わ た つみ の 果て 知ら ぬ大 海原でこ の 手を 濯 い まったく︷ ルビ さ︸然︷ ルビ ︸うなんですか だ なら ら 。只、 折 角 の 興を 醒 まして 、 まこ とに 。 血 の 穢 れを 清ら に 洗 い 流し て く れ る だ ろ うか 。 女1 いや 、こ の 手の 方が 波 ま た波 の は るか な 連 なり ) ( / / / ? g n i k c o n k t a h t s i e c n e h W / ? e m s l a p p a e s i o n y r e v e n e h w , e m h t i w t ' s i w o H / / 33 , s r e e p d o o g , s i h t f o k n i h T , r e h t o o n s i T ' . m o t s u c f o g n i h t a s a t u B . e m i t e h t f o e r u s a e l p e h t s l i o p s t i y l n O e r y e e dh ot e oa n lr i b m l sl t ii u hw o t d k hn, c sae u ahn l w i p yd nma y a n e esr h cia t ohc tn. ! s id a ', e H eosr nNa ? u ee e t?sn r pd o e ens h Naun hoe e t ne r ayir a emdg r u s gmte d oih n lrtt a lfl h a ug nmn t la i a leek h.ilha WsWCTM ) ( / e h t e d i h h t r a e e h t t e L ! t h g i s y m t i u q d n a t n u a v! Ae s e y e e s o h t n i n o i t a l u c e p s o n t s a h u o h T . h t i w e r a l g t s o d u o h t h c i h W ; e r a d I , e r a d n a m t a h W ) ( , r a e b n a i s s u R d e g g u r e h t e k i l u o h t h c a o r p p A / , r e g i t n a c r y H ' h t r o , s o r e c o n i h r d e m r a e h T / s e v r e n m r i f y m d n a , t a h t t u b e p a h s y n a e k a T / , n i a g a e v i l a e b r O . e l b m e r t r e v e n l l a h S ; d r o w s y h t h t i w t r e s e d e h t o t e m e r a d d n A e m t s e t o r p , n e h t t i b a h n i I g n i l b m e r t f I ) ( , w o d a h s e l b i r r o h , e c n e H . l r i g a f o y b a b e h T ! e c n e h , y r ' k c o m l a e r n U 少しで も 震え るざ まを み せ たら 、乳く さ い小 娘 と ふ れて 回るが いい 、失 せろ 、恐 怖の影 法師、 存在し ないまやか しの姿! ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 亡霊に ︷ ルビ さ が ︸ 退︷ ルビ ︸れ ! 目通りを避けろ! 地 の 中 へ ︷ ル ビ はひ ︸ 入 ︷ ル ビ ︸ ッ ち ま へ ! ︷ ルビ き さま ︸汝︷ ルビ ︸の 骨には髄が 無く、 汝の血は冷たく、汝 の目には物を 見る力 は無い 筈だ、そん なにじろじろ見つめ たって 。 ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 亡 霊 に 人 の 敢え て す る 事 なら 、何 で も す る 。す さ ま じ いロ シ ア 熊 の姿で 来い 、角の生え た︷ルビ さい︸犀︷ ル ビ︸なり、ヒルケーニヤの虎なりの姿で 来い。 其 姿 さ へ ︷ ル ビ よ ︸ 止 ︷ ル ビ ︸ し て く れゝ ば 、 、此︷ルビ しつかり ︸堅固︷ ルビ ︸し た筋肉 が 仮 に も 慄 へる た う な 事 は な い の だ 。で な く ば 、 生 き 返 って 来て 、︷ ルビ あ れ ち ︸荒 地︷ ルビ ︸ で 真剣 勝負 を ︷ ルビ さが ︸挑 ︷ ルビ ︸め 。其 時 、 若 し ︷ ル ビ ふ る ︸ 慄 ︷ ル ビ ︸ へて 引 ッ 籠 って ゐ る よ う だ っ た ら 、 俺 を 小 娘 の人 形 だ と 悪 口しろ 。退 れ、 怖ろ し い影め ! ︷ルビ くう︸ 空︷ ルビ ︸な︷ ルビ ぎぶ つ ︸ 偽 者︷ ル ビ ︸ め、退れ! 蔵王三山 ︽ ロ ス ︾ 見え た と は 何 か ? / 34 ; d l o c s i d o o l b y h t , s s e l w o r r a m e r a s e n o b y h T / / / / / / / ? d r o l y m , s t h g i s t a h W ︽ マ ク ベス ︾ 出て 行 け 、 消 え ろ ! お前は土の 中のものだ ! お 前 の 骨 に 髄 は な く 、 血 は 冷え き って い る 。 そうや って 睨めつ けて いる お前の目に は も のを 見る 力 など な いはず だ 。 ︽マク ベス︾ 男にやれるこ となら な んでもや っ てみせる。 毛む くじゃ ら なロ シア熊の姿で 出てこ い、 角で 武 装し た犀、ヒ ルカニ アの虎、 いまの その姿で さえ なけれ ば、おれの筋肉は 微動だ にするものか。生き 返って 戻ってきても いいぞ、 それで 剣を 抜 いて 無人 の荒 野で 決闘を 挑 んで み ろ、 d l o e h t t h g u o l i t n u e b d e h s i u q n a v r e v e n l l a h s h t e b c a M l l i h n a n i s n u D h g i h o t d o o w m a n r i B t a e r G . m i h t s n i a g a e m o c l l a h S ) ) / y m , e i F . y k r u m s i l l e H . t ' o d o t e m i t s i t ' , n e h t r e i d l o s a , e i f , d r o l n e h w , t i s w o n k o h w r a e f e w d e e n t a h W ? d r a e f a d n a n a c e n o n / h t e v a h d l u o w o h w t e Y ? t p m o c c a o t r e w o p r u o l l a c ( / // y h W . w o t , e n O . y a s I , t u o , t o p s d e n m a d , t u O ( / / / . t o p s a s ' e r e h t e Y ︽マク ベス夫人︾ まだここ にしみが ある。 ︽ マ ク ベス 夫 人 ︾ 消 え て お し ま い 、こ の いや な しみ、消え て 。一つ 、二つ、 そうら 、時 間です よ 。 地獄 はなんて 暗 いんだろ う。どうし たの、ねえ あなた、かりにも 戦にで る 男で し ょ う 、 それ で こ わ い の ? だ れ に 知 れ た って こ わ いこ と な ん か あ る も ので す か 、 わ た し たち を 非 難 で き る も の な ん て いや し な い 。で も ねえ 、 あの 老人 の 体にこ れ だ け の 血が 流れて いただな んて 。 ︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 独 白 まだこ ヽ に︷ルビ しみ︸汚点︷ ルビ ︸が 附いて いる 。 ︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 独 白 え ヽ、 厭 ァな︷ルビ しみ︸汚 点︷ ルビ ︸消えッち ま へ と言へば! ⋮ ⋮ 一 つ 。 二 つ 。 おや 、ぢ ゃ ︷ ル ビ もう︸最早︷ ル ビ ︸時 刻 な ん だ 。⋮ ⋮ 地獄 は暗い凄い処! ⋮ ⋮ ま ァ、何 で す ねえ ︷ ルビ あなた︸貴 下︷ ルビ ︸は! ⋮⋮︷ルビ いく さにん︸武 人︷ ルビ ︸で あり ながら 、こ んな こ とが 怖 く って ? ︷ルビ けど︸気取︷ ルビ ︸ ら れ る のを 恐 れ る 必 要 は な いぢ ゃ あ り ま せ ん か ? 主 権者を 裁 判す る こ とが 出来 る 筈は あ り ま せ ん の で す も の 。 ⋮ ⋮ け れ ど も 、 誰 だ って 、 老 人 に︷ルビ こ んな︸如 是︷ ルビ ︸に沢山血が あ 35 . m i h n i d o o l b h c u m o s d a h e v a h o t n a m . h t e b c a M , h t e b c a M , h t e b c a M ︽ロッ ス ・坪 内逍 遥 訳︾何 を 見て 、と お っしゃ る ので ご ざ いま す ? 女1 ︽ 幻 影 2 ︾ マ ク ベ ス 、 マ ク ベス 、 マ ク ベス 。 ︽ 幻 影 3 ︾ い いか 、 マ ク ベ ス に 敗 北 は あり 得 な い。 バーナ ム の大森林 がダン シ ネインの高 い丘めが けて 攻めて こ ぬ限り 。 ︽幻の 二 ・坪 内逍 遥 訳︾ マ ク ベスよ ! マクベ スよ! マ ク ベスよ ! ︽幻の 三 ・坪 内逍 遥 訳︾ マ ク ベスは、 あの大き なバーナ ム の森が、ダンシネーンの高い丘の上 へ、攻め 寄 せて 来 な いうち は、 ︷ ルビ い くさ ︸ 戦︷ ルビ ︸に負ける というこ とはないんだか ら。 女2 殆 ど 忘 れ て し ま っ た 。⋮ ⋮ 夜 の 叫 び 声 を 聞 いて 冷水を浴び るように 感じ た時代も あった 。凄い 話しを聞くと、︷ルビ かみのけ︸頭髪︷ ルビ ︸ が 逆 立 って 、 い き て ゐ る よ う に 、 動 い た こ とも あ っ た 。 随 分 怖 ろ し い目 に も 逢 って 見 た 。 今ぢ ゃ ァ人 殺し にも 慣 れ て し ま った ので 、ど ん な 怖 ろ し いこ と も 、も う 俺を ︷ ルビ おび や か ︸ 脅 ︷ ルビ︸すには足ら ん。⋮⋮ ? e s i o n t a h t s i t a h W ら うと は 、 思 いが け て や し な い 。 / ︽ マ ク ベス ︾ な ん だ 、 あ の 騒 ぎ は ? ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ や 、 あ の 騒 ぎは ? . d r o l d o o g y m , n e m o w f o y r c e h t s i t I ? y r c t a h t s a w /e r o f e r e h W . s r a e f f o e t s a t e h t t o g r o f t s o m l a e v a h I d e l o o c e v a h d l u o w s e s n e s y m , n e e b s a h e m i t e h T r i a h f o l l e f y m d n a , k e i r h s t h g i n a r a e h o T 女2 ︽ マ ク ベス ︾ な ん の 騒 ぎ だ ? ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ や 、 あ の 騒 ぎは ? 蔵王三山 ? y r c t a h t s a w e r o f e r e h W r i t s d n a e s u o r e s i t a e r t l a m s i d a t a d l u o W o r s r t o h h g u h o t h i t w s l u l o u r f e t d h e g p u p a u l s s e y v m a h o. te I m r . at t ir ' la n i it ms e a r fe e c w ,n so e s f et i no l en ;rn ssia ArDC 女1 ︽ シー ト ン ︾ 侍 女 たち の声 のよ うで す 。 ︽ シー ト ン ・坪 内 逍 遥 訳︾ 婦人 たち の 泣 き 声で ございます 。 と 、 女 2 は 電 報を 渡 す 。 弔 電 で ある 。 刈 田 、 熊 野 、 五 色 は 弔電 を 投 げる 。 女1はこれを 受け取り読む 。 . d a e d s i , d r o l y m , n e e u q e h T ︽マク ベス︾おれ は恐怖の味を 忘れて し まった 。 女1 以前には、夜の叫び声を聞 けば 五感が 凍りつき、 恐ろし い話には ︽シートン︾陛下 、お后さまが お亡くなりに。 髪が 命 あるも のの よ うに 総毛立 った ︽ シート ・坪 内逍 遥 訳︾ お 妃が お︷ル ビ か く も の だ っ た 。だが 恐 怖と い う 恐 怖を な め 尽 し た れ︸死去︷ ルビ︸に なりまし た。 いま、 殺 戮 の 思 い に 慣 れ 親 し ん だ こ の 胸 は 、 ど ん な 悲 女2が 弔電を 読む ように台 詞が始まる 。やがて 、 惨にも 女 1 の 弔電 を 読む台 詞 が 重 な る 。 驚 くと いうこ とが な い 。 ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 怖 ろ し い と いう 味 は 、 女 1 ・ 2 ・ 蔵 王 三 山 36 刈田 ・熊野 五色 / ; r e t f a e r e h d e i d e v a h d l u o h s e h S , w o r r o m o t d n a , w o r r o m o t d n a , w o r r o m o T , y a d o t y a d m o r f e c a p y t t e p s i h t n i s p e e r G ( ) / / / , e m i t r e d r o c e r f o e l b a l l y s t s a l e h t o T / s l o o f d e t g i l e v a h s y a d r e t s e y r u o l l a d n A / , e l d n a c f e i r b , t u o , t u O . h t a e d y t s u d o t y a w e h T r e y a l p r o o p a , w o d a h s g n i k l a w a t u b s ' e f i L , e g a t s e h t n o p u r u o h s i h s t e r f d n a s t u r t s t a h T , w a s I y a s I h c i h w t a h t t r o p e r d u o h s I e l a t a s i t I . e r o m o n d r a e h s i n e h t d n A . t i o d o t w o h t o n w o n k t u B , y r u f d n a d n u o s f o l l u f , t o i d i n a y b d l o T . t i o d o t w o h t o n w o n k t u B . g n i h t o n g n i y f i n g i S / 女1 ︽ マ ク ベス ︾ 時 の 記 録 の 終 の 一 語 に た ど り 着 く 。 昨日と いう昨 日は 、阿 呆の為に、塵に 返る死へ の道を 照らしてきた一筋 の光。消えろ、消え ろ、束の 間のともしび、 / ︽ マ ク ベス ︾ い つ か は 死 ぬ 身で あ っ た 。 そ ん な 知 ら せを 聞 く と き も あ ろ う と 思 って い た 。 明日、明日、明日、 時 は 小 き ざ み な 足 ど りで 一 日 一 日を 這 うよ う に 、 ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ ︷ ルビ き ぜ ん︸喟 然︷ ルビ ︸として やがては死 なねばなら なか ったのだ。 いつかは 一度︷ルビ そ︸然︷ ルビ ︸ う い う 知 ら せを 聞 く べきで あ っ た 。⋮ ⋮ 明 日が 来 た り 、 明 日が 去 り 、 又 来 た り 、 又去 っ て 、 ﹁時﹂は忍び足に、 。 人生は 歩き回る影法師、あわれな役者、 舞台 の 出のあいだ だけ 大威 張りで わめ き散らす が、 幕が下 りれば沈黙 の闇。たかが白痴の語る 一 場 の 物 語 だ 、 怒 号 と 狂 乱 に あふ れて いて も 、 意 味 な ど な にひ と つ あ り は し な い 。 ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 小 刻 み に 、 記録 に 残 る 最 後 の 一 分 まで 経 過 し て し ま う 。 総て 昨 日 と いう日は、 阿呆共が 死んで 土に なりに行 く道を 照らしたの だ。消え ろ消え ろ、 束の間の︷ルビ ともしび ︸ 燭火︷ ルビ︸! 人生は歩いてゐ る 影 た る に 過 ぎ ん 、 只 一 時 、 舞 台 の 上で 、 ぎ っ くりばった りをや って 、やがて ︷ルビ も う︸ 最早︷ ルビ︸噂もされなくなる惨めな俳優だ、 ︷ ルビ ば か ︸白 痴︷ ルビ ︸が 話す話 だ 、騒 ぎ も 意 気 込 み も ︷ ルビ え ら ︸ 甚 ︷ ルビ ︸ いが 、 たわ いも な いも のだ 。⋮⋮ 女2 蔵王三山 ︽使者︾この目で 見たとおりを ご報告 いたしま すが、 はて 、 どう申し 上 げたらよ いも のやら 。 ︽ 使 者 ・坪 内 逍 遥 訳︾ 御 前 様 ⋮ ⋮ 確か に 見え ま し たこ とを 御注 進 申 し 上 げる の で ご ざ い ますが 、 何 と 申し 上 げて ︷ ル ビ い︸可 ︷ ルビ ︸ いか 存 37 . d r o w a h c u s r o f e m i t a n e e b e v a h d l u o w e r e h T , t h g u o h t e m , n o n a d n a , m a n r i B d r a w o t d e k o o l I / . e v o m o t n a g e b d o o w e h T / . e v o m o t n a g e b d o o w e h T , e s l a f t s e k a e p s u o h t f I e v i l a g n a h u o h t t l a h s e e r t t x e n e h t n o p U , h t o o s e b h c e e p s y h t f i ; e e h t g n i l c e n i m a f l l i T . h c u m s a e m r o f t s o d u o h t f i t o n e r a c I n i g e b d n a , n o i t u l o s e r n i l l u p I d n e i f e h t f o n o i t a c o v i u q e ' h t t b u o d o T . e v a l s d n a r a i L o o w m a n . r t i u B o l d l dn i oa t o w, , m t ar o a n w o, r nm a r e dA F n ' a. ,e . 'n h ea t nn u ai r ns t in su e nD k u i Dd l r oa s tw e o i et l m os t ce a m h oo TdDC / ︽ 使 者 ・坪 内 逍 遥 訳︾ も し 間 違 って を り ま し た ら 、 ど ん な お 怒りで も 受けます る 。が 、 御覧 な さ いま し 、 こ こ か ら 三哩 の 処を や って ま ゐ り ま す 。 へい、 森が ︷ ル ビ いご︸ 動︷ ルビ ︸いて ︷ルビ ま ゐ︸参︷ ルビ ︸りま す 。 女1 / ︽ マ ク ベス ︾ そ れ が 偽 り な ら ば お前を 干ぼしにして くれす 。真実なら わ たし に 同じこ と を して く れて 構わ ん 。 待てよ 、信じすぎては危う いぞ。真実めかして 嘘を言 う悪魔めの二枚舌が そろそろ 怪し く なって きたから な。 ﹁怖れるな 、バーナ ムの森が ダンシネインに攻めてこぬ限り﹂、それが いま 、 ダンシネンに 向けて 森が動いた 。よ うし 武器を取れ、武器を 、 打 って 出 る ぞ 。 38 , l l i h e h t n o p u h c t a w y m d n a t s d i d I s A じません。 女2 蔵王三山 ︽ 使 者 ︾ 丘 の 上 に 立 って 見 張 り を い た し て おり ましたとこ ろ、 バーナ ム の方に目 をやりま すと、それが急に、 ど うも そ の 、 森が動 き始めまし たので 。 ︽ 使 者 ・ 坪 内 逍 遥 訳 ︾ 丘 の 上で 見 張 り を 務 め て を り ま して 、 バーナ ム の 方面 を 見まし た とこ ろ 、 どうやら森が︷ルビ いご ︸動 ︷ ルビ ︸ き 出し ましたやうに存じました。 女1 ︽ マ ク ベス ︾ で た ら め を 言 う な 、 た わ け 。 ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ ︷ ル ビ う そ︸嘘 ︷ ルビ ︸を︷ ルビ つ︸吐︷ ルビ ︸け! 女2 蔵王三山 女2・蔵王 三山 ︽使者︾お怒りはごもっともでございますが、 で たら めで は ございません。 こ の三 マイル 近く まで 迫って きて おり ます 。 あれは 動く森で ご ざ います 。 ; o s t o n e b /t ' f i , h t a r w r u o y e r u d n e e m t e L . g n i m o c t i e e s u o y y a m e l i m e e r h t s i h t n i h t i W . e v o r g g n i v o m a , y a s I ? n o s n i b o R . s r M s i t a h W ? y a s u o y o d t a h W / i e H) i e H i e H , i e H i e H i e H , r o u ( o u o U , r o u o u o U H i e H i e H , i e H i e H i e H , r o u o u o U , r o u o . u s M o U m a i eI Aa . n o s n i b o R . s r M , k r e l c l i a m n a m o w a e r a u o Y h O / / n u s i t I ? h t u r t e h T ? y t n i a t r e C . e k a t s i M s M s M h O 女2 ︽日本語︾未婚や ! 女1 ! e l b a v e i l e b . r M d n a , t n e m o m a r o f g n i t i a w e s a e l P . t i a W . t i a W . n a m t s o p ︽日本語︾ミス、ミス、ミステーク。でも、だ れが 信じる ん。 女2 蔵王三山 . d e p p o t s s i e k o j e h T e h t d n a , e c a f r u o y s a e m a s e h t s i e k o j r u o Y . n a m o w l i a m a m a I ! o N . d a b s i y b b o h ︽ 日 本 語 ︾ なに ゆ うて ん の 、も うち ょ っと 待 っ てや、ミス ター・ポストマン。 蔵王三山 ︽日本語︾ちゃ う 、メール・ウーマンや。 女1 ︽日本語︾ウソー ! 女て か、信じら れへん。 女2・婦人 達 ? y d a L a u o y e r A . l l a t a d o o t s r e d n u t o n s a h t i h O ? n o s n i b o R . s r M , d e t a l e r n u s i e r u g i f y M . k a e r b a e m e v i G ︽ 日 本 語 ︾ も うえ え 、冗 談 は 顔 だ け に せ いや 。 センスないで。 女1 39 / / e r e h t e s u a c e b g n i o g e b t s u m I , y r r o s . me am i It o n s i ︽ 日 本 語 ︾ あ の⋮ ⋮ 悪 う 思 わ んと いて な 、 時 間 が な いんや けど 。 女1 ︽日本語︾勘弁してや 女2 ︽日本語︾女や 女1 ︽日本語︾女? 郵便局員 ? それホンマ、ミ セス ・ロビ ンソン 女2 ︽ 日 本 語 ︾ なに ゆ うて ん の 、 ミ セ ス ・ ロ ビ ンソ ンとはだれや。 女1 ︽ 日 本 語 ︾ サ イ モ ン & ガ ー ファ ン ク ルで ウウ ウ ー、 ヘヘ ヘイ、ヘ ヘヘイ⋮⋮ 蔵王三山 . n a m o w l i a m a m a I / ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ も し 嘘 だ と 、す ぐ 手 近の木に︷ ルビ き さ ま ︸ 汝︷ ルビ ︸を 吊るし て 、餓 死す るまで ︷ ルビ う︸打︷ ルビ ︸ッ ︷ルビ ち や ︸棄︷ ルビ ︸って おくぞ。 事実な ら 、俺を︷ ルビ さ︸然︷ ルビ ︸うし た って ︷ ルビ か ま ︸ 関︷ ルビ ︸はん 。⋮⋮俺 の 決心 が ゆ る んで 、 疑 いが 起こ り か け た 、 悪 魔 め が 、 両 義 語で 、 ︷ ルビ ほ んたう ︸ 事 実︷ ル ビ ︸ら し い嘘を 吐 いた のか も 知 れ ん 。 ﹁ バーナ ム の森 が ダ ン シ ネ ー ン へや って 来 る ま で 怖れ る に は 及 ば ん 。 ﹂ と こ ろが 、 今 、 森 が ダ ン シ ネ ー ン へや って き た 。 ⋮ ⋮ 武 器 だ 、 武 器 だ 、 さ ァ 、 打 って 出ろ! 女2 ⋮⋮ と、再び電話に。 m r e p t u o h t i w y a l p e s a e l P . n o s n i b o R . s r M t o n m a I ︽ 日本 語︾ ミセス ・ロビ ン ソ ン 、 顔 は 関係 な い んち ゃ いま す か 。 女2 n a l i a s n a K a s i t I . e v l a v i a s n a K a t o n s i t i , o N o s s e r p x e o t h s i w e W . t u p s a w e l b u o r t e h T . e g a u g , r M u o y e r A . n o i t a r e d i s n o c r u o y r o f e d u t i t a r g r u ) ( ? d e n e p p a h t a h W t i e s u a c e b o g t o n o D . t i a w e b , s n i k n e J t n a e g r e S . e p a c s e s e i r t n u o c n g i e r o f a s e m o c e b ︽ 日 本 語 ︾ ジェ イ キ ン ス軍 曹 、待 て ! 何処に 行 くんや 。 それは脱 走や ど 。 40 ? o d o G ? d o o g t i s I . e d i s n i r o t i と、急に女2へ。 e v e w o H . e g a u g n a l i a s n a K e h t t u o b a k l a t o t s e g a n a m t i , r s i v a s i t i e s u a c e b e l t t i l a t i a w e s a e l P . o l l e H , o ︽日本語︾ルー。 プルルー 、リリリン 、もしも し 、 あ の用 事 中 な ん で 、ち ょ っ と 待 って く だ さ い。お願い。 女1 ︽ 日 本 語 ︾ も し も し す いま せ んで し た 。 御用 は 何でしょう 。あの、 日本語喋れますか? あた し ダ メ な ん で す け ど 。け ど 関西 語 や っ た ら いけ ま す 。 いえ 、 関 西 バ ル ブ 弁 や あり ま せ ん 。 関 西 語で す 。 問 題 な け れ ば 関西 語 で お願 い し ま す 。 は、ありが とうござ います。 半 音 お声 が 、 いつも よ り 下 が って います 。 お 体が 悪 い ので は あり ま せ んか ? ⋮⋮マスター! それではお言 葉 に 甘え 、 関西 弁 で 報告 さ せて い た だ き ま す 。 いえ い え 、恐れ い ります 。 わ たし なん ぞは 、 寄 る 年波 に負 け まして 、と んと いけ ません。 女2 ︽ 日 本 語 ︾ な んで す ね ん 。 女1 はっ! 大変 失礼しまし た。最近通信事情が 安定せず 、 ときおり河 内弁が 乱 入して参り ます。一時の混線で す ので 、ご容 赦くださ い。はっ! 熱 海よ りこ ち ら に 参 l l e H , u l p l P , n i r i r i R , x u o R , u l p l P , n i r i r i R , x u o R 女1 . e s e n a p a J k a e p s t o n n a c I ? e s e n a p a J k a e p s . e y b d o o g d n a , s n r u t e r t I . n r u t e r t o n o d e s a e l P . t i a W . t i a W と 、 女 1は 電 話 の 受話 器を と る 。 u o y n a C . t a h w h t i w s t n i r p t I . y r r o s m a I , o l l e H . t i d e t c u r t s b o t i , d n A . n o i s s i 女1 蔵王三山 ︽ 日 本 語 ︾ ミ セ ス ・ロビ ン ソ ンや な い 。も う 好 き に せえ 。 知 ら ん 。 女1 ︽ 日 本 語 ︾ ご め ん 、ち ょ っ と 待 って 。 そこ に 居 てや。 ます 。生ぬ る いので あります 。 たかだか 一国の中で 、 標 準語 の 位 置を 狙 っ て な んと い たし ます か 。マス タ ー ! 関西語は 独立しな ければなり ません。独立してこ そ 犠牲者は浮かばれます。また、 それでこ そ独立国、 関 西は国語を 持つこと になるので あります 。はい、ご 安 心 くだ さ い 。こ の ほ ど 憲 法 草 案 を 起 草 い たし まし た 。 なずけて 生駒草稿。前文、本文 、付記とも一文﹁す べ て は 疑 いう る ﹂で あ り ます 。も ち ろ ん進 行 中で あり ま す 。 関西 市 民 希 望 者 で 投 票 を 行 って おり ます 。 得票 6 433、ただいま一 位﹁レット ・イット ・ビィ﹂。五 票 差で ﹁ 六 甲 おろし ﹂ 、 十八 票 差で 三 位 、河 内 音頭 ﹁ 河 内 十 人 斬り ﹂ が 続 いて お り ま す 。 い ず れ か が は れ て 、市 民に 口ず さま れる 国歌に なろ うと 、二言が あ る も ので は あ り ま せ ん 。 今 の 私 の 日々 は 、 独 立 記念 日 の 式典で 、 供 される﹁ マク ベス﹂ 上演の練 習に余念が あ り ま せ ん 。 は い 、 不 肖、 語 呂 巻 力 が ﹁ マ ク ベス ﹂ を 演 じます。国家独立とは、影に日にさまざまな軋轢が あ る も ので あ り ま す 。 強 引 な戦 略 戦 術 も ご ざ い ま す 。 不 肖、語呂巻 力、す べて の責 任を とり、人 民裁 判の断 頭 台 の露 と 消 え る 覚 悟 で あります 。まこ と 私に相 応 し い マクベスの 最後で あります。私はついに そのようにし て 、マク ベ ス として 関西 市 民を 信 頼し 、 その市 民 の 未 来に希望を 託すもので あります 。どうして 私だけが 生 き の べら れ ま し ょ う か ? 女2 ハイ ハイ 41 / りまして 、 はや 二 十 年と なりま す 。つつ が な く勤め に 励 んで おり ます 。と は 申し まし て も 、 い ま だ 関西 弁 に なじめず、 不 肖、︷ ルビ ごろ まきち から ︸語呂巻 ︷ ルビ︸力不 徳のいたすところで あります 。何を 申さ れ ま す 。 いえ いえ 、 大 阪 出 身 の マ ス タ ー の 、 足 元 に も 近 づ け ま せ ん 。 近づ く ど こ ろ か 、 大和 川 の ヘド ロ に 足 を 取 ら れ て 、 道 頓 堀 川 から 浮 か び 上が れ な い 始 末 で あ り ます 。女子 供 のいたす電子 飛脚 に 手を染 めまし たが 、 キ ー ボ ード の 上で 、 器用 す ぎ る 私 の 指 先 が 、 素人 同 然 の駆 け出し 漫才師の 持ち ネ タよ り早 く、 眼にも 留ら ず す べり ま く る も ので す か ら 、 関 西 弁 イ ン プ ッ ト メソ ッ ド が ゆ うこ とを 聞 い て く れ ま せ ん 。 ノ ー ト パソ コ ン な ど 川 原 の 草 ス キ ーで 遊ぶ 、 袖 口 が 青 鼻 こ す り 付 けて テ カ テカに 光 った悪ガ キ に くれて や るのが ち ょ うどで あ り ま し た 。 それ 以 来 私が 、 口 ず さ んで お り ま す の は 関 西 語で あり ま す 。 マス ター! ただいまよ り関西語 にきりかえ ます。 女2 関西 語 ! 女1 そうで ありま す 。マス タ ー ! ご 記憶で あり ましょ う か? ちょ うど十年前の一月十七日、午前5時46 分. 関西弁が 関西語にな った瞬間で あります 。東京一極 集 中の弊害、 地方都市 無視の防災体制の遅れがもたら し た 、不 条 理 な事態 と 犠 牲 者で あ り まし た 。ご 存知 の よ うに昨 今も 、 日本の標 準語を 東 京弁から 、関西弁に と いう法案が 審議されて いますが 、関西語 は自立しなけ れ ば な り ま せ ん 。 関 西 は 東 京 の 属 国で は な い ので あ り . l l a o t t h g i n d o o g g n i k A と 、 女 2 は 電 報を 渡 す 。祝 電 で ある 。 ; e s r o w d n a e s r o w s w o r g e h ; t o n k a e p s , u o y y a r p I 蔵王三山 ︽ マ ク ベス 夫 人 ︾ 皆 さ ま お 休 み な さ い ま し 。 ︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾で は 、 ど な たも 御 機 嫌よ う ! 女2・蔵王 三山 ︽レ ノックス︾ それで は失 礼を 。陛下 のご回復 を 心より お祈りいたします。 ︽レ ノ ク ・坪 内逍 遥 訳︾ さ よ う なら 。 陛下が速 やかに御全快遊ばされますよう! h t l a e h r e t t e b d n a , t h g i n d o o G , g n i o g r u o y f o r e d r o e h t n o p u t o n d n a t S . y t s e j a m s i h d n e t t A . e c n o t a o g t u B / と 、 女 2 は 電 報を 渡 す 。 弔 電 か ? 42 . t h g i n d o o g , e c n o t A . m i h s e g a r n e n o i t s e u Q / h t l a e h r e t t e //b d n a , t h g i n d o o G . y t s e j a m s i h d n e t t A 女2 と り あえ ず 今 夜で 最 後で す 。 残 業 で や って ん や な い の 、 あたしの好意なの。オールドイングリッ シュ勉強なん で あた し が 、 せ ん な ら ん のや 。 そや ろ 、 昼 に 配 達 指 定 し て 悪 いこ と な い や ろ 。 別 に あ た し が 届 け ん で も え え や ん 。 自 分 で 自 分に 電 報出す の は 、 そら あ ん た の勝 手 や さか い文 句 は あり ま へ ん のや 。で も 、 今 後一 切 、 あ た し に 届 け い な ん ぞ 、 そ ん な 無 茶 ゆ わ ん と いて 。よ ろ し い な 。民 営化 な っ て も あたし はし り ま へんで 。 女1 ︽ 日 本 語 ︾ それ は 関西 語 ? 蔵王三山 ︽ 日 本 語 ︾ 関西 バ ル ブ 弁 や ? e g a u g n a l i a s n a K a t i s I ) .( e v l a v i a s n a K a s i s i h T 女1 ︽ マ ク ベス 夫 人 ︾ い い の 、 話 し か け な いで 、 ど んどん悪く なります から 。 質 問 す る と いら だ つ ば か り 。 す ぐ に お 引 き 取 り を。 退出の順序などはどうか一 切お構いな く。 さあさ あ、早速に 。 ︽ マ ク ベス 夫 人 ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ ど う ぞ ︷ ル ビ な ン に ︸ 何 ︷ ル ビ ︸ も 言 わ な いで 下 さ い 。 だ んだん様子が悪くなる。問答を するに、 尚ほ ︷ルビ げき︸激︷ ルビ ︸しま す 。⋮⋮ す ぐお 開きにしま せう。退席 の順序な んぞにゃ ︷ルビ か ま ︸ 関︷ ルビ ︸は ず、さ、 す ぐに お︷ ルビ さが ︸退︷ ルビ ︸り 下 さ い。 女2 ︽レ ノックス︾ それで は失 礼を 。陛下 のご回復 を 心より お祈りいたします。 ︽レ ノ ク ・坪 内逍 遥 訳︾ さ よ う なら 。 陛下が速 やかに御全快遊ばされますよう! , e g a t s e h t n o p u r u o h s i h s t e r f d n a s t u r t s t a h T e l a t a s i t I . e r o m o n d r a e h s i n e h t d n A と 、 女 2 は 電 報を 渡 す 。祝 電 か ? 刈 田 、 熊 野 、 ︽ マ ク ベス ︾ 昨 日 と い う 昨 日は 、 阿 呆 の 為 に 、 五色は投げる。 塵に返る死 への道を 照らしてきた一筋 の光。消えろ、消え ろ、束の 間のともしび、 女2 顔 ほ ど や な い 。 な に ベ ン チャ ラ ゆ うて や 、 知 ら ん知 ら 人生は 歩き回る影法師、あわれな役者、 ん、知ら んで 舞台 の 出のあいだ だけ 大威 張りで わめ き散らす 蔵王三山 あ ん さ ん に は 敵 い ま へんが な 。 が、 幕が下 りれば沈黙 の闇。たかが白痴の語る と 、 女 2 は 次 の台 詞 を 喋り ながら 退 場 。 一 場 の 物 語 だ 、 怒 号 と 狂 乱 に あふ れて いて も 、 ︽ マ ク ベス ・ 坪 内 逍 遥 訳︾ 小 刻 み に 、 記録 に 残 女1・2・蔵王三山 る 最 後 の 一 分 まで 経 過 し て し ま う 。 総て 昨 日 と いう日は、 阿呆共が 死んで 土に なりに行 く道を 照らしたの だ。消え ろ消え ろ、 束の間の︷ルビ ︽ マ ク ベス ︾ い つ か は 死 ぬ 身で あ っ た 。 そ ん な 知 ら せを 聞 く と き も あ ろ う と 思 って い た 。 ともしび ︸ 燭火︷ ルビ︸! 人生は歩いてゐ る 影 た る に 過 ぎ ん 、 只 一 時 、 舞 台 の 上で 、 ぎ っ くりばった りをや って 、やがて ︷ルビ も う︸ ︽マク ベス︾時は小きざみ な足どりで 一 日一日 を這うように、 最早︷ ルビ︸噂もされなくなる惨めな俳優だ、 ︷ ルビ ば か ︸白 痴︷ ルビ ︸が 話す話 だ 、騒 ぎ も 意 気 込 み も ︷ ルビ え ら ︸ 甚 ︷ ルビ ︸ いが 、 ︽ マ ク ベス ︾ 時 の 記 録 の 終 の 一 語 に た ど り 着 く 。 たわ いも な いも のだ 。⋮⋮ と 、 女 1 は 手 に 持 つ 電 報を テ ー ブ ル に 叩き つ け , y r u f d n a d n u o s f o l l u f , t o i d i n a y b d l o T . g n i h t o n g n i y f i n g i S ; e r i f a e r e h d e i d e v a h d l u o h s e h S 43 . l u f i t u a e b s i t I . n o i t a n o t n i t a d o o g s i t I ! h O 女1 ︽ 日 本 語 ︾ええ や ん 。じ ょ ず や ん 、 顔 と 同じ よ うに綺麗や ん。 . d r o w a h c u s r o f e m i t a n e e b e v a h d l u o w e r e h T , w o r r o m o t d n a , w o r r o m o t d n a , w o r r o m o T / , y a d o t y a d m o r f e c a p y t t e p s i h t n i s p e e r G / / , e m i t r e d r o c e r f o e l b a l l y s t s a l e h t o T / s l o o f d e t g i l e v a h s y a d r e t s e y r u o l l a d n A , e l d n a c f e i r b , t u o , t u O . h t a e d y t s u d o t y a w e h T r e y a l p r o o p a , w o d a h s g n i k l a w a t u b s ' e f i L た 。 ﹁ バ ン ﹂と い う 音と 同 時 に 音楽 。 と、同時に刈田・熊野・五 色のハンド ・クラッ プ静かには いる 。 女1 大阪城は! 女1 いま で も 森 之 宮か ら 京 橋 まで 、 電 車 は 地面 走 って る か ? な んで か 知 って る か ? そ れ は な 、 高 架 に す る と 、 ご っ つ い 塀が あ る の に 、 電 車 の 窓か ら 砲 兵 工 廠 の なか 覗 か れ るち ゅ う わ けや 。 難 儀 なこ っちゃ 。で も 最 後 の 最 後 の 日 に 、 そ こ も 廃 墟 に な っ た 。 鉄 く ず の 山や 。 見晴 ら し のえ え こ ち ゃ ろ 。 だか ら 、 1 ト ン爆 弾 の 雨 の 中で も 焼け落ち な んだ、大阪城は、一 際高くみえるやろ。 44 51 29 女1 紅 蓮 の 炎 と 強 風 が 荒 れ 狂 う な か 、 おばち ゃ ん が 燻 って いる 手を 差 し 出し ﹁ 小 便で 早 く 消 して ﹂ と 叫ぶ んや が 、 恐 怖 の なか 、ち じ み 上が り 、頑 張 って も で ま へ んで し た。 女1 混 線 、 ブレ イ ク 、 混 線 で す 。 女1 三 月 か ら 八 月 まで お っ き な 空 襲 は 八 回 あ っ た 。 B が こ の と き 他 の ご 婦 人 たち 、 暗 闇 の 中 随 所 に いる 。 ハンド ・ク ラッ プは 、女1とご 婦人 たち のする P ム ス タ ン グ の 護 衛で き よ っ た 。 いち ど き に 二 百 も 全員のハン ド ・クラ ッ プと なって いる 。 三百もな。 それが油脂焼夷弾す き放題、 無差別にばら 撒 く 。 そ れ はも う ⋮ ⋮ 猛 火 と 強 風で 止 ま って る 路 面 電 ハンド ・クラ ッ プ 静か に フ ェ イド アウ ト して い く 。 同 時 に 、 ご 婦人 たち のか ま び す し い ハ ン グ 車が 揺れる んや 。⋮ ⋮数え 切れ ん人が 死 んで も た 。 何 ルの台詞の声量が リ ゾ ルブして 大きくなり、騒 も 無 い 見渡 す 限 り の 焼 け 野 原 。 うち の 近 く の 大川 の 水 音と なる 。急に 止む 。 面 に は 焼 死 し た 人 の 亡 骸が 浮 か んで た 。 な お 、 山ち ゃ んこ こ に は い な い 。 女1 混線やて ! 女1 最 後 の 八 月 十 四 日 は 1ト ン爆 弾 の 雨や 。城 東 線 の 京 橋 駅⋮⋮ 婦人達 ︵ 騒 音のハ ン グル︶⋮ ⋮ ! 女1 城東線? 釜田 ︵ ハ ン グル ︶ さー行 き ま っせ 。も うす ぐや ! 今 夜も い 女1 森 之 宮か ら 京 橋走 って る や ろ 。 てこましま っせ。鉄 、ブリキ、ト タン、 真鍮、何で も 女1 環状線。 ええからな 。袋一杯 なったら、 闇夜にま ぎれて消え る、 女1 ほ う 、 電 車 に 乗 って ま で 銭 勘 定す る よ う に な っ た か 。 ええな。 結 構 なこ っ ち ゃ 。⋮ ⋮ そ の 京 橋 駅 に 一 ト ン 爆 弾が 落 ち 鍋島 ︵ ハ ン グル︶ 教え と いた る 、 今 日 の 匁計 り の 値 は銅が た んや 。 数 百人 が 死 んだ 。 狙 い は 大 阪 城 一 帯 の 大 阪 砲 一 番や っ た 。が 、ス ケ ベ根性出して 袋に つめ たら 、 身 兵工廠やった、壊滅や。 動 き と れ へ んで 。助 太 刀 当 て に し た ら 、 互 いに 命 取 り ; ︻ 注記2 ︼台本中の英語の台詞は﹃マクベス﹄︵大 場建治 刊・研究社︶からの引用である。また、一部 ﹃小説・熱海殺人事件﹄︵つかこうへい 刊・新潮社︶ からも引用した。明記して謝意を表す。 45 ; ︻ 注記1 ︼ ここでの観客は日本人を想定している ので、発せられる英語は観客に言語として届かないで あろうと容易に想像できる。 そのように想定している。つまり、英語を俳優は喋 っているのだが、何を言っているのか解らない、とな るのだろう。そこで対訳の字幕を用意することにしよ ; ; ; 鍋島・釜田は退場 。場は刈田・熊野・五色の静 か な複雑な ハンド ・ クラッ プと なって い た。そ のリズ ム が 、ド アを ﹁ド ンド ン ﹂と 叩 く 、 音と なる。﹁ド ンド ン﹂ 。 う。すると、日本人の俳優が演じ、英語を喋る舞台を、 日本人が観ながら、日本語の字幕を見るということに なる。 ここでの字幕であるが、黒衣によるメクリで行う。 であるが、黒衣は順当にメクリをめくる必要はない。 しかし、それはあたかも順当であるかのように装わな ければならない、ということが注意点である。 なお、邦訳は坪内逍遥のものを使用しよう。なぜ坪 内逍遥の邦訳であるかは、小田島雄志の訳より、現代 のわれわれが単に分かりにくいからに過ぎない。 以上の結果、観客は坪内逍遥の邦訳に注視すること を諦めるかも知れない。この諦めるというプロセスを 経て、台詞が古英語であるという違和感を払拭しうる だろうか。であるなら、俳優が台詞を喋るという演劇 営為を、少しは対象化できるはずである。 ; や 。オ カ マ はオ カ マ ら し く 自 分 の面 倒 は 自 分で 見る 。 ええな! 婦人達 ︵ ハン グル ︶ええ よ ! 釜田 ︵ ハ ン グル︶ 本当や な ! 婦人達 ︵ ハン グ ル ︶オ カ マ に 二 言 は な いよ ! 釜田 ︵ ハ ン グ ル ︶ オ イド の 穴 が ゆ る ゆ る に な って 、 皺 くち ゃ に な って も ! 婦人達 ︵ ハ ン グ ル ︶ も と も と 皺 くち ゃ や ! 五色 ︵ ハ ン グル︶ 今 夜は 、人 の死に 水 取 ったら あ か ん。 刈田 ︵ ハ ングル︶ 明日の朝、 猪 飼野の くず鉄屋で 顔合わせ ら れ たらめ っけも の 。 熊野 ︵ハングル︶ 大阪府警のガキども に撃ち殺されるもオ カマの花道 。 婦人達 ︵ ハン グ ル ︶ 命 が あ っ たら ま た 会 い まひ ょ か ! 刈田 ・ 熊野・五色 のハンド ・クラッ プで のド ア を ﹁ト ント ン﹂ 。 女1 ﹁ド ンドン﹂ 叩か んかて ベルついて ますよ 。 刈田 ・ 熊野・五色 のハンド ・クラッ プで のド ア を ﹁ド ンド ン﹂ 。 女1 ﹁ ド ン ド ン ﹂ 叩 か ん か て 聞こ え て る って 、 ど な た な 。 ド アを ﹁ド ンド ン ﹂と 叩 く 音 。次 のド アを 叩 く 音もにも 、 刈田 ・熊 野・五色の ハンド ・クラッ プが 重 なる 。 女2 初め て お伺 い し ますが 、 後藤は ん ッ 、で っしゃ ろ ! よ う お聴き 、こ れが ド ンド ンド ンや 。 半身阪 神ファンの なので、 帽子、ハッ ピ、メガ ホ ン 、 タオ ル の 半 分 が ト ラ 模 様 の いで た ち で 登 場 。 大 阪 の おばちゃ んが よ く持 つ 買 い物 籠も 持 つ 。 襤 褸 を 羽 織 って いる 。 女1 半身阪神ファンの田淵は ん? 蔵王三山 阪 神 ファ ン のレ ン タ ル おね ぇ ー さ んで ー す 。 N P O 脱 籠 城 か ら や って ま い り ま し たで ー 、 ワ レ 。 女2 何や 先客で っか、ほなら 出直そか な。 女1 で 、 そのハン シンハンシンは最初が 阪神、それとも 半 身? 46 [ 5 章 ] 女1 だか ら、近所 迷惑やて 。 女2 こ れがトント ントンで 、ドンドンドンはこ れや 。 女1 は い は い、よ う お越 し 、 だ れで も か ま んか ら お入り 。 鍵 開 いて ま す 。 女2 ハイ は一回や 。 女1 ハイ ! 女2 ︵ド ンドンと 叩く︶これ は! 女1 ト ン ト ント ン や 女2 後藤はん、ま だ見ぬあん たにお聞 きしますが 、いった い 耳 掃 除 い つ し た ん や 、 お と と いか ? 女1 母 さ ん お 肩を 、 女12 ト ント ント ン! 女2 お邪魔します 、こ んばんわ。半身阪神ファン の田淵で す 。盆 と 正 月一 緒 に 運 んで き ま し たで 。 ) ( ) ( 女2 ど う ゆ うふ う に 、 女1 とこ ろで田淵 はん、 女2 田淵 ほどきれ いな放物線を描くホームランバッターは おら へ な ん だ 。で も な 、 抗 議 す ん の は ボ ー ルひ ろ う て からやて 、 試合続行 中や ん、 そや ろ 、泣 く泣 く西 武 に 奉公出した んは親心やて 。それを友情に 応え たかて 、 帰 って きて の ヘッ ド コ ー チは な いや ろ 。 男涙 は 忍 ん で 、耐え て 、 意 地で も 監 督や ろ 。で 、 岡 田 に 、も う ち ょ っとス マ イ ル せや ゆ う た っ た んや 、努 力 は 認め る 、 笑 窪 ま で つ くれ ゆ わ んか ら 、ち ょ っと は 白 い 歯 み せ て のスマイルやろ。 女1 歯 磨 く の わ す れ た んち ゃ う 。 女2 ムッ スとすんやったら虫 歯なおしてからや、 奥歯かみ 締めら れ へ んや ろ 。 今 日の 六甲 おろし は ヤ ケに 身に し みるなあ。 女1 淵ッ ! ブチッとくるぞ! 女2 静 か に し い 。 何 の ため に こ ん な に 喋り なが ら 無 口に な って る んか 分か ら ん や ん ? 女1 結構なお手前ですなあ。 女2 抹茶に茶柱の心境で、明鏡止水。 女1 誰が 千 姫や 。 女2 う ま いこ と ボ ケ ま ん な あ 。 は い は い 、 気 い す ん だ ら シ ャラップ。 女1 ⋮⋮ 女2 スト ラ イクや な。間違 い ない、キ ンコンカンや 。 女1 今、金柑塗った? 47 ) ( 女2 順 番 が チャ う や ろ 。何 の 御用で す か ? が 世 間や ろ ? あるいは、 名のら んか い? それが、エーと、エーと 切符やろ。 蔵王三山 あつは、ぷふ い、キ マイラ 。 女2 あんたら 、何 しにきたんや ! エーと切符や 女1 切符 ? 女2 仕舞 いに怒るで、エーと チケット や 。 女1 も う 入 って 来 た んや か ら 、 戸 ﹁ と ﹂ は イラ ク 。 女2 イラ ク ? 女1 戸 ﹁と﹂ は 、イラ ン 。 女2 そうや エー⋮ ⋮ チケット や ろ 間 エ チケット や 。 バン ザイ! こ んな長いネタ振り回わさして 仕舞いに 怒る で! 蔵王三山 おも ろ な いや んけ、 ワレ 。 女1 あんただれなん。 女2 名 前 な んて ⋮ ⋮ こ こ に 居 る だ け で 幸 せ や 。 女1 でッ ! 女2 こんばんわ。 半身阪神ファンの田淵でんねんやわ。観 て わから ん か 、ここ まで 心 的領 域を 形 象 化 さして 、 こ れ 以 上 な に 説 明 せえ ゆ う んや 。 慮ら んか い 、標 準 語 で 喋 って んと ち ゃ うや ろ 。 見て の と う り 傷 心 の 身 や 。 女1 へー 女2 なんなんその感嘆疑問は、 女1 立派 や なーて 女2 何が ? 女1 大変 や なーて しょうか? 畳 表 の メが 潔 く 擦 り 切 れて いるで は あ り ませんか 。ウソー、わたしは畳 表のメに 、目を疑いま し た 。田淵 は ん 、 私 の畳 表 の メ は 、 い っ た いどこ に 消 え て い っ た ので し ょ うか ? 女2 畳 の 淵 踏 んで ま っ せ 。 刈田・熊野・五色も反応。 女1 一つ 一つ記憶を 刻みつけ た、あの 私の畳表の メはもう 、 帰 って こ な い ので し ょ うか ? 畳表のブラックホール に飲み込ま れた、私 の畳表のメ はいま、 どこを さま よ って いる ので しょ う か 。き っと 私の記憶 が多す ぎて 、 比 重が 極 限 に 達 し 、 ビ ッ グ バン を 起こ し たに違 い あ り ま せ ん 。限 ら れ た 思 い出で よ か っ た ので す 。 女2 も うええか、で 、 耳掃除 いつした んや 、や っ ぱ一昨 日 か? 女1 抱え き れ な い 思 い出を 、 こ れで は 垂 れ 流す し か ありま せん。一つ の畳表の メに一つの思い出を そっとしま っ て 見せまし ょうか。泣くに泣か れぬ天満 橋、枯れて し まえ と星を 見上げた 州崎橋、それでも追 うに追われ ぬ 水分橋、数えて 収め た八百八橋の数ほどに、数に限 り は ある た と え 、 そ れ なの に 、こ の 先 、 垂 れ 流 さ な あ か んとは、そら殺生や 。一足づつ に消えて 行 く。夢の夢 こ そあはれ なれ。あ れ数 うれば 曉の、七 つの時が 六 つ 鳴りて残る一つが 今生の、鐘のひびきの聞きをさめ 。 女2 キンコンカンや。 48 女2 姉ち ゃ んあん ただれや 。 女1 表札みたやろ、後藤さんです。 女2 後藤︵﹁ゴッドー﹂と発 音︶はん ? なんか 他所いき や な 。 ホ ン ト は 仙ち ゃ んや ろ 。 女1 仙ち ゃ ん ? 女2 わて が田淵は んで おます 。あんたが 仙ちゃ ん 。収まり が 非 常にえ え 。なんでや ろ 。 女1 な ん で す って ? 向か いが 山本は んやから 、 奇跡で っ せ。まった く本当のような話や な。田淵 はん、あんた 筋 書き の な いド ラ マ 運 んで き た んか ? 女2 とこ ろで 後藤 はん。 女1 仙ち ゃ ん 。 女2 いつ の間に。 女1 七回の裏にはすでに。 女2 とこ ろで 仙ち ゃ ん 、 あ ん さ んいっ た いここ に 住 んで 何 年になりま す んや 。 女1 シャ ワ ー の 水 が プ チ パ チ プ チ の 頃 か ら 、 五 年 。 蔵王三山 ウソ吐け、ワレ! 女2 チャ チャ 入 れ る んも た い が いにし なは れや 。 な んだ ん ね ん 、 用 済 み なら さ っ さ と 帰 り な は れ 。 刈田 こ の 人が 私ら を 必要 とし て ます ん や な いか 。 熊野 そうや ないか 。 五色 阪 神 フ ァ ン の レ ン タ ル お ね ぇ ー さ んで ー す 。 女1 ウソつき ました。十 年一昔、 住めば都で 、光陰矢 の如し、畳 のメ七回数え 終わり ました。八回目に突 入 した今年の春、愕然としたのは、あたし だけでしたで 女1 こ ら 大変や 。 熊野 あ ん たこ そ 、 何 し に き た ん 。 同 じ 阪 神 フ ァ ン の 好で ゆ う た る が 、 こ こ いら で 表で て 石 投 げて み 、 阪 神 フ ァ ン に ぶ っ つ か る ん や 。 阪 神 フ ァ ン か さ に き て 、 ゴ チャ ゴ チャ ゆ う ん や っ たら 、 顔 洗 って 出 直して こ な あか ん わ な。 五色 あの な、優勝でけなんだ 愚痴、こ んなところで ゆうて も し ょ う も な いや ろ 。家 帰 って 、 来 年 の 開 幕 ま で 布 団 か ぶ って 寝 と き 。 女1 あの なあ、も う何 年も前 から 、ガ ス 止まって んや 。何 心 配して た んや ろ 。 女2 何 ブ ツク サ独 り 言 ゆ うて んや 。 女1 田淵 は ん、 あ んたが ブツ ク サ独り 言 ゆ うて た んや ろ 、 訳わから ん 。 女2 い つ で も 訳 わ か る と 思 う な よ 。 闇 夜 の 晩 か て あ る んゃ 。 で も 、こ の キ ン コ ン カ ン の 情 緒 は 嗅 ぎ 分 け な あか ん わ な 。 は よ 来 いよ キ ン コ ン カ ン 、 危 な い ぞ キ ン コ ン カ ン 、 飛び 込む な よキ ンコ ンカ ン 。耳 澄ま さ ん か 、ここ は 耳 澄 ます とこ や ろ 、 胸 に 手当て る 。 な んで 細 か いとこ に 手を抜くんゃ 。弓手が下で 、馬 手が 上、静かに当て る んゃ 。こ こ は ぐ れ た ら 一 生 も ん や 、 ワレ 根 性 入 れ た れ よ。 女1 いつ の間に河 内弁になったん? 女2 細 か いこ と ゆ う た ら あか ん 。 可 愛 げ な く な る 。 夕 焼 け 小焼けでキ ンコンカ ン、ハイ! 女1 ハイ ! み な さ ん 最 高で す か ! 49 女1 田淵 はん、ゴーンやろ。 女2 ま た て ん ご ゆ うて 、 あて は な 、こ う 見え て も 前 は 、 近 鉄 ファンや った んや 。 蔵王三山 あて ら も や 。 女1 もう昔の話や 。 蔵王三山 それで 、こ の半身阪 神ファンか いな。 女2 物 事 は 奥 ま で み いよ 、 ま あえ え 、 つ ま り や な 、こ のキ ンコ ンカ ン が 聞こえ んて か 。 女1 え、何が ? 女2 聞 く 気 な いや ろ 。何 年住 んで ま ん のや 。 申し 訳な いや ろ。 女1 は ば か り なが ら 、 共 同 便 所の 水 洗 の 音 、 隣 の 学 生 の 話 し声、天井裏を駆け 回るトムと ジェリー 、階段ギ シギ シ軋む 音、 丑三つ時 に、どこと なく聞こ えて くる人 生 の た め 息 、 も う 申 し 分な く過 不 足 な く そ ろ うて 充 分 や から、文句はありま せん。 女2 ご立派やが な 、これは電 車や 。 女1 ツレ イン ? 女2 間違 いなく、 近鉄電 車の 踏み 切り の音や 。え え なあ、 こ うや って こ こ に い る だ けで キ ンコ ンカ ンや ろ 、涙 で る や な い か 。こ の家 はえ え 家 や 、 ア ン さ ん は 幸 せ も ん や 。人生に 感 謝せな な。ジーンと心に沁みるな。ま る で パチンコ 屋で 聞 く 蝉時 雨や な あ。 女1 訳わから ん。 蔵王三山 シュ 、 シ ュ 、 シュ⋮ ⋮ シュ 、 シュ 、 シュ ⋮⋮ 女2 お 湯 沸 いて ん で 。ヤ カ ン か け っ ぱ なし ち ゃ う か ? 女1 女2 女1 女2 女1 それ 以外あり ま へんや ん 。 一撃 ッ! ノースイーストッ! 北斗 ! そや な、 東南 がこ っち や から 、 ケ ン シロ ー、 北東はこ っち や ッ ! 女2 ス ト ラ イク ツ ウ 。キ ン コ ンカ ン や ⋮ ⋮ 間違 い な く 北 東 の彼方から 聞こえるキンコンカ ン。 蔵王三山 待てーっ! ば あち ゃ ん 、こ ん な ん 楽 し いか 。え ら い立派 に スト イッ クや な いか 。 五色 ノ ー ス イ ー ス ト ッ !で 、 北斗 ! 熊野 おと な し ゅ う に 聞 いて て も 、 メ チ ャ ク チャ こ じ つ け ま く って んや ん 。 刈田 ツッ コ ま なしゃ な いや な いか 。 熊野 あ ん た 、 いや ら し いで 。 五色 そうや、いうまでもなく品位の問 題や 。大阪 のおばち ゃ んのレ ベ ル そのま まや ん。向 上心とか 克 己心もて や 。 刈田 ・熊野 うち ら にも 仕事 さ せなさ い 、汗を かか せなさ い 。 女1 こ ん な んえ え んや ろか 。 蔵王三山 ええないっ! と 、 女 1を 押 し 戻 す 。 女2 疑うな! 疑え ば、屋根まで 飛んで 、壊れて 消え た人 生 も 、 単 な る 影 法 師 。 バ ー ム グ ロ ー ブ が 動 いて こ そ 人 生や おま へ んか 。 50 女2 ⋮ ⋮ 悲 し い 。 仙ち ゃ ん 、 あ ん た そ ん なこ と 口 に し て 、 恥ずかしさ に押しつぶ されるや ろ。わか ります 。わ か りますが それを いっちゃ お終いよ。 女1 言 う に 言 わ れ ぬ 信 濃 橋 、 け ど 、 恥 ず か し さこ ら え 、 い わ な あか ん と き は 、 殺 生や け ど いわ な あ か ん 。 ため ら う 街 に 、 傘 も さ さ ず に 濡 れ 鼠 、 チュ ウ と 鳴 いて 、 大 見 得き って 宙 返り 。蛙 が 鳴くから かえ ろ、 ハイッ ! 女2 泣 き た い の は あ ん た だ け や お ま へ んで 、で も 体 は 鍛 え なはれ⋮⋮ 女1 半信 半疑の田 淵はん。 女2 半身阪神ファンの田淵や 。 女1 それでも 半信 半疑の田淵 はん。 女2 ホ ン マ ノ のこ と は こ そ っ と 、 聞 こ え ん よ う に いえ 。 女1 悲し か ったら 泣きなさい 。 女2 そうや 、半信 半疑で 半身 阪神ファ ンの田淵で す 。前は 近鉄 ファンで ありま し た、も う 昔の話や 。全身阪神 フ ァ ン に は な り き れて ま せ ん 。 そ ん な 田 淵 で す 。 女1 幸 せ は 歩 いて こ な い 、 手 のひ ら に 太 陽 を 、 三 歩 進 んで 二 歩下 が る 。真 っ 赤 に 燃え る 君 の 血 潮 、 人 生 は ワ ン ツ ウ パン チ! 女2 ワ ア チャ 、 ア チャ 、 ア チ ャ ! タッ タッ タッ タッ タ、 百 裂拳 ! お前はも う死んで いる。 女1 もしかして、それケンシロー。 女2 さも ありなん 。正確に。 女1 北斗 神拳 ! 女2 はい、出まし た。 51 女1 カンカン。 女2 あか んて 、 阪 神も 近鉄も 同じや っ たら 、 メセ ナ わから んなんや ん 。 女1 J R も 南 海も カ ン カ ン 。 女2 仙ち ゃ ん 、 あ ん た なに ゆ うて ん の 、し か り し いや 。 い つものテン ポと違うというのが わかるんや ったら、し っか り せえ な あか ん や ろ 。 判る んや ろ っ ! 女1 京阪も阪急もカンカン。 女2 仙ち ゃ ん 、 仙 ち ゃ ん て ⋮ ⋮ 女1 や っ ぱり 、 大 阪は気 楽 に ジャ ン プ し ます ! 女2 体鍛 えて 、あ んじょうお気張り。 女1 ⋮⋮ 女2 若 者 よ 、 体 は 鍛 え て おけ 。⋮ ⋮ ど う し た ん 、 仙ち ゃ ん ッ! 女1 あんた何しにきたん! 女2 阪神電鉄の軌間は ㎜ 。つまり 軌道 間、二 つのレ ー ル の 間が な 、 少々 大 き い ん だ す 。で 安 定 し て る か ら 、 列 車 の 通 る 音が 小 さ い の んや 。 女1 線 路 に 継 ぎ 目 が な いから や ろ 。 女2 何で 鬼の首と った桃 太郎 みたいに ゆん。楽し いか ? そら 新 幹線 のレ ール の 長さは 1 5 00m も あるや ろ 。 それが ど な いし たん 。そら 岡山 には新幹 線 は 止まる や ろ 。 それが ど な いし た ん 。 あ ん た の おか げか 。 女1 じ ゃ 阪 神 電 車 は ど の くら いな ん 。 女2 な ん で 、 近鉄 電 車て 先に 訊 か へん の 。美 味し いとこ は 後に残 そうよ 。 5 3 4 1 刈田 この 方にはその人生がおまへんのや。何とかしたりた いや な いか 。何で そ う思わ ん。 熊野 こ の 方 は 夜 な 夜 な 、 マ イ ク に 向 か って ゆ う と り ま し た 。 聴 者 の 皆 さ ん 。 お元 気 で し たか ? お変 わりありま せ んで し たで し ょ うか 。 五色 お変 わ り な い わ け な いや な い 。 皆 さ ん 生 き て ます んや で 。 な んち ゅ うこ と を の た ま う ので し ょ う か 。 刈田 試験電波発信 、発信、応 答応答 願 います 。お応え しま す。 熊野 貴 方 にコ ン タ クト を 求め て や って ま いり ま し た 。 刈田 ピッキーン!︵と動き︶ 熊野・五色 いま 世 間で 注目 の レ ン タル おねぇーさ んで ーす 。 刈田 ピキ ピキピッキーン!ピキピッキ ーン!︵と 動き︶ 女1 ⋮ ⋮ キ ンコ ン キ ンコ ン 。 女2 それは阪神電 車の踏み切りや。 蔵王三山 無視すんな! 女1 チン チン。 蔵王三山 あんたはまず無視せえ ! 女2 何を 言うてる んんや 。聞こえ る の は 京阪のキ ンコンカ ナでっせ。 蔵王三山 無視すんな!無視す ると、飛び込み自殺やろ。 女1 南海やろ、京阪はコンキ ンや。 女2 なんやて 、そしたら 近鉄 は ? 女1 カ ン カ ン ⋮ ⋮ 田 淵 は ん 、 な んか 今 日 、え ら い テ ン ポ わ る い な あ 。 店じ ま い し ょ うか 。 女2 あか んか ん。 阪神は ? 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 京阪は。 京阪、阪急も ㎜。 銀河鉄道は。 え っ 、 あんた はカム パネ ルラ か 、 それとも ジ ョ バンニ か ど っち や 。 関係 な い 。 銀 河 鉄 道 の 軌 間は ッ ! 宮沢 先生しか 知りません。 半信 半疑で 半 身阪神ファ ンの田淵 なんやろ。 なんとか し な さ いよ 。 それ とこ れと はちゃ うで しよ 。 そ ん な台詞 は 、 脈絡 ある 話 を し て 言 い な さ い 。 ハイ ! まこ とに おかし い話で し たが 、こ れ は 本当 は 軌 間 の 話 し で は あ り ま せ ん ので 、 銀 河 鉄 道 の 軌 間 は ⋮ ⋮ 訊 か んで お いて 。 ハ イ 、 オ チ ま し た 。 お 後 が よ ろ し いよ うで 。 ハイ 、お囃子 。引っ込み ます 。拍 手、さよ う なら 。 オ フ サイド ! 落 語 とちゃ う ん 。 もと い、ボーク! 退場 ! よ ぉ そ ん な ア ホ なこ と 言 ぅ わ 。こ う 見え て も うち は 半 身阪神ファンの田淵でっせ、抗議はします。 監督を呼べ、 監督や ないと抗議は 受け付けま せん。 仙ち ゃ ん ! わ た し が 仙ち ゃ んで す 。 何 の 文 句 を 言 いに 来 ま し た ん や 。 それと も 事件、 御用 は ? 52 女1 女2 女1 女2 3 5 4 1 7 6 0 1 女1 近鉄 電 車は ? 女2 何で 鬼の首と った金太郎みたいに ゆうん。琴 ヶ浜の内 掛けや ん。 女1 ほい。 女2 名 手 大 関、琴 ヶ 浜が 内掛 け 決めて 、 それは当 然 の 決ま り 手や 。 そ れ は当 然 や け ど 焼 け 火 鉢 、 期 待 し ます わ な 。 決めますわ な。それが琴 ヶ浜の 内掛けや ん。 女1 近鉄 電 車は ? 女2 よ う お越し 。 自 分で 調 べ な は れ 。 女1 知ら んねやろ 。 女2 は い 、ここ で 問 題で す 。 15 0 0 mも ある ロ ン グレ ー ル、一体ど のように して運ぶのでしょうか お答え くだ さい。 女1 ガ タ ン ゴト や ろ 。 女2 そうや 、聞こ え へんのや ろ。だか ら聞 いたや ん。 女1 聞こ え へんゆ うて んのに 。 女2 だ か ら 聞 い た ゆ うて んの や 。 あ の な、 耳 掃 除 い つ し た んや 、 おと と いか ? 女1 あ ん た はキ ン コ ンカ ンや 。キ ンコ ンカ ン⋮ 女2 そうや 、その と おりや 。 女1 だ っ たら何 で ガ タ ン ゴォ ト ンや 。 女2 だれがガタガ タや 。 女1 あん たが 、 阪 神が ガ タン ゴトで 、 近鉄が ガ タ ン ゴォ ト ンて 区別し たんや ろ 。 女2 つまり近鉄の軌間は ㎜や か ら 、 違 いは あ って 当 然 やろ。 女1 ほ う 、 そ ん な ん いう の は 何 処 のダ レ ジャ 。 女2 そら ま あ色々 あるけど、 一 番の事 件は、一昨 々 日な、 郵政民営化 に先立って、一丁目 と七丁目 の特定郵便局 が 、売 り 上 げ 上げ な なら んや ろ うからて 、 ため し に 接 客 の シュ ミ レ ー ショ ン し た んや て 。 テレ ビ で も ニ ュ ー ス に な っ た か ら 、ひ ょ っ と し て 視 た か な あ 。 女1 初耳やで 。 女2 え ら い騒 ぎや っ た んや 。 女1 ほう そう、そら 大変や 。で 、ど っちが ユウセ イや った ? 女2 ⋮⋮ 女1 で。 女2 そら ま あ 。 女1 そら ま あッ ? 女2 そら 、 ま あ ! 女1 そら ま あッ ? 女12 そ ら ま あ 、 ま あッ ! 女2 ⋮ ⋮ 仙ち ゃ ん 女1 半身阪神ファンの田淵は ん? 女2 ぼち ぼち 失 礼 し ます 。 蔵王三山 うち ら も 、 今 日 は 失 礼し ま し ょ う 。 女1 え? ウソー。 刈田 後藤はん!ご 無沙汰して います。 いかが お過 ごしです か? 熊野 お元 気 のこ と と 思 います 。こ の お 手紙がち ょ うど 九 百 九十九通目 の御便りとなりまし た。十六年前にあなた のこ とを 知 り 、 あ な た のこ とを も う 少し 知 り た くて 、 53 女2 そら ま あ 。 女1 そら ま あッ ? 女2 そら 、 ま あ ! 女1 そら ま あッ ? 女12 そ ら ま あ 、 ま あッ ! 蔵王三山 そら ま あ 、 十何 年も 引こ も る んや か ら 、 あ ん たが い くら 古 い お友 達 や から て 、 ジ タ バ タ し て も ⋮ ⋮ 女2 引こ もる んが 、なぜ悪 い 。籠城は 立派 な戦術 や 。 女1 田淵 はん、なんかゆうたか? 女2 昨 日 な 、 ス ー パで なス ー パー マ ン が 一 玉 三 百 六 十円 も し て た レ タ ス な 、 百 円で 投 売 り し て た ん や で 。え ら い 事件や 。 女1 スー パーマン の出現が事件かい、 それとも一玉百円が かい。それとも見たことも ない、さぞ華 麗な投売りだ ったんやろ なあ、うちも一目み たかったなあ。 女2 一昨 日な、向か いの商店街の奥の 銭湯に⋮⋮ 女1 ほ う 、 セ ン ト ウ い う ぐら いや か ら 、一 番 風 呂 で し た か ? 女2 そら ま あ⋮ 女1 そ れ と も 血 ま み れ の 男が 駆 け 込 ん で 来 ま し た か ? そ こではさぞ凄惨なセ ントウシー ンが繰りひ ろげられ た んで し ょ う な あ 。 女2 そら ⋮ 女1 まあッ! 女2 そら ま あ、ダ 洒落 いうの んは、あ んまり拘ら んとスー と 通 り 過 ぎ る んが 粋 や か ら な 。 普 通 銭 湯 も の は ユ ウ だ けやから。 54 返事を 書くことが、 出来たので すから、 それは捨て た お便りを 差 し 上げた のが 、つ い昨 日のこ とのよ うに 思 も ので は あ り ま せ ん 。 わ れ ま す 。 ⋮ ⋮ 今 、 こ の お 便 り 読 んで い た だ いて い る 女1 ⋮⋮ で し ょ うか ? いつも のこ と なが ら 、 そ う 思 って し ま い 蔵王三山 後藤はん、昨日お手紙さしあげました。ちょうど ます 。さっ そく、昨 日も 今 日も 相変わら ずの、私の 晩 千通目の御便りとなりました。 ご 飯 のこ と を 書 いて み ま す 。 い やち ょ っ と だ け 違 う こ とを 書けば 、今 夜は 、駅前 のロ ーソ ンに 出か けて ワ ン カ ッ プを 一 つ 買 って き ま し た 。 一 つ だ け 贅 沢 で す 。 長 と 、 刈 田 ・ 熊 野 ・ 五 色 は 退 場 。 龍の二級で す。晩酌を付けたのです。ヤカンにワンカ 女2 ⋮ ⋮ 仙ち ゃ ん 。 うち ら ち ょ っ と だ け 、 お 知 り 合 い に な ッ プを 入 れ て 人 肌 に 暖め よ う と し た ので す が 、 ア ル ミ れたやろか ? の 蓋を 取 っ て 暖め る のか 、 そ の ま ま か 悩 んで し ま い ま 女1 多 分 、昨 日よ りち ょ っと 。我 慢し たダ 洒落 の 分だけ は 。 し た 。何 年 ぶ り の晩 酌で し ょ う 。 遠 い昔 で す 。 女2 事件やろか? 五色 結 局 、 ア ル ミ の 蓋を 切 っ て 暖 め た ので す が 、 勘 所 を 逃 女1 どや ろか 。 が し 、 少し だ け ア ル コ ー ルが 飛 んで し ま いまし たよ 。 そや な 。 で も 、 ワ ン カ ッ プを 持ち 上げ る と き 、 あ ま り の 熱 さ に 、 女2 女1 ⋮⋮ あの と っさに指 先を 、 耳 たぶに持 って いくこ とは忘れて い 女2 なんやろ。 ま せ んで し たよ 。 後 藤は ん 、 あ な た の 人 前 に 出 る 恐 怖 女1 何 も な いで 。 何 も な い け ど 、 今 日 も だ れ も こ な ん だ な が 少し 、 い つか 薄ら いだと き 、 ワンカ ッ プを 買 いに ロ あて ⋮ ⋮ ーソンにいけるよう な日がきたとき、そのときはお知 女2 そう か 、じゃ 、お邪魔し まし た。 ら せ く だ さ い 。 ワ ン カ ッ プ の 熱 燗で 乾 杯 を し た いと 思 女1 お邪魔されました。 います 。 女2 ⋮⋮ あの 刈田 かしこ。 女1 ⋮ ⋮ な んで す や ろ 熊野 そん な貴 方か ら 、つ いに 返信が 、 昨 日来たので し た。 ⋮⋮ その こ ん なわた しで も 、 人 と 話 すこ とがで き るで し ょ う か ? 女2 女1 ⋮⋮ はい、半身阪神ファンの田淵 はん? 刈田・五色 できますとも ! 女2 最 後 に 一 つ よ ろ し いで し ょ う か ? 熊野 き っ と き っと 、で き ます とも 。 ええッ! 刈田・五色 捨て た も ので は あ り ま せ ん 。 あ な た は こ う し て 、 女 1 女1 ええ 、 女2 あの 、これそこ の﹁ドンドンドン ﹂のとこに落ちてま し たで 。 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女1 ) 女2 女1 女2 女1 女2 お別 れですね 。 だか ら だから、本当 に、お別れですね。 忘却の彼方へかえりましょうか? それとも 最後にキ ーを 外して 、中島み ゆき歌いましょうか ? いえ 、 あ の 、 実 は 、 く だ ら な い心 配が 一 つ 、 ええ 、是非。 あま り なので 、人に聞 い たこ とが 、 ええ 、分かります。ハイッ! あ る 日 、 臨 終 間 際 の 息 も 絶え 絶え の お じ いち ゃ んが 家 族 を 前 に 、 医 者 の 手 を 採 って い い ま し た 。 先 生 、 二 人 のドラ 息子 が 心 配で 心 配で 、死 んで も 死 に 切れま へ ん のや 。 心 し て 聞 いて ま す 。 医 者 が 、 おじ いち ゃ ん の 手を と っ て い い ま し た 。 なんとかしたらなな。 心 肺 ﹁ 心 配 ﹂ 停 止で す 。 だれが名付け たか・私に は・別れ うた唄いの ・影が あ る⋮⋮足袋脱げ。 半身阪神ファンの田淵は ん 55 女 1 は 何 も なか っ たか の よ う に 封 書を 受け 取 る 。 ( 女2 それで は、今 日こ うして お邪魔し たのは、事 件で し た でしょうか ? 女1 多分、す べったダ洒落 の過激さほどに。 女2 許 容 範 囲だ っ たで し ょ う か ? 女1 それを強要し ますか? 女2 貴方の教養の問題です。 女1 ハイ 、中央ア ルプス千畳 敷スキー 場の大滑降です。 女2 お っ しゃ って 。 女1 ほ っ て お いて も 見 事 に 滑 り ま くり ま す 。 女2 つ か の 間 の 退 屈 と 、 少 し ば か り の 友 愛 に 満ち た 苛 立 ち を 置 いて 帰 り ま す 。 女1 お別 れですね 。 女2 そ ん な 嬉 し そ う な 笑 み を 浮 か べて いわ な い の が 、 エ ー と、切符で す 。 女1 お別 れで す か ら 、度を 越 して 悲し みが こ ぼ れ て いる の です。 女2 大変 よ くわか ります 。が 、 仙ちゃ ん 。 あなた は 、 大阪 の お ばち ゃ んが 、こ の ま ま す ん な り 帰 る と 思 って い ま すか。 女1 別 れ は 、 い つ も 、 後 ろ 髪 を 引 く も ので す か ら 。 女2 掛布は髪ないで、どうなんの、か わ いそうや んか 。 女1 寄る 年波には勝てません 。 女2 や は り 、も う 少し 引 っ張 って く れ へ んと そこ に 帰 れ ま せん。 女1 あの 、 女2 あの 、 ) ( 女1はスパイク タッ プ シューズを履 く。 女2 ハイ は一回や ッ 。 女1 ハイ ! 女2 ︵ド ンドンと 叩く︶これ は! 女1 ト ン ト ント ン や 女2 耳掃除 いつし たんや、おとといか ? 女1 母 さ ん お 肩を 、 女12 ト ント ント ン! 女2 お邪魔します 、こ んばんわ。半身阪神ファン の田淵で す。ワープしました。 女1 半身阪神ファンの田淵は ん? で その ハン シ ン ハン シ ン は 最 初が 阪 神 、 そ れ と も 半 身 ? 女2 ガキ のつか いや ないから 、大阪の おばちゃ ん は気短い の知ってるやろ。 女1 ワ ー プ ま で し て も ろ う た のに 、え ら い 失 礼 し ま し た 。 で 、 御用は ? うち 忙し いね んや わ 。 女2 単刀 直入にい います。お宅は読売 新聞ですか 。それと も ﹁ 希 望 の 光 ﹂ 読 ん で も ら え て ま す か 。 つ いで に 町 内 会 費払 いま し たか 、 で なか った ら 、押 し 売 り お断 り て 書 いて て も ら わ な 、 一 応 挨 拶 し て し ま い ま す 。 女1 いま さら挨拶 なんかええ て 。 女2 挨拶 抜きなんて、結構友達になってますやんか。 女1 無理やりな。 女2 そ の 無 理 つ い で に 、 タッ プ踏 んで 。 女1 そら 無 理や わ 。 女2 無 理 や り ワ ー プして こ こ まで き た んや 。 いま さら 無 理 と は おか し いや ろ 。 や り 。 それ と も 、で け へ ん ゆ う の は あ ん た 、 ま さか ジ ャ イ アン ツ ファンや な いや ろ な 。 ジャ イアン ツ ファン はス パイク で タッ プ 踏まれ へん の や。 女1 ハイ ハイ 女2 準備運動代わりにランニング! と、女 1はラ ンニング。 女2 息 切 れす なよ ! な ん な 、 そら 無 理 や りや って んや ん 。 いや いやや ん。だか ら 、ゆうたや ろ、せ めて 体は何 が 56 女2 ほ ん と の 最 後 に 一 つ よ ろ し いで し ょ う か ? 履 いて 。 ︵ タッ プシューズを 置く︶ 女1 ええッ! 女2 はよ 履き。 女1 はい。 女2 意を 決して お 邪魔し たん は、こ の ス パイクで タッ プを 切 って も ら おう と 思 うて や って ま い り ま し た んや で 。 女1 最 初 か ら 、 何 で そ う い わ へ ん の 。 めち ゃ くち ゃ 回 り く ど いや ん 。 女2 それ じゃ ーワ ー プします 。 女1 え 、 今 夜は何 年前に ! 女2 それ 履か んと いうこ とは ないやろ 。ワープで け へん。 女1 ハイ ハイ。 で 、女2は 、 あ って も 鍛 え と か な 、 そ う や ろ 、 息 切 れ す る と 、 い や いや に 見え て し ま う や ろ 女2 わて が ほ んま によ う いわ んわ 。一 緒に いきま しょ 。 女1 無 理 や りや か ら それで い いや ろ 。 女2 リーリーリー 牽制ッ! リーリーリー牽制ッ ! リー リーリー滑りこみッ ! お待 た せしまし た。ほ なら 、 音楽行こ か ーッ 歌い! 笠置シヅ子﹃買物 ブギ ー﹄ 流れる。 ♪今日は 朝から 私 の お家は て んや わ んや の 大騒 ぎ 盆と正月 一緒に来たよな て んて こ ま いの 忙し さ 何が な んだか さっぱりわからず どれが どれやら さっぱりわからず 何も聞かずに 飛 んで は 来 たけ ど 何を 買 うやら どこで買うやら そ れ が ご っち ゃ に なりま して わて ほ んまに よ ういわん わ わて ほ んまに よ う いわん わ 女1は 歌 いながら タップ。 決まる。音楽の途中 ♪たまの日曜 サン デーというのに 何が 因 果︵ いんが ︶と 言 うも のか こ んな に沢 山︵ た くさん︶ 買物たのまれ 人の迷惑 考え ず あるも の な いも の 手あたりしだいに 人 の気 持ち も 知 ら な いで わて ほ んまに よ ういわん わ わて ほ んまに よ う いわん わ ∼略 ∼ ちょっとおっさん こ んにち は ちょっとおっさん こ れ な んぼ おっさ んいますか こ れ な んぼ おっさんおっさん こ れ な んぼ おっさ んなんぼで なんぼがおっさん おっさ ん おっさ ん おっさん おっさん×3 わて つ んぼで 聞こえまへん わて ほ んまに よ ういわん わ わて ほ んまに よ う いわん わ あーし んど 作詞 ・ 作曲 / 服 部 良 一 57 と 、 い うも の の 女 1 は タッ プを 快 適 に リ ズ ム を 刻む 。 と、女2は﹃六甲おろし﹄を弾く。女 1はタッ 女2 ) 女2 女1 女2 女1 女2 ( 女1 ち ゃ う んち ゃ う 。 女2 何が ? 息 あ げ んや な い ッ ! 女1 ス パ イ ク は い て 、何 で ﹃ 買物 ブギ ー﹄ な ん 。 い くら な んで も 無理 あるや ん 。 女2 無理が通れば 道理が引っ 込む 。草履 ﹁道理 ﹂ 代わり のス パイク シューズ が 今、無理 して 頑張 って くれた ん やない。 女1 周 り 近 所 か ら 、 苦情 き て も 、 そ ん な んや 言 い 訳で け へ んや ん。 女2 ス カ ッ と し た や ろ 。え え や な い 。 女1 ち ゃ う や ろ 、 ス パ イ ク 履 いて 、 歌 う た う ん な ら 、え え か、半身阪 神ファン の田淵はんに向かって いうのも 失 礼 なが ら 、 なに は さ て お き ﹃ 六 甲 お ろ し ﹄ や ろ 。 女2 よろしい。 女1 当然やん。 女2 お お い に よ ろ し い 。じゃ 、 厚 い ご 要 望 に お 応 え し て ま いります 。 女1 そうこ なな、でも 、道上洋三バー ジョンは止めてや 。 女2 ごち ゃ ごちゃ いわ ん 。 女1 風 は こ っち や な 、 指 を ペ ロ ッ で 田 淵 は ん 、 浜 風 よ ー し。 女1 女2 ) ( 女1 女2 女1 女2 女1 何で 歌わんの ? 唇真 一文字に 結んで 、風を 切って ますから 。 そん なんやか ら あか んのや 。 えっ? いつもそうなん。あんたはやっぱ歌わんの。あたしは そやから と 思 います 。だから 、キ ンコ ン カンも聞こ え ま へん のや 。す ぐ そこ に 踏 み 切 り あるや ん 。頑 張 っ て や 。何 票 差 ある と 思 って ま す ん や 。 上向 いて 、 ボソ ボ ソ と 歌 って る か ど う か 解 ら んよ う な 、 視 線 上に 投 げ 上 げ て る ん か 、 足 元 の 芝 生 見て 歌 って る か る か ど う か 解 ら んよ うで は 、も う 情 け のう な ります 。 今度 は、なに 言 い始める つもり。 仙ち ゃ ん 、 ワ ー プし た け ど 、 うち ら ま だ 、 お 知 り 合 い に な れ た ま ま や ろ 。 も う す ぐ 友 達 や ん 。 そや か ら 分 か るやろ。わてが何で こ うして お 邪魔したか 。無駄 口 た た き に 来 た んと 訳が ち ゃ いま っ せ 。 半身阪神ファンの田淵は ん。 は い な 、 仙ち ゃ ん 。 お知 り 合いと お友達はご 近所です か ? 半身阪神ファンと全身阪 神ファン のほどには 。 お買 い物 のつ いで に 、 お 邪魔して いただ いて 、 ありが とうおまし た。はよ せんとお店 締りますで 。 で は 仙ち ゃ ん 、 し っか り 歌 って く だ さ い 。こ の マ イ ク 58 プを 踏 み 始 め る 。女 2 、急 に バ ンと鍵 盤 を 叩 い て 止め る 。 女 1 、 2 の タッ プ 。 決 ま る 。 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 か。 近所迷惑で っせ。 最 後 に 一 つ よ ろ し いで し ょ う か ? ええッ! キ ン コ ン カ ン が 浜 風 に 乗 って 、聞 こ え そう な 、 そ ん な 気がしますが、自信がもう少しもてませ ん。 ﹃ 六 甲 おろ し ﹄を 無 理や り 歌 って 。 タッ プを 踏 んで み ますか? ぜひ 強 引 に っ ! 心の準備はッ ! ハイ、今スパイクは中央 アルプス 千畳敷スキ ー場の大 滑 降 の 上で す 。 女2は﹃六甲おろし﹄を弾 く。 ♪流れる雲に竿さして 別れの歌、口ずさむ 荒ぶるる意気、途切れ切れ 明 日に 歌 う は 、青 春 の 日々 あ、あ 、汗 青 春 の 日々 なめん な、なめん な、なめ んな ∼略 ∼ あ、 あ、汗 59 ) 女1 女2 ( 女1 女2 女1 女2 をつけて 、しっかり 歌って くだ さい。そうして 、得票 6 43 3 、 ﹁レ ッ ト ・イッ ト ・ ビ ィ ﹂ 、 五票 差で ﹁ 六 甲おろし ﹂ のこ の 五 票 差を 逆 転 して 下 さ い。不 肖、 明 日は全身阪 神ファン の田淵 のお ばちゃ ん は、必ずイ ン ターネット 投票しま すから 。仙ちゃ ん、 だから 、が ん ばって歌って くださ い。あなた の歌声で みんなを元 気 づけて くだ さ い。 はい。 貴 方 の独立す る 大阪の国 語 は 関西 語で す よ ね 。 はい。 だか ら 、カントリーソン グ 国歌 は﹃六甲おろし﹄で す。 はい。 で は 失 礼し ま す 。明 日は 全 身阪神 ファンの田 淵 の おば ちゃ んは、一言、そうお伝えし たかったのです。 少し だけお知 り合いにな れた田淵 はん。 はい。 それ だけです か? 練炭 自殺誘 いに来たと思 いましたか 。 そのほうがましだったかも知れま せん。 ぼち ぼち 失 礼 し ます 。 え? ウソー。 仙ち ゃ ん 。 う ち ら も うち ょ っと だ け 、 お知 り 合 いに な れるやろか ? 意を 決して お 邪魔し たん は、こ の ス パイクで タッ プを 切 って も ら おう と 思 って や って 来 た ん と 違 い ま す や ろ 青 春 の 日々 なめ んな、なめ んな、なめんな ( 女 2 が 弾 く 曲 に 重 な って 、 レ コ ー ド の 原曲 ﹃ 六 甲おろし﹄ 作詞/ 佐 藤 惣 之助 作曲/古 関裕 而 が 流れ る 。こ の曲 で 女 1 、 2 は タッ プ を 踏 む。 やがて 女2退場。 ﹃六甲おろし﹄消える。 女 1 は 一 人 で タッ プを 刻む 。 タッ プ の 音だ け が 響く。響く、まだ響 く⋮⋮ 静寂のなか、女1の息切れ の﹁ゼーゼー、ハー ハー﹂がや けにうら 悲し く聞こ え る 。 ) 静寂の中の女1の息切れの﹁ゼーゼー、ハー ハ ー ﹂ は や が て 、 忍 び 笑 いから 、 大笑 い に 変 わ る 。 時間にすれば、五分強ほど笑うことになる。そ の笑 いは文楽の義太夫語りの、 あのあき れる程 長 い 笑 いで ある 。 こ の笑 いの中 、 音楽 入る 。 タッ プシュ ーズを 脱 ぐ。 ) ( 女1 笑 い わは、わーは、わーはは、わーっはあははは⋮ ⋮⋮⋮ 女1は女2から受け取った封筒を開く。 ) ( 女1 ⋮ ⋮ 笑 い泣き で 読み 始 め る 前 略 ⋮ ⋮ ず いぶ んと ご 無 沙汰しちょ りますが 、そん後、 お変わり ねえかえ 。 お 便りも 出さ んじ、今 日まで 来た んは、時 間がねえか ら で も 、よ だ き か っ た け んで も 、 貴 方 んこ つ 忘れ たけ ん 60 [ 6 章 ] 英語 ! h t e b c a M ) 女2 ⋮⋮ 英語 , e y e r u o y n i m o c l e w r a e b , e m i t e h t e k i l k o o L , r e w o g n i m o c s ' t a h t e H . t ' r e d n u d n e p r e s e h t e b t u B t u p l l a h s u o y d n a ; r o f d e d i v o r p e b t s u M ︽マク ベス夫人︾ ねえ あな た、あなた の お顔は まるで 本のよう、だ れの目にも 怪しい内容を 読 み と ら れて し ま う 。 世 間を 欺 く の に は 世 間と 同じ 顔 つ き を して 、 目 にも 、 手 にも 、 口 にも、 歓迎 の 色を 浮か べ るこ とで すよ 。み せ か けは無 邪気な花、 61 l f t n e c o n n i ' h t e k i l k o o L . e u g n o t r u o y , d n a h r u o Y 女2 n e, me m ei rt e he wh t k oe ol bi u ag e sb a o sT i ,. es nr ae ht tt a ym m ,e cg cn aa fr t rs u od Ya )e r y a (M , h c t a p s i d y m o t n i s s e n i s u b t a e r g s ' t h g i n s i h T e m o c o t s y a d d n a s t h g i n r u o l l a o t l l a h s h c i h W . m o d r e t s a m d n a y a w s n g i e r e v o s y l e l o s e v i G 英語 ! h t e b c a M ) ( 女2 と 橋掛 か りで 女 2 。 いで た ち は 半 身 阪 神 フ ァ ン の応援グッ ズ一つ、 郵便配達員 の腰カバン、座 布 団二 枚 、 買い物カ ゴで 登 場 。 女 2 は 老 女で あ る。 ( で も 、 ね え んで 。 た だ 、 あ ん た に 近 況 を お 知 ら せし て ん、ご迷惑かち思うて、今日まで失礼しち来ました。 こ こ じ 貴 方 は ﹁ な し か え ﹂ ﹁ ど げ な っち ょ ん の か え ﹂ と 訊 く んじ ゃ ろ うえ 。 そ げえ 訊 か れて ん 、 うち ん 近 況 は 、 雨 蛙 が な いち 、 雨が 降 る ぐ ら いじ 、 た いし たこ た ねえ んで 。 隣の猫 ん たまが 、うち ん顔見ち 欠伸をしち 外 に 出ち い く ぐら い んも んじゃ 。 大 事 件 ち ゅ う たら 、 駅前んなんもねえ 通 りに、オムラ イスし かねえ ファ ミ レスができ た ぐら いじゃ 。ため しに﹁小 倉アイス﹂ た の んじ み た ら 、 や っ ぱ ﹁オ ム ラ イ ス ﹂が で ち き た ん で 。 た いて え 、 明 日 か ら も 何 も ね え じ 、 た い て え 、 こ げ な 幸せが 続 く んじゃ ろ う 。 そしち 明 後 日も じゃ 。 それ が 不 満ち ゆ う のじゃ ね え んで え 。 仙ち ゃ ん へ⋮ ⋮ 昨 日 の 仙ち ゃ んよ り 。 女1 ⋮⋮ あの唐突ですが、幸せ、ですか? ⋮ ⋮ 今で も ⋮ ⋮悔いはありませんか? ⋮⋮ それは、悔いなどあり ませんね⋮⋮⋮これからも、だから⋮⋮ ありませんか? そうです ね⋮⋮ あ りませんね 。⋮⋮ そ うです 、き っ と あり ま せ ん 。 だか ら ⋮ ⋮ こ れ か ら も ね 。⋮⋮ わ た し は 、 も ち ろ ん あ り ま せ ん よ 。⋮ ⋮ あ な た は ど うで す か ? だから⋮ ⋮ あの、 幸せ、です か ? ク エス チョン マ ー ク ⋮ ⋮て んて んて ん . ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? , ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? , ? ? ? , e s r o m e r o t e g a s s a p d n a s s e c c a ' h t p u p o t S e r u t a n f o s g n i t i s i v s u o i t c n u p m o c o n t a h T , n e e w t e b e c a e p p e e k r o n , e s o p r u p l l e f y m e k a h S s t s a e r b s ' n a m o w y m o t e m o C . t i d n a t c e f f e ' h T ) ) (( ( ) , e t k t h s g ,r i i sa n n ed i ,k m klae clmh g ie t n hht i t if r s f o ' e,od d ce nt r nmeue u aokok m tCown s m a u b.sel uf hb o sett y e is , sheth l scnot l esnn a liu h g tmdeg h eu' r gseso! o i'h rd f setehl r fto k runi h l utinp i oa ke, m yne ed enpl y nnhe o m iotenH ke' e rtl v k eilya, a vaamey t ewp hr r t c d,eudar nshonhoo ArWYATNT ) ( ︽ マ ク ベス ︾ や っ て し ま っ て 、 そ れで 事が 済 む も の なら 、 早 くや っ て し ま っ た ほ うが よ い 。暗 殺の一網で 万事が 片 付き、引き 上げた手元に大 き な 宝が 残 る の なら 、こ の 一 撃 が す べて で 、 そ れ だ けで 終 わ り に な るも の なら ⋮ ⋮ あの 世 のこ とは頼まぬ 。ただ時 の浅瀬のこちら側で 、それ で す べて が 済む も の なら 、 先行 き のこ と な ど 、 誰が 構 って おら れ る も のか 。 福 田 恒 存 ・ 訳 女12 日本語・笑 い ⋮⋮ 女12 日本語 き れ いは、穢 い。穢 い はきれ い。 さあ、飛 んで いこ う 、 霧の な か 、汚 れ た 空を か い くぐり 。 福 田恒存・訳 ⋮⋮⋮ 女2 手話 叫び声 が聞こえ たようだっ た、﹁もう 眠りはな い、 ) ( ︽ マ ク ベス 夫 人 ︾ か し ず く 悪 霊 たち 、 今こ そわ たしを 女で なくして おくれ、 私の全 身になみなみと、頭 の上から爪 先まで 、 62 ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? . ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ⋮⋮ r e l h l u e f m p x o e t, s d n ( eo u oo tl , b s e t hy h tm g u ok o tc h t i nh wt l o a re t ck r o a eM m h t, n y o mt ol d re n fu e r t ec m t t a ls h le T ir ) fi ) d d ,nf (eAO マクベス は眠りを殺した﹂¦ ¦あの無心 の眠り、 心労 のも つれた絹糸 を ときほ ぐして くれ る眠り、 その日その日の生の 終焉、つら い労働の 後の沐浴 、 傷ついた心の霊薬、 大自然が 用意した最 大のご馳 走、 人 生 の 饗 宴 に おける 最 高 の滋 養 ¦ ¦ 小 田島 雄志 ・訳 女1 英語 ?? ?? ? ? ? ? ? ? ? ? ? . ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? . ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? , ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? , ? ? ? で も そ の下 に は 蛇 を 忍 ば せ る 。 せ っか くお 出 向 きの お 方 に は 、 た っ ぷ り ご 馳 走 し な くて は 。ね え 、 今夜の大仕事を手早 く片づける のは、全部わた しにおまか せなさいな。 首尾よ くいけば、こ れから 先に続く二 人の長い 昼と 夜、 女1 ) ) ( ) ; d l o c s i d o o l b y h t , s s e l w o r r a m e r a s e n o b y h T s e y e e s o h t n i n o i t a l u c e p s o n t s a h u o h T . h t i w e r a l g t s o d u o h t h c i h W ; e r a d I , e r a d n a m t a h W , r a e b n a i s s u R d e g g u r e h t e k i l u o h t h c a o r p p A , r e g i t n a c r y H ' h t r o , s o r e c o n i h r d e m r a e h T ? ? ? ? . ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? . ? ? s e v r e n m r i f y m d n a , t a h t t u b e p a h s y n a e k a T ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? , ? . ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? . ? ? ? ? ? ? , ? ? ︽ マ ク ベス ︾ よ し 、 心 は 決 ま っ た 。 あ と は か ら だじ ゅ う の 力をふ り し ぼ って 事 に あたる のみ だ 。 i h h t r a e e h t t e L ! t h g i s y m t )i u q d n a t n u a v! (Ae )e h t e (d 女1 ( 女2 63 女1 ) ( さ あ 、 奥 へ 。晴 れや か 顔 つ きで み ん なを 欺 く の だ、偽りの心を隠す のは偽りの顔しかな いのだ。 小田島雄志・訳 日 本語 あの 戸を叩く音は、どこ だ? どうしたとい うのだ、 音 のす る た び に 、び くび くして いる ? 何と いうこ と だ 、こ の 手 は ? ああ! 今にも 自分の眼 玉 を くり ぬき そう な ! 大海の 水を 傾 けて も 、こ の血を き れいに洗い流せはしまい? え え 、だめ だ、のたう つ 波も、こ の 手をひ た せば、紅一 色、緑の 大海原もたち まち 朱と染 まろう。 福田恒存 ・訳 手話 ごめんなさい皆さ ん、 いつ も のこ と です のよ 。 な んでも ありません 、 申し 訳ないの はせっか く の楽しみ を台 なしに して しま って 。 大 場 建治 ・ 訳 英語 ( 残 忍 と 冷酷 を 漲ら せて おくれ、わたしの血をどろど ろにして 、 憐れみ に通ずる血 の管を塞 いでしまう のだよ、 せっか くの恐ろし いも くろみに、良心 の呵責な どが 揺 さぶ り に 入 って 、 な ま じ 実行 を 押 し と ど め る ことの な いよ うに 。 さ あ 人 殺 し の 手 先 ど も 、 わ た し の 乳房に 取 り 付 いて 、 甘 い 乳を 苦 い 胆 汁 に 変 え て お く れ 、 お前ら は 目 に 見 え ぬ 姿 の ま ま 、こ の 世 の 悪 事 と いう 悪 事 に 手を 貸 して いるの だから 。 そして たれこめ た夜 、 お前は 地獄のどす黒い死 の煙を死人を くるむ ように厚 く纏うのだよ、わたしの鋭い刃 の切っ先がえ く っ た 傷 口を 見 な いで 澄 む よ う に 、 天 が 暗 闇の 帷 の 切 れ 目 か ら 覗 き 込 んで 、 思 わ ず こう叫んだり しないようにー﹁やめて、やめて﹂ 女2 , n i a g a e v i l a e b r O . e l b m e r t r e v e n l l a h S . ? ? ? ? ? ? ? ? ? ; d r o w s y h t h t i w t r e s e d e h t o t e m e r a d d n A e m t s e t o r p , n e h t t i b a h n i I g n i l b m e r t f I ) ! e c n e h , y r ' k c o m l a e r n U ) ? e (s i o n t a h t s i t. a? h? W? )? ? ? ? (? ) ( ) ) ( ) ( ? ? e e s s ( i i o o n n t t a a ) h h t t s s i i t t a a h) h W W?( )) ))? ? ? ? (((((? ? ? ? ? ? ? ? ? 女2 手話 まだこ こにしみが 。 消え て おし ま い、こ の忌 まわし い しみ ! 消えろと言 うのに! ¦ ¦一 つ 、二 つ 。 さ あ、 いよ いよ や る べ き 時 刻 ¦ ¦ な んて 地獄 は 暗 い ん だ ろ う ! ¦ ¦ な んで す 。 あ な た 、 な んで す か ! 軍人だというのに、恐れたり して ! だ れが 知ろ うと 、恐れ るこ とが ありまして ! 私 たち の 権 力 を とが め る も のが あり ま し て ? ! ¦ ¦それにしても思いもよらなか った、あの老人にあれ ほどの血が あろうと は。 小田 島雄志・訳 女1 英語 女2 侍女たち の声のよ うです。 女1 日 本語 おれ は恐怖の味を 忘れて しまった。 以 前 に は 、 夜 の 叫び 声 を 聞 け ば 五 感 が 凍り つ き 、 恐 ろ し い話 に は 髪が 命 あるも ののよ うに 総毛立 っ た も の だ っ た 。 だが 恐 怖と いう 恐 怖 を なめ尽 し た いま 、 殺 戮 の 思 いに 慣 れ親 し ん だこ の 胸 は 、 ど ん な 悲 惨にも 驚 く と いうこ とが な い 。 大場建治 ・訳 女2 手話 なんの騒ぎだ? 女1 英語 女2 日 本語 なん の騒ぎだ? 女1 手話 なんの騒ぎだ? 女2 英語 女1 ハング ル なんの騒ぎだ? 64 ( , w o d a h s e l b i r r o h , e c n e H . l r i g a f o y b a b e h T ︽ マ ク ベス ︾ 出て 行 け 、 消 え ろ ! お前は土の 中のものだ ! お 前 の 骨 に 髄 は な く 、 血 は 冷え き って い る 。 そうや って 睨めつ けて いる お前の目に は も のを 見る 力 など な いはず だ 。 男にや れるこ と なら なんで もや って み せる 。 毛む くじゃ ら なロ シア熊の姿で 出てこ い、 角で 武 装し た犀、ヒ ルカニ アの虎、 いまの その姿で さえ なけれ ば、おれの筋肉は 微動だ にするものか。生き 返って 戻ってきても いいぞ、 それで 剣を 抜 いて 無人 の荒 野で 決闘を 挑 んで み ろ、 少しで も 震え るざ まを み せ たら 、乳く さ い小 娘 と ふ れて 回るが いい 、失 せろ 、恐 怖の影 法師、 存在し ないまやか しの姿! 女2 見え た とは何か ? 女1 日 本語 マク ベス 、マク ベス 、マ ク ベス 。 マ ク ベス は け っして 滅び は せ ぬ 、 か の バーナ ム の 森 の 樹が ダ ン シ ネ ー ン の 丘 に 立 つ 彼 に 向 か って くる ま で は 。 小田島雄志・訳 女2 ) ( 女1 女2 ) ) 女1 女2 女1 女2 女1 女2 ( 女1 女2 女1 女2 65 ) 冷静 な対応を ! 市 民 の 皆 さ ん 、 騒 ぐ んや な い ! 騒 いで いる の は と、女2を指差す ⋮⋮ あたし? そうや。 あん たのほうが声 おおき おまっせ 。 はいはい。 ハイは一回。 はい。 とこ ろで 夜遊び はどこ な ? 門限 過 ぎて るや ろ 。ええ 加減にしてもらわなな。 鍋・釜 失 礼で すが 。 女1 失礼ですが⋮⋮ 女2 ス ト ッ プセ ン テ ン ス 。 そ の フレ ー ズ の 後 は 聞 き 飽 き た 。 ( 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 ) ( ) ( 騒 ぎ に 乗じ て 鍋 島 と 釜田 が バ ケ ツを 持 って 登 場 。 ﹁ 失 礼 し ま し た 。 御 見 そ れ い た し ま し た 。 お許 し く だ さいませ、 お代官さま﹂云々。お城も見え へんのに 、 そんな常套 句 城東区 は、あの な、市内 ならまだし も、 河 内 なら 何 とす る 。 結 構 が ん ば っ て 、 つ いて い って い ま す が 、 先 見え へ ん のやけど。 人 生 先 見え て て 、何 の 因 果か 応 報 か 。 語 る 世 間 に 鬼 が いて 、 救 う 仏 も 浮 か ば れ る 。 そ や ろ 、 若 造 、 素 直に そ やおいい。 そか なと思う けど、ほんとは訳わから んや ん 。 娘! 間 素 直に そや おいい。 本当 に そのと うりです 。 返す 踵が 軽す ぎる 。惜し いこ と し た な、 次 は 生 娘 間 素 直 に そや お い い 、 や っ た んゃ で 。 最近、無理はしませんのや。 ⋮ ⋮ チェ ・ ジ ュ ウ さ ん 。 はい。 無理しっぱなしやないか 。 人 生 、 そ の 通 りで おます 。 こ の 火盗改め 鬼 の平蔵 最 後にも う 一度聞 く。 お加代 、 夜 遊び と き たら 、 火 遊び と なる が 、 それ に 相 違 ある ま い。 はあ? こ の 期に及んで 、しらを きりやる か 。火遊び を 昼にし て何とする 。アバン チュールに なら へんやろ。忍んで こ そや 。 ( ) ( 女12 な んの騒 ぎ だ ? 女2 なんの騒ぎだ ? いった いなんの騒ぎだ!村上! 女1 ゴ ミ 回 収車の 音楽 の 口 真 似 ⋮ ⋮ 女2 え っ 、早 いや ん、不 燃物 ? 可 燃 物や たか な あ 。 資源 ゴ ミや 、 ど な いし ょ 、 間 に 合 わ へ んが な 。 と、消 防 車のサイレ ンの口真 似 女1 は い 、 救急 車 で す 。急 性 ア ルコ ー ル の 方は ど こ で す か ? 女2 あか ん、串か つ、油かけ っぱなし や 。あわて る な、騒 ぐな。 女1 パトカーのサイレンの 口真似 ⋮⋮ ( ) 歩は一兵卒で安うおますが、 女2 あ の な あ 、 掛 麩 ゆ う ぐ ら いや か ら 、 な ん か 掛 か って ん ゃろ。 女1 は い な三 十一 番。そこで んが な 。オ ッちゃ ん 小 鉢 手に 持ち 、 あて の 頭 見 ま し た 。 髪 の 毛 睨 み ま し た 。青 海 苔 し こ た ま パ ッ パ 、 パ ッ パ 、 パッ パで ハ イ お待ち 。 本 物 の 掛 布 が き たら ど な いす んや 、 髪 の 毛 な いで 、 青 海 苔 振 り か け へ んて か い 。 女2 ・鍋 ・ 釜 そら な いや ろ 。 女1 坊 さ んが 来 た ら ど な いす んのや 、 禿や な い ぞ 、 髪 の毛 あんぞ、剃 りあげて るだけや な いか 。 女2 ねえ ちゃ ん無 茶ゆうたら あか んわ 、 そんな店 あら へん や ろ 。 姉 歯 のオ ッ サ ンが 来 たら 鬘や て 見 抜 いて パッ 、 て か 。 そ ん なこ と ゆ う たら 、 掛 布 は ん お うじ ょ う し ま っせ。 女1 ほんまやて。 女2 ほ ん ま や っ た ら 、 うち の いう のも ほ ん ま や 。 火 遊び と き たら 夜 遊 び に な る や ろ 。で 、 薪を く べ た の は 誰や 。 鍋島 ほら 、や っぱ 火事ですが な。 釜田 ほ う か 、で 、 放 火 ? 鍋島 そら 判ら んが な、消 防か 警 察に聞 か な 。 女1 薪くべた? 何でここで 焚き 火の話しになる んや 。 釜田 や っ ぱ 、 お前 か ? な んで そ ん なこ とす んや 。 鍋島 あか んて 、 素 人 相 手に 、 ま だわか ら んて 。 女2 スッ トコドッ コイ!控え おろう。こ の火盗改め鬼の平 蔵 を 甘 く 見 る と 、 痛 い目 を 見る の は 、 お 豊 、 そ の 方 や 66 女1 ど う で も え え け ど 、 そ う いうこ と や な いや ろ 。 女2 言 う にこ と か いて 、 メ ザ シを 頼 ん だ わ た し は ど う な ん の。 女1 なんか いま、ごっつうホップした 。 女2 昨 日 な 、飲 み 屋で ビ ー ル の あて に あて は メ ザ シ 頼 ん だ んだス 。オ ッちゃ ん 、 メザシ一 つ頂戴。 シラ ーや 、 二 十 四や 。 女1 キビ シーイ! 鍋・釜 六 四 、二 十 四で 無 視や な 。 女2 解 説 す んや な い 。 女1 で! 女2 頭 の 髪 の 毛 、 黄 色 と 黒 に 染 め 分 け たオ ッ ち ゃ んが 、 視 線 メ ニ ュ ー に 投 げや んの 。しゃ な いか ら 、 思 い っ き り ﹁優勝!﹂ゆうたった。 女1 バン ザーイ! 女2 オッちゃ ん、声 さらに張 り 上げて ﹁優勝メザ シ、一丁 ! ﹂ 女1 バン ザーイ! ⋮ ⋮ ま あ ま あや 貸 して 、 貸 し て 。 と 、 女 2 の 応 援 グッ ズ を 取 り 、 着 け て 、 あて は よ う 分 か ら んで 、 ﹁ 三 十 一 番 ﹂ 一 つ 頂 戴 、 っ て 頼 ん だ ん だ 。 た ったの三十一円。 女2 掛 布 の 背 番号 三 十一 。 女1 何 出 て き たと 思 いま っか 。 女2 まさか? 女1 そのまさかで すがナ 。小 鉢に入りきら へん、すき焼き 用 の 大 き な 麩が 一 つ 。ど う せえ ゆ う んや 。 そら ま あ 、 釜田 は 、 持 って 来 た バ ケ ツ の 防 火用 水 を か け る 。 鍋島 なに す んや ! 釜田 落ち 着け、熱 さませッ ! 鍋島 ︵ 落 ち 着 いて ︶ ど や 、え え キ ャ チ コ ピ ーや ろ 。とこ ろ が な、困 っ たが な、 南極 の氷解 け始め た が な 。脳死 状 態で預か って た人 体 冷凍保 存冷 体が 蘇生 し たが な。 脳 の超微細構造が 、人 類誕生前のウイルス に影響受け た ん だ す が な 。 そ う と し か 考 え ら れ ん 、 恐 ろ し こ っち ゃ 。 こ う な っ た ら シ ベリ ア の 永 久 凍 土で しゃ ろ 。 鍋・釜 そ う し て 、 わ た し は 遠 い 西 方 の 果て か ら こ の 地 上 の 国 へは る ば る と 旅 し て き ま し た 。 ア ンコ ー ル ・ラ イ フ ・ス ミ チオ ン ・モ ン サ ント 財 団 インスト ラ ク ター の 鍋島 鍋島です。 釜田 釜田 で す 。ち ゃ うや ろ 、 ベラ ベラ しゃ べ る な ゆ う と ん や。 鍋島 ベラ ベラ しゃ べら んか っ たら 、え え んや ろ 。で は 一 つ だ け ゆ う た る わ 。 シ ベリ ア の 永 久 凍 土 ま で たど り 着 く 経費ないんや。どな いしょ、な んとかならんか。な っ たが な、こ こで 、無 理や り臓器 の再 生を 目 指します 。 大阪のおばちゃ んの ES細胞い ただきた い。わが 、 ア ン コ ー ル ・ ラ イ フ ・ ス ミ チオ ン ・ モ ン サ ン ト 財 団 人 体 冷 凍保 存 冷 体 の ため に 、 活力 あふ れ る 大 阪 の おばち ゃ んのES細 胞いただきたい。 67 ぞ。 女1 お豊 ? お加 代から 、お豊に いつ なったん。も うすき に ジャ ン プ し 。 鍋島 ほ ん なら 、 お 豊 は ん 。 釜田 あん たを 見込 んで 、お尋 ね いたし ます 。こ ん な人 見か けまへなんだか? 鍋・釜 ピキピキピ ッキーン!ピキピッキーン!︵ と動き︶ 釜田 こ れ 以 上、 薪 く べたらか なんのや 。 鍋島 こ れ 以 上、溶 け たら か ん のや 。責 任と んか い 。 釜田 それ とも 、お ばちゃ ん、 あんたが 薪 くべたんか いや 。 女2 薪くべ、薪くべ、薪くべと、人身を煽り、国家転覆を 企む 輩は、 その方に 相違ないか ! 女1 へえ へえ 、 相 違 お ま す 。 女2 この期に及んで二言を 申すか。 鍋島 な に の た ま っ と ん 。 シラ 切 って る 暇 あら へ ん のじ ゃ 。 え え か 、 う ち の 財 団 は 金 が あら へ ん の 。 ど な いこ な い ゆ うて も 、 冷 凍保 存 は金 か か ん ね ん や 。 ア ル コ ー ・ ラ イ フ ・ エ ク ス テ ン シ ョ ン 財 団 3 千 万 円 、 ク ラ イオ ニ ク ス 研 究 所 三 百万 円 の 向 こ う を は って 、 赤 字 覚 悟 で 冷 凍 保 存 引 き 受 け る に は 、 一 遺 体二 百万きら な 、応 募が あ ら へ ん のや 。こ の値 段で は保 存 施 設 作ら れ へ んわ な 、 当然や。そやさか い、南極の四万年前の氷河に入れと く ゆ う の は ど な いで しゃ ろ 、 と ま あ企 画 出 し た ん だ 。 ど や え え ア イ デ アや ろ 、 通 っ た が な 。 あ な た の 望む 時 代 に 、 望む 若 さで も う一 つ の新 し い人 生 を 氷河 の中 で 育みましょ う! 釜田 ア ン コ ー ル ・ ラ イ フ ・ ス ミ チオ ン ・モ ン サ ン ト 財 団 の 企 業 秘密 を ベラ ベラ しゃ べる な 、 しゃ べ り 過 ぎや ゆ う て んや ! 鍋島 アンコール! と 、 山 ち ゃ んが ﹁ ド ンド ン 、 シュ ビ 、 シュ ビ シ ュビルア、 アーアー アアアー﹂とロック ウイス キ ー の グラ ス を 片 手 に 出て くる 。 る 距 離 感 の 破 壊こ そ 、こ れら を 兼 ね 備え た ﹁ 骨 髄 性 幹 細 胞 ﹂ の 属 性こ そ、 言 う に 及 ば す 、 移 植 後 の 雑 菌 を 駆 逐するで ありましょう。ああ、 なんというエッ ネルギ ー! そこ にこ そ 、 新 た な る 望 む べ き 臓 器が 再 生 さ れ 、 不 死 の あり う べ き バ ラ 色 の 未 来 が 約 束 さ れ る ので あ り ます 。そん な不 老不 死の臓器を 提供し た い。そのため こ の ア ンコ ー ル ・ラ イ フ ・ス ミ チオ ン ・ モ ン サ ント 財 団は大阪の おばちゃ んの﹁骨髄 性幹細胞 ﹂が欲し い 。 どうしても 欲し い。 冷凍保存一 体二百五 十万円、安 い、 生 体 なら 一 ダ ラ ー 、 極 安 ! 釜田 は 、持 って 来 た防 火用 水を 三度 、 鍋 島を 越 して客席にかけるが 、紙吹雪。 ( 山 ︵ グ ラ ス の 氷 を 鳴ら す ︶ クラ ン ケ ⋮ ⋮ 山 ドンドン、シュビ、シュビルア、 アーアーアアアー、 釜田 グラ ス の 底に 顔が あ っ た って い い じゃ な いか 。人 生 の クランケ⋮ ⋮ 新 し い 門 出 に 南 極 の 氷で オ ン ザ ロ ッ ク ! ⋮ ⋮ ど う ぞ ! 釜田 あほ の相手や めて 、はよ 行こ うか ⋮⋮どうぞ ! 鍋島 ES細胞は、クローン動 物作成に 使用できる 段階にま 鍋島 阪急 は阪神か い! で 到達して おります 。しかし胚 の一部を 利用するに は 取 扱 い に 関 す る 倫 理 的 な 問 題 も 生 じ ま す 。 よ って わ た し は 、 E S 細 胞 取 得 と い う 前 言 を 速 や か に 翻 し 、こ れ と 、 三 人 は ﹁ド ン ド ン 、 シ ュ ビ 、 シュ ビ ル ア 、 アーアーアアアー﹂と退場。 を成人の骨 髄から取 り 出した﹁ 骨髄性幹細胞﹂に換え ることを 提言したので あります 。で は最 適な成人と は、 女1 何 の こ と か い っこ う に 。 と問わねば なりませ ん。それは 、臆面も なく駄洒落 を 女2 え え い 、 なら こ れ に 見 覚 え が あろ う 。 と 、 弔電を 出 洒落と言 い 切る あつ かまし いセ ンス、しゃ べりだし た ら 止め ぬ テ ン ポと 饒 舌 、豹 柄を 恥ずか し げも な く着 用 す こ の 訴 状 に よ る と 、 夜毎 ﹁ 薪 く べ は け っして 滅 び しうる精神的厚顔無恥、初対面 の人を隣人と射程し う は せ ぬ、 バ ーナ で 森 も 焼き尽 く せ ﹂と 、 奇声が 闇 夜 に 68 釜 田 は 、持 って 来 た バケ ツ の 防 火 用 水 を 再 び か ける。 ) 69 女1 雰 囲 気 は 何 と か 分か る よ う な 、 思 いは な ん と か 、こ こ まで来るけど⋮⋮ 女2 は っ き り せ んち ゅ うこ っちゃ 。 女1 まあ、 女2 ほ ん まか ど う か わか ら んち ゅ うこ とや ろ 。 女1 そうやな。 女2 や っ と 吐 く気 に な っ たか 。で は 素 直に 申す が よ い 。 薪 くべる裏山とはどこ や。 女1 マク ベス 。 女2 あ あ 、 パ ー や 。 な け な し の韻 を 踏 んで ま で 苦 労 し た ん や。 女1 マク ベスはど うゆうても マク ベス や ろ。 女2 二度 も三度も まったく、 シェイクスピア翁の 作なるこ と ぐら いは 、知 って る わ い 。こ の 火 盗 改 め 鬼 の平 蔵 、 何度も 甘く 見ると巾 着袋だ。 と、巾着袋を出す ︶こ の 巾 着 袋を 、 た だ の 巾 着 袋 と 思 う な よ 。 ほ れ 、ここ の こ れ 切 った ら 、ど う なるか 知ら へんぞ 。 なら ぬ 堪忍 、 するが 堪忍 、それで も 余る 堪忍 は、こ の 巾着の中に 入 って も ろ う て き まし た んや 。ど や ! 女1 やめてェ! 女2 や め て や と 、 ねえ ち ゃ ん 余 裕や な いか 。 女1 あほらし、や めて 以外なにゆうん 。あほちゃ うん。 女2 あ ん た そ れ は ゆ い 過 ぎ や 。人 聞 き 悪 いや な い か 。 女1 も う 我 慢で け へ ん 。黙 っ て 聞 いて る だ けや と 思 わ んと いて や 。 女2 あ ま り の 展 開 に 、 頭 に き た な 。 頭 突 っ 込 んで 、 そ ん な ( 響き、とある。お志 乃、どうだ 。二言はつけまい。 女1 それ いうんなら﹁マクベスはけっして 滅びは せぬ、か の バ ーナ ム の 森 の 樹 が ﹂や 。め ち ゃ くち ゃ 訛 って る や ん。 女2 ついに吐いたか! ど う や 、 少し は 楽 に な っ た と 思 う が 、 全部 吐 いて まえ 。え っ ! そのバーナ の森とは ど こ の裏 山のことや 。 女1 マク ベス、マ ク ベスやて 。 女2 発 音 悪 い んち ゃ う か 。 女1 マク ベスッ ! 女2 発 音 違 いと 温 情を 指し 示 し たが 、 それも なら ぬと は 強 情 なや つめ 。 女1 ほ ん ま や て 、 マ ク ベスや て 。 女2 ほん まほんま と、聞き飽 きる。どこ にほんま ばっかリ つま って る 人生が あります んや 。そんな んや 、成り 立 ち ま せ んや ろ 。え え な 、 ウ ソ も 真 の 人 生 なら ば 、 咲 い て み せ まひ ょ 空 花よ り も 美 し く 、 騙 る 心 は 痘痕 も 笑 窪 の 方 便 と 、 言え ぬ あ の 世 は 今 日 の うち 。 ま いど ま い ど と会 釈を預 けて 行過 ぎる 。ぼち ぼちで ん なと 受けて 流 すは淀川で 、 流れて 揺らめき舟を押す。もうまるで 、 まごうかた なき映して漂う白雲や、ないか いな。だか らもう、風に柳と吹く身の上に 、ほんまほんまと、 い きせききって棹差す な。 女1 な ん や よ う 分 か ら んが 、 無理 し て る の は よ う わ か る 、 気がする、と思うわ 、たぶん、 そうやろ 。 女2 それや 。 女1 女2 女1 女2 70 ) 女1 女2 女1 勘違 いして る や ん 。持 っ て 行 くと こ 間違 ご う て る 。品 評 会 し て る んち ゃ う んや で 。 女2 どや と、買い物籠から 絹ごし豆腐をだす 。 女1 どや とはどや 。 女2 絹は絹でも絹ごし豆腐や 。おそれ入れ。 女1 恐れ 入りまし た。絹の靴下に、絹 ごし 豆腐を 、てら い なく差し出す、その発想と勇気 に恐れ入りました。 女2 一言多い。 女1 明日の朝の味 噌汁の具や 。その豆腐さぞ名の ある絹ご し 豆腐やろ なあ。さすがやねえ 。どこで 買うのん。ひ ょっとして 、大豆よ りニガリが 超一級品ちゃ うん。当 たりやろ、 当 たったやろ。隣近 所とは 訳がちゃ いま す 。 海洋深 層 水 か ら の 恵 み ﹁ に が り 靖 国 ﹂ 。 女2 お園 、おばち ゃ んの特技 を教えよ うか 。 女1 結構ですのや けど。 女2 遠慮 いたすで ないない。 女1 め っ そうも お ま へん 。 女2 長ら くお邪魔 し たのう。も うす ぐ失 礼を いたす 。さて 、 何 を 隠 そ う 、 わ た し の特 技 はこ の 豆 腐 の 角 で 、 頭を カ チ 割 る こ と さ 。 で き る な ら 、ひ と こ と 、 つ い にひ と こ と﹁あ、痛 い﹂と叫びたいのさ 。畳 のメを汚すが、 堪 え て つか あ さ いよ 。 マ イ 、 フレ ンド 、 救 急 車は いり ま へんで 。 女1 何考えてん。 女2 色々 、 一 杯 。 女1 ち ゃ う や ん 、 そ ん な 豆 腐 の角 で 、 頭を カ チ 割 って や で 、 ( 女2 ( 女2 女1 女2 女1 女2 女1 ) 女1 とこ に入る んか い。 巾 着袋放り ぱなしで 、ほ っぽ いて どこ に行 く 気や 。こ の ネ タど う す る ん。 ワ イ ワ イ 、 ど や 、 ど や 。 ど や 、こ うす る 。 と 、 箪 笥 から 靴下を 出す よ う ま あ 、 そ ん な 都 昆 布 、 箪 笥 に 隠 し て た こ っち ゃ 。 こ れ ど う し た ら 都 昆 布 に 見え る ん 。 ブラ ブラ 振 って み 。ほら 、 そんな 箪 笥預金 は な い。 箪笥預金や な い。見て のとおり絹 の靴下や 。 シルクや 。 夏木 マリがど うしました んや 。 ごち ゃ ごち ゃ い わ ん 。 闇 夜に 、 絹 を 裂 く よ な 女 の 悲 鳴 や! つ い に 奥 の 手 出して か ら 、 自 分で 出 さ れ へ ん のや ろ 。 悔しかったら、自分で出してみてみい。 ええ んや な。 そ ん な も っ た い な いこ と 止め と き 。 あ た し が 出 し た る 。 家でやと、 なんなと 使い道あるやろ。な 、そうし 。 女が 一旦、下 着出したんや。も う 止めれん。人生一度 は 、 絹 を 裂 くよ な 女 の悲 鳴 の 例 え よ り 、 ホ ン マ も ん さ せてもら い ます 。さ あ、ど のくら いの高 周波で いき ま し ょ か 。 ご 要 望 に お こ たえ さ し て も ら い ま す 。 好き にせえ 。 こ の 高周波、電磁層まで 届けと、 思いのたけで参りま す 。ホント に 、参り ます 。 ま た ホ ント い いよ っ たッ ! あか ん、 あか んや ろ 。隠 し 弾 だ せ ゆ う んや な 。よ ろ し お ます 。ご 期待 に お応 え し まひ ょ 。 女2 女1 / 女1 / 女2 中原中也﹁湖上﹂から引用 71 女1 ) 女2 女2 ( 女1 女1 ) 女2 も し れ な い 、 切 な い 人 生が 、 身 震 いす る 物 語 に よ っ て 浄化されんや 。いわ く言 いが た いはか な さよ 、例え よ うも ないも ののあわ れよ 。わた し の愛し てや まぬ無 常 よ 、す べて を 語 り つ く せ 。 間 なんか いえ 。 す ん なり言え たら 、ゆう が な、つ ま り 、だか ら 、 分か るや ろ 。え え いクッ ソ 。 こ こ ま で 持 っ て き た んや 。 今 日こ そ な ん と か せえ 。 あ ん さ んが 今 日用 意 し た、 絹 の 靴 下 は 宵 闇 の 水面 に 映 る 満 月や 。 そ ん なこ と あ ら へん 。 あ たし の 高 周 波 は 電 磁 層 を 突 き ぬけ、満天 の煌 く星 座へ乱反射 のごとく交信をかわ す ので す 。電 波 の赴 く ま ま に⋮ ⋮ 水面 に映る満 月は舟浮か べたら おわりや 。 つ いに 、 買 い 物 籠を 漁 る 。意を 決 して 買 い 物 籠を 掲 げる で も 。で も 、で も ⋮ ⋮ そ れで も ⋮ ⋮ 、 ポッ カリ 月が 出まし たら 、 舟を 浮か べて 出掛けませ う。 波 は ヒ タヒ タ 打つで せう 、 風も 少しはあるで せう。 沖に 出たら ば 暗 いで せ う 、 櫂 か ら ︷ ル ビ し たゝ ︸ 滴 垂 ︷ ル ビ ︸ る 水 の 音 は ︷ ル ビ ち か ︸ 昵 懇︷ ル ビ ︸し いも の に 聞え ま せ う 、 ︱︱ あなたの言葉の杜切れ間を。 ( 女2 女1 ど う な ん の や 。 そら ま るで 、 あ れや ん 、 つ ま り 、 そ の 、 変 人 以 上や ん 。 天才か? す ん なり言え たら 、ゆう が な、つ ま り 、だか ら 、 分か るや ろ 。え え いクッ ソ 。 だからッ、思 い切れッ! どうや 、こ うして 無心にこ の柔 肌の一 点に目を や ると、身も だえす んや ろ 。 そ の 身 も だ え を 思 い 切 ら な あ か ん の や 。 見て み な は れ 、 こ の な ん と も いえ ん 、 三 次 元 の コ ー ナ ー 。 人 生 そ の も の や な あ 。互 いに 九 〇 度で ガ ッ プ リ 四つや 、 いや ガ ッ プ リ三つのミステリ アストライアングル。身動きとれま へんのや 。 身震いしてしょうな い。行き 場を失 い、 引 く に 引 か れ ず 立ち す くむ 。人 生 や な あ 。 涙 や な あ 。 笑 いや な あ。 情 念が 渦 巻 いて る な あ。ゆ う に 言 わ れず 、 涙した朝も あったはずや。わか るで、よ うわかる。泣 く に 泣 か れ ず 涙 を か んで 、こ ぼ す 笑 顔 が ほ ろ 苦 い 。 思 わず 叫び た い瞬間も ある 。そら そうや 。 そうや ろ 。 な そうやろ。 なに ゆうて ん 。豆腐の角 の他愛も ない話しを 、面白お か し くす ん のも 、ほ ど ほどにし て 、はよ なんとかし 。 山 折 哲 雄 は ん か て ゆ うて る んや 。 日本 近 代 の 壮 士 節 は 、 山田晋平に 引きつが れ、古賀 メロディー によ って 甘 く ささやかれ たが、その情念はつ いに美空ひ ばりによ っ て 完 成 さ れ た 。こ れ が 演 歌や 。 わ たし の 身も だえ を 、 つ いに 思 い 切る 、こ の思 い 切る のが 情 念 や 。情 念 は や がて 己を物 語る。そ うして 、こ の他愛も なく見え る か 72 ) ( ぞうり﹂と 言いまし た。 女2 そん なに揺す るんや ない 。 女2 そん なアホな、笑われま っせ。河 内音頭16ビートで 女1 こ の 大阪 の お ばちゃ んの 買 い物 籠 は そん な舟 で あり ま 踊られへんて。 した。 女1 常光 寺の本尊は地蔵菩薩です。お稲荷さんで はありま 女2 そうやトム 、 そうや ﹁ ト ム ・ソ ー ヤ ﹂ へ ん 。 お 揚 げ さ ん は お 供え で き ま へ ん 。 そこ で 、 南 北 女1 まじ めに。 朝時代の御 世の昔か ら 、お地蔵 さんのお 御足を 守る た 女2 こ の まじ め な おばちゃ ん を 捕 まえ て 、 なに ゆ う ん 。 め 、こ の ﹁ 金 の ぞ う り ﹂を お 供 え す る の で す 。 女1 で は 生 真 面 目 に 。こ れ は 大 阪 の お ばち ゃ ん の そ ん な 買 女2 へー 、ようで きた、ホント のよう なはなしや な。 い物 籠で し た。 女1 いま 、ホント といいまし たね。 女2 大阪 のおばち ゃ んが その 籠持つか らこ そ、大 阪のおば 女2 えっ? ちゃ んは大阪のおばちゃ んなのか、その籠が大阪の お 女1 そんな返し文 句は、﹁黄金のゾウ リ﹂のまえ では、か ばちゃ んを 仕立て る のか 、 籠が 属 性か 、 大 阪 の おば ち ら っきしで す 。 ゃ んが 属性か、それ は 、華やか な、長い 、 それで いて あつか ま し い、 栄 光 の 大 阪 の お ばちゃ ん 史 の 暗 部 に 隠 女1は女2の左手に﹁黄金 のゾウリ﹂を置く。 れ、後先ありません。 女1 で は 、 いわ ば こ れ は 大阪 の おばち ゃ ん そのも ので す ね 。 女1 さあ、絹ごし 豆腐に﹁金 のぞうり ﹂を履かして くださ 女2 まっこと、御意。 い。 女1 そ ん な 大 阪 の お ば ち ゃ ん の 懐 に 、 水が 滴 る 櫂 を 挿し 、 女2 えら いセンスやなあ。 それでも 漕 ぐ手は止め ないで 、 上に下に とかき 回し ま 女1 お ば ち ゃ ん の 発 想 で は つ いて こ れ ま へ ん か ? せう。そうして取り い出だしますは、こ れ、﹁黄金 の 女2 ど う な って も 知 ら んで 。 厚 揚 げ な ら ま だ し も 、 巾 着 に ゾウリ﹂で あります 。 な って 、 お 餅に 成 済 ま し た 絹 ご し 豆 腐 が 鰹 出 汁 に 染 ま 女2 あんさん、お国は? る なら 、 あ あ、や っ と 帰 れ た そ の巾 着 の 、 堪忍 袋 の 緒 女1 河内です。 を 切るが 、 それを 承 知でええ ん や な。 女2 そこ で は 、薄 揚げさ ん﹁ 黄金 のゾ ウリ ﹂ゆ う ん。 女1 覚 悟 の 上で す 。 女1 いいえ 。 女2 それでは参り ます。マイ 、フレンド、畳のメを汚すが 、 女2 で ま か せゆ う たら あか ん わ 。 堪え て つ か あ さ いよ 。 女1 常 光 寺 界 隈 向 こ う 三 軒両 隣で は 、 小 さ い 頃 か ら ﹁ 金 の と 同時 に 、 女 2 は す ばや く 左 手 の薄 揚 げを 、 右 手の絹ごし 豆腐に重 ねる。続いて 同時に 、両 手 の天地を逆 転。下から左手、薄 揚げ、絹 ごし豆 腐 と な る 。 女 2 は 左 手を 掲 げ て い る 。 同時に 、音楽 。 女2 プル ルンッ! ど うや ? 何も動かない。 女1 も う 少し強 く 。 女2 あいわかりました。それではプル ルン! 女1 プルルン! 女12 プルプル、プルルン! ここで プルルンと 動いたのは、女1と 2で あっ た。 1 . 7 女1 身も だえ をふ ん切って 、 思 い切り ます 。マ グ ニ チュ ー 女1 それが ﹁黄金 のゾウリ﹂です 。絹 ごし 豆腐が ﹁黄金の ド で ゾウ リ ﹂を 履 いて い る ので す 。 最 高や な いで す か 。 そ れこ そ、つ いに美空ひ ばりの向こ うにたち 現れたれ た、 同時に 、 音楽 。 も う一 つ の 演 歌 の可 能 性の姿で す 。今絹 ごし 豆腐は 情 念と化し、 身もだえ し ながら思 い切ろう として います 。 女12 プルプル、プルルン! 女2 え っ 、ウソ ー 。 女1 大阪 のおばち ゃ んには見え へんのですか ? 今度は 、絹ごし豆腐が プル ルンと動く 。 女2 見え る と か 見 え んと か 、 そ ん な お 話 し や な い や ろ 。 大 阪 の おばち ゃ んはこ こ で 感じ る から 、 そ れで 十分や 。 女2 プルルンやで 、プルルンや! 女1 そうです 。よ くできまし た。 女1 おばちゃ ん、思い切った ! 女2 ありがとさん 。 女2 身動きとれま へん。身震 いしてし ょ うない。 女1 できるなら、 プルルンと 、少しだけプルルンと、震度 女1 身震 いして いるのは﹁黄金のゾウリ﹂を履いた絹ごし 豆腐です。 で プル ルンとッ 73 女1 自信が ありま す 。今夜は そんな気 がして ます 。絹の靴 下 か ら 、 突 拍 子 も な く呼 び 出 し て 、て ら い な く 差 し 出 す 、 勇気 に 満ち た 絹 ご し 豆 腐 の 情 念 を 頂 け たら 、 そ い つにのしを つけて お 返しできる かも知れ ません。 女2 南 無 八 幡 、え べ っ さ ん 。 お願 いし ま っ せ 、 メ リ ケ ン は んッ ! 5 . 3 ) ( 女1 お待 たせし ま し た 。豆腐 の角で 、 頭を カ チ割 る のは 、 今で す 。 女2 絶 叫で 、 豆腐 の角で の 頭 のカ チ割 り ! 音楽 、 カット アウ ト 。 ) あ、 あ⋮⋮ 見え ますか 。 何が ? 大阪城が、バーナムの森が、倒壊した高速道路が⋮⋮ あ、 あ、あ⋮ ⋮ あか ん。 痛 ない。 豆腐の角が 欠けても た。 ( 女2 女1 女2 女1 女2 ( 74 女2は泣く。それは文楽の義太夫語り の、あの あきれる程 ため た泣 きで いある 。 女1 聞こ え ますか 。 女2 何が ? 女1 それ は、つま り、踏み 切 りの音が 、カントリ ーソング が⋮⋮ 女2 キャ ーッ! ウソ、なにこれ、ツーと伝わるこの冷た いも ん 。 女1 えっ? 女2 何 と い うこ と だ 、こ の 手 は ? ああ! 今にも自分の 眼玉をくり ぬきそう な! 大 海 の 水を 傾 け て も 、 こ の 血をきれいに洗い流せはしまい? と、豆腐の雫を ペロリ 女1 情 念 み せて 、 も っ と 語 り ! 女2 優勝 メザシ! 女1 なんなんそれは? 女2 分か った。 単 純や ん、出 会 いが し ら は あか ん わ な 。こ の 買 物 籠 持 つ の 忘 れ る と は 、 ま あ何 と お こ が ま し い 。 不遜で ありました。まったく失 礼小金治 。 女1 なに ゆうて ます ん。こ れ 大阪城や ろ。感じ たやろ。バ ーナ ム の森 が 動 くん なら 、 大阪 城かて 動 くゆ うた ん は あんたやろ 。 女2 こ れ 大阪城 な ん、何 と な んと 南都雄二 。大阪城が黄 金 の ぞ う り 履 いて ん の 。 女1 ⋮ ⋮ お ばち ゃ ん あ ん た 、 違 う 言 い 切れ る ん 。 女2 ひえー! 女1 語の真の意味で、違うと論証できるん。 女2 ひえー! 、 それは 詭弁 や ん。 ) 女2 な ん と も なら ん 。 女1 おばちゃ んの思い切りと 絹ごし豆腐の身もだえが ブル ルンです。 女2 ブルルン! 女1 語り 始めまし たか。笑って います か? 女2 人 目 に は 可 笑 し か ろ う 。 だ が 、 自 分で は 笑 わ れ へ ん わ い。 女1 泣 い て いる の で す か 。 女2 ど っち か 言え ば 泣 き た い 気 分や 。 女1 泣いてください。 女2 そ う 思 う た の は 、 あて だ けや おま へ んで 。 氏 子 総 代 、 浴衣 仕立て で お参り に来て いた み んなか て 、 そうや っ たと。 女1 通天閣かてゆうた。 女2 なら 、 水面 の 上に 、 なけ なし のわ ずか な思 いを 投 げて 、 川底見上げた夜空に、あんたは いったいどんな星を 出 し た んや 。 。 女1 バーナムの森が動くんなら、大阪城かて動くと。 女2 確か に ゆ う た 。 ゆ う たこ と に な る んや ろ う な 。 女1 そん な、それ は無責 任や ん 。 女2 オ ー プンソ ー ス は 、 自 己 責 任は あ るが 、 あん た への責 任 あら へ ん わ い 。 女1 もて あそんだ な。 女2 もて あそばれ たな。 女1 それでも大阪城は動く。 女2 ア イ ス ピ ッ ク 代 わ り に カ チ割 り 氷 作っ たこ の 頭が 、 豆 腐 の 角 で 、 カ チ 割 れ たら 、 き っ と な んで も み え る や ろ うと、あん たに大見 得切ったの は、こ の 大阪のおばち ゃ んや 。 女1 あて に は 見え へん のや 。 女2 バー ナ ーで 焼 き つ くす ん は 大阪城 か ? 女1 そうや な、な くなるんや から、動 いたのかも 知れまへ ん。 女2 お忍 っ、ついに吐いたな 。 女1 も う え え て 。 火 盗 改 め 鬼 の 平 蔵 受 け 継 いで 、 今 夜は い つもと違って、とって おきの絹 の靴下で 、あんたの 十 75 女1 詭弁 を 逆 手に と って 、 そ れ は 大 阪 城で おます 。 女2 こ の 黄金 の ぞ う り の 上に 鎮 座 ま し ます と 、 あ た いが ト マトを 載せ ると 、こ れはト マト で あって 、すで にト マ トで なくなるのでし ょうか。ト マトソースでもいいの で す ね 。す ると 、 絹 ご し 豆 腐 は い つ 大 阪 城 に な っ た の でしょうか ? 女1 それ は戻り値 なしの詭弁 のブラッ クボックス です 。 女2 三 度 、ひ え ー ! ついにこの黄金 のぞうりは変数です か? 変数 値が 日本 だとすると 、 それは 日本で あって 、 す で に 日 本 で は な い ので す ね 。 思 わ ず 標 準 語 し て し ま いまし たが 、 それは 大阪で あって 、すで に 大阪で な い のですね。こ れは そ んなソ ース コ ードで ありまし た ん ですか? 女1 天神祭りの宵 宮に⋮⋮ 女2 天神祭り? 女1 あて が な 、 菅 原道 真 は ん お迎え に 上が り 、 お 旅 所に お 御 連れす る 、 御迎 船 の舳 先の お 迎人 形や ったこ ろ 、 大 川 の 水面 に 映 る 大 阪 城 はも の ご っつう 綺 麗や っ た な あ 。 と こ ろ が 大 阪 城 は ん 、 水面で ゆ ら ゆ ら 揺 ら め く だ け や な い んや 。 御 迎 船 動 くや ろ 、 す る と 大 阪 城 は んも 、 一 緒 に 来 る ん や 。 そ ん な あ ほ なこ と あ る か いて 、 奉 安 船 に 、 供 奉 船 に も 、 奉 拝船 に も 聞 いて み た んや 。す る と みんな、大阪城はんご一緒に、後ろきて はりまっせと、 口を そろえ てこ とも なげに いいよる 。驚 くには驚 い た が 、 大 阪 城 は んも お 供を す る と は 、 さ す が は 天 神 祭 り や 、 船渡 御 や と 感 心 し たも んや 。 ( 女1 女2 女1 女2 ) 女1 女2 女1 女2 女1 女2 女1 女2 76 女2 女1 女1 女2 ヤコラ セー 、ドコ イ ショ⋮⋮ 八番の絹ごし豆腐を 導き出しました。そんな絹ごし 豆 女1 はよ せえ 。 腐に﹁黄金 のゾウリ ﹂を履かせることが でけたのは 、 女2 黄金 のゾウリ 、 お履か せ くだは い 。行 けーッ ! 修行 のたま も の、それもこ れも 大阪のおばちゃ んの お か げで あり ます 。感 謝 申し ます 。 申し ま す が 、 動か へ と 同時 に 、 女 1 は 新 し く 買 い物籠から 出して 用 なんだ。 意して いた左手の薄 揚げを 、右 手の絹ご し 豆腐 お仙っ! に 重 ね る 。 続 いて 同 時 に 、両 手 の 天 地を 逆 転 。 ⋮⋮ 下から左手、薄揚げ 、絹ごし豆腐となる 。女1 半 身 阪 神 フ ァ ン の 田 淵 は ん っ ! な んで す か 。 は左手を掲 げて いる 。 半身 阪神ファ ンの田淵は 、 半信半 疑の田淵で も ありま し たが 、 ご 無沙 汰 し て いる 間に 、 全 身 全 霊 の田 淵 と な 女1 いか がでしょ うか 。 りました。 女2 ま あ 、 そこ そ こ で は な い か と 。 全身全霊の田淵はん。 女1 では、プルプル、プルルン! 行 きます 。 は い 仙ち ゃ ん 、何 で す か ? 女2 まって! プルプル、プルルン! はなぜだめだったのですか? 女1 え? それ は お応え で きま へん 。環境が 違 います 。 女2 右手に! 環境 ? 女1 右手に!記憶 の向こ うに ! 忘れ去れぬ憤怒をッ。 仙ち ゃ ん ! 自 己責 任で や って み ま す か 。 女2 こ れ や と 、 イ カ リ ソ ー ス の 容 器を テ ー ブ ル の 上に 置 自 己 責 任で ! 今 日 も ま た ﹁ あ 、 痛 い ﹂ と いえ へ んか っ たこ の 全 身 全 く 霊 の 田 淵 に 成り 代 わ り 、 一 言 ﹁ あ 、 痛 い ﹂ と ゆ うて み 女1 え? ま へんか 。 女2 クラ スや、継 承し。 ま い どです 。 女1 意味わかりま へん。 不 肖 こ の 全 身 全 霊 の田淵 、 音頭と り ます 。よ ろ し いか 。 女2 人生わからんかことはしこたまあります。いちち 、す お願 いします 。 べて わか っ たら 、細 木数 子 の商 売 上が っ たりや 。 ええ ー、さて こ の 場 の 皆 様 へぇー 、ち ょ いと 出まし た 女1 イカ リ、ソ ー スです ね。 私 は 、 お 見 か け ど お り の 若 輩で 、 ヨ ー ホ イ 、 ア 、 エ ン 女2 色々 あるや ろ 。肝心 なの は、 プル ルンで 体ゆ す ったら 女1 女2 女1 77 女1 女2 ) 女2 ( 女1 女2 女1 女2 女1 です。 あか ん。揺するのは 絹ごし 豆腐 。あんた の体動いたら 、 女2 今 の 仙ち ゃ ん な ら 、 き っ と 出 来 る 。 その容器の 中 身が 動 くからす ぐ 分かる。ええ な。 女1 全 身 全 霊 の 田 淵 は ん 、 そ れ で は 自 己責 任で 参 り ま す 。 は い 。一つえ え で す か 。 女2 お供します。 何 ね 、 仙ち ゃ ん ! 女1 間 プルルン ! 見て くれは いかがで しょ うか 。 あ ん た 何 に 拘 って る ん 。 視線 に晒 され るこ の想像 力 は、コ ミカ ルで す か 。 それ と 、 音 楽 。 女 1 は 豆 腐 の 角 に 頭を ぶ っ つ け る 。 と も 、 そこ そこ 絵 に な って い ま す や ろ か 。 知 ら ん 。 だ れ も 見て へ ん 。で も な 、 世 間 の み な さ ま に 女2 プルプル、プルルン! は訊か んと き、黙 っとき。いろ んな誤解 を 生んでも し ょ う な いで 。と り あ え ず そ の 自 意 識 に は 笑 顔で 応え と と 、 女 2 も 豆 腐 の 角 に 頭を ぶ っ つ け た 。 き。 無矛 盾ではな いのですね ? 女1 あ⋮ ⋮ 豆腐 にソ ース は、矛 盾で は ないわ な 。少々 の 違和で 、 女2 あ、 あ 二の足踏む わな。 女1 あ、 あ、あ⋮ ⋮ 少々 の違和 感 に耐えて 見 せます 。 女2 仙ち ゃ ん ! 仙ち ゃ ん ! あんたなんか文句あんのやろ。 それでも ごちゃ ごち ゃ ゆわ ん 。 女2はすで に 豆腐 から 頭を 離して いる 。 は い 、こ う な っ たら こ の 身も だえ を 、 黄金 の ゾウリ を 履 いた絹ご し 豆腐に 送り ます 。 そ ん な 身 も だえ を 豆 腐 女2 頑 張 ら んか ワ レ ! の中で 、 プ ルルンと 揺らめか せて ごら ん に入れまし ょ 女1 あー っ! う。ブルルンにプル ルンを 増長させ、臨界点のその 瞬 女2 ⋮⋮ 間、絹ごし 豆腐が思 い切ったその瞬間を 見切りまし ょ 女1 あい、あい⋮⋮ う 。 そ れ は 豆腐 の 角 に 、こ の 頭 を 預 け た 瞬 間で す 。 見 女2 聞こ え ん。も っと大きな声で ! 事 、 絹 ご し 豆腐 の 角 で 、こ の 頭 カ チわ っ て ご 覧 に い れ 女1 あ い 、 あ いッ ! ましょう。 そのとき 私の情念は ﹁あ、痛 い﹂と語る の 女2 愛で は地球救われん。﹁ あい・た﹂や、﹁た﹂た抜き 女2 なに 意 地はって んや 。畳 の メ、そ の テーブル の下残 っ て んで 。 あ ん たに は 重 と うて 一 人で 動か さ れ んや っ た んや ろ 。知 って んで 。ズ ー と ﹁ 一緒 に 動 か して ﹂て 言 い そび れて き た の知 って んで 。 おみ と う し や て 。 女1 そ れ で も 、 ホ ン マ モ ン や って 。 女2 息 止 め ろ 。 ホ ン マ 、 ホ ン マと ゆ う んや な い 。 国 家 が 、 国家足りう る骨格と して の属性とは。 女1 一つとして軍 隊。 女2 さら に ! 女1 一つとして貨幣。 女2 さら に ! 女1 一 つ と して 権 力 。 それが す べて で す 。こ れら の鉄 扉面 を 剥 ぐと そ こ に は 恐 怖と い う 二 文 字が 静 か に 眠 って い る 。こ れを ロ マ ン と い う 。 女2 ⋮⋮ 模範的な解答ありが とうおました。どんな本読む とそんな骨董品みたいな、呪文に出会うんだす。天牛 に か て そ ん な 古 本 も う な いで 。 そ ん な 暇 あ る んや っ た ら息止めろ 。 女1 な ん か 息 苦し い わ 。 女2 後藤! 女1 全身 全霊の田 淵はん、な んだすや ろ。 女2 仙ち ゃ ん、 そ んな んや 大 阪城 は動 か へん 。息 止め な動 か へん。 女1 誰も 、動 くと 思 うて へん が な 。わ か って るて 。も うえ えて 。や っ ぱり 、﹁ あ﹂で 、﹁ い﹂や っ た んやて 。 女2 そ ん な も ん 、 軽 く うち ゃ って 、 軽 や か に ジャ ン プ す ん 78 す んや な い 。 あ いた 、で 血を 流 せ 。 女1 出 来 る なら 、 ﹁ た ﹂が 出 ぬ 悔 し さ で 額 の 上か ら 血 の涙 を 流し た い ほどです 。 女2 仙ち ゃ ん そ れ や 。 ま だ 、 そ の 絹 ご し 豆 腐 、 額 か ら 離 す んや ない。 いま 仙チャ ンは 身も だえ して ます んや 。 静 か に そ っ と 、て ら い な く 絹 ご し 豆 腐 に 思 いを は せて み て 。聞こえ るやろ、 絹ごし 豆腐 の呟きが 。聞こえ る は ず や 。 そ れ を 、 あ ん た の 口で 物 語 って お あ げ 。 絹 ご し 豆腐の身も だえを 浄 化して あげ な。あん たしか 、で け し ま へ ん の や 。こ こ で て 行 き た い んや ろ 。畳 の メ と も おさらばや 。 女1 全 身 全 霊 の 田 淵 の お ばち ゃ ん 。 女2 目え つむるんや ないで 。 息止めろ 。 女1 全身全霊の田淵はん! ⋮⋮国家とは。 女2 なんやて 、こ んな時になにて んご ゆ うて んや 。笑われ へ んて 、 そ ん な ギ ャ グ 、 東 京 弁 に 任し と き 。 死 語 、 死 語や 。 女1 死 語 のよ う な ギ ャ グに 付 き 合 って き た んは あ た いや 。 国家とは! 女2 後藤はん! それはあた いの台詞 や 。しっか りし い。 女1 あん たの口癖 、物まねし ただけや 。なんか知ら んが、 今 の うち な ら 応 え ら れ る 気 す る わ 。 い つ も の よ う に が ま んす る か ら 、や っ て 。 女2 知ら ん。 女1 お別 れすんのが 怖いんか ? も うこ うして 二 十年も 三 十年も付き 合うて き た んや から 、こ れが 潮時やろ。 ︻ 注記 ︼ 文中のハングル・マクベスは姜姫止さん によるものです。また、大分弁は藤野茂子さんによる。 謝意を表します。 [ 7 章 ] 女2 軽や か に う っ ち ゃ て な 、 ジャ ン プ せ な な 。琴 ヶ浜 の 内 掛 け を 見事 に か わ し て 、 大 見 得 切 って も え え で 。 そ う す る と 、 バ ーナ ム の 森 が 動 い た くら いや か ら 、 大 阪 城 オ ル ゴ ー ル の中 、 女 1 、2 は そのま ま 居 る 。ご かて 軽く動 くや ろ 。 そら 動か ん か っ たら 、あんたの 方 婦人達 いつ の間にか 各 所に ある 。ご婦人 達は、 か ら 、 近 づ いて っ た り 。 な に ゆ う て ん や 。 詭 弁 や あ ら 旅行用 のカ バンを そ れぞれ持 って いる 。 へん。動くと いうの は運動の問 題や あら へん。相対 的 な位置の問 題やから 、距離がち じ んだゆ うんは、関係 鍋・釜 も しも し 、 ど な いし ま し た んや 。 が 変 化 し た と い うこ と だ っ せ 。 そ れが 動 く ゆ うこ と だ 。 蔵 王 三 山 こ ん な と こ で 居 眠 り し て 、 風 邪ひ き ま っ せ 。 しかしや な 、こ の 奥 の 手使うと 、後先わ から んなん の 婦人達 し っか りし なはれ 。 で 、 結 果を 保 証で け へ んゆ う ん が 、 な ん とも なら ん と 五色 ま あ 、 そら な んだ 。 手 の 上に 御 揚 げと 冷奴 載 せて 、 ま こ で 、 人 に は よ う 勧 め ん のや け ど 、 そ れ で も か ま ん ゆ さ か 、 あ ん さ ん そ の 口ん 中 に お 味 噌 入 れ て んや な い や う なら 、 そ ら も う あ ん さ ん の 勝 手 だ す さ か い に な 。 よ ろな。 う は 、 あ ん じ ょ う 気 張 って も ら わ な なら ん と ゆ うこ と 熊野 こら また、あんさん家の お味噌汁 の出汁はソ ースです ですわな。 か いな 。 そ う 、ソ ー ス な んどと いう駄洒 落 は 、 辺見 ま り。 オ ルゴ ー ルがや け に 物 悲し く聞こえ る 。 刈田 それともイタ飯系。 女2はオルゴールの流れる なか、豆腐を食べる 。 女1 ⋮⋮ 79 女 1 は ガ ク リ と 崩 れ 落 ち る 。ソ ー ス 、 絹 ご し 豆 腐、薄揚げはそのまま。 こ の女 1の﹁ガ ク リ ﹂と 同 時 にオ ルゴ ー ルの音 静かに入る 。 ; や。 女1 軽 く うちゃ っ て 、 軽や か に ジャ ン プ⋮ ⋮ 鍋島 ♪8時ちょうどのあずさ2号で 鍋・釜 ♪ 私は 私は あなたから旅立ちます⋮⋮ 山 ︵ ド イ ツ 語 ︶ は よ 行 くで 。 釜田 ええ 歌やないか。特に釜ちゃ んの声に張りが ある。旅 立ち に は お 似 合 いや 。特 に 今 日 のはえ え 、 さ あ、行 き ましょうか⋮⋮どうぞ! 鍋島 ええ 歌やないか。特に鍋ちゃ んの声に張りが ある。旅 立ち に は お 似 合 いや 。 釜田 も う え え 、こ こ に あ ん さ んら を 連 れ て き た の は 間 違 い や っ た 。 頑 張 って 関 西 弁 練 習し た の に 何 も な れ へ ん か っ た 。 ど な いし て く れ る ん や ! 誰が 責 任 と る ん や ! み んさい、ご覧のとおり何にもおまへなんだ。焼け野ヶ 原や 、も う ペン ペン 草かて 生え へんや ろ 。納得して も ろ た と 思 い ま す 。行 き まひ ょ 。 ⋮ ⋮ ど う ぞ ! いや ち ゃ う、用意はできまし たな。あなた方の、時間の解凍旅 行は、終わりました。 鍋島 行きまっせ。 蔵王三山 は い 。 さ よ なら は 、 いつ まで た って も 、 とて も 言 え そうにありません 、私にと って⋮⋮ 鍋島 歌わ んかてえ え 。 釜田 ⋮ ⋮ 何 か 未 練 が ある よ う で す が 、 皆 さ ん いか が いた し ましたか? 鍋島 ピキ ピキピッキーン! 蔵王三山 ピキピッキーン! 鍋島 あな たが たはここ に居て 付くつも りですか ? 釜田 カ バ ンは持ち まし たか ? 80 五色 なんなん、その変に尊敬した眼差しは。 女1 おは ようさんで 。どちら さんです やろ。 刈田 まあ、なんと 、挨拶でき るように なりましたやないか 。 熊野 そうで っか 、 そらよか っ た。 五色 こ れ で あて ら も 、 心 置き な く 旅 立 て ま す が な 。 蔵王三山 では。 女1 そら ま あ、 ご 丁 寧 に 。 お はよ う さ んで し た 。 婦人達 おはようさん。 女2 おはようさん ではありまへんで 。あんさ ん、まだ 日い越して まへん。 女1 で 、 御用は ? 女2 そ う 直 球 投 げ ら れて も 。 いや 、 見 るか ら に 、 ダ イ エ ッ ト 成 功 し た んや なて 。ス リ ム に な っ たや ん 。何 キ ロ 落 ちたん。 女1 七キ ロ 。 女2 ウソ こ け 、ご まか せるん なら 、こ んばんわ。 女1 どち ら さんで すや ろ 。 山 ︵ド イツ語︶語呂巻力。 釜田 なめ たこ とゆ うと ったら あか んで 。わ たし は アンコ ー ル ・ラ イ フ ・ス ミ チ オ ン ・モ ン サ ン ト 財 団 の 語 呂 巻 力 や !⋮⋮ ど う ぞ! 鍋島 み な さ ん 。 さ よ なら は 、 いつ まで た って も 、 とて も 言 え そうに あ りません 、私にと って 、 あな たは今も 、 ま ぶ し いひ と つ の 青 春 な ん で す 釜田 な に ゆ う と ん 。 な んち ゅ う 意 訳す んや 。え え 加 減 に し い。 釜田 そのように貴 方の手にカ バンを持て ば旅立て るわけで は あり ま せ んね 。心 の 準備を ! 蔵王三山 では! 刈田 後ろ 髪を引か れないため に 山 ︵ド イツ語︶ ポエムがポ エムを産み、それが いずれ真 実と なるなら、それはポエムなのか 、そとも現実なの か 、す る と ポ エムと は現 在で あ る のか 。 釜田 こ の 語呂 巻力 の前で 、髪 の話 はす んや な い⋮ ⋮ ど う ぞ ! 鍋島 嵐の予感です 。 熊野 さ さ や か で す が 、 一 つ の 思 い 出を 置 いて 行 き た い と 思 います 。 五色 し ば し の 時 間 を お許 し く だ さ い 。 刈田、 熊野、五色はカ バンからワンカ ッ プを そ れぞれ二つずつ出す 。刈田、熊 野は女1と2に 渡す。五色は祭壇に 置く。刈田 、熊野、 五色は ワンカップの蓋を開ける。 刈田 思 い 残 し た ワ ンカ ッ プで の 乾 杯で す 。 熊野 熱 燗 なら なおのこ とよか ったのや けど、それ はまたの こ と に し と き まひ ょ 。 五色 さ あ 蓋を 切 っ て 、ち じ め て い う と フン 切 って ! 女1 なんに乾杯をしましょうか? 五色 貴方の一番嫌いなアングラ︵=物語︶に! 女1 では黙して乾杯! 81 蔵王三山 はい。 鍋島 準備は! 蔵王三山 ピキピッキーン! 釜田 こ こ で あな た 方を 解 凍す る わ け に は ま い り ま へ ん 。 旅 立ち は 事 故 だ った の で す 。し た が って 現 状は 手違 い の ま ま な ので す 。 鍋島 何 十 年も 、 冷 凍保 存 の な かで 閉じ こ も って い た あ な た 方 の 、 し ば し のカ バ ン は いえ 、 カ バ 、 バ カ 、 バカ ン ス は、終わり ました。 釜田 まいります。 鍋島 カ バ ンは持ち まし たか ? 蔵王三山 はい。 釜田 バカ ンスはもち ましたか ?はい。で は! 蔵王三山 ピキピッキーン! 刈田 でも ! 蔵王三山 道に迷ってしまいました。 山 ︵ ド イ ツ 語 ︶ 吉 野を のが れて 、 生 駒 の 山 中 を 義 経 一 行 が 行 くよ ! 釜田 迷う人生など馬にけられて 後ろ足 、 それが 右 足で あろ うとなかろ うと、後ろ足で 砂か けんか い 。すると、 前 足は手かと問うなか れ、雑念! ⋮⋮どうぞ! 鍋島 迷え る 人 生が ある うち は い い 。 そ こ で 閉 じ こ も る の は 籠城戦で ある。だが 、わがアンコール・ライフ・ス ミ チオ ン ・モ ン サント 財 団は貴 方 に 、 そし て 貴 方に 、 リ セ ッ ト し た 純 白 の 明 日を 、 不 老 不 死 のも う 一 つ の 人 生 を お届けし ましょう 。 女2 女1 女2 女1 鳴 っ て んで 。 え ! いつか ら 鳴 って ん の ! ず ー と 鳴 って んが な 。ず ー と な 。 はい。 と、女 1はワイヤ ーレスマ イクをつける。 2 女1 CQ 、 CQこ ち ら 7 M ヘ ル ツ 、 出 力 5 ㍗ 、 試 験電波 発 信中、JE3⋮⋮いやコールサ インはありません。 メ リット5で 極めてクリアな方、特にメリット1の混 信 中のあなた、タヌキ などやめて 発信願います。 て な こ とを 二 十 年前 はや って いま し たが 、 い ま は貴 方 も 、 私も 片 手で 出 来 る ネッ ト ラ ジオ で す 。 ネッ ト ラ ジ オ 局 の 開局 時 間が 、 今 夜もや っ て き まし た 。 全 世 界 の リスナーの 皆さん。 お元気でし たか ? お変わりあり ま せ んで し たで し ょ うか 。相 変 わ ら ず の 騒 が し い シ ャ 9 と、音楽入る。 7 6 9 1 女1 参 り ま す 。 C Q 、 CQ C Q ! ン プ ーで 、 いや 石 鹸 で 、 いや い や 世 間で 、 ホ イ ホ イ ホ イ、快調のオヤジギャ グ三段論 法とばして、相変わら ず の わ た く し で す 。 それで は 、 独 断 と 偏 見で 選ぶ 、 田 淵 は ん の お 気 に 入 り チャ ッ ト の コ ーナ ー 。ま ず は 、 チ ャットネーム大阪の 後藤さんから。なに なに、独立し ま し た 。 遊 び に 来 て ね 。 パス ポ ー ト も ビ ザ も い り ま へ ん 、 そこ ん と こ ヨ ロ シク ッ ! どうやら 海外結婚で 日 本を 脱 出す る 模 様 ー で す 。ウ ソ ー 、 独 立 し ま し たが 、 国で は あり ま せ ん 。 わ た くし 後 藤 は 、 日 本から 独 立 し た世界市民です。日本語表記住所、大阪府大阪市。皆 さ んも 気 軽 に 独 立 し て ね ∼ェ 。 ⋮ ⋮ こら 後藤、も っと詳しく説明しろ 。 それで はも う 一 つ 。イギ リ ス 沖の 北 海、シーラ ンド 公 国から のチャット 。 ヘイヘイ、 わが 国の 国土は海の 上、 バス ケット ボールのコ ート 程度 、 年 月 日に独 立 してからズ ーと快適よ。モジョ 使えるよ うにしようか な? 独 立 記 念 パ ー テ ィ す る よ 。 P 2 P よ 。こ ら わ れ 勝 手に ヘイ ヘイ ヘイ 。 お っ と 、 後 藤 は ん 、 イ ラ ッ シャ イ ∼ 。 な に な に 、 も っ と気楽 に⋮ ⋮ 国家と は、一つと して軍 隊 ⋮⋮ と、ガ リガリキーと混線音。 女2 CQ 、 CQ⋮ ⋮こち ら 7 メM ヘル ツ、出力5 ㍗、試験 電 波 発 信 中 、 J E 3 ⋮ ⋮ いや コ ー ル サ イ ン は あ り ま せ ん。 82 女1、女2、刈田 、熊野、 五色は飲む 。同時に 酒しぶき。 同時に 音楽 。 ご婦人達は退場のゆっくり した動き。それはプ ロローグの動きと重 なる。 と 、 混 線 音や む 。 こ の 後 、 混 線 が 起こ り 止む 。 女1 少々 焼 け気 味 の田 淵 の お ばちゃ んで す 。面 倒 くさ いん で 音声 チャ ッ ト に 切 り 替え ま す 。登 録 I D お持ち の 方 、 もうバン バンきて 、 バンバン。 お相 手くるま で 、こち ら から 。ミ チミ チ道ち ゃ ん聞 い てますか。 女2 CQ 、 CQ⋮ ⋮こち ら 7 M ヘルツ 、出力5㍗ 、試験電 波 発 信 中 、 JE 3 ⋮ ⋮ いや コ ー ル サ イ ン は あ り ま せ ん 。 ⋮⋮五尺七 寸⋮⋮ いまだ出会わ ぬ多くの人々 へ、来 る 日を 夢 見て 試 験電 波 を 発 信 し ま す 。 CQ 、 CQ こ ち ら 7 M ヘルツ 、 出力5 ㍗ 、 試 験電 波 発 信 中 、 J E3⋮ ⋮ いや コ ー ル サ イン は あり ま せ ん ¦ ¦ 女1 後 藤 ち ゃ んで す よ 。 聞 こ え て ま す か ? 途中で メンゴ 、 それは一つ として 貨 幣⋮⋮一つ として 権 力 、こ れら の 鉄 扉面 を 剥 ぐと そこ に は 恐 怖と い う二 文 字が 静 か に 眠 って い る 。 こ れ を ロ マ ン と い う 。 言 葉 を 変 え れ ば 恐 怖 と は 情 報 の こ と で す よ 。で す か ら 気 楽 に ⋮ ⋮ 女2 ク リ ア ー 5 、 いや ク リ ア ー 1 、 こ の メ ッ セ ー ジを メ ッ セ ー ジ下 さ い。星 座 の 煌 く 乱 反 射 に も 似 て 、 電 波 の 赴 く ま ま に 、 メッ セ ー ジ下 さい 婦人達 迷 え る 人 生 が あ る うち は い い ! 女1 ⋮⋮わたしは今日まで生きてきました。一回コッキリ の生しか生 きること しかできな いながら 、だが それを、 決して他人 とは取替え のできな い固有の理由で 。あな たもまた、 そのよう にして 大い なる流れ の中で 、美 し い沈黙⋮⋮ それはあたかも、いま漆黒の 闇に閉ざさ れ な が ら も ︵ 天 空 高 く 一 本 の 指 を 大ら か に 突 き 上 げ る ︶ ひ と たび 天 空 高 く 舞 い 上が れ ば そこ は 満 点 の煌 く星 座 、 数え切れぬ星の輝きがあると信じられるほどの確か な 思 いを 込 め た沈 黙 ⋮ ⋮ その よ う な美 し い 沈 黙 を 秘 め て き た ので あ ろ う と 、 わ たし は 今 、 そ ん な あ な た に 想 い を 馳 せ ま す 。 そこ で は あ な た は き っと 、 十 全 に 孤 立 し 、 自由 に 食 べ 、 十二 分 に ク ソ を し 、 そして 考えて 生 活 し て いる 個人 で あり た か っ た の だ と 確信 し ます 。で す か ら あなたは 、 勇気に 徹し ぬく諦 念を 、孤 独と いう寂 寞 を 、も の の 憐れ と い う 憐憫を こ そ、美し い沈黙 に 秘 め させなけれ ば なら なかったで あ ろうと推 察します 。と き あたかも 、 大 いな る 流れの な かで 美し い沈黙を 秘 め 、 なおその美しい沈黙 に、勇気と 孤独とも のの憐れを 、 あらかじめ 名付けるこ とを 諦観 してしま ったロマン と して 秘める こ とで 、 二重 の 秘め 事を 秘め て しま った も の言 わ ぬ、 それ は 大 いなる 流れ で は なか った ので し ょ うか 。 83 鍋島・釜田 道 に 迷 って し ま い ま し た 。 蔵王三山 人 生 の 道 に 迷 って し ま っ た の で す 。 婦人達 迷 う人 生 な ど馬 に けら れて 後ろ 足、 それが 右足で あ ろ う と なか ろ う と 、 後ろ 足で 砂 か け んか い 。す る と 、 前足は手か と問うなかれ、雑念 女1 ブレ イ ク 、 ブ レ イ ク 。混 線 、 混 線 や て 。 84 c e b t I はいは一回。 女1は テーブルからゆっくり落ちる。このとき 、 女2 女1 一 二 三で 眼 つ む り な は れ 。行 き ま っせ 。 一 、 二 、 三 ! ご婦人達は その背後で 、女1の 六分割の動きを 再現。また 、こ の女 1の動きは プロロー グのテ と、音楽大き くなった。 ーブルから落下する動きの再現で ある。 ご婦人達退場。 女1 どや 。 女2 待ち 。 女1 ⋮⋮ だが 、いえ だからこ そわたし はあなたに 宣告しま 女1 どや て 。 す 。も う帰 る べきロ マン は な い のだと 、 美し い沈黙 と 女2 あんた、聞き たいんか。 引 き 換え に 、 帰 る べ き ロ マ ン の 通路 は 取 り 払 わ れて し 女1 別に 。 まったのだと。未だ命名されず 無名性の中で佇む美し 女2 ほな、止めと くわ。 い憂愁の沈黙よ、大 いなる流れとはかくもしたたかで 女1 イ ケ ズ す んや な い 。 あります 。 女2 そや な 、 ⋮⋮ 女1 ふん、 だか ら 、気楽 に ジャ ン プ 。 そして 静かに一言 ﹁ 女2 ま あ 、こ れ は 言 わ ずが 華 や ! ﹂ 。こ れ で す べて が 始 ま り ま す 、 女2 わー はっ⋮⋮ かも。 女1 わーはっはっ⋮⋮ 女2 聞 こ え と り ま す か 、 大 阪 の お ばち ゃ んで っ か ? 女12 わーはっは っはっはぁ っ⋮⋮ 笑 い。その 笑 いは文 女1 毎度 ! 女2 オイド! で 、 それで 、 あの、 そ のや な⋮⋮ 楽 の 義 太夫 語 り の 、 あ の あき れ る 程 長 い 笑 いで ある 女1 なんやねん。 女2 大阪城、動きましたか。 混線の 音。 女1 ホイ、ガタンゴトンヤ。 女2 田淵 はん、大阪城空飛び ましたか ? 女2 とこ ろで 今日やろ。 女1 あ ん さ ん 、 そ ら 環状 線 に 乗 って み な は れ 。 女1 何が ? 女2 ま た こ の 勿 体 つ けて 、 腐 り ま っ せ 。 女2 ああ、しらば っくれて 。インター ネット投票や 。締め 女1 はいはい。 切り今日や ん。結果で たんやろ 。聞かせて 。 . t n e d n e p e d n i s e m o ( ) ) ( り国家行事のたびに著作権経費発生することになりま 女1 それでは、全世界のリスナーの皆 さん、お待 たせしま っせ。大き な財政負 担やで 。 と、演奏の準備 した。あなたの、あなたの、そして あなたの待ちに待 った 、発 表 の時 間で す 。 ファン ファーレ 。 女1 それ は大丈夫や 。亡くな った日から数える、著作権切 女2 え? と、ファンファーレ ⋮⋮ れ の 期 日 は 、 明 日で ち ょ う ど に な り ま す 。 そう 。 女1 集計 結果第四位6431 、河内音 頭﹁河内十人 斬り﹂ 、 女2 女1 それで は国家 斉唱をして 、今夜の ネットラ ジオを 終わ 第三位6 4 33 ﹁レ ット ・イッ ト ・ビ ィ ﹂ 。 り ま す 。で は シ ー ユ ー ・ ア ゲ イ ン ! さ よ う なら 、 グ ッ 女2 ヨッ シャ ー ! 来 た 来 た 。 浜 風 に 乗 って 来 い 。 バイ、またね、再 見、ティ アーモ、ティ アーモ、ティ 女1 第二 位644 0、﹁六甲 おろし﹂ 。 アーモー︵ 手話で ﹁ さようなら ﹂、ハン グルで 。広 東 女2 なん なん、途中経過では なかったやつが一位になった 語で 、イタリ ア語で 、フラ ンス 語で 、ド イツ語で 、 ス んか 。 そら 可 笑し いで 。 ペイン語で ⋮⋮語等々と続く。メルシー、アモーレ ! 女1 え 、 こ こ で お 知ら せし ま す 。こ の 第二 位 の ﹁ 六 甲 おろ アモーレ ミオ ! ティアーモ、ティ アーモ、ティ アー し ﹂ 、 その 健 闘を称 え 、わが 国 の応 援歌 と 決 定し ま し モ∼! た。 女2 ヨッ シャ ー ! ヨッ シャ ー ! 女1 で は 、 栄え あ る 一 位 、 カ ント リ ー ソ ン グ の 発 表で す 。 女 2 は 演奏 。 女 1 は 歌 う 。 女2 と 、ファン フ ァーレを 弾く ⋮⋮ ) () 女1 ⋮⋮ 手話で ﹁ ヘイ・ジュード ﹂と 言わざる をえ なか った 女2 拍手! 女1 それで は⋮⋮ 女2 あの な、こ の曲まだ著 作 権あんの んとちゃ う ん。つま ♪もう おさらばさ 、 おも い なや む のも いい 軽くジャンプして 、 流れに 掉さすのも いい 軽くいうのさ ま たな、 お さら ば さ 歌 って み ろ よ 別 れ の う た 軽 く ジ ャ ン プす る の さ 、 気楽にね 波乱万 丈 85 ) ( ( こ の女 2 の ファン ファーレ の中 、 音楽 と混線 音 が 大きくなる。女1の発表曲名が聞こえ ない。 ま た 音楽 等 元 に 戻 る 。 ♪ 外 は き っと青 空 さ 空をみ あげるまで は 誰にも わから ない 軽くジャンプしす るのさ 気楽にね 晴天の霹靂 と、ワ ンカップにラ イトが 絞られるなか、女1 は退場。 音楽 の 続く中溶暗 。 暗転。 ) 0 2 . 6 0 . 6 0 ( 幕 r e y a l p r o o p a , w o d a h s g n i k l a w a t u b s ' e f i L 女1 シー ユー・ア ゲイン!さようなら 、グッ バイ 、またね 、 再 見、ティ アーモ、 ティ アーモ 、ティ ア ーモー︵ 手話 で ﹁ さよ う なら ﹂、 ハン グルで 。広 東語 で 、 イ タリ ア 語で 、 フラ ン ス 語で 、ド イ ツ語 で 、ス ペ イン語で ⋮ ⋮ 語 等々 と 続 く︶ メ ル シー 、 お 久 し ぶ り で し た 。 皆 さ ん お変 わり あ り ま せ んで し たか 。 お元気で し たで し ょ う か ?ま た い つ か 、 ど こ か で お会 いし ま し ょ う 。 アモ ーレ !ア モ ーレ ミオ ! ティ アーモ、ティアーモ 、 ティアーモ ∼!⋮⋮ ︵ 手話で﹁ さようなら、また会 い ましょう﹂ ︶⋮⋮ 86 一 番が 終わ る こ ろ レ コ ー ド ﹁ ヘイ ・ ジ ュ ー ド ﹂ が 入 る 。林 檎にラ イ ト が 絞 ら れ る 。 こ の中 、演奏をや め た女2 は 退場 。 , e g a t s e h t n o p u r u o h s i h s t e r f d n a s t u r t s t a h T e l a t a s i t I . e r o m o n d r a e h s i n e h t d n A , y r u f d n a d n u o s f o l l u f , t o i d i n a y b d l o T . g n i h t o n g n i y f i n g i S 87 Ⅱ 大日本演 劇大系 番外 時折旬 独戯 88 ・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ]]]]]] 089 089 090 091 091 092 章 章 章 章 章 章 [[[[[[ ;;;;;; 序 1 2 3 4 5 ;;; 男 時折旬 女 打上花火 コーラス隊 [ 目次 ] [ 登場人物 ] 89 6 7 8 9 章 章 章 章 章 章 章 章 章 章 章 章 章 093 093 096 097 098 100 103 103 104 107 112 114 117 さて 、 テー ブルに は アッ プ ルが 一つ二 つ 。勿論 こ れ は 物 理 的にリ ン ゴで ある と 同時 に 、 ズ ボ ン と シャ ツ そ れ な り に ある 。 酒 の瓶 転が って い る 。 電話器がある。 マ イ ク と ヘッ ド ホ ン の 着 い たラ ジオ カ セ ッ ト あ る。 出刃包 丁が ある 。 90 18 17 16 15 14 13 12 11 10 ・・・・・・・・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ]]]]]]]]]]]]] [[[[[[[[[[[[[ ;;;;;;;;;;;;; [ 序 章 ] [ 1 章 ] そこ は 四畳 半。し か し デ フ ォ ル メ され て いて そ のよ うには 感じら れ はし な い。 ただ圧倒 的に 長 いテーブル 。番傘二 つ。独、戯 と それぞ れ艶や かに描か れて いる 。 袖幕が 奥行を だし て 一二 袖 まで ある 。 音楽 静 か に 入る 。 音楽 フ ルボリュ ー ム ヘ。光 りはつれて 溶 暗 。 暗 転 の なか テレ ビ か ら 臨時 ニ ュ ー ス を 告 げ る 音 。 音楽 CO。 アナウ ンサーの声 ︵ 男の声 ︶割り入る 。音楽の 男 臨時 ニュース を お知ら せ します 。 臨時ニュー スを お知 ら せ し ま す 。謹 んで 臨時 ニ ュ ー ス を 中 し 上 げ ま す 。 昨 年から 引き 続いて 、 各 方面から の心 配を 集め 、成り 行 き が 見 守ら れて ま い り ま し た 御 容 体 は 急 変 し 、 つ い に ミサイルは発射されてしまいました。内閣はこれに 伴 い 直ち に 危 機 管 理 室 を 設 置 、 首 相 官 邸 に 危 機 管 理 官 が 召 集 さ れ ま し た 。 事 態 は深 刻で 、 被 害 に あ わ れ た 方 々 の 救 出が 行 わ れて い ま す 。 同 時 に ラ イ フ ラ イ ン の 復 旧 が 望まれて いますが 、現 地の関係筋 の情 報によりま す と、被害に あわれた日本人 の旅行客の氏名は今のとこ ろ報告されて いませ ん。家屋の倒壊は、甚大と思われ ますが、焼 け出され た方々は近くの避難 所や小学校に 避 難を 始め ま し た 。 更 なる 第二 波 の 津波 に ご 注 意 く だ さい。 こ れ よ り 番組 は特 別 番組 と なり ま す 。 う ず く ま って い た 男 、 す で に ヌ ッ ク と 立ち あが って いる 。 男 謹んで 臨時こ ユースを 申し 上げま す 。すで に 南極 の氷 は目にもと まら ぬ速 さで 融 け始 めて いま す 。 同時に 、下駄と 竹 の杖で 大き く踏み肘 す 。下駄 と杖の踏む 音一発。 同時に 、水前寺清子の﹃涙 を抱いた渡 り鳥﹄が 大きくCI 。 照明は 激変。 91 画面電源が 入ったま ま真っ白に なる。 台詞入るとゆっくりと男にスポッドが 入る。 テープから それな りに流れて いた男の声を 、生 の声で 乗っ取り、ある方向への逸脱。 逸脱のエネルギーと力の展開。 [ 2 章 ︺ 竹の杖 、下駄、白 無垢は動 く。 独自の腰の移動。それによ る体勢。重心移動の 発見。 男 は 長 い チー ブ ル の 上を 歩 き 始 め る 。 92 音楽 に 乗 って 、 歩 くと い う 行 為 を 展 開 す る 。 [ 3 章 ] [ 4 章 ] 風呂帰り。 男 の い で たち は 、 赤 い 六 尺 褌 。 白 無 垢 を 羽 織 る 。 竹の杖。高下駄。手には風呂道 具。頭はは入道。 そ の 順 に 日 本 手 拭で 鉢 巻 き 。 体 は 白 塗 り 。 テーブ ルに腰を下 ろす 。洗面 器から力 ツプ酒を 三つ 。一つ 開 けて 一 気 。もひ と つ 開 けて 三 口で 飲 む 。 ﹁ あ あー っ ﹂ と 絵 も いえ ぬ 飲 み っ ぶ り と そ の 音 。 三 つ 目 の ア ル ミ の 蓋 に 手を か け る が 、 文 の 徳 、 考 え ざ る は 三文 の 損 、 ど うで も い いけ ど 布 団 敷 く前 に 便 所 へ行 け 、もひ と つ おま けで 見か け た美 人 は 三 歩下 が って ツ バ 付け ろ 、 そ れで も や っ ぱり 金 だ け は落ち たも のでも 挨 拶 励行⋮⋮ 人生 そん なこ んなの格 言が 、歴史 を 越えて 遠 い嘘 のよ うに 思え る のは 、こ の わ た し だ け で し ょ う か 。 いえ い え 、 言 い わ け は ご 無 用 。 な ん た って 一飲 み し た 後 のこ の ス ル メを 咬 み し め る お じ さ んの思 考 回路 は 、 それはも う新潟 の 冬で ありま し た 。落 ち を 自 分で い う の も 、 耐 え ら れ る 年 ご ろ で す の で 、一 筆啓 上、 辺り 一面 雪で 真 っ白 、汚 れを 知ら ぬ 、 純白の乙女 のようなすがすがし い朝なのです。拝啓 、 いささか回りくどい落ちでしたが、少し しだけ可笑 し か ったら にこ りとか 、そよよと か 、くす くすとか笑 っ て いただ く と、 いさ さかこ のわ たくしも 、話す張り 合 いと いうも のが 出て ま いります 。 笑い。 と 、 竹 の 杖 を 物 干 し サオ に し 白 無 垢 を か け る 。 ] [ 5 章 男 ︵ 笑 い ︶ ごち そ う さ ま で し た 、 風 呂 上が り に か け つ け 三杯いくまえ のこの二杯目の幸 せを咬み しめる優し さ に拘るとき 、腹八分、過ぎたぎるは及ばざる、及ばざ る は 過 ぎ た る に あら ず 、 覆 水 盆 に 返ら ず 、 考 え る は 三 93 そっと置く 。二つの 空いたコッ プをすす り、指 で 拭き 舐め る 。 [ 6 章 ] 悲哀と 共に情感のごも った笑顔と笑 い 。 快 活 な 笑 いが 何 か を 思 い 出 し たよ う な 笑 いに な る。決まる 。 間。 快 活 な 笑 いが 何 か 悲し い笑 いに なる 。 決ま る 。 間。 快 活 な 笑 いが 何 か 怒 っ た笑 いに なる 。 決ま る 。 間。 笑 い な が ら タオ ル を 絞 る 。 ボ タ ボ タと 落ち る 滴 。 合わせて深 いため息 。なし くず しに笑 い振り切 るようにタオルを バンと鳴らす 。クルリ と背を 向ける。 ﹁ パン ﹂ と 同時 に 音楽 。す ぐ さ ま フ ル ボ リ ュ ー ム。光は背中のみ 。 ゆ っ く り と タオ ル を 物干 し に か け た 。 星 空で も 見るのだろ うか、首を ゆっくり 上げた。 男の自 己への没入の過激さの展開。四畳半その も のが そこ に ある 。 哀 愁 に 満ち た 背 中 。 [ 7 章 ] 男 ち ょ っ と 待 て っち ゅ う ね ん︵ 音楽 小 さ く な る ︶ 。⋮ ⋮ 今 、 こ の酒 グ ∼ っ と 呑 んで 身 ぃ 清 め て 気 持 ち よ ぉ 行 て いけ 。何 ? 結 構で おま す ? その言葉 だけで 、頂 戴 し た んも い っし ょ ⋮ ⋮ 、何を ぬ か し と ん ⋮ ⋮ 。呑め っ 94 ) ) ( 95 ( よ おますけ ど ねぇ、 酔ぉてから が 長いね んさか い。 も ち ゅ う たら 呑め ! われ酒嫌いか? 何? 好き。 好 ぉこ ないな ったら い なんで 。な 、何して んね? 人が きや ったら 呑んだらえぇやないか⋮⋮。呑め へんのか? 酒 呑 んで る のに 、何 して んね ん ? えぇ? 剃刀探し どぉして も呑まんのか⋮⋮? 俺もなぁ、こぉして て る⋮ ⋮ 、 そ ん なも んあるか い 、 剃 刀み た いなも ん 。 い っ た ん 注 さ し た か ら に は あ と へは 退 か んで ⋮ ⋮ 。 何するて ? 仏のど たまの髪下 ろす ? 何をぬかし と 呑めへんのか? 呑 む な⋮⋮ ! 呑むな ! われが 呑 る ね 、こ こ の うち に 剃 刀 み た い な 気 の 利 ぃ た も ん あ る ま んち ゅ う んや っ た ら 、 わ れ の 口引 き 裂 いて ! い、 か い。 奥か ら 三 軒目 に 髪 結 い か み ぃ さ んが 居て は る 。 い! いただきま⋮ ⋮! 怒んなはんな⋮⋮、へぇ、 いただきます。︵クィ、クィ⋮⋮︶おっき、ごっつぉ 向こ ぉ行て 借 ってこ い ﹁ 夕 べラ クダが フ グ 食て 当 た っ は んで 。 わ れ 、 なか なか が え ぇ が な ぁ 。 お い 、も ぉ 一 て死にまし た、髪の毛ぇ下ろす のん剃刀が要りまんね 杯 いけ⋮⋮ 。も ぉ 一 杯 呑め ! へ、いただきま︵クィ、 ん ﹂ 言 ぅ て 借 って こ い ! 何? そんな 厚かましぃこ ク ィ 、 ク ィ 、ク ィ ⋮ ⋮ ︶ お お き 、 ご っ つ ぉ さ んで お ま とよぉ言わ ん? 気 の あか んや っち ゃ な ぁこ の ガ キ ! し た 。わ れ み た い な 呑 み 方し た ら な ぁ 、 酒 呑 んで ん ね そんなも ん遠慮せ んと言ぅて こ い。も しもなぁ、貸 やら水飲んでんねやら分かれへん。もぉ 一杯呑め! す の 貸 さ ん の っち ゅ う た ら な ぁ ⋮ ⋮ 死 人 の カ ン カ ン 踊 呑みま、呑 んだらよ ろしねんや ろ⋮⋮、何ぼでも呑 み り見せたる、言ぅ たれ! ま ︵ ク ィ 、 ク ィ ⋮ ⋮ ︶ ハ 、 ハ 、 ハ ∼ ッ ⋮ ⋮ 、 や っ ぱ り 、 ⋮ ⋮ 考え る ん じゃ あり ま せ ん 、考 え る な ョ 、 思 いを め 酒はこないしてゆっくり呑まな あきまへんなぁ。わ た ぐら す んじ ゃ な い、 考え る なと いうのに 。 そんな人 生 い ね ぇ 、 ホ ン マ 言 ぅ たら ね ぇ 、 お酒 い た って 好 き で お が どこ に ある 。たか がス ルメじゃ ないか 。思うな、 考 ま ん ね 。 せ や け ど 、 あん たが 恐 い顔して 、 大き な声 出 え るんじゃ ない!⋮ ⋮こ うして して いる と、フト考え して 睨 み 付 け な は る や ろ 、 つ い 恐 いも ん で っ さか い 無 て し ま う 。 考え る 程 のこ と じゃ な い 。 な の に 考え て し 我 夢 中 で い た だ い た んで 、 味 も 何 に も 分 か れ し ま へ ん 。 まう。そうするめえ と思うのに 。だから 君の名前はす 今こ ぉや って ゆっく り呑 んだら ホンマえ ぇ酒ですわ 、 ・ る ・ め 、 な んち ゃ って ︵ 音 楽 は 消 え て い る ︶ ⋮ ⋮ 咬 家 主も よ っ ぽ ど 死 人 のカ ン カ ン 踊 り が 効 ぃ た んで ん な み し め て い る の は 、 わ た し の 爪 に 火を と も す よ う に 、 ぁ 。 あ の渋 ち ん の 家 主が で っ せ 、こ ん な え ぇ 酒 持 っ て つつが なくすごしたこ の人生で しょうか 。それとも 、 くる と は 思 いま へ な ん だ 。え ぇ 酒 で おま す わ 。 空き 腹 成就されることなく、あの失意 のうちで 、出て行きど に 二 杯 も 呑 んだ も ん や さ か い 五 臓 六 腑 に 染 み 渡 って 、 こ ろ な く 苦 渋を 砥め て し ま っ た 、青春 の 輝 き とで も い え ぇ 具 合に 回 って き ま し た 。わ た いね ぇ 、 酔 う の は 早 うも ので し ょ うか 。 グツグツと 発酵し 、 つ いに飽和 点 吹き抜けて フエミニ ン シャ ン プ ーの 香り が そよ そよ ぱ ー っと 、こ のわ たし を 包 ん だ 時 の 恥 ず か し さ に にて 、 あ あ振 り 向 か な いで 天下 茶 屋 の 人 。 若 か っ た おじ さ ん は 歩 道 の 敷 き 石 はが して 、 手が 血 ま み れ に な る まで 穴 を 掘 っ たも のさ 。す ると 君が ホ ホを リ ン ゴ の︵ リ ン ゴ を 持 つ ︶ よ う に 真 っ 赤に し て 、 蝶 蝶が 豆 腐 に と ま る よ う な声で 、 若か った おじ さ んに だ けに聞 こ え るよ う に ﹁ お は よ う ﹂ と い っ た の さ 。す る と 世 界 は ﹁ お は よ う﹂ で いう ぱ い に な って し ま い、 穴 に 入 り な が ら 、 心 に ポ ッ カ リ お い た 穴に 、 ま た若か っ た おじ さ んは 入るし か なかったんだ。穴に 入りながら 、そんな 少年の穴に 入 って し ま っ た 若か っ た おじ さ ん は 、 恥ず か し さと 嬉 し さを 追 い越 して や って き たガキ の処 世術 。 誰から 教 え て もち っ た んで も な いの だ け れ ど 、 死 ん だふ り を し て し ま っ た の さ 。 いや 、 あ の と き 青 春 の ま っ た だ な か で 、 不安と恍惚に溺れながら死んだ んだ。そのとき、若か ったおじ さ んはリン ゴで ありま した。そして 幼心は 発 見した。火を吹くよ うな、雨の 降るよう な恥ずかし さ で人は死ねるんだと 。二重底の穴から這 い出すのに、 何 年か か る と 思 って る んだ 。人 目 に 晒 さ れ る よ り 恥 ず かしいんだ 。一度し か いわねえ ッ! な んだよ その 顔 は 、 パンダ が イカ に 墨ふ っか け ら れて よ う な顔しや が って 、可 愛 くねえ ん だよ 。八 百 八 橋を け つか ら わ た る に意味があると思ってんのか、意味なんて所詮ねえ ん だ。リンゴはリンゴだ。ほらこ うして、酒のなくな っ たコ ッ プ の 上にこ の リ ン ゴを 置 き まし ょ う 。こ の フォ 96 に達し、追憶に化けてしまった、青春の、もう一度 繰 り 返せと いわれれば 、金輪際御 免被りた いあの、栄 光 と 、 不 安 。 若 さ ゆえ 輝 く あ の 可 能 性 と 残 酷 の 日々 。 あ あ若 さ ゆえ 悩み 、 若 さゆえ 苦し み 、 初め て の 口づ け に 、 マイベイビ イウォ ン チュ、ウォ ン チュ シ イユアゲイ ン 。 ああなんて ス ッ パか ったカ ルピ ス 。 それ は青春 の味 。 だが なあ、 なめ る んじゃ ねえ 若 造ォ 。こ の俺は な あ 、 ス ル メ ー 枚 ありゃ 、 ニ 升 は お 茶 のこ さ い さ い 、 女 の け つ だ 。 軽 い って い っ て ん だ よ 、 そ れ を な ん だ 、 な ん で ス ル メ ば っ か し あて に す る んで す か 、 だ と . ざ け る ん じゃ ねえ 、こうして ⋮⋮咬みし める人生 、斜すに預 け たカウンター、ゆら め くコッ プ の酒に尋 ねてみれば 、 ま る で おで んに 染 み こ んで し ま っ た 、 ダ シ の 味 に に て 奥深 い話 が 聞 こ え て くるじゃ ね え か 。 そ う だ ろ 、 そ れ が 立ち 飲 み の 、 赤 い ち ょ うち ん に 思 い 入 れ たコ ッ ブ 酒 の美学 だろ うが 。咬 みしめ る人 生 捜すよ うじゃ 、酒 の 味 な んて わ か りゃ し ねえ んだ 。 人 生 な ん て の は な 、 い いか 、 耳の 六か っぽ じ いて 良 く 聞 けッ 、 恥ずかし さ に 耐えられねえから、一度しか いわねえッ 。人生なんて の は 八 百 八 橋を け つ か ら 渡 る よ う な も ん だ 。 あ あ 恥 ず か し い 。 顔 か ら 火が で る 雨が 降 る 。こ ん な 自 責 の 念 に かられるのは、このわたしが若かりし頃、初めてラ ブ レ ターを 出 し た 次 の 日 の 朝 、 鞄 片 手に 息 咳き って 駆 け て いく、角 のコ ーヒ イ屋曲が っ た三歩目 に 、君が 泣 き そな顔で いたっけな。吹き抜けて いくの.は朝のそよ 吹く風で あ りまし た 。君のうなじを そよ そよふ ー っ と ︵ 間 ︶⋮⋮ お前 エーッ !︵すでに正面をむ いて いる︶ 同時に 音楽が 大き くCI。 雨がふ る 。 97 ル ム を 何 と 名 付 け ま し ょ うか 。 そ れ は 決 ま って いま す , こ れが 人 生 で す 。コ ッ プ は 台 で は あ り ま せ ん 。 リ ン ゴ は 花で は あ り ま せ ん 。二 つ の 無 意 味が 手 を つ な ぎ 、 己 の 悲 哀を 咬 み し め ま す 。 見 つ め る わ た し は な んで し ょ か 。 慰 め な んか は い り ま せ ん , 美 し いと で も い いま し ょか 。声を あら げて 笑 いましょ うか 。︵ と笑う。と 同 時 に リ ン ゴ に か ぶ り つ く ︶ ⋮ ⋮ ︵ 笑 って 、 食 べ なが ら ︶ そ ん な 人 生 で も 咬 み し め て み る と 、こ れ が や っ ぱ り 一 つ 一 つ 味 が ある か ら 人 生 、 涙 流 し た って 止 め ら れ ね え よ な 。だが 若造 、咬 み し め る人 生 探す よ うじゃ 一人 前 にスルメ咬 んじゃ ねえ 。そんなときはこ ダして 、最 後 に 残 っ た カ ウ ン タ ー の つ ま み 、 口 に 押 し 込 んで ︵ 最 後 の ワ ン カ ッ プを 開 け る ︶ 人 生ふ っき る よ うに 、 一 気 に 飲 み 干 す ん だ 。 そ う だ ろ う 若 造 ッ , そ う す りゃ 人 生 咬 み し め る 暇 な んて ね え ん だ ッ ! ︰ だ が お じ さ ん は な 、 ちょっとだけつまみ 残して おくんだ。最 後の一ロ一気 に あ おる 。 フー ッ と 一 息 つ いて 、コ ッ プ を タ ン と カ ウ ン タ ー に 置 く 。 そ っ と 残 し たス ル メを 口 に 入 れ る ん だ 。 そ い つ が 赤 ち ょ うち ん の 、 コ ッ プ 一 杯 に か け た 、 立ち 飲 み の 美 学 と い わ せて い た だ け ま す か ッ ! ⋮⋮ 本当 は な 若造ッ 、人 生咬みし めて る んじ ゃ ねえ 、 咬 み し め る 人 生 が 在 る わ け で も ね え 。こ の 歳 に な る と 、 忘れちゃ いけない世 迷ごとの一 つや二つ は あるも ん だ 。 そいつを 今 夜も 忘れ ま いと、こ うして ス ル メを咬む ん だ 。 今 夜 の ため に だ ッ ! 明 日 な んて わ か りゃ し ねえ ー ツ!︵クルリと背を み せる︶ [ 8 章 ] 音楽を 背に傘と 出 刃包丁を 携え た、 そして 居な い女との道行き。 男 お前 エーッ ! 傘 に 走 る 。 ﹁ 独 ﹂ の 傘 を さ す 。 フラ フ ラ と 雨 の なかに行く 。絵になるタメ。 男 お前 エーッ 98 フラ フラ と 後ず さ り 。出刃 包丁を 取 る 。決意で ヌ ッ ク と 構 え る 。 し か し ま た フ ラ フラ と 前 へ 出 る 。 そこ は 雨 の なか 。傘 さす 手 は なえ 男 は 雨 に 濡れる。出刃包丁を 握る手に徐々に力が 入る。 ゆっくりと 出刃包丁を頭上にせりあげる 。しか し ま た フラ フラ と 後 ず さ り 。 長 い テ ー ブ ル の 一 番奥。最後 の何かを みて の道行 き 。 ゆ っ く り と 前 へ進 む 。 男 お前 エーッ ! ネオ ンやらが 瞬き 、車のラ イトが行き す ぎるか もしれない。 [ 9 章 ] 傘を 閉 じ る 。 雨 は 止 んで い る 。 テーブルに座る。 男 ︵ 女 で ︶ふ し ぎ ね 。 あ のひ と 、 信 じ き って い たも の ね 。 こ の 世 と 、 あ の 世 の あ い だ に は 、深 い川 が なが れて い [ 章 ] 10 電話が 鳴る。電話 にスポッ ト 。 照明一変する。 99 る って 。一 度 渡 っ た ら 、 最 後 。 二 度 と 引 き 返 せ な い 川 。 それが境 。 ほら 、こ うして って ⋮⋮ の包 丁 、 手に持 っ て 、喉 首 の 前 に あて て さ⋮ ⋮ こ の 手を 、 ち ょ っと 動 か し たら 、 そ の川が現 れるのよ 、こ うして 咽に あて る と 、 も う 水 の 音 が 聞 こ え て く る って ⋮ ⋮ 真 顔 で 、 あ のひ と 言 う ん だ も の 。 そ の た んび に 、 わ た し 、 ひ っつ か ん で その包丁も ぎとった けど、生き た心地が し なか った わ ⋮⋮ なにかしてる ときだって 、なにか というと、ちょっと 手を とめ 、 ぼ んや り として る の よ ね 。気 が つ いて 、 声 か け るで し ょ 。 水 の 音を 聞 いて い ん だ っ て 。こ う な の よ 。 そ ん な こ と が し ょ っち ゅ う だ っ た か ら ⋮ ⋮ し ま い に は 、 わ た し も ね 、 ほ ん と に 、 ど こ か 、 身 近を さ ⋮ ⋮ 見え な い川 が 、 なが れて いる よ う な気が して さ 、 ど き っ と す る こ と あ っ た わ 。 水 道 の 蛇 口 の 水 音に だ って 、 下 水 の 水が 雨で なが れ る 音に だ って 、 つ い 耳澄 ま し た り し て る の よ 、 ほ ら 、 冷え る わ 。 お あ け な さ い よ 。 男、受話器を取る 。 受話器を 耳につけ ず、見つめ合う間。 男 ︵ 受 話 器を 放 して ︶も し も し 、 ハ イ 、モ シモ シ、よ く か けて いた だき まし た 。二泊 三 日、 あな たが ハワイ 旅 100 民として、このどうしようもない少子化推移に悩んじ 行 決 定で す 。一 言 感 想を 。も し も し 、 ハ イ 、 モ シモ シ、 ゃ ったなんかしてるかも知れんのだぞ。一蓮托生、君 よ く聞こえ ま せ ん 。 ︵ 受話 器を 口元 に 近 づ け 、 大き な も 私も な んともで き な い、無為 に座すこ の共犯 関係 と 声で ︶大き な声で し や べって下 さい。話 がみえ ず聞 こ いうささや か な犯 罪を犯して る とは、あすも学 校が 休 え ないので すから、こうして いると、ま ったくわたし み だ と い っ て 喜 ぶ 小 学 生 に も 劣 る ぞ 。 な ん と い って 言 何を して い る のか 、 ほとほと困 って しま います 。も し い 訳す る の だ 。 考 え る だ け で 夜 も 眠 れ な いじゃ な い か 。 も し 、 ハ イ 、 モ シモ シ、 そ うで す 、 わ た し が 受話 器 を わたしを不 眠症にで もするきか 。そんなことは許され 受話 器とし て 使 って いま せ んで し た 。 るこ とじゃ な い、い いか 、わた しと君は 、すで に人 に ︵ 無 言 の 間 ︶ 待 て ッ 、ラ ー メ ン ー 杯で 切る ん じゃ な い は 言 え ぬ 、 二 人 だ け の 秘 密 を も って し ま っ た ん だ よ 。 ︵ 受話 器を 投 げ た ︶ も うすで に 問 題 は 、 こ こ が ラ ー メ こ の電 話 は すで に 盗 聴 されて い る 、こ こ で 電 話を 切 れ ン 屋 か ラ ー メン 屋 じ ゃ な いか な ど と い う の よ う な 段 階 ばこ の犯 罪 は完 結し て しまうの だ 。しか し 切る な、 そ にとどまってはいな いのだ。状 況を 甘くみるんじゃ な うすれば進 行中の犯 罪は、万が 一に孤独 な一人暮ら し い 。こ こ で こ の 電 話 を 切 れ ば 、 わ た し は こ の 日 本 に 電 の弱 者救済 に なら ぬ と 誰が いえ る 。⋮⋮ じゃ こ うし よ 話 が 登 場 し て 以 降 、 あま た あ っ たで あろ う 、すで に 無 う 。こ の厳 粛な 夜 の 、善 良 な 市 民 に 許 さ れ る さ さ や か 限 の領 域 に 達 して い るで あろ う 聞 違 い電 話 の その原 因 な嫉楽 にし よ う。い いか 、きみ がこ う い うんだ 。﹁ も のす べて の 罰と 罪を 、わ たし の 全存在を 賭 けて 、 脇 目 し も し 。こ ち ら は N T Tで す 。 受 話 器 の 受 信 状 況 を 調 も 振ら ず お まえ に ︵ と 受話 器を 指 差し た ︶ 大 い なる 鉄 査して おり ます 。ご 面 倒で す が 、 遠 くで ﹃ 今 日も 快 便 、 槌を下すぞッ!だから切るんじゃ ない。これは天誅だ 快 食 、 煙 草 が う ま い 。 わ たし は 日 本人 ﹄ と い って 下 さ だ 。 天 誅 と 思 い 込め 。人 間や め る のか ! ? じゃ 人 間 い﹂という んだ。す るとわたし は⋮⋮ と して の 余 裕と 大ら か さを 持 つ べき だ 。 何 を い って い る 。 います で に 、問 題 は 君 ︵ と 受話 器を 指 差し た ︶ の 人 間 性が 問 わ れ る と い う 段階 に 達 し た の だ 。 怖 いこ と 男 、 走 る 。 じゃ な いか 、 たかが 間違 い電話 などと 思 って は いけ な 男 今日も快便、快食、煙草がうまい。わたしは 日本人! い 。こ ん な 訳も わ か ら ん と も い って い い 夜 に 間 違 い 電 話 を し て 、 受け た と いう 、 そ れ は も う 共 犯 関係 と い う さ さ や か な 秘密 を も って し ま っ た の だ 。 そ れ が ど う い 受話 器 へ 。 うこ と か わ か って い る のか 。 日 本中が 今 夜も 善 良 な 市 11 101 男 どうでした、聞こえまし た。そうですよ、大きな声で あ あ ⋮ ⋮ モ シ モ シ ⋮ ⋮ そ うで す 、 そうで す ! いいましたよ。可笑しいなあ︵ また走る 。大きな声で︶ 男 わいや。うン、うン、そうか、そうか、よッ 俺の女房は死んだ。俺はしがない一人暮らし。帰って 玉江 ! しやッ! お父ッ あ んが いうワ 。電話 の 紐引 っ張ッ て きても一杯ひ っかけ寝るだけよ 。 お母 あはんに聞こえ るように⋮ ⋮ ああ? 構わん、 構 わん、いう通りしぃ !小春! わいはなァ、東京へ来 何度かやる。その行為はつ いに痛まし い。世界 とるンや、 東京へ。 関根名人は んにお祝 い云いに行 く 拡が る 。 ンやち うたら 、お前 の気ィ悪る して 、病 気にも 障る や ろ か と 、 そ れで 黙 っ て 出て 来 た んや 。 堪 忍 し て や ! ⋮⋮ええ ? 判ったら何 ンぞいわ んか いなァ ! 男・玉江 お父ッ あ ん、お母 あ んなァ、 物いわはる どころや あら へン ね ェ 。 お母 あん⋮ ⋮ 危 篤 状態 な んだッ せえ ! 男 ええ ? キト クーて何ンや、キト クーて ? あ、モ シ モ シ⋮ ⋮ モ シモ シ 男・玉江 お父ッ あ ん、お母あ んはなァ 、もゥ死にかけては るんだッせえ! 男 死にやせん、 死にや あせ ん、わいが帰るまで 死にや あ せん! 関 根 は んに 挨拶 す んだ ら 直に か え る よ って 、 それまで 生 きとら な あか ん ! [ 章 ] 関根名人はん! 本日は 、まこと に⋮⋮まこ とにお目 出度うさんでござり まする。 男・関根 有難うご ざ います 。 心から お 礼を 申し あ げます 。 こ の孤 独 な痛まし さは﹃ 王 将﹄ へと向 か う 。 こ の度 は 、 事 情が あ って 、 私が 先に 名 人 を 名 乗るこ と さて パ ロ ディ ーを 辞 書で 引 くと ﹁他人 の 作品 の に成りまし たが⋮⋮ 形式・文体をまねて 、風刺・滑 稽化したもの。 男 ち ょ 、ち ょ ッ と待 つ と く ん なは れ 。ま だ 有り ます ね ン も じ り ﹂ と ある 。こ こ で は 自 己 切 開 を と も な っ 云 わ ん な ら んこ と が ! わて は なァ、名 人はん! 永 た 自 己批 評 を 成 立 さ せる 、 と 読 み た い 。 座 布 団 か ら 下 り 、 手を 突 い て 。 男・関根 恐れいり ました、坂 田さん、貴 方こ そ名 実ともに 名 人 の 位 に 就 く べ き お 方で す 。 男 叶わ んなァ、 そないむ つかしせら れると⋮⋮ ︵笑 い︶ 小春ーッ! 死んだら あか ヘンで !玉江 ッッ、電話 、 電話、お母 あんの方 へ向け! わ いが 、 良 う良 う い い 聞かしたる ! 小春 ーッ ! 死 ん だら あ か ヘンで ! なァ、 お前が お ら んよ うに な ったら わ い、一人 で ど な い す る んンや 。 ええ 、わい一人、わ い、一人で ⋮⋮ 死 に な や ッ 、 死 ん だ ら あ か んで ェ ! わ いが な ァ 、 わ いが 今 な ァ 、 わ いが お題 目 い う た る か ら 、 一 緒 に 妙 見 は んを 念じ て なァ⋮ ⋮ 死 んだら あか んぞ ウ⋮⋮⋮え え か 、聞 きや 、 いうで ェ ! なんみょうほうれんげきょ う! なんみょうほうれんげきょ! な んみょ うほ う れんげきょ う⋮⋮ と 受話 器を 持 っ た 念 仏 は つ づ く 。 男 そ の よ う に 念 仏 ば か り と なえ た け れ ば 、 尼 寺 へ行 け 。 尼 寺 ヘッ ! こ の バム レ ッ ト と い う 男 は 、こ れ で 自 分で は け っこ う 誠 実な人 間 のつもり いるが 、そ れでも母 が うんで く れ ね ば よ か っ た と 思 う ほど 、 い ろ ん な 欠 点 を 数 え たて る こ と はで き る 。 う ぬ ぼ れが 強 い 、 執念ぶ か い、 野心 満 々 だ 、 そ の ほか ど ん な 罪 を も 犯 し か ね ぬ 。 自 分で も は っきり意識 し ない罪 、 そう いう も ので 一 杯だ 。こ の よ う な 男が 天 地の あ い だ を 這 いず り ま わ っ て 、 い っ た い 何をしよう というの だか ? 102 ' い事⋮⋮ あ の十六年前、始めて 手合わせして 貰ろうて か ら 此 の 方 、 ず ー ッ と あ ン たを 一 生 の 敵 や 、 敵や と 、 憎 んで 憎 ん で ⋮ ⋮ 堪 忍 し て お く ン な は れ ! そや け ど 、 若 し 、 そ の 憎 い 憎 い あ ン たち ゅ う 敵が な か っ たら 、 わて は と って も 是 れ だ の 将棋 指し に は 成 っ て し ま せ ん 。 ほ ン ま に 有り 難 い こ っち や 、 済 ま んこ っ ちゃ 思てます。それを一遍云いとうて云 いとうて⋮⋮ 男・関根 恐れ人り ます。その気持ち は 私も御同様です。十 年間、私も あなた一人を目標にして⋮⋮ 男 あ、 あ!︵激 し く手を 振 り、遮り ︶も一ッ ! まだも ウ一ッ⋮⋮ あのなァ、名人はん、名人はん。今日のお祝 に何ンぞ と 思もて 、 一 生 懸 命 考え た んで す が 、 ん せェ 、 わて に 出来る事ッ たら 将棋 、 指す事と 、子供時 分から の 草 履 作りと 、 そ の 外 に は 何 一 ッ 知 り ま せ ん 。 そ れで 、 坂 田 が 十三代名 人 はんの お祝 いに差し 上げら れる物ッち ゅ う たら ⋮ ⋮ ︵下 駄 を とる ︶え ろ う 不 出 来 で す け ど 、 こ れで も 十同 年振りに 手ェに 豆一 杯で かし て 一所懸命 作 りまして ン 。坂田が 精一杯の気 持ち だす 。笑わんと 、 穿 いたッと くなはれ ! 男・関根 坂田さん! あなたという人 は⋮⋮ って いな い と 誰が いえ る 。 そこ だ ツ ! や って し ま って 、 それで 事が す む ので あれ ば 、早 くや って し ま っ たほうが いい。そう だろうッ マク ベスッ ! 恐れるな マク ベス 、バーナム の森が 動 きだすまで は。 暗殺 の一網で 万事が片付き、引き 上げた手元 に大きな 宝が 残る なら 、こ の 一撃がす べてで 、 そ れだけで 終 わ りになるも のなら ⋮ ⋮ あの世の.ことは たのまぬ、 た だ時 の 浅瀬 のこち ら 側で 、 それ で 、 それ で す べて が 済 む も の な ら 、 先 ゆ き のこ と な ど 、 誰が 構 って おら れ る も のか 。 だか ら 、 いくらでも血を 流すが い い、みじめ な祖国の 運命! 荒 れ 狂う 暴 政 の あら し 、 思 う ぞ んぶ ん 国 の 岩 根を 揺るが す が い い 、善も 、も う貴 様 の 力を 押 さえ ら れ ぬ の だ 、 さ あ 、 い くら で も 非 道 のふ る ま い に 手を 汚 したら いい、苦情を 言うものはどこにも いないのだ ぞ! 違 う 、 おれが や っ た ので は な い 、 よ せ 、 血 み ど ろ の 髪 の 毛 を ふ り たて て る の は 。え え いッ !行 って し ま え 、 人を おびや かす 影法 師! ありもしない幻、ええ い、 行 って し ま う の だッ !⋮ ⋮ ︵ 笑 い︶ なら ば 、 バーナ ム の森を動か してみろ ッ ! ⋮⋮ 受話 器を 持 った。 男 楽隊がいくわ⋮⋮ 103 生か 、死か 、 それが問題 だとする なら 、どち らが 男ら し い生きか たか 、じ っと 身を 伏 せ 、不 法 な運 命 の矢 弾 を 耐 え 忍ぶ のと 、 そ れ と も 剣 を と って 、 押 し 寄 せ る 苦 難に立ち 向 い、とど めを剌すまで はあと には引かぬ の と、一体どちらが。 いっそ死んでしまったほうが 。死 は 眠 り に す ぎぬ ⋮ ⋮ それ だ け の こ と で は な いか 。 眠 り に 落 ち れ ば 、 そ の 瞬 間 、 一 切が 消 え て な く な る 、 胸 を 痛める憂いも、肉体につきまと う数々の 苦しみも。願 って も な い さ いわ い と いうも の 。死 んで 、眠 って 、 た だ それ だ け なら ! 眠 って 、 い や 、 眠 れ ば 、夢 も 見 よ う 。 そ れが いや だ 。 こ の 生 の 形 骸から 脱 し て 、 永 遠 の 眠りについて、ああ、それから どんな夢 に悩まされる か 、 誰も そ れを 思 う と⋮ ⋮ いつ まで も 執 着が のこ る 、 こ ん なみじ め な人 生 にも 、 さも なけ れ ば 、 誰が 世 の と げ と げ し い 非 難 の 鞭 に 堪え 、 権 力 者 の 横 暴 や 驕 れ る も の の 蔑 み を 、黙 って 忍 んで いる も のか 。 その気 に な れ ば、短剣の一突きで 、いつでもこ の世に おさらば出来 るで は な いか 。それ で も 、こ の 辛 い人 生 の坂道を 、 不 平 たら たら 、汗 水た ら して 登 って いくの も 、 な んの こ と は な い 、 ただ 死 後 に 一 抹 の 不 安が 残 れ ばこ そ 。こ う いう反省と いうものが、いつも 人を臆病 にしてしま う。 決 意 の 生 き 生 き し た 血 の 色 が 、 憂 欝 の 青 白 い 顔 料で 硬 く塗りつぶ されて し ま うのだ。乾坤一擲 の大事業も 、 そ の 流 れ に 乗 り そこ な い 、 行 動 の き っ か け を 失 う の が ⋮⋮しっ、︵と再び 受話器へ︶気をつけ ろよ。そうし て聞き耳を 立てて いる その後ろで 、キラ リと短剣が 光 ああ、わたし のいとしい、なつか し い、美し い庭 ! ⋮⋮わたし の生活、わたしの幸福、さよ うなら⋮⋮ さ よ う なら ⋮ ⋮ 楽 隊 は 、 あ ん な に 楽 し そ う に あ ん なに 嬉し そ う に 鳴 っ て いる 、 あ れを聞 いて いると 、 も う 少し し たら 、な ん の た め に わ たし たち が 生 き て い る の か 、 な ん の た め に 苦し んで い る のか 、 わか るよ う な気がす るわ 。⋮⋮ そ れが わか っ たら 、 そ れが わか っ たら ね ! ⋮⋮ 男 ︵急 に︶二番いきます。 コ ーラ ス 隊 出 る 。 音楽が 終わると電 話 の切れ た﹁ブー、 プー﹂が 大き くなる 。 男、受話器に近づき見つめ る。 と、な ぜかマイク を 手にす る。 哀愁に 似た視線を 流す 。 男 ︵急 ︶歌います。 マ イ ク を 使 って ふ っ き れて 歌 う 。 [ 章 ] 13 章 ] 12 [ 104 男 モスクワへ! モスクワ ヘ! モスクワヘ! 受話 器を 蹴る 。 コーラ ス隊は男のマイクを 取る。 男、コ ーラス隊か ら マイク を取りかえ す 。 コーラ ス隊は男のマイクを 暴力的に再び取る。 入り乱れる。 く戦 法を 思 い出す ぜ 。 男・矢吹 わ か って る よ 、 そ う で か い声 は り あげ て わ め く な って ⋮ ⋮ 男・力石 ど う し た 。 と び 込 ん で こ な い のか 。も ぐ り 込 んで くる んじゃ ないのか 。 14 アッ パー一発、倒れる男。 男・力石 立てえ ジョー! こ の力 石と は っきり 決 着を つけ る気が ある んなら、 立つんだジョー! ︵と倒れた。 そして また 立つ︶ 男・力石 た⋮⋮ 立 った⋮⋮ 理 論を 越え たけ んか 屋 、不可能 を可能にす る殺し屋、野性の男矢吹丈!おれのすが た が 見え る か ! おれ の声がきこ えるか ジョー! つぎ は⋮⋮ いよ いよつぎ は おれの番だ!︵よ と倒れた︶ 男・矢吹 ︵ 殴 り な が ら ︶ な に を ぶ つ く さ う め いて や が る 。 その血鼻をふきながらのわらい顔はいただけないぜッ! おれはで え っきれえ なんだ! や せが ま ん って や つ はな! それ ど うし た 力 石ッ !︵ と 殴 っ た ︶ [ 章 ] 男・力石 ︵殴られ︶アワ、アワ⋮⋮ ふ ふ ふ 、 ジ ョ ー よ ⋮ ⋮ い ま の うち に 心 ゆ く ま で 打 って お くが い い ぜ ! 静かに 体勢に入る 。 男・矢吹 それどうした力 石! も う ア ッ パーを 打 って こ ね さて 、 ﹁ 語 り ﹂で あ る 。 光 源 は 釣 燈 寵 だ け で あ え のか っ! り 、 そ の 位 置と 顔 へ の用 い 方で 世 界 は 変 化 し て 男・力石 ふふ⋮⋮ どうしたね ジョー、 おまえ のス ェー・バ いく。 ッ ク を 見て いる と 少 年院 時 代 に 青 山 が や っ た こ んに ゃ 105 現象はマイクの取 りあいだが、なにか 悽惨。 静かに﹃あしたの ジョー﹄を始める。やがて⋮ ⋮ここ ぞと 盛 り 上が る 。 こ の ﹃ あし た の ジ ョ ー ﹄ は 、 男が コ ー ラ ス 隊 か ら 袋叩き に あいなが ら と いうこ と に なる のだが 、 それぞれなにに拘って いるのだろうか。 べ、またた くまに異 常な繁殖を 示し飴め たので ごぎ い ます 蓄 生 の あ さ ま し さ か 、 そ の 増え る こ と 限 り を 知 らず、やがて 樹木の 幹ははがれ バ葉はか しらね、はて はシダやコ ケも たべ つ くされ、 それはま るで 一 夜に し て 竹藪 一 帯 の 山が 丸 裸 に な って し ま っ た と 言え ばよ ろ し いので ご ぎ いまし ょぅ か 。だ が 、 野ネ ズ ミ の 増殖 は 止 ま り ま せ ぬ 。 節 理 は 野 ネ ズ ミ たち を 飢 え さ せ ま す 。 飢え れ ば 食 を 求 め て 動 き 始 め ま す 。 だ が 、 そ の 野 ネ ズ ミたち の行 く手には 、わが ヤマ タイコ ク が あったので す 。わ たし は 踵を 返 し 、 その 模 様を わが 民に 告 げ知 ら せ た ので は ご ざ い ま す が 、 わ が 鬼 遣 は 事 なら ず 、 能 く 衆 を 惑 わ さ ず 、 無 念 の数 日が 過 ぎ 去 り ま し た 。 だが 節理は節 理、日ごと 人々 の目 につく野ネ ズ ミの数 が 増して 来 た ので ご ざ います 、 や がて 民 は 、わが 鬼 遣 を 求め 、 そ の 道を 知 ら ・しむ る べ く 侍り 始め た ので ご ざ いま す 、 だが 、 あ ろ うこ と か 他 の 民 は 、 野 ネ ズ ミ の 来 襲を 山 奥深 く隠 れ 棲む あの人 の 、 いや ︵ 最 前 のヒ ロ ヒトノ病名︶のなせる業と語り始めたのでございます. 確か に 禍 は 、 あの人 の 隠れ 棲む 方角 から や って ま い り ます 。こ の ま まで は 村が 滅びる を 前 にし て 、 藁にも す が る 気 持ち が 、︵ 最 前 のヒ ロ ヒ ト ノ 病 名 ︶を 取 り 付 く よすがとし た ので ご ぎ います 。 私が何も せずば、す ぐ に あの人は わが 民 に 討 た れ無念の死をとげるほか あり ます まい。私は考え ました。し かし野ネズミの来襲を 防 ぐ 道 は ⋮ ⋮や は り ⋮ ⋮ 自 然 に 打ち 勝 つ に は 自 然 し か ございます ま い⋮⋮こ の節理に たどりつ くしかあり ま 106 男 ⋮ ⋮ そ れ は も ぅ 、 違 い 違 い昔 のこ とで あり ま し た 。 人 々 の 日々が 日々 の値 を 持つなか で 、人々 の生活を潤 わ せて いた、 わ たしが ヤ マ タイコ ク の 卑弥 呼 のこ ろで あ りました。 ⋮ ⋮ それ は 私 が 、ち ょ う ど 十 四の 春 の 頃で あ り ま し た 。 ⋮ ⋮ち ょ う ど 十 四の 春 の頃で あ り まし た 。 ブ 百 年に 一 度咲くのは 竹の花、咲けば不吉 な世迷い言、わけのわ からぬ繰言も、風の 流れに咲き 乱れ、人 の噂も喉元 す ぎて 百 日目 、 あ の 人 が 病 に み ま わ れ た の は 、 そ ん な 頃 で ありまし た。 ⋮⋮ ありまし た。 病 の 名 は 、 ︵ 最前 のヒ ロ ヒ ト の 病 名 。 確か 腸 閉塞 ︶ 。 不治の病で 妙薬はな く、その噂 は、あの人を人 里離 れ た 、 山 奥 へ 追 いや っ た ので ご ぎ い ま す 。 そ れ は 、ち ょ うど、こ ん な竹藪で ごさいまし た。 な ぜ 、 そ ん な 山 奥 の 竹藪 を 知 って いる のか と 、 お 申し でしょうか 。それは、あの人と 私は親が 取り認めた許 嫁 、 人 目 忍 んで 、 日 々 の 糧を 届 け た の は 私 だ っ た の で ごぎいます 。それにしましても︵最前のヒロヒトノ病 名︶は恐ろしい病で ございまし た。眉毛 は抜け、頭髪 は次第に少なくなり 、顔の原形はとめど なく朽ちて ゆ く ので す 。 一 二 日 と 空け ず 通 う 私 は なす 術 も な く 、 そ の変化を 記 憶に 刻む しかござ い ませんで し た。 そんなある日、山奥の竹藪にも竹の花が咲いたのでご ざ います 。 花が 咲 き 実が 稔り ま し た 。と こ ろが 何 と い うこ とで ご ざ いまし よ う 、 野ネ ズ ミが そ の 竹の 実を 食 なら ず 、野 ネズ ミの 集団自殺を 見て いた ので しょ う か 。 そんな私が、次に想い起こせるこ とは、民を 前にし、 鬼 道 に たち 向 か う 私 自 身 の 姿で す 。 私 は 祭 壇 を 見 上 げ る幾多の民に向かって告げたのです。 わが 守護神は いま、その 御心を 開き、私に示し あそば し た 。 野ネ ズ ミ は 神 の使 い、何 者にも 、 その行 く道 を 防 ぐこ と あ たわ ず 、 防 ぐ心 に 邪 は 忍び 入 り 、 民を 滅 ぼ す 。 邪を く ら い さら いつ くして 行 くわが 使 い、 座し て 見届けよ、 さらば、 民の明日の豊熟危うからず。 じゃ がヒミコ 、わが守護 神に問う 。わが民邪を持たず 。 守 護 神こ た え て いわ く 。 な ら ば ︵ 戦 前 の ヒ ロ ヒ ト ノ 病 名︶の者救え 。救う道ただ一つ、︵最前 のヒロヒト ノ 病名︶の者、その母と交い、その後、その母の血をす す れ . さす れ ば そ の 者 、 たち ど こ ろ に 元 の 若 者と な ら ん。さすれ ばわが使 い、村に現 れず。 女 、 奥 の 袖から ﹁ 戯 ﹂ と 記 し た 傘を さ し て 登 場 。 静かに歩く。 男 私 の 体力は そこ まで で ご ざ いまし た。わが 民 が 、何 に 向か って 動 き始め た のか、確か める気力 はすで に あり ま せ んで し た 。気を 失 って し ま っ た ので ご ぎ います 。 そんな私が 幾日か後 、目ざめたとき、私 はそれまで の た だ のヒ ミ コ で は な く 、 い いえ 、 た だ の ヒ ミコ は も う 死に、世界 界は一夜にして変わ ったごと く、私はヤ マ タイコクのヒ ミコ だ ったのです 。何が 破 産し、何か 成 107 せ んで し た 。 なら ば 、 あ の 人 が 徒々 殺 さ れ る よ り 、 闘 うも のを と 考え たの で ご ざ いま す 。私は す ぐさま 宮 室 へま いり 、 賢 所で 手 に し たも の 、 それは 南 部 十 四 年 式 拳銃。 我 を 忘 れ 幾 時 ほ ど 駆 け 続 け た ので し ょ うか 。 夜 の帳 は 落 ち 、 日 の 光が 無 言 の鐘 と 鳴 り 渡 り 、 吐 く息 と 踏 み し める足音だけが、後に残ります⋮⋮ あの人は無事で ありまし た。野ネズミは避けて 通 った ので しょ う か 。私も ま た不 思議 なこ とに 野ネズ ミの 群 れ に 会 わ ず たど り 着 いた ので し た 。 私 は あ の と き あ の 人 に 何 を 言 え ば よ か った ので し ょ う か ⋮ ⋮ 何 も 言え ま せ んで し た 。南 部 十 四 年 式 拳 銃 を 渡 す 私 の 手 だ け が 、 か す か に 震 え 、 あ の 人 の目 が 月 の 光を 受 けて 、 物 悲 し そうに潤んで いたのを憶えて おります。私はいたたま れず、その 場を立ち 去りました 。夜明け まで 帰らね ば なりませぬ 。そんな 振り 返る暇 など ない 私が 振り 返 っ た の は 、 も しや あの 人 は 、 南 部 十 四 年 式 拳 銃を 使 っ て 自殺をする ので は な いか 、 私が その銃を 持 って い っ た ⋮ ⋮ 私 は あ の人 に 自 殺を す す め に 行 って し ま っ た の だ 、 と いう 想 い が 脳裏を よ ぎ っ たと きでし た 。 だが 、振り返った私が見、開いたものは、南部十四年 式の銃声で はありま せん。それは、月光をとうとう 湛 え る 谷 あ い の 湖 に 、 先を 争 って 入 水す る 野 ネズ ミ の 群 、 集団自殺の 叫びだっ たのです 。 私は そのとき 、そのあり 様を前に 何を考えて いたので し ょ う か 。 何 を 想 っ て い た ので し ょ う か 、 何 一 つ 定 か 章 ] 15 [ 女 、 前 に 進 む 。 女 は 純 白 の ウ エ デ ィ ン グド レ ス を 着て いる 。白 袋 。 女 おじ さ ん 、 後 藤 さ ん来 れ な いんだ って 。 男 ⋮⋮ さあ、ま いりましょ うか。 と、男はズボンを はく。 女 忙し いんだって 。 男 いいんだよ。行けばわか るんだから、気を使わなくっ た って 。 女 はいこれ手紙 。 男 あり がとう。でもねそいつにはき っと、今夜はだめだ か ら 明 日 に して く れ って 書 いて ん だ 。 だ が 今 夜じゃ な いと、今夜じやないとだめなんだよ。それはわかって いるはずなんだ。そんな手紙だけで すま せら れるこ と じゃ な い ん だ 。 だ っ て 、 昨 日 の 今 夜じ や な いか 。 そ れ は 誰 だ っ て わか って い る こ と な ん だ 。 そ れ な の に ⋮ ⋮ ヤッ パリ行 こ うか︵ と傘を さす ︶ 女 じゃ 、置いと くよ︵と 置 く︶ 男 行くんだろ。 女 ええ 。 男 じゃ 、俺も行 くよ 。 女 どこ へ? 男 どこ へ って 、 だ って 行 く んだ ろ 。 女 ええ 。 男 だ っ たら 一 緒 に 行 っ た っ て い いじ ゃ な いか 。 女 一緒に? 男 そう さ。一億 総玉砕だったんだから。 女 イチオクソウギョクサイ ? 男 そう さ、昨 日 のこ と 、 い や 一昨 日 のこ とじゃ な いか 。 108 就 し た の か 確か め る 術も な く 、 竹 の 花が 突 如 咲 き 誇 っ たように、 私はすで にヤマタイコクのヒ ミコだった の です。 ⋮⋮ひ さしぶ りに二人で 、 お話で き ましたわ ね⋮⋮何 も 窓わ ず に 聞 いて く だ さ る だ け で あ たし は 嬉し い 。 さ あ、ま いり ましょう か 。 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 109 女 男 女 男 男 それ で って ⋮ ⋮ つ ま り 死 んじゃ っ たか ら 。 そ う だ ろ 。 だ か ら 、 仮 に わ た し たち が そ う し た っ て 、 な に が 可 笑 昨日と違う んだ。と いうこ とは 今日と昨 日は、いいか し いも んか 。 い、今まで の今日と昨日とは違 うってこ となんだよ 。 ふ ー ん そうか 。 たから 、行 こ う って い って んだ ろ 。行 っ たって い い ん そ う さ 、 忘 れ る ほ ど の 暇 は 過 ぎち ゃ い な い 。 だよ 。わか るだろ、ここ に居な くったって いいんだ 。 ⋮ ⋮ だ って 、 も う 死 んじ ゃ っ た ん だ よ 。 しゃ べ った 。 初めて しゃ べ ったじ ゃ な いか 。 自 分の意 ⋮ ⋮ なに考 え て んだよ 。 女 なにか考えて いるみたいでしようか あたし? 見。だろ? 男 ど う し て そ う わ た し の問 いか け に 対 し て 、 い つ も 自 分 えっ? の問 いをこ のわたし に向けるん だよ 。そ ういう対話 に つ ま り 、 死 ん じゃ っ たか ら あ あだ と か 、こ う だ と か 、 疑問 はない のか 。 なにか 本論 を い いた か っ た 、 大 事 なこ と を だ 。だが 遠 女 だか ら 疑問だら け なので す 。 慮して 口 寵 も っ た 。 そこ で つ い わ たし は 我 慢で き ず 、 も う い い、行 こ う 。 しゃ べ っ た 。 そ う だ ろ 。 そ う に 決 ま って い る ︵ と 笑 う ︶ 男 女 えっ? 。 男 行こ うって い って んだよ 。 可笑しかった 。 女 どこ へ? 別に 。 男 どこ へって⋮ ⋮こ れじゃ 話も なに も あったも んじゃ な じゃ 、悪か っ たかな。 い。 別に 。 女 えっ? じゃ なんなの 。 男 ほら またそれ だ。そのこ とを話も なにも あっ たも んじ いい んだよ、 気にするこ とはない 。死んじゃ ったんだ ゃ な い、 と い って ん だよ 。 ろ 。何 し た って い い ん だ か ら 、 君 だ って 例 外じゃ な い 女 それじゃ ⋮⋮ んだから 。 男 ウン なんだい? そう いうも ん なのか、 女 それじゃ ⋮⋮ そう いうも んだ。みんな そう思って いなくて も、そう 男 はい。 じゃ なく、 つまりや はりそうな んだけれ ども、動か し 難くそうじゃ ないんだ。だから そういうもんなんだ 。 音楽 入 る 。 それで ? 女 それで いいのです、すべて の人が 満足する文学なんて あったため しが在り ません。 男 訳の わから んこ とを いう んじゃ な い。 女 それ は傲慢で す 。つまり 、理解不 能な事態を 拒否する のはその歳のなせるわざ。 男 ばか にするんじゃ ない。 女 口自 分を 卑下 し な くて も い いので す 。す べて のも のは 常にわかり ません。 それが 宇宙です 。で もき っと、 あ ら ゆ る も の が 和 解 し 、す べて の も のが 氷 解 し 融 和 す る あの一 点は 、き っと 訪れます 。 それは、 自然が 自然 的 に滅びる日、その概 念矛盾をこ の世界の言葉を使って いえ ばこ の 世 界が 滅 び る 日、す べて は解 脱す る ので す 。 男 貴様はッ、いったいなに 様のつも りだッ! 女 いた いけない少女としたら⋮⋮ 男 ⋮⋮ 君は錯乱して いるのでしょうか? 女 おじ さ ん 地 球 と い う 世 界 は 円 い の で し ょ う か 。 男 もう︵もういい、というつもりか ︶⋮⋮はい、わかり ませんと笞えましょ う。 女 混 乱 して いる おじ さ ん 、 正 確に い いま し ょ う 。か つて 世 界 は 錯 乱 し た ので あり ま し た 。 そ し て 今 、 世 界 は 錯 乱し ながら 錯乱したふ りをして いるので す 。なぜで す って 、 それ は 支離 滅 裂の 錯 乱で は 救 いが な いか ら に 他 な り ま せ ん 。 ほ ら 、 あの おじ さ だ って そ う し な け れ ば 、 あそこに一 時たりと も、あのよ うに立って いること は できないのですよ。そのよ うにして 、世界は丸く収ま って いる ので ありま し た。 110 女 ⋮⋮ わたしは話も なにも あったも んじゃ なか ったら 、 き っと わ た し は なに も 話 さ なか っ た んだ と 思 う んで す 。 だから 、わ たしはこ の時 間を 無 為 のうち にすごし た ん で す ね 、 お じ さ ん の あた し は 。 で も 、 わ た し も 花を 観 ては美し いと思い、そんなわか しをみる あなたは幸ぞ で す か 、 な ど と た あ いも な く聞 いて み た い乙 女こ ろ を 忘 れ た わ け で は あ り ま せ ん 、ひ と な み に 、 小 比 類 巻 か おるちゃ ん のソ ウ フ ル な ヴォ ー カ ルを い い なと 思 う 、 ストレ ート なハート 、こ れが そ の ハート なので あり ま す︵とハートのチョコレートを だす︶。ちょっと気 恥 ず か し いよ う な 夢 、 憧れ 、 希 望 、 未 来 そ ん なこ ん な を 忘 れ た わ け で は あ り ま せ ん 。 そ ん な 忘 れ な か っ たこ こ ろがこ れ な ので す ︵ と 、 ま た チ ョコ レ ー ト を だ す ︶ 。 それでも、 そんなわ たしでも、わたしが 話もなにも あ ったも んじゃ なか っ たわたしで あったの なら 、それ は き っと おじ さ んに 、 そ ん なわ た し が 見え なか っ た の か も 知 れ ま せ ん 。 だ か ら おじ さ ん 、 ⋮ ⋮ だ か ら って お じ さ ん 、 心 配 な んて い り ま せ ん 。 き っ と 、 おじ さ ん と わ たしの対話 は、行間を読み込ま れるもので あったので し ょ う 。 そこ に 秘め ら れ たも の は 、き っ と 通じ あ っ た の だ と 思 う ので す 。 だか ら 、 お じ さ ん と わ た し の 対 話 は 、 そ れ は も う 文 学 なので す 。 男 文学 ッ? て めえ なにを い って ん だッ ! 女 ご不 満でしょ うか。 男 ああ不満だ。 取 って 付 け たよ う な壮 大で 華 麗 な 音楽 強 く C I 。 女 ︵笑 い︶ テ ー ブ ル の 上 の 女 は 大 き く 片 足 を 踏 み 出す 。こ の 体勢で 世 界が 滅 ん だよ うに 脱 力 。ゆ っ くり 腰 から 上の関節を組み 立てて いく 。腕、首 、手首、 肩と組織。踏み出し た上体が決まると肋骨を組 み 立 て なが ら 、 残 し た足を 踏 み 出 し た 足 に 近づ け 徐々 に 起 つ 。 立ち 腰が 決 ま っ たか と 思 う と 、 ヨロ ヨロ と 一 二 歩前 にで る 。踏 み と ど ま って 安 定しよ うと 大き く腹 胸式の呼吸 。こ の聞 、呼吸 が いか に な される の か 、 なされ な いのか 定かで は な い 。 な に か 喋り た い の だ ろ う か 口を パク パ ク。 女 そ、れ、は、も、う、モ 、ノ、ガ 、タ、リ、 なのです 。 も うす で に 取 って 付 け たよ う な壮 大で 華 麗 な 音 楽はない。 男 ⋮⋮ 女 おじ さ ん、わ たし は 物 語 の話 しを して いる の で す 。行 間に隠され 、読みと る物語の話 しをして いるのです 。 そ ん な愛 の メッ セ ー ジを 届 け に き た ので す よ 。 男 わ た し は 、 そ ん なも のを 頼ん だ お ぼえ は な い ん だ け ど な。 女 い い え 、 先 ほ ど の 電 話 で わ た し は 受け た ので す 。 男 それ は電話が 混線して い たんじゃ ないのか 。 女 世 界 は 錯 乱 し たふ り を し て い る ん で す も の 、 電 話 の 混 線など、大した意味があるとは思われません。 男 わたしが今、 それを問題 にして いるんだ。 女 そ ん なこ と は ど うで も い いこ とで は あり ま せ んか 。 男 良 く な い . わ た し は ど う なる ん だ 。え ッ 、 こ の わ た し は 誰に なる んだ ? 誰なんだ?このわたしはッ! 女 ⋮⋮ 男 な ぜ 黙 って い る 。 さ あ い って み ろ 、こ の わ た し は 誰 な ん だ 。 確か に わ た し は君 に 、 メ ッ セ ー ジ を 届 けて く れ るように頼 んだ。それもとび っ ぎりのメッセージを だ。 し が な い 四 畳 半 の 一 人 暮 ら し の 男が 、 今 夜か ぎ り の 、 そ れ は も う 今 夜か ぎ り の メッ セ ー ジを だ 。 そ れ が 君 の 仕事だろうが。そんな単なるメッセージ屋が、純白の ウ エ デ イ ン グド レ ス に 身を つ つ み 、 い た い け な い 少 女 111 男 おまえ はッ 、 なんの話を して いる んだッ ! 女 それ は あたか も 、こ のデコ ボコ の 地球と いう 世界を 、 あ の 月 か ら 見れ ば 、 も う そ ん な こ と は ど うで も い い ほ ど 円 く 見え る ほ ど に 。だ か ら か ぐや 姫 は 月 に か え っ た ので す 。だ から 乙女 は、金欄ど んす の帯 絞めて 、 お嫁 にいったのです。 男 な ん の話 を し て いる と わ たし は 聴 いて いる の だ ッ ! 女 物語です! 女 男 女 男 女 男 女 男 じゃ ないってす ぐわ かるよ 。 女 おじ さ ん 、 後 藤 さ ん な ぜ 来 れ な い のか って 、 ど うして きかないの 。聴くのが、怖いので ありますか。 男 それ が メッセ ー ジとでも いうつら りか 。 女 それ も とび っ き り の メッ セ ー ジ。 しが な い四畳 半の一 人 暮ら し の 男に 贈る 、 今 夜か ぎ り の 、 そ れ はも う 今 夜 かぎりのメツセージ。 男 いってみろッが 女 あ の か た は 、 み ん な のこ とを 心 配 し なが ら 、 こ の 六 十 年間に なん の後悔も な く、すこ や か な寝 顔で 、 あの 世 に 旅 立 っ た ので あり まし た 。 男 な ん のこ と だ ッ ! 女 腸閉塞。 男 ︵ 形 容 し が た い 怒 りで ︶ それで ッ ! 女 ホ ・ ワ ・ギ ・ ョ ⋮ ⋮ 男 ︵笑 い︶だからッ! 女 後藤 さんは死 んだので す 。 男 ⋮⋮︵笑い。ズボンとネクタイを 取る︶ 女 物語が死んだように。 男 死んだ⋮⋮︵笑い︶ 女 息 の 根 と め る まえ に 、 世 界が 錯 乱 を 装 っ た と き 、 なす 術もなく、物語の死にみずをと ったので した。 男 出刃 包丁は、 鈍く光って は いだ 。 窓ガラ スか ち 刺し 入 る 月 明 か り 、 夜 鳴 き ソ バ 屋 の 笛 の 音が 、 遠 くで 聞 こ え て 行 き 過 ぎ る 。︵ 出 刃 包 丁 を と る ︶ さて 、春 の 、 夜 の 電 柱 に 身を 寄せて 思 う 、 人 を 殺 し た 入 の ま ご こ ろ ⋮ ⋮ 112 女 男 を 装 う 愛 の メッ セ ー ジを た れ な が す の な ら 、こ の わ た し が 、 誰 な のか 、 ど ん な 誰 な の か ぐら い 言 いえ る だ ろ う 。 そ ん な 愛 の メッ セ ー ジを 、 こ の 昔 若 か っ た おじ さ んにたれながしてみ るといい。 い っ て も い い ので す か 。 わたしに恐れるなにがあるというのだ。今日は昨日と 違 う 、 新 た なる 一 目 な の だ 。 さ あ い って み ろ 。 簡 単 な んで す よ 。昨 日 の おじ さ ん は 今 日 の お じ さ んで あり 、 その おじ さ ん は 明 日 の お じ さ んで あり まし 。 おたしは、誰なんだッ! ︵笑 い︶⋮⋮ ついにいいましたね 、おじさん、そんな 自分さがし の物語は 、昔昔のその昔、そう、世界が 錯 乱を 装 った とき 終わ りを つ げた ので すよ 。だ って 、 あ の 人 は 死 ん で し ま っ た ん で す も の 。 で す か ら 、 おじ さ ん は 誰で も な い ので す 。 ほら 、 そこ に 転 が って いる 、 リンゴのよ うに⋮⋮ リンゴはリ ンゴなのです。 それでも、わ たしは行 く んだよ。 どこ へ? だか ら⋮⋮だ って 、わた し はも う ホラ 、こ う してズボ ンもはいたしネクタイだって絞 めてしま ったんだ。 おじ さん、 後 藤さんは来 れ な いん だ って 。 それ はだから 、今夜はだめだから 明日にして くれって い っ た って 、こ っち か ら 出 向 い て い け ば 少 し の 時 間 ぐ ら いなんとかして くれるよ。そうだろ、わたしとはも う 六 十 数 年 の つ き あ い な ん だ か ら 。 そ れ が 入 情 って も んじや な い かッ ! 世 間 って の は ま だ ま だ 捨て た も の 16 113 で にカ セ ッ ト ラ ジオ の 音 量は 、 ス ピ ー力 ー に 乗 女 おじ さ ん 、 い ま 物 語 は 、 死 線 を さ 迷 い 宙ぶ ら り ん な の っ取ら れて いる 。 音楽 大き くな る なか 、 音楽 に で あり ます 、昨 日だ れが 死 んだ って 、 世 界 は いま だ 錯 の って 女 退 場 。 乱を 装った ままなので あります から 。 女 は 昭 和 と いう時 間を 歩 く よ うに ゆ っ くり 歩 く 。 男 わたしに、誰を殺せというのだ。 女 ひ と つしか な い物語をで す 。世界 が 錯乱を 装 ったとき 、 装 っ た ま ま で 自 分を 探す 物 語 は 、 迷 宮 の 門を 開 き 、 そ の 迷 路 の 中 で 飢え 死 に し の で し た 。 残 っ た も の は ⋮ ⋮ 男 残 っ たも の は ⋮ ⋮ 女 終末 へ向か う 、数か ぎり なく姿を 換えて 繰り 返される 、 たった一つ の物語。 男 こ こ は わ た し の 四 畳 半で あ っ た し 、こ れ か ら ら わ た し の 四畳 半で あり づ け る だ け だ 。 女 こ の 四畳 半 は 、や っ ぱ り こ の 四畳 半は 、 い い え こ の 四 畳 半は 、 そ れで も や っぱりこ の 四畳 半は 、 だか ら そ れ は おじ さ ん 、 世 界が 錯 乱を 装 っ たよ う に で し ょ うか 。 男 ⋮⋮ ︵笑い。とその場に へたりこ む︶ 女 おじ さ ん、 最 後 の メッ セ ー ジで す ︵ と 傘を さ す ︶ 。 お じさん、その手紙は、迷路 のなかで 物語の死にみずと って 死 んだ 、 後 藤 さ んの、 おじ さ ん あて の遺 書、 読 ん [ 章 ] で下さい。 男 ︵同時に、大きな奇声︶⋮⋮ 男はラ ジオ に 近づ き、ヘッ ド ホ ーンを す る 。マ 同時にカセットラ ジオから 音楽が 流れて いたよ イクをとる 。スイッ チボタンを 押す. 音楽﹃ ヘ うに急に 音楽 大きく なる。音楽 は﹃ ヘイ ・ジュ イ ・ ジュー ド ﹄ C 0 。 ード﹄ 。 同時に 照明はラ ジオと男に絞られる。この時す 男 ハー イ、ヤッ ピー,一週 間のごぶ たさ。今夜も元気に ' だと思った ジョン・レノンに聖 戦を挑んだというわ け よ ﹂ ど う だ い 、聖 戦 と き たも ん だ 。 つ づ き いこ う ﹁ だ だ失敗は、 ポリ公が 来るまで そこにいたことさ。﹃ラ イ麦畑で 捕 まえて ﹄ も って いた んだから ラ イ麦畑で 捕 まったら 上出来だっ たんだが﹂ おっと、どこまで シャ レ て ん のか は ごラ ジ オ の まえ の あ ん たに おまか せし て 、 先行こ う。 ﹃イエスタデイ﹄ 流れる。 感慨ともため息ともつかず 、男はいっふ く。く 拝啓 、こ のよ うな手紙を 書くとは 思って いま せんで し た 。 おや 、 急 に 改ま ったじゃ な いか 。ど うし た んだ い ゆる煙。 ︵﹃イエス タデー﹄ はすで に消えて いる ︶。あなた と 別れても う何 年にな るのでしょ うか 。季 節のかわり め 男 マ ー ク 、 聴 いて るか な 。 感 慨もひ とし おと い っ たとこ に な る と 、 いまで も や は り 、 あ な た の 体 のこ とが 気 掛 ろだろう。 それじゃ マークの手紙だ。いま彼は、ニュ か り と な っ て き ま し たが 、 そ れ も 、 今 日 限 り と 思 い 、 ー ヨ ー ク の 刑 務 所 、 刑 期 二 十 年 の 判 決を う け て 服 役 中 ペンを 走ら せて いま す 。こ のよ うな身勝 手なこち ら か だ。なにし たんだって、それはマークに対して失礼と ら のご 無 礼 を まず 申 し 上げ、 お 詫び して おきます 。 い き たも ん だ 。それじ ゃ 手紙を 読 む 前 に 教 え とこ う 。 ほ ま に な って 考え て み る と い ろ い ろ なこ と が あ っ た よ う ら 、ニュー ヨ ーク の ジョ ン ーレ ノ ン の 自 宅 の前で 、 レ に思われます。また、なにもなかったよ うにも思われ ノンを拳銃で射殺し だのが 、なにを隠そうマーク・ チ ます 。あな たと別れても、それ は寝起きを ただ別に し ャッップマンさ。昨 日の今日だから、特 赦期待しとこ て いる だ け のよ うで も あり 、か と い って 神代 の昔 か ら 、 う 。じゃ お 手 紙 拝 見 ︵ と 、 女 が 置 いて い っ た 手 紙 を ひ なにも 存じ 上げて い ない人 のよ うにも 思 われます 。こ らく︶。 の 世 の 不 思 議 な 縁で 結ば れ 、 来 世 ま で も と 誓 い つ つ も 、 いわ くいいが たく別 離を 迎え た わ たくし たち は、出 会 男 ﹁ ジ ョ ン ・レ ノ ン は 偽 物 だ 。 お れ は そ れが 頭 に き た 。 わ なか っ た 偶 然 よ り 、も うす で に 遠 く 隔 た って し ま っ 殺すしか な いと思っ た﹂おっと 、どうだ い聞 いたか い。 たこ と は ま ち が い な いで し ょ う 。と 、 申 し ま して も 、 の っ け か ら 乗 っち ゃ って 、 最 後 ま で も っ て く れ な く っ こ れから も 折り にふ れ、思 い起 こ すこ と は 無 くなり は ちゃ 、困っちゃ うよ 。それで ﹁ おれはな 、小説の﹃ラ し な いと 思 わ れ ます 。で も も う それ は き っと 、 あた く イ麦畑で 捕 まえ て ﹄ の 土人 公 。だか ら 人 間的に偽 物 114 四畳 半私設 放送局の深 夜放送を 開始、、用意いいか な、 ダ イ ヤ ル 合 わ せ たか な 、 い っち ゃ う ぜ 。 ま ず 、 今 夜 の 記念す べき 第一曲は 、こ の お手 紙くれた マーク・チャ プマンに贈るあのな つかしのビ ート ルズ 、﹃イエス タ デイ﹄、それじゃよ ろしく。 115 [ 章 ] 17 し の 中 か ら 出て い っ た 、 あ な た と は 別 の あ る な に か で ある、といえるものでしょう。誤解を恐 れず申し上げ れ ば 、 ま だ あの 長 い テ ー ブ ル は 使 って い ま す で し ょ う か、あのテーブルに、開けると いつも当 たるドアーを あけて 、わ たしが 最 後に 出て い くとき 、 あなたはわ た し に 出 刃 包 丁 を 差 し 出し 、こ の よ う に 申 し ま し た 。 出て いくの な ら 、こ の俺 を 刺 せッ 、皮を そぐ だけで も い いッ ! そ れ だ け だ って い い ん だ 。 そ のひ と 振 り が 、 本当に 出て い くこ と に なる んだ 。後悔し たくなか っ た ら 、 ただ 握 る だ けで も い いッ ! 誤解を恐れず 申し上げます。今日、わたしはこのよう に ペンを 握 り 、 あな たを 殺し ま し た 。れ が わ たし の ラ スト シーン⋮⋮ 最 後 に な り ま し たが 、 た び たび の 復縁 の 心 や さ し い お 誘い、お礼もうしあげ失礼いたします。ご自愛下さ い。 ︵ 長 い笑 い︶ ⋮⋮ ︵ 大 き い声で ︶ 今 日、わ たし はこ のよ うに ペ ンを 握り 、 あなたを殺しました 。それがわ たしのラ ストンーン⋮ ⋮ ︵笑 い⋮⋮︶ 男は笑 い続けて いる。 さて 、 映画の有名 なラスト シーンを二 三、盛り 上 げて 展 開 す るこ と に な る 。 自 身 のラ ス ト シ ー ンを 求めて の立ち 振 る 舞い。 結 集し 社 会 のた め に 役立て よ う 。 働 く 意 欲 が わ く 社 会 の た め と 独 裁 者 も 始 め は そ う 言 って 人 心 を つ か ん だ 。 だが 、それはウゾだ った. ,独裁者は自分の欲望だけ を 満足 させ た のだ 。 国家 間の 障 害を 取 り 除こ う 。 偏 見 同時に 音楽 。ビ ー ト ルズ﹃ アイ・ウォ ン チュ ー ﹄ をやめて 理 性を 守る んだ。そうす れば科学も 幸福を 高 。 め る 。 諸君 、 持て る 力 を 隼 め よ う ︵ 大喚 声 ︶ 同 時 に チャ ッ プリ ン の ﹃ 独 裁 者 ﹄ の 以 下 の 部 分 ハンナ 、僕が わかるか ね 。元気を お出し 。ど こ に居て から英語で 流れる。 も ⋮ ⋮ 雲 が 割 れ 始 め たよ 。 暗 や み を 抜 け 、 僕 たち は 生 ま れ か わ る 。も う 獣 のよ う に 憎 し み あ う こ と も な い 。 男 私は 皇帝 なんかになりた くない。 征服 の柄むゃ な い。 ⋮⋮元気を お出しハンナ、人は 、また歩き始めた。行 た だ 皆 を 助 け た い だ け だ 。 人 開 け 互 い の 幸 せ を 支え 合 く 手 に は 、 希 望 の 光 が 満ち て い る 。 未 来 は 誰 の も の で って 生 きて いる 。 憎 んで は 心 め だ 。 大 地 は 必 ず 皆 に 恵 もない僕たち 全員のものだ。だから元気を⋮⋮ み を 与え る 。だが 私 達 は 方向を 見失 っ た 。欲 望に 毒 さ れ 他 人 を 貧 困 や 死 に 追 込 んで る 。 乗 物 は 早 く な っ た が 人 は 孤 独 に な っ た 。 知 識 は 増え たが 豊 か な 感 情 を な く 音楽 大 き く な る 。 し た 。 機械 よ り 人 、 知 識よ り 心 が 大 切だ 。で なけ れ ば 男 ハンナ 、あの声は⋮⋮ ⋮⋮⋮⋮⋮ ⋮人に戒めを求めて いるのだ 。今も私の声 男 あの人だわ⋮⋮ は 全 世 界 の 人 々 に 届 いて ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ い る 女 や 子 供 、 組織の犠牲 者に、そんな人々に言おう。 絶望しては な ら な い と 、 欲 望 は や がて ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 独 裁 者 は 滅 び 民 音楽 さ ら に 大き く な る 。 チ ャ ッ ブリ ン の演 説 の テンションも最高潮。 衆の力が芽吹くだろ う 。人 は死 ぬが 自由 は残る。兵 上 達よ独裁者に耳を傾 けて は なら ない。君 達は感情まで 男 遣う 。わたし のラ スト シーンだッ ! も 統制され 操ら れて いる。独裁 者の心は 冷たい機械で 出来て いる 。君達は 機械じゃ な い人 間な んだ。愛を も て 、 憎し み は 捨て よ う 。 諸君 ﹁ 神 の 国 は 汝ら の中 に あ す べて は CO 。 出 刃 包 丁を 取 る 。 り﹂というが⋮⋮特 定の人でな く皆の中にあるんだ 。 男 こうして目を つむると、スクリーンのなかの心の旅路 誰で も 、 人 生を 楽 し くす る 力 を 持 って い る 。 そ の力 を 116 男 ⋮⋮ お前ッ!︵笑うが、 毅然となり︶わたし の、わた し のラ ス ト シー ン は ッ ! 男 男 男 音楽 ・ 高倉健﹃唐 獅牡丹﹄ が 大き くC I。 男 遣う、わたし のラ スト シーンだッ ! 音楽 C O 。 音楽 静 か に 入る 。 男 わたしは、近所のわたしに、お前は患い、実家に帰り 、 病 死 し た と い って き た 。 そ ん な ふ う に し て 、 お 前 を 殺 し た 、 そ ん な わ た し のラ ス ト シ ー ン は 、 ど うや ら 通 用 し な いと い うこ とら し い 。︵ 笑 う 、 男で ︶ふ し ぎ ね 。 あ のひ と 、 信 じ ぎ っ て い た も の ね 。 こ の 世 と 、 あ の 世 の あ い だ に は 、深 い 川 が なが れ て いる っ て 、 一 度 渡 っ たら 、 最 後 、 二 度 と 引 き 返 せ な い川 。 そ れ が 境 。 ほ ら 、 こうして って⋮⋮こ こ の包丁、 手に持って、のど首 の 前 に に あて て さ ⋮ ⋮ こ の 手を 、 ち ょ っ と 動 か し た ら 、 その川が 現 れ る のよ 。こ うして のど に あて る と 、も う 水 音が 聞 こ え て く る って ⋮ ⋮ 真 顔 で 、 あ のひ と 言 う ん だ も の 。 そ の た んび に 、 わ た し 、ひ っ つ か んで そ の 包 丁もぎとったけど、 生きた心地がしなか ったわ⋮⋮ ︵すでに出刃包丁は のど首へ︶ その出刃 包丁、こ うし て引いたのは︵間︶こ のわたし だッ ! 同時に 暗転。同時 に強烈な 雷音。同時 に雨がふ る 、 静 か に 光り 入 る 。 男 の 首 筋 は 血 に 染 ま って いる。ロス コ 。 雨にま み れて 、首 筋 の血が 、身体を紅 く染める 。 男 ︵笑 う︶⋮⋮ しまいには 、わたしもね、ほんとに、ど こ か 、 身 近 を さ⋮ ⋮ 見え な い川 が 、 流れ て いる よ う な 気がして さ 、どきっとすること あったわ 。水道の蛇 口 の 水 音に だ って 、 下 水 の 水が 雨 で 流れ る 音に だ って 、 つい耳澄ましたりしてるのよ。ほら 、聞 こえるで しょ。 ⋮ ⋮ で も こ れ は 雨 よ 、 見え な い 川 じゃ な い、 ま し て ゃ 、 水道の蛇口 の水音な んかじゃ な く、雨:⋮こ んなわ た し の 、 べ っ と り し た 血を 、す べ て を 洗 い 流すよ う に 、 117 男 男 男 をふ りかえ るよ うに 、こ の数 十 年間はや る ぜ な い長 い 一瞬だ⋮⋮ 通り 雨だ。 こ の 雨は 、も うどこ へも や ら す の 雨よ 。 お待 ち なす って ⋮⋮ 花田 秀 次郎 さ んと おみ う け いたし やす。 さよ うで ござ います 。 道 中 、 仁 義 略 さ し て い た だ き ま す ,て まえ ⋮ ⋮ こ の け り は 、 俺 に つ け さ し て おく ん な い 。 堅 気 の おめ え さんを連れて いくわけにはいかねえ 。みて おくんな い、あれか ら 四十三 年、心に誓 って 収めてきたこ のド スを⋮⋮ お さっし 願 います 。渡 世上、あ んさんには な んの恨みも ごぎんせ ん。勝負はこ の場か ぎり、どち ら が 勝 って も 恨 み っこ なし だ ぜ、 さら ば 、 さら ば 、 一 回 か ぎり の人 生よ 。死 んで 貰 いま す ッ 。 118 雨が 降って んのよッ ! ⋮⋮ だが なッ 若造ッ︵と 傘をさす ︶! 咬みしめる人 生 探す よ う じゃ 一人 前に ス ル メ 咬 んじゃ ねえ 、 ︵ 笑 う︶ そ う だ ろ う 若造 ッ 、 だが だ ッ 、 おじ さ ん は な 、ち ょ っ とだけつまみ残して おくんだ。最後の一ロ一気にあお る 。 フー ッ と 一 息 つ いて 、コ ッ プを タ ン と カ ウ ン タ ー に 置 く 。⋮ ⋮ 本当 は な若造ッ 、 人 生咬 み し めて る ん じ ゃ ねえ 、咬 み し め る 人 生が 在 る わ けで も ねえ 。こ の 歳 に な る と 、 忘れちゃ いけ な い 世 迷 いご と の 一 つや 二 つ は あるも ん だ 。 そ い つを 今 夜も 忘れま い と 、こ うし て 今 夜も ス ル メを 咬 む んだ 。 そ う だ ろ ー ッ ! だ お前 エ ーッ ! 音楽 C O 。 一つの静寂。 男 ︵ 静 か に ︶ 明 日 な んて わ か りゃ し ねえ 、 今 夜 の ため に ⋮ ⋮ ︵ 笑 う ︶ 今 夜 の ため に だ 、 明 日 な ん て わ か りゃ し ねえ 。. 同時に 音楽 ・小 柳 ルミぞ﹃ お久しぶ り ね﹄が 静 かに大き くCI。 章 ] 18 [ 男 ︵こ のうえ な く優しく︶ お前エーッ⋮⋮ 雨 は や んで いる 。 小 柳ル ミ子 の﹃ お 久しぶ り ね﹄で 光は 解 放 され る。 最後の 身体の展開 、足を踏む 。踏むこ とで の身 119 体の開放。 幕 Ⅲ 大日本演 劇大系 序の章 明月記 120 121 [ 登場人物 ] ・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ] 挨拶 さだめ川 殺意の舟歌 身体と民謡との距離 漫才 ] 章 章 章 章 章 ] 1 2 3 4 5 ] ] [[[[[ ;;;;; ;;;; 女A 曼珠沙華 女B 打上花火 ゲスト 群集 [ 目次 ] 121 121 122 127 127 ] 131 131 132 133 135 141 146 147 挨拶 ︵ 中 略 ︶ 隅 か ら 隅 まで ー ︵ ツ テが チョ ン と 一 発 ︶ お ん 願いあげます。 キが チョンチョン チョン⋮ ⋮おおきく チョン。 122 13 12 11 10 ]] ] ・・・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 楽器演奏 ゲスト・即興 受け・打上花火 受け・曼珠沙華 関係 異化 雨上がりの紫陽花 フィナーレ ] 章 章 章 章 章 章 章 章 ] 6 7 8 9 ]] [[[[[[[[ ;;;;;;;; [ 1 章 ] 挨拶 。 挨拶はこ れから 始 まるこ と に無責 任に 期待を 抱 かせ、なりふりかまわず煽る内容。 意 味 に つ いて の 本 質 論 を 演 技 と し て 展 開 。 挨拶 ︵ 即 興︶⋮ [ 2 章 ] 同時に 幕が 振り落 と される 。女Bが 傘 を さし背 を む けて い る 。 同 時 に 音楽 。ち あ き な お み の ﹃ さ だ め 川 ﹄ 大き く流れる。 同時に 女A傘をさして 袖幕から登場。女Aは女 123 B のラ イ フ マ ス ク の 仮 面 を し て い る 。 女Bゆ っくり振り向く。女 Bは女Aのライフマ スクの仮面をしている。 こ れか ら 舞台で 使 うものを 女A、女Bが運び 出 す。 呼吸と 腰︵重心︶を動く。 袖から 袖へ呼吸と腰 ︵ 重 心 ︶ を 動 く 。こ の 間 に 身 体 を 晒 す 。 その短時間に見ら れる身体を 獲得し、 その身体 を生きる。 動く身 体から の、 感情の一 瞬の激変と その復帰 。 運び込む物自体の 世界をひ ろげる。物 は人に使 われその物 の個性を 主張しはじ める。物 の世界 を 広 げ る と は 、 ど の よ う な 使 い 方を す る のか 、 ど のよ う な 関係 を 成 就 す る のか に 関わ る 、極 め て人間的な行為で ある。だが舞台には、労働と い う 生 活が な い 。 物 は 生 活 の 場 で 、 人 と 関係を 結び 、 その 有用 性を 獲得して い くにも か か わら ず、しかし 生 活を 支える身体は ある 。 その身体による物 の発見は、新たなる物の世界 で ある 。 役 者たら ん とす る 身体 の 獲得で ある 。 曲 の 最 後 、 舞台 中 央で 向 き 合 う 。 [ 3 章 ] 殺 意が 因 果 関係 の なか で 自 足す る と き 、 そこ に 出現するの は、古典 的な殺人、 いや それ はたん なる人殺し と見るこ とができる 。しかし 人類史 などと いう も のは、こ の因果関係 の磁 場 から ど こ まで 出て いけ る の か を 、 試 そ うとす る 、 さし 女B 女A 女B 女A ねえ あなた、 人 間が いつ か ら 駄 目 に な っ たか 知 って る ? えっ? 人間がよ⋮ ええ ⋮ 間。 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B ⋮ 行 こ うか 。 どこ へ? あっち の方へ。 だめ よ 。 なぜ ? 待 つ んで し ょ 。 あっ、そうだ った。 なにを 、しよ うか ? 待 つ んで し ょ 。 そうだった。 ねえ 。 女A えっ? 女B あ な た 、 わ た し たち 老人 の あ り が た い 三 こ と 健 康 法 っ て し って い る ? 女A えっ? 女B だめ ねえ 、な んにも知ら ないんだから 。いい、カゼを ひ か な いこ と 、こ ろ ば な いこ と 、 そして こ れが 大 切 で 、 で も 考 え 過 ぎち ゃ ダ メよ 。 い い 、 義 理を 欠 くこ と 。 と い う の は ね 心を く だ いて 、 誰に 義 理を 欠 こ うか な ん て 、 思い詰めて 、心臓悪 くしちゃ ったおばあちゃ んも あ る くら いだか ら 、 い く ら 三こ と 健 康 法 って い っ た って 、 程 ほ ど って も ん な の よ 。 そ れ に ち ょ っ と 聞 いて い た だ ける。わたしが ね、昨 日、暑か ったじゃ ない、スー パ ー に 行 っ た のよ 。わ たし だ って ス ー パ ー ぐ ら い に は い き ま す よ 、 入る な り いや ー な 顔 す る の よ 店 員 が 。ク ラ ー ク ・ ケ ン ト と 待ち 合わ せ に ス ー パー に 来 た んじゃ な い って 言 っ て や っ た のよ 。 あ な た も こ ん ど 行 っ た と き 言 って や っ て 、 ま っ た く 、 そ の 女 店 員 な んて の た ま っ た と 思 う 。 お ば あち ゃ ん こ こ は ス ー パ ー な ん で す 、 い くら 暑 い た って 涼み に 来 る とこ ろじゃ な いんで す よ 、 で す って 。 な ん な ん で し ょ ね 。 礼 儀を 知 ら な い の に も 程が ありま すよ 。わ たしがスー パーが 買 い物するとこ ろと いうのを知ら な いとでも 思 ったんで しょうかねえ 。 そ りゃ 、 鮮 魚 売 り 場 の 前 に は 、 少し だ け 長 く い ま し た よ 。で も 、 人 に 後 ろ 指 さ さ れ る ほ ど じ ゃ あ り ま せ ん で し たよ 。 そ の くら い の 礼 儀を わ き まえ な く っち ゃ 世 間 の 皆 さ ん 、 に 隣 の か わ い い お ば あち ゃ ん な んて 顔 は で 124 ず め ラ ス コ ー リ ニコ フで あれ ば ﹁ 神 の 意 志 ﹂ と で も 呼 べる も ので あ る だ ろ う 。 だ か ら 、次 のよ う に 最 初 の 台 詞 が 吐 か れて も 、 な んら 驚 く に あ た ら な い 。 と ま れ 、こ の 場 は 、 殺 意 の 因 果に 割 り 入ろ う と す る 、ひ と つ の 黒 の 舟 歌 で あ る 。 ポトリ と女A、女 Bの顔か ら仮面が落ち る。 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B と、二人は首を絞めた。 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 今 日 も 、 暑 い わ ねえ 。 ︵ 手 を 放して いる ︶ええ 。 氷を ほうばってカリッ ほんとうに。 昼 寝 も こ う 暑 く っち ゃ ⋮ 打ち 水す る の も お っ く う ね 、 一 雨 く れ ば 気 も 晴 れ る ん だけど。 苦し いんで し ょ 。 どうして。 首を 絞めて る んですも の 。 ど う し て 、 そ ん なこ と 聴 く の って 聞 いて る の 。 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 苦し いだけ な んだろ うか って ⋮ 聞 いて み たら ? だ か ら 聞 いて ん じ ゃ な い 。 だれに? あな たによ。 あ た し が あ た し に 聞 いて も だ め よ 。 だ っ て 、 首 よ 、 息で き な い のよ 。 しゃ べれ な いじゃ な いの。ど う や って 聞 け って いう の。答え て くれると で も、あなたは思ったの。 だか ら 判ら な いって い って るじゃ な い。判ら なか った の よ 。 だ か ら あ な た に き いて る ん じ ゃ な い 。 聞 いて いる の は 、わ たし で しょ 。 ど っち だ って 同じ じゃ な い 。 あた し し か い な い んだか ら。 あたししかいないんでしょ。 あたししかで しょ。 思 い 出す のが 、こ わ い ん で し ょ 。 そう いう、あたしがでしょ。 そう いう、あたしがでしょ。 もう 、消え たら。 あな たこ そ消え たら 。 お昼のお弁当 、今日も一 つなのよ 。 それ は、あた し の台詞 。 暑いわね⋮ い く ら い っ た って 、 こ ん が ら が っ たり し や し な い ん だ から。 125 きません。 女B ︵笑 う︶⋮⋮ 女A ねえ あなた、 人 間が いつ か ら 駄 目 に な っ たか し って い る? 女B えっ? 女A 人間がよ⋮⋮ 女B ええ ⋮ 女AB そ れ は ね 人 間が 人 を 、 心 底 憎 ん で 殺 さ な く な って か らよ。 女A 人間がよ⋮⋮ 女B 心 底 憎 んで 、 人 を 殺 さ な く な って か ら よ ね 。 女AB こ うして⋮ ⋮ 126 u o m たわけや な い。わしが臆病者で 、よう死 ねんかった ん も う 消えて ! じゃ 。どう か許して くれ。 怖くなったのね。 あれ 以上怖いも のなんて なか った わ 。 女A い つ ま で わ た し を 、 こ な いにひ と り ぼ っち し て おき な よ く いったわ ねえ 。 は る のや 。 あの 蜆 川 で 言 う たこ と は 、 み な 嘘 か え 。 いま さら なにが 怖いも んですか 。 女B 嘘や ない。 ようゆうた。 女A ほ ん なら 与 兵 衛 さ ん 、 早 うきて や 。 いいますわよ お。 女B 死なれへんか った。よ う死ねんか ったんや ! わしは、 ようゆうた。 よ くよ く、 だめ な人 間や 。だ け ど な、 あ んとき は 、 お いいますわよ 。 まえ の後追 って 、 ほ んまに死 ぬ 気や った んや 。 それ だ ようゆうた。 けは信じて や 。そして済まんけ ど、寿命 のくるまで い いいますわよ か し と いて や 。 お 亀 ッ !⋮ おお、ようゆうた。 女A も う え え や な いか 、も う え え や な いか 、も う え え や な え え い 、 ゆ わ いで か 。 いか 。 い く ら ゆ うて も せ ん な い こ と 。 お 初 、 死 場 所 は ほ ん なら 与 兵 衛 さ ん 、 早 うきて や 。 こ こ に 決 め よ う 。こ の 曾 根 崎 の 森 を 抜 け る と も う 淀 川 す ぐ 行 くで ! 南 無 阿 弥 陀 仏 ! や 、二 人 の 足で は そこ まで も つ ま い 。追 手に 捕 ま る ぐ 嬉し い!今度 こ そわたし から 離れ ぬと約 束し なはるか 。 ら い なら 、 い っ そこ こ で 二 人 し て ⋮ するとも、死ねばええのやな。 女B 徳 兵 衛 さ ま ⋮ も し 途 中 で 追 手 に 捕 わ れ 、 別々 に な って わ た し は あ ん た の 来て く れ は る の を 、 今 日か 明 日か と も 、二 人 の 浮 名 は 捨 て ま いと 用 意 して き ま し たが 、 初 待 って いる のえ 。も う 寂し う め の 望み 通 り 、一 所で 死ねるこ の 嬉し さ 。 て 切の うて 、待 切 れ んさか い迎え にき たのや 。 女A お お よ く い う た 、 い さ ぎ よ う 死 の うや な いか 、 のち の そんな汚い坊さんしてはらんと 、わ 世 の 死 様 の 手 本 に な って み し ょ う や な い か 。 たしの そばで 暮ら し なはれ 、あんた寂しうはな 女B え え 徳 兵 衛 さ ま 、 そ う と 決ま れ ば 、 さ あこ の 帯 を 裂 い いのんか 。 て くだ さ い まし 。こ の 身 体 乱 れ ぬよ うに ゆ わえ ます 。 女B お亀 、済まな んだ。わし は人に助 けら れ、役人にえ ろ 女A うん。 うどやされ たが、坊 主になれば 命は助けてやると言 わ れて 、こ の 通り、乞 食坊 主に な ったんや 。お前を 騙 し と 、 赤 い 帯を 二 つ に 裂き 、 長 い 赤 い線 と な る 。 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 帯が 裂 ける 。 女B 帯は 裂けまし たが、主様とわたし の仲は、あの世でま すます強く⋮ 女A よ く 締まったか 。 女B はい、よ く締まりました。 女A お前 と 、こ の 世で おう た が 二人 の 因 果。 あの 世で は晴 れて 夫 婦に な って ⋮ 女B はい⋮ 女A 不 憫 は な いか ⋮ 女B 徳兵 衛さま⋮ 女A 恨 む や な いで 。 女B いつ まで 悲し んでもしか たありま せん。お経を念じる 間 に 、ひ と 思 い に ッ ⋮ と、﹁南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏﹂ 女A 南無阿弥陀仏 、南無阿弥 陀仏⋮ と、ヘリコプター の飛行音きこえる。 女A ︵刺す︶⋮ ヘリコ プターの飛行 音大き くなり行き 過ぎる。 その後を 追 うよ うに 格 子 窓から 指を 差し 視線を 走らせる女 A。それに女Bも加 わる。し ばらく 視線を送り 続ける。 女Aの指と視線は、なしくずしに夕日を遮るよ うになった。 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B きれ いな夕日や あ。 ヘリ コ プター ⋮ どこ に 飛んで くんや ろか 。 あ ん た 、毎 日 毎 日他 に 聞 くこ と な い んか 。 あの子もよう 眺めとった 。 ヘリ コ プ タ ー のオ モ チャ が 一 番 好 き や っ た 。 どこ に 飛んで くんや ろか 。 あの なあ⋮ ⋮も う行こうか。 どこ へ? あっち の方へ。 だめ よ 。 なぜ ? 待 つ んで し ょ 。 127 女A 此 の 世 の なご り 、 夜も な ご り 。死 に 行 くこ の 身を たと ふれば、あだしが原の道の露。 女B 一足づつに消えて行く。夢の夢こ そあはれなれ。あれ 数うれば曉 の。七つ の時が 六つ 鳴りて残 る一つが今生 の 。 鐘 のひ び き の 聞 き を さ め 。 女A お初ッ! あっ、そうだ った。 ⋮ な にを 、し よ うか ? 待 つ んで し ょ 。 あっそうだった。 ﹁ 民 謡 ﹂ は ﹁ 民 謡 ﹂で あ り う る の か 。 民謡と いう日本的なるものと、いまこ う ある 身 体との距離。 128 女A 女B 女A 女B [ 4 章 ] 急に大きく﹁民謡﹂CI。 宇崎竜童﹃八木節ロックンロール﹄ 動 くの か 、踊る の か 、こ の よ う な解 釈が在りう る のか 、 身 体も ま た 二 人 の 創 出 す る 世 界 も 劇 的 で ある 。 [ 5 章 ] いわゆ る﹁漫才﹂ 。﹁漫才 ﹂を感じ さ せずの導 入。 そして 漫才で はな くなって いく。漫才 はどこ ま で、どのよ うに漫才で なくなって いける のか。 す べて の意 味で お も し ろ い 事 。 リープ、森 永ッ! ま だ 、 森 永 不 買や って ん の 。 誰が ッ ? あんたがよ。 関係 な いで し ょ 。 あ ん た 、 ど う し て そ う な のダ メで し ょ う が 。 ニ ド お い し く な いで し ょ 。 お い し いも の に 拐 か さ れ る アラ 、なにか いけないテーマに触 れたかしら 。 も の 、 それ は 大衆 。 大衆 論 はこ の あたり から 構 築し な お砂糖ッ、理由 あるの? く っち ゃ 。 理由 ? 女A 知ら ないわよ 。 そうよッ、お湯を そそぐ前に、砂糖2杯もの幸福を い 女B アラ 、 あたし 大衆よ 。 れ たで し ょ 。 女A あ あ そ う よ 、 判 って ま す よ 。 あ ん た は ピ ン か ら キ リ ま 分相 応じゃ なか ったかし ら 。 で 、 大三元 の 役満で 、 誰が 見 た っ そ ん なこ と で い い の 、 世 間 の み な さま に 言 い 訳 た つ の 、 あ な た の 残 り 少 な い 生 活 、ひ ょ っ と し た ら そ の お 砂 糖 て 親 の ト リ プ ル 役 満 海 底 ツ モ ノ 大 衆 あ が り 。 女B ど う い うこ と よ 。 き っか け に 乱れて し ま う か も 知 れ な いじ ゃ な い 。 若 者 女A ま い り ま し た 、と いうこ とで す よ 。 に 見 せ つ け て や る 誠 意 と か 謙 虚 さ な んて 微塵も なか っ 女B 判りゃ いいのよ 。 たじゃ ない 。 女A 判 っ て な いで し ょ 、 ど う し て お 湯 を 入 れ る 前 に 砂 糖 を だ って 、 いく ば くも な い 人 生 、こ こ ろ ゆ くま で 、 おい 入れるのよ 。2杯も よ 、カッ プ の し くコ ーヒ ー な んて 言 わ な いわ 、 せめて イ ンス タン ト コ ーヒ ー 味 わ って 飲 め れ ば って ⋮こ の お 腰 に し み つ い 中 に よ 、取 り か え し が つ か な いじ ゃ な いで す か 。 女B えッ た 生 活 の 重 み に 賭 け て 誓 って も い い わ あ た し ⋮ 女A 悲 し い ワ 、 あ な た か ら そ ん な ﹁ え ッ ﹂ な んて 聞 く の は 、 そりゃ あなた は公務員生 活⃝ 年満 期を 勤め あ げてこ う 場 つ な ぎじ ゃ な い 、 根 拠が な い わ 、 た ん な る 台 詞 割 り い う 生 活 な んで す も の 、 年金 あ り ま す も の 、 だ れ は ば だわ。意味 ないんだ ったら 大衆らしくや ったらどう な かることな くインス タントコーヒー飲む のにゴールド のよ 。 ブレ ンド の 赤ラ ベル 、 いーえ プ レ ジ デ ン ト だ って い い 女B あな た⋮ で し ょ うよ 、え え 判 って ます よ 。 それ は し っか り 、 き っかり肝に 命じて おります 。判 って ます 。今入れたク 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 129 ﹁漫才 ﹂にいわゆ る﹁ドラ マ﹂を 挿入 、つまり 時 間を ど の よ う に 劇 的に 私 有す る のか 。 演技に おける時間 の問題 。 女A あな た、判って くれたの ね。 女B ︵大衆らしくやる︶ 女A ︵ 泣 き 落 し だ ︶ お 願 いだ か ら 、も うこ れを 最 後 に し て ちょうだ いよ。インスタントコ ーヒ ー飲 むときは、カ ッ プを 両 手 で 思 い 入 れ た っぷ り に 人 肌 に 暖 っ た め て 、 ス プー ン 一 杯 のコ ー ヒ ー 、 その 後ス プー ンを 変えて 。 女B えッ ? 女A あな たッ ! 女B ごめ んなさい 。思い出し た。王将 のギョーザラ イスだ った。 女A 王 将 だ け じゃ なか っ たで し ょ うが 。 女B そう よ 、鶴 橋 のホルモン 屋でキム チとラ イス と焼き肉 、 一つのハシで 食べんの?あたし そんなの信じられな い。 あたしには そんな勇気のいるこ とできな いわ。いい、 キ ム チ の し るよ 。 焼 き 肉 の タレ よ 、ラ イ ス が ま か り 間 違 って サ サ ニ シキ だ って ごら ん な さ い、 ど ん な顔し て 、 そ ん な ハ シ を サ サ ニ シキ に つ き さ し た ら い い んで し ょ う 。 あ あ 鳥 肌 だ つ 。 そう い う の って メ チ ャ メ チャ す ぎ る んじゃ な い 。ギ ョ ー ザ の タレ の つ い た ハ シで ご 飯 食 べる なんて 大衆のや るこ とじゃ ない。味 はどうす ん の 味は⋮ 女A で も 、 日 本 で は 明 治 に な って 一 つ の箸 で た べ る よ う に なったのよ ⋮。 女B でも 、江 戸時 代で はそう いうこ と は なか ったのよ ね⋮ 日本の近代化間違ってたのかしらね。 女A 判る ゥ ?そう なのス プー ン変え る のも 、 ハシ変え るの も 、こ れ 近 代 に 対す る批 評 性 な ので す 。 ごら ん な さ い、 未だかつて 外 食産業として資本の最先端 を走る﹁ほ っ か ほ っか 弁 当 ﹂ 。 あ た し は あす こ が 最 先 端 で あ る ゆ え 要 求 し た い ので す 。 し か し 、 あ す こ の 持 ち か え り の 弁 当 に は ハ シ は 一 つ し か つ いて い な い 。 近 代 主 義批 判 の 微 塵 も な い んだ 。 ど うや って 一 つ の ハ シ で オ カ ズ と ご 飯を 食べろ というの 。 女B ウラ バシしたら いいんじゃ ない。 女A あな た、どうして 、そう いう場当 たり的な、 テクニッ クの問題で すり抜けようとする のウラ バ シのどこ に 近 代 に 対す る 批 評 性が ある と お っ しゃ る の で す か 。 あ ん た そ れで も 満期 あけ の元 公 務 員 さ んッ ! 女B 公 務 員 って そ ん な も の よ 。 女A ︵ 間 ︶ だか ら 私 は ﹁ ほ っ か ほ っか 弁 当 ﹂ は ハ シを 二 本 付 け る べ き だ と 思 い ま す 。こ の ハ シ 一 本 の 近 代 主 義 批 判が な いか ぎり 、 ﹁ ほ っか ほ っ か 弁 当 ﹂ は 今度こ そ つ ぶれます 。 女B ス プ ー ン取 っ かえ たら い い んで し ょ 。 女A そう なの、それだけなの 。そうす ればおいし くインス タントコーヒーが いただけるの 。 女B いつも おいし くいただいて います よ、あたし は⋮ 女A ど う し て 、 そ ん な 自 信 に 満ち あぶ れ た 顔を し て 言 い 切 って し ま う の 。ス プ ー ン 変 え な く っち ゃ 、 イ ン ス タ ン トコーヒ ーがこびりついたままでしょうが、お湯と 砂 130 見つめ あう瞳と瞳 。 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B けど。 女A どうして ?それじゃこだわりなさすぎるじゃ ない。い い、お湯に とけたイ ンスタント コ ーヒ ーに 砂糖を 入れて あ ま くして い くの。こ れがこ つで しょ 。 女B あ た し ど っち で も い い と 思 う け ど な 。 女A だ め で し ょ 。 こ だ わ る の 。 そこ ん とこ し っ か り 押 さ え と か な く っ ち ゃ 。こ う い う 生 活 だ か ら こ そ イ ン ス タ ン ト コ ー ヒ ー 、 お 湯 、 お 砂 糖 に こ だ わ り ぬ いて 生 活 支 え ん の よ 。 あ ん た そ れ 以 外 に こ の 生 活 支え ら れ る と 思 っ て んの。 女B 責 任 と 主 体 性 を も って や り ぬ いて 生 活 の 根 拠 に す ん の ね。 女A そうよ、あなた。そうなのよ。 女B で も 、で も よ 、 イ ン ス タ ント コ ー ヒ ー に お 湯 入 れて 砂 糖 入 れ る の と や っ ぱ り 同じじゃ な い 。 女A 違うじゃ ない、決定的に違うじゃ ない。インスタント コ ーヒ ー と お湯に 砂 糖 入 れ る の はこ う糖 分 の 甘さを 増 して いくこ となの。 女B そうよ、そうでしょ。 女B 湯ましじゃ な いの? 女A 言 葉 の ア ヤ で 水 ま し って いう の 。 甘さ を う す め て い っ て し ま う の よ 。 あ ん た 水 増し の 生 活 な ん か たえ ら れ て 、 あたしはたえられま せん。 女B 住 め ば 都 って こ と も ある し 、 体 質 に あ っ たら い い んじ ゃ な い 。 い や だ っ た ら さ 出て 行 け ば い い ん だ し ね 、 元 131 女B 糖 と 混 ぜ る 前 に ス プ ー ン の 上で 、 イ ン ス タ ン ト コ ー ヒ ーと砂糖が 淫乱に妥 協してしま うじゃ な い。そんな イ ンスタントコーヒーがおいしいわけないでしょうが 、 誰が 責 任取 んだよ 。 あたしが取るわ⋮ 突然聞 くけど 、あんた何 にこ だわ って ん の 。 こ だ わ るこ と にこ だ わ っ て んで す 。 そん なにこだ わることな いのよ。こ のインス タントコ ーヒー、お中元なんだから 。 だか ら お中元 だとか、年金で 買 っ たとか そん なこ とが 問 題 じゃ な い って い って んで し ょ う が 、 い いで す か 、 じゃ あ、 お 聞 き し ま す け ど 、 あ な た チー ズ 好きで す か だ ー い 嫌 いで す 。 じゃ あ、ピザトーストは ? 好き 。 ど う し て 、 何 故 ? あ ま り にも い い か げ んす ぎ る んじゃ な く って そ う い う の は 、 だ か ら あ た し は あ な た に 言 っ た の よ 。 イ ン ス タ ン ト コ ーヒ ー を 飲 む と き に はコ ー ヒ ーカッ プを 両 手で 思 い入れたっぷりに人 肌に 暖めて ス プーン一杯 のコ ーヒ ーを 入れ、 そして お 湯を 注 ぎな さ いって 。コ ーヒ ーを ほどよ くか きまわす 。次にス プ ー ンを換えて 、お砂糖を⋮ 二 杯 ほ ど 、ち ょ っ と ぜ い た くか な 。 糖 尿 に な ら な い よ う に と 願 いを 込 め て 二 杯 入 れ 、 ゆ っ くりかきま わす 。 ねえ あなた、 あたしは砂糖を 先に 入れても い いと思う 132 々ここ あたしらの家じゃ ないんだから 。 女A 体 質 に あ う 訳 な いで し ょ う 、 出て 行 き た くて も 出 れ な いで しょ う 、こ んな とこ 好きで いる んじ ゃ な いんだ か らッ! [ 6 章 ] 大正琴 と ハーモニカの合奏 。 舞台で の俳優がす る楽 器の可能 性。いずれ楽 器 は 変 わ って い くこ と に な る だ ろ う 。 [ 7 章 ] ゲスト の登 場。看 守で ある 。 ゲスト い い加 減に し ろ 、こ こ が うる さ いと周 りか ら 苦情が で て る ん だ 。何 時 だ と 思 って い る 。 ゲスト 就 寝時 間は と っ くにす ぎて いる 。早 く寝 る よ うに 。 女AB おやすみなさい。 ゲスト 退場。 女A 何 も か も 瓜二 つ だも のね 。︵ 観 客 の 頭 上を 指 して ︶ あ らッ、流れ星。 女B ︵ 見 上 げて ︶ 見え る 見え る 。き れ いだ ねえ ⋮ 。 あッ 、 消えちゃ っ た。 女A 消え ちゃ った 。 女B 本当 に 見え た ? 女A う ん 。西 の 空 を ⋮ 。 女B 東の 空じゃ なかった? 女A 西 の 空よ 。 女B 東の空よ。あたしは右目でみたのよ。 女A あたしは左目 。 二人、ニッと笑う 。 2 . 9 2 . 9 女B あたしの右目 の視力は よ。 女A あたしの左目も よ。 女AB にてるわねえ。 女B あ ん た 、ち く わ 好 き ? 女A 大 好 き 。 あ た し 直径 1 c m の 穴 の あ い たち く わ が 好 き よ。 女B それ それ、 あ たしもよ 。 直径 1c mの穴のや つ。 女AB 似てるわねえ。 女B ︵ 突 然 自 分 の 乳房を つか む ︶ ど う ? あ ん た気 持ち い い ? 女A ︵ 自 分 の 乳 房 を つ か んで ︶ あ ん た は ?ど う ? 女B あた い、夢みてるみたい。 女A あ た い も よ 。 奥 の 方 が ド キ ド キ い って る わ 。 [ 8 章 ] 相 手を め だ た せ る 。 女 Aが 女 Bを 支え る 。 女B ねえ 、あんた 。こ うや って いると 二人は幸せ な姉妹み たい。 133 ゲスト が 繰り広 げ るも のを 即興で 支え る 。 女B 女A 女B 女A 女B 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B それ は あ んた の心臓が 鳴 って る ん だよ 。 心臓が? うん。 ねえ 。 あ ん た 。 あ た し の 心 臓 も あ ん た の 心 臓 と 似て る かしら? き っ と そ っ く り さ 。 切り さ いて 調 べて み よ う か 。 痛 い よ 。 そりゃ 。 痛 い ね 。ごめ んごめ ん 、 も う そ ん なこ と いわ な い 。 いわ ないで ね 。 い う も んで す か 。 ︵自 分のホホを軽くぶって︶痛い あんた? ︵ 自 分 の ホ ホ を 軽 くぶ っ て ︶ あ ん た は 痛 い ? 本当 に痛いのかしら ?︵ 軽 くぶ つ ︶ 本当 に痛いのかしらねえ ?︵軽くぶつ︶ 痛いと言うか ら痛いんだわ、き っと。 じゃ 、ぶ たれ て ﹁ 痛 く な い﹂と い って も 痛 い かしら ? ︵強 く自分のホホをぶつ︶ほら! うッ !痛くな いっ。 ど う なす って ? ⋮ わ か ら な い 。 あ ん た は ?ほ ら っ ︵ 自 分を ぶ つ ︶ 痛くない! 二人ホ ホをさする 。 女B やっぱり痛いわ。 女A やっぱり痛いよ。 134 女B 女A 女B 女A [ 9 章 ] 相 手を め だ た せ る 。 女 Bが 女 Aを 支え る 。 温泉 に つか って い ま し た 。 さし ず め 仙 台で は ﹁ 一 の 蔵 温 泉 ﹂ に つ か って 身 体 が ﹁ 一 の 蔵 ﹂ に 、 札 幌で は ﹁ い くら 丼 温泉 ﹂ に つ か って 身 体が ? ? ?? 女A ︵ 笑 い ︶ あ あ ∼え え 湯や 辰 拭 弔△ 蠅 肇 女B 何 処 い って た ん ? 女A ﹁一 の蔵 温泉 ﹂気持ちよ か ったワ 、も お身体が ﹁一の 蔵 ﹂や 、 ほ んま に 。 女B ギクッ。 女A 美味し∼いつまみが あったら自分の身体飲んでもええ でえ∼ほんまに。 女B ギクッ、ほっ、ほんまのほんま? 女A あか んアン パンマンより きつ い、やめとこ 。 それより 、 一杯やりまひ ょ。︵ 一升瓶を あけて ぐいっと一杯飲 む︶ うひ ょ ∼ お い し い ∼ シ ・ ア ・ ワ ・ セ 。 さ あ 、 ど う ぞ ︵とつごうとするが ︶ その前にクイズで す。答え は簡 単で す 1 1 は ? 女B ギクッ、︵恐る恐る︶2やっ。 女A ブウッ∼∼∼ ∼∼ 女B ギ ク ッ 。 な 、 な んで ? 女A 答 え は 簡 単で す 。 うひ ょ ひ ょひ ょ ひ ょ ∼ 。 さ あ 、 風 呂 上が りの一 杯、宴会 しましょ 。 どうぞ︵ や っとつぐ ︶ 今 日 の テ ー マ は 演 技 に つ いて や 。 女B ギ ク ッ 。何 や それ 、 演 技 に つ いて ?聞 い たこ と ある な 。 女A 演技 とは何か ? 女B 演技 と は 、技 を 演じ る と 書くから 技 を 演じ る こ とや 。 女A 技って何や? 女B しら んわ。 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A + 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女A え っ !技も 知 ら んの? 私 プ ロ レ ス ラ ーちゃ うも ん 。 役者やもんな ?役者じゃ の∼ ふ る ウ ∼⋮ 演 劇 って な に ? 色々 あるが な 、面白 い演 劇、面白 くない演劇 、静か な 演劇、うる さい演劇、つまら な い演劇、どうしようも ない演劇︵何やかんや並べる︶⋮ ち ょ と待て っエ、それみ んな演劇 の仲間か ? 誰が 決め た んや ? 誰で も な い 、 感 想や 。 法 律 で 取 り 締 ま っ たらえ え の に な あ ∼ 。 今 、 私 ら 何 や って る と お も て ん の ? 芝 居 の 本 番中 や 。 ギ ク ッ 、こ ん な んで え え の ?こ ん なこ と で 。 罰 せら れ へん? 法 律 は 単 な る 提 案や 。ギ ク ッ 、や け ど お 客 さ ん に おこ られるかもしれへんな。 ギクッ、一升、無くなってしもうた。 誰の一生や ? 私ら 二人の女 のイッ ショ ウや 。 エ ン ギ で も な いこ と 云 わ んと いて 。 何云 うて んの 、こ れは演技や 。技 を 演じ なさ い。 ギクッ。⋮踊 ります︵女 Bの歌に 合わせ女A﹁割り箸 踊 り ﹂ひ と 振 り ︶ あり が と う 。ち ょ っとは 芝 居 に 戻 ったか な ? 135 ﹁ウニ﹂に なって いるそんな様子で⋮。 女A 既 に 国 生 み を へて 、 さ ら に 神 を 生 み き 故 、 生 め る 神 の 名は? 女B オ ホ コ トヲ シヲ の 神 次に 女A イ ハ ツ チビ コ の 神 次に 女B イハスヒメの神 次に 女A ア メ ノ フキ ヲ の 神 次に 女B オホヤビコの神 次に 女A カ ザ モ ツ ワ ケ ノオ シヲ の 神 次に 女B アワナギの神 女A アワナミの神 女B ツラ ナ ギ の 神 女A ツラ ナ ミ の 神 女B アメノミクマリの神 女A クニノミクマリの神 女B アメノクヒザモ チの神 女A クニノクヒザモチの神 女B アメノサヅチの神 女A クニノサヅチの神 ﹁ 神 の 名 遊び ﹂で 時 空が 歪 む 。カ バ ン 屋 へ 移行 。 ※﹁ 神 の名 遊び ﹂ は千 賀 ゆ う子 さ んの ﹁古 事 記 を め く る 2 ﹂よ り 抜 粋、 引 用 さ せて い た だ き ま した。 [ 章 ] 女 A 、 カ バンを 開 け る 。 中 を 覗 き なが ら ⋮ 女A メ タ セ コ イ ア 、 って 知 っ て る ? 女B ︵ 小 さ い声 で ︶ チャ ッ ク 下 ろ す ぞ 、 チャ ッ ク 下 ろ す ぞ ⋮ 136 ﹁ 神 の 名 遊び ﹂ 女B クニノサギリ の神 女A アメノクラド の神 女B クニノクラド の神 女A オ ホ ト マト ヒ コ の 神 女B オ ホ ト マト イ メの神 女AB こ の子をうみしによりてみほとやかえてや みこやせ り 10 女B 全然、まった く。 女A ギ ク ッ ︵ カ バ ン の 中 か ら 聖 書を 2 冊 取 り 出 し 1 冊 を 女 Bへ︶はじめます。 女A 今か ら 、私卵を うみます 。 女B 今か ら 、私卵を うみます 。 と、なにやら様子が違う。 女A こ の 巨大な落 葉高木は、 その化石から 類推す ると、時 に三十メートルにも 及 んだで あ ろうといわれたのだ っ た⋮ フラス コ の中で 発 芽し、無 菌室で 育 った苗はま も なく中国四川省に返された。順 調に成長し その雄姿を 再びこ の現 代にみせ るかに思わ れたが 、 九五〇年、 忽然とその姿を消し たのだった。 女B 数千 万年の時が その蘇生を 受け付けなかった のか、そ の 存 在 に 興 味 を 持 つ 何 者 か に よ って 奪 い 去 ら れ た の か 、 いまだ謎の ままで ある。 女A 九 六〇 年、 巷にまこ と しやか な 噂が 流れた 。 女B ︵予 期せぬ言 葉に﹁え っ !﹂と振り向く︶⋮ 女A 球果からはじ けた、メタセコイアの胞子は偏西風に乗 って ゴ ビ 砂 漠 に 、 蒙 古 平 原を か け ぬ け 、 こ の 地 上を 席 捲し たと、 まこ とし やかに語ら れた。 女B ⋮ 女A ︵笑 い︶⋮ 女B 誰なんだいお前は⋮ 女A まこ としやか な噂は伝説を生んだ 。メタセコ イアの胞 子 は 、 中 国 か ら 舞 い 上が る 黄 砂 に 乗 って 、こ の 日 本 に も 辿り 着 い た んだと 。 女B なんの話しだ い、それが 伝説とはとんだ話し だね。 女A こ の 続きを 聞 き たか っ た ら 、こ の カ バンを 買 って 下 さ い。 女B その なかには 何が 入って いるの? 女A えっ? 女B だか ら 、そのカ バンの中 には何が は いって いるんだよ 。 女A 運で す。 女B えっ? 女A ︵笑 い︶たか がカバン屋に、そんな唐突な質問投げか けて 、 立 場 が 逆 転す る とで も お 思 いで し ょ うか 。 女B そうだとしたら⋮ 女A たか がカ バン 屋は、ただ 切り 返す だ けで す 。 女B 相 撲 じゃ な い ん だ か ら 、 土俵 に 俵 は な いよ 。 そ う 簡 単 に は 切 り 返 さ れ は し な い と 思 う ん だ が ど うで し ょ う か 。 女A 話 の 続き は聞 き た く な い ので し ょ うか 。 女B た か が カ バ ン 屋 は 俵 の な い 土 俵 で 、 話 し を 売 って カ バ ンを渡すのかい。 女A い っ と き ま す が 、 カ バン 屋 は い つ だ って 、 カ バ ン を 売 ったことは ないので す 。だから 、カ バン 屋にカ バンを 買いにくる カ バンを 買う人はカ バンを 買 ったこ とは な いのです 。 それでも 不思議 なこ とにカ バン屋はカ バン を 買 って 下 さ いと い う ので す 。 女B それじゃカバン屋はお前 の喋ったセンテンス と同じで 137 女A メタセコイア。生きた化 石。新生代針葉樹。種子植物 スギ科。葉は対生。中生代の第三紀にか けて世界中に 繁茂し た 。 九 四 五 年、 中 国 四 川 省で 発 見 さ れ た 化 石 のメタセコ イアから 奇跡的に採取された種子は、フラ スコ の中で 芽をだし 、数千万 年 の時を越えて 、こ の現 代に蘇った のだった 。 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 単純 です ね 。 単純 で 悪 いか 。 綺麗です。 二度 目は効 果うすれんだ 。唐突に 出た一度目 は、お愛 想でも納得するが、ダメ押しさ れると理不尽な疑問 形 が断定形を押しのけて、女の五段活用を はじめてごら ん 。 否 定 形 はも し か し た ら 、 す ぐ そこ に ⋮ 複 雑 な お ん な 心 の 文 法で す ね 。 ⋮なんの用なんだい。 二 つ 目 の唐 突 な 質問 。 そ の 手は桑 名 の焼き 蛤 。わ たし はただのカ バン屋で す 。 なに 企 んで る 。 不 安 に なり ま し たか 。 思いすぎだ。 カ バ ン 屋は い つも そんな 不 安に さ いなまれて いまし た 。 も う い いッ 。 い っ と き ま す が 、 カ バン 屋 は い つ だ って 、 カ バ ン を 売 ったことは ないので す。 じゃ 、何を売 って んだよ 。 カ バ ン 屋 の 前 の商 売 を 知 って いま す か ? えっ? カバン屋の前 の商売です 。 カ バ ン 屋 の 店 先で 、 あ た し が いち いち 聞 い た こ と が あ る と で も 思 って いる のか い 。 こ の 国の多 く のカ バン屋 の前 の商 売で す 。 おまえ 、ただ のカ バン屋 じゃ ない ね 。 138 文 法が な い じゃ な い か 。 女A 文法で小説は 書けません。ただ自由・文 法なだけなの です。 女B それを いうなら自由奔放だよ。 女A ガ キ の よ く 読 む 小 説 に 出 て く る ダ ジャ レ を 真 似 て み ま した。 女B なに 企 んで る 。 女A 不 安 に なり ま し たか 。 女B 思いすぎだ。 女A カ バ ン 屋は い つも そんな 不 安に さ いなまれて いまし た 。 女B 思 い す ぎ だ っ て い って る だ ろ うが 、 た だ 、 お 前 のふ ら ち な お 喋り に つ いて 行 く 隠 れ 蓑 な ん だ よ 。 初対 面 な ん で 気を 使 っ て る んだ 。解 る だ ろ 、 商 売 や って んだ っ た ら。 女A は い 、 そ の気 の 使 い 方 好 きで す 、 綺 麗で す 。 女B えッ ? 女A そ の 気 の 使 い 方で す 。 女B いや 、 その 後 。 女A 好きです。 女B その 後だよ。 女A 綺麗です。 女B てれるぜッ⋮ 女A えッ 。 女B は っ き り いわ な くて い い だ ろ 。 女A いえ って い っ たから 。 女B いいよ。立場逆転した。 女B よか ったね。 女A カバン屋のバイブル、カ バン屋の 日本書紀、 あるいは カ バン 屋 独 立 宣 言 と で も い って い いこ の 逸 話 に 対 し て 、 あなたは他にいうべき言葉はな いのですか。 女B おめ で と う 。 女A ⋮こ れが 、こ との顛末で す 。 女B よか った。よ うッポスト カン バン 屋。よ うッ 新たなる カ バン 屋 パラ ダ イム っ、 ペッ ペ ッ ペッ ペ ッ 。 女A そ の 唾 、 自 分 の 頭 の 上 に 落 ち な い と い いで す ね 。 女B こ の 脈絡 の行 間を 読めッ ! 女A や っ ぱり バカ にして る ん だ な 。 女B カ バじゃ なか ったのか 。 女A そ う で す 。 運 は こ こ に 入 って いま す 。 女B 涙で る。もう いい。本当 によかった。お疲れ 。⋮ それ 以外いうこ と ない。 期待に応え られなくて メンゴ。 女A 納得します。ついにあな たは、感涙にむせび ました。 それで 十分です。 女B 涙 な んか 出て な い 。 女A いいえ 出まし た。わたし 行間を読みますから 。 女B かってに解釈するな。 女A 幾多 のカンバン屋さんはきっと浮かばれます 。 女B 琵 琶 湖 の 水面 に で も 浮 き や が れ 。 女A えっ? 女B お付き合いす るが、それじゃ 日本中のカバン 屋は運詰 め 込 んで 、 商 いに 励 んで いる と いう わ け だ 。ま っ た く 臭 い商売じ ゃ な いか 。 139 女A 唐 突 な 質問 の 連発で す が 、立 場 は 逆 転し っ ぱ なしで 、 わたし の手 の平、いえ 、も うこ こ はカ バン屋のカ バン の中なのかも知れま せん。 女B カ バ ン 屋のまえ の商売は ? 女A そう 直にで れ ばす ぐ教え て あげた のに。 女B ゴ チ ャ ゴ チャ はも う い い ん だよ 。 女A カ バ ン 屋 の前 の商売 は 、 カ ン バン 屋で し た 。 女B ︵爆笑︶何か と思えば、またダジャレかい。 女A い い え 、 マ ジ で す 。 マ ジ ほ ど 怖 い ダ ジャ レ は な いと 思 いませんか 。 女B ⋮ 女A カ ン バン 屋 は ある 日 、 高 い所で 仕 事を し て お り ま し た 。 とこ ろが 突 風、 その 突風に 煽ら れた拍子 に 梯子を 踏 み 外し 、 地面 に 叩きつ けら れ たので す 。そ のときンを 落 と して し ま い、カ バ ン に な っ た ので す 。 カ ン バン 屋 は それ以来、一つの運を無くして いつも不 安にさいなま れて きまし た。こ う なればも う カ バンは 、も一つの運 を 落 と す わ け に は い き ま せ ん 。 そ うで は ありま せ ん か 。 それで は世 の中真っ 暗 闇じゃ ご ざ いませ んか 。考え て もみて くだ さ い、なにせ二つ運を落としてしまえ ば タ ダ のカ バ な ので す か ら 。 そこ ま で い くわ け に は ま い り ま せ ん 。⋮ 故 な く消 し 飛 んで し ま っ た運 。カ ン バン 屋 は考えたのですもしかするとも う一つの運も、いつど んな拍子に と 思った のです。つ いに考え つきました 。 カ バンの中 に運を詰 めよう、と 。そのと きからカン バ ン 屋 は は れ て カ バ ン 屋に な っ た ので す 。 し の べて 、 ふ と わ れ に 還 る ため の⋮ 女A そ れ は 気 心 の 残 骸で す 。 あ な た 、 カ バン 屋 に な れ ま す 。 いえ も う と っ く に カ バン 屋 な の か も し れ ま せ ん 。 女B あ た し に は 、 商 う 気 心 な んて な い よ 。 女A でも なれます 。 女B かってに解釈するな。 女A 行 間 を よ んで る わ け じ ゃ あり ま せ ん 。 女B あたしのこ と はほっとき なよ 。 女A カ バ ンを 売 ら な いこ のカ バン 屋 だ って 、 商 う 気 心 な ん て あるわけ ありませ ん。カ バンを売らな いカ バン屋 は 、 お客の持 って くる気 心を 色分け し、カ バンに入るよ う に し て 持 っ て 帰 って も ら う だ け な の で す 。 女B カ バ ンを 買 う ため に カ バ ン 屋 に い って 何 が 悪 いッ 。 女A 悪 く あり ま せ ん 。 だ って それが 人 生 な ので す か ら 。で も ほ んとう に 、 あな たはカ バン を 買うため にカ バン 屋 に行 ったこ とが あり ます か 。だ れも な い ので す 。だ れ も が 、 何 を 詰 め よ う か と い う 思 いを 込 め て カ バ ン 屋 に 行 く ので す 。 そこ で わ たし はこ のカ バン に 詰 め た運 を 、 少し ばか り 働か せて 、 色 分け し 、 お客 の 持 って き た 気 心が運がつ くように す るだけで す 。企業 秘密をここ ま で ばら し ま し た 。カ バン 一 つ 買 って くだ さ い 。カ バ ン を売らないカバン屋は、あなたの気心詰めてさしあげ ますが 。 女B 詭弁 だ 、こ じ つ け だ よ 。 こ の ペ テ ン 師 。 女A じゃ お伺 いし ますが 、あ なたはこ のよ うに 舞台にたっ て 、 い っ た い何 を 商 って いる の で す か ッ 。 140 女A 残 念 ながら 、 閉 じ 込 め て し ま っ た 運 を 売 る わ け に は い きません。 女B それじゃ 、カ バン屋はカ バンも売らず、運も売らず、 何 を 商 って いる ん だ 。 女A カ バ ン 屋 は 気 心を 商 って います 。 女B ピ ュ ア ー だ ね 、 い いか げ んに し ろ ッ 。 女A そ う 、 気 心 は い つ だ って い いか げ んで 、 う つ ろ いや す い。 女B カ バ ン の中 に 運 を 詰 め 込 んで カ バ ンを 売ら な いカ バン 屋さん、一 つ、その気心とやら をこのあたしにも分け て 貰え ま せ んか 。 女A ま い ど いら っ しゃ い 。ど ん なカ バ ン に い たし ま し ょ う か。 女B 気心の入ったやつ。 女A そうです。そうして お客 はカ バン 屋の店先を くぐり、 カ バンを 買 って い く ので す 。 そ うじゃ な か っ たら カ バ ン 屋 な んて と う い 昔 に つ ぶ れて い る んで す 。 考 え て み て くだ さ い 。あなた は生まれて こ のか た 、 いくつ の カ バンを 買い まし たか 。押し 入れ を 開けて 数えて みて 下 さ い 。 そこ に は き っ と 、 用 済 み のカ バン が ゴ ロ ゴ ロ と 転が って い るはずで す 。なぜで しょ うか 。カ バンが 単 なるカ バン なら た っ た一つでよ か ったは ず なのです 。 女B 押し 入れには、忘れようにも忘れられない記憶が詰ま って んだよ 。そんな押し 入れの 中に ファ ッ ションに 添 い寝し た使 い古し のカ バンが 山 ほど ある なら 、それ は 一 つ 一 つ の 思 い 出 な のか も し れ な い ね 。 そ っ と 手を 差 ? 女B ⋮ 風 が 吹 いて いる⋮ 本当 に 。風が 吹 いて いる 。 そんな 馬 鹿 な 、 風 な んて 吹 く わ け な い じゃ な い 。 だ って こ こ は⋮ 女A 一丁目一番地ッ! 女B 水の 音⋮ 流れて る んだッ !︵笑 い ︶ おーい 叩△ 澆鵑 瓩い討い襯叩⊃紊硫擦 るッ ! 福 女A それじゃ また 。 女B 行 く のか い。 女A ええッ。 女B いつかまた会えるんだろうか。 女A いつかまた気心のしれたころに。 女B 最後に一つ、もうなにも聞かないから、一つ教えてお くれ。 女A カ バ ンを 売 ら な いこ の謎 のカ バン 屋 にで す か 。 女B そう 。よかっ たら、カ バンを売ら ないカ バン 屋は、い つカン バン 屋からカ バン屋にな ったのか 。それが い つ の話か聞か せて もら うと 、 嬉し いので す がッ ! 女A と き 、 暗 雲 た なび く 乱 世 、平 安 の 世はち ょ う ど 八 百 年 前、一一八九年、文治五年四月、陸奥の国平和泉、衣 川にいだか れた高館の戦場で あ った。まもなくその持 仏 堂で は 一 人 の若武 者が 自刃 の 露 として はて る はず で あ っ た 。 そ の 若 武 者 と は 、 歳 幼 く七 歳 に し て 、 鞍馬 の 山 の 奥深 く 、 禅 林 坊 阿 闍 梨 覚 日 の 弟 子 と な っ た 稚 児 の 成 長し た姿で あった 。 その名は 源 久郎義 経ッ ! 女B や っ ぱり それ は 、子 供騙 し のこ じ つけ だッ 。 女A こ じ つ け だ と し たら ッ ? 141 ?? ? ? ? 女B ⋮ 女A 人の気心じゃ なか ったのですか。するとあなたも ペテ ン 師で す か 。 女B 人 の 気 心 勝 手 に あつか う な 。 おま け に 色まで つ けや が って 、何 様 のつも り だ い。 女A カ バ ン 屋 のま え の商売を お忘れで す か 。カ ン バン 屋で す 。カ ン バ ン 屋に 色 は つきも の で す 。 い ま さら 何を お っしゃ るのですか 。 昔と った杵 柄忘れる よ うじゃ 、 カ バン屋の お 里もし れ たも の 。 女B あ あ いや あ 、 こ う い いや が って 。 お前 は や っ ぱ り ペ テ ン 師 だ 。 だ が な 、 お 前 の ペ テ ン はソ フト ば っか り だ 。 とろけてま うぜ。中 途 半端じゃ ないか。悔しかったら チェ ー ンで も 巻 いて ヘビ メ タや って み ろ 。 女A ここでとぐろを巻くつも りはありません。 女B ハー ド だよ 。 ばかや ろ う 。 ハード で 気 心 揺す って み ろ って んだ 。 女A 演歌じゃ なか ったので す か 。 女B こじ つけはも ういい。も う いいよ 。 女A そう 、もうわ たしの用は 終わりで す 。だって 、ここま で 鎖で 引 っ 張 り 回 し た ので す か ら き っ と 気 心 は 動 き は じめ、その風に乗って メタセコ イアの種 子は、飛び 立 ったといって いいのですから。 女B な ん だ って ッ ! 女A だってここは、一丁目一 番地なのです。 女B ここが一丁目一番地ッ!どういうことよ。 女A 謎 の カ バン 屋 の新 ・ 日 本 書 紀 第一 項ッ ! 照明激変。 章 ] 11 [ 女B も う や めて ッ !︵と 怒 っ て 魚を 投 げ 付ける ︶ 魚がある。 こ の魚が二人の想 像力を武 器に二人のかつて の 子供になる 。 観 客 に と って は 魚 は 物 理 的 に 人 で ある 。 女A 女B 女A 女B 痛 い じゃ な い の 、か わ い そう に 。 何が 。 魚が 。 魚が ? 女A魚を取る。 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 女B かわ いそうに 。なによ そ の目、そ んなに いや なの。 べつ に⋮ おか し いと お も って る んで し ょ 。 なに を いって いるのよ 。 おか し くって おかし くって しか たが ないんで しょ 。 あたしはただ⋮ おか し か っ た ら 笑 い な さ いよ 。 おか し くなん か ないわ 。 笑 い なさいって ! ︵え へへと笑 う︶⋮ も っ と笑 いな さ いッ ! ︵笑 う︶⋮ だめ よッ、も っと、も っと笑うのよッ ! ︵ばか笑 い。ひ きつり悲 惨になって くる︶⋮ も う 笑え な い って いう の ッ ! あ な たが 笑 っ て み たら ッ !ど う な の笑 って み な さ いよ 。 笑 い な さ い って ッ ! 142 女B おつ き あ いす る 身にも な ってもら い たい。 女A そ う す る と 、 こ の わ た し たち の 歴 史 が 、 あ な た の 人 生 が 、 そして こ のわ た し の生 活が 、こ じ つ け の 積み 重 ね ではない、と、ついにいい切っていいのですね。 女B で き る なら ⋮ 女A ど う 、で き る なら そ のこ じ つ けを 、 メ タセ コ イ アが 数 千 万 年 の 時 を 越 え て 蘇 っ た よ う に と っ ぱ ら って 見 た い と 、 カ バン 屋は 思 う ので す ッ ! ︵笑 う︶⋮ そん なんじゃ わから ないッ ! ︵笑 う︶⋮ 泣 い て いる の か 、も っと 笑え ッ ! ︵笑 う︶⋮ 笑え ッ ! 笑え ッ ! ﹁笑え ッ !﹂と笑 いが混乱 。ついに寂 莫は飛躍 しない。錯乱は静寂へ。 二 人 は 魚 を 目 に す る 。 身 体 の 一 部 が 痒 く な って くる 。除々 に 痒さは 増す 。 互 いに 相 手が 早 く 寝 な いこ とを 責 め る 。 女A 魚、 私、駄目 なのジンマ シン⋮ 女B 魚、 私、駄目 なのジンマ シン⋮ 痒さが 激し くなって くる。 女A 女B 女A 女B 女B 女A 女A あんたが早く寝ないから 。 あんたが早く寝ないから 。 ⋮ ⋮ あんたが早く寝ないから 。 あんたが早く寝ないから 。 お前が殺った んだろ! 女B そ れ は 何 も 知 ら な い 、が んぜ な い 、 僕 は 五 尺 之童で し た 。 僕 は 夜 空を 飛 ん で お り ま し たこ の 黒 髪 は 来 る 風 に 、 千 切 れ ん ば か り の フ ラ フリ フラ の フラ ッ タ ー 、学 生 服 はそんな風を背にはらみ、上へ上へと押し上げます 。 順 風 満 帆 の 空中 飛 行 ⋮何 処で 殺 し た ん だ ッ 。 女A それ はまるで 夢を 見て い るよ うで も ありまし た。それ は荒 野をか けめ ぐる 夢がかけこ んで行 っ た月の砂漠 だ ったのかも 知れません。砂に隠れた幻の地平線を求め て す べ て の も の は め く る め くひ る が え り ⋮ ホ ラ 、 幻 の 地平線から 銀板の月が登ります⋮その日は雨だったか? 女B そ の ゆ ら め き は あ る は ず が な い 。 け れ ど そ れ は 見え て いるのです 。頭上に まとわりつ いて 、そして 離れよ う としない、こ の大地に染みて そこにある のだと思いま す 。 光と な って 滲み 出て いる 。 それ は き っと 少 年達 の 想 いが 行 き 場を 失 い 、 袋小路 の 迷路 に 苛 立ち 、苛 立 つ ほ ど に 発 光 し て いる 、 そ ん な 栄 光 の 光 の 具 合 な ので す ⋮ 泣 いて い た のか ? 女A 風 が 吹 き 始 め ま し た 。こ の 風 は き っと 俺 が 学 校 に 行 っ て た と き 、 昼 休み の 体 育 館 の 裏 を 吹 いて い たや つ だ 。 み な さ ん の ホ ホや う なじ を そよ いで ゆ き ま す 。 一 時 間 目 の 授 業に 遅 刻して 、取 り 残 さ れ た プラ ッ ト ホ ーム を 通り過ぎた 風、体育 の時間を 休 んだ、昼下がりの一 人 きりの教室 に吹いて いたのがこ の風だ。ほら、風が 吹 き始めまし た⋮どんな気がした んだッ! 女B 風 は いま、 風 鈴 に 化 身し て います 。風 はこ の 空気を 振 る わ せ 、 音 波 と な っ て チリ ン 、 リ ン リ ン と そ の 身を 振 143 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 144 て きて いる で は あり ま せ んか 。 そのため ク モ の糸 は 、 るわせ、僕をとりま きます⋮ず っと考え て いたのか ? 光一の手元で 、今にも切れそうになって います。光一 女A 御破算で 願いましては⋮ 美しい言葉⋮一言つぶやき、 はあわてて 、自分の足元のクモ の糸に手を伸ばしッ ! そのように 、おもいやる程に、 願う程に 、叶うなら ⋮ ⋮何故一緒に死ななかった? はかなく美し い言葉 だと思います 。だか らこ そきっと、 女A 黙りゃ れッ ! わら わはヒ ミコ ⋮ヒ ミコで あっ た そのゆ こ の 世 に あ ま た あ り 、 月 あか り に 照 ら さ れ た 、 成 就 せ え に 、わら わ の命 は 助 けら れ 、 わら わ に 生きて 苦し み ざ る ほ の か な思 いが 、 そ う つ ぶ や く ので し ょ う ⋮ 正 直 を 、 国を 失 った悔し さを 味 わえ 、と いう ⋮ あの人 は そ に 言 って み ろッ ! ういった。 あの人が ヤマトだっ たのか⋮ ヤマトが あの 女B ねえ 君、君はこ うして 、 未練が 梯子に乗って いた。ぬ 人 だ っ た の か ⋮ いず れ に し ろ 、 こ の うら み 、 ヤ マト に けがらが土蔵の中で 、解き放たれたみまごうばかり の 返 さ ね ば な ら ぬ な あ ⋮ 千 年を 生 き 延 び て 、 生 き 延 び た 時 間 の中に 、 いつは て る とも な い迷宮 の 物 語 へと旅 立 が ゆえ にナ メて き た 。 その ノ シ に 、 国を 滅ぼ さ れ 、 財 て ば 、 君 は いつも 格 子 の 外で 僕 と いた 。 いや 、 その と を奪われたうらみを つけて 返し て くれよ う。それこ そ き、君は僕だったのだ⋮歳はッ ! ヒ ミコとヤ マト の無 理心中、わらわの道行じゃ !⋮ 毎 女A 子を 生んだこ とのない身は子持ち より幸せと 申せまし 晩毎晩、夢 に うなさ れて いるんじゃ ないのか い? ょ う 、 な ぜ なら 子 を 持 た ぬ 身 は 子 と い う も のが 良 い も のか困ったも のか、 それがわか らず 色々 な苦労から 免 れて いるので す⋮ だが 、も う 遅 い、何 が なされよ う 二人、 大きく踏み 出す。 とも、す べて は遅す ぎるッ⋮誕 生日の前 の日だろッ ? 女B 親を 殺した小 雀が恋し恋 しと鳴き まする。恋 し恋し飛 女B ある 日のこ とで ござ いま すッ !お 釈迦様は⋮ 極楽 の蓮 び ます る 。 なにが 恋 し と 聞 い た ら ば 、 チ ュ ン チュ ン チ 池 のふ ち に た って ⋮ こ の 、 一 部 始 終 を じ っ と 見て い ら ュンチュ ン 鳴くばか り 。鳴いた お口のなかからは舌 だ っしゃ いま し た⋮や がて お釈迦 様は、光 一を 地獄か ら す 舌 さえ 見え ま せ ん 。 あ た しゃ 舌 き り 雀 で す 。 あ た し 助 け よ う と お考え に な っ た ので ご ざ いま す 。 そして 、 の恋しさ知 りたけりゃ 、あたし の舌に聞 いとくれ。 あ 光一が慈悲をかけ、 その命を慈 しんだク モのその糸を、 たしも それ を 知り た くて 、 今日も お 空を 飛び ます る 。 お釈迦様は蓮池の底深 くたらし 、光一の前に差しだし 明 日も お 空 を 飛び ま す る ⋮ 悔 や んで は い な い のか ? た ので ご ざ いま す 。 光一 は そ の ク モ の 糸 を 登 り 始 め ま ⋮だが人は人に出会い、親は子に 出会い、子 は親に出 した。まも なく蓮池 の縁に手が 届かんとするそのと き、 女A 会 う 。 女 は 男に 出 会 い、 男 は 女 に 出 会 う 。こ の 出 会 い ふと下を見ますと、多くの餓鬼どもがクモの糸を登 っ 女A 女B 女A 星 空 に と ど いて い た は ず だ 。 星 か ら の 光 線 は 水中 で は きっと⋮ 女AB ⋮ こ ん なふ う に き ら め いて い た は ず だ ッ ! 女AB ︵ む き あって ︶オ イも う いいん だよ 。も う すこ し 寝 て いろ よ 。 こ っ か ら が い い と こ だ 。こ こ ま で は い つ だ ってこ れた んだから な。 女B そ れ は 私 の い うこ と 。 女A そ れ は 私 の い うこ と 。 女B ここ から 先は 私一人で い く。 女A ここ から 先は 私一人で い く。 女B 一人 にしてよ 。 女A 一人 にしてよ 。 女B も う い いか ら 寝 な さ い 。 女A も う い いか ら 寝 な さ い 。 女AB ⋮ 女A あな たこ そ寝 なさいって ッ 。 女B あな たこ そ寝 なさいって ッ 。 女A あな たが寝な いとあたし は眠れな いのよ。 女B あな たが寝な いとあたし は眠れな いのよ。 女A 一人 にしてよッ。 女B 一人 にしてよッ。 女AB ⋮ 女B 寝 な さ い って ッ ! 女A 寝 な さ い って ッ ! 女B 寝 な さ い って ッ ! 女AB ⋮ 145 女B の中で 様々 な想いは 漠として 生 まれ、や がて 血を滴 ら せ つ いえ さ る ⋮ げ に 恐 ろ し き は 、 げ に 恐 ろ し き は ⋮ お 前を 見て 、 笑 っ た ん だよ な ? 苦し いよ う = 、 苦し いよ う =⋮ 暑 いよ う 、 苦 し いよ う 、 焼け死んじゃ うよう 。水、水を くれ⋮母ちゃ ん逃げよ う、母ちゃ ん逃 げよ う⋮母ちゃ ん、母ち ゃ ー ん⋮ そ の 子は何をしてたんだッ? 母 さ ん 好 き な んで し ょ 。 父 さ ん 嫌 いで も 、 母 さ ん は 好 きで しょ 。じゃ 抱 いて あげる いら っしゃ い︵と、喪 服 の片肌ぬいで卓袱台 の上へ、大股開きで すわる︶さ あ いら っしゃ いこ わ いこ と な んて な い のよ 。 お 乳す わ し て あ げ る 。 や さし く 抱 いて あ げ る か ら い ら っしゃ い ⋮ その後、お前は何をしたんだ? ⋮ 記 憶が 蘇る 。⋮ あなた の中で 僕 の 記憶を 蘇 ら せて く れ ま せ んか 。夢 を み た い と い う ので は あ り ま せ ん 。 こ ん な 僕が た だ いや だ と 言 う ので も あ り ま せ ん 。 あ な た の中で 僕 の 記憶が 蘇 る なら 、 僕 は それを か っ さら い 、 き っと在る だ ろ う 僕 のも う一 つ の可能 性 を 生きて み た いと思うのです⋮お前の見上げ た空は何 色だった? ︵ 星 空を 見 上 げて ︶ 人 が 死 ぬ 時 は 何 時 だ って 、 視 線 は 地面す れす れに ある と は思わ な いか い。 き っと それ は こ の人 の一 生で 一 番 低 い視線 な んだ 。 そ の 視線 は そ の 人 の 最 後 の 風 景 と し て そ の 脳 裏 に深 く 刻 ま れ る だ ろ う 。 す べて の人 の 最 後 の 風景が き れ いだ っ た ら い いのに ね え 。 それで 十分だと 思わ な いか い、 それ で いいんだ よ ね。⋮君が 水中から 見上げた視線は水面を突き抜けて お 願 い だ か ら も う ほ っ と いて ッ 。 お 願 い だ か ら も う ほ っ と いて ッ 。 お 願 い だ か ら も う ほ っ と いて ッ 。 お願 いだから 一人にして ッ! お願 いだから 一人にして ッ! お願 いだから 一人にして ッ! お願 いッ ! 二人、 大きく踏み 出す。 女B お願 いッ ! 女A お願 いッ ! 女AB お 願 いだか ら 寝てち ょ うだ い。 女AB 泣 か な いで 。 女B 寝て 。 女A 泣か ないで 。 女B 寝て 。 女A 泣か ないで 。 女B 寝て 。 女A 泣か ないで 。 女B 寝て 。 女A 泣か ないで 。 女AB お 願 いッ ! 女Aは 出刃包丁で 魚を刺し た。女Bは招き猫を 絞 め 殺 し た 。 音楽 C O 。 女A・女Bの号泣が続く。そして続く。 女Aは 出刃包丁を 持つ。女 Bは魚を持 つ。 女AB そ んなに泣 くと、お父 さんが 起 きるでしょ 。 女B そ ん な に 泣 く と 、 お 婆 さ んが 起き るで し ょ 。 女A そん なに泣くと、近所の人が 起き るでしょ。 女AB お 願 いだか ら 寝て ッ ! 女 B は さか なを 子 供 の 首 を 絞 め る 。 女Aは女Bから魚を狂ったようにとる 。女Bの 対象は招き猫に変わる。女Bは傘をさし 雨降る 外 へで たよ う だ 。 女A そ ん なふ う に 子 供 の 首 を 絞 め た ん じ ゃ な い ん だ ろ ッ 。 女B いいえ 、 私はこ うして 子 供を 刺し 殺し たんで す⋮ そん なふ うに子 供を 刺し 殺し た んじ ゃ な いん だろ うッ ? 女A い い え 、 わ た し は こ うし て 子 供 の 首 を 絞 め た んで す ⋮ ⋮ そ ん なふ う に 子 供 の 首を 絞 め た んじゃ な い ん だ ろ う ッ? 女B いいえ 、 私はこ うして 子 供を 刺し 殺し たんで す⋮⋮ そ ん なふ う に 子 供 を 刺 し 殺 し た ん じ じ ゃ な い ん だ ろ う ッ ? 女A い い え 、 わ た し は こ うし て 子 供 の 首 を 絞 め た んで す ⋮ そ ん なふ う に 子 供 を 殺 し た ん じ ゃ な い ん だ ろ う ッ ? 女AB は い、 私が こ の 手で 、 こ の母 の 手で 、我 が 子 の 首を 146 女A 女B 女A 女B 女A 女B 女A 147 女A 街が あったからッ! 女B 政治 が 気 に く わ なか っ た か ら ッ ! 女AB 天 皇ヒ ロヒ ト が 死 んで し ま っ た か ら ッ ! 女AB ち が う⋮ 女B すべては違うわッ ! 女A そし て す べて は そうよッ ! 女AB だからわたしを殺して ッ! [ 章 ] 12 絞 め た んで す ッ ! 女A そし て 、 あた しも 死のう と おも っ たんです 。 女B で も 、 怖 く な っ た ので す 。 い いや そん なこ と は な い⋮ でもこうして生きて いる。 女A わか ら ない⋮ 女B そ の 目 は あ た し を 信 じ て いま し た 。す べて を 許 す よ う に⋮でも 、 死を 受け 入れる目の輝きなど が あるでし ょ うか 。 女A 微笑 んで さえ いまし た 。 女B そう よ 、手を こ のわたし に 差し の べさえ し た のよ 。 女A なぜ なのッ! 女B 微笑 んで いたからッ ? 女A 邪魔だったんでしょッ? 女B 包丁が あったからッ? 女A お酒 の んで た から ッ ? 女B テレ ビが うる さか ったか らッ ? 女A 男が 憎か ったからッ ? 女B お客が来たか らッ ? 女A お隣が気にくわなか ったからッ? 女B 暑苦しかったからッ! 女A 電車が通り過 ぎたからッ ? 女B 人 が 歩 いて い た か ら ッ ! 女A 話し 声が聞こえ たからッ ! 女B 外が うるさか ったんで し ょッ ! 女A ビ ル が 高す ぎ たから ッ ! 女B 人が 多すぎたからッ! 空間が 歪む 。 二人はこの劇的なるものを 実証する。 中島み ゆきの﹃世情﹄流れる。 女Aと 女Bは互いに首を絞 めはじめる 。数分の 女Aと女B の、したが って女の 自死へ至ろうと する場。 音楽 C O。同時に 女B倒れ る 。女A立 ったまま 絶命か ? 女A泣き崩れる。 女B静かに起き上がり、女 Aに傘をさしかける 。 女B 傘ささないと 身体に毒よ 。 [ 章 ] 13 女A 綺麗なお星さまね。 女B 月 な んて で て な い わ 。 女A あじ さい、き っと 綺麗だ わ 。 女B えッ ? 女A 雨 上 が り の 朝 の 紫陽 花 。 女B そうね。 女AB ︵ 間︶⋮ 女A あし たが ⋮ 女B あし たが ⋮ 女AB あ し たが あ れ ば !⋮ 148 女A傘をさす 。 静に音楽入る。 小 柳 ル ミ コ ﹃ おひ さ し ぶ り ね ﹄ 最後の 身体の展開 。足を踏む 。踏むこ とで の身 体の開放。 フィナ ーレ 149 幕 Ⅳ 後 記 150 151 ① 151 158 未知座小劇場からの報告・2006 ﹃力場 の論理 ︱ 演技につ いて ・序章 ﹄ ﹃未知座小劇場からの報告﹄と題して 、十年前に 書き始め たこ の拙文 の想 いは 、思 いの丈を 遥かに 凌 駕して 霧 散し 、以 降、幾 度 頓 挫 し たこ とで あろ う か 。 頭を 擡 げて そし て 消え て 行ったその幾多の想 念は、もうすでに数え 上げるこ となどは できはしない。 今 あら た め て 、こ こ で 筆を 起 こ す こ と が 可 能 で あ る と は 、 露 程も 思 わ な いが 、 せめ て 露 分 け 衣 の 一 枚 は 剥 が し た いと 思 う。 想 いは 、 全 体を 構 想 し 、 それ を そ のよ うに 提 出し た い の だ 、 と し て あり 、や は り それ は 捨て が た く あ る 。 全 体 は 想 念 と し て 構想し う るが 、現 場と いう一 つ の具 体 性が 、 その 全体を 常 に 喰 い破る 。具 体 性 と はここ で は力で あ るこ とを 止 め ず 、 全 体の構想を 遠ざけず にはおかなかった。きっと、現 場性とは そのよ うに して ある ので あろ う 。現 場 性 と は 常に 発 案や 身 体 の 正当 化 の 連続で あ る の だ か ら 。 こ の連続 の一時 点を 切り取ることは可 能で あろうか ? やはり、やはりき っと、可能ではないのだ。ある 切り取り に よ って 、 全 体 の 構 想 は 変 容 す る 。 だ か ら そこ で は 、 一 つ の 積み重ねと 、も う一 つの積み重 ねによ って 、その非 連続の連 続 に よ って 、 全 体 と して の 想 念 に 漸 進 す る し か な い のも ま た 、 あら ためて 言 う まで も な いで あ ろ う 。つ いに 全 体 と して の 想 念 と い う 構 想 は 、 虚 構で ある の だが 、こ の 全 体 と い う パラ ダ イムの限界が白日の下に晒されるのは、一つの積み 重ねと、 もう一つの積み重ねによる推敲 の論理性を 楯にとるしか術が 無 い のも 、 こ れ ま た 同時 に 、 あ ら ため て 言 う まで も な いで あ ろう。 152 ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ;; ① 未知座小劇場からの報告・2006 ② あとがきと解題 36 153 はないので あった。で あるが、こ の事態を論理化し 、文章化 することが わ たし の責務で あり 、そのよ うな位置、 あるいは 立 場で あ っ たと 、 自 身で は 思 い 込 んで い る 。現 時 点 で も そ の よ う に 位 置 付 けて い るこ と に 変 わ り は な い 。説 明責 任は 以来 、 わたしの側 に あり 続けて いるので あった 。 未知座小 劇場の集団性を解体することとは、まず 、既存の 方 法で 舞台 や テ ン ト 公 演 を 行 為 し な いこ と で あ る の だ か ら 、 現象的には ﹁集団性を解体する ﹂は、未知座小劇場 の解体と して 、演劇 状況には 出現する 。こ れは 甘 受す ればな るよ うに なると いう しか ない 。しかし 、 われわれという未知 座小劇場 は、その思 い込みだ け によ って 展開で き たわけで は な いので あるから 、 その 舞台 は多 くの具 体的な、 有無名 性に 関わら ず 、 幾 多 の 方々 の 無 私 の 物 心 両 面 に よ る エ ネ ル ギ ー の 傾 注を い た だ くこ と に よ って 可 能 と な っ た ので ある か ら 、 論 理 化 と い う 言 語 化 作 業 を へて 、 事 態 の 報 告 を 提 出 し 公 開 す る こ と を 、 礼 わたしにはここ 十 年、次のよ うな脅迫観念が ある 。 を 失 し な い ため の 、 わ た し が 自 身 に 課 す 責 務で あろ う、 と し 未知 座小 劇場が 集 団を標榜す るこ とを 停め 、その 集団性を てきたので あった。こ の意味で 、十年来 わたしは礼を失して 解 体す るこ とを 確認 し た のが 、 1996 年5∼6月にかけて いる 、と い うこ と に なる のは 間 違 いな い ので ある 。 行った第 回テント 公演﹃レス ピレーター﹄に重なるからや こ とが 、 状 況 にか ま け た だ け なら ば何 とで も なる 。ま た 、 はり十年来 のものと なる。 集 団を 標 榜 す るこ と を 停め 、 そ の 止め た こ と の 展 望 を 、 以 降 未知座小 劇場の集団性を解体することが、同時に 未知座小 の演劇営為 が更なる 展開で ある としてま ず自身が 指し示すこ 劇場 そのも のの論理 的解消を 論 証し、そ れを 受け入 れざるを とがで きて いるので あれば、ある いは そ の道程が 方 法として 得 な いと い うこ とで は なか っ た ので ある か ら 、ま あ それ は ど 可 能で ある と 位 置づ け るこ とが で きて い た なら ば 、 現 場 性 の う と い う こ と は な い ので ある が 、 そ の こ と に よ って わ た し の 舞台 へのこ だわりが 頓挫し たわ けで ない ので あるか ら 、事 実 、 みが可能 性を 開示で きると位置づけるこ とがで きて いたなら ば 、 な ん と も いえ ぬ こ の 脅 迫 観 念 は な い ので あ っ た 。 わ たし は わ たし と し て 未知 座小 劇場を 持 続す るこ と を 諦めて い な い ので ある か ら 、 ま っ と う な と こ で は 何 も 変 わ っ た ので だ か ら や は り 、 現 時 点で 明 確 に 言 え る こ と は 、 論 理 化 と い さて 、こ の拙文 の 初めで 、想 念と いう 構想が 陳べら れる 。 あるいはま た、仮に わたしが﹃ 力場の論 理﹄という 一文をも の に す る と す る なら 、こ こ は 序 章 と い う こ と に な る だ ろ う 。 なににこ だわり、 なにを 陳べるのか 。 それはそも そもはた して 、語る に足る 価値が あるの か 、どの よ うな方法を取るの か、ということになるのだが、 それはまたしても﹃ 未知座小 劇場 か ら の 報告 ﹄が 、こ こ で は 完 結し な いこ とを 意 味す る 。 で ある が 、 それ は 遅 々 と し て あ る 重 い 歩 一 歩を 進 め る 一 つ の 作 業 仮 説 で は あ る と いえ る 。 ま た 、 未 知 座 小 劇 場 が 今 抱 え る ﹁テント 公 演﹂を 前 にして 、黙 して 座す か のよ うな 体たら く は、人 後に 落ち るで あろう。ま あ、実は そのよ うなこ とはど うで も 良 く 、 現 場 は 明ら か に 動 き 始 め た 、 と い うこ とこ そが 射 程 さ れて ある 。 154 う組織︵=戦後民主 主義︶に対する相対 的価値として仮設さ う 言 語 化 作 業 の 頓 挫 と い う 、 わ た し の そ の 力 量 の な さこ そが れ た は ず で ある 。 そ れ が こ の 集 団 論 の 歴 史 性で ある 。行 為 す ﹁未知 座小 劇場が 集 団を標榜す るこ とを 停め ﹂ざる を 得なか るこ と のま じ め に い い加 減で あ るこ と の 価値 、 それで も な お 、 っ た 大元 な の だ と い うこ と は 、 わ た し が わ た し 自 身 に 言 わ ざ 自 身が 引 き 受け ざ る を 得 な い背 反 性に は 居 直る ので は な くま るを 得 な い ので あ っ た 。こ こ が 出発で あ り 、こ れを 本 質と し ともに向き 合おうとする倫理性、それを 基準にすることによ て 見据え る こ とで 、 論理 展開を 可能 とし た 。 って 初めて 対話や 、 他 者 への意 思が 成立 す るとす る 決意 性、 すでに出発から、こ の事態を 社会科学 的なもう一 つの政治 こ れ ら を 象 徴と し て 内 含す る 集 団 論 は 、 相 対 す る 組 織論 が 、 性を 持ち 出 し 、概 括 を 試み るこ と は 不 能 で あると 実 感 して い よ り 現 代 的 に 合 理 化 さ れ るこ と に よ って 、 市 民 化 さ れ るこ と た 。 そ れ は 、 いや そ の 道 程こ そ 、 も う 一 つ の ﹁ 未 知 座小 劇 場 に よ って 瓦 解 し た 。 こ れら が 総 じ て ポス ト 構造 主義 へ なだ れ が 集 団を 標 榜す るこ とを 停め ﹂ たに 辿り 着 くで あろ う 。 経緯 を う ったと いうのは 容易 い。わ たし はこ れを称して 相対 的客 は そ のよ う なも のと して あ っ た 。 観 主義と い うが 、 そこ で は なに も 問 題 は 解 決 さ れ な いので あ った。 書き始めると、いいように筆が滑り始める。道程を整理し 問 題 は 、 ど の よ う に 言 語 化 す るか 、 と し て 収 束し た 。こ の て お くこ と に し よ う 。 作業は頓挫 して いる 。しかし、 自身の状 況は推 移す る 。推 移 こ こ で い う ﹁ 未知 座小 劇場が 集団を 標 榜す るこ と を 停め ﹂ する中で 頓挫すると は、現場性の中で行為として思考せざる と は 集 団 の 枯 渇で は な く 集 団 論 の 枯 渇 の こ と で ある 。 かりに一 つの物言 いとして ﹁ 集団は時 間とともに 腐敗する ﹂ を 得 な いと いうこ と で あった 。こ の 作業 は 同時 に 、 位 置付け る ため の 言 語を 獲 得 す る と い う 作 業が 課 せら れ る 。 複雑に 入 と いうテー ゼが あっ たとして 、 こ れは組 織と いう物 理 性には り組むが、 それは言 語を持たな いということで ある 。言語を 的を 射るで あろうが 、 集団とは わ たし のこ とで ある とす ると 持 たな いと は思考が 不能で ある と いうこ とで あり 、 方向 性を き 、こ の 物 言 いは何 も のも 分 析 して い な いこ とが わ か る 。 つ 確 定で き な いこ と に なる 。 ま り 、 わ た し は 腐 敗 し た と い っ て 、 自 身 を 打 っ 遣 る こ と ので き る 行 為 な ど ど こ に も な い 、 と い う だ け で 十分で あ ろ う 。こ こ のこ と が ま っ た きを 得て 懐 疑 な い な ら ば それ は 破綻で あ る 。だが 、 こ と は ﹁ 未知 座小 劇 場 の 集 団 性を 解 体す る ﹂ と は の 視 点で 十 分で あ っ た 、 と い う べ き だ ろ う 。 つ ま り 、こ れ を を 、 ど のよ うに 読む か と い うこ とで あ っ た 。こ の ア プロ ー チ 主 体 性 論 と し た と き 、こ の 集 団 論 は 枯 渇 す る 。 事 態 は 、こ の 手順が言語 化を 導くということで あった 。それは、 たとえ ば 集団論を言 語論として射程することが、やがて要請 されるこ ここで いう ﹁もう一 つの政治性 ﹂とは﹁行為するこ とのまじ と に な っ た ので あっ た 。 め に い い加 減で ある こ と の 価値 、 そ れで も な お 、 自 身が 引 き さて こ こ で わ たし が 言 う 集団 論 の 出 自 は 、 党派 性 など と い いつも立ち 止 って 考 え るわけに も いか な いからで な く、 見え な い の だ 。こ の と き 、 な さ れ るこ と は ﹁ 見え な い﹂ ことにこだ わることしかできはしない。 付け焼刃に 借 り物の思想 性を 孫引きしたとこ ろで、す ぐにその鍍 金 ははげるのだ。だから、静かに 自身の中に垂らした推 力 に 合 わ せ て 、 果て 度 な い 井 戸 を 掘 る の が い い 。 井 の 中 の 蛙 と 手 を 繋 ぐ な ら ま ず は 繋 いで み る こ と だ 。や が て その蛙を 、はるか 下から 見 上 げ なけれ ば なら な い の で あるか ら 、 ま ず は それを 楽 し んで み る こ と だ 。孤 独 と 寂寞 の な かで 、 ゆ るや か なリ ズ ム を 刻 む ので ある 。 三 島 由 紀夫 の 自 決 、 高 橋和 巳 の 自 死 、 妙 義 山 に い た る 惨 死 か ら 、こ れら の三 方 の ベ ク ト ルか ら す る 、す く ん で し ま っ た 地 点 に 、 無 名 の 死 を 仮 想 し 、 そこ か ら 自 身 の 中 に 垂 ら し た 推 力 に 合 わ せ て し た 、 果て 度 な い 下 降の井戸 の なか にま だ いるが 、 たまに そ んな一 点か ら 頭 上を 見 上 げ たと し て も 、や は り 満 天 の 星 空 は 見え る ので ある 。 それは一 重に孤立す るこ とを 意味する 作 業 で あ っ た と いえ る 。 こ の拙文は そんな地点からする 、まずはの 経過 報告 で ある 。 こ の﹁ 書か なけ れ ば な ら なか っ たこ と ﹂は き わめて 個 的 なこ と に な る こ とを 、 あら か じ め お 断 り し て お き た い 。 そ の よ う なも のと し て ﹁ 書か な け れ ば なら な か っ た こ と ﹂ は あ る 。 いや む し ろ 、 こ の ﹁ 書 か な け れ ば なら なか っ たこ と ﹂ を 具 体化す る ため に 、多 くのこ と は あ っ た と いえ る ほ どで ある 。 状 況 の 中 で 、 作為 さ れ た 行 為 が 、 生 活 の な か か ら の 必 然 的 な も ので ある か の よ う に 自 身を 標 榜 し て 、思 考 よ り ま ず 展 開こ そが 求め ら れ る と い うこ と は 多 々 あ る 。 こ の﹃ 書 か なけ れ ば なら なか っ たこ と ﹄ は ﹁ 霧散 し 、 幾度 な く頓挫 し た﹂も の の一 つで あ り 、 その メモから 転 載で ある 。 そ れ は ま ず そこ に 行 為 が ある あ こ と を 、 指 し 示 そ う と す る か ら で ある が 、 か と い って 、 結 果で 何 か が 和 解 し 、 こ こ で は ﹁ 未 知 座 小 劇 場 が 集 団 を 標 榜 す る こ と を 停 め ﹂ た の は 、 ど こ か ら 出 発 し た の か を 確 定し よ う と し て い る 。こ こ で 氷解すると いうこ と は そんなに あるわけではない。む しろ、迷路 こ そ用意 されて いる 、と いう のが 常だろ う。 いう﹁三島 由 紀夫の 自決、高橋和巳の自 死、妙義山 に いたる 155 受けざるを 得ない背反性には居 直るので はなくまともに向き 合 お う と す る 倫 理 性 、 そ れ を 基 準 に す る こ と に よ っ て 初めて 対話や 、他 者への意 思が 成立す るとする 決意性、こ れらを 象 徴として 内 含する集 団論﹂の残 骸として あった別名で あり、 だから 恥ず かし げも なく脈絡 上 明 確に言 ってしまわ ざるを 得 な いが 、 そ の 全 共 闘 運 動 論 も ま た ﹁ も う 一 つ の 政 治 性 ﹂で あ ったのだと したとき 、失語にい たらざる 得なか ったというこ とで あった 。つまり 、 あらかじ め 読むす べを 封印し て 出発し た ので あっ た 。 いま少し 、こ の事態に至った 経緯を 、 その前史を 綴って お きたい。それは、少しばかりのわたくし 事を 綴った引用にな るが、黙許 いただき たい。 156 ることは、 集団内部 に﹁もう一 つの、新しい物語﹂ではなく、 惨死﹂とは 、 未知 座小 劇場が 結 成された 1972 年 のこ と と 物 語 そ の も のが 再 生 産 さ れ る こ と に な っ た ので あっ た 。 そ れ な る 。こ こ か ら の ﹁ 果て 度 な い 井 戸を 掘 る ﹂ 営為 は 、 ま ず 政 は テ ン ト そ のも のが ︿ 物 語 ﹀ と な って し ま っ た の だ と いえ よ 治的言語の唾棄、それは政治か らの遁走 として表象された。 う 。き っと こ のと き ﹁行 為 す る こ と のま じ め に い い 加 減で あ こ の表 象を マニ フェ スト 化す れ ば 、 それ 以来 、 未知 座小 劇場 が 掲 げ る ﹁ 演 技 論で す べて を 突 破 せ よ ! ﹂ と な る の で あ っ た 。 るこ と の 価 値 、 それ で も な お、 自 身が 引 き 受け ざ る を 得 な い 背反性には居直るのではなくまともに向き合おうとする倫理 こで 獲得されるべき 演技論は、既存の物 語論への批 評性によ 性 、 そ れ を 基 準 に す るこ と に よ って 初 め て 対話 や 、 他 者 へ の って 方法化 されると し た。だが 、ここで の 集団論と いう運 動 意思が成立するとす る 決意性、これらを 象徴として 内 含す る 論 は 、 繰 り 返すこ と に な る が ﹁ 行 為 す る こ と の ま じ め に い い 集団論﹂が 物語と化 して いたので ある。物語と化す とは、そ 加 減で ある こ と の 価 値 、 それで も な お、 自 身が 引 き 受け ざ る れを 支え る 集団論と いう運 動が 、や はり つ いに 憤怒や 義 憤に を 得 な い背 反 性に は 居 直る ので は な くま とも に 向き 合 おうと 支え ら れ た 想 念 、多 く の 倫 理 性 に よ って 支え ら れて いたで あ す る 倫 理 性 、 そ れを 基 準 に す る こ と に よ って 初めて 対話 や 、 ろ う も の か ら 、 つ い に 決 別で き なか っ た と い うこ と で あ ろ う 。 他者への意思が成立するとする 決意 性、これらを象徴として こ れら の論 証 は 後論 に 譲るが 、 つまり そ れら の 根 拠 は つ いに 、 内 含す る 集 団 論 ﹂で あっ た 。 近代 主義的 な倫理性で あったと いうこ と になるでで あろう。 以 上を 経 過 と し て 、 ま た そ の よ う に 仮 設 す る なら 、こ こ で だがしかし 、わたし はどうして も強調し なければならないが 、 の 出 発 と な って いる ﹁ 未 知 座 小 劇 場 が 集 団を 標 榜 す るこ と を 仮想した﹁ 無名の死 ﹂は、なにがどう推 移しようと 、厳然た 停め ﹂ た 経 緯 は 、 言 葉で 言 って し まえ ば ﹁ 既 存 の 物 語 論 への る 事 実 と し て あ り つ づ け る ので あ っ た 。 批 評 性 ﹂を 勝ち 取 れ なか っ た 結 果で ある と い うこ と に な る 。 こ こ で いう 物 語 論 が 射 程 す る 、 物 語 の 最 高 形 態 と し て の 天 皇 こ のよ う に して 、 解 体 の 対 象 と して 射 程し た概 念 に よ って 、 自 身が 解 体 す る 。こ こ に こ そ 、 わ れ わ れ が た ど り 着 いた ﹁ 未 制という概 念に、集 団として 展 開した運 動が 、論難 され破綻 知 座小 劇場 の 集団性 を 解 体す る ﹂と いう 作業の 本 質 は あ っ た し た ので あ っ た 。 方 法 的に 少し だ け 踏 み 込 んで 発 言 す れ ば 、 ので ある 。 す で に 迷 路 の中 に 迷 い込 んで い た 演 劇 的 物 語 性 に 対 し て 、 集 団で す る も う一 つ の 、 新 し い物 語 を 対 置 で き なか っ た ので あ 論証を待 つまでも 無く、未知 座小劇場もまた時代 の思想的 った。 限 界に 無 縁 で なか っ た ので あ っ た 。 その よ う に 言 い 切 って し 物語や集団、ある いは運動の概念規定を避けたまま、命題 まえ る なら 、 言 い 切 って し ま い た い 。一 気 に 状況 の 方に掻 っ ら し き も の を 放 り 投 げて いる が 、こ の 拙 文 の 位 置 付 け が ﹁ 序 攫え る なら 、 それに 越し た事は な いので あるが ⋮⋮ 章 ﹂で ある と い うこ とで お許 し 願 う し か な いが 、 総 じ て いえ S M B D R できるなら ﹁情報と して の物語 ﹂などと 記述せず、 愚 直にか こ のよ う にして 十 年の 経過 は 始 ま った ので あった 。 つ直截に こ の 間 の 仮 説 は 、 物 語 と は 情 報のこ と で あ る 、 と い う テ ー ︵ ︻ リ レ ー ショ ナ ル デ ー タ ベース 管 理 シス テ ゼに推 移し た 。こ の 転位は、ロ ラ ン ・バ ルトが 物語 の あれこ ム︼・ ︶としたい れに言及す る一つの 手立てとして の、テクスト論に 通じるで のは山々で あるが 、すると物語 ↓情 報↓ の 連 綿が 素 っ あろ うか 。 それ は 残 念 ながら 、 観 るこ と を 研 鑽 せ ぬ 、も の い 飛び ﹁ 情 報 と し て の 物 語 ﹂ と い う 物 言 い が 仮 設 さ れ な い ので う 観 客 に 過 ぎ な い の で は な いか 、 と 悪 意 を も って 捻 じ 曲 げ た ある 。 い ので ある が 、 そ う も 行 くま い 。 だが 、 や は り 、こ と は 解 析 こ の 十 年 の 経過 の 模索 として 、 未知 座 小 劇場 は そ の一 つと す るこ とで は な く行 為 す るこ と に ある 。 物 語 は デ ー タと し て して 、情 報 の極 北と いう現在を 求め一般 第二種電気 通信事業 情 報の傘下 に下 った ので あるか ら 、 繰り 返すが 、解 析によ っ 者となりレ ンタルサーバサービ スを結果した。笑い話ではな て 情 報は物 理 的力を 持ち うるで あろうが 、こ とは そ の解 析で く、情報の 最先端は ネットワークシステムのサーバ・クライ は な く行為 で ある 。 アント 型サ ービス の なかに あり 、揚言す れば﹁す べて はデー この自問 は、情報として の物 語は、それは行為す ることの タベース化できる﹂というドク サまで 辿 り着いたので あった 。 リ アリ ティ ーは いか にして 獲得 されるか 、 へと 作業 仮 説を 導 この﹁すべてはデー タベース化できる﹂を換言すれば、私の く。 性欲 さえ ヴ ァ ー チャ ル の中で 提 供し 、 実 体化す るこ とで 解 消 ここは序 説で ある 。先走るのは止めよ う。 で き る と い うこ とで ある 、と い う シス テ ム を 意 味す る 。だか 右記の﹁行為することのリアリティー ﹂とは演技 の方法の ら、いま物 語りは情 報として 切 り刻まれ 、データの 海の中で ことであった。それを取り巻く状況をここで﹁情 報として の 瀕死といおうか、それは溺死寸前で あり 、死滅を 前にして い 物 語 ﹂ と 仮 設し た と こ ろ で 、 な に も 語 っ て は い な い ので あっ る と い うこ とに な る だろ う か 。 た 。 つ ま り 、 情 報 に つ いて 何 事 も 語 って い な いし 、 位 置 付 け 右 記 の こ と を 踏 ま え 、現 在 新 聞 紙 上 を 賑 わ す 、 法 的 に 起 訴 て も い な い 。 そこ で 強 引 に 言 い ま わ し て み れ ば 、こ こ で は 情 されて いる ︵ ウ ィ ニ ー ︶ を み て み る なら 、こ の フ ァ イ 報は、デー タとして 流通するので あるか ら 、まずは 個別主体 ル 共 有ソ フ ト が サー バ・クラ イ アント 型 サービ ス シ ス テムで の︷ ルビ パロ ー ル ︸ 言 葉 ︷ ル ビ ︸︵ ︶として あるし あったら現 状 の検察側から の求刑はなか ったで あろ う 。現状 か な い 。こ のよ うで あれ ば 、 物 語 は 情 報 を 形 作る デ ー タ の 位 は 、こ の シ ス テ ム が ︵ ︶技術という中央サ 置を 逸 脱で き ないので あるから 、物語は つ いに 倫理 や 、道徳 ー バを 媒 介 し な い 無 政 府 的 な 連 関 シス テ ム に よ り 展 開 さ れて や 、 伝 説 等 と して 結 実し な い の で ある 。 こ れを ま ず ﹁情 報と い る 結 果で ある 。情 報 の 権力 性 か ら は 著 作 権 云 々 は 瑣 末 なこ して の物語 ﹂と称 呼 し たとこ ろ で 、残 る のは匠 気で し か な い 。 とに過ぎな い。幻想で あるが 、 情 報管理がついに可 能で ある m e t s y S t n e m e g a n a M e s a B a t a D l a n o i t a l e R 157 S M B D R y n n i W e l o r a p / r e e P o t r e e P P 2 P のこ とで あ る 。し た が って 当 然 、 未知 座 小 劇 場 の 表 現 論 は 、 記号学 への 接 近と い う事態に、 導びかれ た。こ れら の詳細は 本論に 譲り 、ここで は粗筋め いて概 括す れば、それ は前述の ﹁未知 座小 劇場が 集 団を標榜す るこ とを 停め ﹂をま ったく発 想を 異にし た 地平で 位 置付ける と いう 作 業を 意味し た。換言 す れ ば 、 未 知 座小 劇 場 の情 報論 は 言 語学 と 手を 結ぶ こ と に よ って 、 新 た なるも う 一 つ の 物 語 など と 表 象す るこ と を 止め た の だ と いえ る 。 レ ト リ ッ ク と し て ﹁ 新 た な る も う 一 つ の 物 語 ﹂ といったところで 、 それはもう︿物語﹀でないのは明白で あ る。それは、未知 座小劇場そのものとしての︿力場 ﹀となっ た。 思索の種 明かしを 具体的に綴れば、例えば﹁︷ルビ ラン ガージュ ︸言葉︷ ル ビ ︸ は 常 に ︷ ルビ ラ ン グ ︸言 語︷ ル ビ ︸に助けら れて現 れ出る、と 言え るで しょう。︷ ルビ ラ ンガージュ ︸言葉︷ ルビ ︸は ︷ルビ ラ ング︸言語 ︷ ルビ ︸ が な くて は 存在で き な い ので す 。︷ ルビ ラ ンガ ー ジュ ︸言 個 葉︷ ルビ ︸の方は完 全に︷ルビ アンデ ィ ヴィデュ ︸ ︷ ルビ︸から逃れて おり﹂︵ ﹃一般言語学 第三回講義︱コ ンスタンタンによる 講義記録﹄ 相原奈津江 ・訳︶と いう行が ある 。強 いてこ の行 で はないと だめだと いうこ とで はない。 こ の部 位を ﹁︷ ルビ ラ ンガ ー ジュ ︸演 劇 ︷ ルビ ︸ は常に ︷ ルビ ラ ン グ ︸ 舞台 ︷ ルビ ︸ に助 けら れて 現 れ出 る、と言 え るで し ょ う 。︷ ル ビ ラ ンガ ー ジュ ︸演 劇︷ ルビ ︸は︷ル ビ ラ ン グ ︸ 舞台 ︷ ルビ ︸が な くて は 存 在で き ない のです 。 ︷ ルビ ラ ンガ ー ジュ ︸演 劇︷ ルビ ︸の 方は完 全に ︷ ルビ アンディヴィデュ︸ 俳優 ︷ ルビ ︸か ら逃れて おり﹂と n n i W と い う イ デ オ ロ ギ ー に 根 ざ し た 茶 番で あ る の だ 。 ま た 、こ こ で 展開されて いる法理念を、素人として 展開してみ れば、舞 台で殺人の 場面が あ ったので 、 現 実に殺 人事件が 起 きたこと の 舞 台 の犯 罪 性 を 問 って いる よ う に 装 う こ と 、 そ れ は 、 ピ ス ト ル に よ る 殺 人 事 件 の 因 果で 、 ピ ス ト ル 発 明 者 の 犯 罪 性を 問 うこ とに 似 る 。こ ん な論理は破 綻して い るこ と は言 うまで も な い 。 そこ で の 尚 且 つ の 振 る 舞 い は 、 い いよ う に ナ リ フリ か まった、情 報の権力 化という囲 い込みで あり、本質は権力闘 争で ある 。で あるが 、すで に情 報が 権力 に 囲い込ま れるとこ ろ に 立 ち 止 ま って は い な い の も 確かで あ る 。 情 報 は 情 報 と し て ある ので は な く、 デー タとし て ある の で あった 。 すで に 情 報はア・プ リオ リに あるこ とは ない。こ こ まで 綴る と、 ︵ ウ ィ ニ ー ︶ 作 成 の プロ グラ マー に 触 れ る の が エ チ ケ ッ ト で ある だ ろ うが 、こ れは 特 に な い 。 た だ 、 餅屋 は 餅 屋 と して キ ッ チリ落 とし 前 を つ け る し か な い ので は と 思 う 。 それ はで きるのだ、という立 場にわたし は今いる 。 十年の模索の経過 は、一つと してこ のように情報の現在の 明確化を迫 った。同時に﹁もう一つの政治性﹂によらない表 現 論 を 要 求 し た 。 以 降 の各 章 の 多 くを 割 いて 、こ の 内容 を 開 陳す るこ とになるだろう。末尾にこ れら の方法の種 明かしを こ こ で し て お いて 、 こ の ﹁ 未 知 座 小 劇 場 か ら の 報 告 ・2 0 0 6 ﹂を 閉 じ るこ と に し た い 。 未知座小 劇場は、言語学を援用し、その表現論を 仮設する ことから出発した。それは十年前の情報論とともに あった、 も う 一 つ の 大き な 支 柱で あ っ た 。こ れ は き っと 奇 異 に聞え る で あろう。 だが 、こ こで いいた いのは、 情 報と言語 学 の絡み / / 158 / / y / / / / / / / / 159 理 ﹄ の 命 題 で あ っ た 。こ こ が 序 章 と い う こ と で 、こ のよ う な す るこ とで 出発 し た ので あっ た 。 更 なる 物 言 いが 許 さ れ る と す る なら 、 未 知 座小 劇場 のこ れら これらを 集団論に 暫定してみよう。﹁ラングという共同幻 の 命 題 へ の 論 証 接 近 は 、 それ は ﹁ 演 劇を 演 劇 的に 死 滅 さ せ る ﹂ 想が 、 いか に 私 たち を 規 制して いる か 、 そして いか に 惰 性化 に は の 命 題 を 射 程 す るこ と に な る だ ろ う 。 つ いで 、 こ う な る が 強 いも の で あるか 、と い う 記 号 の 世 界 の 恐 ろ し さ に ほ か な と 定 式 化 は フッ サ ー ルを 突き ぬ け 、 ウ ィ ト ゲン シ ュ タ イ ン の りません。 その本質は人為 的関係に過ぎ ないのに、 あたかも ﹃論理哲学 論考﹄にで あう。と はいううものの、そこは﹃力 自 然 物 の よ う に 存 在 して いて 変 革 不 可 能 な 物 神 性 を 呈 し て い 場 の 論 理 ﹄ の 遠 い 向 こ うで あ る 。 いか ん と も し が た く、 自 身 る ﹂ ︵ ﹃ ソ シュ ー ル を 読む ﹄ 丸 山 圭 三 郎 ︶ と い うこ とに な れ の無能を思 い知ら さ れるだけで 、なんら の予断を許 されて は ば 、こ こ で ﹁ラ ン グ ﹂を ﹁ 集団 ﹂として 読みかえて み れ ば 、 い な い 。 し か し 、 な おこ の 状 況 、 こ の 地 平 で 未 知 座 小 劇 場 が パロールが 演技や 俳 優となり、 ある いは 集団を シニ フィアン 断 言 し う る の は 、 演 劇を し て も う 演 劇 に 返るこ と は な いで あ とすれば﹁ 演技や 俳優﹂はシニ フィエと なる。する と演劇と ろ う 、と い うこ とで あっ た 。 いうラ ンガ ー ジュ は 、 虚 構を 出 汁 に し た 可 能 性を 行 為 す る と こ うして 、すで にこ のとき前 述し た﹁ 未知 座小 劇 場の集団 いう営為に はなりはしないか。 性を 解 体す るこ とが 、 同時 に 未 知 座小 劇 場 そのも の の論 理 的 ここまで 定式化して、誤解を 恐れずも ないが、さらに誤解 を 恐 れて 異 なる 定式 化を 試み れ ば 、ラ ン ガ ー ジュ = 表現 営為 、 解消を論証 ﹂し、立証したとす ることは 、遠い昔で あるとい うこ とがで き る ので あった 。 ラ ン グ = 演 劇、 パロ ー ル = 舞台 、 演 技 = シ ー ニ ュ 、 俳優 = シ ニ ファ イ ン 、 観 客 = シニ フィ エ とで き た ので あ っ た 。こ れら の弁 証 法の 恣 意 的 な 全体が 、 未 知 座小 劇 場と いう変 数 に持 た 最 後 に 予 告 め くが 、こ の ﹁ 未 知 座 小 劇 場 か ら の 報 告 ・ 2 0 せた定数で あった。こ の物言いが何かを 指し示すこ とはない。 06 ﹂は、 大阪演劇情報センター出版から発刊予定の﹃力場 の論理﹄の ﹁序章﹂として 起稿した。﹃ 力場の論理 ﹄は、こ 一 つ の 仮 説 に 過 ぎ な いが 、 よ り 演 劇 と い う 関数 か ら 遠 ざ か る の 十 年来 の 拙 文 、 書 き 下 ろ し 文 や 寄 稿文 に よ って 編 ま れ る 予 術で あった 。それはまた、可能 性を行為 することのリアリテ 定で あ る 。 それ は 予 断 し て い た だ け る と 思 う が 、 ﹁ 全 体 を 構 ィを 獲得す る 方法を 模索する道 程で あっ た。もち ろ んす べて 想し、それをそのよ うに提出し たいのだ﹂とする想念を、正 を ま と めて 投棄 せ ざ るを え な い 、 など と いう 試行 錯 誤 は 度々 で あ っ たが 、 演 劇を 一 切 演 劇か ら 語ら な いこ とで の 思 惟こ そ 、 当 に 迫 って 固め 取 る と い う ので は な く 、 軟 弱 に も 大 風 呂 敷 を 広 げ 掬 い 上 げよ う と いうも ので ある 。 そ のよ う に し て 説 明 責 演劇的課題を凌駕し うるという仮設で あ った。それはまた、 任として 位 置付けた ﹁未知座小 劇場から の報告﹂を 完結しよ わ た し たち が 現 代 に お いて か か え る 思 想 的課 題 に 向 き 合 う 術 うというので あった 。 と も な っ た ので あっ た 。 い う ま で も な く こ れら は﹃ 力 場 の 論 ﹁死 んだものはもう帰ってこない。 生 きて いる も のは 生き て いるこ と し か 語ら ない 。﹂ ので あろ うか。 ︵ 記︶ 160 1 2 . 6 0 . 6 0 / / ② あ と が き と 解 題 2 n o i s i v e r 未知 座小 劇場が 揚 言し た﹁大 日本演劇 大系﹂は数 章ほど あ る。だが 、なぜ第五章・﹃ 大阪物語 ﹄と番外・ ﹃独戯﹄と 序の章・﹃明月記﹄ の三本を 連続上演し なければ なら な いの か ? と 問 うこ とか ら 始め よ う 。 前回の﹃ 大阪物語﹄の公演で ﹁ 大日本演劇大系﹂は一つの ︷ ルビ エ ポッ ク ︸区 切り︷ ル ビ ︸を 迎 え たよ う な ので ある 。 自 身で エ ポ ッ ク な ど と い う と 面 映 いが 、 大 そ う なこ とで は な く、こ の あ たりのこ とを 少しだ け﹁あと がき﹂をか りて 書い / つ いにこ こ まで 来 て わ たし は 、わ たし の 脅迫観念 に 少し ば か り の 距 離 を 置 くこ とが で き る よ う に な っ た か も し れ な い 。 が 、 あら た な 悔 恨 か ら 逃 れ る こ と はで き な いで あろ う 。 そ れ は﹁仮想し た︿無名 の死﹀は、 なにがど う推移しよ うと、厳 然 た る 事 実 と し て あ り つ づ け ﹂ る だ け だ か ら で は な い 。こ の ﹃力場の論 理﹄を 、 わたしが わ たし の無 力を 廃し、 せめて二 年前に 上梓 して いれ ば、こ の序 章 だけで も いいから 提示で き て いれ ば 、 も う 一 つ の あら た な ︿ 無 名 の 死 ﹀ に 向 き 合 うこ と は なか った ので は な いか 。 その よ う な、 何 かを 思 い 留 まら せ る事ので き る力がこ の拙文に あるなどと いうので は ない。無 力でも いいから、彼 に差し出すことさえ ⋮⋮ 。今はもう差し 出すこ とさえで き な いので ある が 、差し 出すこ とさえで きて いたならば 、そうして さえも、何もでき なかったか もしれな い ので ある が 、 語 り か け る 回 路 は 、 無 駄 話 で も い い の だ 、 そ れ は 成 立 し て い た か も し れ な い ので あ っ た 、 と 今 も 夢 想 す る 。 わたしは、前回の公演﹃大阪物語・︷ ルビ かが り︸鹿狩 ︷ ルビ ︸︷ルビ みち ぞう︸道 三︷ ルビ ︸追悼公 演﹄の台 本あとがきで﹁彼とともに幻視して いたで あろう演 劇的課題 に対し 、幾 ばくか の 、今はまだ 定かで は ない仮説を 、提示で き た ので は な いか と す る ﹂と 銘 記し た の で あ った 。 き っとこ れ は 後 先が 逆で ある の だ 。こ の ﹃ 力 場 の 論 理 ﹄ こ そ ﹁ 未 知 座 小 劇場が 集 団を 標 榜 す るこ とを 停め ﹂ の 経緯を 言 語 化 し たも のとして、まず提出 されなけれ ばならなかったのだ 。 こ うして つ いに、 苦渋 の悔恨 と なった 。 やはりも う、なんといおうと⋮⋮ だ けで ある 。 バ グ は 駆 逐 さ れ る こ とが 前 提で ある に も か か わ ら ず 、 バ グ が な く な っ た と き 、 そ の プロ グラ ム は 持 命 を 終え る 。 イ メー ジを 極 論 す れ ば 、完 成 と は 自 死 へ至る行 為 と なる ので ある 。 で は 、 破 綻 と 未 成 熟 と 未完 成 が 目 指 さ れ る べき な のか ? き っと そうで は あるま い。 / g u b g u b e d ︷ ルビ ち か ら ば ︸ 力 場︷ ル ビ ︸を 転 位 さ せ な け れ ば なら ない。力場とは何か と問われると、それはわたしの演劇的な 造語で あるから、少々 厄介になるがそれは、演劇的磁場を う ごめ く 身 体 の 棲 家 の こ とで ある 。煙に 巻 くよ うに な るこ とを 恐 れ る ので 、 と り あ え ず 、 舞台 のこ とで ある 、 と 言 い 放 って お くこ と に し た い 。 磁 場を ど の よ う に 転 位 さ せ る のか ?こ の 仮 設 に よ って 、 大 日本演劇大系連続三 本立て 興業 は捻出さ れた。例え ば、﹁独 戯﹂は出演 者は一人で ある 。﹁明月記﹂は出演者は二人で あ るが、相手を 自身と 思って いる 二人が居 る。つまり は二人と いう一人 な ので ある 。﹁大阪物 語﹂は出 演者は二人 で あった 。 こ れら の 結 果、 関係 と いう 構造 を 求め ざ るをえ なか ったよ う で ある 。構 造 と は相 対 的な 関係 性のこ と で は な い。 場と いう シス テム と して の 全 体で ある 。 こ こ で の 構造 は 記号 を 孕む 。 さて 、や は り﹁迎え たよ うなので ある﹂ と いう予 期 せぬ事態 こ そ、前述 の﹁オ ー バー フロ ﹂ に 似る 。 こ のよ う にして 、 未知 座小 劇 場は力場 を 転位させ る ため に 、 大日本演 劇 大系 連続 三本立て 興 業を 行為 す るこ とと なった 。 最後に、 今年の二 月段階で、このテント公演の企 画意図を 161 ) ( て おき たい 。 バッ ファ ・オ ー バ ー フロ ー と いう 言 葉 が ある 。 車 などで オ ー バ ー フロ ー と いえ ば 、 水や オ イ ル な ど が パ ー ツ か ら あふ れ るこ とを い う 。プロ グラ ミン グ 言語 の概 念で は﹁ プ ロ グラ ム が 確保 し た メモ リ サ イズを 越え て 文 字 列 が 入力 され ると領 域 が あふ れて オ ー バ ー フロ ー し ま い 、 予 期 し な い 動 作が 起 き る ﹂こ と を いう の だ が 、 総じ て 正 常で な い 、 ある い は 計 算 ど うりに いか なか った 状態を意味する。こ こで は﹁思 惑が 外れ た 、 そ ん な こ と に な る は ず は な いが 、 そ う な る か ? ﹂ と い う こ と に なる 。こ の 場 で は 、 少し だ け良 い 意 味 に 使 い た いの だ が 、 それで も バッ フ ァ ・オ ー バ ー フロ ー が 現 象す れ ば 、 それ はやはり不 良品で あ ったり、バグ︵ ︶ で あ る の で 、 シス テム の 命 取 り に な る 。何 ら か の 善 後 策 、 デ バッ グ ︵ ︶ が必要となる。 多 分 、計 算 ど おり にオ ー バー フロ ー に なるこ と は な い 。し か し 、 あら か じ め 完 成 さ れ た シ ス テ ム な ど な い の で あ る か ら 、 バグと いうオ ー バー フローが発 見されて 、修正され シス テム は 強 固 に な って い く 。 プ ロ グ ラ ム が 枯 れ る ま で 、 バ グと プロ グラ ム は 付 き 合 って い くこ と に なる 。面 白 いこ と に 、 バグが 発 見され な いよ うに なると 、 そ の プロ グラ ム は 枯れ たと言わ れ る 。 同 時 に 枯 れ る と は 、 新 た な る 要 求 に そ の プ ロ グラ ム が こ たえ き れ な い と い うこ と に な る 場 合が 多 い 。 少々 強 引 に ま と め れ ば 、 大 規 模 な シス テムで あれば あ る ほ ど 、 そ れが 万 全 に 運 用 さ れ る た め の プロ グラ ム は 、 完 全 無 欠 で あら なけ れ ば なら な い 。 し か し 、 残 念 なが ら 人 手が 絡 む 以 上 、 完 全無 欠 の プロ グラ ム など な い ので あるか ら 、完 成 に向か って 隣接す る た せ いも あ る が 、 再 演 は な い 。 再 演 よ り も 新 作を と い う のが 当 時 の 流 れで あ っ た 。 端 的 に いえ ば 、 テ ン ト 公 演 の 場 合 、 そ の 全 体 の 作 業 量が 新 作で あ ろ う と 旧 作 で あろうと な んらか わ りが な い、 と いうこ とが あった 。 ● 所 謂 ﹃ 大 日 本 演 劇 大 系 ﹄ に つ い て 少々 ・ 草 稿 ︱ さ ら に そこ に 、 未知 座小 劇 場 の テ ン ト 公 演 は 、 一 ヵ 所 企 画 書にか え て ︱● で な く数 ヵ 所で や る と い う 、 移 行 の概 念 が つ いて 回 っ て いた ので 、 その 全 体 性から 強 いら れ る 莫 大 な時 間 量 こ の冊 子 の 上演台 本 三 本 は 、 明 確 な意 図 に よ って 書 の中で は 、 吐 き捨て たも のより 、新たな る可能 性を 求 き 継が れ 、 連 作 さ れ たも ので は な い 。 そ れ ぞ れ の 状 況 め て 、 や は り 新 作を 抱え た い 、 と いう の が あ っ た の で の なかで 上 梓 し たも ので ある 。 執 筆時 期 も 異 なる 。 わ ある 。再 演 の イ メー ジを 想 起す るこ とす ら ありえ な か たし の記憶 が 正しけ れば、各々 の初演は 、多 分﹃明 月 った、というのが実情で あった 。 記﹄が一九八五年以 降だったし 、つづいて﹃独戯﹄は 1 9 9 0 年 前 後 の 筈 だ 。 ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ は 昨 年で ある 。 ﹃ 明 月 記 ﹄ と ﹃ 独 戯 ﹄ は 小 屋 を 想 定 し た 台 本で あ っ た ため に 、 その 再 演 の可 能 性が よ り あ っ た と い うこ と 不 確か な部 分は 上 演 記録 を 参 照 い た だ く し か な い 。 も あるが 、 事 情 は 少 々 違 う 。再 演 は 意 図 的で あ っ た 。 ﹃ 明 月記﹄は、大阪・枚方市で 行われたイ ベントか や は り ﹁ 大 日 本 演 劇 大系 ﹂ と い う冠 で あ る 。 ﹁ 大 日 本 ら 招 請 を う けて 実現 し た 。 本 番 まで 一 月 あまり し か な 演劇大系 ﹂というも のを想起し たのは﹃明月記﹄の 作 く 、 あ わ た だし く 初 日を 迎 え た 、 と 思 う 。 ﹃ 独 戯 ﹄ は 、 業と重なる 。 外部から 執 筆と演出 の依頼が あ って 公演 までこ ぎつ け た 。 多 分 客 の入 り が 悪か っ た の だ ろ う 、 原 稿 料 等を 辞 ふ り 返って み ると、こ の時 期は 、テント 公 演 の現 状 と 可 能 性が 捉え 返さ れよ うと し 、新 た な る 可 能 性が 模 退し たわけで はないが 、うやむ や の中で もらえ なか っ 索 されて い た。詳細 は﹃ 未知 座 小 劇場か ら の 報告﹄ の た ので あ っ た 。 現 在 も 受 け 取 っ て い な い 。こ の よ う に ﹁書かなけ ればなら なか った事 ﹂に譲るが 、要は、 未 記 憶 の 底を 掘り 起こ し なが ら 綴 り は じ め る と 、 少し ず 知 座小 劇場 の 新 た な る 展 開が さ ら なる イ メ ー ジで 切 り つ何かが 頭を擡 げて き そうだが 、それら のこ とども は 開けなかっ たので ある。言葉を かえ れば 、テント公 演 別の機会に 譲ろう。 が ス ケ ジュ ー ル 化 し 、 そ のこ と に 力 量が 傾 注 さ れ る 。 ﹃ 明 月記﹄ と﹃独戯﹄ はこ れま で 数 回の再 演を行 っ 持続しこ なされるこ とが問題と なる。わ たし の言葉で て き た 。こ れ に くら べ、 未知 座 小 劇場で 上演し た 、 他 は﹁物語としてのテント﹂となる。状況 的には構造 主 の 舞台 の再 演 は 、 そ の多 くが テ ント 公演 のも ので あ っ 162 説 明 し た メ モ 書 き を 転 載 し て 、 こ の ﹁ あ と が き ﹂ を 終え よ う 。 ] 2 n o i s i v e r 2 n o i s i v e r ﹃大阪物語﹄の公演は二〇〇五年十一 、十二月に 、大阪府 八尾の未知 座小劇場で行われた。未知座小劇場の公演として は 、 数 年ぶ り と な っ た 。 ま た 同 小 屋で の 興 業 は 十数 年ぶ り で あった。 ﹃大阪物語﹄の公演企画書は二〇〇四年十一月、打上花火 と 曼珠沙華 から 提出 され、 同 年 十二 月に 採 決され た が 、 提出 された企画 書に﹃大 阪物語﹄後 の公演を ﹁テント 公 演を射程 することで の今回の﹃大阪物語﹄公演﹂という企画意図が 盛 り 込 ま れ た 。こ こ に は 、 ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ は 単発で す る 公 演 で は な く、持 続 す る 意 志 を 展 開す る と いう 思 いが 反 映 さ れ たこ と に よ るが 、 十数 年の イ ン ター バ ル の 内容 が そのよ う に ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ を 規 定し た と い って い い 。 換 言 す れ ば 、 十数 年の イ ン タ ー バ ル が 明ら か に 演 劇 営 為 に よ って 支 え ら れ て き たこ とを 物 語 って い る 。 こ のよ う にして 今 回の﹃ 大阪 物語 ﹄ は出発し て あ っ た 。 そうして の テント 公 演で ある 。こ の解 題 の 場で テ ント 公 演 に つ いて 語 る 言 葉 を 多 く持 た な いが 、端 的 に 言 って し まえ ば 、 す べて が 論 理 化 さ れ て テ ン ト 公 演 が 行 為 さ れ る の で は な い、 と いうこ とで ある 。 こ の 他 の こ と ど も は 後述 の ﹃ 未知 座小 劇場 か ら の 報告 ﹄ に 譲るが 、 こ の 解 題 を 綴 って い る 段階で も うま く 報 告で き る か ど う か 心 も と な いと いう のが 、 163 [ 解題1・大阪物語 ) 7 0 . 2 0 . 6 0 義 か ら ポ ス ト 構 造 主 義 の なが れ と 重 な る 。こ れ ら の こ と が あ い ま って 、 舞 台 は ﹁ メ タ 演 劇 ﹂ の 様 相 を 呈 し た 。 それは意図 されたこ とだが、劇中の台詞 としては﹁も う返るべきロマンは ない﹂となった。 演 技 論 的に 綴れ ば 、行 為 す るこ と のリ アリ ティ 、 作 業するこ と の納得さ 加 減をどのように 集 団化しうる の か と い うこ とで あっ た 。何が 目 指 さ れて お り 、 ど の よ うに行為 さ れねばなら ないのか というこ とを語る言 葉 が 獲得され ねば なら なか った 。 それが 一 つ のド ク サ ︵ イ デオ ロ ギ ー ︶で あ って も い い の だが 、 真 摯 な行 為 に耐え うるドクサで なければなら なか っ たので ある 。 こ れら の問 題を とらえ 返す ため に、現 状の 再 検証が 目指された。具体的な作業として、演劇といわれるも のを解 体し て 、一か ら組み立て てみよ う と いうわけで ある 。もち ろん演劇 そのも のを 疑うため にで ある 。 抽 象的な作業ではなく、最もリアリティのない物語を行 くて に 仮 設 して み る 。こ のよ う に して 、 関係 、 身 体 、 言語等の検証が﹁大日本演劇大系﹂のそれぞれの、一 つの章として企まれた。 そ の 途 上で ある 現 在 、 テ ント 公 演 と な っ た 。こ の 作 業を ﹁大日 本演劇大系﹂を絡め て 語るに は別稿が いる。 ただ、こ の 地点で 言え るこ とは 、こ の冊 子 の上演台 本 三 本で 、こ れ ま で の 作業 を あら か た 全 体 と し て 指し 示 すこ とがで き る と い うこ とで あ る 。 こ の意味で 冊子 の三本で あり 、 ﹁ 大日本演 劇大系 ﹂ 三本立て 興 業で ある 。 ︵ 記 1 2 . 6 0 . 6 0 164 2 n o i s i v e r て 改めて 読 み 返して み た。こ ん な機会が ないとなか なかで き 現 状で ある 。 な い 作 業で 、 記 憶 の 遥 か 彼 方 に あ っ たも のが 、 突 然 突き つ け さて 、今 回の﹃ 大 阪物語 ﹄ の 出 演 者 はオ ー デ られたりもした。肩のはり具合といったらいいのか 、大言壮 ィ ショ ン に よ って 決 定し た 。前 回 の﹃ 大 阪物 語 ﹄で は 、オ ー 語 と い っ た ら い い の か 、 そ ん な も のが 特 に 目 に 付 く 。 だが 、 ディ ション による出 演 者と いうこ とを 前 提に台 本を 用 意し 、 こ れ はこ れ で ある 。 ま た 、 表 現 が 稚 拙で あ っ たとし て も 、 打 舞台を用意 する 勇気 は、残念で あるが持ち 得なか っ た。だか ち 消 す わ け に は いか な い 。こ こ か ら 出発 し た の は 、 間違 い な ら と い う 結 果だ け で は な いが 、 出 演 者 を 二 人 に し て ﹃ 大 阪 物 いので ある から⋮⋮ 語 ﹄ を 用 意 し た 。 今 回 は オ ー デ ィ シ ョ ン に よ って 出 演 者 を 決 定し 、 舞台 を 目 指し た 。オ ー デ ィ ション と いう シス テム に 対 思 いや 、 イ デオ ロ ギ ー 的 な面 を 修 正せ ざ るを 得 な いとこ ろ は ある が 、 決意 と い う 事で いえ ば 、 そ ん な 具 合で あ っ た の だ して 諸論が あるで あろうが 、こ こ への行 為 は、常に 二人だけ ろ う 。 つ ま り 、 そ う ず れて は い な い 。 の出演 者で 舞台を 目 指す と いうこ と は、 なか なか あ り 得な い だ ろ う と い う こ と で あ る 。ひ と え に 未 知 座 小 劇 場 は 未 知 座 小 こ こ が 解 題 と い う こ と で 、 資 料 を 転 載 す る こ と に し た 。 黙 殺す る と い う 習慣が わ たし に あ れ ば 、 そ れ は それで うれしか 劇場だけで は あり得 な い、と言 い切って も 仕 方が な いが 、 未 ったので あるが 。 知 座小 劇場 の 方 法で あるか ど う か は 、 今 後 の 展 開が 、 それを 確 定 し て い くこ と に な る だ ろ う と 、ひ と ま ず 言 って お くこ と ﹁ ﹃ 明 月 記 ﹄ と ﹃ 番 外 ・ 独 戯 ﹄ に つ い て ﹂ は 大 阪 ・ 八 尾 の シルキ ー ホ ー ル 上演 台 本に 寄 せ た文で あ る 。﹃ 明 月 記﹄ と にしたい。 ︵ 記︶ ﹃番外・独戯﹄を ﹁喰いあわせ公演・大日本演劇大系﹂と 銘 打 って おこ な っ た 。 ﹁物語論 あら 書き ﹂ は ﹃ 番 外 ・ 独 戯 ﹄ 初 演 の 際 の 、 台 本 あとが き に 寄せたも ので ある 、 と 日付か ら推 察して いる 。 [ 解題2・独戯 ︵ 記︶ 今 回 の 独 戯 は 、 劇 団 ど く ん ご の 時 折 旬 氏を 御 名 指 し て の 上 演で ある 。 ●﹁明月記・独戯 喰いあわせ公演・大日本演劇大系 ﹂ ﹃ 大 日 本 演 劇 大系 番 外 ・ 独 戯 ﹄ の 初 演 は 一 九 八 八 年で あ る。その後、二、三回の上演が ある 。未知座小劇場 以外の上 版後記● 演 は あ っ た や に 聞 き 及 んで い る が 、 手 元 に 資 料が な い 。 ﹃ ﹁ 明 月 記 ﹂ と ﹁ 番 外 ・ 独 戯 ﹂ に つ いて ﹄ こ の﹃ 番 外・独戯 ﹄を 改 作と 、こ の冊 子 に 収め る に あた っ ] 5 0 . 2 0 . 6 0 ●初版後記● ﹃ 物語論あら 書き﹄ 165 ) 点が 、 大日 本演 劇大 系 の出発で す 。 演 技 論 の違 いと い って 済 ま さ れ な い問 題 が 孕ま れて い る の で す が 、 と り あえ ず こ こ で は 、 関 係 の せ り 上 が る 瞬 間 に 、 演 劇 は 成 立 し 、 演 技 は 行 使 さ れ た ので あ る と、それは芝居の現 場で あったのだ、としたいわけで す。 多 くを 語ら ず さき に い き ます 。 一 人 演 劇は 、 百 歩 譲って ある と して い い。 だが 、一 人 芝 居 は な い 。こ れ は 、 言 葉 の 問 題 で は な い 。 一 人 演 劇で も な く一 人 芝 居で も な いも のと して 独 戯 を 設 定し ま し た 。 し たが って ﹃ 独 戯 ﹄ は ﹃ 明 月 記 ﹄ の 反 措 定で す , 相 互が 存在 を 問 うも の と して あ り ます 。こ の 摸索を とおして 第一章が発 見されるも のと考え ます。 以 上が 、 大 日 本 演 劇 大 系 の 三 年 間 と いえ ま す 。 八尾公演で なんらかの 結論がで るものと期待して い るところで す。 さ て 、こ の 大日 本 演 劇 大 系 と 、 テ ン ト の 関 係 は 大 日 本演劇大系 の大きな課題です。今後大日本演劇大系 の な か で 展 開 し て いけ れ ば さ い わ いで す 。 ︵文責・河野明 記 9 0 . 0 9 9 1 大 日本演 劇 大系 は 、 以 降 第一章 ・二 章 と 続 いて いて い く も ので す 。 そ の プラ ン は い って し ま え ば ﹁ 演 劇 が 演 劇 的に死 滅す る 瞬 間 ﹂ まで 摸 索 して み よ う と す る も ので す 。 こ れは ﹁ 自 然が 自然 的 に消 滅 ﹂ す るこ とが な いよ う に 、 ま た ﹁ 演 劇が 演 劇 的 に 死 滅 す る 瞬 間 ﹂も な いと 考 え ま す 。し か し ﹁ 演 劇が 演 劇 的 に 死 滅す る 瞬 間 ﹂を か りに﹁観客が観客に 向き会う瞬間﹂という極めて 共産 主 義 的 な 瞬 間を 幻 視 す るこ とで 、演 劇 の 本 質を 明ら か にしてみよ うという 試みです 。 ﹁ 自 同 律の 不 快 ﹂が あ る ので あ れ ば 、 自 同 律の愉快 も ま た あ る ので あろ うと 考 え て み る わ け で す 。 き っ と ﹁わたしは ﹂とつぶやき﹁わたしで ある ﹂と述語す る 時 間 は 、人 間に 莫 大 な想 像 力 と 、 宇 宙史 に 匹 敵す る 時 間を 押 し 付 ける ので す から 、も ち ろ ん そ のとき 、人 間 のこ とを 人 間と 呼ぶ のか ど うか は 定かで は ありま せ ん が 、こ の 大 日本演 劇 大系 の 第一 章 ・二 章 ⋮ ⋮ 終章 は 十 年 な いし 二 十 年 の 幅 で 摸 索 せ ざ る を 得 な いで あ ろ う こ とは、十分に予測しているものです。 さ て ﹃ 序 の 章 ﹄ は 、 最 低 の と こ ろ か ら 始 め よ う 。こ れ 以 上 退 け ば 演 劇で な く な る と こ ろ か ら 始 め よ う 、 と し たも ので し た 。 か のピーター・ブルッ クは、一人の人と、 それを観 るも のが い れ ば それ は 演 劇で あ る と し た ので す が 、 残 念 なが ら 、 こ れ は 明 ら か な まち が いで す 。二 人 の人 と 、 それを 観 る も のが い れ ば 、 それ は 演 劇で ある 。こ の 視 は 物 化 して いる ので あろ う 。 敵 が 見え な い など と い う こ とで は な い。 敵 な ど ど うで も い い ので ある 。 そ の よ うにして 錯 乱を 装 って いるので ある。前 後するが 、こ の物化のほ どに観客 は第三者を 装うので ある。 物語は今、自分探し、イメージ、構造、天皇制、奪 われた時 間 、 近未来 と その姿を 換えて き たも のの、 瀕 死 の 宙ぶ ら り ん な の で ある 。 幾多うまれてきた物語は、より多くその歴史を紐と けば、民衆が求めて きたといってもいい。物語を活性 化してきた のは民衆 の力で あっ た。その力が 、人前で な に か を や って み せ る と い う 行 為 を 、 第 三 者 と し て で は な く 支え て き た 。 こ の エ ネ ル キ ー が 結 実 し よ う と す る場が、芝 居で あった。 こ のあたり の展開は﹁ 十五・物語論﹂に置換すると して 、さて 登 場人物 は一人 なので ある 。 ひ と の前で 何かをして み せる必 要 十分条件 を 二人 の 俳優関係と し たとき 、こ の文の 脈絡を踏 まえて 綴れ ば 、 それはすべてを相対 化する物語 の捏造で あった。物 語 を 生きて 見 せよ うと いうこ とで あ っ た 。 二 人 の 俳優 の ﹃ 明 月 記 ﹄ に そ って いえ ば 、 関 係 を 生 き て み せよ う と いうこ とで あった。 さ て 、 登 場 人 物 は 一 人 な ので あ る 。多 言 を 要 し ま い 。 そこ に う ご め く の は 物 語 な ので ある 。 瀕 死 の 、 宙ぶ ら り ん の⋮ ⋮ 。 あえ て いえ ば 、こ の ﹃ 独 戯 ﹄ は 物 語 論 と して 成立さ せよ うと し た。老婆 心 ながら 、瀕死の、 宙 ぶ ら り ん の 物 語 は 、 支配 構 造 と い う 権 力 関係を 補完 す 166 こ の﹃ 大日 本演 劇大系 ・番外﹄ は前 作﹃ 大 日本演 劇 大系 序の章・明月記﹄との関係において語るしか な い、と いう とこ ろに わたしは ある 。 ﹃ 番外 ﹄ と の 関係で ﹃ 明 月 記 ﹄ を 概 略 す れ ば 、 それ は一人の女を二人の 女 優が 舞台 で力場す るというこ と で あった 。 演技 の 本 質を 関係 性 の問 題 以 外に は な い と して 展開し たので あ った。演技 という交 通の可能性を 関係 論とし て 閉じ 込 めて よしと し たので ある 。極 論 す れ ば 、 人 の まえ で 何 か を 見 せ つ け る 地平 に お いて 、 演 技 の 成 立 は 関係 と し て し か 登 場 し な い の で ある 。 一 人 で 何 事 か を 、 見 せ つ け る こ と に お いて は 、 演 技 はついに登 場しないで あろう。つまり観 客は、ついに 第三者で あることを やめてはいない。 な ぜか 。物 語が 死 滅し て いるか ら に ほか な ら な い。 生 活か ら 物 語 は 駆 逐 さ れて い る と 言 い 換 え て も い い 。 こ の場 の 脈 絡 で 綴れ ば 、 関係 の 可 能 性 の 展 開は 幾 分 か は 物 語 へ の 距離感 の 確 定と い うこ とも で き る 。 さて、物語りは常に、時の権力 の用いる支配構造と いう権力 関係を その中心ファク ターとしてきたが、現 代という様 式において は、物語 はロマン という様相を 帯 な い ほ ど に 物 化 し て い る と い って い い 。 つ ま り 、 支 配 構造 と い う 権力 関 係 が 、か つ て の 支 配 構造と いう 権 力 関係 の 全 体 性を 脱 皮 し 、新 た なる 支配 構造 と いう 権 力 関係 を 捏 造 す る こ と に よ って 高 次 化 し た 距 離 、 そ の 距離は 逆 説 で も な く 、 関係を な し くず し にす る 無 関 係 化という支 配構造と いう権力関係の定着 さほどに物 語 ] [ 解題3・明月記 ﹃明月記﹄について 銘記す ることはあまりない。 初 演 は 1 9 8 7 年 三 月で あ る 。 機 会 を 得 る ご と に 各 地で 上 演 を 行 って き た 。 こ の 航 程 の 途 上 で ﹃ 明 月 記 ﹄ の 最 終 公 演 は テ ン ト で 打 ち 上 げ る 、 と イ メ ー ジ す る よ う に な って い っ た 。 ﹃ 明 月 記 ﹄ で 仮 設 し た 作 業 が 、 果て し な く 、 終 わ り な き 道 標 を 模索す る よ う なも ので あった が ゆえ 、 そのよ うに 思 い切る 必要が あったのかも しれない。 ついに﹃明月記﹄ は最終公演を迎え る 。 167 ) 3 0 . 8 8 9 1 ( る 上部 構造 と して の ロ マ ン と い う物 語を 、観 客が 拒 否 さて さて 、 そのよ うに なるか どうか 、 テント 公演 を 前にし て の予断は 闇の中で ある 。 し 、 正し く 物 語 の 死 に 水を と ろ う と し た 結 果で ある と は位置付けてはいな い。単純に 綴れば、もろ刃の剣 と して ある物 語が 片刃 になり、他 の刃も 、 刃で ある必 要 が な く な っ た な に が な に か わ か ら へ ん 、 と いえ ば い い のだろうか 。飛躍す る気はまったくないが、それは 天 皇 制 の 今 日 的 状 況 と 添 い 寝 し て き た ので あ っ た 。 つ いに ﹃ 独 戯 ﹄で はこ のよ う な 物 語が の た うつ ので あるが 、さて 、 役者 たら んとす る 身体は いか に 蘇生 し 、 自 己権力と して の 身 体たるか は 、や はり 演技にかか わ って いる ので ある 。 や は り 最 後 に ﹁す べて を 演技 諭 で 突 破 せよ !﹂と 。 記 168 Ⅴ 資料・演技について 169 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ; 189 170 ⑤ 上演履歴 ① ② ③ ④ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ;;;; 演技について 第 回﹃大阪物語﹄上演台本あとがき 無観客試合と演劇 ﹃大阪物語﹄とカンディンスキーの三日 オーディション募集要項 38 169 173 183 187 ① ﹃大阪物語﹄上演 台本あとがき 久し ぶ り に 台 本 の こ のス ペー ス に 文 字 を 置 くこ と に な る 。 心情として は、久しぶりという 感じはま ったくない 。何かが 持 続して い る か 、 そ う 装 うか 、 事 実は ま っ た く違 う のか 、 今 のとこ ろ 定 かで は な い 。 さし 迫 ら れて す る 整 理 に ゆ だ ね るこ とにしたい。 さて 、ご 多 分にも れす 、こ の台 本は パソコ ンのエ ディ タで 起こ し た 。 ワ ー プ ロ ソ フト を 使 わ な く な って 久し いが 、 縦 書 き ので き / あとが き を 借りて 、二 三報告 して おき たい。 今回の企 画﹃大阪物語﹄は、来年︵2 006年︶ のテント 公演を明確に射程し た一環として 位置付けられて いる。あり て いに いえ ば 、 こ の 展 開 の 中 で 、 テ ン ト 公 演 の 展 望 が 理 論 的 にも 人 的、 経済 的に も 出 せる の か ど うか と いうこ と で ある 。 こ の経緯で の﹃ 大阪 物語﹄で あ る 。 また、こ の公演は﹃︷ルビ かがり︸鹿 狩︷ ルビ ︸︷ ルビ みち ぞう ︸ 道 三︷ ル ビ ︸ 追 悼 公 演 ﹄ と 銘 打 って い る 。 鹿狩道三は新潟の演劇人で あった。わ れわれ未知 座小劇場 の テ ン ト 公 演 に 数 回 の 出 演 が あ た 。 無 理 を い って 迷 惑を か け たり、楽し く遊んだ 。享年四十三歳、若 くして逝っ た。昨 年 のこ とで あ った。 ここに居 るわたし は﹃大阪物 語﹄を 書 くというこ とが、ど う 追 悼 た り うる の か 、と い う 枷 を は め る こ と と な っ た 。こ れ は 、 彼 と と も に わ れ わ れ が 抱え て いたで あ ろ う 演 劇 的課 題 を 、 歩一歩進め るこ とに なるのだが 、彼が 独 自に、その 現場で 抱 えて いたで あろう演 劇的課題を 、となる と それには 自信が な い 。 た だ わ れわ れ が 、彼 と と も に 幻 視 し て いたで あ ろ う 演 劇 的課題 に 対 し 、 幾 ば くか の 、 今 は ま だ 定 か で は な い 仮 説を 、 提 示で き た ので は な いか と す る 。 そ の よ う な 少し ば か り の 自 負 を 、 や が て 打ち 砕 か れ る こ と も ある だ ろ う が 、こ の文 章 を 読 んで い た だ いて い る あ な た と 、 いま は 亡き 鹿 狩 道 三 に 、 静 かに差し 出 そうと思 う。 私 事 に な る が 、 こ れ は べ つ に 奇を て ら って のこ と で は な く 、 ペン ネ ーム を ﹁ 闇黒 光 ﹂ 、 演 出 名を ﹁河 野明 ﹂と し た 。こ の 171 / るエディタになかなか出会えず 、Mac のエディタからWi n d o w s の ﹁ 秀 丸 ﹂ 等々 渡 り 歩 き 、 今 回 は シェ ア ー ウ エ ア の ﹁ Q X ﹂ で 仕 上 げ た 。 縦 書き ので き る エ デ ィ タ は いく つ か あ っ たが 、 こ の ﹁Q X﹂が 馴染 んだと い うこ と に な っ た 。ま た、目論見としては、音声入力で台本を 仕上げる、というの も 掲 げ た の だが 、こ れ は 環境 設 定が ま ま なら ず 中 途 で 挫 折 の 憂き目をみてしまた。 こ れら は さて おき 、台 本 執 筆 に ワ ー プ ロソ フト や エ ディ タ を 利 用 す る よ う に な って 困 り つ づ け たこ と は 、 編 集 履 歴が 思 うよ うに残 せないこ とで あった 。こ まめ に別版で バック アッ プを 行え ば い い ので あるが 、や は り つ い つ い、保 存 は 上 書き 保存となり、細部の編集履歴は残りにくい。つまりは、意思 や 、 試行 の 経緯が み え な いので ある 。こ れを 何 とか し た いと いうことも 、今回の目論見で あ った。 試行錯誤 の結果、 Linuxで CVS ︵ バージョ ン管理シ ス テム ︶ サ ー バを た て 、W i n do w s か ら CV S クラ イ ア ント アプリ ケーショ ン・Win CVSで 話をすると いう、台 本 の ため の CV S 環 境 構 築を お こ な っ た 。こ れ は 見 事 に 成 果 を み た 。台 本の各版 は二 百数 十 ほ ど 版 を 重 ね 、こ れ ら のす べ て の変更 編 集比 較を 可能 とし た 。 細部の報告はここでは割愛す るが、大阪演劇情報センター で は 、こ れ ら の シス テム サ ー バ 環境 を 、 演 劇 関係 者 に 無 料で 利用して いただけるようにした 。機会が あり、希望で あれば 試 し て い た だ くこ と は 可 能 で す 。 ま た 、 今 回 の わ た し の 台 本 書きを シュ ミレ ー シ ョ ン と す る なら 、 本 格 利 用 の 準 備 は 整 っ たこ とに な る 。詳細 はご 連絡 く だ さ い。 ﹃演技について﹄ 大 日 本 演 劇 大 系 ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ に そ って 演 技 に つ いて 想 うと き 未知 座小 劇場で は 、 物 語 に つ いて 考え る こ と 、 そ れは行為す るこ と の リ アリ ティ ー へと 通じ る 錯誤に 思 いを は せる こ と に な る 、と いう 縛 り の 中 に あ る が 、こ れら の 仮 説 はや は り 架設で ある の で 、こ こ ﹃ 大阪 物 語 ﹄で は 次 の よ う に 命 題 化 す る こ と にした。 無 駄 は 演 劇 営為 たり う るか ? 言 うま で も な く 、こ こ に は ﹁ 無 駄 なこ と を し て も 意 味が ない﹂や 、また ﹁他にやることが あるで はないか﹂ と い っ た 思 いが 隠 さ れて いる 。 こ れを 近 代 主義 的 な 発 想として 切り捨てることは容易 いが、文 化云々はさて おき﹁演劇とは大い なる無駄で ある﹂と いうことはふ まえ るしか ないで あ ろう。 で 、 試行 さ れる のは標 準語 の﹁ 関西 語 ﹂化 と 、国歌 の﹁レッツ ・イッツビー﹂と﹁ 六甲おろし﹂の選択 決 定で ある 。 こ うして﹃ 大阪物語﹄ の幕はあがる。 こ の文 に 立 ち 入 る と 、 迷 路 に は ま る ので 、 違 う ﹁ 大 日 本 演 劇 大 系 ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ に そ って ﹂ を メ モ 風 に 書 き 留めることで補足としたい。 わ たし はこ れ まで の 自 身 の台 本 を 、 大鉈を 振 る って その世界を み ると、 ベケット の ﹃ゴド ー を待ち なが ら ﹄ のウラ ジミールとエストラゴン の世界に 視線を 置いた よ う に 思 う 、と し よ う 。で 、 今 回 の ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ で 初 め て 、 つ い に 現 れ な か っ た 、 ゴ ド ー の側 に 視 点を 置 い たように思われる、としよう。 こ の文を 綴 り ながら の 、一 般化 の誘 惑を 受 け 入れて 172 事態はすすでに﹁闇黒光﹂が成立した初期の意志に 戻ったに 過 ぎ な い 。 それ は ﹁ 闇黒 光 ﹂が 個人 の ペ ン ネ ームで は な く、 台 本 執 筆者 の表 象で あ っ た 、と いう のが 経緯で ある 。 たま た ま 他 の 方が 、 使 う 機 会が なか っ た 、 と い うこ と に な って し ま っ た ので あ っ た 。 思 え ば 、こ の 表 象が 想 起 さ れ た の は 三 十数 年前、埴 谷 雄 高の﹃ 闇のなか の 黒 い馬﹄ が 出版 され 、 近くの 踏み切りで 女子大生の投身自殺があった、その日のクラブハ ウ ス の 情 景 は 、 今で も 記 憶 の な か で 明 瞭 で ある 。 余談は幾多 あるが 、要は演出 の責 任性をこれまで と違った 形で 、明瞭 化して み ると いうこ とで ある 。今後はこ れで いく ことにしました。 最 後に 、 台 本 の 原 稿用 紙 の 升 目を 埋め て いる 最中 に 、左 記 の 引 用 文 を 、 関 係 者 に 送 る 事 態 に な っ た 。 よ り よ く 書 いて 送 ることが 出 来なか っ た。制限字数が 百二 十字なのに 千二百字 と思い込んで書き始め、極端に縮小したりもした。この﹁あ とが き ﹂を か り 、め め し くも 今 と な って 修 正し よ う と いう わ けで ある 。 左が その 提出し た文 の引用で ある 。正確には百二 十字と千二 百字の中 間に位置し たも ので ある。 173 5 1 , o N ) 0 2 . 8 0 . 5 0 0 2 ( こ れら の い ず れ に も 興 味が 尽 き な い 。が 、 最 悪 は ④ に﹁ウラ ジミールと エストラゴ ン﹂がゴドーさんと 思 って いな い ゴド ー さ ん、と いう 究極を 、 置 く場 合で あ る 。 ③まで に 止めて おく のが 幸 せで ある 。仮に ④を メ ビウスの輪だ、ゲーデルの不完 全性定理だといい始め ると 、も う 収 集が つ か な いので いや に な る 。 いや に な る が 、 興 味 が 尽 き な いので こ れ ま た いや に な る 。 ﹃ 大阪物 語 ﹄で は ゴド ー は 大阪 の おばちゃ んと な っ た 。 十 年前 なら 、ま った く違 っ た 大阪 の おばちゃ ん に な って い た だ ろ う 。 いや 、 大 阪 の お ばち ゃ んで は な か っ た 、と い う のが 正 確だ ろ う 。 も ち ろ ん 、 こ のよ う に 設 定して 台 本 の 執 筆 を し た わ けで は な い 。 最 後 の ﹁ 幕 ﹂ と い う 字を 置 い た時 点で の で 、こ の 思 いの ブ レを なんと かす る た め に 、 以下 の 自 身の 文章を 、 資 料として 記載す るこ とで 、こ こで いう重 ねて の補 足で ある﹁ あとが き ﹂を 閉じ た い。 なお、こ の拙文も 同じ く、台 本 執筆中 のも ので あ った。 最 後 に 、 筆を 置 く まえ に 、 少 々 、 自 嘲 の感 を 免 れ 得 な いと 黙 視して き た ﹁コ ン ポ ジ ショ ン ﹂ に つ いて 若 干 。 も ち ろ ん 抽象絵画の 祖といわ れるカンジンスキー のコンポジ ションか ら の 引 用 で ある 。 引 用 と いえ ば 実に おこ が ま し い 。 カ ン ジ ン まで 書きつが スキーのコ ンポジションという 作品は、 れ た と す る なら 、 そ の 、 が ﹃ 大 阪 物 語 ﹄で あると す る 、 ほ と んど 身 の ほ ど 知 る ため の 、 さ さやか な 決意で ある 。それは また﹁大日本演劇大系﹂として のマニフェストである。﹃大 阪物語﹄をカンジンスキー論として展開できる日の来ること を、祈りつ つ⋮⋮ 記 16 ①行 くに いけなか っ たゴド ー さん ②行 く気 のなか った ゴド ーさ ん ③ 自 分を ゴド ー さ ん と 思 って い な い ゴ ド ー さ ん 事で ある 。 明 日に な れ ば 、き っ と 様子も 変 わ る と い う とこ ろで の 話 しで あ る 。そのよ うなこ と なので 、こ こ で いう﹁ 大 鉈 ﹂を ﹁ いいか げ ん ﹂として いただ くと 幸 いこ の うえ な い 。 16 し ま うが 、 つ ま り ベ ケット の﹃ ゴド ーを 待ち ながら ﹄ の﹁ゴドー ﹂を観念 とすると、 それは﹁ 希望﹂で あ っ たりまた﹁情報﹂等々で あったりする。これは、作品 論として、まあ置いて おきたい。だが、﹃ゴドーを 待 ち ながら ﹄ を マンガ ¦¦とり あえ ず ﹁マ ンガ ﹂と言 っ て おきます ¦¦とし て 読むと﹁ ゴド ーさ ん事故に あ っ て 間に 合わ なか っ た んだ ﹂ 等々 と なる 。 こ れを 類 型 化 すると、 174 ② 無 観 客 試 合 と 演 劇 / / 1 ﹁︷ルビ しあい︸観客試合︷ ルビ︸﹂と﹁︷ル ビ むしあ い︸無観客 試合︷ ルビ︸﹂ 演 劇 公 演 の 舞台 を 、 テレ ビ 録 画 などで 観るこ と が ある 。多 くは﹃劇場 への招待 ﹄とか いっ た番組 な のだが 、そこで は舞 台 を 観 る と いう 感 覚 を 捨て 去 る こ と を 思 う 。こ れら の 番 組 の 多 く は 、当 然 のこ と で は あるが 、 ある 企 画 と 意 図 に よ って 、 分を 自 身に 課 し たの か ? 処分を断行す ることがそうなのか 。 ま あ 、 い って し ま え ば 、こ れ ら のこ と は ど うで も い いこ と だ 。わ たし が 引 っか か っ たこ と は 、 無 観 客 試 合と い う言 葉 の 形 容 矛 盾だ 。こ の言 葉 の成 立す る 前 提は 、 試 合と い う概 念 に 、 観客が 含ま れて いる からにほか なら ない 。それは﹁ 観客試合 ﹂ と いう言葉 が ないほ どにで ある 。にもか かわらず、 無観客と いう形 態で 、 試 合を 形 容す る 。 つ ま り 試 合で な いも のを 試 合 と い って し ま う 、 自 己矛 盾が こ の 形 容 矛 盾 の 本 質だ 。語 の 正 意から 行 け ば 、 無 観 客 試 合と い う言 葉 は 成 立し な い ので あり 、 仮 に そ の よ う な 形 態 が あ っ た と し て も 、 す で に そ れ は 試 合で はない、と いうことで ある。多 分、試合という言葉 か、観客 と いう言 葉 が 曖 昧で ある のか 、 概 念 その も のを ずら さざ るを 得ない状況にわれわれはいるのだろう。 2 観客と試合と さて お断 りし た いが 、わ たし はここで 観客論を 開 陳しよ う として いる ので は な い。観客と いう言葉を整理しよ うとして い る に 過 ぎ な い 。 し たが って 、 次 の よ う に ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂ を 整理したとしても、ここで綴ろうとすることは残る 。 国際サッ カー連盟 ︵FIFA︶の規律 委員会の決 定は、再 び の事態を 避 けるこ とで あり 、 それは 日 本人 選手と 日本から 訪れるで あろう観客らへの安全性の配慮、つまりはW杯アジ ア 予 選で の 不 慮 の 事 故に 対 す る 配 慮 等 な の だ ろ うが 、 結 果 、 こ れを なぜ ﹁無観客 試合﹂と表 現するのか、ということにな 175 任 意 の 部 分 が 選 択 さ れ 、 切 り 取 ら れ て 、 編 集 さ れ た も ので あ る 。こ の 無 観 客 試 合 は 、 それ は それで あ る 。 今ひ と つ の 無 観 客 試 合 を 、 テ レ ビ で 観 戦 。 タ イ で 行 わ れ た W 杯 ア ジ ア 予 選 、 日 本 × 北 朝 鮮 戦 の テレ ビ 中 継 な の だ が 、こ のわたしの観戦という位置は、国際サッカー連盟︵ FIFA︶ によるのだ ろけども 、無観客試 合なので 、いくら テレビで 観 戦 し て いて も 、 や は り わ た し は 観 客 で は な いこ と に な る 。こ の事態からすると、観客とは試合会場に いる観衆のことにな る 。語 の 意 味を 予 断 す る と 、 試 合を 衆 目 に さら さ な いこ とが 、 無観客試合と思われるが、背に腹は変え られず、あるいは、 中 継 契 約 を 解 約 で き なか っ た の か も 知 れ な い 。 北 朝 鮮で の 試 合 チケット を 予約し て いた人 たち は、キ ャ ンセ ルの 憂き目を 見たのか 。 とも あれ 、 テレ ビ の 前で 、ラ イ ブ中 継が フレ ーム で 切り取ら れた全体で あったと しても、 わたしは観 衆で あっ た。 わ た し は 、 と い い ながら も こ の事 態 の 経 緯 を 、 何 も わ か っ て いな い 。 そし て 知 ら な い 。 第 三 国で 行 う の は 、 ホ ー ム で や るはずだった、北朝 鮮への制裁 なのか。同時に、試合終了後 の 選 手 たち が 危 害 が 加え ら れ る か も し れ な い 事 態 を 、 そ れ は ﹁ 北 朝 鮮で の 観 客 暴 徒化 を 理 由 に 、 ワ ー ル ド カ ッ プ ︵ W 杯 ︶ アジア最終予 選の日 本×北朝鮮戦を 第三 国、無観客で 開催す る と し た 処 分 ﹂で あ る なら 、 北 朝 鮮 の 観 客 に 対 す る ペナ ル テ ィ の ツ ケを 北朝 鮮サ ッ カ ー 側 が 被 っ た の か 。 さら に 、で ある なら 日本サ ッカ ー 協 会と 、当 日 、サッカ ー場で 観戦 しよ うと 予 定して い た人々 が 、 割を く っ たと いう こ と に なる 。で はこ のよ うな事 態を 招 聘し たFIF Aは、ど のよ うな自 己責 任処 ﹁面白 い舞台で あれば客は 入る﹂ こ れ は 間 違 いで は な く 、 正解 だ 。 だが 、何 も い っ て い な い に 等し い 。 ﹁面 白 い 舞台で あれ ば 客 は 入 る ﹂ と は 、 それ は そ れで 当 たり 前のこ と で あり、だ から と い って 無制限 に観客数 が 増加 す る ので は な いか ら だ 。 ﹁ い い ﹂ や ﹁面 白 い ﹂ は 、 あ る 価値 観 の 表 出で あ る 。 つ いに は 個 的 な 嗜 好 だ 。 個 的 な 嗜 好 が 情 報 と し て 力 を 持 つに は 、 生 活圏 を 離 れて は な い 。 わ た し が 言 う まで も な いが 、こ の 個 的 な 嗜 好が 生 活圏 を 離 れ 、 つ ま り幻影化す るには、 マスという 媒体や 、 メディアが 必要だろ う 。し たが って ﹁ 面 白 い 舞台 で あ れ ば 客 は 入 る ﹂ と いう 物 言 いは、生活圏での話 しで あり、ここにマスコミュニ ケーショ ンの浸透度 により、 その生活圏 は広がる ので あろうが、やは り 、 口コ ミ と い う 交 通 形 態 を 逸 脱 し な い 。 だからこ うも言うことができる。個的な嗜好が生 活圏を離 れ 、 つ ま り 幻 影 化 す るこ と に よ って 、 個 的 な 嗜 好が 操 作可 能 と なる なら 、 ﹁面白 くない舞台でも客は 入る﹂ こ れ は論 理 的帰 結 と なる 。ま た、 それ が 継 続す る か ど うか は別問題で 、本質論 とは別に、 イベント 屋の力量と 、ビジネ スモデルに帰結するだろう。 すでにお 分かりのように﹁選 手はが んばっても っといい試 合を し な い と だめ だ ⋮⋮ ﹂と は 、川淵 某 の無責 任な 、責 任放 棄の発言に他なら な い。それが 、現場への叱咤激励 の発言だ っ た と し て も 、 事 態 の 起 因 を 選 手 たち に 求 め 、 責 任 回避 を 図 ったとなる ほかない 。百歩譲っ たとして 、で はチェ アーマン とは何者なのだ。 現場経験もないので、選手と いう言葉を持ち 出す のはやめ よ う 。つま り 俳 優 は 舞台で 、 い い 舞台 を し よ う 、面 白 い演技 をしよう、 あるいはダメにしよ うなどと いう、そのような即 時 性を 展 開 す る の み の 余 裕は あ り ま せ ん 。や ら な け れ ば い け な いこ と は 、 そ ん な こ と を う っ ち ゃ り 、 通 り 抜 け て 山 ほ ど あ る。 176 る。 閑話 休題 。どうも 持ち 場が違 うとこ ろ に迷 い込み そうで あ る 。 わ たし は 、ス ポ ー ツ 選 手で も 、ス ポ ー ツ イ ベン ト 屋で も な い 。 ま し て や 、 武 道を 志 す も ので も な い 。 舞台 表 現 を 志 す も ので あり 、 その思 想 性が 、 抜 き 差し な ら ぬも ので ある なら 、 それを由と するも のです 。いわ ば、 単な る 門外漢で ある 。そ こ で ﹁ 観 客 ﹂ と い う 言 葉 を 手が か り に 、 見え な いも のを 、こ の 際 見て お こ う と す る に は 、 徒 手 空 拳 で 進 み す ぎ る よ う に 思 われる。 実は、こ のわたし の発言には 経過が ある。 か つて J リ ー グが 発 足 間も な いこ ろ 、 ある クラ ブ チーム が 破綻 す る な ど し 、 観 客 動 員が 落 ち 込 んだ 時 期が あ っ た 。こ の と き 当 時 の チェ ア マ ンで あ っ た 川 淵 某が 、 正 確で は な いが ﹁ 選 手 は が んば って も っ と い い 試 合 を し な い と だ め だ⋮ ⋮ ﹂ とのインタビューコ メントがテレビニュ ースで流れて いたの を 記憶す る 。こ の発 言を 舞台 に 置き 換え て み よ う 。 177 o i d u a s u o i c a d u a に の問 題で あ っ た の だ ろ うと い うこ と だ 。こ れが わ たし の 位 置づけで あ る 。 さて 、命をやり取 りする試合に、われ われはどのように加 担 す るこ と が で き る の だ ろ うか 。多 分 、 その事態 に 立ち す く むしかないだろう。これは野次馬ということだ。野次馬以外 に は 立 会 人 が あ り え る 。 ま た 、 助 太 刀 人 も あり え る 。こ う な ると、観客 の出自は 、試合に対した立会人なのだろ うか、助 太刀人、野次馬なのか? たしか、黒澤明の姿三四郎と 試合をし た月形龍之介たち は 、 吹き す さぶ 未 明 の荒 野で 絵 に な って い た よ う に ⋮ ⋮ 記憶 の 彼 方で す 。 命 のや り 取 り を 語 り 継 ぐよ う に あ っ た 立 会 人 は 、 審 判に な ったように 思われる 。助 太刀人 が観客だ 。野次馬は つ いに野 次馬で 、第三者で責 任の埒外だ 。もうほ とんどわたしの悪意 は は や に通じる 。 こ こ で 、 や っと サ ポ ー タ と い う 言 葉 に たど り 着 い たこ と に な る が 、こ の 言 葉 は いま だ に な じ め な い 。 わ た し の 直 訳で は サポータは助太刀人 だ。まして やサポー タは十二人 目の選手 といわれる と、観客 たろうとして いるわ たしは困ってしまわ ざるを得な い。 甲子園 球 場には観 客も サポー タも いな い。阪神 フ ァンが い るだけだ。 とも あれ 、日本式 の命のやり 取りの試 合から 、死 合を抜き 去 った、 仕 合をス ポ ー ツに重ね るこ とで 試合は ゲー ム に なっ た 。 そこ で や り 取 り さ れ る の は 勝 負 だ 。 こ れ が と り あえ ず 整 理して 差し 出すこ と ので き る わ たし の独 断 と 偏見だ 。 e c n e i d u a さて 、こ の論理破 綻を 回避し たも のを 日韓 共催W 杯だと い うこ とがで きるのだ ろうか 。定かで はな いが 、わたしには そ の よ う に 見 え る 。こ れを だ れ が 支え た の か わ た し に は わ か ら ない。また 位置づけ る立場にな い。それでもこ うして 今、わ たしは﹁無 観客 試合 ﹂と いう言 葉に向き 合って いる 。 出発は﹁ 観客﹂と ﹁試合﹂と いう言葉が 並列する 違和から 、 無観客試合という言 葉は形容矛 盾だだと する想いか ら 出発し て いる 。 わ たし の 力 量で 、こ こ で ス ポ ー ツ の 何 た る か 、 試 合 の語源 等を 紐解き、こ のわたし の違和に 迫るこ と はできない 。 舞台 と う い 作業場に 足を 置き 、 生 活感 覚 を 押 し 開 くこ と だ け だ。 さて 、 ス ポ ー ツ と 試 合 は い つ のこ ろ か ら 手を 取 り 合 っ た の だろうか。 近代日本 の国威高揚として西 洋式肉体強 化術云々 と なる と 、 稿数 が い くら あ って も 足ら な い 。違 う 語 り 口を し よう。 わ たし は 試 合と い う 言 葉を 、 どこ まで たどるこ と が で き る のか。果し 合い状。 宮本武蔵。 決闘。ど うやらこ の あたりだ 。 死 合 い 、 間 合 いを 試 す 、 死 を 合 わ せ る 。 こ う い う イ メー ジが 成立して くる。仮に、何 の根拠もなく、武道の世界では命の や り取 りを 試合と い う 、と言え ば 、わ た し の語 感 に 重 なる 。 そうで ある のか ど う か は 別 と し て 、 つ ま り 試 合と い う 語 含意 は 個 的 な の だ 。 決 闘 は 1 対 多 で も イ メ ー ジで き る 。 こ れ が 集 団的になる と 合戦と なる。さて あたかも 、試合が 死 合 いに重 なるとして いるが 、 そうで はな い。天覧 試合、御前 試合など と なる と す べて は 死 合 いに 重 な ら な い 。 こ こ で 一 貫 して いる の は 勝 負 と いう こ と で あ る 。 そ れ は 死 合 いを 含 んで 、 生 き 死 ここまで くるとわけがわから ず、納得するにはサポーター =観客と理解するし かない。し かしこれ は﹁無観客 試合﹂で は なか っ た のか 。 す る と F I F A は ﹁無 観 客 試 合 ﹂ と い うこ と で 、 押 し や っ たも のとは 、何 なのか ? ほと んどもう 、何かを押 しやるよ う に 装 うこ とで 保 障 し た の は 、 F I F A の 権 威 だ け だ 、 な ど と 与 太を 飛 ば し た く な る 。 もち ろ ん こ ん なこ とを 綴る た め に 、文 意を 運 んで いる わ け ではない。しかし一 つだけ言って おきた い事は﹁サ ポーター =観客は十二人目の 選手だ﹂と いう、あたかも本質に迫るか の よ う な メ ッ セ ー ジ は 、 な んら 内 実を 持 って い なか っ た と い うこ とで あ る 。つま り 日本サッ カ ー 協会 は ﹁ 十二人 目 の 選手 ﹂ が いない試 合など あ り 得ない、 とはし な か った。選 手の いな い試合など あり得な いにもかか わらず、で ある。あたかも本 質に迫るか のよ うな メッセー ジを保 障す る ため のポ ーズすら し なか った ので は な いか 。 その 証 左 に 、 重 ねて 不 思 議で あっ たのは、誰もが﹁無 観客試合﹂ など試合ではないと いう意思 が 組 織 さ れ た 、 と 思 わ な いで は な いか 。 こ こ まで く る と 、 F I F A の ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂ を 素 直 に 受 け 入 れ た と い う ので は な く、サポー タと呼ば れる側にサ ポータは いなか った と いわざ るを 得ない 。すると サポータと はクラ ブ チームを 、 無 償で 真 摯 に 支え よ う と す る 、 フ ァ ン た ち のこ と だ と 、こ れ ま た 言 わ ざるを得な くなる。 こ の事態 を 、語 彙や 形態を 含 めて 混 乱 して いると いうのは 容易 い。そ のように あるなら 、やがて 整 理されるだ ろうとな る か ら だ 。 リ ア リ ス ト を 装え ば 、 整 理 さ れ る な ら 、 と っ く の 178 さてもう 一つ、古 代ローマの 円形劇場 には剣闘士が いた。 こ れ は 娯 楽 性 の 高 い 見 世 物 だが 、 元 は 葬 儀で あ っ た と も の の 本 に は ある 。 そこ に は 市 民 と い う 観 客が いる 。 儀 式 だ 。 勧進角力も神社や 仏閣で行われた儀式だ。大衆と いう観客 が いる 。 最 後にギ リ シャ 悲 劇に はコ ロ スが 登 場 す る 。コ ロ ス は ﹁ 舞 台と観客と の間の媒介者﹂として いる。 試 合と い う言 葉 に こ だ わ り な が ら 、 観 客 と いう イ メー ジを す く い 上げ よ うとす る と 、こ の よ うに多 義 に わ たる 。こ こ で 言 う 野 次 馬 から コ ロ ス ま で に 共 通 す る 立 場 は 、 当 事 者で は な いと いうこ とで ある 。 さて さて 、 こ こ ま で の 無 理 に 無理 を 重 ね た 、 論 拠 も 示 さ な い独断と 偏 見は当然 のよ うに行 き詰るわ けで 、次のよ うに命 題らしきも のを掲げ 、文意を運 ぶこ とに しよう。 サポータはどこに行ったのか ? 日 本× 北 朝 鮮戦 の テレ ビ 中 継 画面 か ら 、こ ぼ れ聞 こ え る 太 鼓と応 援コ ー ルの中 に いたのか 。いや 、 あれこ そ感 動 的にも 、 任意の第三者たらんことを選択したにも かかわらず 、拒絶さ れた観客と 呼ばれたはずの一群ではなか ったのか。どう考え てみても、 FIFAが無観客試 合ということで 、ゲートの外 に押しや っ たのは、 あの一群で あったと 思われる。 だが 、テ レ ビ 中 継中 の アナ ウ ン サ ーや 、 解 説 者 、 ある いは サ ッ カ ー 関 係者の発言を 総合す ると、彼ら はサポー ターに変身したり、 また観客に なったりしてしまうのだ。つ いには﹁日本全国の テレビで 応 援して い ただ いたサ ポーター のみ なさん ﹂まで登 場する。 e m a g h c t a m う 言 葉 を 用 いて いる 。こ れら は イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の 検 索 サ イ ト で 調 べ た も ので 、 F I F A の オ フ ィ シ ャ ル サ イ ト を 覗 い た りも し たが 、 規約 委 員 会 の 公 式 文 章 に 直 接 あ た っ た ので は な いこ と を お 断 り し て おき た い 。 ち なみ に 、 ニ ュ ー ス 記 事 で は ﹁試合﹂と いう語に ﹁ ﹂や﹁ ﹂が当てら れて いる 。 さらにお断 りしたいがFIFA の公用語が英語かど うかも調 べて は いな い。こ れ は 余談に な るが ﹁ ﹂の近似値 として ﹁ ﹂に目が いくこととなった。 s r o t a t c e p s r e t c e p s 3 真剣勝負 s s e r P d e t a i c o s s A e h T e n i l n O s e m i T n a p a J e h T よ うや く 表 現 の 鳥 羽 口に 立 つ こ とがで き た 、 と い え るが 、 や は り 次 に 移る 前 に ﹁ 試 合 ﹂ に 対して 決 め うち を 綴 って お く しかないよ うで ある 。 わたしたち は現在 生活の中で ﹁真剣勝 負﹂という言葉を持 って い る 。 気 軽 に 使 っ た り も す る 。 わ た し の 個 的 な 言 語 観 か ら 行 く と 、 いつ のこ ろ 捏造 さ れ た ので あ ろ う か 、 と 考 え て し ま う 。こ の ト ート ロ ジーは何を 意味す る のか 。こ の 拙文 の脈 さて 、こ こ まで ﹁ 試 合 ﹂と い う言 葉 へ の 思 い入 れ を 持 つ と 、 絡 か ら 行 く なら 、 勝 負 と は 元 来 真 剣 で 行 う ので あり 、こ の 勝 FIFAはこれにど のような言 葉を使ったのかが、気になっ ち負けを死 合 いに重 ねるものを 試合とし た。そう位 置づける てきた。 こ とで 、こ こ で 言 う ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂を 理 解 し よ うと し た の だ 。 の 繰り返すこ とになるが、試合で やり取りする勝負は 真剣でこ ︵AP通信︶によると﹁ ﹂と い う文 字が そ決着する 、とする なら、なぜ その試合を、駄目押 しするよ 見え る 。こ こ で は ﹁ 観 客 ﹂ に ﹁ ﹂で は な く ﹁ うに﹁真剣 ﹂と念押 しせざるを 得ないのか。それは ﹁試合﹂ ﹂を 使 って いる こ とが わか る 。 こ の 状 態 を F I F A は が﹁試合﹂で なくなり、かつて の﹁試合﹂に対する 追憶と記 ﹁ ﹂︵非公開ということだろ う︶とい 179 昔に整理されて いる はずだ、と なる。つ まり、こ の あたかも 一 見混 乱 と 見え る 現 状こ そ 、 整 理 さ れて いる の だ 。 こ の 仮 設 がわたし の違和と結びつく。違 和で ある から合理的ではない と なら な い か ら 、や や こ し い 。 つまり、 そも そも は﹁無観客 試合﹂と いう言葉を 発し たと たん、観客 と いう概 念を 含意し なか った ﹁試合﹂と いう言葉 に 、 観 客 が へば り つ いて し ま う の だ 。 ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂ と い う 言 葉 が それ ほ ど の 力 を 持 って い る と い う ので は な い 。む し ろ ﹁ 試 合 ﹂ と いう 概 念 が 、 そ の と き 捻じ 曲 げら れ たこ と に よ る のだ。それ は﹁試合 ﹂という文 化が照ら し出されたというほ うが 正解で あろう。 つまり、本 来的には ﹁試合﹂と いう概念 に、﹁観客 ﹂という概念が 含意 されなか ったのにも かかわら ず 、 現 代 の わ た し た ち の 想 いが 、 ﹁ 試 合 ﹂ と い う 言 葉 に ﹁ 観 客 ﹂を 預 け て し ま わ ざ るを 得 な いねじ れ か ら くる 、 歪 み の磁 場が 、一瞬 、見通し のいい荒 野 に連れ出 されたので ある。も ちろん、語源として ここで言う意味で﹁ 試合﹂が あったのか ど う か で は な く 、 現 代 の わ た し たち に と って の ﹁ 試 合 ﹂ の 語 源 が そ う 捏 造 さ れて いる と い う こ とで あ る 。 s r o t a t c e p s o n h t i w a t c e p s e c n e i d u a s r o o d d e s o l c d n i h se rb o t 180 で ある 。 憶が 忘却の 彼 方から ﹁真剣﹂と いう言葉 を 呼び 寄せ るのだ。 不 謹 慎にも ソ シュ ー ル 風に言え ば パロ ー ルがラ ン グ を 動かし さて 、こ れら は そ う ある と い う 前 提で ある 。話 し を 進 め る に は 、こ れ ら の カ テ ゴ リ ー に 対 し 身 体を 置 く と い う 作 業で あ た と い う こ と に な ろ うか 。 関 係 構 造 か ら いえ ば 交 通 形 態 の 変 る 。当 然 そ れ は 演 技 論で ある 。 こ の 表 現 行 為 と いう 視 座で 容 な の だ が 、 さて こ れ は わ れ わ れ 精 神 の 、 自 然 成 長 過 程 と し ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂ の ﹁ 観 客 ﹂ を 見 て い くこ と に し よ う 。 て 変 容 し た ので あろ うか ? 別 稿を 起こ さね ば なら ぬ領 域 に まずは﹁ 観客﹂と いう言葉が 、スポー ツと呼ばれ る現代的 突入するこ と は避け 、誤解を恐 れず言 い 放つが 、こ れで は な語彙の中 に、どのように閉じ 込めれれて いるのか を 、炙り ﹃ 龍馬 は い か な い﹄ で あろ う 。 わ た し た ち のが 引 き 受けて あ 出す 事に な るだろう 。か と いって 、ス ポ ーツ原論が あると仮 る 近 代 は 、 い く つ か の 世 界 大戦 を 持 って き たで は な いか 。 同 設して 舞台 表現 と い う物 事を 進 めて き た わ けで は な いので 、 時に連合赤軍 ﹁事件 ﹂はある。つまり、 先日の、三 年一組の そ う せ ず 、 む し ろ 、 表 現 に お け る 観 客 と い う 観 点か ら 接 近し 教 室 に 投 げ 込 ま れ た 、 火 薬 入 り の 瓶 を 、 ど う 演 劇 的 に 解 決で て 荒 書きす るこ と が 、こ こ で の 道 筋 で あ る 。 つ ま り ま っと う きるのかと いうこ とで ある。残 念ながら 、われわれ の演技論 にそうせざるを得ないのだ。 は 、 そ の 爆 発 の 前 で 佇 んで い る 。 そし て 明 確 に いえ る の は 、 火薬 入り の 瓶 の対極 に あるも の が ﹁ 無観 客 試 合﹂と いう概 念 た とえ ば 、 ある テ レ ビ を 見て いる と き 、ス ポ ー ツ 中 継 アナ ウ ン サ ー の ﹁ 高 橋 尚 子 選 手が 、 沿 道 の 観 客 に 向 か っ て 、 手を で ある 。 振り声 援にこ たえて います 。ま も なく四 〇キロを過 ぎます ﹂ ﹁試合﹂から﹁無 観客試合﹂ への推 移は、﹁勝負 ﹂から と いう発 声 を し たと し よ う 。こ こ で の 、 こ のス ポ ー ツ中 継 ア ﹁ 真 剣 勝 負 ﹂ へ の 変 容 性 に 重 な る 。こ の 、 ﹁ 勝 負 ﹂ か ら ﹁ 真 ナ ウ ン サ ー は 状 況を 、ス ポ ー ツ 、 一 人 の マラ ソ ン 選 手 、 観 客 剣勝負﹂へ の変容性 の中に ある のは、わ れわれが引 き受けて と い う絡 み で 紡 いで いる わ け だ 。 一 人 の マラ ソ ン 選 手が 観 客 ある近代、こ れらを 上記のようにイデオ ロギー︵=ドクサ︶ と して マ ニ フェ ス ト す る の は そ う 意 味 あ るこ と と は 思 わ な い 。 に 対 し 、 状 況 を マラ ソ ン し て い る 。で は 、 観 客 は 誰 に 対 し て それ は ま た 、 換 言 し て ﹁ 勝 負 ﹂ か ら ﹁ 真 剣 勝 負 ﹂ へ の推 移が 、 いる のか 、 と いった 細 部に踏み 込む 勇気 は な いが 、 ス ポーツ 中 継 アナ ウ ン サ ー は 、 一 人 の マ ラ ソ ン 選 手が マラ ソ ン 競 技 を 文 化 成 長過 程と し て 、わ れ わ れ の 持 つ 攻 撃 性や 、 テ ロ リ ズ ム 行 って いる 状 況 に 、 も う 一 つ の 何 か を 付 加 し た の だ 。ス ポ ー の非生産性を官許の元に去勢す るという経済性のみで 置き換 ツ中継アナ ウンサーが 沿道の観衆を観客と呼んだとき、一人 え ら れ たも の だ 、 と 言 い 放 って も 同 時 に 意 味 が な い 。 つ ま り の マ ラ ソ ン 選手 は 、 表現 と い う 属 性 を 背 負 っ たこ と に な る 。 ﹁ 勝 負 ﹂か ら ﹁ 真剣 勝 負 ﹂ への 推 移を 歴 史 成 長過 程 と 位 置づ ス ポ ー ツが 表現 に 成 り 下 が っ た 瞬 間で あ る 。 つ ま り ス ポ ー ツ けしまう仮設は、﹁投げ込まれた、火薬 入りの瓶﹂として あ は何かに成り上がることもでき ないし、成り下がることもで るこ の今を 、無批 判に追認する だけのこ と 以外で は ないから き な いと い う意 味で で ある 。こ の マラ ソ ン 競技が イ ベント と して あった のか ど う か と いうこ と は 関係 な い。ス ポ ー ツはス ポ ー ツで あ り 、 表 現 は表 現 で あ る 。 では、こ こで の意 図を明確にするため に ﹁スポー ツは表現 か? ﹂ と 問 うこ と に し よ う 。 それ は 表 現 で ある と 同 時 に 表 現 で な い 。 ト ー ト ロ ジと 逆 説 の オ ン パレ ー ド だ が 、 それ はこ う だ 。 ス ポ ー ツ と は 対 他 性 に お いて は 競 技 で あ り 、 対 自 性 に お いて は 表 現 で ある 。で は 表 現 と は 何 か ? ; o r p l a r e n e G e b 4 情 報とし て の観 客 = 演技 論 の 地平 行きがか りとはいえ、思わず ﹁表現と は何か? ﹂などと 問 いかけて し まったことに後悔しきりで ある。当然 、これに 真っ当に答え 切る力 量はない。 なら ばこ の拙文の 出発と、自問 の意図 に還り、思 いを絡み と る し か な い 。 幸 い なこ と に か ど う か わ か ら な いが 、 右 記 の ﹁ 3 ﹂から 、こ の ﹁ 4 ﹂ へは 意 図 的に 、 ほ ぼ 一ヵ 月 の時 間が あ っ た 。 書 き な ぐ っ た 思 い は 頓 挫 し たこ と に な って し ま っ た 181 /L R U / G O L B _ P / g o l _ b / i m a y ︻ 注記 ・編集 ︼ ここまでの﹁1﹂から﹁3﹂は、 闇黒光の文責で、2005年06月10日に﹃ 大阪演劇情報センター 更新記録・編集後記 ﹄ に発表された。参照 は﹁ ﹂である。 / p g . j o l C e B I n D . O c i d o . o f n i / / : p t t h ので 、 その 後思 いも 動 く 。こ れ を 整 理す るこ とから 始め よ う 。 所 期 の思 いは 、 そ う 複 雑なも ので は な か か った 。 仮 に ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂ と い う 言 葉が 実 体 化 し て あ っ た と し て 、 そこ で 屹 立するイメージへの違和とは何か? こ れを 整理す るこ とで 、 よ し と す る 魂 胆で あ っ た 。 だ が さて 、こ と は そ う い うこ と だ けで はないようで ある。つまり ﹁無観客 試合﹂とは 、 様々 な 語り口はあるだろうが、こ の拙文でした 、試合の形 式を 規定 する用語で はなく、観客に纏わ る概念の問題で ある とせざる を 得 な い の で は な い か 、 と な る 。こ こ に 、 思 わ ず ﹁ 表 現 と は 何か? ﹂ などと問 いか けて し ま う脈絡 が あった 。こ れが 整 理 の 大 枠で ある 。 できれば、サッカ ーには﹁無観客試合﹂というゲネプロ ︵ オ ペラ な どで は 、 初 日 の 前 に 、 本 番 ど お り に 行 う 稽 古 の こ とを いう、 とも のの 本に ありま す 。演劇 業界でも そ うかもし れ ま せ ん 。 アリ ア リ の 稽 古 で す 。 バッ ク ツ ア ー な ど で 、 見 学 の 方 は 居 る か も し れ ま せ んが 、 観 客 は い ま せ ん 。 =ド イツ 語 ︶ のよ う な試合が ある んだ 、と いうこ とで 通り 過 ぎ た い の で あ っ た 。し か し 、 こ れ は F I F A の 国 際 試 合で ある。そこ で ﹁無観 客試合﹂と 宣言する ので ある。 世界規模 の イ ベ ン ト の な せ る 業で あろ う が 、 う が って いえ ば ﹁ ゲ ネ プ ロ は 本 番で す ﹂ と い う ので ある 。 こ の と き ﹁ は い そ うで す か ﹂ と いえ な い の は 、こ こ で 問 題 を こ う 仮 設 す る か ら に 他 な ら な い 。こ と は サ ッ カ ー の問 題 で はない。﹁無観客試合﹂と いう 言葉がありえ たという、わ た し たち の 状 況 の問 題 で ある だ ろ うか ら だ 。 それが ﹁ 無 観 客 試 合﹂という概念で も なく、またイメージでもなく、で ある 。 o r / n o r i k e g n e / i m a y / p j . e n . c i d o . o f n i / / : p t t h ( なら ないの だろうが 、こ の あた りの﹁情 報と演技﹂ に 対する 位 置 付 け は 、 別 途 拙 文 と し て ﹃ 情 報と 演 技 に つ いて ﹄ や ﹃ 演 技 に つ いて ﹄ が ある ので 参 照 願え れ ば 幸 いで ある 。文 脈 上概 括 す る なら 、 行 き は ぐ れて し ま っ た ﹁ 観 客 ﹂や ﹁ 物 語 ﹂ へ の 望 郷の眼差しを、別名としての﹁もう一つの物語﹂あるいは ﹁ ありえ て し ま っ た 未 来 ﹂ に 送 る ので は な く 、 ある いは ま た ﹁すべてを 概括するかのように あった、 物言わぬよ うに物言 う 日 常 ﹂を 嘯 くよ う に 、 凝 視す る ので は な く 、 百 花 繚 乱 の 情 報論の海へ 竿さし、 それに耐え うる演技 論を行為す るを良と した。だが 、 いま演技論は情報論を 装いわれわれの前にある のだ、と揚言したのであった。 さて 、 こ の﹁ 4 情 報とし て の 観 客 ﹂ は 前 節 の ﹃ 表 現 行 為 と いう 視 座で ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂ の ﹁ 観 客 ﹂ を 見て い く﹄ と い う こ と か ら 始 め た が 、 思 い の 丈 で 強 引 に 纏 めて いる と い う 感を 免 れ 得 な い 。 それは 、 素 直に 文章化することが 出 来ず、こ う ﹁纏める ﹂と いうこ とでしか 文 意 を 運 べ な い 、 わ たし の 現 状 を 示 し て あ る と いえ る 。 そ う は なら じ と す る なら 、 素 描し よ う と して き た イ メ ー ジを 提 出 し 、こ の纏 め に 繋 げ て お くこ と で 、こ の 拙文を 終わ るこ と に しよう。 5 卑弥 呼 の 踵 舞台 と い う 形 式を どこ か ら 想 起す る の か 、と いう こ と にも なる 。それ は、どこ まで 時 間の ネジを 巻 き 戻して お くのか 、 182 ) p h p . u y s n こ の言 葉が 状況とし て 成立しえ たと いう こ と は 、 そ の バッ ク ボ ー ンが す で に あり 、 それが ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂と いう 価値で 成 立すること により、 物事の関係 は変容し たというこ とを意味 する。それ はまた、表現行為が 見定めることを 余儀なくされ る 観 客 の在 り 処が 、 こ れ まで と はず れて ある 、と い うこ と に なるからで ある 。 換言する なら、無 名性のなか に観客が いるで あろ うと想定 し た ゲネ プ ロ と 、 あ ら か じ め 観 客を 拒 否 して 、 観 客 を 想 定す るこ とは、 決定的に 異なる行為 で ある 。 多 分 、 演 劇 営為 が 、 見る 観ら れる と い う相 対 性 の 磁 場か ら 抜 け 出し 、 可 能 性と して の 関係 性を 行 為 す る 作業で ある なら ば 、 必 ず や 見 る と い う 行 為 は 、 体 験か ら 経 験 に 登 り あが る 作 業として 、 舞台 に 上 が り 役者 た ら んとす る 俳優 の前 に 、 俳優 の 対 自 性 を 含 んで 起 ち 現 れ ず に は お か な い 。こ れが 無 名 性 の 中に観客を 想 起する と いうことで あり、 結果、演劇 営為は可 能性の実態 を わたし 権化して 、 行為する という役者 たら んと す る 身 体 の うえ で 、 演 技 を 捏造 す る 方 法 へ 至 ろ う と す る も の で ある の な ら 、こ の 観 客 の 在 り 処 の ず れ は 、 何 を も たら す の で あろうか 。 わたしは いま、注 釈をこ とさら加え ず 、未知 座小 劇場の演 技 論 を マ ニ フェ ス ト め いて 語 っ て いる の は 、 そ の 演 技 論 を 情 報 論 と し て 語 る し か な い 逡 巡 か ら くる 。 端 的 に いえ ば 、 こ こ で いう﹁ 見 る観ら れ ると いう相 対 性の磁 場﹂は、も う 遠い昔 の︽昭和︾ という時 代にあった物語としてではなく、あらた めて いうまでもないが、それは 今日で いう情報として あるか ら に 他 なら な い 。情 報 =物 語 に つ いて の 何 ほ ど か を 語ら ね ば 183 の構図は、 卑弥呼の 前に観客は なく﹁無 観客試合﹂が ある。 と い うこ と で ある 。 ま た そ れ は 、 削 ぎ落 と す こ と の 出 来 る も ま た 観 客 の 前 に は 卑 弥 呼 は おら ず ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂が ある 。 のはす べて 削 ぎ落と す と いう仮 設で ある 。こ の社会 性を 帯び こ の拙文 で 出発し て あった﹁ 違和 ﹂は 、 卑弥 呼 の 側から す た表現という鏡に﹁無観客試合﹂はどう映るのか。 る ﹁ 演 技 論 ﹂で ある と 括 るこ と が で き る だ ろ う 。 ま た、 観 客 もち ろ んこ れはイ メー ジの話 しで あり 、 その原初 形態から の 側 か ら す る そ れ は ﹁情 報論 ﹂ で ある し か な い の だ 。こ の二 前 述 し た ﹁ 無 観 客 試 合 ﹂ を 見 よ う と し て き た 。こ こ で い う イ メー ジと い う の は 、 ロ マ ン ・ロ ラ ン の ﹁ 花で 飾 っ た 一 本 の 杭 ﹂ つ は 、 ゆ き は ぐ れ て ある 。 唐 突 に 聞 こ え る か も し れ な いが 、 こ の 拙文 に 隠 され た 、 舞台で 行 為 す るこ と のリ アリ ティ ー の のよ う なも ので ある 。こ の ロ マ ン ・ロ ラ ン の ﹁ 杭 ﹂ は 祭 り の なさや、物 語の不可 能 性は、こ こでも論証できるは ずで ある 。 原 初 形 態 と 読む の だ が 、 さて 舞 台 の 原 初 形 態 は 。 こ れら を 前 に して 、 逃 げを 撃 つ の は 容易 い 。こ の ﹁ 演技 論 ﹂ 原 始 共 産 制 。 雨 乞 いが 行 わ れ て い る 。 それ は 共 同 体 の 意 思 と﹁情報論 ﹂をまとめて情況論として語ればいいので ある 。 で ある 。﹁ 薪くべ﹂ が 行 われて 炎が 舞う 。祭壇が あ る 。その も ち ろ ん 逃 げで あっ て も 、 そ れ が 現 代 的 な 課 題 や 思 想 的課 題 、 前 で 巫 女 は 御託 宣 を 求め る 。 そ れ ら を 前 に 人 々 は 祈 る 。こ こ あるいは演 劇的課題 に対し何ら かの仮設を 提示したもので あ に いる 巫 女 は 、 わ た し の 場 合は ﹁ 事鬼 道 能 惑衆 ﹂ の 卑弥 呼 れ ば 、 そ れ は 一 つ の 営為 で あ り 、 一 つ の 可 能 性で あ る 。 当 た で ある 。や がて 御託 宣が おりる 、 それは 御託 宣が お り たと 装 り を つ け て いえ ば 、 そ れ で は 現 象 学 と し て の 論 に な ら な い の うこ とかも しれない 。とも あれ 卑弥呼は 踵をかえす 。 で ある 。こ の ジレ ン マこ そ﹃ 演 技 に つ い て ∼無観客試合 踵が かえ ったこ の 瞬 間こ そ、 世 界史 の なかで 舞台 が 成 立し と演劇∼﹄ と いう拙 文で あると いうこ と は言を また ない。 た 瞬 間で あ る 。こ れ ら は す べて 儀 式 の 一 環で あ る か も し れ な いが 、その とき 卑弥 呼は、人々 と萬 神の 間に割り入 り 、自身 繰り 言 に なるまえ に ﹁ 無観客 試合﹂に かえ ろ う 。で あるが 、 を 物 語 ろ う とし た の だ 。 祈る人 々 は 、一 瞬に観 客 に 転換し た 。 これまたあるイメー ジに なる。これを 提出して終わりにした い。 余 談 に な る が 、 舞台 に あが り 役 者 足ら ん と す る 俳 優 の 、こ の 踵をかえす と いう様態は、何も のかを一 瞬に異態に 転換する 前述で 、 舞台 の基 点を 卑弥呼 の踵にも とめた。そこから の ﹁無観客試 合﹂のま まで は、つ いにそれ は単なる総 括に過ぎ 行為 のこ と で ある 。 人々 はこ れ を 演技 と いうが 、技 とす る に ない。すで にお分か りのように ﹁無観客 試合﹂は総括の対象 は おこ が ま し い。と い うこ とで 、で き る なら 、 あら か じ め 役 で は な いの だ 。 それ は課 題で あ り 、可 能 性で ある 。 そうで あ 者で ある能 役者と言 われる 方々 に お任せ し たいのが 、偽ら ざ る なら 、も う一 つ の 視 点が 必 要 で あ っ た 。仮 に 卑弥 呼 の 踵が る と こ ろ で ある 。 だ か ら と い っ て 、 舞台 に あが り 役 者 た ら ん 千 年 の 向 こ う なら 、 千 年 の あち ら が 必 要 と な る 。 来 年 の テ ン とする俳優はアンド ロマックよ ろしく﹁ 天におわす 我らが 大 ト 公 演で も 汲々 して いる のに 、 な ん のホ ラ だ と いう のは請 け 神 様 よ ﹂ と いう わ け に は い か な い ので あ る 。 つ ま り 、こ こ で ) 2 0 . 9 0 . 5 0 0 2 ( こ の ﹃ 演 技 に つ いて ∼無観客 試合と演 劇∼﹄を綴りはじめ 合 い だ が 、 こ れ は 大 向 こ う 受 け を 狙 っ た 法 螺 な ので ご 勘 弁 願 たのだが、 その思いもまた、日々 の稽古 の中に切り 刻むしか いたい。こ こに﹁虚 体﹂を おき たい。﹁ 虚体﹂といえば埴谷 な いよ うで ある 。 雄 高 の 自 同 律 の不 快 と して の ﹁ 虚 体 ﹂で あるが 、 自 同 律 の和 記 解 と し て の ﹁ 虚 体 ﹂ を 本 歌 取 り す る ので あ る 。 た と え ば ﹁ わ ︻ 注記・編集 ︼﹃演技について ∼無観客試合と たしが 蝶で あるとす るとき、わ たしは蝶で ある﹂としての、 演劇∼﹄の﹁添付資料﹂への掲載にあたり、編集責任 自同律の和 解として の﹁虚体﹂で ある。向こ うとあちらの幅 で全体を各章に分け小見出しをつけた。初期、発表時 のなかで、こちらの﹁無観客試合﹂を、 自同律の和 解として の文にはこの小見出しはない。 の﹁虚体﹂から見定めることを 試行する 。もうこと は﹁無観 客 試 合 ﹂で な く なる の は い たし か た な い 。 や は り 最 後に お 詫 び す る し か な いよ う で ある 。論 拠や 出 典 を示さないままの軽業師め いた展開は、当然顰蹙をかう他な い。ただ、ここで 綴 ったのは論文でも演 劇論でもな い。それ は 、 未 知 座 小 劇 場 が す る 現 場 か ら の 報 告 で ある 。こ の一 点 は 、 最 後 ま で 手 放 さ な か っ た つ も り で ある 。 こ の 意 味 で 黙 許 願え れ ば 幸 いで ある 。 184 ; さて さて こ のよ う な中で の、 今回の公 演﹃ 大阪物 語﹄は、 ③﹃大阪物語﹄とカンディンスキーの三日 来 年の テン ト 公 演を 射 程し た 、 こ の いま の行 為 と な って いる 。 それは行き はぐれて しまった、 テントと いう最も古 典的な領 域に視線を 贈り、百 花繚乱の情 報論の海から、自殺行為にも に た 綱渡 り を し よ う と い う 図で あるか ら 、も うこ れ は ﹁ あつ 本日は、ご来場いただきありがとうございます。 は 、ぷふ い ﹂と いう し か な いので あ っ た 。 こ うして つ いに、こ の拙文も ﹃ 大阪物 語﹄で何ら か の具体 性を 差し 出すしか な いと いうと こ ろにた どり着いた よ うで あ こ の一行 で 、拙文 を閉じ たい 思 いに偽 りはない。 ﹃ 大阪物 語﹄に触れ るにはあまりにも、 生々し い時 点にいる 。かとい る。一つの 糧にと台 本執筆中にもかかわらず﹁無観 客 試合﹂ へ絡 み とら れて ある で あろ う情 報論を 見 定め るこ と を 望み 、 う論理を 、 具体化し 全体とする 。こ うな ると、 単に ﹁論理構 築の日々 ﹂ と いった とこ ろで そ の内実が まったく違 うので あ ろうと仮説するしか な い。だが 実はわたしは、こ のカンディ ンスキーの ﹁構想と いう論理を 、抽象化 し全体とす る﹂作業 は 、 カ ン デ ィ ン ス キ ー の 具 体で あ る と 予 断 し て いる 。 さて 、こ の 仮 説 は わ た し が カ ン デ ィ ン ス キ ー に 接 近す る 場 合の、かろ うじて 手に入れて いる出発と して の命題でしかな い。具体性はなんら 模索されて いない。しかし一つ の可能性 本公演のサブタイトルは﹁コ ンポジション ﹂で ある 。い を、現時点でする一つの可能性を﹃大阪物語﹄に預 けるこ と わずもが なカンディ ンスキーで ある。 にするとど うなるのか。その夢 想の結果は、やがて ﹃大阪物 抽象絵画 の祖といわれるカン ディンスキー ∼ 年 語 ﹄ が 上演 さ れ 、 舞 台 上で 行 為 さ れ る か 、 あ る い は 行 為 さ れ にコ ンポジ ション7 年 と いう 作品 が ある 。こ の 圧 倒 的 な いか 、 と いうこ と に な る ので あ ろ うが 、 い ま 初 日 を 前 に 言 ㎜× ㎜ には一つの逸話があ な迫力で 迫りくる絵 画 及するこ と はで き な い。ここで は、﹁構 想と いう論 理を 、抽 る。出典は 忘れたが 、 それは﹁ 構想三年の後、三日で 仕上げ 象化し 全 体 す る ﹂こ と は ど う い うこ と な のか 、と い う 整 理を た ﹂ と い う も の だ 。 さて 、こ の 逸 話 を ど う 読 む の か ? ﹃ 大 阪物 語 ﹄を 踏 ま え 、 それ に そ って 試 み よ うと す る だ けで コ ン ポ ジ ション 7 の前に 立 つ と 、こ の ﹁ 三 日 ﹂と いうこ と ある 。 ある いは 、 自 身に その賭 場 口を 指 し 示すこ と が で き る が コ ケオ ド シだ と い うこ と が わ か る の は わ た し だ け で は な い か。 で あろ う 。 そ の 上で も 、こ の ﹁ 三 日 ﹂を 受 け 入 れて み る に は 素人がす るカンディンスキー への思いから 離れる ために、 ﹁ 構 想 三 年 ﹂を ど う イ メ ー ジす れ ば い い の か 。 コ ン ポ ジ シ ョ ン 7 の 製 作 年で あ る 一 九 一 三 年にふ れ よ う 。こ まずこの﹁構想三 年﹂を論理 構築の日々だったと憶測しよ う 。も ち ろ ん根 拠 は な い 。 そ の よ う に 仮 設 す るこ と で ﹁ 三 日 ﹂ の 年は フェ ル デ ィ ナ ン ・ド ・ソ シュ ー ル ∼ 年 が亡 は 究極 可 能 と な る 、 と 台 本 執 筆 の 経 験 上 いえ る 。 論 理 性を 言 くなった年として記憶する。カ ンディンスキーのコ ンポジシ 霊 に 預 け る こ とで 可 能 だ 。し か し こ こ で 繰 り 広 げら れて いる ョ ン 7 の 構 想が 三 年 と 受 け 売 る なら 、こ のカ ン デ ィ ンス キ ー の は ﹁ 抽 象 ﹂で ある 。一 般 論 か ら す れ ば 具 体 の 対 極 に あ る も の 構 想 の 期 間 に 、 ソ シュ ー ル は ス イ ス の ジュ ネ ー ヴ 大学 で 数 のにほか なら ない。 いわば、具 体こ そ論 理で あろう 。さらに 人の聴講生を前に、 あの﹁一般言語学講 義・第三講 ﹂を行 っ いう なら 、 構想 と い う論 理を 、 抽 象化 し 全 体とす る のだ 。し て いたこ と に な る 。 こ の 符 号 に な んら 歴 史 的 な 事 柄 が 絡 む も か し 、 台 本 の場 合 、 一 概 に い っ て も 仕 方 が な いが 、 構想 と い ので は な い が 、 妄 想 が 広 が る の も 事 実 だ 。こ れ は 得 意 な 分 野 16 って ﹃ 大 阪 物 語 ﹄ の パン フレ ッ ト を 余文 で 汚 す わ け に は いか な い 。何 ヵ 月か の 立 ち 稽 古 に よ って 積 み 重 ね ら れて き たも の に 、 その現 場で 向か い 合 って 来 た 者と し て 、や は り それ は 心 が 痛 む 。 俳 優 たち の 練 習で す る 身 体 の 軋 み の 道 程 に 見 合 う 、 何を、わたしは発酵 させたのか 。 ままよ。 ) 4 4 9 1 6 6 8 1 ( 185 ) 0 0 0 3 ) 0 0 30 12 9( 1 ( ) 3 1 9 1 7 5 8 1 ( ) 3 2 . 1 1 . 5 0 ( ; とも あれ 、カ ンデ ィンスキ ー のコ ンポ ジション7 だ 。文意 186 ( ) の脈絡をふ まえるなら、その全 体はシス テムで ある 、という こ と に なる 。 パー ツ 記号 が 全 体 の中で 相 互 に 軋み あ って い る 。こ の運 動を 成 立 さ せ る 手立 て こ そ論 理で ある 。 コ ン ポ ジ ション7のカンディ ンスキーは そのため に三年を要 した事に なる 。と い う独断が 、ソ シュ ー ル の﹁ 記 号 ﹂を 援用 す るこ と に よ って 成 立す る 。 そし て つ い に 、 コ ン ポ ジ シ ョ ン 7 と いう 全体は、情 報=物語で あるか?またそのように呼ぶことに意 味 は あ る か ?老 婆 心 なが ら お 断 り し て お き た いが 、 ま たこ の ﹁人々 は 、言語学 が 自然科学 の次元に 属するのか 歴史 科学 様な場で 好 みを 持ち 出す 非礼を 詫び なが らで は ある が 、こ れ の次元に 属するのか をを知ろう として議 論を重ねた 。言語学 ら の思 いは 、 あの喧 し か った テ クスト 論 と は 最も 遠 いゐとこ は そ の 二 つ の いず れ に も 属 さ ず 、 未 だ 存 在 し な いと は いえ 、 ろにある。 記号学 と い う名 のも と に 存在 す べき 科学 の一部 門に 属して い さて 、 と おこ が ま し くも 続 け よ う 。 る。﹂ こ れから 御覧 いた だ く﹃ 大阪 物 語﹄に は 、二人 の 女 優が 登 カンディ ンスキーの﹁抽象﹂を﹁記号 ﹂としてイメージし 、 場する 。彼 女 たち は 、 舞台に 上 り 役者たら んとし 、 相互に意 味するも ので あるの か 、 ある い は指し 示 すも のと な るのか 。 その想 いを 、稚拙な 理解で 素描 して 差し 出すには、 どうして は た ま た 、 相 互 に 記 号 と し て 軋 み 合 うこ と に な る の か 。 そ う も 無 理が あ る の は 承 知 だが 、 そ れで も な お 試み る な ら 、 信 号 の ﹁ 赤 ﹂ や ﹁ 黄 ﹂ は さ て お き 、 ソ シ ュ ー ル の い う ﹁ 言 語 記 号 ﹂ して 役者と なるのか 。 それら は す べて 観 て の お楽し み と なる 。 とは、﹁馬 ﹂などと いう指し示す言葉は 、その﹁意 味される 内 容 ﹂ と で 表 裏 一 体 = 記 号 と し て 成 り 立 って い る 、 と 。 た ぶ 最 後 ま で お楽 し み 頂 け れ ば 幸 いで あり 、 望 外 の 喜 び で す 。 んこ の 関係 こ そ文 化 で ある のだ ろ うが 、 こ の﹁馬 ﹂ は恣意 的 記 で ある 、と 。さら に 、こ れら の 記号 は 独 立して いる ので は な く、システムとして 、﹁馬﹂は ﹁猫﹂や ﹁犬﹂等と の差異に ︻ 注記・編集 ︼ この﹁演技について ∼﹃大阪物 語﹄とカンディンスキーの三日 ∼﹂は、二〇〇五年 よ って 成 立 す る 、 と 。社 会 科学 など に 親 し んで き た も のと し 十一、十二月に未知座小劇場で行われた公演当日の て は 、こ れ を ﹁ 真 理 ﹂ など な い と 論 証 し た一 例 、 と 驚 愕し な パンフレットに掲載されたものを、ここに転載した。 が ら 読 ま ざ るえ なか った ので す が ⋮ ⋮ 。 で ある 。そしても う すで に お分かりのよ うに、カ ン ディンス キーの﹁抽象﹂とソ シュールの﹁記号﹂とを対置させたいの で ある 。 ソ シュ ー ル の 弟 子 たち に よ っ て 編ま れ た ﹃ 一 般言 語学 講 義 ﹄ や その 手 稿 で 彼 は 、 ま だ 存 在 し な いが 、 言 語 学 を 包 み 込 む 記 号学を予見し、次のようにいって いる。 187 188 ④ オ ー デ ィ シ ョ ン 募 集 要 項 189 190 ⑤ 上 演 履 歴 191 192 ・ ・ 未知座小劇場 / p j . 8 7 0 5 6 / 9 / 9 : p 2 t 7 t 0 h LR L E T U ;;;; 193 落乱丁本の取替えは出来ませんので、ご了承ください。 ;;;;;;;;;; / 著 者・︷ルビ やみくろみつ︸闇黒光︷ ルビ︸ 編 集・未知座小劇場 編責任・河野明 発 行・ 大阪演劇情報センター電子出版 発行所・㈱オフィスゼット 発行日・2006年6月 日・初版 頒 価・3000円 連絡先・〒 大阪府八尾市佐堂町 21 O P N 7 1 2 2 6 1 8 0 1 8 5 39 表 題・未知座小劇場第 回テント興業上演台本
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