711 HCV 抗体スクリーニング検査法の比較 大阪大学医学部附属病院臨床検査部1),大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻生体・病態情報学領域2), 大阪府赤十字血液センター研究部3),大阪大学医学部保健学科検査技術科学専攻病態生体情報学講座4) 出口 松夫1)2) 鍵田 正智1) 山下 順香3) 中野 田原 和子1) 浅利 誠志1)2) 岩谷 良則2)4) 卓1) (平成 14 年 3 月 14 日受付) (平成 14 年 7 月 1 日受理) Key words: HCV, anti-HCV antibody, screening test, RIBA 要 旨 8 種類の HCV 抗体スクリーニング(SC)試薬[Ortho Quick Chaser HCV Ab(QC) ,Ortho HCV Ab ELISA III(ELISA) ,Ortho HVC Ab PA test III(PA) ,Lumipulse II Ortho HCV(LUMI) ,IMx HCV・ DAINAPACKII(IMx) ,ARCHITECT HCV(ARCH) ,Immucheck・F-HCV C50 Ab(Immu) ,RANREAM HCV Ab Ex II(RAN) ] の比較評価を行った.患者 600 人の血清を用いて 8 種の SC 試薬を比較し たところ,陽性率は 9.0%〜13.2% であり,その内の 45 例は試薬間で判定が不一致となった.その判定不 一致例における陽性結果の約半数は反応性が弱かった.また,その 45 例中 25 例は抗体確認検査法カイ ロン RIBA テスト III(RIBAIII)によって HCV 抗体が検出されず,44 例は PCR 法によって HCV-RNA が検出されなかった.2 試薬間の判定一致率は 95.5%〜99.2% であり,使用抗原が類似しているものが, 必ずしも判定一致率が高いわけではなかった.抗体確認検査法である RIBAIII を用いて,感度と特異度 を評価したところ,ともに優れた成績を示した試薬は ELISA,LUMI,IMx,ARCH および Immu であっ た.HCV 感染初期に経時的に採取された検体(BBI seroconversion panel)3 セットを用いた比較評価で は ELISA と ARCH で最も早期に陽性化が認められ,次いで IMx,LUMI=RAN,PA,QC,Immu の順 であった.以上の結果より,HCV 抗体 SC 試薬として ELISA と ARCH が感度,特異度および HCV 感染 症の早期診断に優れていた.しかし,どの SC 試薬においても陽性結果の反応性が弱い時には,偽陽性の 可能性もあるので注意を要した. 〔感染症誌 はじめに 76:711〜720,2002〕 3, NS4, NS5 領域より得られた多種多様の抗原が C 型肝炎ウイルス(HCV)の抗体検査は 1989 使用されている3)4).さらに,検出原理も従来の酵 年に HCV 遺伝子配列が決定されたのを機会に開 素免疫法や粒子凝集法に加え,最近ではイムノク 発された1).当初,HCV 抗体検査における HCV ロマト法や蛍光・化学発光を利用した新しい測定 抗体捕捉抗原は HCV 構造領域の一部である NS4 法が次々と開発されており,20 種類以上の様々な 領域より得られたリコンビナント抗原(c100―3)の 試薬が市販されている.これに伴って,試薬の抗 NS みが使用されていた2).しかし,現在では core, 体検出感度は飛躍的に向上し,一様に HCV 感染 別刷請求先:(〒565)吹田市山田丘 2―15 大阪大学医学部附属病院臨床検査部 出口 松夫 平成14年 9 月20日 症における HCV 抗体検出率も上昇した.しかし, 各試薬の反応性も多様化したことから試薬間での 判定不一致も増加しており,多くの臨床家を悩ま 712 出口 松夫 他 'イムチェック・F-HCV C50 Ab(Immu;国際 せる原因となっている. 我々はその市販 HCV 抗体測定試薬の現状を把 握するために,使用抗原や検出原理の異なる 8 種 類の HCV 抗体測定試薬を用いて,基本性能の比 8) を 用 い,全 自 動 酵 素 免 疫 測 定 装 置 試薬(株) ) ELSIA-F300(国際試薬(株) ) にて測定した. (ランリーム HCV Ab EXII(RUN;シスメッ 9) を 用 い,全 自 動 免 疫 凝 集 測 定 装 置 クス(株) ) 較を行った. 材料および方法 PAMIA(シスメックス(株) ) にて測定した. 1.材料 2)HCV 抗体確認検査法 大阪大学医学部附属病院臨床検査部に HCV 抗 カイロン HCV RIBA テスト III(RIBA;オ ー 体検査依頼があった入院および外来患者血清 600 ソ・ク リ ニ カ ル・ダ イ ア グ ノ ス テ ィ ッ ク ス 例 と BOSTON BIOMEDICA INC. (BBI)の 3 種 10) を用いて,HCV 特異抗体の検出を行った. (株) ) 類 の seroconversion panel(PHV905,PHV906, 操作法は添付文書に従い用手法にて実施した.判 PHV909)を 用 い た.な お,BBI seroconversion 定基準は二つ以上の特異抗体(陽性バンド)を認 panel とは HCV に感染した一個人の血清あるい めた場合を HCV 抗体陽性,一つの特異抗体を認 は血漿を経時的に採取したものである. めた場合を判定保留,まったく認めなかった場合 2.方法 を陰性とする.また,試薬の特徴については Ta- 1)HCV 抗体スクリーニング法 ble 1 に記載した.なお,今回の検討において本試 以下に示す 8 種類の HCV 抗体スクリーニング 薬による測定結果は HCV 抗体の有無を示す基準 (SC) 試薬を添付文書に従って使用した.なお,各 値とした. 3)HCV-RNA 検査法 試薬の特徴は Table 1 にまとめた. !オーソクイックチェイサー HCV Ab(QC; アンプリテックス HCV(PCR;ロシュ・ダイア オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス 11) を用いて HCV-RNA の グノスティックス(株) ) 5) を用い,用手法にて測定した. (株) ) 抽出を行い,PCR(Polymelase chain reaction)を "オーソ HCV Ab ELISA テスト III(ELISA; 測定原理とするコバスア ン プ リ コ ア HCV(ロ オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス 12) にて測定 シュ・ダイアグノスティックス(株) ) 6) を用い,マイクロプレート ELISA 自動測 (株) ) 定 装 置 Behring ELISA Processer III(デ イ ド・ ベーリング(株) ) にて測定した. した. 成 績 1.日常依頼検体における判定結果の比較 #オーソ HCV Ab PA テスト II(PA;オーソ・ 7) 当院における HCV 抗体検査依頼検体 600 例を クリニカル・ダイアグノスティックス(株) )を用 用いて,8 種 SC 試薬の判定結果を比較検討した. い,用手法にて測定した. さらに,SC 試薬のいずれか 1 試薬でも陽性を示し $ルミパルス II オーソ HCV(LUMI;オーソ・ た試料については RIBA による特異抗体の検出 7) を用 クリニカル・ダイアグノスティックス(株) ) を実施した.さらに,SC 試薬間で判定不一致を示 い,全自動化学発光酵素免疫測定装置ルミパルス した全ての試料と SC 試薬の全てが陽性を示した f(富士レビオ(株) ) にて測定した. 一部の試料については PCR による HCV-RNA の %IMx HCV・ダイナパック―II(IMx;ダイナ 7) 検出を実施した.それらの結果については Table ボット(株))を用い,IMx アナライザー(ダイナ 2 に示すように,SC 試薬の陽性結果は RAN の 79 ボット(株) ) にて測定した. 例 が 最 も 多 く,次 い で ARCH の 73 例,ELISA &アーキテクト HCV(ARCH;ダイナボット 7) (株) )を用い,全自動化学発光免疫測定装置アー および PA の 70 例,Immu の 68 例,LUMI の 66 例,IMx の 65 例,QC の 54 例であった.また,8 キテクトアナライザー i2000(ダイナボット(株)) 種 SC 試薬の判定結果を Fig. 1 にまとめた と こ にて測定した. ろ,600 例中 503 例(A 群)はすべての SC 試薬が 感染症学雑誌 第76巻 第9号 HCV 抗体スクリーニング検査法の比較 Table 1 713 Characteristic of eight screening tests and one confirmatory test for detection of anti-HCV antibody. coated antigen principle core NS3 1 191 Quick Chaser HCV Ab(QC) 1000 immunochromatography 2−120 assay NS4 NS5 1500 1192 1960 1931 microplate EIA c22−3 HCV Ab PA test À(PA) particle agglutination assay 2−120 1192 2054 2995 NS5 magnetic microparticle CLEIA 1931 2054 2995 NS5 c200 c25 1192−1457 1596−1931 c33c c100−3 c100−3 1192 1−150 1931 tube EIA RUNREAM HCV Ab Ex À (RAN) particle agglutination counting immunoassay c100−3 strip immonoblot assay ? ? 1.0 S/C ALP conjugated anti-human IgG polyclonal Ab (goat) 1.0 S/CO ACD conjugated anti-human IgG & M monoclonal Ab (mouse) 1.0 S/CO POD conjugated anti-human IgG monoclonal Ab (mouse) 1.0 COI ? 1.0 COI ? 1649−1735 1192−1457 1920−1935 2054 2995 NS5 c33c c22p c50 antigen 1690−1713 1716−1750 ? 10−53 ALP conjugated anti-human IgG monoclonal Ab (mouse) 1238−1313 1670−1713 1363−1460 1712−1750 66−80 ? CHIRON HCV RIBA test Á (RIBA) 1192−1457 1596−1931 HC−43 1−43 66−80 Immucheck・F − HCV C50 Ab (Immu) 1.0 COI 1192−1457 1569−1931 HC−43 microparticle EIA magnetic microparticle CLIA POD conjugated anti-human IgG monoclonal Ab (mouse) 1:32 titer c200 ARCHITECT HCV(ARCH) positive band 1931 1192 1−150 IMx HCV・ DAINAPACK À(IMx) gold colloid conjugated HCV Ag c200 c22−3 2−120 Lumipulse À HCV(LUMI) cut off value 3011aa c200 HCV Ab ELISA Á(ELISA) conjugated Ag and Ab 1649−1735 c100p 5−1−1p POD conjugated anti-human IgG polyclonal Ab (goat) ■;ricombinant antigen of yeast origin, ■;ricombinant antigen of E. coli origin, ■;synthetic peptide. ALP;alkaline phosphatase, POD;peroxidase, ACD;acridinium. 平成14年 9 月20日 two positive bands 714 出口 松夫 他 Table 2 Results of eight screening tests for anti-HCV antibody in 600 sera from patients No A B screening test RIBA QC ELISA PA LUMI IMx ARCH Immu RAN 1〜503 − − − − − − − − 504 + − − − − − − − 505〜507 − − + − − − − − 508 − − − + − − − − 509〜510 − − − − + − − PCR core NS3 NS4 NS5 RNA NT ― ― ― ― NT NEG − − − − NEG NEG − − − − NEG NEG − − − − NEG − NEG − − − − NEG 511 − − − − − + − − NEG − − − − NEG 512〜515 − − − − − − + − NEG − − − − NEG 516〜524 − − − − − − − + NEG − − − − NEG 525 − − − − − + − − IND − 2+ − − NEG 526 − − − − − + − − IND − 3+ − − NEG 527 − − + − − − − + NEG − − − − NEG 528 − + + − − + − + NEG − − − − NEG 529 − + + + − + − − NEG − − − − NEG 530 − + + + + + − − NEG − − − − NEG 531 − − + − − − − + IND 1+ − − − NEG 532 − − − − − − + + IND 1+ − − − NEG 533 − + − − − − + − IND 2+ − − − NEG 534 − + − + − + + − IND − 1+ − − NEG 535 − + + − − + − + IND 1+ − − − NEG 536 − + − − − + + + IND 3+ − − − NEG 537 − − + − − + + + IND 3+ − − − NEG 538〜539 − + + + + + − + IND 1+ − − − NEG 540 − + − + + + + + IND 2+ − − − NEG 541 − + − + + + + + IND 3+ − − − NEG 542 − + − + + + + + IND 4+ − − − NEG 543 − + + + + + + + IND 1+ − − − NEG 544 − + + + + + + + IND 2+ − − − NEG 545 − + + + + + + + IND 4+ − − − NEG 546 + + + + + + − + IND − 1+ − − NEG 547 − + + + + + − + POS 1+ 2+ − − POS 548 − + + − − + + + POS 2+ − 2+ − NEG 549 + + + + + + + + IND 2+ − − − NEG 550〜555 + + + + + + + + POS ― ― ― ― NEG 556〜583 + + + + + + + + POS ― ― ― ― POS 584〜600 + + + + + + + + POS ― ― ― ― NT NEG 546 530 530 534 535 527 532 521 ― ― ― ― ― ― POS 54 70 70 66 65 73 68 79 ― ― ― ― ― ― POS rate (%) 9.0 11.7 11.7 11.0 10.8 12.2 11.3 13.2 ― ― ― ― ― ― C D A; All eight screening tests are negative, B; One of eight screening tests is positive, C; Two to seven screening tests are positive, D; All eight screening tests are positive, POS; positive, IND; indeterminate, NEG; negative, NT; not tested. 感染症学雑誌 第76巻 第9号 HCV 抗体スクリーニング検査法の比較 715 陰性を示し,残りの 97 例はいずれかの SC 試薬で は B 群ではすべて陰性,C 群では 1 例(No 547) を 陽性を示した.さらに,この 97 例を詳細に分類す 除き陰性,D 群では 35 例中 28 例(80%)が陽性 ると,23 例(B 群)は 1 種 SC 試薬のみが陽性,他 を示した. の 22 例(C 群)は 2〜7 種 SC 試薬が陽性,残りの SC 試薬の抗体検出感度を比較するために,SC 52 例(D 群)は全ての SC 試薬が陽性であった. 試薬のいずれかで陽性を示し,RIBA により何ら すなわち,45 例が試薬間での判定不一致を認め かの特異抗体(陽性バンド)が認められた 72 例に た.また,B,C,D 群における RIBA および PCR おける判定結果を Table 3 にまとめたところ,そ 判定結果についても Fig. 1 にまとめたところ, れぞれの感度は 73.6〜95.8% であり,最も高い感 RIBA は B 群では陰性,C 群では判定保留,D 群で 度を示したのは ARCH,ついで RAN,ELISA, は陽性が極めて高頻度に認められた.一方,PCR Immu,LUMI および PA,IMx,QC の順であった. つぎに,特異度を比較するために,RIBA により まったく特異抗体が認められなかった 25 例にお Fig . 1 Relationship between the results of eight screening tests, RIBA test and PCR method in 600 sera. ける判定結果を Table 4 にまとめたところ,それ ぞれの特異度は 56.0〜96.0% であり,最も高い特 異度を示したのは QC,ついで IMx,ELISA およ び LUMI,ARCH および Immu,PA,RAN の順 であった.なお,偽陽性を示した 7 種 SC 試薬(QC を除く)の測定値についても Table 4 に記載した が,RAN を除く 6 種 SC 試薬の測定値は,いずれ も基準値の 4 倍未満と低い値であった. 2 種 SC 試薬間の判定結果を比較するために,そ れぞれの判定一致率を Table 5 にまとめたとこ ろ,それぞれの判定一致率は 95.5〜99.2% であり, 判定一致率の最も高い組み合わせは ELISA と ARCH 間および LUMI と IMx 間の 99.2%,最も Table 3 Sensitivity of eight screening tests in 72 sera positive or indeterminate for RIBA test and positive for one or more screening tests n = 72 QC ELISA PA LUMI IMx ARCH Immu RAN positive negative 53 19 67 5 63 9 63 9 62 10 69 3 64 8 68 4 positive rate(%) 73.6 93.1 87.5 87.5 86.1 95.8 88.9 94.4 Table 4 Specificity of eight screening tests in 25 sera negative for RIBA test and positive for one or more screening tests n = 25 positive negative negative rate(%) *1; *5; QC ELISA PA LUMI IMx ARCH Immu RAN 1 24 96 3*1 7*2 3*3 3*4 4*5 4*6 11*7 14 56 22 88 18 72 22 88 22 88 1.04 〜 1.45 COI, *2; 1 : 32 〜 1 : 64 titer, *3; 1.1 〜 3.8 S/C, *4; 1.00 〜 1.18 S/CO, 1.24 〜 1.73 S/CO, *6; 1.12 〜 2.58 COI, *7; 1.10 〜 12.19 COI. 平成14年 9 月20日 21 84 21 84 716 出口 松夫 他 Table 5 Agreement ratios of the results of eight screening tests QC ELISA PA LUMI IMx ARCH Immu RAN n = 600 + − + − + − + − + − + − + − + − + − − 53 1 53 1 53 1 53 1 53 1 52 2 53 1 − − − 17 529 17 529 13 533 12 534 20 526 16 530 26 520 QC agreement rate ― 97.0% + 53 17 − − 1 529 − 97.0% 97.7% 97.8% 96.5% 97.0% 95.5% − 64 6 65 5 63 7 69 1 62 8 66 4 − 6 524 1 529 2 528 4 526 6 524 13 517 ELISA agreement rate 97.0% ― 98.0% 99.0% 98.5% 99.2% 97.7% 97.2% + 53 17 64 6 − − 61 9 60 10 65 5 57 13 65 5 − 1 529 6 524 − − 5 525 5 525 8 522 11 519 14 516 PA agreement rate 97.0% 98.0% ― 97.7% + 53 13 65 1 61 5 − − 1 533 5 529 9 525 − 97.5% 97.8% 96.0% 96.8% − 63 3 65 1 59 7 62 4 − 2 532 8 526 9 525 17 517 LUMI agreement rate 97.7% 99.0% 97.7% ― 99.2% + 53 12 63 2 60 5 63 2 − − 1 534 7 528 10 525 3 532 − 98.5% 97.3% 96.5% − 63 2 58 7 62 3 − 10 525 10 525 17 518 IMx agreement rate 97.8% 98.5% 97.5% 99.2% ― 98.0% 97.2% 96.7% + 53 20 69 4 65 8 65 8 63 10 − − 62 11 67 6 − 1 526 1 526 5 522 1 526 2 525 − − 6 521 12 515 ARCH agreement rate 96.5% 99.2% 97.8% 98.5% 98.0% ― 97.2% + 52 16 62 6 57 13 59 9 58 10 62 6 − − 2 530 8 524 11 519 7 525 7 525 11 521 − 97.0% − 62 6 − 17 515 Immu agreement rate 97.0% 97.7% 96.0% 97.3% 97.1% 97.2% ― 96.2% + 53 26 66 13 65 14 62 17 62 17 67 12 62 17 − − − 1 520 4 517 5 516 4 517 3 518 6 515 6 515 − − RAN agreement rate 95.5% 97.2% 96.8% 96.5% 96.7% 97.0% 96.2% ― 低い組み合わせは RAN と QC 間の 95.5% であっ 97.0, 98.0, 98.0%(平均 97.7%) であった.さらに, た.また,判定不一致結果の発生頻度が SC 試薬間 使用抗原がまったく異なる組み合わせは Immu で大きく異なる原因については,各試薬の使用抗 と他の 6 種 SC 試薬であり,判定一致率は 96.0〜 原に起因するのではないかと考え,各試薬の使用 97.7%(平均 97.1%)であった.このことからも明 抗原を比較した.なお,抗原を比較するにあたり らかなように,同一あるいは類似抗原を使用した RAN については正確なアミノ酸配列が公表され 試薬間の判定一致率が必ずしも高いという訳では ていないことから比較対象外とした.7 種 SC 試薬 なかった.また,各試薬の測定原理と判定一致率 中で使用抗原のアミノ酸配列および発現系(宿主) の関係についても比較したが,両者の間に特別な が同じである組み合わせは QC と ELSA のみで 関係は認められなかった. あり,判定一致率は 97.0% であった.一方,使用 2.HCV 感染初期検体における測定値の比較 抗原の半分以上が同じ抗原(類似抗原)を使用し HCV 感染初期より経時的に採取された 3 種類 ている組み合わせは PA と QC,PA と ELISA, の BBI seroconversion panel を用いて,各試薬に IMx と ARCH であり,それぞれの判定一致率は おける陽性化を比較した.その結果は Table 6 に 感染症学雑誌 第76巻 第9号 HCV 抗体スクリーニング検査法の比較 717 Table 6 Serial readings of by eight screeninng tests and RIBA test in BBI seroconversion panels showing the initial stage of HCV infection PHV905 Confirmatory test Screening test No. PCR Days RIBA QC ELISA PA LUMI IMx ARCH Immu RAN core NS3 NS4 NS5 RNA* 1 0 − − − − − − − − NEG − − − − + 2 4 − − − − − − − − NEG − − − − + 3 7 − − − − − − − − NEG − − − − + 4 11 − − − − − − − − IND − 1+ − − + 5 14 − + − − + + − − IND − 1+ − − + 6 18 − + − − + + − − IND − 1+ − − + 7 21 + + + + + + − + POG 1+ 2+ − − + 8 25 + + + + + + + + POG 4+ 4+ − − + 9 28 + + + + + + + + POG 4+ 4+ − − + 1 0 − + − + + + − − IND − 4+ − − + 2 2 − + + + + + − − IND − 4+ − − + 3 7 + + + + + + − + POG − 4+ 2+ − + 4 10 + + + + + + − + POG − 4+ 3+ − + 5 14 + + + + + + + + POG − 4+ 4+ − + 6 17 + + + + + + + + POG − 4+ 4+ − + 7 21 + + + + + + + + POG − 4+ 4+ − + 1 0 − − − − − − − − NEG − − − − + 2 28 − + − − − + − + IND 1+ − − − + 3 30 − + − − − + − + IND 2+ − − − + PHV906 PHV909 *; Results were taken from the package insert of each BBI panel, POS; positive, IND; indeterminate, NEG; negative. 示すように, PHV905 における陽性化は ELISA, 検討を行った. IMx および ARCH が早く,RIBA においても NS 当院における HCV 抗体検査依頼検体 600 例に 3 抗体が検出された.また,PHV906 における陽性 おける 8 種 SC 試薬の陽性結果は RAN の 79 例が 化は ELISA,LUMI,IMx および ARCH が早く, 最も多く,QC の 54 例が最も少なかった.すなわ RIBA においても NS3 抗体が検出された.さら ち,どの試薬を導入するかによって,日常検体の に,PHV909 おける陽性化は ELISA,ARCH およ 陽性率には約 1.5 倍の差が生じることが明らかと び RAN が早く,RIBA においても core 抗体が検 なった.また,8 種 SC 試薬の 1 法以上が陽性を示 出された. した 97 例について,RIBA による抗体確認検査と 考 察 PCR による HCV-RNA の検出を行ったところ, 我々は現在市販されている HCV 抗体スクリー SC 試薬間で判定不一致を示した検体の約半数 ニング(SC) 試薬の現状と問題を把握するために, (25! 45 例) において HCV 抗体は存在せず,また, 使用抗原や検出原理の異なる 8 種 SC 試薬の比較 そのほとんど(44! 45 例)において HCV-RNA も検 平成14年 9 月20日 718 出口 松夫 他 出されなかった.一方,すべての SC 試薬が陽性を しも感染初期においても早期に陽性化するとは限 示した全ての検体(52! 52 例)において HCV 抗体 らなかったことである.すなわち,陽性率が高い は確認されたが,HCV-RNA の検出率は 80%(28! にもかかわらず感染初期における陽性化の遅かっ 35 例) であった.しかし,PCR が陰性を示した 20 た SC 試薬は,感染既往抗体16)の検出率あるいは偽 %(7! 35 例)の中には 3 例の INF 治療患者検体が 陽性の出現率が高いと考えられる.その反面, 含まれており,これらの患者のうち 2 名は INF ELISA のように陽性率が高くないにもかかわら 投与終了後に再度 HCV-RNA が検出されている. ず感染初期における陽性化の早かった SC 試薬 すなわち,少なくともこの 2 例は HCV-RNA は検 は,現在の感染を鋭敏に反映すると考えられる. 出されなかったが,HCV 持続感染者であった. 以上の結果をまとめると,8 種 SC 試薬の反応性 8 種 SC 法 の HCV 抗 体 検 出 感 度 に つ い て は は様々であり,試薬間での使用抗原や測定原理が 73.6〜95.8% であり,QC を除く 7 種 SC 試薬が 80 類似してるからといって,試薬間の判定一致率が %以上の良好な成績を示した.一方,特異度につ 必ずしも高い訳ではなかった.感度および特異度 いては 56.0〜96.0% であり,PA および RAN を除 の検討より,いずれも良好な成績を示した測定法 く 6 種 SC 試薬の特異度は 80% 以上の良好な成 は ELISA,LUMI,IMx,ARCH お よ び Immu 績を示した.また,これら 6 種 SC 試薬の偽陽性値 であり,その中でも ELISA および ARCH は HCV は基準値の 4 倍未満と極めて低い値であった. 感染症の早期診断にも優れていた.しかし,いず 2 種 SC 試薬間での判定一致率については 95.5 れの測定法でもその測定値が低い陽性結果につい %〜99.2% となり,最も判定一致率の高い組み合 ては偽陽性の可能性もあることから,SC 試薬のみ わせでも 120 例に 1 例,最も低い組み合わせでは による結果から HCV 感染症と診断するには問題 22 例に 1 例の判定不一致が認められた.判定不一 が残されており,HCV 抗原検査や患者の臨床的背 致発生頻度が SC 試薬間で大きく異なる原因につ 景を含めた総合的な診断が必要である. いては,各試薬の使用抗原さらには測定原理など が関与するのではないかと考え,判定一致率との 関係を調べたが,両者の間に一定の関係は認めら れなかった.すなわち,試薬の反応性を決定する 要因には測定原理や使用抗原の種類はもとより, 抗原感作量,固相の材質,感作条件,抗原抗体反 応の条件などが複雑に関与していると思われ,各 試薬の添付書上に記載された測定原理や使用抗原 の種類から,試薬の反応性を推測することは困難 であった.なお,HCV の抗原性に関する基礎的研 究については数多く報告されているが13)〜15),抗原 感作時における固相の材質や感作条件・方法によ る抗原性の変化などに関する詳細な報告はされて いない. HCV 感染初期患者血清(3 種類の BBI Seroconversion panel) を用いた検討において,早期に陽性 化した SC 試薬は ELISA と ARCH であり,次い で IMx,LUMI=RAN,PA,QC,Immu の順であっ た.ここで注目すべきことは,RAN のように日常 検体において高い陽性率を示した SC 試薬が必ず 文 献 1)Choo Q-L, Kuo G, Weiner AJ, Overby LR, Bradley DW, Houghton M:Isolation of a cDNA clone derived from a blood-borne non-A non-B hepatitis genome. Science 1989;244:359―62. 2)Kuo G, Choo Q-L, Alter HJ, Gitnick GL, Redeker AG, Purcell RH, et al .:An assay for circulating antibodies to major etiologic virus of human nonA, non-B hepatitis. Science 1989;224:362―4. 3)Courouce AM, Marrec NL, Girault A, Ducamp S, Simon N:Anti-hepatitis C virus(anti-HCV)seroconversion in patients undergoing hemodialysis:comparison of second−and third-generation anti-HCV assays . TRANSFUSION 1994 ; 34 : 790―5. 4) Barrera JM , Francis b , Ercilla A , Nelles M , Achord D, Darner J, et al .:Improved detection of anti-HCV in post-transfusion hepatitis by a thirdgeneration ELISA. 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The positive rates of the eight screening tests were from 9.0% to 13.2%. Forty-five sera showed discrepant results between the eight screening tests, and about half of them showed weak positive reaction and!or false positive. Twenty-five of the forty-five sera were negative for ant-HCV antibody in the CHIRON RIBA III confirmatory test, and forty-four of them were negative for HCV-RNA in the PCR method. The agreement rates between the two reagents were from 95.5% to 99.2%, but were not always high between the two reagents that used similar antigen. The specificities and sensitivities evaluated by using the RIBA III confirmatory test were excellent in ELISA, LUMI, IMx, ARCH and Immu. Three BBI seroconversion panels were used to compare the positive readings in the initial stage of HCV infection by eight screening tests. ELISA and ARCH showed the earliest positive readings, and then IMx, LUMI=RAN, PA, QC and Immu in this order. These findings indicate that ELISA and ARCH were the most excellent in the sensitivity, specificity and early diagnosis of HCV infection. However, we must pay attention to the weak positive reaction in the screening tests, because there is a possibility of false positive . 感染症学雑誌 第76巻 第9号
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