現代日本における若者の市民性(1)

現代日本における若者の市民性(1)
趣味縁の両義性
東京学芸大学 浅野
1
智彦
問題
本報告およびそれに続く三つの報告が共有しているのは「日本の若者の趣味縁は、彼らの公共
性や市民性の育成にどのような効果をもっているのだろうか」という問いだ。この問いに答える
ために以下 4 報告では、社会関係資本論を補助線として、量的データを分析・検討していく。
2
先行業績
社会関係資本論の諸研究においては、公共性・市民性が社会関係資本によって醸成されると想
定した上で、後者を評価する指標として一般的信頼や政治活動への参加などの変数が用いられる。
とりわけパットナムのイタリア研究以来、市民性・公共性に対して趣味集団のもつ効果に研究関
心が集中してきた(Putnam[1993=2001]、Hooghe[2003]、Hooghe & Stolle eds.[2003])。だが
研究の蓄積とともに、他の変数のおよぼす効果も明らかになってきた(Decker & Uslaner
eds.[2001]、Rothstein & Uslaner[2005])。
3
調査設計
以下で用いるデータは、2007 年 9 月に東京都杉並区において実施した量的調査によって得ら
れたものである。調査の概要は以下の通り。
対象:東京都杉並区在住の 16 歳から 29 歳の男女
方法:訪問留置調査
4
有効サンプル数:719
抽出:無作為・二段抽出
回収率:40%
分析
分析の結果、趣味集団への参加が一般的信頼には効果をもたないこと、しかし政治参加とは
プラスに関係するらしいことがわかる。さらに趣味縁を趣味友人と趣味集団に分けた上でその効
果を検討すると、
(1)趣味友人の有無はパーソナルな領域の社交的積極性とのみプラスに関連す
ること、
(2)趣味集団への参加は政治参加など公的な活動とプラスの関係を示すこと、
(3)しか
し趣味集団に参加する若者は相対的に少ないことなどが確認される。
*この研究は学術振興会による科学研究費助成金(基盤研究(B)課題番号:18330101)を得
て行われた。
【文献】
Decker, Paul & Uslaner Eric M.eds., 2001, Social Capital and Participation in Everyday Life, Routledge
Hooghe,Marc, 2003, Participation in Voluntary Associations and Value Indicators:The Effect of Current and
Previous Participation Experiences, Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly,vol32,no.1
Hoogeh, Marc & Stolle, Dietlind eds., 2003, Generating Social Capital, Palgrave Macmillan
Newton,Kenneth, 1999, Social capital and democracy in modern Europe, Social Capital and European Democracy,
Routledge
Putnam, Robert D., 1993, Making Democracy Work =2001、河田潤一、『哲学する民主主義』、NTT 出版
Rothstein, Bo & Uslaner, Eric M., 2005, All for all: Equality, corruption, and social trust, World Politics 58