リニアモーターカーは どうやって浮いている?

〈研究よもやまばなし〉
リニアモーターカーは
どうやって浮いている?
-電気情報システム工学分野-
准教授 真田 雅之
推進・浮上コイル
図3 試験車両と走行路側壁の推進・浮上コイル
2027 年開業を目指して南アルプス迂回ルート
だ,いや貫通ルートだ,などと最近何かと話題に
なっている JR 東海のリニアモーターカー(以下
JR-MAGLEV;図 1)ですが,通常の鉄道とは違っ
て浮上して走ることはほとんどの人が知っている
と思います.では,どのようにして車体が浮いて
いるかご存じでしょうか.
実はリニアモーターカーの浮上方式には大別
すると 2 つのタイプがあります.一つ目は電磁吸
引浮上(EMS)方式で,
(愛・地球博のアクセスルー
トにもなった)名古屋の Linimo や上海のリニア
モーターカーなどがこの方式を使用しています.
一方,山梨で実験を続けている JR-MAGLEV は誘
導反発浮上(EDS)方式と呼ばれる方式を使用し
ています.
EMS 方式では電磁石の吸引力を利用していま
すが,EDS 方式では,短絡コイルに磁石が近づい
てくると,磁気の変化を妨げるように短絡コイル
図1 JRのリニアモーターカー
に電流が流れて磁石を押し戻そうとする力が働
くので,その力を利用しています.
(図 2)また,
超電導磁石という非常に強力な磁力を発生でき
る磁石にすることによって,およそ10cm という
浮上距離を実現しています.十分な力が発生す
るにはある程度の速度が必要なため,低速時に
はタイヤで走行しますが,地上に置かれた短絡コ
イル(浮上コイルとも言います)には給電が不
要なため,停電が起きても車体を浮上させてい
る力(揚力)が急に失われることはありません.
さて,山梨の JR-MAGLEV では浮上コイルは鉄
道のレールのように走行路の床面には並んでい
ません.走行路の側面に設置されていて側壁浮
上方式と呼ばれます.
(図 3)側壁浮上方式の浮
上コイルは単純なコイルと異なり8 の字の形をし
ていて,8 の字の上側で吸引力を,下側で反発力
を発生することによって車体を上方向に持ち上
げる力を発生させています.
(図 4)
なぜこんなややこしいことをしているかという
と,EDS 方式における反発力はリニアモーター
カーにとって揚力としてだけでなく,
抗力(ブレー
キ力)としても働くため,揚抗比という揚力と抗
力の比率を高く取れる(抗力の比率が小さい)
方式を採用しているのです.側壁浮上方式は床
面にコイルを並べる方式に対しておよそ5倍の
揚抗比が得られるため,時速 500 キロメートル
を超えるスピードを効率よく実現するためには重
要な技術なのです.
浮上力
浮上力
超電導磁石の
進行方向
誘導電流
吸引
超電導磁石
超電導磁石
浮上用
8の字コイル
誘導電流
反発
反発
浮上用
超電導磁石の
進行方向
短絡コイル
図2 誘導反発浮上の原理
図4 側壁浮上方式の原理
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