物語の始まり

일본연구 제53호
2012년 9월 30일 133-151쪽
物語の始まり
― 作品の冒頭に表れたる作者の意図 ―
13)
許昊*
<目次>
Ⅰ. 序
Ⅱ. 村上春樹뺷ノルウェイの森뺸
Ⅲ. 吉本ばなな뺷キッチン뺸
Ⅳ. 片山恭一뺷世界の中心で、愛をさけぶ뺸
Ⅴ. 結び
Key Words : 告白小説、回想、小説の書き出し、手記、語り
Ⅰ. 序
一つのまとまった小説でも、作家がそれをエクリチュール(書かれたもの)
化する作業において、どこからどんな形で始めたら最大の効果をあげること
が出来るのか、それを決めるのはなかなか難しいことである。小説における
書き出しの文は、さながらレストランでターブルドート(定食)がはじまる前
のテーブル・セッティングのようなもので、そのセッティングを見ると料理
の種類ばかりでなくその美味さのほどや品格のよさを大体予想することが出
来るように。
果たして小説を書く作家は、本格的な物語を始める前に如何なるセッティ
ング(設定)をするのか。主賓である読者が物語を堪能できるように仕向ける
のは並大抵の仕事ではない。本稿ではそのような、最初のセッティングに
よって決まる物語の方向や性格について、告白を中心にした一人称小説のい
* 水原大学校教授 日本近代文学専攻
134 日本研究…第53號
くつかを例に挙げながら考察することにする。
特に近年、もっとも多くの読者を魅了し話題になり、一人称の告白的な成
長小説でありながら、しかもそれぞれ独自な構造を持つ뺷ノルウェイの森뺸
(1987)뺷キッチン뺸(1987) 뺷世界の中心で、愛をさけぶ뺸(2001)の三作を中心
に、物語の冒頭の設定を比較し、それによって決まる作品の方向や性質およ
び構造の差を論じてみるつもりである。
Ⅱ. 村上春樹뺷ノルウェイの森뺸
1987年9月、講談社から書き下ろし長編として上下巻が刊行された뺷ノル
ウェイの森뺸は、1960年代末尾から70年代初頭という、学生運動がもっとも激
しかった時代を背景として、主人公の「私」と、亡き友人の恋人「直子」との関
係を軸に、様々な出会いや別れ、青春時代の苦悩や葛藤などを多彩に描き、
日本ばかりでなく世界中の読者を魅了した超大型ベストセラーである。
もちろん世評が高いからといって、作品の完成度も高いというわけでもな
ければ、その後の力作뺷ねじまき鳥クロニクル뺸뺷海辺のカフカ뺸뺷1Q84뺸など
よりも優れた作品という意味でもない。世間的な成功の秘訣は、むしろ春樹
の作品にしては読者の共感が得やすく、読みやすく、さらに日本近代文学の
大きな流れといえる「悩める青春像」を標榜したからであろう。
뺷ノルウェイの森뺸はタブロー(完結作)ではなく、春樹文学全体における一
種のエチュード(試作)みたいなもので、作中には様々な実験が行われ、大勢
の作家や作品からの影響が露骨に表れており、それが旨く調和しているとは
いえないものの、それなりに読者の共感を呼ぶには充分な作品としてバラン
スを保っている。
この作品でもっとも手の凝った部分は、主人公兼語り手である「私」のため
に用意された、完璧なほどまでの孤独した環境である。
昔々、といってもせいぜい二十年ぐらい前のことなのだけれど、僕はある学生寮
に住んでいた。僕は十八で、大学に入ったばかりだった。東京のことなんて何ひと